説明

車両用自動制動装置

【課題】例えばエンジンブレーキが生じているときに摩擦ブレーキによる自動制動制御が行われた場合にも、滑らかなブレーキフィーリングを確保する。
【解決手段】車輪WL,WLに対し駆動トルクを付与するトルク付与手段TAと、これらの車輪に生ずるトルクを抑制するトルク抑制手段TRと、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて各車輪に対し制動トルクを付与する摩擦ブレーキ手段FBと、ブレーキペダル操作とは独立して摩擦ブレーキ手段を自動的に駆動して制動トルクを付与する自動ブレーキ制御手段ABを備える。この自動ブレーキ制御手段による制動トルクの付与開始後、車両の減速状態に応じた所定時間の間、トルク抑制解除手段CRによって上記トルクの抑制を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦ブレーキ手段をブレーキ操作部材の操作とは独立して自動的に駆動して制動トルクを付与する自動ブレーキ制御手段を備えた車両用自動制動装置に関し、特に、例えばエンジンブレーキによって車輪に対し抑制トルクが付与されているときに、摩擦ブレーキによる自動制動制御が行われる車両用自動制動装置に係る。
【背景技術】
【0002】
近時の車両においては、車両前方の先行車両との車間距離や速度差を計測し、減速の必要性が生じた場合に、運転者がアクセル操作していなければ、自動的に制動作動を行い、運転車両を減速させる自動ブレーキ制御(例えばACC(Adaptive Cruise Control)と呼ばれる)が要求され、これを可能とする制御装置が普及しつつある。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、「先行車までの車間距離を検出し、その車間距離が適正な値となるように車速あるいは制駆動力を制御する制駆動力制御装置」を従来技術とし、「車両の乗り心地の向上と、全車速域で応答性に優れた制駆動力制御を実現すること」ことを目的として、「車間距離や車速、或いは制駆動力を制御する走行制御装置の駆動輪軸トルクを制御する制駆動力制御装置」が提案されている。そして、この装置により、「制駆動力指令値に応じたエンジントルク指令値を演算し、該エンジントルク指令値とエンジン回転数からスロットルアクチュエータのスロットル開度指令値を演算する。次に、該スロットル開度指令値の下限値を車両の走行状況に応じて可変として演算し、この下限値に応じてスロットル開度を制限する。次に、該スロットル開度指令値の下限値とエンジン回転数からエンジントルクを演算し、該エンジントルク下限値に応じた制駆動力補正値を演算する。次に、制駆動力指令値と制駆動力補正値を入力し、ブレーキアクチュエータ操作量を演算するようにしたので、走行状況に応じてスロットル開度の下限値を設定することができる。」旨記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−268558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載の制駆動力制御装置においては、要するに、所謂エンジンブレーキと摩擦ブレーキを協調制御することによって目標減速度を確保することが企図されている。しかし、例えば、エンジントルクに変動があると、車両減速度に反映されるまでに遅れが生ずるが、この遅れ分を摩擦ブレーキで補償することは困難である。
【0006】
即ち、エンジンを含むパワートレーン系から車輪(駆動輪)に伝達されるトルクとして、パワートレーン系によって付与される駆動トルクと、エンジンブレーキ等によって駆動方向と反対の抑制方向に働くトルク(負の駆動トルクであり、以下、抑制トルクという)があるが、この抑制トルクを正確に推定することは困難である。従って、車輪に生ずるトルクを摩擦ブレーキによって減少させる制動トルクと上記の抑制トルクを協調制御することは極めて困難であり、これを摩擦ブレーキのみによって行うことは至難である。尚、車輪(駆動輪)に付与されるトルクとしては、抑制トルクも、制動トルクと同様、車輪停止方向に付与されるトルクであり、これらは何れも制動力となるものであるが、本願においては、出所を明確にするため、これらを区別して説明する。
【0007】
そこで、本発明は、例えばエンジンブレーキによって車輪に対し抑制トルクが付与されているときに、摩擦ブレーキによる自動制動制御が行われた場合にも、滑らかなブレーキフィーリングを確保し得る車両用自動制動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、車両の少なくとも一対の車輪に対し駆動トルクを付与するトルク付与手段と、該トルク付与手段による駆動トルク付与対象の車輪に生ずるトルクを抑制するトルク抑制手段と、前記車輪に対し運転者によるブレーキ操作部材の操作に応じて制動トルクを付与する摩擦ブレーキ手段と、該摩擦ブレーキ手段を前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して自動的に駆動して制動トルクを付与する自動ブレーキ制御手段と、該自動ブレーキ制御手段による制動トルクの付与開始後、前記車両の減速状態に応じた所定時間の間、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除するトルク抑制解除手段とを備えることとしたものである。
