説明

船舶のエンジン制御装置

【課題】 船体抵抗特性が異なる場合でも、スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値とエンジン回転速度とを所定の目標特性に維持する。
【解決手段】 スロットル開度指令値を設定するスロットル開度指令値設定手段と、該スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値に基づいてエンジンのスロットル弁を制御するスロットル制御手段と、前記エンジンのエンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を備え、前記スロットル制御手段は、前記エンジン回転速度検出手段で検出したエンジン回転速度に対する、前記スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値と目標スロットル開度との偏差に基づいてスロットル開度を学習制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットル開度指令値を設定するスロットル開度指令値設定手段と、該スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値に基づいてエンジンのスロットル弁を制御するスロットル制御手段とを備えた船舶のエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶のエンジン制御装置では、操縦席に配置されるリモコンレバー等の操作部の操作角度(操作量)に応じた電気信号を制御部に供給し、この制御部で例えば船外機に内蔵されたエンジンのスロットルレバーを駆動するスロットル駆動ユニットを制御することによりエンジン回転速度が制御され、具体的には操作部の操作量をもとに操作量とスロットルレバーの駆動量との関係を記憶する記憶手段を参照してスロットルレバーの駆動量を設定し、この設定量に向けてスロットル駆動ユニットを作動させたときに、所定時間内にスロットルレバーの駆動量が設定量に達しない場合に、記憶手段に記憶された操作量と駆動量との関係を補正するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−296473号公報(第1頁〜第2頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来例にあっては、リモコンレバーの操作角度と、スロットルレバーの駆動量とを正確に対応付けることができるものであるが、船外機は、船体とは別個に製造され、取り付けられる船体の種類も多種多様であり、船体抵抗特性も全く異なることからリモコンレバーから出力される操作量とエンジン回転速度とを所定の関係に維持することは困難であるという未解決の課題を有している。
【0004】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、船体抵抗特性が異なる場合でも、スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値とエンジン回転速度とを所定の目標特性に維持することができる船舶のエンジン制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る船舶のエンジン制御装置は、スロットル開度指令値を設定するスロットル開度指令値設定手段と、該スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値に基づいてエンジンのスロットル弁を制御するスロットル制御手段とを備えた船舶のエンジン制御装置において、前記エンジンのエンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を備え、前記スロットル制御手段は、前記エンジン回転速度検出手段で検出したエンジン回転速度に対する、前記スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値と目標スロットル開度との偏差に基づいてスロットル開度を学習制御するように構成されていることを特徴としている。
【0006】
この請求項1に係る発明では、リモコンレバー等のスロットル開度指令値設定手段で、スロットル開度指令値を設定すると、設定されたスロットル開度指令値がスロットル制御手段に供給されてスロットル開度指令値に応じてスロットル弁を制御する。このとき、エンジン回転速度に対するスロットル開度指令値と目標スロットル開度との偏差に基づいてスロットル開度を学習制御することにより、船体抵抗が異なる場合でもスロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を所定の目標特性に維持することができる。
【0007】
また、請求項2に係る船舶のエンジン制御装置は、請求項1に係る発明において、前記スロットル制御手段が、前記スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値の頻度分布を計測するスロットル開度指令値分布計測手段を有し、前記スロットル開度指令値分布計測手段で計測したスロットル開度指令値の頻度分布が高いスロットル開度指令値領域の分解能を高めるように構成されていることを特徴としている。
【0008】
この請求項2に係る発明では、スロットル制御手段で、スロットル開度指令値の頻度分布を計測することにより、ユーザーが釣り等を行う低速航行、ウェイクボードや水上スキーなどのトーイングスポーツボードを曳く中速航行、及び通常の高速航行の何れかの頻度が高いかを計測し、利用頻度の多いスロットル開度指令値領域で、分解能を高めてユーザーの好みに応じた航行特性を発揮することができる。
【0009】
さらに、請求項3に係る船舶のエンジン制御装置は、請求項1又は2に係る発明において、前記スロットル制御手段が、前記スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値に対するスロットル弁の実スロットル開度の応答特性を設定する応答特性設定手段と、該応答特性設定手段で設定した応答特性に応じてスロットル開度目標値を設定し、設定したスロットル開度目標値をスロットル弁に出力するスロットル開度目標値設定手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
