説明

積層構造体、半導体装置、積層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法

【課題】密着性ガードリングを有する積層構造体及び半導体装置を提供する。
【解決手段】基板上において、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上に形成された導電層と、導電層を覆うように形成された絶縁層を有し、基板上に形成された濡れ性変化層において、導電層が複数形成される回路形成領域の周囲を囲むように、高表面エネルギー領域が形成され、高表面エネルギー領域上に絶縁層を形成することにより、濡れ性変化層と絶縁層との間に密着性ガードリング領域が形成されていることを特徴とする積層構造体を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性ガードリングを備えた構造の積層構造体、半導体装置、積層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体素子や電子回路等に用いられる電気配線等の形成には、フォトリソグラフィー法が用いられている。フォトリソグラフィー法は微細な電気配線のパターンを形成することができるが、設備が高価なものとなり、工程が複雑であること等から製造コストの上昇の原因となっている。製造コストを低減するために、近年、金属微粒子を含む金属微粒子分散液を直接基板等に塗布することにより電気配線パターンを形成する技術が注目されており種々の方式の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ナノメタルインクと称する粒径0.001〜0.1〔μm〕の金属超微粒子を有機溶媒中に均一に分散させて形成した金属ペーストを基板等の表面に塗布した後、乾燥させ焼成することにより、膜厚0.01〜1〔μm〕の金属皮膜を形成する方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、エネルギーの付与によって臨界表面張力が変化する濡れ性変化材料を用い、容易に微細パターンの形成をすることができる積層構造体が開示されている。この積層構造体の導電層は、濡れ性変化材料からなる膜において、撥水性の低い高表面エネルギー部に電極を形成することが可能な金属微粒子分散液を用いているため、設備が高価になることはなく、製造工程も複雑なものではない。
【0005】
一方、特許文献3、4では、シリコン(Si)を用いた半導体において、スクライビング時にチップ端部でチッピングや層間膜のクラックが発生した場合の対策として、メモリやロジックなどの電気回路が形成されている回路形成領域に進展するのを防ぐため、チップ周辺に沿うように銅(Cu)等からなる金属で形成されたガードリングを備えている半導体装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献5は、ガードリングによる膜の密着性を改善するとともに、高速性能を実現するため、低誘電率の配線層間絶縁膜を用いる。このような低誘電率の層間絶縁膜は、熱による収縮が大きいため金属等の膜との密着性が低下し、また、吸湿性も高いため金属のコロージョンや膜剥がれが生じやすく、これに対応したガードリング構造を採用した半導体装置が開示されている。
【特許文献1】特開平03−281783号公報
【特許文献2】特開2005−310962号公報
【特許文献3】特開平09−45766号公報
【特許文献4】特開2004−304124号公報
【特許文献5】特開2006−310962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、ナノメタルインクと称する金属微粒子を水や有機溶媒に分散させた金属微粒子分散液から形成される金属配線は、従来の真空蒸着やスパッタリングにより形成された金属配線と比較して、下地となる基板との密着性が低いといった問題点を有していた。
【0008】
また、特許文献2に記載されている方法では、濡れ性変化材料の低表面エネルギー部では、撥水性が高いため水分が吸着し難いといった利点があるものの、逆に撥水性が高いことから、濡れ性変化材料に形成される膜の付着力は弱くなる可能性があり、膜剥がれの原因となることや、濡れ性変化材料と形成された膜との界面において、端面から水分等が侵入し、内部に形成されている半導体素子の信頼性を低下させるおそれがある。
【0009】
また、特許文献3、4、5に記載されている方法では、形成されるガードリングの構造は、上下の配線層とそれらを導通させるビアを用い、層間絶縁膜をビアで埋設し、配線層で壁を形成した構造である。このため構造上複雑であり、シリコン等を用いた半導体材料において、このようなガードリングを形成するためには、フォトリソグラフィーにより形成する必要があり、設備が高価になるとともに、工程が複雑となり、製造される半導体素子が高価なものとなってしまう。更には、これらに記載されているガードリングは、端面から水分等の浸入を防ぐものではないため、水分等による半導体素子の劣化を防ぐことはできない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、高価な設備を用いることなく、安価で密着性の短時間に水分等の浸入を防ぐことのできる密着性ガードリングの形成された積層構造体、半導体装置、積層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板と、前記基板上において、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上に形成された導電層と、前記導電層を覆うように形成された絶縁層と、を有し、前記基板上に形成された濡れ性変化層において、前記導電層が複数形成される回路形成領域の周囲を囲むように、高表面エネルギー領域が形成され、前記高表面エネルギー領域上に前記絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性ガードリング領域が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、基板と、前記基板上において、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上に形成された導電層と、前記導電層を覆うように形成された絶縁層と、を有し、前記基板上に形成された濡れ性変化層において、前記導電層が複数形成される回路形成領域の周囲を囲むように、高表面エネルギー領域が形成され、前記高表面エネルギー領域上に前記導電層と同一の材料により構成される金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性ガードリング領域が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記金属層は、回路形成領域の周囲に設けられるダミーパターンとしての機能を有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記金属層上の一部に前記絶縁層が形成されており、前記金属層及び前記絶縁層上に第2の金属層が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記密着性ガードリング領域内の濡れ性変化層において、前記導電層の形成されない部分の前記濡れ性変化層の一部に高表面エネルギー領域が形成され、前記高表面エネルギー領域上に前記絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性補強領域を形成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記密着性ガードリング領域内の濡れ性変化層において、前記導電層の形成されない部分の前記濡れ性変化層の一部に高表面エネルギー領域が形成され、前記高表面エネルギー領域上に前記金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性補強領域を形成したことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記濡れ性変化層は、ポリイミドであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記記載の積層構造体と、半導体層と、絶縁層と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記半導体層は、有機半導体材料により構成されるものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記濡れ性変化層は、前記半導体層により形成される半導体素子のゲート絶縁膜として機能するものであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記記載の半導体装置と、画像を表示するための画像表示素子と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、電気配線の形成される基板上に、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー部が高表面エネルギー部へと変化する材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