説明

電子部品の製造方法

【課題】高温で成膜される低融点金属の凝集を防止し、十分なバリア性及びぬれ性を有するバリア層を形成して、凹部に低融点金属を付け回り良く充填する。
【解決手段】電子部品の製造方法が、4Pa以上20Pa以下の圧力下で、被処理体306と接する電極301に第1のバイアス電力を印加し、プラズマ処理により被処理体306の上にTiNxからなる第1のバリア層404を成膜する手順と、4Pa以上20Pa以下の圧力下で、電極301に第1のバイアス電力よりも小さいイオン入射エネルギーを与える第2のバイアス電力を印加し、またはバイアス電力を印加しないで、プラズマ処理により第1のバリア層の上にTiNxからなる第2のバリア層405を成膜する手順と、第2のバリア層405の上に、Tiからなる第3のバリア層409を成膜する手順と、第3のバリア層409の上に低融点金属406を充填する手順と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路の誘電体層表面の凹部を低融点金属で充填するのに好適な電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integration)の高集積化に伴い、基板と配線間の電気的接続を得るコンタクトホールや、多層配線間の接続を得るビア(Via)等の接続孔も微細化し、アスペクト比は1を超えるまでになっている。
【0003】
このような微細孔に導電性材料を充填し、電気的に接続することが行われている。一般的に配線材料には、低抵抗かつ加工性の観点から、Al系合金が用いられている。ここで、Al系合金は、純Alの他に、Al−SiやAl−Cu等のAlに微量添加物を加えたものも含む概念であり、以下、説明の便宜上から、単に「Al」と表記する。
【0004】
従来、高アスペクト比の微細孔への充填を容易にする充填技術としては、リフローと呼ばれる手法が用いられてきた。リフローは、まず、AlとSiの拡散を防ぐ目的で、バリア層(バリアメタルと呼ぶ)を形成する。このバリア層には、通常、TiN(チタンナイトライド)等が用いられる。コンタクトホールの場合には、低抵抗コンタクトを実現しうるTi化合物であるチタンシリサイドを形成する目的で、下層にTiを成膜した積層構造をとることが一般的である。
【0005】
次に、Alの充填を行うが、リフローは400℃程度の高温で充填を行うため、バリア層上にそのまま成膜すると、バリア最表層のTiNとAlとのぬれ性が悪く、高温で成膜したAlが凝集して個々の小滴となってしまう。したがって、連続性を保てずに埋設が不十分となり、図10に示すようなボイド410と呼ばれる空隙を形成してしまう。
【0006】
これを防止するため、バリア層上に連続なAlの流動経路を形成する必要がある。この流動経路はSeed層(種層)と呼ばれ、100℃以下で成膜されたAl層を用いる。流動経路を確保した後、400℃程度の高温下でAlを成膜し、ホール内をAlで充填する。この低温でのSeed層としてのAlの成膜と、高温でのAlの成膜は、基板ホルダの温度を所定温度に調節した異なるチャンバ内に基板を移送して行うのが一般的である。
【0007】
この関連技術として、真空下で、0℃以下に接続孔を有する半導体基板を冷却しながらスパッタリング法でAl系膜を形成後、300℃以上の温度に基板を加熱して接続孔を埋め込む手段を有する半導体製造装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、Alは金属原子の中でも質量が軽いため、特にエレクトロマイグレーションによる断線故障が問題となる。このエレクトロマイグレーション耐性を向上させるには、Alの(111)配向を強化することが有効であることは既知である。このAlの配向性を強化する技術としては、(002)配向した100Å以下のTi膜上に、(111)配向のTiN膜を形成し、その上にAlを成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。一般的にも、バリア層の結晶配向性を強めることでAlの結晶配向性を強化し、エレクトロマイグレーション耐性を向上させている。
【0009】
この結果は、Alが下地であるバリア層の結晶性に従って基板と垂直な方向に成長することを示している。逆に言うと、下地の結晶性が強いほど、その成長方向が影響され、開口部に沿って流動する動きを拘束することを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−74177号公報
