説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】電気式差動部と変速部とを備える車両用駆動装置において、変速部の変速に際して、電気式差動部を適切に制御することにより変速ショックを抑制する。
【解決手段】自動変速部20の変速中には、その変速に伴って実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制するように一時的に変速M1トルクTFFM1が出力され、自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNに基づいてその回転速度差ΔNを抑制する方向に、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点が学習制御により補正されるので、自動変速部20の変速に際して実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動が可能な差動機構を有する電気式差動部と動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、変速部が変速されたときの電気式差動部の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行用駆動力源に動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備えた車両用駆動装置が良く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置がそれである。この車両用駆動装置においては、遊星歯車装置とその遊星歯車装置のサンギヤに連結された差動用電動機としての第1電動機とリングギヤに連結された第2電動機とを有する電気式差動部と、その電気式差動部の出力側(リングギヤ)に連結されて動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備え、それら第1電動機及び第2電動機の運転状態を制御することにより、遊星歯車装置のキャリアから入力されるエンジンからの入力回転速度と出力部材としてのリングギヤの出力回転速度との差動状態が制御されるように構成されている。この差動状態が制御されるときには、第1電動機がエンジンの出力トルクに対応する反力トルクを発生することによりエンジンの出力トルクが電気式差動部の出力トルクとして電気式差動部の出力側へ伝達される。
【0004】
このような車両用駆動装置において、例えばエンジン走行中には、差動用電動機の運転状態を制御することにより車速に拘束される変速部の入力側回転速度すなわち電気式差動部の出力側回転速度に拘わらずエンジン回転速度を目標のエンジン回転速度に制御することができる。この際、エンジン回転速度が目標エンジン回転速度となるように、例えば差動用電動機の出力トルクを制御するフィードバック制御が実行される。
【0005】
【特許文献1】特開2006−321392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、変速部の変速に伴って変速部の連結された電気式差動部を構成する回転部材(例えば出力側の回転部材)の回転速度が変化させられることから、変速時以外の定常時に比べて実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に対して大きく乖離し易くなり、変速部が変速させられた際にはエンジン回転速度を目標エンジン回転速度に制御するフィードバック制御により差動用電動機の出力トルクが一層増大させられる。そうすると、電気式差動部の出力トルクも一層増大させられて、変速中の変速機へ入力される変速機入力トルクも一層増大させられ、例えば変速部の変速に関与する油圧制御が適切に実行されずに変速ショックが生じる可能性があった。
【0007】
このような課題に対して、上記変速ショックを抑制する為に、例えば実エンジン回転速度と目標エンジン回転速度との回転速度差に基づくフィードバック制御による差動用電動機の出力トルクを出力することに加え、変速部の変速に伴って変速部の入力側回転速度(すなわち電気式差動部を構成する回転部材の回転速度)が変化し始めるイナーシャ相開始に合わせて、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に対して乖離することを抑制するように例えばフィードフォワート制御により差動用電動機の所定の出力トルクを一時的に出力することが考えられる。この際、イナーシャ相開始は、例えば変速部の入力側回転速度の検出値(例えば第2電動機回転速度の検出値)が所定の判定量以上変化したことに基づいて判定される。しかしながら、上記検出値は、例えば回転速度センサにて検出した信号のノイズ除去フィルタによるなまし時間、その信号が伝送される際の通信時間、マイクロコンピュータによる処理周期のタイミングなどにより、実際値の変化に対して時間差を持って認識された値である。そのため、実際のイナーシャ相開始時点と検出値に基づいたイナーシャ相開始の判定時点とが一致せず、イナーシャ相開始が判定された時点では既に実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に対して大きく乖離してしまい、変速ショックが適切に抑制されない可能性がある。尚、上記変速ショックが発生することを含めこのような課題は未公知である。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電気式差動部と変速部とを備える車両用駆動装置において、変速部の変速に際して、電気式差動部を適切に制御することにより変速ショックを抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 走行用駆動力源に動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記走行用駆動力源から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記変速部の変速中には、その変速に伴って前記走行用駆動力源の回転速度が予め定められた目標回転速度に対して乖離することを抑制するように、一時的に前記差動用電動機の所定の出力トルクを出力するものであり、(c) 前記変速部の変速中における前記走行用駆動力源の回転速度と前記目標回転速度との回転速度差に基づいてその回転速度差を抑制する方向に、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を学習制御により補正することにある。
【発明の効果】
【0010】
このようにすれば、電気式差動部と変速部とを備える車両用駆動装置の制御装置において、前記変速部の変速中には、その変速に伴って前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度に対して乖離することを抑制するように一時的に前記差動用電動機の所定の出力トルクが出力され、前記変速部の変速中における前記走行用駆動力源の回転速度と前記目標回転速度との回転速度差に基づいてその回転速度差を抑制する方向に、前記所定の出力トルクを出力する開始時点が学習制御により補正されるので、変速部の変速に際して前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度に対して乖離することが適切に抑制される。仮に、例えば走行用駆動力源が前記目標回転速度となるように回転速度と目標回転速度との回転速度差に基づいて差動用電動機の出力トルクを制御するフィードバック制御が実行される場合、変速に伴う回転変化による前記走行用駆動力源の回転速度と目標回転速度との回転速度差が大きい程差動用電動機の出力トルクが増大させられて変速ショックが生じる可能性があるが、変速部の変速中に走行用駆動力源の回転速度が目標回転速度に対して乖離することが適切に抑制されることから、差動用電動機の出力トルクの増大が抑制されて上記変速ショックを抑制することができる。
【0011】
