車両の動力伝達制御装置
【課題】HV−MT車について、クラッチ操作部材の操作が関連する場合において電動機トルクを積極的に調整して駆動輪に伝達される駆動力を演出すること。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関とモータ(MG)とを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機と、摩擦クラッチとを備える。通常、モータのトルク(MGトルク)は、アクセル開度に基づいて決定されるMGトルク基準値と、クラッチ戻しストロークに基づいて決定されるMGトルク制限値とのうち小さい方の値(=MGトルク最終基準値)に調整される。運転者によるクラッチペダル操作に関連する所定条件の成立に基づいて、MGトルクが、MGトルク最終基準値に代えてMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整される。これにより、より適切、又はより一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関とモータ(MG)とを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機と、摩擦クラッチとを備える。通常、モータのトルク(MGトルク)は、アクセル開度に基づいて決定されるMGトルク基準値と、クラッチ戻しストロークに基づいて決定されるMGトルク制限値とのうち小さい方の値(=MGトルク最終基準値)に調整される。運転者によるクラッチペダル操作に関連する所定条件の成立に基づいて、MGトルクが、MGトルク最終基準値に代えてMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整される。これにより、より適切、又はより一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として第1動力源(例えば、内燃機関)と第2動力源(例えば、電動機)とを備えた車両に適用され、摩擦クラッチを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、ハイブリッド車両であって、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。以下、内燃機関の出力軸のトルクを「内燃機関トルク」と呼び、電動機の出力軸のトルクを「電動機トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
HV−MT車では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、電動機の出力軸が変速機の入力軸又は変速機の出力軸に接続される構成について考察する。
【0005】
この場合、電動機トルクは、例えば、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)とクラッチペダルの操作量とに基づいて以下のように調整され得る。即ち、先ず、アクセル開度と「電動機トルクの基準値(電動機トルク基準値)」との間の第1関係(後述する図2を参照)、並びに、クラッチペダル操作量と「電動機トルクの上限値(電動機トルク制限値)」との間の第2関係(後述する図3を参照)が、実験等を通して事前に決定・記憶される。現在のアクセル開度と上記第1関係とに基づいて現在の電動機トルク基準値が決定される。現在のクラッチペダル操作量と上記第2関係とに基づいて現在の電動機トルク制限値が決定される。現在の電動機トルクが、前記決定された現在の電動機トルク基準値及び現在の電動機トルク制限値のうち小さい方の値に調整される。以下、この値を「電動機トルク最終基準値」と呼ぶ。
【0006】
このように電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整することにより、クラッチペダルの操作が関連する場合において、HV−MT車の電動機トルクを利用した運転フィーリングを、通常MT車の内燃機関トルクを利用した運転フィーリングに近づけることができる。通常MT車とは、手動変速機と摩擦クラッチとを備え且つ動力源として内燃機関のみを搭載した従前から広く知られた車両を指す。
【0007】
ところで、クラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者が、HV−MT車を運転して変速操作等のためにクラッチペダルを操作する場合を想定する。この場合、クラッチペダル操作が適切でないために、クラッチペダル操作量に基づいて決定される電動機トルク制限値(従って、電動機トルク最終基準値)の変化パターンが適切なパターンと異なるパターンに決定され得る。この結果、電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整し続けると、適切な駆動力が得られ難くなる(例えば、変速ショックが大きくなる)等の問題が発生し得る。
【0008】
他方、状況によっては、電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整し続けるよりも電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって、より一層運転者の意図に沿った駆動力が得られる場合も存在する。以上より、電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって駆動力を演出することが好ましい場合が存在する。
【0009】
本発明は、上述の問題に対処するためになされたものであり、その目的は、特にHV−MT車を対象とする動力伝達制御装置であって、クラッチ操作部材の操作が関連する場合において電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整して駆動輪に伝達される駆動力を演出し得るものを提供することにある。
【0010】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として第1動力源と第2動力源とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、変速機と、摩擦クラッチと、制御手段とを備える。第1動力源及び第2動力源はそれぞれ、内燃機関及び電動機であっても、電動機及び内燃機関であっても、電動機及び電動機であってもよい。以下、第1動力源及び第2動力源がそれぞれ内燃機関及び電動機であるものとして説明を続ける。
【0011】
変速機は、トルクコンバータを備えた自動変速機であってもよいが、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機であることが好ましい。前記変速機は、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記変速機の入力軸又は出力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0012】
摩擦クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて、前記完全分断状態、前記半接合状態、及び、前記完全接合状態の何れかの状態を実現する。運転者によるクラッチ操作部材の操作がなされていない場合には、前記摩擦クラッチは完全接合状態を実現する。前記クラッチ操作部材の操作量は、第2検出手段により検出される。
【0013】
制御手段は、前記内燃機関の出力軸のトルク(内燃機関トルク)、及び前記電動機の出力軸のトルク(電動機トルク)を制御する。特に、電動機トルクは、以下のように調整される。先ず、前記加速操作部材の操作量と電動機トルクの基準(電動機トルク基準値)との間の記憶された第1関係と、前記検出された加速操作部材の操作量と、に基づいて電動機トルク基準値が決定される。前記クラッチ操作部材の操作量と電動機トルクの上限(電動機トルク制限値)との間の記憶された第2関係と、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量と、に基づいて電動機トルク制限値が決定される。前記加速操作部材の操作量は、第1検出手段により検出される。
【0014】
電動機トルクは、通常(運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立しない場合)、前記決定された電動機トルク基準値及び電動機トルク制限値のうち小さい方の値(電動機トルク最終基準値)に調整される。一方、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立に基づいて、電動機トルクは、例外的に、電動機トルク最終基準値に代えて「電動機トルク最終基準値から変移した値」に調整される。
【0015】
上記構成によれば、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連して、電動機トルクが電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整されて、駆動力が演出され得る。この結果、より適切、又はより一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。なお、種々の状況下での電動機トルクによる駆動力の具体的な演出方法については後述する。
【0016】
ここにおいて、一般に、前記第2関係では、前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」(前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ操作部材の操作量)より前記完全分断状態側の範囲では前記第2トルク制限値がゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が「リリース開始点」(前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ操作部材の操作量)より前記完全接合状態側の範囲では前記第2トルク制限値が最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」と「リリース開始点」との間では前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれて前記第2トルク制限値がゼロから増大するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を搭載したHV−MT車の概略構成図である。
