説明

磁気抵抗素子及び磁気メモリ

【課題】熱的に安定であると同時に低電流での磁化反転が可能なスピン注入書き込み方式の磁気抵抗素子を提供する。
【解決手段】本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第1磁性層と、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第2磁性層と、第1磁性層と第2磁性層との間に設けられた非磁性層と、を備え、第1磁性層および第2磁性層のうちの少なくとも一方が、第1磁性膜と、非磁性層側に設けられた第2磁性膜とが積層された構造を有し、第2磁性膜が、磁性材料層と非磁性材料層とが少なくとも2周期以上繰り返して積層された構造を有し、第2磁性膜の前記非磁性材料層が、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含み、第1磁性層と第2磁性層との間を、非磁性層を介して電流を流すことにより第1磁性層および第2磁性層の一方の磁化方向が可変となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速読み書き、大容量、低消費電力動作も可能な次世代の固体不揮発メモリとして、強磁性体の磁気抵抗効果を利用した磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory:以下、MRAMと記す)への関心が高まっている。特に、強磁性トンネル接合を有する磁気抵抗素子は、大きな磁気抵抗変化率を示すことが見いだされて以来、注目されている。強磁性トンネル接合は、磁化方向が可変な記憶層と、絶縁体層と、記憶層と対向し、所定の磁化方向を維持する固定層との三層積層構造を有している。
【0003】
この強磁性トンネル接合を有する磁気抵抗素子はMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子とも呼ばれ、その書き込み方式としてスピン角運動量移動(SMT:spin-momentum-transfer)を用いた書込み(スピン注入書き込み)方式が提案されている。この方式は、磁気抵抗素子にスピン偏極電流を流して記憶層の磁化方向を反転させるもので、さらに記憶層を形成する磁性層の体積が小さいほど注入するスピン偏極電子も少なくてよいため、素子の微細化と低電流化を両立できる書き込み方式と期待されている。
【0004】
そして、この磁気抵抗素子を構成する強磁性材料に、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する、いわゆる垂直磁化膜を用いることが考えられている。垂直磁化型の構成で結晶磁気異方性を利用する場合、形状異方性を利用しないため、素子形状を面内磁化型に比べて小さくすることができる。また、磁化容易方向の分散も小さくできるため、大きな結晶磁気異方性を有する材料を採用することにより、熱擾乱耐性を維持しつつ、微細化と低電流の両立が実現できると期待される。
【0005】
垂直磁化型でMTJを形成する場合、結晶配向性を調整するための下地層や記憶層を構成する材料が熱処理により拡散し、MR比が劣化するという課題がある。この課題に対し、アモルファス構造を有する界面磁性膜に接するように結晶化を促進する結晶化促進膜を形成することにより、トンネルバリア層側から結晶化を促進し、トンネルバリア層と上記界面磁性膜層との界面を整合させて、高いMR比を実現する技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術を用いることにより、高いMR比を実現することは可能となるが、素子加工による熱処理を考慮すると、初期状態からさらに熱処理が加えられた場合にMR比、抵抗値が変化しないことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−081216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、熱的に安定であると同時に低電流での磁化反転が可能なスピン注入書き込み方式の磁気抵抗素子及びそれを用いた磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第1磁性層と、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられた非磁性層と、を備え、前記第1磁性層および前記第2磁性層のうちの少なくとも一方が、第1磁性膜と、前記非磁性層側に設けられた第2磁性膜とが積層された構造を有し、前記第2磁性膜が、磁性材料層と非磁性材料層とが少なくとも2周期以上繰り返して積層された構造を有し、前記第2磁性膜の前記非磁性材料層が、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間を、前記非磁性層を介して電流を流すことにより前記第1磁性層および前記第2磁性層の一方の磁化方向が可変となることを特徴する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態の磁気抵抗素子を示す断面図。
【図2】第2実施形態の磁気抵抗素子を示す断面図。
【図3】第3実施形態の磁気抵抗素子を示す断面図。
【図4】第4実施形態の磁気抵抗素子を示す断面図。
【図5】第5実施形態の磁気抵抗素子を示す断面図。
【図6】垂直磁気異方性のPd濃度依存性を示す図。
【図7】図7(a)、7(b)は積層構造を有する磁性膜の抵抗およびMRに関する熱処理温度依存性を示す図。
【図8】図8(a)、8(b)は、記憶層の積層構造を示す断面図。
【図9】図9(a)、9(b)は、固定層の積層構造を示す断面図。
【図10】下地層及び記憶層を含む積層構造を示す断面図。
【図11】第6実施形態のMRAMを示す回路図。
【図12】1個のメモリセルMCを示す断面図。
【図13】DSLモデムのDSLデータパス部を示すブロック図。
【図14】携帯電話端末を示すブロック図。
【図15】MRAMカードを示す上面図。
【図16】転写装置を示す平面図。
【図17】転写装置を示す断面図。
【図18】はめ込み型の転写装置を示す断面図。
【図19】スライド型の転写装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第1磁性層と、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられた非磁性層と、を備え、前記第1磁性層および前記第2磁性層のうちの少なくとも一方が、第1磁性膜と、前記非磁性層側に設けられた第2磁性膜とが積層された構造を有し、前記第2磁性膜が、磁性材料層と非磁性材料層とが少なくとも2周期以上繰り返して積層された構造を有し、前記第2磁性膜の前記非磁性材料層が、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間を、前記非磁性層を介して電流を流すことより前記第1磁性層および前記第2磁性層の一方の磁化方向が可変となる。
【0011】
以下に、本実施形態による磁気抵抗素子の基本概念を説明する。