ここで、好適には、前記所定の出力トルクを出力する開始時点は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相が実際に開始される時点に対応するものである。このようにすれば、変速に伴って変速部の入力回転速度が実際に変化し始める時点に合わせて前記所定の出力トルクの出力が開始されて、変速部の変速に際して前記走行用駆動力源の回転速度が目標回転速度に対して乖離することが適切に抑制される。
【0012】
また、好適には、前記学習制御の基となる前記変速部の変速中における前記回転速度差は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相中の所定の時点の値である。このようにすれば、前記差動用電動機の前記所定の出力トルクを出力する開始時点が学習制御により適切に補正される。
【0013】
また、好適には、前記学習制御の基となる前記変速部の変速中における前記回転速度差は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相中において最大となる回転速度差の値である。このようにすれば、前記差動用電動機の前記所定の出力トルクを出力する開始時点が学習制御により適切に補正される。
【0014】
また、好適には、前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度となるように、前記回転速度差に基づいて前記差動用電動機の出力トルクをフィードバック制御するものであり、前記所定の出力トルクは、前記回転速度差に基づくフィードバック制御による前記差動用電動機の出力トルクに加えて、前記変速部の変速中に一時的に出力される。このようにすれば、変速部の変速中に走行用駆動力源の回転速度が目標回転速度に対して乖離することが適切に抑制されることから、フィードバック制御による差動用電動機の出力トルクの増大が抑制されて変速ショックを抑制することができる。
【0015】
また、好適には、前記回転速度差が、前記変速部の変速に伴って前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度に対して乖離する方向を示すときには、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を早くするように補正し、前記回転速度差が、前記乖離する方向とは反対方向を示すときには、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を遅くするように補正する。このようにすれば、前記差動用電動機の前記所定の出力トルクを出力する開始時点が学習制御により一層適切に補正される。
【0016】
また、好適には、前記走行用駆動力源としては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。さらに、補助的な走行用動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。或いは、走行用駆動力源として電動機のみが用いられても良い。
【0017】
また、好適には、前記エンジンの所定の動作状態を実現するため予め設定されたエンジンの動作曲線の一種である最適燃費率曲線にエンジンの動作点が沿わされつつエンジンが作動させられるように前記電気式差動部の変速比つまり差動状態が制御される。このようにすれば、前記差動用電動機の運転状態の制御によりエンジンの最適燃費が実現するようにエンジンが作動させられて燃費向上を図ることが可能となる。ここで、上記エンジンの動作点とはそのエンジンの回転速度及び出力トルクなどで示されるそのエンジンの動作状態を示す動作点である。
【0018】
また、好適には、前記差動機構は、前記走行用駆動力源(エンジン)に動力伝達可能に連結された第1要素と前記差動用電動機に動力伝達可能に連結された第2要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、差動機構が簡単に構成される。
【0019】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0020】
また、好適には、前記変速部の変速比と前記電気式差動部の変速比とに基づいて前記車両用駆動装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、上記変速部の変速比を利用することで駆動力が幅広く得られるようになる。
【0021】
また、好適には、前記走行用駆動力源(エンジン)と駆動輪との間の動力伝達経路において、前記走行用駆動力源、前記電気式差動部、前記変速部、前記駆動輪の順に連結されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用駆動装置10(以下、駆動装置10と表す)を説明する骨子図であり、この駆動装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、駆動装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この駆動装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0024】
このように、本実施例の駆動装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、駆動装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0025】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。
【0026】
本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れも電力授受可能に構成されたものである。すなわち、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、駆動装置10において、電動機Mは何れも主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0027】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、駆動装置10の筐体であるケース12内に備えられ、駆動装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0028】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0029】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0030】
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0031】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0032】
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、動力分配機構16(差動部11)と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部に設けられた動力伝達を選択的に遮断可能な係合装置であり、すなわち、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0033】
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0034】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合装置すなわち油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0035】
以上のように構成された駆動装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0036】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度N18(以下、「伝達部材回転速度N18」と表す)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。従って、駆動装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、駆動装置10において無段変速機が構成される。この駆動装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される駆動装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0037】
