説明

車両用無段変速機の制御装置

【課題】車両加速時に摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際に、加速性能を向上する。
【解決手段】クラッチ圧制御モード実行中に先に前進用クラッチC1が係合完了した場合には、ベルト挟圧Pdに基づくトルク容量に応じて出来るだけエンジントルクTを増加させるので、ベルト挟圧Pdが保証される範囲で速やかにエンジントルクTが増加される。一方、クラッチ圧制御モード実行中に先にベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’以上に達した場合には、クラッチ圧Pcを可及的速やかに係合維持圧(モジュレータ油圧P)まで上昇させて前進用クラッチC1を急係合させると共に、エンジントルクTをアクセル開度Accに応じて増加させるので、急係合によるベルト滑りを抑制しつつ前進用クラッチC1の急係合過程でベルト挟圧Pdも急上昇させられてアクセル開度Accに対応するエンジントルクTまで速やかに増大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路にベルト式無段変速機と摩擦係合装置とを備え、摩擦係合装置の係合圧とベルト式無段変速機のベルト挟圧とを共通の電磁弁により制御する車両用無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動側プーリ及び従動側プーリとその両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、その摩擦係合装置の係合圧を制御するときには無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載の車両の制御装置がそれである。そして、このような摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とが共通の電磁弁により制御される車両用無段変速機においては、特許文献1に記載されているように、例えばシフトポジションが非走行ポジション(例えばPポジションやNポジション)から走行ポジション(例えばDポジションやRポジション)へ切り替えられるガレージシフトの際に、共通の電磁弁により摩擦係合装置の係合圧を制御する係合圧制御からその電磁弁により無段変速機のベルト挟圧を制御するベルト挟圧制御への移行が行われる。
【0003】
加えて、上記係合圧制御中のベルト挟圧は摩擦係合装置の係合指示圧で決定されることから、特許文献1には、エンジンの出力トルク(以下、エンジントルクという)に基づく無段変速機の入力トルク(伝達トルク)に対応したベルト挟圧が確保されていないことによるベルト滑りや摩擦係合装置の急係合時に無段変速機へ伝達されるトルク(例えばエンジントルクやイナーシャトルク)の増大によるベルト滑り等を抑制する為に、係合圧制御中はエンジントルクを低下(抑制)し、係合圧制御終了時から運転者の加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増することが記載されている。また、ベルト滑りを抑制する技術として、例えば特許文献2にはベルト挟圧を確保してから発進クラッチ(上記摩擦係合装置に相当)を係合させることが提案されている。また、例えば特許文献3には、走行中のアクセル急踏込み時にエンジントルクを上昇させると共にベルト滑りを防止する為にエンジントルクに対応して無段変速機の伝達可能トルクを上昇させる際に、アクセル急踏込み時のベルト滑りを回避し且つアクセル踏込みに対して応答性よく加速する為に、エンジントルクの応答性に比べてトルク応答性が劣る無段変速機の伝達可能トルクをエンジントルクが上回る場合にはそのエンジントルクを制限することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−350017号公報
【特許文献2】特開2009−156317号公報
【特許文献3】特開2004−92522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、摩擦係合装置の係合圧を制御するときに無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置において、摩擦係合装置の係合圧制御中はエンジントルクを抑制することで上記ベルト滑りや摩擦係合装置のクラッチ滑りを抑制することは可能であるが、運転者の加速要求量に対する加速性能に関してはその係合圧制御後に加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増するだけであり、更なる加速性能の向上が望まれる。尚、上記特許文献3に示されるようにエンジントルクが無段変速機のベルト挟圧を上回らない範囲でエンジントルクを出力することが考えられるが、この特許文献3は摩擦係合装置の係合圧の制御とは無関係に無段変速機のベルト挟圧をアクセル踏込みに応じて上昇させられる場合の態様である。その為、このような課題は未公知であり、車両加速時に摩擦係合装置の係合圧の制御に連動させて共通の電磁弁により無段変速機のベルト挟圧を上昇させる際に、加速性能を向上することについて、未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両加速時に摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際に、加速性能を向上することができる車両用無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 駆動側プーリ及び従動側プーリとその両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、(b) 車両加速時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、その摩擦係合装置の係合圧とその無段変速機のベルト挟圧とに基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、車両加速時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とに基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクが増加させられるので、共通の電磁弁により制御される摩擦係合装置の係合圧及び無段変速機のベルト挟圧に基づくそれぞれの伝達可能トルクに合わせてエンジントルクを出力することが可能となり、例えば摩擦係合装置の係合圧の制御終了時から運転者の加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増することに比較して、加速性能を向上することができる。また、クラッチ滑りやベルト滑りを適切に抑制することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記車両加速時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させるものである。このようにすれば、車両加速時に摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際は、摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とに基づくトルク容量に応じて適切にエンジントルクを増加させられる。
【0010】
また、好適には、前記係合圧制御の実行中には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制するものであり、前記係合圧制御の実行中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達するよりも先に前記摩擦係合装置が係合完了した場合には、前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させる一方で、前記係合圧制御の実行中に前記摩擦係合装置が係合完了するよりも先に前記無段変速機のベルト挟圧が前記所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに前記係合維持圧まで上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることにある。このようにすれば、前記係合圧制御の実行中に摩擦係合装置が係合完了するまでエンジントルクが抑制されることから、係合圧制御中のクラッチ滑りやベルト滑りが適切に抑制される。また、係合圧制御中にベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達するよりも先に摩擦係合装置が係合完了させられた場合には、係合圧制御中にベルト挟圧が保証される範囲で速やかにエンジントルクを増大することが可能となり加速性能を適切に向上することができる。また、係合圧制御中に摩擦係合装置が係合完了するよりも先にベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、急係合によるベルト滑りを抑制しつつ摩擦係合装置を急係合させる過程でベルト挟圧も速やかに高められることにより急係合後に運転者の加速要求量に対応するエンジントルクまで速やかにエンジントルクを増大することが可能となり、摩擦係合装置の急係合と相俟って加速性能を一層向上することができる。
【0011】
また、好適には、前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づくその摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧である。このようにすれば、急係合によるベルト滑りが適切に抑制される。
【0012】
また、前記目的を達成するための他の発明の要旨とするところは、(a) 駆動側プーリ及び従動側プーリとその両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、(b) 車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させ、(c) 前記係合圧制御の実行中には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制し、前記摩擦係合装置が係合完了した後は前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることにある。
