説明

AlGaNの気相成長方法及びAlGaNの気相成長方法で製造されたAlGaN結晶の厚膜基板

【課題】 HVPE法のサファイア基板上又はSi基板上に、所望の組成比率xのAlGa1−xNの結晶を成長させることができるエピタキシャル成長方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム原料と、ガリウム原料と、アンモニア原料と、キャリアガスとを用いたHVPE法によって、AlGa1−xNを結晶成長させる。この際、キャリアガスは、不活性ガスと水素からなり、この水素分圧を0以上0.1未満の範囲に置く。その結果、原料の供給比率と、成長させた結晶の組成比率との間の関係を線形なものにすることができ、結晶組成の制御性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外レーザ、LED及び高周波・高出力電子デバイス等に用いられるAlGaNをエピタキシャル成長する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バルク結晶を製造する通常の方法としては、HB(Horizontal Bridgiman)法やLEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法が知られている。ところが、これらの方法では、AlGaN単結晶育成が困難である。
【0003】
このため、近年高温高圧下での溶液成長や昇華法などによりバルク結晶の成長が試みられている。しかしながら、このような方法によっても、大型の基板結晶に用いることができるようなAlGaNの結晶は得られていない。
【0004】
現在、AlGaNの単結晶基板の作製方法として、本発明者らが最も有望な方法の一つと考えるのは、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によって、基板(例えばサファイア基板)上にAlGaNをヘテロエピタキシャル成長させる方法である。
この方法においては、混合部でAl原料ガスとGa原料ガス、さらに、NH原料ガスを混合し、混合したガスを成長部(基板が位置するので基板部とも呼ぶ)に送り込む。そして、この成長部に収容されているサファイア基板上にAlGaNを成長させる。
【0005】
HVPE法
石英反応管ホットウォール方式であるHVPE法の利点は、特に成長速度が大きいことである。このため、HVPE法は、従来から、厚膜が必要な高感度光センサー、厚膜で高品質な結晶が要求されるパワーデバイス(特に、GaAsを用いた電源系のデバイス)作製に用いられ、さらに前記のような基板、特にGaN基板の製造法として利用されている。
【0006】
このことは、例えば下記特許文献1「窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法(豊田合成株式会社他)」や、下記特許文献2「エピタキシャルウェハ及びその製造方法(住友電工株式会社)」などに記載されている。
【0007】
また、本願出願人は、Alを含むIII−V族化合物の基板を、HVPE(法)で製造する技術を開発し、別途他の特許出願(特願2002−106102号)を行っている(特許文献3)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−215000号公報
【特許文献2】特開平10−316498号公報
【特許文献3】特開2003−303774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本願発明者らは、HVPEを用いてAlGaNの結晶を成長を研究を進めた。
【0010】
そして、HVPEを用いてAlGaNの「厚膜」の結晶成長を行う場合、組成比率の制御性が悪いという問題点を本願発明者らは見いだした。
【0011】
以下、順に説明する。
【0012】
AlGaNについて
まず、AlGaNは、AlNとGaNのいわば混晶(しばしば固溶体と呼ばれる)であるので、その比率を明示的にするために、AlGa1−xNと記載する場合が多い。ここで、xは、結晶中のAlNの比率であり、0以上1以下の値を取りうる。そして、0から1の全ての値に対して原子レベルで結合し、いわゆる固溶体を形成する。xが0の場合は、AlNの組成比率は0であるので、全てGaNである。一方、xが1の場合は、全てAlNである。そして、AlGaNの用途によって、このxの値は正確に決定する必要がある。
【0013】
しかし、HVPE法でAlGaNの厚膜を作る場合に、Alの組成比率であるxを所望の値に設定するための有効な手法は従来は知られていないので、条件を種々変えて実験的に結晶成長を行うことになる。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、HVPE法のサファイア基板上又はSi基板上に良質のAlGaN結晶を成長させることができるエピタキシャル成長方法を提供すること、及び、AlGa1−xNのxの値を所望の値に設定可能な方法・装置を実現すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題に鑑み、本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、原料ガスの比率と、成長するAlGa1−xNのxの値と、がリニア(線形)な関係にない場合に、xの値の制御が容易でなくなることを見いだした。
【0016】