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、駆動装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0038】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、駆動装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0039】
例えば、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、自動変速部20の第4速ギヤ段において差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0040】
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される駆動装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0041】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0042】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の駆動装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0043】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、第1電動機M1の回転速度NM1を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度Nが上昇或いは下降させられる。
【0044】
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度Nと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0045】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0046】
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0047】
図4は、本実施例の駆動装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0048】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0049】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力P(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力P」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧Pを調圧するための信号、そのライン油圧Pが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0050】
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0051】
そのシフトレバー52は、駆動装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、駆動装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる駆動装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0052】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0053】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0054】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0055】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0056】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0057】
図7の変速線図において、アップシフト線(実線)はアップシフトが判断されるための変速線であり、ダウンシフト線(一点鎖線)はダウンシフトが判断されるための変速線である。また、この図7の変速線図における変速線は、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。つまり、この変速点は、車速Vと要求出力トルクTOUTとに基づいて変速比(変速段)を設定するものであるとも言える。
【0058】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段86と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段88とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御を実行する。
【0059】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)Pを算出し、その目標エンジン出力Pが得られるエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0060】
以上のように、駆動装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γと、ハイブリッド制御手段84によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段84及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して駆動装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0061】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NとエンジントルクTとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた例えば図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線L(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線Lにエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)PEGが沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、駆動装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように第1電動機M1の出力トルク(以下、「第1電動機トルク」と表す)TM1をフィードバック制御により変化させて差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0062】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、電気エネルギによりその第2電動機M2から出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る第1電動機M1による電気エネルギの発生から駆動に係る第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0063】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