説明

薄膜トランジスタ

【課題】電気特性が良好な、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタは、基板上に設けられたゲート電極と、ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート電極およびゲート絶縁膜上に設けられた酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜上に設けられた金属酸化物膜と、金属酸化物膜上に設けられた金属膜と、を有し、酸化物半導体膜は、金属酸化物膜と接し、且つ、酸化物半導体膜の他の領域よりも金属濃度が高い領域(金属高濃度領域)を有する。金属高濃度領域には、酸化物半導体膜に含まれる金属が、結晶粒または微結晶として存在していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリシリコンにより得られる高い移動度とアモルファスシリコンにより得られる均一な素子特性とを兼ね備えた新たな半導体材料として、酸化物半導体と呼ばれる、半導体特性を示す金属酸化物が注目されている。例えば、酸化タングステン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛などが、半導体特性を示す金属酸化物として挙げられる。
【0003】
特許文献1および2では、半導体特性を示す金属酸化物をチャネル形成領域に用いた薄膜トランジスタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−123861号公報
【特許文献2】特開2007−96055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気特性が良好な、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基板上に設けられたゲート電極と、ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート電極およびゲート絶縁膜上に設けられた酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜上に設けられた金属酸化物膜と、金属酸化物膜上に設けられた金属膜と、を有し、酸化物半導体膜は、金属酸化物膜と接し、且つ、酸化物半導体膜の他の領域よりも金属濃度が高い領域(金属高濃度領域)を有することを特徴とする薄膜トランジスタである。
【0007】
金属高濃度領域には、酸化物半導体膜に含まれる金属が、結晶粒または微結晶として存在していてもよい。
【0008】
本発明の一態様は、基板上に設けられたゲート電極と、ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート電極およびゲート絶縁膜上に設けられ、インジウム、ガリウム、および亜鉛を含む酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜上に設けられた酸化チタン膜と、酸化チタン膜上に設けられたチタン膜と、を有し、酸化物半導体膜は、酸化チタン膜と接し、且つ、酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域を有することを特徴とする薄膜トランジスタである。
【0009】
酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域には、インジウムが結晶粒または微結晶として存在していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
電気特性が良好な、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの断面模式図。
【図2】酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタにおけるソース電極−ドレイン電極間のエネルギーバンド図。
【図3】In−Ga−Zn−O系酸化物半導体中における、金属と酸素の結晶構造を示す図。
【図4】構造モデルを示す図。
【図5】構造モデルを示す図。
【図6】構造モデルを示す図。
【図7】(A)試料1のC−V特性を示すグラフ、(B)試料1のゲート電圧(Vg)と(1/C)との関係を示すグラフ。
【図8】(A)試料2のC−V特性を示すグラフ、(B)試料2のゲート電圧(Vg)と(1/C)との関係を示すグラフ。
【図9】ルチル構造を有する二酸化チタンの結晶構造を示す図。
【図10】ルチル構造を有する二酸化チタンの状態密度図。
【図11】酸素欠損状態の、ルチル構造を有する二酸化チタンの状態密度図。
【図12】一酸化チタンの状態密度図。
【図13】薄膜トランジスタを適用した電子機器の例を示す図。
【図14】In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの断面TEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。ただし、発明は以下の説明に限定されず、その発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなく、その態様および詳細をさまざまに変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。したがって、発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0013】
(実施の形態1)
図1(A)は、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの断面模式図である。この薄膜トランジスタは、基板10、ゲート電極20、ゲート絶縁膜30、酸化物半導体膜40、金属酸化物膜60、金属膜70、および絶縁膜80で構成されている。
【0014】
図1(A)に示す薄膜トランジスタは、チャネルエッチ構造のボトムゲート型である。ただし、薄膜トランジスタの構造はこれに限定されるものでなく、任意のトップゲート型やボトムゲート型などを用いることができる。
【0015】
基板10には、絶縁表面を有する基板を用いる。基板10として、ガラス基板を用いるのが適切である。後の加熱処理の温度が高い場合には、ガラス基板のなかでも、歪点が730℃以上のものを用いるとよい。また、耐熱性を考えると、酸化ホウ素(B)よりも、酸化バリウム(BaO)を多く含むガラス基板が好適である。
【0016】
ガラス基板以外にも、セラミック基板、石英ガラス基板、石英基板、サファイア基板などの絶縁体からなる基板を、基板10として用いてもよい。他にも、結晶化ガラス基板などを、基板10として用いてもよい。
【0017】
また、下地膜となる絶縁膜を、基板10とゲート電極20との間に設けてもよい。下地膜は、基板10からの不純物元素の拡散を防止する機能を有する。なお、下地膜となる絶縁膜は、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、および酸化窒化シリコン膜から選ばれた、一または複数の膜により形成してもよい。