そしてさらに研究を続け、原料ガスの比率と、成長するAlGa1−xNのxの値と、がリニア(線形)な関係とできる条件を見いだすに至ったのである。このような条件の下で結晶成長を行わせることによって、成長するAlGa1−xNのxの値を容易に制御できる結晶成長方法・装置を開発した。以下、説明する。
【0017】
A.AlGa1−xNの気相成長方法の発明
(1)本発明は、上記課題を解決するために、アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、前記キャリアガス中の水素分圧を0atmに設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法である。
【0018】
このような構成によって、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置くことができ、結晶の組成の制御が容易となる。
【0019】
(2)また、本発明は、アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、前記キャリアガス中の水素分圧を0atm以上0.01atm未満に設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法である。
【0020】
このような構成によって、キャリアガス中の水素分圧をある程度の値に保ちつつ、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置くことができ、結晶の組成の制御が容易となる。
【0021】
(3)また、本発明は、アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、前記キャリアガス中の水素分圧を0atm以上0.1atm未満に設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法である。
【0022】
このような構成によって、キャリアガス中の水素分圧をある程度の値に保ちつつ、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置くことができ、結晶の組成の制御が容易となる。
(4)また、本発明は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のAlGaN結晶の成長方法において、アルミニウム原料と、ガリウム原料の比率を変更することによって、AlGaN結晶中のAlとGaの組成比率を調整することを特徴とするるAlGaN結晶の気相成長方法である。
【0023】
このような構成によって、AlGaN結晶の組成比率を制御することが可能となる。
【0024】
B.AlGa1−xNの気相成長方法で得られたAlGa1−xNの発明
(5)また、本発明は、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の気相成長方法によって製造されたAlGaN結晶の厚膜基板である。
【0025】
上記各方法によれば、結晶の組成を容易に制御できるので、厚膜基板を作成することが可能となる。
【0026】
C.AlGa1−xNの気相成長装置の発明
(6)本発明は、上記課題を解決するために、基板結晶が配置されている成長部と、アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atmである前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置である。
【0027】
このような構成によって、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置いた状態で結晶の成長を行わせることができる。その結果、この装置によれば、結晶の組成の制御が容易となる。
【0028】
(7)また、本発明は、基板結晶が配置されている成長部と、アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atm以上0.01atm未満である前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置である。
【0029】
このような構成によって、キャリアガス中の水素分圧をある程度の値に保ちつつ、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置いた状態で結晶の成長を行わせることができる。その結果、この装置によれば、結晶の組成の制御が容易となる。
【0030】
(8)また、本発明は、基板結晶が配置されている成長部と、アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atm以上0.1atm未満である前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置である。
【0031】
このような構成によって、キャリアガス中の水素分圧をある程度の値に保ちつつ、材料の供給比率と、得られる結晶の組成との関係をよりリニア(線形)な関係に置いた状態で結晶の成長を行わせることができる。その結果、この装置によれば、結晶の組成の制御が容易となる。
【0032】
D.AlGa1−xNの気相成長装置で得られたAlGa1−xNの発明
(9)本発明は、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の気相成長装置で製造したAlGaN結晶の厚膜基板である。
上記各装置によれば、結晶の組成を容易に制御できるので、厚膜基板を作成することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
