説明

車両走行制御装置

【課題】駆動から制動への過渡領域の減速度の不足を防止できる車両走行制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明による車両走行制御装置1は、車両の走行状態に基づいて目標駆動力を演算する目標駆動力演算手段2と、目標駆動力に基づいて車両の駆動装置を制御する駆動制御手段3と、目標駆動力が前記駆動装置の駆動力実現範囲の下限値よりも小さい場合に車両の制動装置を制御する制動制御手段4と、車両の減速状態を検出する減速状態検出手段と、減速状態が検出されて、目標駆動力が駆動力実現範囲の下限値よりも大きい場合に、目標駆動力を所定の補正量だけ小さい側に補正する補正手段2とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の支援を目的として、先行車両との車間距離に基づいて車両を制御する車両走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者を支援し運転負荷を軽減するために、先行車両と自車両との車間距離を所定の距離に保つように自車両を制御する車両走行制御装置として、特許文献1に記載されたようなものが提案されている。この車両走行制御装置では、例えばレーダーセンサやミリ波レーダなどで自車両と先行車両との車間距離を測定し、この車間距離に基づいて、目標制駆動力を算出して、この目標制駆動力を目標制動力と目標駆動力に分配して、それぞれ制動装置及び駆動装置を制御する構成を採っている。
【特許文献1】特開2006−188164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような特許文献1に記載の車両走行制御装置においては、目標制駆動力から目標制動力と目標駆動力に分配するにあたってその分配を実現する具体的な手段は記載されておらず、ある基準を設けて目標制動力と目標駆動力を分配するとした場合に、この基準は一般的には例えばエンジンブレーキ等の駆動装置で実現できる駆動力とし、その駆動力を目標制駆動力が下回ったときに、制動装置側で制動力を発生させて補う手法を採用していると考えられる。
【0004】
ここで、このような車両走行制御装置において、車間距離を所定の距離に保つように自車両を制御して定常走行を行っており、制動が必要であると判断された場合に、目標制駆動力が前述したエンジンブレーキ等の駆動装置で実現できる駆動力を下回るまでの時間が長いと、制動が開始されるタイミングが遅れて、駆動から制動に切り替わる過渡領域の減速度が不足するという問題が生じる。この問題は特に、定常走行時の駆動力と、エンジンブレーキ等の駆動装置で実現できる駆動力との差が大きく設定されており、かつ、駆動側のドライバビリティを確保するために、駆動側から制動側に切り替わった場合の駆動装置において実現できる駆動力への切り替わりの応答性が抑制されている場合により顕著となる。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、駆動から制動への過渡領域の減速度の不足を防止できる車両走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するため、本発明による車両走行制御装置は、
車両の走行状態に基づいて目標駆動力を演算する目標駆動力演算手段と、
前記目標駆動力に基づいて前記車両の駆動装置を制御する駆動制御手段と、
前記目標駆動力が前記駆動装置の駆動力実現範囲の下限値よりも小さい場合に前記車両の制動装置を制御する制動制御手段と、
前記車両の減速状態を検出する減速状態検出手段と、前記減速状態が検出されて、前記目標駆動力が前記駆動力実現範囲の下限値よりも大きい場合に、前記目標駆動力を所定の補正量だけ小さい側に補正する補正手段とを備えることを特徴とする。なお、前記駆動装置とはエンジン又はモータであり、前記駆動力実現範囲の下限値とは、エンジンブレーキ又はモータの回生ブレーキ力である。
【0007】
ここで、前記走行状態とは、典型的には先行車両に所定の車間状態で追従する追従走行状態、すなわち車間距離又は車間時間である。これにより、車間制御を行う前記車両走行制御装置において、前記減速状態において、前記駆動装置の駆動力実現範囲の下限値よりも前記目標駆動力が大きい場合に、前記目標駆動力を小さい側に補正することにより、前記下限値を前記目標駆動力が早期に下回るようにして、前記制動制御の開始時期を早めて、前記駆動制御から前記制動制御への過渡領域の減速度の不足を防止することができる。
【0008】
なお、前記制動制御手段が制動制御を開始した後に、前記補正手段が前記所定の補正量を徐々に減少することが好ましい。これによれば、前記制動制御が開始された後は、前記目標駆動力を前記目標駆動力演算手段が演算した値に戻して、所望の前記制動制御を行うことができる。
【0009】
