説明

車両および車両制御装置

【課題】車速が高い時でもハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性を向上させ、ヨー角速度のオーバーシュートを抑え、安定した走行を実現する。
【解決手段】ハンドルの角速度を検出する角速度検出手段8と、左右車輪4RL,4RR間にトルク差を発生させるトルク差発生手段7と、角速度検出手段8からのハンドル角速度をもとにトルク差の目標値を決めてトルク差発生手段7を制御する制御手段11と、を備えた車両制御装置であって、車両の速度を求める車速計算手段10を設け、車速計算手段10で求めた車両速度の高い所定の車速時に現れるヨーピーク周波数の振幅を小さくするピーク抑制部を制御手段11に設ける。また、ピーク抑制部はトルク差のヨーピーク周波数成分の位相をハンドル角と略反対の位相にする機能を備えても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右輪間にトルク差を発生させるトルク差発生手段を備える車両制御装置に関し、特に、ハンドル角速度に応じてトルク差を発生させる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の左右輪間にトルク差を発生させる車両制御装置に関しては、例えば、特許文献1に開示されている方式がある。車両の左右輪間にトルク差を発生させることにより、左右の各車輪と路面との間で発揮されている駆動力または制動力の大きさを左右不均衡にし、これにより、車両にヨーモーメントを発生させて車両の挙動を制御することができる。
【0003】
車両の左右輪間に発生させるトルク差の目標値を決める制御ロジックに関しては、特許文献1で開示されている方式の一つに、ハンドル角速度に比例した値をトルク差の目標値とする方式がある。ハンドル角速度に比例したトルク差を発生させれば、ハンドル角速度に比例したヨーモーメントが発生し、ハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性を向上することができる。
【特許文献1】特開平10−16599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示されている制御ロジックのように、車両の左右輪間に発生させるトルク差の目標値を、単にハンドル角速度に比例しただけの値にすると、車速が高い時はハンドル角に対する車両のヨー角速度のオーバーシュートが大きくなる場合があり、車両安定性が低下する可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、車速が高い時でも、ハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性を向上させ、かつ、ヨー角速度のオーバーシュートを抑え、安定した走行を実現することができる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
ハンドルの角速度を検出する角速度検出手段と、左右車輪間にトルク差を発生させるトルク差発生手段と、前記角速度検出手段からのハンドル角速度をもとにトルク差の目標値を決めて前記トルク差発生手段を制御する制御手段と、を備えた車両制御装置であって、車両の速度を求める車速計算手段を設け、前記車速計算手段で求めた車両速度の高い所定の車速時に現れるヨー運動のピーク周波数(ヨーピーク周波数)の振幅を小さくするピーク抑制部を前記制御手段に設ける構成とする。
【0007】
また、前記車両制御装置において、前記ピーク抑制部は、ハンドルの角度に対するヨー角速度の周波数特性における前記ピーク周波数のゲインを、前記ピーク周波数の発生しない低周波数での定常ゲインと略等しくする構成とする。さらに、前記車両制御装置において、前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数の成分の振幅を小さくして当該周波数のヨー角速度を減少させる構成とする。
【0008】
