説明

運転支援装置

【課題】カーブ進入時における運転者の違和感を軽減した運転支援装置を提供する。
【解決手段】車両の運転を操舵トルクの付与により支援する運転支援装置において、車速検出手段120と、操舵角、ヨーレート、求心加速度の少なくとも1つを検出する操舵実際値検出手段130と、カーブの曲率を取得するカーブ曲率取得手段110と、操舵目標値を算出する操舵目標値算出手段160と、操舵機構10へ操舵トルクを付与する操舵制御を実行する操舵制御手段170と、操舵目標値と操舵実際値に基づいて操舵制御の実行を予測する操舵制御予測手段180と、操舵制御の実行が予測される時に操舵制御の実行に先立って第1の減速制御を実行する第1の減速制御手段180とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーブ路走行時に操舵機構に操舵トルクを付与するとともに、カーブ路進入時に減速制御を行う運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転支援装置は、ステレオカメラ等の道路形状検出部を用いて自車両の走行路に関する情報を取得し、操舵支援や減速制御等を行い運転者の負担を軽減するものである。
車両の操向制御を行うものとして、例えば、特許文献1には、ステレオカメラによって検出された車線左右の白線を用いて走行目標点を設定し、電動パワーステアリング装置を駆動する車線追従支援装置が記載されている。
また、特許文献2には、カーブを旋回走行する際のタックイン挙動による車線逸脱を防止するため、タックインによる逸脱傾向が判定された場合に、内外輪の制駆動力差によって逸脱回避方向へのヨーモーメントを付与する車線逸脱防止装置が記載されている。
また、車両の減速制御を行うものとして、例えば特許文献3には、カーブ路の曲率、カーブ路までの距離及び車速に基づいて、所定の旋回Gでカーブ路を通過するようにブレーキ及び変速機を制御する減速制御装置が記載されている。
【特許文献1】特開2007−261449号公報
【特許文献2】特開2006−306204号公報
【特許文献3】特開2005−193794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1等に記載されている車線追従支援装置と特許文献3等に記載されている制動制御装置とを組み合わせれば、カーブ進入時における減速から操舵開始までの一連の運転操作を支援することが可能となる。
しかし、従来の減速制御装置は、カーブ路の目標通過速度に対してカーブ進入前の車速に余裕がある場合には減速制御を行わないことから、この場合には車両は操舵制御のみによって旋回を開始することになる。
これに対し、熟練した運転者が自ら運転操作を行う場合には、操舵切り込み時に前輪の接地荷重を高めて操舵応答性を良くするため、カーブの進入速度に余裕がある場合であっても、例えばアクセルオフや緩やかなブレーキング等の緩減速を行うことが多いため、減速制御を一切行わない状態で操舵制御を開始すると、運転者が違和感をもつ場合がある。
本発明の課題は、カーブ進入時における運転者の違和感を軽減した運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、車両の運転を操舵機構への操舵トルクの付与により支援する運転支援装置において、車速を検出する車速検出手段と、操舵角、ヨーレート、求心加速度の少なくとも1つを操舵実際値として検出する操舵実際値検出手段と、車両前方のカーブの曲率を取得するカーブ曲率取得手段と、前記カーブ曲率と前記車速に基づき操舵目標値を算出する操舵目標値算出手段と、前記操舵目標値と前記操舵実際値に基づいて前記操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵制御を実行する操舵制御手段と、前記操舵目標値と前記操舵実際値に基づいて前記操舵制御の実行を予測する操舵制御予測手段と、前記操舵制御の実行が予測される時に前記操舵制御の実行に先立って第1の減速制御を実行する第1の減速制御手段とを備えることを特徴とする運転支援装置である。
【0005】
請求項2の発明は、車両の実減速度を検出する減速度検出手段と、車両と車両前方のカーブ入口までの距離を検出するカーブ入口距離検出手段と、前記カーブの曲率と前記カーブ入口までの距離と前記車速に基づいて目標減速度を算出する目標減速度算出手段とを備え、前記第1の減速制御手段は、前記実減速度が前記目標減速度より大きい場合に前記第1の減速制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置である。
請求項3の発明は、前記実減速度が前記目標減速度より小さい場合に前記実減速度が前記目標減速度になるように第2の減速制御を実行する第2の減速制御手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の運転支援装置である。
【0006】
請求項4の発明は、前記操舵制御予測手段は、前記操舵実際値が前記操舵目標値より所定の減速制御開始閾値だけ小さい値を下回った場合に前記操舵制御の実行を予測することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の運転支援装置である。