【図2】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、アクセル開度とMGトルク基準値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、クラッチ戻しストロークとMGトルク制限値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図5】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第1の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図6】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第2の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図7】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第3の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図8】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第4の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図9】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第5の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図10】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第6の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図11】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第7の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図12】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第8の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備えたハイブリッド車両であり、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと摩擦クラッチC/Tとを備える。即ち、この車両は、上述したHV−MT車である。
【0020】
エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0021】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。M/Tは、例えば、前進用の4つの変速段(1速〜4速)、及び後進用の1つの変速段(R)を備えている。
【0022】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0023】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0024】
接合状態としては、完全接合状態、半接合状態、及び、完全分断状態が存在する。完全接合状態とは、滑りを伴わずに動力を伝達する状態を指す。半接合状態とは、滑りを伴いながら動力を伝達する状態を指す。完全分断状態とは、動力を伝達しない状態を指す。以下、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態からのクラッチペダルCPの戻し方向の操作量を「クラッチ戻しストローク」と呼ぶ。
【0025】
クラッチ戻しストロークは、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態にて「0」となり、クラッチペダルCPが開放されている(操作されていない)状態にて最大となる。クラッチ戻しストロークが「0」から増大するにつれて、C/Tは、完全分断状態から半接合状態を経て完全接合状態へと移行する。
【0026】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0027】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、周知のギヤ列等を介してM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。
【0028】
また、図1に破線で示すように、C/TとM/Tとの間に、動力が伝達される「接合状態」と動力が伝達されない「分断状態」とを選択的に実現する動力断接機構CHGが介装されていてもよい。以下、E/Gの出力軸のトルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸のトルクを「MGトルク」と呼ぶ。CHGが「分断状態」とされるのは、クラッチペダルCPが操作されていない状態(即ち、C/Tの完全接合状態)において車両がMGトルク(>0)のみで走行する場合等である。この場合、CHGが「分断状態」とされることにより、M/Tの入力軸の回転がC/Tを介してE/Gの出力軸に伝達されることを防止することができる。
【0029】
本装置は、クラッチペダルCPのクラッチ戻しストロークを検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、車輪の速度を検出する車輪速度センサS5と、E/Gの出力軸の回転速度Neを検出する回転速度センサS6と、M/Tの入力軸の回転速度Niを検出する回転速度センサS7と、を備えている。
【0030】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータ(図示せず)を制御することによりMGトルクを制御する。また、動力断接機構CHGが備えられている場合、ECUはCHGの状態を制御する。
【0031】
具体的には、EGトルクとMGトルクとの配分は、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて調整される。EGトルク及びMGトルクの大きさはそれぞれ、主としてアクセル開度に基づいて調整される。特に、MGトルクは、本例では、以下のように調整される。
【0032】
即ち、先ず、図2に示すマップと、現在のアクセル開度とに基づいて、「MGトルク基準値」が決定される。MGトルク基準値は、アクセル開度が大きいほど、より大きい値に決定される。MGトルク基準値のアクセル開度に対する特性は、アクセル開度以外の種々の状態(例えば、EGトルクとMGトルクとの配分)に応じて変化し得る。
【0033】
また、図3に示すマップと、現在のクラッチ戻しストロークとに基づいて、「MGトルク制限値」が決定される。MGトルク制限値は、ミート開始点とリリース開始点とを利用して規定される。ミート開始点とは、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークであり、リリース開始点とは、C/Tが完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークである。
【0034】
この例では、クラッチ戻しストロークが「0」から「ミート開始点」の範囲(即ち、C/Tの完全分断状態に対応する範囲。図3の「範囲a」を参照)ではMGトルク制限値が「0」に維持され、クラッチ戻しストロークが「リリース開始点」より大きい範囲(即ち、C/Tの完全接合状態に対応する範囲。図3の「範囲c」を参照)ではMGトルク制限値が「最大値」に維持され、クラッチ戻しストロークが「ミート開始点」と「リリース開始点」との間(即ち、C/Tの半接合状態に対応する範囲。図3の「範囲b」を参照)ではクラッチ戻しストロークが「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれてMGトルク制限値が「0」から増大する。ここで、MGトルク制限値の上記「最大値」とは、例えば、現在の上記「MGトルク基準値」と等しい値に設定され得る。なお、図2及び図3に示すマップは、ECU内のメモリの所定領域に更新可能に記憶されている。
【0035】
そして、MGトルクは、通常、前記決定された「MGトルク基準値」と「MGトルク制限値」とのうちで小さい方の値(以下、「MGトルク最終基準値」と呼ぶ)に調整される。即ち、MGトルクは、通常、クラッチ戻しストロークに基づいて決定される「MGトルク制限値」を超えない範囲内において、アクセル開度に基づいて決定される「MGトルク基準値」に基づく値(=MGトルク最終基準値)に調整される。このようにMGトルクをMGトルク最終基準値に一致するように調整することにより、HV−MT車のMGトルクを利用した運転フィーリングを、前記「通常MT車」のEGトルクを利用した運転フィーリングに近づけることができる。
【0036】
(MGトルクによる駆動トルクの演出)
ところで、上述のようにMGトルクをMGトルク最終基準値に一致するように調整することによって適切な駆動力(例えば、変速ショックが小さい駆動力)が得られるのは、クラッチペダル操作が適切である場合に限られる。換言すれば、例えば、クラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者が、変速操作等のために適切でないクラッチペダル操作を行った場合、クラッチ戻しストロークに基づいて決定されるMGトルク制限値(従って、MGトルク最終基準値)の変化パターンが適切なパターンと異なるパターンに決定され得る。この結果、MGトルクをMGトルク最終基準値に調整し続けると、適切な駆動力が得られ難くなる(例えば、変速ショックが大きくなる)等の問題が発生し得る。
【0037】
加えて、状況によっては、MGトルクをMGトルク最終基準値に調整し続けるよりもMGトルクをMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって、より一層運転者の意図に沿った駆動力が得られる場合も存在する。以上より、MGトルクをMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって駆動力を演出することが好ましい場合が存在する。
【0038】
以下、このことについて、図4〜図12を参照しながら説明する。図4は、変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合(即ち、MGトルクによる駆動力の演出がない場合)における作動の一例を示す。図5〜図12は、図4に示した例と同様の状況下において駆動力を演出するため、MGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される場合の一例をそれぞれ示す。先ず、図4について説明する。
【0039】
図4に示す例では、時刻t1以前にて、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、或いは、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)、2速で走行している場合が想定される。時刻t1以降、2速から3速へのシフトアップ作動(変速作動)のため、アクセルペダルAP、クラッチペダルCP、及びシフトレバーSLが連携しながら操作される。