【0018】
ゲート電極20としては、金属導電膜を用いることができる。金属導電膜の材料としては、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、およびタングステン(W)から選ばれた元素、または、これらの元素を主成分とする合金などを用いることができる。例えば、金属導電膜として、チタン膜−アルミニウム膜−チタン膜の3層構造やモリブデン膜−アルミニウム膜−モリブデン膜の3層構造などを用いることができる。なお、金属導電膜は3層構造に限られず、単層、2層構造、または4層以上の積層構造としてもよい。
【0019】
ゲート絶縁膜30としては、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜などを用いることができる。
【0020】
酸化物半導体膜40に用いられる酸化物半導体として、五元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体や、四元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、In−Sn−Zn−O系酸化物半導体、In−Al−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Al−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Al−Zn−O系酸化物半導体や、三元系金属酸化物であるIn−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Zn−O系酸化物半導体、Al−Zn−O系酸化物半導体、Zn−Mg−O系酸化物半導体、Sn−Mg−O系酸化物半導体、In−Mg−O系酸化物半導体、In−Ga−O系酸化物半導体や、二元系金属酸化物であるIn−O系酸化物半導体、Sn−O系酸化物半導体、Zn−O系酸化物半導体などを用いることができる。なお、本明細書においては、例えば、In−Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体とは、インジウム(In)、錫(Sn)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を有する金属酸化物、という意味であり、その組成比は特に問わない。また、酸化物半導体膜40は、酸化シリコン(SiO)を含んでいてもよい。
【0021】
また、酸化物半導体膜40には、InMO(ZnO)(m>0)で表記される構造を有する酸化物半導体を用いることもできる。ここで、Mは、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、およびコバルト(Co)から選ばれた、一または複数の金属元素を示す。Mに該当する例として、ガリウム単体、ガリウムおよびアルミニウム、ガリウムおよびマンガン、ガリウムおよびコバルトなどが挙げられる。
【0022】
なお、InMO(ZnO)(m>0)で表記される構造を有する酸化物半導体のうち、Mとしてガリウム(Ga)を含む構造の酸化物半導体を、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体とも記す。
【0023】
酸化物半導体膜40は、ドナーの原因である水素、水分、水酸基、水酸化物(水素化合物ともいう)などの不純物を意図的に排除したのち、これらの不純物の排除工程において減少してしまう酸素を供給することで、高純度化および電気的にi型(真性)化されている。これは、薄膜トランジスタの電気的特性の変動を抑制するためである。
【0024】
酸化物半導体膜40中の水素が少ないほど、酸化物半導体膜40はi型に近づく。したがって、酸化物半導体膜40に含まれる水素の濃度は、5×1019/cm以下、好ましくは5×1018/cm以下、より好ましくは5×1017/cm以下、さらに好ましくは5×1016/cm未満とするとよい。当該水素の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定できる。
【0025】
酸化物半導体膜40に含まれる水素を極力除去することで、酸化物半導体膜40中のキャリア密度は、5×1014/cm未満、好ましくは5×1012/cm以下、より好ましくは5×1010/cm以下となる。酸化物半導体膜40のキャリア密度は、酸化物半導体膜40を用いたMOSキャパシタを作製し、当該MOSキャパシタのC−V測定の結果(C−V特性)を評価することで求めることができる。
【0026】
また、酸化物半導体は、ワイドギャップ半導体である。例えば、シリコンのバンドギャップは1.12eVであるのに対して、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体のバンドギャップは3.15eVである。
【0027】
ワイドギャップ半導体である酸化物半導体は、少数キャリア密度が低く、また、少数キャリアが誘起されにくい。そのため、酸化物半導体膜40を用いた薄膜トランジスタにおいては、トンネル電流が発生しにくく、ひいては、オフ電流が流れにくいといえる。したがって、酸化物半導体膜40を用いた薄膜トランジスタのチャネル幅1μmあたりのオフ電流として、100aA/μm以下、好ましくは10aA/μm以下、より好ましくは1aA/μm以下を実現できる。
【0028】
また、酸化物半導体は、ワイドギャップ半導体であるため、酸化物半導体膜40を用いた薄膜トランジスタにおいては、衝突イオン化およびアバランシェ降伏が起きにくい。したがって、酸化物半導体膜40を用いた薄膜トランジスタは、ホットキャリア劣化への耐性があるといえる。ホットキャリア劣化は、主に、アバランシェ降伏によってキャリアが増大し、高速に加速されたキャリアがゲート絶縁膜へ注入されることにより生じるからである。
【0029】
金属膜70は、ソース電極またはドレイン電極として用いられる。金属膜70としては、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの金属材料、または、これらの金属材料を主成分とする合金材料を用いることができる。また、金属膜70は、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などを用いた金属膜の一方の表面または双方の表面に、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などを用いた高融点金属膜を積層させた構成としてもよい。なお、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ネオジム(Nd)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)などの、アルミニウム膜に生ずるヒロックやウィスカーの発生を防止する元素が添加されているアルミニウムを材料として用いることで、耐熱性にすぐれた金属膜70を得ることができる。
