説明

炭化珪素半導体装置の製造方法

【課題】窒化処理によって低下した閾値電圧を、向上させることができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ベース領域7およびソース領域8を含む炭化珪素ドリフト層6上に二酸化珪素を主成分とするゲート絶縁膜11が形成された炭化珪素基板2を窒化処理する窒化処理工程と、窒化処理工程後、炭化珪素基板2を、一酸化二窒素を含む雰囲気中で600℃以上1000℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は優れた物性値を持ち、高耐圧、低損失なパワーデバイスの実現を可能にする。しかしながら、炭化珪素を用いてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を製造する場合、炭化珪素層上に二酸化珪素からなるゲート絶縁膜を形成すると、炭化珪素/二酸化珪素界面に多くの界面準位が形成される。このような伝導帯に近い界面準位の存在によって、MOSFETのチャネル移動度はバルク中の電子移動度に比べて極めて小さくなり、オン抵抗値が理想的な値よりも高くなってしまう。従来の炭化珪素半導体装置の製造方法では、上記のような炭化珪素/二酸化珪素界面の界面準位を低減するために、一酸化窒素雰囲気中での熱処理による窒化処理を行っていた。(例えば、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G.Y. Chung et al., ”Interface state density and channel mobility for 4H-SiC MOSFETs with nitrogen passivation”, Applied Surface Science 184 (2001) 399-403.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような炭化珪素半導体装置の製造方法にあっては、窒化処理によってチャネル移動度を大きくすることができるが、同時に閾値電圧が低下する。閾値電圧が低下すること自体は低電圧駆動の観点からは好ましいが、炭化珪素半導体装置をパワーデバイスとして用いる場合、高耐圧特性の確保が必要であり、これを実現するためにはある程度の大きさの閾値電圧が必要である。例えば蓄積型チャネルMOSFETなどの比較的構造の複雑な半導体装置において上記の窒化処理を行うと、閾値電圧が低くなり過ぎてしまい、耐圧が確保できないことがあるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、窒化処理によって低下した閾値電圧を、向上させることができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素層上に二酸化珪素を主成分とするゲート絶縁膜が形成された基板を窒化処理する窒化処理工程と、窒化処理工程後、基板を、一酸化二窒素を含む雰囲気中で600℃以上1000℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、窒化処理によって低下した閾値電圧を、向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法の一部を示す断面図である。
【図9】この発明の実施の形態1における窒化処理工程および熱処理工程の温度プロファイルを示す図である。
【図10】この発明の実施の形態1における熱処理工程における処理時間と閾値電圧の増加量との関係を示すグラフである。
【図11】この発明の実施の形態1における熱処理工程における処理温度と閾値電圧の増加量との関係を示すグラフである。
【図12】窒化処理工程のみを施した場合と、この発明の実施の形態1における窒化処理工程および熱処理工程を施した場合の、ゲート電圧とドレイン電流の関係を示すグラフである。
【図13】チャネル層のドーピング濃度によって閾値電圧の制御を行った場合と、この発明の実施の形態1における熱処理工程によって閾値電圧の制御を行った場合の、ゲート電圧とドレイン電流の関係を示すグラフである。
【図14】この発明の実施の形態2における炭化珪素半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の製造方法によって製造される炭化珪素半導体装置1aの構成を説明する。図1は、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1aを示す断面図である。ここでは、炭化珪素半導体装置1aの一例として、nチャネル炭化珪素MOSFETについて説明する。