この請求項3に係る発明では、スロットル開度指令値設定手段でスロットル開度指令値を変更したときに、スロットル弁の実スロットル開度が変更されるまでの応答特性を応答特性設定手段で設定することができるので、ユーザーの好みに応じた応答特性を設定することができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、エンジン回転数に対するスロットル開度指令値と目標スロットル開度との偏差に基づいてスロットル開度を学習制御することにより、船体抵抗が異なる場合でもスロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を所定の目標特性に維持することができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、スロットル制御手段で、スロットル開度指令値の頻度分布を計測することにより、ユーザーが釣り等を行う低速航行、ウェイクボードや水上スキーなどのトーイングスポーツボードを曳く中速航行、及び通常の高速航行の何れかの頻度が高いかを計測し、利用頻度の多いスロットル開度指令値領域で、分解能を高めてユーザーの好みに応じた航行特性を発揮することができるという効果が得られる。
【0012】
さらに、請求項3に係る発明によれば、スロットル開度指令値設定手段でスロットル開度指令値を変更したときに、スロットル弁の実スロットル開度が変更されるまでの応答特性を応答特性設定手段で設定することができるので、ユーザーの好みに応じた応答特性を設定することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態を示す概略構成図、図2はエンジン制御装置の構成図である。
図1において、1は例えばパワーボート等の小型船舶であり、この小型船舶1にはオープンデッキタイプの船体2の船尾に船外機3を搭載し、前部にステアリングホイール4、シート5、リモコンレバー6、メインスイッチ及びスタートスイッチを有するスイッチパネル7及びメータパネル8等を配設した操縦席を備えている。ここで、リモコンレバー6は、図2に示すように、図2に示すように、中立位置N、トロール(前進)位置F、バックトロール(後進)位置R、トロール加速領域GF及びバックトロール加速領域GRを選択可能になっており、リモコンレバー6の回動角度を検出する例えばロータリポテンショメータ、光学式エンコーダ等で構成される回動位置センサ6aを備えている。
【0014】
船外機3は、図2に示すように、船体2の船尾2aにクランプブラケット21を介して上下、左右に揺動可能に支持されている。この船外機3は推進機22が配設された下部ケース23にエンジン3Eを搭載した構造のものである。推進機22は、垂直方向に延びるドライブシャフト24の下端に傘歯車機構25を介して推進軸26を連結し、この推進軸26の後端にプロペラ27を結合した構成となっている。
【0015】
ここで、傘歯車機構25は、ドライブシャフト24に装着された駆動傘歯車25aと、推進軸26に回転自在に装着された駆動傘歯車25aに噛合された前進傘歯車25b及び後進傘歯車25cとから構成されている。
推進機22には、前後進切換装置28が配設されている。この前後進切換装置28は、電動モータ28aによって回転駆動され、上下方向に延長するシフトロッド28bと、このシフトロッド28bに連結されたドッグクラッチ28cとを有し、ドッグクラッチ28cによって前進歯車25b及び後進歯車25cの何れかを推進軸26に結合する前進状態及び後進状態の何れか又は両方とも結合しないニュートラル状態に切換制御する。
【0016】
エンジン3Eは、図2に示すように、水冷式4サイクル6気筒の燃料噴射式エンジンであり、クランク軸30を走行時に略垂直をなすように縦向きに配置して構成されており、このクランク軸30の下端に前記ドライブシャフト24の上端が連結されている。エンジン3Eは、シリンダブロック31に形成された気筒31a内にピストン32を挿入配置すると共に、ピストン32をコンロッド33を介してクランク軸30に連結した構造を有する。
【0017】
シリンダブロック31の船体前後方向に見て後側面にはシリンダヘッド34が締結されている。気筒31a及びシリンダヘッド34で形成された燃焼室34aには点火プラグ35が装着されている。また、各燃焼室34aに連通する排気ポート36及び吸気ポート37には、それぞれ排気バルブ38及び吸気バルブ39が配設されており、これら各バルブ38、39はクランク軸30と平行に配設されたカム軸40、41により開閉駆動される。なお、35aは点火コイル、35bはイグナイタである。
【0018】
また、排気ポート36には排気マニホールド42が接続されており、排気ガスが排気マニホールド42から下部ケース23を通って推進機22の後端から排出される。
さらに、各吸気ポート37には吸気管43が接続され、この吸気管43内には電子制御スロットルバルブ44が配設されている。また、シリンダヘッド34の各吸気ポート37に望む部分には燃料噴射弁45が挿入配置されており、この燃料噴射弁40の噴射口は吸気ポート37の開口を指向している。
【0019】
そして、燃料噴射弁45に船体2の船尾2aに配設された燃料供給系12から燃料が供給される。この燃料供給系12は、船体2の船尾2aに配設された燃料タンク12a内の燃料を燃料ポンプ12bによりエンジン側に配置されたベーパセパレータタンク12cに供給し、このタンク12c内の燃料を高圧ポンプ12dにより燃料噴射弁45に供給するように構成されている。
【0020】
エンジン3Eは例えばマイクロコンピュータで構成されるエンジン制御手段としてのエンジンコントロールユニット46を備えている。このエンジンコントロールユニット46は、クランク軸30の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ47、吸気圧センサ48、スロットル開度センサ49、エンジン温度センサ50、気筒判別センサ51からの検出値が直接入力されると共に、船速センサ(図示せず)の船速検出値、リモコンレバー6で選択されたスロットル開度指令値等がローカルエリアネットワークを構成するバス15を介して入力され、エンジン回転速度センサ47で検出するエンジン回転速度及びその他の各検出値から予め記憶された運転制御マップに基づいて、燃料噴射弁45の燃料噴射量及び噴射時期、点火プラグ35の点火時期を制御して、エンジン回転速度制御を行う。
【0021】
一方、前後進切換装置28の電動モータ28aは、例えばマイクロコンピュータで構成されるシフトコントロールユニット60によって回転駆動される。このシフトコントロールユニット60は、リモコンレバー6で前進位置、後進位置及びニュートラル位置の何れかが選択されると、これらに応じたシフト位置検出データがバス15を介して伝送され、シフト位置検出データが前進位置を表すときには、前進傘歯車25bを駆動傘歯車25aに噛合させるようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28c作動させ、シフト位置検出データが後進位置を表すときには、後進傘歯車25cを駆動傘歯車25aに噛合させるようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28cを作動させ、シフト位置検出データがニュートラル位置を表すときには、前進傘歯車25b及び後進傘歯車25cが共に駆動傘歯車25aから離間するようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28cを作動させる。