【0030】
金属酸化物膜60として、金属膜70に含まれる金属の酸化物を含む膜を用いることができる。例えば、金属膜70がチタンを含む膜である場合、金属酸化物膜60として酸化チタン膜などを用いることができる。
【0031】
また、酸化物半導体膜40は、金属酸化物膜60と接し、且つ、酸化物半導体膜40の他の領域よりも金属濃度が高い領域を有する。当該金属濃度が高い領域を、金属高濃度領域50とも記す。
【0032】
図1(B)は、図1(A)における領域100を拡大した断面模式図である。
【0033】
図1(B)に示すように、金属高濃度領域50には、酸化物半導体膜40に含まれる金属が、結晶粒または微結晶として存在していてもよい。
【0034】
図2は、図1に示す構成の薄膜トランジスタにおける、ソース電極−ドレイン電極間のエネルギーバンド図(模式図)である。この図は、ソース電極−ドレイン電極間の電位差がゼロである場合を想定している。
【0035】
ここでは、金属高濃度領域50を金属として扱っている。また、不純物を極力除去し、酸素を供給することにより、酸化物半導体膜40は高純度化および電気的にi型(真性)化されている。その結果、エネルギーバンド図において、酸化物半導体膜40の膜内部でフェルミ準位(Ef)はバンドギャップの中央付近にある。
【0036】
このエネルギーバンド図より、酸化物半導体膜40において、金属高濃度領域50と他の領域との界面には障壁が存在しておらず、良好なコンタクトが得られていることがわかる。金属高濃度領域50と金属酸化物膜60との界面、および、金属酸化物膜60と金属膜70との界面においても、同様である。
【0037】
(実施の形態2)
図1に示す構成の薄膜トランジスタの作製工程について説明する。
【0038】
まず、絶縁表面を有する基板10上に導電膜を形成した後、第1のフォトリソグラフィ工程によりゲート電極20を形成する。
【0039】
第1のフォトリソグラフィ工程に用いるレジストマスクは、インクジェット法で形成してもよい。レジストマスクをインクジェット法で形成すると、フォトマスクを使用しないため、製造コストを低減できる。
【0040】
次いで、ゲート電極20上にゲート絶縁膜30を形成する。
【0041】
ゲート絶縁膜30は、プラズマCVD法やスパッタリング法などの方法により成膜する。ゲート絶縁膜30としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化ハフニウムなどを用いた膜が好適である。
【0042】
酸化物半導体膜40と接するゲート絶縁膜30は、緻密で絶縁耐圧が高い膜であることが望まれる。そのため、特に、μ波(2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVD法により成膜した、緻密で絶縁耐圧が高い膜をゲート絶縁膜30として用いることが適している。
【0043】
このようにして得られた緻密で絶縁耐圧が高い膜であるゲート絶縁膜30と、不純物を極力除去し、酸素を供給してi型化された酸化物半導体膜40との界面特性は良好となる。
【0044】
仮に、酸化物半導体膜40とゲート絶縁膜30との界面特性が不良であるとすると、ゲートバイアス・熱ストレス試験(BT試験:85℃、2×10V/cm、12時間)において、不純物と酸化物半導体の主成分との結合が切断され、生成された未結合手により、しきい値電圧のシフトが誘発される結果となる。
【0045】
ゲート絶縁膜30は、窒化物絶縁膜と酸化物絶縁膜との積層構造としてもよい。例えば、第1のゲート絶縁膜としてスパッタリング法により膜厚50nm以上200nm以下の窒化シリコン膜(SiN(y>0))を形成した後、第1のゲート絶縁膜上に第2のゲート絶縁膜として膜厚5nm以上300nm以下の酸化シリコン膜(SiO(x>0))を形成することによって、積層構造を有するゲート絶縁膜30とすることができる。ゲート絶縁膜30の膜厚は、薄膜トランジスタに要求される特性によって適宜設定すればよく、350nm以上400nm程度以下としてもよい。
【0046】
好ましくは、ゲート絶縁膜30成膜の前処理として、スパッタリング装置の予備加熱室において、ゲート電極20が形成された基板10を予備加熱することによって、基板10に吸着した水素や水分などの不純物を、脱離および排気するとよい。これは、その後形成されるゲート絶縁膜30および酸化物半導体膜40に、水素や水分などの不純物が極力含まれないようにするためである。また、ゲート絶縁膜30を基板10上に形成した時点で基板10を予備加熱してもよい。
【0047】
予備加熱の温度としては、100℃以上400℃以下が適切である。150℃以上300℃以下であれば、さらに好適である。また、予備加熱室における排気手段は、クライオポンプが適切である。
【0048】
次いで、ゲート絶縁膜30上に、酸化物半導体膜40を形成する。酸化物半導体膜40は、膜厚2nm以上200nm以下が適切である。
【0049】
酸化物半導体膜40は、スパッタリング法により成膜する。スパッタリング法による成膜は、希ガス(代表的にはアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、または希ガスおよび酸素の混合雰囲気下において行う。
【0050】
スパッタリング法による酸化物半導体膜40の成膜に用いるターゲットとして、酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物を用いることができる。また、組成比がそれぞれ、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol%]、または、In:Ga:Zn=1:1:0.5[atom%]、In:Ga:Zn=1:1:1[atom%]、若しくは、In:Ga:Zn=1:1:2[atom%]である、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、および亜鉛(Zn)を含む酸化物半導体成膜用ターゲットを用いることもできる。また、当該酸化物半導体成膜用ターゲットの充填率は、90%以上100%以下が適切である。95%以上99.9%以下であれば、さらに好適である。充填率の高い酸化物半導体成膜用ターゲットを用いると、より緻密な酸化物半導体膜を成膜できるためである。
【0051】
酸化物半導体膜40成膜前に、減圧状態の処理室内に基板10を保持し、基板10を室温以上400℃未満の温度に加熱する。その後、処理室内の残留水分を除去しつつ、水素および水分が除去されたスパッタガスを導入しながら、基板10とターゲットとの間に電圧を印加することによって、基板10上に酸化物半導体膜40を成膜する。
【0052】
