説明

車体支持システム

【課題】振動系の固有振動数が変化した場合でも、被支持質量への振動抑制効果を発揮すること。
【解決手段】この車体支持システム10は、一対の車体支持装置1c1、1c2を備える。1車体支持装置1c1の第1気室4A1と、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2とは、第1の気体通路71で接続されている。また、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2とは、第2の気体通路72で接続されている。第1の気体通路71には、第1の気体通路開閉手段81が設けられており、また、第2の気体通路72には、第2の気体通路開閉手段82が設けられている。第1の気体通路開閉手段81、第2の気体通路開閉手段82は、それぞれ振動制御装置40により、所定の周波数)で開閉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車やバス、トラックその他の車両を支持するために用いられる車体支持システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両や鉄道車両の懸架装置(サスペンション)や、振動や衝撃を伝えたくない構造物は、緩衝機構を介して支持される。特許文献1には、ピストンでシリンダ内を2室に分割するとともに、前記ピストンに設けられる、前記2室を連通する通路に2枚の金属泊で構成される弁を介在させて、前記弁の自励振動数と同一振動数の入力はばね上に伝達しない空気ばねが開示されている。この空気ばねを車両の懸架装置が備える緩衝装置に用いる場合、車両のばね上の共振周波数と弁の自励振動数とを一致させることにより、共振増幅を回避できる。また、弁の自励振動数を、車両に伝達したくない入力の周波数とすることで、前記入力が車両に伝達されないようにすることができる。
【0003】
【特許文献1】米国特許第4635909号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、道路を走行する車両や鉄道車両の懸架装置(サスペンション装置)は、支持される質量の大きさが変化する場合がある。例えば、車両の懸架装置では乗員数や積載荷重によって支持される質量が変化する。その結果、振動系の固有振動数が変化してしまう。振動系の固有振動数が変化すると、共振増幅の抑制機能が低下する。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車体の荷重を支持しつつ、車体支持装置及びこれに支持される車体の質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、車体に対する振動抑制効果を発揮できる車体支持システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、この発明に係る車体支持システムは、車両の車体と車輪との間に設けられて、前記車体を支持するものであり、気体が充填される第1気室及び第2気室と、前記第1気室と前記第2気室との間に配置されて、前記第1気室及び前記第2気室に対して相対的に往復運動することにより、前記車体からの振動又は前記車輪からの振動のうち少なくとも一方を前記第1気室及び前記第2気室へ入力する振動入力手段と、を含んで構成される車体支持装置と、一対の前記車体支持装置において、一方の前記車体支持装置が備える第1気室と、他方の前記車体支持装置が備える第2気室とを接続する第1の気体通路と、一方の前記車体支持装置が備える第2気室と、他方の前記車体支持装置が備える第1気室とを接続する第2の気体通路と、前記第1の気体通路と前記第2の気体通路とを相互に接続する第3の気体通路に取り付けられて、前記入力手段が前記第1気室及び前記第2気室気室に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じた所定の周波数で前記第1の気体通路及び前記第2の気体通路を開閉する気体通路開閉手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この車体支持システムは、空気や窒素等の気体が充填される気室、及びこの気室に対して相対的に往復運動することによって振動を前記気室へ入力する入力手段を備え、この入力手段が前記気室に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じた所定の周波数で、前記気室に接続される気体通路を開閉する。このような構成により、この車体支持装置は、前記所定の周波数に対するゲインが0で、それ以外の周波数におけるゲインがおよそ1.0の周波数フィルタとして機能する。すなわち、前記所定の周波数の振動は、車体支持装置によって遮断され、この車体支持装置によって支持される車体に対してはほとんど伝達されない。これによって、車体支持装置及びこれに支持される車体が構成する振動系の固有振動数が変化した場合には、固有振動数の変化に応じて、気室に接続される気体通路を開閉する周波数を変更することにより、静止荷重を支持しつつ、支持対象の車体に対する振動の抑制効果を発揮できる。
【0008】
車両においては、直線走行や旋回走行といった車両の走行状態に適した操縦安定性を得るために、車両の走行状態に応じて車体支持装置のばね定数が変更できることが好ましい。この車体支持システムでは、第1気室と第2気室とによって荷重を安定に支持するとともに、一対の緩衝装置において、第1気室と第2気室とを互いに連通させる第1の気体通路と第2の気体通路とを備える。これによって、一対の緩衝装置は、逆位相で動作するときのばね定数は、同位相で動作するときのばね定数よりも大きくなる。このような一対の緩衝装置を車両の左右や前後に配置することによって、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【0009】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、前記一対の緩衝装置は、前記車両の左右に取り付けられる一対の緩衝装置としてもよい。
【0010】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、前記一対の緩衝装置は、前記車両の同じ側で、かつ前後に取り付けられる一対の緩衝装置としてもよい。
【0011】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、前記一対の緩衝装置は、前記車両の対角位置に取り付けられる一対の緩衝装置としてもよい。
【0012】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、前記車両に、前記車両のばね上又はばね下のうち少なくとも一方の振動を検出する振動検出手段を取り付け、前記振動検出手段で検出された、所定の振動のパワー以上の振動成分を伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、選択した前記伝達抑制対象の振動の周波数を整数倍又は整数分の1倍した周波数で、前記第3の気体通路を開閉するようにしてもよい。
【0013】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、前記振動検出手段で検出された、所定のパワー以上の振動の成分を、伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、各々の振動のパワーの大きさに応じて、前記気体通路開閉手段を開閉する際の開時間と閉時間との比を変更してもよい。
【0014】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、所定のパワー以上の振動の成分を、伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、振動のパワーの大きい順に複数の周波数を選択し、選択した複数の周波数の整数倍又は整数分の1倍した頻度で、前記気体通路開閉手段を開閉してもよい。
【0015】
次の本発明に係る車体支持システムのように、前記車体支持システムにおいて、設定された複数の周波数のうち、振動のパワーの大きい順に複数の周波数を選択し、選択した周波数のパワーの大きさに応じて、それぞれの周波数に対する前記気体通路開閉手段を開閉する際の開時間と閉時間との比を変更してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、この発明に係る車体支持システムでは、車体の荷重を支持しつつ、車体支持装置及びこれに支持される車体の質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、車体への振動抑制効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0018】
本実施形態は、空気や窒素等の気体が充填されて荷重を支持するための気室に接続される気体通路を周期的に開閉して、前記気室内に充填された気体の一部を大気中、又は別の気室に解放することにより、前記気体通路を開閉する周波数と同じ周期の外力に対して、前記気室のばね剛性が低下する特性を利用する。これによって、振動系の固有振動数が変化した場合でも、被支持質量(車体の質量)に対する振動抑制効果を発揮させる点に特徴がある。ここで、「解放」とは、気室が単一である場合には、気室内の気体が気室外へ放出されることをいい、2気室である場合には、入力手段(例えばピストン)で区分けされた高圧側の気室の気体が低圧側の気室へ移動することをいう。
【0019】
荷重(車体の質量)を支持する気室が単一である場合、この気室に充填された気体を外部に放出するための気体通路に設けられる気体通路開閉手段(例えば開閉弁)を備え、被支持質量(車体の質量)が振動する周波数に応じた所定の周波数で、前記気体通路開閉手段を開閉することにより、前記気室内の気体の一部を気室外へ解放する。
