説明

積層構造体、電子素子、電子素子アレイ、画像表示媒体及び画像表示装置

【課題】表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線による濡れ性変化層の絶縁性の低下を抑制することが可能な積層構造体並びに該積層構造体を有する電子素子、電子素子アレイ、画像表示媒体及び画像表示装置を提供する。
【解決手段】積層構造体10は、基板11上に、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層12の紫外線照射領域12aに導電体層13が形成されている積層構造を有し、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料は、ポリアミド酸を脱水閉環反応させることにより得られる有機溶媒に可溶な特定ポリイミドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層の紫外線が照射された領域に導電体層が形成されている積層構造を有する積層構造体、電子素子、電子素子アレイ、画像表示媒体及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタが精力的に研究されている。有機半導体材料を用いる利点として、フレキシビリティが高いこと、大面積化できること、製造プロセスが単純化できること、製造装置が安価であること等が挙げられる。
【0003】
有機薄膜トランジスタの特性を示すパラメータとして、電流のオンオフ比が用いられている。有機薄膜トランジスタにおいて、飽和領域でのソース・ドレイン電極間に流れるオン電流Idsは、式
ds=μCinW(V−VTH/2L
(式中、μは、電界効果移動度であり、Cinは、ゲート絶縁膜の単位面積当たりのキャパシタンスであり、式
in=εε/d
(式中、εは、ゲート絶縁膜の比誘電率であり、εは、真空の誘電率であり、dは、ゲート絶縁膜の厚さである。)
で表され、Wは、チャネル幅であり、Lは、チャネル長であり、Vは、ゲート電圧であり、VTHは、閾値電圧である。)
で表される。この式から、オン電流を大きくするためには、μを大きくすること、Lを小さくすること、Wを大きくすることが有効であることがわかる。このとき、μは、有機半導体材料の特性によるところが大きい。一方、L及びWは、有機薄膜トランジスタの構造に由来する。なお、一般に、Lを小さくするために、ソース・ドレイン電極間の距離を小さくするが、有機薄膜トランジスタは、μが小さいため、Lは、10μm以下、好ましくは、5μm以下が求められている。
【0004】
このようなソース・ドレイン電極のパターンは、インクジェット印刷法を用いて形成することが望まれている。インクジェット印刷法を用いると、パターンを直接描画することができるため、材料使用効率が高くなり、製造プロセスの簡略化及び低コスト化を実現することができる。しかしながら、インクジェット印刷法は、吐出量の少量化が困難であること、機械的な誤差等による着弾精度を考慮すると、30μm以下のパターンを形成することが困難である。
【0005】
そこで、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層に紫外線を照射して表面自由エネルギーを変化させた後、インクジェット印刷法を用いて、濡れ性変化層にソース・ドレイン電極のパターンを形成する方法が知られている。しかしながら、高出力の紫外線ランプを用いても長い照射時間が必要であり、結果として、タクトタイムが長くなり、製造プロセスの簡略化や低コスト化が望めないという問題があった。また、表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線により、濡れ性変化層の絶縁性が低下するという問題があった。
【0006】
このため、特許文献1では、主鎖と側鎖を有し、主鎖が可溶性ポリイミドであり、側鎖が紫外線を吸収すると結合が開裂する部位を2個以上有する材料を用いて、有機薄膜トランジスタが製造されている。
【0007】
一方、消費電力を低下させるためには、有機薄膜トランジスタをさらに薄膜化する必要があり、表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線による濡れ性変化層の絶縁性の低下をさらに抑制する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術が有する問題に鑑み、表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線による濡れ性変化層の絶縁性の低下を抑制することが可能な積層構造体並びに該積層構造体を有する電子素子、電子素子アレイ、画像表示媒体及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、基板上に、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層の該紫外線が照射された領域に導電体層が形成されている積層構造を有する積層構造体であって、該紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料は、一般式
【0010】
【化1】

(式中、Aは、一般式
【0011】
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フルオロ基又は炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
で表される基又は化学式
【0012】
【化3】