請求項5の発明は、前記操舵制御予測手段は、前記減速制御開始閾値を前記カーブの曲率の減少に応じて減少するよう設定することを特徴とする請求項4に記載の運転支援装置である。
請求項6の発明は、前記操舵制御予測手段は、前記減速制御開始閾値を前記車速の増大に応じて減少するよう設定することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の運転支援装置である。
請求項7の発明は、前記第1の減速制御手段は、前記操舵実際値が前記操舵目標値より所定の減速制御終了閾値だけ小さい値を上回った場合に前記第1の減速制御を終了させ、前記減速制御終了閾値は前記減速制御開始閾値よりも小さいことを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の運転支援装置である。
【0007】
請求項8の発明は、車両から車両前方のカーブ出口までの距離を算出するカーブ出口距離算出手段を備え、前記第1の減速制御手段は、前記カーブ出口までの距離に応じて前記第1の減速制御の終了タイミングを変更することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の運転支援装置である。
請求項9の発明は、運転者からの加速要求を検出する加速要求検出手段を備え、前記第1の減速制御手段は、前記加速要求が所定値以上である場合には前記第1の減速制御を実行しないことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の運転支援装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)操舵目標値と操舵実際値とに基づいて操舵制御の実行が予測される際に、操舵制御の実行に先立って第1の減速制御を実行することによって、カーブへの進入速度に余裕がある場合であっても減速を実行して運転者に減速感を感じさせるとともに前輪側への荷重移動を発生させ、運転者に自然なフィーリングを与えることができる。
(2)カーブの曲率とカーブ入口までの距離に基づいて目標減速度を算出し、実減速度が目標減速度よりも大きい場合に第1の減速制御を実行することによって、カーブへの進入速度に余裕がある場合であっても減速を実行して運転者に減速感を感じさせるとともに前輪側への荷重移動を発生させ、運転者に自然なフィーリングを与えることができる。
(3)実減速度が目標減速度より小さい場合に、実減速度が目標減速度になるように第2の減速制御を実行することによって、カーブ進入時に車速が適切となるように減速することができ、オーバースピードによる過大な横加速度の発生等を防止できる。
【0009】
(4)操舵実際値が操舵目標値より所定の減速制御開始閾値だけ小さい値を下回った場合に操舵制御の実行を予測することによって、簡単かつ確実に操舵制御の実行を予測することができる。
(5)減速制御開始閾値をカーブの曲率の減少に応じて減少するよう設定することによって、例えば高速道路のカーブのように曲率が小さい場合には第1の減速制御を行わないことによって、運転者により自然なフィーリングを与えることができる。
(6)減速制御開始閾値を車速の増大に応じて減少するよう設定することによって、高速になるほど発生しやすいタックイン挙動の発生を抑制し、運転者により自然なフィーリングを与えることができる。
(7)操舵実際値が操舵目標値より所定の減速制御終了閾値だけ小さい値を上回った場合に第1の減速制御を終了することによって、第1の減速制御を終了するタイミングを適切に設定することができる。
【0010】
(8)カーブ出口までの距離に応じて第1の減速制御を終了することによって、第1の減速制御を終了するタイミングを適切に設定することができる。
(9)加速要求が所定値以上である場合に第1の減速制御を実行しないことによって、運転者自身が加速状態でカーブに進入、あるいはカーブを走行することを意図する場合には減速を行わず、運転者の意図を尊重し、運転者の操作との干渉を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、カーブ進入時における運転者の違和感を軽減した運転支援装置を提供する課題を、カーブの曲率から求められる目標減速度より実減速度が大きい場合であっても、操舵制御の実行に先立ちスロットルオフ等の緩減速を行い、運転者に与えるフィーリングを自然にすることによって解決した。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を適用した運転支援装置の実施例について説明する。
実施例の運転支援装置は、例えば前2輪を操舵する乗用車等の4輪自動車に設けられるものである。
図1は、実施例の運転支援装置を含む車両のシステム構成を示す図である。
運転支援装置は、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与するとともに、制動力の発生やエンジン出力制御等によって車両の減速を行うものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0013】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、運転者が操舵操作を入力する環状の操作部材である。
ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによってハウジングHを回転させ、操舵を行う。
【0014】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション(TM)制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0015】
EPS制御ユニット20は、運転者の操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。また、パワーステアリング装置は後述する操舵支援制御にも用いられるため、EPS制御ユニット20は、操舵支援制御装置としても機能する。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ(電動ACT)21、舵角センサ22、トルクセンサ23等が接続されている。
電動アクチュエータ(電動ACT)21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
【0016】
舵角センサ22は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステイリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
トルクセンサ23は、電動アクチュエータ(電動ACT)21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ23が検出するトルクは、運転者がステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。
【0017】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うブレーキ制御装置である。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34等が接続されている。
【0018】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横加速度(横G)センサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
【0019】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット40には、アクセルペダルセンサ41、スロットルアクチュエータ(スロットルACT)42等が接続されている。
アクセルペダルセンサ41は、運転者が操作する図示しないアクセルペダルの位置(加速要求)を検出するものである。
スロットルアクチュエータ(スロットルACT)42は、図示しないエンジンの吸入空気量を調節して出力を調整するスロットルバルブを駆動するものである。このとき、エンジン制御ユニット40は、スロットル開度を制御するスロットル制御装置として機能する。
【0020】
トランスミッション(TM)制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して駆動輪のディファレンシャルへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
【0021】
また、実施例の運転支援装置は、以下説明する運転支援ユニット100を備えている。
運転支援ユニット100は、道路形状検出部110、車両状態検出部120、運転状態検出部130、目標減速度演算部140、減速制御判断部150、目標ハンドル角演算部160、操舵支援判断部170、減速感制御判断部180等を備えている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0022】
道路形状検出部110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両の走行車線の形状等を認識するものである。道路形状検出部110は、自車両前方にカーブ路がある場合に、その曲率を取得するカーブ曲率取得手段として機能する。また、道路形状検出部110は、カーブ入口までの距離を検出するカーブ入口距離検出手段としても機能する。
道路形状検出部110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
【0023】
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して道路形状検出部110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0024】
道路形状検出部110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0025】
道路形状検出部110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
【0026】
