磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ及び磁気記録再生装置
【課題】 十分なMR変化率を有する磁気抵抗効果素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層14と、第2の磁性層18と、第1の磁性層14と第2の磁性層18との間に設けられたスペーサ層16とを備えた積層体と、積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20とを有し、スペーサ層16が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層21を含む。
【解決手段】 本発明の磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層14と、第2の磁性層18と、第1の磁性層14と第2の磁性層18との間に設けられたスペーサ層16とを備えた積層体と、積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20とを有し、スペーサ層16が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層21を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子では、スペーサ層に金属層を用いるため、低抵抗化の観点でTMR素子に比べて有利である。しかし、CPP−GMR素子では十分に大きなMR変化率が得られていないという問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決するために、CPP−GMR素子の構成の改変やスペーサ層の材料の選択等が行われている。
【0004】
例えば、CPP−GMR素子を構成するスペーサ層を、単なる金属層ではなく、厚み方向への電流パスを含む酸化物層(NOL(nano-oxide layer))から構成する構造が提案されている(特許文献1)。この素子では、電流狭窄(CCP(Current-confined-path))効果によりMR変化率を増大できる。このような素子は、CCP−CPP素子と呼ぶ。
【0005】
上記の試みとは別に、強磁性層の層中やこれらと非磁性スペーサ層との界面に、酸化物あるいは窒化物からなる薄膜のスピンフィルター(Spin Filter:SF)層を挿入した磁気抵抗効果素子が提案されている(特許文献2)。このSF層は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の何れか一方の通電を阻害するスピンフィルター効果を有するために、MR変化率を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-147579号公報
【特許文献2】特開2004−6589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにCCP−CPP素子のMR変化率を増大させるために様々な試みが検討されているが、さらなるMR変化率の増大が求められている。
【0008】
本発明は上記に鑑み、十分なMR変化率を有する磁気抵抗効果素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層とを備えた積層体と、前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを有し、前記スペーサ層が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を示す図である。
【図2】実施形態の効果を説明する図である。
【図3】酸化物層21中で磁化がねじれた磁気構造となっていることを示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を示す図である。
【図5】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第1の変形例を示す図である。
【図6】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第2の変形例を示す図である。
【図7】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第3の変形例を示す図である。
【図8】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第4の変形例を示す図である。
【図9】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第5の変形例を示す図である。
【図10】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【図11】実施例1に係わる磁気抵抗効果素子の断面TEM像を示す図である。
【図12】実施形態に係る磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【図13】磁気抵抗効果素子を備えた磁気ヘッドがヘッドスライダに設けられていることを示す図である。
【図14】実施形態に係る磁気記録再生装置の一部を構成するヘッドスタックアセンブリ、ヘッドジンバルアセンブリを示す図である。
【図15】第4の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【図16】第4の実施形態に係る磁気メモリの要部を例示する断面図である。
【図17】図16に示すA−A’線による断面図である。
【図18】第5の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。また、以下説明する図面において、符号が一致するものは、同様のものを示しており、重複した説明は省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の構成を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が固着された磁化固着層(以下、磁化固着層と呼ぶ)14と、キャップ層19と磁化固着層14との間に設けられた磁化が自由に回転する磁化自由層(以下、磁化自由層と呼ぶ)18と、磁化固着層14と磁化自由層18との間に設けられた非磁性体からなる中間層(以下、「スペーサ層」という。)16と、スペーサ層16中に設けられた、少なくともZn、In、Sn、及びCdの何れか1つの元素、並びに少なくともFe、Co、Niの何れか1つの元素を含む酸化物層21と、を備えた積層体7と、積層体7の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20と、電極11と磁化固着層14の間に設けられた磁化固着層の磁化方向を固着するための反強磁性体からなるピニング層13と、ピニング層13と電極11との間に設けられた下地層12とを備える。
【0014】
図1に示すとおり、磁気抵抗効果素子10のスペーサ層16にZn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層21をスピンフィルタリング層(以下、「SF層」という。)として設ける。酸化物層21は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができるスピンフィルター効果を有し、具体的には、FeとZnの混合酸化物などを用いることができる。このような混合酸化物材料を用いた場合、Zn、In、SnおよびCdから選択される元素を含む酸化物や、Fe、Co、Niから選択される元素を含む酸化物層をSF層として用いた場合よりも高いMR変化率を低い面積抵抗で実現することが出来る。
【0015】
この混合酸化物材料を用いることで高いMR変化率を実現できた理由は、高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立でき、結果として高いスピンフィルター効果を発現したためと考えられる。ここで、低い抵抗率のSF層を実現するためには、SF層がZnO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO、CdIn2O4、Cd2SnO4、Zn2SnO4などの上記したZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料を含有することが有効である。これらの酸化物半導体は、3eV以上のバンドギャップを持つ半導体であるが、化学量論組成から少し還元気味にずれることにより酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成するため、伝導電子密度が1018cm−3〜1019cm−3程度まで到達する。これらの導電性酸化物のバンド構造において、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道で、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度フェルミ準位が1018cm−3よりも増えると伝導帯に達し、縮退と呼ばれる状態になる。このような酸化物半導体はn型の縮退半導体と呼ばれ、伝導電子の十分な濃度と移動度を併せ持ち、低い抵抗率を実現する。
【0016】
一方、高いスピン依存散乱効果を有するSF層を実現するためには、SF層が室温で磁性を有するCo、Fe、及びNiの酸化物を含有することが有効である。低い抵抗率を実現するのに有効なZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料はバルクの特性として磁性を有していない。磁化自由層や磁化固着層に極薄の酸化物層を挿入した場合、磁性を有していない酸化物材料も磁性を発現してスピンフィルター効果が得られることが特開2004−6589号に開示されているが、Co、Fe、及びNiの酸化物を含有したほうが酸化物層の膜厚の制限に縛られずに容易に磁性を発現して高いスピンフィルター効果が得られる。なお、Znは、In、Sn、及びCdの中でもFe、Co、及びNiと同周期であるために、Fe、Co、及びNiとの混合酸化物となった場合に磁性を帯びやすいので、酸化物層の磁化を安定化させることができるので、より好ましい。
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子の詳細について説明する。
【0018】
図1において、下電極11および上電極20は、磁気抵抗効果素子10の膜面に対して垂直方向に電流を流す。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果素子10の内部を膜面垂直方向に沿って電流が流れる。
【0019】
この電流が流れることで、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができ、磁気の検知が可能となる。下電極11および上電極20としては、電流を磁気抵抗効果素子10に流すために、電気抵抗が比較的小さいCu、Au等が用いられる。
【0020】
下地層12は、例えば、バッファ層およびシード層が積層した構成をとる。ここで、バッファ層は下電極11側に位置し、シード層はピニング層13側に位置する。
【0021】
バッファ層は下電極11の表面の荒れを緩和し、バッファ層上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層としては、例えばTa、Ti、V、W、Zr、Hf、Cr又はこれらの合金を用いることができる。バッファ層の膜厚は1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層の厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層の厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層上に形成されるシード層がバッファ効果を有する場合には、バッファ層を必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、Taを1nm形成することができる。
【0022】
シード層は、シード層上に積層される層の結晶配位向及び結晶粒径を制御する。シード層としては、fcc構造(face−centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close−packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body−centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属等が好ましい。
【0023】
例えば、シード層として、hcp構造を有するRuまたはfcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合には規則化したfct(111)構造(face−centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、磁化自由層18及び磁化固着層14としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、磁化自由層18及び磁化固着層14としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。結晶配向を向上させるシード層としての機能を十分発揮するために、シード層の膜厚としては、1nm以上5nm以下が好ましく、1.5nm以上3nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ruを2nm形成することができる。
【0024】
他にも、シード層として、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層では、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、ロッキングカーブの半値幅を3°〜5°とすることができる。
【0025】
シード層には、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm以上20nm以下に制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0026】
なお、シード層の結晶粒径を5nm以上20nm以下にすることで、結晶粒界による電子乱反射及び非弾性散乱サイトが少なくなる。このサイズの結晶粒径を得るには、Ruを2nm形成する。また、(NixFe100−x)100−yZy(Z=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度として(yが0の場合も含む)、2nm形成することが好ましい。
【0027】
スピンバルブ膜の結晶粒径は、シード層とスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば、断面TEMなどによって決定できる)。例えば、磁化固着層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層の上に形成されるピニング層13(反強磁性層)や、磁化固着層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0028】
ピニング層13は、その上に形成される磁化固着層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0029】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm以上20nm以下が好ましく、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4nm以上18nm以下が好ましく、5nm以上15nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ir22Mn78を7nm形成することができる。
【0030】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層も用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RA(Resistance Area)の増大を抑制できる。
【0031】
ここで、面積抵抗RAとは、磁気抵抗効果素子10の積層膜の積層方向に対して垂直な断面積と磁気抵抗効果素子10の積層膜の膜面に垂直に電流を流したときに一対の電極から得られる抵抗との積を示す。
【0032】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5°〜6°として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0033】
磁化固着層14は、ピニング層13側から下部磁化固着層141、磁気結合層142、及び上部磁化固着層143をこの順に積層した構成をとる。
【0034】
ピニング層13と下部磁化固着層141は一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を持つように交換磁気結合している。磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く結合している。
【0035】
下部磁化固着層141の材料としては、例えば、CoxFe100−x合金(x=0%〜100%)、NixFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部磁化固着層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いることもできる。または、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。
【0036】
下部磁化固着層141の膜厚は1.5nm以上5nm以下が好ましい。ピニング層13による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142を介した下部磁化固着層141と上部磁化固着層143との反強磁性結合磁界を強く保つためである。
【0037】
また、下部磁化固着層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部磁化固着層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部磁化固着層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
【0038】
また、下部磁化固着層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))を考慮する場合、上部磁化固着層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部磁化固着層143の磁気膜厚と下部磁化固着層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。
【0039】
例えば、上部磁化固着層143がFe50Co50[3nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co75Fe25の飽和磁化が約2.1Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部磁化固着層141の膜厚tは6.6Tnm/2.1T=3.15nmとなる。したがって、この場合、下部磁化固着層141の膜厚は約3.2nmのCo75Fe25を用いることが好ましい。
【0040】
ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
【0041】
磁気結合層142は、磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142として、Ruを用いることができ、磁気結合層142の膜厚は0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。なお、磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。磁気結合層142の膜厚は、RKKY(Ruderman−Kittel−Kasuya−Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm以上1nm以下の代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm以上0.6nm以下を用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、膜厚が0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0042】