【0012】
以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは云うまでもない。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の磁気抵抗素子を図1に示す。図1は、第1実施形態の磁気抵抗素子1の断面図である。図1において、矢印は磁化方向を示している。本明細書及び特許請求の範囲でいう磁気抵抗素子とは、半導体或いは絶縁体をスペーサ層に用いるTMR(トンネル磁気抵抗効果)素子を指す。また、以下の図では、磁気抵抗素子の主要部を示しているが、図示の構成を含んでいれば、さらなる層を含んでいても構わない。
【0014】
磁気抵抗素子1は、スピン注入磁化反転方式によって書き込みを行う。即ち、各層に対し膜面垂直方向に流すスピン偏極電流の方向に応じて、記憶層と固定層の磁化の相対角を平行、反平行状態(即ち抵抗の極小、極大)とを変化させ、二進情報の“0”又は“1”に対応づけることにより、情報を記憶する。
【0015】
図1に示すように、磁気抵抗素子1は、少なくとも、2つの磁性層2、3と、磁性層2と磁性層3との間に設けられる非磁性層4とを有する。磁性層3は、下地層5上に設けられ、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有し、磁化が膜面と交わる面に沿って回転する。すなわち、磁性層3の磁化方向は可変となる。ここで、磁化方向が可変とは、書き込みの前後で磁化方向が変化することを意味する。また、本明細書では、膜面とは、対象となる層の上面を意味する。以下、磁性層3を記憶層(自由層、磁化自由層、磁化可変層、または記録層)と称する。本実施形態の記憶層3は磁性膜3aと磁性膜3bが積層された構造である。記憶層3の詳細な性質については後述する。以下、膜面に垂直方向の磁化を垂直磁化と称する。磁性膜3bは非磁性層4と接しているため、界面での格子不整合を緩和する効果を有するとともに、高いスピン分極率を有する材料を用いることにより高TMRと高いスピン注入効率を実現することができる。
【0016】
磁性層2は、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有し、記憶層に対し磁化方向が固定されている。ここで、磁化方向が固定されるとは、書き込みの前後で磁化方向が変化しないことを意味する。以下、磁性層2を固定層(磁化固定層、参照層、磁化参照層、ピン層、または基準層、磁化基準層)と称する。固定層2の詳細な性質については後述する。尚、図1では、固定層2の磁化方向は、典型例として、下地層5の下方に設けられた図示しない基板に対し反対方向(上)を向いているが、基板の方向(下)を向いていても構わない。
【0017】
非磁性層4はトンネルバリア層とも呼ばれ、酸化物などの絶縁膜から構成される。非磁性層4のより詳細な性質については、後述する。
【0018】
本実施形態の磁気抵抗素子1は、スピン注入書込み方式に用いる磁気抵抗素子である。即ち、書き込みの際は、固定層2から記憶層3へ、又は記憶層3から固定層2へ、膜面垂直方向に電流を流すことによって、スピン情報が有する電子が固定層2から記憶層3へ注入される。この注入される電子のスピン角運動量が、スピン角運動量の保存則に従って記憶層3の電子に移動されることによって、記憶層3の磁化が反転することになる。例えば、記憶層3の磁化方向と、固定層2の磁化方向が反平行な場合には、記憶層3から固定層2に向かって電流を流す。この場合、電子は固定層2から記憶層3に流れる。このとき、固定層2によってスピン偏極された電子は非磁性層4を通って記憶層3に流れ、記憶層3にスピン角運動量が移動されて記憶層3の磁化方向が反転し、固定層2の磁化方向に平行になる。これに対して、固定層2の磁化方向が平行な場合には、固定層2から記憶層3に向かって電流を流す。この場合、電子は記憶層3から固定層2に流れる。このとき、記憶層3によってスピン偏極された電子は非磁性層4を通って固定層2に流れ、固定層2の磁化方向と同じスピンを有する電子は固定層2を通過するが、固定層2の磁化方向と逆のスピンを有する電子は非磁性層4と固定層2との界面で反射され、非磁性層4を通って記憶層に流れる。すると、記憶層3にスピン角運動量が移動されて記憶層3の磁化方向が反転し、固定層2の磁化方向に反平行になる。なお、磁気記憶素子1から情報を読み出す場合は、記憶層3と固定層2との間に非磁性層4を通して記憶層3の磁化が反転しない読み出し電流を流すことにより行うことができる。
【0019】
図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1は、下地層5の上に記憶層3が形成され、非磁性層4の上に固定層2が形成される、いわゆるトップピン構造を示している。下地層5は、記憶層3より上の層の結晶配向性及び結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられるが、詳細な性質については後述する。固定層2上にはキャップ層6がさらに形成されていてもよい。キャップ層6は、磁性層の酸化防止等、主として保護層として機能する。
【0020】
(第2実施形態)
第2実施形態の磁気抵抗素子の断面図を図2に示す。この第2実施形態の磁気抵抗素子1Aは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、記憶層3を積層構造ではなく単層にするとともに、固定層2が磁性膜2aと磁性膜2bとの積層構造を有するように構成したものである。磁性膜2aは非磁性層4と接しているため、界面での格子不整合を緩和する効果を有するとともに、高いスピン分極率を有する材料を用いることにより高TMRと高いスピン注入効率を実現することができる。磁性膜2aと磁性膜2bの詳細な性質については後述する。
【0021】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気抵抗素子の断面を図3に示す。この第3実施形態の磁気抵抗素子1Bは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、固定層2が磁性膜2aと磁性膜2bとの積層構造を有するように構成したものである。
【0022】
磁性膜2aは非磁性層4と接しているため、界面での格子不整合を緩和する効果を有するとともに、高いスピン分極率の材料を用いることにより高TMRと高いスピン注入効率を実現することができる。
【0023】
(第4実施形態)
第4実施形態による磁気抵抗素子の断面を図4に示す。この第4実施形態の磁気抵抗素子1Cは、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、固定層2とキャップ層6の間に、非磁性層21とバイアス層(シフト調整層)22とが挿入された構成となっている。
【0024】