【特許文献2】特開平6−283532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前述の手法においてはいくつかの問題点が存在する。第1に下地層の結晶性が強い場合には、Alは下地に拘束され、基板垂直方向へ成長し、開口内部へ流動するAlの動きを阻害する。
【0012】
第2の問題はSeed層の被覆形状である。Seed層は、凝集を抑制するため、冷却された状態で成膜される。このためSeed層の被覆形状はマイグレーションによる粒子の移動が生じず、特に高アスペクト比の微細孔では、図11に示すように、開口部においてオーバーハング形状421を形成してしまう場合がある。
【0013】
これらの不良は、高アスペクト比の微細孔になるほど、顕著になる傾向があり、従来のリフローを用いる技術の限界と考えられる。
言い換えるならば、高アスペクト比の微細孔でのAlの充填には、下地の拘束力すなわち結晶性の制御およびAlの被覆形状の改善が必要である。
【0014】
本発明は、十分なバリア性及びぬれ性を有するバリア層を形成して、凹部に低融点金属を付け回り良く充填できる電子部品の製造方法、電子部品、プラズマ処理装置、制御プログラム及び記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0016】
凹部を被処理体にバリア層を成膜するバリア層成膜手順と、前記バリア層が形成された被処理体の凹部に低融点金属層を充填する充填手順と、を有し、前記バリア層成膜手順は、被処理体と接するバイアス電極に第1のバイアス電力を印加し、プラズマ処理によりTiNx(xは正の数)を含む第1層を成膜する手順と、前記電極に前記第1のバイアス電力よりも小さいイオン入射エネルギーを与える第2のバイアス電力を印加し、またはバイアス電力を印加しないで、プラズマ処理により前記第1のバリア層の上にTiNy(yは正の数)を含む第2層を成膜する手順と、プラズマ処理により前記第2層と前記低融点金属の間に、Tiからなる第3層を成膜する手順と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温で成膜される導電性金属の凝集を防止し、十分なバリア性及びぬれ性を有するバリア層を形成して、凹部に導電性金属を付け回り良く充填できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態のプラズマ処理装置を模式的に示す概略断面図である。
【図2】磁石機構をターゲット電極(第1の電極)側から見た平面図である。
【図3】本実施形態のマルチチャンバシステムを模式的に示す概略図である。
【図4】本実施形態の電子部品の製造方法の手順を示す概略図である。
【図5】高圧力スパッタのスパッタ粒子の輸送過程の説明図である。
【図6】リスパッタの説明図である。
【図7】低圧力スパッタと高圧力スパッタの粒子輸送過程と付き回り形状の説明図である。
【図8】バリア層のX線回折パターンを示す説明図である。
【図9】本実施形態における充填結果を示すSEM顕微鏡写真である。
【図10】従来の凹部(微細孔)におけるボイドを示す説明図である。
【図11】低圧力スパッタでの付き回り状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
〔プラズマ処理装置〕
まず、図1を参照して、本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態の構成について説明する。図1は、本実施形態のプラズマ処理装置を模式的に示す概略断面図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のプラズマ処理装置100は、処理空間を区画する容器(チャンバ)201を備えており、チャンバ201内の上下には上部電極(放電電極)1と下部電極(バイアス電極)301とが設けられている。
【0022】
チャンバ201は中空円柱状の容器であって、略円板状の上部壁(天井壁)202と、略円筒形の側壁203と、略円板状の底壁204とから構成されている。チャンバ201内に区画された処理空間の下方には、基板や電子部品等の被処理体306を保持する載置台としてのステージホルダ302が設けられている。
【0023】
このチャンバ201の側壁には排気口205が設けられており、この排気口205にはチャンバ201内を真空排気する排気ポンプ10が接続されている。また、チャンバ201の内側壁には、このチャンバ201の内部の処理空間にアルゴン等の処理ガスを導入するガス導入口9が設けられ、このガス導入口9は不図示のガス供給手段に接続されている。
【0024】