で表される基であり、Bは、化学式
【0013】
【化4】

で表される基であり、Bは、一般式
【0014】
【化5】

(式中、mは、5以上13以下の整数である。)
で表される基であり、n及びnは、それぞれ独立に、自然数であり、nとnの和に対するnの比が1%以上30%以下である。)
で表されるポリアミド酸を脱水閉環反応させることにより得られる有機溶媒に可溶なポリイミドであることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の積層構造体において、前記ポリアミド酸の脱水閉環反応の反応率が50%以上100%以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、電子素子において、請求項1又は2に記載の積層構造体を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電子素子において、半導体層及び絶縁体層をさらに有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電子素子において、前記半導体層は、有機半導体材料を含むことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の電子素子において、前記絶縁体層上に、前記積層構造が形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の電子素子において、前記濡れ性変化層が前記絶縁体層を兼ねることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の電子素子において、前記積層構造を複数有することを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明は、電子素子アレイにおいて、請求項3乃至8のいずれか一項に記載の電子素子を複数有することを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の発明は、画像表示媒体において、請求項9に記載の電子素子アレイを有することを特徴とする。
【0024】
請求項11に記載の発明は、画像表示装置において、請求項10に記載の画像表示媒体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線による濡れ性変化層の絶縁性の低下を抑制することが可能な積層構造体並びに該積層構造体を有する電子素子、電子素子アレイ、画像表示媒体及び画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の積層構造体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の電子素子の第一例を示す断面図である。
【図3】本発明の電子素子の第二例を示す断面図である。
【図4】本発明の電子素子の第三例を示す断面図である。
【図5】本発明の電子素子アレイの一例を示す図である。
【図6】本発明の画像表示媒体の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の画像表示装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための形態を図面と共に説明する。
【0028】
図1に、本発明の積層構造体の一例を示す。積層構造体10は、基板11上に、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層12が形成されている。このとき、濡れ性変化層12は、紫外線が照射されて、表面自由エネルギーが大きくなった紫外線照射領域12aと、紫外線が照射されていない紫外線非照射領域12bからなる。なお、紫外線照射領域12aの間には、幅が1〜5μmである紫外線非照射領域12bが形成されている。また、濡れ性変化層12の紫外線照射領域12a上には、導電体層13が形成されており、積層構造を有する。これにより、微細なパターンを有する導電体層13を簡便に形成することができる。
【0029】
基板11を構成する材料としては、特に限定されないが、ガラス;ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の樹脂;SUS等の金属等が挙げられ、フレキシビリティが要求される場合には、樹脂が好ましい。
【0030】
紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料は、一般式
【0031】
【化6】

(式中、Aは、一般式
【0032】
【化7】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フルオロ基又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)
で表される基又は化学式
【0033】
【化8】

で表される基であり、Bは、化学式
【0034】
【化9】

で表される基であり、Bは、一般式
【0035】
【化10】

(式中、mは、5〜13の整数である。)
で表される基であり、n及びnは、それぞれ独立に、自然数であり、nとnの和に対するnの比が1〜30%である。)
で表されるポリアミド酸を脱水閉環反応させることにより得られる有機溶媒に可溶なポリイミド(以下、可溶性ポリイミドという)である。このとき、pが5未満であると、濡れ性変化層12に紫外線を照射することによる表面自由エネルギーの変化が不十分となり、13を超えると、可溶性ポリイミドの有機溶媒に対する溶解性が不十分となる。また、R、R、R及びRにおける炭素数が1〜4の有機基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。なお、濡れ性変化層12は、基板11上に、可溶性ポリイミドの溶液を塗布した後、焼成することにより形成される。
【0036】
このとき、ポリアミド酸がAを有するため、可溶性ポリイミドが得られると共に、耐溶剤性に優れる濡れ性変化層12を形成することができる。また、Aのカルボニル基がベンゼン環等と共役していないため、絶縁性に優れる濡れ性変化層12を形成することができる。Aは、一般式(A−1)で表される基又は化学式(A−2)で表される基であることが好ましく、化学式(A−3)で表される基が特に好ましい。なお、Aは、二種以上の基を含んでいてもよい。このとき、A中の化学式(A−3)で表される基の含有量は、50〜100モル%であることが好ましい。また、重合度がnである構成単位におけるAと、重合度がnである構成単位におけるAが異なっていてもよい。
【0037】
は、極性が低いため、Bと組み合わせて可溶性ポリイミドが得られる。また、濡れ性変化層12を有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として用いる場合に、ゲートリーク電流を低減し、ゲート電圧を大きくしたときの絶縁性の劣化を抑制することができる。一方、Bは、濡れ性変化層12の表面自由エネルギーを小さくする、即ち、撥水性にすることができる。なお、B及びBは、それぞれ独立に、二種以上の基を含んでいてもよい。
【0038】
とnの和に対するnの比が1%未満であると、濡れ性変化層12の紫外線を照射することによる表面自由エネルギーの変化が不十分となり、30%を超えると、可溶性ポリイミドが得られなくなる。なお、nとnの和に対するnの比は、5〜20モル%であることが好ましい。
【0039】
一般式(1)で表されるポリアミド酸は、一般式
【0040】
【化11】

