説明

炭化珪素単結晶基板および炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ

【課題】デバイス特性の劣化や、歩留まりの低下を抑制するため、貫通転位の転位線の方向を規定する方法を提供する。
【解決手段】貫通転位3の転位線の方向が揃えられ、貫通転位3の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが22.5°以下となるようにする。[0001]c軸方向に転位線を持つ貫通転位3は、基底面転位の転位線の方向と垂直であるため、C面内の拡張転位とはならず、積層欠陥を発生させることがない。このため、貫通転位3の転位線の方向が[0001]c軸であるSiC単結晶基板1に対して電子デバイスを形成すれば、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上したSiC半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶にて構成されたSiC単結晶基板およびSiC単結晶基板上にエピタキシャル膜を成長させて構成したSiC単結晶エピタキシャルウェハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高品質SiC単結晶ウェハとして、特許文献1、2に開示されているものがある。これら特許文献1、2に開示されているSiC単結晶ウェハにおいては、デバイス特性に悪影響を与える転位の密度を規定値以下とすることで、デバイス作製に向くようにしている。ここでいう転位とは、線状に上る結晶欠陥であり対象としている転位の種類は、(0001)C面内に存在する基底面転位やc軸と平行な方向を持つ貫通らせん転位である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−115034号公報
【特許文献2】特表2008−515748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2では、貫通刃状転位に関しては特に開示されておらず、貫通刃状転位がデバイスに及ぼす影響については不明である。また、貫通らせん転位や貫通刃状転位(以下、総称して貫通転位という)は、ダイオードやトランジスタなどのデバイス特性を劣化させたり、歩留まりを低下させると言われており、その密度を低減することが重要であるが、特許文献1、2では、転位の種類と密度について開示されているものの、貫通転位の転位線の方向については不明である。
【0005】
なお、貫通らせん転位と貫通刃状転位とは、歪みの方向(バーガースベクトル)が異なっており、貫通らせん転位はc軸と平行、貫通刃状転位はc軸と垂直である。基底面転位は、らせん転位と刃状転位の両者が存在する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、デバイス特性の劣化させたり、歩留まりを低下させることを抑制できる貫通転位の転位線の方向を規定した炭化珪素単結晶基板および炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、貫通転位の転位線の方向とデバイス特性の劣化や歩留まりとの関係について様々な実験を行ったところ、貫通転位の転位線の方向が揃っている程デバイス特性の劣化や歩留まりの低下を抑制できるということを見出した。特に、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(以下、このような(0001)C面を貫通する貫通転位のことを単に貫通転位という)の転位線の方向と[0001]軸との為す角度が22.5°以下となるようにすることで、デバイス特性の劣化や歩留まりの低下できることを確認した。
【0008】
また、本発明者らは、SiC単結晶の成長方向と結晶欠陥の成長方向について様々な試作検討を行った。その結果、従来のように昇華法によるC面オフ基板を用いた結晶成長では、貫通転位が成長方向に対して様々な方向に傾いて成長するが、CVD法によるC面オフ基板を用いたエピタキシャル成長では、引き継がれる貫通欠陥の成長方向が(11−2n)面もしくは(1−10n)面に限定されるという現象を見出した。SiC単結晶基板上にエピタキシャル膜を成長させる際のステップフローの方向が関係しており、転位線の傾斜方向とステップフロー方向が同一方向になり、転位線の角度が特定方向に限定されるのである。
【0009】
また、その成長方向は、エピタキシャル成長させる際の不純物濃度と密接な関係を有しているということについても見出した。なお、ここでいうnとは、任意の整数であり、例えば、(11−1n)面には、(11−21)面、(11−22)面、(11−23)面等が含まれ、(1−10n)面には、(1−101)面、(1−102)面、(1−103)面等が含まれる。
【0010】
図5は、4H−SiC、オフ方向を[11−20]方向として4°オフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いて、SiC単結晶基板に形成された貫通転位の転位線の方向と、SiC単結晶基板上にエピタキシャル膜を形成したときにエピタキシャル膜中に引き継がれる貫通転位の転位線の方向との関係を不純物濃度別に示したグラフである。なお、SiC単結晶基板中やエピタキシャル膜中の貫通転位の転位線の方向は、[0001]c軸に対して基板法線方向と同じ側に傾斜する方をプラスとした角度で表してある。また、ここでは不純物として窒素を用いた場合の窒素濃度別に各特性を示してあるが、窒素濃度は一例であり、不純物が変わっても同様の特性となる。
【0011】
この図に示されるように、窒素濃度が例えば1×1015cm-3以下の場合には、エピタキシャル膜中の貫通転位の転位線の方向が0°を中心として±3°、つまり[0001]方向とほぼ同方向となる。また、窒素濃度が例えば1×1015cm-3以上かつ1×1016cm-3以下の場合には、エピタキシャル膜中の貫通転位の転位線の方向が8.7°を中心として±3°、つまり[11−26]方向とほぼ同方向となる。また、窒素濃度が例えば1×1016cm-3以上かつ1×1017cm-3以下の場合には、エピタキシャル膜中の貫通転位の転位線の方向が17°を中心として±3°、つまり[11−23]方向とほぼ同方向となる。そして、窒素濃度が例えば1×1018cm-3以上の場合には、エピタキシャル膜中の貫通転位の転位線の方向が22.5°より大きくなる(特願2009−29584参照)。
【0012】
