説明

窒化物半導体積層構造体の製造方法

【課題】基板の両面に窒化物半導体層を形成するに際し、基板に被着した堆積物の除去が容易な窒化物半導体積層構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体積層構造体の製造方法では、第1および第2の面11a、11bと第1熱膨張係数α1を有する基板11の第2の面11bに、第1保護膜31を形成する。第1保護膜31が形成された基板11の第1の面11aに、第1熱膨張係数α1と異なる第2熱膨張係数α2を有する第1窒化物半導体層12を形成する。第1窒化物半導体層12に、第2保護膜34を形成する。第1保護膜31を除去し、基板11の第2の面11bを露出させる。露出した基板11の第2の面11bに、第2熱膨張係数α2に略等しい第3熱膨張係数α3を有する第2窒化物半導体層13を形成する。第2保護膜34を除去し、第1窒化物半導体層12を露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体層を成長させるための基板としてサファイア基板、シリコン基板などの異種基板が用いられている。窒化物半導体層と異種基板とでは、熱膨張係数が異なるため、異種基板に窒化物半導体層が設けられてなる窒化物半導体積層構造体には、反りが発生する。
【0003】
従来、この反りを低減するために、異種基板の表面に活性層を含む窒化物半導体層を設けるとともに、異種基板の裏面に窒化物半導体層を設けた窒化物半導体積層構造体が知られている。
【0004】
この種の窒化物半導体積層構造体は、初めに異種基板の裏面に窒化物半導体層を形成し、次に異種基板の表面に活性層を含む窒化物半導体層を形成することにより製造される。
【0005】
異種基板の裏面に窒化物半導体層を形成する工程において、プロセスガスが異種基板の表面側に回り込み、異種基板の表面外周部に堆積物が被着する。堆積物が残留していると、活性層を含む窒化物半導体層に結晶欠陥が発生し、素子特性や歩留まりが低下する。
【0006】
そのため、異種基板の表面に活性層を含む窒化物半導体層を形成する前に、この堆積物を異種基板の表面にダメージを与えることなく、除去することが必要である。
【0007】
然しながら、窒化物半導体は薬液に対する耐性が強いので、エッチングでは十分に除去されず、残渣が生じるという問題がある。
【0008】
特に、異種基板がシリコンの場合、シリコンはプロセスガス中のガリウム(Ga)と強く反応するため、表面の平坦性を維持することすら難しいという問題がある。
【0009】
平坦性を確保するために、シリコン基板の表面を再研磨することも考えられるが、この段階では窒化物半導体積層構造体が反っているため、研磨工程において窒化物半導体積層構造体が破損する恐れがある。また、反りは異種基板の直径の2乗に比例して大きくなるので、大口径の異種基板を使用する場合、より深刻な問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−116785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基板の両面に窒化物半導体層を形成するに際し、基板に被着した堆積物の除去が容易な窒化物半導体積層構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの実施形態によれば、窒化物半導体積層構造体の製造方法では、第1および第2の面と第1熱膨張係数を有する基板の前記第2の面に、第1保護膜を形成する。前記第1保護膜が形成された前記基板の前記第1の面に、前記第1熱膨張係数と異なる第2熱膨張係数を有する第1窒化物半導体層を形成する。前記第1窒化物半導体層に、第2保護膜を形成する。前記第1保護膜を除去し、前記基板の前記第2の面を露出させる。露出した前記基板の第2の面に、前記第2熱膨張係数に略等しい第3熱膨張係数を有する第2窒化物半導体層を形成する。前記第2保護膜を除去し、前記第1窒化物半導体層を露出させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体を示す断面図。
【図2】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図。
【図3】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図。
【図4】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図。
【図5】実施例1に係る比較例の窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図。
【図6】実施例1に係る比較例の窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図。
【図7】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体に設けられた窒化物半導体発光素子を示す断面図。
【図8】実施例1に係る窒化物半導体積層構造体に設けられた別の窒化物半導体発光素子を示す断面図。
【図9】実施例2に係る窒化物半導体積層構造体の製造工程の要部を順に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0015】