加えて、前記補正手段が前記所定の補正量を、前記車両の制御状態に基づいて決定することが好ましい。具体的には、前記車両の発生駆動力を演算する発生駆動力演算手段を備えるとともに、前記補正手段が前記所定の補正量を、前記目標駆動力と前記発生駆動力とに基づいて決定することが好ましい。
【0010】
これによれば、前方に他の車両が割り込んだ場合等において、急激な減速制御が必要となった場合にでも、さらに前記制動制御の開始時期を早めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動から制動への過渡領域の減速度の不足を防止できる車両走行制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明に係る車両走行制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0014】
車両走行制御装置1は、DSSECU2(Driver Support System Electronic Control Unit)と、ENGECU3(Engine Electronic Control Unit)と、BRKECU4(Brake Electronic Control Unit)と、前方監視センサ5と、を備えて構成される。DSS1ECU2と、ENGECU3と、BRKECU4はCAN(Controller Area Network)等の通信規格により相互に接続されて、各ECU相互間において後述するような各種の制御パラメータが相互に伝送される。
【0015】
前方監視センサ5は、例えばレーザレーダ又はミリ波レーダであり、自車両の前方に位置する先行車両と自車両との車間距離を測定して測定結果をDSSECU2に出力するものであり、自車両のフロントグリル又はフロントバンパーに設けられる。
【0016】
DSSECU2は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものである。DSSECU2は、前方監視センサ5から取得した車間距離に基づいて要求加速度At_tgtを演算する要求加速度演算部2aと、要求加速度At_tgtと図示しない車輪速センサから取得した車速から目標駆動力F_tgtを演算する目標駆動力演算部2bとを備える。
【0017】
さらに、DSSECU2は、ENGECU3から取得した駆動力実現範囲の下限値F_abl_low(アベイラビリティ下限)及び発生駆動力F_realと、BRKECU4から取得した制御ブレーキ作動中フラグBRK_ONとから、目標駆動力F_tgtの補正量F_fbの演算が必要かどうかの判断を行う駆動力補正演算判断部2cを備え、補正量F_fbを演算し、目標駆動力F_tgtから補正が必要な場合に補正量F_fbを減算して要求駆動力Fxを演算し、この要求駆動力FxをENGECU3及びBRKECU4に出力し、制動制御を許可する場合にはブレーキ制御許可フラグBRK_REQをBRKECU4に出力する駆動力補正演算部2dを備える。
【0018】
ENGECU3も例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものである。ENGECU3は、DSSECU2から取得した要求駆動力Fxと、運転者が図示しないアクセルペダルを踏み込んで入力されるドライバ要求を調停する駆動力調停部3aと、発生駆動力F_realを演算して駆動力補正演算判断部2c及び駆動力補正演算部2dに出力して、駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowをBRKECU4の制動力配分部4aと駆動力補正演算判断部2c及び駆動力補正演算部2dに出力する駆動力演算部3bとを備える。
【0019】
加えて、駆動力演算部3bは調停された要求駆動力Fx又はドライバ要求から、図示しないエンジン及びトランスミッションからなる駆動装置で発生させる駆動力を演算し指令する駆動制御手段を構成する。ここで、駆動力演算部3bは発生駆動力演算手段を構成する。
【0020】
BRKECU4も例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものである。BRKECU4は、DSSECU2から取得した要求駆動力Fx及びブレーキ制御許可フラグBRK_REQと、ENGECU3から取得した駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowとから制動力を配分する制動力配分部4aを備え、この制動力と運転者が図示しないブレーキペダルを踏み込んで入力されるドライバ要求を調停し、制動制御中に駆動力補正演算判断部2cに制御ブレーキ作動中フラグBRK_ONを出力する制動力調停部4bとを備える。加えて制動力調停部4bは、図示しないキャリパブレーキからなる制動装置で発生させる制動力を演算して指令する制動制御手段を構成する。
【0021】