【0020】
荷重を支持する気室が2個存在する場合、荷重を支持するために気体が充填される2個の気室と、前記2個の気室に対して相対的に往復運動することにより、振動を前記2個の気室へ入力する入力手段と、前記2個の気室を連通する気体通路と、前記気体通路に設けられる気体通路開閉手段(例えば開閉弁)を備える。そして、前記入力手段が前記2個の気室に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じた所定の周波数で、前記気体通路開閉手段を開閉する。
【0021】
図1−1は、本実施形態に係る車体支持装置の構成を示す説明図である。図1−1は、本実施形態に係る車体支持装置1を車両100が備える懸架装置20へ適用した例を示している。図1−2は、気体通路開閉手段の他の例を示す説明図である。図2―1〜図2−4は、本実施形態に係る車体支持装置の他の構成例を示す説明図である。本実施形態に係る車体支持装置1は、車両100が備える懸架装置20の緩衝装置、すなわち、ばね及び振動減衰手段(例えばダンパー)からなる構造体として機能する。なお、本実施形態において、車体支持装置1の支持対象構造物は、車両100の車体100Bである。
【0022】
車体支持装置1は、シリンダ2と、シリンダ2の内部に設けられて往復運動するピストン3と、気体通路7と、気体通路7に設けられる気体通路開閉手段8とを含んで構成される。シリンダ2内には気室4が設けられており、気室4には所定の圧力に加圧した気体(本実施形態では空気)が充填される。なお、ポンプ等の圧力調整手段を気室4へ取り付けて気室4内に気体を供給してもよい。
【0023】
気室4は、ピストン3によって第1気室4Aと第2気室4Bとに仕切られている。ここで、ピストン3は、気室4に対して相対的に往復運動することにより、気室4(第1気室4A及び第2気室4B)へ、車体支持装置1の取付対象(本実施形態では車両100の車体100B及び懸架装置20のロワーアーム21L)の振動を入力する、入力手段としての機能を発揮する。なお、第1気室4Aと第2気室4Bとは、例えば、ゴム膜のような可撓性の材料によってそれぞれ別個に構成して、第1気室4Aと第2気室4Bとの間にピストン3を挟み込むようにしてもよい。
【0024】
ピストン3にはピストンロッド5が取り付けられている。ピストンロッド5の一端部には、車体支持装置1の取付対象である懸架装置20のロワーアーム21Lに取り付けられるブラケット5Bが設けられる。ピストン3は、ピストンロッド5及びブラケット5Bを介して、懸架装置20のロワーアーム21Lに取り付けられる。そして、ピストン3は、ロワーアーム21Lが図1−1の矢印G方向へ動作すると、ロワーアーム21Lとともにシリンダ2内を往復運動する。
【0025】
図1−1に示すように、車両100の車体100Bには、車体加速度センサ30が取り付けられている。車体加速度センサ30によって路面GLに直交する方向における車体100Bの加速度(車両100のばね上の加速度)を求め、これに基づいてばね上の振動の周波数を求めることができる。また、懸架装置20のロワーアーム21Lには、懸架装置用加速度センサ31が取り付けられている。懸架装置用加速度センサ31によって、ロワーアーム21Lの動作を検出することにより、路面GLに直交する方向における車両100のばね下の加速度を求め、これに基づいてばね下の振動の周波数を求めることができる。このように、車体加速度センサ30、懸架装置用加速度センサ31は、それぞれ振動検出手段として機能する。より具体的には、車体加速度センサ30は、車両100のばね上における振動を検出するばね上振動検出手段として機能し、懸架装置用加速度センサ31は、車両100のばね下における振動を検出するばね下振動検出手段として機能する。
【0026】
また、懸架装置20のロワーアーム21Lには、ストロークセンサ32が取り付けられている。ストロークセンサ32によって、車両100の車高を検出することができる。また、ストロークセンサ32によって、車体支持装置1のストロークを知ることができる。これによって、乗員や積載量の変化により車両100の車高が変化した場合には、気室4内や後述する気体ばね6内へ空気をさらに充填したり、あるいは空気ばね6等から空気を放出させたりして、車両100の車高を一定に保持することができる。
【0027】
図1−1に示すように、気室4に接続される気体通路7には、気室4に対する気体供給手段としての第1ポンプP1を接続してもよい。また、気体ばね6には、気体供給手段として、第2ポンプP2を接続するのが望ましい。また、この車体支持装置1は、気室4内の圧力を測定する気室用圧力センサ33と、気体ばね6内の圧力を測定する気体ばね用圧力センサ34を備えることができる。また、ストロークセンサ32の検出値に基づいて気体ばね6の体積を求めることができるので、ストロークセンサ32の検出値及び気体ばね用圧力センサ34から得られる気体ばね6内の圧力に基づいて、気体ばね6内の空気量を知ることができる。このように、気室用圧力センサ33、ストロークセンサ32及び気体ばね用圧力センサ34を使用して、気室4や気体ばね6に充填される気体の量を検出することができる。
【0028】
気体量検出手段によって検出された気室4内の気体量や気体ばね6内の気体量が、所定の閾値以下になった場合には、車体支持装置1が車体100Bを所定の車高に維持できない。この場合には、第1ポンプP1や第2ポンプP2を用いて、気室4や気体ばね6内へ気体を補給する。これによって、車体支持装置1が車体100Bの車高を保つ能力を維持して、安全に車両100を走行させる。
【0029】
シリンダ2からピストンロッド5が突出する部分には、封止部材として底板9が設けられる。ピストンロッド5は、底板9の貫通孔9Hを通って取り出される。貫通孔9Hには、シール9Sが設けられており、ピストンロッド5と貫通孔9Hとの隙間から漏れる第2気室4B内の気体の量を小さくする。
【0030】
本実施形態において、ブラケット5Bと底板9との間(すなわち、ブラケット5Bと第2気室4Bとの間)には、弾性体として、第3気室である気体ばね6が設けられる。車体支持装置1の第1気室4Aと第2気室4Bとで構成される気体ばねの主要機能は、車体支持装置1に周波数選択性を持たせることである。この車体支持装置1は、気体ばね6内の圧力と、第1気室4A内の圧力とによる荷重支持力から、第2気室4B内の圧力による力を差し引いた力で、車体100Bの質量を支持している。このように、第2気室4Bによる力が存在するために、追加の気体ばね6が必要となる。なお、気体ばね6の代わりに、コイルスプリング、板ばね等の弾性体を用いて、車体100Bの荷重を支持してもよい。
【0031】
なお、図2−1に示す車体支持装置1aのように、車体支持装置1a自体には、気体ばね6(図1参照)を備えていなくても、別の弾性体(例えばコイルばね)を用いて、車体支持装置1の取付対象である車体100Bの質量を支持することができる。また、図2−2に示す車体支持装置1bのように、気体供給手段であるポンプ10によって気室4にリアルタイムに気体を供給することによって、気室4内の圧力を所定の大きさに維持できれば、別のばね装置を用いることなく、気室4を単一とすることもできる。
【0032】
なお、本実施形態に係る車体支持装置1、1a等は、車体支持装置1、1a等の内部であって、車体取付側においてピストン3と対向する位置には、ストッパ部材19が取り付けられている。これによって、万一、気体ばね6や第1気室4A等内部の空気が抜けて、これらの空気圧支持による車両100のばね上質量の支持が不可能になっても、ストッパ部材19により前記ばね上質量を支持することができる。これにより、気体ばね6や第1気室4A等から万一空気漏れが発生しても、ストッパ部材19がピストン3に直接接触して車体100Bの質量を支持できるので、少なくとも車体100Bを低速で走行することができる。その結果、気体ばね6や第1気室4A等から万一空気漏れが発生しても、車両100は、低速走行により修理工場等へたどり着くことができる。
【0033】
車両100の懸架装置20を構成するロワーアーム21Lは、第1の端部21LAが車体100Bに取り付けられ、また、第2の端部21LBには車輪24を取り付ける車輪用ブラケット22が取り付けられる。車輪24は、車軸23を介して車輪用ブラケット22に取り付けられる。ここで、車輪用ブラケット22は、ロワーアーム21Lと、アッパーアーム21Uとによって車体100Bに取り付けられる(アッパーアーム21Uの車体取付部は省略)。
【0034】
車体支持装置1と懸架装置20のロワーアーム21Lとは、車体支持装置1のピストンロッド5に取り付けられるブラケット5Bを介して連結される。車輪24が路面GLから受ける衝撃等により矢印G方向に動くと、ロワーアーム21Lは第1の端部21LAを中心として揺動運動する。これによって、車体支持装置1のピストン3は、ロワーアーム21Lとともにシリンダ2内を往復運動する。
【0035】
ピストン3の往復運動により、第1気室4A及び第2気室4Bの体積は変化する。例えば、ロワーアーム21Lが上昇して、車体支持装置1の全長が短くなる際には、ピストン3も上昇する。この場合、第1気室4Aの体積は減少し、第2気室4Bの体積は増加する。これによって、第1気室4A及び第2気室4Bは、ピストン3の移動方向とは反対方向にピストン3を押し戻す力(反発力)を発生する。このように、車体支持装置1は気体ばねとして機能して、車輪24が路面GLから受ける衝撃を吸収したり、車体100Bの質量を支持したりする。
【0036】
