説明

III族窒化物半導体層の製造装置、III族窒化物半導体層の製造方法、III族窒化物半導体発光素子の製造方法、III族窒化物半導体発光素子及びランプ

【課題】優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる製造装置を提供する。
【解決手段】基板11上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造装置であって、チャンバ41と、チャンバ41内に配置されたIII族元素を含有するターゲット47と、ターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段51と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段52と、第1プラズマ発生手段51と第2プラズマ発生手段52とを制御して、チャンバ41内に第1プラズマと第2プラズマとを交互に発生させる制御手段とを備えるIII族窒化物半導体層の製造装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体層の製造装置、III族窒化物半導体層の製造方法、III族窒化物半導体発光素子の製造方法、III族窒化物半導体発光素子及びランプに関し、特に、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できるIII族窒化物半導体層の製造装置およびIII族窒化物半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化物化合物半導体結晶などからなるIII族窒化物半導体層を反応性スパッタリング法などのスパッタ法によって形成する製造装置や製造方法が検討されている。
従来の反応性スパッタリング法では、スパッタ装置のチャンバ内に配置されたGaやAlなどのIII族元素を含有するターゲットをスパッタするとともに、窒素など窒素元素を含む反応性ガスのプラズマを発生させて、III族元素と反応性ガスとを反応させてIII族窒化物半導体層を形成している。
【0003】
具体的には、例えば、Nガスを用いた高周波マグネトロンスパッタリングにより、Siの(100)面、及びサファイア(Al)の(0001)面上にGaN層を成膜する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【非特許文献1】牛玖 由紀子(Y.USHIKU)他、「21世紀連合シンポジウム論文集」、Vol.2nd、p295(2003)、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の反応性スパッタリング法では、成膜されたIII族窒化物半導体層の結晶性をより一層向上させることが要求されていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できるIII族窒化物半導体層の製造装置を提供することを目的とする。
また、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できるIII族窒化物半導体層の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法を用いるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法、及び本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子、及び本発明のIII族窒化物半導体発光素子が用いられてなるランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、ターゲットからスパッタされた原料粒子の量と、プラズマ中の窒素の量とに着目して、鋭意研究を重ねた。その結果、スパッタされた原料粒子の量と、プラズマ中の窒素の量とを精度良く制御することにより、成膜されるIII族窒化物半導体層の結晶性を向上させることができることを見出した。
しかしながら、従来の反応性スパッタリング法では、ターゲットをスパッタして生成されたターゲットに含まれる原料からなる原料粒子を含むプラズマと、反応性ガスのプラズマとが同時に基板に供給されるので、原料粒子の量やプラズマ中の反応性ガスの量を精度良く制御することは、困難であった。
【0007】
そこで本発明者は、さらに鋭意研究を重ね、原料粒子を基板に供給するプラズマと窒素元素を含むプラズマとを別々に基板に供給できるようにすることで、基板に供給される原料粒子の量およびプラズマ中の窒素の量を高精度で制御できるようにし、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造装置であって、チャンバと、前記チャンバ内に配置されたIII族元素を含有するターゲットと、前記ターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ発生手段と前記第2プラズマ発生手段とを制御して、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させる制御手段とを備えることを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造装置。
[2]前記第1プラズマ発生手段が、前記ターゲットにパワーを印加する手段と、前記チャンバ内に希ガスを供給する希ガス供給手段とを備え、前記第2プラズマ発生手段が、前記チャンバ内にプラズマを発生させる手段と、前記チャンバ内に窒素元素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給手段とを備えていることを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【0009】
[3]基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造装置であって、第1プラズマ領域と、前記第1プラズマ領域と遮蔽壁によって分離された第2プラズマ領域とが設けられたチャンバと、前記第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、前記第2プラズマ領域において窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記基板の前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域への移動と、前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域への移動とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給させる移動手段とを備えることを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造装置。
【0010】
[4]前記ターゲットが、AlまたはGaを含有するものであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
[5]前記第1プラズマ発生手段は、膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を形成するものであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
[6]前記第1プラズマ発生手段は、膜厚1原子層の薄膜を形成するものであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
[7]第2プラズマ発生手段が、誘導結合プラズマにより窒素元素を含む第2プラズマを発生させるものであることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【0011】
[8]基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造方法であって、III族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程とを有し、前記第1プラズマ発生工程と前記第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことにより、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させること特徴とするIII族窒化物半導体層の製造方法。
【0012】
[9]第1プラズマ領域と、前記第1プラズマ領域と遮蔽壁によって分離された第2プラズマ領域とが設けられたチャンバを備えるIII族窒化物半導体層の製造装置を用い、基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造方法であって、前記第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程を前記第1プラズマ領域内で行い、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程を前記第2プラズマ領域内で行い、前記第1プラズマ発生工程後に前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域へ前記基板を移動させる第1移動工程と、前記第2プラズマ発生工程後に前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域へ前記基板を移動させる第2移動工程とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給することを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造方法。
【0013】
[10]前記ターゲットが、AlまたはGaを含有するものであることを特徴とする[8]または[9]に記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
[11]前記第1プラズマ発生工程において、膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を形成するものであることを特徴とする[8]〜[10]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
[12]前記第1プラズマ発生工程において、膜厚1原子層の薄膜を形成するものであることを特徴とする[8]〜[10]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
【0014】
[13]基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、前記半導体層の少なくとも一部を、[8]〜[12]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[14]基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有し、前記基板と前記n型半導体層との間にIII族窒化物半導体からなるバッファ層を有するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、前記バッファ層を、[8]〜[12]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[15][13]または[14]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子。
[16][15]に記載のIII族窒化物半導体発光素子が用いられてなることを特徴とするランプ。
[17]基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有するIII族窒化物半導体発光素子であって、前記半導体層の少なくとも一部が、[8]〜[12]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成されたものであり、前記製造方法に起因する積層構造が形成されているものであることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
[18]基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有し、前記基板と前記n型半導体層との間にIII族窒化物半導体からなるバッファ層を有するIII族窒化物半導体発光素子であって、前記バッファ層が、[8]〜[12]のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成されたものであり、前記製造方法に起因する積層構造が形成されているものであることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明のIII族窒化物半導体層の製造装置は、ターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ発生手段と前記第2プラズマ発生手段とを制御して、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させる制御手段とを備えるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板に供給できる。したがって、本発明のIII族窒化物半導体層の製造装置によれば、基板に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0016】
本発明のIII族窒化物半導体層の製造装置は、第1プラズマ領域と、前記第1プラズマ領域と遮蔽壁によって分離された第2プラズマ領域とが設けられたチャンバと、前記第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、前記第2プラズマ領域において窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記基板の前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域への移動と、前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域への移動とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給させる移動手段とを備えるものであるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板に供給できる。したがって、このようなIII族窒化物半導体層の製造装置によれば、基板に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0017】