上部磁化固着層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。
【0043】
上部磁化固着層143としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30%〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFe40Co60〜Fe80Co20が使いやすい材料の一例である。
【0044】
上部磁化固着層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部磁化固着層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部磁化固着層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0045】
また、上部磁化固着層143の材料として、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)のようなアモルファス合金を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXを用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。
【0046】
上部磁化固着層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固着磁界を得るためには薄いほうが好ましく、トレードオフの関係が存在する。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚が好ましい。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚が好ましい。一方、大きなピン固着磁界を得るためには、上部磁化固着層143の膜厚が最大でも、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。以上のように、上部磁化固着層143の膜厚は、1.5nm以上5nm以下が好ましく、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
【0047】
上部磁化固着層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。上部磁化固着層143として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、若しくはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料を用いることができる。上部磁化固着層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のCo組成をもつCo合金、50%以上のNi組成を持つNi合金である。
【0048】
また、上部磁化固着層143として、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2MnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
【0049】
スペーサ層16は、磁化固着層14と磁化自由層18との磁気的な結合を分断する。本実施形態では、スペーサ層16に酸化物層21が設けられる。酸化物層21は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができるスピンフィルター効果を有する。酸化物層としては、Zn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を混合した酸化物を含むことを特徴とする。具体的には、Fe50Co50とZnの混合酸化物を用いることができる。なお、Znは、In、Sn、及びCdの中でもFe、Co、及びNiと同周期であるために、Fe、Co、及びNiとの混合酸化物となった場合に磁性を帯びやすいので、酸化物層21のスピン依存散乱効果を安定に発現させることができるので、より好ましい。
【0050】
このような材料を用いることで、高いスピン依存散乱と、低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減と、を両立することで高いスピンフィルター効果を発揮し、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を向上させることができる。
【0051】
ここで、低い抵抗率のSF層を実現するためには、SF層がZnO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO、CdIn2O4、Cd2SnO4、Zn2SnO4などの上記したZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料を含有することが有効である。これらの酸化物材料が低い抵抗率を示す理由の1つとして、次のことが考えられる。これらの酸化物半導体は、3eV以上のバンドギャップを持つ半導体であるが、化学量論組成から少し還元気味にずれることにより酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成するため、伝導電子密度が1018cm−3〜1019cm−3程度まで到達する。これらの導電性酸化物のバンド構造において、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道で、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度フェルミ準位が1018cm−3よりも増えると伝導帯に達し、縮退と呼ばれる状態になる。このような酸化物半導体はn型の縮退半導体と呼ばれ、伝導電子の十分な濃度と移動度を併せ持ち、低い抵抗率を実現する。なお、このような理論に当てはまらないものであっても、低い抵抗率を示すものであれば、そのような酸化物材料を使用することができる。
【0052】
一方、高いスピン依存散乱を示すSF層を実現するためには、SF層が室温で磁性を有するCo、Fe、及びNiの酸化物を含有することが有効である。低い抵抗率を実現するのに有効なZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料はバルクの特性として磁性を有していない。磁化自由層や磁化固着層に極薄の酸化物層を挿入した場合、磁性を有していない酸化物材料も磁性を発現してスピン依存散乱が得られることが特開2004−6589号に開示されているが、Co、Fe、及びNiの酸化物を含有したほうが酸化物層の膜厚の制限に縛られずに容易に磁性を発現して高いスピン依存散乱効果が得られる。
【0053】
また、酸化物層にさらに添加元素を加えても良い。Zn酸化物に添加元素としてAlを加えた場合、熱耐性があがることが報告されている。Alのほかにも、添加元素としては、B、Ga、In、C、Si、Ge、及びSn等があげられる。耐熱性が向上するメカニズムは完全に明らかとはなっていないが、化学量論組成から還元気味にずれたことにより形成されるZn酸化物中の酸素空孔の密度が、熱による再酸化の促進により減少して、キャリア密度が変わることが起因していると考えられる。他にも耐熱性が向上する理由として、上記したこれらの元素はIII族、またはIV族のドーパントにあたり、これらのドーパントは熱によるZn原子の再酸化の促進を防ぐために、酸化物層中のキャリア密度の変化を抑えることができ、さらには熱に対する抵抗率の変化が抑えられるということが挙げられる。
【0054】
ここで、Fe、Co、Niの酸化物はメタルのFe、Co、Niに比べて小さいが磁化を有する。このようなFe、Co、Niのみからなる酸化物はスペーサ層に配置すると磁化自由層と磁化固着層の磁気結合が強くなりすぎるため、用いることができない。一方、本発明の酸化物層はFe、Co、Ni以外にZn、In、SnおよびCdも含有しているため、磁化は非常に小さいか、もしくは非磁性体となっている。このような磁性の弱い酸化物層は磁化自由層18と磁化固着層14の磁気結合を十分に分断することが可能であり、スペーサ層として機能させることができる。
【0055】
上述したZn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を含む酸化物層21を磁気抵抗効果素子10のスペーサ層16に設けることにより、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を向上させることができる。
【0056】
この酸化物層21は、スペーサ層以外に磁化自由層や磁化固着層にも設けることができるが、酸化物層21をスペーサ層に設けると以下のようなメリットがある。すなわち、酸化物層21を図1のように磁化自由層18と上部磁化固着層143の間に設けた場合、図2に示すように酸化物層21の挿入によるスピン依存散乱の増強は磁化自由層18と酸化物層21、上部磁化固着層143と酸化物層21の界面(高スピンフィルター領域)で発現する。このようにスピン依存散乱が磁化自由層18および上部磁化固着層143の両方で増強されることは磁化自由層18および上部磁化固着層143のどちらか一方のみが増強された場合よりも結果として高いMR変化率を実現できる。ここで磁化自由層18と上部磁化固着層143との両方のスピン依存散乱を増強することは、スペーサ層16内部ではなく、磁化自由層18内部と上部磁化固着層143内部に1層ずつ酸化物層を設けることでも実現できる。しかし、この場合、酸化物層21を2層挿入することになるため、酸化物層21を通過する際のスピンフリップの発生確率も増加してしまい、その結果、MR変化率の増強を十分に得ることができない。一方、図2のようにスペーサ層に1層の酸化物層を設けた場合、スピンフリップの発生確率も増大させずに、フリーと磁化固着層の両方のスピン依存散乱を増強させることが可能となるため、結果として高いMR変化率を得ることができる。
【0057】
また、スペーサ層に酸化物層を挿入するメリットは他にも存在する。本発明で記載しているCPP−GMR素子では、磁化固着層と磁化自由層とでアップスピンとダウンスピンの散乱強度が異なることによりMR現象が得られる。ここでCPP−GMRのような拡散型のMR現象では、磁化固着層と磁化自由層のそれぞれの面積抵抗RAfree、RApinの値が大きく異なる場合、MR変化率が下がってしまうという特徴がある。これを磁化固着層と磁化自由層の抵抗のミスマッチと呼ぶ。酸化物層を磁化自由層または磁化固着層のどちらか一方のみに挿入した場合、片方の層のみ面積抵抗が大きくなって抵抗マッチングが悪くなるため、結果としてMR変化率を十分に増強することが出来ない。一方、スペーサ層に酸化物層を設けた場合、磁化自由層と酸化物層の界面、磁化固着層と混合酸化物の界面の面積抵抗は同様に増大するので、酸化物層挿入による抵抗マッチングの低下は起こらず、結果としてMR変化率を十分に増強することができる。
【0058】
さらに、スペーサ層に酸化物層を挿入するメリットは他にも存在する。本発明の酸化物層はZn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を混合した酸化物からなるが、その組成によって弱いフェリ磁性を有する。このような弱い磁性を有する場合、酸化物層の磁化固着層側の成分は磁化固着層と磁気結合し、酸化物層の磁化自由層側の成分は磁化自由層と磁気結合する。その結果、図3に示すように磁化自由層18と上部磁化固着層143の磁化が反平行時は酸化物層21中では磁化が磁壁を形成してねじれた磁気構造となる。電子がこのようなねじれた磁気構造を通過する際には、強いスピン依存散乱を生ずるため、結果として高いMR変化率を得ることができる。
【0059】
ここで、十分なSF効果を得るためには均一な酸化層であることが望ましい。そのため酸化物層21の膜厚は、0.5nm以上とすることが好ましい。一方、膜厚の上限は再生ヘッドのリードギャップ(CPP−GMR素子を挟持するシールド電極間の距離)を広げない観点で4nm以下とすることが好ましい。
【0060】
図1では、スペーサ層16として、酸化物層21の上下に金属層31、金属層32を設けている。金属機能層31および32として、例えば、具体的には、Cu、Ag、Au、Znを用いることができる。これらの元素は、磁化固着層や磁化自由層に用いられる磁性層との界面におけるスピン依存散乱が比較的高いため、酸化物層によるスピン依存散乱の増強を阻害しないため、好ましい。また、金属層31および32として、Ru、Rh、Re、Ir、Osを用いても良い。
【0061】
金属層31と金属層32の膜厚は、酸化物層21に対して磁化自由層18もしくは磁化固着層13から十分なスピン蓄積を得るために、2nm以下が望ましく1nm以下がさらに望ましい。
【0062】
磁化自由層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなる磁化自由層18を用いても構わない。
【0063】
磁化自由層18には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70%〜90%)も用いることができる。
【0064】
また、磁化自由層18として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。
【0065】
また、磁化自由層18の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。ただし、アモルファス磁性層を用いる場合でも、MR変化率に大きな影響を与えるスペーサ層16と接する界面は結晶構造を有する磁性層を用いることが必要である。磁化自由層18の構造としては、スペーサ層16側からみて、次のような構成が可能である。即ち、磁化自由層18の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。ここで重要なことは、(1)から(3)のいずれでもスペーサ層16との界面は必ず結晶層が接することである。
【0066】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruを磁化自由層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm以上2nm以下が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、磁化自由層18がNiFeからなる場合に好ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、磁化自由層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0067】
キャップ層19が、Cu/RuやRu/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm以上10nm以下が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm以上5nm以下とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0068】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも好ましいキャップ層の材料の例である。
【0069】
(変形例)
本発明の酸化物層21を挿入する形態は、図1に示される実施形態(酸化物層21が第1の金属層と第2の金属層に挟まれた構造でスペーサ層に配置)に限定されない。例えば、図5から8に示されるように様々な位置に挿入することができる。各変形例について以下に説明する。
【0070】
(第1の変形例)
図5は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第1の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0071】
第1の変形例は、酸化物層21がスペーサ層内部に2層設けられている点が第1の実施形態と異なる。
【0072】
このように、スペーサ層中に酸化物層21を2層設けた場合に老いても形成した場合においても、高いスピンフィルター効果を発現し、MR変化率を大きく向上することができる。
【0073】
(第2の変形例)
図6は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第2の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
第2の変形例は、磁化固着層14が磁化自由層18よりも上に設けられたトップスピンバルブ型の構造であることが第1の実施形態と異なる。
【0075】
このようなトップスピンバルブ構造を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0076】
(第3の変形例)
図7は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第3の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0077】
第3の変形例は、磁化固着層を有しておらず、2層の磁化自由層で形成されている点が第1の実施形態と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、磁気ディスクからの磁界が加わっていない状態における磁化自由層181と磁化自由層182の磁化が90°になるようにバイアスされており、磁気ディスクからの磁界によって、2層の磁化自由層の相対角度が変化することにより、再生ヘッドとして用いることができる。このような90°の磁化アライメントは、スペーサ層を介した磁気結合とハードバイアスなどの組合せなどで得ることができる。
【0078】
ここで、酸化物層はスペーサ層内部に設けられている。
【0079】
このような2層の磁化自由層からなる磁気抵抗効果素子を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0080】
(第4の変形例)
図9は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子200の第4の変形例を示す図である。
【0081】
第5の変形例は、スペーサ層に接したピン層の磁化方向が逆に固着された2つの磁気抵抗効果素子を直列に接続した差動型構造を有している点が磁気抵抗効果素子200と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、接続された2つの磁気抵抗効果素子の抵抗変化が外部磁界に対して逆極性で振舞う。そのため、垂直磁気記録媒体において媒体磁化の向きが上向きと下向きが隣り合う、磁化遷移領域において出力が得られる。すなわち、差動型の媒体磁界検出を行うことが出来る。ここで、中間層51として、その他、Au、Ag、Ru、Ir、Os、Re、Rh、Taなどの非磁性金属を用いても良い。また、中間層55として、Co、Fe、Niから選択される強磁性金属と、Ru、Ir、Os、Re、Rhから選択される強磁性金属層間に配置した際に反強磁性結合を生ずる金属との積層体で形成しても良い。この場合、フリー層18aとフリー層18bの磁化方向を反平行結合とすることができる。
【0082】
次に実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の製造方法について説明する。なお、実施形態に係る製造方法では、各層の形成方法として、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
【0083】
図10は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS11では、基板(図示せず)上に、電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。次に、電極11上に下地層12として例えば、Ta[1nm]/Ru[2nm]を形成する。Taは下電極の荒れを緩和等するためのバッファ層12aに相当する。Ruはその上に形成されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bに相当する。