【0013】
このようにすれば、前記係合圧制御の実行中には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクが所定トルク以下に抑制され、前記摩擦係合装置が係合完了した後は前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクが増加させられるので、車両発進時には係合圧制御中のクラッチ滑りやベルト滑りが適切に抑制されることに加え、車両発進時の係合圧制御中にベルト挟圧が保証される範囲で速やかにエンジントルクを増大することが可能となり、例えば摩擦係合装置の係合圧の制御終了時から運転者の加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増することに比較して、車両発進時の加速性能すなわち発進応答性を向上することができる。
【0014】
また、好適には、前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに前記係合維持圧まで上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることにある。このようにすれば、急係合によるベルト滑りを抑制しつつ摩擦係合装置を急係合させる過程でベルト挟圧も速やかに高められることにより急係合後に運転者の加速要求量に対応するエンジントルクまで速やかにエンジントルクを増大することが可能となり、摩擦係合装置の急係合と相俟って発進応答性を一層向上することができる。
【0015】
また、好適には、前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づくその摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧である。このようにすれば、急係合によるベルト滑りが適切に抑制される。
【0016】
また、前記目的を達成するための他の発明の要旨とするところは、(a) 駆動側プーリ及び従動側プーリとその両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、(b) 車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制するものであり、(c) 前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることにある。
【0017】
このようにすれば、車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記エンジンの出力トルクが所定トルク以下に抑制され、前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに上昇させて前記摩擦係合装置が急係合させられると共に、前記エンジンの出力トルクが運転者の加速要求量に応じて増加させられるので、車両発進時にはクラッチ滑りやベルト滑りが適切に抑制されることに加え、急係合によるベルト滑りを抑制しつつ摩擦係合装置を急係合させる過程でベルト挟圧も速やかに高められることにより急係合後に運転者の加速要求量に対応するエンジントルクまで速やかにエンジントルクを増大することが可能となり、例えば摩擦係合装置の係合圧の制御終了時から運転者の加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増することに比較して、摩擦係合装置の急係合と相俟って車両発進時の加速性能すなわち発進応答性を向上することができる。
【0018】
また、好適には、前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づくその摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧である。このようにすれば、急係合によるベルト滑りが適切に抑制される。
【0019】
また、好適には、前記車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させ、前記摩擦係合装置の急係合により前記摩擦係合装置の係合圧を前記係合維持圧まで上昇させた後も、前記係合圧制御から前記ベルト挟圧制御へ移行させることにある。このようにすれば、車両発進時に摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際は、摩擦係合装置の係合圧と無段変速機のベルト挟圧とに基づくトルク容量に応じて適切にエンジントルクを増加させられる。また、急係合後に運転者の加速要求量に対応するエンジントルクまで適切にエンジントルクを増大することが可能となる。
【0020】
また、好適には、前記係合圧制御の実行中の前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が前記所定ベルト挟圧以上に達しない場合には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制し、前記摩擦係合装置が係合完了した後は前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることにある。このようにすれば、係合圧制御中のベルト滑りが適切に抑制されることに加え、係合圧制御中にベルト挟圧が保証される範囲で速やかにエンジントルクを増大することが可能となり加速性能を適切に向上することができる。
【0021】
また、好適には、前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際とは、前進走行ポジションでの車両の一時停止時に前記エンジンが自動的に停止状態とされたことに伴って前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とが最低値に低下した状態から、所定のエンジン再始動条件が成立して前記エンジンが自動的に再始動した後の車両発進時である。このようにすれば、前記所定のエンジン再始動条件が成立してエンジンが自動的に再始動した後の車両発進時において、例えば摩擦係合装置の係合圧の制御終了時から運転者の加速要求量に対応させたエンジントルクに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増することに比較して、加速性能を向上することができる。
【0022】
また、好適には、前記エンジンとしては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機をエンジンと組み合わせて採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される車両を構成する動力伝達経路の概略構成を説明する図である。
【図2】車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】油圧制御回路における各種制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】無段変速機の変速制御において目標入力回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図5】無段変速機の挟圧力制御において変速比等に応じて必要油圧を求める必要油圧マップの一例を示す図である。
【図6】スロットル弁開度をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図7】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両加速時にクラッチ圧とベルト挟圧とを上昇させる際に、加速性能を向上する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図10】図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートであって、図9とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、エンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、車両用無段変速機(以下、無段変速機(CVT)という)18、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を経て、左右の駆動輪24へ伝達される。
【0026】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、及びトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の不図示のロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室及び解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合又は解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられる。また、ポンプ翼車14pには、前後進切換装置16の作動を制御したり、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18のベルト挟圧を発生させたり、ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0027】
前後進切換装置16は、発進クラッチとしての前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は係合によりエンジン12の動力を駆動輪24側へ伝達する所定の摩擦係合装置としての断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0028】
そして、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0029】
エンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
【0030】
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の両可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるベルト式の無段変速機である。
【0031】