また、前記車両制御装置において、前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数成分の振幅を、前記車速計算手段で求めた車両速度に応じて変更する構成とする。さらに、前記車両制御装置において、前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数の成分の位相を、ハンドル角度の位相から90度〜180度進めた位相にする構成とする。さらに、前記車両制御装置において、前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数成分の位相を、前記車速計算手段で求めた車両速度に応じて変更する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車速が高い時でも、ハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性を向上させ、かつ、ヨー角速度のオーバーシュートを抑え、安定した走行を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1〜第4の実施形態に係る車両制御装置について、図1〜図12を参照しながら以下詳細に説明する。本発明の第1の実施形態に係る車両制御装置は図1〜図9に示し、第2の実施形態については図10に、第3の実施形態については図11に、第4の実施形態については図12にそれぞれ示す。
【0011】
図面において、1はエンジン、2は変速機、3は発電機、4は車輪、5は電力線、6はエネルギストレージ、7はトルク差発生手段、8はハンドル角速度検出手段、9は車輪速センサ、10は車速計算手段、11は制御器、12は左・右輪駆動手段、14は車輪動力配分機構、15は制動力差発生ブレーキ装置、21は差動装置、25は反動トルク機構、35は反動トルク駆動モータ、41は制御ゲイン、42はピーク抑制フィルタ、43はモータコントローラ、をそれぞれ表す。
【0012】
「第1の実施形態」
図1は本発明の実施形態に係る車両制御装置を適用する車両の全体構成を示す図である。図1において、エンジン1が発生した動力は、変速機2および発電機3に伝えられる。変速機2に伝えられた動力は、左右に分配されて車輪4FL,4FRに伝えられる。発電機3は、エンジン1から伝えられた動力を用いて発電を行い、電力線5を介して、エネルギストレージ6やトルク差発生手段7に電力を供給する。
【0013】
エネルギストレージ6は、バッテリやキャパシタなどエネルギを貯蔵する手段と、スイッチと、このスイッチを制御するコントローラと、を備え、電力の受け入れと放出を制御する手段によって構成される。貯蔵した電力は、トルク差発生手段7を駆動するために使用しても良いし、自動車に備えられている他の電気機器(スタータやブロワなど)に使用しても良い。
【0014】
トルク差発生手段7は、制御器11の指令に従って、車輪4RL,4RRの間にトルク差を発生させる。発生させるトルク差の方向が、車輪4RL,4RRの回転数差の方向と同じ場合は電力が必要となり(後述する図2の反動トルク駆動モータ35の回転方向とこのモータ35のトルクの方向が一致するので、このモータ35への電力供給を要する)、その電力は発電機3やエネルギストレージ6から供給する。発生させるトルク差の方向が、車輪4RL,4RRの回転数差の方向と逆の場合は電力が発生し、その電力はエネルギストレージ6へ供給する。トルク差発生手段7の詳細については後述する。
【0015】
なお、エネルギストレージ6は設けなくても良く、その場合は、トルク差発生手段7へ電力を供給する時は発電機3から供給し、トルク差発生手段7が電力を発生する時は発電機3や別に設ける制動抵抗器により電力を消費すれば良い。
【0016】
ハンドル角速度検出手段8は、ハンドル角センサ(図示しない)とハンドル角速度計算手段(図示しない)により構成される。ハンドル角センサはハンドル角(ドライバが操作するハンドルの角度)δを測定する。ハンドル角速度計算手段は、ハンドル角δを微分することにより、ハンドル角速度δ’を計算する。なお、微分した後の値を、ノイズ除去のためのローパスフィルタに通して、そのローパスフィルタの出力をハンドル角速度δ’としても良い。この場合、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、例えば10Hz以上に設定する。
【0017】
車輪速センサ9FL,9FR,9RL,9RRは、車輪4FL,4FR,4RL,4RRに備えられており、各車輪の回転速度を測定する。
【0018】
車速計算手段10は、車輪速センサ9FL,9FR,9RL,9RRにより測定された各車輪の回転速度と、車両に応じてあらかじめ設定したタイヤ半径の値から、各車輪の進行速度を計算し、各車輪の進行速度から車速Vを計算する。車速Vは、各車輪の進行速度の平均値としても良いし、いくつかの車輪がホイールスピンした場合を考慮して、1番遅い車輪と2番目に遅い車輪の進行速度の平均値としても良いし、センサが故障した場合を考慮して、2番目に遅い車輪の進行速度としても良い。