そして、このように転位の方向が特定されたSiC単結晶基板を用いて、SiC単結晶基板に形成された貫通転位の転位線の方向と、そのSiC単結晶基板に対して電子デバイス、例えばダイオードやMOSトランジスタなどのパワー系の電子デバイスを形成したときの故障時間(故障する前に掛かった時間)との関係について調べた。図6は、この関係を示したグラフである。なお、貫通転位の転位線の方向は透過型の電子顕微鏡により観察して測定した。
【0013】
この図に示されるように、貫通転位が形成されていても、貫通転位の角度が20(=17+3°)以下であれば、電子デバイスの故障時間を長くできている。そして、貫通転位として、らせん転位の場合よりも、刃状転位にて揃える方がよりその効果を高くすることができる。
【0014】
特許文献1などの文献に記載されているが、基底面転位はデバイス特性と歩留まりの低下を招く。これは、基底面転位が(0001)C面内に存在し、拡張転位となり積層欠陥の発生核として作用するし、さらに積層欠陥がデバイス特性を劣化させるためである。これに対して、[0001]c軸方向に転位線を持つ貫通転位は、基底面転位の転位線の方向と垂直であるため、C面内の拡張転位とはならず、積層欠陥を発生させることがない。このため、貫通転位の転位線の方向が[0001]c軸であるSiC単結晶基板に対して電子デバイスを形成すれば、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上する。また、貫通転位の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、歩留まりが向上する。
【0015】
貫通転位の転位線の方向が[0001]c軸から外れた場合はその角度をθとするとsinθに比例した分の基底面内方向の成分が現れる。この成分が拡張転位となり、デバイス特性を劣化させる積層欠陥の発生原因となるが、角度θが小さい場合はその影響が少なくなることも確認した。
【0016】
このように、図5で示したオフ方向を[11−20]方向としてオフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いた場合においては、貫通転位の転位線の方向を20°以下に揃えることにより、デバイス特性の劣化や歩留まりの低下を抑制することができることを確認した。同様のことをオフ方向を[1−100]方向としてオフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いて行ったところ、貫通転位の転位線の方向が[2−203]方向に相当する19.5°に対して±3°の範囲、つまり22.5(=19.5+3)°以下に揃えることで、オフ方向を[11−20]方向としてオフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いた場合と同様の効果が得られることを確認した。
【0017】
したがって、上述したように、貫通転位の転位線の方向、つまり転位線の方向と[0001]軸との為す角度θを22.5°(=19.5°+3°)以下に揃えることによりデバイス特性の劣化を少なくできる。また、特に、角度θ=17°([11−23]方向)や角度θ=19.5°([2−203]方向)などについては、エピタキシャル膜を成長させる際に不純物濃度に基づいて容易に制御することが可能であるため、そのような角度θに貫通転位の方向が揃えられたSiC単結晶基板を容易に作成することができる。
【0018】
さらに、転位線は、[0001]c軸およびそれに対する垂直方向の特定方向(例えば[11−20]方向や[1−100]方向)を通る面内においてのみ[0001]c軸に対して傾いていると好ましい。
【0019】
例えば、オフ方向を[11−20]方向としてオフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いた場合には、(1−100)面内に転位線が有るように、転位線が[0001]c軸に対して傾く。このように、転位線が同じ面内のみで傾くように揃えられることで、よりデバイス特性の化や歩留まりの低下の抑制を図ることが可能となる。例えば、SiC単結晶基板に対して(1−100)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。これにより、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0020】
また、同様のことがオフ方向を[1−100]方向としてオフ角が付けられたSiC単結晶基板を用いた場合にも言える。この場合には、(11−20)面内に転位線が有るように、転位線が[0001]c軸に対して傾く。このため、例えば、SiC単結晶基板に対して(11−20)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。このため、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0021】
なお、電子デバイスが形成される基板としては、SiC単結晶基板やSiC単結晶基板上にエピタキシャル膜を成長させたSiC単結晶エピタキシャルウェハがある。SiC単結晶基板は、貫通転位が揃えられたエピタキシャル膜を成長させたのち、そのエピタキシャル膜上に例えばバルク成長をさせ、所望の面方位で切り出すことで、貫通転位が揃った状態のSiC単結晶基板を得ることができる。このSiC単結晶基板を用いる場合、SiC単結晶基板そのものに形成されている貫通転位の転位線の方向がデバイス特性に直接影響するため、SiC単結晶基板そのものに形成されている貫通転位の転位線の方向が上記ような関係を満たしている必要がある。ところが、SiC単結晶エピタキシャルウェハの場合にはデバイス特性に影響を与えるエピタキシャル膜内の貫通転位の転位線の方向である。このため、少なくともエピタキシャル膜内において貫通転位の転位線の方向が揃っていれば、下地となるSiC単結晶基板内の貫通転位の転位線の方向が揃っていなかったとしてもデバイス特性を良好にできる。
【0022】
以上の知見に基づき、請求項1に記載の発明では、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度が22.5°以下とされていることを特徴としている。
【0023】
[0001]c軸方向に転位線を持つ貫通転位(3)は、基底面転位の転位線の方向と垂直であるため、C面内の拡張転位とはならず、積層欠陥を発生させることがない。このため、貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸であるSiC単結晶基板とすることにより、このSiC単結晶基板に対して電子デバイスを形成するときに、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上したSiC半導体装置とすることができる。
【0024】