本実施例に係る窒化物半導体積層構造体の製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。図1は本実施例の窒化物半導体積層構造体を示す断面図、図2乃至図4は本実施例の窒化物半導体積層構造体子の製造工程を順に示す断面図である。
【0016】
本実施例の窒化物半導体積層構造体は、窒化物半導体発光素子の製造に用いられるもので、異種基板の両面に窒化物半導体層を設けて、異種基板の表裏で熱膨張係数の差に起因して生じる応力をつり合わせることにより、反りが低減するように構成されている。
【0017】
図1に示すように、本実施例の窒化物半導体積層構造体10では、基板11は対向する第1および第2の面11a、11bと第1熱膨張係数α1を有している。
【0018】
基板11の第1の面11aに、第1熱膨張係数α1と異なる第2熱膨張係数α2を有する第1窒化物半導体層12が設けられている。基板11の第2の面11bに、第2熱膨張係数α2に略等しい第3熱膨張係数α3を有する第2窒化物半導体層13が設けられている。
【0019】
基板11は、例えば直径が約150mm、厚さt1が約500μmのシリコン基板である。基板11の第1熱膨張係数α1は、約2.4E−6/Kである。
【0020】
第1窒化物半導体層12は、例えば厚さt2が約5μmの窒化ガリウム(GaN)層である。第1窒化物半導体層12の第2熱膨張係数α2は、約3.17E−6/Kである。
【0021】
第2窒化物半導体層13は、例えばGaN層21、N型GaNクラッド層22、MQW層23、P型GaNクラッド層24およびP型GaNコンタクト層25がこの順に積層された積層構造体である。
【0022】
第2窒化物半導体層13については周知であるが、以下簡単に説明する。GaN層21は、N型クラッド層22からP型GaNコンタクト層25までを成長させるための下地単結晶層であり、例えば約3μmと厚く形成されている。N型GaNクラッド層22は、例えば厚さ2μm程度に形成されている。
【0023】
MQW層23は、例えば厚さが5nmのGaN障壁層と厚さが2.5nmのInGaN井戸層とが交互に7組積層され、最上層がInGaN井戸層である多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造体である。
【0024】
P型GaNクラッド層24は、例えば厚さ100nm程度に形成され、P型GaNコンタクト層25は、例えば厚さ10nm程度に形成されている。
【0025】
InGaN井戸層(InGa1−xN層、0<x<1)のIn組成比xは、窒化物半導体層11から取り出される光のピーク波長が、例えば約450nmになるように0.1程度に設定されている。
【0026】
従って、第2窒化物半導体層13の厚さt3は、約5.16μmであるが、そのほとんどがGaN層21、N型GaNクラッド層22が占めている。
【0027】
次に、窒化物半導体積層構造体10の製造方法について説明する。本実施例の窒化物半導体積層構造体の製造方法は、始めに基板11の第1の面11aに第2窒化物半導体層12形成し、次に第2の面11bに第2窒化物半導体層13を形成するに際し、プロセスガスの回り込みにより、窒化物半導体層を形成する面と反対の面側に被着する堆積物の除去が容易になるように構成されている。
【0028】
これにより、第2の面11b側の堆積物に起因して、第2窒化物半導体層13に結晶欠陥が発生するのを防止する。第1の面11a側の堆積物に起因して、基板11の平坦性が損なわれるのを防止する。素子特性や素子製造歩留まりが低下するのを防止する。
【0029】
図2(a)に示すように、基板11である面方位が(111)±2°オフのシリコン基板の第2の面11bに、第1保護膜31として、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりシリコン酸化膜を形成する。
【0030】
第1保護膜31は、第2の面11bに直接堆積物が被着するのを防止し、第1保護膜31に被着した堆積物の剥離を容易にするために設けられる。第1保護膜31はなるべく緻密な膜とし、厚さは、例えば100乃至300nm程度が適当である。
【0031】
次に、図2(b)−1に示すように、基板11を反転させて、基板11の第1の面11aにMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、厚さ約5μmの第1窒化物半導体層12を形成する。
【0032】
このとき、基板11の第2の面11b側にプロセスガスが回り込み、第1保護膜31の外周部に堆積物32、パーティクル33が被着する。堆積物32、パーティクル33は、主に多結晶GaNである。
【0033】
基板11の第2の面11bは第1保護膜31で被覆されているので、堆積物32、パーティクル33は基板11の第2の面11bに被着しない。この段階では、基板11は反っていない。
【0034】
図2(b)−2は、室温における基板11を示している。シリコンとGaNの熱膨張係数の差に起因して、室温では第1窒化物半導体層12側が凹になるように基板11に反りH1が発生する。
【0035】