で表されるテトラカルボン酸二無水物と、一般式
【0041】
【化12】

で表されるジアミンを、有機溶媒中で開環重付加反応させることにより得られる。なお、A及びBは、一般式(1)の定義と同様である。
【0042】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶媒中で開環重付加反応させる方法としては、特に限定されないが、ジアミン(又はテトラカルボン酸二無水物)を有機溶媒に分散又は溶解させた液を攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物(又はジアミン)を、必要に応じて、有機溶媒に分散又は溶解させた後、添加して開環重付加反応させる方法、有機溶媒を攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを、必要に応じて、有機溶媒に分散又は溶解させた後、交互に添加して開環重付加反応させる方法等が挙げられる。なお、テトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンが複数種からなる場合は、複数種の成分を予め混合した状態で開環重付加反応させてもよく、順次開環重付加反応させてもよい。
【0043】
テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを有機溶媒中で開環重付加反応させる際の温度は、通常、−20〜150℃であり、0〜80℃が好ましい。この温度が−20℃未満であると、開環重付加反応に長時間を要することがあり、150℃を超えると、高分子量のポリアミド酸が得られないことがある。
【0044】
また、重合系の総質量に対するテトラカルボン酸二無水物とジアミンの総質量の比は、通常、1〜50%であり、5〜30質量%が好ましい。この比が1%未満であると、高分子量のポリアミド酸が得られないことがあり、50%を超えると、重合系の粘度が高くなって、均一に攪拌できないことがある。なお、初期に、この比が大きい状態で開環重付加反応させた後、有機溶媒で希釈してもよい。
【0045】
ポリアミド酸を合成する際に用いる有機溶媒としては、生成したポリアミド酸が溶解することが可能であれば、特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。なお、有機溶媒は、ポリアミド酸が溶解しない溶媒を、生成したポリアミド酸が析出しない範囲内で含んでいてもよい。
【0046】
ポリアミド酸を合成する際のテトラカルボン酸二無水物に対するジアミンのモル比は、通常、0.5〜1.5であり、モル比が1に近い程、ポリアミド酸の分子量が大きくなる。
【0047】
一般式(1)で表されるポリアミド酸を脱水閉環反応させる方法としては、特に限定されないが、ポリイミドの分子量が低下しにくく、脱水閉環反応の反応率の制御が容易であるため、塩基性触媒と無水カルボン酸を用いる方法が好ましい。具体的には、ポリアミド酸を、有機溶媒中、塩基性触媒と無水カルボン酸の存在下で、1〜100時間攪拌する。
【0048】
塩基性触媒としては、特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられ、中でも、脱水閉環反応を進行させるのに適度な塩基性を有するため、ピリジンが好ましい。
【0049】
塩基性触媒の添加量は、通常、ポリアミド酸が有するアミド基に対して、0.5〜30倍当量であり、2〜20倍当量であることが好ましい。
【0050】
無水カルボン酸としては、特に限定されないが、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられ、中でも、ポリイミドを容易に精製することができるため、無水酢酸が好ましい。
【0051】
無水カルボン酸の添加量は、通常、ポリアミド酸が有するアミド基に対して、1〜50倍当量であり、3〜30倍当量が好ましい。
【0052】
ポリアミド酸を脱水閉環反応させる際に用いる有機溶媒としては、ポリアミド酸を合成する際に用いる有機溶媒を用いることができる。
【0053】
ポリアミド酸を脱水閉環反応させる際の温度は、通常、−20〜250℃であり、0〜180℃が好ましい。この温度が−20℃未満であると、脱水閉環反応に長時間を要することがあり、250℃を超えると、高分子量のポリイミドが得られないことがある。
【0054】
以上のようにして得られた可溶性ポリイミドの反応液を、濡れ性変化層12を形成する際に塗布してもよいが、反応液中には、塩基性触媒等の不純物が含まれているため、ポリイミドを精製した後、溶媒に溶解させた可溶性ポリイミドの溶液を塗布することが好ましい。
【0055】
ポリイミドを精製する際には、攪拌している貧溶媒中に反応液を投入して、ポリイミドを沈殿させた後、濾過し、貧溶媒で洗浄する。貧溶媒としては、特に限定されないが、水;メタノール、エタノール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素等が挙げられる。回収されたポリイミドは、常圧又は減圧下で、常温乾燥又は加熱乾燥して粉末とすることができる。さらに、得られた粉末を有機溶媒に溶解させた液を、上記と同様にして、攪拌している貧溶媒中に投入して、ポリイミドを沈殿させた後、濾過し、貧溶媒で洗浄する操作を2〜10回繰り返すことにより、不純物を除去することができる。このとき、貧溶媒として、アルコール、炭化水素等の二種以上の溶媒を用いると、不純物をさらに除去することができる。
【0056】
ポリアミド酸の脱水閉環反応の反応率は、50〜100%であることが好ましく、80〜100%がさらに好ましく、90〜100%が特に好ましい。反応率が50%未満であると、濡れ性変化層12を有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として用いる場合に、濡れ性変化層12は、有機半導体層と良好な界面を形成できないことがある。その結果、有機薄膜トランジスタの閾値電圧の変動が大きくなる。ポリアミド酸の脱水閉環反応の反応率は、ジメチルスルホキシド(DMSO)−dに溶解させて、可溶性ポリイミドのH−NMRを測定し、残存したアミド基の比率をピークの面積比から算出することにより測定することができる。
【0057】
なお、可溶性ポリイミドに残存したアミド基とカルボキシル基の脱水閉環反応は、可溶性ポリイミドの溶液を塗布した後に焼成することにより進行させることができる。
【0058】
可溶性ポリイミドの重量平均分子量は、取り扱いやすさと、濡れ性変化層12の特性の安定性の点から、通常、2×10〜2×10であり、5×10〜5×10が好ましい。可溶性ポリイミドの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0059】
可溶性ポリイミドの溶液は、二種以上の可溶性ポリイミドを含んでいてもよい。
【0060】