【0040】
この例では、クラッチペダルCPの操作に着目すると、時刻t1〜t6に亘ってクラッチペダルCPが操作されている。具体的には、時刻t1にてクラッチペダルCPの操作が開始され、時刻t2にてクラッチ戻しストロークが範囲cから範囲bに移行し(C/Tが完全接合状態から半接合状態に移行し)、時刻t3にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲aに移行し(C/Tが半接合状態から完全分断状態に移行し)、時刻t4にてクラッチ戻しストロークが範囲aから範囲bに移行し(C/Tが完全分断状態から半接合状態に移行し)、時刻t5にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲cに移行し(C/Tが半接合状態から完全接合状態に移行し)、時刻t6にてクラッチペダルCPの操作が終了している。
【0041】
この例では、MGトルク(=MGトルク最終基準値)の変化に着目すると、時刻t2以前では、クラッチ戻しストロークが範囲cにあることに起因してMGトルクがアクセル開度に基づくMGトルク基準値(図2を参照)と等しい値に調整され、時刻t2〜t5では、クラッチ戻しストロークが範囲b又は範囲aにあることに起因してMGトルクがクラッチ戻しストロークに基づくMGトルク制限値(図3を参照)と等しい値に調整され、時刻t5以降では、クラッチ戻しストロークが範囲cにあることに起因してMGトルクがアクセル開度に基づくMGトルク基準値(図2を参照)と等しい値に調整されている。
【0042】
以下、図5〜図12を参照しながら、上述した図4に示した状況下において駆動力を演出するためにMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第1〜第8の場合について順に説明していく。なお、図5〜図12において、破線は、比較として、MGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合の変化を示す。
【0043】
<第1の場合>
図5に示す例では、主として、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが、完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミング(時刻t2)、半接合状態から完全分断状態へと移行するタイミング(時刻t3)、完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミング(時刻t4)、及び、半接合状態から完全接合状態へと移行するタイミング(時刻t5)のそれぞれについて、対応するタイミングを含む微小期間だけMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整される。なお、各タイミングは、クラッチ戻しストロークの検出結果に基づいて取得・予測・推定され得る。
【0044】
この例では、車両の減速動作に関連する時刻t2及びt3のそれぞれについて、対応する時刻を含む微小期間にてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整され、車両の加速動作に関連する時刻t4及びt5のそれぞれについて、対応する時刻を含む微小期間にてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整される。
【0045】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tの接合状態が変化するタイミングに合わせて微小のショックを運転者に感知させることができる。この結果、特にクラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者に対して、摩擦クラッチC/Tの接合状態が変化するタイミングに対応するクラッチ戻しストローク(摩擦クラッチC/Tの位置)を体得させることができる。よって、係る運転者のクラッチペダル操作の上達を早めることができる。
【0046】
図5に示す例では、時刻t2〜t5の全てのタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整されているが、時刻t2〜t5のうちの一部のタイミングのみに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整されてもよい。また、図5に示す例では、時刻t2及びt3のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整されているが、時刻t2及びt3のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整されてもよい。同様に、時刻t4及びt5のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整されているが、時刻t4及びt5のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整されてもよい。
【0047】
<第2の場合>
図6に示す例では、車両がEGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するとき(時刻t5の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態に移行した後(時刻t5以降)において、MGトルクが、MGトルク最終基準値に「カウンタ振動パターン」を重畳して得られる値に調整される。
【0048】
ここにおいて、「カウンタ振動パターン」とは、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態に移行した後に発生するであろう駆動トルク(車両の駆動輪に伝達されるトルク)の振動を打ち消す振動パターンである。摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その直後から駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)に振動が発生し易い(図6の破線を参照)。この振動は、主として、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態に移行する直前における「E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間の回転速度差」に起因する。
【0049】
この駆動系統の振動パターン(振幅及び周期の時間に対する移り変わり)は、前記クラッチ戻しストロークの変化速度に大きく依存する。従って、この振動パターンを打ち消すための前記「カウンタ振動パターン」(振幅及び周期の時間に対する移り変わり)も、前記クラッチ戻しストロークの変化速度に基づいて演算され得る。具体的には、例えば、、「カウンタ振動パターン」は、クラッチ戻しストロークと「カウンタ振動パターン」との関係を規定する事前に作製されたマップと、実際に取得されたクラッチ戻しストロークとに基づいて演算され得る。
【0050】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その直後から発生し得る駆動系統(従って、駆動輪に伝達されるトルク)の振動を抑制することができる(図6の実線を参照)。
【0051】
<第3の場合>
図7に示す例では、車両がEGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するとき(時刻t4の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より小さくなるようにMGトルクが調整される。
【0052】
摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、上述した第2の場合と同様の理由により、その後の完全接合状態への移行の後から駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)に振動が発生し易い(図7の破線を参照)。
【0053】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その後のMGトルクの増加勾配を小さくすることができる。このことは、その後の完全接合状態への移行の後において発生し得る駆動系統(従って、駆動輪に伝達されるトルク)の振動の抑制に寄与し得る(図7の実線を参照)。
【0054】
<第4の場合>
図8に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するとき(時刻t4の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より大きくなるようにMGトルクが調整される。
【0055】
摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、運転者が「車両が直ちに大きく加速すること」を望んでいることが多いと考えられる。
【0056】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その後のMGトルクの増加勾配を大きくすることができる。従って、車両を直ちに大きく加速させることができる。この結果、より一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。なお、この例のように車両がMGトルクのみを利用して走行している場合、通常、動力断接機構CHGが分断状態に維持される。従って、クラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が大きくしても、上述した駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)の振動は発生しない。
【0057】
<第5の場合>
図9に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。また、この例では、走行モードとして、ノーマルモード(第1モード)と、ノーマルモードより車両がより加速されるスポーツモード(第2モード)とを備え、且つ、走行モードを切り替える手段(切替スイッチ等)を備えた車両が想定される。
【0058】
この例では、「走行モードとしてスポーツモードが選択されている」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より大きくなるようにMGトルクが調整される。
【0059】