本実施形態において、第1気室4Aと第2気室4Bとは、これらの内部に充填された気体が通過する気体通路7で接続されている。また、気体通路7には、気体通路開閉手段8を構成する開閉弁8Vが設けられている。すなわち、開閉弁8Vは、第1気室4Aと第2気室4Bとの間に設けられる。気体通路開閉手段8は、開閉弁8Vと、振動制御装置40によって開閉弁8Vを開閉するアクチュエータ(例えば、ソレノイドやピエゾ素子のような圧電素子、あるいは超音波モータ等)8Aとを含んで構成される。アクチュエータ8Aによって開閉弁8Vが閉じられると、第1気室4Aと第2気室4Bとは遮断され、第1気室4Aと第2気室4Bとの間で気体の出入りはなくなる。一方、アクチュエータ8Aによって開閉弁8Vが開くと、第1気室4Aと第2気室4Bとが連通し、気体通路7を介して、第1気室4Aと第2気室4Bとの間で気体が出入りできるようになる。
【0037】
ここで、図1−2に示すように、気体通路開閉手段8aを、ピストン3に設けた連通孔7aに取り付けてもよい。この場合、連通孔7aが気体通路になる。このように、気体通路開閉手段8aをピストン3内、又はピストンロッド5内へ組み込んで取り付けると、車体支持装置1の外部に気体通路開閉手段や気体通路を設ける必要はないので、車体支持装置1をコンパクトにすることができる。また、第1気室4Aと第2気室4Bとを接続する気体通路が車体支持装置1の外部に配置されないため、車両100の走行中においては、気体通路が飛び石等の攻撃を受けることはないので、車体支持装置1の信頼性が向上する。
【0038】
本実施形態に係る車体支持装置1は、ノッチフィルタのように機能することにより、ノッチ周波数の振動に対してばね剛性を小さくすることで、前記ノッチ周波数の振動が車体100Bへ伝達することを抑制する。これによって、車両100の振動系に発生する共振増幅を回避したり、車体100Bへ伝達される不快な振動を抑制したりすることができる。このように、本実施形態に係る車体支持装置1は、車体100Bへ伝達される振動を抑制させる効果がある。すなわち、本実施形態に係る車体支持装置1は、あたかも振動減衰装置のような作用を発揮する。
【0039】
ここで、ノッチフィルタとは、特定の周波数の振動を除去し、その他の周波数帯域における振動は通す機能を有するフィルタである。本実施形態に係る車体支持装置1は、ノッチフィルタのように機能することにより、特定の周波数(あるいは周波数帯域)で振動する振動の伝達を抑制する。すなわち、車輪24(図1−1)と車体100Bとの間において、特定の周波数(あるいは複数の卓越周波数)で振動する振動の伝達を抑制する。
【0040】
ここで、ノッチ周波数とは、ノッチフィルタによって除去される振動の周波数のことである。例えば、ノッチ周波数を、車体100B及び車体支持装置1を含む、車両100の振動系の固有振動数とする。このような振動数の振動が車体100Bへ入力されると、共振現象により車体100Bの振動が増幅する(共振増幅)ため、このような振動は、車体100Bへ伝達されないようにする必要がある。すなわち、前記固有振動数の振動は、車体100Bへの伝達を抑制したい周波数の振動である。本実施形態に係る車体支持装置1のノッチ周波数を、前記固有振動数とすれば、前記固有振動数の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制できるので、共振増幅現象を抑制できる。
【0041】
ノッチ周波数の振動に対して車体支持装置1のばね剛性を小さくするためには、フーリエ級数の理論によって、前記ノッチ周波数(ピストン3が気室4に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じた所定の周波数)だけでなく、その整数倍の高調波の周波数、あるいは整数分の1倍の周波数で気体通路開閉手段8を開閉すればよいことになる。これによって、本実施形態に係る車体支持装置1は、前記ノッチ周波数での伝達率が小さくなり、前記ノッチ周波数以外の振動は、前記ノッチ周波数に比べると大きい伝達率のまま荷重を支持することになる。これは、静止荷重(振動周波数が0に相当する)の支持には極めて重要な特性である。
【0042】
次に、図2−3、図2−4に開示した車体支持装置を説明する。図2−3に示す車体支持装置1cは、内部に気体が閉じ込められる第1気室4Aと第2気室4Bとが対向配置されて、これらがケース(筺体)11内に収められる。本実施形態において、第1気室4Aは、車体支持装置1cの取付対象である車両100の車体100B側に配置される。このため、第2気室4Bは、第1気室4Aの鉛直方向の下方位置に配置されることになる。ここで、鉛直方向とは重力の作用方向をいい、下方位置とは対地高さの低い側をいう(図2−3中矢印G方向)。
【0043】
対向配置される第1気室4Aと第2気室4Bとは、振動入力手段である荷重伝達部材3Aを挟持する。荷重伝達部材3Aには、懸架装置20(図1参照)を構成するロワーアーム21Lが取り付けられている。ロワーアーム21Lは、ケース11に設けられる貫通孔12を貫通している。荷重伝達部材3Aは、ロワーアーム21Lを介して路面から入力される力を、第1気室4A及び第2気室4Bに伝達する。この力は、第1気室4A及び第2気室4B内の気体に伝達されて、第1気室の気体が圧縮されることにより吸収、緩和される。これによって、車体100Bに伝達される前記力が緩和支持される。このように、この車体支持装置1cは、荷重が負荷された場合、第1気室4Aの体積変化と第2気室4Bの体積変化とは反対となる。すなわち、第1気室4Aの体積が減少すると、第2気室の体積は増加する。
【0044】
また、図2−3に示すように、第1気室4Aと荷重伝達部材3Aの第1支持部CP1とが接触する部分の荷重支持面積S1は、第2気室4Bと荷重伝達部材3Aの第2支持部CP2とが接触する部分の荷重支持面積S2よりも大きい(S1>S2)。ここで、S1:S2は、2:1〜10:1程度が適切である(以下同様)。すなわち、第1気室4Aが荷重伝達部材3Aから圧力を受ける受圧面積は、第2気室4Bが荷重伝達部材3Aから圧力を受ける受圧面積よりも大きい。
【0045】
これによって、第1気室4Aが荷重伝達部材3Aを押す力F1は、第2気室4Bが荷重伝達部材3Aを押す力F2よりも大きくなる。その結果、別に荷重支持用のばねや気体ばね等を使用しなくても、車体支持装置1c単独で、前記ロワーアーム21Lから荷重伝達部材3Aへ伝わる荷重を支持することができる。同時に、この車体支持装置1cは、気体通路開閉手段8をノッチ周波数で開閉することにより、ノッチ周波数の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制できる。
【0046】
この車体支持装置1cは、対向配置される第1気室4A及び第2気室4Bに、荷重伝達部材3Aが狭持される。そして、貫通孔12に貫通したロワーアーム21Lが荷重伝達部材3Aに取り付けられて、貫通孔12内をロワーアーム21Lが移動することで、車体支持装置1cが衝撃を吸収し、緩和する。従来の緩衝装置では、荷重の作用点がケースの外側にあったが、本実施形態に係る車体支持装置1cでは、ロワーアーム21Lからの荷重の作用点を車体支持装置1cのケース11内に設定できる。その結果、車体支持装置1cの全長を従来よりも短く設計できる。これにより、懸架装置100をコンパクトにすることができる。
【0047】
また、図2−3に示すように、この車体支持装置1cには、車体支持装置1cの内部であって、車両取付側において荷重伝達部材3Aの第1支持部CP1と対向する位置に、ストッパ部材19が取り付けられている。ストッパ部材19は、第1気室4Aの内側かつ車体支持装置1cの車体100Bへの取付側(すなわち、第1気室4Aの内側であって、重力の作用方向(図2−3中矢印G方向)とは反対方向側)に設けられる。
【0048】
なお、ストッパ部材19は、荷重伝達部材3Aの第1支持部CP1側に設けてもよいし、第1支持部CP1側及び第1気室4Aの内側かつ車体支持装置1cの車体100Bへの取付側の両方に設けてもよい。すなわち、ストッパ部材19は、車体支持装置1cのケース11内であって、荷重伝達部材3Aの第1支持部CP1と、車体100Bとの間に設けることができる。ストッパ部材19は弾性材料で構成されており、荷重伝達部材3Aの動作方向(すなわち車体支持装置1cの動作方向)に向かって圧縮されたときに反発力を発生する。ストッパ部材19は、例えば、ゴムや樹脂等の弾性材料を用いたり、つるまきばね、皿ばね、気体ばね等を用たりすることができる。
【0049】
この車体支持装置1cは、万一第1気室4A内の空気が抜けて、車体支持装置1c内の空気圧支持による車両100のばね上質量の支持が不可能になっても、ストッパ部材19により前記ばね上質量を支持することができる。これにより、第1気室4A等から万一空気漏れが発生しても、ストッパ部材19が荷重伝達部材3Aの第1支持部CP1に直接接触して、車体100Bの質量を支持できるので、少なくとも車体100Bは低速で走行できる。その結果、気室から万一空気漏れが発生しても、低速走行により修理工場等へたどり着くことができる。このように、車体支持装置1cを備える車両100の信頼性を向上させるため、ストッパ19を設けることが好ましい。
【0050】
図2−4は、本実施形態に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。この車体支持装置1dは、上記車体支持装置1cと同様の構成であるが、対向配置される第1気室4Aと第2気室4Bとを、振動入力手段である荷重伝達部材3Bが貫通する。そして、荷重伝達部材3Bの第1支持部CP1が、対向面OPの反対側における第1気室4Aに接触する。また、荷重伝達部材3Bの第2支持部CP2が、対向面OPの反対側における第2気室4Bに接触する。第1支持部CP1と第1気室4Aとの接触部分における荷重支持面積S1は、第2支持部CP2と第2気室4Bとの接触部分における荷重支持面積S2よりも大きい。そして、この車体支持装置1dは、荷重が負荷された場合、第1気室4Aの体積変化と第2気室4Bの体積変化とは反対となる。上述した車体支持装置1、1c等と同様に、この車体支持装置1dは、気体通路開閉手段8をノッチ周波数で開閉することにより、ノッチ周波数の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制できる。