域を高表面エネルギー領域とする工程と、前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布することにより、前記電気配線が形成される回路形成領域内の前記高表面エネルギー領域に導電層を形成する工程と、前記回路形成領域を囲む前記高表面エネルギー領域上に絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性ガードリング領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、電気配線の形成される基板上に、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー部が高表面エネルギー部へと変化する材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域を高表面エネルギー領域とする工程と、前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布し、前記電気配線が形成される回路形成領域内の高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させることにより導電層を形成するとともに、前記回路形成領域を囲む高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させることにより金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性ガードリング領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、前記エネルギーは紫外線であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、前記金属微粒子分散液を塗布する方法は、インクジェット法であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、電気回路の形成される基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極に接してゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜を介し、前記ゲート電極とは反対側に、ソース電極を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜を介し、前記ゲート電極とは反対側に、ドレイン電極を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接し半導体層を形成する工程と、からなる半導体装置の製造方法であって、前記基板上の前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域における濡れ性変化層を高表面エネルギー領域とする工程と、前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布することにより、前記高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させ、前記ゲート電極、前記ソース電極、前記ドレイン電極のいずれかと、前記電気回路の形成される回路形成領域を囲む密着性ガードリング領域とを同時に形成することを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、前記エネルギーは紫外線であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、前記金属微粒子分散液を塗布する方法は、インクジェット法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高価な設備を用いることなく短時間で、密着性が高く水分等の浸入を防ぐことのできる密着性ガードリングの形成を行うことができるため、低コストで密着性が高く水分等の浸入を防ぐことのできる密着性ガードリングの形成された積層構造体、半導体装置、積層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。尚、本発明における密着性ガードリングとは、後述するように、回路形成領域の周辺において、強い付着力により密着させた領域を形成することにより、膜剥がれを防止するとともに、半導体素子の形成される回路領域への水分の浸入を防ぐことを可能とするものである。特に、有機半導体素子等水分の影響を受けやすい素子の場合には、効果を発揮するものである。
【0031】
〔第1の実施の形態〕
本発明にかかる第1の実施の形態について説明する。本実施の形態は、密着性ガードリング領域を有する基板上に導電層の形成された積層構造体である。図1及び図2に基づき本実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態における積層構造体の上面図であり、図2は、図1における波線A1−A2における断面図を示す。
【0032】
本実施の形態における積層構造体は、基板11上に濡れ性変化層12が形成されており、濡れ性変化層12上では、回路形成領域16において導電層13が形成されると共に金属層14が形成され、この金属層14と濡れ性変化層12との間に密着性ガードリング領域17が形成され、更にその上に、絶縁層15が形成された構造のものである。
【0033】
基板11は、ガラス基板やフィルム基板等の配線、半導体回路や表示素子を形成することができるものであれば特に限定されるものではない。フィルム基板としては、ポリイミド(PI)基板、ポリエーテルサルホン(PES)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板等を用いることができる。
【0034】
また、濡れ性変化層12は、濡れ性変化材料により構成されており、熱、紫外線、電子線、プラズマ等のエネルギーを付与することにより臨界表面張力(表面自由エネルギー)が変化する材料を含有している。この濡れ性変化層12に、エネルギーを付与することにより、少なくとも臨界表面張力が異なる2つの領域、即ち、臨界表面張力が大きい高表面エネルギー領域12b、12cと、臨界表面張力が小さい低表面エネルギー領域12aが形成される。具体的には、濡れ性変化層12のエネルギーを付加する前の状態では、低表面エネルギー状態であるため、所定の領域に紫外線等の照射を行うことにより、紫外線の照射された領域が低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化し、高表面エネルギー領域12b、12cが形成される。
【0035】
尚、微細なパターンを形成するといった観点からは、波長の短い紫外線や電子線が望ましい。電子線では、照射される材料が有機材料である場合にはダメージを与え絶縁性能が低下する可能性があり、更には、真空装置が必要になり、スループットも低下するといった不利な点がある。これに対し、紫外線では、照射される材料が有機材料であっても受けるダメージが比較的小さく、絶縁性能の低下も比較的低い、また、フォトマスクによる一括露光が可能であり、スループットが高いといった点を有しており、エネルギー照射の手段としては望ましい。
【0036】
更に、本実施の形態において用いる濡れ性変化層12は、一種類の材料からなるものであっても、複数の材料を混合したものであってもよく、単層のみならず2層以上の積層膜により形成されているものであってもよい。積層膜の場合では、例えば、絶縁性能を向上させるため電気的な絶縁性に優れた材料により構成される層と、紫外線照射等のエネルギーの付与により表面自由エネルギーの変化する割合が比較的大きい層から構成することが可能であり、この場合には、各々の機能を各々の膜に分離させることが可能である。
【0037】
また、複数の材料を混合し単層膜を形成する場合では、電気的な絶縁性に優れた材料と紫外線照射等のエネルギーの付与により表面自由エネルギーの変化する割合が比較的大きい材料とを混合したものにより膜を形成することも可能であり、この場合、膜厚方向に組成傾斜を持った膜とすることにより、より特性を高めることができる。
【0038】
このような電気的な絶縁性に優れた材料としては、有機材料では、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、ポリビニルブチラール等が挙げられ、ポリビニルフェノールやポリビニルアルコールは適当な架橋剤によって、架橋して用いてもよい。無機材料では、SiO(シリカ)、TiO(酸化チタン)等が挙げられる。
【0039】
また、濡れ性変化層12を構成する材料は、有機材料であっても無機材料であってもよいが、印刷法により濡れ性変化層12を形成する場合では、有機材料が形成する上で好ましい。また、絶縁性を高めるために、有機材料に無機材料を少量添加した材料を用いることも可能である。紫外線照射等のエネルギーの付与によって表面自由エネルギーの変化する割合が相対的に大きい有機材料としては、側鎖に疎水性基を有する高分子材料が挙げられる。側鎖に疎水性基を有することで、紫外線が照射される前の状態では、膜の表面エネルギーは低いため、紫外線照射後における親水と撥水との差を大きくとることが可能となり、電極等を形成したい領域に確実に電極を形成することが可能となる。
【0040】
