説明

車両の発進制御装置

【課題】車両重量が検出されない場合であっても、的確な発進制御が実現できる車両の発進制御装置を提供する。
【解決手段】車両加速度と道路勾配より、車両重量を検出し、検出車重より発進時のギア段とエンジンへの燃料供給量を決定。当該手段から車両重量が検出されない場合は、車両発進時における燃料供給量を、車両重量が最も少ない場合の燃料供給量に設定するとともに、道路勾配検出手段が検出した道路勾配が閾値を越える場合は発進時のギア段を最低段数に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動変速装置を備えた車両の発進制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速装置は、車両の走行速度やアクセル開度等の値に基づき、最適なギア段を自動的に変更、設定する。また乾式のクラッチ板を用いた機械式クラッチは伝達効率が高く、燃料消費率を向上させることが知られている。そこで、変速機に機械式自動クラッチを組み合わせた駆動装置が、貨物用車両に多く用いられてきている。
【0003】
このような駆動装置を搭載した車両では、機械式自動クラッチの接続動作とエンジンへの燃料供給量とを対応させ、ギア段が変更する際に、不要にエンジン回転数が上昇するエンジンの空ぶかしや、減速ショック等が発生しないようにしている。例えば、エンジンの回転数とクラッチの出力軸の回転差に基づき、エンジンへの燃料噴射量を決定し、機械式自動クラッチを接続させる発明が従来知られている。
【特許文献1】特開2004−270624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の、エンジンとクラッチの回転差を求めエンジンへの燃料噴射量を設定する出力制御では、車両重量に応じた制御が行なわれない。そのため、荷物を積んだ状態と荷物を積んでいない状態で、車両重量に大きな差が生じる貨物用車両では、ギア変更時に不具合の生じることが考えられる。
【0005】
すなわち、ギア変更時の出力制御を、空荷走行において好ましい設定にすると、荷物を積んだ状態では燃料噴射量が不足気味になり、運転手が加速度の不足を感じるようになり、一方積荷走行において好ましい設定にすると、空荷走行時には燃料過多となり、エンジンの空ふかしなどが発生しがちになる。そこで、車両重量を検出する車両重量検出手段を具え、車両重量検出手段が検出した車両重量の値に基いて車両用駆動装置を制御することが考えられた。
【0006】
ところが車両重量検出手段は、車両を走行させながら車両重量を算出するので、車両重量を検出するまで時間を要していた。したがって車両が走行を開始した直後等では、車両重量が検出されず、的確な制御がなされないことがある。
【0007】
そこで、車両重量が検出されるまでの間、例えば空荷用に設定された制御を適用させると、実際には車両に荷物が積まれ、しかも坂道で発進しようとしたときは、発進不能となる恐れがある。またその間、積荷用に設定された制御を適用させると、実際には車両に荷物が積まれていない場合には発進時のエンジン出力が大きくなりすぎ、エンジンの回転数が不要に上昇してしまうなど、運転に不都合な点を生じさせる恐れがある。
【0008】
本発明は上記課題を解決し、車両重量を考慮した制御を行う車両の発進制御装置において、車両重量が検出されていない場合であっても、的確な発進制御が実現できる車両の発進制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため車両の発進制御装置を次のように構成した。
すなわち本発明の車両の発進制御装置では、車両重量検出手段から車両重量が検出されない場合は、車両発進時における燃料供給量を、車両重量が最も少ない場合の燃料供給量に設定するとともに、道路勾配検出手段が検出した道路勾配が閾値を越える場合は発進時のギア段を最低段数に設定することとした。
【0010】
以下、このことを詳しく説明する。
【0011】
発進制御装置は、エンジンと変速機との間に機械式自動クラッチを組み付けた車両用エンジンの発進制御装置であり、エンジンに燃料を供給する燃料供給手段と、車両の重量を検出する車両重量検出手段と、道路勾配を検出する道路勾配検出手段とを具え、通常車両重量検出手段から検出された車両重量に応じて、車両発進時におけるギア段の選択と、燃料供給手段によるエンジンへの燃料の供給量とを決定する。
【0012】
エンジンは、車両用エンジンで、燃料噴射(供給)手段を具えている。エンジンは、、燃料噴射手段から噴射された燃料で出力が調整される。燃料噴射手段は、車両発進時、発進制御装置からの指示に従ってエンジンに所定量の燃料を噴射する。エンジンには、機械式自動クラッチを介して変速機が組み付けられている。尚、機械式自動クラッチでなく、流体式のトルクコンバータを用いた変速機でもよい。