また、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法は、III族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程とを有し、前記第1プラズマ発生工程と前記第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことにより、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板に供給できる。したがって、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法によれば、基板に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0018】
また、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法は、第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程を前記第1プラズマ領域内で行い、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程を前記第2プラズマ領域内で行い、前記第1プラズマ発生工程後に前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域へ前記基板を移動させる第1移動工程と、前記第2プラズマ発生工程後に前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域へ前記基板を移動させる第2移動工程とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給するので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板に供給できる。したがって、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法によれば、基板に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0019】
また、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法は、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法を用いるので、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を備えたIII族窒化物半導体発光素子が得られる。
さらに、本発明のIII族窒化物半導体発光素子並びにランプは、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によって得られたものであるので、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を備えたものとなり、優れた発光特性を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るIII族窒化物半導体層の製造装置、III族窒化物半導体層の製造方法、III族窒化物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物半導体発光素子、並びにランプの一実施形態について、図面を適宜参照して説明する。
【0021】
[スパッタ装置(III族窒化物半導体層の製造装置)]
図1は、本発明に係るIII族窒化物半導体層の製造装置の一例であるスパッタ装置を模式的に示した概略図である。図1に示すスパッタ装置40は、AlInGaN、AlN、GaNなどからなるIII族窒化物半導体層を形成するためのものである。スパッタ装置40は、図1に示すように、チャンバ41と、チャンバ41内に設置されたターゲット47と、ターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段51と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段52とを有している。
【0022】
また、図1に示すスパッタ装置40は、第1プラズマ発生手段51と第2プラズマ発生手段52とを制御する制御手段(図示略)を有している。そして、図1に示すスパッタ装置40では、第1プラズマ発生手段51および第2プラズマ発生手段52を制御手段に制御させることより、第1プラズマと第2プラズマとを交互に発生させ、チャンバ41内に第1プラズマと第2プラズマとが交互に供給されるようになっている。
【0023】
第1プラズマ発生手段51は、ターゲット47に所定のパワーを印加するための電源48bと、チャンバ41内にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給手段42bとを備えている。ターゲット47に印加されるパワー(印加電力)は、電源48bに制御させることによって調整可能とされている。また、電源48bおよびアルゴンガス供給手段42bは,制御手段によって制御されている。
【0024】
また、第1プラズマ発生手段51は、ターゲット47を形成している材料からなる膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を基板上に形成するものであることが好ましい。膜厚が0.2nm未満であると、基板11もしくは成長中のIII族窒化物半導体層の全面を均一に覆うことができなくなり、面内の結晶性分布が生じてしまう場合がある。また、膜厚が2nmを超えると、表面のみで反応が起こり、厚さ方向の均一性が得られない。
また、第1プラズマ発生手段51は、ターゲット47を形成している材料からなる膜厚1原子層の薄膜を形成するものであってもよい。
【0025】
また、第2プラズマ発生手段52は、基板11を加熱するためのヒータ44と、ヒータ44および基板11に導電接続された電源48aと、チャンバ41内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段42a(原料ガス供給手段)とを備えている。ヒータ44に供給されるパワー(印加電力)は、電源48aに制御させることによって調整可能とされている。
また、電源48aおよび窒素ガス供給手段42bは、制御手段(図示略)によって制御されている。
【0026】
ターゲット47は、GaやAlなど成膜されるIII族窒化物半導体層に対応するIII族元素を含有するものである。また、ターゲット47は、必要に応じてSiやMgなどのドーパント元素が含まれていてもよいし、ターゲット47上にドーパント元素からなるドーパント用ターゲット片を配置してもよい。
【0027】
また、図1に示すスパッタ装置40には、ポンプなどからなる圧力制御手段49が設けられており、チャンバ41内の圧力を所定の圧力に制御できるようになっている。
【0028】
また、本実施形態では、電源48a、48bより供給されるパワー(印加電力)が、パルスDC方式またはRF(高周波)方式により印加されるようになっている。また、ターゲット47にDC方式で連続して電場をかけた状態にすると、ターゲット47がチャージアップしてしまい、放電が不安定になるので、パルス的に電力を印加するパルスDC方式とすることが好ましい。
【0029】
[III族窒化物半導体層の製造方法]
図1に示すスパッタ装置40を用いて基板11上にIII族窒化物半導体層を成膜する場合、制御手段(供給手段)(図示略)に、第1プラズマ発生手段51および第2プラズマ発生手段52を制御させることにより、ターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11上に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程とを交互に行なって、チャンバ41内に第1プラズマと第2プラズマとを交互に供給する。
【0030】
また、本実施形態の製造方法は、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程との間に、チャンバ41内の雰囲気を第2プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする第1−第2ガス入れ替え工程を備えるとともに、第2プラズマ発生工程と第1プラズマ発生工程との間に、チャンバ41内の雰囲気を第1プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする第2−第1ガス入れ替え工程を備えている。
【0031】
また、本実施形態においては、第1プラズマ発生工程を行なう前に、チャンバ41内の雰囲気を第1プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする前処理工程を行なう。前処理工程は、アルゴンガス供給手段42bを用いてチャンバ41内にアルゴンガスを供給することによって行なわれる。
【0032】
前処理工程の後、アルゴンガス供給手段42bと圧力制御手段49とによってチャンバ41内を所定の圧力のアルゴン雰囲気とするとともに、電源48bからターゲット47に所定のパワーを印加することにより、原料粒子を基板11上に供給する第1プラズマを発生させる(第1プラズマ発生工程)。第1プラズマ発生工程により、ターゲット47からチャンバ41内の気相中にIII族元素の粒子などのターゲット47を形成している材料からなる原料粒子が飛び出し、基板11の表面にぶつかるように供給されて堆積され、基板11上にターゲット47を形成している材料からなる薄膜が成膜される。
【0033】
第1プラズマ発生工程におけるチャンバ41内の圧力は、0.1〜10Paとすることが好ましい。チャンバ41内の圧力が0.1Pa未満であったり10Paを超えたりすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが得られない場合がある。
また、ターゲット47に印加するパワーは0.1W/cm〜100W/cmの範囲とすることが好ましく、1W/cm〜50W/cmの範囲とすることがより好ましい。ターゲット47に印加するパワーを0.1W/cm未満とすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが形成できない場合がある。また、ターゲット47に印加するパワーが100W/cmを超えると、スパッタされた原料粒子のエネルギーが大きくなり、結晶にダメージを与えてしまう。
【0034】
第1プラズマ発生工程において成膜される、ターゲット47を形成している材料からなる薄膜は、膜厚が0.2nm〜2nmであることが好ましく、膜厚が1原子層であることがより好ましい。
【0035】
第1プラズマ発生工程が終了すると、第2プラズマ発生工程を開始するために、チャンバ41内のガスを入れ替えて第2プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする(第1−第2ガス入れ替え工程)。第1−第2ガス入れ替え工程では、第1プラズマ発生工程が終了すると同時に、アルゴンガス供給手段42bによるアルゴンガスの供給を停止し、窒素ガス供給手段42aによるチャンバ41内への窒素ガスの供給を開始する。また、第1プラズマ発生工程が終了すると同時に、ターゲット47へのパワーを停止し、電源48aから基板11側へのパワーの印加を開始する。
【0036】
本実施形態では、活性ガスとして窒素ガス用いたが、窒素ガスに代えて一般に知られている窒化物原料を何ら制限されることなく用いることができる。なお、活性ガスとしては、取り扱いが簡単で、比較的安価で入手可能であるアンモニアや窒素を用いることが好ましい。アンモニアは分解効率が良好であり、高い成長速度で成膜することが可能であり、好ましいが、反応性が高いため、反応装置に使用する部材の材料を化学的に安定性の高いものにする必要があり、装置コストがかかる。したがって、装置コストとの兼ね合いを考えると、活性ガスとして窒素(N)を用いることが最も好ましい。
【0037】
第1−第2ガス入れ替え工程におけるチャンバ41内の圧力および電源48aから基板11側へのパワーは、チャンバ41内のプラズマを消失させないように以下の範囲内となるように調整されることが好ましい。
具体的には、第1−第2ガス入れ替え工程におけるチャンバ41内の圧力は、0.1〜10Paとすることが好ましい。チャンバ41内の圧力が0.1Pa未満であったり10Paを超えたりすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが得られない場合がある。
【0038】
第1−第2ガス入れ替え工程における電源48aから基板11側へのパワーは、10W〜100Wの範囲とすることが好ましい。第1−第2ガス入れ替え工程における基板11側への電源48aのパワーを10W未満とすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが形成できない場合がある。また、第1−第2ガス入れ替え工程における基板11側への電源48aのパワーが100Wを超えると、Arプラズマによる基板11上のIII族窒化物半導体層へのダメージが大きくなり、結晶性の低下を引き起こす場合がある。
また、第1−第2ガス入れ替え工程の時間は、0.1secから10secとされることが好ましい。放電時間が0.1sec未満であると、チャンバ41内のガスの入れ替えが不完全となる場合がある。また、放電時間が10secを超えると、Arプラズマによる基板11上のIII族窒化物半導体層へのダメージが大きくなり、結晶性の低下を引き起こす。
【0039】
その後、窒素ガス供給手段42aと圧力制御手段49とによってチャンバ41内を所定の圧力の窒素雰囲気とするとともに、電源48aから基板11側へ所定のパワーを印加することにより第2プラズマ発生工程を行なう。第2プラズマ発生工程により、窒素元素を含む第2プラズマが発生されて基板11上に供給され、第1プラズマ発生工程において基板11の表面に形成された薄膜を構成するターゲット47の形成材料が窒化されて、窒化物とされる。
【0040】
第2プラズマ発生工程におけるチャンバ41内の圧力は、0.1〜10Paとすることが好ましい。チャンバ41内の圧力が0.1Pa未満であったり10Paを超えたりすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが得られない場合がある。
【0041】
また、第2プラズマ発生工程における電源48aから基板11側へのパワーは10W〜10kWの範囲とすることが好ましく、50W〜5kWの範囲とすることがより好ましい。第2プラズマ発生工程における電源48aから基板11側へのパワーを10W未満とすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが得られない場合がある。また、第2プラズマ発生工程における電源48aから基板11側へのパワーが10kWを超えると、プラズマのエネルギーが大きくなり、基板やチャンバ41内のスパッタを起こしてしまう。
【0042】
第2プラズマ発生工程が終了すると、再び第1プラズマ発生工程を開始するために、チャンバ41内のガスを入れ替えて、第1プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする(第2−第1ガス入れ替え工程)。第2−第1ガス入れ替え工程では、第2プラズマ発生工程が終了すると同時に、窒素ガス供給手段42aによるチャンバ41内への窒素ガスの供給を停止し、アルゴンガス供給手段42bによるアルゴンガスの供給を開始する。また、第2−第1ガス入れ替え工程では、電源48aから基板11側へのパワーの印加を停止せず、所定のパワーで継続する。
【0043】