走行モードとしてスポーツモードが選択されている場合、運転者が「車両が直ちに大きく加速すること」を望んでいることが多いと考えられる。この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、スポーツモードが選択されている場合、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した後のMGトルクの増加勾配を大きくすることができる。従って、車両を直ちに大きく加速させることができる。この結果、より一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。
【0060】
<第6の場合>
図10に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する際、MGトルク最終基準値の減少勾配が所定値を超える場合、MGトルクの減少勾配が前記所定値になる(制限される)ようにMGトルクが調整される。
【0061】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、MGトルク最終基準値の減少勾配が大きい場合、MGトルクの減少勾配が制限される。この結果、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する過程において発生し得るショックを軽減することができる。
【0062】
<第7の場合>
図11に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する際、MGトルクが「MGトルク最終基準値に遅延処理を施した値」に調整される。ここにおいて、「遅延処理」とは、例えば、むだ時間を付与する処理、一次遅れ処理等を指す。
【0063】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、MGトルク最終基準値の変化速度が大きい場合、及び、同変化速度の変化が大きい場合等において、MGトルクが比較的緩やかに減少していく。この結果、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する過程において緩やかなフィーリングを運転者に与えることができる。
【0064】
<第8の場合>
図12に示す例では、車両がEGトルクのみを利用して(MGトルク=0、EGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが、完全接合状態から、半接合状態、完全分断状態、及び半接合状態を経て完全接合状態に戻る過程において、「C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した」との判定に基づいて、先ず、車両が加速方向にあるか減速方向にあるかが判定される。この判定は、例えば、アクセル開度に基づいて実行される。
【0065】
そして、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した後において、MGトルクが、前記判定された方向に対応する向きの値に調整される。具体的には、MGトルクは、車両が加速方向にあると判定された場合には車両を加速する向きの値に、車両が減速方向にあると判定される場合には車両を減速する向きの値に調整される。
【0066】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した直後の早い段階にて、駆動系統におけるギヤの噛合部のバックラッシュ等に起因する「ガタ」をなくすことができる。
【0067】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第1動力源としてE/Gが使用され、第2動力源としてM/Gが使用されているが、第1、第2動力源として共にM/Gが使用されてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されているが、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの入力軸に動力伝達可能に接続されていてもよい。
【0069】
加えて、上記実施形態では、「変速機」として、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tが使用されているが、トルクコンバータを備えた自動変速機が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、S4…ブレーキ操作量センサ、S5…車輪速度センサ、S6…回転速度センサ、S7…回転速度センサ、ECU…電子制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として第1動力源(例えば、内燃機関)と第2動力源(例えば、電動機)とを備えた車両に適用され、摩擦クラッチを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、ハイブリッド車両であって、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。以下、内燃機関の出力軸のトルクを「内燃機関トルク」と呼び、電動機の出力軸のトルクを「電動機トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
HV−MT車では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、電動機の出力軸が変速機の入力軸又は変速機の出力軸に接続される構成について考察する。
【0005】
この場合、電動機トルクは、例えば、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)とクラッチペダルの操作量とに基づいて以下のように調整され得る。即ち、先ず、アクセル開度と「電動機トルクの基準値(電動機トルク基準値)」との間の第1関係(後述する図2を参照)、並びに、クラッチペダル操作量と「電動機トルクの上限値(電動機トルク制限値)」との間の第2関係(後述する図3を参照)が、実験等を通して事前に決定・記憶される。現在のアクセル開度と上記第1関係とに基づいて現在の電動機トルク基準値が決定される。現在のクラッチペダル操作量と上記第2関係とに基づいて現在の電動機トルク制限値が決定される。現在の電動機トルクが、前記決定された現在の電動機トルク基準値及び現在の電動機トルク制限値のうち小さい方の値に調整される。以下、この値を「電動機トルク最終基準値」と呼ぶ。
【0006】
このように電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整することにより、クラッチペダルの操作が関連する場合において、HV−MT車の電動機トルクを利用した運転フィーリングを、通常MT車の内燃機関トルクを利用した運転フィーリングに近づけることができる。通常MT車とは、手動変速機と摩擦クラッチとを備え且つ動力源として内燃機関のみを搭載した従前から広く知られた車両を指す。
【0007】
ところで、クラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者が、HV−MT車を運転して変速操作等のためにクラッチペダルを操作する場合を想定する。この場合、クラッチペダル操作が適切でないために、クラッチペダル操作量に基づいて決定される電動機トルク制限値(従って、電動機トルク最終基準値)の変化パターンが適切なパターンと異なるパターンに決定され得る。この結果、電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整し続けると、適切な駆動力が得られ難くなる(例えば、変速ショックが大きくなる)等の問題が発生し得る。
【0008】
他方、状況によっては、電動機トルクを電動機トルク最終基準値に調整し続けるよりも電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって、より一層運転者の意図に沿った駆動力が得られる場合も存在する。以上より、電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって駆動力を演出することが好ましい場合が存在する。
【0009】
本発明は、上述の問題に対処するためになされたものであり、その目的は、特にHV−MT車を対象とする動力伝達制御装置であって、クラッチ操作部材の操作が関連する場合において電動機トルクを電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整して駆動輪に伝達される駆動力を演出し得るものを提供することにある。
【0010】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として第1動力源と第2動力源とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、変速機と、摩擦クラッチと、制御手段とを備える。第1動力源及び第2動力源はそれぞれ、内燃機関及び電動機であっても、電動機及び内燃機関であっても、電動機及び電動機であってもよい。以下、第1動力源及び第2動力源がそれぞれ内燃機関及び電動機であるものとして説明を続ける。
【0011】
変速機は、トルクコンバータを備えた自動変速機であってもよいが、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機であることが好ましい。前記変速機は、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記変速機の入力軸又は出力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0012】
摩擦クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じて、前記完全分断状態、前記半接合状態、及び、前記完全接合状態の何れかの状態を実現する。運転者によるクラッチ操作部材の操作がなされていない場合には、前記摩擦クラッチは完全接合状態を実現する。前記クラッチ操作部材の操作量は、第2検出手段により検出される。
【0013】
制御手段は、前記内燃機関の出力軸のトルク(内燃機関トルク)、及び前記電動機の出力軸のトルク(電動機トルク)を制御する。特に、電動機トルクは、以下のように調整される。先ず、前記加速操作部材の操作量と電動機トルクの基準(電動機トルク基準値)との間の記憶された第1関係と、前記検出された加速操作部材の操作量と、に基づいて電動機トルク基準値が決定される。前記クラッチ操作部材の操作量と電動機トルクの上限(電動機トルク制限値)との間の記憶された第2関係と、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量と、に基づいて電動機トルク制限値が決定される。前記加速操作部材の操作量は、第1検出手段により検出される。
【0014】
