説明

直噴火花点火式内燃機関

【課題】 機関の始動時を含む冷間時の成層燃焼に際し、成層混合気の集中度(均質度)を高めて、燃焼安定性を向上させる。
【解決手段】 燃焼室4の上部中央に、中空円錐状の燃料噴霧を形成する燃料噴射弁(アウトワード弁)5を配置する。機関の始動時を含む冷間時に、この燃料噴射弁5からの成層燃焼のための燃料噴射を複数回に分割し、先に噴射した燃料噴霧に後から噴射する燃料噴霧が引込まれるタイミングで後の噴射を行う。機関の始動後は、点火時期と共に噴射時期をTDC以降まで遅角して膨張行程噴射とする一方、分割噴射の噴射間隔を圧縮行程噴射での噴射間隔より短くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直噴火花点火式内燃機関に関し、特に機関の始動時を含む冷間時の燃料噴射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、直噴火花点火式内燃機関において、圧縮行程にて燃料を噴射する成層燃焼時に、燃料噴射を複数回に分割し、分割して噴射された燃料のうち先に噴射されたものに対して、その後に噴射された燃料が点火プラグの近傍において重なるように噴射させるようにしている。
【0003】
すなわち、分割された燃料のうち、先に噴射された燃料は、燃料噴射弁の噴射特性、噴射方向及び燃焼室内のガス流動の影響などによって定まる領域に、混合気を形成する。そして、この噴射の後に噴射される燃料に対しては、先の噴射の影響で噴射方向に沿った流れが生じているため、後に噴射された燃料は、同様な形態の噴霧を形成しつつも、先に噴射された燃料より高速で燃焼室内を進む。従って、後に噴射された燃料を先に噴射された燃料に追い付かせて重なり合わせることにより、その位置において適切な集中度の混合気を形成する。
【0004】
但し、機関冷間時には、機関壁面温度が低く、燃料の壁面付着による燃焼性能への悪影響が大きいため、分割噴射を禁止して、1回のみの単一噴射としている。
【特許文献1】特開2002−115593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、機関の始動時を含む冷間時には、分割噴射を禁止して、1回のみの単一噴射とするため、成層混合気の集中度(均質度)が低下して、燃焼安定性が悪化する。
【0006】
また、単一噴射では、分割噴射に比べ、燃料噴霧のペネトレーションが強くなるため、かえって壁面への付着量が増大する恐れがある。
本発明は、このような実状に鑑み、機関の始動時を含む冷間時に、成層燃焼をより安定して行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明では、機関の始動時を含む冷間時に、点火時期の直前に燃料噴射を行って燃料噴霧に点火することにより成層燃焼を行わせると共に、燃料噴射を複数回に分割し、先に噴射した燃料噴霧に後から噴射する燃料噴霧が引込まれるタイミングで後の燃料噴射を行う構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機関の始動時を含む冷間時の成層燃焼に際し、上記の分割噴射によって、混合気の集中度(均質度)を高めることができ、燃焼安定性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態を示す直噴火花点火式内燃機関の構成図である。
図1において、シリンダヘッド1とシリンダボア2とピストン3とにより、ペントルーフ型の燃焼室4が形成され、その上部中央に燃料噴射弁5が下向きに配置されている。
【0010】
燃料噴射弁5は、図2に示すようなアウトワード弁であり、燃料噴射弁本体50の先端部に軸心に沿って燃料通路51が形成され、この燃料通路51は先端面にてテーパ状開口部52をなしている。
【0011】