道路形状検出部110は、基準画像のデータから、画素の輝度データに基づいて白線部分の画素群を検出する。自車両に対する白線部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を車線の輪郭として認識する。そして、当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
そして、道路形状検出部110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
また、道路形状検出部110は、この車線形状に基づいて、自車両前方のカーブ路のカーブ半径(曲率)及びカーブ入口までの距離を算出する。
【0027】
車両状態検出部120は、車速、ヨーレート、横G、エンジンの運転状態、変速機の変速段数等の車両状態を検出するものである。車両状態検出部120は、車速、ヨーレート、横Gについては、操安制御ユニット30を介して、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34の検出値を取得する。
また、車両状態検出部120は、エンジン制御ユニット40からエンジンの回転数、推定出力トルク、スロットル開度等の情報を取得する。
さらに、車両状態検出部120は、トランスミッション(TM)制御ユニット50から変速機の変速段数に関する情報を取得する。
また、車両状態検出部120は、車速センサ32の出力値の履歴に基づいて、車両の減速度を算出する。
【0028】
運転状態検出部130は、操舵機構10の操舵角(ハンドル角)、アクセルペダルの位置(アクセル開度)等の運転者による運転状態を検出するものである。運転状態検出部130は、EPS制御ユニット20を介して舵角センサ22の検出値を取得する。また、運転状態検出部130は、エンジン制御ユニット40を介してアクセルペダルセンサ41の検出値を取得する。
運転状態検出部130は、操舵状態に相関するパラメータの実際値として、実ハンドル角を検出する操舵実際値検出手段として機能する。
【0029】
目標減速度演算部140は、道路形状検出部110が検出したカーブ半径ρ及びカーブ入口までの距離Lを用いて、車両の目標減速度を算出するものである。
図2は、自車両がカーブに進入する際の道路及び自車両の平面配置の一例を示す図である。
図2に示すように直線路を走行中の自車両OVの前方L(m)に半径ρ(m)のカーブがある場合、カーブ進入許容速度vは、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0030】
目標減速度演算部140は、式1によって求めたカーブ進入許容速度を用いて、目標減速度を、以下の式2によって算出する。
【数2】

【0031】
減速制御判断部150は、目標減速度演算部140が算出した目標減速度と、車両状態検出部120が検出した車両の実際の減速度(実減速度)とを比較し、減速制御(本発明にいう第2の減速制御)の要否を判断するものである。減速制御判断部150は、減速制御が必要な場合には、操安制御ユニット30に対して指示を出し、各車輪のサービスブレーキ(液圧式ブレーキ)を用いた制動制御を行わせるものである。
この制動制御は本発明にいう第2の減速制御であり、減速制御判断部150は、ブレーキ制御手段としての操安制御ユニット30と協働して第2の減速制御手段として機能する。
【0032】
目標ハンドル角演算部160は、道路形状検出部110が検出したカーブ半径に基づいて、操舵支援制御の目標となる目標ハンドル角θHt(操舵目標値)を算出する操舵目標値算出手段である。
目標ハンドル角θHtは、以下の式3によって求められる。
【数3】

【0033】
操舵支援判断部170は、運転状態検出部130が検出した実際のハンドル角(実ハンドル角)と目標ハンドル角演算部160が算出した目標ハンドル角とに基づいて、操舵制御の要否を判断する。操舵支援判断部170は、操舵制御が必要と判断した場合には、EPS制御ユニット20に指示を出して操舵機構10への操舵トルクの付与を行わせる操舵制御手段である。
【0034】
減速感制御判断部180は、減速制御判断部150、目標ハンドル角演算部160、運転状態検出部130からの情報を用いて、カーブ進入時に緩減速を行い運転者に減速感を感じさせる減速感制御(スロットル急閉制御)の要否を判別するものである。
この減速感制御は、本発明にいう第1の減速制御である。減速感制御判断部180は、目標ハンドル角(操舵目標値)と実ハンドル角(操舵実際値)に基づいて操舵支援制御(操舵制御)の実行を予測する操舵制御予測手段として機能する。また、減速感制御判断部180は、スロットル制御装置としてのエンジン制御ユニット40と協働して、操舵支援制御の実行が予測される時に、操舵支援制御の実行に先立って減速感制御(第1の減速制御)を実行する第1の減速制御手段としても機能する。
減速感制御判断部180は、スロットル急閉制御が必要と判断した場合には、エンジン制御ユニット40に指示を出してスロットルアクチュエータ(スロットルACT)42を駆動させ、スロットルバルブを直ちに全閉とする。
【0035】
以下、実施例の運転支援装置におけるカーブ進入時の制御について説明する。
図3は、実施例の運転支援装置におけるカーブ進入時の制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:道路形状検出>