尚、臨界表面張力が変化する材料は、紫外線照射によりある程度分子鎖が切断されても剛直な構造であるため、充填性が良好なポリイミドを主鎖に導入することによって、吸湿性を抑制し、絶縁性を高め、より信頼性の高い電気配線を形成することができる。具体的なポリイミドの材料としては、ポリアミック酸を加熱することにより脱水縮合反応で生じる熱硬化型ポリイミドと、溶媒に可溶な可溶性ポリイミドとがある。可溶性ポリイミドでは、溶媒に可溶させた塗布液を塗布した後、200〔℃〕未満の低温で溶媒を揮発させることにより形成することができる。一方、熱硬化型ポリイミドでは、脱水縮合反応が起こる温度となる200〔℃〕以上に加熱することにより形成することができる。ポリイミドを用いることにより、絶縁性が高く、信頼性の高い絶縁性を確保される濡れ性変化層を形成することが可能となる。
【0041】
本実施の形態では、形成される濡れ性変化層の膜厚は、厚さが30〔nm〕〜3〔μm〕であることが好ましく、更には、50〔nm〕〜1〔μm〕であることが好ましい。厚さが30〔nm〕未満では、絶縁性、ガスバリア性、防湿性等のバルク体としての特性が損なわれ、本実施の形態における効果を発揮し得なくなり、また、厚さが3〔μm〕を超える場合では、表面状態がこれより薄い場合と比べ変化してしまい、本実施の形態における効果を発揮し得なくなるからである。
【0042】
尚、絶縁層上に濡れ性変化層を形成する場合においては、紫外線照射により絶縁層が影響を受けることを防ぐため、濡れ性変化層は、絶縁層に用いられる絶縁材料よりも紫外線における光吸収係数が大きな材料であることが好ましい。
【0043】
濡れ性変化層12における高表面エネルギー領域12b、12c上に形成する導電層13は、水溶性の金属粒子分散液を塗布した後、焼成することにより形成される。具体的に、水溶性の金属微粒子分散液を構成する金属微粒子としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Bi(ビスマス)、Cu(銅)、In(インジウム)、Ni(ニッケル)、Pb(鉛)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Sn(スズ)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Zn(亜鉛)、これらの合金、またはハロゲン化銀の微粒子を用いることができる。特に、抵抗率の低いAgやCuが好ましい。
【0044】
これらの微粒子は、材料を分散させるため、微粒子となる導電体の表面を有機物、または導電材料によりコーティングしたものが用いられる。これら表面コーティングを行う材料は、導電性を有することが好ましいが、絶縁性を有するものであっても加熱処理により除去することができるものであれば使用することが可能である。
【0045】
導電材料を含有する塗布液を、濡れ性変化層12の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等が挙げられる。濡れ性変化層12の表面エネルギーの違いにより、微細なパターンを形成するためには、より小さな液滴を供給することが可能なインクジェット法が好ましく、スピンコート法と比較して材料利用効率も高いため、低コストなプロセスを実現することが可能となる。
【0046】
また、絶縁層15を構成する材料は、ポリビニルアルコール、セルロース系ポリマー、シリコンポリマー、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、高分子量ポリエーテル、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、ブチルメタクリレート樹脂等のポリマー材料を一般的な溶媒、必要に応じて可塑剤、フィラー、粘度調整剤を混合することにより、各種印刷が可能な絶縁ペーストを作製することができる。有機材料としては、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース樹脂等を含む材料が挙げられる。また、無機材料としては、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、TiO(酸化チタン)、ZnO(酸化亜鉛)、BaTiO(チタン酸バリウム)等が挙げられる。特に、SiO、Al、ZnO等の材料は比較的誘電率が低く好ましい。
【0047】
この絶縁層14を塗布により形成する方法としては、スピンコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法等が挙げられるが、特に、スクリーン印刷法やグラビア印刷法が好ましい。
【0048】
本実施の形態では、このような構成からなる積層構造体において電気回路が形成される回路形成領域16の周辺の濡れ性変化層12において、同一平面上に密着性ガードリング領域17を形成する。
【0049】
次に、図3に基づいて本実施の形態における積層構造体の製造方法について説明する。
【0050】
最初に、図3(a)に示すように、前述した方法により基板11上に濡れ性変化層12を形成する。
【0051】
次に、図3(b)に示すように、基板11上に濡れ性変化層12の形成されたものについて、マスク20を用いて露光装置により紫外線照射を行う。これにより、紫外線が照射された高表面エネルギー領域12b、12cと、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域12aが形成される。尚、マスク20は、ガラス等の基板上にCr(クロム)等からなるパターンが形成されたものであり、Crのパターンが形成された領域には紫外線は照射されない。これにより、回路形成領域16における電気配線となる導電層13が形成される領域と、密着性ガードリングが形成される領域とが、同時に紫外線が照射され、高表面エネルギー領域12b、12cが形成される。これらの領域は、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域12aと比べ濡れ性が高くなっている。
【0052】
次に、図3(c)に示すように、前述した水溶性の金属微粒子分散液を塗布することにより、金属微粒子が、高表面エネルギー領域12b、12cに密集して集まる。この後、焼成することにより、回路形成領域16には回路を形成するための電気配線となる導電層13が形成され、回路形成領域16の周辺には、密着性ガードリング領域17を形成するための金属層14が形成される。
【0053】
次に、図3(d)に示すように、導電層13及び金属層14を覆うように絶縁層15を形成する。これにより、本実施に形態にかかる積層構造体が作製される。
【0054】
尚、導電層13と密着性ガードリング領域を形成するための金属層14は、本実施の形態において示したように、同じ金属微粒子分散液を用いてもよく、異なる金属微粒子分散液を用いてもよい。
【0055】
また、濡れ性変化層12の高表面エネルギー領域では、濡れ性が高くなっているため、濡れ性変化層12の他の領域となる低表面エネルギー領域と比べると、その上に形成される膜の密着性は高くなる。このため、回路形成領域16の周辺部に密着性ガードリング領域17を形成することにより、形成される積層構造体における絶縁層14との密着性を高め、膜剥がれを防止するとともに、積層構造体の端面から水分等が浸入することを防ぐことができる。尚、密着性ガードリング領域17において、金属膜14を形成することにより、この領域への水分の浸入を防ぐことができ、より一層積層構造体の端面からの水分等の浸入を防ぐことが可能となる。
【0056】
本実施の形態では、形成される密着性ガードリング領域17の幅は、水分等の浸入を防ぎ、密着性を確保するためには、少なくとも1〔μm〕以上必要となる。
【0057】
〔第2の実施の形態〕
本発明にかかる第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、密着性ガードリング領域を有する基板上に導電層の形成された積層構造体である。尚、第1の実施の形態と異なり密着性ガードリング領域に金属層が形成されていない構成のものである。
【0058】
図4に示すように、本実施の形態における積層構造体は、基板21上に濡れ性変化層22が形成されており、濡れ性変化層22上の回路形成領域26において導電層23が形成されている。密着性ガードリング領域27における濡れ性変化層22は高表面エネルギー領域22cとなっており、この高表面エネルギー領域22c及び導電層23上には、絶縁層25が形成された構造のものである。
【0059】
本実施の形態では、このような構成からなる積層構造体において、電気回路が形成される回路形成領域26の周辺における濡れ性変化層22の高表面エネルギー領域22cと絶縁層25との間に密着性ガードリング領域27が形成されている。
【0060】
次に、図5に基づいて本実施の形態における積層構造体の製造方法について説明する。尚、形成方法や材料等は第1の実施の形態と同様である。
【0061】
最初に、図5(a)に示すように、前述した方法により基板21上に濡れ性変化層22を形成する。
【0062】