【0085】
ステップS12では、下地層12上にピニング層13を形成する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMn等の反強磁性材料を用いることができる。
【0086】
ステップS13では、ピニング層13上に磁化固着層14を形成する。磁化固着層14は、例えば、下部磁化固着層141(Co75Fe25[4.4nm])、磁気結合層142(Ru)、および上部磁化固着層143(Fe50Co50[4nm])からなるシンセティック磁化固着層とすることができる。
【0087】
ステップS14では、磁化固着層14上に第1の金属層を形成する。
【0088】
第1の金属層は、Au、Ag、Cu、及びZnなどの金属を用いて形成する。
【0089】
ステップS15では、、スペーサ層16上に酸化物層を形成する。一例を挙げると、スペーサ層16上にFeとZnの金属層を成膜する。ここで、FeとZnの金属層は、Fe/ZnやZn/Feや(Fe/Zn)×2のようなFe層とZn層の積層体としても良いし、Zn50Fe50のような合金の単層としてもよい。ここで、酸化物層の母材料としては、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む金属層を成膜することができる。次に、ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す。この酸化処理は、希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを金属材料層に照射しながら、酸素を供給して行う、イオンアシスト酸化(IAO:Ion assisted Oxidation)を用いることができる。また、上記のイオンアシスト酸化処理において、酸素ガスをイオン化またはプラズマ化してもよい。イオンビームの照射による金属材料層へのエネルギーアシストにより、安定で均一な酸化物層を酸化物層として形成することができる。また、一層の酸化物層を形成するに当たり、上述した金属材料層の形成と酸化処理を数回繰り返して行ってもよい。この場合、所定の膜厚の酸化物層を一度の成膜および酸化処理で作製するのではなく、膜厚を分割して薄い膜厚の金属材料層に酸化処理を行うほうが好ましい。また、ZnとFeを含む金属材料層を酸素雰囲気に晒す自然酸化を用いてもよい。ただし、安定な酸化物を形成するためには、エネルギーアシストを用いた酸化方法のほうが好ましい。また、ZnとFeの金属材料を積層体とした場合は、均一に混合されたZnとFeの酸化物層を形成する上で、イオンビームの照射を行いながら酸化したほうが好ましい。また、 (Zn30Fe70)3O4の酸化物ターゲットをスパッタで形成しても良い。また、 (Zn30Fe70)3O4の酸化物ターゲットを用いてスパッタで成膜した後に、追加酸化処理や還元処理を組み合わせても良い。このような追加処理を行うことで、最も高いスピンフィルター効果を発揮するFe―Zn混合酸化物の酸素濃度に調整することができる。
【0090】
希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを用いる場合、当該希ガスは、例えば、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを使用することができる。
【0091】
なお、エネルギーアシストの方法として、イオンビームの照射以外に加熱処理などを行ってもよい。この場合、たとえば、金属材料層を成膜後に100℃〜300℃の温度で加熱しながら、酸素を供給してもよい。
【0092】
以下、酸化物層21を形成する酸化処理において、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合のビーム条件について説明する。酸化処理により、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0093】
イオン又はプラズマを用いた酸化処理の場合、酸素暴露量はIAOの場合には1×103〜1×104L(Langmiur、1L=1×10−6Torr×sec)が好ましい。自然酸化の場合には3×103L〜3×104Lが好ましい。
【0094】
ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す代わりに還元性ガスを用いた還元処理を行ってもよい。還元性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオン、プラズマまたはラジカル、または水素または窒素の分子、イオン、プラズマまたはラジカルの少なくとも何れかを含むガスを使用することができる。特に還元性ガスとして、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマ、または水素または窒素のイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。さらに、還元性ガスとしては、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。この還元処理によって、酸化処理後の母材料から成る膜の酸素濃度を調整することができ、スピンフィルター効果を最も強く発現できる濃度に調整することができる。
【0095】
還元処理は、酸化処理後の母材料から成る膜を加熱しながら行うことができる。例えば、100℃から300℃に加熱した母材料に対して還元処理を行うことができる。加熱することで、より効率的に還元処理を行うことができる。ここで、還元処理後の膜に対して、さらにアルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射および加熱から成る群から選択される少なくとも1つの水分除去処理を施すことができる。これによって、還元処理の際に生成する水分を除去することができる。
【0096】
また、酸化物層21の作製において、上記の工程を終えた後、酸化処理と還元処理とを再度繰り返すことができる。生成した水の除去と還元処理とを交互に繰り返すことで、より効率的に膜を還元することができる。
【0097】
このような還元処理について、特にArイオンビーム照射を行った場合のビーム条件を以下に説明する。還元処理により、酸化物層を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0098】
ステップS16では、酸化物層21上に第2の金属層を形成する。
【0099】
第2の金属層は、Au、Ag、Cu、及びZnのいずれかの金属を用いて形成する。
【0100】
ステップS17では、第2の金属層状に磁化自由層18を形成する。磁化自由層18としては、例えば、Fe50Co50[1nm]/Ni90Fe10[3nm]を形成する。
【0101】
ステップS18では、磁化自由層18上にキャップ層19を形成する。キャップ層19としては、例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を形成する。
【0102】
ステップS19では、アニール処理を行う。
【0103】
最後に、キャップ層19上に磁気抵抗効果素子10へ垂直通電するための電極20を形成する。
【0104】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の構成を示す図である。
【0105】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が固着された磁化固着層(以下、磁化固着層と呼ぶ)14と、キャップ層19と磁化固着層14との間に設けられた磁化が自由に回転する磁化自由層(以下、磁化自由層と呼ぶ)18と、磁化固着層14と磁化自由層18との間に設けられた非磁性体からなる中間層(以下、「スペーサ層」という。)16と、スペーサ層16中に設けられた、少なくともZn、In、Sn、及びCdの何れか1つの元素、並びに少なくともFe、Co、Niの何れか1つの元素を含む酸化物層21と、を備えた積層体7と、積層体7の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20と、電極11と磁化固着層14の間に設けられた磁化固着層の磁化方向を固着するための反強磁性体からなるピニング層13と、ピニング層13と電極11との間に設けられた下地層12とを備える。第1の実施の形態と異なる点はスペーサ層16が下部金属層15、上部金属層17を含まない点である。
【0106】
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図2に示すようにスペーサ層として酸化物層21を設けた構造を作製した。
【0107】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であり、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示すことが確認された。第1の実施形態と同様に第1の変形例に係わる磁気抵抗効果素子10でも、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルター効果を発現しているためと考えられる。
【0108】
ここで、実施例1の第1の金属層と第2の金属層を設けた場合の磁気抵抗効果素子と、実施例28の第1の金属層と第2の金属層を設けていない場合の磁気抵抗効果素子の磁化自由層と磁化固着層の層間結合磁界を測定したところ、実施例1は45Oe、実施例28は95Oeであった。この結果より、スペーサ層をすべて酸化物層で形成した場合、高いMR変化率を得ることができるが、第1の金属層と第2の金属層を設けた場合のほうが、磁化自由層と磁化固着層の層間結合を弱めることができるため、小さい磁気ノイズを実現する観点で望ましい。
【0109】
(第5の変形例)
図8は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の変形例を示す図である。図1に示す第2の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0110】
第4の変形例は、磁化固着層を有しておらず、2層の磁化自由層で形成されている点が実施形態と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、磁気ディスクからの磁界が加わっていない状態における磁化自由層181と磁化自由層182の磁化が90°になるようにバイアスされており、磁気ディスクからの磁界によって、2層の磁化自由層の相対角度が変化することにより、再生ヘッドとして用いることができる。このような90°の磁化アライメントは、スペーサ層を介した磁気結合とハードバイアスなどの組合せなどで得ることができる。
【0111】
ここで、スペーサ層16はすべて酸化物層21で形成されている。
【0112】
このような2層の磁化自由層からなる磁気抵抗効果素子を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0113】
また、上述した第5の変形例以外にも、第2の実施形態においても、第1の実施形態の第2の変形例と同様にトップスピンバルブ構造も用いることができる。
【0114】
また、第2の実施形態においても、第1の実施形態の第2の変形例と同様に差動型構造も用いることができる。
【0115】
(第3の実施の形態)
次に、磁気抵抗効素子10を用いた磁気記録再生装置、磁気ヘッドアセンブリについて説明する。
【0116】
図12は本実施形態に係わる磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【0117】
図12に示すように、本実施形態に係わる磁気記録再生装置310は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。磁気記録媒体230は、スピンドルモータ330に設けられ、駆動制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により媒体移動方向270の方向に回転する。磁気記録再生装置310は、複数の磁気記録媒体230を備えてもよい。
【0118】
磁気記録媒体230に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ280は、図13に示すように、磁気抵抗効果素子10を備えた磁気ヘッド140がヘッドスライダ280に設けられる。ヘッドスライダ280は、Al2O3/TiCなどからなり、磁気ディスクなどの磁気記録媒体230の上を、浮上又は接触しながら相対的に運動できるように設計されている。
【0119】
ヘッドスライダ280は薄膜状のサスペンション350の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ280は、磁気ヘッド140をヘッドスライダ280の先端付近に設けられている。
【0120】
磁気記録媒体230が回転すると、サスペンション350により押し付け圧力とヘッドスライダ280の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあう。ヘッドスライダ280の媒体対向面は、磁気記録媒体230の表面から所定の浮上量をもって保持される。ヘッドスライダ280が磁気記録媒体230と接触する「接触走行型」としてもよい。
【0121】
サスペンション350は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム360の一端に接続されている。アクチュエータアーム360の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ370が設けられている。ボイスコイルモータ370は、アクチュエータアーム360のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、この駆動コイルを挟み込むように対向して設けられた永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路から構成することができる。
【0122】
アクチュエータアーム360は、軸受部380の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ370により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッド140を磁気記録媒体230の任意の位置に移動可能となる。
【0123】
図14(a)は、本実施形態に係わる磁気記録再生装置310の一部を構成するヘッドスタックアセンブリ390を示す。
【0124】
図14(b)は、ヘッドスタックアセンブリ390の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400を示す斜視図である。
【0125】
図14(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ390は、軸受部380と、この軸受部380から延出したヘッドジンバルアセンブリ400と、軸受部380からヘッドジンバルアセンブリ400と反対方向に延出しているとともにボイスコイルモータのコイル410を支持した支持フレーム420を有する。
【0126】
図14(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ400は、軸受部380から延出したアクチュエータアーム360と、アクチュエータアーム360から延出したサスペンション350とを有する。
【0127】
サスペンション350の先端には、第2の実施形態で説明した磁気記録ヘッド140を有するヘッドスライダ280が設けられている。
【0128】
本実施形態に係わる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400は、第2の実施形態で説明した磁気記録ヘッド140と、磁気記録ヘッド140が設けられたヘッドスライダ280と、ヘッドスライダ280を一端に搭載するサスペンション350と、サスペンション350の他端に接続されたアクチュエータアーム360とを備える。
【0129】
サスペンション350は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、STO10用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダ280に組み込まれた磁気記録ヘッド140の各電極とが電気的に接続される。電極パッド(図示せず)はヘッドジンバルアセンブリ400に設けられる。本実施形態では、電極パッドは8個設けられる。主磁極200のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子190用の電極パッドが2つ、DFH(ダイナミックフライングハイト)用の電極パッドが2つ、STO10用の電極パッドが2つ設けられている。
【0130】
信号処理部385(図示せず)が、図12に示す磁気記録再生装置310の図面中の背面側に設けられる。信号処理部385は、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う。信号処理部385の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ400の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッド140と電気的に結合される。
【0131】
本実施形態に係わる磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、磁気記録ヘッド140と、磁気記録媒体230と磁気記録ヘッド140とを離間させ、又は、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッド140を磁気記録媒体230の所定記録位置に位置あわせする位置制御部と、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への書き込みと読み出しを行う信号処理部385とを備える。
【0132】
上記の磁気記録媒体230として、磁気記録媒体230が用いられる。上記の可動部は、ヘッドスライダ280を含むことができる。上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ400を含むことができる。
【0133】
磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、ヘッドジンバルアセンブリ400と、ヘッドジンバルアセンブリ400に搭載された磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部385とを備える。
【0134】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0135】
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。すなわち、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)などの磁気メモリを実現できる。
【0136】
図15は、第21の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【0137】
図15は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ550、行デコーダ551が備えられており、ビット線534とワード線532によりスイッチングトランジスタ530がオンになり一意に選択され、センスアンプ552で検出することにより磁気抵抗効果素子10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線523とビット線522に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0138】
図16は、第19の実施形態に係る磁気メモリの要部を例示する断面図である。
【0139】
図17は、図16に示すA−A’線による断面図である。
【0140】
これらの図に示した構造は、図15に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。
【0141】
図16及び図17に示すように、このメモリセルは、記憶素子部分511とアドレス選択用トランジスタ部分512とを有する。
【0142】