0064】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度Nを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Nを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段84(エンジン駆動制御手段86)は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力Pを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0066】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えば第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶された、走行用の駆動力源をエンジン8と電動機Mとで切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する関係(駆動力源切換線図、駆動力源マップ)から、実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。図7の実線Aに示す駆動力源マップは、例えばその図7における実線及び一点鎖線に示す変速マップと共に予め記憶されたものである。この図7から明らかなように、ハイブリッド制御手段84によるモータ走行制御は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクT域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。
【0068】
また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0070】
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段84は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0071】
ここで、前述したハイブリッド制御手段84により実行される最適燃費率曲線L(図8参照)に沿ってエンジン8が作動させられるように第1電動機トルクTM1を制御するフィードバック制御について以下に説明する。
【0072】
エンジン走行中において、ハイブリッド制御手段84はエンジン8の最適燃費率曲線Lにエンジン動作点PEGが沿ってエンジン8が作動するように動力分配機構16の変速比γ0を制御するが、そのためにハイブリッド制御手段84は目標エンジン回転速度決定手段90を備えている。この目標エンジン回転速度決定手段90は、例えば最適燃費率曲線L、アクセル開度Acc、車速V、及び自動変速部20の変速比γ(変速段)などに基づき、最適燃費率曲線Lにエンジン動作点PEGが沿わされつつ、アクセル開度Accに応じた要求駆動力を充足するために必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、エンジン回転速度Nの目標値である目標エンジン回転速度Nを予め決定する。そして、ハイブリッド制御手段84は、電動機作動制御手段88として、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度決定手段90により予め定められた目標エンジン回転速度NになるようにエンジントルクTに対抗する反力トルクである第1電動機トルクTM1を制御するフィードバック制御を実行する。このようにして、ハイブリッド制御手段84によってエンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nになるように第1電動機(差動用電動機)M1のフィードバック制御が実行されることにより、最適燃費率曲線Lにエンジン動作点PEGが沿ってエンジン8が作動する。
【0073】
ここで、第1電動機トルクTM1は上記のようにエンジン回転速度Nを目標エンジン回転速度Nに収束させる目的のほかエンジントルクTを駆動輪34に伝達するためにも必要とされる反力トルクであるので、第1電動機トルクTM1は、エンジントルクTを駆動輪34に伝達するための駆動用トルクと、エンジン回転速度Nを目標エンジン回転速度Nに収束させるために、下記式(1)の制御式に基づくフィードバック制御により発生させられ変化させられるフィードバックトルクTFBM1(以下、「第1電動機フィードバックトルクTFBM1」と表す)とに分けて考えることができる。すなわち、第1電動機トルクTM1は上記駆動用トルクと、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nと一致しているときには零になる第1電動機フィードバックトルクTFBM1との和で表されると考えることができる。従って、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機フィードバックトルクTFBM1を含む第1電動機トルクTM1を下記式(1)に基づいて決定することにより、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nになるように第1電動機トルクTM1を制御する前記フィードバック制御を実行すると言える。尚、下記式(1)の制御式で右辺第1項は比例項であり右辺第2項は積分項である。下記式(1)の「KP」は比例ゲイン、「KI」は積分ゲインをそれぞれ示しており、下記式(1)とその比例ゲインKPと積分ゲインKIとは第1電動機フィードバックトルクTFBM1の応答性と安定性とが両立するように予め実験的に設定されたものである。また、下記式(1)の制御式に基づく第1電動機M1のフィードバック制御は自動変速部20の変速中はもちろんのこと、非変速中すなわち変速時以外の定常時にも実行される。
【数1】

【0074】
ところで、自動変速部20が変速させられると自動変速部20の入力側回転速度すなわち伝達部材回転速度N18(=第2電動機回転速度NM2)が変化させられることから、変速時以外の定常時に比べて実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して大きく乖離し易くなり、上記式(1)に基づくフィードバック制御により第1電動機トルクTM1が一層増大させられる。そうすると、差動部11の出力側へ伝達されるトルクも一層増大させられて変速中の自動変速部20へ入力される変速機入力トルクも増大させられ、例えば油圧制御回路70における自動変速部20の変速に関与する油圧制御において一層増大した変速機入力トルクに適切に対応できずに変速ショックが生じる可能性がある。
【0075】
図9は、自動変速部20の変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して大きく乖離する場合の一例を共線図上に示す図である。図9において、変速前の実線の状態から、自動変速部20のダウンシフトに伴って伝達部材回転速度N18が上昇させられると、実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに略一致させられた変速後の破線の状態に対して、変速過程においては一点鎖線に示すように実エンジン回転速度Nと目標エンジン回転速度Nとが過渡的に(一時的に)大きく乖離させられる。
【0076】
そこで、本実施例では、上記変速ショックを抑制する為に、実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制するように、一時的に第1電動機M1の所定の出力トルクを出力する。この第1電動機M1の所定の出力トルクは、第1電動機フィードバックトルクTFBM1に加えて自動変速部20の変速中に一時的に出力するものであり、その変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを予め想定し、変速中に乖離することを予め抑制することで第1電動機フィードバックトルクTFBM1の増大を抑制して変速ショックを抑制するものである。このように、第1電動機M1の所定の出力トルクは、フィードバック制御に対するフィードフォワード制御により出力されるトルクと見ることができ、第1電動機フィードバックトルクTFBM1に対する第1電動機フィードフォワードトルクTFFM1であって、特に、変速中に出力されることから本実施例では変速M1トルクTFFM1と表す。