可溶性ポリイミドの溶液に含まれる溶媒としては、可溶性ポリイミドを溶解させることができれば、特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0061】
可溶性ポリイミドの溶液は、表面張力、極性、沸点の調整、濡れ性変化層12の平坦性の確保、基板11への濡れ性の向上等の目的で、他の溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール;1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−メトキシプロポキシ)プロパノール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、2−(2−ブトキシプロポキシ)プロパノール等のプロピレングリコール誘導体;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、乳酸n−ブチル、乳酸イソアミル等の乳酸エステル等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0062】
可溶性ポリイミドの溶液の保存性、濡れ性変化層12の厚さの均一性を向上させる点から、全溶媒中のN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン及びジメチルスルホキシドから選ばれる一種以上の溶媒の含有量が20〜80質量%であることが好ましい。
【0063】
可溶性ポリイミドの溶液中の可溶性ポリイミドの含有量は、塗布装置の仕様や濡れ性変化層12の厚さに応じて、適宜選択することができるが、通常、0.1〜30質量%であり、1〜10質量%が好ましい。
【0064】
可溶性ポリイミドの溶液は、基板11との密着性を向上させる目的で、シランカップリング剤、エポキシ化合物等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0065】
シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0066】
エポキシ化合物としては、特に限定されないが、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、6−グリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0067】
添加剤の添加量は、通常、可溶性ポリイミドに対して、0.1〜30質量%であり、1〜20質量%が好ましい。
【0068】
可溶性ポリイミドの溶液を塗布する方法としては、特に限定されないが、ディップコート法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、インクジェット法、スプレー法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0069】
可溶性ポリイミドの溶液を基板に塗布した後に焼成する際には、特に限定されないが、ホットプレート、オーブン等を用いて、大気、窒素等の不活性ガス、真空等の雰囲気下で加熱する。加熱する温度は、濡れ性変化層12中の溶媒の残存量を少なくするために、通常、40〜220℃であり、150〜180℃が好ましい。このとき、濡れ性変化層12の均一性を向上させるために、加熱する温度を変化させてもよい。
【0070】
次に、濡れ性変化層12に紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化するメカニズムについて説明する。波長が300nm以下である紫外線を濡れ性変化層12に照射すると、可溶性ポリイミドの側鎖に含まれるエステル結合及び/又はアミド結合が切断され、ラジカルが生成する。生成したラジカルは、直ちに、雰囲気に含まれる水分と反応し、カルボキシル基と、ヒドロキシル基及び/又はアミノ基とが生成するため、濡れ性変化層12の表面が親水化される。これにより、濡れ性変化層12の表面自由エネルギーを変化させる際に照射する紫外線のエネルギーを小さくすることができる。
【0071】
一方、可溶性ポリイミドの主鎖は、波長が300nm以下である紫外線を照射しても切断されにくい。このため、濡れ性変化層12は、波長が300nm以下である紫外線を照射しても絶縁性を確保することができる。
【0072】
濡れ性変化層12は、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、フッ素系樹脂等の絶縁材料をさらに含んでいてもよい。また、濡れ性変化層12は、ポリビニルフェノールやポリビニルアルコールと共に、架橋剤をさらに含んでいてもよい。これにより、絶縁性に優れる濡れ性変化層12が得られる。
【0073】
なお、可溶性ポリイミドの成膜性が不十分である場合は、成膜性に優れる材料を可溶性ポリイミドの溶液に添加することが好ましい。
【0074】
濡れ性変化層12の厚さは、通常、30nm〜3μmであり、50nm〜1μmが好ましい。濡れ性変化層12の厚さが30nm未満であると、均一に形成することが困難になることがあり、3μmを超えると、表面の形状が悪化することがある。
【0075】
本発明の積層構造体は、有機薄膜トランジスタのゲート電極及びその配線、ソース・ドレイン電極及びその配線等に適用することができる。
【0076】
図2に、本発明の電子素子の第一例として、ボトムゲート型の薄膜トランジスタを示す。なお、図2において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。薄膜トランジスタ20Aは、基板11上に、ゲート電極21が形成されており、ゲート電極21が形成された基板11上に、濡れ性変化層12よりも体積抵抗率が大きい絶縁体層22及び濡れ性変化層12が順次積層されているゲート絶縁膜が形成されている。さらに、濡れ性変化層12の紫外線照射領域に、ソース・ドレイン電極として、導電体層13が形成されており、ソース・ドレイン電極間のチャネル領域に半導体層23が形成されている。これにより、微細なパターンを有するソース・ドレイン電極を簡便に形成することができる。
【0077】
図3に、本発明の電子素子の第二例を示す。薄膜トランジスタ20Bは、絶縁体層22が形成されておらず、ゲート絶縁膜として、濡れ性変化層12が形成されている以外は、薄膜トランジスタ20Aと同様である。
【0078】
図4に、本発明の電子素子の第三例を示す。薄膜トランジスタ20Cは、ゲート電極21の代わりに、濡れ性変化層12'の紫外線照射領域に、ゲート電極として、導電層13'が形成されていること以外は、薄膜トランジスタ20Bと同様である。なお、濡れ性変化層12'は、濡れ性変化層12と同様に、可溶性ポリイミドを含むが、濡れ性変化層12'を構成する材料は、濡れ性変化層12と同一であってもよいし、異なっていてもよい。これにより、微細なパターンを有するゲート電極及びソース・ドレイン電極を簡便に形成することができる。