処理室内の残留水分を除去する排気手段として、吸着型の真空ポンプを用いることが適切である。例として、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプなどが挙げられる。また、排気手段として、ターボポンプにコールドトラップを加えたものを用いることもできる。処理室内より、水素原子、水素分子、水(HO)などの水素原子を含む化合物、などを(より好ましくは、炭素原子を含む化合物とともに)排気することにより、当該処理室において成膜した酸化物半導体膜40に含まれる不純物の濃度を低減できる。また、クライオポンプにより処理室内の残留水分を除去しつつスパッタリング法により成膜を行うことにより、酸化物半導体膜40を成膜する際の基板10の温度を、室温以上400℃未満とすることができる。
【0053】
なお、酸化物半導体膜40をスパッタリング法により成膜する前に、逆スパッタによって、ゲート絶縁膜30の表面に付着しているゴミを除去するとよい。逆スパッタとは、ターゲット側に電圧を印加せずに、基板側にRF電源を用いて電圧を印加することにより生じる反応性プラズマによって、基板表面を洗浄する方法である。なお、逆スパッタは、アルゴン雰囲気中で行う。また、アルゴンにかえて、窒素、ヘリウム、酸素などを用いてもよい。
【0054】
酸化物半導体膜40成膜後、酸化物半導体膜40の脱水化または脱水素化を行う。脱水化または脱水素化のための加熱処理の温度は、400℃以上750℃以下が適切であり、特に425℃以上であることが好適である。なお、加熱処理時間は、当該加熱処理の温度が425℃以上であれば1時間以下でよいが、425℃未満であれば1時間よりも長くすることが好ましい。本明細書では、この加熱処理によって水素分子(H)を脱離させることのみを脱水素化と呼んでいるわけではなく、水素原子(H)や水酸基(OH)などを脱離することを含めて脱水化または脱水素化と便宜上呼ぶこととする。
【0055】
例えば、加熱処理装置の一つである電気炉に、酸化物半導体膜40が形成された基板10を導入し、窒素雰囲気下において加熱処理を行う。その後、同じ炉に高純度の酸素ガス、高純度の一酸化二窒素(NO)ガス、または超乾燥エアー(露点が−40℃以下、好ましくは−60℃以下で、窒素と酸素が4対1の割合で混合された気体)を導入して冷却を行う。酸素ガスまたは一酸化二窒素(NO)ガスには、水や水素などが含まれないことが好ましい。また、酸素ガスまたは一酸化二窒素(NO)ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(すなわち酸素ガスまたは一酸化二窒素(NO)ガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが適切である。
【0056】
なお、加熱処理装置は電気炉に限られず、例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置やLRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などのRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。
【0057】
また、酸化物半導体膜40の脱水化または脱水素化のための加熱処理は、第2のフォトリソグラフィ工程により酸化物半導体膜40を島状に加工する前後を問わず、酸化物半導体膜40に対して行うことができる。
【0058】
以上の工程を経て、酸化物半導体膜40全体を酸素過剰な状態とすることによって、酸化物半導体膜40全体を高抵抗化、すなわちi型化させる。
【0059】
次いで、ゲート絶縁膜30および酸化物半導体膜40上に、金属膜70を形成する。金属膜70は、スパッタリング法や真空蒸着法などで成膜すればよい。また、金属膜70は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。
【0060】
その後、第3のフォトリソグラフィ工程により、金属膜70上にレジストマスクを形成し、選択的にエッチングを行ってソース電極およびドレイン電極を形成した後、レジストマスクを除去する。
【0061】
薄膜トランジスタのチャネル長は、酸化物半導体膜40上で隣り合うソース電極の下端部とドレイン電極の下端部との間隔によって決定される。すなわち、第3のフォトリソグラフィ工程におけるレジストマスク形成時の露光の条件によって、薄膜トランジスタのチャネル長が決定されるといえる。第3のフォトリソグラフィ工程におけるレジストマスク形成時の露光には、紫外線、KrFレーザ光、またはArFレーザ光を用いることができる。また、チャネル長を25nm未満とする場合には、数nm以上数10nm以下の極めて波長が短い超紫外線(Extreme Ultraviolet)を用いて露光すればよい。超紫外線による露光は、解像度が高く焦点深度も大きいためである。したがって、薄膜トランジスタのチャネル長は、露光に用いる光の種類によって、10nm以上1000nm以下とすることが可能である。
【0062】
なお、金属膜70をエッチングする際に、酸化物半導体膜40を除去しないようにするため、金属膜70の材料および酸化物半導体膜40の材料、ならびに、エッチング条件を適宜調節する必要がある。
【0063】
一例として、金属膜70としてチタン膜を用い、かつ、酸化物半導体膜40としてIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜を用いた場合には、エッチング溶液としてアンモニア過水(アンモニア、水、および過酸化水素水の混合液)を用いるとよい。
【0064】
なお、第3のフォトリソグラフィ工程において、酸化物半導体膜40の一部のみがエッチングされることによって、溝部(凹部)を有する酸化物半導体膜40としてもよい。また、ソース電極およびドレイン電極を形成するためのレジストマスクは、インクジェット法で形成してもよい。レジストマスクをインクジェット法で形成すると、フォトマスクを使用しないため、製造コストを低減できる。
【0065】
ソース電極およびドレイン電極を形成後、一酸化二窒素(NO)、窒素(N)、またはアルゴン(Ar)などのガスを用いたプラズマ処理によって、露出している酸化物半導体膜40の表面に付着した水(吸着水)などを除去してもよい。当該プラズマ処理には、酸素およびアルゴンの混合ガスを用いることもできる。
【0066】
プラズマ処理を行った場合は、そのまま大気に触れることなく、酸化物半導体膜40の一部と接する、絶縁膜80を形成する。図1に示す薄膜トランジスタでは、酸化物半導体膜40と、金属膜70とが重ならない領域において、酸化物半導体膜40と絶縁膜80とが接する。
【0067】
絶縁膜80の一例として、酸化物半導体膜40および金属膜70が形成された基板10を、室温以上100℃未満の温度で加熱した後、水素および水分が除去された高純度酸素を含むスパッタガスを導入しシリコンターゲットを用いて成膜した、欠陥を含む酸化シリコン膜が挙げられる。
【0068】
絶縁膜80は、処理室内の残留水分を除去しつつ成膜することが好ましい。酸化物半導体膜40および絶縁膜80に水素、水酸基、および水分が含まれないようにするためである。
【0069】