次に、図5(b)に示すように、基板21上に濡れ性変化層22の形成されたものについて、マスク30を用いて露光装置により紫外線照射を行う。これにより、紫外線が照射された高表面エネルギー領域22b、22cと、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域22aが形成される。尚、マスク30は、ガラス等の基板上にCr(クロム)等からなるパターンが形成されたものであり、Crのパターンが形成された領域には紫外線は照射されない。これにより、回路形成領域26における電気配線となる導電層23が形成される領域と、密着性ガードリングが形成される領域とが同時に紫外線が照射され、高表面エネルギー領域22b、22cが形成される。これらの領域は、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域22aと比べ濡れ性が高くなっている。
【0063】
次に、図5(c)に示すように、前述した水溶性の金属微粒子分散液を塗布することにより、金属微粒子が、高表面エネルギー領域22bに密集して集まる。この後、焼成することにより、回路形成領域26には回路を形成するための電気配線となる導電層23が形成される。
【0064】
次に、図5(d)に示すように、導電層23及び濡れ性変化層22における高表面エネルギー領域22cを覆うように絶縁層25を形成する。これにより、本実施に形態にかかる積層構造体が作製される。
【0065】
尚、本実施の形態では、密着性ガードリング領域27は、濡れ性変化層22における高表面エネルギー領域22c上に絶縁層25が形成されることにより濡れ性変化層22と絶縁層25との間に形成される。即ち、濡れ性変化層22における高表面エネルギー領域22cは、低表面エネルギー領域22aと比べ濡れ性が高く、成膜等を行った場合に、強い付着力により密着性が高いものとなる。このため、濡れ性変化層22における高表面エネルギー領域22c上に絶縁層25を形成することにより密着性ガードリング領域27が形成される。
【0066】
本実施の形態における密着性ガードリング領域27は、金属層が形成されていないため製造プロセス等が簡略化されるとともに、金属材料の材料使用効率を高めることができる。
【0067】
尚、形成される密着性ガードリング領域27の幅は、水分等の浸入を防ぎ、密着性を確保するためには、少なくとも1〔μm〕以上必要となる。
【0068】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、密着性ガードリング領域の配置に関するものである。図6に基づき本実施の形態について説明する。
【0069】
図6(a)は、2重の密着性ガードリング領域を設けた積層構造体の上面図である。具体的には、基板31に設けられた回路形成領域32を取り囲むように、第1の密着性ガードリング領域33、第2の密着性ガードリング領域34を形成した構成のものである。このように密着性ガードリング領域を二重にすることにより、密着性をより一層向上させることができるとともに、第1の密着性ガードリング領域33または第2の密着性ガードリング領域34のどちらか一方に万が一欠陥が生じた場合であっても、濡れ性変化層と絶縁層との界面からの水分等の浸入を防ぐことができる。尚、本実施の形態における第1及び第2の密着性ガードリング領域33、34は、第1の実施の形態における構成であっても、第2の実施の形態における構成であっても、どちらでも可能である。
【0070】
図6(b)は、密着性ガードリング領域の他、回路形成領域内にも密着性補強領域を設けた構成である。具体的には、基板41に設けられた回路形成領域42を取り囲むように、密着性ガードリング領域43が形成される。これととともに、回路形成領域42内部にも密着性補強領域44が形成される。このように密着性補強領域44を形成することにより、密着性ガードリング領域43のみでは、密着性に不安がある場合であって、図6(a)のような二重に密着性ガードリング領域を形成するだけのスペースがない場合では、回路形成領域42内において密着性補強領域44を形成することにより、密着性を向上させることが可能となる。このような密着性補強領域44は、密着性ガードリング領域43と同一のプロセスにより形成することができるため、工程数が増加することはない。尚、本実施の形態における密着性ガードリング領域43、密着性補強領域44は、第1の実施の形態における構成であっても、第2の実施の形態における構成であっても、どちらでも可能である。
【0071】
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、半導体装置において形成されるダミーパターンと密着性ガードリング領域とを兼ねた構造の半導体装置である。
【0072】
図7〜図10に基づき本実施の形態における半導体装置の製造方法について説明する。
【0073】
最初に、図7(a)に示すように、フィルム基板51上に第1の濡れ性変化層52を形成する。具体的には、フィルム基板51上に、側鎖に疎水基を有する熱硬化型ポリイミドからなるNMP溶液をスピンコート法により塗布することにより、膜厚が50〔nm〕の第1の濡れ性変化層52を形成する。
【0074】
次に、図7(b)に示すように、露光装置により紫外線照射を行う。具体的には、波長が300〔nm〕以下の超高圧水銀ランプを光源とする不図示の露光装置により、フォトマスク70を介し露光を行う。この際の紫外線の照射量は、約8〔J/cm〕であり、フォトマスク70には露光パターンが形成されており、第1の濡れ性変化層52には、この露光パターンに基づき紫外線が照射される。これにより、第1の濡れ性変化層52には、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域52aと、紫外線の照射されている高表面エネルギー領域52b、52cが形成される。尚、高表面エネルギー領域52bには、後述するゲート電極が形成され、高表面エネルギー領域52cは、後述する密着性ガードリング領域が形成される。
【0075】
次に、図7(c)に示すように、第1の濡れ性変化層52上に、金属微粒子分散液を塗布し、ゲート電極53及び金属層54を形成する。具体的には、Ag微粒子を水溶性溶媒に拡散させた金属微粒子分散液をインクジェット法により第1の濡れ性変化層52上に塗布することにより、塗布された金属微粒子分散液中のAg微粒子が、第1の濡れ性変化層52の高表面エネルギー領域52b、52cに密集して集まる。この後、180〔℃〕で焼成することにより、膜厚が100〔nm〕で、電極幅が50〔μm〕からなるゲート電極53及び膜厚が100〔nm〕で、ガードリング幅が500〔μm〕からなる密着性ガードリング領域を形成するための金属層54が形成される。
【0076】
次に、図7(d)に示すように、ゲート電極53及び金属層54が形成されたものの上に、第2の濡れ性変化層55を形成する。具体的には、ポリイミド溶液PI100(丸善石油化学製)と、第1の濡れ性変化層52を形成する際に用いた材料とは異なる構造の側鎖を有する可溶性ポリイミドのNMP混合溶液をスピンコート法により塗布し、180〔℃〕で焼成することにより、厚さ500〔nm〕からなる第2の濡れ性変化層55を形成した。尚、この第2の濡れ性変化層55を形成するために用いた可溶性ポリイミドは、濡れ性を制御する側鎖を有しておらず、主鎖のみからなるポリアミック酸と、主鎖と濡れ性を制御しエネルギーの付与前には低表面エネルギーである側鎖からなるポリアミック酸とを共重合させることによりイミド化させたポリイミド材料である。また、ポリアミド溶液PI100は、絶縁性が良好なポリイミド材料であり、後述するように形成される半導体素子において、ゲート絶縁膜としての機能を有するものである。
【0077】
次に、図8(a)に示すように、露光装置により紫外線照射を行う。具体的には、波長が300〔nm〕以下の超高圧水銀ランプを光源とする不図示の露光装置により、フォトマスク71を介し露光を行う。この際の紫外線の照射量は、約5〔J/cm〕であり、フォトマスク71には露光パターンが形成されており、第2の濡れ性変化層55には、この露光パターンに基づき紫外線が照射される。これにより、第2の濡れ性変化層55には、紫外線の照射されない低表面エネルギー領域55aと、紫外線の照射された高表面エネルギー領域55b、55c、55dが形成される。尚、高表面エネルギー領域55b、55cには、後述するソース電極、ドレイン電極が形成され、高表面エネルギー領域55dは、後述する密着性ガードリング領域が形成される。
【0078】
次に、図8(b)に示すように、第2の濡れ性変化層55上に、金属微粒子分散液を塗布し、ソース電極56、ドレイン電極57及び金属層58を形成する。具体的には、Ag微粒子を水溶性溶媒に拡散させた金属微粒子分散液をインクジェット法により第2の濡れ性変化層55上に塗布することにより、塗布された金属微粒子分散液中のAg微粒子は、第2の濡れ性変化層55の高表面エネルギー領域55b、55c、55dに密集するように集まる。この後、180〔℃〕で焼成することにより、ソース電極56、ドレイン電極57及び金属層57が形成される。回路形成領域では、形成されるソース電極56は線幅が50〔μm〕であり、チャネルスペースが5〔μm〕となるようにドレイン電極57が形成される。
【0079】
一方、回路形成領域64の周辺には、回路周辺領域64に形成されるパターンと同様のパターンがダミーパターン62、63として形成されている。このダミーパターン62、63は、図9に示すように、密着性ガードリング領域を兼ねるものであり、線幅が200〔μm〕のパターンを5パターン形成したものである(図面では2パターンに省略して記載)。このように、ダミーパターン62、63を兼ねた構成の密着性ガードリング領域を形成することにより、密着性ガードリング領域を形成するための特別な工程を設ける必要がなく、製造効率を高めることができる。このようなダミーパターン62、63を形成することにより、乾燥の際における形状不良の発生を抑えることができ、接触不良等の少ないソース電極56、ドレイン電極57が形成される。