バイアス層22は、強磁性体からなり、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜であり、かつ固定層2の磁化方向と反対方向(逆方向、または反平行)に固定されている。バイアス層22は、素子加工時に問題となる、固定層2からの漏れ磁場による記憶層反転特性のオフセットを、逆方向へ調整する効果を有する。非磁性層21及びバイアス層22の詳細な性質については、後述する。
【0025】
(第5実施形態)
第5実施形態による磁気抵抗素子の断面を図5に示す。この第5実施形態の磁気抵抗素子1Dは、図3に示す第3実施形態の磁気抵抗素子1Bにおいて、固定層2とキャップ層6の間に、非磁性層21とバイアス層(シフト調整層)22とが挿入された構成となっている。
【0026】
なお、上記第1乃至第5実施形態においては、下地層5の上に記憶層3が形成され、非磁性層4の上に固定層2が形成される、いわゆるトップピン構造を有していたが、下地層5の上に固定層2が形成され、非磁性層4の上に記憶層3が形成された、いわゆるボトムピン構造であってもよい。
【0027】
次に、第1乃至第5実施形態において用いられた各層について以下に説明する。
【0028】
(記憶層について)
まず、第1乃至第5実施形態における記憶層について説明する。記憶層3として垂直磁化膜を用いる場合、前述の通り形状異方性を利用しないため、素子形状を面内磁化型に比し小さくでき、大きな垂直磁気異方性を示す材料を採用することにより、熱擾乱耐性を維持しつつ、微細化と低電流の両立が可能となる。以下に記憶層として具備すべき性質、及び材料選択の具体例について詳細に説明する。
【0029】
(記憶層が具備すべき性質)
記憶層3として垂直磁化材料を用いる場合、対するその熱擾乱指数Δは、実効的な異方性エネルギー(Keff・V)と熱エネルギー(kT)との比をとって、下記のように表される。
【0030】
Δ=Keff・V/(kT)
=(K−2πNM)・Va/(kT) ・・・(1)
ここで、
eff:実効的な垂直磁気異方性
V:垂直磁化材料の体積
T:垂直磁化材料の温度
:ボルツマン定数
:垂直磁気異方性
:飽和磁化
N:反磁場係数
Va:磁化反転単位体積
である。
【0031】
熱エネルギーにより磁化が揺らぐ問題(熱擾乱)を回避するには、Δが60より大きな値が望ましいが、大容量化を念頭に素子サイズが小さくなる、若しくは膜厚が薄くなると、Vaが小さくなり、記憶が維持できなくなり(=熱擾乱)、不安定となることが懸念される。そのため、記憶層3としては、垂直磁気異方性Kが大きい、かつ/或いは、飽和磁化Mが小さい材料を選択することが望ましい。
【0032】
一方、垂直磁化方式のスピン注入書き込みによる磁化反転に必要な臨界電流Iは、一般的に、α/(η・Δ)に比例する。ここで、
α:磁気緩和定数
η:スピン注入効率係数
である。
【0033】
(記憶層の材料)
上記のように、垂直磁化膜であり、かつ高い熱擾乱耐性と低電流での磁化反転とを両立するためには、飽和磁化Mが小さく、熱擾乱指数(Δ)を維持するに足る高い磁気異方性Kを持ち、また、高分極率を示す材料であることが好ましい。以下により具体的に説明する。
【0034】
記憶層3は、コバルト(Co)およびパラジウム(Pd)を含む合金またはコバルト(Co)および白金(Pt)を含む合金から構成される。図1乃至図5に示す下地層5として、稠密面が配向した下地層を適切に選択することにより、結晶配向性を制御し、垂直磁化膜とする。下地層5の詳細及び具体的な作製方法については後述する。
【0035】
図6は、CoPd膜の実効的な垂直磁気異方性KeffのPd濃度依存性を示している。横軸は、Pd濃度を示し、縦軸は、実効的な磁気異方性Keffを示している。図6からわかるように、Pd濃度が30at%以上であれば、1×10(erg/cm)以上の高い垂直磁気異方性が可能となる。この高い垂直磁気異方性により、微細化しても、高い熱安定性を示すことができる磁気抵抗素子を提供することが可能となる。なお、記憶層3は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)などの添加元素を含んでいてもよい。
【0036】
(固定層について)
次に、第1乃至第5実施形態における固定層について説明する。固定層2としては、記憶層3に対し、容易に磁化方向が変化しない材料を選択することが好ましい。即ち、実効的な磁気異方性Keff及び飽和磁化Mが大きく、また磁気緩和定数αが大きい材料を選択することが好ましい。固定層2には以下の材料が用いられる。
【0037】
(規則合金系)
規則合金系としては、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素と、Pt、Pdのうち1つ以上の元素とを含む合金であり、この合金の結晶構造がL1型の規則合金である。このL1型の規則合金としては、例えば、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50、Fe30Ni20Pt50、Co30Fe20Pt50、Co30Ni20Pt50等が挙げられる。これらの規則合金は上記組成比に限定されない。
【0038】
これらの規則合金に、Cu(銅)、Cr(クロム)、Ag(銀)等の不純物元素、或いはその合金、絶縁物を加えて実効的な磁気異方性及び飽和磁化を調整することができる。また、これらの合金を固定層2として用いる場合、特に非磁性層4との格子不整合が大きい材料を選択する場合においては、図2、3、5に示すように、固定層2を磁性膜2aと磁性膜2bとが積層された構造にすることが好ましい。
【0039】
(人工格子系)
人工格子系としては、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(磁性層)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(非磁性層)とが交互に積層される構造である。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、磁性層への元素の添加、磁性層と非磁性層の膜厚比及び積層周期を調整することで、実効的な磁気異方性及び飽和磁化を調整することができる。また、これらの積層膜を固定層2として用いる場合は、多くの場合、非磁性層4との格子不整合が大きく、高TMRの観点からは好ましくない。このような場合は、図2、3、5に示すように、固定層2を磁性膜2aと磁性膜2bとが積層された構造にすることが好ましい。
【0040】
(不規則合金系)
不規則合金系としては、コバルト(Co)を主成分とし、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素を含む金属である。例えば、CoCr合金、CoPt合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoCrNb合金等が挙げられる。これらの合金は、非磁性元素の割合を増加させて実効的な磁気異方性及び飽和磁化を調整することができる。また、これらの合金を固定層2として用いる場合は、多くの場合、非磁性層4との格子不整合が大きく、高TMRの観点からは好ましくない。このような場合は、図2、3、5に示すように、固定層2を磁性膜2aと磁性膜2bとが積層された構造にすることが好ましい。