請求項2に記載の発明では、貫通転位(3)の転位線の方向は、[0001]c軸との為す角度が19.5°以下の特定方向に対して±3°の範囲内とされていることを特徴としている。
【0025】
このように、貫通転位(3)の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、請求項1の効果に加えて、貫通転位(3)の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0026】
例えば、請求項3に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸と平行な方向に対して±3°の範囲内とされると好ましい。これにより、C面内成分を小さくでき、デバイス特性の劣化を更に低減することができる。
【0027】
さらに、請求項4に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸と平行な方向とされていると好ましい。これにより、C面内成分を無くすことができ、デバイス特性の劣化を更に低減することができる。
【0028】
請求項5に記載の発明では、[11−20]方向をオフ方向とするSiC単結晶基板(1)と、SiC単結晶基板(1)に成長させられたエピタキシャル膜(2)とを有し、エピタキシャル膜(2)は、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が−3°以上かつ20°以下とされ、かつ、該貫通転位(3)が(1−100)面内にあることを特徴としている。
【0029】
このように、貫通転位(3)の転位線の方向が揃えられ、貫通転位(3)の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3°以上かつ20°以下となるようにしている。このようなSiC単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイスを形成すれば、請求項1と同様、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上させることができる。また、貫通転位(3)が(1−100)面内にあるようにしており、転位線が同じ面内のみで傾くように揃えている。これにより、よりデバイス特性の化や歩留まりの低下の抑制を図ることが可能となる。例えば、請求項16に記載したように、SiC単結晶基板に対して(1−100)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。このため、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0030】
例えば、請求項6に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向を[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が17°±3°の範囲とすることができる。また、請求項7に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向を[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が8.7°±3°の範囲とすることもできる。
【0031】
請求項8に記載の発明では、エピタキシャル膜(2)は、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が−3°以上かつ22.5°以下とされ、かつ、該貫通転位(3)が(11−20)面内にあることを特徴としている。
【0032】
このように、貫通転位(3)の転位線の方向が揃えられ、貫通転位(3)の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3°以上かつ22.5°以下となるようにしている。このようなSiC単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイスを形成すれば、請求項1と同様、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上させることができる。また、貫通転位(3)が(11−20)面内にあるようにしており、転位線が同じ面内のみで傾くように揃えている。これにより、よりデバイス特性の化や歩留まりの低下の抑制を図ることが可能となる。例えば、請求項17に記載したように、SiC単結晶基板に対して(11−20)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。このため、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0033】
例えば、請求項9に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向を[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が19.5°±3°の範囲とすることができる。また、請求項10に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向を[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が15°±3°の範囲とすることもできる。さらに、請求項11に記載したように、貫通転位(3)の転位線の方向を[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が7.6°±3°の範囲とすることもできる。
【0034】
これら、請求項5ないし11に記載したようなSiC単結晶エピタキシャルウェハにおけるエピタキシャル膜(2)の貫通転位(3)の方向は、例えば不純物濃度によって決まる。例えば、請求項12に記載したように、エピタキシャル膜(2)の不純物濃度が1×1017cm-3以下とされることで、上記のように貫通転位(3)の方向を規定することができる。また、この場合、エピタキシャル膜(2)の不純物濃度の方がSiC単結晶基板(1)の不純物濃度よりも低くできるため、デバイス作成に適した濃度のエピタキシャル膜(2)とすることができる。
【0035】
請求項13および14に記載の発明では、貫通転位(3)には貫通刃状転位が含まれていることを特徴としている。このように、貫通刃状転位が含まれたものとすることで、貫通らせん転位が含まれた場合よりもSiC単結晶エピタキシャルウェハや炭化珪素単結晶基板に対して電子デバイス、例えばダイオードやMOSトランジスタなどのパワー素子を形成したときの故障時間を長くでき、よりデバイス特性を良好にすることが可能となる。