両可変プーリ42及び46は、入力軸32及び出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42a及び46aと、入力軸32及び出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42b及び46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42c及び従動側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されている。そして、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリプーリ圧(以下、ベルト挟圧という)Pdが油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリプーリ圧(以下、変速制御圧という)Pinが生じるのである。
【0032】
図2は、エンジン12や前後進切換装置16や無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、例えば無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御などに関連する油圧制御の為の車両用無段変速機の制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御及びベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0033】
電子制御装置50には、例えばエンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR及びエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Nに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度(タービン回転速度)Nを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸32の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管36(図1参照)に備えられた電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温Tを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧制御回路100内の作動油の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、吸入空気量センサ70により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、フットブレーキスイッチ72により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作されたブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー76の操作ポジション(操作位置)PSHを表す信号などが供給されている。
【0034】
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Sとして、電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータ38への駆動信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号S例えば駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を駆動するための油圧指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号S例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の油圧指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御する為のロックアップ制御指令信号例えば油圧制御回路100内のロックアップコントロールバルブの弁位置を切り換えるオンオフソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号、ライン油圧Pを調圧するリニアソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号、ガレージシフト時に前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ供給する係合過渡油圧を調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0035】
シフトレバー76は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つの操作ポジション「P」、「R」、「N」、「D」、及び「L」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは車両10の動力伝達経路を解放しすなわち車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる為の前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させる為のエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジション及び「N」ポジションは動力伝達経路をニュートラル状態とし車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション、及び「L」ポジションは動力伝達経路を動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態とし車両10を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0036】
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、及びシフトレバー76の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御例えばシフトレバー76が「N」ポジションから「D」ポジション或いは「R」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト或いはN→Rシフト)時における前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合過渡油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように従動側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、係合過渡油圧Pを出力する係合過渡油圧調圧弁として機能するガレージシフトコントロールバルブ112、係合過渡油圧Pをマニアルバルブ120を経て前進用クラッチC1或いは後進用クラッチB1へ供給する第1位置とモジュレータ油圧Pをマニアルバルブ120を経て前進用クラッチC1或いは後進用クラッチB1へ供給する第2位置とに切り換える切換弁として機能するガレージシフトバルブ114、変速比γが連続的に変化させられるように駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁として機能する変速比コントロールバルブUP116及び変速比コントロールバルブDN118、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー76の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
【0037】
ここで、油圧制御回路100内のライン油圧Pは、例えばエンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)122によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて無段変速機18への入力トルクTIN等に応じた値に調圧されるようになっている。また、モジュレータ油圧Pは、例えばライン油圧Pを元圧としてモジュレータバルブ124によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて一定油圧に調圧されるようになっている。
【0038】
変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116t及び入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを備えている。また、変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを備えている。
【0039】
ソレノイド弁DS1は、駆動側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧を高め駆動側プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御する為に制御油圧PS1を出力する。また、ソレノイド弁DS2は、駆動側油圧シリンダ42cの作動油を排出してその油圧を低め駆動側プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。具体的には、制御油圧PS1が出力されると変速比コントロールバルブUP116の供給ポート116sに入力されたライン油圧Pが入出力ポート116tを経て駆動側油圧シリンダ42cへ供給されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。また、制御油圧PS2が出力されると駆動側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート116t、入出力ポート116iさらに入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。例えば、図4に示すような運転者の加速要求量に対応するアクセル操作量Accをパラメータとして予め実験的に求められて記憶された車速Vと目標入力軸回転速度NINとの関係(変速マップ)に従って算出された目標入力軸回転速度NINに実際の入力軸回転速度NINが一致するように、それ等の偏差に応じて無段変速機18が変速制御され、すなわち駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給、排出によって変速制御圧Pinが制御され、変速比γが連続的に変化させられる。図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NINが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NINは目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で定められている。