【0077】
変速M1トルクTFFM1は、変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを予め抑制する為の予め実験的に求められて定められた一定のトルク値や一定変化のトルク値であっても良いし、その一定のトルク値や一定変化のトルク値が1−2アップシフトや3−2ダウンシフト等の変速の種類毎に各々設定されていても良いし、或いは変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制するように自動変速部20の変速時の車両状態例えば車速Vやエンジン回転速度Nや変速の種類等に基づいて設定される一定のトルク値や一定変化のトルク値であっても良い。
【0078】
また、変速M1トルクTFFM1は、変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを予め抑制するものであることから、第2電動機回転速度NM2が変化させられる自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相の開始に合わせて出力されることが望ましい。ここで、上記イナーシャ相の開始は、例えば自動変速部20の第2電動機回転速度NM2が誤判定を防止する為の予め設定された所定の回転速度変化判定値例えば50rpm以上変化したことに基づいて判定されても良い。しかし、この第2電動機回転速度NM2は実際値に対してノイズ除去フィルタによるなまし時間、通信時間、マイクロコンピュータによる処理周期のタイミング等の時差を持って認識されたセンサ検出値であるため、実際のイナーシャ相が開始する時点とセンサ検出値に基づいたイナーシャ相開始の判定時点とが一致せず、イナーシャ相開始が判定された時点では既に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して大きく乖離してしまい、変速ショックが適切に抑制されない可能性がある。
【0079】
そこで、本実施例では、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相が実際に開始される時点として、自動変速部20の変速が判断された時点から所定の時間Tが経過した時点を設定し、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点とする。この所定の時間Tは、例えば1−2アップシフトや3−2ダウンシフト等の変速の種類毎に各々設定されており、電子制御装置80が備える例えば不揮発性メモリに自動変速部20の変速判断時点からの経過時間を計数して変速M1トルクTFFM1の出力開始時点を判断する際の基になる計数値CNTSFTとして保存されている。
【0080】
計数値CNTSFTは、例えば自動変速部20の変速判断時点から実際のイナーシャ相が開始する時点までの経過時間として見方を換えれば変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を判断する値として変速の種類毎に各初期値が予め実験的に求められて各々定められている。更に、この計数値CNTSFTは、実際のイナーシャ相が開始する時点すなわち変速M1トルクTFFM1の出力開始時点が一層適切なものとされて実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制される為に、自動変速部20の変速中における実エンジン回転速度Nと目標エンジン回転速度Nとの回転速度差ΔN(=N−N)に基づいてその回転速度差ΔNを抑制する方向に学習制御により補正される。
【0081】
より具体的には、図6に戻り、変速中判定手段92は、自動変速部20が変速中であるか否か、すなわち自動変速部20の変速判断が行われたか否か、及び自動変速部20の変速が終了したか否かを判断する。例えば、変速中判定手段92は、油圧制御回路70に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号が有段変速制御手段82によって出力されたか否かに基づいて自動変速部20の変速判断が行われたか否かを判断する。また、変速中判定手段92は、第2電動機回転速度NM2が変速後の同期回転速度NM2’(=変速後の自動変速部20の変速比γ×出力軸回転速度NOUT)と略一致したか否かに基づいて自動変速部20の変速が終了したか否かを判断する。
【0082】
出力開始時点計数手段94は、例えば計数値CNTSFTが保存されている不揮発性メモリからその計数値CNTSFTを読み出す。そして、出力開始時点計数手段94は、変速中判定手段92により自動変速部20の変速判断が行われたと判定された場合には、読み出した計数値CNTSFTを変速M1トルク出力開始カウンタcntに代入し、この変速M1トルク出力開始カウンタcntを零に向かって計数し、その変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったか否かを判定する。
【0083】
ハイブリッド制御手段84は、電動機作動制御手段88として、出力開始時点計数手段94により変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったと判定された場合には、変速M1トルクTFFM1を所定期間出力する。この変速M1トルクTFFM1が出力される所定期間は、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相中の全期間すなわちイナーシャ相の開始から変速終了までであっても良いし、変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを予め抑制する為の予め実験的に求められて定められた一定の期間であっても良いし、その一定の期間が変速の種類毎に各々設定されていても良いし、或いは変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制するように自動変速部20の変速時の車両状態例えば車速Vやエンジン回転速度Nや変速の種類等に基づいて設定される一定の期間であっても良い。
【0084】
学習時点計数手段96は、出力開始時点計数手段94により変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったと判定された場合には、計数値CNT2をN判定カウンタcnt2に代入し、このN判定カウンタcnt2を零に向かって計数し、そのN判定カウンタcnt2が零になったか否かを判定する。計数値CNT2は、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相中の所定の時点すなわち計数値CNTSFTを学習制御により補正する基となる自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNを測定する時点を判断する値である。例えば、計数値CNT2は、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相が実際に開始される時点として出力開始時点計数手段94により変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったと判定された時点から、計数値CNTSFTの学習制御を実行するか否かを判断する際の基となる回転速度差ΔNを判定する時点までの経過時間として予め実験的に求められて定められた一定の時間(例えばイナーシャ相期間の半分程度の時間、回転速度差ΔNが最大となる時点に対応する時間)であっても良いし、その一定の時間が変速の種類毎に各々設定されていても良い。
【0085】
