説明

酸素センサの異常検出装置

【課題】 酸素センサの異常をより好適に検出する酸素センサの異常検出装置を提供する。
【解決手段】 大気と、内燃機関が所定の空燃比で混合気を燃焼させた際に排気する排気ガスとの間に配置され、大気と排気ガスとの酸素分圧差に応じた起電力を発生する検出素子1を備えた酸素センサ10の異常検出装置100であって、出力信号11aが第1しきい値12を下回った際に空燃比14を理論空燃比よりもリッチである第1目標値15に変更し、出力信号11aが第2しきい値13を上回った際に空燃比14を理論空燃比よりもリーンである第2目標値16に変更する第1の制御を実行する第1の制御手段と、第1の制御実行時に検出した酸素センサ10の出力信号11aに基づき、酸素センサ10の異常の有無を診断する制御を実行する診断手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素センサの異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関には、排気ガス中に含まれる有害成分を除去するため排気ガス浄化システムが配備されている。この排気ガス浄化システムを有効に機能させるためには、内燃機関で燃焼される大気(空気)と燃料との混合割合、すなわち空燃比を厳密にコントロールすることが重要である。そこで、内燃機関の排気通路中に排気ガスの酸素分圧を検出する酸素センサを設置して理想的な空燃比(ストイキ)が得られるようにフィードバック制御を行っている。
【0003】
図10(A)は、一般的な酸素センサにおける検出素子部を示した図である。酸素センサ100は、排気通路120内に突出するように配設された筒型の検出素子部101を備えている。検出素子部101は内面側に大気(空気)Airが導入され、外面側にはセンサカバー102を通過した排気ガスEGが接触するように形成されている。図10(B)は、図10(A)中のCR内の検出素子部101の断面構造を示した図である。図10(B)で示すように、検出素子部101は固体電解質107を間にして内側に大気電極105、外側に排気電極106を被覆した構造を有している。固体電解質107は酸素(O)がイオン化(O2-)した状態でその内部を移動可能な物質、例えばジルコニアなどによって形成されている。
【0004】
大気と排気ガスとには酸素分圧差があり、一般に大気側の酸素分圧が高い。その結果、酸素センサ100内では内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧差が小さくなるように、酸素がイオン化し固体電解質107を介して大気側から排気ガス側へと移動する。図10(B)で図示するように、酸素分子はイオン化する過程で4価の電子(e)を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。このような酸素の移動に応じて検出素子部101の内外表面の電極105、106で電子の移動が生じて検出素子部101に起電力が発生する。このように酸素センサ100は、大気と排気ガスとの酸素分圧に応じた電圧を出力するので、従来から空燃比制御用のセンサとして使用されている。
【0005】
ところが、図10(A)で示すように、酸素センサ100の検出素子部101に大気側と排気側とを連通するようなクラック等の異常(以下、単にクラックCKという)が発生する場合がある。検出素子部101にクラックCKがあると、排気ガスEGが検出素子部101の内側(大気電極105の側)に侵入する場合がある。このような状況が発生すると酸素センサ100が正確に機能しなくなってしまう。
【0006】
そこで、特許文献1では酸素センサの検出素子欠損(検出素子部のクラック)の有無判定する異常診断装置を提案している。この診断装置は、酸素センサの検出信号の出力分布に基づき検出素子部のクラック有無を判定して酸素センサの異常を診断する。特許文献1が提案する技術は、検出素子部にクラックが生じたときの酸素センサの出力パターンが正常時とは異なることに着目し、検出信号の出力分布を比較することで検出素子部のクラックの有無を判定している。
【0007】
【特許文献1】特開2003−14683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の異常診断装置は、検出素子部にクラックがあるときに空燃比が理論空燃比よりもリーンであることを示す低い電圧域に偏る傾向があることを利用して正常時との区別を行っている。しかし、内燃機関の運転状態によってはリーン雰囲気に偏って(所定時間に対してリーン運転時間の割合が多い状態)運転するという状況がある。このような場合には特許文献1の装置では検出素子部のクラック有無判断を行うことが困難となる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、異常をより好適に検出する酸素センサの異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、第1のガスと第2のガスとの間に配置され、前記第1のガスと前記第2のガスとの酸素分圧差に応じた起電力を発生する検出素子を備えた酸素センサの異常検出装置であって、前記第2のガスは、内燃機関が所定の空燃比で混合気を燃焼させた際に排気する排気ガスであり、前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する診断手段と、前記診断手段が前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する前に、前記酸素センサの出力信号に対して設定したしきい値を通過した際の該酸素センサの第1の出力信号に基づき、前記混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンまたはリッチに変更する第1の制御を実行する第1の制御手段とを有することを特徴とする。本発明によれば、内燃機関が排気する排気ガスに周期的な脈動、すなわち圧力変動を発生させることができる。これによって、例えば内燃機関に接続した排気通路に酸素センサを配設した場合において、検出素子に欠損があった場合には、欠損を通じて検出素子内に排気ガスを確実に侵入させることができる。すなわち、酸素センサの異常診断を実行する前に第1の制御を実行すれば、酸素センサの異常診断を好適に実行可能である。また、本発明によれば、酸素センサの第1の出力信号に基づき空燃比を変更するように制御するので、特別な追加回路を要することなく第1の制御を実行可能である。
【0011】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第1の制御手段が前記第1の制御を実行した際の前記酸素センサの第2の出力信号に基づき、該酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行してもよい。本発明によれば、例えばある瞬間に単独で酸素センサの出力信号を検出する場合とは異なり、第1の制御を実行した際の酸素センサの第2の出力信号を検出するので、酸素センサの出力信号の変化を捉えることができる。この出力信号に基づき異常の診断を実行すれば、酸素センサの異常を好適に検出可能である。