以上述べた本実施例の車両走行制御装置1はいわゆる駆動力デマンドの制御構造を有し、車両に作用する駆動力を用いてENGECU3及びBRKECU4を一つのパラメータにより制御できるので、DSSECU2によりENGECU3及びBRKECU4のいずれかを選択して制御する必要を廃して、制御系統を簡略化することができる。また、車両の加速度等の物理量を決定する要因である駆動力に基づいて制御を行うので、シミュレーション等の精度を高めるにあたりより有利な構成となる。
【0022】
このような構成において、DSSECU2の、目標駆動力演算部2bは目標駆動力演算手段を構成し、駆動力補正演算判断部2cと、駆動力補正演算部2dは補正手段を構成し、基本的には目標駆動力F_tgtが駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを下回るまではBRKECU4が制動制御を行わないように制御し、後述するように車両が減速状態で、要求駆動力Fxが駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを上回っている場合に、補正量F_fbを目標駆動力F_tgtから減算してこれを要求駆動力Fxとして、要求駆動力Fxを駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを早期に下回らせることにより、制動制御の開始を早めるものである。
【0023】
以下、本実施例の車両走行制御装置1の制御内容をフローチャート及びタイムチャートに基づいて説明する。図2は、本発明による車両走行制御装置1の制御内容を示すフローチャートであり、図3は本発明による車両走行制御装置1の制御結果を示すタイムチャートである。なお、図3中横軸は時間を示すカウンタ値であり、縦軸は駆動力を示す。
【0024】
S1において、DSSECU2の駆動力補正演算判断部2cは、駆動力補正演算部2dからBRKECU4の制動力配分部4aに対してブレーキ制御許可フラグBRK_REQが出力されているかどうかを判定し、出力されている場合にはS2にすすみ、出力されていない場合には処理Iにすすむ。
【0025】
S2において、駆動力補正演算判断部2cは、BRKECU4の制動力調停部4bから制御ブレーキ作動中フラグBRK_ONが出力されているかどうかを判定し、出力されている場合には、S3にすすみ、出力されていない場合には処理Iにすすむ。
【0026】
S3において、駆動力補正演算判断部2cは、要求加速度At_tgtが前回値より小さいかどうかつまりは車両が減加速度状態にあるかどうかを判定し、小さい場合にはS4にすすみ、小さくない場合には処理Iにすすむ。すなわち、S1の条件が成立、S2の条件が不成立、S3の条件が成立している場合には車両は駆動制御を終了し、減速状態にあると判定され、ここでは、駆動力補正演算判断部2cは、減速状態検出手段として機能する。
【0027】
S4において、駆動力補正演算判断部2cは、目標駆動力F_tgtが発生駆動力F_realからヒステリシスA(定数)を減じた値よりも小さいかどうかを判定し、小さい場合にはS5にすすみ、小さくない場合には処理Iにすすむ。
【0028】
さらに、S5において、駆動力補正演算判断部2cは、要求駆動力Fx(ここでは初期値であるので目標駆動力F_tgtとイコール)が駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowよりも大きいかどうかを判定し、大きい場合には補正が必要であると判断しS6にすすみ、大きくない場合には処理Iにすすむ。
【0029】
S6にすすんだ後、DSSECU2の駆動力補正演算部2dは、発生駆動力F_realと目標駆動力F_tgtの差を演算し、この差とGain1の予め定められたマップを用いてGain1を演算する。
【0030】
つづいて、S7においてDSSECU2の駆動力補正演算部2dは、目標駆動力演算部2bが図示しない車輪速センサから取得した車速とGain2との予め定められたマップを用いてGain2を演算する。
【0031】
S8において、駆動力補正演算部2dは、目標駆動力F_tgtから発生駆動力F_realを減じた値にGain1とGain2とを乗じて、補正量F_fbを演算する。つづいて、S9において、駆動力補正演算部2dは、補正量F_fbが0以上であるかが判定され、0以上である場合にはS11にすすみ、0以上でない場合には、S10において補正量F_fbに0を代入して、S11にすすむ。
【0032】
S11において、駆動力補正演算部2dは、目標駆動力F_tgtから補正量F_fbを減算して、要求駆動力Fxを求める。なお、S6からS11までの処理は図3における時間t1から時間t2に至る領域αにおいて繰り返し実行されて、補正量F_fbは増加され、要求駆動力Fxは図3に示すように目標駆動力F_tgtに対して下側にオフセットさせて補正される。
【0033】