【0080】
次に、図8(c)に示すように、有機半導体層59を形成する。具体的には、化1に示す構造式の有機半導体であるトリアリールアミンをキシレンとメシチレンの混合溶媒に溶解させた塗布液をインクジェット法により、ソース電極56とドレイン電極57との間のチャネルが形成される領域に滴下し、その後120〔℃〕で乾燥させることにより、膜厚が30〔nm〕からなる有機半導体層59を形成する。
【0081】
【化1】

次に、図10に示すように、有機半導体層59の形成された面上に絶縁膜60を形成する。具体的には、絶縁材料として、ポリビニルアセタール樹脂とシリカ粒子を重合比1:2により混合し、ペースト化したものをもちいて、スクリーン印刷法により印刷を行った。尚、スクリーン版は不図示の電源供給部に開口が形成されるようなパターンが形成されている。この後、100〔℃〕の温度で1〔時間〕乾燥させることにより、膜厚が2〔μm〕からなる絶縁膜60を形成した。
【0082】
これにより、図10に示す半導体装置を作製することができる。図11には、このように作製された複数の有機トランジスタがアレイ状に配列された半導体装置を示す。尚、図11には、密着性ガードリング領域は図示されてはいない。図11(a)は、本実施の形態に係る半導体装置の電気配線の概要を示す上面図であり、図11(b)は、図11(a)における波線B1−B2で切断した際の断面図である。本図では省略されているが、212〔μm〕の素子間ピッチで有機トランジスタが二次元アレイ状に200×200個形成されている。これらの有機トランジスタは、基板51上にゲート電極53、ゲート絶縁膜となる第2の濡れ性変化層55、ソース電極56、ドレイン電極57、有機半導体層59により形成されたものであり、この有機トランジスタの移動度の平均は、1.3×10−3〔cm/Vs〕である。
【0083】
本実施の形態では、第1の濡れ性変化層52、第2の濡れ性変化層55、ゲート電極53、ソース電極56、ドレイン電極57、金属層54、58、絶縁層60を印刷法により形成することができるため、低コストで半導体装置を作製することが可能となる。また、密着性ガードリング領域がダミーパターンと兼用されているため、特別な工程を経ることなく、半導体装置周辺部からの絶縁膜等の膜剥がれや半導体装置の端部からの水分の侵入を防ぐことができる。
【0084】
尚、本実施の形態では、半導体層として化1に示す高分子有機半導体材料を用いたが、CdSe、CdTe、Si等の無機半導体、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、フタロシアニン等の有機低分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子、ポリフラン及びその誘導体等の複素環系導電性高分子、ポリアニリン及びその誘導体等のイオン性導電性高分子等の有機半導体を用いることが可能であり、特に、印刷による低コストプロセスを用いることができる有機半導体が好ましい。
【0085】
〔第5の実施の形態〕
次に、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第4の実施の形態とは異なる構成の半導体装置である。
【0086】
図12〜図14に基づき本実施の形態における半導体装置の製造方法について説明する。
【0087】
最初に、図12(a)に示すように、フィルム基板81上に第1の濡れ性変化層82を形成する。具体的には、フィルム基板81上に、側鎖に疎水基を有する熱硬化型ポリイミドからなるNMP溶液をスピンコート法により塗布することにより、膜厚が50〔nm〕の第1の濡れ性変化層82を形成する。
【0088】
次に、図12(b)に示すように、露光装置により紫外線照射を行う。具体的には、波長が300〔nm〕以下の超高圧水銀ランプを光源とする不図示の露光装置により、フォトマスク100を介し露光を行う。この際の紫外線の照射量は、約8〔J/cm〕であり、フォトマスク100には露光パターンが形成されており、第1の濡れ性変化層82には、この露光パターンに基づき紫外線が照射される。これにより、第1の濡れ性変化層82には、紫外線の照射されていない低表面エネルギー領域82aと、紫外線の照射された高表面エネルギー領域82b、82cが形成される。尚、高表面エネルギー領域82bには、後述するゲート電極が形成され、高表面エネルギー領域82cは、後述する密着性ガードリング領域が形成される。尚、この際、密着性を向上させるため密着性補強領域を形成しても良い。密着性補強領域は、濡れ性変化層82において紫外線が照射される際に、密着性補強領域の形成される部分にも紫外線を照射し、その部分の濡れ性変化層82を高表面エネルギー状態とすることにより、その上に形成される膜との密着性を向上させるものである。尚、第3の実施の形態において示したように紫外線の照射された密着補強領域に金属層を形成する構成であってもよい。
【0089】
次に、図12(c)に示すように、第1の濡れ性変化層82上に、金属微粒子分散液を塗布し、ゲート電極83及び金属層84を形成する。具体的には、Ag微粒子を水溶性溶媒に拡散させた金属微粒子分散液をインクジェット法により第1の濡れ性変化層82上に塗布する。これにより、塗布された金属微粒子分散液中のAg微粒子は、第1の濡れ性変化層82の高表面エネルギー領域82b、82cに密集するように集まる。この後、180〔℃〕で焼成することにより、膜厚が100〔nm〕で、電極幅が50〔μm〕からなるゲート電極83及び膜厚が100〔nm〕で、ガードリング幅が500〔μm〕からなる密着性ガードリング領域を形成するための金属層84が形成される。
【0090】
次に、図12(d)に示すように、ゲート電極83及び金属層84が形成されたものの上に、第2の濡れ性変化層85を形成する。具体的には、ポリイミド溶液PI100(丸善石油化学製)と、第1の濡れ性変化層82を形成する際に用いた材料とは異なる構造の側鎖を有する可溶性ポリイミドのNMP混合溶液をスピンコート法により塗布し、180〔℃〕で焼成することにより、厚さ500〔nm〕からなる第2の濡れ性変化層85を形成した。尚、この第2の濡れ性変化層85を形成するために用いた可溶性ポリイミドは、濡れ性を制御する側鎖を有しておらず、主鎖のみからなるポリアミック酸と、主鎖と濡れ性を制御しエネルギーの付与前には低表面エネルギーである側鎖からなるポリアミック酸とを共重合させることによりイミド化させたポリイミド材料である。また、ポリアミド溶液PI100は、絶縁性が良好なポリイミド材料であり、後述するように形成される半導体素子において、ゲート絶縁膜としての機能を有するものである。また、本実施の形態では、金属層84の表面の一部をマスキングした状態で、第2の濡れ性変化層85を形成する。これにより、金属層84の表面の一部が露出した状態で、第2の濡れ性変化層85が形成される。
【0091】
次に、図13(a)に示すように、露光装置により紫外線照射を行う。具体的には、波長が300〔nm〕以下の超高圧水銀ランプを光源とする不図示の露光装置により、フォトマスク101を介し露光を行う。この際の紫外線の照射量は、約5〔J/cm〕であり、フォトマスク101には露光パターンが形成されており、第2の濡れ性変化層85には、この露光パターンに基づき紫外線が照射される。これにより、第2の濡れ性変化層85には、紫外線の照射されない低表面エネルギー領域85aと、紫外線の照射された高表面エネルギー領域85b、85c、85dが形成される。尚、高表面エネルギー領域85b、85cには、後述するソース電極、ドレイン電極が形成され、高表面エネルギー領域85dは、後述する密着性ガードリング領域が形成される。
【0092】
次に、図13(b)に示すように、第2の濡れ性変化層85上に、金属微粒子分散液を塗布し、ソース電極86、ドレイン電極87及び金属層88を形成する。具体的には、Ag微粒子を水溶性溶媒に拡散させた金属微粒子分散液をインクジェット法により第2の濡れ性変化層85上に塗布することにより、塗布された金属微粒子分散液中のAg微粒子は、第2の濡れ性変化層85の高表面エネルギー領域85b、85c、85dに密集するように集まる。この後、180〔℃〕で焼成することにより、ソース電極86、ドレイン電極87及び金属層88が形成される。回路形成領域94では、形成されるソース電極86は線幅が50〔μm〕であり、チャネルスペースが5〔μm〕となるようにドレイン電極57が設けられている。
【0093】
次に、図13(c)に示すように、有機半導体層89を形成する。具体的には、化1に示す構造式の有機半導体であるトリアリールアミンをキシレンとメシチレンの混合溶媒に溶解させた塗布液をインクジェット法により、ソース電極86とドレイン電極87との間のチャネルが形成される領域に滴下し、その後120〔℃〕で乾燥させることにより、膜厚が30〔nm〕からなる有機半導体層89を形成する。
【0094】
次に、図14(a)に示すように、有機半導体層89の形成された面上に絶縁膜90を形成する。具体的には、絶縁材料として、ポリビニルアセタール樹脂とシリカ粒子を重合比1:2により混合し、ペースト化したものをもちいて、スクリーン印刷法により印刷を行った。尚、スクリーン版にはドレイン電極87上にコンタクトホール93が形成されるようなパターンが形成されている。この後、100〔℃〕の温度で1〔時間〕乾燥させることにより、膜厚が5〔μm〕からなる絶縁膜90を形成した。
