説明

結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層を含む多層膜を製造する方法及び前記方法により得られたデバイス

【課題】 結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層を含む多層膜を製作する、単純で負担がより少ない方法を提案すること。
【解決手段】 本発明は結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層を有する多層膜を製作する方法に関し、前記膜は、結晶構造を有し、予め洗浄された表面を含む基板から製作される。本発明によれば、前記方法は前記洗浄された表面をSiF、水素、及びアルゴンのガス混合物内で生成されたRFプラズマに当て、それにより前記基板に接触して微小空洞を含有する界面副層を備える結晶シリコンの極薄層を形成するステップa)と、結晶シリコンの前記極薄層上に少なくとも1層の材料を堆積させ、それにより少なくとも一つの機械的に強い層を含む多層膜を形成するステップb)と、前記多層膜で覆われた前記基板を400℃より高い温度でアニールし、それにより前記多層膜を前記基板から分離させるステップc)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶シリコンの一つ以上の極薄層を備える多層膜を製作する方法に関し、膜は結晶構造を有する基板から作られる。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン(c−Si)系の多層膜は太陽電池又はマイクロ電子デバイスを製作するためにフレキシブル又は剛性支持体上に堆積させることを目的とする。
【0003】
用語「極薄層」は0.1マイクロメートル(μm)ないし5μmの範囲にある厚さの層を指すために使用される。
【0004】
高効率太陽電池及びマイクロ電子デバイスは結晶シリコンを用いて製作される。
【0005】
結晶シリコン系太陽電池及びマイクロ電子デバイスでの問題はそれらの製作に用いられる大量のシリコンによるそれらの高製作コストである。
【0006】
太陽電池及びマイクロ電子デバイスの製作に必要な結晶シリコンの量を低減しようとする方法が存在する。
【0007】
より詳細には、そのような方法は、薄い(50μmないし100μm)結晶シリコン基板上に製作され、非常に高い効率(17%ないし22%)を与えるヘテロ接合太陽電池を得ることを可能にする。
【0008】
イオンを注入することにより切断する方法(「スマートカット」法)、及び小さい厚さを有する結晶シリコンの膜を得ることを可能にするイオンを用いて切断する方法等の他の方法も存在する。
【0009】
図1に示されるスマートカット法は非特許文献1で知られている。
【0010】
それらの技術は、シリコン基板の表面から所定の距離に欠陥(微小空洞)を作るために平方センチメートル当たり1016個のH(1016/cm)ないし1017/cmの範囲にある注入量で結晶シリコン基板にHイオンを注入する。
【0011】
非常に薄く(0.3μmないし1μm)、大量の欠陥を有する結晶シリコンの層を有する基板が得られる。
【0012】
その後に、第2の結晶シリコン基板との親水性結合が確立される。第2の結晶シリコン基板は第1の基板の欠陥含有表面と接触させられる。1000℃より高い温度で熱処理が行われる。
【0013】
熱処理の第1段階の間、結晶シリコンの極薄膜が第1の基板から分離され、第2の基板に結合される。第2段階の間、結晶シリコンの極薄膜と第2の基板との間の化学結合が強化される。
【0014】
それらの方法の欠点は、それらが、Hイオンを注入し、高温(>1000℃)で熱処理を行うステップを伴うことであり、それらのステップは実施するには複雑であり、費用がかかる。高温アニールもこれらの方法を結晶シリコン又は耐熱材料製の基板に限定する。
【0015】