【0079】
濡れ性変化層12の体積抵抗率が大きい場合は、薄膜トランジスタ20B及び20Cのように、濡れ性変化層12がゲート絶縁膜を兼ねることができ、ゲート絶縁膜として、濡れ性変化層12が形成される。一方、濡れ性変化層12の体積抵抗率が小さい場合は、薄膜トランジスタ20Aのように、濡れ性変化層12よりも体積抵抗率が大きい絶縁体層22及び濡れ性変化層12が順次積層されているゲート絶縁膜が形成される。このようなゲート絶縁膜に紫外線を照射すると、濡れ性変化層12が紫外線を吸収するため、絶縁体層22の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0080】
濡れ性変化層12、12'及び絶縁体層22を形成する方法としては、特に限定されないが、転写印刷法、スピンコート法、ディップコート法等が挙げられる。
【0081】
導電体層13、13'及びゲート電極21は、導電性材料を含む塗布液を塗布した後、加熱したり、紫外線を照射したりすることにより形成することができる。
【0082】
導電性材料としては、特に限定されないが、金、銀、銅、アルミニウム、カルシウム等の金属;カーボンブラック、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフルオレン及びこれらの誘導体等の有機π共役ポリマー等が挙げられ、二種以上併用してもよい。また、ゲート電極及びソース・ドレイン電極を形成する際に、それぞれ異なる導電性材料を用いてもよい。
【0083】
導電性材料を含む塗布液としては、特に限定されないが、導電性材料を溶媒に溶解させた溶液、導電性材料の前駆体を溶媒に溶解させた溶液、導電性材料を溶媒に分散させた分散液、導電性材料の前駆体を溶媒に分散させた分散液等が挙げられる。
【0084】
溶媒としては、特に限定されないが、濡れ性変化層のダメージが小さいことから、水、各種アルコール類等が挙げられる。また、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、n−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素等の溶媒も、濡れ性変化層のダメージが小さい範囲において、用いることができる。
【0085】
導電性材料を含む塗布液としては、銀、金、ニッケル、銅等の金属粒子を有機溶媒や水に分散させた分散液、ドープドPANI(ポリアニリン)や、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子の水溶液等が挙げられる。
【0086】
導電性材料を含む塗布液を塗布する方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等が挙げられる。中でも、濡れ性変化層の表面自由エネルギーの影響を受けやすいことから、小さい液滴を吐出することが可能なインクジェット法が好ましい。プリンタに使用されるレベルの通常のヘッドを用いた場合、インクジェット法の解像度が30μm、位置合わせ精度が±15μm程度であるが、濡れ性変化層における表面自由エネルギーの差を利用することにより、微細なパターンを有する導電体層を形成することができる。
【0087】
絶縁体層22を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリ(p−キシリレン)等が挙げられる。
【0088】
半導体層23は、無機半導体層及び有機半導体層のいずれであってもよいが、薄膜トランジスタの製造プロセスを簡略化、低コスト化できることから、有機半導体層が好ましい。
【0089】
無機半導体層を構成する材料としては、特に限定されないが、CdSe、CdTe、Si等が挙げられる。
【0090】
無機半導体層を形成する方法としては、特に限定されないが、スパッタ等の真空プロセスを用いる方法、ゾル・ゲル法等が挙げられる。
【0091】
有機半導体層を構成する材料としては、特に限定されないが、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、フタロシアニン等の有機低分子;ポリアセチレン系導電性高分子;ポリ(p−フェニレン)及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体等のポリフェニレン系導電性高分子;ポリピロール及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリフラン及びその誘導体等の複素環系導電性高分子;ポリアニリン及びその誘導体等のイオン性導電性高分子等が挙げられる。
【0092】
有機半導体層を形成する方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スプレーコート法、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0093】
図5に、本発明の電子素子アレイの一例として、薄膜トランジスタアレイを示す。薄膜トランジスタアレイ30は、薄膜トランジスタ20Cを複数有する。なお、図5(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。
【0094】
図6に、本発明の画像表示媒体の一例として、電気泳動パネルを示す。電気泳動パネル40は、透明な基板41上に透明な電極42が形成されており、電極42上に、電気泳動素子としてのマイクロカプセル43aと、バインダー43bからなる画像表示層43が形成されている。このとき、マイクロカプセル43aは、例えば、白色の酸化チタン粒子及びオイルブルーで着色されたアイソパーL(エクソン化学社製)を内包する。さらに、画像表示層43と、アクティブマトリックス基板としての薄膜トランジスタアレイ30が接合されている。
【0095】
なお、本発明の画像表示媒体は、電気泳動パネルに限定されず、アクティブマトリックス基板と、液晶素子、有機EL素子等の画像表示素子を組み合わせた、液晶パネル、有機ELパネル等であってもよい。また、本発明の画像表示媒体は、電子ペーパーとして用いることができる。
【0096】
図7に、本発明の画像表示装置の一例として、ポケットPCを示す。ポケットPC50は、フラット画面として、電気泳動パネル40を使用したものであり、入力部51から画像情報を入力することにより、画像が表示される。
【0097】
本発明の画像表示媒体は、この他に、複写機に適用することもできるし、自動車、飛行機等の移動交通媒体のシート部、フロントガラス面等に埋め込むこともできる。
【0098】
また、本発明の電子素子アレイは、画像表示媒体以外に、太陽電池、RFIDタグ等に適用することができる。
【実施例】
【0099】
以下の実施例は、本発明を具体的に説明するものであり、本発明は、実施例により限定されない。
【0100】
[可溶性ポリイミドAの合成]
化学式
【0101】
【化13】

