説明

筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置

【課題】点火時期の大幅な遅角と燃焼安定度とを両立させ、冷機時の排気ガス温度の昇温とHC排出量低減とを実現する。
【解決手段】暖機完了状態では、通常の成層燃焼運転および均質燃焼運転を行う。冷機状態では、触媒コンバータの活性化促進とHC排出量低減のために、上死点噴射運転モードとして、噴射開始時期ITSが圧縮上死点前、噴射終了時期ITEが上死点後となるように、上死点を跨いで主噴射I1が行われる。点火時期ADVは、上死点後となる。圧縮上死点では、スワールやタンブルが減衰して微小な乱れが活発化しており、ピストンの位置変化も少ないので、安定した燃焼を実現できる。排気ガス温度のさらなる上昇のために、燃料の一部が膨張行程噴射I2として噴射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒内に燃料を直接に噴射する筒内直接噴射式火花点火内燃機関に関し、特に、その噴射時期および点火時期の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気浄化用の触媒コンバータが活性温度よりも低い未暖機状態にあるときに、圧縮行程中に燃料噴射を行い、かつ、点火時期を圧縮上死点よりも遅角させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−336467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
内燃機関冷機時の触媒の早期活性化を図るべく排気ガス温度を昇温させるとともにHCを低減するためには、点火時期をなるべく大きく遅角させることが望ましいが、点火時期を大幅に遅角すると、燃焼安定度が悪化するため、燃焼安定度の観点から定まるある限界よりも遅角することはできない。特許文献1のような従来の技術では、特に冷機時のような条件下において、安定した燃焼の確保が難しく、燃焼安定度から定まる点火時期の遅角限界が比較的進み側にあり、十分な点火時期の遅角を実現することができない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置において、所定の運転状態のとき、例えば触媒コンバータの冷機時のような排気ガス温度の昇温が必要な場合などに、上死点噴射運転モードとして、燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点後となるように圧縮上死点を跨ぐ期間に行い、かつ、上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行うとともに、この圧縮上死点を跨ぐ期間の主噴射から遅れて、上記の点火後に燃料の一部を膨張行程噴射として噴射することを特徴としている。上記膨張行程噴射は、望ましくは、上記主噴射による燃焼が終了した直後に行う。例えば、膨張行程噴射の噴射開始時期は、上記点火時期から50°CA〜100°CA程度遅れた時期となる。
【0005】
図1は、本発明の上死点噴射運転モードにおける燃料噴射期間および点火時期を例示したものであり、図示するように、圧縮上死点を跨ぐ主噴射I1とこれから遅れた膨張行程噴射I2とが行われるが、本発明では、基本的に、主噴射I1によって燃焼が成立する。この主噴射I1は、噴射開始時期ITSが圧縮上死点(TDC)前、噴射終了時期ITEが圧縮上死点(TDC)後となる。その間の噴射期間Tの長さは、噴射量に相当する。点火時期ADVは、圧縮上死点(TDC)後であり、噴射開始時期ITSから所定クランク角(例えば10°CA〜25°CA)遅れた時期となる。この遅れ期間Dは、一般に、燃料噴射弁から点火プラグまでの距離に相関する。
【0006】
なお、圧縮上死点(TDC)を中心として前半の圧縮上死点前の期間と後半の圧縮上死点後の期間とがほぼ等しくなるように、噴射開始時期ITSおよび噴射終了時期ITEを制御するようにしてもよい。
【0007】
図2は、内燃機関の1サイクル中のピストンストロークによるピストン位置変化量と燃焼室の体積変化量とを示したものである。図示するように、単位クランク角当たりの変化量は、ストロークの中間位置付近で最も大きく、下死点(BDC)付近ならびに上死点(TDC)付近では、非常に小さい。従って、本発明で燃料噴射を行う圧縮上死点付近は、ピストン位置変化や体積変化が非常に小さく、ピストンの動き等に影響されない安定した場が形成され得る。
【0008】