さらに、チャンバ201の側壁には、このチャンバ201内の圧力を測定する圧力計30が設けられている。この圧力計30は、例えば、ダイヤフラムゲージ等によって形成され、この圧力計30の検出値に基づいてチャンバ201内の圧力を制御する圧力制御機構31と接続されている。
【0025】
上部電極(放電電極)1は、上部壁202、磁石機構5、ターゲット電極(第1の電極)2、絶縁体4、およびシールド3から構成されている。
【0026】
磁石機構5は上部壁202の下方に設けられており、磁石機構5の下部にはターゲット材を搭載するターゲット電極2が設けられている。ターゲット電極2の主要部品は、Al、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS)、Cuなどの非磁性金属から構成されている。ターゲット電極2の減圧側には、基板306上に成膜するのに必要なターゲット(不図示)を設置することができる。
【0027】
ターゲット電極2は、整合器101を介して、このターゲット電極2に電力を供給する高周波電源等の上部電極用電源102と、直流電圧を供給するDC電源103とに接続されている。絶縁体4は、ターゲット電極2とチャンバ201の側壁とを絶縁すると共に、ターゲット電極2をチャンバ201内に保持するためのものである。さらに、絶縁体4の下部には、シールド3が設けられている。
【0028】
また、上部電極1やターゲット電極2の中には不図示の配管が設けられており、この配管に冷却水を流すことによって、上部電極1やターゲット電極2を冷却することができる。
【0029】
磁石機構5は、マグネット支持板7と、マグネット支持板7に支持された複数のマグネットピース6と、複数のマグネットピース6の最外周側に設けられた磁場調整用磁性体8とから構成されている。なお、磁石機構5は、不図示の回転機構により、ターゲット材の中心軸を回転軸として回転可能に構成されている。
【0030】
複数のマグネットピース6は、ターゲット電極2の上方であって、ターゲット電極2の表面と平行となるように、相互に隣接して配置されている。隣接するマグネットピース6同士によって、ポイントカスプ磁場11が形成されている。
【0031】
磁場調整用磁性体8は、外周側に位置するマグネットピース6が、ターゲット電極2側において部分的に重なるように延設されている。このような構成をとることにより、ターゲット電極2とシールド3との隙間において、磁場強度を抑制(制御)することができる。
【0032】
下部電極(バイアス電極)301は、ホルダ302、冷却・加熱機構12、底壁204、および第2の電極用絶縁体303によって構成されている。
【0033】
基板306を載置するステージホルダ302の内部には、冷却・加熱機構12が設けられている。
【0034】
第2の電極用絶縁体303は、ホルダ302とチャンバ201の底壁204とを電気的に絶縁して支持するための装置である。また、ホルダ302には、整合器304を介して、被処理体306にバイアス電力を印加する高周波電源等の下部電極用電源305が接続されている。また、下部電極用電源305には、ホルダ302に印加するバイアス電力を制御する不図示の電力制御機構が備えられている。
【0035】
なお、図示していないが、ホルダ302には、単極型電極を有する静電吸着装置が設けられており、この単極型電極は、DC電源(不図示)と接続されている。この静電吸着装置によって処理対象としての基板306がホルダ302の載置面に静電吸着される。
【0036】
さらに、図示していないが、ホルダ302には、被処理体306の裏面に対して、その温度を制御するためのガス(例えば、Arなどの不活性ガス)を供給する複数のガス噴出口と、被処理体306の温度を計測するための温度計測器が設けられている。
【0037】
次に、図2を参照して、磁石機構5についてさらに詳細に説明する。図2は、磁石機構をターゲット電極(第1の電極)側から見た平面図である。
【0038】
図2に示すように、円板状のマグネット支持体7には、環状の磁場調整用磁性体8と、磁場調整用磁性体8の内周領域に配置された複数のマグネットピース6と、が支持されている。
【0039】
ここで図2において、符号3aはシールド3の内径を示しており、多数の小さな円は各々のマグネットピース6の外形を示している。各マグネットピース6は、同じ形状及び同じ磁束密度を有している。また、N及びSの文字はターゲット電極2側から見たマグネットピース6の磁極を示している。
【0040】
マグネットピース6は、互いに略同一の間隔(5乃至100mmの範囲)を空けて、碁盤の目状に縦横(X軸方向,Y軸方向)に配置され、隣接するマグネットピース6同士は反対の極性を有している。
【0041】