【0010】
図1において、n型(第1導電型)で低抵抗の炭化珪素基板2の一方の面3上に、n型(第1導電型)の炭化珪素ドリフト層6が形成されている。炭化珪素ドリフト層6の表面側には、p型(第2導電型)のベース領域7が、互いに所定間隔だけ離れてそれぞれ形成されている。また、各ベース領域7内の表層部には、n型(第1導電型)のソース領域8が、ベース領域7よりも浅く形成されている。
【0011】
また、ベース領域7およびソース領域8を含む炭化珪素ドリフト層6の表面には、ソース領域8の一部を除き、ゲート絶縁膜11が形成されている。さらに、ゲート絶縁膜11上で、一対のソース領域8同士の間の領域と対向する部位には、ゲート電極12が形成されている。そして、ソース領域8の表面でゲート絶縁膜11が形成されていない部位にはソース電極13が形成され、炭化珪素基板2の他方の面16にはドレイン電極17が形成されている。
【0012】
次に、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1aの製造方法について説明する。図2〜図7は、それぞれ、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1aの製造方法の一部を示す断面図である。
【0013】
まず、一方の面3の面方位が(0001)面であり、4Hのポリタイプを有し、例えば1×1019cm−3程度に不純物ドーピングされたn型(第1導電型)で低抵抗の炭化珪素基板2を準備する。そして、図2に示すように、炭化珪素基板2の一方の面3上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、1×1015〜1×1018cm−3のn型(第1導電型)の不純物濃度で、5〜50μmの厚さの炭化珪素ドリフト層6をエピタキシャル成長する。炭化珪素ドリフト層6をこのような条件で形成することにより、数100V〜3kV以上の耐圧を持つ縦型の高耐圧MOSFETが実現できる。
【0014】
次に、炭化珪素ドリフト層6の表面にレジストによってマスクを形成し、炭化珪素ドリフト層6の表面側から、p型(第2導電型)の不純物をイオン注入する。これにより、炭化珪素ドリフト層6に所定間隔だけ離れた一対のp型(第2導電型)のベース領域7が形成される。レジストを除去した後の断面図を図3に示す。
【0015】
このとき、イオン注入するp型(第2導電型)の不純物は例えばアルミニウムやホウ素であって、イオン注入する不純物濃度は1×1017〜1×1019cm−3の範囲で炭化珪素ドリフト層6のn型(第1導電型)の不純物濃度を超えるものとする。また、p型(第2導電型)の不純物のイオン注入の深さは、炭化珪素ドリフト層6の厚さを超えない0.5〜3μm程度とする。
【0016】
次に、炭化珪素ドリフト層6の表面にレジストによってマスクを形成し、炭化珪素ドリフト層6の表面側から、n型(第1導電型)の不純物をイオン注入する。これにより、各ベース領域7内の表層部に、n型(第1導電型)のソース領域8がそれぞれ形成される。レジストを除去した後の断面図を図4に示す。
【0017】
このとき、イオン注入するn型(第1導電型)の不純物は例えば窒素やリンであって、イオン注入する不純物濃度は1×1018〜1×1021cm−3の範囲でベース領域7のp型(第2導電型)の不純物濃度を超えるものとする。また、n型(第1導電型)の不純物のイオン注入の深さは、ベース領域7の厚さより浅いものとする。
【0018】
次に、炭化珪素ドリフト層6、ベース領域7およびソース領域8が形成された炭化珪素基板2を、熱処理装置によって、例えばアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、1300〜1900℃の範囲で30秒〜1時間の高温アニールを行う。この高温アニールにより、イオン注入されたアルミニウムや窒素などが電気的に活性化される。
【0019】
次に、図5に示すように、ベース領域7およびソース領域8を含む炭化珪素ドリフト層6の表面を熱酸化し、所望の膜厚の二酸化珪素のゲート絶縁膜11を形成する。ゲート絶縁膜11の膜厚は100nm以下とする。
【0020】
次に、縦型熱処理炉を用いて、ゲート絶縁膜11が形成された後の炭化珪素基板2を窒化処理し、その後、熱処理する。これら窒化処理工程および熱処理工程については、後で詳述する。
【0021】