S1で条件不成立、S2で条件成立、S3からS5において条件不成立の場合、つまりは制動制御が開始されている場合であるので、S12にすすんで、S12からS16で定義される処理Iを実行する。S12において、DSSECU2の駆動力補正演算判断部2cは、BRKECU4の制動力調停部4bから制御ブレーキ作動中フラグBRK_ONが出力されているかどうかを判定し、出力されている場合にはS13にすすみ、出力されていない場合には制動制御から駆動制御に遷移する場合であるので、処理IIにすすむ。
【0034】
S13において、駆動力補正演算判断部2cは、要求駆動力Fxから補正量F_fbを減じた目標駆動力F_tgtが、駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowにヒステリシスBを加算した値以下であるかどうかを判定し、以下である場合にはS14にすすみ、以下でない場合には制動制御から駆動制御に遷移する直前の場合であるので処理IIにすすむ。
【0035】
S14において、駆動力補正演算判断部2cは、要求加速度At_tgtが前回値より小さいかどうかつまりは車両が減速状態にあるかどうかを判定し、小さい場合にはさらに減速度が要求される場合とみなしてS15にすすみ、小さくない場合には減速度を抑制するべき場合とみなしてS16にすすむ。なお、S15の処理は、図3において時間t2から時間t4に至る領域βに相当し、S16は図3において時間t4から時間t5に至る領域γに相当する。
【0036】
つづいてS15において、DSSECU2の駆動力補正演算部2dは、補正量F_fbを補正量F_fbの前回値に負の定数Cを加えた値とし、S16において、DSSECU2の駆動力補正演算部2dは、補正量F_fbを補正量F_fbの前回値に負の定数Cよりも小さい負の定数Dを加えた値とする。いずれの場合においても駆動力補正演算部2dは、補正量F_fbを前回値よりも減少させる。
【0037】
つまり、S15においてはさらに減速度が要求される場合であるので、補正量F_fbの減少のさせ方を小さくし、S16においては、減速度を抑制するべき場合であるので、補正量F_fbの減少のさせ方を大きくする。S15又はS16の処理が終了した後はもとのフローチャートのS9の手前に戻る。
【0038】
さらに、S12において条件不成立、あるいは、S13において条件不成立である場合つまりは制動制御が終了する瞬間及びその直前である場合に成立する条件においては、S17にすすんでS17からS19で定義される処理IIが実行される。
【0039】
S17において、DSSECU2の補正量演算部2cは、要求駆動力Fxから補正量F_fbを減じて目標駆動力F_tgtを演算して、それが駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowよりも小さいかどうかを判定し、小さい場合には制動制御が終了する瞬間であるのでS18にすすみ、小さくない場合には制動制御が終了する直前であるのでS19にすすむ。
【0040】
つまり、駆動装置で実現される駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowのみで目標駆動力F_tgtが実現できない場合にはS18にすすんで、補正量F_fbを前回値と同じとし、駆動装置で実現される駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowのみで目標駆動力F_tgtを実現できる場合にはS19にすすんで、駆動力補正演算部2dは、補正量F_fbの前回値に負の定数Eを加えた値とし、補正量F_fbを前回値よりも減少させる。
【0041】
S19の処理は、図3において領域γの要求駆動力Fxが目標駆動力F_tgtに収束していく終端の領域において実行され、最終的に要求駆動力Fxが目標駆動力F_tgtに一致する瞬間にS18の処理が実行されて、この後、制動制御から駆動制御へと切り替わる。S18又はS19の処理が実行された後は、もとのフローチャートのS9の手前に戻る。
【0042】
なお、S15の処理を実行することにより、BRKECU4による制動制御が開始された後は、補正量F_fbを減少させて、本来の目標駆動力F_tgtによる適切な制動制御に近づくように移行させ、S16を実行することにより、目標駆動力F_tgtが増加して、BRKECU4による制動制御からENGECU3による駆動制御に移行するにあたって、加速度のつながりを良好なものとすることができる。同様にS19の処理を実行することにより、目標駆動力F_tgtが増加して、要求駆動力Fxが目標駆動力F_tgtに収束しつつ、BRKECU4による制動制御からENGECU3による駆動制御に移行するにあたっての、加速度のつながりを良好なものとすることができる。
【0043】
また、ENGECU3により駆動制御が実行されている場合には、S3の条件が不成立となり、処理Iに移行して、S12において条件が不成立となり、さらに処理IIに移行し、S17において条件が不成立となり、S19において補正量F_fbは負値であるEにより処理毎に減算されるが、S9において、補正量F_fbが0以上であるかの判定を行い、0未満であれば、S10において補正量F_fbは0とされるため、補正量F_fbは駆動制御時においては0となる。