【0009】
更に、請求項2に記載のように、車両の減速度を検出する減速検出手段を備えたものとし、前記トルク抑制解除手段は、前記減速検出手段が検出した減速度が所定の基準減速度を越えているときに、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除することとするとよい。また、請求項3に記載のように、前記車両の走行路面傾斜の変化を含む車両走行状態を判定する車両走行状態判定手段を備えたものとし、前記トルク抑制解除手段は、前記車両走行状態判定手段が判定した前記走行路面傾斜の変化に応じて、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除することとしてもよい。
【0010】
更に、請求項4に記載のように、前記減速検出手段が検出した前記減速度に対して制御目標とする目標減速度を設定し、該目標減速度の変化に応じて前記所定時間を設定するとよい。あるいは、請求項5に記載のように、前記トルク抑制手段による抑制トルクの変化に応じて前記所定時間を設定してもよい。
【0011】
更に、請求項6に記載のように、前記車両前方の状態を検出するレーダ手段を備えたものとし、前記自動ブレーキ制御手段は、前記レーダ手段の検出結果に応じて前記車両の各車輪に対し前記制動トルクを付与することとするとよい。
【0012】
また、請求項7に記載のように、前記トルク付与手段が、前記車両に搭載されるパワートレーンを構成するエンジンを含むものとし、前記トルク抑制手段は、前記駆動トルク付与対象の車輪に生ずるトルクを前記エンジンのエンジンブレーキによって抑制することとするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の車両用自動制動装置においては、トルク抑制解除手段を備え、自動ブレーキ制御手段による制動トルクの付与開始後、車両の減速状態に応じた所定時間の間、トルク抑制手段によるトルクの抑制を解除するように構成されているので、例えばエンジンブレーキが生じても、これによる影響を抑え、滑らかなブレーキフィーリングを確保することができる。
【0014】
更に、請求項2に記載のように、減速検出手段を備えたものとし、トルク抑制解除手段は、減速度が所定の基準減速度を越えているときに、トルクの抑制を解除することとすれば、外乱によって不安定な制御状態となることを回避することができる。また、請求項3に記載のように、車両走行状態判定手段を備えたものとし、判定結果の走行路面傾斜の変化に応じてトルクの抑制を解除することとすれば、走行状態に応じて適切にトルク抑制解除を行うことができる。更に、トルク抑制手段によってトルクの抑制を解除する所定時間について、請求項4に記載のように目標減速度の変化に応じて設定することとし、あるいは請求項5に記載のように、抑制トルクの変化に応じて設定することとすれば、適切なトルク抑制解除設定が可能となる。
【0015】
また、請求項6に記載のように、車両前方の状態を検出するレーダ手段を備えたものとし、自動ブレーキ制御手段により、レーダ手段の検出結果に応じて車輪に対し制動トルクを付与することとすれば、円滑な車間距離制御を行うことができる。特に、請求項7に記載のように、エンジンによってトルク付与手段を構成すると共に、トルク抑制手段を、駆動トルク付与対象の車輪に生ずるトルクをエンジンブレーキによって抑制する構成とすれば、従前の装置によって車間距離制御を円滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る車両用自動制動装置の概要を図1に示し、この自動制動装置を備えた車両の全体構成を図2に示している。先ず、図1において、車両の少なくとも一対の車輪WL,WLに対し駆動トルクを付与するトルク付与手段TAと、このトルク付与手段TAが付与する駆動トルク付与対象の車輪WLに生ずるトルクを抑制するトルク抑制手段TRと、各車輪WLに対し運転者によるブレーキ操作部材(図2に示すブレーキペダルBPを含む)の操作に応じて制動トルクを付与する摩擦ブレーキ手段FBと、摩擦ブレーキ手段FBをブレーキ操作部材の操作とは独立して自動的に駆動して制動トルクを付与する自動ブレーキ制御手段ABを備えている。そして、自動ブレーキ制御手段ABによる制動トルクの付与開始後、車両の減速状態に応じた所定時間の間、トルク抑制手段TRによるトルクの抑制を解除するトルク抑制解除手段CRを備えている。
【0017】
更に、図1に破線で示すように、車両の減速度を検出する減速検出手段GDを備えたものとし、この減速検出手段GDの検出減速度が所定の基準減速度を越えているときに、トルク抑制手段TRによるトルクの抑制を解除するように、トルク抑制解除手段CRを構成するとよい。更に、車両前方の状態を検出し例えば車間距離制御を行うレーダ手段RDを備えている場合には、自動ブレーキ制御手段ABは、レーダ手段RDの検出結果に応じて各車輪WLに対し制動トルクを付与するように構成される。トルク付与手段TAは、車両に搭載されるパワートレーン(図示せず)を構成する内燃機関(以下、エンジンEGという)を含み、この場合には、トルク抑制手段TRは、駆動トルク付与対象の車輪WLに生ずるトルクをエンジンブレーキによって抑制するように構成される。更に、トルク抑制手段TRとしては、所謂リターダを用いることとしてもよい。尚、本実施形態では、一対の車輪WL,WLに対し車輪毎の駆動トルク及び制動トルクを制御対象としているが、もちろんこれらの車輪WL,WLを連結する車軸のトルクを(両者のトルクを代表して)制御対象としてもよく、当然ながら本発明に包含される。