【0095】
次に、図14(b)に示すように、スクリーン印刷法により、画素電極91、金属層92を形成する。具体的には、Al、Ag、Cu、Ni、カーボン等の導体成分を溶媒、バインダー、必要に応じて可塑剤、フィラー、粘度調整剤と混合することにより作製した導電性ペーストを用い、スクリーン印刷法により画素電極91、金属層92を形成した。画素電極91を形成する際、絶縁膜90に形成されているコンタクトホール93にも導電性ペーストが埋め込まれ、これによりドレイン電極87と接続した画素電極91が形成される。また、金属層92は、金属層84上の一部分の領域に形成される。金属層84と金属層92は十分な密着性を有しているため、端面からの絶縁層90等の膜剥がれを防止すると共に、水分の侵入を防止することができる。
【0096】
本実施の形態では、第1の濡れ性変化層82、第2の濡れ性変化層85、ゲート電極83、ソース電極86、ドレイン電極87、金属層84、88、92、絶縁層90、画素電極91を印刷法により形成することができるため、低コストで半導体装置を作製することが可能となる。また、本実施の形態では、第2の濡れ性変化層85及び絶縁層90の端面が金属層92により覆われるため、水分の侵入防止や膜剥がれによりいそう強い構成のものとなる。
【0097】
〔第6の実施の形態〕
次に、第6の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第4の実施の形態において作製した有機トランジスタがアレイ状に形成された半導体装置を用いた画像表示装置である。
【0098】
本実施の形態における画像表示装置の構成について、図15に基づき説明する。
【0099】
具体的には、第4の実施の形態において作製した基板51上に第1の濡れ性変化層52,ゲート電極53、第2の濡れ性変化層55、ソース電極56,ドレイン電極57、有機半導体層59、絶縁層60、不図示の画素電極からなる有機トランジスタのアレイ状の半導体装置上に画像表示素子を形成する。
【0100】
形成される画像表示素子は、酸化チタン粒子とオイルブルーで着色したアイソパーを内包するマイクロカプセルとポリビニルアルコール(PVA)水溶液を混合した塗布液をポリカーボネートからなる基板111上にITOからなる透明電極112を形成し他ものの上に塗布し、マイクロカプセルとPVAバインダーからなる画像表示層113を形成した。このように画像表示層113の形成されたものと、第4の実施の形態において作製した半導体装置の半導体素子が形成されている側に、基板51と基板111が外側になるように接着させる。尚、ゲート電極53につながるバスラインには走査信号用のドライバーICを接続し、ソース電極56につながるバスラインにはデータ信号用のドライバーICを各々接続し、0.5〔秒〕毎に画面の切り替えを行った。
【0101】
本実施の形態では、第1の濡れ性変化層52、第2の濡れ性変化層55、ゲート電極53、ソース電極56、ドレイン電極57、金属層54、58、絶縁層60を印刷法により形成することができるため、低コストで画像表示装置を作製することができ、また、密着性ガードリング領域が形成されているため周辺部からの膜剥がれがなく、端面からの水分の侵入も防ぐことができる。
【実施例1】
【0102】
本実施の形態における密着性ガードリング領域を有する膜構成の試料についてクロスカット剥離試験を行った。具体的な試料の作製方法を以下に記載する。
【0103】
最初に、Si基板上に、側鎖に疎水基を有する熱硬化型ポリイミドのNMP溶液をスピンコート法により塗布する。このときのスピンコーターの回転数は、1500〔rpm〕である。この後、窒素雰囲気中において、100〔℃〕でプリベークを行った後、窒素雰囲気中において、200〔℃〕で約1〔時間〕ポストベークを行い、約100〔nm〕の膜厚の濡れ性変化層を形成した。
【0104】
次に、表1に示すように各々の試料ごとにUV(紫外線)照射量を変えて、紫外線の照射を行った。次に、試料6についてのみ、濡れ性変化層の前面に粒径が約30〔nm〕のAg微粒子を水溶性溶媒に分散させた金属微粒子分散液(ナノメタルインク)を塗布した後、焼成を行うことにより金属層を形成した。ナノメタルインクの焼成条件は、100〔℃〕の温度でプリベークを行った後、200〔℃〕の温度で約1〔時間〕ポストベークを行うことにより、濡れ性変化層において紫外線が照射された領域に約200〔nm〕の金属膜を形成した。
【0105】
次に、すべての試料について、スクリーン印刷法により絶縁層を形成した。具体的には、絶縁材料として、ポリビニルブチラール樹脂と平均粒径が0.16〔μm〕のチタン酸バリウムを重量比1:2で混合し、ペースト状にしたものをスクリーン印刷により濡れ性変化層または金属層上に印刷を行う。この後、100〔℃〕の温度で約1〔時間〕乾燥させることのより約4〔μm〕の絶縁層を形成した。
【0106】
【表1】

上記のように作製された試料について、このクロスカット剥離試験の結果を表1に示す。試料1は、従来からある密着性ガードリング領域を形成しない構成のものである。即ち、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、紫外線(UV)照射をすることなく、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中17個であり、8個の剥離が確認された。
【0107】
次に、試料2は、第2の実施の形態における密着性ガードリング領域を形成した構成のものである。具体的には、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、約3〔J/cm〕の紫外線(UV)照射を照射した後、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中22個であり、3個の剥離が確認された。
【0108】
次に、試料3は、第2の実施の形態における密着性ガードリング領域を形成した構成のものである。具体的には、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、約5〔J/cm〕の紫外線(UV)照射を照射した後、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中25個であり、全て非剥離であった。
【0109】
次に、試料4は、第2の実施の形態における密着性ガードリング領域を形成した構成のものである。具体的には、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、約8〔J/cm〕の紫外線(UV)照射を照射した後、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中25個であり、全て非剥離であった。
【0110】
次に、試料5は、第2の実施の形態における密着性ガードリング領域を形成した構成のものである。具体的には、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、約12〔J/cm〕の紫外線(UV)照射を照射した後、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中25個であり、全て非剥離であった。
【0111】
次に、試料6は、第1の実施の形態における密着性ガードリング領域を形成した構成のものである。具体的には、濡れ性変化層としてポリイミドからなる膜を形成した後、約8〔J/cm〕の紫外線(UV)照射を照射した後、ナノメタルインクを塗布することにより金属層を形成し、その後、絶縁膜を形成したものである。この結果、クロスカット剥離試験において、非剥離となったものの数は、25個中25個であり、全て非剥離であった。
【0112】
以上より、紫外線照射を行っていない従来からある構成の試料1では、膜の剥離が発生していたが、紫外線を照射することにより、膜の剥離は改善され、濡れ性変化層として使用した、このポリイミドの場合では、約5〔J/cm〕以上の紫外線照射を行うことにより、膜の剥離が生じなくなる。尚、第1の実施の形態にかかる構成の試料(試料6)のみならず、第2の実施の形態にかかる構成の試料(試料2、試料3、試料4、試料5)もともに、本発明の効果が確認された。
【実施例2】
【0113】
次に、本実施の形態に係る積層構造体と従来の構成の積層構造体を作製した結果について説明する。
【0114】
〔実施例A〕
実施例Aは、第1の実施の形態に係る積層構造体からなるものである。本実施例に係る構造体の作製方法について、図3に基づき説明する。
【0115】
最初に、図3(a)に示すように、基板11上に濡れ性変化層12を形成する。具体的には、基板11はガラス基板であり、ウエット洗浄を行った後、側鎖に疎水基を有する熱硬化型ポリイミドのNMP溶液を回転数1500〔rpm〕でスピンコートする。この後、窒素雰囲気中で100〔℃〕でプリベークした後、同様に窒素雰囲気中で200〔℃〕で1〔時間〕ポストベークを行う。これにより、約100〔nm〕の膜厚の濡れ性変化層12をガラス基板11上に形成した。尚、この時の濡れ性変化層11の表面は、疎水性の側鎖を有するポリイミドによって、低表面エネルギー状態となっている。
【0116】