次に、ゲート絶縁膜11上に、導電性を有する多結晶珪素膜をCVD法によって形成し、パターニングすることによりゲート電極12を形成する。図6に示すように、ゲート電極12は、一対のベース領域7およびソース領域8が両端部に位置し、ベース領域7間の炭化珪素ドリフト層6が中央に位置するような形状にパターニングされる。このとき、ゲート電極12は一対のソース領域8と例えば10nm〜5μmの範囲でオーバーラップしていることが望ましい。
【0022】
次に、図7に示すように、ゲート電極12が形成された部位およびその周囲を残して、他の部位のゲート絶縁膜11を除去する。
【0023】
次に、図8に示すように、前の工程でゲート絶縁膜11を一部除去することによって、ソース領域13が表面に露出した部位にソース電極13を形成する。ソース電極13としては、アルミニウム合金などを用いる。
【0024】
最後に、炭化珪素基板2の他方の面16にドレイン電極17を形成して、図1に示すこの発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1aであるnチャネルMOSFETが完成する。ドレイン電極17としてはアルミニウム合金などを用いる。
【0025】
次に、前述した、ゲート絶縁膜11が形成された後の炭化珪素基板2の窒化処理工程と、その後の熱処理工程について詳述する。図9は、この発明の実施の形態1における窒化処理工程および熱処理工程の温度プロファイルを示す図である。図9において、横軸は時間、縦軸は炉内の温度を示す。
【0026】
まず、ゲート絶縁膜11が形成された後の炭化珪素基板2を縦型熱処理炉内に導入し、炉内を1.3Pa以下になるまで真空排気して炉内の酸化性ガスを除去する。続いて、炉内にアルゴンなどの不活性ガスを供給し、炉内が大気圧になるようにする。次に、炉内に不活性ガスを供給しながら、炉を加熱する。
【0027】
炉内が窒化処理を行う所定温度にまで到達すると、炉内に一酸化窒素(NO)を供給し、窒化処理工程を開始する。窒化処理時の炉内のガス雰囲気は、NOがほぼ100%の雰囲気でもよいし、アルゴンなどの不活性ガスとNOとを混合した雰囲気でもよい。窒化処理の処理温度は1100℃以上が好ましく、1200〜1300℃がより好適である。処理時間は、ゲート絶縁膜11の膜厚に応じて調整すればよく、例えばゲート絶縁膜11が50nm程度の膜厚の場合、1200℃で2時間処理すれば充分窒化される。炉内を所定温度で保持し、所定時間が経過すると窒化処理工程が終了する。
【0028】
窒化処理工程が終了した時点で、炉のヒーターの出力を低下させ、その後の熱処理工程を行う温度まで温度を下げる第1降温工程を開始する。第1降温工程中の炉内のガス雰囲気は、NOがほぼ100%の雰囲気でもよいし、アルゴンなどの不活性ガスとNOとを混合した雰囲気でもよい。また、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気でもよい。熱処理工程を行う温度まで炉内の温度が下がると第1降温工程が終了する。
【0029】
第1降温工程が終了した時点で、炉内に供給するガスを一酸化二窒素(NO)に切り替え、熱処理工程を開始する。熱処理工程中の炉内のガス雰囲気は、NOがほぼ100%の雰囲気でもよいし、制御性を高めるためにアルゴンなどの不活性ガスとNOとを混合した雰囲気でもよい。そして、炉内の温度を所定温度で一定時間保持して熱処理を行い、熱処理工程を終了する。熱処理工程を行う温度は600〜1000℃の範囲とし、処理時間は所望の閾値電圧が得られるように適宜決定する。処理温度および処理時間については後で詳述する。尚、第1降温工程終了後、炉内に供給するガスをNOに切り替える前に、炉内のガス雰囲気を不活性ガスで置換したり、一度真空排気した後に不活性ガスで置換したりして、その後に、供給するガスをNOに切り替えて熱処理工程を開始してもよい。
【0030】
熱処理工程後、所定のスタンバイ温度にまで炉内の温度を下げる第2降温工程を開始する。第2降温工程中の炉内のガス雰囲気は、NOがほぼ100%の雰囲気でもよいし、アルゴンなどの不活性ガスとNOとを混合した雰囲気でもよい。炉内の温度が所定のスタンバイ温度にまで下がると、第2降温工程を終了する。
【0031】
その後、炉内を不活性ガスに置換するなどした後に、炉内から炭化珪素基板2を取り出す。そして、前述したゲート電極12を形成する工程へ進む。
【0032】
ここで、熱処理工程における処理温度および処理時間について説明する。まず、処理温度について説明する。熱処理工程において、NOは以下に示す反応を生じる。
【0033】
O→N+O (1)
O+O→N+O (2)
O+O→2NO (3)