【0040】
挟圧力コントロールバルブ110は、例えば軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート110tを開閉するスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し、スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与する為に出力したベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室110dとを備えている。そして、挟圧力コントロールバルブ110は、リニアソレノイド弁SLSからの制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧Pを連続的に調圧制御してベルト挟圧Pdを出力するようになっている。例えば、図5に示すような伝達トルクに対応する無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと必要油圧(目標ベルト挟圧に相当)Pdとの関係(ベルト挟圧マップ)に従って従動側油圧シリンダ46cへのベルト挟圧Pdが調圧され、このベルト挟圧Pdに応じてベルト挟圧力すなわち両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。また、この挟圧力コントロールバルブ110の出力油圧である従動側油圧シリンダ46c内のベルト挟圧Pdは、油圧センサ110sにより検出されるようになっている。
【0041】
また、無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTにトルクコンバータ14のトルク比tを乗じたトルク(=T×t)として電子制御装置50により算出される。このエンジントルクTは、例えばスロットル弁開度θTH(或いはそれに相当する吸入空気量QAIR等)をパラメータとしてエンジン回転速度NとエンジントルクTとの予め実験的に求められて記憶された図6に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)からスロットル弁開度θTH及びエンジン回転速度Nに基づいて推定エンジントルクTesとして電子制御装置50により算出される。或いは、エンジントルクTは、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)Tなどが用いられても良い。また、上記トルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=タービン回転速度N/ポンプ回転速度N(エンジン回転速度N))の関数であり、例えば速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(マップ)から実際の速度比eに基づいて電子制御装置50により算出される。尚、推定エンジントルクTesは、実エンジントルクTそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTと区別する場合を除き、推定エンジントルクTesを実エンジントルクTとしての取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTesには実エンジントルクTも含むものとする。
【0042】
マニュアルバルブ120において、入力ポート120aにはガレージシフトバルブ114から出力された係合油圧Pが供給される。そして、シフトレバー76が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、係合油圧Pが前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
【0043】
また、シフトレバー76が「R」ポジションに操作されると、係合油圧Pが後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
【0044】
また、シフトレバー76が「P」ポジション或いは「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路及び入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
【0045】
前記係合油圧Pは、シフト操作過渡時にはガレージシフトコントロールバルブ112により調圧された係合過渡油圧Pとされ、定常時にはモジュレータバルブ124により一定油圧に調圧されたモジュレータ油圧Pとされる。
【0046】
ガレージシフトコントロールバルブ112は、係合過渡油圧調圧弁として機能するものであり、軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート112tを開閉するスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、スプール弁子112aに開弁方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSをパイロット圧として受け入れる油室112cとを備えている。そして、ガレージシフトコントロールバルブ112は、モジュレータ油圧Pをその制御油圧PSLSに応じた大きさの係合過渡油圧Pに調圧制御して出力するように構成されている。この係合過渡油圧Pは、N→Dシフト或いはN→Rシフトにおいて前進用クラッチC1或いは後進用クラッチB1へ過渡的に供給されるガレージシフト油圧として機能するものである。その為、係合過渡油圧Pがガレージシフトバルブ114及びマニュアルバルブ120を経て前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ供給される際は、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1が滑らかに係合させられて係合時のショックが抑制されるように、リニアソレノイド弁SLSにより予め定められた規則に従って係合過渡油圧Pが調圧される。
【0047】
ガレージシフトバルブ114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりガレージシフトコントロールバルブ112からの係合過渡油圧Pを出力ポート114tからマニュアルバルブ120へ出力する第1位置(ON位置)とモジュレータ油圧Pを出力ポート114tからマニュアルバルブ120へ出力する第2位置(OFF位置)とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを第2位置に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、スプール弁子114aに第1位置に向かう推力を付与する為に電子制御装置50によって開閉制御されるソレノイド弁SLの信号圧PSLを受け入れる油室114cと、スプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに第2位置に向かう推力を付与する為に電子制御装置50によって開閉制御されるソレノイド弁DSUの信号圧PSUを受け入れる油室114dとを備えている。そして、ガレージシフトバルブ114は、常には図の右半分に示すOFF位置に保持されており、後進用ブレーキB1や前進用クラッチC1の係合を維持する為の所定の係合維持圧としてのモジュレータ油圧Pをそのままマニュアルバルブ120側へ出力する。一方で、ガレージシフトバルブ114は、ガレージシフトに関連する過渡時には、ソレノイド弁DSUからの信号圧PSUの出力が停止させられることで、ソレノイド弁SLからの信号圧PSLにより図の左半分に示すON位置に切り換えられ、ガレージシフトコントロールバルブ112から出力される係合過渡油圧Pがマニュアルバルブ120側へ出力されるように構成されている。このように、このガレージシフトバルブ114は、係合油圧Pをシフト操作過渡時には係合過渡油圧Pとし、定常時にはモジュレータ油圧Pとする切換弁として機能するものである。
【0048】
このように、本実施例のリニアソレノイド弁SLSは、通常は挟圧力コントロールバルブ110を介して無段変速機18のベルト挟圧力を制御する為に用いられるものである。一方で、リニアソレノイド弁SLSは、ガレージシフトのようなシフトレバー76による発進用シフト操作時すなわちN→D操作時やN→R操作時には前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合圧である係合過渡油圧Pを制御するようになっており、共通の信号油圧すなわち制御油圧PSLSを出力する共通の制御弁装置として機能している。この為、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合過渡油圧Pを制御するときには無段変速機18のベルト挟圧Pdが共通の電磁弁であるリニアソレノイド弁SLSにより連動して変化させられる(クラッチ圧制御モードと称する)。そして、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合圧を所定の係合維持圧としてのモジュレータ油圧Pまで上昇させて上記クラッチ圧制御モードを終了した後には、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合圧はリニアソレノイド弁SLSにより制御されず、一定のモジュレータ油圧Pとされる。そして、この通常状態では、無段変速機18のベルト挟圧Pdがリニアソレノイド弁SLSにより挟圧力コントロールバルブ110を介して入力トルクTINに応じた値に制御される(ベルト挟圧制御モードと称する)。
【0049】