記憶素子部分511は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線522、524とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
【0143】
一方、選択用トランジスタ部分512には、ビア526および埋め込み配線528を介して接続されたトランジスタ530が設けられている。このトランジスタ530は、ゲート532に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
【0144】
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線523が、配線522とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線522、523は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0145】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線522、523に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0146】
また、ビット情報を読み出すときは、配線522と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極524とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0147】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0148】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
【0149】
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。
【0150】
図18は、第22の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【0151】
図18に示すように、本実施形態においては、マトリクス状に配線されたビット線522とワード線534とが、それぞれデコーダ560、561により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線522と書き込みワード線523とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0152】
第20の実施形態に係る磁気メモリにおける上記以外の構成は、前述した第19の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【実施例】
【0153】
(実施例1)
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製して、RA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。
【0154】
酸化物層21の作製方法は、第1の金属層上に、Feを1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFeの混合酸化物(以下、Zn−Fe−Oと表記する)へと変換を行って酸化物層を形成した。このときの酸化物層の膜厚は1.5nmであった。この時、IAOで用いる酸素曝露量は3.0×104Langmiurとして用いた。
【0155】
以下に、本実施例で形成した磁気抵抗効果素子10の構成を示す。
【0156】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
最後に、280℃で5時間アニール処理を行い、電極11、20を形成した。
【0157】
図9は、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10の断面TEM像を示す図である。スペーサ層部分に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できる。
【0158】
図9には、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10の断面TEM像に対応したEDXライン分析の結果も合わせて示してある。酸化物層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークの位置が一致しており、ZnとFeが完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかる。
【0159】
なお、本実施例に係わる何れの磁気抵抗効果素子でも、TEM像及びEDXライン分析により機能層が形成されていることが確認できた。
【0160】
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.21Ωμm2、MR変化率は10%であった。
【0161】
(実施例2)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層の材料をCuからZnに変更した点である。
【0162】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は9.0%であった。
【0163】
(実施例3)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第2の金属層のみをZnに変更した点である。
【0164】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であった。
【0165】
(実施例4)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層をCuからAgに変更した点である。
【0166】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Ag[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Ag[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は9.2%であった。
【0167】
(実施例5)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層をCuからAuに変更した点である。
【0168】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Au[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Au[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は7.5%であった。
【0169】
(実施例6)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、酸化物層21の材料を変更した点である。
【0170】
本実施例では、酸化物層21の作製方法は、第1の金属層上に、Fe50Co50を1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFe50Co50の混合酸化物(以下、Zn−Fe50Co50−Oと表記する)へと変換を行い酸化物層を形成した。このときの酸化物層の膜厚は1.7nmであった。この時、IAOで用いる酸素曝露量は3.0×104Langmiurとして用いた。
【0171】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe50Co50−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は13.5%であった。
【0172】
(実施例7〜11、比較例2)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、酸素曝露量を変化させることで、磁気抵抗効果素子のRA値と磁気抵抗効果素子を構成する機能層の抵抗率を変化させた。実施例1と異なる点は酸化物層21の膜厚が異なる点である。そして、磁気抵抗効果素子のRA値と機能層の抵抗率が、MR変化率に及ぼす影響を調べた。
【0173】
本実例で作製した磁気抵抗効果素子10の構造を下記に示す。
【0174】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
酸化物層21の作製方法は、Cuからなるスペーサ層上に、Feを1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFeの混合酸化物(以下、Zn−Fe−Oと表記する)へと変換行い機能層を形成した。その後、Arプラズマ照射による還元処理を行った。また、磁気抵抗効果素子のRA値と機能層の抵抗率がMR変化率に及ぼす影響を調べるために、IAOで用いる酸素曝露量を変化させて、異なるRA値を有する磁気抵抗効果素子を作製した。このときの実施例7での酸素曝露量は、1.2×104Langmiur、実施例8では、1.5×104Langmiur、実施例9では1.8×104Langmiur、実施例10では3.0×104Langmiur、実施例11では4.5×104Langmiurとした。比較例2では、6.0×104Langmiurとした。
【0175】
表1は、IAOで用いる酸素暴露量を変えて、磁気抵抗効果素子のRA値とZn−Fe−Oから構成される機能層の抵抗率を変化させたときの機能層のMR変化率の結果を示す図である。なお、参考に機能層を設けていない磁気抵抗効果素子の測定結果(比較例1に相当する)も示す。
【表1】
【0176】
機能層の抵抗率は、機能層の抵抗率をρZn−Fe−O、機能層の膜厚をtZn−Fe−O、機能層を設けたことによる磁気抵抗効果素子の面積抵抗の増大量をΔRAZn−Fe−Oとして、下記の式1のから機能層の抵抗率ρZn−Fe−Oを求めた。
【数1】
【0177】
また、機能層の膜厚は、断面TEM観察像から求めて、実施例7、8、9、及び比較例2に係わる機能層の膜厚は何れも1.5nmであった。なお、ΔRAの値は、機能層を設けていない状態の磁気抵抗効果素子のRA値(表1の比較例1)と機能層を設けた状態での磁気抵抗効果素子のRA値との差分を用いている。
【0178】
表1から機能層の抵抗率が5×105μΩcm以下の場合に、比較例と比べMR変化率が向上していることがわかる。1Ωμm2以下の場合に特に大きくMR変化率が向上していることがわかる。また、磁気抵抗効果素子のRA値が5Ωμm2以下の場合に比較例と比べMR変化率が向上しており、1Ωμm2以下の場合に特に大きくMR変化率が向上していることがわかる。
【0179】
上記の結果は、適正な酸素暴露量を用いて、低い抵抗率の酸化物層を作製することにより、酸化物層内部のスピンフリップを抑制することができたためと考えられる。
【0180】
(実施例12〜17)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、第1の金属層の膜厚を変えて作製し、第1の金属層の膜厚がMR変化率に及ぼす影響を調べた。第1の金属層の膜厚以外は製造プロセス含めて実施例3と同様である。
【0181】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[表2に記載]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
【表2】
【0182】
本実施例の素子特性を調べた結果を表2に示す。表2から第1の金属層の膜厚が0.5nmから3nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第1の金属層の膜厚が2nm以下の場合に高いMR変化率が得られており、1nm以下の場合に特に高いMR変化率が得られている。これは、第1の金属層を厚くするに従い、酸化物層界面への磁化固着層13からのスピン蓄積が弱まり、磁化固着層側のスピンフィルター効果が弱まるためと考えられる。磁化固着層側のスピンフィルター効果を高めるためには第1の金属層が薄いほど望ましいが、磁化固着層と磁化自由層の磁気結合を十分に分断するためには、第1の金属層の膜厚がある程度厚いことが望ましい。このようなトレードオフから、第1の金属層の膜厚は適切に設定することが望ましい。
【0183】
(実施例18〜23)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、第2の金属層の膜厚を変えて作製し、第2の金属層の膜厚がMR変化率に及ぼす影響を調べた。第2の金属層の膜厚以外は実施例3と同様である。
【0184】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[表3に記載]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
【表3】
【0185】
本実施例の素子特性を調べた結果を表3に示す。表3から第2の金属層の膜厚が0.5nmから3nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第2の金属層の膜厚が2nm以下の場合に高いMR変化率が得られており、1nm以下の場合に特に高いMR変化率が得られている。これは、第2の金属層を厚くするに従い、酸化物層界面への磁化自由層16からのスピン蓄積が弱まり、磁化固着層側のスピンフィルター効果が弱まるためと考えられる。磁化自由層側のスピンフィルター効果を高めるためには第2の金属層が薄いほど望ましいが、磁化固着層と磁化自由層の磁気結合を十分に分断するためには、第1の金属層の膜厚がある程度厚いことが望ましい。このようなトレードオフから、第1の金属層の膜厚は適切に設定することが望ましい。
【0186】
(実施例24〜33)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の酸化物機能層を設けた構造を作製した。実施例3と異なる点は、酸化物層21の膜厚を変えた点である。
【0187】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[表5に記載]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
【表4】
【0188】
本実施例の素子特性を調べた結果を表4に示す。表4から酸化物層21の膜厚が0.2nmから5nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第2の金属層の膜厚が0.5nm以上4nm以下の場合に高いMR変化率が得られていることがわかった。
【0189】
(実施例34)
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図4に示すようにスペーサ層として酸化物層21を設けた構造を作製した。
【0190】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であり、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示すことが確認された。第1の実施形態と同様に第2の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子10でも、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルタリング効果を発現しているためと考えられる。
【0191】
ここで、実施例1の第1の金属層と第2の金属層を設けた場合の磁気抵抗効果素子と、実施例28の第1の金属層と第2の金属層を設けていない場合の磁気抵抗効果素子のフリー層とピン層の層間結合磁界を測定したところ、実施例1は45Oe、実施例28は95Oeであった。この結果より、スペーサ層をすべて酸化物層で形成した場合、高いMR変化率を得ることができるが、第1の金属層と第2の金属層を設けた場合のほうが、フリー層とピン層の層間結合を弱めることができるため、小さい磁気ノイズを実現する観点で望ましい。
【0192】
(比較例1)
機能層を用いていない磁気抵抗効果素子を作製してRA値及びMR変化率を評価した。
【0193】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[3nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[4nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.08Ωμm2、MR変化率は1.5%であった。
【0194】
実施例1〜34に係わる磁気抵抗効果素子10のMR変化率は何れも、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示しており、第1の実施形態及び第2の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子10を用いることで、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。
【0195】
MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルター効果を発現しているためと考えられる。
【0196】
以上、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0197】
本発明の実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、ピン層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも本発明の効果を得ることができる。
【0198】
実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0199】
実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、磁化固着層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも実施形態の効果を得ることができる。
【0200】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0201】
10 磁気抵抗効果素子
11、20 電極
12 下地層
13 ピニング層
14 磁化固着層
16 スペーサ層
18 磁化自由層
19 キャップ層
21 酸化物層
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子では、スペーサ層に金属層を用いるため、低抵抗化の観点でTMR素子に比べて有利である。しかし、CPP−GMR素子では十分に大きなMR変化率が得られていないという問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決するために、CPP−GMR素子の構成の改変やスペーサ層の材料の選択等が行われている。
【0004】
例えば、CPP−GMR素子を構成するスペーサ層を、単なる金属層ではなく、厚み方向への電流パスを含む酸化物層(NOL(nano-oxide layer))から構成する構造が提案されている(特許文献1)。この素子では、電流狭窄(CCP(Current-confined-path))効果によりMR変化率を増大できる。このような素子は、CCP−CPP素子と呼ぶ。
【0005】
上記の試みとは別に、強磁性層の層中やこれらと非磁性スペーサ層との界面に、酸化物あるいは窒化物からなる薄膜のスピンフィルター(Spin Filter:SF)層を挿入した磁気抵抗効果素子が提案されている(特許文献2)。このSF層は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の何れか一方の通電を阻害するスピンフィルター効果を有するために、MR変化率を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-147579号公報
【特許文献2】特開2004−6589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにCCP−CPP素子のMR変化率を増大させるために様々な試みが検討されているが、さらなるMR変化率の増大が求められている。
【0008】