第2−第1ガス入れ替え工程におけるチャンバ41内の圧力および電源48aから基板11側へのパワーは、チャンバ41内のプラズマを消失させないように以下の範囲内となるように調整されることが好ましい。
具体的には、第2−第1ガス入れ替え工程におけるチャンバ41内の圧力は、0.1〜10Paとすることが好ましい。チャンバ41内の圧力が0.1Pa未満であったり10Paを超えたりすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが形成できない場合がある。
【0044】
第2−第1ガス入れ替え工程における電源48aから基板11側へのパワーは、10W〜100Wの範囲とすることが好ましい。第2−第1ガス入れ替え工程における基板11側へのパワーを10W未満とすると、放電が不安定となり、安定したプラズマが形成できない場合がある。また、第2−第1ガス入れ替え工程における基板11側へのパワーが100Wを超えると、Arプラズマによる基板11上のIII族窒化物半導体層へのダメージが大きくなり、結晶性の低下を引き起こす。
また、第2−第1ガス入れ替え工程の時間は、0.1secから10secとされることが好ましい。放電時間が0.1sec未満であると、チャンバ41内のガスの入れ替えが不完全となる場合がある。また、放電時間が10secを超えると、Arプラズマによる基板11上のIII族窒化物半導体層へのダメージが大きくなり、結晶性の低下を引き起こす。
【0045】
そして、第2−第1ガス入れ替え工程を終了した後、アルゴンガス供給手段42bと圧力制御手段49とによってチャンバ41内を所定の圧力のアルゴン雰囲気とするとともに、電源48aから基板11側へのパワーの印加を停止して、電源48bからターゲット47への所定のパワーの印加を開始することにより、上記と同様にIII族元素を含む第1プラズマを発生させる(第1プラズマ発生工程)。
【0046】
このように本実施形態では、前処理工程から始まり、第1プラズマ発生工程、第1−第2ガス入れ替え工程、第2プラズマ発生工程、第2−第1ガス入れ替え工程の順で、第1プラズマ発生工程から第2−第1ガス入れ替え工程までの各工程を所定の回数繰り返し、最後に第2−第1ガス入れ替え工程を行なわずに第2プラズマ発生工程まで行ない、基板11の表面への所定の膜厚のIII族窒化物半導体層の形成を終了する。
また、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成されるIII族窒化物半導体層の成膜速度は、5nm/min〜300nm/minとされることが好ましい。成膜速度が5nm/min未満であると、III族金属とチャンバ41内に残留している酸素との反応に影響を及ぼし、III族窒化物半導体の結晶性が低下する。また、成膜速度が300nm/minを超えると、基板11にスパッタされたIII族金属がマイグレーションする時間が十分ではなくなり、結晶性が低下する。
【0047】
本実施形態のスパッタ装置40は、ターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段とを有し、第1プラズマ発生手段と第2プラズマ発生手段とを制御する制御手段により、チャンバ41内に第1プラズマと第2プラズマとを交互に供給するものであるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板11に供給できる。したがって、基板11に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0048】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法は、III族元素を含有するターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程と、窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程とを有し、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことにより、チャンバ41内に第1プラズマと第2プラズマとを交互に供給する方法であるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板11に供給できる。したがって、基板11に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0049】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法は、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程との間に第1−第2ガス入れ替え工程を備えるとともに、第2プラズマ発生工程と第1プラズマ発生工程との間に第2−第1ガス入れ替え工程を備え、第1−第2ガス入れ替え工程では、第1プラズマ発生工程が終了すると同時にアルゴンガスの供給を停止して窒素ガスの供給を開始するとともに、ターゲット47へのパワーを停止して基板11側へのパワーの印加を開始し、第2−第1ガス入れ替え工程では、第2プラズマ発生工程が終了すると同時に窒素ガスの供給を停止してアルゴンガスの供給を開始し、基板11側へのパワーの印加を継続するので、以下に示すように、基板11上に形成されるIII族窒化物半導体層の膜厚を高精度で制御できる。
【0050】
すなわち、本実施形態では、第1−第2ガス入れ替え工程においても第2−第1ガス入れ替え工程においても、ターゲット47へのパワーが停止された状態となる。このため、第1−第2ガス入れ替え工程中および第2−第1ガス入れ替え工程中に、ターゲット47を形成している材料からなる粒子がチャンバ41内の気相中に供給されることが防止される。したがって、第1プラズマ発生工程以外の工程において、ターゲット47を形成している材料からなる薄膜が成膜されることを防止でき、基板11上に形成されるIII族窒化物半導体層の膜厚を高精度で制御できる。
また、本実施形態では、第1プラズマ発生工程の開始時にチャンバ41内の雰囲気が第1プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とされているので、第1プラズマ発生工程の開始時における成膜速度のばらつきが少なくなり、基板11上に形成されるIII族窒化物半導体層の膜厚を高精度で制御できる。
【0051】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法では、窒素ガスの供給時には、ターゲット47へのパワーの供給が停止された状態となっている。このため、ターゲット47上での窒素プラズマとIII族元素との反応を防ぐことができ、ターゲット47を常に一定の状態に保つことができる。
【0052】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法における第1−第2ガス入れ替え工程では、第1プラズマ発生工程が終了すると同時にターゲット47へのパワーを停止して基板11側へのパワーの印加を開始し、第2−第1ガス入れ替え工程では、基板11側へのパワーの印加を継続するので、ターゲット47へのパワーと基板11側へのパワーとが同時に停止された時間はなく、第1−第2ガス入れ替え工程中および第2−第1ガス入れ替え工程中にチャンバ41内のプラズマが消失することのないようにしている。このため、ターゲット47もしくは基板11にパワーを印加した瞬間にプラズマを生成することができる。
【0053】
[スパッタ装置の他の例]
図2は、本発明に係るIII族窒化物半導体層の製造装置の他の例であるスパッタ装置を模式的に示した概略図であって、図2(a)はスパッタ装置の概略斜視図であり、図2(b)は図2(a)に示すスパッタ装置におけるターゲット47と基板11との配置関係を説明するための図である。なお、図2に示すスパッタ装置50において、図1に示すスパッタ装置40と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、図2(a)においては、図面を見やすくするために、回転冶具(移動手段)43を省略して示している。
【0054】
図2に示すスパッタ装置50は、図1に示すスパッタ装置40と同様に、AlInGaN、AlN、GaNなどからなるIII族窒化物半導体層を形成するためのものである。
このスパッタ装置50では、チャンバ60は、図2(a)に示すように、2つのターゲットチャンバ(第1プラズマ領域)61と2つの窒素チャンバ(第2プラズマ領域)62とを有している。ターゲットチャンバ61は、原料粒子を基板11上に供給する第1プラズマP1を発生させるための領域であり、窒素チャンバ62は、第2プラズマP2を発生させるための領域である。
【0055】
また、図2(a)に示すように、チャンバ60内には、4枚の仕切り板(遮蔽壁)45が平面視十字状に配置されており、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62とが、仕切り板45によって分離されている。そして、ターゲットチャンバ61および窒素チャンバ62のそれぞれは、2つの仕切り板45と円弧状の外壁60aとに囲まれた平面視略扇形の領域とされている。また、各ターゲットチャンバ61は、仕切り板45を介して窒素チャンバ62に隣接して配置されており、各窒素チャンバ62は、仕切り板45を介してターゲットチャンバ61と隣接して配置されている。
【0056】
また、図2に示すスパッタ装置50のターゲットチャンバ61内には、ターゲット47が設置されている。ターゲット47は、図2(a)および図2(b)に示すように、回転冶具43に支持された基板11と対向するように配置されている。回転冶具43は、図2(b)に示すように、仕切り板45の上端45bよりも上方に設けられており、仕切り板45の上端45bよりも上方の位置で基板11を下向きに支持するものである。また、回転冶具43は、基板11を支持した状態で、平面視十字状の4枚の仕切り板45の接合部45aを中心軸として回転するものであり、基板11のターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動と、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動とを行なうものである。
【0057】
本実施形態においては、図2(a)に示すように、チャンバ60内に4枚の基板11が配置されており、ターゲットチャンバ61および窒素チャンバ62のそれぞれに1枚ずつ基板11が設置されている。また、本実施形態では、回転冶具43は、基板11を個別に加熱するためのヒータとしての機能を兼ねるものとされている。
【0058】
また、スパッタ装置50には、ターゲットチャンバ61でターゲット47をスパッタして、ターゲット47に含まれる原料からなる原料粒子を基板11上に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段63と、窒素チャンバ62で窒素元素を含む第2プラズマP2を発生させる第2プラズマ発生手段64が備えられている。そして、図2に示すスパッタ装置50では、回転冶具43を回転させて、基板11をターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62へ移動させ、その後、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61へ移動させることによって、基板11上に原料粒子と窒素元素とが交互に供給されるようになっている。
【0059】
第1プラズマ発生手段63は、各ターゲットチャンバ61に配置されたターゲット47に個別に所定のパワーを印加するための電源48dと、各ターゲットチャンバ61内に個別にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給手段(図示略)とを備えている。ターゲット47に印加されるパワー(印加電力)は、電源48dに制御させることによって調整可能とされている。また、電源48dおよびアルゴンガス供給手段は、制御手段(図示略)によって制御されている。
【0060】
第1プラズマ発生手段63は、図1に示すスパッタ装置40と同様に、ターゲット47を形成している材料からなる膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を形成するものであることが好ましく、ターゲット47を形成している材料からなる膜厚1原子層の薄膜を形成するものであってもよい。
【0061】
また、第2プラズマ発生手段64は、基板11を個別に加熱するヒータを兼ねる回転冶具43に導電接続された電源48cと、各窒素チャンバ62内に個別に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段(図示略)とを備えている。回転冶具43に供給されるパワー(印加電力)は、電源48cに制御させることによって調整可能とされている。また、電源48cおよび窒素ガス供給手段は、制御手段(図示略)によって制御されている。
【0062】
また、図2に示すスパッタ装置50においては、図1に示すスパッタ装置40と同様のポンプなどからなる圧力制御手段(図示略)が、各ターゲットチャンバ61および各窒素チャンバ62に個別に設けられており、ターゲットチャンバ61内および窒素チャンバ62内の圧力を個別に所定の圧力に制御できるようになっている。
また、本実施形態では、図1に示すスパッタ装置40と同様に、電源48c、48dより供給されるパワー(印加電力)が、パルスDC方式またはRF(高周波)方式により印加されるようになっている。
【0063】
[III族窒化物半導体層の製造方法]
次に、図2に示すスパッタ装置50を用いて基板11上にIII族窒化物半導体層を成膜する方法について説明する。本実施形態では、回転冶具43を回転させることによって、各基板11においてターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動(第1移動工程)と、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動(第2移動工程)とが交互に繰り返される。このことにより、個々の基板11に対して、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とが交互に行なわれ、個々の基板11上に原料粒子と窒素元素とが交互に供給される。
【0064】
本実施形態においては、回転冶具43を一定速度で回転させながら、ターゲットチャンバ61において第1プラズマ発生を連続して行なうとともに、窒素チャンバ62において第2プラズマ発生を連続して行なうことで、個々の基板11に対して、所定の第1プラズマ発生工程と所定の第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことができるようになっている。したがって、本実施形態においては、最初の第1プラズマ発生工程時と最後の第2プラズマ発生工程時とを除いて、ターゲットチャンバ61内では常時連続して第1プラズマ発生工程が行われ、窒素チャンバ62内では連続して第2プラズマ発生工程が行なわれる。
【0065】