以上述べたように、本発明によれば、AlGa1−xN結晶を成長させる際に、AlGa1−xN結晶におけるAlの組成比率(x)を所望の値に設定することが容易となる。その結果、所望の組成比率のAlGaN結晶を従来に比べて容易に得ることができ、厚膜基板の作製も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施の形態の気相成長装置の模式図である。
【図2】キャリアガス中の水素分圧F=0の場合に、気相供給比Rを変化させて、AlGa1−xNを結晶を成長させたときに得られた成長層のX線回析パターンである。
【図3】キャリアガス中の水素分圧Fが、0、0.01、0.1、1のそれぞれの場合における、気相供給比Rと成長させた結晶の組成との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係るAlGaNエピタキシャル層の成長方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
気相成長装置の構成
図1には、本実施の形態で利用する気相成長装置10を模式的に表した模式図が示されている。この図1を参照して、本実施の形態で使用するHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法用の気相成長装置10を説明する。
【0036】
図1に示すように、気相成長装置10は、アルミニウム原料を供給するアルミニウム原料供給部12と、ガリウム原料を供給するガリウム原料供給部14と、窒素原料を供給する窒素原料供給部16と、を備えている。各供給部から出力されるガスは混合部18において混合された後、成長部20において結晶成長に供される。成長部20は、石英反応チャンバーで構成されており、排気ポート20aが備えられている。
【0037】
アルミニウム原料供給部
アルミニウム原料供給部12は、図1に示すように、所定の反応室内に金属アルミニウムが収容された反応室である。このアルミニウム原料供給部12には、第1ガス導入路12aが設けられており、この第1ガス導入路12aを介してHClと、水素ガスHと、キャリアガス(IG)が導入される。この結果、金属アルミニウムとこれらガスとが反応し、AlGaNのアルミニウム原料であるAlClが生成されるのである。AlClが生成される際の反応式は以下の通りである。
【0038】
『化1』
Al + 3HCl → AlCl + 3/2H
このようにして得られたAlClは、キャリアガスと共に混合部18に移送される。
【0039】
本実施の形態において特徴的なことは用いているキャリアガス中の水素分圧の値が所定の値の範囲にあることである。この値を所定の範囲内にすることによって、最終的に製造されるAlGa1−xNの組成であるxの値を所望の値に設定することが容易となるのである。水素分圧の具体的な値については後に詳述する。
【0040】
尚、アルミニウム原料供給部12は図示されていない加熱装置を用いて所定の温度に維持する。具体的には、Al金属とHClの反応によりAlClが他の物質(AlCl)より多く生成する温度範囲(750℃以下)に保つことが望ましい。本実施の形態では、500℃の温度に保っている。
【0041】
また、本実施の形態では、以上のようにしてAlCl を生成したが、AlCl 粉末を昇華させて混合部18に送り込むことも好ましい。
【0042】
ガリウム原料供給部
ガリウム原料供給部14は、図1に示すように、所定の反応室内に金属ガリウムが収容された反応室である。このガリウム原料供給部14には、第2ガス導入路14aが設けられており、この第2ガス導入路14aを介してHClと、水素ガスHと、キャリアガス(IG)が導入される。この結果、金属ガリウムとこれらガスとが反応し、AlGaNのガリウム原料であるGaClが生成されるのである。GaClが生成される際の反応式は以下の通りである。
【0043】
『化2』
Ga + HCl → GaCl + 1/2H
このようにして得られたGaClは、キャリアガスと共に混合部18に移送される。
【0044】
本実施の形態において特徴的なことは用いているキャリアガス中の水素分圧の値が所定の値の範囲にあることである。この値を所定の範囲内にすることによって、最終的に製造されるAlGa1−xNの組成であるxの値を所望の値に設定することが容易となるのである。水素分圧の具体値については後に詳述する。
【0045】
窒素原料供給部
窒素原料供給部16は、図1に示すように、所定の反応室である。この窒素原料供給部16には、第3ガス導入路16aが設けられており、この第3ガス導入路16aを介して水素ガスHと、キャリアガス(IG)と、アンモニアNHが導入される。
【0046】
図示されていないが、この窒素原料供給部16の周囲には加熱装置が設けられており、所定の温度に加熱されている。この熱によって、窒素原料供給部16内のアンモニアNHは所定の割合で分解した状態に置かれる。このような所定の割合で分解したアンモニアNHと、水素ガスHと、キャリアガス(IG)との混合ガスが、混合部18に移送される。これまで述べたのと同様に、この窒素原料供給部16におけるキャリアガス中の水素分圧の値Fが所定の範囲内にあることで、Alの組成比率であるxを所望の値に設定することができる。
【0047】
混合部
混合部18は、上述したアルミニウム原料供給部12、ガリウム原料供給部14、窒素原料供給部16、の各原料部から供給されてくる原料ガスが混合される。また、所定の温度に維持するため、不図示の所定の加熱装置が設けられている。