【0036】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、(b)は、SiC単結晶エピタキシャルウェハ内の貫通転位の転位線とc軸との為す角度の関係を示したベクトル図である。
【図2】(a)は、本発明の第4実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、(b)は、SiC単結晶エピタキシャルウェハ内の貫通転位の転位線とc軸との為す角度の関係を示したベクトル図である。
【図3】(a)は、本発明の第5実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、(b)は、オフ角や貫通転位の傾斜角度について説明するためのベクトル図である。
【図4】(a)は、本発明の第8実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、(b)は、オフ角や貫通転位の傾斜角度について説明するためのベクトル図である。
【図5】エピタキシャル膜中に引き継がれる貫通転位の転位線の方向との関係を不純物濃度別に示したグラフである。
【図6】貫通転位の方向とパワー系の電子デバイスを形成したときの故障時間との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0039】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1(a)は、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、図1(b)は、SiC単結晶エピタキシャルウェハ内の貫通転位の転位線とc軸との為す角度の関係を示したベクトル図である。
【0040】
図1(a)に示されるように、SiC単結晶エピタキシャルウェハは、4H−SiCからなるSiC単結晶基板1の上にエピタキシャル膜2を成長させることにより形成されている。SiC単結晶基板1およびエピタキシャル膜2には、貫通転位3が存在し、少なくともエピタキシャル膜2に形成されている貫通転位3は、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが22.5°(=19.5°+3°)以下とされている。なお、SiC単結晶基板1中やエピタキシャル膜2中の貫通転位3の転位線の方向は、図1(b)に示したように、[0001]c軸に対してウェハ面の法線方向と同じ側に傾斜する方をプラスとした角度で表してある。
【0041】
このように、本実施形態では、貫通転位3の転位線の方向が揃えられ、貫通転位3の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが22.5°以下となるようにしている。[0001]c軸方向に転位線を持つ貫通転位3は、基底面転位の転位線の方向と垂直であるため、C面内の拡張転位とはならず、積層欠陥を発生させることがない。このため、貫通転位3の転位線の方向が[0001]c軸であるSiC単結晶基板に対して電子デバイスを形成すれば、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上したSiC半導体装置とすることができる。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定的に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
本実施形態では、図1(a)に示したSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが特定角度に対して±3°の範囲内となるようにしている。例えば、特定角度としては、19.5°([2−203]方向)や17°([11−23]方向)を挙げることができる。
【0044】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第1実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0045】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をc軸を中心する方向に限定的に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0046】
本実施形態では、図1(a)に示したSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向が[0001]c軸に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0047】
このように、貫通転位3の転位線の方向を[0001]c軸を中心として揃えている。このため、第1実施形態と同様の効果に加えて、C面内成分を小さくでき、デバイス特性の劣化を更に低減することができる。
【0048】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、第1〜第3実施形態よりも更に貫通転位3の転位線の方向を特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
図2(a)は、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、図2(b)は、SiC単結晶エピタキシャルウェハ内の貫通転位の転位線とc軸との為す角度の関係を示したベクトル図である。
【0050】
図2(a)、(b)に示すように、本実施形態では、図1に示したSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向が[0001]c軸に平行となるようにしている。
【0051】
このように、貫通転位3の転位線の方向を[0001]c軸に揃えている。このため、第1実施形態と同様の効果に加えて、C面内成分を無くすことができ、デバイス特性の劣化を更により低減することができる。
【0052】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して用いているSiC単結晶基板のオフ方向を規定したものである。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
図3(a)は、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、図3(b)は、オフ角や貫通転位の傾斜角度について説明するためのベクトル図である。
【0054】