【0051】
図2−5は、本実施形態に係る懸架装置に適用可能な車体支持装置の構造を示す説明図である。この車体支持装置1eは、装置筐体2eの1の端部(上端部)が車体100Bに連結され、車体100Bとは反対方向(下方向)へ伸びるブラケット部材5eが、懸架装置のロワーアーム21Lに連結される。この車体支持装置1eでは、第1気室4A及び第2気室4Bが、それぞれ可撓部材9A、9Bで仕切られて構成されるロール式の空気ばねで構成される。この車体支持装置1eでは、ブラケット部材5eと連結される第2気室4Aのカバー(第2気室カバー)3eを振動入力手段として用いる。すなわち、ロワーアーム21Lと車体100Bとの間の相対的な振動は、ブラケット部材5eを介して第2気室4Bのカバー3eに入力される。このように、車体支持装置1eの第2気室カバー3eは、車体支持装置の気室に対する振動入力手段としての機能は、図1−1に示した車体支持装置1のピストン3や、図2−3に示した車体支持装置1cの荷重伝達部材3A等と同様である。
【0052】
図2−3に示す車体支持装置1cは、第1気室4Aと第2気室4Bとを、荷重伝達部材3Aに対して対向する位置に配置して、第1気室4Aと第2気室4Bとが互いに押し合うことで、懸架装置を安定化する。一方、図2−5に示す車体支持装置1eは、第1気室4Aと第2気室4Bとが、懸架装置のロワーアーム21Lに連結するブラケット部材5eと一体とした第2気室カバー3eを押し合うことで、図2−3に示す車体支持装置1cと同様の効果を得ている。ここで、この車体支持装置1eでは、ブラケット部材5eと第2気室カバー3eとが、振動入力手段となる。空間の利用効率からは、図2−3に示す車体支持装置1cよりも、図2−5に示す車体支持装置1eの方が有利である。また、図2−5に示す車体支持装置1eは、いわゆるストラット形の懸架装置にも適している。
【0053】
車体支持装置1eは、第1気室4Aと、第2気室4Bとが気体通路7で連結される。気体通路7には、気体通路開閉手段8が設けられる。そして、この車体支持装置1eでは、振動検出手段(例えば、車体加速度センサ30や懸架装置用加速度センサ31、図1−1参照)で検出した振動特性に応じた周波数で、気体通路開閉手段8の開閉弁8Vを開閉することでノッチ周波数を作成し、これと同じ周波数を持つ振動成分の伝達を抑制する。すなわち、この車体支持装置1eは、刻々と変化する振動特性に追随することで、振動伝達を抑制する効果が劣化しにくいという利点がある。
【0054】
図2−6は、本実施形態に係る懸架装置に適用可能な車体支持装置の構造を示す説明図である。この車体支持装置1fは、図2−5に示す車体支持装置1eと同様であるが、第1気室4Aの内壁面が外筒2Aの内壁面を利用して、また、第2気室の内壁面が、内筒3fの内壁面を利用して構成される。外筒底部10には、内筒3が貫通する貫通孔11が設けられる。
【0055】
外筒2Aと内筒3fとの間には、第1気室4Aを構成する可撓部材9Aが設けられ、また、内筒3fと外筒底部10との間には、第2気室4Bを構成する可撓部材9Bが設けられる。なお、この車体支持装置1fにおいて、振動入力手段は、内筒3f及びこれと連結されるブラケット5fで構成される。
【0056】
この車体支持装置1fは、外筒2Aの車体取付側に第1ストッパ部材19Aが設けられ、また、外筒底部10には第2ストッパ部材19bが設けられる。第1ストッパ部材19A及び第2ストッパ部材19Bの中心部には、第1気室4Aと第2気室4Bとを接続する気体通路7が形成される。気体通路7には、気体通路開閉手段8が設けられる。そして、この車体支持装置1fでは、振動検出手段(例えば、車体加速度センサ30や懸架装置用加速度センサ31、図1−1参照)で検出した振動特性に応じた周波数で、気体通路開閉手段8が備える開閉弁8Vを開閉することでノッチ周波数を作成し、これと同じ周波数を持つ振動成分の伝達を抑制する。すなわち、この車体支持装置1fは、刻々と変化する振動特性に追随することで、振動伝達を抑制する効果が劣化しにくいという利点がある。ここで、第1気室4Aと第2気室4Bとが幾何学的に対向していなくても、力学的に対向する関係に対となった空気ばねに対して、本発明の原理を上記と同様に適用することができる。
【0057】
図3は、本実施形態に係る車体支持装置を車両に配置した状態を示す概念図である。図3は、車両100の4輪に、それぞれ図2−3に示す車体支持装置1cを配置した例を示している。車両100の前進方向は、図3の矢印Lで示す方向である。この車両100には、右側前輪、左側前輪、右側後輪、左側後輪の位置に、それぞれ車体支持装置1c1、1c2、1c3、1c4が配置される。それぞれの車体支持装置1c1、1c2、1c3、1c4は、気体通路71、72、73、74に設けられる気体通路開閉手段81、82、83、84を、振動制御装置40によって所定周波数で開閉することによって、上述したように所定周波数の振動の伝達を抑制する。次に、本実施形態に係る車体支持装置1の振動制御装置40について説明する。
【0058】
図4は、本実施形態に係る振動制御装置の構成を示す説明図である。振動制御装置40は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)40Pと、記憶部40Mと、入力ポート44と、出力ポート45とを含んで構成される。
【0059】
振動制御装置40のCPU40Pには、周波数設定部41と、連通時間設定部42と、弁制御部(気体通路開閉手段制御部)43とが含まれる。これらが、本実施形態に係る振動制御を実行する部分となる。振動制御装置40の周波数設定部41と、連通時間設定部42と、弁制御部43とは、入力ポート44及び出力ポート45を介して接続される。これにより、振動制御装置40に含まれる周波数設定部41と、連通時間設定部42と、弁制御部43とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。
【0060】
また、CPU40Pと記憶部40Mとは、入力ポート44及び出力ポート45を介して接続される。これによって、振動制御装置40は、記憶部40Mにデータを格納したり、記憶部40Mに格納されているデータやコンピュータプログラム等を利用したりすることができる。
【0061】
入力ポート44には、車体加速度センサ30やストロークセンサ32その他の、車体支持装置1の制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これにより、CPU40Pは、車体支持装置1の制御に必要な情報を取得することができる。出力ポート45には、振動制御に必要な制御対象、すなわち、気体通路開閉手段8を構成する開閉弁8Vの開閉を制御するアクチュエータ8Aが接続されている。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、CPU40Pは、気体通路開閉手段8を構成する開閉弁8Vを、所定の周波数で開閉することができる。
【0062】
記憶部40Mには、本実施形態に係る振動制御の処理手順を含むコンピュータプログラムやデータ等が格納されている。ここで、記憶部40Mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0063】
上記コンピュータプログラムは、既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係る振動制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この振動制御装置40は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、周波数設定部41、連通時間設定部42及び弁制御部43の機能を実現するものであってもよい。次に、本実施形態に係る車体支持装置1の制御を説明する。次の説明では、適宜図1〜図4を参照されたい。
【0064】
図5は、本実施形態に用いるフーリエ解析を実行する際の機能ブロック図である。図6〜図9は、本実施形態に係る車体支持装置の制御例を説明するための図である。次の説明においては、実施形態に係る車体支持装置1の制御において、例えば、車体100Bの振動成分のうち、卓越周波数の振動成分を抑制する例を説明する。この場合、周波数設定部41は、車体100Bへの伝達を遮断する振動の周波数(ノッチ周波数)を設定する。本実施形態において、周波数設定部41は、車体加速度センサ30から取得した車体100Bの加速度(ばね上の加速度)に基づいて、車体100Bの振動成分を取得する。取得した車体100Bの振動は、例えば、図6に示すようになる。
【0065】
車体支持装置1等を介して路面から車体100Bに伝達される振動を抑制し、車両100の乗員に快適な乗り心地を提供するためには、乗員に与える影響の大きい振動の伝達を抑制することが効果的である。乗員に与える影響の大小を判別する方法の一つに、パワースペクトルの大きさで判別する方法がある。パワーの大きな振動成分がその振動を支配していると考えられ、パワーの小さな振動成分はその振動に対して支配的ではないと考えられるからである。なお、伝達を抑制したい振動が既知(例えば、車両100のばね上及び車体支持装置1を含めた系の固有振動数)の場合には、車体100Bへの伝達を抑制したい振動を判別しなくてもよい。ここで、振動のパワーとは、入力振動を各周波数成分に分解したときの、各周波数が持つ強度(パワー)を指す。振動のパワーは、フーリエ展開したときのsinの係数とcosの係数とを各々2乗して加算することで求めることができる。
【0066】