【0022】
そして、エンジンコントロールユニット46では、リモコンレバー6からバス15を介してスロットル開度指令値が入力されると、これに基づいて図3に示すスロットル開度制御処理を実行する。
このスロットル開度制御処理は、先ず、ステップS0で、リモコンレバー6から出力されるスロットル開度指令値Th(n) を読込み、次いでステップS1に移行して、リモコンレバー6がトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRにあって“0”以外のスロットル開度指令値Th(n) が出力されているか否かを判定し、トロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GR以外の中立位置Nであるときにはトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRとなるまで待機し、トロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRであるときにはステップS2に移行する。
【0023】
このステップS2では、リモコンレバー6から入力されるスロットル開度指令値Th(n) 及びスロットル開度センサ49から入力される実スロットル開度検出値Thdを読込むと共に、エンジン回転速度センサ47で検出したエンジン回転速度Ne(n) を読込み、次いでステップS3に移行して、前回の実スロットル開度検出値Thd(n-1) 及びエンジン回転速度Ne(n-1) との変化率ΔThd及びΔNeを算出してからステップS4に移行する。
【0024】
このステップS4では、エンジンの駆動状態が定常状態にあるか否かを判定する。この定常状態の判定は、例えば実スロットル開度検出値Thdの変化率ΔThdが設定値ΔThds(例えば1deg)以下で且つエンジン回転速度Neの変化率ΔNeが設定値ΔNes(例えば300min-1)以下であるか否かを判定することにより行い、実スロットル開度検出値Thdの変化率ΔThdが1dgを超えているか又はエンジン回転速度Neの変化率ΔNeが300min-1を超えているときには過渡状態であると判断して、後述するステップS9にジャンプし、実スロットル開度検出値Thdの変化率ΔThdが1deg以下で且つエンジン回転速度Neの変化率ΔNeが300min-1以下であるときには定常状態であると判断してステップS5に移行する。
【0025】
このステップS5では、エンジン回転速度Neをもとに図4に示すエンジン回転速度Neと目標スロットル開度Th* との関係を表す目標スロットル開度算出マップを参照して、目標スロットル開度Th* を算出してからステップS6に移行する。
このステップS6では、現在のスロットル開度指令値Th(n) から目標スロットル開度Th* を減算してスロットル開度偏差ΔThe(=Th(n) −Th* )を算出し、次いでステップS7に移行して、算出したスロットル開度偏差ΔTheに補正計数Kを乗算してスロットル開度学習値Thaを算出し、次いでステップS8に移行して、算出したスロットル開度学習値Thaに基づいて図5に示すスロットル開度制御値算出マップのデフォルト値を補正し、補正したスロットル開度制御値算出マップを不揮発性メモリに更新記憶する。
【0026】
次いで、ステップS9に移行して、現在のスロットル開度指令値Th(n) をもとに不揮発性メモリに記憶されているスロットル開度制御値算出マップを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、次いでステップS10に移行して、算出したスロットル開度制御値Thcを電子制御スロットルバルブ44に出力してから前記ステップS1に戻る。
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
【0027】
今、小型船舶1が船外機3のエンジン3Eを停止させた状態で停船しているものとし、この状態でメインスイッチ(図示せず)をオン状態として、小型船舶1に搭載された各機器に電源を投入し、スタータスイッチ(図示せず)を所要時間オン状態としてエンジン3Eを始動する。
この状態では、エンジンコントロールユニット46は電源の投入により作動を開始し、エンジン回転速度センサ47で検出するエンジン回転速度及びその他の各検出値から予め記憶された運転制御マップに基づいて、燃料噴射弁45の燃料噴射量及び噴射時期、点火プラグ35の点火時期を制御するエンジン制御処理を実行すると共に、図3のスロットル開度制御処理を実行する。
【0028】
このスロットル開度制御処理では、リモコンレバー6が中立位置Nにあるため、リモコンレバー6がトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRに回動されるまで待機状態を継続する。
その後、航行を開始するために、リモコンレバー6を例えばトロール加速領域GFに回動させると、その回動位置に応じた“0”以外のスロットル開度指令値Th(n) が出力され、これがバス15を介してエンジンコントロールユニット46に入力される。また、スロットル開度センサ49で検出した実スロットル開度検出値Thd(n) 及びエンジン回転速度センサ47で検出したエンジン回転速度Ne(n) がエンジンコントロールユニット46に入力される。
【0029】
このとき、エンジンコントロールユニット46で、図3のスロットル開度制御処理が実行されることにより、“0”以外のスロットル開度指令値Th(n) が入力されているので、リモコンレバー6がトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRに回動されたものと判断してステップS2に移行し、スロットル開度指令値Th(n) 、実スロットル開度検出値Thd(n) 及びエンジン回転速度Ne(n) を読込む。
【0030】
そして、小型船舶1が前進加速航行を開始した直後では、少なくとも実スロットル開度検出値Thd(n) の変化率ΔThd及びエンジン回転速度Ne(n) の変化率ΔNeの何れか一方が設定値ΔThds及びΔNesを超えており、過渡状態であるので、ステップS4からステップS9に移行し、新たな学習を行うことなく、現在のエンジン回転速度Ne(n) をもとに不揮発性メモリに記憶されている図5に示すスロットル開度制御値算出マップを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、算出したスロットル開度制御値Thcを電子制御スロットルバルブ44に出力することにより、電子制御スロットルバルブ44のスロットル開度が制御され、エンジン回転速度Neが増加する。
【0031】