【0041】
(RE(希土類金属)−TM(遷移金属)合金系)
希土類金属と遷移金属との合金は希土類金属の材料によりフェリ磁性体、フェロ磁性体の両方を実現することができる。フェリ磁性体の具体例として、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、或いはガドリニウム(Gd)と、遷移金属のうち少なくとも1つの元素とを含む合金が挙げられる。このようなフェリ磁性体としては、例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。フェロ磁性体の具体例として、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ホルミウム(Ho)と、遷移金属のうち少なくとも1つの元素とを含む合金が挙げられる。このようなフェロ磁性体としては、例えば、SmCo、NdFeB等が挙げられる。これらの合金は、組成を調整することで磁気異方性及び飽和磁化を調整することができる。また、これらの合金を固定層2として用いる場合は、多くの場合、非磁性層4との格子不整合が大きく、高TMRの観点からは好ましくない。このような場合は、図2、3、5に示すように、固定層2を磁性膜2aと磁性膜2bとが積層された構造にすることが好ましい。
【0042】
(記憶層および固定層の積層構造について)
非磁性層4に接する、記憶層3を構成する磁性膜3bおよび固定層2を構成する磁性膜2aは、磁性材料層と非磁性材料層が少なくとも2周期以上繰り返して積層された構成を有している。磁性膜3bまたは磁性膜2aの含まれる磁性材料層はCo、Fe、Niのうちの少なくとも1つの元素を含む合金である。非磁性層4にNaCl構造の酸化物を用いた場合、これらのNaCl構造の酸化物は、
(i)Fe、Co、Niの1つ以上を含む、例えば、アモルファスCoFeNiB合金上、或いは、
(ii)体心立方(BCC)構造で(100)優先配向面を有し、Fe、Co、Niの1つ以上を含む合金上で、
結晶成長させると、(100)面を優先配向面として成長し易い。特に、B、C、Nなどを添加したCoFeX(Xは、B、C、Nの少なくとも1つの元素を表す)のアモルファス合金上では、非常に容易に(100)面を優先配向させることが可能である。このため、非磁性層4に接する磁性材料層はCo、Fe、Bを含む合金(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。磁性膜3bまたは磁性膜2aに含まれる非磁性材料層には、融点が高い、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crのいずれかの元素か、あるいはそれらの合金が好ましい。なお、非磁性材料層にTaを用い、磁性材料層のCoFeBを用いた場合には、磁性材料層のCoFeB中のBは熱処理後にTaに吸い寄せられため、Ta層に近づくにつれてBの濃度が高くなる分布を有することになる。
【0043】
磁性膜3bおよび磁性膜2aは、磁性材料層と非磁性材料層が2周期以上繰り返し積層された構成であるが、磁性材料層は非磁性材料層を介して磁気的な交換結合を有していることが望ましく、非磁性材料層は10Å以下であることが好ましく、5Å以下であることがより好ましい。これにより、磁性膜3bおよび磁性膜2aは磁性膜3aおよび磁性膜2bとそれぞれ磁化方向を揃えることができる。磁性膜3aおよび磁性膜2bとしては、記憶層および固定層で説明した材料を用いることができる。
【0044】
図7(a)、7(b)にそれぞれRA(面積抵抗)とMR(磁気抵抗変化)の熱処理温度依存性を示す。ここで、磁性膜3bとして、非磁性層4側からCoFeB(0.9nm)/Ta(0.1nm)/CoFeB(0.3nm)/Ta(0.1nm)となる構成のサンプルA、Bを作成した。また、磁性膜3bとして、非磁性層4側からCoFeB(1.2nm)/Ta(0.1nm)となる構成のサンプルa、bを作成した。サンプルA、BはTaが2層挿入された、2周期の構成、サンプルa、bはTaを1層挿入した、1周期に相当する構成である。図7(a)から、いずれのRAの領域においてもサンプルA、Bがサンプルa、bに対して熱処理温度に対して変化が少ないことが分かる。また、図7(b)から、サンプルA,Bがサンプルa、bに対し、同じRAを有する場合には高いMR比を実現することができ、特に、RAの低い領域では、顕著な効果見られた。すなわち、磁性膜3bおよび磁性膜2aは、磁性材料層と非磁性材料層が2周期以上繰り返し積層された構造を有していることが好ましいことが証明された。
【0045】
したがって、第1、第3、および第5実施形態における記憶層3は、図8(a)に示すように、磁性膜3aと、磁性膜3bとの積層構造を有し、磁性膜3bは、磁性膜3aと、非磁性層4との間に、磁性材料層3b、非磁性材料層3b、磁性材料層3b、非磁性材料層3b、磁性材料層3bがこの順序で積層された構造を有していることが好ましい。この場合、非磁性層4に接する磁性材料層3bとしては上述したように、(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。また、磁性膜3aに接する磁性材料層3bとしては、(Co100−xFe100−y(x<25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。これは、磁性膜3aとしてCoFePdまたはCoFePtからなる材料が用いられるので、磁性材料層3bが(Co100−xFe100−y(x<25at%、0≦y≦30at%)であると、格子不整合が小さくなるためである。非磁性層4に接する磁性材料層3bの膜厚はMR比を向上させるために厚い方が好ましい。したがって、磁性材料層3bと磁性材料層3bと磁性材料層3bの膜厚はそれぞれ異なっていても良い。非磁性材料層3bと非磁性材料層3bは材料および膜厚がそれぞれ異なっていても良い。
また、第1、第3、および第5実施形態における記憶層3は、図8(b)に示すように、磁性膜3aと、磁性膜3bとの積層構造を有し、磁性膜3bは、磁性膜3aと非磁性層4との間に、非磁性材料層3b、磁性材料層3b、非磁性材料層3b、磁性材料層3bがこの順序で積層された構造を有していてもよい。この場合も、非磁性層4に接する磁性材料層3bとしては、(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。非磁性層4に接する磁性材料層3bの膜厚はMR比を向上させるために厚い方が好ましい。したがって、磁性材料層3bと磁性材料層3bとの膜厚はそれぞれ異なっていても良い。非磁性材料層3bと非磁性材料層3bは材料および膜厚がそれぞれ異なっていても良い。