さらに、それらの先行技術の方法では、0.3μm未満又は1μmを越える厚さを有する結晶シリコン膜を得ることが不可能であり、また接合又はデバイスを直接作ることも不可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】M. Bruel, "Separation of silicon wafers by the smart cutmethod", Mat. Res. Innovat. (1999), 3, 9-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層を含む多層膜を製作する方法を提案することであり、これらの方法はより単純であり、負担がより少なく、0.1μmないし5μmの範囲にある厚さを呈する結晶シリコン膜を得ることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このために、本発明は、結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層を備え、結晶構造を有する予め洗浄された表面を含む基板から製作される多層膜を製作する方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、前記方法は以下のステップを含む。すなわち、
a)前記洗浄された表面をSiF、水素、及びアルゴンのガス混合物内で生成された高周波(RF)プラズマに当てるステップであって、前記RFプラズマの電力密度は平方センチメートル当たり100ミリワット(100mW/cm)ないし650mW/cmの範囲にあり、前記ガス混合物の圧力は200パスカル(Pa)ないし400Paの範囲にあり、前記基板の温度は150℃ないし300℃の範囲にあり、SiFの流量は分当たり1立法センチメートル(1cm/min)ないし10cm/minの範囲にあり、水素の流量は1cm/minないし60cm/minの範囲にあり、アルゴンの流量は1cm/minないし80cm/minの範囲にあり、それにより前記基板に接触して微小空洞を含有する界面副層を含む複数の副層を備える結晶シリコンの極薄層を前記洗浄された表面上に形成するステップと、
b)結晶シリコンの前記極薄層と協同して多層膜を形成するように結晶シリコンの前記極薄層上に少なくとも1層の材料を堆積させるステップであって、前記多層膜は少なくとも一つの機械的に強い層を含み、それにより結晶シリコンの前記極薄層を損傷することなく前記多層膜を前記基板から分離させるに十分な強度を有する多層膜を形成するステップと、
c)前記多層膜で覆われた前記基板を400℃より高い温度でアニールし、それにより前記多層膜を分離させるステップと
である。
【0020】
このようにして自立多層膜が得られる。次いで多層膜は、フレキシブル又は剛性で、結晶でない機械的支持体上に移されてもよく、結晶基板は再使用されてもよい。
【0021】
種々のあり得る実施形態において、本発明はまた以下の特徴に関連し、これらは単独で考慮されても、何れかの技術的に可能な組合せとして考慮されてもよく、そのそれぞれはそれ自身の特有の利点を提供する。すなわち、
ステップa)の持続時間は1分(min)ないし5時間(h)の範囲にあり、
ステップa)の間、前記RFプラズマの電力密度は500mW/cmであり、前記ガス混合物の圧力は293Paであり、前記多層膜で覆われた前記基板の温度は200℃であり、
ステップa)の間、SiFのガス流量は3cm/minであり、水素のガス流量は5cm/minであり、アルゴンのガス流量は80cm/minであり、
前記機械的に強い層は真空蒸着法により前記機械的に強い多層膜の層の一つの上に堆積されたクロム層であり、
ステップc)の間、前記機械的に強い多層膜で覆われた前記基板は800℃まで加熱され、
ステップb)において、前記クロム層はポリアミド層で覆われ、ステップc)において、前記多層膜で覆われた前記基板は300℃ないし500℃の範囲にある温度まで加熱され、
前記基板の表面は最初に酸化シリコン層で覆われ、前記製作法は、ステップa)に先立ち最初に酸化シリコンで覆われた前記基板の表面を洗浄するステップa’)を含み、
前記ステップa’)は、前記表面をフッ素含有ガスから生成されたRFプラズマに当て、それにより前記酸化シリコン層をエッチングする工程と、前記表面を水素のRFプラズマに当てる工程とを含み、
ステップa’)及びa)はプラズマ助長化学気相蒸着(PECVD)反応器の同じ反応室内で行われ、
ステップa’)は脱イオン水及びHFに基づくウェット法を用いた標準洗浄工程を含み、
ステップb)は前記機械的に強い層を堆積させるに先立ち保護層(窒化又は酸化シリコン)を堆積させる工程を含み、