また、筒内には、吸気行程において、スワール流やタンブル流といった比較的大きな流れのガス流動が発生し、圧縮行程においても残存しているが、このようなスワール流やタンブル流といった大きな流れは、ピストンが圧縮上死点付近に達して燃焼室が狭小なものとなると、急激に崩壊する。図3は、種々の機関回転数の下での燃焼室内の大きな流れの流速変化を示したものであり、図示するように、回転数に応じた強さのスワール流ないしタンブル流が発生するが、圧縮上死点(360°CA)に達する前に、急激に崩壊する。従って、本発明において圧縮上死点付近で噴射された燃料噴霧は、スワール流やタンブル流のような大きな流れにより動かされることがなく、点火プラグに対し、常に安定した形で噴霧を形成することが可能である。
【0009】
一方、上記のスワール流やタンブル流といった比較的大きな流れのエネルギは、その流れの崩壊に伴って、微小な乱れへと遷移する。従って、燃焼室内の微小な乱れは、圧縮上死点の直前に、急激に増大する。図4は、図3に示した流れの崩壊に伴って生じる微小な乱れの強さを、流速に換算していわゆる乱れ流速として示したものであり、図示するように、圧縮上死点直前に、乱れが大きく増加する。このような微小な乱れは、燃焼場の活性化に寄与し、燃焼改善作用が得られる。
【0010】
つまり、燃料が噴射される圧縮上死点付近での燃焼室内の場は、噴霧を動かしてしまうような大きな流れが存在せず、かつ燃焼を活発化させる微小な乱れが多く存在し、しかも、ピストンの動きに対し非常に安定した場となる。従って、圧縮上死点よりも遅角した点火時期でもって、安定した燃焼が可能であり、燃焼安定度の上で制限される点火時期の遅角限界が、より遅角側となる。そのため、点火時期の大幅な遅角により、排気ガス温度を大幅に昇温させることができ、かつHC排出量が低減する。
【0011】
そして、本発明では、さらに排気ガス温度の昇温を図るために、主噴射による燃料への点火後の膨張行程において、燃料の一部を膨張行程噴射I2として噴射する。この膨張行程噴射による燃料は、筒内の温度によって自着火し、排気ガス温度をさらに高める。なお、主噴射の燃焼中に次の膨張行程噴射の燃料が噴射されると、拡散燃焼となってスモークが増加するので、主噴射による燃焼が終了した直後に行うことが望ましい。本発明では、そもそもの主噴射による燃焼が上死点よりも遅れて行われることから、膨張行程噴射による燃料の燃焼が非常に遅い時期となり、排気ガス温度が効果的に上昇する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、点火時期を圧縮上死点よりも大幅に遅角させた状態で安定した燃焼を得ることができ、例えば内燃機関の冷機時に、排気ガス温度を昇温させて触媒の早期活性化を図ることができるとともに、HC排出量の低減が可能となる。特に、燃料の一部を主噴射の点火後に膨張行程噴射として噴射することにより、排気ガス温度を最大限に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図5〜図7は、この発明が適用される筒内直接噴射式火花点火内燃機関の一実施例を示しており、特に、図5,図6は、一つの気筒の構成を示し、図7は機関全体のシステム構成を示している。
【0015】
図5,図6に示すように、シリンダブロック1に形成されたシリンダ2にピストン3が摺動可能に配置されているとともに、シリンダブロック1上面に固定されたシリンダヘッド4と上記ピストン3との間に、燃焼室5が形成されている。上記シリンダヘッド4には、吸気弁6によって開閉される吸気ポート7と、排気弁8によって開閉される排気ポート9と、が形成されている。1つの気筒に対し、一対の吸気弁6と一対の排気弁8とが設けられており、これらの4つの弁に囲まれた燃焼室5天井面中心部に、点火プラグ10が配置されている。また、この実施例では、運転状態によってタンブル流を強化することができるように、吸気ポート7内に、該吸気ポート7内を上下2つの流路に区画する隔壁11が設けられているとともに、その下側の流路を上流端で開閉するタンブル制御弁12が設けられている。当業者には容易に理解できるように、タンブル制御弁12によって下側の流路を閉塞した状態ではタンブル流が強化され、タンブル制御弁12を開いた状態ではタンブル流が弱まる。なお、このタンブル制御弁12は本発明において必ずしも必須のものではなく、省略することも可能であり、また、これに代えて、公知のスワール制御弁を設けるようにしてもよい。
【0016】
上記シリンダヘッド4の吸気ポート7の下側、より詳しくは一対の吸気ポート7の中間部の位置には、筒内へ燃料を直接噴射する燃料噴射弁15が配置されている。つまり、この燃料噴射弁15は、燃焼室5の吸気弁6側の側部に位置し、平面図上において図示せぬピストンピンと直交する方向に沿って燃料を噴射するように配置されているとともに、図5の断面図上において、斜め下方を指向して配置されている。但し、下方への傾斜角は比較的小さく、つまり水平に近い方向へ燃料を噴射する。