【0019】
制御器11は、ハンドル角速度δ’と、車速Vに応じて、トルク差発生手段7へ制御指令を出力する。制御器11の詳細については後述する。
【0020】
図2は本実施形態に係る車両制御装置におけるトルク差発生手段7の構成例を示す図である。図2において、差動装置21は、差動入力要素22と、左右一対の傘歯車式のサイドギア23RL,23RRと、両サイドギアに噛合するピニオンギア24とで構成されている。サイドギア23RL,23RRとピニオンギア24は差動入力要素22によって回転支持されており、サイドギア23RL,23RRとピニオンギア24の回転軸は直角に配置される。左側のサイドギア23RLは左車輪4RLと連結され、右側のサイドギア23RRは右車輪4RLに連結される。この構成により、サイドギア23RL,23RRの平均回転速度が、差動入力要素22の回転速度となり、サイドギア23RL、23RRに回転速度差がないときは、サイドギア23RL,23RRと差動入力要素22の回転速度は一致する。
【0021】
反動トルク機構25は、車体に固定されたハウジング26と、同一の減速比の回転要素を有する一対の遊星歯車機構27a,27bと、反動トルクの入力軸28と、一対の出力軸29a,29bとを備える。第1遊星歯車機構27aは、第1サンギア30a、第1リングギア31a、第1プラネタリギア32a、第1プラネタリキャリヤ33aから構成されており、第1プラネタリキャリヤ33aは、第1サンギア30aおよび第1リングギア31aに噛合する第1プラネタリギア32aを支持する。第2遊星歯車機構27bは、第2サンギア30b、第2リングギア31b、第2プラネタリギア32b、第2プラネタリキャリヤ33bから構成されており、第2プラネタリキャリヤ33bは、第2サンギア30bおよび第2リングギア31bに噛合する第2プラネタリギア32bを支持する。サンギア30a,30bの歯数は共にZsであり、リングギア31a,31bの歯数は共にZrである。
【0022】
第1サンギア30aは、減速機構36を介してトルク発生源である反動トルク駆動モータ35に連結され、第2サンギア30bは、ハウジング26に回転不能なように固定される。第1リングギア31aと第2リングギア31bは、ハウジング26に対して回転可能なように支持されているが、互いのリングギアどうしが相対回転不能なように連結される。第1プラネタリキャリヤ33aは第1出力軸29aおよび第1減速機構34aを介して差動入力要素22に連結される。第1出力軸29aの回転は、減速比1/Nを有する第1減速機構34aによって1/N倍に減速されて差動入力要素22に伝達される。第2プラネタリキャリヤ33bは第2出力軸29bおよび第2減速機構34bを介して、左車輪サイドギア23RLに連結される。第2出力軸29bの回転は、第1減速機構34aと同じ減速比1/Nを有する第2減速機構34bによって1/N倍に減速されて左車輪サイドギア23RLに伝達される。
【0023】
第2出力軸29bと第2プラネタリキャリヤ33bが速度ωbで回転するとき、第2サンギア30bがハウジング26に固定されているので、リングギア31a,31bの回転速度は(Zr+Zs)/Zr×ωbとなる。第1出力軸29aと第1プラネタリキャリヤ33aが速度ωa、第1リングギア31aが速度(Zr+Zs)/Zr×ωbで回転するとき、第1サンギア30aと入力軸28の回転速度ωiは(Zr+Zs)/Zs×(ωa−ωb)となる。したがって、第1出力軸と第2出力軸の回転速度差をΔω(=ωa−ωb)とすれば、入力軸28の回転速度ωiは(Zr+Zs)/Zs×Δωとなる。
【0024】
このように、入力軸回転速度ωiは、第1出力軸回転速度ωaの大きさや、第2出力軸回転速度ωbの大きさには依存せず、第1出力軸と第2出力軸の回転速度差Δωに依存する。言い換えれば、反動トルク駆動モータ35によって入力軸28の回転を速度ωiに速度制御する場合、第1出力軸回転速度ωaと第2出力軸回転速度ωbの大きさ、すなわち車両の速度は規定されず、回転速度差Δωのみが規定される。また、反動トルク駆動モータ35によって入力軸28に入力トルクTiを与えるとき、第1出力軸29aには第1出力トルクTaとして、トルク{(Zr+Zs)/Zs×Ti}が出力される。他方、第2出力軸29bには第2出力トルクTbとして、第1出力軸29aとは大きさが同じで反対方向のトルク{−(Zr+Zs)/Zs×Ti}が出力される。以上のように、第1出力軸29aと第2出力軸29bに反動トルクを生成することができ、車輪4RL,4RRの間にトルク差を発生させることができる。換言すると、図2に示すトルク差発生手段は、トルクモータの出力軸に遊星歯車機構を適用して反動トルクを生成し左右車輪間にトルク差を発生させるものである。