【0012】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続して所定値以上変化したことを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0013】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第2の出力信号の振幅が、所定回数連続して所定値以上変化したことを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0014】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続してゼロとなったことを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0015】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続して、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号となったことを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0016】
また、本発明は、前記診断手段が、前記酸素センサの前記第2の出力信号が前記しきい値を通過しないことに起因して前記第1の制御が停止した場合に、該第1の制御の停止が、所定時間内に発生していることを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0017】
また、本発明は、前記診断手段が、前記第1の制御手段が前記空燃比をリッチまたはリーンに変更した回数が、所定時間内に所定回数以下であることを検出して異常あり、と診断する制御を実行してもよい。
【0018】
また、本発明は、前記内燃機関において燃料カットを行う第2の制御と、前記空燃比を理論空燃比よりもリーンに変更する第3の制御と、前記第2の制御を実行する前、または前記第3の制御を実行する前に、前記空燃比を理論空燃比よりもリッチに変更する第4の制御との少なくとも1つを実行する第2の制御手段を有し、前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号に基づき、前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する診断手段をさらに有してもよい。本発明によれば、第2の制御手段が第2から第4の制御の少なくとも1つを実行することによって、検出素子外面に接触する気体の酸素濃度を高くできる。これにより、酸素センサの検出素子内に欠損を通じて排気ガスが侵入している場合に、検出素子内外面に接触する気体の酸素分圧差を、正常なセンサにおける酸素分圧差と逆転した状態にすることができる。ここで、第2、第3または第4の制御実行時は、検出素子の欠損から侵入した排気ガスが流出する場合もあるため、第1の制御実行時と比較して、その後に実行する異常診断の検出精度が低くなると言える。しかしながら、本発明によれば、異常診断実行前に、状況に即して、第1の制御と第2、第3または第4の制御とを使い分けることができるので、第1の制御を実行する際により多く発生する排気ガス中に含まれるエミッションを低減可能である。なお、第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後に診断のために検出する出力信号は、例えばある瞬間に単独で検出した酸素センサの出力信号であってよい。
【0019】
また、本発明は、前記酸素センサを前記内燃機関に接続した排気通路において、該排気通路が備える触媒の下流側に配設し、前記触媒劣化時には、前記第1の制御手段が前記第1の制御を実行してもよい。
【0020】
例えば触媒が酸素を吸蔵する能力を示す最大酸素吸蔵能を経時的に計測し、最大酸素吸蔵能が所定値より低下している場合、すなわち触媒が劣化している場合には、検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度差が触媒劣化前と比較して小さくなるため、酸素センサの異常の検出が困難になる。本発明によれば、触媒が劣化していると判定した場合においては、第2から第4の制御と比較して検出精度の高い第1の制御を実行することができる。また、触媒が劣化していない場合には、第2の制御手段によって酸素センサの異常診断を実行することも可能なので、上述した場合と同様、排気ガス中に含まれるエミッションを低減可能である。
【0021】
また、本発明は、前記触媒の劣化状態が把握困難な場合に、前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号であるかどうか判定する制御を実行する第1の判定手段を有し、前記第1の判定手段が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号であると判定した場合に、前記第1の制御手段が、前記第1の制御を実行してもよい。本発明によれば、前述した触媒の最大酸素吸蔵能が、例えば触媒の劣化に伴う低下とは明らかに異なる異常値となった場合や、経時的に検出した触媒の最大酸素吸蔵能のデータがバッテリー交換等によって消滅した場合であっても、第1の判定によって、酸素センサに異常が発生している可能性があるかどうかを判定可能である。さらに、異常が発生している可能性あり、と判定した場合には第2から第4の制御と比較して異常診断の検出精度を高くすることができる第1の制御を実行することができる。また、触媒の劣化状態が把握困難であるかどうかによって、第1の制御と第2、第3または第4の制御とを使い分けるので、排気ガス中に含まれるエミッションを低減でき、酸素センサの異常をより好適に検出可能である。
【0022】