【0018】
図2は上記の自動制動装置の一実施形態を含む車両の全体構成を示すもので、先ず、本実施形態のパワートレーン系は、スロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを有するエンジンEGを備え、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてスロットル開度が制御される。また、電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THが駆動されスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。本実施形態のエンジンEGは変速制御装置GS及びディファレンシャルギヤDFを介して車両後方の車輪RL,RRに連結されており、所謂後輪駆動方式が構成されているが、本発明における駆動方式はこれに限定するものではなく、前輪駆動方式でもよく、更には四つの車輪全てを駆動輪とする四輪駆動方式としてもよい。
【0019】
次に、本実施形態の制動系については、車輪FL,FR,RL,RRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置BCが接続されている。図2において車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示している。このブレーキ液圧制御装置BCは複数の電磁弁及び自動液圧発生源(液圧ポンプ)等から成り、自動加圧可能な液圧回路構成とされている。これは従前の一般的な装置と同様であるが、図7を参照して後述する。尚、操舵系は、例えば電動パワーステアリングシステム(EPS)が用いられるが、本発明とは直接関係しないので、説明は省略する。
【0020】
図2に示すように、車輪FL,FR,RL,RRには車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。また、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるストップスイッチST、前述の減速検出手段GDとして車両の前後加速度Gx(以下では、減速度をGbで表す)を検出する前後加速度センサXG、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサYG、車両のヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサYS等が電子制御装置ECUに接続されている。これらの検出信号に基づき、電子制御装置ECUにおいて車両の走行路面傾斜の変化を含む車両走行状態を判定することができる。例えば、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出車輪速度の微分値と前後加速度センサXGの出力の比較結果に基づいて路面勾配変化を判定することができる。従って、上記のセンサ等及び電子制御装置ECUによって、種々の車両走行状態を判定する車両走行状態判定手段VDが構成される。更に、本実施形態ではレーダセンサRSが電子制御装置ECUに接続されている。これは、レーダ手段RDを構成するもので、レーザレーダやミリ波レーダ(図示せず)を含む種々の装置が市販されている。
【0021】
電子制御装置ECU内には、エンジン制御システム、ブレーキ制御システム、車間距離制御システム及び操舵制御システムが通信バスを介して接続されており、各システム間で互いのシステム情報を共有することができるように構成されている。このうち、エンジン制御システムは、CPU、ROM及びRAMを備えたエンジン制御ユニットECU1において、スロットル開度、点火時期、燃料噴射量等が演算され、このエンジン制御ユニットECU1に、スロットル開度制御等を行う各アクチュエータ(図示せず)が接続されている。また、ブレーキ制御システムは、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TRC)、車両の安定性維持制御(VSC)、自動制動制御(ACC)等を行なうもので、これらのブレーキ制御用のCPU、ROM及びRAMを備え、後述の各種補正値等が演算されるブレーキ制御ユニットECU2に、車輪速度センサ(代表してWSで表す)、液圧センサ(図示せず)、ストップスイッチST、ヨーレイトセンサYS、前後加速度センサXG及び横加速度センサYG等が接続されると共に、各アクチュエータ(図示せず)に接続されている。
【0022】