一方、X軸方向及びY軸方向に沿って配置された任意の4つのマグネットピース6からなる四角形において、対角線方向に沿って隣接するマグネットピース6の極性はそれぞれ同一である。すなわち、隣接する任意の4つのマグネットピース6により、ポイントカスプ磁場11が形成される。
【0042】
マグネットピース6の高さは、通常は2mmよりも大きく形成され、その断面形状は四角または円形である。マグネットピース6の直径や高さ、材質は、プロセスアプリケーションによって、適宜設定することができる。
【0043】
本実施形態においては、すべてのマグネットピース6は、同等の磁束密度となるように同じ磁石素材を想定している。
【0044】
プラズマ処理装置100の上部電極1に高周波電力を供給したとき、プラズマは容量結合型のメカニズムによって生成され、このプラズマは、ポイントカスプ磁場11の作用を受ける。
【0045】
磁場調整用磁性体8は、外周側に位置するマグネットピース6が、ターゲット電極2側において部分的に重なるように延設されている。これにより、ターゲット電極2表面近傍における磁場強度を抑制(制御)することできる。磁場調整用磁性体8は、ターゲット電極2とシールド3との隙間の磁場強度を制御できる材料であればよく、例えば、SUS430等の透磁率が高い材料が好ましい。
【0046】
磁石機構5において、マグネットピース6と磁場調整用磁性体8とが重なる面積を調整することにより、磁場調整することが可能である。すなわち、マグネットピース6と磁場調整用磁性体8とが重なる面積を調整すると、ターゲット電極2の最外周まで、ターゲット電極2をスパッタするのに必要な磁場を供給し、ターゲット電極2とシールド3との隙間には磁場を供給しないようになる。
【0047】
本実施形態においては、マグネットピース6は、互いに略同一の間隔を空けて、碁盤の目状に縦横に配置した形態を例示したが、マグネットピースの配置は本発明の効果を限定するものではなく、適時選択することが出来る。
【0048】
〔マルチチャンバシステム〕
本実施形態では、後述するように、バリア層の成膜と、低融点金属の成膜、充填とを行なうが、それぞれ別の成膜チャンバで行なうことが望ましく、図3に示すようなマルチチャンバシステムが適している。図3は、本実施形態のマルチチャンバシステムを示す概略図である。
【0049】
図3に示すように、このマルチチャンバシステムは、中央に搬送室450を備え、この搬送室450内には、ハンドリングロボット等の搬送機構(不図示)が備えられている。
この搬送室450には、3基のチャンバがゲートバルブ(不図示)を介して真空接続されている。即ち、3基のチャンバは、被処理体306の脱ガスを行なうデガスチャンバ451と、第1および第2のバリア層404、405の成膜を行なうバリア層成膜チャンバ452と、及び低融点金属の成膜、充填を行なう低融点金属成膜チャンバ453とからなる。さらに、搬送室450には、真空空間と大気の間でカセット455に収納された被処理体306を出し入れするためのロードロックチャンバ454が接続されている。
【0050】
本実施形態では、バリア層成膜チャンバ452及び低融点金属成膜チャンバ453が上記プラズマ処理装置100によって構成されている。これに限定されず、少なくとも、バリア層成膜チャンバ452が上記プラズマ処理装置100によって構成されていればよい。
【0051】
〔電子部品の製造方法、電子部品、制御プログラム及び記録媒体の第1実施形態〕
次に、図1から図4を参照して、上記プラズマ処理装置100を用いて実施する電子部品の製造方法を説明する。なお、本発明に係る電子部品の製造方法のアルゴリズムは、プラズマ処理装置100の成膜プロセスを制御する制御装置(不図示)の記憶部に制御プログラムとして記憶されており、成膜プロセス開始の際にCPUにより読み出されて実行される。
【0052】
また、上記制御プログラムは、コンピュータ(PC)による読み取り可能な記録媒体に記録されて、PCの記憶部にインストールされる。記録媒体としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ZIP(登録商標)等の磁気記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、CD−R、DVD−R、DVD+R,CD−R,DVD−RAM、DVD+RW(登録商標)、PD等の光ディスク等が挙げられる。また、コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア(登録商標)、メモリースティック(登録商標)、マルチメディアカード、SDメモリカード等のフラッシュメモリ系が挙げられる。さらに、マイクロドライブ(登