また、本発明は、前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号を経時的に検出し、経時的に検出した該出力信号において、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号が所定数以上存在するかどうか判定する制御を実行する第2の判定手段を有し、前記第2の判定手段が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号が所定数以上存在すると判定した場合に、前記第1の制御手段が、前記第1の制御を実行してもよい。本発明によれば、この経時的に検出した出力信号において、例えば所定のレベルを満たす負電圧の出力信号を所定数以上検出した場合には、酸素センサに異常が発生している可能性が高いと言える。このような場合に、本発明では、さらに第1の制御を実行した後に前述した各診断を実行することによって、酸素センサの異常検出精度を向上させることが可能である。また、触媒劣化状態が把握困難な場合と同様、第1の制御と第2、第3または第4の制御とを使い分けることによって、酸素センサの異常をより好適に検出可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、異常をより好適に検出する酸素センサの異常検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る異常検出装置100の模式図である。異常検出装置100は、酸素センサ10と、ECU50と、検出した出力信号等を記憶するための図示しないメモリとで構成されている。ECU50は、本実施例において後述する第1の制御を実行する第1の制御手段、第2の制御を実行する第2の制御手段、第1から第6の診断を実行する第1から第6の手段として機能する。また、酸素センサ10は、検出素子1、撥水フィルタ3、シールド4、大気孔5の他、図示しない保護カバー等で構成されている。酸素センサ10は、コップ状の検出素子1を排気通路2内に突出させた状態で、排気通路2に配設されている。酸素センサ10の頭部には、通気、防水性に優れた多孔質の撥水フィルタ3が設けられている。大気は、シールド4から外部へ突出した大気孔5を通じ、撥水フィルタ3を介して、検出素子1内へ流入する。一方、排気通路2は、図示しないエキゾーストマニホールドに接続し、排気通路2内には、図示しない内燃機関から排気ガスが排気される。なお、検出素子1内は、撥水フィルタ3を介し、大気孔5を通じて大気に連通しているが、撥水フィルタ3が抵抗の役割を果たしているため、検出素子1内から大気孔5を通じて気体が流出するのをある程度抑制し、検出素子1内に気体を保持することができる。
【0026】
図2は、ECU50が酸素センサ10の異常を検出する際に実行する制御をフローチャートで示す図である。本実施例における異常検出装置100では、ECU50は、まず所定の条件が成立したかどうかを判定する(ステップ11)。所定の条件が成立しない場合には、ECU50は引き続きステップ11を実行する。所定の条件とは、例えば次に示す条件である。所定の条件の1つは、例えば酸素センサ10の検出素子1の温度が所定温度に達しているかどうかである。これは、酸素センサ10の検出素子1の温度が所定温度に達していない場合には、正常な酸素センサ10であっても、負電圧が発生する場合があるためである。このような負電圧が発生する原因は、検出素子1が所定温度に達していない場合には素子抵抗が大きく、検出素子1内の酸素イオンの流れが不安定になるためである。そのため、例えば酸素センサ10のインピーダンス計測やエンジン水温計測等により検出素子1の温度が所定温度に達していないと判定したときには、所定温度に達するまでは酸素センサ10の異常の検出を行わない。
【0027】
さらに別の所定の条件は、例えば内燃機関が高負荷運転状態かどうかである。これは、内燃機関が高負荷運転状態である場合には、酸素センサ10が正常であっても、同様に負電圧が発生する場合があるためである。このような負電圧が発生する原因は、高負荷運転時には、内燃機関は常にリッチ制御で排気ガスを排気するため、検出素子1内側の大気極から検出素子1外側の排気極へ酸素イオンが流れ続け、その結果、検出素子1内が酸欠状態となるためである。そのため、例えば吸入空気量やスロットル開度等により内燃機関が高負荷運転していると判定したときに高負荷運転が所定時間経過した場合には、酸素センサ10の異常の検出を行わず、さらに、高負荷運転が終了したときから所定時間が経過するまで酸素センサ10の異常の検出を行わない。なお、上述したこれらの所定の条件は、本実施例にのみ当てはまるものではなく、酸素センサ10の異常の検出を行う場合には満たす必要がある条件である。また、酸素センサ10の異常の検出を行う際に満たすべき所定の条件は、上述した条件のみに限られず、正常な酸素センサを異常あり、と誤診断しないよう他の条件を付加してもよい。
【0028】
図2に示すフローチャートのステップ11において所定の条件が成立した場合には、ECU50は後述する第1の制御を実行する(ステップ12)。第1の制御を実行した後には、ECU50は、後述する第1から第6いずれかの診断(以下、各診断という。)を実行し、酸素センサ10の異常の有無を判定する(ステップ13)。以上が本実施例に係るECU50が実行する酸素センサ10の異常検出制御の流れである。
【0029】
図3は、図2に示すフローチャートのステップ12において実行する第1の制御を実行した際に、ECU50が検出した酸素センサ10の出力電圧11aを示す図である。また、図3においては、同時に第1の制御実行時に内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比14を示している。図3において、縦軸は酸素センサ10の出力電圧11a及び空燃比14を示し、横軸は時間を示している。図3において、出力電圧11aには、それぞれ第1しきい値12及び第2しきい値13が設定されている。例えばポイント17aにおいて出力電圧11aが第1しきい値12を下回った際には、空燃比14をリッチに変更するため、ECU50は空燃比14を第1目標値15に変更する制御を実行する。これにより、空燃比14がリッチになると、内燃機関が排気する排気ガスの酸素濃度は低下する。すなわち、図1に示す検出素子1外の気体の酸素濃度が低下するため、検出素子1内外面に接触する気体の酸素分圧差が大きくなり、出力電圧11aは次第に上昇する。なお、空燃比14が第1目標値15に変更されるまでにはある時間を要し、また、排気ガスが酸素センサ10の配設された排気通路2内に到達するまでにもある時間を要する。そのため、ポイント17aの時間において空燃比14を第1目標値15に変更する制御が実行された後も、出力電圧11aはそれまでの間低下する。
【0030】
出力電圧11aが上昇し、ポイント17bにおいて第2しきい値13を上回った際には、空燃比14をリーンに変更するため、ECU50は空燃比14を第2目標値16に変更する制御を実行する。これにより、空燃比14がリーンになると、内燃機関が排気する排気ガスの酸素濃度は高くなる。すなわち、図1に示す酸素センサ10の検出素子1外の気体の酸素濃度が高くなるため、検出素子1内外面に接触する気体の酸素分圧差が小さくなり、出力電圧11aは次第に低下する。なお、上述した場合と同様の理由で、ポイント17bの時間において空燃比14を第2目標値16に変更する制御が実行された後も、出力電圧11aはしばらくの間上昇する。第1の制御実行後、ECU50は、このように出力電圧11aが第1しきい値12を下回れば空燃比14を第1目標値15に変更し、出力電圧11bが第2しきい値13を上回れば空燃比14を第2目標値16に変更する制御を所定時間が経過するまで繰返し実行する。このようにして異常検出装置100のECU50が実行する第1の制御を実現することができる。