同様に、第2、第4、および第5実施形態における固定層2は、図9(a)に示すように、磁性膜2aと、磁性膜2bとの積層構造を有し、磁性膜2aは、非磁性層4と磁性膜2bとの間に、磁性材料層2a、非磁性材料層2a、磁性材料層2a、非磁性材料層2b、磁性材料層2aがこの順序で積層された構造を有していることが好ましい。この場合、非磁性層4に接する磁性材料層2aとしては上述したように、(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。また、磁性膜3bに接する磁性材料層2aとしては、(Co100−xFe100−y(x<25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。これは、磁性膜2aとしてCoFePdまたはCoFePtからなる材料が用いられるので、磁性材料層3bが(Co100−xFe100−y(x<25at%、0≦y≦30at%)であると、格子不整合が小さくなるためである。非磁性層4に接する磁性材料層3aの膜厚はMR比を向上させるために厚い方が好ましい。したがって、磁性材料層3aと磁性材料層3aと磁性材料層3aとの膜厚はそれぞれ異なっていても良い。非磁性材料層3aと非磁性材料層3aは材料および膜厚がそれぞれ異なっていても良い。
また、同様に、第2、第4、および第5実施形態における固定層2は、図9(b)に示すように、磁性膜2aと、磁性膜2bとの積層構造を有し、磁性膜2aは、非磁性層4と磁性膜2bとの間に、磁性材料層2a、非磁性材料層2a、磁性材料層2a、非磁性材料層2aがこの順序で積層された構造を有していてもよい。この場合も、非磁性層4に接する磁性材料層2aとしては、(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることが好ましい。非磁性層4に接する磁性材料層3aの膜厚はMR比を向上させるために厚い方が好ましい。したがって、磁性材料層3aと磁性材料層3aとの膜厚はそれぞれ異なっていても良い。非磁性材料層3aと非磁性材料層3aは材料および膜厚がそれぞれ異なっていても良い。
このように、記憶層3または固定層2として、磁性材料層と非磁性材料層が2周期以上繰り返し積層された構造を有するように構成することにより、膜形成後の熱処理による電気特性の変化が少ない、耐熱性の高い磁気抵抗素子を得ることができる。
【0046】
(下地層5について)
上述の記憶層の説明に示す通り、膜面に対して垂直方向を磁化容易軸とする垂直磁化膜を形成するには、原子稠密面が配向しやすい構造を取る必要がある。即ち、結晶配向性を面心立方(FCC)構造の(111)面、六方最密充填(HCP)構造の(001)面が配向するように制御する必要があり、そのため下地層材料及び積層構成の選択が重要となる。
【0047】
(下地層の積層構成)
図10は、下地層5及び記憶層3を含む積層構造を示す断面図である。この積層構造は、下部電極7と下地層5との間に、密着層8として、例えば、膜厚5nm程度のTaを設けた構造である。そして、下地層5は下地膜5a、5b、5cがこの順序で積層された積層構造を有する。また、下地層5上には、記憶層3として、例えば、膜厚2nm程度のCoPd層を設ける。CoPd層よりも上の構成は、図1乃至図5に示す通りである。
【0048】
第1乃至第5実施形態による磁気抵抗素子の下地層5のうち、下地膜5cはCoPdおよびCoPt合金と格子整合性する金属材料が好ましい。下地膜5aは下地膜5b、5cが平滑かつ結晶配向性が向上するような材料および構成が好ましい。下地膜5b,5cは、膜厚3nm程度のRu層、膜厚3nm程度のPt層などから構成するのが好ましい。
【0049】
次に、下地膜5a、5b、5cの具体的な材料について説明する。
【0050】
(下地膜の材料)
下地膜5cとしては、稠密構造を有する金属が用いられる。CoPd合金、CoPt合金と格子整合し、稠密構造を有する金属としては、Pt、Pd、Ir、Ru等が挙げられる。また、例えば、金属が1元素ではなく、Pt−Pd、Pt−Irのように、上述の金属が2元素、或いは3元素以上で構成される合金を用いてもよい。また、上述の金属と、Cu、Au、Al等のfcc金属との合金であるPt−Cu、Pd−Cu、Ir−Cu、Pt−Au、Ru−Au、Pt−Al、Ir−Al等や、Re、Ti、Zr、Hf等のhcp金属との合金であるPt−Re、Pt−Ti、Ru−Re、Ru−Ti、Ru−Zr、Ru−Hf等であってもよい。膜厚が厚すぎると平滑性が悪くなるため、膜厚範囲としては、30nm以下の範囲にあることが好ましい。下地膜5b、5cの積層構成とするのは、格子定数の異なる材料を積層することにより、CoPd合金、CoPt合金を形成前に格子定数を調整するためである。例えば、下地膜5bにRu、下地膜5cにPtを形成した場合、下地膜5cのPtは下地膜5bのRuの影響を受けて、バルクの格子定数とは異なる格子定数となる。但し、上述したように、合金を用いても格子定数を調整できるため、下地膜5b,5cはいずれかを省くこともできる。
【0051】
下地層5のうち、下地膜5aは、平滑性、及び下地膜5b,5cの稠密構造を有する金属の結晶配向性を向上させる目的で用いられる。具体的には、Ta等が挙げられる。さらに、下地膜5aの膜厚は、厚すぎると成膜に時間がかかり、生産性が低下する要因となり、また、薄すぎると上述の配向制御の効果を失うため、1nm乃至10nmの範囲にあることが好ましい。
【0052】
(非磁性層4について)
第1乃至第5実施形態における非磁性層4の材料としては、NaCl構造を有する酸化物が好ましい。具体的にはMgO、CaO、SrO、TiO、VO、NbOなどが挙げられる。これらのNaCl構造の酸化物は、
(i)Fe、Co、Niのいずれか、或いは2種以上を主成分として含む、例えば、アモルファスCoFeNiB合金上、或いは
(ii) 体心立方(BCC)構造で(100)優先配向面を有するFeCoNiのいずれか、或いは2種以上を主成分として含む合金上で、
結晶成長させると、(100)面を優先配向面として成長し易い。
【0053】
特に、B、C、Nなどを添加したCoFeX(Xは、B、C、Nの少なくとも1つを表す)のアモルファス合金上では、非常に容易に(100)面を優先配向させることが可能である。
【0054】
また、記憶層3の磁化方向と固定層2の磁化方向とが反平行の場合、スピン分極したΔバンドがトンネル伝導の担い手となるため、マジョリティースピン電子のみが伝導に寄与することとなる。この結果、磁気抵抗素子の伝導率が低下し、抵抗値が大きくなる。反対に、記憶層3の磁化方向と固定層2の磁化方向とが平行であると、スピン偏極していないΔバンドが伝導を支配するために、磁気抵抗素子の伝導率が上昇し、抵抗値が小さくなる。従って、Δバンドの形成が高TMRを発現させるためのポイントとなる。Δバンドを形成するためには、NaCl構造の酸化物からなる非磁性層4の(100)面と、記憶層3及び固定層2との界面の整合性が良くなければならない。
【0055】
NaCl構造の酸化物層からなる非磁性層4の(100)面での格子整合性をさらに良くするために、上述したように記憶層および固定層を積層構造とすることが好ましい。Δバンドを形成するという観点からは、記憶層3を形成する磁性膜3bおよび固定層2を形成する磁性膜2aとして、非磁性層4の(100)面での格子不整合が5%以下となるような材料を選択することが、より好ましい。
【0056】
(バイアス層について)