【0025】
図3は本実施形態に係る車両制御装置における制御器11の構成例を示す図である。図3において、制御器11は、制御ゲイン41と、ピーク抑制フィルタ42と、モータコントローラ43とで構成されている。
【0026】
制御ゲイン41は、ハンドル角速度検出手段8で検出したハンドル角速度δ’をK倍したKδ’を出力する。このゲインKを大きくすればするほど、車輪4RL,4RRの間のトルク差が大きくなり、ハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性は向上するが、消費電力や、反動トルク駆動モータ35が発生する必要のあるトルクが大きくなる。よって、駆動モータ35や発電機3のコストや体格(大きさ)などを考慮して、ゲインKを設定する必要がある。また、ゲインKが同じ値であっても、車速Vにより車両安定性や運転フィーリングは変わってくるので、ゲインKは車速Vに応じて変更しても良い。
【0027】
ピーク抑制フィルタ42は、ハンドル角δに対する車両のヨー角速度の周波数特性において、車速Vが高い時に現れる略1Hzのヨーピーク周波数(ハンドル角速度に応じて左右輪にトルク差を発生させる車両制御において車両の速度が高いときに現れるヨー運動のピーク周波数)のゲインが定常ゲインと略等しくなるように、制御ゲイン41の出力Kδ’を整形し、その整形した信号をトルク差目標値Td0とする。ピーク抑制フィルタ42の詳細については後述する。また、モータコントローラ43は、車輪4RL,4RRの間のトルク差(実際のトルク差Td)がトルク差目標値Td0と一致するように、反動トルク駆動モータ35を制御する。
【0028】
次に、ピーク抑制フィルタ42の機能、動作について、図4〜図7を参照しながら以下説明する。図4は、トルク差発生手段7の不使用時におけるハンドル角δに対する車両のヨー角速度(ヨー角速度/ハンドル角δ)の周波数特性の一例である。
【0029】
図4の上図は、ヨー角速度/ハンドル角δとしたときのヨー角速度のゲインを表し、下図はハンドル角が例えば正弦波状に時間変化したときにヨー角速度の進遅相の程度を表すものである。車速Vによって周波数特性は変化しており、車速Vが高くなると、約1.0Hzにピークが現れることが分かる。つまり、車速Vが高い時は、ハンドル操作にヨーピーク周波数成分(例えば、1.0Hz)が含まれていると、その周波数のヨー角速度が増大する。また、このピークにより、ハンドル角δに対する車両のヨー角速度のオーバーシュートが発生する(後述する図8の最下段の図で「ピーク抑制フィルタなし」の0.2〜0.5sの区間における破線の状態を参照)。なお、図4では、V=150km/hのときに0.8Hzでピークを示す例が示されているが、このピークは車両によっても変動し、一般的には、0.7〜1.2Hzの範囲内であり、略1.0Hzの近傍であると云える。
【0030】
図5は、トルク差発生手段7により発生したトルク差に対する車両のヨー角速度(ヨー角速度/トルク差)の周波数特性の一例である。図4と同様に、車速Vによって周波数特性は変化しており、車速Vが高くなると、約1.0Hzにピークが現れることが分かる(特性は図4と同様)。つまり、車速Vが高い時は、トルク差にヨーピーク周波数成分が含まれていると、その周波数のヨー角速度が増大し、車両の安定性が低下する。
【0031】
図6は本実施形態に関する制御器におけるピーク抑制フィルタの周波数特性の一例を示す図である。この周波数特性のゲインは、図5のゲインを反対にした形になっており、車速Vに応じて変化している。制御ゲイン41の出力Kδ’にヨーピーク周波数(約1.0Hz)の成分が含まれていたとしても、ピーク抑制フィルタ42でその周波数の成分の振幅を小さくすることができる。よって、トルク差によるヨーピーク周波数のヨー角速度の増大を抑えることができる。なお、図6には3通りの車速(V=50,100,150km/h)における周波数特性を示しているが、これらの間の車速の時は、これらの間の周波数特性になるようにする。
【0032】