【0031】
上述した第1の制御を実行した際に、図1に示すように検出素子1に欠損6が生じている場合には、空燃比14をリーン、リッチに繰返し変更することによって発生する排気ガスの周期的な圧力変動によって、検出素子1内に次第に排気ガスが侵入する。検出素子1内に排気ガスが侵入すると、検出素子1内の酸素濃度は次第に低下する。例えば検出素子1外の気体の酸素濃度が同一であり且つ検出素子1内の気体のほうが検出素子1外の気体よりも酸素濃度が高い場合には、検出素子1内の気体の酸素濃度が低下すると、検出素子1内外の気体の酸素分圧差は小さくなる。すなわち、欠損6を通じて排気ガスが侵入すると、酸素センサ10の出力電圧11aは低下する。これにより、排気ガスが次第に検出素子1内に侵入すると、出力電圧11aの上方ピーク値18は、18a、18b、18cと次第に低下する。同様に、出力電圧11aの下方ピーク値19も、19a、19b、19cと次第に低下する。なお、出力電圧11aの下方ピーク値19cがゼロよりも低下しないのは、本実施例では、ECU50に正電圧のみ検出可能な検出回路が組み込まれているためである。したがって、この状態においては、検出素子1内外の気体の酸素濃度は、実際には正常な酸素センサにおける酸素濃度とは逆転した状態になっている。
【0032】
本実施例では、このようにして検出した出力電圧11aに基づき、以下に示す第1の診断を実行する。出力電圧11aの上方ピーク値18を検出し、出力電圧11aの隣り合う上方ピーク値18aと18bとの差18dが所定値以上かどうかを判定する。さらに、出力電圧11aの隣り合う上方ピーク値18bと18cとの差18eが所定値以上かどうかを判定する。これらの差18d及び18eが所定値以上であり、かつ連続して所定回数検出された場合には、ECU50は異常ありと診断する。このように第1の診断では、出力電圧11aが経時的に低下する現象を捉えて判定するため、例えばある瞬間に単独で検出した酸素センサ10の出力信号に基づき異常を診断する場合(以下、通常の異常診断という。)と比較して、酸素センサ10の異常を安定して確実に検出することができる。
【0033】
なお、上方ピーク値18が次第に減少することから、上方ピーク値18の変化と相関関係を有する他のパラメータをもってしても、酸素センサ10の異常の有無を診断可能である。例えば隣り合う上方ピーク値18aと18bとを結ぶ直線25で示すような直線の勾配が、所定回数連続して所定値以上になったことをもって、異常ありと診断することが可能である。また、2つの上方ピーク値18の差は隣り合うものでなくてもよく、図3に示す出力電圧11aにおいて、例えば上方ピーク値18bを飛ばして、上方ピーク値18aと18cとの差が所定値以上かどうかを判定することも可能である。また、上述した上方ピーク値18を検出する代わりに下方ピーク値19を検出し、上述した判定と同様の判定を実行することで、酸素センサ10の異常の有無を診断してもよい。
【0034】
次に図2に示すフローチャートのステップ12で実行する上述した第1の制御について、図3に示す出力電圧11aに基づいて詳述する。図4は、第1の制御をフローチャートで示す図である。ECU50は、第1の制御の実行を開始した後、出力電圧11aが第2しきい値13を上回ったかどうかを判定する(ステップ21)。上回った場合には、ECU50はステップ26を実行する。上回らなかった場合には、ECU50は出力電圧11aが第1しきい値12を下回ったかどうかを判定する(ステップ22)。下回った場合には、ECU50はステップ24を実行する。下回らなかった場合には、ECU50は再びステップ21を実行する。すなわち、出力電圧11aが上昇しているか低下しているか不明の状態で、ステップ21とステップ22において、ECU50は出力電圧11aが第1しきい値12または第2しきい値13を通過するのを判定する。
【0035】
ステップ22において、出力電圧11aが第1しきい値12を下回った場合には、ECU50は空燃比14を第1目標値15に変更する(ステップ24)。続いて、ECU50は出力電圧11aが第2しきい値13を上回ったかどうかを判定する(ステップ25)。上回らなかった場合には、ECU50はステップ27を実行する。上回った場合には、ECU50は空燃比14を第2目標値16に変更する(ステップ26)。前述したステップ21において、出力電圧11aが第2しきい値13を上回った場合にも、同様にステップ26を実行する。続いて、ECU50は所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップ28)。この所定時間とは、例えば第1の制御実行開始時を始期として設定した第1の制御終了までの時間である。所定時間が経過した場合には、ECU50は第1の制御を終了し、所定時間を経過していない場合には、ECU50は再びステップ23を実行する。なお、ステップ25において、出力電圧11aが第2しきい値13を上回らなかった場合には、ECU50は所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップ27)。この所定時間とは、例えば出力電圧11aが第1しきい値12を下回ったときを始期として設定した第1の制御終了までの時間であってもよく、ステップ28と同様、第1の制御実行開始時を始期とした時間であってもよい。所定時間が経過していない場合には、ECU50はステップ25を再び実行し、所定時間が経過している場合には、ECU50は第1の制御を終了する。以上により、異常検出装置100のECU50が実行する第1の制御を実現可能である。
【0036】
次に、図2に示すフローチャートのステップ13で実行する前述した第1の診断について、図3に示す出力電圧11aに基づいてフローチャートで詳述する。図5は、第1の診断をフローチャートで示す図である。なお、後述する第2から第6までの診断のフローチャートについては、図5に示す第1の診断のフローチャートを代表例として例示することで省略する。図2に示すフローチャートのステップ12で第1の制御を実行した後、ECU50はステップ13において第1の診断を実行する。第1の診断の実行を開始した後、ECU50は出力電圧11aの上方ピーク値18を検出する(ステップ31)。続いて、ECU50は隣り合う上方ピーク値18aと18bの差18dが所定値以上かどうかを判定する(ステップ32)。所定値より小さかった場合には、ECU50はステップ35において酸素センサ10が正常であると判定する。所定値以上であった場合には、ECU50は、続いて隣り合う上方ピーク値18bと18cの差18eが所定値以上かどうか判定する(ステップ33)。所定値より小さかった場合には、ステップ32と同様、ECU50はステップ35において酸素センサ10が正常であると判定する。所定値以上であった場合には、ECU50はこれらの隣り合う上方ピーク値18の差18d及び18eが所定回数検出されたかどうかを判定する(ステップ34)。所定回数検出されなかった場合には、上述したステップ32及び33と同様、ECU50はステップ35において酸素センサ10が正常であると判定する。所定回数検出された場合には、ECU50は酸素センサ10の検出素子1に欠損6が生じていると判定する(ステップ36)。以上により、異常診断装置100のECU50が実行する第1の診断を実現可能である。