図3(a)に示されるように、本実施形態では、オフ方向を[11−20]方向としてα°オフ角が付けられたSiC単結晶エピタキシャルウェハを用いている。SiC単結晶基板1は、例えば不純物濃度が5×1018cm-3という高濃度とされ、エピタキシャル膜2は、1×1017cm-3以下という低濃度とされている。そして、このSiC単結晶エピタキシャルウェハにおけるエピタキシャル膜2中に存在する貫通転位3の転位線の方向をオフ方向と同一方向に傾斜させて揃え、貫通転位3の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3(=0°−3°)以上かつ20°(=17°+3°)以下となるようにしている。また、転位線は、[0001]c軸およびそれに対する垂直方向の特定方向(例えば[11−20]方向)を通る(1−100)面内においてのみ[0001]c軸に対して傾いている。
【0055】
ここで、図3(b)に示すように、オフ方向が[11−20]方向の場合、オフ角αはウェハ面の法線方向が[0001]c軸に対して為す角度がα°となるものを意味する。また、貫通転位3の転位線は、[0001]c軸に対してウェハ面の法線方向と同じ方向に延ばして、法線側をプラスとして角度θを表してある。
【0056】
なお、本実施形態では、貫通転位3の転位線の方向として、エピタキシャル膜2中に形成されているものについては上記角度となるようにしているが、SiC単結晶基板1内に形成された貫通転位3については、特に規定しておらず、どのような角度であっても構わない。
【0057】
このように、本実施形態では、貫通転位3の転位線の方向が揃えられ、貫通転位3の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3°以上かつ20°以下となるようにしている。このようなSiC単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイスを形成すれば、第1実施形態と同様、デバイス特性は良好となり、劣化が無く、歩留まりも向上させることができる。また、本実施形態では、貫通転位3の転位線の方向について、エピタキシャル膜2内に形成されたものについてのみ規定しているが、電子デバイスはSiC単結晶エピタキシャルウェハの場合、SiC単結晶基板1ではなくエピタキシャル膜2に電子デバイスを形成することになるため、エピタキシャル膜2中において貫通転位3の転位線の方向が規定されていれば良い。
【0058】
このような構造のSiC単結晶エピタキシャルウェハは、例えば以下のようにして製造される。まず、バルク状のSiC単結晶を用意して、そのSiC単結晶を[11−20]方向を含む面において切り出すことで、上記オフ方向のSiC単結晶基板1を用意することができる。そして、このSiC単結晶基板1の表面にCVD法にてSiC単結晶からなるエピタキシャル膜2を成長させる。
【0059】
このようにすれば、図5中に示したように、SiC基板1内に含まれていた貫通転位3は、エピタキシャル膜2内において[0001]c軸に対する角度θが−3°以上かつ20°以下の範囲となるようにできる。これは、エピタキシャル膜2を成長させる際のステップフローの方向が関係していると考えられ、貫通転位3の転位線の傾斜方向とステップフロー方向が同一方向であることを確認している。
【0060】
例えば、エピタキシャル膜2内の不純物として例えば窒素を用い、不純物濃度を例えば1×1016〜1×1017cm-3とする場合には、貫通転位3の転位線の方向は、例えば[11−23]方向に平行もしくは[11−23]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは17°±3°の範囲となる。また、エピタキシャル膜2内の不純物として例えば窒素を用い、不純物濃度を例えば1×1015〜1×1016cm-3とする場合には、貫通転位3の転位線の方向は、例えば[11−26]方向に平行もしくは[11−26]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは8.7°±3°の範囲となる。さらに、エピタキシャル膜2内の不純物として例えば窒素を用い、不純物濃度を例えば1×1015cm-3以下とする場合には、貫通転位3の転位線の方向は、例えば[0001]方向に平行もしくは[0001]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは0°±3°の範囲となる。
【0061】
このように不純物濃度を例えば1×1017cm-3以下に設定することで、貫通転位3の転位線の方向を同一方向に揃えることができる。そして、このような不純物濃度は、デバイス作製に適した濃度であるので、デバイス特性は良好で劣化が無く、歩留まりも向上させられる。逆に、不純物濃度を例えば1×1018cm-3とする場合には、角度θが20°より大きくなり、基底面内方向の成分が大きくなるため、デバイス特性に悪影響を与えることになる。また、不純物濃度も濃く、デバイス作製に適した濃度ではないため、使用に適さない。なお、ここでは、不純物としてn型導電性を示す窒素を例に挙げたが、他の不純物を用いても良いし、p型導電性を示すアルミニウムやホウ素などを用いても良い。
【0062】
さらに、本実施形態では、転位線は、[0001]c軸およびそれに対する垂直方向の特定方向(例えば[11−20]方向)を通る(1−100)面内においてのみ[0001]c軸に対して傾いている。
【0063】
このように、転位線が同じ面内のみで傾くように揃えられることで、よりデバイス特性の化や歩留まりの低下の抑制を図ることが可能となる。例えば、SiC単結晶基板に対して(1−100)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。このため、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0064】
なお、ここでは、オフ方向を[11−20]方向としてα°オフ角が付けられたものを用いたが、α°は0°より大きければ良く、エピタキシャル膜2がステップフロー成長する角度であれば、どのような角度でも良い。例えば、α°を4°とすることができる。
【0065】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態では、第5実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定的に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第5実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0066】