そして、車間距離制御システムは、同制御用のCPU、ROM及びRAMを備えた車間距離制御ユニットECU3にレーダセンサRS等が接続され、ここで車間距離、先行車両との相対速度、目標車両速度、目標減速度等が演算され、ブレーキ制御ユニットECU2を介して自動制動制御を行い得るように構成されている。尚、操舵制御システムは操舵制御ユニットECU4に接続されている。これらの制御ユニットECU1乃至4は夫々、通信用のCPU、ROM及びRAMを備えた通信ユニット(図示せず)を介して通信バスに接続されている。而して、各制御システムに必要な情報を他の制御システムから送信することができる。
【0023】
上記のように構成された車両において、自動制動制御を行うときの処理に関し、図3のフローチャート及び図4のタイムチャートを参照して説明する。先ず、図3のステップ101において、入力処理として、各種センサ信号が入力され車輪速度、前後加速度、横加速度、ヨーレイト、車間距離等が読み込まれると共に、各制御ユニットECU1乃至4で演算された各種情報も通信信号によって読み込まれる。次に、ステップ102において、摩擦ブレーキ手段FBによって制動トルクが付与されている状態か否かが判定され、制動作動中でなければそのままメインルーチン(図示せず)に戻る。制動作動中であれば、ステップ103に進み、前回の演算サイクルでは摩擦ブレーキ手段FBによって制動トルクが付与されている状態か否かが判定される。
【0024】
前回の演算サイクルでは制動作動中でなければステップ104に進み、車両の減速度Gbが所定の不感帯Zbの領域内か否かが判定され、不感帯Zbの領域内に入っていなければ、ステップ105にて抑制解除時間Tdが、例えばTd=Go*Ko、あるいはTd=Gt*Ktとして演算される。ここで、Ko及びKtは補正係数である。更に、この抑制解除時間Td及び判定時の減速度Goに基づき、ステップ106において補正減速度Ghが演算される。
【0025】
上記の抑制解除時間Tdは、自動ブレーキ制御時の目標減速度Gtの変化に応じて設定するとよく、例えば図5に示すように、目標減速度勾配dGtに応じたマップに基づいて設定するとよい。摩擦ブレーキ手段FBによる制動トルクの付与開始時、即ち摩擦ブレーキ開始時(図4及び図5のt0時)からの目標減速度Gtの勾配dGtが大きい場合には、抑制解除時間Tdを長く設定し、勾配dGtが小さい場合には、抑制解除時間Tdを短く設定するとよい。目標減速度Gtの勾配dGtが大きい場合は急激な減速度の立ち上がりが必要となるため、抑制解除時間Tdを短く設定すると、摩擦ブレーキの応答遅れによって車両全体として減速度不足が発生する。逆に、目標減速度Gtの勾配dGtが小さい場合は摩擦ブレーキの応答遅れの影響が小さいため、抑制解除時間Tdを短く設定することが可能である。
【0026】
また、抑制トルクの変化に応じて抑制解除時間Tdを設定することとしてもよく、その場合には、例えば図6に示すような非線形のマップに基づいて抑制解除時間Tdが設定される。図6においてt0は摩擦ブレーキ手段FBによる制動トルクの付与開始時を示す。前述のように、摩擦ブレーキ開始初期は応答遅れが発生するため、車両全体として減速度不足が発生する可能性がある。このため、エンジンブレーキ分を図6に示すように非線形の特性をもたせ、初期の応答遅れを補完するように設定してもよい。
【0027】
図4に戻り、ステップ106において上記抑制解除時間Td、及び摩擦ブレーキ手段FBによって制動トルクが付与されたとき、即ち摩擦ブレーキ開始時(図4のt0時)の減速度Goに基づき、補正減速度Ghが、Gh=Go*(Tc/Td)*K1*K2*K3*K4として演算される。ここで、Tcは摩擦ブレーキ開始後の経過時間、K1は車両走行抵抗補正係数、K2は摩擦ブレーキ開始後の路面勾配変化補正係数、K3はシフト変化補正係数、そしてK4は車速変化補正係数である。上記の(Tc/Td)は、抑制解除時間Tdに対する経過時間Tcの割合を意味し、経過時間Tc時の補正減速度GhがGo*(Tc/Td)とされる。
【0028】
上記の車両走行抵抗補正係数K1は、車両に対する空気抵抗、タイヤのころがり抵抗等に応じて車両毎に設定されるもので、前者の空気抵抗は車速依存性があるので、例えば前述の車輪速度センサWS1乃至WS4の検出車輪速度に基づき推定車体速度を演算し、この演算結果を各車両特有の値に乗ずることによって求められる。また、路面勾配変化補正係数K2は、摩擦ブレーキ開始後の路面勾配の変化に応じて設定する補正係数である。この路面勾配を検出するため、傾斜センサ(図示せず)を付設することとしてもよいが、前述のように車輪速度センサWS1乃至WS4の検出車輪速度の微分値と前後加速度センサXGの出力の比較結果に基づいて路面勾配変化を判定することができる。シフト変化補正係数K3は、変速制御装置GSのシフト変化に応じて設定する補正係数で、変速制御装置GSに内蔵されたセンサ(図示せず)の変速位置信号に基づいて設定される。そして、車速変化補正係数K4は、例えば車輪速度センサWS1乃至WS4の検出車輪速度に基づいて演算される推定車体速度の変化に応じて設定される。而して、これらの補正係数K1乃至K4は車両走行状態判定手段VDの判定結果に基づいて設定される。
【0029】