本発明は上記に鑑み、十分なMR変化率を有する磁気抵抗効果素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層とを備えた積層体と、前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを有し、前記スペーサ層が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を示す図である。
【図2】実施形態の効果を説明する図である。
【図3】酸化物層21中で磁化がねじれた磁気構造となっていることを示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成を示す図である。
【図5】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第1の変形例を示す図である。
【図6】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第2の変形例を示す図である。
【図7】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第3の変形例を示す図である。
【図8】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第4の変形例を示す図である。
【図9】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の第5の変形例を示す図である。
【図10】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【図11】実施例1に係わる磁気抵抗効果素子の断面TEM像を示す図である。
【図12】実施形態に係る磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【図13】磁気抵抗効果素子を備えた磁気ヘッドがヘッドスライダに設けられていることを示す図である。
【図14】実施形態に係る磁気記録再生装置の一部を構成するヘッドスタックアセンブリ、ヘッドジンバルアセンブリを示す図である。
【図15】第4の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【図16】第4の実施形態に係る磁気メモリの要部を例示する断面図である。
【図17】図16に示すA−A’線による断面図である。
【図18】第5の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。また、以下説明する図面において、符号が一致するものは、同様のものを示しており、重複した説明は省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の構成を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が固着された磁化固着層(以下、磁化固着層と呼ぶ)14と、キャップ層19と磁化固着層14との間に設けられた磁化が自由に回転する磁化自由層(以下、磁化自由層と呼ぶ)18と、磁化固着層14と磁化自由層18との間に設けられた非磁性体からなる中間層(以下、「スペーサ層」という。)16と、スペーサ層16中に設けられた、少なくともZn、In、Sn、及びCdの何れか1つの元素、並びに少なくともFe、Co、Niの何れか1つの元素を含む酸化物層21と、を備えた積層体7と、積層体7の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20と、電極11と磁化固着層14の間に設けられた磁化固着層の磁化方向を固着するための反強磁性体からなるピニング層13と、ピニング層13と電極11との間に設けられた下地層12とを備える。
【0014】
図1に示すとおり、磁気抵抗効果素子10のスペーサ層16にZn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層21をスピンフィルタリング層(以下、「SF層」という。)として設ける。酸化物層21は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができるスピンフィルター効果を有し、具体的には、FeとZnの混合酸化物などを用いることができる。このような混合酸化物材料を用いた場合、Zn、In、SnおよびCdから選択される元素を含む酸化物や、Fe、Co、Niから選択される元素を含む酸化物層をSF層として用いた場合よりも高いMR変化率を低い面積抵抗で実現することが出来る。
【0015】
この混合酸化物材料を用いることで高いMR変化率を実現できた理由は、高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立でき、結果として高いスピンフィルター効果を発現したためと考えられる。ここで、低い抵抗率のSF層を実現するためには、SF層がZnO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO、CdIn2O4、Cd2SnO4、Zn2SnO4などの上記したZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料を含有することが有効である。これらの酸化物半導体は、3eV以上のバンドギャップを持つ半導体であるが、化学量論組成から少し還元気味にずれることにより酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成するため、伝導電子密度が1018cm−3〜1019cm−3程度まで到達する。これらの導電性酸化物のバンド構造において、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道で、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度フェルミ準位が1018cm−3よりも増えると伝導帯に達し、縮退と呼ばれる状態になる。このような酸化物半導体はn型の縮退半導体と呼ばれ、伝導電子の十分な濃度と移動度を併せ持ち、低い抵抗率を実現する。
【0016】
一方、高いスピン依存散乱効果を有するSF層を実現するためには、SF層が室温で磁性を有するCo、Fe、及びNiの酸化物を含有することが有効である。低い抵抗率を実現するのに有効なZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料はバルクの特性として磁性を有していない。磁化自由層や磁化固着層に極薄の酸化物層を挿入した場合、磁性を有していない酸化物材料も磁性を発現してスピンフィルター効果が得られることが特開2004−6589号に開示されているが、Co、Fe、及びNiの酸化物を含有したほうが酸化物層の膜厚の制限に縛られずに容易に磁性を発現して高いスピンフィルター効果が得られる。なお、Znは、In、Sn、及びCdの中でもFe、Co、及びNiと同周期であるために、Fe、Co、及びNiとの混合酸化物となった場合に磁性を帯びやすいので、酸化物層の磁化を安定化させることができるので、より好ましい。
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子の詳細について説明する。
【0018】
図1において、下電極11および上電極20は、磁気抵抗効果素子10の膜面に対して垂直方向に電流を流す。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果素子10の内部を膜面垂直方向に沿って電流が流れる。
【0019】
この電流が流れることで、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができ、磁気の検知が可能となる。下電極11および上電極20としては、電流を磁気抵抗効果素子10に流すために、電気抵抗が比較的小さいCu、Au等が用いられる。
【0020】
下地層12は、例えば、バッファ層およびシード層が積層した構成をとる。ここで、バッファ層は下電極11側に位置し、シード層はピニング層13側に位置する。
【0021】
バッファ層は下電極11の表面の荒れを緩和し、バッファ層上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層としては、例えばTa、Ti、V、W、Zr、Hf、Cr又はこれらの合金を用いることができる。バッファ層の膜厚は1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層の厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層の厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層上に形成されるシード層がバッファ効果を有する場合には、バッファ層を必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、Taを1nm形成することができる。
【0022】
シード層は、シード層上に積層される層の結晶配位向及び結晶粒径を制御する。シード層としては、fcc構造(face−centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close−packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body−centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属等が好ましい。
【0023】
例えば、シード層として、hcp構造を有するRuまたはfcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合には規則化したfct(111)構造(face−centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、磁化自由層18及び磁化固着層14としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、磁化自由層18及び磁化固着層14としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。結晶配向を向上させるシード層としての機能を十分発揮するために、シード層の膜厚としては、1nm以上5nm以下が好ましく、1.5nm以上3nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ruを2nm形成することができる。
【0024】
他にも、シード層として、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層では、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、ロッキングカーブの半値幅を3°〜5°とすることができる。
【0025】
シード層には、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm以上20nm以下に制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0026】
なお、シード層の結晶粒径を5nm以上20nm以下にすることで、結晶粒界による電子乱反射及び非弾性散乱サイトが少なくなる。このサイズの結晶粒径を得るには、Ruを2nm形成する。また、(NixFe100−x)100−yZy(Z=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度として(yが0の場合も含む)、2nm形成することが好ましい。
【0027】
スピンバルブ膜の結晶粒径は、シード層とスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば、断面TEMなどによって決定できる)。例えば、磁化固着層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層の上に形成されるピニング層13(反強磁性層)や、磁化固着層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0028】
ピニング層13は、その上に形成される磁化固着層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0029】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm以上20nm以下が好ましく、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4nm以上18nm以下が好ましく、5nm以上15nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ir22Mn78を7nm形成することができる。
【0030】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層も用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RA(Resistance Area)の増大を抑制できる。
【0031】
ここで、面積抵抗RAとは、磁気抵抗効果素子10の積層膜の積層方向に対して垂直な断面積と磁気抵抗効果素子10の積層膜の膜面に垂直に電流を流したときに一対の電極から得られる抵抗との積を示す。
【0032】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5°〜6°として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0033】
磁化固着層14は、ピニング層13側から下部磁化固着層141、磁気結合層142、及び上部磁化固着層143をこの順に積層した構成をとる。
【0034】
ピニング層13と下部磁化固着層141は一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を持つように交換磁気結合している。磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く結合している。
【0035】
下部磁化固着層141の材料としては、例えば、CoxFe100−x合金(x=0%〜100%)、NixFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部磁化固着層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いることもできる。または、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。
【0036】
下部磁化固着層141の膜厚は1.5nm以上5nm以下が好ましい。ピニング層13による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142を介した下部磁化固着層141と上部磁化固着層143との反強磁性結合磁界を強く保つためである。
【0037】
また、下部磁化固着層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部磁化固着層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部磁化固着層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
【0038】
また、下部磁化固着層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))を考慮する場合、上部磁化固着層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部磁化固着層143の磁気膜厚と下部磁化固着層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。
【0039】
例えば、上部磁化固着層143がFe50Co50[3nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co75Fe25の飽和磁化が約2.1Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部磁化固着層141の膜厚tは6.6Tnm/2.1T=3.15nmとなる。したがって、この場合、下部磁化固着層141の膜厚は約3.2nmのCo75Fe25を用いることが好ましい。
【0040】
ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
【0041】
磁気結合層142は、磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142として、Ruを用いることができ、磁気結合層142の膜厚は0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。なお、磁気結合層142を挟む下部磁化固着層141及び上部磁化固着層143に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。磁気結合層142の膜厚は、RKKY(Ruderman−Kittel−Kasuya−Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm以上1nm以下の代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm以上0.6nm以下を用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、膜厚が0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0042】
上部磁化固着層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。
【0043】
上部磁化固着層143としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30%〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFe40Co60〜Fe80Co20が使いやすい材料の一例である。
【0044】
上部磁化固着層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部磁化固着層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部磁化固着層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0045】
また、上部磁化固着層143の材料として、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)のようなアモルファス合金を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXを用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。
【0046】
上部磁化固着層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固着磁界を得るためには薄いほうが好ましく、トレードオフの関係が存在する。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚が好ましい。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚が好ましい。一方、大きなピン固着磁界を得るためには、上部磁化固着層143の膜厚が最大でも、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。以上のように、上部磁化固着層143の膜厚は、1.5nm以上5nm以下が好ましく、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
【0047】
上部磁化固着層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。上部磁化固着層143として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、若しくはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料を用いることができる。上部磁化固着層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のCo組成をもつCo合金、50%以上のNi組成を持つNi合金である。