そして、燃料通路51をその通路方向に貫通するロッド部53の先端にポペット型の弁体54が設けられ、テーパ状開口部52にポペット型の弁体54のテーパ面が相対している。
【0012】
従って、弁体54の外側へのリフト時に、テーパ状開口部52と弁体54のテーパ面との間に、外向きの環状の噴出口55が形成されて、この噴出口55から燃料が噴射され、燃料噴霧は中空円錐状を呈する。
【0013】
点火プラグ6は、燃焼室4の上部中央より偏心した位置に斜めに配置されていて、これにより、燃料噴射弁5から噴射される中空円錐状の燃料噴霧の外縁に点火するように配置されている。
【0014】
より詳しくは、燃料噴射弁5から噴射される中空円錐状の燃料噴霧の外縁の一部には、周囲の空気とのせん断で巻上がり部(膨らみ部)を生じるので、この巻上がり部に点火するように配置されている。
【0015】
燃料噴射弁5及び点火プラグ6の作動はエンジンコントロールユニット(ECU)7により制御され、ECU7には、機関回転数センサにより検出される機関回転数Ne、燃圧センサにより検出される燃圧Pf、水温センサにより検出される水温Tw等の信号が入力されている。
【0016】
この内燃機関の運転モード(燃焼モード)には、均質運転モードと成層運転モードとがある。
均質運転モードでは、吸気行程にて燃料噴射弁5の燃料噴射を行い、点火プラグ6による点火時期までに、燃焼室4の全体に均質な混合気を形成することにより、ストイキ空燃比、又はリーン空燃比(A/F=20〜30)で、均質燃焼を行わせる。
【0017】
これに対し、成層運転モードでは、圧縮行程にて燃料噴射弁5の燃料噴射を行い、燃焼室4の一部(点火プラグ6により点火可能な燃焼室4の中央部)に成層化された混合気塊を形成することにより、全体としては極めてリーンな空燃比(A/F=30〜40)で、成層燃焼を行わせる。
【0018】
ところで、機関の始動時を含む冷間時に成層燃焼を行う場合、言い換えれば、成層燃焼で始動して、始動時及び始動直後のHC排出量の低減を図る場合、単に混合気を成層化するだけでなく、混合気をコンパクトにする必要がある。
【0019】
また、始動直後の暖機中は、点火時期を上死点以降まで遅角して暖機促進(排気温度上昇による排気浄化触媒の早期活性化)を図るため、噴射時期も上死点以降まで遅角することから、膨張行程噴射となる。膨張行程噴射では、ピストンが下向きに進んでいるため、圧縮行程噴射に比べ、混合気が拡散しやすい状態にあるので、混合気をよりコンパクトにする必要がある。
【0020】
そこで、本発明では、機関の始動時を含む冷間時に、成層燃焼のための燃料噴射を複数回に分割する。そして、この分割噴射(多段噴き)は、先に噴射した燃料噴霧に後から噴射する燃料噴霧が引込まれるタイミングで後の噴射を行う構成とする。
【0021】
図3を参照して説明する。
一度噴きの場合(要求噴射量を一度に噴射する場合)は、図3(a)に示すように、ペネトレーションが大きく、中空円錐状噴霧の内側は大きく空間があいている。
【0022】
これに対し、分割噴射の場合(要求噴射量を二度度に分けて噴射する場合;二度噴きの場合)は、次のようになる。
二度噴きの1回目噴射では、図3(b−1)に示すように、一度噴きの場合に比べ、1回当たりの噴射量が減るため、ペネトレーションが小さくなる。それゆえ、拡がりも小さくなる。
【0023】
言い換えれば、アウトワード弁の燃料噴霧はそもそも低ペネトレーションであるが、噴射量が分割されることで、更に運動量が少なくなって、噴霧点に近いところで噴霧が留まるのである。
【0024】
そして、1回目噴射の噴霧後方に噴射の流速による負圧領域が発生する。
2度噴きの2回目噴射は、図3(b−2)に示すように、1回目噴射の噴霧後方の負圧領域に向けてなされる。従って、2回目噴射の噴霧は、負圧に引かれるため、1回目噴射の噴霧より流速が高くなり、1回目噴射の噴霧に追いついて、2回目噴射の噴霧が1回目噴射の噴霧に入り込む。
【0025】