なお、本実施形態においては、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62との面積が略同じであるので、回転冶具43を一定速度で回転させながら、所定の第1プラズマ発生工程および第2プラズマ発生工程を行なうことができるように、第1プラズマ発生工程および第2プラズマ発生工程の進行速度を、第1プラズマ発生手段63および第2プラズマ発生手段64によって調整して、基板11がターゲットチャンバ61に滞在する時間と、基板11が窒素チャンバ62に滞在する時間とを同じとしている。
【0066】
なお、第1プラズマ発生工程および第2プラズマ発生工程の進行速度の調整に変えて、または進行速度の調整とともに、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62の面積を調整することによりターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62の滞在時間を調整して、回転冶具43を一定速度で回転できるように調整してもよい。
また、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62との面積が略同じであって、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62のいずれか一方のみに基板11が配置されている場合には、ターゲットチャンバ61に基板11が滞在する時間と、窒素チャンバ62に基板11が滞在する時間とを異ならせ、回転冶具43の回転速度を一定の周期で変化させることにより、所定の第1プラズマ発生工程および第2プラズマ発生工程を行なっても良い。
【0067】
本実施形態においては、まず、図2(a)に示すように、回転冶具43によって4枚の基板11を支持させる。そして、最初の第1プラズマ発生工程を行なう前に、各ターゲットチャンバ61内の雰囲気を第1プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする第1前処理工程を行なう。第1前処理工程は、アルゴンガス供給手段を用いてターゲットチャンバ61内にアルゴンガスを供給することによって行なうことができる。その後、図1に示すスパッタ装置40を用いる場合と同様にして、ターゲットチャンバ61内で第1プラズマ発生工程を行なう。
【0068】
また、最初の第1プラズマ発生工程を行なっている間に、各窒素チャンバ62内の雰囲気を第2プラズマ発生工程のためのガス雰囲気とする第2前処理工程を行なう。第2前処理工程は、窒素ガス供給手段を用いて窒素チャンバ62内に窒素ガスを供給することによって行なうことができる。
【0069】
そして、最初の第1プラズマ発生工程が終了すると、回転冶具43を所定の回転速度で回転させる。このことにより、ターゲットチャンバ61内に配置されていた基板11が、ターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62へ移動され(第1移動工程)、図1に示すスパッタ装置40を用いる場合と同様にして、窒素チャンバ62内で最初の第2プラズマ発生工程が行なわれる。
なお、最初の第1プラズマ発生工程においてターゲットチャンバ61内に配置されていた基板11が、ターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62へ移動すると同時に、最初の第1プラズマ発生工程を行なっている間に窒素チャンバ62に配置されていた基板11が、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61へ移動され、ターゲットチャンバ61内での第1プラズマ発生工程が開始される。
【0070】
そして、最初の第2プラズマ発生工程が終了すると、回転冶具43を所定の回転速度で回転させる。このことにより、窒素チャンバ62内に配置されていた基板11が、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61へ移動される(第2移動工程)。
その後、回転冶具43を所定の回数、所定の回転速度で回転させて、第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを所定の回数繰り返し、基板11の表面への所定の膜厚のIII族窒化物半導体層の形成を終了する。
【0071】
本実施形態のスパッタ装置50は、ターゲットチャンバ61と窒素チャンバ62とが設けられたチャンバ60と、ターゲットチャンバ61内に配置されたターゲット47をスパッタして原料粒子を基板11に供給する第1プラズマP1を発生させる第1プラズマ発生手段63と、窒素元素を含む第2プラズマP2を発生させる第2プラズマ発生手段64と、基板11のターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動と窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動とを行なうことにより、原料粒子と窒素元素とを基板11上に交互に供給させる回転冶具43とを有しているので、回転冶具43により基板11を移動させることで、原料粒子と窒素元素とを別々に基板11に供給でき、基板11に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0072】
また、本実施形態のスパッタ装置50においては、チャンバ60が、ターゲット47の配置されたターゲットチャンバ61と、ターゲットチャンバ61と遮蔽壁によって分離され、第2プラズマP2を発生させるための窒素チャンバ62とを有するものであるので、第2プラズマP2とターゲット47との接触が防がれる。よって、本実施形態のスパッタ装置50によれば、ターゲット47の表面に窒化物の被膜が形成されることに起因する問題が生じにくく、所定の膜厚で優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層の結晶を形成できる。
【0073】
これに対し、従来の反応性スパッタリング法では、スパッタ装置のチャンバ内に配置されたGaやAlなどのIII族元素を含有するターゲットをスパッタすることによりプラズマを発生させるとともに、窒素など窒素元素を含む反応性ガスのプラズマを発生させ、III族元素と反応性ガスとを反応させてIII族窒化物半導体層を形成していた。したがって、従来の反応性スパッタリング法では、ターゲットの配置されているチャンバ内で反応性ガスのプラズマを発生させていることになる。このため、従来の反応性スパッタリング法では、窒素元素を含む反応性ガスのプラズマの一部がターゲットの表面と反応して、ターゲットの表面に窒化物の被膜が形成される。
【0074】
ターゲットの表面に窒化物の被膜が形成されると、スパッタレートが変化するので形成されるIII族窒化物半導体層の膜厚の制御が困難となるし、ターゲットの表面に存在する窒化物の被膜がスパッタされる現象によって基板上に優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層の結晶が形成できない場合があるため問題となっていた。この問題は、特に、長時間連続してIII族窒化物半導体層を成膜する場合に顕著であった。
【0075】
また、本実施形態のスパッタ装置50においては、基板11のターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動と、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動とを行なう回転冶具43を備えているので、ターゲットチャンバ61で第1プラズマ発生工程を行なった後、容易に窒素チャンバ62で第2プラズマ発生工程を行なうことができるし、窒素チャンバ62で第2プラズマ発生工程を行なった後、容易にターゲットチャンバ61で第1プラズマ発生工程を行なうことができる。
【0076】
なお、本実施形態では、基板11のターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動と、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動とを行なう回転冶具43を設けたものとしたが、回転冶具43に代えて、仕切り板45の接合部45aを中心軸としてチャンバ60を回転させる回転冶具を備えることにより、基板11を固定したまま、ターゲットチャンバを窒素チャンバに移動させるとともに、窒素チャンバをターゲットチャンバに移動させるものとしてもよい。この場合であっても、本実施形態と同様に、ターゲットチャンバ61で第1プラズマ発生工程を行なった後、容易に窒素チャンバ62で第2プラズマ発生工程を行なうことができるし、窒素チャンバ62で第2プラズマ発生工程を行なった後、容易にターゲットチャンバ61で第1プラズマ発生工程を行なうことができる。
【0077】
また、本実施形態のスパッタ装置50においては、回転冶具43により、基板11のターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62への移動と、窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61への移動とを行なうので、ターゲットチャンバ61および窒素チャンバ62内の設定条件を変更することなく、連続して第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことができる。したがって、第1プラズマ発生工程から第2プラズマ発生工程または第2プラズマ発生工程から第1プラズマ発生工程にする度に、ターゲットチャンバ61および窒素チャンバ62内の設定条件を設定しなおす必要はなく、設定条件を設定しなおすことによる誤差がなく、基板11に供給される第1プラズマP1および第2プラズマP2の量を容易に精度良く制御できるとともに、効率よく生産できる。
【0078】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体層の製造方法は、III族元素を含有するターゲットをスパッタしてターゲット47に含まれる原料からなる原料粒子を基板11に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程をターゲットチャンバ61内で行い、窒素元素を含む第2プラズマP2を発生させる第2プラズマ発生工程を窒素チャンバ62内で行う方法であって、第1プラズマ発生工程後にターゲットチャンバ61から窒素チャンバ62へ基板11を移動させる第1移動工程と、第2プラズマ発生工程後に窒素チャンバ62からターゲットチャンバ61へ基板11を移動させる第2移動工程とを行なうことにより、原料粒子と窒素元素とを基板11上に交互に供給する方法であるので、原料粒子と窒素元素とを別々に基板11に供給できる。したがって、基板11に供給される原料粒子と窒素元素の量を容易に精度良く制御でき、優れた結晶性を有するIII族窒化物半導体層を形成できる。
【0079】
また、本実施形態の製造方法では、回転冶具43に4枚の基板11を支持させて、最初の第1プラズマ発生工程時と最後の第2プラズマ発生工程時とを除き、ターゲットチャンバ61では連続して第1プラズマ発生工程を行い、窒素チャンバ62では連続して第2プラズマ発生工程を行なうことにより、4枚の基板11上に平行してIII族窒化物半導体層を形成できるので、非常に効率よく4枚の基板11上に品質のばらつきの少ないIII族窒化物半導体層を形成できる。
また、上記のいずれかの実施形態の製造方法により得られたIII族窒化物半導体層の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察すると、多数の層が積み重なったように縞模様が観察される。このような縞模様の積層構造が観察される理由は、上記の製造方法において第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことに起因する不純物濃度や組成などの変動によるものと考えられる。このような縞模様の積層構造は、現在の技術では、透過型電子顕微鏡(TEM)により3〜100nm間隔で観察されるが、実際には、第1プラズマ発生工程において形成される薄膜の膜厚に対応する間隔で、多数の薄膜層が積層されてなる積層構造が形成されていると推定される。そして、上述した実施形態によれば、このような積層構造が形成されることにより、結晶歪が緩和されるという効果が得られる。
【0080】
また、本発明のIII族窒化物半導体層の製造装置は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、第2プラズマ発生手段は、誘導結合プラズマ(ICP)により窒素元素を含む第2プラズマを発生させるものであってもよい。
【0081】
次に、本発明のIII族窒化物半導体発光素子(以下、発光素子と略称することがある)およびその製造方法について説明する。
[III族窒化物半導体発光素子]
図3は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の一例を模式的に示した概略断面図である。また、図4は、図3に示すIII族窒化物半導体発光素子の平面構造を示す概略図である。
本実施形態の発光素子1は、図3に示すように、一面電極型のものであり、基板11上に、バッファ層12と、III族元素としてGaを含有するIII族窒化物半導体からなる半導体層20とが形成されているものである。半導体層20は、図3に示すように、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16の各層がこの順で積層されてなるものである。
【0082】
[発光素子の積層構造]<基板>
本実施形態の発光素子1において、基板11に用いることができる材料としては、III族窒化物半導体結晶が表面にエピタキシャル成長される基板材料であれば、特に限定されず、各種材料を選択して用いることができる。例えば、サファイア、SiC、シリコン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン亜鉛鉄、酸化マグネシウムアルミニウム、ホウ化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化リチウムガリウム、酸化リチウムアルミニウム、酸化ネオジウムガリウム、酸化ランタンストロンチウムアルミニウムタンタル、酸化ストロンチウムチタン、酸化チタン、ハフニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられる。
【0083】
<バッファ層>
本実施形態の発光素子1においては、基板11上に、六方晶系の結晶構造を持つバッファ層12が成膜されている。
バッファ層12をなすIII族窒化物半導体の結晶は、単結晶構造を有するものであることが好ましい。III族窒化物半導体の結晶は、成長条件を制御することにより、上方向だけでなく、面内方向にも成長して単結晶構造を形成する。このため、バッファ層12の成膜条件を制御することにより、単結晶構造のIII族窒化物半導体の結晶からなるバッファ層12とすることができる。
このような単結晶構造を有するバッファ層12を基板11上に成膜した場合、バッファ層12のバッファ機能が有効に作用するため、その上に成膜されたIII族窒化物半導体は良好な配向性及び結晶性を有する結晶膜となる。
【0084】