録商標)、Jaz(登録商標)等のリムーバブルハードディスクが挙げられる。
【0053】
前述したように、本実施形態の電子部品の製造方法は、大きく分けて、バリア層の成膜手順と、低融点金属の成膜、充填手順とからなるが、それぞれ別の成膜チャンバで行うことが望ましく、本実施形態では図3のマルチチャンバシステムを用いて実施する。
【0054】
図4は、本実施形態の電子部品の製造方法の手順を示す概略図である。
【0055】
図4(a)に示すように、本実施形態の被処理体306は、基板401上には二酸化シリコン402が積層されており、この二酸化シリコン402にはホール408が形成されている。本実施形態では、このようなホール408を有する基板401が被処理体306となる。なお、以下で説明するホール408とは、本発明における凹部(微細孔)の一例であり、その他に、例えば、トレンチ(溝)などが挙げられる。
【0056】
本実施形態の電子部品の製造方法は、まず、搬送室450の搬送機構がロードロックチャンバ454内からカセット455内の被処理体306を取り出し、デガスチャンバ451内に移送して脱ガス処理を行なう。脱ガス処理の終了後、搬送機構はデガスチャンバ451内から被処理体306を取り出し、バリア層成膜チャンバ452内へと移送する。なお、前述したように、本実施形態では、バリア層成膜チャンバ452及び低融点金属成膜チャンバ453は上記プラズマ処理装置100と同様の構成で形成されている。
【0057】
次に、バリア層の成膜手順について説明する。
【0058】
本実施形態では、ターゲット材としてTiを使用している。まず、バリア層成膜チャンバ452のガス導入口9からチャンバ201内に、アルゴンガスが所定の流量で導入される。これと同時に、磁石機構5が所定の回転速度で回転する。
【0059】
このとき、プロセス制御装置(不図示)が、圧力計30の検出値に基づいて圧力制御機構31を制御すると共に、チャンバ201内にガス挿入口9から導入されるガスの流量を制御することにより、チャンバ201内の圧力が比較的高い圧力に維持される。
【0060】
具体的には、チャンバ201内の圧力は4Pa以上20Pa以下に設定することが好ましく、本実施形態では7Paに設定される。チャンバ201内の圧力を4Pa以上20Pa以下に設定するのは、4Pa未満になると、後述するように、スパッタ粒子がホール入口に堆積し、最悪の場合はホール入口を塞いでしまう可能性があるからである。一方、20Paを超えると、プロセスガスの分子の数があまりにも多くなり、スパッタ粒子がプロセスガス分子との衝突によって、基板306に十分到達できないという問題が発生する可能性があるからである。
【0061】
このとき被処理体306は、静電吸着装置(不図示)に印加した電圧により、静電吸着されている。さらに、プロセスコントローラ(不図示)が、基板温度計測器(不図示)に基づいて、ガス噴出口(不図示)から噴出されるガスを制御することにより、被処理体306が所定の温度に維持される。
【0062】
次に、上部電極用電源102により、所定電力及び所定周波数の高周波電力をターゲット電極2に印加する。本実施形態では、電力を2500Wとし、周波数を60MHzとしている。なお、周波数は、10MHz以上100MHz以下であることが好ましく、特に20MHz以上80MHz以下であることが好ましい。
高周波電力の周波数をこの範囲に設定するのは、プロセスガス粒子を容易かつ効率的にイオン化できるためである。
【0063】
次いで、図4(b)に示すように、上記ホール408内にTi層403を成膜する。すなわち、DC電源103により、ターゲット電極2に電圧を印加することで、アルゴンイオンがTiターゲットに入射し、スパッタ成膜が開始される。そして、所定時間のスパッタ成膜を行った後、上部電極用電源102およびDC電源103からターゲット電極2に印加する電力を停止する。ここで成膜されたのはTi層403であり、前述のようにコンタクト部の接触抵抗を低減する目的で用いられる。
【0064】
次に、図4(c)に示すように、上記Ti層403上に、下部電極301に印加するバイアス電力を切替えて、第1のバリア層404および第2のバリア層405を順次成膜する。
【0065】
まず、チャンバ201内のガスをアルゴンガスと窒素ガス(反応性ガス)との混合ガスに切り替える。本実施形態では、混合ガスを導入した後のチャンバ201内の圧力を10Paに調圧した。Ti層403と同様に上部電極用電源102およびDC電源103に電力を印加することで、反応性スパッタが開始される。その際、導入された窒素ガスと反応するため、ターゲット材であるチタンはTiN(チタンナイトライド)として基板に到着する。
【0066】