その後、リモコンレバー6の回動をトロール加速領域GFの所望位置で停止させると、これに応じてリモコンレバー6から出力されるスロットル開度指令値Th(n) が一定値となり、図3のスロットル開度制御処理で算出されるスロットル開度制御値Thcも一定値となり、スロットル開度センサ49で検出する実スロットル開度検出値Thd(n) も略一定値となる。
【0032】
このため、エンジン3Eのエンジン回転速度Ne(n) も略一定値となり、図3の処理において、ステップS4でエンジン3Eが定常状態であるものと判断されてステップS5に移行し、現在のエンジン回転速度Ne(n) をもとに図4に示す目標スロットル開度算出マップを参照して、目標スロットル開度Th* を算出し、次いでステップS6で現在のスロットル開度指令値Th(n) から目標スロットル開度Th* を減算してスロットル開度偏差ΔTheを算出し、次いでステップS7に移行して、算出したスロットル開度偏差ΔTheに補正係数Kを乗算してスロットル開度学習値Thaを算出し、次いでステップS8に移行して、算出したスロットル開度学習値Thaに基づいてスロットル開度制御値算出マップを補正し、補正したスロットル開度制御値算出マップを不揮発性メモリに記憶する。このため、スロットル開度制御値算出マップが図5で実線図示のデフォルト値を示す特性線LDから一点鎖線図示の学習値を示す特性線LLに補正される。
【0033】
そして、ステップS9に移行して、現在のスロットル開度指令値Th(n) をもとに補正されたスロットル開度制御値算出マップを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、次いでステップS10に移行して、算出したスロットル開度制御値Thcを電子制御スロットルバルブ44に出力する。
このため、スロットル開度指令値Th(n) とエンジン回転速度Ne(n) との関係は、図6で折れ線状の特性線LLで示すように、目標スロットル開度Th* を表す一点鎖線図示の特性線LTに略沿う状態となり、船体抵抗特性にかかわらず、リモコンレバー6の操作量とエンジン回転速度とが目標値に略一致するように学習制御される。
【0034】
因みに、学習制御を行わない場合には、船体抵抗が大きい場合に、一般に、図7に示すように、横軸にスロットル開度指令値Thをとり、縦軸にエンジン回転速度Neをとったときに、エンジン回転速度Neが低速領域にある状態で、一点鎖線図示の目標スロットル開度Th* を表す特性線LTに対して、実線図示の折れ線状の特性線LL′で示すように、スロットル開度指令値Thが小さい領域で比較的急な勾配で立ち上がり、スロットル開度指令値Thが大きくなるにしたがって勾配が緩やかとなる特性となり、エンジン回転速度Neの低速領域での速度調整が困難であり、この傾向は4ストロークエンジンで特に強くなる。したがって、ユーザーが釣りを行いたい場合のように低速でのトローリングを望む場合には、エンジン回転速度Neの調整が困難であるため、絶えずエンジン回転速度Neを調整しながら釣りを行うことになり、これが面倒である。
【0035】
しかしながら、上記第1の実施形態では、前述した図5に示すように、スロットル開度指令値Thに対するエンジン回転速度Neの特性を目標スロットル開度Th* を表す特性線LTに略沿う特性線LLとすることができることにより、エンジン回転速度Neが低速領域から高速領域の全領域において、スロットル開度指令値Thの変化量に対するエンジン回転速度Neの変化量を略一定とすることができ、エンジン回転速度Neの全ての回転速度領域で回転速度調整を容易に行うことができる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態を図8について説明する。
この第2の実施形態では、ユーザーの航行特性を学習して、ユーザー固有の航行特性に合わせた航行特性を得るようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、エンジンコントロールユニット46で、図8に示すエンジン回転速度の利用頻度を計測するエンジン回転速度領域計測処理を実行すると共に、スロットル開度制御処理が図9に示すように変更されていることを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有する。
【0037】
エンジン回転速度領域計測処理は、メインプログラムに対するタイマ割込処理として実行され、図8に示すように、先ず、ステップS21で、リモコンレバー6から入力されるスロットル開度指令値Th(n) を読込み、次いでステップS22に移行して、スロットル開度指令値Th(n) が“0”以外の値即ちリモコンレバー6がトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRに存在するか否かを判定し、スロットル開度指令値Th(n) が“0”即ち中立位置Nを選択しているときにはそのままエンジン回転速度領域計測処理を終了してメインプログラムに復帰し、スロットル開度指令値Th(n) が“0”以外の値であるときにはトロール加速領域GF又はバックトロール加速領域GRが選択されたものと判断してステップS23に移行する。
【0038】
このステップS23では、スロットル開度センサ49で検出した実スロットル開度検出値Thd(n) 及びエンジン回転速度センサ47で検出したエンジン回転速度Ne(n) を読込み、次いでステップS24に移行して、実スロットル開度変化率ΔThd(=Thd(n) −Thd(n-1) )を算出すると共に、エンジン回転速度変化率ΔNe(=Ne(n) −Ne(n-1) )を算出してからステップS25に移行する。
【0039】
このステップS25では、実スロットル開度変化率ΔThdが設定値ΔThds以下で且つエンジン回転速度変化率ΔNeが設定値ΔNes以下であるエンジン3Eの定常状態であるか否かを判定し、ΔThd>ΔThds又はΔNe>ΔNesであるときにはエンジン3Eが過渡状態であるものと判断してタイマ割込処理を終了してメインプログラムに復帰し、ΔThd≦ΔThds且つΔNe≦ΔNesであるときにはエンジン3Eが定常状態であるものと判断してステップS26に移行する。
【0040】
このステップS26では、現在のエンジン回転速度Ne(n) が低速領域の最大エンジン回転速度Ne1以下である釣り等の低速トローリングを行う低速航行領域にあるか否かを判定し、Ne(n) ≦Ne1であるときには低速航行領域にあるものと判断してステップS27に移行し、不揮発性メモリに記憶されている低速航行領域を選択している頻度を表す低速エンジン回転速度頻度値nL を読出し、これを“1”だけインクリメントした値を新たな低速エンジン回転速度頻度値nL として算出し、算出した低速エンジン回転速度頻度値nL を不揮発性メモリの所定記憶領域に更新記憶してからタイマ割込処理を終了してメインプログラムに復帰し、Ne(n) >Ne1であるときにはステップS28に移行する。