道路形状検出部110は、自車両前方の道路形状を検出し、カーブが存在する場合にはカーブ半径ρ及びカーブ入口までの距離Lを算出する。その後、ステップS02に進む。
【0036】
<ステップS02:車両状態検出>
車両状態検出部120は、車速vに関する情報を取得し、さらに車速vの履歴から車両の減速度を算出する。その後、ステップS03に進む。
<ステップS03:目標減速度演算>
目標減速度演算部140は、上述した式1および式2を用いて、目標減速度を算出する。その後、ステップS04に進む。
<ステップS04:目標ハンドル角演算>
目標ハンドル角演算部160は、上述した式3を用いて、目標ハンドル角を算出する。その後、ステップS05に進む。
【0037】
<ステップS05:減速度判断>
減速制御判断部150は、目標減速度が実減速度よりも大きい場合には、(第2の)減速制御が必要であるとしてステップS10に進み、その他の場合はステップS06に進む。
<ステップS06:ハンドル角判断>
減速感制御判断部180は、目標ハンドル角の絶対値から所定の減速感制御開始閾値δ1(本発明にいう減速制御開始閾値)を減じた値が、実ハンドル角の絶対値よりも大きい場合は、操舵支援制御が実行される可能性が高いと予測してステップS07に進み、その他の場合はステップS11に進む。
図4は、カーブ半径並びに車速と減速感制御開始閾値との相関を示すグラフである。図4に示すように、減速感制御開始閾値δ1は、カーブ半径ρの増加に応じてリニアに減少する。また、減速感制御開始閾値δ1は、車速vの増大に応じて、カーブ半径ρとの相関直線を全体的にシフトすることによって、減少するようになっている。
減速感制御判断部180は、上述したカーブ半径ρ並びに車速vと減速感制御開始閾値δ1との相関に関するマップをROM等の記憶装置内に保持しており、カーブ半径ρ及び車速vに関する情報を取得して、該当する減速感制御開始閾値δ1を読み出すようになっている。
【0038】
<ステップS07:アクセル開度判断>
減速感制御判断部180は、アクセルペダルセンサ41の検出値であるアクセル開度が所定値よりも小さい場合には、スロットル急閉制御を実行するためステップS08に進む。一方、アクセル開度が所定値よりも大きい場合は、運転者が意図的に加速しながらカーブへ進入、あるいはカーブを走行しようとしていると認識し、干渉を防止するためステップS09に進む。
【0039】
<ステップS08:スロットル急閉制御実行>
減速感制御判断部180は、エンジン制御ユニット40に指示を出し、スロットルアクチュエータ(スロットルACT)42を駆動してアクセルペダルセンサ41の検出値に関わらずスロットルバルブを急閉するスロットル急閉制御を実行する。その後、ステップS11に進む。
<ステップS09:スロットル急閉制御解除>
減速感制御判断部180は、現在スロットル急閉制御が実行されている場合には、これを解除してステップS11に進む。スロットル急閉制御の解除は、スロットルバルブの位置を、アクセルペダルセンサ41の検出値に応じた位置に復帰させることによって行う。
なお、スロットル急閉制御の解除に際しては、スロットル開度を徐々に増加させ、エンジン出力が急激に増大しないように制御する。
【0040】
<ステップS10:減速制御実行>
減速制御判断部150は、操安制御ユニット30に指示を出してHCU31から各車輪のブレーキのキャリパシリンダにフルード液圧を付与して制動力を発生させる(第2の)減速制御(制動制御)を実行させる。この減速制御は、車両の実減速度が目標減速度と実質的に一致するように制御する。
その後、ステップS11に進む。
【0041】
<ステップS11:操舵支援制御実行判断>
操舵支援判断部170は、実ハンドル角の絶対値が目標ハンドル角の絶対値よりも小さい場合には、操舵支援制御の実行を行うためステップS12に進み、その他の場合には一連の処理を終了(リターン)する。
<ステップS12:操舵支援制御実行>
操舵支援判断部170は、EPS制御ユニット20に指示を出し、電動アクチュエータ(電動ACT)21によって操舵機構10に操舵トルクを付与する操舵支援制御(本発明にいう操舵制御)を実行する。操舵支援制御は、操舵機構の実ハンドル角(舵角)が目標ハンドル角と実質的に一致するように、電動アクチュエータ(電動ACT)21の出力トルクを制御することによって行う。
【0042】
次に、実施例の運転支援装置が上述した減速感制御(スロットル急閉制御)を終了する際の制御について説明する。
図5は、減速感制御(スロットル急閉制御)を終了する際の制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS21:スロットル急閉制御実行中判断>
減速感制御判断部180は、現在スロットル急閉制御が実行中であるか否かを判断し、実行中である場合はステップS22に進み、実行中でない場合は処理を終了(リターン)する。
【0043】
<ステップS22:ハンドル角判断>
減速感制御判断部180は、実ハンドル角の絶対値が、目標ハンドル角の絶対値から所定の減速感制御終了閾値δ2を減じた値よりも小さい場合にはステップS23に進み、その他の場合は処理を終了する。
ここで、減速感制御終了閾値δ2は、上述した減速感制御開始閾値δ1よりも小さい所定の定数である。