【0048】
成長部
成長部20には、結晶が成長するための基板結晶22が収容されている。また、結晶の成長に適した温度とするために、図示されていない所定の加熱装置が設けられている。このような加熱装置は、従来から知られている種々の構成を採用することが可能である。例えば、電熱線による加熱や、高周波加熱等を利用することができる。
【0049】
特に、本実施の形態においては、基板結晶22を集中的に加熱するために、高周波加熱を用いている。また、基板結晶22を集中的に加熱するために、光加熱を用いることも極めて好ましい。これらの加熱装置は従来からよく知られいる加熱装置である。
【0050】
本実施の形態においては、基板結晶22は、サファイア基板が用いられている。また、この基板結晶22は、カーボンサセプタ24上に載置されている。
【0051】
結晶の成長
以上のような構成によって、基板結晶22上にAlNと、GaNの混晶であるAlGa1−xN(0≦x≦1)の固溶体を成長させることができる。
【0052】
組成比率の調整
本実施の形態においては、AlGa1−xNのxの値の設定を容易にするための工夫がなされている。定性的に言えば、xを大きくするには、アルミニウムの原料の比率をガリウムに比べて大きくすればよいであろうし、また、xを小さくするには、ガリウムの原料の比率をアルミニウムに比べて大きくすればよいであろうことは想像がつく。
【0053】
しかしながら、「原料の比率」と、xとの関係は一般にはリニア(線形)な関係ではないため、調整が非常に困難な場合も多かった。
【0054】
本実施の形態において特徴的な事項は、キャリアガス中の水素分圧を所望の値の範囲に設定することによって、上記「原料比率」とxとをなるべくリニアな関係においたことである。この結果、本実施の形態によれば、原料比率の変化と、xの変化と、をなるべくリニア(線形)な関係に置くことができるので、xの値の調整が容易となるという効果が得られる。
【0055】
結晶成長の反応
まず、上記アルミニウム原料供給部12の温度は、上述したように500℃の温度に保たれている。これによって、AlClの生成が抑制され、AlClが多く発生する。その結果、反応容器が石英で構成されている場合でも、石英を腐食してしまう恐れが少ない。
【0056】
また、ガリウム原料供給部14は、図示されていない加熱装置を用いて700度の温度に保持されている。また、窒素原料供給部16も図示されていない加熱装置を用いて所定の温度に維持する。温度は、アルミニウム原料供給部12と同様としてもよいし、別の温度に制御することも好ましい。
【0057】
また、混合部18はアルミニウム原料供給部12で生成されたAlClが石英容器内で析出しない温度で、かつ、この混合部18においてのAlNやGaNの析出が生じない温度範囲に保つことが好ましい。このような温度に保つことによって、原料を途中で析出させずに、成長領域20に送ることができるからである。本実施の形態においては、混合部の温度は、具体的には160℃以上750℃以下の温度範囲に保たれる。このような温度範囲に保つために、混合部18の周囲にも図示されていない加熱装置が設けられている。
【0058】
また、基板結晶は、900℃から1600℃の温度範囲中の所定の温度に設定される。本実施の形態では、成長部20の基板結晶は1000℃に維持される。
【0059】
基板結晶22を集中的に加熱することによって、基板結晶22にたどり着く前にAlNやGaNが析出してしまうことを防止し、効率的に基板結晶22上で結晶を成長させることができる。
【0060】
本実施の形態では、高周波加熱を採用したが、高周波加熱以外の加熱方法(例えば、光加熱・抵抗加熱)を採用してもかまわない。抵抗加熱の場合には、抵抗線を基板結晶22の十分に近傍に設けることによって、主に基板結晶22を加熱しつつ周囲のガスをあまり加熱しないことが実現可能である。また、光による加熱の場合は、石英反応チャンバーの外部から光を基板結晶22の表面に照射する構成を採用することも好ましい。このような構成によれば、光を通す石英や、周囲のガスの温度をほとんど上昇させずに、主に基板結晶22の温度を上昇させることが可能である。尚、光照射による炉は従来から知られており、ハロゲンランプやキセノンランプ等を光源とした炉が実用されている。
また、カーボンサセプタ24以外の支持部材を用いてもかまわない。
【0061】
また、基板結晶22としては、サファイア基板の他に、Si結晶も利用できる。
【0062】
特に、サファイア基板を用いた場合は、例えば、カーボンの薄い板の上にサファイア基板を設置してこのカーボン側から光を照射して加熱することが好ましい。サファイア基板の裏面にカーボンの薄い板を設置し、このカーボン側から光を照射することによって、カーボン薄板を通じてサファイア基板を加熱することが可能である。この結果、周囲のガスや反応領域の温度をほとんど上昇させずに容易にサファイア基板の温度のみを上昇させることが可能である。
【0063】
このようにしてAlGa1−xN結晶層を成長させた後、初期基板に用いたサファイア又はSi基板を除去することにより、厚膜のAlGaN基板を得ることができる。
【0064】
キャリアガス
本実施の形態におけるキャリアガスとしては、NやHe又はArガス等の不活性ガスに所定量のHを混合させたガスを用いた用いた。
【0065】
本実施の形態において特徴的なことは、このキャリアガス中のH濃度を後述する範囲に設定することによって、アルミニウム原料とガリウム原料の比率と、生成される結晶中のアルミニウムとガリウムの比率と、をよりリニアな(線形な)関係に置くことを可能としたことである。この結果、生成される結晶中の材料比率を所望の比率とすることが従来に比べて容易となる。