時事刻々の振動からパワーの大きなスペクトル、すなわち、その振動を大きく支配している振動成分を抽出するには、リアルタイムに振動解析を実行することが好ましい。ここで、「リアルタイムの振動解析」とは、狭義の意味での同時性を意味するのではなく、所定の時間幅で、取得した振動から複数の振動のデータ(振幅やパワー、あるいはエネルギのデータ)をサンプリングして、フーリエ解析を実行し、パワーの大きなスペクトルの振動成分を抽出する一連の作業を、所定の時間内に終了することを繰り返す作業をいう。
【0067】
図5に示すように、車体加速度センサ30(図1参照)からの振動信号は、A/D(Analog/Digital)変換器50によってアナログ信号からディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された振動信号は、バンドパスフィルタ51へ取り込まれ、所定の周波数帯域に属する振動成分だけが通過する。
【0068】
車両100の乗員が不快と感じる振動が車体100Bへ伝達されることを抑制するにあたっては、前記乗員が不快に感じる周波数やばね上、ばね下の共振周波数等、問題となる振動の周波数帯域は予め分かっている。この周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタ51を用いて、車体100Bへの伝達を抑制したい周波数を特定するための準備を行う。
【0069】
バンドパスフィルタ51を通過した周波数帯域の振動は、データバッファ52へ一旦格納される。振動制御装置40の周波数設定部41が先行データの解析を終了した旨のトリガ信号をデータバッファ52へ出力すると、データバッファ52に格納された、前記周波数帯域の振動は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)解析部53に送られてフーリエ解析される。図7は、図6に示す車体100Bの振動をフーリエ解析した結果の例を示している。
【0070】
FFT解析部53で時間領域から周波数領域へ変換された特定の周波数帯域の振動は、振動抑制装置40の記憶部40Mへ格納される。周波数設定部41は、記憶部40Mに格納されているフーリエ解析の結果、すなわちパワースペクトルから、伝達を抑制する周波数を決定する。本実施形態において、伝達を抑制する周波数は、振動のパワー(あるいは振幅、あるいはエネルギ)が所定の閾値asを超える周波数であり、図7に示す例ではf1である。
【0071】
周波数設定部41が、伝達を抑制する周波数を特定したら、後述するように、振動抑制装置40は、車体100Bへ伝達される特定の周波数を抑制するための処理を実行する。この処理の実行が終了したら、周波数設定部41は、FFT解析部53に対して、データバッファ52から次のデータを取得してフーリエ解析を実行するように指令を発信する。本実施形態では、上記処理を繰り返し実行し、乗員に与える影響の大きい振動の周波数を検出して、これの伝達を抑制するように構造体支持装置1等を制御する。
【0072】
伝達を抑制する周波数を特定したら、周波数設定部41は、伝達を抑制する周波数又はその整数倍の周波数を、気体通路開閉手段8の開閉周波数foとして設定する。図8に、開弁指令パルスの一例を示す。図8に示すように開弁指令パルスの周期はtaであり、特定した伝達を抑制する周波数で開閉する場合は、fo=f1=(1/ta)である。また、連通時間設定部42は、車体支持装置1の支持荷重に基づいて、開弁指令パルスの幅tbを設定する(図8参照)。開弁指令パルスの幅tbは、開閉弁8Vの開弁時間であり、気体通路7の連通時間を示す(以下開弁時間という)。開弁時間tbは、伝達を抑制する周波数で振動する振動のパワーの大きさに応じて変更することが好ましい。例えば、伝達を抑制する周波数で振動する振動のパワーが大きくなるに従って、開弁時間tbを大きくする。これによって、伝達を抑制する周波数におけるゲインを0に近くすることができるので、より確実に、ノッチ周波数の伝達を抑制できる。また、例えば、開弁時間tbは、車体支持装置1の支持荷重が大きくなるにしたがって小さくしてもよい。
【0073】
弁制御部43は、周波数設定部41が設定した開閉周波数foで、かつ連通時間設定部42が設定した開弁時間tbを開弁指令パルス幅として、気体通路開閉手段8のアクチュエータ8Aへ、開弁指令パルスを出力する。これによって、図9に示すように、車体支持装置1は、伝達を抑制する周波数f1におけるゲインが0で、それ以外の周波数におけるゲインがおよそ1.0の周波数フィルタとして機能する。すなわち、伝達を抑制する周波数f1の振動は、車体支持装置1によって遮断され、車体100Bに対してはほとんど伝達されない。これによって、車体100Bへ伝達される周波数f1の振動を抑制できる。伝達を抑制する周波数f1を、車体支持装置1で支持される車体100Bの共振周波数に設定すれば、共振増幅を回避することができる。
【0074】
図10〜図13は、本実施形態に係る車体支持装置における他の制御例を説明するための図である。次の説明においては、実施形態に係る車体支持装置1の制御において、例えば、車体100Bの振動成分のうち、複数(この例では2)の卓越周波数の振動成分を抑制する例を説明する。この場合、周波数設定部41は、車体100Bへの伝達を遮断する振動の周波数(伝達を抑制する周波数)を設定する。周波数設定部41は、車体100Bの振動成分をフーリエ解析した結果が保存された記憶部40Mを利用する。図10に、フーリエ解析の結果を示す。本実施形態において、伝達を抑制する周波数は、振動のパワー(あるいは振幅、あるいはエネルギ)が所定の閾値asを超える周波数であり、図10に示す例ではf1、f2である。
【0075】
伝達を抑制する周波数を特定したら、周波数設定部41は、気体通路開閉手段8の開弁指令パルスを設定する。図11には、開弁指令パルスの一例を示しており、上段が伝達を抑制する周波数f1に対する開弁指令パルスであり、下段が伝達を抑制する周波数f2に対する開弁指令パルスである。図11に示すように、また、伝達を抑制する周波数f1に対する開弁指令パルスの周期はt1であり、f1=(1/t1)である。伝達を抑制する周波数f2に対する開弁指令パルスの周期はt2であり、f2=(1/t2)である。
【0076】
伝達を抑制する周波数が複数ある場合に、複数の前記周波数の振動成分を扱うときには、図12に示すように、周波数設定部41は、ノッチ周波数f1に対する開弁指令パルスと、周波数f1に対する開弁指令パルスとを重ね合わせたものを、開弁指令パルス列とする。ここで、図12の実線が伝達を抑制する周波数f1に対する開弁指令パルスであり、一点鎖線が伝達を抑制する周波数f2に対する開弁指令パルスである。
【0077】
弁制御部43は、周波数設定部41が設定した開閉指令パルス列で、かつ連通時間設定部42が設定した開弁時間tb(図8参照)を開弁指令パルス幅として、気体通路開閉手段8のアクチュエータ8Aへ、開弁指令パルスを出力する。これによって、図13に示すように、車体支持装置1は、伝達を抑制する周波数、すなわちノッチ周波数f1、f2におけるゲインが0で、それ以外の周波数におけるゲインが1.0の周波数フィルタとして機能する。すなわち、ノッチ周波数f1、f2の振動は、車体支持装置1によって遮断され、車体100Bに対してはほとんど伝達されない。これによって、車体100Bへ伝達されるノッチ周波数f1、f2の振動を抑制できる。
【0078】
複数のノッチ周波数のうち一つを車両100の振動系の共振周波数に設定すれば、共振増幅を回避することができる。また、ばねと油圧ダンパーとで構成される緩衝装置では、周波数が高い領域における振動遮断特性が劣化するという問題があるが、本実施形態に係る車体支持装置1では、ノッチ周波数を複数設定することで、複数の振動を遮断することができる。これによって、広い周波数帯域において、車体100Bに伝達される振動を抑制することができる。
【0079】
上述した説明では、車体支持装置1等によって車両100のばね上における振動を抑制する例を説明したが、本実施形態に係る車体支持装置1等は、車両100のバネ下における振動に対しても同様に適用できる。この場合、車体加速度センサ30によって車体100Bの振動(すなわち車両100のばね上の振動)を検出する代わりに、懸架装置用加速度センサ31によって車両100のばね下の振動を検出する。そして、検出した前記ばね下の振動に基づいて決定されたノッチ周波数で、気体通路開閉手段8を開閉する。これによって、乗り心地に影響を与える周波数で振動するばね下の振動が、車体100Bへ伝達されることを抑制できるので、車両100の乗り心地を改善できる。また、路面GLに対する車輪24の追従性を悪化させるばね下の周波数をノッチ周波数とすることにより、路面GLに対する車輪24の追従性悪化を抑制することができる。
【0080】
また、上述した例では、振動検出手段によって検出した車両100のばね上、あるいはばね下の振動に基づいて、伝達を抑制する振動の周波数を決定していたが、伝達を抑制する振動の周波数を一定値としてもよい。例えば、伝達を抑制する振動の周波数として、車両100の振動系の固有振動数を選択し、常にこの固有振動数に対応する周波数で、気体通路開閉手段8を開閉してもよい。これによって、気体通路開閉手段8の制御が容易になる。また、この場合、車両の乗員や積載量の変化によって、前記固有振動数も変化するが、振動検出手段によって前記固有振動数の変化を検出して、その結果に応じて伝達を抑制する振動の周波数を変更してもよい。
【0081】
本実施形態に係る車体支持装置1を車両の懸架装置に適用した例を説明したが、本実施形態に係る車体支持装置1の適用対象はこれに限られるものではなく、ノッチ周波数の振動の伝達を抑制する必要がある車両全般に対して適用できる。例えば、自転車、二輪車、トラック、バス等を含む車両一般の懸架装置類、列車や機関車等の鉄道車両、あるいは鉄道車両に用いられるヨーダンパー等、二輪車のステアリングダンパー、航空機の脚に用いる緩衝装置に、本実施形態に係る車体支持装置1は適用できる。
【0082】