【0041】
このステップS28では、現在のエンジン回転速度Ne(n) が中速領域の最大エンジン回転速度Ne2以下であるウェイクボードや水上スキーなどのトーイングスポーツボードを曳く中速航行領域にあるか否かを判定し、Ne(n) ≦Ne2であるときには中速航行領域にあるものと判断してステップS29に移行して、不揮発性メモリに記憶されている中速航行領域を選択している頻度を表す中速エンジン回転速度頻度値nM を読出し、これを“1”だけインクリメントした値を新たな中速エンジン回転速度頻度値nM として算出し、算出した中速エンジン回転速度頻度値nM を不揮発性メモリの所定記憶領域に更新記憶してからタイマ割込処理を終了してメインプログラムに復帰し、Ne(n) >Ne2であるときには高速航行領域であるものと判断してステップS30に移行する。
【0042】
このステップS30では、不揮発性メモリに記憶されている高速航行領域を選択している頻度を表す高速エンジン回転速度頻度値nH を読出し、これを“1”だけインクリメントした値を新たな高速エンジン回転速度頻度値nH として算出し、算出した高速エンジン回転速度頻度値nH を不揮発性メモリの所定記憶領域に更新記憶してからタイマ割込処理を終了してメインプログラムに復帰する。
【0043】
また、スロットル開度制御処理では、図9に示すように、前述した第1の実施形態における図3の処理において、ステップS5が省略され、これに代えて前記ステップS4とステップS6との間に目標スロットル開度算出マップを選択するステップS11〜S15の選択処理が介挿されていることを除いては図3と同様の処理を行い、図3との対応処理には同一ステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0044】
ここで、選択処理は、ステップS4の判定結果がΔThd≦ΔThds且つΔNe≦ΔNesであるときにステップS11に移行して、不揮発性メモリからエンジン回転速度頻度値nL 、nM 及びnL を読込んで、これらの最大値nmax (=max(nL ,nM ,nH ))を算出し、次いでステップS12に移行して、算出した最大値nmax が予め設定した学習値を有効として扱うことができる設定値ns 以上であるか否かを判定し、nmax <ns であるときにはステップS13に移行して、前述した第1の実施形態における図4のデフォルト用目標スロットル開度算出マップを選択してからステップS15に移行し、nmax ≧ns であるときにはステップS14に移行する。
【0045】
このステップS14では、最大値を表すエンジン回転速度頻度値ni (i=L,M,L)に応じた目標スロットル開度算出マップを選択してからステップS15に移行する。この目標スロットル開度算出マップの選択処理は、エンジン回転速度頻度値nL が最大値を示すときには図10(a)に示す低速航行用目標スロットル開度算出マップを選択する。この低速航行用目標スロットル開度算出マップは、横軸に目標スロットル開度Th* をとり、縦軸にエンジン回転速度Neをとり、目標スロットル開度Th* が低い領域では、目標スロットル開度Th* の増加量に対してエンジン回転速度Neの増加量が小さくなり、きめ細かなエンジン回転速度制御が可能なように緩やかな勾配に設定され、中速領域及び高速領域で比較的急勾配に設定された特性曲線が選定されている。
【0046】
また、エンジン回転速度頻度値nM が最大値を示すときには図10(b)に示す中速航行用目標スロットル開度算出マップを選択する。この中速航行用目標スロットル開度算出マップは、低速航行用目標スロットル開度算出マップと同様に横軸に目標スロットル開度Th* をとり、縦軸にエンジン回転速度Neをとり、目標スロットル開度Th* が低い領域では、デフォルト用目標スロットル開度算出マップと同様に一定勾配に設定され、中速領域で目標スロットル開度Th* の増加量に対してエンジン回転速度Neの増加量が小さくなり、きめ細かなエンジン回転速度制御が可能なよう緩やかな勾配に選定され、高速領域で比較的急勾配に設定された特性曲線が選定されている。
【0047】
さらに、エンジン回転速度頻度値nL が最大値を示すときには図10(c)に示す高速航行用目標スロットル開度算出マップを選択する。この高速航行用目標スロットル開度算出マップは、低速航行用目標スロットル開度算出マップと同様に横軸に目標スロットル開度Th* をとり、縦軸にエンジン回転速度Neをとり、目標スロットル開度Th* が低い低速領域及び中速領域では、目標スロットル開度Th* の増加量に対してエンジン回転速度Neの増加量が多くなり、高速領域で目標スロットル開度Th* の増加量に対してエンジン回転速度Neの増加量が小さくなり、きめ細かなエンジン回転速度制御が可能なよう緩やかな勾配に選定された特性曲線が選定されている。
【0048】
ステップS15では、現在のエンジン回転速度Ne(n) をもとに選択された低速航行用目標スロットル開度算出マップ、中速航行用目標スロットル開度算出マップ及び高速航行用目標スロットル開度算出マップの何れかを参照して目標スロットル開度Th* を算出してから前記ステップS6に移行する。
次に、上記第2の実施形態の動作を説明する。
【0049】
今、船体2及び船外機3を新たに購入するか、船外機3のみを新たに購入した場合には、船外機3に設けられているエンジンコントロールユニット46の不揮発性メモリに記憶されているエンジン回転速度頻度値nL 、nM 及びnH が共に“0”にリセットされている。
このため、船体2に船外機3を取付けてからリモコンレバー6で中立位置Nを選択している状態で、メインスイッチをオン状態として各種搭載機器に対して電源を投入すると、エンジンコントロールユニット46で図8及び図9の処理を開始するが、リモコンレバー6が中立位置Nにあって、スロットル開度指令値Th(n) が“0”となっているので、図8のエンジン回転速度領域計測処理では、ステップS21及びS22の処理を繰り返すことになり、エンジン回転速度頻度値nL 、nM 及びnH は初期値の“0”を維持し、図9のスロットル開度制御処理でも、ステップS1及びS2の処理を繰り返す。
【0050】
このリモコンレバー6が中立位置Nにある状態で、スタータスイッチ(図示せず)を所要時間オン状態としてエンジン3Eを始動し、その後操縦者が航行を開始するためにリモコンレバー6を中立位置Nから例えばトロール加速領域GFに回動させると、これに応じてリモコンレバー6からトロール加速領域GFでの回動位置に応じたスロットル開度指令値Th(n) が出力され、これがバス15を介してエンジンコントロールユニット46に伝送されると共に、リモコンレバー6から前進シフト指令値がバス15を介してシフトコントロールユニット60に伝送される。
【0051】