図4または図5に示すように固定層2とキャップ層6の間に、非磁性層21と、バイアス層(シフト調整層)22を配置してもよい。これにより、固定層2からの漏れ磁場による記憶層3の反転電流のシフトを緩和及び調整することが可能となる。
【0057】
非磁性層21は、固定層2とバイアス層22とが熱工程によって混ざらない耐熱性、及びバイアス層22を形成する際の結晶配向を制御する機能を具備することが望ましい。さらに、非磁性層21の膜厚が厚くなるとバイアス層22と記憶層3との距離が離れるため、バイアス層22から記憶層3に印加されるシフト調整磁界が小さくなってしまう。このため、非磁性層21の膜厚は、5nm以下であることが望ましい。
【0058】
バイアス層22は、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する、強磁性材料から構成される。具体的には、固定層2で挙げた材料を用いることができる。但し、バイアス層22は、固定層2に比べて記憶層3から離れているため、記憶層3に印加される漏れ磁場をバイアス層22によって調整するためには、バイアス層22の膜厚、或いは飽和磁化Msの大きさを固定層2より大きくする設定する必要がある。
【0059】
即ち、固定層2の膜厚及び飽和磁化をt、MS2、バイアス層22の膜厚及び飽和磁化をt22、MS22とすると、以下の関係式を満たす必要がある。
S2×t<MS23×t32 ・・・(2)
例えば、素子サイズ50nmの加工を想定した場合、反転電流のシフトを相殺するためには、固定層2に飽和磁化Msが1000emu/cm、膜厚が5nmの磁性材料を用いたとすると、非磁性層21の膜厚は3nm、バイアス層22には飽和磁化Msが1000emu/cm、膜厚が15nm程度のバイアス層特性が要求される。
【0060】
また、上述のシフトをキャンセルする効果を得るには、固定層2とバイアス層22との磁化方向は反平行に設定される必要がある。この関係を満たすためには、固定層2の保磁力Hc2とバイアス層22の保磁力Hc22との間には、Hc2>Hc22、或いはHc2<Hc22の関係を満たす材料を選択すればよい。この場合、予めマイナーループ(Minor Loop)着磁により保磁力の小さい層の磁化方向を反転させることにより、固定層2とバイアス層22との磁化方向は反平行に設定することが可能となる。
【0061】
また、非磁性層21を介して固定層2及びバイアス層22を反強磁性結合(SAF(Synthetic Anti-Ferromagnetic)結合)させることによっても、同様に固定層2とバイアス層22との磁化方向は反平行に設定することが可能となる。具体的には、非磁性層21の材料として、例えば、ルテニウム(Ru)を用い、固定層2とバイアス層22との磁化方向を反平行に結合させることができる。これにより、バイアス層22によって固定層2から出る漏れ磁界を低減することができ、結果的に、記憶層3の反転電流のシフトを低減することができる。この結果、素子間での記憶層3の反転電流のばらつきを低減することも可能となる。
【0062】
以上、述べたように、第1乃至第5実施形態によれば、記憶層または固定層として、磁性材料層と非磁性材料層が2周期以上繰り返し積層された構造を有するように構成することにより、膜形成後の熱処理による電気特性の変化が少ない、耐熱性の高い磁気抵抗素子を得ることができる。すなわち、熱的に安定であると同時に低電流での磁化反転が可能なスピン注入書き込み方式のための磁気抵抗素子を得ることができる。
【0063】
また、非磁性層4としてNacl構造の酸化物を用い、記憶層3または固定層2を積層構造とすることにより、非磁性層4の(100)面での格子整合性をさらに良くすることができる。
【0064】
(第6実施形態)
第6実施形態による磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)について図11および図12を参照して説明する。この第6実施形態のMRAMは、第1乃至第5実施形態のいずれかの磁気抵抗素子を記憶素子として用いた構成となっている。以下の実施形態では、磁気抵抗素子を第1実施形態の磁気抵抗素子1であるとして説明する。
【0065】
図11は、第6実施形態のMRAMの構成を示す回路図である。この第6実施形態のMRAMは、マトリクス状に配列される複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ40を備えている。メモリセルアレイ40には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ40には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
【0066】
ビット線BLとワード線WLとの交差部分には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、磁気抵抗素子1、及びNチャネルMOSトランジスタからなる選択トランジスタ41を備えている。磁気抵抗素子1の一端は、ビット線BLに接続されている。磁気抵抗素子1の他端は、選択トランジスタ41のドレイン端子に接続されている。選択トランジスタ41のゲート端子は、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ41のソース端子は、ビット線/BLに接続されている。
【0067】
ワード線WLには、ロウデコーダ42が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路44及び読み出し回路45が接続されている。書き込み回路44及び読み出し回路45には、カラムデコーダ43が接続されている。各メモリセルMCは、ロウデコーダ42及びカラムデコーダ43により選択される。
【0068】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。先ず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されるワード線WLが活性化される。これにより、選択トランジスタ41がターンオンする。
【0069】
ここで、磁気抵抗素子1には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流Iwが供給される。具体的には、磁気抵抗素子1に左から右へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路44は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、磁気抵抗素子1に右から左へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路44は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
【0070】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、選択されるメモリセルMCの選択トランジスタ41がターンオンする。読み出し回路45は、磁気抵抗素子1に、例えば右から左へ流れる読み出し電流Irを供給する。そして、読み出し回路45は、この読み出し電流Irに基づいて、磁気抵抗素子1の抵抗値を検出する。このようにして、磁気抵抗素子1に記憶されるデータを読み出すことができる。