処理室内の残留水分を除去する排気手段として、吸着型の真空ポンプを用いることが適切である。例として、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプなどが挙げられる。また、排気手段として、ターボポンプにコールドトラップを加えたものを用いることもできる。処理室内より、水素原子、水素分子、水(HO)などの水素原子を含む化合物、などを排気することにより、当該処理室において成膜した絶縁膜80に含まれる不純物の濃度を低減できる。
【0070】
なお、絶縁膜80としては、酸化シリコン膜の他に、酸化窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜などを用いることもできる。
【0071】
絶縁膜80の成膜後に、不活性ガス雰囲気下または窒素ガス雰囲気下において、100℃以上400℃以下、好ましくは150℃以上350℃未満の加熱処理を行う。加熱処理を行うと、酸化物半導体膜40中に含まれる水素、水分、水酸基、水素化物などの不純物が、欠陥を含む絶縁膜80中に拡散する。その結果、酸化物半導体膜40中に含まれる不純物を、より低減させることができる。
【0072】
また、当該加熱処理によって、酸化物半導体膜40と金属膜70との界面に金属酸化物膜60が形成され、酸化物半導体膜40内の金属酸化物膜60と接する領域に金属高濃度領域50が形成される。
【0073】
なお、金属酸化物膜60は、金属膜70の形成前に、スパッタリング法などを用いて酸化物半導体膜40上に形成してもよい。この場合、酸化物半導体膜40と、金属膜70とが重ならない領域に設けられた金属酸化物膜60を除去することで、図1の薄膜トランジスタが得られる。
【0074】
また、上記加熱処理は、絶縁膜80の成膜前に行ってもよい。
【0075】
以上の工程により、図1に示す構成の薄膜トランジスタを形成することができる。
【0076】
(実施の形態3)
図1に示す構成の薄膜トランジスタの、酸化物半導体膜40と金属膜70との界面に金属酸化物膜60が形成され、酸化物半導体膜40内の金属酸化物膜60と接する領域に金属高濃度領域50が形成される現象について、計算科学により検証した結果を示す。
【0077】
以下の計算において、酸化物半導体膜40が、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜である場合を考えた。また、金属膜70は、タングステン(W)膜、モリブデン(Mo)膜、またはチタン(Ti)膜である場合を考えた。
【0078】
[金属高濃度領域50が形成される現象について]
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を構成しているインジウム、ガリウム、亜鉛それぞれの酸化物が、酸素欠損状態を形成するために必要なエネルギー(欠損形成エネルギーEdef)を計算した。
【0079】
欠損形成エネルギーEdefは、次の数式(1)で定義される。
【0080】
【数1】

【0081】
なお、E(An−1)は酸素欠損のある酸化物An−1のエネルギー、E(O)は酸素原子のエネルギー、E(A)は酸素欠損のない酸化物Aのエネルギーを表す。また、Aは、インジウム単独、ガリウム単独、亜鉛単独、またはインジウムとガリウムと亜鉛を示す。
【0082】
また、酸素の欠損濃度nと、欠損形成エネルギーEdefとの関係は、近似的に次の数式(2)で表される。
【0083】
【数2】

【0084】
なお、Nは欠損が形成されていない状態における酸素の数、kはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す。
【0085】
数式(2)より、欠損形成エネルギーEdefが大きくなると、酸素の欠損濃度n、すなわち酸素の欠損量は小さくなることが分かった。
【0086】
欠損形成エネルギーEdefの計算には、密度汎関数法のプログラムであるCASTEPを用いた。密度汎関数法として平面波基底擬ポテンシャル法を用い、汎関数はGGA−PBEを用いた。カットオフエネルギーは、500eVとした。k点のグリッド数は、インジウムとガリウムと亜鉛を含む酸化物(以下、「IGZO」とも記す。)については3×3×1、インジウムの酸化物(以下、「In」とも記す。)については2×2×2、ガリウムの酸化物(以下、「Ga」とも記す。)については2×3×2、亜鉛の酸化物(以下、「ZnO」とも記す。)については4×4×1とした。
【0087】
結晶構造は、IGZOについては対称性R−3(国際番号:148)の構造をa軸、b軸にそれぞれ2倍することによって得られた84原子の構造に対して、Ga、Znをエネルギーが最小になるように配置した構造を用いた。Inについては80原子のbixbyite構造を、Gaについては80原子のβ−Gallia構造を、ZnOについては80原子のウルツ構造を用いた。
【0088】
表1に、数式(1)において、Aがそれぞれ、インジウム単独、ガリウム単独、亜鉛単独、インジウムとガリウムと亜鉛の場合の、欠損形成エネルギーEdefを示す。また、図3に、In−Ga−Zn―O系酸化物半導体中における、金属と酸素の結晶構造を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
IGZO(Model1)の欠損形成エネルギーEdefは、Aがインジウムとガリウムと亜鉛の場合に、IGZO結晶中において、3つのインジウム原子と1つの亜鉛原子に隣接する酸素(図3(A)参照)の欠損形成エネルギーに相当する。
【0091】
IGZO(Model2)の欠損形成エネルギーEdefは、Aがインジウムとガリウムと亜鉛の場合に、IGZO結晶中において、3つのインジウム原子と1つのガリウム原子に隣接する酸素(図3(B)参照)の欠損形成エネルギーに相当する。
【0092】
IGZO(Model3)の欠損形成エネルギーEdefは、Aがインジウムとガリウムと亜鉛の場合に、IGZO結晶中において、2つの亜鉛原子と2つのガリウム原子に隣接する酸素(図3(C)参照)の欠損形成エネルギーに相当する。
【0093】
欠損形成エネルギーEdefが大きいほど、酸素欠損状態を形成するために高いエネルギーが必要である。つまり、欠損形成エネルギーEdefが大きいほど、酸素と金属との結合が強い傾向にあることを意味する。換言すれば、表1より、欠損形成エネルギーEdefが最も小さいインジウムが、最も酸素との結合が弱いといえた。
【0094】
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体における酸素欠損状態は、ソース電極またはドレイン電極として用いられた金属膜70が、酸化物半導体膜40から酸素を引き抜くために起こった。こうして酸素欠損状態となった酸化物半導体膜40の一部が、金属高濃度領域50となった。この金属高濃度領域50の有無により、酸化物半導体膜40のキャリア密度は少なくとも2桁異なる。酸化物半導体膜40から酸素が引き抜かれることによって、酸化物半導体膜40がn型化したためである。なお、n型化とは、多数キャリアである電子が増加することを意味する。
【0095】
[金属酸化物膜60が形成される現象について]