本実施形態では、図3(a)に示したオフ方向を[11−20]方向としてα°オフ角をつけたSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが17°([11−23]方向)に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0067】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第5実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0068】
なお、このような構造は、SiC単結晶基板1に対して、不純物濃度を例えば1×1016〜1×1017cm-3としてエピタキシャル膜2を成長させれば実現できる。
【0069】
(第7実施形態)
本発明の第7実施形態について説明する。本実施形態も、第5実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定定期に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第5実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0070】
本実施形態では、図3(a)に示したオフ方向を[11−20]方向としてα°オフ角をつけたSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが8.7°([11−26]方向)に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0071】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第5実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0072】
なお、このような構造は、SiC単結晶基板1に対して、不純物濃度を例えば1×1015〜1×1016cm-3としてエピタキシャル膜2を成長させれば実現できる。
【0073】
(第8実施形態)
本発明の第8実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して用いているSiC単結晶基板のオフ方向を第5実施形態とは異なる方向で規定したものである。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0074】
図4(a)は、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図であり、図4(b)は、オフ角や貫通転位の傾斜角度について説明するためのベクトル図である。
【0075】
図4(a)に示されるように、本実施形態では、オフ方向を[1−100]方向としてα°オフ角が付けられたSiC単結晶エピタキシャルウェハを用いている。SiC単結晶基板1は、例えば不純物濃度が5×1018cm-3という高濃度とされ、エピタキシャル膜2は、1×1017cm-3以下という低濃度とされている。そして、このSiC単結晶エピタキシャルウェハにおけるエピタキシャル膜2中に存在する貫通転位3の転位線の方向をオフ方向と同一方向に傾斜させて揃え、貫通転位3の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3(=0°−3°)以上かつ22.5°(=19.5°+3°)以下となるようにしている。また、転位線は、[0001]c軸およびそれに対する垂直方向の特定方向(例えば[1−100]方向)を通る(11−20)面内においてのみ[0001]c軸に対して傾いている。
【0076】
ここで、図4(b)に示すように、オフ方向が[1−100]方向の場合、オフ角αはウェハ面の法線方向が[0001]c軸に対して為す角度がα°となるものを意味する。また、貫通転位3の転位線は、[0001]c軸に対してウェハ面の法線方向と同じ方向に延ばして、法線側をプラスとして角度θを表してある。
【0077】
なお、本実施形態でも、貫通転位3の転位線の方向として、エピタキシャル膜2中に形成されているものについては上記角度となるようにしているが、SiC単結晶基板1内に形成された貫通転位3については、特に規定しておらず、どのような角度であっても構わない。
【0078】
このように、本実施形態では、貫通転位3の転位線の方向が揃えられ、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが−3°以上かつ22.5°以下となるようにしている。このようなSiC単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイスを形成しても、第5実施形態と同様の効果が得られる。
【0079】
このような構造のSiC単結晶エピタキシャルウェハは、例えば以下のようにして製造される。まず、バルク状のSiC単結晶を用意して、そのSiC単結晶を[1−100]方向を含む面において切り出すことで、上記オフ方向のSiC単結晶基板1を用意することができる。そして、このSiC単結晶基板1の表面にCVD法にてSiC単結晶からなるエピタキシャル膜2を成長させる。
【0080】
このようにすれば、SiC基板1内に含まれていた貫通転位3は、エピタキシャル膜2内において[0001]c軸に対する角度θが−3°以上かつ22.5°以下の範囲となるようにできる。これも、エピタキシャル膜2を成長させる際のステップフローの方向が関係していると考えられ、貫通転位3の転位線の傾斜方向とステップフロー方向が同一方向であることを確認している。
【0081】
例えば、エピタキシャル膜2内の不純物濃度(例えば窒素濃度)を1×1017cm-3以下において調整することにより、貫通転位3の転位線の方向は、例えば[2−203]方向に平行もしくは[2−203]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは19.5°±3°の範囲となるか、[1−102]方向に平行もしくは[1−102]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは15°±3°の範囲となるか、もしくは、[1−104]方向に平行もしくは[1−104]方向に対して±3°の範囲内の方向に向き、角度θは7.6°±3°の範囲となる。
【0082】