シリコン基板にGaN層を形成する方法は周知であるが、以下簡単に説明する。シリコン基板に前処理として、例えば有機洗浄、酸洗浄を施した後、MOCVD装置の反応室内に収納する。
【0036】
次に、例えば水素(H)ガス雰囲気中で、シリコン基板の温度を、例えば1100℃まで昇温する。これにより、シリコン基板の表面が気相エッチングされ、表面に形成されている自然酸化膜が除去される。
【0037】
次に、窒素(N)ガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばアンモニア(NH)ガスとトリメチルアルミニウム(TMA:Tri-Methyl Aluminum)ガスを供給し、窒化アルミニウム(AlN)バッファ層を形成する。
【0038】
次に、シリコン基板の温度を、例えば1050℃まで降温する。NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばアンモニア(NH)ガスとトリメチルガリウム(TMG:Tri-Methyl Gallium)ガスを供給し、GaN層を形成する。
【0039】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給し、シリコン基板を自然降温する。NHガスの供給は、シリコン基板の温度が500℃に達するまで継続する。
【0040】
次に、図3(a)に示すように、第1窒化物半導体層12に第2保護膜34として、例えばCVD法によりシリコン酸化膜を形成する。
【0041】
第2保護膜34は、第1窒化物半導体層12に直接堆積物が被着するのを防止し、第2保護膜34に被着した堆積物の剥離を容易にするために設けられる。第2保護膜34の厚さは、第1保護膜31と略同じにすることが適当である。
【0042】
次に、図3(b)に示すように、第2保護膜34の表面および側面を第3保護膜35で被覆した後、第1保護膜31を除去する。これにより、基板11の第2の面11bが露出する。
【0043】
第1保護膜31の除去は、例えばふっ酸を含む水溶液でおこなう。第3保護膜35は、例えばパラフィンなどのワックスが適している。
【0044】
このとき、堆積物32およびパーティクル33はエッチングされない。然し、堆積物32およびパーティクル33の下の第1保護膜31がサイドエッチングされるので、堆積物32およびパーティクル33が浮き上がる。
【0045】
その結果、基板11の第2の面11bにダメージを与えることなく、第1保護膜31と同時に堆積物32、パーティクル33を除去することが可能である。
【0046】
次に、第3保護膜35を有機溶剤により除去した後、図3(c)に示すように、第2の面11bにMOCVD法により第2窒化物半導体層13を形成する。
【0047】
このとき、基板11の第1の面11a側にプロセスガスが回り込み、第2保護膜34の外周部に堆積物36、パーティクル37が被着する。堆積物36、パーティクル37は、主に多結晶GaNである。
【0048】
基板11の第1窒化物半導体層12は第2保護膜34で被覆されているので、堆積物36、パーティクル37は第1窒化物半導体層12に被着しない。この段階では、基板11は、反っていない。
【0049】
図4(a)は室温における基板11を示している。基板11の第1の面11aに形成された第1窒化物半導体層12と、基板11の第2の面11bに形成された第2窒化物半導体層13により、基板11の表裏でシリコンとGaNの熱膨張係数の差に起因して生じる応力が釣り合あい、室温における反りが低減されている。
【0050】
シリコン基板に第2窒化物半導体層13を形成する方法は周知であるが、以下簡単に説明する。図2(b)−1に示す工程と同様にして、厚さ3μmのGaN層21を形成する。
【0051】
次に、N型ドーパントとして、例えばシラン(SiH)ガスを供給して厚さ2μmのN型GaNクラッド層22を形成した後、NHガスは供給し続けながらTMGガスおよびSiHガスの供給を停止し、シリコン基板の温度を1100℃より低い温度、例えば800℃まで降温し、800℃で保持する。
【0052】
次に、Nガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばNHガスおよびTMGガスを供給し、厚さ5nmのGaN障壁層を形成し、この中にトリメチルインジウム(TMI:Tri-Methyl Indium)ガスを供給することにより、厚さ2.5nm、In組成比が0.1のInGaN井戸層を形成する。
【0053】
次に、TMIガスの供給を断続することにより、GaN障壁層とInGaN井戸層の形成を、例えば7回繰返す。これにより、MQW層23が得られる。
【0054】
次に、TMGガス、NHガスは供給し続けながらTMIの供給を停止し、アンドープで厚さ5nmのGaNキャップ層を形成する。
【0055】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、Nガス雰囲気中で、シリコン基板の温度を800℃より高い温度、例えば1030℃まで昇温し、1030℃で保持する。
【0056】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとしてNHガスおよびTMGガス、P型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)ガスを供給し、Mg濃度が1E20cm−3、厚さが100nm程度のP型GaNクラッド層24を形成する。