このため、シフトコントロールユニット60で前進傘歯車25bを駆動傘歯車25aに噛合させるようにシフトロッド28bを回動させてドッグクラッチ28c作動させて、エンジン3Eの回転出力が伝達されるドライブシャフト24の回転力を推進軸26を介してプロペラ27に伝達し、船体1が前進可能となる。
一方、エンジンコントロールユニット60では、リモコンレバー6がトロール加速領域GFとなってスロットル開度指令値Th(n) が“0”より増加することになるので、図8のエンジン回転速度領域計測処理では、ステップS22からステップS23に移行して、スロットル開度センサ49で検出した実スロットル開度検出値Thd(n) 及びエンジン回転速度センサ47で検出したエンジン回転速度Ne(n) を読込み、次いでステップS24に移行し、実スロットル開度検出値変化率ΔThd及びエンジン回転速度変化率ΔNeを算出する。
【0052】
しかしながら、リモコンレバー6を操作した直後では、エンジン回転速度Neの変化率ΔNe及び実スロットル開度検出値Thdの変化率ΔThdが大きな値となり、過渡的状態であると判断されてそのままタイマ割込処理を終了し、エンジン回転速度頻度値nL ,nM ,nH が“0”に維持される。
この状態で、図9のスロットル開度制御処理が実行されると、この処理において、エンジン3Eが過渡的状態であると判断されるので、ステップS4からステップS9に移行し、現在のスロットル開度指令値Thをもとに図5に示すスロットル開度制御値算出マップのデフォルト特性線LDを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、算出したスロットル開度制御値Thcを電子スロットルバルブ44に出力することにより、電子スロットルバルブ44がデフォルト特性で制御される。
【0053】
したがって、船体抵抗特性が大きい場合には、スロットル開度指令値Th(n) とエンジン回転速度Neとの関係が図7に示すように、スロットル開度指令値Thの低速領域でスロットル開度指令値Thの増加量に対してエンジン回転速度Neの増加量が多くなってスロットル開度指令値Thの低い領域でエンジン回転速度Neの調整が難しい状態となる。
その後、リモコンレバー6をトロール加速領域GFの所望回動位置で停止させると、スロットル開度センサ49で検出される実スロットル開度検出値Thd(n) の変化率ΔThd及びエンジン回転速度センサ47で検出されるエンジン回転速度Neの変化率ΔNeが共に設定値ΔThds及びΔNes以内に納まって定常状態となる。
【0054】
このように定常状態となると、図8のエンジン回転速度領域計測処理で、ステップS25からステップS26に移行して、現在のエンジン回転速度Ne(n) が低速領域であるときには、ステップS26からステップS27に移行して、不揮発性メモリに記憶されている低速航行用エンジン回転速度頻度値nL が“1”だけインクリメントされる。
一方、図9のスロットル開度制御処理でも、エンジン3Eが定常状態であるので、ステップS4からステップS11に移行して、エンジン回転速度頻度値nL 〜nH のうちの最大値nmax を選択し、この最大値nmax が設定値nS 以上であるか以下を判定するが、航行を開始したばかりであるので、nmax <nS となり、ステップS13に移行して、図4に示すデフォルト目標スロットル開度算出マップが選択され、次いでステップS15に移行して、現在のエンジン回転速度Ne(n) をもとにデフォルト目標スロットル開度算出マップを参照して目標スロットル開度Th* を算出する。このため、前述した第1の実施形態と同様に、スロットル開度偏差ΔThe、スロットル開度学習値Thaを算出し、算出したスロットル開度学習値Thaをデフォルト値TDに加算してスロットル開度制御値算出マップを補正する。このため、図5に示すように、スロットル開度制御値算出マップがデフォルト特性線LDから勾配の緩やかな学習特性線LLに補正される。そして、現在のスロットル開度指令値Th(n) をもとに補正したスロットル開度制御値算出マップを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、算出したスロットル開度制御値Thcを電子制御スロットルバルブ44に出力する。これにより、スロットル開度指令値Thに対するエンジン回転速度Neの関係が図6に示すようにデフォルト目標値に略沿う学習特性線LLとすることができ、船体抵抗の影響を受けることなく航行特性を最適状態とすることができる。
【0055】
このエンジン回転速度領域計測処理を継続することにより、ユーザーの航行方法に対応したエンジン回転速度頻度値nL 〜nH が算出され、例えば釣りを好むユーザーでは、釣り場までは高速航行するが釣り場で低速トローリングを行うことにより、低速航行用エンジン回転速度頻度値nL が他の頻度値nM 及びnH より大きな値となる。
したがって、低速航行用エンジン回転速度頻度nL が最大値nmax として選択されるので、この最大値nmax が設定値ns 以上となると、図9のスロットル開度制御処理で、ステップS12からステップS14に移行し、低速航行用エンジン回転速度頻度nL に対応する図10(a)に示す低速航行用目標スロットル開度算出マップが選択され、次いでステップS15に移行して、現在のエンジン回転速度Ne(n) をもとに選択された低速航行用目標スロットル開度算出マップを参照して目標スロットル開度Th* が算出される。算出された目標スロットル開度Th* は、図4のデフォルト用目標スロットル開度算出マップを使用して算出される目標スロットル開度Th* に比較して大きい値となる。このため、ステップS8で補正されるスロットル開度制御値算出マップが図11に示すように、直線に近い学習特性線LLに補正される。
【0056】
このため、現在のスロットル開度指令値Th(n) をもとに補正されたスロットル開度制御値算出マップを参照してスロットル開度制御値Thcを算出し、このスロットル開度制御値Thcを電子制御スロットルバルブ44に出力して、エンジン回転速度を制御することにより、リモコンレバー6から出力されるスロットル開度指令値Thとエンジン回転速度Neとの関係が図12に示すようにスロットル開度指令値Thが小さい領域で緩やかな勾配とされてスロットル開度指令値Thの増加量に対するエンジン回転速度Neの増加量が小さく抑制され、スロットル開度指令値Thが大きくなるにつれて勾配が増加してスロットル開度指令値Thの増加量に対するエンジン回転速度Neの増加量が大きくなるよう特性線となり、エンジン回転速度Neが低速領域におけるリモコンレバー6の操作量に対するエンジン回転速度Neの変化量が小さくなって、釣りで必要とする低エンジン回転速度Neをきめ細かく調整することが可能となる。
【0057】