【0013】
発進制御装置で制御される車両は、貨物用車両であるが、乗用車両でもよい。またエンジンは、ディーゼルエンジンが好ましいが、ガソリンエンジンでもよい。
【0014】
変速機は、ギア切替ユニットを具え、変速制御装置からの指示によりギア切替ユニットが作動しギア段が自動的に切り替えられる。変速制御装置は、車両の車速センサ、アクセル開度センサ、設定されているギア段を検出するギア段検出手段などと接続しており、これらからの値に基づき最適なギア段を選択し、ギア切替ユニットにギア段切り替えの指示を行う。
【0015】
機械式自動クラッチは、乾式のクラッチ板と、油圧、あるいは空圧を利用したアクチュエータと、押圧ばね等から構成されている。クラッチ板は、押圧ばねのばね力によりエンジンの出力軸側、例えばフライホイールに圧着され、これによりエンジンの回転が変速機に伝達される。いわゆる、クラッチが接続した状態である。そしてアクチュエータが操作されてクラッチ板がフライホイールから引き離されると、エンジンと変速機の間の接続が遮断される。いわゆる、クラッチが切れた状態である。
【0016】
エンジンの発進制御装置は、車両重量検出手段を含む各種検出手段(センサ)に接続しており、変速制御装置と連係してエンジン及び変速機を作動させ、車両重量に応じた発進制御を行う。車両重量検出手段が検出する車両重量は、車両が積んでいる荷物の重さを含む車両全体の値である。
【0017】
車両重量に基づいた発進制御は、例えば、車両重量が小さく荷物を積んでいないと判断されるときは、発進時のギア段を通常通りの2速とし、発進時の燃料供給量の増加率(単位時間当たりの燃料噴射量)を小さい値とする。一方車両重量が大きく荷物を積んでいると判断されるときは、発進時のギア段を1速とし、かつ発進時の燃料供給量の増加率を大きな値とする制御である。
【0018】
更に発進制御装置は、車両重量検出手段により車両重量が検出されたか否かを判別する車両重量判別手段と、道路勾配検出手段が検出した道路勾配が閾値を越えているか否かを判別する勾配判別手段を具え、車両重量が検出されない場合は、上述と異なる制御を行う。ここで、車両重量検出手段で車両の重量が検出されない場合とは、例えば走行開始直後とか、十分な回数の加速発進が行われていないとき、あるいは機器に不具合が生じている場合などが考えられる。
【0019】
すなわち、車両重量が検出されない場合は、車両発進時における燃料供給量を、車両重量が最も少ない場合の燃料供給量、つまり空荷用に設定された燃料供給量に設定するとともに、道路勾配検出手段が検出した道路勾配が閾値を越える場合は発進時のギア段を最低段数、つまり1速に設定する。
【0020】
ここで車両重量検出手段から車両重量が検出されない期間において、車両発進時における燃料供給量を、車両重量が最も少ない場合の燃料供給量に設定するとは、車両に荷物が積まれているか否かにかかわらず、常に空荷用に設定された燃料供給量で発進させることである。
【0021】
道路勾配が閾値を越える場合は発進時のギア段を最低段数に設定する場合の、閾値とは、車両が、最大積載量の荷物を積み、燃料供給量を空荷用に設定し、ギア段を2速に設定して登坂できなくなる最大の勾配を最大値とし、それ以下の任意の勾配である。これにより、道路勾配が閾値を越えていれば、車両が空荷状態であっても積荷状態であっても、車両は必ず1速発進となる。
【0022】
また車両重量検出手段は、道路勾配検出手段が検出した道路勾配の値と、加速度検出手段が検出したその勾配における車両加速度の値に基づき、車両重量を算出する。
【0023】
具体的には、車両に設けられた傾斜検出手段により車両の傾斜を求め、かかる傾斜を道路の勾配とみなす。そして、かかる勾配を有する道路において、車両を加速させたとき、そのときの燃料供給量、すなわち燃料消費量と、加速度検出手段が検出した車両の加速度から、車両重量を算出する。算出は、車両走行中継続して行い、平均値を求めて、算出値を収束させていく。尚、加速度検出手段が検出する加速度に代えて、時間あたりの速度変化量を用いてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる車両の発進制御装置は、次の効果を有している。
発進制御装置を具えた車両では、車両重量に応じた発進制御がなされるので、積荷にかかわらず、最適な発進が行われる。
【0025】
また発進制御装置を具えた車両では、車両重量検出手段による車両重量の検出がなされない場合において、空荷用に設定された燃料供給量となるので、実際に空車であれば、エンジンの空ふかしが発生することもなく何ら問題なく発進できる。