学習実行判定手段98は、学習時点計数手段96によりN判定カウンタcnt2が零になったと判定された場合には、計数値CNTSFTを学習制御により補正するか否かを判断する。つまり、計数値CNTSFTの学習制御は自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNに基づいてその回転速度差ΔNを抑制するように常時実行されても良いが、回転速度差ΔNが大きいときのみ計数値CNTSFTの学習制御を実行すれば良いという観点から、本実施例では、学習実行判定手段98は、計数値CNTSFTを学習制御により補正するか否かを判断する為に、回転速度差ΔNが学習開始閾値NESTを超えているか否かを判定する。この学習開始閾値NESTは、例えば変速ショック抑制の為に計数値CNTSFTを学習制御により補正して回転速度差ΔNを小さくする必要があると判断される為の予め実験的に求められて定められた判定値である。
【0086】
学習制御手段100は、学習実行判定手段98により回転速度差ΔNが学習開始閾値NESTを超えていると判定された場合には、この計数値CNTSFTは、実際のイナーシャ相開始時点すなわち変速M1トルクTFFM1の出力開始時点が一層適切なものとされて実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制されるように、学習時点計数手段96によりN判定カウンタcnt2が零になったと判定された時点における回転速度差ΔNに基づいてその回転速度差ΔNを抑制する方向に補正する。
【0087】
例えば、学習制御手段100は、回転速度差ΔNが、変速M1トルクTFFM1が出力されないときの自動変速部20の変速に伴って実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離する方向を示すときには、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように計数値CNTSFTを補正する。一方で、学習制御手段100は、回転速度差ΔNが、変速M1トルクTFFM1が出力されないときの自動変速部20の変速に伴って実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離する方向とは反対方向を示すときには、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように計数値CNTSFTを補正する。
【0088】
より具体的には、変速M1トルクTFFM1が出力されないときには自動変速部20のダウンシフトに伴って回転速度差ΔNが正の数となり(図9参照)、自動変速部20のアップシフトに伴って回転速度差ΔNが負の数となることから、回転速度差ΔNが上記乖離する方向を示すときとは、自動変速部20がダウンシフトの場合には回転速度差ΔNが正の数となるときであり、自動変速部20がアップシフトの場合には回転速度差ΔNが負の数となるときである。従って、学習制御手段100は、自動変速部20がダウンシフトの場合に、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTを上回っているときは、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように計数値CNTSFTを所定量X小さくする一方で、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTの正負反転値を下回っているときは、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように計数値CNTSFTを所定量X大きくする。また、学習制御手段100は、自動変速部20がアップシフトの場合に、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTの正負反転値を下回っているときは、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように計数値CNTSFTを所定量X小さくする一方で、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTを上回っているときは、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように計数値CNTSFTを所定量X大きくする。上記所定量Xは、回転速度差ΔNに応じて実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制する為の予め実験的に求められて定められた学習値変化量である。
【0089】
そして、学習制御手段100は補正した計数値CNTSFTを不揮発性メモリに保存する。このように不揮発性メモリに保存されている計数値CNTSFTは学習制御手段100により補正される度に学習値として書き換えられ、次回の自動変速部20の変速の際に用いられる。
【0090】
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち自動変速部20の変速時に計数値CNTSFTに基づいて変速M1トルクTFFM1を出力し、その計数値CNTSFTを学習制御により補正する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図11は、自動変速部20の変速例えばアクセル踏み込み操作によるダウンシフトにおいて変速M1トルクTFFM1が出力される場合のタイムチャートである。
【0091】
図10において、先ず、出力開始時点計数手段94に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばイグニッションオン時等の所定時に計数値CNTSFTが保存されている不揮発性メモリからその計数値CNTSFTが読み出される。次いで、変速中判定手段92に対応するS20において、例えば油圧制御回路70に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号が有段変速制御手段82によって出力されたか否かに基づいて自動変速部20の変速判断が行われたか否かが判断される。自動変速部20の変速判断が行われていないと判断されて上記S20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、自動変速部20の変速判断が行われたと判断されて上記S20の判断が肯定される場合は出力開始時点計数手段94に対応するS30において、前記読み出された計数値CNTSFTが変速M1トルク出力開始カウンタcntに代入される(図11のt時点)。
【0092】
次いで、同じく出力開始時点計数手段94に対応するS40及びS50において、変速M1トルク出力開始カウンタcntが零に向かって計数され、その変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったか否かが判定される。変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったと判定されるまで上記S40及びS50が繰り返し実行されるが、変速M1トルク出力開始カウンタcntが零になったと判定されて上記S50の判断が肯定される場合はハイブリッド制御手段84(電動機作動制御手段88)に対応するS60において、変速M1トルクTFFM1が出力開始される(図11のt時点)。次いで、学習時点計数手段96に対応するS70において、計数値CNT2がN判定カウンタcnt2に代入される(図11のt時点)。
【0093】
次いで、同じく学習時点計数手段96に対応するS80及びS90において、
判定カウンタcnt2が零に向かって計数され、そのN判定カウンタcnt2が零になったか否かが判定される。N判定カウンタcnt2が零になったと判定されるまで上記S80及びS90が繰り返し実行されるが、N判定カウンタcnt2が零になったと判定されて上記S90の判断が肯定される場合は学習実行判定手段98に対応するS100において、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTを上回っているか否かが判定される(図11のt時点)。回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTを上回っており上記S100の判断が肯定される場合は学習制御手段100に対応するS110において、自動変速部20がダウンシフトの場合には変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように計数値CNTSFTが所定量X小さくされる。或いは、自動変速部20がアップシフトの場合には変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように計数値CNTSFTが所定量X大きくされる。