一方、ステップ104において車両の減速度Gbが所定の不感帯Zbの領域内に入っていると判定された場合には、ステップ107に進み、抑制トルクに相当する制動トルク補正値Bhが零(0)とされて、後述のステップ113に進む。また、ステップ103において、前回の演算サイクルで摩擦ブレーキ手段FBによって制動トルクが付与されている状態と判定された場合には、ステップ108に進み、制動トルク補正値Bhが零(0)でないか否かが判定され、零(0)でなければエンジンブレーキが大と判定され、ステップ109に進む。制動トルク補正値Bhが零(0)と判定された場合にはエンジンブレーキが小と判定され、ステップ113にジャンプする。ステップ109においては、摩擦ブレーキ開始時(t0)の減速度Goが目標減速度Gtと比較され、減速度Goが目標減速度Gtより大と判定されると、ステップ110において、補正減速度Ghが前述のステップ106と同様、Gh=Go*(Tc/Td)*K1*K2*K3*K4に基づいて演算される。
【0030】
ステップ109において減速度Goが目標減速度Gt以下と判定されると、ステップ111にて補正減速度Ghが零(0)とされて、ステップ112に進む。ステップ112においては、補正減速度Ghに基づき制動トルク補正値Bhが、Bh=Gh*K5として求められ(換算され)、ステップ113に進む。ここで、K5は減速度から制動トルクへの換算係数である。尚、図4の最下段に示すBhoは摩擦ブレーキ開始時の減速度Goをトルク換算した値である。ステップ113においては、減速度Goと目標減速度Gtの差に基づき、基準減速度Gsのトルク換算値GstがGst=(Gt−Go)*K6として求められる。ここで、K6は減速度から制動トルクへの換算係数である。
【0031】
そして、ステップ114に進み、摩擦ブレーキ手段FBによって付与される制動トルクBfが、基準減速度Gsのトルク換算値Gstと補正減速度Ghのトルク換算値Ghtとの和(Bf=Gst+Ght)として求められる。而して、ステップ115に進み、自動ブレーキ制御における制動トルクBfに対する減速度フィードバック制御が行われ、ステップ116にて制動トルクBfが出力されると共に、ステップ117において駆動トルクが例えばスロットル開度に換算されて出力される。
【0032】
図7は、図2のブレーキ液圧制御装置BCを含むブレーキ液圧系の一例を示すもので、図1の摩擦ブレーキ手段FB及び自動ブレーキ制御手段ABを構成し得る。先ず、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してタンデム型のマスタシリンダMCが倍圧駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。マスタシリンダMCの第1の圧力室MCaは車輪FR,RL側の第1の液圧系統HC1に連通接続され、第2の圧力室MCbは車輪FL,RR側の第2の液圧系統HC2に連通接続され、所謂X配管が構成されているが、前後配管としてもよい。
【0033】
第1の液圧系統HC1においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続され、主液圧路MFには比例差圧弁PDaが介装されている。この比例差圧弁PDaの連通位置と差圧位置が電子制御装置ECU(ブレーキ制御ユニットECU2)によって切り換えられ、差圧位置ではマスタシリンダMC側の液圧と常開弁NOfr、NOrl側の液圧との差圧に応じて流路が制限されて所望の圧力に調整される。更に、比例差圧弁PDaに対して並列に、マスタシリンダMCから下流側(ホイールシリンダWfr,Wrl方向)へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されており、比例差圧弁PDaが閉位置であっても、ブレーキペダルBPが踏み込まれた場合にはホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液圧が増圧され得る。
【0034】
分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開弁NOfr及びNOrlが介装されている。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、常閉弁NCfr及びNCrlが介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRSaに接続されている。車輪FR,RL側の第1の液圧系統HC1においては、液圧ポンプHP1が介装され、吐出側はダンパDP1を介して夫々常開弁NOfr及びNOrlに接続され、吸込側にリザーバRSaが接続されている。液圧ポンプHP1は電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。車輪FL,RR側の第2の液圧系統HC2においても同様に、比例差圧弁PDbをはじめ、ダンパDP2、常開弁NOfl及びNOrr、常閉弁NCfl及びNCrr、逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。
【0035】