で表されるジアミン0.2モル及び化学式
【0102】
【化14】

で表されるジアミン0.8モルをNMP(N−メチル−2−ピロリドン)10gに溶解させた液を攪拌しながら、化学式
【0103】
【化15】

で表されるテトラカルボン酸二無水物1.0モルをNMP10gに溶解させた液を添加して、25℃で12時間開環重付加反応させて、ポリアミド酸を合成した。次に、ピリジン1.0モル及び無水酢酸1.0モルを添加して、アルゴンガス雰囲気下、120℃で4時間脱水閉環反応させた。得られた反応液を、攪拌しているメタノール中に投入して沈殿させた後、濾過した。次に、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。得られた粉末をNMPに溶解させ、攪拌しているヘキサン中に投入して沈殿させた後、濾過した。さらに、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥し、化学式
【0104】
【化16】

で表される可溶性ポリイミドAを得た。
【0105】
[可溶性ポリイミドBの合成]
化学式
【0106】
【化17】

で表されるジアミン0.2モル及び化学式
【0107】
【化18】

で表されるジアミン0.8モルをNMP10gに溶解させた液を攪拌しながら、化学式
【0108】
【化19】

で表されるテトラカルボン酸二無水物1.0モルをNMP10gに溶解させた液を添加して、25℃で12時間開環重付加反応させて、ポリアミド酸を合成した。次に、ピリジン1.0モル及び無水酢酸1.0モルを添加して、アルゴンガスを注入しながら、120℃で4時間脱水閉環反応させた。得られた反応液を、攪拌しているメタノール中に投入して沈殿させた後、濾過した。次に、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。得られた粉末をNMPに溶解させ、攪拌しているヘキサン中に投入して沈殿させた後、濾過した。さらに、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥し、化学式
【0109】
【化20】

で表される可溶性ポリイミドBを得た。
【0110】
[可溶性ポリイミドCの合成]
化学式
【0111】
【化21】

で表されるジアミン0.2モル及び化学式
【0112】
【化22】

で表されるジアミン0.8モルをNMP10gに溶解させた液を攪拌しながら、4,4'−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物1.0モルをNMP10gに溶解させた液を添加して、25℃で12時間開環重付加反応させて、ポリアミド酸を合成した。次に、ピリジン1.0モル及び無水酢酸1.0モルを添加して、アルゴンガスを注入しながら、120℃で4時間脱水閉環反応させた。得られた反応液を、攪拌しているメタノール中に投入して沈殿させた後、濾過した。次に、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。得られた粉末をNMPに溶解させ、攪拌しているヘキサン中に投入して沈殿させた後、濾過した。さらに、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥し、化学式
【0113】
【化23】

で表される可溶性ポリイミドCを得た。
【0114】
[可溶性ポリイミドDの合成]
化学式
【0115】
【化24】

で表されるジアミン1.0モルをNMP10gに溶解させた液を攪拌しながら、ピロメリット酸二無水物1.0モルをNMP10gに溶解させた液を添加して、25℃で12時間開環重付加反応させて、ポリアミド酸を合成した。次に、ピリジン1.0モル及び無水酢酸1.0モルを添加して、25℃で12時間脱水閉環反応させた。得られた反応液を、攪拌しているメタノール中に投入して沈殿させた後、濾過した。次に、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。得られた粉末をNMPに溶解させ、攪拌しているヘキサン中に投入して沈殿させた後、濾過した。さらに、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥し、化学式
【0116】
【化25】

で表される可溶性ポリイミドDを得た。
【0117】
[接触角]
スピンコート法を用いて、可溶性ポリイミドA〜Dの5質量%NMP溶液をガラス製の基板11上に塗布した後、オーブンを用いて、80℃及び200℃で順次加熱することにより、濡れ性変化層12を形成した。触針法を用いて、濡れ性変化層12の厚さを測定したところ、いずれも100nmであった。
【0118】
次に、超高圧水銀ランプを用いて、所定量(表1参照)の紫外線を濡れ性変化層12に照射した後、銀ナノ粒子を水系溶媒に分散させた分散液(以下、銀ナノインクという)の接触角を、液滴法を用いて測定した。
【0119】
[パターニング性]
スピンコート法を用いて、可溶性ポリイミドA〜Dの5質量%NMP溶液をガラス製の基板11上に塗布した後、オーブンを用いて、80℃及び200℃で順次加熱することにより、濡れ性変化層12を形成した。触針法を用いて、濡れ性変化層12の厚さを測定したところ、いずれも100nmであった。
【0120】
次に、超高圧水銀ランプを用いて、5μm間隔のライン形状のフォトマスク越しに、所定量(表1参照)の紫外線を濡れ性変化層12に照射した。さらに、紫外線照射領域12aに、インクジェット法を用いて、銀ナノインクを塗布した後、オーブンを用いて、200℃で焼成することにより、導電体層13を形成し、積層構造体10を得た(図1参照)。
【0121】
次に、金属顕微鏡観察を用いて、導電体層13を観察し、パターニング性を評価した。なお、5μm間隔のライン形状が形成されていないものを×、何個か形成されているものを△、ほとんど形成されているものを○、全て形成されているものを◎として、判定した。
【0122】
[評価結果]
表1に、接触角の測定結果及びパターニング性の評価結果を示す。
【0123】
【表1】