【0026】
更に、道路に勾配があり、その勾配の値が閾値を超える場合であれば、最低のギア段、例えば1速に設定されるので、積荷状態であっても空荷用に設定された燃料供給量で確実に発進できる。一方、道路勾配が閾値より小さければ、積荷状態であっても2速のギア段で何ら支障なく発進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明にかかる発進制御装置の一実施形態について、図を用いて説明する。
図1に、発進制御装置3を具えた車両駆動装置4を示す。車両駆動装置4は、エンジン6と、変速機8と、機械式自動クラッチ10と、発進制御装置3と、変速制御装置5などから構成されている。図5に車両駆動装置4を搭載した車両100を示す。車両100は貨物用車両で、車両後方に荷台102を備えている。
【0028】
エンジン6は、ディーゼルエンジンで、図1に示すように燃料供給手段としての燃料噴射装置12が設けられている。エンジン6の後方には、機械式自動クラッチ10を介して変速機8が組み付けてある。
【0029】
機械式自動クラッチ10は、乾式のクラッチ板16と、クラッチ板16を押圧する押圧ばね18と、クラッチ板16の中央に設けられたアクチュエータ20などから構成されている。クラッチ板16は、通常押圧ばね18によりエンジン6の出力軸であるフライホイール(図示せず。)に圧着されており、これによりエンジン6の回転が機械式自動クラッチ10を介して変速機8に伝達される。
【0030】
アクチュエータ20には油圧装置22が連結しており、駆動ユニット24により油圧装置22が駆動されると、油圧によりアクチュエータ20が作動し、クラッチ板16が押圧ばね18に抗してフライホイールから引き離される。クラッチ板16がフライホイールから引き離されると、エンジン6の出力軸と変速機8の入力軸の接続が遮断される。また機械式自動クラッチ10は、クラッチが接続した状態と切れた状態の中間にあたる、半クラッチの状態がある。
【0031】
変速機8は、内部に複数の変速ギア(図示せず。)を具え、上部に、変速ギアの噛み合わせを変更するギア切替ユニット14を有している。ギア切替ユニット14は、駆動ユニット24に接続しており、駆動ユニット24の駆動で変速ギアの噛み合わせの切り替え(セレクト、シフト操作)を行い、変速機8のギア段を切り替える。
【0032】
エンジン出力制御装置3及び変速制御装置5は、車両駆動装置4や車両100に取り付けられた各種検出手段(センサ)と接続してあり、それら検出手段からの信号に基づき、それぞれが連係して車両100を走行させる制御全般を行う。
【0033】
具体的には、発進制御装置3と変速機制御装置5は、図1及び図2に示すように車両重量検出手段7と、車速検出手段26と、エンジン回転数検出手段27と、クラッチ板16の回転数としてのクラッチ回転数を検出するクラッチ回転数検出手段28と、ギア段検出手段29と、アクセルペダル検出手段52と、シフトレバー検出手段54と、ブレーキの状態を検出する検出手段(図示せず。)等に接続しており、車両重量検出手段7が検出した車両重量と、各信号に基いて最適な燃料噴射量とギア段を決定し、車両100を発進させる。
【0034】
車両重量検出手段7は、図2に示すように傾斜検出装置30(道路勾配検出手段)と加速度検出装置32(加速度検出手段)を具え、積荷を含めた車両重量全体の値を検出する。
【0035】
傾斜検出装置30は、車両100の前後方向の傾きを検出する検出装置である。傾斜検出装置30が検出した車両100の傾きは、図5に示すように車両100が走行している道路の勾配に等しい値であるとみなされる。加速度検出装置32は、車両100が発進するときや走行中アクセルを踏み込んで加速したとき、車両100に生じる加速度を検出する。(共に図5参照。)
車両重量検出手段7は、傾斜検出装置30で検出された勾配と、かかる勾配を有する道路で車両100を加速させたときの燃料消費量と、そのとき加速度検出装置32で検出された加速度を用いて、車両100の重量を算出する。車両重量は、算出を走行中に何度も行い、その平均をとるなどして決定する。
【0036】
車両重量を考慮した発進制御装置3による通常の発進制御は、車両重量が小さい場合、2速ギア(通常の設定である。)を選択し、発進時の燃料供給量が少なくなる。一方車両重量が大きい場合は、車両重量の増加に伴い、供給する燃料を多くする他、ギア段を1速に設定する。
【0037】
更に発進制御装置3は、図3に示すように、車両重量判別手段9及び勾配判別手段11を具え、上述した通常の発進制御に加え、車両重量検出手段7による車両重量の検出がなされない場合に対応した発進制御を行う。
【0038】