電動機トルクは、通常(運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立しない場合)、前記決定された電動機トルク基準値及び電動機トルク制限値のうち小さい方の値(電動機トルク最終基準値)に調整される。一方、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立に基づいて、電動機トルクは、例外的に、電動機トルク最終基準値に代えて「電動機トルク最終基準値から変移した値」に調整される。
【0015】
上記構成によれば、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連して、電動機トルクが電動機トルク最終基準値と異なる値に敢えて調整されて、駆動力が演出され得る。この結果、より適切、又はより一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。なお、種々の状況下での電動機トルクによる駆動力の具体的な演出方法については後述する。
【0016】
ここにおいて、一般に、前記第2関係では、前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」(前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ操作部材の操作量)より前記完全分断状態側の範囲では前記第2トルク制限値がゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が「リリース開始点」(前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ操作部材の操作量)より前記完全接合状態側の範囲では前記第2トルク制限値が最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」と「リリース開始点」との間では前記クラッチ操作部材の操作量が「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれて前記第2トルク制限値がゼロから増大するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を搭載したHV−MT車の概略構成図である。
【図2】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、アクセル開度とMGトルク基準値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、クラッチ戻しストロークとMGトルク制限値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図5】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第1の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図6】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第2の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図7】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第3の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図8】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第4の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図9】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第5の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図10】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第6の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図11】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第7の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図12】変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第8の場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備えたハイブリッド車両であり、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと摩擦クラッチC/Tとを備える。即ち、この車両は、上述したHV−MT車である。
【0020】
エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0021】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。M/Tは、例えば、前進用の4つの変速段(1速〜4速)、及び後進用の1つの変速段(R)を備えている。
【0022】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0023】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0024】
接合状態としては、完全接合状態、半接合状態、及び、完全分断状態が存在する。完全接合状態とは、滑りを伴わずに動力を伝達する状態を指す。半接合状態とは、滑りを伴いながら動力を伝達する状態を指す。完全分断状態とは、動力を伝達しない状態を指す。以下、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態からのクラッチペダルCPの戻し方向の操作量を「クラッチ戻しストローク」と呼ぶ。
【0025】
クラッチ戻しストロークは、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態にて「0」となり、クラッチペダルCPが開放されている(操作されていない)状態にて最大となる。クラッチ戻しストロークが「0」から増大するにつれて、C/Tは、完全分断状態から半接合状態を経て完全接合状態へと移行する。
【0026】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0027】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、周知のギヤ列等を介してM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。
【0028】
また、図1に破線で示すように、C/TとM/Tとの間に、動力が伝達される「接合状態」と動力が伝達されない「分断状態」とを選択的に実現する動力断接機構CHGが介装されていてもよい。以下、E/Gの出力軸のトルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸のトルクを「MGトルク」と呼ぶ。CHGが「分断状態」とされるのは、クラッチペダルCPが操作されていない状態(即ち、C/Tの完全接合状態)において車両がMGトルク(>0)のみで走行する場合等である。この場合、CHGが「分断状態」とされることにより、M/Tの入力軸の回転がC/Tを介してE/Gの出力軸に伝達されることを防止することができる。
【0029】
本装置は、クラッチペダルCPのクラッチ戻しストロークを検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、車輪の速度を検出する車輪速度センサS5と、E/Gの出力軸の回転速度Neを検出する回転速度センサS6と、M/Tの入力軸の回転速度Niを検出する回転速度センサS7と、を備えている。
【0030】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータ(図示せず)を制御することによりMGトルクを制御する。また、動力断接機構CHGが備えられている場合、ECUはCHGの状態を制御する。
【0031】
具体的には、EGトルクとMGトルクとの配分は、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて調整される。EGトルク及びMGトルクの大きさはそれぞれ、主としてアクセル開度に基づいて調整される。特に、MGトルクは、本例では、以下のように調整される。
【0032】
即ち、先ず、図2に示すマップと、現在のアクセル開度とに基づいて、「MGトルク基準値」が決定される。MGトルク基準値は、アクセル開度が大きいほど、より大きい値に決定される。MGトルク基準値のアクセル開度に対する特性は、アクセル開度以外の種々の状態(例えば、EGトルクとMGトルクとの配分)に応じて変化し得る。
【0033】
また、図3に示すマップと、現在のクラッチ戻しストロークとに基づいて、「MGトルク制限値」が決定される。MGトルク制限値は、ミート開始点とリリース開始点とを利用して規定される。ミート開始点とは、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークであり、リリース開始点とは、C/Tが完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークである。
【0034】
この例では、クラッチ戻しストロークが「0」から「ミート開始点」の範囲(即ち、C/Tの完全分断状態に対応する範囲。図3の「範囲a」を参照)ではMGトルク制限値が「0」に維持され、クラッチ戻しストロークが「リリース開始点」より大きい範囲(即ち、C/Tの完全接合状態に対応する範囲。図3の「範囲c」を参照)ではMGトルク制限値が「最大値」に維持され、クラッチ戻しストロークが「ミート開始点」と「リリース開始点」との間(即ち、C/Tの半接合状態に対応する範囲。図3の「範囲b」を参照)ではクラッチ戻しストロークが「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれてMGトルク制限値が「0」から増大する。ここで、MGトルク制限値の上記「最大値」とは、例えば、現在の上記「MGトルク基準値」と等しい値に設定され得る。なお、図2及び図3に示すマップは、ECU内のメモリの所定領域に更新可能に記憶されている。
【0035】
そして、MGトルクは、通常、前記決定された「MGトルク基準値」と「MGトルク制限値」とのうちで小さい方の値(以下、「MGトルク最終基準値」と呼ぶ)に調整される。即ち、MGトルクは、通常、クラッチ戻しストロークに基づいて決定される「MGトルク制限値」を超えない範囲内において、アクセル開度に基づいて決定される「MGトルク基準値」に基づく値(=MGトルク最終基準値)に調整される。このようにMGトルクをMGトルク最終基準値に一致するように調整することにより、HV−MT車のMGトルクを利用した運転フィーリングを、前記「通常MT車」のEGトルクを利用した運転フィーリングに近づけることができる。