このように不純物濃度を例えば1×1017cm-3以下に設定することで、貫通転位3の転位線の方向を同一方向に揃えることができる。そして、このような不純物濃度は、デバイス作製に適した濃度であるので、デバイス特性は良好で劣化が無く、歩留まりも向上させられる。逆に、不純物濃度を例えば1×1018cm-3とする場合には、角度θが22.5°より大きくなり、基底面内方向の成分が大きくなるため、デバイス特性に悪影響を与えることになる。また、不純物濃度も濃く、デバイス作製に適した濃度ではないため、使用に適さない。なお、ここでは、不純物としてn型導電性を示す窒素を例に挙げたが、他の不純物を用いても良いし、p型導電性を示すアルミニウムやホウ素などを用いても良い。
【0083】
さらに、本実施形態では、転位線は、[0001]c軸およびそれに対する垂直方向の特定方向(例えば[1−100]方向)を通る(11−20)面内においてのみ[0001]c軸に対して傾いてる。
【0084】
このように、転位線が同じ面内のみで傾くように揃えられることで、よりデバイス特性の化や歩留まりの低下の抑制を図ることが可能となる。例えば、SiC単結晶基板に対して(11−20)面のチャネル面を持つ電界効果方トランジスタを作成した場合、転位線がチャネル面に交差することがなくなる。このため、トランジスタの特性、信頼性を更に向上させることが可能となる。
【0085】
なお、ここでは、オフ方向を[1−100]方向としてα°オフ角が付けられたものを用いたが、α°は0°より大きければ良く、エピタキシャル膜2がステップフロー成長する角度であれば、どのような角度でも良い。例えば、α°を4°とすることができる。
【0086】
(第9実施形態)
本発明の第9実施形態について説明する。本実施形態では、第8実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定的に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第5実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0087】
本実施形態では、図4(a)に示したオフ方向を[1−100]方向としてα°オフ角をつけたSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが19.5°([2−203]方向)に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0088】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第8実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0089】
(第10実施形態)
本発明の第10実施形態について説明する。本実施形態も、第8実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定定期に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第5実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0090】
本実施形態では、図4(a)に示したオフ方向を[1−100]方向としてα°オフ角をつけたSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが15°([1−102]方向)に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0091】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第8実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0092】
(第11実施形態)
本発明の第11実施形態について説明する。本実施形態も、第8実施形態に対して、貫通転位3の転位線の方向をより限定定期に特定して揃える。なお、本実施形態にかかるSiC単結晶エピタキシャルウェハの構造などについては第5実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0093】
本実施形態では、図4(a)に示したオフ方向を[1−100]方向としてα°オフ角をつけたSiC単結晶エピタキシャルウェハにおいて、エピタキシャル膜2に存在するすべての貫通転位3について、転位線の方向と[0001]c軸との為す角度θが7.6°([1−104]方向)に対して±3°の範囲内となるようにしている。
【0094】
このように、貫通転位3の転位線の方向を特定方向に揃えている。このため、第8実施形態と同様の効果に加えて、貫通転位3の転位線の方向が揃っていることで、場所による特性のばらつきが少なくなり、さらに歩留まりを向上させることができる。
【0095】
(第12実施形態)
本発明の第12実施形態について説明する。第1〜第11実施形態では、単に貫通転位3として説明したが、この貫通転位3の中に貫通刃状転位が含まれるようにすると好ましい。このような貫通刃状転位が含まれた貫通転位3が形成されている場合についても、上記第1〜第11実施形態と同様の効果となるが、図6に示したように、貫通刃状転位の場合には、貫通らせん転位よりもSiC単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイス、例えばダイオードやMOSトランジスタなどのパワー素子を形成したときの故障時間が長くなる。これにより、よりデバイス特性を良好にすることが可能となる。
【0096】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、SiC単結晶基板1の上に例えばCVD法にてエピタキシャル膜2を製造する場合に、貫通転位3の転位線の方向が不純物濃度との関係に基づいて特定方向を向くことを利用している。しかしながら、これは貫通転位3の転位線の方向を容易に揃えることができる手法として載せたに過ぎず、デバイス特性や歩留まりの観点からは、SiC単結晶基板1もしくはSiC単結晶エピタキシャルウェハのエピタキシャル膜2に形成された貫通転位3の転位線の方向が上記各実施形態で示した角度範囲を満たしていれば、上記効果を得ることができるため、各実施形態で説明した製造方法に限定されるものではない。
【0097】
上記各実施形態では、パワー系の電子デバイスに適した六方晶系の4H−SiCのSiC単結晶基板1を用いた場合について説明したが、他の結晶多形であっても本発明を適用できる。ただし、貫通転位3の転位線の方向を示す指数は他の結晶多形、例えば6H−SiCなどの場合は表記が変わる。
【0098】