ステップb)において、前記堆積された材料は結晶シリコン又はゲルマニウムであり、これは真性でも、ドープされてもよく、
ステップb)の間、P又はNドープされた材料の第1の層が前記極薄結晶シリコン層上に堆積され、P又はNドープされた材料の前記第1層はP−N又はN−P接合を得るためにN又はPドープされた材料の第2の層で覆われる。
【0022】
このようにして、本発明は、より単純で負担がより少なく、よりフレキシブルであり、高度の結晶性を呈しつつ0.1μmないし5μmの範囲にある厚さを有する結晶シリコンの膜を得ることを可能にする多層膜製作方法を提供する。
【0023】
実施するのに複雑で、高価なHイオンを注入することにより切断する方法を使用する必要は最早ない。本発明の方法はその切断方法の代替である。
【0024】
本発明の方法は部分的に、先行技術の方法(例えば「スマートカット」法)と違ってPECVD反応器内で実施され、それにより結晶シリコンの極薄層を低温で堆積させることを可能にする。基板は消耗しない。
【0025】
さらに、先行技術の方法と違って、本発明は先行技術の方法におけるおよそ1000℃と比較してより低いアニール温度(およそ400℃ないし600℃の範囲にある)を使用することを可能にする。
【0026】
本発明はまたドープされた層とドープされない層の積層を作ってP−N又はN−P接合を形成することを可能にする。先行技術の方法において、ドーピングは基板により決定され、これが制約となる。
【0027】
本発明において、ゲルマニウム等の他の元素を組み入れて例えばSi/Ge多層膜を作ることも可能である。先行技術(「スマートカット」)の方法において、基板材料以外の材料を堆積させることは不可能である。
【0028】
本発明は以下の添付図面を参照してより詳細に述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】イオン注入により切断する先行技術の方法を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態における、結晶シリコンの極薄層を含む多層膜を製作する方法を示す。
【図3】本発明の第2の実施形態における、結晶シリコンの極薄層を有する多層膜を製作する方法を示す。
【図4a】シリコンの極薄層の微細エピタキシャルコア副層の堆積速度とその組成を水素の流量の関数としてプロットしたグラフである。
【図4b】界面副層の厚さとその組成を水素の流量の関数としてプロットしたグラフである。
【図4c】表面副層の粗さとその組成を水素の流量の関数としてプロットしたグラフである。
【図5】結晶シリコンの極薄層の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1はイオン注入により切断する先行技術の方法を示す。
【0031】
方法は、シリコン基板の表面から所定の距離に欠陥(微小空洞)を作るために1016/cmないし1017/cmの範囲にある注入量で酸化シリコンの薄層で覆われた第1のシリコン基板S1にHイオンを注入する第1のステップ1)を含む。
【0032】
非常に薄く(厚さは0.3μmないし1μmの範囲にある)、欠陥に満ちた結晶シリコンの層1を含む基板が得られる。
【0033】
その後に、第1の結晶シリコン基板S1と第2の結晶シリコン基板S2を洗浄し、室温で前記第2の結晶シリコン基板S2との親水性結合が確立する第2のステップ2)が設けられる。第2の結晶シリコン基板S2は欠陥を有する第1の基板の表面と接触させられる。
【0034】
熱処理の第3のステップ3)が1000℃より高い温度で行われる。熱処理(400℃ないし600℃)の初期段階の間、極薄結晶シリコン膜1は第2の基板S2との結合を維持しながら第1の基板1から分離される。熱処理(T>1000℃)の第2段階の間、極薄結晶シリコン膜1と第2の基板S2間の化学結合が強化される。
【0035】
第4のステップ4)は第2の基板S2上の極薄結晶シリコン膜1の表面を研磨することにある。
【0036】
その方法の欠点は、それらが、Hイオンを注入するステップと、高温(1000℃より高い)で熱処理を行うステップとを伴うことであり、これらのステップは実施が複雑であり、費用がかかる。
【0037】
さらに、その先行技術の方法では、0.3μm未満の厚さの結晶シリコン膜も、1μmより大きい厚さの結晶シリコン膜も得ることが不可能である。