このとき、下部電極用電源305によって、下部電極301に第1のバイアス電力が印加される。本実施形態では、第1のバイアス電力を600Wとした。バイアス電力は下部電極301にプラズマによるシースを形成し、一部がイオン化されたスパッタ粒子およびプロセスガス粒子を加速し、基板401に引き込む。基板401および成膜過程の膜は、衝突するイオンの入射エネルギーを得て堆積される。
【0067】
ここで、図5から図7を参照して、本実施形態のバリア層の成膜手順におけるスパッタ粒子の挙動について説明する。図5は、高圧力スパッタのスパッタ粒子の輸送過程の説明図である。図6は、リスパッタの説明図である。図7は、低圧力スパッタと高圧力スパッタの粒子輸送過程と付き回り形状の説明図である。
【0068】
図5に示すように、本発明では、通常のスパッタよりも高圧力化で成膜を行うため、ターゲット2aを飛び出したスパッタ粒子430は、平均自由工程が短く、基板401へ到着する間にガス粒子との衝突を繰り返す。そして、ターゲット2aを飛び出した際の運動エネルギーを失い、基板近傍に飛来する。基板近傍に飛来した粒子は、ホルダに印加されたバイアス電圧により発生したプラズマシース431によって、基板401に垂直な方向へと加速され、ホール内部へと引き込まれる。
【0069】
また、図6に示すように、基板401に引き込まれたプロセスガスイオンは、ある一定の入射エネルギー以上になると、基板401に付着したスパッタ膜を再度スパッタ(リスパッタ)する。基板401へ引き込まれたプロセスガスイオンは、基板垂直方向へ加速されるため、特にホール底部の付着膜がリスパッタされ、ホール側壁部へと付着する。これにより、付き回り量の少ない側壁部が補強され、全体として良好なカバレッジ形状を得ることができる。
【0070】
さらに、図7(c)(d)に示すように、基板到着までの間にスパッタ粒子の衝突による散乱によって容器内に広がり、ホルダでのシース加速によって入射するため、基板全面において、対称性の良い被覆形状を得ることができる。これに対し、図7(a)(b)に示すように、低圧力スパッタでは、基板到着までの間にスパッタの粒子の衝突による散乱が起こらないため、被覆形状に偏りが生じる。
【0071】
そして一定時間成膜した後、下部電極301に印加されたバイアス電力を第1のバイアス電力よりも小さい第2のバイアス電力に切り替える。本実施形態では、下部電極用電源305による出力を0Wとし、プラズマ電位からの加速のみとした。第2のバイアス電圧による成膜を一定時間行った後、上部電極用電源102およびDC電源103からターゲット電極2に印加される電力を停止する。
【0072】
ここで、上記手順によって得られたバリア層について説明する。図8は、バリア層のX線回折パターンを示す説明図である。
【0073】
図8(a)は、第1のバリア層のみを成膜した場合のX線回折パターンである。第1のバリア層は、第1のバイアス電力(本実施形態では、バイアス電力600W)によって与えられた過剰なイオン入射エネルギーを受け、結晶成長が崩され、強い配向性をもたない膜として堆積する。これに対して、第2のバイアス電力(本実施形態では、バイアス電力0W)で成膜した場合は、過剰なイオン入射エネルギーがないため、結晶の最密面が基板と平行となる結晶配向が強い層が形成される。これは、図8の(c)に相当し、TiN(111)面による明瞭な回折ピークが確認できる。
【0074】
また、第2のバイアス電力で得られた膜の表面は、前述の柱状構造が緻密に並んだものであり、表面粗さが小さく、平坦な膜となっている。図示しないが、SEMによる断面観察の結果、第1のバイアス電力で得られた膜には、明確な結晶構造が確認されなかった。
これに対し、第2のバイアス電力で成膜した膜は、細かい柱状の構造が確認された。
【0075】
図8(b)は、上記2層を積層した場合の回折パターンで、前述のピークがそれぞれ確認され、図8(c)と比較すると、第2のバリア層の結晶配向性も抑制されている。これは、結晶性に乏しい第1のバリア層の影響を受けたためであり、第1のバリア層の〔001〕結晶配向性を制御することで、第2のバリア層の〔001〕結晶配向性も制御することが可能であることは容易に推測される。
【0076】
次に、バイアス印加によるバリア層の膜質の変化について説明する。
【0077】
TiNは一般的に柱状晶の結晶構造をとり易く、結晶の最密面が基板と平行になる結晶配向性を示す。そのため、バリア層を形成するに当たり、まずバイアスによるイオン入射のエネルギーを高めることで、結晶構造を崩し、結晶配向性を弱くした第1のバリア層404を形成する。その後、イオン入射のエネルギーを低くすることで、結晶配向性の強い第2のバリア層405を形成する。