【0037】
また、図3に示す出力電圧11aに基づき、図2に示すフローチャートのステップ13で第2の診断を実行して酸素センサ10の異常を検出することもできる。検出素子1に欠損6が生じている場合の図3に示す出力電圧11aの低下は、振幅20の減少として捉えることも可能である。本第2の診断では、この振幅20を検出し、隣り合う振幅20aと20bとの差が所定値以上かどうかを判定する。さらに、隣り合う振幅20bと20cとの差が所定値以上かどうかを判定する。これらの差が所定値以上であり、かつ連続して所定回数検出された場合には、ECU50は酸素センサ10に異常ありと診断する。この第2の診断によっても、出力電圧11aが経時的に低下する現象を捉えて判定するため、より好適な酸素センサ10の異常検出を実現可能である。なお、振幅20が次第に減少することから、振幅20の変化と相関関係を有する他のパラメータをもってしても、酸素センサ10の異常を診断可能である。例えば電流の実効値と電圧の実効値との積である皮相電力が所定値以上、複数回連続して低下したことをもって、異常ありと診断することが可能である。また、第1の診断の場合と同様、隣り合う振幅20の差で判定しなくてもよい。
【0038】
また、図3に示す出力電圧11aに基づき、図2に示すフローチャートのステップ13で第3の診断を実行して、酸素センサ10の異常を検出することも可能である。前述した通り、ECU50に正電圧のみ検出可能な検出回路が組み込まれている場合には、検出素子1に欠損6が生じていても、出力電圧11aは0Vより低くなることがない。すなわち、出力電圧11aの下方ピーク値19を検出し、所定回数連続して0Vであるかどうかを判定しても、酸素センサ10の異常の有無を診断可能である。
【0039】
また、第1の制御実行時の酸素センサ10の出力電圧11に基づき、以下に示すような第4の診断を実行して、異常を検出することも可能である。図6は、図2に示すフローチャートのステップ12において第1の制御を実行した時に、本発明に係る異常検出装置100のECU50が検出した酸素センサ10の出力信号11bを示す図である。図6において、縦軸は酸素センサ10の出力電圧を示し、横軸は時間を示している。酸素センサ10に欠損6が生じている場合には、ECU50に負電圧を検出可能な検出回路を組み込むことによって、第1の制御実行時に出力電圧11bのA部に示すような負電圧21a及び21bを検出することができるようになる。このような負電圧21a及び21bは、検出素子1内に侵入した排気ガスがリッチ制御で排気された排気ガスを含む場合に発生する。すなわち、欠損6を通じて検出素子1内にリッチ制御で排気された排気ガスが侵入した場合、侵入した排気ガスの量によっては、検出素子1内の気体の酸素濃度はリーン制御で排気される排気ガスよりも低くなる。そのため、その後リーン制御で排気ガスが排気されると、検出素子1内の気体の酸素濃度は検出素子1外の気体の酸素濃度よりも低くなる。すなわち、検出素子1内外の気体の酸素濃度が正常な酸素センサ10における酸素濃度とは逆転しており、その結果、酸素センサ10には負電圧21a及び21bが発生する。このように、出力電圧11bの下方ピーク値19を検出し、所定回数連続して負電圧が発生しているかどうかを判定しても、酸素センサ10の異常の有無を診断可能である。
【0040】
また、図6に示す出力電圧11bに基づき、さらに第5の診断を実行して、酸素センサ10の異常を検出することも可能である。第1の制御実行時に酸素センサ10の検出素子1に欠損6が生じている場合においては、出力電圧11bの上方ピーク値22は、22a、22b、22cと次第に低下する。さらに出力電圧11bの上方ピーク値22が低下し、上方ピーク値22dとなった場合には、出力電圧11bは第2しきい値13を上回ることができなくなる。このような場合には、第1の制御により実現していた図3に示す空燃比14のフィードバック(FBともいう)制御が成立しなくなるため、第1の制御は停止する。この第1の制御停止が所定時間内に発生しているかどうか、すなわち第1の制御実行開始時から出力電圧11bの上方ピーク値22dを検出するまでのFB不能到達時間23が所定時間内かどうかを判定しても、酸素センサ10の異常の有無を診断することが可能である。この場合には、FB不能到達時間23が所定時間内であれば異常あり、と診断する。また、所定時間内に所定回数以上空燃比14をリッチまたはリーンに変更しているかを判定して、酸素センサ10の異常の有無を診断することも可能である。この場合には、空燃比14をリッチまたはリーンに変更した回数が所定回数以下であれば異常あり、と診断する。なお、ECU50は上述した第1から第6までのすべての診断を実行する診断手段として機能し、各診断の中から所定の条件に従って実行する診断を選択しても構わない。また、第1の制御を実行した結果検出した出力電圧11に対して各診断を組み合わせて実行してもよく、あるいは上述した各診断の中から1つの診断を実行し、さらに再度第1の制御を実行後、他の診断を実行することも可能である。
【実施例2】
【0041】
図7は、本発明に係る異常検出装置100の他の実施例を示す模式図である。また、本実施例においては、酸素センサ10が触媒30の下流側の排気通路2に配設されている点が実施例1と異なり、また、ECU50が実施例1で前述した手段に加えて、後述する第1の判定を実行する第1の判定手段として機能する以外は、構成上は図1に示す異常検出装置100と同一である。但し、酸素センサ10は例えば触媒30のB部に示す位置に配設してもよい。触媒30は、排気ガスに含まれるエミッション、すなわちCOやHCを酸化して無害なCOやHOにしたり、NOxをNとOに還元するための構成である。排気ガスは図示しない内燃機関から排気され、触媒30を通じて排気通路2内に到達する。触媒30は使用とともに次第に劣化するが、劣化していない場合には、触媒30の最大酸素吸蔵能は劣化後と比較して高い。この触媒30が酸素を吸蔵するため、触媒30の下流側の排気通路2内には、触媒30の図示しない上流側の排気通路2内よりも酸素濃度の低い排気ガスが流れることになる。したがって、検出素子1に欠損6が生じている場合には、欠損6を通じてこのような酸素濃度の低い排気ガスが侵入する。この状況において、例えば内燃機関において燃料カットを実行する第2の制御または空燃比14を理論空燃比よりもリーンに変更する第3の制御を実行した後に、前述した通常の異常診断を実行すれば、検出素子1内外の気体に十分検出可能な酸素濃度差を発生させることができる。すなわち、触媒30が劣化していない状況においては、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行せずとも、第2の制御または第3の制御及び通常の異常診断によって信頼性の高い結果が得られると言える。なお、第2の制御や第3の制御を実行する前に、空燃比14を理論空燃比よりもリッチに変更する第4の制御を実行してもよい。この場合には通常の異常診断実行前に、より酸素濃度の低い排気ガスを検出素子1内に、欠損6を通じて予め侵入させておくことが可能である。