【0038】
図2は本発明の第1の実施形態における、結晶シリコンの基板Sから結晶シリコン2の極薄層を含む多層膜2’を製作する方法を示す。
【0039】
基板Sは予め洗浄された、すなわち酸化物のない表面を有する。洗浄方法は以下に述べられる。
【0040】
基板Sは例えば結晶シリコンの基板でも、結晶ゲルマニウムの基板でもよい。
【0041】
基板Sは<100>FZ、CZ等の基板でもよい。例えばその両面が研磨されてもよい。それは何れの抵抗率を有してもよい。以下の例では、それは1オーム−センチメートル(Ωcm)ないし5Ωcmの範囲にある抵抗率を呈する。
【0042】
本発明の方法は結晶シリコン対向面の片側に適用されても、両側に適用されてもよい。
【0043】
以下の例において、基板Sは結晶シリコンの基板である。
【0044】
多層膜2’を製作する方法は、基板Sの洗浄された表面をSiF、水素、及びアルゴンを含むガス混合物内で生成されたRFプラズマに当てて微小空洞を含む結晶シリコン2の極薄層を基板Sの表面上に形成するステップa)を含む。これらの微小空洞は水素を含有する。
【0045】
RFプラズマの電力は100mW/cmの電力密度での10ワット(W)ないし600mW/cmの電力密度での60Wの範囲にある。ガス混合物の圧力は200Paないし400Paの範囲にある。
【0046】
基板の温度は150℃ないし300℃の範囲にあり、SiFの流量は1cm/minないし10cm/minの範囲にあり、水素の流量は1cm/minないし60cm/minの範囲にあり、アルゴンの流量は1cm/minないし80cm/minの範囲にある。
【0047】
ステップa)の持続時間は好ましくは1minないし5hの範囲にある。それはそれより短くても長くてもよい。例えば、ステップa)が10minにわたり行われるときは、0.15μmの厚さを呈する結晶シリコン2の極薄層が得られる。
【0048】
結晶シリコン2の極薄層の厚さはステップa)の持続時間とSiF4の流量に依存する。
【0049】
例えば、秒当たり約0.3ナノメートル(0.3nm/s)の堆積速度に対し、ステップa)に対する10minの持続時間は0.18μmの厚さを有する結晶シリコン2の極薄層に対応し得る。ステップa)に対する5hの持続時間は5.4μmの厚さを有する結晶シリコンの極薄層に対応し得る。
【0050】
好ましいやり方において、ステップa)の間、RFプラズマの電力は500mW/cmの電力密度で50Wであり、ガス混合物の圧力は293Paであり、(0.5μmの厚さを有する結晶シリコン2の極薄層を堆積するための)RFプラズマに当てる持続時間は30minであり、基板Sの温度は200℃である。
【0051】
なお、より好ましいやり方において、SiFのガス流量は3cm/minに設定され、水素のガス流量は1cm/minないし60cm/minの範囲にあり、アルゴンのガス流量は80cm/minである。
【0052】
なお、より好ましいやり方において、SiFのガス流量は3cm/minに設定され、水素のガス流量は5cm/minに設定され、アルゴンのガス流量は80cm/minに設定される。これは1.66のH/SiF比を得る。
【0053】
上記の最適条件下で30minの持続時間の間、基板Sの表面をH/SiF/ArのRFプラズマに当てるこのステップa)の後、界面副層19、エピタキシャルコア副層20、及び表面副層21を備える三つの副層で構成される結晶シリコン2の極薄層が得られる。
【0054】
結晶シリコン2の極薄層は図5に詳細に示される。
【0055】
界面副層19は大部分の微小空洞とほんの僅かの結晶シリコンを含む。この界面副層19は基板の表面に直接接触している。それは基板Sとエピタキシャルコア副層20の間に位置する。それは0ないし9nmの範囲にある厚さを呈し、この厚さは使用される水素分率に依存する。
【0056】
エピタキシャルコア副層20は、単結晶シリコン分率、結晶シリコンの大きい粒子を有する分率、及び結晶シリコンの小さい粒子を有する分率で構成される。エピタキシャルコア副層20は90nmないし170nm(10minのプラズマに対し)の範囲にある厚さを呈する。
【0057】
表面副層21は結晶シリコンの大きい粒子を有する分率、結晶シリコンの小さい粒子を有する分率、及びSiOの分率で構成される。それは0ないし5nmの範囲にある厚さを呈する。