車両重量判別手段9は、車両重量検出手段7が車両重量を検出したか否かを判別する。勾配判別手段11は、傾斜検出装置30が検出した車両100の傾斜を用いて、道路の勾配が閾値αを超えているか否かを判別する。閾値αは、最大積載量を積んだ車両100が2速で、空荷用に設定された燃料供給量で登坂可能な最大勾配の値を最大値として設定された任意の値である。
【0039】
次に、発進制御装置3が有する、車両重量の検出がなされない場合の発進制御について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
まず、傾斜検出装置30が、車両100の傾斜を検出し、道路勾配を検出する(F−1)。次に、車両重量判別手段9が、車両重量検出手段7で車両重量が検出されたか否かを判別する(F−2)。
【0041】
F−2で、車両重量が検出されていると判断されたら、通常通り、発進制御装置3は、
車両重量に応じた発進ギア段を選択し(F−3)、車両重量に応じた発進時の燃料供給量を決定する(F−4)。
【0042】
一方F−2で車両重量判別手段9が、車両重量検出手段7で車両重量の検出がなされていないと判断すると、発進時の燃料供給量が、空荷を基準とした燃料供給量に設定される(F−5)。そして、勾配判別手段11で、車両100が走行している道路の勾配が閾値α以下であるか判別され(F−6)、勾配が閾値α以下と判断されると、そのまま発進制御がなされる。一方F−6で勾配判別手段11が、勾配が閾値αを越えていると判断した場合は、発進時のギア段が1速に設定される。
【0043】
以上述べたように発進制御装置3を具えた車両100によれば、車両重量に応じた発進が可能となる。そして仮に車両重量の検出がなされない場合であっても、空荷用に設定された燃料供給量に設定され、かつ勾配が閾値αを超えれば、ギア段が1速に設定される。したがって、車両100は、空荷の状態では、エンジンの空ふかしを生じさせることがなく発進でき、騒音の発生が少なく、また積荷の状態であっても、勾配が小さければ2速で発進し、勾配が大きい場合は1速で発進となるので、発進不能になることもなく、確実に発進でき、運転者の疲労が少ない、安全な運転を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明にかかる発進制御装置を用いた車両駆動装置の一実施形態を示す図。
【図2】発進制御装置の構成を示すブロック図。
【図3】発進制御装置を示すブロック図。
【図4】発進制御を示すフローチャート。
【図5】車両を示す図。
【符号の説明】
【0045】
3…発進制御装置
4…車両駆動装置
6…エンジン
7…車両重量検出手段
8…変速機
9…車両重量判別手段
10…機械式自動クラッチ
11…勾配判別手段
12…燃料噴射装置
14…ギア切替ユニット
16…クラッチ板
18…押圧ばね
20…アクチュエータ
22…油圧装置
24…駆動ユニット
26…車速検出手段
27…エンジン回転数検出手段
28…クラッチ回転数検出手段
29…ギア段検出手段
30…傾斜検出装置(道路勾配検出手段)
32…加速度検出装置(加速度検出手段)
52…アクセルペダル検出手段
54…シフトレバー検出手段
100…車両
102…荷台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機との間に機械式自動クラッチを組み付けた車両の発進制御装置であり、
前記エンジンに燃料を供給する燃料供給手段と、
前記車両の重量を検出する車両重量検出手段と、
道路勾配を検出する道路勾配検出手段とを具え、
前記車両重量検出手段から検出された車両重量に応じて、車両発進時におけるギア段の選択と、前記燃料供給手段による前記エンジンへの燃料の供給量とを決定し、
かつ前記車両重量検出手段から車両重量が検出されない場合は、車両発進時における燃料供給量を、車両重量が最も少ない場合の燃料供給量に設定するとともに、前記道路勾配検出手段が検出した道路勾配が閾値を越える場合は発進時のギア段を最低段数に設定することを特徴とした車両の発進制御装置。
【請求項2】
車両重量検出手段は、車両の加速度を検出する加速度検出手段を具え、
道路勾配検出手段が検出した道路勾配と、該勾配を有する道路において車両が加速した時の、前記加速度検出手段が検出した該車両の加速度とから車両重量を算出することとした請求項1に記載の車両の発進制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−100586(P2008−100586A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284092(P2006−284092)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】