ここで、例えば「D」ポジション(前進走行ポジション)での車両10の一時停止時にエンジン12を自動的に停止状態とし、所定のエンジン再始動条件の成立時にエンジン12を自動的に再始動する所謂エコラン(エコノミーランニング)制御を実行する場合について考える。このようなエコラン制御においては、エンジン12が自動的に停止状態とされたエコラン中はエンジン12により回転駆動させられるオイルポンプ28も回転停止させられるので、油圧制御回路100のライン圧Pが零に向けて低下する。従って、エコラン中は、前進用クラッチC1のシリンダ内及び従動側油圧シリンダ46c内の作動油が抜ける可能性がある。その為、作動油が抜けたエコランからの復帰発進時は、「D」ポジションのままではあるがガレージシフト時と同様に、クラッチ圧制御モードにより前進用クラッチC1を係合させた後、ベルト挟圧制御モードへ移行して入力トルクに応じた無段変速機18のベルト挟圧力制御を実行する。つまり、エコラン制御のように前進用クラッチC1の係合圧Pc(以下、クラッチ圧Pc)と無段変速機18のベルト挟圧Pdとが最低値に低下した状態からの車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際には、リニアソレノイド弁SLSによりクラッチ圧Pcを上昇する(すなわち係合側へ変更する)為の所定の係合圧制御としてのクラッチ圧制御モードを実行してそのクラッチ圧Pcを前進用クラッチC1の係合を維持する為の係合維持圧(モジュレータ油圧P)まで上昇させると共に、クラッチ圧制御モードの実行後はリニアソレノイド弁SLSにより無段変速機18のベルト挟圧PdをエンジントルクT(入力トルクTIN)に応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御としてのベルト挟圧制御モードへ移行させる。
【0050】
このようにエコランからの復帰発進時は、エンジン12の再始動後クラッチ圧制御モードを経る為、ベルト挟圧Pdは前進用クラッチC1のクラッチ係合指示圧(リニアソレノイド弁SLSを駆動する為の油圧指令信号)により前進用クラッチC1の係合圧と共に立ち上がることになる。ところで、前進用クラッチC1の係合圧が十分に確保されるまではクラッチ滑りの懸念があるし、またベルト挟圧Pdが十分に確保されるまではベルト滑りの懸念がある。加えて、前進用クラッチC1が急係合して入力トルクTINが急伝達されたりイナーシャトルクが増大したりするような伝達トルク変化でもベルト滑りの懸念がある。そこで、無段変速機18のベルト挟圧Pdを入力トルクTINに応じた値に制御することができないクラッチ圧制御モードでは、クラッチ滑りやベルト滑りを抑制する為に、エンジントルクTをアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTとするのではなく、前進用クラッチC1が係合完了するまで所定トルクT’以下に抑制する。例えば、スロットル弁開度θTHを所定スロットル弁開度θTH’以下に抑制する。この所定トルクT’は、例えば少なくともオイルポンプ28を回転駆動することが可能な程度のエンジンアイドル回転速度を維持可能なエンジントルクTEiである。また、所定スロットル弁開度θTH’は、そのようなエンジントルクTEiとする為のスロットル弁開度θTHiである。尚、ここでの前進用クラッチC1の係合完了は、前進用クラッチC1の係合圧が所定の係合維持圧としてのモジュレータ油圧Pまで上昇させられた係合状態ではなく、例えば前進用クラッチC1の差回転速度(入出力回転速度差)ΔNC1(=N−NIN)が零を含む略零となった係合状態である。
【0051】
そして、前進用クラッチC1の係合完了後には、ベルト滑りに対する安全を考慮して、アクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTに向かって一定勾配でエンジントルクを漸増するように、スロットル弁開度θTHを一定勾配で開いていくことが考えられる。しかしながら、エコランからの復帰後(エンジン12の再始動後)の車両発進では、シフト操作を伴うガレージシフト時のクラッチ圧制御モードからベルト挟圧制御モードへの移行と異なり、速やかな車両加速が望まれる。つまり、エコラン復帰の際は、ベルト滑りが生じないことはもちろんであるが、アクセル開度Accに対する車両発進時の加速性能すなわち発進応答性を向上することが望まれる。
【0052】
そこで、クラッチ圧制御モード中に前進用クラッチC1の係合圧の上昇に連動して上昇するベルト挟圧Pdが高くなっている場合にはそのベルト挟圧Pd(従動側プーリ46のトルク容量)に応じてエンジントルクT(すなわちスロットル弁開度θTH)を決定することができるという知見を見出した。そして、本実施例では、電子制御装置50は、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとが低下した状態からの車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際には、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとに基づくトルク容量に応じてエンジントルクTを増加させる。例えば、電子制御装置50は、前記エコラン制御に伴ってクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとが最低値に低下した状態から、エコラン復帰後の車両発進時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際には、クラッチ圧制御モードを経てベルト挟圧制御モードへ移行させるものであり、その際には、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとに基づくトルク容量に応じてエンジントルクTを増加させる。
【0053】
具体的には、電子制御装置50は、例えばクラッチ圧制御モードの実行中に無段変速機18のベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’以上に達するよりも先に前進用クラッチC1が係合完了した場合には、無段変速機18のベルト挟圧Pdに基づくトルク容量に応じてエンジントルクTを増加させる。一方で、電子制御装置50は、クラッチ圧制御モードの実行中に前進用クラッチC1が係合完了するよりも先に無段変速機18のベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’以上に達した場合には、クラッチ圧Pcを可及的速やかに係合維持圧(モジュレータ油圧P)まで上昇させて前進用クラッチC1を急係合させると共に、エンジントルクT(スロットル弁開度θTH)をアクセル開度Accに応じて増加させる。また、この所定ベルト挟圧Pd’は、前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1に基づく前進用クラッチC1の急係合時の伝達トルク変化(イナーシャトルクやエンジントルクTに基づく伝達トルク変化)に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められた急係合判定値である。例えば、前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1が大きい程、前進用クラッチC1の急係合時の伝達トルク変化が大きくなることに対応して所定ベルト挟圧Pd’が大きくされるように予め実験的に求められて定められた不図示の関係から、差回転速度ΔNC1に基づいて所定ベルト挟圧Pd’が算出される。
【0054】
より具体的には、図7は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段90は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号S、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段90は、目標スロットル弁開度θTHをアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTが得られる為のスロットル開度θTHとし、目標エンジントルクTが得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。
【0055】
エコラン制御部すなわちエコラン制御手段92は、交差点等の車両走行停止時に燃費の向上、排気ガスの低減、騒音の低減等の為に、車両走行停止時にエンジン12を一時的に自動停止し且つエンジン12を自動始動するエコラン制御を実行する。例えば、エコラン制御手段92は、所定のエンジン停止条件の何れもが成立した場合には、スロットルアクチュエータ38による電子スロットル弁40を閉じる制御、燃料噴射装置78による燃料供給を停止する制御等を実行する所謂アイドルストップ制御を実行してエンジン12を一時的に自動停止する為のエンジン一時停止指令をエンジン出力制御手段90へ出力する。一方、エコラン制御手段92は、所定のエンジン再始動条件の何れか一つでも成立した場合には、エンジン12を自動始動する為のエンジン再始動指令をエンジン出力制御手段90へ出力する。
【0056】
上記所定のエンジン停止条件は、例えば「D」ポジションであるか、アクセル開度Accが零を含む略零つまり零と判定される為の零判定値であるか、ブレーキオンBONであるか、車速Vが零を含む略零つまり零と判定される為の零判定値であるかなどの条件である。また、上記所定のエンジン再始動条件は、例えば「D」ポジションである車両停止時に、アクセル開度Accが零判定値とされない値となったか(すなわちアクセルオンされたか)、ブレーキオンBONの信号がオフであるか(すなわちブレーキオフとされたか)などの条件である。
【0057】
エンジン出力制御手段90は、エコラン制御手段92からのエンジン一時停止指令に従って、スロットルアクチュエータ38による電子スロットル弁40を閉じる制御、燃料噴射装置78による燃料供給を停止する制御等によりアイドルストップ制御を実行する。また、エンジン出力制御手段90は、エコラン制御手段92からのエンジン再始動指令に従って、スロットルアクチュエータ38による電子スロットル弁40を開閉する制御、燃料噴射装置78による燃料供給を開始する制御、点火装置80による点火時期の制御によりエンジン12を始動する。
【0058】