以上、本実施形態では、空気や窒素等の気体が充填される気室、及びこの気室に対して相対的に往復運動することによって振動を前記気室へ入力する入力手段を備え、この入力手段が前記気室に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じて設定される、伝達を抑制する周波数で、前記気室に接続される気体通路を開閉する。このような構成により、前記伝達を抑制する周波数の振動は、車体支持装置によって遮断され、この車体支持装置によって支持される構造物に対してはほとんど伝達されない。これによって、車体支持装置及びこれに支持される被支持質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合には、振動特性の変化に応じて、気室に接続される気体通路を開閉する周波数を変更することにより、静止荷重を支持しつつ、被支持質量に対する振動の抑制効果を発揮できる。また、伝達を抑制する周波数を車両のばね下の振動に基づいて設定すれば、例えば、路面GLに対する車輪24の追従性悪化を抑制することができる。
【0083】
(実施形態2)
実施形態2は、車体支持装置が備える第1気室と第2気室とによって荷重を支持するとともに、一対の車体支持装置において、第1気室と第2気室とを互いに連通させる第1の気体通路と第2の気体通路とを備え、前記第1の気体通路と前記第2の気体通路とを接続する第3の気体通路に、所定の周波数で開閉する気体通路開閉手段を設ける点に特徴がある。次の説明では、上記実施形態1で説明した車体支持装置1c(図2−3参照)を例として説明するが、本実施形態では、実施形態1で説明した他の車体支持装置を適用してもよい。なお、以下において、車両の左右とは、車両の進行方向を基準とした左右であり、車両の前後とは、車両の進行方向を基準とした前後をいう。
【0084】
図14は、本実施形態に係る車体支持システムの配管のパターンを示す説明図である。図15は、本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の左右に取り付けた車体支持装置間の気室を接続した例を示す説明図である。図15中の矢印L方向が車両100の進行方向を表す。また、図15では、車体支持装置1c1〜14を平面図の位置に配置しているが、配管を見やすくするために、鉛直方向配置されるべきである車体支持装置を、紙面と平行に記載してある。
【0085】
図14に示す車体支持システム10は、図15に示す車両100の前部の構成を示している。図15に示す車体支持システム10が備えられる車体支持装置1cは、図14に示す車体支持システム10の車体支持装置1cと同様の構成である。本実施形態に係る車体支持システム10は、一対の車体支持装置として、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とを備えている(必要に応じて、単に車体支持装置1cという)。そして、第1車体支持装置1c1が車両100の進行方向(図14中矢印L方向)に向かって右側に、第2車体支持装置1c2が車両100の進行方向に向かって左側に取り付けられる。このように、一対の第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とは、車両100の異なる位置(この例では左右)に取り付けられて、車輪24が路面から受ける入力を吸収し、緩和する。なお、この車両100が備える懸架装置においては、車輪24の動きを上下方向にガイドするアームが、アッパーアーム21U1、21U2としてそれぞれ第1及び第2振動入力手段3A1、3A2に固定され、接続される。
【0086】
第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2とは、第1の気体通路71で接続されている。また、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2とは、第2の気体通路72で接続されている。このように、第1の気体通路71及び第2の気体通路72によって、異なる車体支持装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とが連通する。
【0087】
第1の気体通路71と第2の気体通路72とは、第3の気体通路9によって接続されている。この第3の気体通路9には、気体通路開閉手段8が設けられている。気体通路開閉手段8は、振動制御装置40により、所定の周波数(例えば、乗員が不快に感じる振動)で開閉されて、前記所定の周波数の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制することができる。すなわち、前記所定の周波数についてだけ、気体通路開閉手段8を用いてセミアクティブに第1車体支持装置1c1や第2車体支持装置1c2のばね剛性を低下させることにより、前記所定の周波数の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制する。これによって、この車体支持システム10では、車体100Bの荷重を支持しつつ、車体支持装置1c及びこれに支持される車体100Bの質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、車体100Bに対する振動抑制効果を発揮できる。
【0088】
所定の周波数の振動伝達を抑制する際には、伝達を抑制したい振動の入力側に応じて、気体通路開閉手段8を開閉すればよい。例えば、第1車体加速度センサ301、第2車体加速度センサ302、第1懸架装置用加速度センサ311、第2懸架装置用加速度センサ312の、4つの振動検出手段から送られる振動のデータを各々周波数分解する。そして、振動のパワーが最大の振動が特定された場合には、その特定された振動の周波数で気体通路開閉手段8を開閉することで、その成分の振動が車体100Bへ伝達されることを抑制することができる。なお、第1の気体通路開閉手段81及び第2の気体通路開閉手段82を開閉するタイミングは、同じタイミングでもよいし、異なるタイミングでもよい。
【0089】
気体通路開閉手段8を開くと、第1の気体通路71と、第2の気体通路72とが連通して、閉じた気体として一体化される。ここで、第1の気体通路71は、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2とを接続し、また、第2の気体通路72は、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2とを接続する。特定された振動の周波数で気体通路開閉手段8を開閉すると、その周波数を持つ振動は、4個の気室すべての気体で受けられるため、微小な高周波振動に対する、第1車体支持装置1c1、第2車体支持装置1c2のばね剛性が小さくなる。
【0090】
次に、準静的変位に対する動作を説明する。第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作する場合は、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが同位相で動作する場合よりもばね定数が高くなる(この例では約2倍)。ここで、逆位相で動作する場合とは、例えば、第1車体支持装置1c1の第1振動入力手段3A1が上昇側(車体100Bへの取付側、矢印U側)へ移動し、第2車体支持装置1c2の第2振動入力手段3A2が下降側(車両100への取付側とは反対側、矢印D側)へ移動する場合である。また、同位相で動作する場合とは、例えば、第1車体支持装置1c1の第1振動入力手段3A1、及び第2車体支持装置1c2の第2振動入力手段3A2が、ともに上昇側又は下降側へ移動する場合である。
【0091】
例えば、第1車体支持装置1c1の第1振動入力手段3A1に対して、第1車体支持装置1c1が下降すると、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1は体積が減少し、第2気室4B1は体積が増加する。第1車体支持装置1c1の第1気室4A1は、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2と連通しているので、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1の体積減少によりここから押し出された気体は、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2へ移動しようとする。また、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1は、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2と連通しているので、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1の体積増加により、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2から気体が流入しようとする。
【0092】
第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作する場合、第1車体支持装置1c1の第1振動入力手段3A1が第1気室4A1の上昇側へ移動すると、第2車体支持装置1c2の第1振動入力手段3A2は、第1気室4A1の下降側へ移動する。これによって、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2の体積は減少するので、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1へ気体を押し出すことになる。また、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2の体積は増加するので、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1から気体を流出させることになる。