【0078】
第1のバリア層404の結晶配向性を弱くする目的は、全体としてバリア層の結晶性を弱くし、その後に成膜される第2のバリア層405の種層として機能する。前述したように、結晶成長は下地の結晶構造・結晶性に従って成長することが多く、種層の構造を変えることにより、それに積層する層の成長を制御することができる。
【0079】
また、バイアスの印加は成膜するバリア層の被覆形状にも影響し、特に開口部では入射イオンによるエッチングが起こり,堆積膜厚が薄くなり,最悪の場合下地が露出してしまう。そのため、第2のバイアス電力は過剰な入射イオンエネルギーを抑制し、開口部のバリア性を有するに十分な膜厚を確保することが有効である。
続いて、再びアルゴンガスに切り替え、前述と同様に、図4(d)に示すように、上記ホール408内に第3のバリア層であるTi層406を成膜する。すなわち、DC電源103により、ターゲット電極2に電圧を印加することで、アルゴンイオンがTiターゲットに入射し、スパッタ成膜が開始される。そして、所定時間のスパッタ成膜を行った後、上部電極用電源102およびDC電源103からターゲット電極2に印加する電力を停止する。
【0080】
このとき、第3のバリア層406は、下地である第1、第2バリア層の結晶性に従い成長するため、第1、第2のバリア層の膜厚、バリア層形成時に印加されるバイアス印加電力および割合によって第3のバリア層の膜質を制御することができる。
このように、Ti層を挿入することで、バリア層と高温の低融点金属層406が直接接触する場合にも、低融点金属層406の凝集を抑制することができ、より確実にボイドの発生を防止できる。なお、Ti層が余りに薄すぎると、Ti層挿入の効果が得られず、Ti層があまりに厚いとTiとAlの合金層が形成されてしまう。この合金層は、多くの場合、粒が大きく、また、その強固な密着性からバリア層とAl界面の流動性を著しく低下させる。このため、第3のバリア層409としてTi層を形成する場合は、厚さを5nm以上30nm以下とすることが好ましい。
【0081】
次に、低融点金属の充填手順について説明する。
【0082】
バリア層404、405の成膜の終了後、搬送機構はバリア層成膜チャンバ452内から被処理体306を取り出し、大気に曝すことなく低融点金属成膜チャンバ453内へと移送する。Alの充填についても、バリア層と同様に低融点金属成膜チャンバ453として上記プラズマ処理装置100を用いて実施した。
【0083】
本実施形態では、ターゲット材としてAl−Cuを使用している。バリア層と同様に、ガス導入口9からアルゴンガスを導入すると共に、磁石機構5の回転を行う。
【0084】
本実施形態では、チャンバ201内の圧力を5Paとした。また、基板温度はAlの流動に必要な程度に加熱を行う。具体的には、基板は300℃以上に加熱され、350℃以上450℃以下に調温されるのが望ましく、本実施形態では420℃に加熱する。
【0085】
基板温度が十分に飽和すると、次に、上部電極用電源102により、所定電力および所定周波数の高周波電力をターゲット電極2に印加する。本実施形態においては、電力を4000Wとし、周波数を60MHzとしている。
【0086】
次いで、DC電源103により、ターゲット電極2に電圧を印加することで、アルゴンイオンがアルミターゲットに入射し、スパッタ成膜が開始される。スパッタされたAl粒子は、基板に付着後、加熱による熱エネルギーによってマイグレーションが促進し、前述のバリア層状を移動し、図4(e)に示すように、低融点金属層407がホール408内に充填される。
【0087】
そして、所定時間のスパッタ成膜を行った後、上部電極用高周波電源102およびDC電源103からターゲット電極2に印加される電力を停止する。
【0088】
[実施例]
図11は、本実施形態により埋設を行ったホールのSEMによる断面観察結果を示す顕微鏡写真である。図11に示すように、φ0.2μmのホールにボイドを形成することなく埋設が行われていることが確認された。
また、特筆すべきは、深さ1.0μmのホールパターンをわずか200nmのAl成膜量にて埋設が完了していることである。図11では基板表面にはほとんどアルミが残っておらず、開口部に優先的にAlが流動していることが観察できる。このことからも本発明によるAl流動性の制御は高アスペクトの微細パターンにおいても充填が十分可能であることを示している。
【0089】