【0036】
(MGトルクによる駆動トルクの演出)
ところで、上述のようにMGトルクをMGトルク最終基準値に一致するように調整することによって適切な駆動力(例えば、変速ショックが小さい駆動力)が得られるのは、クラッチペダル操作が適切である場合に限られる。換言すれば、例えば、クラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者が、変速操作等のために適切でないクラッチペダル操作を行った場合、クラッチ戻しストロークに基づいて決定されるMGトルク制限値(従って、MGトルク最終基準値)の変化パターンが適切なパターンと異なるパターンに決定され得る。この結果、MGトルクをMGトルク最終基準値に調整し続けると、適切な駆動力が得られ難くなる(例えば、変速ショックが大きくなる)等の問題が発生し得る。
【0037】
加えて、状況によっては、MGトルクをMGトルク最終基準値に調整し続けるよりもMGトルクをMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって、より一層運転者の意図に沿った駆動力が得られる場合も存在する。以上より、MGトルクをMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整することによって駆動力を演出することが好ましい場合が存在する。
【0038】
以下、このことについて、図4〜図12を参照しながら説明する。図4は、変速作動中においてMGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合(即ち、MGトルクによる駆動力の演出がない場合)における作動の一例を示す。図5〜図12は、図4に示した例と同様の状況下において駆動力を演出するため、MGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される場合の一例をそれぞれ示す。先ず、図4について説明する。
【0039】
図4に示す例では、時刻t1以前にて、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、或いは、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)、2速で走行している場合が想定される。時刻t1以降、2速から3速へのシフトアップ作動(変速作動)のため、アクセルペダルAP、クラッチペダルCP、及びシフトレバーSLが連携しながら操作される。
【0040】
この例では、クラッチペダルCPの操作に着目すると、時刻t1〜t6に亘ってクラッチペダルCPが操作されている。具体的には、時刻t1にてクラッチペダルCPの操作が開始され、時刻t2にてクラッチ戻しストロークが範囲cから範囲bに移行し(C/Tが完全接合状態から半接合状態に移行し)、時刻t3にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲aに移行し(C/Tが半接合状態から完全分断状態に移行し)、時刻t4にてクラッチ戻しストロークが範囲aから範囲bに移行し(C/Tが完全分断状態から半接合状態に移行し)、時刻t5にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲cに移行し(C/Tが半接合状態から完全接合状態に移行し)、時刻t6にてクラッチペダルCPの操作が終了している。
【0041】
この例では、MGトルク(=MGトルク最終基準値)の変化に着目すると、時刻t2以前では、クラッチ戻しストロークが範囲cにあることに起因してMGトルクがアクセル開度に基づくMGトルク基準値(図2を参照)と等しい値に調整され、時刻t2〜t5では、クラッチ戻しストロークが範囲b又は範囲aにあることに起因してMGトルクがクラッチ戻しストロークに基づくMGトルク制限値(図3を参照)と等しい値に調整され、時刻t5以降では、クラッチ戻しストロークが範囲cにあることに起因してMGトルクがアクセル開度に基づくMGトルク基準値(図2を参照)と等しい値に調整されている。
【0042】
以下、図5〜図12を参照しながら、上述した図4に示した状況下において駆動力を演出するためにMGトルクがMGトルク最終基準値と異なる値に敢えて調整される第1〜第8の場合について順に説明していく。なお、図5〜図12において、破線は、比較として、MGトルクがMGトルク最終基準値に調整され続ける場合の変化を示す。
【0043】
<第1の場合>
図5に示す例では、主として、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが、完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミング(時刻t2)、半接合状態から完全分断状態へと移行するタイミング(時刻t3)、完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミング(時刻t4)、及び、半接合状態から完全接合状態へと移行するタイミング(時刻t5)のそれぞれについて、対応するタイミングを含む微小期間だけMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整される。なお、各タイミングは、クラッチ戻しストロークの検出結果に基づいて取得・予測・推定され得る。
【0044】
この例では、車両の減速動作に関連する時刻t2及びt3のそれぞれについて、対応する時刻を含む微小期間にてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整され、車両の加速動作に関連する時刻t4及びt5のそれぞれについて、対応する時刻を含む微小期間にてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整される。
【0045】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tの接合状態が変化するタイミングに合わせて微小のショックを運転者に感知させることができる。この結果、特にクラッチペダルの操作に未熟な(不慣れな)運転者に対して、摩擦クラッチC/Tの接合状態が変化するタイミングに対応するクラッチ戻しストローク(摩擦クラッチC/Tの位置)を体得させることができる。よって、係る運転者のクラッチペダル操作の上達を早めることができる。
【0046】
図5に示す例では、時刻t2〜t5の全てのタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整されているが、時刻t2〜t5のうちの一部のタイミングのみに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値から変移した値に調整されてもよい。また、図5に示す例では、時刻t2及びt3のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整されているが、時刻t2及びt3のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整されてもよい。同様に、時刻t4及びt5のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より大きい値に調整されているが、時刻t4及びt5のタイミングに合わせてMGトルクがMGトルク最終基準値より小さい値に調整されてもよい。
【0047】
<第2の場合>
図6に示す例では、車両がEGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するとき(時刻t5の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態に移行した後(時刻t5以降)において、MGトルクが、MGトルク最終基準値に「カウンタ振動パターン」を重畳して得られる値に調整される。
【0048】
ここにおいて、「カウンタ振動パターン」とは、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態に移行した後に発生するであろう駆動トルク(車両の駆動輪に伝達されるトルク)の振動を打ち消す振動パターンである。摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その直後から駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)に振動が発生し易い(図6の破線を参照)。この振動は、主として、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態に移行する直前における「E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間の回転速度差」に起因する。
【0049】
この駆動系統の振動パターン(振幅及び周期の時間に対する移り変わり)は、前記クラッチ戻しストロークの変化速度に大きく依存する。従って、この振動パターンを打ち消すための前記「カウンタ振動パターン」(振幅及び周期の時間に対する移り変わり)も、前記クラッチ戻しストロークの変化速度に基づいて演算され得る。具体的には、例えば、、「カウンタ振動パターン」は、クラッチ戻しストロークと「カウンタ振動パターン」との関係を規定する事前に作製されたマップと、実際に取得されたクラッチ戻しストロークとに基づいて演算され得る。
【0050】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが半接合状態から完全接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その直後から発生し得る駆動系統(従って、駆動輪に伝達されるトルク)の振動を抑制することができる(図6の実線を参照)。
【0051】
<第3の場合>
図7に示す例では、車両がEGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するとき(時刻t4の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より小さくなるようにMGトルクが調整される。
【0052】
摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、上述した第2の場合と同様の理由により、その後の完全接合状態への移行の後から駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)に振動が発生し易い(図7の破線を参照)。
【0053】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その後のMGトルクの増加勾配を小さくすることができる。このことは、その後の完全接合状態への移行の後において発生し得る駆動系統(従って、駆動輪に伝達されるトルク)の振動の抑制に寄与し得る(図7の実線を参照)。