【0094】
一方で、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTを上回っておらず上記S100の判断が否定される場合は学習実行判定手段98に対応するS120において、回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTの正負反転値を下回っているか否かが判定される(図11のt時点)。回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTの正負反転値を下回っており上記S120の判断が肯定される場合は学習制御手段100に対応するS130において、自動変速部20がダウンシフトの場合には変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように計数値CNTSFTが所定量X大きくされる。或いは、自動変速部20がアップシフトの場合には変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように計数値CNTSFTが所定量X小さくされる。
【0095】
上記S110或いはS130に続いて、或いは回転速度差ΔNが学習開始閾値(正の数)NESTの正負反転値を下回っておらず上記S120の判断が否定される場合は、変速中判定手段92に対応するS140において、例えば第2電動機回転速度NM2が変速後の同期回転速度NM2’と略一致したか否かに基づいて自動変速部20の変速が終了したか否かが判断される。このS140は第2電動機回転速度NM2が変速後の同期回転速度NM2’と略一致して自動変速部20の変速が終了したと判断されるまで繰り返し実行されるが、自動変速部20の変速が終了したと判断されて上記S140の判断が肯定される場合はハイブリッド制御手段84(電動機作動制御手段88)に対応するS150において、変速M1トルクTFFM1の出力が終了される(図11のt時点)。そして、学習制御手段100に対応するS160において、補正された計数値CNTSFTが不揮発性メモリに保存される。
【0096】
このように、変速M1トルクTFFM1が自動変速部20の変速中の適切な時点(図11のt時点)にて出力開始されるので、図11に示すように一点鎖線の従来例や二点鎖線の参考例と比較して、実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが抑制される。尚、一点鎖線の従来例は変速M1トルクTFFM1が出力されない場合の一例であり、二点鎖線の参考例は第2電動機回転速度NM2の検出値に基づいて自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相を判定して変速M1トルクTFFM1が出力された場合の一例である。また、図11のt時点乃至t時点において、変速M1トルクTFFM1の出力を減少させるように見えるが、第1電動機回転速度NM1を押し下げる方向(図9参照)という意味でこのように記載している。
【0097】
上述のように、本実施例によれば、差動部11と自動変速部20とを備える駆動装置10の電子制御装置80において、自動変速部20の変速中には、その変速に伴って実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することを抑制するように一時的に変速M1トルクTFFM1が出力され、自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNに基づいてその回転速度差ΔNを抑制する方向に、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点が学習制御により補正されるので、自動変速部20の変速に際して実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制される。仮に、例えばエンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nとなるように回転速度差ΔNに基づいて第1電動機トルクTM1を制御するフィードバック制御が実行される場合、自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の回転変化による回転速度差ΔNが大きい程第1電動機トルクTM1が増大させられて変速ショックが生じる可能性があるが、自動変速部20の変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制されることから、第1電動機トルクTM1の増大が抑制されて変速ショックを抑制することができる。
【0098】
また、本実施例によれば、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点は、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相が実際に開始される時点に対応するものであるので、自動変速部20の変速に伴って自動変速部20の入力回転速度すなわち第2電動機回転速度NM2が実際に変化し始める時点に合わせて変速M1トルクTFFM1の出力が開始されて、自動変速部20の変速に際して実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することが適切に抑制される。
【0099】
また、本実施例によれば、学習制御手段100による学習制御の基となる自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNは、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相中の所定の時点の値であるので、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点が学習制御により適切に補正される。
【0100】
また、本実施例によれば、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nとなるように回転速度差ΔNに基づいて第1電動機トルクTM1をフィードバック制御するものであり、変速M1トルクTFFM1は、回転速度差ΔNに基づくフィードバック制御による第1電動機フィードバックトルクTFBM1に加えて、自動変速部20の変速中に一時的に出力されるので、自動変速部20の変速中に実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離することから、フィードバック制御による第1電動機トルクTM1の増大が抑制されて変速ショックを抑制することができる。
【0101】
また、本実施例によれば、回転速度差ΔNが自動変速部20の変速に伴って実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離する方向を示すときには、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を早くするように補正し、回転速度差ΔNが実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して乖離する方向とは反対方向を示すときには、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点を遅くするように補正するので、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点が学習制御により一層適切に補正される。
【0102】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0103】
例えば、前述の実施例では、学習制御手段100による学習制御の基となる自動変速部20の変速中における回転速度差ΔNは、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相中の所定の時点の値であったが、その学習制御の基となる回転速度差ΔNを、自動変速部20の変速期間におけるイナーシャ相中において最大となる回転速度差の値としても良い。このようにしても、変速M1トルクTFFM1を出力する開始時点が学習制御により適切に補正される。