表1より、パターニング性は、接触角の変化と相関していることがわかる。即ち、可溶性ポリイミドA〜Cを含む濡れ性変化層12は、紫外線の照射量が15J/cm以下であっても、紫外線照射領域12aと紫外線非照射領域12bの表面自由エネルギーの差が十分に大きいため、5μm間隔のライン形状の導電体層13が形成される。一方、可溶性ポリイミドDを含む濡れ性変化層12は、紫外線の照射量が15J/cm以下であると、紫外線照射領域12aと紫外線非照射領域12bの表面自由エネルギーの差が不十分であるため、5μm間隔のライン形状の導電体層13が形成されない。
【0124】
[薄膜トランジスタの作製1]
メタルマスクを用いて、真空下でアルミニウムを蒸着することにより、ガラス製の基板11上に、厚さが50nmのゲート電極21を形成した。次に、真空下でパリレンを蒸着することにより、ゲート電極21が形成された基板11上に、厚さが300nmの絶縁体層22を形成した。さらに、スピンコート法を用いて、絶縁体層22が形成された基板11上に、可溶性ポリイミドA〜Cの5質量%NMP溶液を塗布した後、オーブンを用いて、80℃及び200℃で順次加熱することにより、厚さが100〜150nmの濡れ性変化層12を形成した。次に、超高圧水銀ランプを用いて、フォトマスク越しに、5J/cmの紫外線を照射することにより、濡れ性変化層12に紫外線照射領域を形成した。さらに、インクジェット法を用いて、濡れ性変化層12の紫外線照射領域に、銀ナノインクを塗布した後、オーブンを用いて、200℃で加熱することにより、厚さが60nmの導電体層13(チャネル長が5μmのソース・ドレイン電極)を形成した。次に、インクジェット法を用いて、ソース・ドレイン電極間のチャネル領域に、化学式
【0125】
【化26】

で表される化合物のキシレン溶液を塗布した後、オーブンを用いて、120℃で加熱することにより、厚さが40nmの半導体層23を形成し、薄膜トランジスタ20Aを得た(図2参照)。
【0126】
表2に、得られた薄膜トランジスタ20Aのトランジスタ特性の評価結果を示す。
【0127】
【表2】

表2より、可溶性ポリイミドA又はBを用いて作製した薄膜トランジスタ20Aは、電界効果移動度が大きいことに加え、ゲートリーク電流及び表面リーク電流が小さく、オンオフ比が大きいことがわかる。これは、テトラカルボン酸二無水物由来の構成単位の絶縁性が大きいことに加え、濡れ性変化層12の表面平滑性が大きいためであると考えられる。このとき、可溶性ポリイミドAを用いた場合、可溶性ポリイミドBを用いる場合よりも、薄膜トランジスタ20Cのオンオフ比が大きく、紫外線による濡れ性変化層12の絶縁性の低下が抑制されていることがわかる。これは、可溶性ポリイミドAが、可溶性ポリイミドBよりも、テトラカルボン酸二無水物由来の構成単位の絶縁性が大きいためであると考えられる。
【0128】
なお、この値は、ソース・ドレイン電極を形成する際に、メタルマスクを用いて、真空下で金を蒸着する以外は、薄膜トランジスタ20Aと同様に作製した薄膜トランジスタと比較して、遜色なかった。
【0129】
一方、可溶性ポリイミドCを用いると、電界効果移動度が小さく、表面リーク電流が大きく、オンオフ比が小さい。なお、表面リーク電流は、濡れ性変化層12の平坦性及び絶縁性が良くないことに起因すると考えられる。
【0130】
[薄膜トランジスタの作製2]
スピンコート法を用いて、フィルム製の基板11上に、可溶性ポリイミドA、Bの5質量%シクロヘキサノン溶液を塗布した後、オーブンを用いて、150℃で加熱することにより、厚さが90nmの濡れ性変化層12'を形成した。次に、超高圧水銀ランプを用いて、フォトマスク越しに、2J/cmの紫外線を照射することにより、濡れ性変化層12'に紫外線照射領域を形成した。さらに、インクジェット法を用いて、濡れ性変化層12'の紫外線照射領域に、銀ナノインクを塗布した後、オーブンを用いて、170℃で加熱することにより、厚さが50nmの導電体層13'(ゲート電極)を形成した。次に、スピンコート法を用いて、濡れ性変化層12'及び導電体層13'が形成された基板11上に、可溶性ポリイミドA、Bの5質量%シクロヘキサノン溶液を塗布した後、オーブンを用いて、170℃で加熱することにより、厚さが300nmの濡れ性変化層12を形成した。さらに、超高圧水銀ランプを用いて、フォトマスク越しに、5J/cmの紫外線を照射することにより、濡れ性変化層12に紫外線照射領域を形成した。次に、インクジェット法を用いて、濡れ性変化層12の紫外線照射領域に、銀ナノインクを塗布した後、オーブンを用いて、170℃で加熱することにより、厚さが60nmの導電体層13(チャネル長が5μmのソース・ドレイン電極)を形成した。さらに、インクジェット法を用いて、ソース・ドレイン電極間のチャネル領域に、化学式
【0131】
【化27】