【0048】
また、上部磁化固着層143として、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2MnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
【0049】
スペーサ層16は、磁化固着層14と磁化自由層18との磁気的な結合を分断する。本実施形態では、スペーサ層16に酸化物層21が設けられる。酸化物層21は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができるスピンフィルター効果を有する。酸化物層としては、Zn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を混合した酸化物を含むことを特徴とする。具体的には、Fe50Co50とZnの混合酸化物を用いることができる。なお、Znは、In、Sn、及びCdの中でもFe、Co、及びNiと同周期であるために、Fe、Co、及びNiとの混合酸化物となった場合に磁性を帯びやすいので、酸化物層21のスピン依存散乱効果を安定に発現させることができるので、より好ましい。
【0050】
このような材料を用いることで、高いスピン依存散乱と、低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減と、を両立することで高いスピンフィルター効果を発揮し、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を向上させることができる。
【0051】
ここで、低い抵抗率のSF層を実現するためには、SF層がZnO、In2O3、SnO2、ZnO、CdO、CdIn2O4、Cd2SnO4、Zn2SnO4などの上記したZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料を含有することが有効である。これらの酸化物材料が低い抵抗率を示す理由の1つとして、次のことが考えられる。これらの酸化物半導体は、3eV以上のバンドギャップを持つ半導体であるが、化学量論組成から少し還元気味にずれることにより酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成するため、伝導電子密度が1018cm−3〜1019cm−3程度まで到達する。これらの導電性酸化物のバンド構造において、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道で、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度フェルミ準位が1018cm−3よりも増えると伝導帯に達し、縮退と呼ばれる状態になる。このような酸化物半導体はn型の縮退半導体と呼ばれ、伝導電子の十分な濃度と移動度を併せ持ち、低い抵抗率を実現する。なお、このような理論に当てはまらないものであっても、低い抵抗率を示すものであれば、そのような酸化物材料を使用することができる。
【0052】
一方、高いスピン依存散乱を示すSF層を実現するためには、SF層が室温で磁性を有するCo、Fe、及びNiの酸化物を含有することが有効である。低い抵抗率を実現するのに有効なZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料はバルクの特性として磁性を有していない。磁化自由層や磁化固着層に極薄の酸化物層を挿入した場合、磁性を有していない酸化物材料も磁性を発現してスピン依存散乱が得られることが特開2004−6589号に開示されているが、Co、Fe、及びNiの酸化物を含有したほうが酸化物層の膜厚の制限に縛られずに容易に磁性を発現して高いスピン依存散乱効果が得られる。
【0053】
また、酸化物層にさらに添加元素を加えても良い。Zn酸化物に添加元素としてAlを加えた場合、熱耐性があがることが報告されている。Alのほかにも、添加元素としては、B、Ga、In、C、Si、Ge、及びSn等があげられる。耐熱性が向上するメカニズムは完全に明らかとはなっていないが、化学量論組成から還元気味にずれたことにより形成されるZn酸化物中の酸素空孔の密度が、熱による再酸化の促進により減少して、キャリア密度が変わることが起因していると考えられる。他にも耐熱性が向上する理由として、上記したこれらの元素はIII族、またはIV族のドーパントにあたり、これらのドーパントは熱によるZn原子の再酸化の促進を防ぐために、酸化物層中のキャリア密度の変化を抑えることができ、さらには熱に対する抵抗率の変化が抑えられるということが挙げられる。
【0054】
ここで、Fe、Co、Niの酸化物はメタルのFe、Co、Niに比べて小さいが磁化を有する。このようなFe、Co、Niのみからなる酸化物はスペーサ層に配置すると磁化自由層と磁化固着層の磁気結合が強くなりすぎるため、用いることができない。一方、本発明の酸化物層はFe、Co、Ni以外にZn、In、SnおよびCdも含有しているため、磁化は非常に小さいか、もしくは非磁性体となっている。このような磁性の弱い酸化物層は磁化自由層18と磁化固着層14の磁気結合を十分に分断することが可能であり、スペーサ層として機能させることができる。
【0055】
上述したZn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を含む酸化物層21を磁気抵抗効果素子10のスペーサ層16に設けることにより、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を向上させることができる。
【0056】
この酸化物層21は、スペーサ層以外に磁化自由層や磁化固着層にも設けることができるが、酸化物層21をスペーサ層に設けると以下のようなメリットがある。すなわち、酸化物層21を図1のように磁化自由層18と上部磁化固着層143の間に設けた場合、図2に示すように酸化物層21の挿入によるスピン依存散乱の増強は磁化自由層18と酸化物層21、上部磁化固着層143と酸化物層21の界面(高スピンフィルター領域)で発現する。このようにスピン依存散乱が磁化自由層18および上部磁化固着層143の両方で増強されることは磁化自由層18および上部磁化固着層143のどちらか一方のみが増強された場合よりも結果として高いMR変化率を実現できる。ここで磁化自由層18と上部磁化固着層143との両方のスピン依存散乱を増強することは、スペーサ層16内部ではなく、磁化自由層18内部と上部磁化固着層143内部に1層ずつ酸化物層を設けることでも実現できる。しかし、この場合、酸化物層21を2層挿入することになるため、酸化物層21を通過する際のスピンフリップの発生確率も増加してしまい、その結果、MR変化率の増強を十分に得ることができない。一方、図2のようにスペーサ層に1層の酸化物層を設けた場合、スピンフリップの発生確率も増大させずに、フリーと磁化固着層の両方のスピン依存散乱を増強させることが可能となるため、結果として高いMR変化率を得ることができる。
【0057】
また、スペーサ層に酸化物層を挿入するメリットは他にも存在する。本発明で記載しているCPP−GMR素子では、磁化固着層と磁化自由層とでアップスピンとダウンスピンの散乱強度が異なることによりMR現象が得られる。ここでCPP−GMRのような拡散型のMR現象では、磁化固着層と磁化自由層のそれぞれの面積抵抗RAfree、RApinの値が大きく異なる場合、MR変化率が下がってしまうという特徴がある。これを磁化固着層と磁化自由層の抵抗のミスマッチと呼ぶ。酸化物層を磁化自由層または磁化固着層のどちらか一方のみに挿入した場合、片方の層のみ面積抵抗が大きくなって抵抗マッチングが悪くなるため、結果としてMR変化率を十分に増強することが出来ない。一方、スペーサ層に酸化物層を設けた場合、磁化自由層と酸化物層の界面、磁化固着層と混合酸化物の界面の面積抵抗は同様に増大するので、酸化物層挿入による抵抗マッチングの低下は起こらず、結果としてMR変化率を十分に増強することができる。
【0058】
さらに、スペーサ層に酸化物層を挿入するメリットは他にも存在する。本発明の酸化物層はZn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を混合した酸化物からなるが、その組成によって弱いフェリ磁性を有する。このような弱い磁性を有する場合、酸化物層の磁化固着層側の成分は磁化固着層と磁気結合し、酸化物層の磁化自由層側の成分は磁化自由層と磁気結合する。その結果、図3に示すように磁化自由層18と上部磁化固着層143の磁化が反平行時は酸化物層21中では磁化が磁壁を形成してねじれた磁気構造となる。電子がこのようなねじれた磁気構造を通過する際には、強いスピン依存散乱を生ずるため、結果として高いMR変化率を得ることができる。
【0059】
ここで、十分なSF効果を得るためには均一な酸化層であることが望ましい。そのため酸化物層21の膜厚は、0.5nm以上とすることが好ましい。一方、膜厚の上限は再生ヘッドのリードギャップ(CPP−GMR素子を挟持するシールド電極間の距離)を広げない観点で4nm以下とすることが好ましい。
【0060】
図1では、スペーサ層16として、酸化物層21の上下に金属層31、金属層32を設けている。金属機能層31および32として、例えば、具体的には、Cu、Ag、Au、Znを用いることができる。これらの元素は、磁化固着層や磁化自由層に用いられる磁性層との界面におけるスピン依存散乱が比較的高いため、酸化物層によるスピン依存散乱の増強を阻害しないため、好ましい。また、金属層31および32として、Ru、Rh、Re、Ir、Osを用いても良い。
【0061】
金属層31と金属層32の膜厚は、酸化物層21に対して磁化自由層18もしくは磁化固着層13から十分なスピン蓄積を得るために、2nm以下が望ましく1nm以下がさらに望ましい。
【0062】
磁化自由層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなる磁化自由層18を用いても構わない。
【0063】
磁化自由層18には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70%〜90%)も用いることができる。
【0064】
また、磁化自由層18として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。
【0065】
また、磁化自由層18の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。ただし、アモルファス磁性層を用いる場合でも、MR変化率に大きな影響を与えるスペーサ層16と接する界面は結晶構造を有する磁性層を用いることが必要である。磁化自由層18の構造としては、スペーサ層16側からみて、次のような構成が可能である。即ち、磁化自由層18の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。ここで重要なことは、(1)から(3)のいずれでもスペーサ層16との界面は必ず結晶層が接することである。
【0066】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruを磁化自由層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm以上2nm以下が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、磁化自由層18がNiFeからなる場合に好ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、磁化自由層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0067】
キャップ層19が、Cu/RuやRu/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm以上10nm以下が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm以上5nm以下とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0068】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも好ましいキャップ層の材料の例である。
【0069】
(変形例)
本発明の酸化物層21を挿入する形態は、図1に示される実施形態(酸化物層21が第1の金属層と第2の金属層に挟まれた構造でスペーサ層に配置)に限定されない。例えば、図5から8に示されるように様々な位置に挿入することができる。各変形例について以下に説明する。
【0070】
(第1の変形例)
図5は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第1の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0071】
第1の変形例は、酸化物層21がスペーサ層内部に2層設けられている点が第1の実施形態と異なる。
【0072】
このように、スペーサ層中に酸化物層21を2層設けた場合に老いても形成した場合においても、高いスピンフィルター効果を発現し、MR変化率を大きく向上することができる。
【0073】
(第2の変形例)
図6は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第2の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
第2の変形例は、磁化固着層14が磁化自由層18よりも上に設けられたトップスピンバルブ型の構造であることが第1の実施形態と異なる。
【0075】
このようなトップスピンバルブ構造を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0076】
(第3の変形例)
図7は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第3の変形例を示す図である。図1に示す第1の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0077】
第3の変形例は、磁化固着層を有しておらず、2層の磁化自由層で形成されている点が第1の実施形態と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、磁気ディスクからの磁界が加わっていない状態における磁化自由層181と磁化自由層182の磁化が90°になるようにバイアスされており、磁気ディスクからの磁界によって、2層の磁化自由層の相対角度が変化することにより、再生ヘッドとして用いることができる。このような90°の磁化アライメントは、スペーサ層を介した磁気結合とハードバイアスなどの組合せなどで得ることができる。
【0078】
ここで、酸化物層はスペーサ層内部に設けられている。
【0079】
このような2層の磁化自由層からなる磁気抵抗効果素子を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0080】
(第4の変形例)
図9は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子200の第4の変形例を示す図である。
【0081】
第5の変形例は、スペーサ層に接したピン層の磁化方向が逆に固着された2つの磁気抵抗効果素子を直列に接続した差動型構造を有している点が磁気抵抗効果素子200と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、接続された2つの磁気抵抗効果素子の抵抗変化が外部磁界に対して逆極性で振舞う。そのため、垂直磁気記録媒体において媒体磁化の向きが上向きと下向きが隣り合う、磁化遷移領域において出力が得られる。すなわち、差動型の媒体磁界検出を行うことが出来る。ここで、中間層51として、その他、Au、Ag、Ru、Ir、Os、Re、Rh、Taなどの非磁性金属を用いても良い。また、中間層55として、Co、Fe、Niから選択される強磁性金属と、Ru、Ir、Os、Re、Rhから選択される強磁性金属層間に配置した際に反強磁性結合を生ずる金属との積層体で形成しても良い。この場合、フリー層18aとフリー層18bの磁化方向を反平行結合とすることができる。
【0082】
次に実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の製造方法について説明する。なお、実施形態に係る製造方法では、各層の形成方法として、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
【0083】
図10は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【0084】
ステップS11では、基板(図示せず)上に、電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。次に、電極11上に下地層12として例えば、Ta[1nm]/Ru[2nm]を形成する。Taは下電極の荒れを緩和等するためのバッファ層12aに相当する。Ruはその上に形成されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bに相当する。
【0085】
ステップS12では、下地層12上にピニング層13を形成する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMn等の反強磁性材料を用いることができる。
【0086】
ステップS13では、ピニング層13上に磁化固着層14を形成する。磁化固着層14は、例えば、下部磁化固着層141(Co75Fe25[4.4nm])、磁気結合層142(Ru)、および上部磁化固着層143(Fe50Co50[4nm])からなるシンセティック磁化固着層とすることができる。
【0087】
ステップS14では、磁化固着層14上に第1の金属層を形成する。
【0088】
第1の金属層は、Au、Ag、Cu、及びZnなどの金属を用いて形成する。
【0089】
ステップS15では、、スペーサ層16上に酸化物層を形成する。一例を挙げると、スペーサ層16上にFeとZnの金属層を成膜する。ここで、FeとZnの金属層は、Fe/ZnやZn/Feや(Fe/Zn)×2のようなFe層とZn層の積層体としても良いし、Zn50Fe50のような合金の単層としてもよい。ここで、酸化物層の母材料としては、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む金属層を成膜することができる。次に、ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す。この酸化処理は、希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを金属材料層に照射しながら、酸素を供給して行う、イオンアシスト酸化(IAO:Ion assisted Oxidation)を用いることができる。また、上記のイオンアシスト酸化処理において、酸素ガスをイオン化またはプラズマ化してもよい。イオンビームの照射による金属材料層へのエネルギーアシストにより、安定で均一な酸化物層を酸化物層として形成することができる。また、一層の酸化物層を形成するに当たり、上述した金属材料層の形成と酸化処理を数回繰り返して行ってもよい。この場合、所定の膜厚の酸化物層を一度の成膜および酸化処理で作製するのではなく、膜厚を分割して薄い膜厚の金属材料層に酸化処理を行うほうが好ましい。また、ZnとFeを含む金属材料層を酸素雰囲気に晒す自然酸化を用いてもよい。ただし、安定な酸化物を形成するためには、エネルギーアシストを用いた酸化方法のほうが好ましい。また、ZnとFeの金属材料を積層体とした場合は、均一に混合されたZnとFeの酸化物層を形成する上で、イオンビームの照射を行いながら酸化したほうが好ましい。また、 (Zn30Fe70)3O4の酸化物ターゲットをスパッタで形成しても良い。また、 (Zn30Fe70)3O4の酸化物ターゲットを用いてスパッタで成膜した後に、追加酸化処理や還元処理を組み合わせても良い。このような追加処理を行うことで、最も高いスピンフィルター効果を発揮するFe―Zn混合酸化物の酸素濃度に調整することができる。
【0090】
希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを用いる場合、当該希ガスは、例えば、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを使用することができる。