【0042】
一方、触媒30が劣化した場合には、触媒30の最大酸素吸蔵能も低下している。そのため、触媒30を通過して排気通路2内に流れる排気ガスの酸素濃度は、触媒30が劣化する前の酸素濃度と比較して高くなってしまう。したがって、検出素子1に欠損6が生じている場合には、触媒が劣化していない場合と比較して酸素濃度の高い排気ガスが欠損6を通じて侵入することになる。このような状況においては、触媒の劣化具合によっては、第2の制御または第3の制御を実行した後に通常の異常診断を実行した場合であっても、酸素センサ10の検出素子1に欠損6が生じている場合に、検出素子1内外の気体に十分検出可能な酸素濃度差を発生させることができない可能性がある。また、第2の制御や第3の制御を実行する前に、空燃比14を理論空燃比よりもリッチに変更する第4の制御を実行した場合でも、程度の差はあるものの、やはり触媒30の劣化具合によっては同様のことが言える。すなわち、触媒30が劣化している場合には通常の異常診断に基づき酸素センサ10の異常を検出するのが困難である。
【0043】
このような状況に対し本実施例では、触媒30の最大酸素吸蔵能を経時的に、例えば内燃機関始動毎に計測し、最大酸素吸蔵能が所定値より低下している場合、つまり触媒30が劣化していると判断した場合においては、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行することで、酸素センサ10の異常を安定して検出可能である。すなわち、通常の異常診断を実行した場合には上述したように酸素センサ10の異常の検出が困難であっても、第1の制御実行時の酸素センサ10の出力電圧11に基づいて実施例1で詳述した各診断を実行すれば、出力電圧11が次第に低下する現象を捉えて異常あり、と診断可能である。また、このように触媒30劣化前と劣化後で第1の制御と第2の制御または第3の制御とを使い分けることで、酸素センサ10の異常をより好適に検出可能である。すなわち、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行せずに、第2の制御または第3の制御及び通常の診断を実行する場合には、排気ガスに含まれるエミッションを低減できる等の利点がある。なお、最大酸素吸蔵能の経時的な計測は内燃機関の始動毎でなくてもよく、例えばカレンダタイマー等を備えて触媒30の劣化具合を経時的に把握できる一定期間毎に計測できればよい。
【0044】
さらに、本実施例では触媒30の劣化状態が把握困難となった場合に、以下に示すような第1の判定を実行することで酸素センサ10の異常を検出可能である。上述したように触媒30の最大酸素吸蔵能を経時的に計測した場合に、例えば径時変化による低下とは明らかに異なる急激な酸素吸蔵能の低下を検出したときには、この最大酸素吸蔵能の値には信頼性がないと言える。そのため、本実施例では、このような急激な低下を示す酸素吸蔵能を検出した場合には、第1の制御を実行せず、まず、第2の制御または第3の制御を実行する。その後通常の異常診断を実行し、検出素子1内外の気体の酸素濃度が正常な酸素センサ10における酸素濃度と逆転していることを示す出力信号、すなわち本実施例においては負電圧が所定のレベル以上で検出されたと判定した場合には、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行する。このように、第1の制御と第2の制御または第3の制御とを使い分けることで、酸素センサ10の異常をより好適に検出可能である。なお、酸素センサ10に異常が発生している可能性があるかどうかを検出するため、例えば上述した所定のレベルは、通常の異常診断で負電圧の発生あり、と判定する電圧レベルを設定している場合には、この電圧レベルよりも低く設定してもよい。また、電圧レベルまで設定せず、負の電圧が検出されたことをもって酸素センサに異常が発生している可能性あり、と診断することは当然可能である。また、第2または第3の制御を実行する前に、第4の制御を実行しても構わない。
【0045】
また、種々のセンサや電子機器やECU50等への電源供給源として利用されるバッテリーを交換した場合やバッテリーの端子を外した場合には、バッテリー交換前に計測しメモリに記憶していた触媒30の最大酸素吸蔵能のデータが消滅してしまう場合がある。このような場合には、バッテリー交換等の前に経時的に計測していた触媒30の最大酸素吸蔵能とバッテリー交換後に計測する最大酸素吸蔵能とを比較することができなくなる。係る状況において、本実施例ではバッテリー交換等を行った場合には、上述した場合と同様、まず第2の制御または第3の制御を実行する。その後通常の異常診断を実行し、検出素子1内外の気体の酸素濃度が正常な酸素センサ10における酸素濃度と逆転していることを示す出力信号、すなわち本実施例においては負電圧が所定のレベル以上で検出されたと判定した場合には、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行する。バッテリー交換等をした後、第2の制御または第3の制御及び通常の異常診断を実行して酸素センサ10が正常であると診断した場合には、触媒30の最大酸素吸蔵能を引き続き経時的に計測することになる。なお、上述した所定のレベルは、通常の異常診断で負電圧の発生あり、と判定する電圧レベルを設定している場合には、この電圧レベルよりも低く設定してもよい。また、電圧レベルまで設定せず、負の電圧が検出されたことをもって酸素センサに異常ありと診断することは当然可能である。また、第2または第3の制御を実行する前に、第4の制御を実行してもよい。
【0046】
次に、上述した触媒30の劣化状態が把握困難になった状況において、ECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する制御について詳述する。図8は、触媒30の劣化状態が把握困難な状況においてECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する第1の判定を含む制御をフローチャートで示す図である。図8に示すフローチャートにおいて、2重線で示すステップが第1の判定に係るステップである。ECU50は、例えば内燃機関の始動をトリガーにして第1の判定の制御を実行する(ステップ41)。続いて、ECU50は酸素センサ10の異常検出を実行するに際し、実施例1で前述した場合と同様、所定条件が成立したかどうかを判定する(ステップ42)。所定条件が成立していない場合には、ECU50は繰返しステップ42を実行する。所定条件が成立した場合には、ECU50は、メモリに記憶した触媒30の最大酸素吸蔵能のデータがあるかどうか判定する(ステップ43)。データが存在しない場合には、ECU50はステップ51を実行する。データが存在する場合には、ECU50はメモリに記憶された最大酸素吸蔵能が所定値以下であるかどうか判定する(ステップ44)。所定値より大きい場合には、ECU50はステップ46を実行する。所定値以下である場合には、ECU50は最大酸素吸蔵能が急激に低下したものかどうかを判定する(ステップ45)。なお、最大酸素吸蔵能が急激に低下した場合以外でも、最大酸素吸蔵能の把握が困難になった場合には、このステップにおいてしかるべき判定を実行することが可能である。急激に低下したものであると判定した場合には、ECU50はステップ43と同様、ステップ51を実行する。急激に低下したものでないと判定した場合には、ECU50は第1の制御を実行する(ステップ55)。続いて、ECU50は実施例1で詳述した各診断を実行し、酸素センサ10の異常の有無を判定する(ステップ56)。