で表される化合物のキシレン溶液を塗布した後、オーブンを用いて、120℃で加熱することにより、厚さが40nmの半導体層23を形成し、薄膜トランジスタ20Cを得た(図4参照)。
【0132】
表3に、得られた薄膜トランジスタ20Cのトランジスタ特性の評価結果を示す。
【0133】
【表3】

表3より、可溶性ポリイミドA又はBを用いて作製した薄膜トランジスタ20Cは、電界効果移動度が大きいことに加え、ゲートリーク電流及び表面リーク電流が小さく、オンオフ比が大きいことがわかる。これは、テトラカルボン酸二無水物由来の構成単位の絶縁性が大きいことに加え、濡れ性変化層12の表面平滑性が大きいためであると考えられる。このとき、可溶性ポリイミドAを用いた場合、可溶性ポリイミドBを用いる場合よりも、薄膜トランジスタ20Cのオンオフ比が大きく、紫外線による濡れ性変化層12の絶縁性の低下が抑制されていることがわかる。これは、可溶性ポリイミドAが、可溶性ポリイミドBよりも、テトラカルボン酸二無水物由来の構成単位の絶縁性が大きいためであると考えられる。
【0134】
[電気泳動パネルの作製]
可溶性ポリイミドAを用いて、薄膜トランジスタ20Cと同様にして、32×32個(素子間ピッチ500μm)の薄膜トランジスタ20Cを2次元アレイ状に有する薄膜トランジスタアレイ30(図5参照)を作製した。なお、半導体層23を島状に形成する際に、マイクロコンタクトプリンティング法を用いた。
【0135】
得られた薄膜トランジスタアレイ30のトランジスタ特性を評価したところ、電界効果移動度の平均値が1.1×10−3cm/V・秒であり、オンオフ比の平均値が6桁であった。
【0136】
次に、薄膜トランジスタアレイ30を用いて、電気泳動パネル40(図6参照)を作製した。具体的には、酸化チタン粒子とオイルブルーで着色したアイソパーを内包するマイクロカプセル43aと、ポリビニルアルコール43bの水溶液を混合した塗布液を、ポリカーボネート製の透明基板41上に形成されたITO製の透明電極42上に塗布して、マイクロカプセル43aとポリビニルアルコール43bからなる画像表示層43を形成した。さらに、画像表示層43と、薄膜トランジスタアレイ30を、基板11及び透明基板41が最外面となるように接着させ、電気泳動パネル40を得た。
【0137】
電気泳動パネル40のゲート電極21に繋がるバスラインに走査信号用のドライバーICを接続し、ソース電極に繋がるバスラインにデータ信号用のドライバーICを接続し、0.5秒毎に画面の切り替えを行ったところ、良好な静止画像を表示することができた。
【符号の説明】
【0138】
10 積層構造体
11 基板
12、12' 濡れ性変化層
12a 紫外線照射領域
12b 紫外線非照射領域
13、13' 導電体層
20A、20B、20C 薄膜トランジスタ
21 ゲート電極
22 絶縁体層
23 半導体層
30 薄膜トランジスタアレイ
40 電気泳動パネル
50 ポケットPC
【先行技術文献】
【特許文献】
【0139】
【特許文献1】特開2008−227294号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料を含む濡れ性変化層の該紫外線が照射された領域に導電体層が形成されている積層構造を有する積層構造体であって、
該紫外線を照射することにより表面自由エネルギーが変化する材料は、一般式
【化1】

(式中、Aは、一般式
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フルオロ基又は炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
で表される基又は化学式
【化3】

で表される基であり、Bは、化学式
【化4】

で表される基であり、Bは、一般式
【化5】

(式中、mは、5以上13以下の整数である。)
で表される基であり、n及びnは、それぞれ独立に、自然数であり、nとnの和に対するnの比が1%以上30%以下である。)
で表されるポリアミド酸を脱水閉環反応させることにより得られる有機溶媒に可溶なポリイミドであることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記ポリアミド酸の脱水閉環反応の反応率が50%以上100%以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層構造体を有することを特徴とする電子素子。
【請求項4】
半導体層及び絶縁体層をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の電子素子。
【請求項5】
前記半導体層は、有機半導体材料を含むことを特徴とする請求項4に記載の電子素子。
【請求項6】
前記絶縁体層上に、前記積層構造が形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の電子素子。
【請求項7】
前記濡れ性変化層が前記絶縁体層を兼ねることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項8】
前記積層構造を複数有することを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項9】
請求項3乃至8のいずれか一項に記載の電子素子を複数有することを特徴とする電子素子アレイ。
【請求項10】
請求項9に記載の電子素子アレイを有することを特徴とする画像表示媒体。
【請求項11】
請求項10に記載の画像表示媒体を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−241113(P2010−241113A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257404(P2009−257404)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】