【0058】
これらの副層の全ての厚さはSiFの希釈に使用される水素分率に依存する。
【0059】
図4aは水素流量(秒当たり1立法センチメートル(1cm/s)ないし60cm/sの範囲にある流量に対し)の関数として極薄シリコン層2の微細エピタキシャルコア副層20の堆積速度及びその組成を示す。
【0060】
図4aないし4cの例において、SiFの流量は3cm/sであり、Arの流量は80cm/sである。
【0061】
水素流量は横軸5に沿ってcm/sでプロットされる。図4aにおいて、左側の座標軸7はエピタキシャルコア副層20の堆積速度を表わし、右側座標軸6はその組成を表わす(パーセントで)。
【0062】
水素流量の関数としてのエピタキシャルコア副層20の堆積速度を表わす曲線8は、低H希釈において、堆積速度が低く、0.1nm/sないし0.3nm/sの範囲にあることを示す。
【0063】
しかしながら、H希釈が増加するにつれ、堆積速度も増加し、最大値は0.3nm/sに近い(SiF流量がH流量、すなわち3cm/sに等しいとき)。
【0064】
希釈の何れの後続の増加もより低い堆積速度の結果を有する。
【0065】
曲線9は水素流量の関数としての単結晶シリコン(c−Si)の分率を表わす。
【0066】
曲線10は水素流量の関数としてのシリコンの小粒子の分率を表わす。
【0067】
曲線11は水素流量の関数としてのシリコンの大粒子の分率を表わす。
【0068】
曲線9ないし11は、エピタキシャルコア副層20が大きい結晶シリコン分率(約80%ないし95%)、約5%ないし20%の範囲にあるシリコンの小粒子分率、及び約1%ないし5%の範囲にある大粒子分率を有することを示す。最大の結晶シリコン分率(およそ95%)はSiF及びHの同一流量(3cm/min)と80cm/minのアルゴン流量を用いて堆積された結晶シリコン膜2に対して得られる。
【0069】
図4bは水素流量(1cm/minないし60cm/minの範囲にある流量)の関数としての界面副層19の厚さとその組成を示す。
【0070】
曲線12は水素流量の関数としての界面副層19の厚さを表わす。
【0071】
曲線13は水素流量の関数としての微小空洞分率を表わす。
【0072】
曲線14は水素流量の関数としての結晶シリコン分率を表わす。
【0073】
低H流量(1cm/min)において、界面副層19は全くない。H流量が増加するにつれ、界面副層19が現れ、それは10cm/minにおいて最大厚さに達する。H流量の増加は界面副層19の厚さの減少を生じる。そのような挙動の理由は、低H流量においては堆積速度が低く、従って、水素が、成長するシリコン2の薄膜から脱着し得ることである。
【0074】
流量がより大きいときは、堆積速度が増加し、水素は結晶シリコン基板との界面に捕捉される。一層大きいH流量では、堆積速度はもう一度減少する。一定量の水素が界面副層19に捕捉され、別の部分が脱着され、界面層の厚さを減少する結果をもたらす。
【0075】
曲線13及び14は、界面副層19が主として微小空洞(約80%)と小さい結晶シリコン(約20%)で構成されることを示す。その組成はH希釈にほとんど無関係である。
【0076】
図4cは水素流量(1cm/minないし60cm/minの範囲にある流量)の関数としての表面副層21の粗さとその組成を示す。
【0077】
曲線15は水素流量の関数としての表面副層21の粗さを表わす。
【0078】
曲線16は水素流量の関数としてのシリコンの大粒子分率を表わす。
【0079】
曲線17は水素流量の関数としてのシリコンの小粒子分率を表わす。
【0080】
曲線18は水素流量の関数としてのSiO分率を表わす。
【0081】
曲線15は、シリコン2の極薄層の粗さが、1cm/minの流量に対する約0.9nmから60cm/minに対する約4.5nmまでH流量と共に増加することを示す。
【0082】
曲線17ないし18から、SiO分率は水素流量とほとんど無関係である。
【0083】
界面副層19はエピタキシャルコア副層20のものより大きい酸素、水素、及びフッ素の量を示す。これは、界面副層19が多くの欠陥を示す(約80%の微小空洞)という事実による。
【0084】