【0054】
<第4の場合>
図8に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)走行している場合が想定される。この例では、「摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するとき(時刻t4の直前)のクラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が所定値以上である」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より大きくなるようにMGトルクが調整される。
【0055】
摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、運転者が「車両が直ちに大きく加速すること」を望んでいることが多いと考えられる。
【0056】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するときのクラッチ戻しストロークの変化速度が大きい場合、その後のMGトルクの増加勾配を大きくすることができる。従って、車両を直ちに大きく加速させることができる。この結果、より一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。なお、この例のように車両がMGトルクのみを利用して走行している場合、通常、動力断接機構CHGが分断状態に維持される。従って、クラッチ戻しストロークの変化速度(変化勾配)が大きくしても、上述した駆動系統(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)の振動は発生しない。
【0057】
<第5の場合>
図9に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。また、この例では、走行モードとして、ノーマルモード(第1モード)と、ノーマルモードより車両がより加速されるスポーツモード(第2モード)とを備え、且つ、走行モードを切り替える手段(切替スイッチ等)を備えた車両が想定される。
【0058】
この例では、「走行モードとしてスポーツモードが選択されている」との判定に基づいて、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態に移行した後(時刻t4以降)において、MGトルクの増加勾配がMGトルク最終基準値の増加勾配より大きくなるようにMGトルクが調整される。
【0059】
走行モードとしてスポーツモードが選択されている場合、運転者が「車両が直ちに大きく加速すること」を望んでいることが多いと考えられる。この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、スポーツモードが選択されている場合、摩擦クラッチC/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した後のMGトルクの増加勾配を大きくすることができる。従って、車両を直ちに大きく加速させることができる。この結果、より一層運転者の意図に沿った駆動力を得ることができる。
【0060】
<第6の場合>
図10に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する際、MGトルク最終基準値の減少勾配が所定値を超える場合、MGトルクの減少勾配が前記所定値になる(制限される)ようにMGトルクが調整される。
【0061】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、MGトルク最終基準値の減少勾配が大きい場合、MGトルクの減少勾配が制限される。この結果、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する過程において発生し得るショックを軽減することができる。
【0062】
<第7の場合>
図11に示す例では、車両がMGトルクのみを利用して(MGトルク>0、EGトルク=0)、又は、EGトルク及びMGトルクを共に利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する際、MGトルクが「MGトルク最終基準値に遅延処理を施した値」に調整される。ここにおいて、「遅延処理」とは、例えば、むだ時間を付与する処理、一次遅れ処理等を指す。
【0063】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、MGトルク最終基準値の変化速度が大きい場合、及び、同変化速度の変化が大きい場合等において、MGトルクが比較的緩やかに減少していく。この結果、摩擦クラッチC/Tが完全接合状態から、半接合状態、及び完全分断状態へと移行する過程において緩やかなフィーリングを運転者に与えることができる。
【0064】
<第8の場合>
図12に示す例では、車両がEGトルクのみを利用して(MGトルク=0、EGトルク>0)走行している場合が想定される。この例では、摩擦クラッチC/Tが、完全接合状態から、半接合状態、完全分断状態、及び半接合状態を経て完全接合状態に戻る過程において、「C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した」との判定に基づいて、先ず、車両が加速方向にあるか減速方向にあるかが判定される。この判定は、例えば、アクセル開度に基づいて実行される。
【0065】
そして、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した後において、MGトルクが、前記判定された方向に対応する向きの値に調整される。具体的には、MGトルクは、車両が加速方向にあると判定された場合には車両を加速する向きの値に、車両が減速方向にあると判定される場合には車両を減速する向きの値に調整される。
【0066】
この例のようにMGトルクをMGトルク最終基準値から変移した値に敢えて調整することにより、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行した直後の早い段階にて、駆動系統におけるギヤの噛合部のバックラッシュ等に起因する「ガタ」をなくすことができる。
【0067】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第1動力源としてE/Gが使用され、第2動力源としてM/Gが使用されているが、第1、第2動力源として共にM/Gが使用されてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されているが、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの入力軸に動力伝達可能に接続されていてもよい。
【0069】
加えて、上記実施形態では、「変速機」として、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tが使用されているが、トルクコンバータを備えた自動変速機が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、S4…ブレーキ操作量センサ、S5…車輪速度センサ、S6…回転速度センサ、S7…回転速度センサ、ECU…電子制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力源と第2動力源とを備えた車両に適用され、
前記第1動力源の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸又は前記出力軸に前記第2動力源の出力軸が接続された変速機と、
前記第1動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作がなされていないときに滑りを伴わずに動力が伝達される完全接合状態を実現し、前記クラッチ操作部材の操作量に応じて滑りを伴いながら動力が伝達される半接合状態、又は動力が伝達されない状態である完全分断状態を実現する摩擦クラッチと、
運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記クラッチ操作部材の操作量を検出する第2検出手段と、
前記第1動力源の出力軸の駆動トルクである第1トルク、及び前記第2動力源の出力軸の駆動トルクである第2トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、
前記加速操作部材の操作量と前記第2トルクの基準である第2トルク基準値との間の記憶された第1関係と、前記検出された加速操作部材の操作量と、に基づいて第2トルク基準値を決定する第1決定手段と、
前記クラッチ操作部材の操作量と前記第2トルクの上限を規定する第2トルク制限値との間の記憶された第2関係と、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量と、に基づいて第2トルク制限値を決定する第2決定手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記第2トルクを、前記決定された第2トルク基準値及び第2トルク制限値のうち小さい方の値である第2トルク最終基準値に調整し、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立に基づいて、前記第2トルクを、前記第2トルク最終基準値に代えて前記第2トルク最終基準値から変移した値に調整するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記検出されたクラッチ操作部材の操作量に基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミング、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全分断状態へと移行するタイミング、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミング、及び、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態へと移行するタイミングの少なくとも1つを検出し、前記検出されたタイミングに合わせて前記第2トルクを前記第2トルク最終基準値から変移した値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態に移行した後に発生するであろう前記車両の駆動輪に伝達されるトルクの振動を打ち消す振動パターンを前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度に基づいて演算し、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態に移行した後において、前記第2トルクを、前記第2トルク最終基準値に前記振動パターンを重畳して得られる値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より小さくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より大きくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、走行モードとして、第1モードと、前記第1モードより前記車両がより加速される第2モードとを備え、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記走行モードとして前記第2モードが選択されていることに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より大きくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、及び前記完全分断状態へと移行する際、