<ステップS23:スロットル開度・アクセル開度判断>
減速感制御判断部180は、スロットルアクチュエータ(スロットルACT)42によって駆動されるスロットルバルブの開度が、アクセルペダルセンサ41の検出値に基づいて設定されるアクセル開度よりも小さい場合は、ステップS24に進み、その他の場合は処理を終了する。
<ステップS24:スロットル復帰制御実行>
減速感制御判断部180は、スロットル急閉制御を終了し、エンジン制御ユニット40に指示を出し、アクセルペダルセンサ41の検出値に基づいてスロットルアクチュエータ(スロットルACT)42でスロットルバルブを駆動する通常のスロットル制御に復帰させて一連の処理を終了する。
なお、スロットル急閉制御の終了に際しては、スロットル開度を徐々に増加させ、エンジン出力が急激に増大しないように制御する。
【0044】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)目標ハンドル角と実ハンドル角とに基づいて操舵支援制御の実行が予測される際に、操舵支援制御の実行に先立ってスロットル急閉制御(減速感制御)を実行することによって、カーブへの進入速度に余裕がある場合であっても緩やかな減速を実行して運転者に減速感を感じさせるとともに、前輪側への荷重移動を発生させ、運転者に自然なフィーリングを与えることができる。
(2)カーブの曲率ρとカーブ入口までの距離Lに基づいて目標減速度を算出し、実減速度が目標減速度よりも大きく、制動制御を実行する必要がない場合にスロットル急閉制御を実行することによって、カーブへの進入速度に余裕がある場合であっても減速を実行して運転者に減速感を感じさせるとともに前輪側への荷重移動を発生させ、運転者に自然なフィーリングを与えることができる。
(3)実減速度が目標減速度より小さい場合に、実減速度が目標減速度になるように制動制御を実行することによって、カーブ進入時に車速が適切となるように減速することができ、オーバースピードによる過大な横加速度の発生等を防止できる。
【0045】
(4)実ハンドル角が目標ハンドル角より減速感制御開始閾値δ1だけ小さい値を下回った場合に操舵支援制御の実行を予測することによって、簡単かつ確実に操舵支援制御の実行を予測することができる。
(5)減速感制御開始閾値δ1をカーブの半径ρの増大に応じて減少するよう設定することによって、例えば高速道路のカーブのように半径が大きい場合にはスロットル急閉制御を行わないことによって、運転者により自然なフィーリングを与えることができる。
(6)減速感制御開始閾値δ1を車速vの増大に応じて減少するよう設定することによって、高速になるほど発生しやすいタックイン挙動の発生を抑制し、運転者により自然なフィーリングを与えることができる。
(7)実ハンドル角が目標ハンドル角より所定の減速感制御終了閾値δ2だけ小さい値を上回った場合にスロットル急閉制御を終了することによって、スロットル急閉制御を終了するタイミングを適切に設定することができる。
(8)アクセル開度が所定値以上である場合にスロットル急閉制御を実行しないことによって、運転者自身が加速状態でカーブに進入することを意図する場合にはスロットルの急閉による緩減速を行わず、運転者の意図を尊重し、運転者の操作との干渉を防止することができる。
【0046】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例では、操舵実際値及び操舵目標値としてハンドル角を用いて第1の減速制御の実行を判断しているが、本発明はこれに限らず、例えばヨーレートや横Gを単独あるいは他のパラメータとともに用いて第1の減速制御の実行を判断するようにしてもよい。
(2)実施例では、車線形状検出手段はステレオカメラを用いて車線形状を検出しているが、本発明はこれに限らず、例えばナビゲーション装置等のために準備された地図データ及び自車位置の測位情報に基づいて車線形状を検出するようにしてもよい。
(3)実施例では、実ハンドル角と目標ハンドル角との関係及びスロットル開度とアクセル開度との関係に基づいて第1の減速制御の終了を判断しているが、これに限らず、例えば車線形状検出手段を用いてカーブ出口までの距離を検出し、カーブ出口までの距離が所定の条件を満たした場合に第1の減速制御を終了するようにしてもよい。
(4)実施例では、第1の減速制御(減速感制御)は、スロットルの急閉制御を行うようにしているが、本発明はこれに限らず、例えば、サービスブレーキを用いて第2の制動制御に対して弱い制動力を発生させるようにしてもよい。ここで、液圧式のサービスブレーキを用いる場合には、低い液圧を急激に付与するとよい。また、変速機のダウンシフトを行うようにしてもよい。また、車両が電力回生装置を備えたハイブリッド車両や電気自動車の場合には、電力回生によって減速感を付与する構成としてもよい。
(5)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオン軸を駆動するピニオンアシストタイプ、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプ、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプ等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用した運転支援装置の実施例を含む車両のシステム構成を示す図である。