【0034】
上記の式(1)の反応は緩やかに進行するNOの分解反応であり、原子状酸素が数多く生成される。上記の式(2)および式(3)の反応は、速く進行する反応であり、最終的にN、OおよびNOが生成される。式(3)の反応は、温度が高くなるにつれて反応が促進されるため、温度が高いほど生成されるNOが増加する。1000℃以下では、生成されるN、OおよびNO全体に対するNOの割合は10%以下であることが、E. P. Gusev et al., ”Growth and characterization of ultrathin nitrided silicon oxide films”, IBM J. RES. DEVELOP. Vol. 43 No. 3 MAY 1999.(以下、「非特許文献2」という)に記載されている。
【0035】
つまり、1000℃より高い温度ではNOの生成割合が高くなり、炭化珪素/二酸化珪素界面へNOが拡散する速度も大きくなるため、効率的に窒化され、閾値電圧が下がってしまう。一方で、1000℃以下ではNOの生成割合が低く、温度が低いため炭化珪素/二酸化珪素界面へNOが拡散する速度も小さくなり、窒化されにくくなる。このとき、生成された原子状酸素による改質効果が大きくなり、閾値電圧を上げることができる。NOは600℃程度から分解反応が生じるため、熱処理工程を行う温度は600〜1000℃の範囲とする。
【0036】
次に、処理温度が600〜1000℃の範囲で、処理時間を0〜90分で変化させて熱処理工程を行った実験結果について説明する。図10は、この発明の実施の形態1における熱処理工程における処理時間と閾値電圧の増加量との関係を示すグラフである。図10において、横軸は熱処理工程の処理時間、縦軸は熱処理工程を行うことによる閾値電圧の増加量を示す。
【0037】
図10から分かるように、閾値電圧の増加量は、いずれの処理温度においても処理時間と比例関係にある。このため、処理温度と処理時間を適切に設定することによって、閾値電圧を細かく制御できる。
【0038】
Oの熱分解反応が生じ始める600℃では、処理時間に対する閾値電圧の増加量は小さい。そして、NOの生成割合が多くなり始める1000℃においても、処理時間に対する閾値電圧の増加量は小さい。従って、図10から、600℃程度および1000℃程度の温度は、0.1〜0.2V単位の閾値電圧の制御に好適である。
【0039】
また、700℃以上800℃以下では、600℃や1000℃の場合と比べて、処理時間に対する閾値電圧の増加量は大きい。従って、図10から、700〜800℃の範囲は、1V単位の閾値電圧の制御に好適である。
【0040】
図11は、この発明の実施の形態1における熱処理工程における処理温度と閾値電圧の増加量との関係を示すグラフである。図11において、横軸は熱処理工程の処理温度、縦軸は熱処理工程を行うことによる閾値電圧の増加量を示す。尚、図11において処理時間は90分である。図11からも、熱処理工程によって閾値電圧を増加させる効果が、処理温度が600〜1000℃の範囲で効率良く得られることが分かる。
【0041】
図11から、600℃以上で700℃より低い温度および900℃より高く1000℃以下の温度では、閾値電圧の増加量は小さく、閾値電圧の細かな制御に適している。さらに、600℃程度および1000℃程度が、閾値電圧の細かな制御にはより好適である。また、700℃以上900℃以下の温度では、閾値電圧の増加量は大きく、閾値電圧を大きく変化させる場合に適している。さらに、700℃以上800℃以下の温度が閾値電圧を大きく変化させる場合にはより好適である。
【0042】
次に、窒化処理工程のみを施してMOSFETを製造した場合と、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1aの製造方法に係る窒化処理工程および熱処理工程を施してMOSFETを製造した場合とを比較した実験結果について説明する。図12は、窒化処理工程のみを施した場合と、この発明の実施の形態1における窒化処理工程および熱処理工程を施した場合の、ゲート電圧とドレイン電流の関係を示すグラフである。図12において、横軸はゲート電圧、縦軸はドレイン電流を示す。尚、ここでは、熱処理工程は800℃で1時間行った。
【0043】
図12から、熱処理工程によって閾値電圧が約4V増加したことが分かる。また、絶縁膜リークなどの異常も無く、正常に動作することが確認できた。
【0044】