多層膜2’を製作する方法はまた結晶シリコン2の極薄層と協同して多層膜2’を形成するために結晶シリコン2の極薄層上に少なくとも1層の材料を堆積させるステップb)を含む。多層膜2’は機械的に強く、機械的に安定な多層膜を形成するように少なくとも一つの機械的に強い層3を有する。
【0085】
機械的に強い層3は多層膜2’上に堆積された最終層である。
【0086】
機械的に強い層3は好ましくは金属層である。それはガラス又はポリマ等の何らかの他の材料で出来ていてもよい。用語「機械的に強い多層膜2’」は以下に述べられる後続ステップの間に結晶シリコン2の極薄層を損傷することなく多層膜を分離させるに十分な強度を呈する多層膜2’を指定するために使用される。
【0087】
機械的に強い層3は好ましくはクロムで出来ている。それは真空蒸着法により多層膜2’の層の一つの上に堆積される。クロム層3の厚さは100nmより大きい。150nmの厚さのクロムは、多層膜2’が、引き続いてそれを基板Sから分離させるに十分な機械強度を有することを保証する。
【0088】
図2の実施例において、ステップb)の間、結晶シリコン2の極薄層上に一つのクロム層のみが堆積される。
【0089】
別のあり得る実施形態において、堆積ステップb)の間、結晶シリコン2の極薄層と機械的に強い層3の間に半導体材料の一つ以上の層を有する多層膜2’を形成するために結晶シリコン2の極薄層上に半導体材料の一つ以上のエピタキシャル層が堆積される。
【0090】
半導体材料の層は例えばシリコン系でも、ゲルマニウム系でも、SiGe系でもよい。それらは真性でも、Pドープされても、Nドープされてもよい。多層膜2’はPIN接合を形成しても、NIP接合を形成しても、P−N接合を形成しても、N−P接合を形成してもよい。基板S上に直接接合を形成することが可能である。
【0091】
あり得る実施形態において、ステップb)は機械的に強い層3を堆積する前に保護層を堆積する工程を含む。この保護層は低密度の表面欠陥を得る働きをする窒化シリコンの層であってもよい。
【0092】
多層膜2’を製作する方法はまた、400℃より高く、好ましくは多層膜で覆われた基板Sを400℃ないし900℃の範囲にある温度でアニールし、それにより多層膜2’を基板Sから分離又は剥離させ、その結果、結晶シリコン2の極薄層をそれから分離させるステップc)を含む。
【0093】
ステップc)の間、温度が上昇するにつれ、水素原子は結晶シリコン2の極薄層の微小空洞に再結合してHの微小気泡を形成し、それにより結晶シリコン2の極薄層内の微小空洞の容積を増加する。
【0094】
図2の実施形態において、ステップc)の間、多層膜で覆われた基板Sはオーブン内で800℃まで加熱される。
【0095】
次いでオーブンの温度は室温まで下げられる。
【0096】
オーブンは随意には、基板Sの表面からの多層膜2’の分離を改良するために約250℃において開かれてもよい。
【0097】
図3に示されるもう一つの実施形態において、ステップb)の間、引き続いてクロム層3がポリアミド層4で覆われてもよい。次いで多層膜2’で覆われた基板Sは250℃ないし350℃の範囲の温度までオーブン内で加熱される。
【0098】
その後に、ステップc)の間、多層膜2’で覆われた基板Sはオーブン内で300℃ないし500℃の範囲の温度まで加熱される。
【0099】
次いでオーブンの温度は室温まで下げられる。
【0100】
オーブンは随意には、基板Sの表面からの多層膜2’の分離を改良するために約250℃において開かれてもよい。
【0101】
代わりのやり方において、アニールステップc)は非常に速い温度上昇を達成させる加熱ランプを有する急速熱アニール(RTA)オーブン内で行われてもよい。数分で900℃に達することが可能である。
【0102】
多層膜2’を製作する方法は、ステップa)に先立ち文献、仏国特許第09/55766号に述べられるように、最初に酸化シリコン(SiO)で覆われた基板の表面を洗浄するステップa’)を含んでもよい。
【0103】
あり得る実施形態において、このステップa’)は表面をフッ素含有ガスから生成されたRFプラズマに当て、それにより酸化シリコン層をエッチングする工程と、表面を水素のRFプラズマに当てる工程とを含んでもよい。
【0104】
フッ素含有ガス(又はフッ素系ガス)は好ましくはSiFガスである。例えばSF等の他のフッ素含有ガスが使用されてもよい。
【0105】