同様に、ユーザーがウェイクボードや水上スキーなどのトーイングスポーツボードを曳く中速航行領域を好む場合には、図8のエンジン回転速度領域計測処理で中速航行用エンジン回転速度頻度値nM が最大値nmax となることにより、図9のスロットル開度制御処理におけるステップS14で、図10(b)に示す中速航行用目標スロットル開度算出マップが選択され、このマップを使用して目標スロットル開度Th* が算出される。このため、ステップS8で補正されるスロットル開度制御値算出マップは、図13に示すように、スロットル開度指令値Thの中間領域で、スロットル開度指令値Thの増加量に比較してスロットル開度制御値Thcの増加量が小さくなり、高速領域でスロットル開度指令値Thの増加量に比較してスロットル開度制御値Thcの増加量が大きくなる中速特性線LMに補正される。したがって、リモコンレバー6から出力されるスロットル開度指令値Thとエンジン回転速度Neとの関係は、図14に示すように、低速航行領域ではデフォルト目標スロットル開度Th* に対応する直線となり、中速航行領域でスロットル開度指令値Thの増加量に比較してエンジン回転速度Neの増加量が小さく抑制され、高速航行領域でスロットル開度指令値Thの増加量に比較してエンジン回転速度Neの増加量が大きくなる特性となり、トーイングスポーツボードを引く中速航行領域でのエンジン回転速度Neをきめ細かく制御することができる。
【0058】
さらに、外洋での高速航行を好むユーザーでは、図8のエンジン回転速度領域計測処理で算出される高速航行用エンジン回転速度頻度値nH が最大値nmax となることから、図9のスロットル開度制御処理におけるステップS14で、図10(c)に示す高速航行用目標スロットル開度算出マップが選択されることにより、リモコンレバー6から出力されるスロットル開度指令値Thとエンジン回転速度Neとの関係が、高速航行用目標スロットル開度算出マップに略対応した関係となり、低速領域及び中速領域でスロットル開度指令値Thの増加量に比較してエンジン回転速度の増加量が大きくなり、高速領域でスロットル開度指令値Thの増加量に比較してエンジン回転速度の増加量が小さく抑制され、高速航行でのエンジン回転速度Neをきめ細かく制御することができる。
【0059】
なお、上記第2の実施形態においては、航行領域を低速航行領域、中速航行領域及び高速航行領域の3領域に分割した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、低速航行領域及び高速航行領域の2領域に分割したり、4領域以上に分割して、より細かな航行特性を設定することができる。
また、上記第2の実施形態においては、目標スロットル開度算出マップを選択することにより、航行特性を変更する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、補正係数Kを航行領域に応じて変更するようにしてもよい。
【0060】
さらに、上記第2の実施形態においては、ユーザーの航行特性を図9のエンジン回転速度領域計測処理によって自動的に判別する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ユーザーが任意に設定可能な航行特性選択スイッチを設け、この航行特性選択スイッチで選択した航行領域に応じて目標スロットル開度算出マップを選択するか又は補正係数Kを変更すればよい。
【0061】
次に、本発明の第3の実施形態を図15及び図16について説明する。
この第3の実施形態では、リモコンレバー6の操作に対するエンジン回転速度の応答特性を調整可能としたものである。
すなわち、第3の実施形態では、図15に示すように、操縦席近傍に設けた応答特性を例えば2段階に選択可能な応答特性選択スイッチ70の選択スイッチ信号をエンジンコントロールユニット46に入力するように構成されていると共に、スロットル開度制御処理が、図15に示すように、前述した第1の実施形態における図3の処理において、ステップS9及びステップS10間に応答特性決定処理が介挿されていることを除いては図3と同様の処理を行い、図3との対応処理には同一ステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0062】
ここで、応答特性決定処理は、次のように構成されている。すなわち、ステップS9からステップS31に移行して、応答特性選択スイッチ70の選択スイッチ信号を読込み、次いでステップS32に移行して、読込んだ選択スイッチ信号がオフ状態となる低応答特性を表しているか否かを判定し、低応答特性を表す場合には、ステップS33に移行して、応答特性設定値αとして小さい値の低応答特性設定値αL を設定してからステップS35に移行し、選択スイッチ信号がオン状態となる高応答特性を表す場合にはステップS34に移行して、応答特性設定値αとして低応答特性設定値αL より大きな値の高応答特性設定値αH (>αL )を設定してからステップS35に移行する。
【0063】
ステップS35では、今回のスロットル開度指令値Thc(n) から前回のスロットル開度指令値Thc(n-1) を減算した変化量ΔThcを算出し、次いでステップS36に移行して、変化量ΔThcの絶対値|ΔThc|が応答特性設定値α以下であるか否かを判定し、|ΔThc|≦αであるときには、そのままステップS10に移行し、|ΔThc|>αであるときには、ステップS37に移行して、変化量ΔThcが正であるか否かを判定し、ΔThc≧0であるときにはステップS38に移行して、前回のスロットル開度制御値Thc(n-1) に応答特性設定値αを加算した値を今回のスロットル開度制御値Thcとして設定してからステップS10に移行し、ΔThc<0であるときにはステップS39に移行して、前回のスロットル開度制御値Thc(n-1) から応答特性設定値αを減算した値を今回のスロットル開度制御値Thcとして設定してからステップS10に移行する。
【0064】
次に、上記第3の実施形態の動作を説明する。
この第3の実施形態では、学習によるスロットル開度指令値Thとエンジン回転速度Neとを目標スロットル開度Th* に沿わせる点については前述した第1の実施形態と同様であるが、ユーザーが応答特性選択スイッチ70で低応答特性を選択すると、ステップS33に移行して、低応答特性設定値αL が応答特性設定値αとして設定される一方、ステップS35でステップS9で算出されたスロットル開度制御値Thc(n) と前回のスロットル開度制御値Thc(n-1) との変化量ΔThcを算出し、この変化量ΔThcの絶対値|ΔThc|が応答特性設定値α以下であるときには今回のスロットル開度制御値Thc(n) をそのままスロットル開度制御値Thc(n) とするが、|ΔThc|が応答特性設定値αより大きいときにはスロットル開度制御値Thcが増加状態であるときには前回のスロットル開度制御値Thc(n-1) に応答特性設定値αを加算した値を今回のスロットル開度制御値Thc(n) として設定する。これによりスロットル開度制御値Thcの増加量が低応答特性設定値α以下に抑制されることになり、リモコンレバー6を急操作した場合でも、電子制御スロットルバルブ44に対するスロットル開度制御値Thcの変化が小さく抑制され、エンジン回転速度Neの変化も小さく抑制されて低応答特性が得られる。