さらに、上記各実施形態では、電子デバイスが形成される基板として、SiC単結晶基板1上にエピタキシャル膜を成長させたSiC単結晶エピタキシャルウェハを例に挙げたが、エピタキシャル膜2の上にSiC単結晶をバルク成長させ、これを切り出すことで、貫通転位3の方向が揃ったSiC単結晶基板を形成すれば、そのSiC単結晶基板に対してデバイス形成することもできる。したがって、本発明は、SiC単結晶エピタキシャルウェハに限るものではなく、SiC単結晶基板も含まれる。
【0099】
なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(−)を付すべきであるが、パソコン出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付すものとする。
【符号の説明】
【0100】
1 SiC単結晶基板
2 エピタキシャル膜
3 貫通転位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向と[0001]c軸との為す角度が22.5°以下とされていることを特徴とする炭化珪素単結晶基板。
【請求項2】
前記貫通転位(3)の転位線の方向は、[0001]c軸との為す角度が19.5°以下の特定方向に対して±3°の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項3】
前記貫通転位(3)の転位線の方向は、[0001]c軸と平行な方向に対して±3°の範囲内とされていることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項4】
前記貫通転位(3)の転位線の方向は、[0001]c軸と平行な方向とされていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項5】
[11−20]方向をオフ方向とする炭化珪素単結晶基板(1)と、
前記炭化珪素単結晶基板(1)に成長させられたエピタキシャル膜(2)とを有し、
前記エピタキシャル膜(2)は、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が−3°以上かつ20°以下とされ、かつ、該貫通転位(3)が(1−100)面内にあることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項6】
前記貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が17°±3°の範囲とされていることを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項7】
前記貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[11−20]方向の基板面の法線方向への角度が8.7°±3°の範囲とされていることを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項8】
[1−100]方向をオフ方向とする炭化珪素単結晶基板(1)と、
前記炭化珪素単結晶基板(1)に成長させられたエピタキシャル膜(2)とを有し、
前記エピタキシャル膜(2)は、転位線が(0001)C面を貫通する貫通転位(3)を含み、該貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が−3°以上かつ22.5°以下とされ、かつ、該貫通転位(3)が(11−20)面内にあることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項9】
前記貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が19.5°±3°の範囲とされていることを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項10】
前記貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が15°±3°の範囲とされていることを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項11】
前記貫通転位(3)の転位線の方向が[0001]c軸から[1−100]方向の基板面の法線方向への角度が7.6°±3°の範囲とされていることを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項12】
前記エピタキシャル膜(2)の不純物濃度の方が前記炭化珪素単結晶基板(1)の不純物濃度よりも低くされ、前記エピタキシャル膜(2)の不純物濃度が1×1017cm-3以下とされていることを特徴とする請求項5ないし11のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項13】
前記貫通転位(3)には貫通刃状転位が含まれていることを特徴とする請求項5ないし12のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項14】
前記貫通転位(3)には貫通刃状転位が含まれていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項15】
請求項1ないし4および14のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶基板もしくは請求項5ないし13のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハに対して電子デバイスが形成されていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項16】
請求項5ないし7のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハに対して、(1−100)面をチャネル面とする電界効果型トランジスタが電子デバイスとして形成されていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項17】
請求項8ないし11のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハに対して、(11−20)面をチャネル面とする電界効果型トランジスタが電子デバイスとして形成されていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184833(P2010−184833A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29825(P2009−29825)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】