【0071】
次に、MRAMの構造について図12を参照して説明する。図12は、1個のメモリセルMCを示す断面図である。P型半導体基板51の表面領域には、素子分離絶縁層が設けられ、この素子分離絶縁層が設けられていない半導体基板51の表面領域が素子を形成する素子領域(active area)となる。素子分離絶縁層は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により構成される。STIとしては、例えば、酸化シリコンが用いられる。
【0072】
半導体基板51の素子領域には、互いに離間したソース領域S及びドレイン領域Dが設けられている。このソース領域S及びドレイン領域Dはそれぞれ、半導体基板51内に高濃度のN型不純物を導入して形成されるN型拡散領域から構成される。ソース領域S及びドレイン領域D間で半導体基板51上には、ゲート絶縁膜41Aを介して、ゲート電極41Bが設けられている。ゲート電極41Bは、ワード線WLとして機能する。このようにして、半導体基板51には、選択トランジスタ41が設けられている。
【0073】
ソース領域S上には、コンタクト52を介して配線層53が設けられている。配線層53は、ビット線/BLとして機能する。ドレイン領域D上には、コンタクト54を介して引き出し線55が設けられている。引き出し線55上には、下部電極7及び上部電極9に挟まれた磁気抵抗素子1が設けられている。上部電極9上には、配線層56が設けられている。配線層56は、ビット線BLとして機能する。また、半導体基板51と配線層56との間は、例えば、酸化シリコンからなる層間絶縁層57で満たされている。
【0074】
以上、詳述したように、第6実施形態によれば、磁気抵抗素子1を用いてMRAMを構成することができる。尚、磁気抵抗素子1は、スピン注入型の磁気メモリの他、磁壁移動型の磁気メモリとして使用することも可能である。
【0075】
第6実施形態で示したMRAMは、様々な装置に適用することが可能である。以下に、MRAMのいくつかの適用例について説明する。
【0076】
(適用例1)
図13は、デジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を抽出して示している。このモデムは、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)100、アナログ−デジタル(A/D)コンバータ110、デジタル−アナログ(D/A)コンバータ120、送信ドライバ130、及び受信機増幅器140等を備えている。
【0077】
図13では、バンドパスフィルタを省略しており、その代わりに回線コードプログラム(DSPで実行される、コード化される加入者回線情報、伝送条件等(回線コード:QAM、CAP、RSK、FM、AM、PAM、DWMT等)に応じてモデムを選択、動作させるためのプログラム)を保持するための種々のタイプのオプションのメモリとして、第6実施形態のMRAM170と、EEPROM180とを示している。
【0078】
なお、本適用例では、回線コードプログラムを保持するためのメモリとしてMRAM170とEEPROM180との2種類のメモリを用いているが、EEPROM180をMRAMに置き換えてもよい。即ち、2種類のメモリを用いず、MRAMのみを用いるように構成してもよい。
【0079】
(適用例2)
図14は、別の適用例として、携帯電話端末300を示している。通信機能を実現する通信部200は、送受信アンテナ201、アンテナ共用器202、受信部203、ベースバンド処理部204、音声コーデックとして用いられるDSP(デジタル信号処理回路)205、スピーカ(受話器)206、マイクロホン(送話器)207、送信部208、及び周波数シンセサイザ209等を備えている。
【0080】
また、この携帯電話端末300には、当該携帯電話端末300の各部を制御する制御部220が設けられている。制御部220は、CPU221、ROM222、第6実施形態のMRAM223、及びフラッシュメモリ224がバス225を介して接続されて形成されるマイクロコンピュータである。上記ROM222には、CPU221において実行されるプログラムや表示用のフォント等の必要となるデータが予め記憶されている。
【0081】
MRAM223は、主に作業領域として用いられるものであり、CPU221がプログラムの実行中において計算途中のデータ等を必要に応じて記憶したり、制御部220と各部との間でやり取りするデータを一時的に記憶したりする場合等に用いられる。また、フラッシュメモリ224は、携帯電話端末300の電源がオフされても、例えば、直前の設定条件等を記憶しておき、次の電源オン時に同じ設定にするような使用方法をする場合に、それらの設定パラメータを記憶しておくものである。これによって、携帯電話端末300の電源がオフにされても、記憶されている設定パラメータを消失してしまうことがない。
【0082】
また、この携帯電話端末300には、音声データ再生処理部211、外部出力端子212、LCDコントローラ213、表示用のLCD(液晶ディスプレイ)214、及び呼び出し音を発生するリンガ215等が設けられている。音声データ再生処理部211は、携帯電話端末300に入力される音声データ(或いは、後述する外部メモリ240に記憶されるオーディオ情報(音声データ))を再生する。再生される音声データ(オーディオ情報)は、外部出力端子212を介してヘッドフォンや携帯型スピーカ等に伝えることにより、外部に取り出すことが可能である。
【0083】
このように、オーディオ再生処理部211を設けることにより、オーディオ情報の再生が可能となる。LCDコントローラ213は、例えばCPU221からの表示情報を、バス225を介して受け取り、LCD214を制御するためのLCD制御情報に変換し、LCD214を駆動して表示を行わせる。
【0084】
さらに、携帯電話端末300には、インターフェース回路(I/F)231,233,235、外部メモリ240、外部メモリスロット232、キー操作部234、及び外部入出力端子236等が設けられている。上記外部メモリスロット232にはメモリカード等の外部メモリ240が挿入される。この外部メモリスロット232は、インターフェース回路(I/F)231を介してバス225に接続される。
【0085】
このように、携帯電話端末300にスロット232を設けることにより、携帯電話端末300の内部の情報を外部メモリ240に書き込んだり、或いは外部メモリ240に記憶される情報(例えばオーディオ情報)を携帯電話端末300に入力したりすることが可能となる。
【0086】
キー操作部234は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続される。キー操作部234から入力されるキー入力情報は、例えば、CPU221に伝えられる。外部入出力端子236は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続され、携帯電話端末300に外部から種々の情報を入力したり、或いは携帯電話端末300から外部へ情報を出力したりする際の端子として機能する。