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を用いた酸化物半導体膜40と金属膜70との積層構造に対して、量子分子動力学(QMD)計算を行った。金属による酸化物半導体からの酸素の引き抜きについて確認するためである。
【0096】
計算する構造は以下のように作製した。まず、古典分子動力学(CMD)法により作製したアモルファス構造のIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体(以下、「a−IGZO」とも記す。)に対してQMD法により構造最適化を行った。さらに、構造最適化した単位格子を切断することで得られたa−IGZO膜上に、金属原子(W、Mo、Ti)の結晶を有する金属膜を積層した。そして、作製した構造に対して、構造最適化を行った。この構造を出発点として、623.0Kで、QMD法を用いて計算を行った。なお、界面の相互作用だけを見積もるために、a−IGZO膜の下端と金属膜の上端は固定した。
【0097】
CMD計算の計算条件を以下に示す。計算プログラムには、Materials Explorerを用いた。a−IGZOは、次の条件で作製した。一辺1nmの計算セルに、In:Ga:Zn:O=1:1:1:4の比率で全84原子をランダムに配置し、密度を5.9g/cmに設定した。CMD計算は、NVTアンサンブルで行い、温度を5500Kから1Kに徐々に下げた後、1Kで10nsの構造緩和を行った。時間刻み幅は0.1fsで、総計算時間は10nsとした。ポテンシャルは、金属−酸素間および酸素−酸素間にはBorn−Mayer−Huggins型を適用し、金属−金属間にはLennard−Jones型を適用した。電荷は、In:+3、Ga:+3、Zn:+2、O:−2とした。
【0098】
QMD計算の計算条件を以下に示す。計算プログラムには、第一原理計算ソフトCASTEPを用いた。汎関数はGGA−PBEを用いた。擬ポテンシャルはUltrasoftを用いた。カットオフエネルギーは260eV、k点の数は1×1×1とした。QMD計算は、NVTアンサンブルで行い、温度は623Kとした。時間刻み幅は1.0fsで、総計算時間は2.0psとした。
【0099】
図4〜図6の構造モデルを用いて、上記計算の結果を説明する。図4〜図6において、白丸はa−IGZO膜上に積層した金属膜に含まれる結晶金属原子を表し、黒丸は酸素原子を表している。
【0100】
図4は、a−IGZO膜上にタングステン(W)の結晶を有する金属膜を積層した場合の構造モデルを示している。図4(A)はQMD計算を行う前の構造、図4(B)はQMD計算を行った後の構造に相当する。
【0101】
図5は、a−IGZO膜上にモリブデン(Mo)の結晶を有する金属膜を積層した場合の構造モデルを示している。図5(A)はQMD計算を行う前の構造、図5(B)はQMD計算を行った後の構造に相当する。
【0102】
図6は、a−IGZO膜上にチタン(Ti)の結晶を有する金属膜を積層した場合の構造モデルを示している。図6(A)はQMD計算を行う前の構造、図6(B)はQMD計算を行った後の構造に相当する。
【0103】
図5(A)および図6(A)より、a−IGZO膜上にモリブデンまたはチタンの結晶を有する金属膜を積層した場合には、構造最適化前にすでに金属膜に酸素原子が移動していることがわかった。また、図4(B)、図5(B)、および図6(B)を比較すると、a−IGZO膜上にチタンの結晶を有する金属膜を積層した場合に、酸素原子が金属膜に最も多く移動していることがわかった。よって、金属としてチタンを用いた場合に、金属による酸化物半導体からの酸素の引き抜きが最も起こりやすかった。これより、a−IGZO膜に酸素欠損をもたらす電極として最適なものは、チタンの結晶を有する金属膜であった。
【0104】
[酸化物半導体膜40中のキャリア密度について]
金属膜70中に含まれる金属による酸化物半導体膜40からの酸素の引き抜きについて、実際に素子を作製し、評価した。具体的には、酸素を引き抜く効果を有する金属膜を酸化物半導体膜に積層した場合と、酸素を引き抜く効果を有しない金属膜を酸化物半導体膜に積層した場合の、酸化物半導体膜40中のキャリア密度を計算し、結果を比較した。
【0105】
酸化物半導体膜中のキャリア密度は、酸化物半導体膜を用いたMOSキャパシタを作製し、当該MOSキャパシタのC−V測定の結果(C−V特性)を評価することで求めることが可能である。
【0106】
キャリア密度の測定は、次の(1)〜(3)の手順で行った。(1)MOSキャパシタのゲート電圧(Vg)と容量(C)との関係をプロットしたC−V特性を取得する。(2)当該C−V特性から、ゲート電圧(Vg)と(1/C)との関係を表すグラフを取得し、当該グラフにおいて弱反転領域での(1/C)の微分値を求める。(3)得られた微分値を、キャリア密度(Nd)を表す以下の数式(3)に代入する。
【0107】
【数3】

【0108】
なお、eは電気素量、εは真空の誘電率、εは酸化物半導体の比誘電率を表す。
【0109】
測定に係る試料として、酸素を引き抜く効果を有する金属膜を用いたMOSキャパシタ(以下、「試料1」とも記す。)と、酸素を引き抜く効果を有しない金属膜を用いたMOSキャパシタ(以下、「試料2」とも記す。)とを用意した。なお、酸素を引き抜く効果を有する金属膜として、チタン膜を適用した。また、酸素を引き抜く効果を有しない金属膜として、チタン膜とその表面(酸化物半導体膜側)に窒化チタン膜を有する膜を適用した。
【0110】
試料の詳細は、次の通りである。
試料1:
ガラス基板上に400nmの厚さのチタン膜を有し、チタン膜上にアモルファス構造のIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体(a−IGZO)を用いた2μmの厚さの酸化物半導体膜を有し、酸化物半導体膜上に300nmの厚さの酸化窒化シリコン膜を有し、酸化窒化シリコン膜上に300nmの銀膜を有する。
試料2:
ガラス基板上に300nmの厚さのチタン膜を有し、チタン膜上に100nmの厚さの窒化チタン膜を有し、窒化チタン膜上にアモルファス構造のIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体(a−IGZO)を用いた2μmの厚さの酸化物半導体膜を有し、酸化物半導体膜上に300nmの厚さの酸化窒化シリコン膜を有し、酸化窒化シリコン膜上に300nmの銀膜を有する。
【0111】
なお、試料1および試料2において、酸化物半導体膜は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、および亜鉛(Zn)を含む酸化物半導体成膜用ターゲット(In:Ga:Zn=1:1:0.5[atom%])を用いたスパッタリング法により形成した。また、酸化物半導体膜の形成雰囲気は、アルゴン(Ar)と酸素(O)との混合雰囲気(Ar:O=30(sccm):15(sccm))とした。
【0112】
図7(A)は、試料1のC−V特性を示している。また、図7(B)は、試料1のゲート電圧(Vg)と(1/C)との関係を示している。図7(B)の弱反転領域における(1/C)の微分値を、数式(3)に代入すると、酸化物半導体膜中のキャリア密度1.8×1012/cmが得られた。