【図2】図1の車両がカーブに進入する際の道路及び自車両の平面配置の一例を示す図である。
【図3】図1の運転支援装置におけるカーブ進入時の制御を示すフローチャートである。
【図4】図1の運転支援装置におけるカーブ半径並びに車速と減速感制御開始閾値との相関を示すグラフである。
【図5】図1の運転支援装置における減速感制御(スロットル急閉制御)を終了する際の制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット
21 電動アクチュエータ(電動ACT)
22 舵角センサ
23 トルクセンサ 30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 40 エンジン制御ユニット
41 アクセルペダルセンサ
42 スロットルアクチュエータ(スロットルACT)
50 トランスミッション(TM)制御ユニット
60 車両統合ユニット
100 運転支援ユニット 110 道路形状検出部
111 ステレオカメラ 112 画像処理部
120 車両状態検出部 130 運転状態検出部
140 目標減速度演算部 150 減速制御判断部
160 目標ハンドル角演算部 170 操舵支援判断部
180 減速感制御判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を操舵機構への操舵トルクの付与により支援する運転支援装置において、
車速を検出する車速検出手段と、
操舵角、ヨーレート、求心加速度の少なくとも1つを操舵実際値として検出する操舵実際値検出手段と、
車両前方のカーブの曲率を取得するカーブ曲率取得手段と、
前記カーブ曲率と前記車速に基づき操舵目標値を算出する操舵目標値算出手段と、
前記操舵目標値と前記操舵実際値に基づいて前記操舵機構へ操舵トルクを付与する操舵制御を実行する操舵制御手段と、
前記操舵目標値と前記操舵実際値に基づいて前記操舵制御の実行を予測する操舵制御予測手段と、
前記操舵制御の実行が予測される時に前記操舵制御の実行に先立って第1の減速制御を実行する第1の減速制御手段と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
車両の実減速度を検出する減速度検出手段と、
車両と車両前方のカーブ入口までの距離を検出するカーブ入口距離検出手段と、
前記カーブの曲率と前記カーブ入口までの距離と前記車速に基づいて目標減速度を算出する目標減速度算出手段とを備え、
前記第1の減速制御手段は、前記実減速度が前記目標減速度より大きい場合に前記第1の減速制御を実行すること
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記実減速度が前記目標減速度より小さい場合に前記実減速度が前記目標減速度になるように第2の減速制御を実行する第2の減速制御手段を備えること
を特徴とする請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記操舵制御予測手段は、前記操舵実際値が前記操舵目標値より所定の減速制御開始閾値だけ小さい値を下回った場合に前記操舵制御の実行を予測すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記操舵制御予測手段は、前記減速制御開始閾値を前記カーブの曲率の減少に応じて減少するよう設定すること
を特徴とする請求項4に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記操舵制御予測手段は、前記減速制御開始閾値を前記車速の増大に応じて減少するよう設定すること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記第1の減速制御手段は、前記操舵実際値が前記操舵目標値より所定の減速制御終了閾値だけ小さい値を上回った場合に前記第1の減速制御を終了させ、前記減速制御終了閾値は前記減速制御開始閾値よりも小さいこと
を特徴とする請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項8】
車両から車両前方のカーブ出口までの距離を算出するカーブ出口距離算出手段を備え、
前記第1の減速制御手段は、前記カーブ出口までの距離に応じて前記第1の減速制御の終了タイミングを変更すること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項9】
運転者からの加速要求を検出する加速要求検出手段を備え、
前記第1の減速制御手段は、前記加速要求が所定値以上である場合には前記第1の減速制御を実行しないこと
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292345(P2009−292345A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148776(P2008−148776)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】