【0066】
すなわち、AlGa1−xNの「x」の値を所望の値に設定することがより容易となるのである。
【0067】
本願発明者らは、上記のような温度範囲を用いて、1時間から10時間の間、AlGa1−xNを結晶成長させることにより、基板結晶22(サファイア基板)上にAlGa1−xNの厚膜の結晶を成長させた。そして、得られたAlGa1−xNを結晶の組成を測定する実験を行った。
【0068】
この実験は、
・原料ガスの比率
・キャリアガス中の水素分圧
をそれぞれ変化させて行った。その実験の結果を表すグラフが、図2及び図3に示されている。
【0069】
図2のグラフ(水素分圧F=0の場合)
図2のグラフにおいては、キャリアガス中の水素分圧F=0の場合に、気相供給比R([AlCl]/{[AlCl]+[GaCl]})の値を変化させて、AlGa1−xNを結晶を成長させ、得られたAlGa1−xN結晶をXRD(X線解析装置)で検査した場合のX線回析パターンを示すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は、回析強度を表す(単位は任意である)。また、横軸は、角度(2θ(度))を表す。
【0070】
この図2のグラフにおいては、水素分圧F=0であるから、キャリアガスは全て不活性ガスである。F=0(不活性キャリアガス)という条件で、3種類の気相供給比RでAlGa1−xN結晶を成長させている。
【0071】
まず、気相供給比Rが0であるときは、アルミニウムの原料ガスがないことを意味し、得られた結晶の回析パターン(グラフ中実線)から、結晶は全てGaNであることがわかった。
【0072】
次に、気相供給比Rが0.25であるときは、アルミニウムの原料比率が0.25であることを意味する。得られた結晶の回析パターン(グラフ中破線)のピーク位置より、結晶はAl0.32Ga0.68Nという組成の混晶であることがわかった。
【0073】
また、気相供給比Rが0.50であるときは、アルミニウムの原料比率が0.5であることを意味する。得られた結晶の回析パターン(グラフ中一点鎖線)のピーク位置より、結晶はAl0.54Ga0.46Nという組成の混晶であることがわかった。
【0074】
このように、Rの増加に伴いピークが高角側へシフトしていき、AlNの固相組成比率xが大きくなっていく。
【0075】
図3のグラフ(水素分圧F=0、0.01、0.1、1の場合)
図3のグラフにおいては、キャリアガス中の水素分圧Fが、0、0.01、0.1、1のそれぞれの場合における、気相供給比Rと成長させた結晶の組成(具体的にはアルミニウムの固層組成比率であるx)との関係が示されている。このグラフにおいて、縦軸は、固層組成比率xを表し、横軸は、気相供給比Rを表す。
【0076】
このグラフにおいて、実線は理論上の計算値である。そして、各プロット●▲■▼は、実験による計測値である。
【0077】
このグラフにおいては、F=0の場合のグラフが●と●を通る実線で表されている。●で表されているグラフから、F=0の場合は、、気相供給比Rと、アルミニウムの固層組成比率xとが、ほぼリニアな関係(線形関係)にあることが理解されよう。
【0078】
また、このグラフにおいては、F=0.01の場合のグラフが▲と▲を通る実線で表されている。▲で表されているグラフから、F=0.01の場合は、気相供給比Rと、アルミニウムの固層組成比率xとは、ほぼリニアな関係(線形な関係)ではあるが、若干非線形性が表れている。
【0079】
すなわち、気相供給比Rの値の絶対値が小さい場合は、Rの変化による固層組成比率xの変化は比較的大きなものである。これに対して、気相供給比Rの値の絶対値が大きい場合は、Rの変化による固層組成比率xの変化は比較的小さくなり、非線形性が表れている。
【0080】
=0.1の場合は、この非線形性がやや顕著になってくる。図3において、F=0.1の場合のグラフが■と■を通る実線で表されている。■で表されているグラフから、F=0.1の場合は、気相供給比Rと、アルミニウムの固層組成比率xとは、Rの値がおよそ0.2の部分を境界として折れ曲がった形のグラフになっていることが理解されよう。このように、F=0.1の場合は、非線形性が顕著になり、気相供給比Rを調節して固層組成比率xを制御することが難しくなってくる。
【0081】
=1の場合は、グラフは顕著な非線形性が表れる。図3において、F=1の場合のグラフが▼と▼を通る実線で表されている。▼で表されているグラフから、F=1の場合は、気相供給比Rと、アルミニウムの固層組成比率xとは、Rの値がおよそ0.05の部分を境界として急激に折れ曲がった形のグラフになっていることが理解されよう。このように、F=0.1の場合は、非線形性が一層顕著になり、気相供給比Rを調節して固層組成比率xを制御することが難しくなってくる。特に、xを0.0〜0.8の間の所定の値に制御することは極めて困難であると考えられる。
【0082】
水素分圧
以上の結果から、結晶の組成比率の制御性の観点からは、水素分圧は0が望ましい。
【0083】
しかしながら、完全に0の場合は、不純物による悪影響が出てしまう場合もあるので、一般的な装置の精度、材料の品質等を考慮すれば水素分圧は、0以上0.01未満程度の値に保持しておくことが好ましい場合が多いと考えられる。
【0084】
また、装置の性能のばらつき、材料の品質如何によっては、水素分圧を0以上0.1未満の範囲に置いた方がよい場合もあろう。
【0085】
まとめ