【0113】
図8(A)は、試料2のC−V特性を示している。また、図8(B)は、試料2のゲート電圧(Vg)と(1/C)との関係を示している。図8(B)の弱反転領域における(1/C)の微分値を、数式(3)に代入すると、酸化物半導体膜中のキャリア密度6.0×1010/cmが得られた。
【0114】
以上の結果より、酸素を引き抜く効果を有する金属膜を用いたMOSキャパシタ(試料1)と、酸素を引き抜く効果を有しない金属膜を用いたMOSキャパシタ(試料2)では、酸化物半導体膜中のキャリア密度が少なくとも2桁異なることがわかった。これより、金属膜によって酸化物半導体膜から酸素が引き抜かれ、酸化物半導体膜における酸素欠損が増加した結果、金属膜に接する酸化物半導体膜がn型化したことが示唆された。なお、n型化とは、多数キャリアである電子が増加することを意味する。
【0115】
[酸化チタン膜の導電性について]
上記の計算結果を参酌し、図1に示す構成の薄膜トランジスタにおいて、金属膜70がチタンの結晶を有する金属膜である場合を考えた。
【0116】
In−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜(図1の「酸化物半導体膜40」に対応。)とチタン膜(図1の「金属膜70」に対応。)との界面には、チタンに引き抜かれた酸素がチタンと反応することにより、酸化チタン膜(図1の「金属酸化物膜60」に対応。)が形成された。次に、この酸化チタン膜の導電性について、計算科学により検証した結果を示す。
【0117】
二酸化チタンは、ルチル構造(高温型の正方晶)、アナターゼ構造(低温型の正方晶)、ブルッカイト構造(斜方晶)など、いくつかの結晶構造をとった。アナターゼ型およびブルッカイト型は、加熱すると最も安定な構造のルチル型に不可逆的に変化することから、上記二酸化チタンはルチル構造をとるものと仮定した。
【0118】
図9は、ルチル構造を有する二酸化チタンの結晶構造を示す図である。ルチル構造は正方晶であり、結晶の対称性を示す空間群はP42/mnmに属する。なお、アナターゼ構造の二酸化チタンも、ルチル構造の二酸化チタンと同様に、結晶の対称性を示す空間群はP42/mnmに属する。
【0119】
上記二酸化チタンの結晶構造に対して、GGA−PBE汎関数を用いた密度汎関数法により、状態密度を求める計算を行った。対称性は維持したまま、セル構造も含めた構造最適化を行い、状態密度を求めた。密度汎関数法を用いた計算には、CASTEPコードに導入された平面波擬ポテンシャル法を用いた。カットオフエネルギーは380eVとした。
【0120】
図10は、ルチル構造を有する二酸化チタンの状態密度図である。図10に示すように、ルチル構造を有する二酸化チタンはバンドギャップを有しており、半導体的な状態密度を有することがわかった。なお、密度汎関数法ではバンドギャップが小さく見積もられる傾向にあり、実際の二酸化チタンのバンドギャップは3.0eV程度と、図10の状態密度図に示すバンドギャップよりも大きい。なお、密度汎関数法を用いた電子状態計算は絶対零度において行われるので、エネルギーの原点がフェルミ準位である。
【0121】
図11は、酸素欠損状態の、ルチル構造を有する二酸化チタンの状態密度図である。計算には、Ti24原子およびO48原子を有する酸化チタンからO原子を一つ抜いた、Ti24原子およびO47原子を有する酸化チタンを、モデルとして用いた。図11に示すように、酸素欠損がある場合のフェルミ準位が伝導帯に存在し、フェルミ準位で状態密度が0ではなかった。これより、酸素欠損を有する二酸化チタンがn型の導電性を示すことがわかった。
【0122】
図12は、一酸化チタン(TiO)の状態密度図である。図12に示すように、一酸化チタンは金属的な状態密度を有することがわかった。
【0123】
図10に示す二酸化チタンの状態密度図、図11に示す酸素欠損を有する二酸化チタンの状態密度図、および図12に示す一酸化チタンの状態密度図より、酸素欠損を有する二酸化チタン(TiO2−δ)が、0<δ<1の範囲にわたってn型の導電性を示すものと予測された。したがって、酸化チタン膜(金属酸化物膜60)の組成が、一酸化チタンまたは酸素欠損を有する二酸化チタンを含んだものであっても、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜(酸化物半導体膜40)とチタン膜(金属膜70)との間の電流の流れは、阻害されにくい。
【0124】
(実施の形態4)
上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタは、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビまたはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなどのカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話または携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機、太陽電池などが挙げられる。以下に、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタを適用した電子機器の一例について、図13を参照して説明する。
【0125】
図13(A)は、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタを適用した携帯電話機の一例を示している。この携帯電話機は、筐体120に組み込まれた表示部121を備えている。
【0126】
この携帯電話機は、表示部121を指などで触れることで、情報の入力ができる。また、電話を掛ける、メールを打つなどの操作も、表示部121を指などで触れることにより行うことができる。
【0127】
例えば、表示部121における画素のスイッチング素子として、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタを複数配置することで、この携帯電話機の性能を高めることができる。
【0128】
図13(B)は、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタを適用したテレビジョン装置の一例を示している。このテレビジョン装置は、筐体130に表示部131が組み込まれている。
【0129】
例えば、表示部131における画素のスイッチング素子として、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタを複数配置することで、このテレビジョン装置の性能を高めることができる。
【0130】
以上のように、上記実施の形態で説明した薄膜トランジスタは、さまざまな電子機器の表示部に配置することで、その電子機器の性能を高めることができる。
【実施例1】
【0131】