一般的に、閾値電圧の制御は、チャネルが形成される層のドーピング濃度を調整して行うが、この方法では、不純物や界面欠陥などによる散乱の影響が増え、チャネル移動度が大きく低下する。つまり、チャネル層のドーピング濃度による閾値電圧の制御では、閾値電圧とチャネル移動度とはトレードオフの関係にある。
【0045】
次に、上述のチャネル層のドーピング濃度による閾値電圧の制御と、この発明の実施の形態1における熱処理工程による閾値電圧の制御とを比較した実験結果について説明する。図13は、チャネル層のドーピング濃度によって閾値電圧の制御を行った場合と、この発明の実施の形態1における熱処理工程によって閾値電圧の制御を行った場合の、ゲート電圧とドレイン電流の関係を示すグラフである。図13において、横軸はゲート電圧、縦軸はドレイン電流を示す。ここでは、上記の2つの方法において閾値電圧を9Vにした場合を示している。
【0046】
図13から、チャネル層のドーピング濃度によって閾値電圧を制御した場合と比較して、この発明の実施の形態1における熱処理工程によって閾値電圧を制御した場合の方が、同じゲート電圧に対してドレイン電流が大きく、チャネル移動度が大きいことが分かる。従って、従来のチャネル層のドーピング濃度による方法よりも、この発明の実施の形態1における熱処理工程による方法の方が優れていることが分かる。
【0047】
この発明の実施の形態1では、以上のようにしたことにより、窒化処理工程によって低下した閾値電圧を、熱処理工程によって向上させることができるという効果がある。そして、従来のチャネル層のドーピング濃度によって閾値電圧を制御する方法と比較して、より大きいチャネル移動度を確保することができる。また、熱処理工程における処理温度と処理時間を調整することによって閾値電圧を細かく制御することも可能である。
【0048】
さらに、熱処理工程を所定温度で一定時間保持して行うことにより、閾値電圧の制御性を向上させることができる。
【0049】
また、窒化処理工程をNOを含む雰囲気中で1100℃以上の温度で行うことにより、効率良く窒化処理を行うことができ、効率良くチャネル移動度を向上させることができる。
【0050】
窒化処理工程後、熱処理工程を行う温度までNOを含む雰囲気中で温度を下げる第1降温工程を備えたことにより、第1降温工程中に、窒化処理工程において窒化された部分から窒素が脱離することを抑制することができ、窒素の脱離によるチャネル移動度の低下を抑制することができる。
【0051】
また、熱処理工程後、所定のスタンバイ温度までNOを含む雰囲気中で温度を下げる第2降温工程を備えたことにより、熱処理工程によって向上した閾値電圧が、第2降温工程中に低下することを抑制することができる。
【0052】
熱処理工程を、NO雰囲気中で行うことにより、アルゴンなどの不活性ガスとNOとを混合した雰囲気中で行う場合と比べて、熱処理工程に要する時間を短縮することができる。
【0053】
また、ゲート絶縁膜11を二酸化珪素によって形成したことにより、ゲート絶縁膜11を熱酸化によって形成することができ、ゲート絶縁膜11の形成が容易となる。
【0054】
尚、この発明の実施の形態1では、熱処理工程を所定温度で一定時間保持して行った。しかし、熱処理工程は、温度を下げながら、上げながらまたは温度に時間変化を与えながら行ってもよい。例えば温度を下げながら行うと、第2降温工程に要する時間を短縮することができる。温度を下げながらの熱処理工程は、閾値電圧を1Vより小さい値だけ増加させるには不適であるが、1V以上増加させる場合は問題ない。
【0055】
また、この発明の実施の形態1では、窒化処理工程を1100℃以上で行った。しかし、必ずしも1100℃以上である必要はなく、1100℃より低い温度でも可能である。
【0056】
さらに、この発明の実施の形態1では、窒化処理工程を所定温度で一定時間保持して行った。しかし、窒化処理工程は、温度を下げながら、上げながらまたは温度に時間変化を与えながら行ってもよい。
【0057】
この発明の実施の形態1では、窒化処理工程をNOを含む雰囲気中で行った。しかし、NOを含む雰囲気中や、アンモニア(NH)を含む雰囲気中で行ってもよいし、プラズマや紫外線により活性した窒素原子によって窒化処理を行ってもよい。ただし、NOを含む雰囲気中で窒化処理工程を行う場合は、上述した非特許文献2から、1000℃以下では生成されるNOの割合は低く、窒化を効率良く行うことができないため、NOの生成割合が高くなる1100℃以上で窒化処理工程を行うのがよい。
【0058】
尚、この発明の実施の形態1では、ゲート絶縁膜11を熱酸化によって形成した。しかし、CVD法、蒸着法、スパッタ法、イオンクラスタービーム法、分子線エピタキシー法などで形成してもよい。