【0093】
このように、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作すると、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と第2車体支持装置1c2の第2気室4B2との気体の移動、及び第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と第2車体支持装置1c2の第1気室4A2との気体の移動が阻害される。その結果、本実施形態に係る懸架装置100では、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作すると、第1車体支持装置1c1及び第2車体支持装置1c2のばね定数が上昇する。
【0094】
一方、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが同位相で動作すると、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と第2車体支持装置1c2の第2気室4B2との間における気体の移動、及び第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と第2車体支持装置1c2の第1気室4A2との間における気体の移動が促進される。その結果、本実施形態に係る懸架装置100では、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが同位相で動作すると、第1車体支持装置1c1及び第2車体支持装置1c2のばね定数が低下し、乗り心地が改善される。
【0095】
ここで、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが同位相で動作する場合は、車両100が直進する場合に相当する。一方、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作する場合は、車両100が旋回する場合に相当する。本実施形態に係る懸架装置100では、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが逆位相で動作する場合にばね定数が高くなる。これによって、車両100の直進時においては低いばね定数で乗り心地を確保しつつ、車両100の旋回時においては高いばね定数によってロール剛性が向上するので、車両100の旋回時における操縦安定性や走行性能を向上させることができる。このように、この車体支持システム10は、車両100の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更して、乗り心地と旋回時における操縦安定性等とを両立させることができる。同時に、この車体支持システム10は、車体100Bへ伝達させたくない振動の周波数で、気体通路開閉手段8を開閉することにより、前記振動の伝達を抑制して、乗り心地の悪化等を抑制できる。
【0096】
また、気体通路開閉手段8を、例えば、乗員が不快に感じる振動で開閉することにより、乗員が不快に感じる振動が車体100Bへ伝達されることを抑制し、快適な乗り心地を提供することができる。これは、車両100の旋回中でも実現できる。さらに、車両100のロール方向における振動の周波数と同じ周波数で気体通路開閉手段8を開閉すれば、車両100のロール方向における振動の伝達を抑制して、安定した車両100の旋回を実現できる。
【0097】
本実施形態に係る車体支持システム10は、一対の異なる車体支持装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させ、車両100の旋回時においては、機械式の車体ロールに対するスタビライザーと同様に機能する。これによって、機械式の車体ロールに対するスタビライザーを備えなくとも、スタビライザーを備える場合と同様の効果を得ることができる。その結果、機械式のスタビライザーが不要になるので、軽量化に寄与する。
【0098】
また、機械式のスタビライザーの場合、ロール剛性を向上させるためにねじり剛性の高いものを使用すると、片方の車輪が段差を通過する際に乗り心地が悪化したり、操縦安定性に影響が発生したりする。しかし、本実施形態に係る懸架装置100は、第1車体支持装置1c1と第2車体支持装置1c2とが同位相で動作する場合はばね定数が低くなるので、乗り心地の悪化を抑制でき、また、操縦安定性への影響を低減できる。
【0099】
また、図14に示す車体支持システム10では、気体供給源60A、60Bから第1及び第2車体支持装置1c1、1c2へ気体を供給することにより、車両100の車高を調整することができる。気体供給源60Aと第1系統S1との間には、切替弁611が、気体供給源60Bと第2系統S2との間には、切替弁612が配置されている。切替弁611、612は、遮断装置621、622と、逆止弁631、632と、排気部641、642とを備えて構成される。
【0100】
上記第1系統S1又は上記第2系統S2に対して別個に気体を供給すれば、左右、あるいは前後の車高を異ならせることもできる。このように、第1系統S1又は第2系統S2に給排気することにより、車体支持装置毎に車高を調整できる。このため、例えば、車体支持装置に荷重が作用した場合、ストロークセンサ321、322等を用いて、予め設定した車高を保つように制御する、いわゆるオートレベリング制御も可能である。
【0101】
図16は、本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の前後に取り付けた車体支持装置間の気室を接続した例を示す説明図である。図16中の矢印L方向が車両100の進行方向を表す。この車体支持システム10aにおいては、車両の同じ側かつ前後における一対の車体支持装置間で、それぞれの車体支持装置が備える気室同士を連通させている。具体的には、図16に示すように、車両100の同じ側、かつ前後に取り付けた一対の車体支持装置である第1車体支持装置1c1と第3車体支持装置1c3との間、及び同じく一対の車体支持装置である第2車体支持装置1c2と第4車体支持装置1c4との間で、それぞれの車体支持装置の気室を連通させる。
【0102】
この例において、図16に示すように、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と第3車体支持装置1c3の第2気室4B3とを第1の気体通路71で接続し、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と第3車体支持装置1c3の第1気室4A3とを第2の気体通路72で接続する。また、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2と第4車体支持装置1c4の第2気室4B4とを第1の気体通路71で接続し、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2と第4車体支持装置1c4の第1気室4A4とを第2の気体通路72で接続する。
【0103】
車体支持システム10aにおいて、第1車体支持装置1c1と第3車体支持装置1c2とは、第1の気体通路71及び第2の気体通路72で接続される。第1の気体通路71と第2の気体通路72とは、第1気体通路開閉手段81が設けられる第3の気体通路9で接続される。また、第2車体支持装置1c2と第4車体支持装置1c4とは、第1の気体通路71及び第2の気体通路72で接続される。第1の気体通路71と第2の気体通路72とは、第2気体通路開閉手段82が設けられる第3の気体通路9で接続される。そして、第1の気体通路開閉手段81、第2の気体通路開閉手段82を、それぞれ振動制御装置40によって所定の周波数(例えば、乗員が不快に感じる振動)で開閉することにより、前記所定の周波数の振動が車両100へ伝達されることを抑制することができる。
【0104】
第1の気体通路開閉手段81、第2の気体通路開閉手段82は、第1及び第2車体加速度センサ301、302や第1及び第2懸架装置用加速度センサ311、312からの信号に基づいて制御される。このため、車体支持装置1c及びこれに支持される車体100Bの質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、これに対応した変化を第1及び第2車体加速度センサ301、302等から取得して第1の気体通路開閉手段81等を制御するので、車体100Bに対する振動抑制効果を発揮できる。
【0105】
図17は、本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の前後左右4箇所に取り付けられた車体支持装置のうち、対角位置にある一対の車体支持装置間で気室を接続した例を示す説明図である。図17中の矢印L方向が車両100の進行方向を表す。具体的には、図17に示すように、この車体支持システム10bは、車両100の4箇所に取り付けた車体支持装置1cのうち、対角位置にある一対の第1車体支持装置1c1と第4車体支持装置1c4との間、及び一対の第2車体支持装置1c2と第3車体支持装置1c3との間で、それぞれの車体支持装置の気室を連通させる。
【0106】
この例において、図17に示すように、第1車体支持装置1c1の第1気室4A1と第4車体支持装置1c4の第2気室4B4とを第1の気体通路71で接続し、第1車体支持装置1c1の第2気室4B1と第4車体支持装置1c3の第1気室4A4とを第2の気体通路72で接続する。また、第2車体支持装置1c2の第1気室4A2と、第3車体支持装置1c3の第2気室4B3とを第3気体通路73で接続し、第2車体支持装置1c2の第2気室4B2と第3車体支持装置1c3の第1気室4A3とを第4気体通路74で接続する。