ベルト挟圧力制御部すなわちベルト挟圧力制御手段94は、例えば図5に示すようなベルト挟圧マップから無段変速機18の入力トルクTIN(=エンジントルクT×トルク比t:Tは例えば推定エンジントルクTes)及び実変速比γ(=NIN/NOUT)で示される車両状態に基づいて目標ベルト挟圧Pdを設定する。そして、ベルト挟圧力制御手段94は、その目標ベルト挟圧Pdが得られるように従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを調圧する為の挟圧力制御指令信号S、及びモジュレータ油圧Pがマニュアルバルブ120側へ出力されるようにガレージシフトバルブ114を第2位置(OFF位置)側へ切り換える為の油圧指令信号Sを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段94からの挟圧力制御指令信号Sに従ってベルト挟圧Pdが増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧すると共に、ベルト挟圧力制御手段94からの油圧指令信号Sに従ってソレノイド弁DSUから信号圧PSUが出力される状態としてガレージシフトバルブ114を第2位置(OFF位置)側とする。このように、ベルト挟圧力制御手段94は、無段変速機18の入力トルクTINに応じてリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを制御することにより、ベルト滑りが発生しない範囲で燃費向上の為出来るだけ低い値になるようにベルト挟圧力を制御するベルト挟圧制御モードを実行する。
【0059】
また、ベルト挟圧力制御手段94は、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとが低下したエコラン中からのエコラン復帰時には、ガレージシフト時と同様に、クラッチ圧制御モードを経てベルト挟圧制御モードを実行するクラッチ過渡圧制御手段として機能する。例えば、ベルト挟圧力制御手段94は、エコラン制御手段92からエンジン再始動指令が出力されるエコラン復帰時には、目標クラッチ圧Pcが得られるようにガレージシフトコントロールバルブ112から出力される係合過渡油圧Pを調圧する為の油圧指令信号S、及びその係合過渡油圧Pがマニュアルバルブ120側へ出力されるようにガレージシフトバルブ114を第1位置(ON位置)側へ切り換える為の油圧指令信号Sを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段94からの油圧指令信号Sに従ってリニアソレノイド弁SLSを作動させて係合過渡油圧Pを調圧すると共に、ベルト挟圧力制御手段94からの油圧指令信号Sに従ってソレノイド弁DSUからの信号圧PSUの出力を停止させてガレージシフトバルブ114を第1位置(ON位置)側へ切り換える。尚、目標クラッチ圧Pcは、例えばクラッチ圧Pcを上昇する際に前進用クラッチC1の係合ショックが抑制されるようにクラッチ圧Pcを緩やかに上昇させる為の予め定められた規則としての目標油圧である。例えば、目標クラッチ圧Pcとして、係合開始時に所定係合圧P1まで急上昇させ、その後係合完了まで緩やかに漸増させ、係合完了後に係合維持圧(モジュレータ油圧P)へ向かって所定勾配で増大させる値が設定されている。このように、ベルト挟圧力制御手段94は、エコラン復帰時にはガレージシフト時と同様に、ベルト挟圧Pdの制御に用いるリニアソレノイド弁SLSを作動させて係合過渡油圧Pを調圧することにより、前進用クラッチC1の過渡的な係合状態を制御するクラッチ圧制御モードを実行する。
【0060】
上記クラッチ圧制御モードでは、係合過渡油圧Pを調圧する為のリニアソレノイド弁SLSの制御油圧PSLSによりベルト挟圧Pdが制御されるので、無段変速機18の入力トルクTINに応じたベルト挟圧Pdに制御することができない。そこで、ベルト挟圧力制御手段94は、クラッチ滑りやベルト滑りを抑制する為に、エコラン復帰時のクラッチ圧制御モードでは、アクセル開度Accに拘わらずエンジントルクTを所定トルクT’以下とする為の例えばエンジントルクTEiとする為のエンジントルク抑制指令をエンジン出力制御手段90へ出力する。エンジン出力制御手段90は、ベルト挟圧力制御手段94からのエンジントルク抑制指令に従って、目標スロットル弁開度θTHをエンジントルクTEiが得られる為のスロットル弁開度θTHiとし、エンジントルクTEiが得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。
【0061】
クラッチ係合判定部すなわちクラッチ係合判定手段96は、例えばエコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に前進用クラッチC1が係合完了したか否かを、前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1(=N−NIN)が零を含む略零つまり零と判定される為の零判定値となったか否かに基づいて判定する。
【0062】
ベルト挟圧判定部すなわちベルト挟圧判定手段98は、例えばエコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に無段変速機18のベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’となったか否かを、油圧センサ110sにより検出される実際のベルト挟圧Pdが前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1に基づく急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の所定ベルト挟圧Pd’となったか否かに基づいて判定する。
【0063】
ベルト挟圧力制御手段94は、クラッチ係合判定手段96によりエコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に前進用クラッチC1が係合完了したと判定された場合には、アクセル開度Accに拘わらずエンジントルクTをエンジントルクTEiとする為のエンジントルク抑制指令に替えて、例えば実際のベルト挟圧Pd(目標ベルト挟圧Pdでも良い)に応じてベルト滑りを発生させない範囲で可及的に大きなエンジントルクTEUPとする為のエンジントルク増加指令をエンジン出力制御手段90へ出力する。エンジン出力制御手段90は、ベルト挟圧力制御手段94からのエンジントルク増加指令に従って、目標スロットル弁開度θTHをエンジントルクTEUPが得られる為のスロットル弁開度θTHUPとし、エンジントルクTEUPが得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。加えて、ベルト挟圧力制御手段94は、クラッチ係合判定手段96によりエコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に前進用クラッチC1が係合完了したと判定された場合には、目標クラッチ圧Pcを係合維持圧(モジュレータ油圧P)へ向かって所定勾配で増大させる為の油圧指令信号Sを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段94からの油圧指令信号Sに従って、リニアソレノイド弁SLSを作動させてクラッチ圧制御モードの終了へ向けてクラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)を上昇させる。そして、ベルト挟圧力制御手段94は、目標クラッチ圧Pcを係合維持圧(モジュレータ油圧P)とした後には、ベルト挟圧制御モードへ移行し、無段変速機18の入力トルクTINに応じてベルト挟圧Pdを制御する。
【0064】
一方、ベルト挟圧力制御手段94は、ベルト挟圧判定手段98によりエコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に無段変速機18のベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’となったと判定された場合には、目標クラッチ圧Pcを可及的速やかに係合維持圧(モジュレータ油圧P)へ向かって急増大させる為の油圧指令信号Sを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段94からの油圧指令信号Sに従って、リニアソレノイド弁SLSを作動させてクラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)を急上昇させることにより前進用クラッチC1を急係合させる。このときベルト挟圧Pdも連動して急上昇させられていることから、ベルト挟圧力制御手段94は、アクセル開度Accに拘わらずエンジントルクTをエンジントルクTEiとする為のエンジントルク抑制指令に替えて、例えば実際のベルト挟圧Pd(目標ベルト挟圧Pdでも良い)に応じてベルト滑りを発生させない範囲で可及的に大きなエンジントルクTEUPとする為のエンジントルク増加指令をエンジン出力制御手段90へ出力する。エンジン出力制御手段90は、ベルト挟圧力制御手段94からのエンジントルク増加指令に従って、目標スロットル弁開度θTHをエンジントルクTEUPが得られる為のスロットル弁開度θTHUPとし、エンジントルクTEUPが得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。尚、ベルト挟圧力制御手段94は、目標クラッチ圧Pcを係合維持圧(モジュレータ油圧P)とした後には、クラッチ圧制御モードからベルト挟圧制御モードへ移行し、無段変速機18の入力トルクTINに応じてベルト挟圧Pdを制御することができるので、前進用クラッチC1を急係合させたときには、実質的にエンジントルクTをアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTに向けて急増大させることになる。
【0065】
図8は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際に、加速性能を向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図8のフローチャートは、エコラン中であることを前提として開始(スタート)される。また、図9及び図10は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。図9は、エコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中にベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’となるよりも先に前進用クラッチC1が係合完了した場合の一例である。また、図10は、エコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に前進用クラッチC1が係合完了するよりも先にベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’となった場合の一例である。