【0044】
以上述べた処理I及び処理IIで演算された補正量F_fbを用いて、S11において、駆動力補正演算部2dは、目標駆動力F_tgtに補正量F_fbを加算して、次回の要求駆動力Fxを演算し、ENGECU3及びBRKECU4に出力する。
【0045】
以上述べた制御内容により実現される本実施例の車両走行制御装置1によれば、以下に述べるような作用効果を得ることができる。すなわち、自車両が減速状態において、駆動装置の駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowよりも目標駆動力F_tgtすなわち要求駆動力Fxの初期値が大きい場合に、要求駆動力Fxを小さい側に補正することにより、駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを要求駆動力Fxが、図3中時間t2で示すように、補正をしない場合に要求駆動力Fx=目標駆動力F_tgtが駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを下回る時間t3に比べて、早期に下回るようにして、BRKECU4による制動制御の開始時期を早めて、駆動制御から制動制御への過渡領域の減速度の不足を防止することができる。
【0046】
また、BRKECU4が図3中時間t2において制動制御を開始した後に、DSSECU2の駆動力補正演算部2dが補正量F_fbを徐々に減少することにより、BRKECU4による制動制御が開始された後は、要求駆動力Fxを目標駆動力演算部2bが演算した初期値である目標駆動力F_tgtに徐々に戻して、所望の制動制御を行うことができる。
【0047】
また、補正量F_fbによる補正を行うことで、制動制御中において、目標駆動力F_tgtと発生駆動力F_realの乖離量が大きくなり、制動制御の終了が遅れて車両走行制御装置1としての制御フィーリングが悪化することを、制動開始後は補正量F_fbを徐々に減少させることにより、この制御フィーリングの悪化を防止することができる。
【0048】
さらに、図3に示したタイムチャートにおいて、補正量F_fbの徐々に減少させる手法を、S14において減速度が増加する場合とそうでない場合とに分けて、さらに、S17において、制動制御終了の瞬間である場合とそうでない場合とに分けて、それぞれの場合に応じて徐減する量を変化させることにより、加速度のつながりをよくして、車間距離制御の制御フィーリングを良好なものとすることができる。
【0049】
加えて、DSSECU2の駆動力補正演算部2dが補正量F_fbを、目標駆動力F_tgtと発生駆動力F_realの差に比例させた値とすることにより、前方に他の車両が割り込んだ場合等において、急激な減速制御が必要となった場合に、補正量F_fbをさらに大きな値として、要求駆動力Fxが駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを早期に下回るようにして、さらに制動制御の開始時期を早めることができる。
【0050】
さらに、補正量F_fbを求めるGain2を車速に比例させた値とすることにより、低速域においてGainを小さくして補正量F_fbを小さなものとすることができるので、全車速域においてDSSECU2による駆動力デマンドの車間距離制御を行う場合において、特に低速域において、補正量F_fbにより目標駆動力F_tgtを補正して要求駆動力Fxとして、無駄に制動制御を行う機会が増えて、ブレーキのオンオフが繰り返されるブレーキハンチングが発生して、車間距離制御のフィーリングが悪化することを防止することができる。
【0051】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0052】
なお、上述した実施例においては、目標駆動力F_tgtを補正量F_fbにより補正して、その値を要求駆動力Fxとして、この要求駆動力Fxが早期に駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを下回るようにして、BRKECU4による制動制御の時期を早めたが、逆に駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowをENGECU3の駆動力演算部3bが上側に補正して、要求駆動力Fxが早期に駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを下回るようにする構成としても本実施例と同様の作用効果を得ることは可能である。図4は、その制御結果を示すタイムチャートである。
【0053】