図7は、本実施形態に関する制御器におけるピーク抑制フィルタの周波数特性の他例を示す図である。この周波数特性の位相は、車速Vが高くなるにつれて進み量が大きくなっており、車速Vが150km/hの時はヨーピーク周波数(約1.0Hz)で約60度進んでいる。制御ゲイン41の出力Kδ’は、ハンドル角δに対して位相が約90度進んでいるため、ピーク抑制フィルタ42の出力は、ヨーピーク周波数に関してはハンドル角δに対して位相が約150度(略打ち消しうる位相)進んでいることになる。よって、図4に示したハンドル操作によるヨーピーク周波数のヨー角速度の増大を、図5に示したトルク差によるヨーピーク周波数のヨー角速度の増大で、打ち消すことができる。なお、図7には3通りの車速における周波数特性を示しているが、これらの間の車速の時は、これらの間の周波数特性になるようにする。
【0033】
また、ピーク抑制フィルタ42は、図6のフィルタ(ゲイン打ち消し用)と図7のフィルタ(位相打ち消し用)を組み合わせるなどして、ヨーピーク周波数成分の振幅を小さくし、かつ、ヨーピーク周波数成分の位相をハンドル角の略反対にしても良い。
【0034】
なお、図4、図5に示したヨー角速度の周波数特性(ピークの周波数やゲインの大きさ)は、車種により異なる。よって、ピーク抑制フィルタの形も車種によりあらかじめ設定しておく。また、同一車種であっても、積載重量により図4、図5に示したヨー角速度の周波数特性は変わってくる。積載重量と周波数特性の関係をあらかじめ計測または計算しておき、積載重量の変化に応じて、ピーク抑制フィルタを変更するようにしても良い。
【0035】
図8は、車速150km/hで走行中にハンドルをほぼステップ状に操作した時の、左右輪間にハンドル角速度に比例したトルク差を発生させるがピーク抑制フィルタを用いない車両と、図7のピーク抑制フィルタを用いた車両(本実施形態)の、ハンドル角、右輪トルク、左輪トルク、ヨー角速度の一例である。どちらの車両の場合も、ハンドル角は同じであるが、右輪トルク、左輪トルクは異なり、その結果、ヨー角速度に違いが出ている。ピーク抑制フィルタを用いない車両は、ハンドル角に対するヨー角速度が大きくオーバーシュートしているが、ピーク抑制フィルタを用いた車両(本実施形態)は、ヨー角速度がほとんどオーバーシュートしていないことが分かる。
【0036】
図9は、車速150km/hで走行中に3.5m(レーン幅)のレーンチェンジを行おうとした時の、左右輪間にハンドル角速度に比例したトルク差を発生させるがピーク抑制フィルタを用いない車両と、図7のピーク抑制フィルタを用いた車両(本実施形態)の、ハンドル角、右輪トルク、左輪トルク、ヨー角速度、横方向変位の一例である。どちらの車両の場合も、ドライバはレーンチェンジ先の車線内を真っ直ぐ走行しようとハンドル操作しているが、ピーク抑制フィルタを用いない車両は、ヨー角速度のオーバーシュートの影響により上手くハンドル操作ができておらず、安定して走行できていない。それに対し、ピーク抑制フィルタを用いた車両(本実施形態)は、安定した走行になっていることが分かる。
【0037】
以上のように、本発明の実施形態に係る車両制御装置によれば、車速が高い時でも、ハンドル操作に対する車両のヨー運動の初期応答性を向上させ、かつ、ヨー角速度のオーバーシュートを抑え、安定した走行を実現することができる。なお、以上の例では、後輪の左右にトルク差を発生させる方式に関して説明したが、前輪の左右にトルク差を発生させる方式や、前後輪両方の左右にトルク差を発生させる方式でも、同様の効果を得ることができる。
【0038】
「第2の実施形態」
図10は、本発明の第2の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。図10の構成例は、図1のトルク差発生手段7を、左輪駆動手段12RLと右輪駆動手段12RRに置き換えたものである。
【0039】
左輪駆動手段12RLと右輪駆動手段12RRは、電動モータと減速ギアにより構成され、制御器11の指令に従って、それぞれ車輪RLと車輪RRを独立に駆動もしくは制動する。駆動する時は、その電力は発電機3やエネルギストレージ6から供給する。制動する時は電力が発生し、その電力はエネルギストレージ6へ供給する。
【0040】
図10に示す構成でも、車輪4RL,4RRの間にトルク差を発生させることが可能であり、図1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、図10では、後輪の左右にトルク差を発生させる方式を示したが、前輪の左右にトルク差を発生させる方式や、前後輪両方の左右にトルク差を発生させる方式でも、同様の効果を得ることができる。