言い換えれば、噴霧後端は負圧となり、通常であれば周囲の空気が流入してくるが、そこに2回目噴射を行うことで、2回目噴射の噴霧が1回目噴射の噴霧に引込まれるのである。
【0026】
こうして、最終的には図3(b−3)に示すように、2回目噴射の噴霧が1回目噴射の噴霧の中に入り込み、拡散防止と均一度向上が見込まれる。また、引込まれる際の周囲空気との衝突とによって、気化も促進される。
【0027】
このように、機関始動時を含む冷間時に、成層燃焼を行わせるに際し、燃料を複数回に分けて噴射することで、単に集中度を高めるだけでなく、燃料噴霧のペネトレーションを抑え、コンパクトでかつ均質な成層混合気を形成することができ、火炎伝播の安定性向上並びに燃焼速度の短縮を図り、燃焼安定度の向上や、拡散によるガスクエンチ量の減少を図ることができる。
【0028】
また、始動直後の暖機中に、膨張行程噴射する際は、ピストンが下向きに進んでいるため、圧縮行程噴射に比べ、混合気が拡散しやすい状態にあり、また先の噴射による噴霧後端の負圧の発生時期も早くなることから、圧縮行程噴射に比べ、分割噴射の噴射間隔(先の噴射の開始時期から後の噴射の開始時期までの間隔)を狭める。
【0029】
図4は機関の始動時を含む冷間時の燃料噴射制御のフローチャートである。
S1では、水温センサにより検出される水温Twを読込み、水温Twが所定値Tw1未満か否か、すなわち冷間時か否かを判定する。
【0030】
水温Twが所定値Tw1未満(冷間時)の場合は、S2へ進む。これに対し、水温Twが所定値Tw1以上の場合(ホットリスタート時などの場合)は、本ルーチンを終了して、通常制御へ移行する。
【0031】
S2では、機関回転数Neが所定値Ne1未満か否か、すなわち始動時か否かを判定する。尚、所定値Ne1はファストアイドル回転数相当(例えば700〜800rpm)に設定される。
【0032】
機関回転数Neが所定値Ne1未満(始動時)の場合は、S3へ進む。これに対し、機関回転数Neが所定値Ne1以上の場合は、S5へ進む。
S3では、分割噴射で成層燃焼を行って、始動する。これをモードAといい、具体的には、下記のように制御する。
【0033】
・点火時期は、TDC(圧縮上死点)前に設定する。
・噴射時期は、TDC前で、点火時期の直前に設定する。
・分割噴射の噴射間隔(先の噴射の噴射開始時期から後の噴射の噴射開始時期までの間隔)τは、所定値τAとする。
【0034】
尚、始動時の要求噴射量は一定であり、燃圧Pfに応じて噴射パルス幅(噴射時間)を設定する。
次のS4では、機関回転数Neが所定値Ne1以上になったか否かを判定し、NOの場合は、S3へ戻って、モードAを続行する。その後、YESになった場合(ファストアイドル回転数に達した場合)は、S4からS5へ進む。
【0035】
S5では、分割噴射で成層燃焼を行って、暖機運転を行う。これをモードBといい、具体的には、下記のように制御する。
・点火時期は、TDC後に設定する。点火時期リタードにより暖機促進(排気温度上昇による排気浄化触媒の早期活性化)を図るためである。
【0036】
・噴射時期は、TDC後で、点火時期の直前に設定する。点火時期の遅角に伴い成層燃焼可能とするため同様に遅角する必要があるからである。
・分割噴射の噴射間隔τは、所定値τBとし、モードAでの噴射間隔τAより短くする(τB<τA)。圧縮行程噴射時より分割噴射の噴射間隔を短くして拡散をより防止するためである。
【0037】
・スロットル開度TVOを増大補正する。点火時期リタードによるトルク低下を補うようにトルク補正を行うためである。
次のS6では、水温Twが所定値Tw1以上になったか否かを判定し、NOの場合は、S5へ戻って、モードBを続行する。その後、YESになった場合(暖機完了の場合)は、本ルーチンを終了し、通常制御へ移行する。
【0038】
尚、通常制御へ移行した後は、運転条件(主に機関回転数及び負荷)に応じて、均質燃焼と成層燃焼とを切換える。すなわち、低回転・低負荷領域にて成層燃焼を行い、高回転・高負荷領域にて均質燃焼を行う。