【0057】
次に、Cp2Mgガスの供給を増やして、Mg濃度が1E21cm−3、厚さ10nm程度のP型GaNコンタクト層25を形成する。
【0058】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガス、Cp2Mgガスの供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給し、シリコン基板を自然降温する。NHガスの供給は、シリコン基板の温度が500℃に達するまで継続する。
【0059】
これにより、基板11の第2の面11bに第2窒化物半導体層13が形成され、P型GaNコンタクト層25が表面になる。
【0060】
次に、図4(b)に示すように、第2保護膜34を除去し、第1窒化物半導体層12を露出させる。第1保護膜34の除去は、第1保護膜31の除去と同様にふっ酸を含む水溶液でおこなう。
【0061】
このとき、堆積物36およびパーティクル37はエッチングされない。然し、堆積物36およびパーティクル37の下の第2保護膜34がサイドエッチングされるので、堆積物36およびパーティクル37が浮き上がる。
【0062】
その結果、第1窒化物半導体層12にダメージを与えることなく、第1保護膜31と同時に堆積物36、パーティクル373を除去することが可能である。
【0063】
これにより、図1に示す基板11の第1の面11aに第1窒化物半導体層12が設けられ、基板11の第2の面11bに第2窒化物半導体層13が設けられた窒化物半導体積層構造体10が得られる。
【0064】
基板11は、表裏で熱膨張係数の差に起因して生じる応力が釣り合あっているので、室温における反りが低減されている。
【0065】
次に、比較例の窒化物半導体積層構造体の製造方法について説明する。図5および図6は比較例の窒化物半導体積層構造体の製造工程を順に示す断面図である。
【0066】
比較例の窒化物半導体積層構造体の製造方法とは、第1および第2保護膜31、34を形成する工程を有しない製造方法のことである。
【0067】
図5(a)−1に示すように、基板11の第1の面11aに、図2(b)と同様にして第1窒化物半導体層12を形成する。
【0068】
このとき、基板11の第2の面11b側にプロセスガスが回り込み、基板11の第2の面11bの外周部に堆積物32、パーティクル33が被着する。この段階では、基板11は反っていない。
【0069】
然し、シリコンはプロセスガス中のガリウム(Ga)と強く反応するため、堆積物32には多結晶GaNの他にシリコンとガリウムの反応生成物などが含まれている。
【0070】
図5(a)−2は、室温における基板11を示している。シリコンとGaNの熱膨張係数の差に起因して、室温では第1窒化物半導体層12側が凹になるように基板11に反りH2が発生する。反りH2は、図2(b)−2に示す反りH1に略等しい。
【0071】
次に、図5(b)に示すように、基板11の第2の面11bを、例えばふっ酸および硝酸を含む水溶液でライトエッチングする。
【0072】
このとき、堆積物32およびパーティクル33はエッチングされないが、堆積物32およびパーティクル33の下のシリコンがサイドエッチングされるので、堆積物32およびパーティクル33が浮き上がる。
【0073】
然し、堆積物32にはシリコンとガリウムの反応生成物が含まれているため、十分除去されずに残渣41が生じる。基板11のエッチングを強化すると、残渣41の下のシリコンが抉られて凹凸が生じ、平坦性を維持することが難しくなる。
【0074】
その結果、基板11の第2の面11bにダメージを与えることなく、堆積物32、パーティクル33を除去することは困難である。
【0075】
平坦性を確保するために、基板11の第2の面11bをCMP(Chemical mechanical polishing)法などにより再研磨することも考えられる。然し、この段階では基板11が反っているため、研磨工程において基板11が破損する恐れがある。
【0076】
また、反りH2は基板11の直径の2乗に比例して大きくなるので、大口径の基板11を使用する場合、より深刻な問題となる。
【0077】
次に、図6(a)−1に示すように、基板11を反転して、基板11の第2の面11bに、図3(c)と同様にして第2窒化物半導体層13を形成する。
【0078】
このとき、基板11の第2の面11bの残渣41に起因して、第2窒化物半導体層13に結晶欠陥42が生じる。第2窒化物半導体層13が厚くなるにつれて、表面に白濁43が生じ、表面モフォロジーが悪化する。
【0079】
このような第2窒化物半導体層13に窒化物半導体発光素子を設けると、素子特性や製造歩留まりが低下する。
【0080】
更に、基板11の第1の面11a側にプロセスガスが回り込み、第1窒化物半導体層12の外周部に堆積物36、パーティクル37が被着する。堆積物36、パーティクル37は主に多結晶GaNである。
【0081】
第1窒化物半導体層12に被着した堆積物36は同じGaNであり、エッチングで除去することは困難である。その結果、基板11の平坦性が悪化する。
【0082】
平坦性を確保するために、第1窒化物半導体層12をCMP法などにより研磨することも考えられる。後述するように、基板11の反りは低減されるので、研磨は可能であるが、工程が増加する問題がある。