【0047】
また、ステップ43またはステップ45において、ステップ51を実行することになった場合には、ECU50は第1の制御を実行せずに、第2または第3の制御を実行する。続いて、ECU50は通常の異常診断を実行し(ステップ52)、酸素センサ10から所定のレベル以上の負電圧が発生しているかどうかを判定する(ステップ53)。所定のレベル以上の負電圧が発生している場合には、酸素センサ10に異常が発生している可能性が高いと推定し、ECU50はステップ55において第1の制御を実行する。所定のレベル以上の負電圧が発生していない場合には、酸素センサ10は正常であると判定して(ステップ54)、酸素センサ10の異常の検出を終了する。一方、ステップ44において、最大酸素吸蔵能が所定値より大きいと判定した場合には、ECU50はステップ46において、第2または第3の制御を実行する(ステップ46)。続いて、ECU50は通常の異常診断を実行し(ステップ47)、酸素センサ10から負電圧が発生しているかどうかを判定する(ステップ48)。負電圧が発生していなければ、ECU50は酸素センサ10は正常であると判定し(ステップ49)、負電圧が発生していれば、ECU50は酸素センサ10に異常ありと判定する(ステップ50)。以上により、触媒30の劣化状態が把握困難な場合に、第1の制御と第2の制御または第3の制御とを使い分けることで、酸素センサ10の異常をより好適に検出可能である。
【実施例3】
【0048】
本実施例に係る異常検出装置100の構成は、ECU50が実施例2で前述した手段に加えて、さらに後述する第2の判定を実行する第2の判定手段として機能する以外、図1に示す異常検出装置100と同一の構成である。また、酸素センサ10の排気通路2への配設位置も、実施例2のように触媒30の下流側に限定されるものではない。
【0049】
本実施例では、前述した第2の制御または第3の制御を実行した後に、酸素センサ10の出力電圧を通常の異常診断のようにある瞬間において単独に検出する。さらに、この出力電圧の検出は経時的に、例えば内燃機関の始動毎に実行される。なお、酸素センサ10の出力電圧を連続的に検出することを制限するものではない。また、経時的に出力電圧を検出する制御の実行は内燃機関の始動毎でなくてもよい。
【0050】
出力電圧を検出する制御を経時的に実行した後、本実施例ではさらに、検出した複数の出力電圧が以下に示す所定の条件を満たしているかどうか判定する。すなわち、検出した複数の出力電圧において、例えば所定のレベル以上の負電圧が所定回数以上存在するかどうか判定する。このような条件を満たしていると判定した場合には、酸素センサ10に異常が発生している可能性があると言える。この判定後に、実施例1で詳述した第1の制御及び各診断を実行すれば、酸素センサ10の異常の有無をより好適に検出可能である。すなわち、通常は例えば内燃機関の始動毎に第2または第3の制御を実行した後出力電圧の検出を実行して酸素センサ10に異常が発生している可能性があるかどうか判定する。その後、異常が発生している可能性ありと判定した後に限り、第1の制御及び各診断を実行するので、排気ガスに含まれるエミッションの低減を図ることが可能である。なお、上述した第2または第3の制御を実行する前に、第4の制御を実行しても構わない。
【0051】
次に、上述した状況においてECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する制御について図9に基づいて詳述する。図9は、ECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する第2の判定を含む制御をフローチャートで示す図である。図9に示すフローチャートにおいて、2重線で示すステップが第2の判定に係るステップである。ECU50は、例えば内燃機関の始動をトリガーにして本実施例に係る第2の判定を実行する(ステップ61)。続いて、ECU50は実施例1で前述した所定の条件が成立しているかどうか判定する(ステップ62)。所定の条件が成立していない場合には、ECU50は引き続きステップ62を実行する。所定の条件が成立した場合には、ECU50は酸素センサ10の出力電圧を検出する(ステップ63)。続いて、ECU50は所定のレベル以上の負電圧が、所定数以上検出されたかどうか判定する(ステップ64)。ステップ64を満たさない場合には、ECU50は酸素センサ10が正常であると判定する(ステップ65)。ステップ64を満たす場合には、ECU50は第1の制御を実行する(ステップ66)。続いて、ECU50は各診断を実行し、酸素センサ10の異常の有無を判定する(ステップ67)。以上により、経時的に検出した出力電圧に基づいて異常が発生している可能性あり、と判定した後に限り、第1の制御及び各診断を実行する異常検出が実現可能である。
【0052】
なお、上述した各実施例における判定時の所定値、所定時間、所定回数及び負電圧の所定のレベル等は、例えば実験等によって最適な数値が求められるものであり、また、酸素センサ10の構造や設置位置や適用する内燃機関や内燃機関の運転条件等の違いによって、適宜設定してよい。以上により、酸素センサ10の異常をより好適に検出する異常検出装置100を実現することができる。
【0053】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る異常検出装置100の模式図である。
【図2】ECU50が酸素センサ10の異常を検出する際に実行する制御をフローチャートで示す図である。
【図3】ECU50が検出した酸素センサ10の出力電圧11aを示す図である。
【図4】第1の制御をフローチャートで示す図である。
【図5】第1の診断をフローチャートで示す図である。
【図6】ECU50が検出した酸素センサ10の出力信号11bを示す図である。
【図7】本発明に係る異常検出装置100の他の実施例を示す模式図である。
【図8】ECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する第1の判定を含む制御をフローチャートで示す図である。