また、バッファ層12をなすIII族窒化物半導体の結晶は、成膜条件をコントロールすることにより、六角柱を基本とした集合組織からなる柱状結晶(多結晶)とすることも可能である。なお、ここでの集合組織からなる柱状結晶とは、隣接する結晶粒との間に結晶粒界を形成して隔てられており、それ自体は縦断面形状として柱状になっている結晶のことをいう。
【0085】
さらに、バッファ層12は、柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が、0.1〜100nmの範囲とされていることが、バッファ機能の面から好ましく、1〜70nmの範囲とされていることがより好ましい。ここで、グレインの幅とは、バッファ層12が柱状グレインの集合体である場合は、結晶の界面と界面の距離のことをいう。一方、グレインが島状に点在する場合には、グレインの幅とは、結晶グレインが基板面に接する面の最も大きい部分のさし渡しの長さを言う。III族窒化物半導体の結晶層の結晶性を良好にするためには、柱状結晶の各々の結晶のグレインの幅を適正に制御する必要があり、具体的には、上記範囲とすることが好ましい。また、結晶のグレインは、略柱状の形状をしていることが好ましく、バッファ層12は、柱状のグレインが集合して層を成していることが望ましい。
【0086】
各柱状結晶のグレインの幅は、断面TEM観察などにより容易に測定することが可能である。なお、各柱状結晶の幅は精密に規定できるものではなく、ある程度の幅の分布を有する。従って、各柱状結晶のグレインの幅が、上記範囲から外れる結晶が例えば数%程度あったとしても、本発明の効果に影響を及ぼすものではない。また、各柱状結晶のグレインの幅は、90%以上が上記範囲に入っていることが好ましい。
【0087】
また、バッファ層12は、Alを含有する組成とされていることが好ましく、AlNからなる組成とされていることがより好ましい。
なお、バッファ層12を構成する材料としては、一般式AlGaInNで表されるIII族窒化物半導体であれば、どのような材料でも用いることができる。さらに、V族として、AsやPが含有される構成としても良い。また、バッファ層12を、Alを含んだ組成とした場合、GaAlNとすることが好ましく、この際、Alの組成が50%以上とされていることが好ましい。
【0088】
また、バッファ層12の膜厚は、10〜500nmの範囲とされていることが好ましく、20〜100nmの範囲とされていることがより好ましい。
バッファ層12の膜厚が10nm未満だと、上述したようなバッファ機能が充分でなくなる。また、500nmを超える膜厚でバッファ層12を形成した場合、コート層としての機能には変化が無いのにも関わらず、成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する虞がある。なお、バッファ層12の膜厚についても、上述したような断面TEM写真により、容易に測定することが可能である。
【0089】
<半導体層>
図3に示すように、半導体層20は、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16を備えている。
「n型半導体層」
n型半導体層14は、バッファ層12上に積層され、下地層14a、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cから構成されている。なお、n型コンタクト層は、下地層、及び/又は、n型クラッド層を兼ねることが可能である。
【0090】
(下地層)
本実施形態のn型半導体層14の下地層14aは、III族窒化物半導体からなる。下地層14aの材料は、バッファ層12と同じであっても異なっていても構わないが、Gaを含むIII族窒化物半導体、即ちGaN系化合物半導体が好ましく、AlGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることがより好ましい。
例えば、バッファ層12をAlNからなる構成とした場合、下地層14aは、バッファ層12の結晶性をそのまま引き継がないように、マイグレーションによって転位をループ化させることが望ましい。GaN系化合物半導体は、転位のループ化を生じやすく、特に、AlGaN、又はGaNが好適である。
【0091】
また、下地層14aの膜厚は0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、1μm以上が最も好ましい。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なAlGa1―XN層が得られやすい。
【0092】
下地層14aには、必要に応じて、n型不純物を1×1017〜1×1019/cmの範囲内であればドープしても良いが、アンドープ(<1×1017/cm)とすることもでき、アンドープの方が良好な結晶性の維持という点で好ましい。
例えば、基板11が導電性を有する場合には、下地層14aにドーパントをドープして導電性とすることにより、発光素子1の上下に電極を形成することができる。一方、基板11として絶縁性の材料を用いる場合には、発光素子1の同じ面に正極及び負極の各電極が設けられたチップ構造をとることになるので、基板11直上の層はドープしない結晶とした方が、結晶性が良好となることから好ましい。
n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeが挙げられる。
【0093】
(n型コンタクト層)
n型コンタクト層14bは、III族窒化物半導体からなる。n型コンタクト層14bは、下地層14aと同様にAlGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。
また、n型コンタクト層14bには、n型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017〜1×1019/cm、好ましくは1×1018〜1×1019/cmの濃度で含有すると、負極との良好なオーミック接触の維持、クラック発生の抑制、良好な結晶性の維持の点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。
【0094】
なお、下地層14a及びn型コンタクト層14bを構成する窒化ガリウム系化合物半導体は同一組成であることが好ましく、これらの合計の膜厚を0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは1〜12μmの範囲に設定することが好ましい。
膜厚がこの範囲であると、半導体の結晶性が良好に維持される。
【0095】
(n型クラッド層)
n型コンタクト層14bと発光層15との間には、n型クラッド層14cを設けることが好ましい。n型クラッド層14cを設けることにより、n型コンタクト層14bの最表面に生じた平坦性の悪化を修復することできる。n型クラッド層14cは、AlGaN、GaN、GaInN等により成膜することが可能である。また、これらの構造のヘテロ接合や複数回積層した超格子構造としてもよい。n型クラッド層14cをGaInNとする場合には、発光層15のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。
【0096】
n型クラッド層14cの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5〜500nmの範囲であり、より好ましくは5〜100nmの範囲である。
また、n型クラッド層14cのn型ドープ濃度は1×1017〜1×1020/cmの範囲が好ましく、より好ましくは1×1018〜1×1019/cmの範囲である。
ドープ濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および発光素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0097】
<発光層>
発光層15は、図3に示すように、窒化ガリウム系化合物半導体からなる障壁層15aと、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる井戸層15bとが交互に繰り返して積層され、且つ、n型半導体層14側及びp型半導体層16側に障壁層15aが配されている。図3に示す例では、発光層15は、6層の障壁層15aと5層の井戸層15bとが交互に繰り返して積層され、発光層15の最上層及び最下層に障壁層15aが配され、各障壁層15a間に井戸層15bが配される構成とされている。
【0098】
障壁層15aとしては、例えば、井戸層15bよりもバンドギャップエネルギーが大きいAlGa1−cN(0≦c<0.3)等の窒化ガリウム系化合物半導体を、好適に用いることができる。
また、井戸層15bには、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体として、例えば、Ga1−sInN(0<s<0.4)等の窒化ガリウムインジウムを用いることができる。
【0099】
発光層15全体の膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚、即ち臨界膜厚が好ましい。例えば、発光層15の膜厚は、1〜500nmの範囲であることが好ましく、100nm前後の膜厚であればより好ましい。膜厚が上記範囲であると、発光出力の向上に寄与する。
【0100】
<p型半導体層>
p型半導体層16は、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bから構成されている。なお、p型コンタクト層がp型クラッド層を兼ねる構成であってもよい。
【0101】
(p型クラッド層)
p型クラッド層16aとしては、発光層15のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層15へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、AlGa1−dN(0<d≦0.4、好ましくは0.1≦d≦0.3)のものが挙げられる。p型クラッド層16aが、このようなAlGaNからなると、発光層15へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。
p型クラッド層16aの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。
【0102】
p型クラッド層16aのp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cmが好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cmである。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。p型不純物としては、特に限定されないが、例えば、好ましくはMgが挙げられる。
【0103】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層16bは、少なくともAlGa1−eN(0≦e<0.5、好ましくは0≦e≦0.2、より好ましくは0≦e≦0.1)を含んでなる窒化ガリウム系化合物半導体層である。Al組成が上記範囲であると、良好な結晶性の維持およびpオーミック電極(後述の透光性電極17を参照)との良好なオーミック接触の点で好ましい。
p型コンタクト層16bの膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。膜厚がこの範囲であると、発光出力を高く維持できる点で好ましい。
【0104】
また、p型コンタクト層16bは、p型ドーパントを1×1018〜1×1021/cmの範囲の濃度で含有していると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましく、より好ましくは5×1019〜5×1020/cmの範囲である。p型不純物としては、特に限定されないが、例えば、好ましくはMgが挙げられる。
【0105】
なお、本発明の発光素子1を構成する半導体層20は、上述した実施形態のものに限定されるものではない。
例えば、本発明を構成する半導体層の材料としては、上記のものの他、例えば一般式AlGaIn1−A(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体が知られており、本発明においても、それら周知の窒化ガリウム系化合物半導体を何ら制限なく用いることができる。
また、III族元素としてGaを含有するIII族窒化物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P及びAs等の元素を含有することもできる。さらに、意図的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0106】
<透光性正極>
透光性正極17は、p型半導体層16上に形成された透光性を有する電極である。
透光性正極17の材質としては、特に限定されず、ITO(In−SnO)、AZnO(ZnO−Al)、IZO(In−ZnO)、GZO(ZnO−Ga)等の材料を用いることができる。また、透光性正極17としては、従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
また、透光性正極17は、p型半導体層16上の全面を覆うように形成しても構わないし、隙間を開けて格子状や樹形状に形成しても良い。
【0107】
<正極ボンディングパッド>
正極ボンディングパッド18は、図4に示すように透光性正極17上に形成された略円形の電極である。
正極ボンディングパッド18の材料としては、Au、Al、NiおよびCu等を用いた各種構造が周知であり、これら周知の材料、構造のものを何ら制限無く用いることができる。
正極ボンディングパッド18の厚さは、100〜1000nmの範囲内であることが好ましい。また、ボンディングパッドの特性上、厚さが大きい方が、ボンダビリティーが高くなるため、正極ボンディングパッド18の厚さは300nm以上とすることがより好ましい。さらに、製造コストの観点から500nm以下とすることが好ましい。
【0108】
<負極>
負極19は、半導体層20を構成するn型半導体層14のn型コンタクト層14bに接するものである。このため、負極19は、図3および図4に示すように、発光層15、p型半導体層16、及びn型半導体層14の一部を除去してn型コンタクト層14bを露出させてなる露出領域14dの上に略円形状に形成されている。
負極19の材料としては、各種組成および構造の負極が周知であり、これら周知の負極を何ら制限無く用いることができる。
【0109】
[発光素子の製造方法]
図3に示す発光素子1を製造するには、まず、基板11上に半導体層20の形成された図5に示す積層半導体10を形成する。図5に示す積層半導体10を形成するには、まず、基板11上に、上述した図1に示すスパッタ装置40を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法によって、バッファ層12、下地層14a、n型コンタクト層14bを成膜する。
【0110】
本実施形態においては、基板11上にバッファ層12を成膜する前に、基板11に前処理を施す。基板11に前処理を施すことにより、成膜プロセスが安定する。基板11の前処理は、例えば、スパッタ装置40のチャンバ41内に基板11を配置し、バッファ層12を形成する前にスパッタする方法によって行ってもよい。具体的には、チャンバ41内において、基板11をArガスやNガスのプラズマ中に曝す事によって基板11の表面を洗浄することができる。ArガスやNガスなどのプラズマを基板11の表面に作用させることで、基板11表面に付着した有機物や酸化物を除去することができる。この場合、ターゲット47にパワーを印加せずに、基板11とチャンバ41との間に電圧を印加すれば、プラズマ粒子が効率的に基板11の洗浄に作用する。