【0017】
一方、ピストン3の頂部は、ペントルーフ型をなす燃焼室5天井面の傾斜に沿った凸部形状をなしているとともに、その中央部に、平面図上において略矩形をなす凹部16が形成されている。この凹部16の底面は、タンブル流に沿うように、所定の曲率半径の円弧面ないしは円弧に近似した湾曲面をなしている。
【0018】
図7に示すように、この実施例の内燃機関は、例えば直列4気筒機関であり、各気筒の排気ポート9が接続された排気通路21に、排気浄化用の触媒コンバータ22が設けられており、その上流側に、酸素センサ等の空燃比センサ23が配置されている。また、各気筒の吸気ポート7が接続された吸気通路24は、その入口側に、制御信号により開閉される電子制御スロットル弁25を備えている。上記排気通路21と上記吸気通路24との間には、排気還流通路26が設けられており、その途中に、排気還流制御弁27が介装されている。また、各気筒のタンブル制御弁12は、ソレノイドバルブ28を介して導入される吸入負圧により動作する負圧式タンブル制御アクチュエータ29によって、一斉に開閉される構成となっている。
【0019】
また、上記燃料噴射弁15には、燃料ポンプ31およびプレッシャレギュレータ32によって所定圧力に調圧された燃料が、燃料ギャラリ33を介して供給されている。従って、各気筒の燃料噴射弁15が制御パルスにより開弁することで、その開弁期間に応じた量の燃料が噴射される。なお、本実施例では、燃圧は常に一定に維持される。また、各気筒の点火プラグ10は、イグニッションコイル34に接続されている。
【0020】
上記内燃機関の燃料噴射時期や噴射量、噴射率、点火時期等は、コントロールユニット35によって制御される。このコントロールユニット35には、アクセルペダル踏み込み量を検出するアクセル開度センサ30の検出信号や、クランク角センサ36の検出信号、空燃比センサ23の検出信号、冷却水温を検出する水温センサ37の検出信号、等が入力されている。さらに、本実施例では、触媒コンバータ22の温度状態を検出するために、該触媒コンバータ22のモノリス型セラミックス触媒担体の長手方向中央部に配置された触媒温度センサ38を備えている。
【0021】
上記のように構成された内燃機関においては、暖機が完了した後の状態においては、通常の成層燃焼運転および均質燃焼運転が行われる。
【0022】
すなわち、低速低負荷側の所定の領域では、通常の成層燃焼運転モードとして、基本的にタンブル制御弁12を閉じた状態の下で、圧縮行程の適宜な時期に燃料噴射が行われ、かつ圧縮上死点前の時期に点火が行われる。なお、この運転モードでは、圧縮上死点前に必ず燃料噴射が終了する。圧縮行程中にピストン3へ向けて噴射された燃料は、凹部16に沿って旋回するタンブル流を利用して点火プラグ10近傍へ集められ、ここで点火される。そのため、平均的な空燃比がリーンとなった成層燃焼が実現される。
【0023】
また、暖機完了後の高速高負荷側の所定の領域では、通常の均質燃焼運転モードとして、基本的にタンブル制御弁12を開いた状態の下で、吸気行程中に燃料噴射が行われ、かつ圧縮上死点前のMBT点において点火が行われる。この場合は、燃料は筒内で均質な混合気となり、基本的に理論空燃比近傍で運転が行われる。
【0024】
これに対し、内燃機関の暖機が完了していない状態においては、触媒コンバータ22の活性化つまり温度上昇の促進とHC排出量低減のために、基本的に、上死点噴射運転モードとなる。この上死点噴射運転モードでは、前述した図1に示したように、主噴射I1と膨張行程噴射I2とが行われ、主噴射I1は、噴射開始時期ITSが圧縮上死点(TDC)前、噴射終了時期ITEが圧縮上死点(TDC)後となり、圧縮上死点を跨いで燃料噴射が行われる。点火時期ADVは、圧縮上死点(TDC)後となり、主噴射I1の噴射開始時期ITSから10°CA〜25°CA遅れた時期に点火される。この遅れ期間の間に、燃料噴霧がちょうど点火プラグ10付近に到達し、点火プラグ10付近に可燃混合気を形成するので、確実に着火燃焼に至り、成層燃焼が行われる。このとき、主噴射I1の燃料噴射量は、平均的な空燃比が30前後となるように設定される。そして、膨張行程噴射I2は、主噴射I1による燃焼が終了した直後の時期に噴射される。例えば、上記点火時期ADVから50°CA〜100°CA程度遅れた時期に膨張行程噴射I2が開始される。この膨張行程噴射I2の噴射量は、主噴射I1と膨張行程噴射I2との総燃料量による平均空燃比が理論空燃比よりもややリーン、例えば16〜17程度となるように設定される。
【0025】