【0041】
「第3の実施形態」
図11は、本発明の第3の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。図11の構成では、エンジン1が発生した動力は、変速機2およびプロペラシャフト13に伝えられる。プロペラシャフト13に伝えられた動力は、動力配分機構14に伝えられる。動力配分機構14は、内部に電磁クラッチを備え、制御器11の指令に従って、車輪4RLと車輪4RRに動力を配分する。
【0042】
図11に示す構成でも、車輪4RL,4RRの間にトルク差を発生させることが可能であり、図1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、図11では、後輪の左右にトルク差を発生させる方式を示したが、前輪の左右にトルク差を発生させる方式や、前後輪両方の左右にトルク差を発生させる方式でも、同様の効果を得ることができる。
【0043】
「第4の実施形態」
図12は、本発明の第4の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。図12の構成では、車両にもとから備え付けられているブレーキ装置15RL、15RRを用いて、左右輪に制動力差を発生させ、車両にヨーモーメントを発生させる方式である。
【0044】
図12に示す構成でも、図1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、図11では、後輪の左右のブレーキを用いる方式を示したが、前輪の左右のブレーキを用いる方式や、前後輪両方の左右のブレーキを用いる方式でも、同様の効果を得ることができる。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る車両制御装置の主たる特徴は、ハンドル角に対するヨー角速度の周波数特性において、車速が高い時に現れる略1Hzのヨーピーク周波数のゲインが定常ゲイン(例えば、図4に示す横軸の0Hz時のゲイン)と略等しくなるように、トルク差発生手段を制御するピーク抑制手段を備えることにある。このとき、ピーク抑制手段は、トルク差のヨーピーク周波数成分の振幅を小さくするとよい。また、ピーク抑制手段は、トルク差のヨーピーク周波数成分の位相をハンドル角と略反対の位相にするとよい。
【0046】
換言すると、本実施形態の特徴は、ハンドル角速度に応じて車両の左右輪間にトルク差を発生させるトルク差発生手段を備える車両制御装置において、車両の速度が高い時に現れるヨー運動のピーク周波数(ヨーピーク周波数)の振幅が小さくなるようにトルク差発生手段を制御するピーク抑制手段を備えたものである。また、本実施形態は、トルク差のヨーピーク周波数成分の振幅を小さくする、および/または、トルク差のヨーピーク周波数成分の位相をハンドル角の位相から90〜180度進めた位相(略反対の位相)にするピーク抑制手段を備えたものである。このような構成によって、発明の効果欄に記載した効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置を適用する車両の全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る車両制御装置におけるトルク差発生手段の構成例を示す図である。
【図3】本実施形態に係る車両制御装置における制御器の構成例を示す図である。
【図4】トルク差発生手段の不使用時におけるハンドル角δに対する車両ヨー角速度(ヨー角速度/ハンドル角δ)の周波数特性を示す図である。
【図5】トルク差発生手段により発生したトルク差に対する車両のヨー角速度(ヨー角速度/トルク差)の周波数特性を示す図である。
【図6】本実施形態に関する制御器におけるピーク抑制フィルタの周波数特性の一例を示す図である。
【図7】本実施形態に関する制御器におけるピーク抑制フィルタの周波数特性の他例を示す図である。
【図8】車速150km/hで走行中にハンドルをほぼステップ状に操作した時の本実施形態が奏する効果を示す図である。
【図9】車速150km/hで走行中に3.5mのレーンチェンジを行おうとした時の本実施形態が奏する効果を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係る車両制御装置を適用した車両の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 変速機
3 発電機