【0059】
また、ゲート絶縁膜11を二酸化珪素によって形成したが、例えば窒化珪素と二酸化珪素とを組合せた積層構造などでもよく、二酸化珪素を主成分とするものであればよい。
【0060】
この発明の実施の形態1では、ゲート電極12を多結晶珪素で形成した。しかし、この多結晶珪素の導電型はn型でもp型でもよく、n型またはp型の多結晶炭化珪素でもよい。さらには、アルミニウム、チタン、モリブデン、タンタル、ニオブ、タングステンやそれらの窒化物でもよい。また、ソース電極13とドレイン電極17については、アルミニウムで形成したが、上記のゲート電極12に用いる材料を用いてもよい。
【0061】
また、この発明の実施の形態1では、炭化珪素基板2として、一方の面3の面方位が(0001)面であり、4Hのポリタイプを有するものを用いた。しかし、面方位は(000−1)面や(11−20)面などでもよく、これらの面方位から傾斜しているものでであってもよい。さらに、ポリタイプとしては6Hや3Cであってもよい。
【0062】
尚、この発明の実施の形態1では、炭化珪素半導体装置1aの一例として、n型を第1導電型、p型を第2導電型としてnチャネル炭化珪素MOSFETについて説明した。しかし、p型を第1導電型、n型を第2導電型としたpチャネル炭化珪素MOSFETについても同様である。
【0063】
実施の形態2.
図14は、この発明の実施の形態2における炭化珪素半導体装置1bを示す断面図である。図14において、図1と同じ符号を付けたものは、同一または対応する構成を示しており、その説明を省略する。この発明の実施の形態1とは、トレンチ構造のMOSFETである点が相違している。
【0064】
図14において、n型(第1導電型)で低抵抗の炭化珪素基板2の一方の面3上に、n型(第1導電型)の炭化珪素ドリフト層6が形成されている。炭化珪素ドリフト層6の表面側にはp型(第2導電型)のベース領域7がイオン注入によって形成され、ベース領域7内の表層部にはn型(第1導電型)のソース領域8がイオン注入によって、ベース領域7よりも浅く形成されている。
【0065】
また、炭化珪素ドリフト層6には、炭化珪素ドリフト層6の表面からソース領域8およびベース領域7を貫通し、ソース領域8およびベース領域7が形成されていない炭化珪素ドリフト層6にまで達するトレンチ18が形成されている。ソース領域8の表面の一部およびトレンチ18の表面にはゲート絶縁膜11が形成されている。そして、ソース領域8の表面でゲート絶縁膜11が形成されていない部位にはソース電極13が形成され、炭化珪素基板2の他方の面16にはドレイン電極17が形成されている。
【0066】
次に、この発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置1bの製造方法について説明する。
【0067】
まず、n型(第1導電型)で低抵抗の炭化珪素基板2を準備し、一方の面3上にn型(第1導電型)の炭化珪素ドリフト層6をエピタキシャル成長する。次に、炭化珪素ドリフト層6の表面側から、p型(第2導電型)の不純物をイオン注入し、p型(第2導電型)のベース領域7が形成される。次に、炭化珪素ドリフト層6の表面側から、n型(第1導電型)の不純物をイオン注入し、ベース領域7内の表層部に、n型(第1導電型)のソース領域8が形成される。次に、イオン注入されたアルミニウムや窒素などを電気的に活性化するために、炭化珪素ドリフト層6、ベース領域7およびソース領域8が形成された炭化珪素基板2を、不活性ガス雰囲気中で高温アニール処理する。
【0068】
次に、炭化珪素ドリフト層6に、炭化珪素ドリフト層6の表面からソース領域8およびベース領域7を貫通し、ソース領域8およびベース領域7が形成されていない炭化珪素ドリフト層6にまで達するトレンチ18を形成する。そして、熱酸化により、ソース領域8の表面およびトレンチ18の表面にゲート絶縁膜11を形成する。
【0069】
次に、ゲート絶縁膜11が形成された後の炭化珪素基板2に対して、窒化処理工程および熱処理工程を行う。窒化処理工程および熱処理工程の条件は、この発明の実施の形態1と同様である。
【0070】
次に、トレンチ18の表面に形成されたゲート絶縁膜11上にゲート電極を形成する。次に、ソース領域8の表面の一部およびトレンチ18の表面に形成されたゲート絶縁膜11を残して、他の部位のゲート絶縁膜11を除去する。次に、前の工程でゲート絶縁膜11を一部除去することによって、ソース領域13が表面に露出した部位にソース電極13を形成する。最後に、炭化珪素基板2の他方の面16にドレイン電極17を形成して、図14に示すこの発明の実施の形態2における炭化珪素半導体装置1bが完成する。