もう一つの実施形態において、洗浄ステップa’)は脱イオン水で希釈されたフッ酸の標準溶液による湿式法を用いて行われてもよい。
【0106】
RFプラズマ法を使用する利点は、その場合、ステップa’)とa)が13.56メガヘルツ(MHz)の周波数で動作する、PECVD反応器の同一反応室内で行えることである。
【0107】
従って、本発明の方法は、単一のPECVD室で実施されても良い。ステップa’)とa)は、同じPECVD室で実施され、従って、真空の中断を回避し、外部汚染物質による基板の汚染を回避し、製作方法の速度を増加し、製作コストを低減することを可能にする。
【0108】
乾式法を用いるこの洗浄ステップa’)は60秒(s)ないし900sの範囲にある持続時間の間行われる。プラズマの電力は1Wないし30Wの範囲にあり、これは10mW/cmないし300mW/cmの範囲にある電力密度に相当する。フッ素含有ガスの圧力は1.33Paないし26.66Paの範囲にある。
【0109】
このステップa’)はフッ素含有成分をシリコン基板の表面に定着又は吸着させ、それにより表面欠陥、詳細にはSi結合の破壊を生じる。
【0110】
引き続いてこれらのフッ素含有成分は、フッ素含有成分を含むシリコン基板の表面をRF水素プラズマに当てる工程により除去される。
【0111】
フッ素含有成分を含むシリコン基板の表面をRF水素プラズマに当てるこの工程は、1Wないし30Wの範囲にある電力(10mW/cmないし30mW/cmの範囲にある電力密度)のプラズマを用いて5sないし120sの範囲にある持続時間の間行われる。水素圧力は1.33Paないし133.32Paの範囲にある。RF水素プラズマに当てる工程は随意である。
【0112】
本発明は単純で、より負担が少なく、高度の結晶性を有する0.1μmないし5μmの範囲にある厚さを有する結晶シリコン膜を得ることを可能にする結晶シリコンの極薄膜を製作する方法を提供する。
【符号の説明】
【0113】
1 結晶シリコン層
2 結晶シリコン
2’ 多層膜
3 機械的に強い層
4 ポリアミド層
5 横軸
6 右側座標軸
7 左側座標軸
8 エピタキシャルコア副層20の堆積速度を表わす曲線
9 水素流量の関数としての単結晶シリコン(c−Si)の分率
10 水素流量の関数としてのシリコンの小粒子の分率
11 水素流量の関数としてのシリコンの大粒子の分率
12 水素流量の関数としての界面副層19の厚さ
13 水素流量の関数としての微小空洞分率
14 水素流量の関数としての結晶シリコン分率
15 水素流量の関数としての表面副層21の粗さ
16 水素流量の関数としてのシリコンの大粒子分率
17 水素流量の関数としてのシリコンの小粒子分率
18 水素流量の関数としてのSiO分率
19 界面副層
20 エピタキシャルコア副層
21 表面副層
S 基板
S1 第1のシリコン基板
S2 第2のシリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコンの少なくとも一つの極薄層(2)を備え、結晶構造を有する予め洗浄された表面を含む基板(S)から製作される多層膜(2’)を製作する方法であって、
a)前記洗浄された表面をSiF、水素、及びアルゴンのガス混合物内で生成されたRFプラズマに当てるステップであって、前記RFプラズマの電力密度は100mW/cmないし600mW/cmの範囲にあり、前記ガス混合物の圧力は200Paないし400Paの範囲にあり、前記基板(S)の温度は150℃ないし300℃の範囲にあり、SiFの流量は1cm/minないし10cm/minの範囲にあり、水素の流量は1cm/minないし60cm/minの範囲にあり、アルゴンの流量は1cm/minないし80cm/minの範囲にあり、それにより前記基板(S)に接触して微小空洞を含有する界面副層(19)を含む複数の副層(19、20、21)を備える結晶シリコン(2)の極薄層を前記洗浄された表面上に形成するステップと、
b)結晶シリコン(2)の前記極薄層と協同して多層膜(2’)を形成するように結晶シリコン(2)の前記極薄層上に少なくとも1層の材料を堆積させるステップであって、前記多層膜は少なくとも一つの機械的に強い層(3)を含み、それにより結晶シリコン(2)の前記極薄層を損傷することなく前記多層膜(2’)を分離させるに十分な強度を有する多層膜(2’)を形成するステップと、