次に、図3(b)に示すように、回路形成領域には形成される配線パターンが形成されており、回路形成領域の周辺には密着性ガードリング領域のパターンが形成されているフォトマスク20を用い、露光装置によりフォトマスク20を介し、濡れ性変化層52に紫外線を照射する。この露光装置の光源は300〔nm〕以下の波長の超高圧水銀ランプである。このフォトマスク20を介した紫外線の照射により、紫外線の照射された領域、即ち、濡れ性変化層12の表面における高表面エネルギー領域12b、12cと、紫外線の照射されていない領域、即ち、濡れ性変化層12の表面における低表面エネルギー領域12aが形成される。この際照射される紫外線照射量は、約8〔J/cm〕である。尚、本実施例では、露光装置による露光として、密着露光であるコンタクト露光又はプロキシミティ露光により露光する方法について説明を行っているが、より一層微細なパターンを形成するためにはレチクル等を用いる縮小投影露光方式により行われる。本実施例において用いたフォトマスク20は、回路形成領域における配線幅が80〔μm〕、スペース40〔μm〕からなる配線パターンが形成されており、回路形成領域の外周には、約100〔μm〕離れて、密着性ガードリング領域を形成するため幅が約200〔μm〕のパターンが形成されている。
【0117】
次に、図3(c)に示すように、インクジェット方式により粒径約30〔nm〕のAg微粒子を水溶性溶媒に分散させた金属微粒子分散液(ナノメタルインク)をインクジェットヘッドより吐出させ、回路形成領域における導電層13が形成される領域及び密着性ガードリング領域を構成する金属層14が形成される領域に選択的に付与する。インクジェット方式では、選択的にナノメタルインクを供給することができるため、材料利用効率が高く、比較的高価な材料であるAgを用いる場合には、低コスト化に有利であるとともに、工程数の削減にもつながる。ナノメタルインクは水溶性溶媒に分散されているため、高表面エネルギー領域12b、12cの全体にわたり広がるため、インクジェットヘッドから吐出する液滴のサイズに依存することなく微細なパターンを形成することが可能である。この後、大気中で100〔℃〕でプリベークを行った後、同じく大気中で、200〔℃〕で1〔時間〕ポストベークを行うことにより、回路形成領域においては、膜厚が150〔μm〕であって、配線幅が80〔μm〕、配線間のスペースが40〔μm〕の導電層13と、回路形成領域の周辺を囲むように、膜厚が150〔μm〕で、線幅が200〔μm〕の密着性ガードリング領域を形成する金属層14を同時に形成した。
【0118】
次に、図3(d)に示すように、絶縁層15を形成した。具体的には、スクリーン印刷法により、不図示の電源供給部が開口するように形成されるスクリーン版を用い絶縁ペーストによる印刷を行った。絶縁ペーストは、絶縁材料として、ポリビニルブチラール樹脂を溶媒に溶かした溶液に対し、平均粒径が0.16〔μm〕のチタン酸バリウムを重量比1:2となるように加え、ローラーミルを用いて混合しペースト化したものを用いた。スクリーン印刷による印刷を行った後、100〔℃〕で1〔時間〕乾燥させることにより、膜厚が4〔μm〕からなる絶縁層15を形成した。
【0119】
このように形成された、積層構造体では絶縁膜15との密着性も高いため、テープ試験を行ったところ絶縁膜15の剥離は確認されなかった。
【0120】
〔実施例B〕
実施例Bは、第2の実施の形態に係る積層構造体からなるものである。本実施例に係る構造体の作製方法について、図5に基づき説明する。
【0121】
最初に、図5(a)に示すように、基板21上に濡れ性変化層22を形成する。具体的には、基板21はガラス基板であり、ウエット洗浄を行った後、側鎖に疎水基を有する熱硬化型ポリイミドのNMP溶液を回転数1500〔rpm〕でスピンコートする。この後、窒素雰囲気中で100〔℃〕でプリベークした後、同様に窒素雰囲気中で200〔℃〕で1〔時間〕ポストベークを行う。これにより、約100〔nm〕の膜厚の濡れ性変化層22をガラス基板21上に形成した。尚、この時の濡れ性変化層11の表面は、疎水性の側鎖を有するポリイミドによって、低表面エネルギー状態となっている。
【0122】
次に、図5(b)に示すように、回路形成領域には形成される配線パターンが形成されており、回路形成領域の周辺には密着性ガードリング領域のパターンが形成されているフォトマスク30を用い、露光装置によりフォトマスク30を介し、濡れ性変化層22に紫外線を照射する。この露光装置の光源は300〔nm〕以下の波長の超高圧水銀ランプである。このフォトマスク30を介した紫外線の照射により、紫外線の照射された領域、即ち、濡れ性変化層22の表面における高表面エネルギー領域22b、12cと、紫外線の照射されていない領域、即ち、濡れ性変化層22の表面における低表面エネルギー領域22aが形成される。この際照射される紫外線照射量は、約8〔J/cm〕である。本実施例において用いたフォトマスク30は、回路形成領域における配線幅が80〔μm〕、スペース40〔μm〕からなる配線パターンが形成されており、回路形成領域の外周には、約100〔μm〕離れて、密着性ガードリング領域を形成するため、幅が約300〔μm〕のパターンが形成されているものである。
【0123】
尚、本実施例において用いた熱硬化型ポリイミドは、濡れ性を制御する側鎖を有しない主鎖のみからなるポリアミック酸と、主鎖と濡れ性を制御しエネルギーの付与前には、低表面エネルギー状態となる側鎖からなるポリアミック酸との混合材料により構成されるものである。ナノサーチ顕微鏡LEXT OLS3500(オリンパス製)を用いて、紫外線照射の行われた領域と紫外線照射の行われていない領域のSPM表面観察結果を図16に示す。この図より、紫外線照射を行った高表面エネルギー領域では、直径約1.2〔μm〕で、深さ数〜10数〔μm〕の多数の凹凸が形成されていることが確認される。この凹凸の密度や深さは、紫外線照射量によって変化させることができる。本実施例では、紫外線を照射した高表面エネルギー領域における算術平均粗さRaは、6.4〔nm〕であった。このような、凹凸が形成されることにより、この上に形成される膜との密着性が高まり、また、濡れ性も向上するものと考えられる。
【0124】
次に、図5(c)に示すように、インクジェット方式により粒径約30〔nm〕のAg微粒子を水溶性溶媒に分散させた金属微粒子分散液(ナノメタルインク)をインクジェットヘッドより吐出させ、回路形成領域における導電層23が形成される領域に選択的に付与する。インクジェット方式では、選択的にナノメタルインクを供給することができるため、材料利用効率が高く、比較的高価な材料であるAgを用いる場合には、低コスト化に有利であるとともに、工程数の削減にもつながる。ナノメタルインクは水溶性溶媒に分散されているため、高表面エネルギー領域22bの全体にわたり広がるため、インクジェットヘッドから吐出する液滴のサイズに依存することなく微細なパターンを形成することが可能である。この後、大気中で100〔℃〕でプリベークを行った後、同じく大気中で、200〔℃〕で1〔時間〕ポストベークを行うことにより、回路形成領域においては、膜厚が150〔μm〕であって、配線幅が80〔μm〕、配線間のスペースが40〔μm〕の導電層23が形成される。
【0125】
次に、図5(d)に示すように、絶縁層25を形成した。具体的には、スクリーン印刷法により、不図示の電源供給部が開口するように形成されるスクリーン版を用い絶縁ペーストによる印刷を行った。絶縁ペーストは、絶縁材料として、ポリビニルブチラール樹脂を溶媒に溶かした溶液に対し、平均粒径が0.16〔μm〕のチタン酸バリウムを重量比1:2となるように加え、ローラーミルを用いて混合しペースト化したものを用いた。スクリーン印刷による印刷を行った後、100〔℃〕で1〔時間〕乾燥させることにより、膜厚が2〔μm〕からなる絶縁層25を形成した。尚、高表面エネルギー領域22cでは、絶縁層25が形成されることにより、回路形成領域の周辺を囲むように、幅が300〔μm〕の密着性ガードリング領域が形成される。
【0126】
このように形成された、積層構造体では絶縁膜25との密着性も高いためテープ試験を行ったところ絶縁膜25の剥離は確認されなかった。
【0127】
〔比較例A〕
実施例Aにおいて、密着性ガードリング領域を形成しない積層構造体を作製した。具体的には、図3(b)において用いられたフォトマスク20において、密着性ガードリング領域が形成されないように、この領域に紫外線が照射されないパターンのフォトマスクを用いて露光を行った。これにより、図3(b)に示す、高表面エネルギー領域12cが形成されることはなく、金属層14も形成されない。尚、形成された絶縁膜の厚さは、4〔μm〕であり、他の条件等は実施例Aと同じである。このようにして作製した積層構造体では、テープ試験を行った結果絶縁膜の剥離が確認された。
【0128】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】第1の実施の形態における積層構造体の上面図
【図2】第1の実施の形態における積層構造体の断面図
【図3】第1の実施の形態における積層構造体の製造工程図
【図4】第2の実施の形態における積層構造体の断面図
【図5】第2の実施の形態における積層構造体の製造工程図
【図6】第3の実施の形態における積層構造体の上面図
【図7】第4の実施の形態における積層構造体の製造工程図(1)
【図8】第4の実施の形態における積層構造体の製造工程図(2)
【図9】第4の実施の形態における半導体装置の上面図
【図10】第4の実施の形態における積層構造体の断面図