なお、本実施例では、上記の主噴射I1の燃料噴射時期は、噴射開始時期ITSが所定のクランク角となるように制御され、噴射終了時期ITEは、この噴射開始時期ITSと燃料噴射量(噴射時間)とによって定まる。なお、燃料噴射期間における圧縮上死点前の期間と圧縮上死点後の期間とが等しくなるように、燃料噴射量に基づき、噴射開始時期ITSと噴射終了時期ITEとを求めるようにすることも可能である。
【0026】
前述したように、この上死点噴射運転モードにおいて燃料が噴射される圧縮上死点付近での燃焼室内の場は、大きな流れの崩壊により噴霧を動かしてしまうような大きな流れが存在せず、かつ大きな流れの崩壊に伴い、燃焼を活発化させる微小な乱れが多く存在し、しかも、ピストンの動きに対し非常に安定した場となる。従って、圧縮上死点よりも遅角した点火時期でもって、安定した燃焼が可能であり、燃焼安定度の上で制限される点火時期の遅角限界が、より遅角側となる。そのため、点火時期の大幅な遅角により、排気ガス温度を大幅に昇温させることができ、かつHC排出量が低減する。
【0027】
また主噴射I1の燃焼終了直後に噴射された膨張行程噴射I2の燃料は、筒内の温度によって自着火し、そのエネルギの多くが熱となって排気ガス温度の上昇に寄与する。特に、主噴射I1による燃焼が上死点TDCよりも遅れて行われ、その燃焼終了後に膨張行程噴射による燃焼が行われるので、非常に遅い時期となり、排気ガス温度が効果的に上昇する。また、膨張行程噴射I2が行われるタイミングでの筒内の温度変化が比較的緩やかであるので、膨張行程噴射I2の燃料の自着火が安定的に行われる。
【0028】
図8は、上述した本発明の上死点噴射運転モードの場合の主噴射I1の燃焼による発生熱量(a1)および筒内温度(b1)を、一般的な圧縮行程噴射(図の主噴射I101)の燃焼による発生熱量(a2)および筒内温度(b2)と対比して示したものである。燃焼期間は発生熱量の変化によって表されるが、本発明では、燃焼終了直後に膨張行程噴射I2が行われ、このときの筒内温度は、符号t1で示す付近のものとなる。これに対し、仮に、一般的な圧縮行程噴射の燃焼終了直後に追加噴射I102を加えるとすると、このときの筒内温度は、符号t2で示す付近のものとなる。t1付近の温度とt2付近の温度とは、温度そのものはあまり変わらないが、単位クランク角当たりの温度低下は、t2付近の方が急激であり、t1付近の方が相対的に緩やかである。従って、本発明の膨張行程噴射I2の方がより確実に自着火に至る。また、図の追加噴射I102に比べて本発明の膨張行程噴射I2の方が遙かに遅い時期に燃焼するので、排気ガス温度の上昇の上で有利となる。
【0029】
次に、図9および図10は、上記実施例の内燃機関の始動直後におけるより具体的な運転モードの変化の一例を示している。この例では、始動後、時間経過に伴って、第1フェーズ,第2フェーズ,第3フェーズの3段階に順次移行する。すなわち、図9のフローチャートに示すように、始動後、所定時間(例えば数秒程度)経過するまでは、第1フェーズとする(ステップ1,2)。所定時間経過後は、触媒温度センサ38により検出される触媒温度Tcatの変化率ΔTcatを監視し、ある変化率a以上の急激な温度上昇の間は第1フェーズを継続し、変化率a未満となったら、第2フェーズへ移行する(ステップ3,4,5)。第2フェーズでは、触媒温度Tcatを監視し、これが所定温度bを越えたら、第3フェーズへ移行する(ステップ6,7)。
【0030】
前述した図1の上死点噴射運転モードは、第2フェーズに相当する。また、通常の均質燃焼運転モードが第3フェーズに相当する。これに対し、第1フェーズは、上記上死点噴射運転モードの主噴射I1のみの燃焼に相当するものであり、図10のタイムチャートに示すように、噴射開始時期が圧縮上死点(TDC)前で噴射終了時期が圧縮上死点(TDC)後となるように圧縮上死点を跨いで行われる1回の燃料噴射期間の間に、燃料の全量が噴射される。点火時期ADVは、圧縮上死点(TDC)後となり、やはり噴射開始時期から10°CA〜25°CA遅れた時期に点火される。空燃比は、第2フェーズと同じく、16〜17程度に維持される。
【0031】
この第1フェーズの燃焼形態では、第2フェーズの上死点噴射運転モードに比べると排気ガス温度は低いものの、通常の成層燃焼運転や均質燃料運転に比べると、十分に高い排気ガス温度が得られ、かつ第2フェーズの上死点噴射運転モードよりもHC生成量が少ないものとなる。つまり、触媒温度Tcatが非常に低い始動直後の間は、触媒作用に依存せずにHCを最小限とするように、膨張行程噴射I2を行わないで、燃料の全量を上死点を跨ぐ期間に噴射する。なお、図示例では、上死点前の噴射期間と上死点後の噴射期間とが等しくなっている。
【0032】