【0065】
一方、ユーザーが応答特性選択スイッチ70で高応答特性を選択すると、低応答特性設定値αL より大きな値の高応答特性設定値αH が応答特性設定値αとして設定されるので、前回のスロットル開度制御値Thc(n-1) と今回のスロットル開度制御値Thc(n) との変化量ΔThcが比較的大きい場合でも高応答特性設定値αH 以下であれば、今回のスロットル開度制御値Thc(n) がそのまま電子制御スロットルバルブ44に出力されることになり、スロットル開度指令値Thの変化に対して高応答特性でエンジン回転速度Neを制御することができる。
【0066】
このように、第3の実施形態によると、ユーザーの好みに応じてスロットル開度制御値の変化量を変化させて、リモコンレバー6の操作によるエンジン回転速度Neの変化の応答特性を変化させることができる。
なお、上記第3の実施形態においては、応答特性選択スイッチ70を低応答特性と高応答特性との2段階に選択可能に構成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3段階以上の応答特性を選択可能に構成し、これに応じて3段階以上の応答特性設定値を設定することにより、よりきめ細かな応答特性の設定を行うことができる。
【0067】
また、上記第3の実施形態においては、第1の実施形態に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第2の実施形態のステップS9及びステップS10間に応答特性決定処理を行うようにしてもよい。
さらに、上記第1〜第3の実施形態においては、エンジンコントロールユニット46とシフトコントロールユニット60とを別個に構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、両者を1つのコントロールユニットで構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第1の実施形態における船外機の具体的構成を示す構成図である。
【図3】エンジンコントロールユニットで実行するスロットル開度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】目標スロットル開度算出マップを示す特性線図である。
【図5】スロットル開度制御値算出マップを示す特性線図である。
【図6】スロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を示す特性線図である。
【図7】学習制御を行わない場合のスロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を示す特性線図である。
【図8】本発明の第2の実施形態におけるエンジンコントロールユニットで実行するエンジン回転速度領域計測処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施形態におけるエンジンコントロールユニットで実行するスロットル開度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図10】目標スロットル開度算出マップを示す特性線図である。
【図11】低速航行を好む場合のスロットル開度制御値算出マップを示す特性線図である。
【図12】低速航行を好む場合のスロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を示す特性線図である。
【図13】中速航行を好む場合のスロットル開度制御値算出マップを示す特性線図である。
【図14】中速航行を好む場合のスロットル開度指令値とエンジン回転速度との関係を示す特性線図である。
【図15】本発明の第3の実施形態を示す船外機の構成図である。
【図16】第3の実施形態におけるエンジンコントロールユニットで実行するスロットル開度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1 小型船舶
2 船体
3 船外機
3E エンジン
6 リモコンレバー
44 電子制御スロットルバルブ
46 エンジンコントロールユニット
47 エンジン回転速度センサ
49 スロットル開度センサ
70 応答特性選択スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル開度指令値を設定するスロットル開度指令値設定手段と、該スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値に基づいてエンジンのスロットル弁を制御するスロットル制御手段とを備えた船舶のエンジン制御装置において、
前記エンジンのエンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を備え、前記スロットル制御手段は、前記エンジン回転速度検出手段で検出したエンジン回転速度に対する、前記スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値と目標スロットル開度との偏差に基づいてスロットル開度を学習制御するように構成されていることを特徴とする船舶のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記スロットル制御手段は、前記スロットル開度指令値設定手段で設定したスロットル開度指令値の頻度分布を計測するスロットル開度指令値分布計測手段を有し、前記スロットル開度指令値分布計測手段で計測したスロットル開度指令値の頻度分布が高いスロットル開度指令値領域の分解能を高めるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の船舶のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記スロットル制御手段は、前記スロットル開度指令値設定手段で設定されたスロットル開度指令値に対するスロットル弁の実スロットル開度の応答特性を設定する応答特性設定手段と、該応答特性設定手段で設定した応答特性に応じてスロットル開度目標値を設定し、設定したスロットル開度目標値をスロットル弁に出力するスロットル開度目標値設定手段とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶のエンジン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−9725(P2006−9725A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189640(P2004−189640)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】