【0066】
図8において、先ず、エコラン制御手段92に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばエコラン中に所定のエンジン再始動条件の何れか一つでも成立したか否かが判定される。例えば、ブレーキオンBONの信号がオフであるか(すなわちブレーキオフとされたか)否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はエコラン制御手段92及びエンジン出力制御手段90に対応するS20において、例えばエンジン12を自動始動する為のエンジン再始動指令が出力され、スロットルアクチュエータ38による電子スロットル弁40を開閉する制御、燃料噴射装置78による燃料供給を開始する制御、点火装置80による点火時期の制御によりエンジン12が始動させられる(図9のt1時点、図10のt1時点)。S20と同時にベルト挟圧力制御手段94に対応するS30において、例えば目標クラッチ圧Pcが得られるようにガレージシフトコントロールバルブ112から出力される係合過渡油圧Pがリニアソレノイド弁SLSの作動により調圧される。加えて、ソレノイド弁DSUからの信号圧PSUの出力が停止させられてガレージシフトバルブ114が第1位置(ON位置)側へ切り換えられ、係合過渡油圧Pがマニュアルバルブ120側へ出力される(図9のt1時点乃至t3時点、図10のt1時点乃至t3時点)。このS20におけるクラッチ圧制御モードでは、ベルト挟圧Pdはクラッチ圧Pcを制御する為のリニアソレノイド弁SLSからの制御油圧PSLSにより決定される。また、このS20では、入力トルクTINによるクラッチ滑りやベルト滑りを抑制する為に、目標スロットル弁開度θTHがアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTよりも抑制されたエンジントルクTEiが得られる為のスロットル弁開度θTHiとされ、エンジントルクTが抑制される。
【0067】
続いて、ベルト挟圧判定手段98に対応するS40において、例えば油圧センサ110sにより検出される実際のベルト挟圧Pdが前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1に基づく急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の所定ベルト挟圧Pd’となったか否が判定される。つまり、エコラン復帰時のクラッチ圧制御モード中に、例えばアクセルペダル68の踏込みが比較的大きいためにエンジン回転速度Nが高くなり、オイルポンプ28のオイル吐出量及び流量収支が確保され、前進用クラッチC1の急係合時の入力トルクTINに対してベルト挟圧Pdのトルク容量が確保されているか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合(図10のt2時点)はベルト挟圧力制御手段94に対応するS50において、例えば目標クラッチ圧Pcが可及的速やかに係合維持圧(モジュレータ油圧P)へ向かって急増大させられ、リニアソレノイド弁SLSの作動によりクラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)が急上昇させられて前進用クラッチC1が急係合させられる(図10のt2時点乃至t3時点)。そして、目標クラッチ圧Pcが係合維持圧(モジュレータ油圧P)とされるとクラッチ圧制御モードが終了させられる(図10のt3時点)。また、同じくベルト挟圧力制御手段94に対応するS60において、例えば目標スロットル弁開度θTHが、クラッチ圧Pcに連動して急上昇させられている実際のベルト挟圧Pdに応じてベルト滑りを発生させない範囲で可及的に大きなエンジントルクTEUPが得られる為のスロットル弁開度θTHUPとされ、エンジントルクTが急増大させられる(図10のt3時点以降)。尚、クラッチ圧制御モードが終了させられると、無段変速機18の入力トルクTINに応じてベルト挟圧Pdが制御され得るので、実質的にエンジントルクTがアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTに向けて急増大させられ得る。
【0068】
一方、上記S40の判断が否定される場合はクラッチ係合判定手段96に対応するS70において、例えば前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1(=N−NIN)が零判定値となったか否かに基づいて前進用クラッチC1が係合完了したか否かが判定される。このS70の判断が否定される場合は上記S40に戻るが肯定される場合(図9のt2時点)はベルト挟圧力制御手段94に対応するS80において、例えば目標スロットル弁開度θTHが、実際のベルト挟圧Pdに応じてベルト滑りを発生させない範囲で可及的に大きなエンジントルクTEUPが得られる為のスロットル弁開度θTHUPとされ、エンジントルクTが増大させられる(図9のt2時点以降)。また、同じくベルト挟圧力制御手段94に対応するS90において、例えば目標クラッチ圧Pcが係合維持圧(モジュレータ油圧P)へ向かって所定勾配で増大させられ、リニアソレノイド弁SLSの作動によりクラッチ圧制御モードの終了へ向けてクラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)が上昇させられる(図9のt2時点乃至t3時点)。そして、上記S60或いはS90に続いて、ベルト挟圧力制御手段94に対応するS100において、目標クラッチ圧Pcが係合維持圧(モジュレータ油圧P)とされた後には、クラッチ圧制御モードからベルト挟圧制御モードへ移行され、無段変速機18の入力トルクTINに応じてベルト挟圧Pdが制御される(図9のt3時点以降、図10のt3時点以降)。
【0069】
図9及び図10のタイムチャートからも明らかなように、前進用クラッチC1の係合完了後にエンジントルクTを一定勾配で増加させるようにスロットル弁開度θTHを一定勾配で開くこと(破線で示す従来例)に比較して、本実施例の制御作動により発進応答性が向上させられる。特に、図10の実施例では、クラッチ圧Pcを急速に高める過程でベルト挟圧Pdの急速に高められる為スロットル弁開度θTHを早く開くことができることから、図9の実施例に比較して、発進応答性が一層向上させられる。
【0070】
上述のように、本実施例によれば、車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際には、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとに基づくトルク容量に応じてエンジントルクTが増加させられるので、共通のリニアソレノイド弁SLSにより制御されるクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdに基づくそれぞれの伝達可能トルクに合わせてエンジントルクTを出力することが可能となり、例えばクラッチ圧制御モードの実行終了時からアクセル開度Accに対応させたエンジントルクTに向かって一定勾配でエンジントルクTを漸増することに比較して、加速性能を向上することができる。また、クラッチ滑りやベルト滑りを適切に抑制することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際には、共通のリニアソレノイド弁SLSによりクラッチ圧Pcを上昇する為のクラッチ圧制御モードを実行してクラッチ圧Pcを前進用クラッチC1の係合を維持する為の所定の係合維持圧(モジュレータ油圧P)まで上昇させると共に、クラッチ圧制御モードの実行後はリニアソレノイド弁SLSによりベルト挟圧Pdを制御する為のベルト挟圧制御モードへ移行させるので、上記車両加速時には、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとに基づくトルク容量に応じて適切にエンジントルクTを増加させられる。
【0072】
また、本実施例によれば、クラッチ圧制御モードの実行中には、エンジントルクTをアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTとするのではなく、前進用クラッチC1が係合完了するまで所定トルクT’以下に抑制するので、クラッチ圧制御モード実行中のクラッチ滑りやベルト滑りが適切に抑制される。また、クラッチ圧制御モード実行中にベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’以上に達するよりも先に前進用クラッチC1が係合完了した場合には、ベルト挟圧Pdに基づくトルク容量に応じてベルト滑りを発生させない範囲で出来るだけエンジントルクTを増加させるので、クラッチ圧制御モード実行中にベルト挟圧Pdが保証される範囲で速やかにエンジントルクTを増大することが可能となり加速性能を適切に向上することができる。また、クラッチ圧制御モード実行中に前進用クラッチC1が係合完了するよりも先にベルト挟圧Pdが所定ベルト挟圧Pd’以上に達した場合には、クラッチ圧Pcを可及的速やかに係合維持圧(モジュレータ油圧P)まで上昇させて前進用クラッチC1を急係合させると共に、エンジントルクTをアクセル開度Accに応じて増加させるので、急係合によるベルト滑りを抑制しつつ前進用クラッチC1を急係合させる過程でベルト挟圧Pdも速やかに高められることにより急係合後にアクセル開度Accに対応するエンジントルクTまで速やかにエンジントルクTを増大することが可能となり、前進用クラッチC1の急係合と相俟って加速性能を一層向上することができる。
【0073】
また、本実施例によれば、所定ベルト挟圧Pd’は、前進用クラッチC1の差回転速度ΔNC1に基づく前進用クラッチC1の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧(急係合判定値)であるので、急係合によるベルト滑りが適切に抑制される。
【0074】