【0111】
なお、基板11の前処理は、上述した方法に限定されるものでなく、例えば、基板11としてシリコンからなる基板11を用いる場合には、よく知られたRCA洗浄方法などの湿式の方法を行いて、表面を水素終端させておく方法を用いることができる。
【0112】
基板11に前処理を行なった後、上述した図1に示すスパッタ装置40を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法によって、バッファ層12、アンドープの半導体層からなる下地層14a、n型コンタクト層14bを順に成膜する。
【0113】
その後、n型半導体層14のn型クラッド層14c、障壁層15aと井戸層15bとからなる発光層15、p型半導体層16のp型クラッド層16aおよびp型コンタクト層16bを、膜厚制御性の観点で好ましいMOCVD(有機金属化学気相成長法)法で成膜する。
【0114】
MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H)または窒素(N)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH)、ヒドラジン(N)などが用いられる。
【0115】
また、ドーパント元素のn型不純物には、Si原料としてモノシラン(SiH)またはジシラン(Si)を、Ge原料としてゲルマンガス(GeH)や、テトラメチルゲルマニウム((CHGe)やテトラエチルゲルマニウム((CGe)等の有機ゲルマニウム化合物を利用できる。
ドーパント元素のn型不純物には、Mg原料として例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCpMg)を用いることができる。
【0116】
このようにして得られた図5に示す積層半導体10のp型コンタクト層16b上に、フォトリソグラフィー法を用いて透光性正極17および正極ボンディングパッド18を順次形成する。
次いで、透光性正極17および正極ボンディングパッド18の形成された積層半導体10をドライエッチングすることにより、n型コンタクト層14b上の露出領域14dを露出させる。
その後、露出領域14d上に、フォトリソグラフィー法を用いて負極19を形成することにより、図3および図4に示す発光素子1が得られる。
【0117】
本実施形態の発光素子は、半導体層20のうちn型半導体層14の下地層14aおよびn型コンタクト層14bが、図1に示すスパッタ装置40を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法によって形成されたものであるので、優れた結晶性を有する半導体層20を備えたIII族窒化物半導体発光素子となる。
また、本実施形態の発光素子は、図1に示すスパッタ装置40を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法によって、基板11とn型半導体層14との間に、III族窒化物半導体からなるバッファ層12を形成してなるものであるので、優れた結晶性を有するバッファ層12を備えたものとなる。このようにn型半導体層14の下層に、優れた結晶性を有するバッファ層12が形成されると、バッファ層12上に、結晶性に優れたn型半導体層14が形成されやすくなる。したがって、本実施形態の発光素子は、非常に優れた結晶性を有する半導体層20を備えたものとなる。
【0118】
なお、本実施形態では、発光素子1の半導体層20のうち、n型半導体層14の下地層14aおよびn型コンタクト層14bを、図1に示すスパッタ装置40を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法によって成膜する方法を例に挙げて説明したが、本発明は上述した例に限定されるものではなく、半導体層20のうち少なくとも一部が本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法によって成膜されていればよい。
例えば、本実施形態では、n型半導体層14のn型クラッド層14cやp型半導体層16をMOCVD法で成膜したが、n型クラッド層14cやp型半導体層16も本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法によって成膜できる。
【0119】
また、本発明の発光素子1は、半導体層20のうち少なくとも一部が本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法によって成膜されていればよく、半導体層20の成膜は、本発明のIII族窒化物半導体層の製造方法と、従来のスパッタ法、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)、HVPE法(ハイドライド気相成長法)、MBE法(分子線エピタキシー法)等、III族窒化物半導体層を製造できる如何なる方法とを組み合わせて行なってもよい。
【0120】
また、本実施形態では、図1に示すスパッタ装置40を用いる製造方法を例に挙げて説明したが、図1に示すスパッタ装置40を用いる製造方法に代えて、図2に示すスパッタ装置50を用いる上述したIII族窒化物半導体層の製造方法を用いてもよい。
【0121】
なお、本発明のIII族窒化物半導体の製造方法は、上述の発光素子の他、レーザ素子や受光素子等の光電気変換素子、又は、HBTやHEMT等の電子デバイスなどに用いることができる。これらの半導体素子は、各種構造のものが多数知られており、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の構造は、これら周知の素子構造を含めて何ら制限されない。
【0122】
[ランプ]
本発明のランプは、本発明の発光素子が用いられてなるものである。
本発明のランプとしては、例えば、本発明の発光素子と蛍光体とを組み合わせてなるものを挙げることができる。発光素子と蛍光体とを組み合わせたランプは、当業者周知の手段によって当業者周知の構成とすることができる。また、従来より、発光素子と蛍光体と組み合わせることによって発光色を変える技術が知られており、本発明のランプにおいてもこのような技術を何ら制限されることなく採用することが可能である。
【0123】
例えば、ランプに用いる蛍光体を適正に選定することにより、発光素子より長波長の発光を得ることも可能となり、また、発光素子自体の発光波長と蛍光体によって変換された波長とを混ぜることにより、白色発光を呈するランプとすることもできる。
【0124】
図6は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子を用いて構成したランプの一例を模式的に示した概略図である。図6に示すランプ3は、砲弾型のものであり、図3に示す発光素子1が用いられている。図6に示すように、発光素子1の正極ボンディングパッド(図4に示す符号18参照)がワイヤー33で2本のフレーム31、32の内の一方(図5ではフレーム31)に接着され、発光素子1の負極(図4に示す符号19参照)がワイヤー34で他方のフレーム32に接合されることにより、発光素子1が実装されている。
また、発光素子1の周辺は、透明な樹脂からなるモールド35で封止されている。
【0125】
本発明のランプは、本発明の発光素子が用いられてなるものであるので、優れた発光特性を備えたものとなる。
また、本発明のランプは、一般用途の砲弾型、携帯のバックライト用途のサイドビュー型、表示器に用いられるトップビュー型等いかなる用途にも用いることができる。
【実施例】
【0126】
次に、本発明を、実施例および比較例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
[実施例1]
図3および図4に示す発光素子1を図1に示すスパッタ装置40を用いる製造方法を用いて以下に示すように製造した。
まず、サファイアからなる基板11のc面上に、図1に示すスパッタ装置40を用いて、単結晶構造を有するAlNからなるバッファ層12を形成し、その上に、アンドープのGaN層からなるn型半導体層14の下地層14a、SiドープGaN層からなるn型半導体層14のn型コンタクト層14bを順に形成した。
【0127】
より詳細には、片面のみをエピタキシャル成長に使用できる程度に鏡面研磨したサファイアからなる2インチの基板11を用意し、湿式等の前処理を行わずに図1に示すスパッタ装置40のチャンバ41内に設置した。スパッタ装置40としては、高周波(RF)式の電源を有し、A1からなるターゲット47内でマグネットの位置を動かすことができる機構を有するものを使用した。そして、チャンバ41内で基板11を500℃まで加熱し、窒素ガスのみを15sccmの流量で導入して、チャンバ41内の圧力を1Paに保持し、基板11側に50Wの高周波バイアスを印加して、窒素プラズマに晒すことによって基板11の表面を洗浄した。
【0128】
次いで、基板11の温度を500℃に保持し、チャンバ41内をアルゴンガス雰囲気とした(前処理工程)。
(1)その後、チャンバ41内に流量5sccmでアルゴンガスを導入して、チャンバ41内を圧力0.5Paのアルゴン雰囲気に保ち、Alからなるターゲット47に1W/cmのRFパワーを印加することにより、Al粒子を含む第1プラズマP1を発生させ、基板11上にAlからなる薄膜を、約5秒間成膜した(第1プラズマ発生工程)。このようにして得られたAlからなる薄膜の厚みは0.8nmであった。
【0129】
(2)続いて、ターゲット47へのRFパワーをオフにして、チャンバ41内へのアルゴンガスの供給を停止すると同時に、基板11側へ2インチの基板11に対して100WのRFパワーをオンにして、窒素ガスの供給を開始した(第1−第2ガス入れ替え工程)。第1−第2ガス入れ替え工程は、プラズマが消失しないようにチャンバ41内の圧力が0.1Pa以下にならないようにして1秒間行なった。
【0130】
(3)そして、チャンバ41内の圧力を1.0Paにし、窒素の流量を15sccmに保つとともに、基板11側へのRFパワーを100Wに保ったまま、基板11の温度800℃で5秒間、窒素元素を含む第2プラズマP2を基板11上に供給した(第2プラズマ発生工程)。
【0131】
(4)その後、炉内への窒素ガスの供給を停止すると同時に、チャンバ41内にアルゴンガスの供給を開始した(第2−第1ガス入れ替え工程)。第2−第1ガス入れ替え工程は、プラズマが消失しないように基板11側へのRFパワーを20Wでオンにしたまま、基板11の温度800℃、圧力0.2Paで1秒間行なった。
【0132】
そして、以上(1)から(4)の工程を41回繰り返した後、最後の1回として(1)から(3)までの工程を行うことで、基板11のc面上に、40nmの膜厚のAlNからなるバッファ層12を成膜した。成膜後、チャンバ41内におけるプラズマ動作を停止し、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成されたバッファ層12の成膜速度は、5nm/minであった。
【0133】
次いで、バッファ層12が成膜された基板11をスパッタ装置40のチャンバ41から取り出して、同じ構成の別のスパッタ装置40のチャンバ41に搬送した。n型半導体層14の下地層14aを成膜するスパッタ装置40としては、ターゲット47が金属Gaからなり、ターゲット47内に冷媒を流通させるための配管が設置されているものを用いた。そして、下地層14aの成膜中、配管内に20℃に冷却した冷媒を流通させ、熱によるGaの融解を防止した。
【0134】
そして、下地層14aの成膜を行なう前に、バッファ層12の成膜を行なう前の基板11の洗浄と同様にして、バッファ層12の形成されている基板11の表面を洗浄した。
次いで、基板11の温度を950℃まで上昇させ、チャンバ41内をアルゴンガス雰囲気とした(前処理工程)。
(5)その後、チャンバ41内に流量5sccmでアルゴンガスを導入して、チャンバ41内を圧力0.5Paのアルゴン雰囲気に保ち、Gaからなるターゲット47に0.5W/cmのRFパワーを印加することにより、Ga粒子を含む第1プラズマを発生させ、基板11上にGaからなる薄膜を、約5秒間成膜した(第1プラズマ発生工程)。このようにして得られたGa薄膜の厚みは3.4nmであった。
【0135】
(6)続いて、ターゲット47へのRFパワーをオフにして、チャンバ41内へのアルゴンガスの供給を停止すると同時に、基板11側へ2インチの基板11に対して100WのRFパワーをオンにして、窒素ガスの供給を開始した(第1−第2ガス入れ替え工程)。第1−第2ガス入れ替え工程は、プラズマが消失しないようにチャンバ41内の圧力が0.05Pa以下にならないようにして1秒間行なった。
【0136】
(7)そして、チャンバ41内の圧力を1.0Paにし、窒素の流量を15sccmに保つとともに、基板11側へのRFパワーを100Wに保ったまま、基板11の温度900℃で5秒間、窒素元素を含む第2プラズマを基板11上に供給した(第2プラズマ発生工程)。
【0137】
(8)その後、炉内への窒素ガスの供給を停止すると同時に、チャンバ41内にアルゴンガスの供給を開始した(第2−第1ガス入れ替え工程)。第2−第1ガス入れ替え工程は、プラズマが消失しないように基板11側へのRFパワーを20Wでオンにしたまま、基板11の温度900℃、圧力0.2Paで1秒間行なった。
【0138】
そして、以上(5)から(8)の工程を1499回繰り返した後、最後の1回として(5)から(7)までの工程を行うことで、基板11上に成膜されたバッファ層12上に、6μmの膜厚のGaNからなる下地層14aを成膜した。成膜後、チャンバ41内におけるプラズマ動作を停止し、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成された下地層14aの成膜速度は、20nm/minであった。
【0139】
また、このようにして成膜されたアンドープGaN層(下地層14a)のX線ロッキングカーブ(XRC)を、X線測定器(パナリティカル社製;四結晶X線測定装置、型番:X‘pert)を用いて測定した。この測定は、Cuβ線X線発生源を光源として用い、対称面である(0002)面と非対称面である(10−10)面で行った。一般的に、III族窒化物化合物半導体の場合、(0002)面のXRCスペクトル半値幅は結晶の平坦性(モザイシティ)の指標となり、(10−10)面のXRCスペクトル半値幅は転位密度(ツイスト)の指標となる。
X線ロッキングカーブ(XRC)測定の結果、実施例1の製造方法で作製した下地層14aは、(0002)面の測定では半値幅30arcsecを示し、(10−10)面では半値幅400arcsecを示した。
また、実施例1の製造方法により得られた下地層14aまで成膜された基板11の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。その結果を図7に示す。図7は、下地層14aまで成膜された実施例1の基板11(sub)とバッファ層12(buffer)とn型半導体層14の下地層14a(un−GaN)の断面のTEM写真である。図7に示すように、下地層において、3〜100nm間隔の縞模様状の積層構造が観察された。