【0039】
図6は同上制御のタイムチャートである。
始動時(ファストアイドル回転数に達するまで)は、点火時期及び噴射時期をTDC前に設定し、分割噴射の噴射間隔は比較的長く設定する。
【0040】
ファストアイドル回転数に達して暖機運転に移行すると、点火時期及び噴射時期をTDC後に設定し、分割噴射の噴射間隔は比較的短く設定する。また、スロットル開度を増大補正して、点火時期遅角によるトルク低下を補う。
【0041】
また、本実施形態によれば、機関の始動後に、点火時期と共に噴射時期をTDC以降まで遅角して膨張行程噴射とした場合に、分割噴射の噴射間隔τBを圧縮行程噴射での噴射間隔τBより短くすることにより、膨張行程噴射の際は、ピストンが下向きに進んでいるため、混合気が拡散しやすい状態であるにもかかわらず、混合気の集中度を高く維持することができ、また先の噴射による噴霧後端の負圧の発生時期が早くなるのに対応して、的確な時期に後噴射できるという効果が得られる。
【0042】
また、本実施形態によれば、燃料噴射弁5として、燃焼室の上部中央に下向きに設けられて、外向きの環状の噴出口により、中空円錐状の燃料噴霧を形成するアウトワード弁を用い、点火プラグ6は、前記中空円錐状の燃料噴霧の外縁に直接点火するように配置することにより、そもそも低ペネトレーションのアウトワード弁からの燃料噴霧を分割噴射により更に低ペネトレーション化して、成層混合気の集中度(均質度)をより一層高めることができると共に、燃料噴霧をピストン冠面やシリンダ壁面に達しさせることなく点火・燃焼させて始動時等のHC排出量の低減を図ることができる。
【0043】
尚、以上の説明では、分割噴射の回数を2回としたが、可能であれば、3回以上に分割して、更にペネトレーションを抑えることで、成層混合気の均質度を向上させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態を示す直噴火花点火式内燃機関の構成図
【図2】燃料噴射弁(アウトワード弁)の説明図
【図3】分割噴射の説明図
【図4】機関の始動時を含む冷間時の燃料噴射制御のフローチャート
【図5】同上の燃料噴射制御のタイムチャート
【符号の説明】
【0045】
1 シリンダヘッド
2 シリンダボア
3 ピストン
4 燃焼室
5 燃料噴射弁
50 燃料噴射弁本体
51 燃料通路
52 テーパ状開口部
53 ロッド部
54 ポペット状の弁体
55 環状の噴出口
6 点火プラグ
7 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料噴射弁と点火プラグとを備える直噴火花点火式内燃機関において、
機関の始動時を含む冷間時に、点火時期の直前に燃料噴射を行って燃料噴霧に点火することにより成層燃焼を行わせると共に、
燃料噴射を複数回に分割し、先に噴射した燃料噴霧に後から噴射する燃料噴霧が引込まれるタイミングで後の噴射を行うことを特徴とする直噴火花点火式内燃機関。
【請求項2】
機関の始動後は、点火時期と共に噴射時期を上死点以降まで遅角して膨張行程噴射とする一方、分割噴射の噴射間隔を圧縮行程噴射での噴射間隔より短くすることを特徴とする請求項1記載の直噴火花点火式内燃機関。
【請求項3】
前記燃料噴射弁は、燃焼室の上部中央に下向きに設けられて中空円錐状の燃料噴霧を形成するアウトワード弁であり、
前記点火プラグは、前記中空円錐状の燃料噴霧の外縁に点火するように配置されることを特徴とする直噴火花点火式内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185688(P2009−185688A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26352(P2008−26352)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】