c)前記多層膜(2’)で覆われた前記基板(S)を400℃より高い温度でアニールし、それにより前記多層膜(2’)を前記基板(S)から分離させるステップと
を含むことを特徴とする
多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項2】
ステップa)の間、前記RFプラズマの電力密度は500mW/cmであり、前記ガス混合物の圧力は293Paであり、前記多層膜(2’)で覆われた前記基板(S)の温度は200℃であることを特徴とする請求項1に記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項3】
ステップa)の間、SiFのガス流量は3cm/minであり、水素のガス流量は5cm/minであり、アルゴンのガス流量は80cm/minであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項4】
前記機械的に強い層(3)は真空蒸着法により前記機械的に強い多層膜(2’)の層の一つの上に堆積されたクロム層であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一つに記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項5】
ステップc)の間、前記機械的に強い多層膜(2’)で覆われた前記基板(S)は800℃まで加熱されることを特徴とする請求項4に記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項6】
前記基板の表面は最初に酸化シリコン層で覆われ、前記製作法は、ステップa)に先立ち最初に酸化シリコンで覆われた前記基板の表面を洗浄するステップa’)を含むことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一つに記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項7】
前記ステップa’)は、前記表面をフッ素含有ガスから生成されたRFプラズマに当て、それにより前記酸化シリコン層をエッチングする工程と、前記表面を水素のRFプラズマに当てる工程とを含むことを特徴とする請求項6に記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項8】
ステップa’)及びa)はPECVD反応器の同じ反応室内で行われることを特徴とする請求項7に記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項9】
ステップb)は前記機械的に強い層(3)を堆積させるに先立ち保護層を堆積させる工程を含むことを特徴とする請求項1ないし8の何れか一つに記載の多層膜(2’)を製作する方法。
【請求項10】
ステップb)の間、P又はNドープされた材料の第1の層が前記極薄結晶シリコン層(2)上に堆積され、P又はNドープされた材料の前記第1の層はP−N又はN−P接合を得るためにN又はPドープされた材料の第2の層で覆われることを特徴とする請求項1ないし9の何れか一つに記載の多層膜(2’)を製作する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a−4c】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−508962(P2013−508962A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534740(P2012−534740)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052198
【国際公開番号】WO2011/048308
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(508004409)
【出願人】(501455677)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (12)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【Fターム(参考)】