前記第2トルク最終基準値の減少勾配が所定値を超える場合、前記第2トルクの減少勾配が前記所定値になるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、及び前記完全分断状態へと移行する際、
前記第2トルクが前記第2トルク最終基準値に遅延処理を施した値になるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行したと判定されたことに基づいて、前記加速操作部材の操作量に少なくとも基づいて前記車両が加速方向にあるか減速方向にあるかを判定し、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行した後において、前記第2トルクを前記判定された方向に対応する向きに調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記第2関係において、
前記クラッチ操作部材の操作量が前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するミート開始点より前記完全分断状態側の範囲では前記第2トルク制限値がゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するリリース開始点より前記完全接合状態側の範囲では前記第2トルク制限値が最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点と前記リリース開始点との間では前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点から前記リリース開始点に向けて移動するにつれて前記第2トルク制限値がゼロから増大するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記第1動力源は内燃機関であり、前記第2動力源は電動機である、車両の動力伝達制御装置。
【請求項1】
第1動力源と第2動力源とを備えた車両に適用され、
前記第1動力源の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸又は前記出力軸に前記第2動力源の出力軸が接続された変速機と、
前記第1動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作がなされていないときに滑りを伴わずに動力が伝達される完全接合状態を実現し、前記クラッチ操作部材の操作量に応じて滑りを伴いながら動力が伝達される半接合状態、又は動力が伝達されない状態である完全分断状態を実現する摩擦クラッチと、
運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記クラッチ操作部材の操作量を検出する第2検出手段と、
前記第1動力源の出力軸の駆動トルクである第1トルク、及び前記第2動力源の出力軸の駆動トルクである第2トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、
前記加速操作部材の操作量と前記第2トルクの基準である第2トルク基準値との間の記憶された第1関係と、前記検出された加速操作部材の操作量と、に基づいて第2トルク基準値を決定する第1決定手段と、
前記クラッチ操作部材の操作量と前記第2トルクの上限を規定する第2トルク制限値との間の記憶された第2関係と、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量と、に基づいて第2トルク制限値を決定する第2決定手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記第2トルクを、前記決定された第2トルク基準値及び第2トルク制限値のうち小さい方の値である第2トルク最終基準値に調整し、運転者による前記クラッチ操作部材の操作に関連する所定条件の成立に基づいて、前記第2トルクを、前記第2トルク最終基準値に代えて前記第2トルク最終基準値から変移した値に調整するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記検出されたクラッチ操作部材の操作量に基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミング、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全分断状態へと移行するタイミング、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミング、及び、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態へと移行するタイミングの少なくとも1つを検出し、前記検出されたタイミングに合わせて前記第2トルクを前記第2トルク最終基準値から変移した値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態に移行した後に発生するであろう前記車両の駆動輪に伝達されるトルクの振動を打ち消す振動パターンを前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度に基づいて演算し、前記摩擦クラッチが前記半接合状態から前記完全接合状態に移行した後において、前記第2トルクを、前記第2トルク最終基準値に前記振動パターンを重畳して得られる値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より小さくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するときの前記クラッチ操作部材の操作量の変化速度が所定値以上と判定されたことに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より大きくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、走行モードとして、第1モードと、前記第1モードより前記車両がより加速される第2モードとを備え、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記走行モードとして前記第2モードが選択されていることに基づいて、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態に移行した後において、前記第2トルクの増加勾配が前記第2トルク最終基準値の増加勾配より大きくなるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、及び前記完全分断状態へと移行する際、
前記第2トルク最終基準値の減少勾配が所定値を超える場合、前記第2トルクの減少勾配が前記所定値になるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、及び前記完全分断状態へと移行する際、
前記第2トルクが前記第2トルク最終基準値に遅延処理を施した値になるように前記第2トルクを調整するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記変速機の変速のために前記クラッチ操作部材の操作によって、前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から、前記半接合状態、前記完全分断状態、及び前記半接合状態を経て前記完全接合状態に戻る際、
前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行したと判定されたことに基づいて、前記加速操作部材の操作量に少なくとも基づいて前記車両が加速方向にあるか減速方向にあるかを判定し、前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行した後において、前記第2トルクを前記判定された方向に対応する向きに調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記第2関係において、
前記クラッチ操作部材の操作量が前記摩擦クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するミート開始点より前記完全分断状態側の範囲では前記第2トルク制限値がゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記摩擦クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するリリース開始点より前記完全接合状態側の範囲では前記第2トルク制限値が最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点と前記リリース開始点との間では前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点から前記リリース開始点に向けて移動するにつれて前記第2トルク制限値がゼロから増大するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記第1動力源は内燃機関であり、前記第2動力源は電動機である、車両の動力伝達制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−136208(P2012−136208A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291784(P2010−291784)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
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