また、本実施例によれば、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際とは、「D」ポジションでの車両10の一時停止時にエンジン12が自動的に停止状態とされたことに伴ってクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとが最低値に低下した状態から、所定のエンジン再始動条件が成立してエンジン12が自動的に再始動した後の車両発進時つまりエコラン復帰後の車両発進時であるので、エコラン復帰後の車両発進時において、クラッチ圧制御モードの実行中のベルト滑りが適切に抑制されることに加え、例えばクラッチ圧制御モードの実行終了時からアクセル開度Accに対応させたエンジントルクTに向かって一定勾配でエンジントルクTを漸増することに比較して、車両発進時の加速性能すなわち発進応答性を向上することができる。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0076】
例えば、前述の実施例では、車両加速時にクラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させる際として、エコラン中から復帰した車両発進時にクラッチ圧制御モードを実行して、その後ベルト挟圧制御モードへ移行させる実施例を示したが、必ずしもエコラン復帰時でなくとも良い。要は、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとが低下した状態から、クラッチ圧Pcとベルト挟圧Pdとを上昇させるような車両加速時であれば本発明は適用され得る。
【0077】
また、前述の実施例では、エンジン12により回転駆動されて作動油を吐出する機械式のオイルポンプ28のみを備える構成であったが、必ずしもこのような態様でなくとも良い。例えば、機械式のオイルポンプ28に加えてエンジン12の回転駆動に依らず作動油を吐出するような電動式のオイルポンプを備えていても、エンジン12の回転停止時に必要となるベルト挟圧Pdが得られる為の元圧が十分に供給されない車両であれば本発明は適用され得る。
【0078】
また、前述の実施例では、クラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)を制御するときにはベルト挟圧Pdが共通のリニアソレノイド弁SLSにより連動して変化させられる構成の油圧制御回路100を例示したが、必ずしもこのような油圧制御回路100でなくとも良い。例えば、油圧制御回路100では、ガレージシフトコントロールバルブ112とガレージシフトバルブ114とを備えて共通のリニアソレノイド弁SLSによりクラッチ圧Pc(係合過渡油圧P)とベルト挟圧Pdとを制御可能に構成されていたが、ガレージシフトコントロールバルブ112とガレージシフトバルブ114との機能を1つのコントロールバルブで実現するような構成であっても良い。
【0079】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0080】
10:車両
12:エンジン
18:無段変速機(車両用無段変速機)
24:駆動輪
42:駆動側プーリ
46:従動側プーリ
48:伝動ベルト(ベルト)
50:電子制御装置(制御装置)
C1:前進用クラッチ(所定の摩擦係合装置)
B1:後進用ブレーキ(所定の摩擦係合装置)
SLS:リニアソレノイド弁(共通の電磁弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側プーリ及び従動側プーリと該両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、
車両加速時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、該摩擦係合装置の係合圧と該無段変速機のベルト挟圧とに基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記車両加速時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させるものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記係合圧制御の実行中には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制するものであり、
前記係合圧制御の実行中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達するよりも先に前記摩擦係合装置が係合完了した場合には、前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させる一方で、
前記係合圧制御の実行中に前記摩擦係合装置が係合完了するよりも先に前記無段変速機のベルト挟圧が前記所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに前記係合維持圧まで上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることを特徴とする請求項2に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づく該摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧であることを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項5】
駆動側プーリ及び従動側プーリと該両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、
車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させ、
前記係合圧制御の実行中には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制し、前記摩擦係合装置が係合完了した後は前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに前記係合維持圧まで上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることを特徴とする請求項5に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項7】
前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づく該摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧であることを特徴とする請求項6に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項8】
駆動側プーリ及び従動側プーリと該両プーリに巻き掛けられたベルトとを有する無段変速機と、係合によりエンジンの動力を駆動輪側へ伝達する所定の摩擦係合装置とを備え、前記摩擦係合装置の係合圧を制御するときには前記無段変速機のベルト挟圧が共通の電磁弁により連動して変化させられる車両用無段変速機の制御装置であって、
車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制するものであり、
前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が所定ベルト挟圧以上に達した場合には、前記摩擦係合装置の係合圧を可及的速やかに上昇させて前記摩擦係合装置を急係合させると共に、前記エンジンの出力トルクを運転者の加速要求量に応じて増加させることを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項9】
前記所定ベルト挟圧は、前記摩擦係合装置の入出力回転速度差に基づく該摩擦係合装置の急係合時の伝達トルク変化に対してベルト滑りが発生しない為の予め求められたベルト挟圧であることを特徴とする請求項8に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項10】
前記車両発進時に前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際には、前記電磁弁により前記摩擦係合装置の係合圧を上昇する為の所定の係合圧制御を実行して前記係合圧を前記摩擦係合装置の係合を維持する為の所定の係合維持圧まで上昇させると共に、前記係合圧制御の実行後は前記電磁弁により前記無段変速機のベルト挟圧を前記エンジンの出力トルクに応じた値に制御する為の所定のベルト挟圧制御へ移行させ、
前記摩擦係合装置の急係合により前記摩擦係合装置の係合圧を前記係合維持圧まで上昇させた後も、前記係合圧制御から前記ベルト挟圧制御へ移行させることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項11】
前記係合圧制御の実行中の前記エンジンの出力トルクの抑制中に前記無段変速機のベルト挟圧が前記所定ベルト挟圧以上に達しない場合には、前記摩擦係合装置が係合完了するまで前記エンジンの出力トルクを所定トルク以下に抑制し、前記摩擦係合装置が係合完了した後は前記無段変速機のベルト挟圧に基づくトルク容量に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させることを特徴とする請求項10に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項12】
前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とを上昇させる際とは、前進走行ポジションでの車両の一時停止時に前記エンジンが自動的に停止状態とされたことに伴って前記摩擦係合装置の係合圧と前記無段変速機のベルト挟圧とが最低値に低下した状態から、所定のエンジン再始動条件が成立して前記エンジンが自動的に再始動した後の車両発進時であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の車両用無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−106505(P2011−106505A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259878(P2009−259878)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】