【図11】第4の実施の形態における半導体装置の構成概要図
【図12】第5の実施の形態における積層構造体の製造工程図(1)
【図13】第5の実施の形態における積層構造体の製造工程図(2)
【図14】第5の実施の形態における積層構造体の製造工程図(3)
【図15】第6の実施の形態における画像表示装置の断面図
【図16】濡れ性変化層の表面観察図
【符号の説明】
【0130】
11 基板
12 濡れ性変化層
12a 低表面エネルギー領域
12b 高表面エネルギー領域
12c 高表面エネルギー領域
13 導電層
14 金属層
15 絶縁層
16 回路形成領域
17 密着性ガードリング領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上において、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、
前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上に形成された導電層と、
前記導電層を覆うように形成された絶縁層と、
を有し、
前記基板上に形成された濡れ性変化層において、前記導電層が複数形成される回路形成領域の周囲を囲むように、高表面エネルギー領域が形成され、
前記高表面エネルギー領域上に前記絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性ガードリング領域が形成されていることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
基板と、
前記基板上において、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、
前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上に形成された導電層と、
前記導電層を覆うように形成された絶縁層と、
を有し、
前記基板上に形成された濡れ性変化層において、前記導電層が複数形成される回路形成領域の周囲を囲むように、高表面エネルギー領域が形成され、
前記高表面エネルギー領域上に前記導電層と同一の材料により構成される金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性ガードリング領域が形成されていることを特徴とする積層構造体。
【請求項3】
前記金属層は、回路形成領域の周囲に設けられるダミーパターンとしての機能を有していることを特徴とする請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記金属層上の一部に前記絶縁層が形成されており、
前記金属層及び前記絶縁層上に第2の金属層が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記密着性ガードリング領域内の濡れ性変化層において、前記導電層の形成されない部分の前記濡れ性変化層の一部に高表面エネルギー領域が形成され、
前記高表面エネルギー領域上に前記絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性補強領域を形成したことを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記密着性ガードリング領域内の濡れ性変化層において、前記導電層の形成されない部分の前記濡れ性変化層の一部に高表面エネルギー領域が形成され、
前記高表面エネルギー領域上に前記金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性補強領域を形成したことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項7】
前記濡れ性変化層は、ポリイミドであることを特徴とする請求項1から6に記載の積層構造体。
【請求項8】
請求項1から7に記載の積層構造体と、半導体層と、絶縁層と、
を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
前記半導体層は、有機半導体材料により構成されるものであることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記濡れ性変化層は、前記半導体層により形成される半導体素子のゲート絶縁膜として機能するものであることを特徴とする請求項8または9に記載の半導体装置。
【請求項11】
請求項8から10のいずれかに記載の半導体装置と、
画像を表示するための画像表示素子と、
を有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項12】
電気配線の形成される基板上に、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー部が高表面エネルギー部へと変化する材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、
前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域を高表面エネルギー領域とする工程と、
前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布することにより、前記電気配線が形成される回路形成領域内の前記高表面エネルギー領域に導電層を形成する工程と、
前記回路形成領域を囲む前記高表面エネルギー領域上に絶縁層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記絶縁層との間に密着性ガードリング領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項13】
電気配線の形成される基板上に、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー部が高表面エネルギー部へと変化する材料を含む濡れ性変化層を形成する工程と、
前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域を高表面エネルギー領域とする工程と、
前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布し、前記電気配線が形成される回路形成領域内の高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させることにより導電層を形成するとともに、前記回路形成領域を囲む高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させることにより金属層を形成することにより、前記濡れ性変化層と前記金属層との間に密着性ガードリング領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項14】
前記エネルギーは紫外線であることを特徴とする請求項13に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項15】
前記金属微粒子分散液を塗布する方法は、インクジェット法であることを特徴とする請求項13または14に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項16】
電気回路の形成される基板上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極に接してゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜を介し、前記ゲート電極とは反対側に、ソース電極を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜を介し、前記ゲート電極とは反対側に、ドレイン電極を形成する工程と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接し半導体層を形成する工程と、
からなる半導体装置の製造方法であって、
前記基板上の前記濡れ性変化層に前記エネルギーを付与することにより、所定の領域における濡れ性変化層を高表面エネルギー領域とする工程と、
前記濡れ性変化層の表面に金属微粒子を含む金属微粒子分散液を塗布することにより、前記高エネルギー領域に前記金属微粒子を付着させ、前記ゲート電極、前記ソース電極、前記ドレイン電極のいずれかと、前記電気回路の形成される回路形成領域を囲む密着性ガードリング領域とを同時に形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記エネルギーは紫外線であることを特徴とする請求項16に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記金属微粒子分散液を塗布する方法は、インクジェット法であることを特徴とする請求項16または17に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−272437(P2009−272437A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121564(P2008−121564)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】