【0091】
なお、エネルギーアシストの方法として、イオンビームの照射以外に加熱処理などを行ってもよい。この場合、たとえば、金属材料層を成膜後に100℃〜300℃の温度で加熱しながら、酸素を供給してもよい。
【0092】
以下、酸化物層21を形成する酸化処理において、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合のビーム条件について説明する。酸化処理により、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0093】
イオン又はプラズマを用いた酸化処理の場合、酸素暴露量はIAOの場合には1×103〜1×104L(Langmiur、1L=1×10−6Torr×sec)が好ましい。自然酸化の場合には3×103L〜3×104Lが好ましい。
【0094】
ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す代わりに還元性ガスを用いた還元処理を行ってもよい。還元性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオン、プラズマまたはラジカル、または水素または窒素の分子、イオン、プラズマまたはラジカルの少なくとも何れかを含むガスを使用することができる。特に還元性ガスとして、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマ、または水素または窒素のイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。さらに、還元性ガスとしては、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。この還元処理によって、酸化処理後の母材料から成る膜の酸素濃度を調整することができ、スピンフィルター効果を最も強く発現できる濃度に調整することができる。
【0095】
還元処理は、酸化処理後の母材料から成る膜を加熱しながら行うことができる。例えば、100℃から300℃に加熱した母材料に対して還元処理を行うことができる。加熱することで、より効率的に還元処理を行うことができる。ここで、還元処理後の膜に対して、さらにアルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射および加熱から成る群から選択される少なくとも1つの水分除去処理を施すことができる。これによって、還元処理の際に生成する水分を除去することができる。
【0096】
また、酸化物層21の作製において、上記の工程を終えた後、酸化処理と還元処理とを再度繰り返すことができる。生成した水の除去と還元処理とを交互に繰り返すことで、より効率的に膜を還元することができる。
【0097】
このような還元処理について、特にArイオンビーム照射を行った場合のビーム条件を以下に説明する。還元処理により、酸化物層を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0098】
ステップS16では、酸化物層21上に第2の金属層を形成する。
【0099】
第2の金属層は、Au、Ag、Cu、及びZnのいずれかの金属を用いて形成する。
【0100】
ステップS17では、第2の金属層状に磁化自由層18を形成する。磁化自由層18としては、例えば、Fe50Co50[1nm]/Ni90Fe10[3nm]を形成する。
【0101】
ステップS18では、磁化自由層18上にキャップ層19を形成する。キャップ層19としては、例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を形成する。
【0102】
ステップS19では、アニール処理を行う。
【0103】
最後に、キャップ層19上に磁気抵抗効果素子10へ垂直通電するための電極20を形成する。
【0104】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の構成を示す図である。
【0105】
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が固着された磁化固着層(以下、磁化固着層と呼ぶ)14と、キャップ層19と磁化固着層14との間に設けられた磁化が自由に回転する磁化自由層(以下、磁化自由層と呼ぶ)18と、磁化固着層14と磁化自由層18との間に設けられた非磁性体からなる中間層(以下、「スペーサ層」という。)16と、スペーサ層16中に設けられた、少なくともZn、In、Sn、及びCdの何れか1つの元素、並びに少なくともFe、Co、Niの何れか1つの元素を含む酸化物層21と、を備えた積層体7と、積層体7の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極11、20と、電極11と磁化固着層14の間に設けられた磁化固着層の磁化方向を固着するための反強磁性体からなるピニング層13と、ピニング層13と電極11との間に設けられた下地層12とを備える。第1の実施の形態と異なる点はスペーサ層16が下部金属層15、上部金属層17を含まない点である。
【0106】
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図2に示すようにスペーサ層として酸化物層21を設けた構造を作製した。
【0107】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であり、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示すことが確認された。第1の実施形態と同様に第1の変形例に係わる磁気抵抗効果素子10でも、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルター効果を発現しているためと考えられる。
【0108】
ここで、実施例1の第1の金属層と第2の金属層を設けた場合の磁気抵抗効果素子と、実施例28の第1の金属層と第2の金属層を設けていない場合の磁気抵抗効果素子の磁化自由層と磁化固着層の層間結合磁界を測定したところ、実施例1は45Oe、実施例28は95Oeであった。この結果より、スペーサ層をすべて酸化物層で形成した場合、高いMR変化率を得ることができるが、第1の金属層と第2の金属層を設けた場合のほうが、磁化自由層と磁化固着層の層間結合を弱めることができるため、小さい磁気ノイズを実現する観点で望ましい。
【0109】
(第5の変形例)
図8は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の変形例を示す図である。図1に示す第2の実施形態と同一構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0110】
第4の変形例は、磁化固着層を有しておらず、2層の磁化自由層で形成されている点が実施形態と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、磁気ディスクからの磁界が加わっていない状態における磁化自由層181と磁化自由層182の磁化が90°になるようにバイアスされており、磁気ディスクからの磁界によって、2層の磁化自由層の相対角度が変化することにより、再生ヘッドとして用いることができる。このような90°の磁化アライメントは、スペーサ層を介した磁気結合とハードバイアスなどの組合せなどで得ることができる。
【0111】
ここで、スペーサ層16はすべて酸化物層21で形成されている。
【0112】
このような2層の磁化自由層からなる磁気抵抗効果素子を用いた場合でも高いスピンフィルター効果を発現して、MR変化率を大きく向上することができる。
【0113】
また、上述した第5の変形例以外にも、第2の実施形態においても、第1の実施形態の第2の変形例と同様にトップスピンバルブ構造も用いることができる。
【0114】
また、第2の実施形態においても、第1の実施形態の第2の変形例と同様に差動型構造も用いることができる。
【0115】
(第3の実施の形態)
次に、磁気抵抗効素子10を用いた磁気記録再生装置、磁気ヘッドアセンブリについて説明する。
【0116】
図12は本実施形態に係わる磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【0117】
図12に示すように、本実施形態に係わる磁気記録再生装置310は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。磁気記録媒体230は、スピンドルモータ330に設けられ、駆動制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により媒体移動方向270の方向に回転する。磁気記録再生装置310は、複数の磁気記録媒体230を備えてもよい。
【0118】
磁気記録媒体230に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ280は、図13に示すように、磁気抵抗効果素子10を備えた磁気ヘッド140がヘッドスライダ280に設けられる。ヘッドスライダ280は、Al2O3/TiCなどからなり、磁気ディスクなどの磁気記録媒体230の上を、浮上又は接触しながら相対的に運動できるように設計されている。
【0119】
ヘッドスライダ280は薄膜状のサスペンション350の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ280は、磁気ヘッド140をヘッドスライダ280の先端付近に設けられている。
【0120】
磁気記録媒体230が回転すると、サスペンション350により押し付け圧力とヘッドスライダ280の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあう。ヘッドスライダ280の媒体対向面は、磁気記録媒体230の表面から所定の浮上量をもって保持される。ヘッドスライダ280が磁気記録媒体230と接触する「接触走行型」としてもよい。
【0121】
サスペンション350は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム360の一端に接続されている。アクチュエータアーム360の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ370が設けられている。ボイスコイルモータ370は、アクチュエータアーム360のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、この駆動コイルを挟み込むように対向して設けられた永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路から構成することができる。
【0122】
アクチュエータアーム360は、軸受部380の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ370により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッド140を磁気記録媒体230の任意の位置に移動可能となる。
【0123】
図14(a)は、本実施形態に係わる磁気記録再生装置310の一部を構成するヘッドスタックアセンブリ390を示す。
【0124】
図14(b)は、ヘッドスタックアセンブリ390の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400を示す斜視図である。
【0125】
図14(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ390は、軸受部380と、この軸受部380から延出したヘッドジンバルアセンブリ400と、軸受部380からヘッドジンバルアセンブリ400と反対方向に延出しているとともにボイスコイルモータのコイル410を支持した支持フレーム420を有する。
【0126】
図14(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ400は、軸受部380から延出したアクチュエータアーム360と、アクチュエータアーム360から延出したサスペンション350とを有する。
【0127】
サスペンション350の先端には、第2の実施形態で説明した磁気記録ヘッド140を有するヘッドスライダ280が設けられている。
【0128】
本実施形態に係わる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400は、第2の実施形態で説明した磁気記録ヘッド140と、磁気記録ヘッド140が設けられたヘッドスライダ280と、ヘッドスライダ280を一端に搭載するサスペンション350と、サスペンション350の他端に接続されたアクチュエータアーム360とを備える。
【0129】
サスペンション350は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、STO10用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダ280に組み込まれた磁気記録ヘッド140の各電極とが電気的に接続される。電極パッド(図示せず)はヘッドジンバルアセンブリ400に設けられる。本実施形態では、電極パッドは8個設けられる。主磁極200のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子190用の電極パッドが2つ、DFH(ダイナミックフライングハイト)用の電極パッドが2つ、STO10用の電極パッドが2つ設けられている。
【0130】
信号処理部385(図示せず)が、図12に示す磁気記録再生装置310の図面中の背面側に設けられる。信号処理部385は、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う。信号処理部385の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ400の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッド140と電気的に結合される。
【0131】
本実施形態に係わる磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、磁気記録ヘッド140と、磁気記録媒体230と磁気記録ヘッド140とを離間させ、又は、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッド140を磁気記録媒体230の所定記録位置に位置あわせする位置制御部と、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への書き込みと読み出しを行う信号処理部385とを備える。
【0132】
上記の磁気記録媒体230として、磁気記録媒体230が用いられる。上記の可動部は、ヘッドスライダ280を含むことができる。上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ400を含むことができる。
【0133】
磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、ヘッドジンバルアセンブリ400と、ヘッドジンバルアセンブリ400に搭載された磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部385とを備える。
【0134】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0135】
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。すなわち、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)などの磁気メモリを実現できる。
【0136】
図15は、第21の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【0137】
図15は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ550、行デコーダ551が備えられており、ビット線534とワード線532によりスイッチングトランジスタ530がオンになり一意に選択され、センスアンプ552で検出することにより磁気抵抗効果素子10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線523とビット線522に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0138】
図16は、第19の実施形態に係る磁気メモリの要部を例示する断面図である。
【0139】
図17は、図16に示すA−A’線による断面図である。
【0140】
これらの図に示した構造は、図15に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。
【0141】
図16及び図17に示すように、このメモリセルは、記憶素子部分511とアドレス選択用トランジスタ部分512とを有する。
【0142】
記憶素子部分511は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線522、524とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
【0143】
一方、選択用トランジスタ部分512には、ビア526および埋め込み配線528を介して接続されたトランジスタ530が設けられている。このトランジスタ530は、ゲート532に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
【0144】
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線523が、配線522とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線522、523は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0145】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線522、523に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0146】
また、ビット情報を読み出すときは、配線522と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極524とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0147】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0148】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
【0149】
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。
【0150】
図18は、第22の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
【0151】
図18に示すように、本実施形態においては、マトリクス状に配線されたビット線522とワード線534とが、それぞれデコーダ560、561により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線522と書き込みワード線523とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0152】
第20の実施形態に係る磁気メモリにおける上記以外の構成は、前述した第19の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【実施例】
【0153】
(実施例1)
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製して、RA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。
【0154】