而して、電子制御装置ECUによって比例差圧弁PDa(及びPDb)の連通位置と差圧位置が切り換えられ、差圧位置ではマスタシリンダMC側の液圧と常開弁NOfr、NOrl側の液圧との差圧に応じて流路が制限されて所望の圧力に調整される。この場合において、常開弁NOfr、NOrl等が所謂カット弁として機能する。而して、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて車輪FR等に制動トルクを付与することができると共に、ブレーキペダルBPとは独立して自動的に車輪FR等に制動トルクを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用自動制動装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用自動制動装置を備えた車両の全体構成を示す構成図である。
【図3】本発明の一実施形態において摩擦ブレーキによる自動制動制御が行われるときの処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態において摩擦ブレーキによる自動制動制御が行われるときの処理を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の一実施形態において、トルク抑制解除手段による抑制解除時間を設定するためのマップの一例を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態において、トルク抑制解除手段による抑制解除時間を設定するためのマップの他の例を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態におけるブレーキ液圧装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0037】
TA トルク付与手段
TR トルク抑制手段
FB 摩擦ブレーキ手段
AB 自動ブレーキ制御手段
CR トルク抑制解除手段
GD 減速検出手段
VD 車両走行状態判定手段
RD レーダ手段
EG エンジン
TH スロットル制御装置
FI 燃料噴射装置
ECU 電子制御装置
BP ブレーキペダル
WL,FR,FL,RR,RL 車輪
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも一対の車輪に対し駆動トルクを付与するトルク付与手段と、該トルク付与手段による駆動トルク付与対象の車輪に生ずるトルクを抑制するトルク抑制手段と、前記車両の各車輪に対し運転者によるブレーキ操作部材の操作に応じて制動トルクを付与する摩擦ブレーキ手段と、該摩擦ブレーキ手段を前記ブレーキ操作部材の操作とは独立して自動的に駆動して制動トルクを付与する自動ブレーキ制御手段と、該自動ブレーキ制御手段による制動トルクの付与開始後、前記車両の減速状態に応じた所定時間の間、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除するトルク抑制解除手段とを備えたことを特徴とする車両用自動制動装置。
【請求項2】
前記車両の減速度を検出する減速検出手段を備え、前記トルク抑制解除手段は、前記減速検出手段が検出した減速度が所定の基準減速度を越えているときに、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除することを特徴とする請求項1記載の車両用自動制動装置。
【請求項3】
前記車両の走行路面傾斜の変化を含む車両走行状態を判定する車両走行状態判定手段を備え、前記トルク抑制解除手段は、前記車両走行状態判定手段が判定した前記走行路面傾斜の変化に応じて、前記トルク抑制手段による前記トルクの抑制を解除することを特徴とする請求項1記載の車両用自動制動装置。
【請求項4】
前記減速検出手段が検出した前記減速度に対して制御目標とする目標減速度を設定し、該目標減速度の変化に応じて前記所定時間を設定することを特徴とする請求項1記載の車両用自動制動装置。
【請求項5】
前記トルク抑制手段による抑制トルクの変化に応じて前記所定時間を設定することを特徴とする請求項1記載の車両用自動制動装置。
【請求項6】
前記車両前方の状態を検出するレーダ手段を備え、前記自動ブレーキ制御手段は、前記レーダ手段の検出結果に応じて前記車両の各車輪に対し前記制動トルクを付与することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の車両用自動制動装置。
【請求項7】
前記トルク付与手段が、前記車両に搭載されるパワートレーンを構成するエンジンを含み、前記トルク抑制手段が、前記駆動トルク付与対象の車輪に生ずるトルクを前記エンジンのエンジンブレーキによって抑制することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の車両用自動制動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−120416(P2007−120416A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314176(P2005−314176)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】