【0140】
次いで、下地層14aまで成膜された基板11をスパッタ装置40のチャンバ41から取り出して、同じ構成の別のスパッタ装置40のチャンバ41に搬送した。n型コンタクト層14bを成膜するスパッタ装置40は、ターゲット47として、Gaターゲット上にSi片を配置したものを用いたこと以外は、下地層14aを成膜したスパッタ装置40と同じものを用いた。
【0141】
また、n型コンタクト層14bの成膜は、下地層14aの成膜と同じ条件で、上記(5)から(8)の工程を500回繰り返した後、最後の1回として(5)から(7)までの工程を行い、下地層14aまで成膜された基板11上に、1×1019cm−3の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaN層からなるn型コンタクト層14bを成膜した。成膜後、チャンバ41内におけるプラズマ動作を停止し、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成されたn型コンタクト層14bの成膜速度は、20nm/minであった。
【0142】
このようにして得られた実施例1のn型コンタクト層14bまで成膜された基板11は、表面が無色透明のミラー状を呈した。
【0143】
次に、n型コンタクト層14bまで成膜された基板11を、MOCVD炉に導入し、n型コンタクト層14b上に半導体層20となる各層を形成し、図5に示す積層半導体10を得た。
得られた積層半導体10は、c面を有するサファイアからなる基板11上に、基板11側から順に、AlNからなる40nmのバッファ層12、6μmのアンドープGaNからなる下地層14a、1×1019cm−3の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaNからなるn型コンタクト層14b、1×1018cm−3の電子濃度を持つ20nmのIn0.1Ga0.9N型クラッド層(n型クラッド層14c)、GaN障壁層に始まりGaN障壁層に終わる積層構造であって、層厚を16nmとしたGaNからなる6層の障壁層15aと、層厚を3nmとしたノンドープのIn0.2Ga0.8Nからなる5層の井戸層15bとが交互に積層されてなる多重量子井戸構造の発光層15、5nmのMgをドープしたAl0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層16aと膜厚200nmのMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bとを具備したp型半導体層16を積層した構造を有するものであった。
【0144】
得られた積層半導体10を構成するMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bは、p型キャリアを活性化するためのアニール処理を行わなくてもp型特性を示した。
【0145】
次いで、積層半導体10を用いて、図3および図4に示す発光素子1を作製した。
まず、積層半導体10のp型コンタクト層16bの表面上に、公知のフォトリソグラフィーによって、ITOからなる透光性正極17と、その上に透光性正極17の表面側から順にTi、Al、Auを積層した構造を有する正極ボンディングパッド18とを形成した。
その後、透光性正極17および正極ボンディングパッド18の形成された積層半導体10をドライエッチングすることにより、n型コンタクト層14b上の露出領域14dを露出させた。その後、露出領域14d上に、フォトリソグラフィー法を用いてNi、Al、Ti、及びAuの4層よりなる負極19を形成することにより、図3および図4に示す発光素子1を得た。
【0146】
このようにして得られた発光素子1の基板11の裏側を、研削及び研磨してミラー状の面とし、350μm角の正方形のチップに切断した。その後、得られたチップを各電極が上になるようにリードフレーム上に載置し、金線でリードフレームに結線することにより、発光ダイオードとした。
この発光ダイオードの正極ボンディングパッド18及び負極19の電極間に順方向電流を流したところ、電流20mAにおける順方向電圧は3.0Vであった。また、p側の透光性正極17を通して発光状態を観察したところ、発光波長は470nmであり、発光出力は15mWを示した。このような発光ダイオードの発光特性は、作製したウェーハのほぼ全面から作製された発光ダイオードについて、ばらつきなく得られた。
【0147】
[実施例2]
図3および図4に示す発光素子1を図2に示すスパッタ装置50を用いる製造方法を用いて以下に示すように製造した。
まず、サファイアからなる基板11のc面上に、図2に示すスパッタ装置50を用いて、単結晶構造を有するAlNからなるバッファ層12を形成し、その上に、アンドープのGaN層からなるn型半導体層14の下地層14a、SiドープGaN層からなるn型半導体層14のn型コンタクト層14bを順に形成した。
【0148】
より詳細には、片面のみをエピタキシャル成長に使用できる程度に鏡面研磨したサファイアからなる2インチの基板11を4枚用意し、湿式等の前処理を行わずに図2に示すスパッタ装置50の回転冶具43に支持させて、ターゲットチャンバ61内および窒素チャンバ62内にそれぞれ1枚ずつ設置した。スパッタ装置50としては、高周波(RF)式の電源を有し、A1からなるターゲット47内でマグネットの位置を動かすことができる機構を有するものを使用した。
【0149】
そして、窒素チャンバ62内で基板11を500℃まで加熱し、窒素ガスのみを15sccmの流量で導入して、窒素チャンバ62内の圧力を1Paに保持し、基板11側に50Wの高周波バイアスを印加して、窒素プラズマに晒すことによって窒素チャンバ62内に配置された基板11の表面を洗浄した。
また、ターゲットチャンバ61内にアルゴンガスを導入し、ターゲットチャンバ61内をアルゴンガス雰囲気とした(第1前処理工程)。
ここで、回転冶具43を回転させて、ターゲットチャンバ61内に配置されていた基板11を窒素チャンバ62へ移動させ、窒素チャンバ62内に配置されていた基板11をターゲットチャンバ61へ移動させた。
【0150】
その後、ターゲットチャンバ61内に流量5sccmでアルゴンガスを導入して、ターゲットチャンバ61内を圧力0.5Paのアルゴン雰囲気に保ち、Alからなるターゲット47に1W/cmのRFパワーを印加することにより、Al粒子を含む第1プラズマP1を発生させ、基板11上にAlからなる薄膜を、約5秒間成膜した(最初の第1プラズマ発生工程)。このようにして得られたAlからなる薄膜の厚みは0.8nmであった。
最初の第1プラズマ発生工程を行なっている間、窒素チャンバ62内には窒素ガスを導入したままにし、第2前処理工程を兼ねて、窒素チャンバ62内で上記と同様にして基板11の洗浄を行なった。
【0151】
また、最初の第1プラズマ発生工程を行なった後、回転冶具43を回転させて、ターゲットチャンバ61内に配置されていた基板11を窒素チャンバ62へ移動させ(第1移動工程)、窒素チャンバ62内に配置されていた基板11をターゲットチャンバ61へ移動させた。
そして、窒素チャンバ62内に流量5sccmで窒素を供給し、窒素チャンバ62内の圧力を0.5Paにし、基板11側へ100WのRFパワーを印加し、基板11の温度800℃で5秒間、窒素元素を含む第2プラズマP2を基板11上に供給し、窒素チャンバ62内に移動された基板11上の最初の第1プラズマ発生工程で形成されたAl膜を窒化させた(最初の第2プラズマ発生工程)。
【0152】
また、最初の第2プラズマ発生工程を行なっている間、ターゲットチャンバ61内で、最初の第1プラズマ発生工程を行なっている間に窒素チャンバ62に配置されていた基板11に対して第1プラズマ発生工程を行なった。
【0153】
そして、最初の第2プラズマ発生工程を行なった後、5秒ごとに第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とが繰り返される回転速度で回転冶具43を回転させ、ターゲットチャンバ61内に配置されていた基板11を窒素チャンバ62へ移動させるとともに、窒素チャンバ62内に配置されていた基板11をターゲットチャンバ61へ移させ、ターゲットチャンバ61で基板11に対して第1プラズマ発生工程を行うとともに、窒素チャンバ62で基板11に対して第2プラズマ発生工程を行なった。
【0154】
このことにより、基板11がチャンバ60内を合計21回回転し、各基板11に対して第1プラズマ発生工程および第2プラズマ発生工程が40回ずつ行なわれ、基板11のc面上に、40nmの膜厚のAlNからなるバッファ層12が成膜された。成膜後、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成されたバッファ層12の成膜速度は、6nm/minであった。
【0155】
次いで、バッファ層12が成膜された基板11をスパッタ装置50の回転冶具43から取り外して、同じ構成の別のスパッタ装置50の回転冶具43に支持させた。n型半導体層14の下地層14aを成膜するスパッタ装置50としては、ターゲット47が金属Gaからなり、ターゲット47内に冷媒を流通させるための配管が設置されているものを用いた。そして、下地層14aの成膜中、配管内に20℃に冷却した冷媒を流通させ、熱によるGaの融解を防止した。
【0156】
そして、下地層14aの成膜を行なう前に、バッファ層12の成膜を行なう前の基板11の洗浄と同様にして、バッファ層12の形成されている基板11の表面を洗浄した。
その後、製造条件を以下に示す条件としたこと以外は、バッファ層12の成膜と同様にして、下地層14aの成膜を行なった。すなわち、第1プラズマ発生工程において、Gaからなるターゲット47に0.5W/cmのRFパワーを印加し、アルゴンガスの流量は20sccmとした。また、第2プラズマ発生工程における基板11の温度を950℃とした。また、基板11のチャンバ60内の合計の回転数を750回とした。
【0157】
このようにしてバッファ層12の成膜された基板11上に6μmの膜厚のGaNからなる下地層14aを成膜した。成膜後、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成された下地層14aの成膜速度は、24nm/minであった。また、1回の第1プラズマ発生工程において得られたGaからなる薄膜の厚みは3.4nmであった。
【0158】
また、このようにして成膜されたアンドープGaN層(下地層14a)のX線ロッキングカーブ(XRC)を、実施例1と同様にして測定した。
X線ロッキングカーブ(XRC)測定の結果、実施例2の製造方法で作製したアンドープGaN層は、(0002)面の測定では半値幅25arcsecを示し、(10−10)面では半値幅450arcsecを示した。
【0159】
次いで、下地層14aまで成膜された基板11をスパッタ装置50の回転冶具43から取り外して、同じ構成の別のスパッタ装置50の回転冶具43に支持させた。n型コンタクト層14bを成膜するスパッタ装置50は、ターゲット47として、Gaターゲット上にSi片を配置したものを用いたこと以外は、下地層14aを成膜したスパッタ装置50と同じものを用いた。
【0160】
また、n型コンタクト層14bの成膜は、基板11のチャンバ60内の合計の回転数を250回としたこと以外は、下地層14aの成膜と同じ条件で行い、下地層14aまで成膜された基板11上に、1×1019cm−3の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaN層からなるn型コンタクト層14bを成膜した。成膜後、基板11の温度を室温まで低下させた。このように第1プラズマ発生工程と第2プラズマ発生工程とを行なうことによって形成されたn型コンタクト層14bの成膜速度は、24nm/minであった。
【0161】
このようにして得られた実施例2のn型コンタクト層14bまで成膜された基板11は、表面が無色透明のミラー状を呈した。
【0162】
次に、n型コンタクト層14bまで成膜された基板11を、MOCVD炉に導入し、実施例1と同様に半導体層20となる各層を形成し、図5に示す積層半導体10を得た。
得られた積層半導体10を構成するMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bは、p型キャリアを活性化するためのアニール処理を行わなくてもp型特性を示した。
【0163】
次いで、積層半導体10を用いて、実施例1と同様にして図3および図4に示す発光素子1を作製した。続いて、得られた発光素子1を用いて、実施例1と同様にして発光ダイオードとした。
この発光ダイオードの正極ボンディングパッド18及び負極19の電極間に順方向電流を流したところ、電流20mAにおける順方向電圧は3.05Vであった。また、p側の透光性正極17を通して発光状態を観察したところ、発光波長は470nmであり、発光出力は15.5mWを示した。このような発光ダイオードの発光特性は、作製したウェーハのほぼ全面から作製された発光ダイオードについて、ばらつきなく得られた。
【0164】
[実施例3]
第2プラズマ発生手段として、誘導結合プラズマ(ICP)により窒素元素を含む第2プラズマを発生させるものが備えられていること以外は、図2に示すスパッタ装置50と同じスパッタ装置を用いて、図3および図4に示す発光素子1を以下に示すように製造した。
まず、サファイアからなる基板11のc面上に、スパッタ装置を用いて、単結晶構造を有するAlNからなるバッファ層12を形成し、その上に、アンドープのGaN層からなるn型半導体層14の下地層14a、SiドープGaN層からなるn型半導体層14のn型コンタクト層14bを順に形成した。
【0165】
実施例3においては、第2プラズマ発生工程以外は、実施例2と同様にして単結晶構造を有するAlNからなるバッファ層12を形成した。すなわち、実施例3における第2プラズマ発生工程では、実施例2における基板11側へRFパワーを印加することに代えて、誘導結合プラズマ(ICP)に500WのRFパワーを印加して、窒素元素を含む第2プラズマP2を基板11上に供給した。このようにして、基板11のc面上に、40nmの膜厚のAlNからなるバッファ層12を成膜した。
その後、第2プラズマ発生工程において、基板11側へRFパワーを印加することに代えて、誘導結合プラズマ(ICP)に500WのRFパワーを印加したこと以外は、実施例2にと同様にして、6μmの膜厚のGaNからなる下地層14aを成膜した。
【0166】
このようにして成膜されたアンドープGaN層(下地層14a)のX線ロッキングカーブ(XRC)を、実施例1と同様にして測定した。
X線ロッキングカーブ(XRC)測定の結果、実施例3の製造方法で作製したアンドープGaN層は、(0002)面の測定では半値幅25arcsecを示し、(10−10)面では半値幅450arcsecを示した。
【0167】
次いで、基板11側へRFパワーを印加することに代えて、誘導結合プラズマ(ICP)に500WのRFパワーを印加したこと以外は、実施例2と同様にして、下地層14aまで成膜された基板11上に、1×1019cm−3の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaN層からなるn型コンタクト層14bを成膜した。
このようにして得られた実施例3のn型コンタクト層14bまで成膜された基板11は、表面が無色透明のミラー状を呈した。