【図9】ECU50が酸素センサ10の異常検出を行う際に実行する第2の判定を含む制御をフローチャートで示す図である。
【図10】一般的な酸素センサにおける検出素子部を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 検出素子
2 排気通路
3 撥水フィルタ
4 シールド
5 大気孔
6 欠損
10 酸素センサ
11a、11b 出力信号
12 第1しきい値
13 第2しきい値
14 空燃比
15 第1目標値
16 第2目標値
17a、17b ポイント
18 出力電圧11aの上方ピーク値
19 出力電圧11aの下方ピーク値
20 出力電圧11aの振幅
21a、21b 負電圧
22 出力電圧11bの上方ピーク値
23 FB不能到達時間
25 上方ピーク値を結ぶ直線
30 触媒
50 ECU
100 異常検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガスと第2のガスとの間に配置され、前記第1のガスと前記第2のガスとの酸素分圧差に応じた起電力を発生する検出素子を備えた酸素センサの異常検出装置であって、
前記第2のガスは、内燃機関が所定の空燃比で混合気を燃焼させた際に排気する排気ガスであり、
前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する診断手段と、
前記診断手段が前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する前に、前記酸素センサの出力信号に対して設定したしきい値を通過した際の該酸素センサの第1の出力信号に基づき、前記混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンまたはリッチに変更する第1の制御を実行する第1の制御手段とを有することを特徴とする酸素センサの異常検出装置。
【請求項2】
前記診断手段が、前記第1の制御手段が前記第1の制御を実行した際の前記酸素センサの第2の出力信号に基づき、該酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行することを特徴とする請求項1記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項3】
前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続して所定値以上変化したことを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項4】
前記診断手段が、前記第2の出力信号の振幅が、所定回数連続して所定値以上変化したことを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項5】
前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続してゼロとなったことを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項6】
前記診断手段が、前記第2の出力信号のピーク値が、所定回数連続して、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号となったことを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項7】
前記酸素センサの前記第2の出力信号が前記しきい値を通過しないことに起因して前記第1の制御が停止した場合に、前記診断手段が、該第1の制御の停止が所定時間内に発生していることを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項8】
前記診断手段が、前記第1の制御手段が前記空燃比を理論空燃比よりもリッチまたはリーンに変更した回数が、所定時間内に所定回数以下であることを検出して異常あり、と診断する制御を実行することを特徴とする請求項2記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項9】
前記内燃機関において燃料カットを行う第2の制御と、
前記空燃比を理論空燃比よりもリーンに変更する第3の制御と、
前記第2の制御を実行する前、または前記第3の制御を実行する前に、前記空燃比を理論空燃比よりもリッチに変更する第4の制御との少なくとも1つを実行する第2の制御手段を有し、
前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号に基づき、前記酸素センサの異常の有無を診断する制御を実行する診断手段をさらに有することを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項10】
前記酸素センサを前記内燃機関に接続した排気通路において、該排気通路が備える触媒の下流側に配設し、
前記触媒劣化時には、前記第1の制御手段が前記第1の制御を実行することを特徴とする請求項9記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項11】
前記触媒の劣化状態が把握困難な場合に、前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号であるかどうか判定する制御を実行する第1の判定手段を有し、
前記第1の判定手段が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号であると判定した場合に、前記第1の制御手段が、前記第1の制御を実行することを特徴とする請求項10記載の酸素センサの異常検出装置。
【請求項12】
前記第2の制御手段が前記第2から第4の制御の少なくとも1つを実行した後の前記酸素センサの出力信号を経時的に検出し、経時的に検出した該出力信号において、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号が、所定数以上存在するかどうかを判定する制御を実行する第2の判定手段を有し、
前記第2の判定手段が、前記検出素子内外面に接触する気体の酸素濃度が正常な酸素センサにおける酸素濃度と逆転していることを示す出力信号が、所定数以上存在すると判定した場合に、前記第1の制御手段が、前記第1の制御を実行することを特徴とする請求項9記載の酸素センサの異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−336591(P2006−336591A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164822(P2005−164822)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】