【0087】
なお、本適用例では、ROM222、MRAM223、及びフラッシュメモリ224を用いているが、フラッシュメモリ224をMRAMに置き換えてもよいし、さらにROM222もMRAMに置き換えることも可能である。
【0088】
(適用例3)
図15乃至図19は、MRAMをスマートメディア等のメディアコンテンツを収納するカード(MRAMカード)に適用した例をそれぞれ示している。図15に示すように、MRAMカード本体400には、MRAMチップ401が内蔵されている。このカード本体400には、MRAMチップ401に対応する位置に開口部402が形成され、MRAMチップ401が露出されている。この開口部402にはシャッター403が設けられており、当該MRAMカードの携帯時にMRAMチップ401がシャッター403で保護されるようになっている。このシャッター403は、外部磁場を遮蔽する効果のある材料、例えばセラミックからなっている。
【0089】
データを転写する場合には、シャッター403を開放してMRAMチップ401を露出させて行なう。外部端子404は、MRAMカードに記憶されるコンテンツデータを外部に取り出すためのものである。
【0090】
図16及び図17は、MRAMカードにデータを転写するための、カード挿入型の転写装置を示している。データ転写装置500は、収納部500aを有している。この収納部500aには、第1MRAMカード550が収納されている。収納部500aには、第1MRAMカード550に電気的に接続される外部端子530が設けられており、この外部端子530を用いて第1MRAMカード550のデータが書き換えられる。
【0091】
エンドユーザの使用する第2MRAMカード450を、矢印で示すように転写装置500の挿入部510より挿入し、ストッパ520で止まるまで押し込む。このストッパ520は、第1MRAM550と第2MRAMカード450を位置合わせするための部材としても働く。第2MRAMカード450が所定位置に配置されると、第1MRAMデータ書き換え制御部から外部端子530に制御信号が供給され、第1MRAM550に記憶されるデータが第2MRAMカード450に転写される。
【0092】
図18は、はめ込み型の転写装置を示す断面図である。この転写装置500は、矢印で示すように、ストッパ520を目標に、第1MRAM550上に第2MRAMカード450をはめ込むように載置するタイプである。転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0093】
図19は、スライド型の転写装置を示す断面図である。この転写装置500は、CD−ROMドライブやDVDドライブと同様に、転写装置500に受け皿スライド560が設けられており、この受け皿スライド560が矢印で示すように移動する。受け皿スライド560が破線の位置に移動したときに第2MRAMカード450を受け皿スライド560に載置し、第2MRAMカード450を転写装置500の内部へ搬送する。
【0094】
ストッパ520に第2MRAMカード450の先端部が当接するように搬送される点、及び転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0095】
第6実施形態のMRAMは、高速ランダム書き込み可能なファイルメモリ、高速ダウンロード可能な携帯端末、高速ダウンロード可能な携帯プレーヤー、放送機器用半導体メモリ、ドライブレコーダ、ホームビデオ、通信用大容量バッファメモリ、防犯カメラ用半導体メモリなどに対して用いることができ、産業上のメリットは多大である。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1 磁気抵抗素子
2 固定層(強磁性層)
2a 磁性膜
2b 磁性膜
3 記憶層(磁性層)
3a 磁性膜
3b 磁性膜
4 非磁性層(トンネルバリア層)
5 下地層
6 キャップ層
7 下部電極
8 密着層
9 上部電極
21 非磁性層
22 バイアス層(シフト調整層)
40 メモリセルアレイ
41 選択トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第1磁性層と、
膜面垂直方向に磁化容易軸を有する第2磁性層と、
前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備え、
前記第1磁性層および前記第2磁性層のうちの少なくとも一方が、第1磁性膜と、前記非磁性層側に設けられた第2磁性膜とが積層された構造を有し、
前記第2磁性膜が、磁性材料層と非磁性材料層とが少なくとも2周期以上繰り返して積層された構造を有し、
前記第2磁性膜の前記非磁性材料層が、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含み、
前記第1磁性層と前記第2磁性層との間を、前記非磁性層を介して電流を流すことにより前記第1磁性層および前記第2磁性層の一方の磁化方向が可変となることを特徴する磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第2磁性膜の前記磁性材料層のうち、前記非磁性層に最も近い磁性材料層がCo100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第2磁性膜の前記磁性材料層のうち、前記非磁性層から最も遠い磁性材料層がCo100−xFe100−y(x<25at%、0≦y≦30at%)であることを特徴とする請求項1または2記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1磁性層および前記第2磁性層のうちの片方が固定層であって、この固定層に対して前記非磁性層と反対側に、前記固定層の磁化方向と反平行な方向の磁化を有する第3磁性層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気抵抗素子を有するメモリセルと、
前記磁気抵抗素子の一端が電気的に接続される第1配線と、
前記磁気抵抗素子の他端が電気的に接続される第2配線と、
を備えたことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項6】
前記メモリセルは、前記磁気抵抗素子の一端と前記第1配線との間に設けられる選択トランジスタを更に含むことを特徴とする請求項5記載の磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−64774(P2012−64774A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208042(P2010−208042)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】