【0104】
また、前述の実施例では、自動変速部20の変速終了後に学習制御により補正された計数値CNTSFTが不揮発性メモリに保存されたが、必ずしもこの時点でなくとも良く、例えばイグニッションオフ時や学習制御直後等であっても良い。同様に、不揮発性メモリからの計数値CNTSFTの読み出しも必ずしもイグニッションオン時でなくとも良い。
【0105】
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0106】
また、前述の実施例の駆動装置10において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0107】
また、前述の実施例の駆動装置10において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0108】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0109】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、駆動装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0110】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0111】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0112】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0113】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、例えば有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20の変速が実行されてもよい。
【0114】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0115】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0116】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0117】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0118】
また、前述の実施例において、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0119】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0120】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする駆動装置10の構成であってもよい。
【0121】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に駆動装置10に備えられていてもよい。
【0122】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0123】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0124】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0125】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用駆動装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用駆動装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】自動変速部の変速中に実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に対して大きく乖離する場合の一例を共線図上に示す図である。
【図10】電子制御装置の制御作動の要部すなわち自動変速部の変速時に計数値に基づいて変速M1トルクを出力し、その計数値を学習制御により補正する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図11】自動変速部の変速例えばアクセル踏み込み操作によるダウンシフトにおいて変速M1トルクが出力される場合のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0127】
8:エンジン(走行用駆動力源)
10:車両用駆動装置
11:差動部(電気式差動部)
16:動力分配機構(差動機構)
20:自動変速部
34:駆動輪
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動力源に動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記走行用駆動力源から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用駆動装置の制御装置であって、
前記変速部の変速中には、該変速に伴って前記走行用駆動力源の回転速度が予め定められた目標回転速度に対して乖離することを抑制するように、一時的に前記差動用電動機の所定の出力トルクを出力するものであり、
前記変速部の変速中における前記走行用駆動力源の回転速度と前記目標回転速度との回転速度差に基づいて該回転速度差を抑制する方向に、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を学習制御により補正する
ことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定の出力トルクを出力する開始時点は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相が実際に開始される時点に対応するものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記学習制御の基となる前記変速部の変速中における前記回転速度差は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相中の所定の時点の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記学習制御の基となる前記変速部の変速中における前記回転速度差は、前記変速部の変速期間におけるイナーシャ相中において最大となる回転速度差の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度となるように、前記回転速度差に基づいて前記差動用電動機の出力トルクをフィードバック制御するものであり、
前記所定の出力トルクは、前記回転速度差に基づくフィードバック制御による前記差動用電動機の出力トルクに加えて、前記変速部の変速中に一時的に出力されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記回転速度差が、前記変速部の変速に伴って前記走行用駆動力源の回転速度が前記目標回転速度に対して乖離する方向を示すときには、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を早くするように補正し、
前記回転速度差が、前記乖離する方向とは反対方向を示すときには、前記所定の出力トルクを出力する開始時点を遅くするように補正することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−70034(P2010−70034A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239279(P2008−239279)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】