この場合においては、図4に示すように、駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowの下限値を上側に補正するにあたり、発生駆動力F_realから所定値だけ下側にオフセットさせた値を、駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowとして用いることが好ましい。
【0054】
もちろん、元の駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを上側にオフセットさせる手法も考えられるが、オフセット後の目標駆動力F_tgtを駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを比較するにあたり、発生駆動力F_realを基準として下側にオフセットさせた値を用いれば、目標駆動力F_tgtの減少に伴い、目標駆動力F_realが減少するので、制動制御が行われる領域が過度に拡大することを防止できるからである。
【0055】
この場合においては、目標駆動力F_tgtが減少して、オフセット後の駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを下回る時間t6において制動制御開始可能となり、元の駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを目標駆動力F_tgtが下回る時間t7に比べて、早期に制動制御を開始することができる。
【0056】
なお、このような構成においては、ENGECU3の出力する駆動力実現範囲の下限値F_abl_lowを補正する必要があり、本実施例に示した車両走行制御装置1においては、DSSECU2がENGECU3及びBRKECU4に出力する要求駆動力Fxを補正することにより、制動制御を早期に開始することができるので、本実施例に示した構成の方がDSSECU2内部の制御変更のみですむため、構成をより簡単なものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、走行中の車両の車線変更を検出する車両走行制御装置に関するものであり、駆動から制動への過渡領域の減速度の不足を防止できることができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る車両走行制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両走行制御装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る車両走行制御装置の一実施形態の制御結果を示すタイムチャートである。
【図4】本発明に係る車両走行制御装置の一実施形態の制御結果を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 車両走行制御装置
2 DSSECU
3 ENGECU
4 BRKECU
5 前方監視センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態に基づいて目標駆動力を演算する目標駆動力演算手段と、前記目標駆動力に基づいて前記車両の駆動装置を制御する駆動制御手段と、前記目標駆動力が前記駆動装置の駆動力実現範囲の下限値よりも小さい場合に前記車両の制動装置を制御する制動制御手段と、前記車両の減速状態を検出する減速状態検出手段と、前記減速状態が検出されて、前記目標駆動力が前記駆動力実現範囲の下限値よりも大きい場合に、前記目標駆動力を所定の補正量だけ小さい側に補正する補正手段とを備えることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
前記走行状態が、先行車両に所定の車間状態で追従する追従走行状態であることを特徴とする請求項1に記載の車両走行制御装置。
【請求項3】
前記制動制御手段が制動制御を開始した後に、前記補正手段が前記所定の補正量を徐々に減少することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両走行制御装置。
【請求項4】
前記補正手段が前記所定の補正量を、前記車両の制御状態に基づいて決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両走行制御装置。
【請求項5】
前記車両の発生駆動力を演算する発生駆動力演算手段を備えるとともに、前記補正手段が前記所定の補正量を、前記目標駆動力と前記発生駆動力とに基づいて決定することを特徴とする請求項4に記載の車両走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222063(P2008−222063A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63894(P2007−63894)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】