また、上述の手順において従来からリフロープロセスに必要とされてきたSeed層の成膜を実施していないことが本発明の効果を端的に示している。従来から、流動経路層として必要とされてきたSeed層を用いなくとも、バリア層の結晶配向性を制御することにより、直接高温化でAlの成膜を行っても、ボイドを形成することなくAlの充填を行うことが可能となる。また、従来Seed層用のAl成膜室と高温でのAl成膜室の2つのチャンバが必要であったが、単一のAl成膜室で成膜することができ、製造コストを低減することができる。
【0090】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲を上記実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0091】
例えば、上記実施形態では、スパッタリング装置を例示して説明したが、他のプラズマ処理装置、およびこれを使用した電子部品の製造方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 上部電極
2 ターゲット電極(第1の電極)
3 シールド
3a シールドの内径
4 絶縁体
5 磁石機構
6 マグネットピース
7 マグネット支持板
8 磁場調整用磁性体
9 ガス導入口
10 排気ポンプ
11 ポイントカスプ磁場
12 冷却・加熱機構
30 圧力計
31 圧力制御機構(APC)
100 プラズマ処理装置
101 整合器
102 上部電極用電源
103 DC電源
201 容器(チャンバ)
202 上部壁(天井壁)
203 側壁
204 底壁
205 排気口
301 下部電極
302 ホルダ
303 第2の電極用絶縁体
304 整合器
305 下部電極用電源
306 被処理体
401 基板
402 二酸化シリコン
403 Ti層
404 第1のバリア層(TiN)
405 第2のバリア層(TiN)
406 第3のバリア層(Ti)
407 低融点金属層
408 ホール
410 ボイド
420 付着膜
421 オーバーハング形状
430 スパッタ粒子
431 プラズマシース
450 搬送室
451 デガスチャンバ
452 バリア層成膜チャンバ
453 Al成膜チャンバ
454 ロードロックチャンバ
455 カセット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を被処理体にバリア層を成膜するバリア層成膜手順と、前記バリア層が形成された被処理体の凹部に低融点金属層を充填する充填手順と、を有し、
前記バリア層成膜手順は、
被処理体と接するバイアス電極に第1のバイアス電力を印加し、プラズマ処理によりTiNx(xは正の数)を含む第1層を成膜する手順と、前記電極に前記第1のバイアス電力よりも小さいイオン入射エネルギーを与える第2のバイアス電力を印加し、またはバイアス電力を印加しないで、プラズマ処理により前記第1のバリア層の上にTiNy(yは正の数)を含む第2層を成膜する手順と、プラズマ処理により前記第2層と前記低融点金属の間に、Tiからなる第3層を成膜する手順と、を有することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第3層は、5nm以上30nm以下の厚さに形成されることを特徴とする請求項2に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層よりも〔001〕結晶配向性が強いことを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1および第2層は、反応性ガスによる反応性スパッタにより成膜されることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記反応性ガスが、窒素であることを特徴とする請求項5記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記バリア層を成膜するターゲット材がTiであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記低融点金属は、Al、又はAlを含むAl系合金であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記充填手順は、前記バリア層の上に低温Seed層を挟むことなく直接に300℃以上500℃以下で行われることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−142332(P2012−142332A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292113(P2010−292113)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】