以上述べたように、本実施の形態においては、キャリアガス中の水素分圧の値Fを所定の範囲に設定することによって、気相供給比Rと、生成された結晶の固層組成比率xとの関係をより線形なものとすることができた。
【0086】
その結果、本実施の形態によれば、成長させた結晶の固層組成比率xを所望の値に設定することが従来に比べてより容易となる。
【符号の説明】
【0087】
10 気相成長装置
12 アルミニウム原料供給部
12a 第1ガス導入路
14 ガリウム原料供給部
14a 第2ガス導入路
16 窒素原料供給部
16a 第3ガス導入路
18 混合部
20 成長部
20a 排気ポート
22 基板結晶
24 カーボンサセプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、
前記キャリアガス中の水素分圧を0atmに設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法。
【請求項2】
アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、
前記キャリアガス中の水素分圧を0atm以上0.01atm未満に設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法。
【請求項3】
アルミニウムの原料と、ガリウムの原料と、窒素の原料と、キャリアガスと、を混合したガス中に基板結晶を配置し、前記基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる方法において、
前記キャリアガス中の水素分圧を0atm以上0.1atm未満に設定することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長方法。
【請求項4】
請求項1又は2又は3記載のAlGaN結晶の成長方法において、
アルミニウム原料と、ガリウム原料の比率を変更することによって、AlGaN結晶中のAlとGaの組成比率を調整することを特徴とするるAlGaN結晶の気相成長方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の気相成長方法によって製造されたAlGaN結晶の厚膜基板
【請求項6】
基板結晶が配置されている成長部と、
アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、
ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、
窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、
を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、
前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atmである前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置。
【請求項7】
基板結晶が配置されている成長部と、
アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、
ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、
窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、
を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、
前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atm以上0.01atm未満である前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置。
【請求項8】
基板結晶が配置されている成長部と、
アルミニウムの原料をキャリアガスと共に成長部に供給するアルミニウム原料供給手段と、
ガリウムの原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給するガリウム原料供給手段と、
窒素の原料をキャリアガスと共に前記成長部に供給する窒素原料供給手段と、
を備え、前記成長部に配置された基板結晶上にAlGaNを結晶成長させる装置において、
前記アルミニウム原料供給手段、及び、前記ガリウム原料供給手段、及び、前記窒素原料供給手段は、そのキャリアガス中の水素分圧が0atm以上0.1atm未満である前記キャリアガスを使用することを特徴とするAlGaN結晶の気相成長装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の気相成長装置で製造したAlGaN結晶の厚膜基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28533(P2013−28533A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−236663(P2012−236663)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【分割の表示】特願2004−251810(P2004−251810)の分割
【原出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】