【0107】
この車体支持システム10bにおいて、第1の気体通路71と第2の気体通路72とは、第1の気体通路開閉手段81が設けられる第3の気体通路9で接続される。また、第3気体通路73と第4気体通路74とは、第2の気体通路開閉手段82が設けられる第3の気体通路9で接続される。そして、第1、第2の気体通路開閉手段81、82を、それぞれ振動制御装置40によって所定の周波数(例えば、乗員が不快に感じる振動)で開閉することにより、前記所定の周波数の振動が車両へ伝達されることを抑制することができる。
【0108】
第1の気体通路開閉手段81、第2の気体通路開閉手段82は、第1及び第2車体加速度センサ301、302や第1及び第2懸架装置用加速度センサ311、312からの信号に基づいて制御される。このため、車体支持装置1c及びこれに支持される車体100Bの質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、これに対応した変化を第1及び第2車体加速度センサ301、302等から取得して第1の気体通路開閉手段81等を制御するので、車体100Bに対する振動抑制効果を発揮できる。
【0109】
以上、本実施形態では、車両の実際の振動に基づいて気体通路開閉手段を開閉する周波数を制御する。これによって、車体支持装置及びこれに支持される車体の質量が構成する振動系の固有振動数が変化した場合でも、これに対応した変化を反映させて気体通路開閉手段を開閉する周波数を制御できるので、車体に対する振動抑制効果を発揮できる。
【0110】
また、本実施形態では、第1気室と第2気室とによって荷重を安定に支持するとともに、一対の緩衝装置において、第1気室と第2気室とを互いに連通させる第1の気体通路と第2の気体通路とを備える。これによって、一対の緩衝装置は、逆位相で動作するときのばね定数は、同位相で動作するときのばね定数よりも大きくなる。このような一対の緩衝装置を車両の左右や前後に配置することによって、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上のように、本発明に係る車体支持システムは、車体を支持することに有用であり、特に、支持対象の車体に対して伝達したくない周波数の振動の伝達を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1−1】本実施形態に係る車体支持装置の構成を示す説明図である。
【図1−2】気体通路開閉手段の他の例を示す説明図である。
【図2−1】本実施形態に係る車体支持装置の他の構成例を示す説明図である。
【図2−2】本実施形態に係る車体支持装置の他の構成例を示す説明図である。
【図2−3】本実施形態に係る車体支持装置の他の構成例を示す説明図である。
【図2−4】本実施形態に係る車体支持装置の他の構成例を示す説明図である。
【図2−5】本実施形態に係る懸架装置に適用可能な車体支持装置の構造を示す説明図である。
【図2−6】本実施形態に係る懸架装置に適用可能な車体支持装置の構造を示す説明図である。
【図3】本実施形態に係る車体支持装置を車両に配置した状態を示す概念図である。
【図4】本実施形態に係る振動制御装置の構成を示す説明図である。
【図5】本実施形態に用いるフーリエ解析を実行する際の機能ブロック図である。
【図6】本実施形態に係る車体支持装置の制御例を説明するための図である。
【図7】本実施形態に係る車体支持装置の制御例を説明するための図である。
【図8】本実施形態に係る車体支持装置の制御例を説明するための図である。
【図9】本実施形態に係る車体支持装置の制御例を説明するための図である。
【図10】本実施形態に係る車体支持装置における他の制御例を説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る車体支持装置における他の制御例を説明するための図である。
【図12】本実施形態に係る車体支持装置における他の制御例を説明するための図である。
【図13】本実施形態に係る車体支持装置における他の制御例を説明するための図である。
【図14】本実施形態に係る車体支持システムの配管のパターンを示す説明図である。
【図15】本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の左右に取り付けた車体支持装置間の気室を接続した例を示す説明図である。
【図16】本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の前後に取り付けた車体支持装置間の気室を接続した例を示す説明図である。
【図17】本実施形態に係る車体支持システムにおいて、車両の前後左右4箇所に取り付けられた車体支持装置のうち、対角位置にある一対の車体支持装置間で気室を接続した例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1、1a、1b、1c、1d 車体支持装置
2 シリンダ
3 ピストン
3A、3B 荷重伝達部材
4 気室
4A 第1気室
4B 第2気室
5 ピストンロッド
7 気体通路
8 気体通路開閉手段
8A アクチュエータ
8V 開閉弁
9 第3の気体通路
10、10a、10b 車体支持システム
20 懸架装置
21L ロワーアーム
21U アッパーアーム
24 車輪
30 車体加速度センサ
31 懸架装置用加速度センサ
32 ストロークセンサ
40 振動制御装置
40M 記憶部
40P CPU
41 周波数設定部
42 連通時間設定部
43 弁制御部
44 入力ポート
45 出力ポート
100 車両
100B 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と車輪との間に設けられて、前記車体を支持するものであり、
気体が充填される第1気室及び第2気室と、前記第1気室と前記第2気室との間に配置されて、前記第1気室及び前記第2気室に対して相対的に往復運動することにより、前記車体からの振動又は前記車輪からの振動のうち少なくとも一方を前記第1気室及び前記第2気室へ入力する振動入力手段と、を含んで構成される車体支持装置と、
一対の前記車体支持装置において、一方の前記車体支持装置が備える第1気室と、他方の前記車体支持装置が備える第2気室とを接続する第1の気体通路と、
一方の前記車体支持装置が備える第2気室と、他方の前記車体支持装置が備える第1気室とを接続する第2の気体通路と、
前記第1の気体通路と前記第2の気体通路とを相互に接続する第3の気体通路に取り付けられて、前記入力手段が前記第1気室及び前記第2気室気室に対して相対的に往復運動する際の周波数に応じた所定の周波数で前記第3の気体通路を開閉する気体通路開閉手段と、
を備えることを特徴とする車体支持システム。
【請求項2】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の左右に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の車体支持システム。
【請求項3】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の同じ側で、かつ前後に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の車体支持システム。
【請求項4】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の対角位置に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の車体支持システム。
【請求項5】
前記車両に、前記車両のばね上又はばね下のうち少なくとも一方の振動を検出する振動検出手段を取り付け、
前記振動検出手段で検出された、所定の振動のパワー以上の振動成分を伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、選択した前記伝達抑制対象の振動の周波数を整数倍又は整数分の1倍した周波数で、前記第3の気体通路を開閉することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車体支持システム。
【請求項6】
前記振動検出手段で検出された、所定のパワー以上の振動の成分を、伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、各々の振動のパワーの大きさに応じて、前記気体通路開閉手段を開閉する際の開時間と閉時間との比を変更することを特徴とする請求項5に記載の車体支持システム。
【請求項7】
所定のパワー以上の振動の成分を、伝達抑制対象の振動の周波数として選択し、振動のパワーの大きい順に複数の周波数を選択し、選択した複数の周波数の整数倍又は整数分の1倍した頻度で、前記気体通路開閉手段を開閉することを特徴とする請求項5に記載の車体支持システム。
【請求項8】
設定された複数の周波数のうち、振動のパワーの大きい順に複数の周波数を選択し、選択した周波数のパワーの大きさに応じて、それぞれの周波数に対する前記気体通路開閉手段を開閉する際の開時間と閉時間との比を変更することを特徴とする請求項7に記載の車体支持システム。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図2−4】
image rotate

【図2−5】
image rotate

【図2−6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2008−87590(P2008−87590A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269422(P2006−269422)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】