前述したフローチャートに従って第1フェーズから第2フェーズへ移行すると、燃料の一部が膨張行程噴射I2として噴射されるようになり、前述した上死点噴射運転モードとなる。この上死点噴射運転モードは、第1フェーズの燃焼形態よりも燃焼効率が低いので、同じトルクを維持するために電子制御スロットル弁25の開度がより大きく制御され、吸気量Qaが増加する。従って、総燃料量もこれに見合うように増加し、平均空燃比は第1フェーズから変化しない。なお、実際には、電子制御スロットル弁25の開度変化に対し吸気量Qaの変化は応答遅れを伴ったものとなるが、図10では、説明の簡略化のためにステップ的に変化するように示してある。
【0033】
その後、第3フェーズに移行すると、空燃比センサ23の検出に基づく空燃比制御が開始されるため、空燃比は、理論空燃比に維持される。また、第3フェーズでは、点火時期がMBT点に近づき、燃焼効率が高くなることから、同じトルクを維持するために電子制御スロットル弁25の開度は小さくなり、吸気量Qaが減少する。このように、冷間始動時に、第1〜第3フェーズと段階的に変化させることで、触媒が速やかに活性化し、外部へのHC等の排出を最小限にすることができる。
【0034】
なお、上記第1フェーズは必ずしも必須のものではなく、省略することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の燃料噴射期間および点火時期の一例を示した特性図。
【図2】サイクル中のピストン位置変化量と体積変化量の特性図。
【図3】大きな流れのサイクル中の変化を示す特性図。
【図4】微小な乱れのサイクル中の変化を示す特性図。
【図5】筒内直接噴射式火花点火内燃機関の一実施例を示す断面図。
【図6】同じく平面図。
【図7】この内燃機関全体のシステム構成を示す構成説明図。
【図8】主噴射I1の燃焼による発生熱量および筒内温度の変化を一般的な圧縮行程噴射と対比して示す特性図。
【図9】冷間始動時の制御の流れを示すフローチャート。
【図10】冷間始動時のフェーズの変化を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0036】
3…ピストン
5…燃焼室
10…点火プラグ
15…燃料噴射弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置において、所定の運転状態のときに、燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点後となるように圧縮上死点を跨ぐ期間に行い、かつ、上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行うとともに、この圧縮上死点を跨ぐ期間の主噴射から遅れて、上記の点火後に燃料の一部を膨張行程噴射として噴射することを特徴とする筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項2】
上記膨張行程噴射は、上記主噴射による燃焼が終了した直後に行うことを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項3】
上記主噴射と上記膨張行程噴射との総燃料量による平均空燃比が16〜17程度であることを特徴とする請求項1または2に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項4】
上記主噴射の燃料量による平均空燃比が30程度であることを特徴とする請求項3に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項5】
点火時期が、圧縮上死点を跨ぐ主噴射の噴射開始時期から10°CA〜25°CA遅れた時期であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項6】
圧縮上死点を跨ぐ主噴射の燃料噴射期間における圧縮上死点前の期間と圧縮上死点後の期間とがほぼ等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項7】
上記膨張行程噴射の噴射開始時期が、上記点火時期から50°CA〜100°CA遅れた時期であることを特徴とする請求項5に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項8】
所定の運転状態として、排気ガス温度の昇温が要求されたときに、上記の噴射・点火を実行することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−32378(P2007−32378A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215208(P2005−215208)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】