【0083】
図6(a)−2は、室温における基板11を示す図である。基板11の第1の面11aに形成された第1窒化物半導体層12と、基板11の第2の面11bに形成された第2窒化物半導体層13により、基板11の表裏でシリコンとGaNの熱膨張係数の差に起因して生じる応力が釣り合あい、室温における反りが低減されている。
【0084】
上述したように、比較例の窒化物半導体積層構造体の製造方法では、プロセスガスの回り込みにより生じる堆積物を十分に除去することが困難であり、図1に示す窒化物半導体積層構造体10は得られない。
【0085】
次に、窒化物半導体積層構造体10を、窒化物半導体発光素子の製造に用いた場合について説明する。図7は窒化物半導体積層構造体10に設けられた窒化物半導体発光素子50を示す断面図である。
【0086】
図7に示すように、窒化物半導体発光素子50では、第2半導体層13の一側面側がP型GaNコンタクト層25からN型GaNクラッド層22の一部まで除去されている。除去は、例えば塩素系ガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)法による異方性エッチングによりおこなう。
【0087】
P型GaNコンタクト層25の一部に第1電極51が設けられている。露出したN型GaNクラッド層22の一部に第2電極52が設けられている。
【0088】
第1電極51は、P型GaNコンタクト層25上に、例えばスパッタリング法によりAl膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングして形成する。第2電極52は、例えばスパッタリング法によりTi/Pt/Auの積層膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングして形成する。
【0089】
但し、窒化物半導体発光素子50の高さはt1+t2+t3となるので、目的の高さになるように、予め基板11の厚さt1を調整しておくことが望ましい。
【0090】
以上説明したように、本実施例の窒化物半導体積層構造体10の製造方法では、第1および第2の保護膜31、34を形成する工程を有している。
【0091】
その結果、第1窒化物半導体層12を形成する工程において第1保護膜31に被着した堆積物32を、第1保護膜31を除去する工程において同時に除去することができる。
【0092】
第2窒化物半導体層13を形成する工程において、第2保護膜34に被着した堆積物36を、第2保護膜34を除去する工程において同時に除去することができる。
【0093】
従って、基板の両面に窒化物半導体層を形成するに際し、基板に被着した堆積物の除去が容易な窒化物半導体積層構造体の製造方法が得られる。
【0094】
ここでは、基板11がシリコンである場合について説明したが、その他の異種基板でも構わない。異種基板としては、サファイア(Al、α1≒5.3E−6/K)、炭化ケイ素(SiC、α1≒4.68E−6/K)、酸化亜鉛(ZnO、α1≒3.9E−6/K)などを用いることが可能である。
【0095】
第1および第2保護膜31、34がシリコン酸化膜である場合について説明したが、同種の膜であればよく、これに限定されない。第1および第2保護膜31、34が、例えばシリコン窒化膜とすることも可能である。
【0096】
第1、第2電極を第2窒化物半導体層13側に設けた窒化物半導体発光素子50について説明したが、第2電極を第1窒化物半導体層12側に設けることも可能である。図8は第2電極を第1窒化物半導体層側に設けた窒化物半導体発光素子を示す図である。
【0097】
図8に示すように、窒化物半導体発光素子60では、P型GaNコンタクト層25の一部に第1電極61が設けられている。第1窒化物半導体層12側の全面に第2電極62が設けられている。
【0098】
第2電極62を第1窒化物半導体層12側に設けることにより、窒化物半導体発光素子60のサイズを、窒化物半導体発光素子50のサイズより小さくすることができる利点がある。
【0099】
但し、第2半導体層12およびGaN層21にN型ドーパンとしてシリコンをドープして、第2半導体層12およびGaN層21の抵抗をできるだけ低くしておくことが必要である。基板11はできるだけ低抵抗のN型シリコンとすることが望ましい。
【実施例2】
【0100】
本実施例に係る窒化物半導体積層構造体の製造方法について図9を用いて説明する。図9は窒化物半導体発光素子の製造工程の要部を順に示す断面図である。
【0101】
本実施例において、上記実施例1と同一の構成部分には同一符号を付してその部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。本実施例が実施例1と異なる点は、第1および第2保護膜を異種の膜としたことにある。
【0102】
即ち、図9に示すように、第1半導体層12に第2保護膜71として、シリコン窒化膜を形成する。シリコン窒化膜は、例えばプラズマCVD法により形成する。シリコン窒化膜の密着性を向上させるために、下地膜として薄いシリコン酸化膜を形成しておくことが望ましい。
【0103】