図14は、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、日立製作所「H−9000NAR」)で加速電圧を300kVとして観察した写真である。
【0132】
図14に示す薄膜トランジスタは、酸化物半導体膜40としてIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜を50nm成膜後、窒素雰囲気下において第1の加熱処理(650℃、1時間)を行い、その後金属膜70としてチタン膜を150nm成膜し、さらに窒素雰囲気下において第2の加熱処理(250℃、1時間)を行ったものである。
【0133】
図14において、酸化物半導体膜40と金属膜70との界面に金属酸化物膜60が形成されることが確認された。また酸化物半導体膜40内の金属酸化物膜60と接する領域に、金属高濃度領域50が形成されることが確認された。なお、FFTM(Fast Fourier Transform Mapping)法を用いた解析の結果、この薄膜トランジスタの金属高濃度領域50には、インジウム(In)の組成に近い結晶が析出していることが確認された。同様に、金属酸化物膜60として、酸化チタン膜が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0134】
10 基板
20 ゲート電極
30 ゲート絶縁膜
40 酸化物半導体膜
50 金属高濃度領域
60 金属酸化物膜
70 金属膜
80 絶縁膜
100 領域
120 筐体
121 表示部
130 筐体
131 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート電極および前記ゲート絶縁膜上に設けられ、インジウム、ガリウム、および亜鉛を含む酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜上に設けられた酸化チタン膜と、
前記酸化チタン膜上に設けられたチタン膜と、を有し、
前記酸化物半導体膜は、前記酸化チタン膜と接し、且つ、前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域を有することを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域には、インジウムが結晶粒または微結晶として存在することを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記酸化物半導体膜における水素の濃度が、5×1016/cm未満であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項において、
前記酸化物半導体膜におけるキャリア密度が、5×1010/cm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、
前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域は、前記酸化物半導体膜上に前記チタン膜を形成した後、加熱処理を行うことによって形成された領域であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項において、
前記酸化チタン膜は、前記酸化物半導体膜上に前記チタン膜を形成した後、加熱処理を行うことによって形成された膜であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項7】
基板上に設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート電極および前記ゲート絶縁膜上に設けられ、インジウム、ガリウム、および亜鉛を含む酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜上に設けられた酸化チタン膜と、
前記酸化チタン膜上に設けられたチタン膜と、を有することを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項7において、
前記酸化物半導体膜における水素の濃度が、5×1016/cm未満であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項9】
請求項7又は請求項8において、
前記酸化物半導体膜におけるキャリア密度が、5×1010/cm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか1項において、
前記酸化チタン膜は、前記酸化物半導体膜上に前記チタン膜を形成した後、加熱処理を行うことによって形成された膜であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項11】
基板上に設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート電極および前記ゲート絶縁膜上に設けられ、インジウム、ガリウム、および亜鉛を含む酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜上に設けられたチタン膜と、を有し、
前記酸化物半導体膜は、前記チタン膜と接し、且つ、前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域を有することを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項12】
請求項11において、
前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域には、インジウムが結晶粒または微結晶として存在することを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、
前記酸化物半導体膜における水素の濃度が、5×1016/cm未満であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項14】
請求項11乃至請求項13のいずれか1項において、
前記酸化物半導体膜におけるキャリア密度が、5×1010/cm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項15】
請求項11乃至請求項14のいずれか1項において、
前記酸化物半導体膜の他の領域よりもインジウムの濃度が高い領域は、前記酸化物半導体膜上に前記チタン膜を形成した後、加熱処理を行うことによって形成された領域であることを特徴とする薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−129897(P2011−129897A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255538(P2010−255538)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】