【0168】
次に、n型コンタクト層14bまで成膜された基板11を、MOCVD炉に導入し、実施例1と同様に半導体層20となる各層を形成し、図5に示す積層半導体10を得た。
得られた積層半導体10を構成するMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bは、p型キャリアを活性化するためのアニール処理を行わなくてもp型特性を示した。
【0169】
次いで、積層半導体10を用いて、実施例1と同様にして図3および図4に示す発光素子1を作製した。続いて、得られた発光素子1を用いて、実施例1と同様にして発光ダイオードとした。
この発光ダイオードの正極ボンディングパッド18及び負極19の電極間に順方向電流を流したところ、電流20mAにおける順方向電圧は3.05Vであった。また、p側の透光性正極17を通して発光状態を観察したところ、発光波長は470nmであり、発光出力は15.5mWを示した。このような発光ダイオードの発光特性は、作製したウェーハのほぼ全面から作製された発光ダイオードについて、ばらつきなく得られた。
【0170】
[比較例1]
図3および図4に示す発光素子1を従来のスパッタ装置40を用いる製造方法を用いて以下に示すように製造した。
まず、サファイアからなる基板11のc面上に、従来のスパッタ装置を用いて、AlNからなるバッファ層12を形成し、その上に、アンドープのGaN層からなるn型半導体層14の下地層14a、SiドープGaN層からなるn型半導体層14のn型コンタクト層14bを順に形成した。
【0171】
まず、片面のみをエピタキシャル成長に使用できる程度に鏡面研磨したサファイアからなる基板11を用意し、湿式等の前処理を行わずにスパッタ装置の中へ導入した。スパッタ装置としては、高周波(RF)式の電源を有し、Alからなるターゲット内でマグネットの位置を動かすことができる機構を有するものを使用した。そして、スパッタ装置内で基板11を750℃まで加熱し、窒素ガスを15sccmの流量で導入した後、チャンバ内の圧力を1Paに保持し、基板11側に50Wの高周波バイアスを印加し、窒素プラズマに晒すことによって基板11の表面を洗浄した。
【0172】
次いで、基板11の温度はそのままで、スパッタ装置のチャンバ内にアルゴンガス及び窒素ガスを導入した。そして、2000Wの高周波をAlターゲット側に印加し、炉内の圧力を0.5Paに保ち、Arガスを5sccm、窒素ガスを15sccm流通させた条件下(ガス全体における窒素の比は75%)で、サファイアからなる基板11上に40nmのAlNからなるバッファ層12を成膜した。バッファ層12の成長速度は5nm/minであった。そして、バッファ層12を成膜後、プラズマ動作を停止し、基板11の温度を低下させた。なお、ターゲット内のマグネットは、基板11の洗浄時、及び成膜時の何れにおいても揺動させた。
【0173】
その後、バッファ層12の成膜された基板11上に、6μmの膜厚のGaNからなる下地層14aを形成した。なお、下地層14aは、以下に示す成膜条件にしたこと以外は、バッファ層12と同様にして形成した。まず、スパッタ装置のチャンバ内で基板11を900℃まで加熱したのち、チャンバ内にアルゴンガス及び窒素ガスを導入した。そして、2000Wの高周波をGaターゲット側に印加し、炉内の圧力を1.0Paに保ち、Arガスを25sccm、窒素ガスを15sccmの流量で流通させた。下地層14aの成膜速度は20nm/minであった。
【0174】
その後、下地層14aの成膜された基板11上に、2μmの膜厚のGaNからなるn型コンタクト層14bを形成した。なお、n型コンタクト層14bは、ターゲットとして、Gaターゲット上にSi片を配置したものを用いたこと以外は、下地層14aと同様にして形成した。
【0175】
また、このようにして成膜されたアンドープGaN層(下地層14a)のX線ロッキングカーブ(XRC)を、実施例1と同様にして測定した。
X線ロッキングカーブ(XRC)測定の結果、比較例1の製造方法で作製した下地層14aは、(0002)面の測定では半値幅100arcsecを示し、(10−10)面では半値幅600arcsecを示した。
また、n型コンタクト層14bまで成膜された基板11の表面は、鏡面であることが目視で確認された。
【0176】
次いで、n型コンタクト層14bまで成膜された基板11を、MOCVD炉に導入し、実施例1と同様に半導体層20となる各層を形成し、図5に示す積層半導体10を得た。
次いで、積層半導体10を用いて、実施例1と同様にして図3および図4に示す発光素子1を作製し、得られた発光素子1を用いて、実施例1と同様にして発光ダイオードとした。
この発光ダイオードの正極ボンディングパッド18及び負極19の電極間に順方向電流を流したところ、電流20mAにおける順方向電圧は3.2Vであった。また、p側の透光性正極17を通して発光状態を観察したところ、発光波長は470nmであり、発光出力は14.0mWを示した。このような発光ダイオードの発光特性は、作製したウェーハのほぼ全面から作製された発光ダイオードについて、ばらつきなく得られた。
【0177】
しかしながら、比較例1では、バッファ層12、下地層14a、n型コンタクト層14bのいずれにおいても、スパッタにより連続して成膜を行うことにより、成膜速度が徐々に低下した。また、スパッタ装置のチャンバを大気開放してターゲットを目視して確認したところ、バッファ層の成膜に用いたAlターゲットも、下地層、コンタクト層の成膜に用いたGaターゲットも、表面が白濁しており、分析の結果、窒化物よりなる被膜が生じていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】図1は、本発明に係るIII族窒化物半導体層の製造装置の一例であるスパッタ装置を模式的に示した概略図である。
【図2】図2は、本発明に係るIII族窒化物半導体層の製造装置の他の例であるスパッタ装置を模式的に示した概略図である。
【図3】図3は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図4】図4は、図3に示すIII族窒化物半導体発光素子の平面構造を示す概略図である。
【図5】図5は、図3に示すIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を説明するための図であり、積層半導体を模式的に示した概略断面図である。
【図6】図6は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子を用いて構成したランプの一例を模式的に示した概略図である。
【図7】図7は、下地層まで成膜された実施例1の基板とバッファ層と下地層の断面のTEM写真である。
【符号の説明】
【0179】
1…III族窒化物半導体発光素子(発光素子)、3…ランプ、10…積層半導体、11…基板、12…バッファ層、14…n型半導体層、15…発光層、16…p型半導体層、17…透光性正極、40、50…スパッタ装置、41、60…チャンバ、61…ターゲットチャンバ(第1プラズマ領域)、62…窒素チャンバ(第2プラズマ領域)、43…回転冶具(移動手段)、44…ヒータ、45…仕切り板(遮蔽壁)、47…ターゲット、48a、48b、48c、48d…電源、51、63…第1プラズマ発生手段、52、64…第2プラズマ発生手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造装置であって、
チャンバと、
前記チャンバ内に配置されたIII族元素を含有するターゲットと、
前記ターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、
窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、
前記第1プラズマ発生手段と前記第2プラズマ発生手段とを制御して、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させる制御手段とを備えることを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項2】
前記第1プラズマ発生手段が、前記ターゲットにパワーを印加する手段と、前記チャンバ内に希ガスを供給する希ガス供給手段とを備え、
前記第2プラズマ発生手段が、前記チャンバ内にプラズマを発生させる手段と、前記チャンバ内に窒素元素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項3】
基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造装置であって、
第1プラズマ領域と、前記第1プラズマ領域と遮蔽壁によって分離された第2プラズマ領域とが設けられたチャンバと、
前記第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、
前記第2プラズマ領域において窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、
前記基板の前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域への移動と、前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域への移動とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給させる移動手段とを備えることを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項4】
前記ターゲットが、AlまたはGaを含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項5】
前記第1プラズマ発生手段は、膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を形成するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項6】
前記第1プラズマ発生手段は、膜厚1原子層の薄膜を形成するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項7】
第2プラズマ発生手段が、誘導結合プラズマにより窒素元素を含む第2プラズマを発生させるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造装置。
【請求項8】
基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造方法であって、
III族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程と、
窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程とを有し、
前記第1プラズマ発生工程と前記第2プラズマ発生工程とを交互に行なうことにより、前記チャンバ内に前記第1プラズマと前記第2プラズマとを交互に発生させること特徴とするIII族窒化物半導体層の製造方法。
【請求項9】
第1プラズマ領域と、前記第1プラズマ領域と遮蔽壁によって分離された第2プラズマ領域とが設けられたチャンバを備えるIII族窒化物半導体層の製造装置を用い、基板上にIII族窒化物半導体層をスパッタ法によって形成するための製造方法であって、
前記第1プラズマ領域内に配置されたIII族元素を含有するターゲットをスパッタして原料粒子を前記基板に供給する第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生工程を前記第1プラズマ領域内で行い、
窒素元素を含む第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生工程を前記第2プラズマ領域内で行い、
前記第1プラズマ発生工程後に前記第1プラズマ領域から前記第2プラズマ領域へ前記基板を移動させる第1移動工程と、前記第2プラズマ発生工程後に前記第2プラズマ領域から前記第1プラズマ領域へ前記基板を移動させる第2移動工程とを行なうことにより、前記原料粒子と前記窒素元素とを前記基板上に交互に供給することを特徴とするIII族窒化物半導体層の製造方法。
【請求項10】
前記ターゲットが、AlまたはGaを含有するものであることを特徴とする請求項8または9に記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
【請求項11】
前記第1プラズマ発生工程において、膜厚0.2nm〜2nmの薄膜を形成するものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
【請求項12】
前記第1プラズマ発生工程において、膜厚1原子層の薄膜を形成するものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法。
【請求項13】
基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記半導体層の少なくとも一部を、請求項8〜12のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有し、前記基板と前記n型半導体層との間にIII族窒化物半導体からなるバッファ層を有するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記バッファ層を、請求項8〜12のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項16】
請求項15に記載のIII族窒化物半導体発光素子が用いられてなることを特徴とするランプ。
【請求項17】
基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有するIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記半導体層の少なくとも一部が、請求項8〜12のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成されたものであり、前記製造方法に起因する積層構造が形成されているものであることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項18】
基板上に、III族窒化物半導体から各々なるn型半導体層、発光層及びp型半導体層が積層された半導体層を有し、前記基板と前記n型半導体層との間にIII族窒化物半導体からなるバッファ層を有するIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記バッファ層が、請求項8〜12のいずれかに記載のIII族窒化物半導体層の製造方法で形成されたものであり、前記製造方法に起因する積層構造が形成されているものであることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−124100(P2009−124100A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184027(P2008−184027)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】