次に、図9(b)に示すように、ふっ酸を含む水溶液により、第1保護膜31であるシリコン酸化膜を除去する。このとき、第2保護膜71であるシリコン窒化膜はエッチングされないので、図3(b)に示す第3保護膜35は不要である。
【0104】
次に、図9(c)に示すように、例えば180℃に加熱した燐酸溶液(HPO:HNO)により、第2保護膜71であるシリコン窒化膜を除去する。GaNは燐酸溶液ではエッチングされない。
【0105】
以上説明したように、本実施例では、第2保護膜をシリコン窒化膜としているので、第1保護膜31を除去するときに、第2保護膜を被覆する必要がなくなる利点がある。
【0106】
ここでは、第2保護膜がシリコン窒化膜である場合について説明したが、これに限定されない。第2保護膜としては、非結晶質シリコン膜、酸化アルミニウム(Al)なども可能である。非結晶質シリコン膜とは、多結晶シリコン膜、アモルファスシリコン膜、または両者の混在した膜のことである。
【0107】
第1保護膜を除去する薬液が第2保護膜に対して選択性を有し、第2保護膜を除去する薬液がGaNに対して選択性を有していればよい。
【0108】
また、第1および第2保護膜を入れ替えて、第1保護膜をシリコン窒化膜とし、第2保護膜をシリコン酸化膜とすることも可能である。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0110】
本発明は、以下の付記に記載されているような構成が考えられる。
(付記1) 前記基板は、シリコン、サファイア、炭化珪素および酸化亜鉛基板から選択された材料からなる請求項1に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【0111】
(付記2) 前記第1および第2保護膜はシリコン酸化膜である請求項5に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【0112】
(付記3) 前記第1保護膜はシリコン酸化膜であり、前記第2保護膜はシリコン窒化膜である請求項6に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0113】
10、50 窒化物半導体積層構造体
11 基板
11a 第1の面
11b 第2の面
12 第1窒化物半導体層
13 第2窒化物半導体層
21 GaN層
22 N型GaNクラッド層
23 MQW層
24 P型GaNクラッド層
25 P型GaNコンタクト層
31 第1保護膜
32、36 堆積物
33、37 パーティクル
34、71 第2保護膜
35 第3保護膜
41 残渣
42 結晶欠陥
43 白濁
50、60 窒化物半導体発光素子
51、61 第1電極
52、62 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の面と第1熱膨張係数を有する基板の前記第2の面に、第1保護膜を形成する工程と、
前記第1保護膜が形成された前記基板の前記第1の面に、前記第1熱膨張係数と異なる第2熱膨張係数を有する第1窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第1窒化物半導体層に、第2保護膜を形成する工程と、
前記第1保護膜を除去し、前記基板の前記第2の面を露出させる工程と、
露出した前記基板の第2の面に、前記第2熱膨張係数に略等しい第3熱膨張係数を有する第2窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第2保護膜を除去し、前記第1窒化物半導体層を露出させる工程と、
を具備することを特徴とする窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第1窒化物半導体層を形成する工程において、前記第1保護膜に堆積物が被着し、前記第1保護膜を除去する工程において、前記堆積物が同時に除去されることを特徴とする窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第2窒化物半導体層を形成する工程において、前記第2保護膜に堆積物が被着し、前記第2保護膜を除去する工程において、前記堆積物が同時に除去されることを特徴とする窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1保護膜および前記第2保護膜の除去は、等方性エッチングによりおこなうことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第1および第2保護膜は同種の膜であり、前記第1保護膜の除去は、前記第2保護膜を第3保護膜で被覆して、薬液を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1保護膜と前記第2保護膜は異種の膜であり、前記第1保護膜の除去は、前記第2保護膜に対して選択性を有する薬液を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−62409(P2013−62409A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200511(P2011−200511)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】