4 車輪
5 電力線
6 エネルギストレージ
7 トルク差発生手段
8 ハンドル角速度検出手段
9 車輪速センサ
10 車速計算手段
11 制御器
12 左・右輪駆動手段
14 車輪動力配分機構
15 制動力差発生ブレーキ装置
21 差動装置
25 反動トルク機構
35 反動トルク駆動モータ
41 制御ゲイン
42 ピーク抑制フィルタ
43 モータコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの角速度を検出する角速度検出手段と、左右車輪間にトルク差を発生させるトルク差発生手段と、前記角速度検出手段からのハンドル角速度をもとにトルク差の目標値を決めて前記トルク差発生手段を制御する制御手段と、を備えた車両制御装置であって、
車両の速度を求める車速計算手段を設け、
前記車速計算手段で求めた車両速度の高い所定の車速時に現れるヨー運動のピーク周波数の振幅を小さくするピーク抑制部を前記制御手段に設ける
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ピーク抑制部は、前記ヨー運動のピーク周波数が1、0Hzを含めたその近傍の周波数の振幅を小さくすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記ピーク抑制部は、ハンドルの角度に対するヨー角速度の周波数特性における前記ピーク周波数のゲインを、前記ピーク周波数の発生しない低周波数での定常ゲインと略等しくすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数の成分の振幅を小さくして当該周波数のヨー角速度を減少させるすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数成分の振幅を、前記車速計算手段で求めた車両速度に応じて変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数の成分の位相を、ハンドル角度の位相から90度〜180度進めた位相にすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記ピーク抑制部は、前記トルク発生手段で発生したトルク差の前記ピーク周波数成分の位相を、前記車速計算手段で求めた車両速度に応じて変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記トルク差発生手段は、トルクモータの出力軸に遊星歯車機構を適用して反動トルクを生成し左右車輪間にトルク差を発生させるものであることを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
ハンドルの角速度を検出する角速度検出手段、左右車輪間にトルク差を発生させるトルク差発生手段、前記角速度検出手段からのハンドル角速度をもとにトルク差の目標値を決めて前記トルク差発生手段を制御する制御手段を有する車両制御装置と、前後の左右輪と、を少なくとも備えた車両であって、
車両の速度を求める車速計算手段を設け、
前記車速計算手段で求めた車両速度の高い所定の車速時に現れるヨー運動のピーク周波数の振幅を小さくするピーク抑制部を前記制御手段に設ける
ことを特徴とする車両。
【請求項10】
請求項1において、
前記トルク差発生手段は、電動モータと減速ギアからそれぞれ構成される左輪駆動手段と右輪駆動手段とからなり、前記制御手段により前記左輪駆動手段と右輪駆動手段をそれぞれ制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記トルク差発生手段は、変速機及びプロペラシャフトを介してエンジン動力を伝達される、電磁クラッチを有する動力配分機構からなることを特徴とする車両制御装置。
【請求項12】
請求項1において、
前記トルク差発生手段は、左輪と右輪に備え付けられたブレーキ装置からなり、前記制御手段により前記左輪と右輪の各ブレーキ装置を制御して左右輪に制動力差を発生させることを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−100590(P2008−100590A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284129(P2006−284129)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】