【0071】
以上のようなこの発明の実施の形態2における炭化珪素半導体装置1bであるトレンチ構造の炭化珪素MOSFETにおいても、ゲート絶縁膜11を形成した後に窒化処理工程および熱処理工程を行うことによって、この発明の実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0072】
尚、この発明の実施の形態2では、炭化珪素半導体装置1bの一例として、n型を第1導電型、p型を第2導電型としたトレンチ構造の炭化珪素MOSFETについて説明した。しかし、p型を第1導電型、n型を第2導電型としたトレンチ構造の炭化珪素MOSFETについても同様である。
【0073】
また、この発明の実施の形態2では、炭化珪素半導体装置1bの一例として、トレンチ構造の炭化珪素MOSFETについて説明した。しかし、これに限らず、炭化珪素IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)においてもゲート絶縁膜11を形成した後に窒化処理工程および熱処理工程を行うことによって同様の効果が得られる。
【0074】
尚、この発明の実施の形態2では、この発明の実施の形態1と相違する部分について説明し、同一または対応する部分についての説明は省略した。
【0075】
以上、この発明の実施の形態1および2について説明した。これらの、この発明の実施の形態1および2で説明した構成は互いに組合せることができる。
【符号の説明】
【0076】
1a、1b 炭化珪素半導体装置
2 炭化珪素基板
6 炭化珪素ドリフト層
7 ベース領域
8 ソース領域
11 ゲート絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素層上に二酸化珪素を主成分とするゲート絶縁膜が形成された基板を窒化処理する窒化処理工程と、
前記窒化処理工程後、前記基板を、一酸化二窒素を含む雰囲気中で600℃以上1000℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、
を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
熱処理工程は、第1の所定温度で一定時間保持して行うことを特徴とする請求項1記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
窒化処理工程は、一酸化窒素、一酸化二窒素またはアンモニアを含む雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
窒化処理工程は、1100℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項3記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
窒化処理工程後、熱処理工程を行う温度まで一酸化窒素、一酸化二窒素またはアンモニアを含む雰囲気中で温度を下げる第1降温工程を備えたことを特徴とする請求項4記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
熱処理工程後、第2の所定温度まで一酸化二窒素を含む雰囲気中で温度を下げる第2降温工程を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
熱処理工程は、一酸化二窒素雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
ゲート絶縁膜は二酸化珪素で形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
熱処理工程は、700℃以上900℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
熱処理工程は、600℃以上で700℃より低い温度または900℃より高く1000℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−38919(P2012−38919A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177712(P2010−177712)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】