酸化物層21の作製方法は、第1の金属層上に、Feを1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFeの混合酸化物(以下、Zn−Fe−Oと表記する)へと変換を行って酸化物層を形成した。このときの酸化物層の膜厚は1.5nmであった。この時、IAOで用いる酸素曝露量は3.0×104Langmiurとして用いた。
【0155】
以下に、本実施例で形成した磁気抵抗効果素子10の構成を示す。
【0156】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
最後に、280℃で5時間アニール処理を行い、電極11、20を形成した。
【0157】
図9は、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10の断面TEM像を示す図である。スペーサ層部分に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できる。
【0158】
図9には、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10の断面TEM像に対応したEDXライン分析の結果も合わせて示してある。酸化物層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークの位置が一致しており、ZnとFeが完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかる。
【0159】
なお、本実施例に係わる何れの磁気抵抗効果素子でも、TEM像及びEDXライン分析により機能層が形成されていることが確認できた。
【0160】
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.21Ωμm2、MR変化率は10%であった。
【0161】
(実施例2)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層の材料をCuからZnに変更した点である。
【0162】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は9.0%であった。
【0163】
(実施例3)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第2の金属層のみをZnに変更した点である。
【0164】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であった。
【0165】
(実施例4)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層をCuからAgに変更した点である。
【0166】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Ag[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Ag[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は9.2%であった。
【0167】
(実施例5)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、第1の金属層と第2の金属層をCuからAuに変更した点である。
【0168】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Au[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Au[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は7.5%であった。
【0169】
(実施例6)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の金属層を設けた構造を作製した。実施例1と異なる点は、酸化物層21の材料を変更した点である。
【0170】
本実施例では、酸化物層21の作製方法は、第1の金属層上に、Fe50Co50を1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFe50Co50の混合酸化物(以下、Zn−Fe50Co50−Oと表記する)へと変換を行い酸化物層を形成した。このときの酸化物層の膜厚は1.7nmであった。この時、IAOで用いる酸素曝露量は3.0×104Langmiurとして用いた。
【0171】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe50Co50−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は13.5%であった。
【0172】
(実施例7〜11、比較例2)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、酸素曝露量を変化させることで、磁気抵抗効果素子のRA値と磁気抵抗効果素子を構成する機能層の抵抗率を変化させた。実施例1と異なる点は酸化物層21の膜厚が異なる点である。そして、磁気抵抗効果素子のRA値と機能層の抵抗率が、MR変化率に及ぼす影響を調べた。
【0173】
本実例で作製した磁気抵抗効果素子10の構造を下記に示す。
【0174】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
酸化物層21の作製方法は、Cuからなるスペーサ層上に、Feを1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、IAOによりZnとFeの混合酸化物(以下、Zn−Fe−Oと表記する)へと変換行い機能層を形成した。その後、Arプラズマ照射による還元処理を行った。また、磁気抵抗効果素子のRA値と機能層の抵抗率がMR変化率に及ぼす影響を調べるために、IAOで用いる酸素曝露量を変化させて、異なるRA値を有する磁気抵抗効果素子を作製した。このときの実施例7での酸素曝露量は、1.2×104Langmiur、実施例8では、1.5×104Langmiur、実施例9では1.8×104Langmiur、実施例10では3.0×104Langmiur、実施例11では4.5×104Langmiurとした。比較例2では、6.0×104Langmiurとした。
【0175】
表1は、IAOで用いる酸素暴露量を変えて、磁気抵抗効果素子のRA値とZn−Fe−Oから構成される機能層の抵抗率を変化させたときの機能層のMR変化率の結果を示す図である。なお、参考に機能層を設けていない磁気抵抗効果素子の測定結果(比較例1に相当する)も示す。
【表1】
【0176】
機能層の抵抗率は、機能層の抵抗率をρZn−Fe−O、機能層の膜厚をtZn−Fe−O、機能層を設けたことによる磁気抵抗効果素子の面積抵抗の増大量をΔRAZn−Fe−Oとして、下記の式1のから機能層の抵抗率ρZn−Fe−Oを求めた。
【数1】
【0177】
また、機能層の膜厚は、断面TEM観察像から求めて、実施例7、8、9、及び比較例2に係わる機能層の膜厚は何れも1.5nmであった。なお、ΔRAの値は、機能層を設けていない状態の磁気抵抗効果素子のRA値(表1の比較例1)と機能層を設けた状態での磁気抵抗効果素子のRA値との差分を用いている。
【0178】
表1から機能層の抵抗率が5×105μΩcm以下の場合に、比較例と比べMR変化率が向上していることがわかる。1Ωμm2以下の場合に特に大きくMR変化率が向上していることがわかる。また、磁気抵抗効果素子のRA値が5Ωμm2以下の場合に比較例と比べMR変化率が向上しており、1Ωμm2以下の場合に特に大きくMR変化率が向上していることがわかる。
【0179】
上記の結果は、適正な酸素暴露量を用いて、低い抵抗率の酸化物層を作製することにより、酸化物層内部のスピンフリップを抑制することができたためと考えられる。
【0180】
(実施例12〜17)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、第1の金属層の膜厚を変えて作製し、第1の金属層の膜厚がMR変化率に及ぼす影響を調べた。第1の金属層の膜厚以外は製造プロセス含めて実施例3と同様である。
【0181】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[表2に記載]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
【表2】
【0182】
本実施例の素子特性を調べた結果を表2に示す。表2から第1の金属層の膜厚が0.5nmから3nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第1の金属層の膜厚が2nm以下の場合に高いMR変化率が得られており、1nm以下の場合に特に高いMR変化率が得られている。これは、第1の金属層を厚くするに従い、酸化物層界面への磁化固着層13からのスピン蓄積が弱まり、磁化固着層側のスピンフィルター効果が弱まるためと考えられる。磁化固着層側のスピンフィルター効果を高めるためには第1の金属層が薄いほど望ましいが、磁化固着層と磁化自由層の磁気結合を十分に分断するためには、第1の金属層の膜厚がある程度厚いことが望ましい。このようなトレードオフから、第1の金属層の膜厚は適切に設定することが望ましい。
【0183】
(実施例18〜23)
第1の実施形態で説明した図1に示す磁気抵抗効果素子10について、第2の金属層の膜厚を変えて作製し、第2の金属層の膜厚がMR変化率に及ぼす影響を調べた。第2の金属層の膜厚以外は実施例3と同様である。
【0184】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
第1の金属層:Zn[表3に記載]
磁化自由層18:Fe50Co50[3nm]
【表3】
【0185】
本実施例の素子特性を調べた結果を表3に示す。表3から第2の金属層の膜厚が0.5nmから3nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第2の金属層の膜厚が2nm以下の場合に高いMR変化率が得られており、1nm以下の場合に特に高いMR変化率が得られている。これは、第2の金属層を厚くするに従い、酸化物層界面への磁化自由層16からのスピン蓄積が弱まり、磁化固着層側のスピンフィルター効果が弱まるためと考えられる。磁化自由層側のスピンフィルター効果を高めるためには第2の金属層が薄いほど望ましいが、磁化固着層と磁化自由層の磁気結合を十分に分断するためには、第1の金属層の膜厚がある程度厚いことが望ましい。このようなトレードオフから、第1の金属層の膜厚は適切に設定することが望ましい。
【0186】
(実施例24〜33)
第1の実施形態に係わる係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図1に示すようにスペーサ層として第1の金属層/酸化物層/第2の酸化物機能層を設けた構造を作製した。実施例3と異なる点は、酸化物層21の膜厚を変えた点である。
【0187】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
第1の金属層:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[表5に記載]
第1の金属層:Zn[0.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
【表4】
【0188】
本実施例の素子特性を調べた結果を表4に示す。表4から酸化物層21の膜厚が0.2nmから5nmのすべての場合で、MR変化率が向上していることがわかる。また、第2の金属層の膜厚が0.5nm以上4nm以下の場合に高いMR変化率が得られていることがわかった。
【0189】
(実施例34)
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製してRA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図4に示すようにスペーサ層として酸化物層21を設けた構造を作製した。
【0190】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.2Ωμm2、MR変化率は14%であり、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示すことが確認された。第1の実施形態と同様に第2の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子10でも、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルタリング効果を発現しているためと考えられる。
【0191】
ここで、実施例1の第1の金属層と第2の金属層を設けた場合の磁気抵抗効果素子と、実施例28の第1の金属層と第2の金属層を設けていない場合の磁気抵抗効果素子のフリー層とピン層の層間結合磁界を測定したところ、実施例1は45Oe、実施例28は95Oeであった。この結果より、スペーサ層をすべて酸化物層で形成した場合、高いMR変化率を得ることができるが、第1の金属層と第2の金属層を設けた場合のほうが、フリー層とピン層の層間結合を弱めることができるため、小さい磁気ノイズを実現する観点で望ましい。
【0192】
(比較例1)
機能層を用いていない磁気抵抗効果素子を作製してRA値及びMR変化率を評価した。
【0193】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
磁化固着層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[3nm]
磁化自由層18:Fe50Co50[4nm]
また、本実施例に係わる磁気抵抗効果素子10のRAは0.08Ωμm2、MR変化率は1.5%であった。
【0194】
実施例1〜34に係わる磁気抵抗効果素子10のMR変化率は何れも、比較例1のMR変化率よりも大きな値を示しており、第1の実施形態及び第2の実施形態に係わる磁気抵抗効果素子10を用いることで、MRの変化率の向上をさせることができることがわかる。
【0195】
MR変化率が向上した理由として、酸化物層が高いスピン依存散乱効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立できているため、結果として高いスピンフィルター効果を発現しているためと考えられる。
【0196】
以上、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0197】
本発明の実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、ピン層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも本発明の効果を得ることができる。
【0198】
実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0199】
実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、磁化固着層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも実施形態の効果を得ることができる。
【0200】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0201】
10 磁気抵抗効果素子
11、20 電極
12 下地層
13 ピニング層
14 磁化固着層
16 スペーサ層
18 磁化自由層
19 キャップ層
21 酸化物層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性層と、
第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを有し、
前記スペーサ層が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記スペーサ層は第1の金属層と第2の金属層とをさらに有し、前記酸化物層は前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記酸化物層の抵抗率が5×105μΩcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記積層体の膜面を垂直に流れる部分の面積と前記積層体の膜面に垂直に電流を流したときに前記一対の電極から得られる抵抗との積が5Ωμm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記酸化物層がZn及びFeを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1の金属層と前記第2の金属層とがCu、Ag、Au、Znからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記酸化物層はさらにAl、B、Ga、In、C、Si、Ge、Snから選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記酸化物層の層厚は、0.5nm以上4nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記第1の金属層と前記第2の金属層の層厚は、2nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームとを備えることを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項11】
請求項9に記載の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項1】
第1の磁性層と、
第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを有し、
前記スペーサ層が、Zn、In、Sn、Cdから選択される少なくとも1つの元素及びFe、Co、Niから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物層を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記スペーサ層は第1の金属層と第2の金属層とをさらに有し、前記酸化物層は前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記酸化物層の抵抗率が5×105μΩcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記積層体の膜面を垂直に流れる部分の面積と前記積層体の膜面に垂直に電流を流したときに前記一対の電極から得られる抵抗との積が5Ωμm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記酸化物層がZn及びFeを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1の金属層と前記第2の金属層とがCu、Ag、Au、Znからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記酸化物層はさらにAl、B、Ga、In、C、Si、Ge、Snから選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記酸化物層の層厚は、0.5nm以上4nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記第1の金属層と前記第2の金属層の層厚は、2nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームとを備えることを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項11】
請求項9に記載の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図11】
【公開番号】特開2012−169448(P2012−169448A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29021(P2011−29021)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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