説明

ゲート駆動回路及び半導体装置

【課題】応答性を損なうことなく能動クランプ素子の損失電力を低減できる能動クランプ回路を用いたゲート駆動回路及び半導体装置を提供する。
【解決手段】スイッチ素子Tr7のゲートを駆動するゲート駆動回路であって、制御信号に基づいてスイッチ素子Tr7を駆動する駆動部(トランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5)と、スイッチ素子Tr7の第1主端子(ドレイン)と第2主端子(ソース)との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、駆動部によるスイッチ素子Tr7に対する駆動動作を強制的に遮断して、スイッチ素子Tr7の第1主端子と第2主端子との間の電圧がクランプされるようにスイッチ素子Tr7を駆動するアクティブクランプ回路(ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、抵抗R1、トランジスタTr3,Tr6)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のゲートを駆動するゲート駆動回路及びそのゲート駆動回路を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スイッチング電源等に用いられる出力用のトランジスタによるスイッチング動作の高速化が進み、スイッチの切り替え時においてソレノイド等を用いた負荷回路のインダクタンスにより発生する逆起電圧が大きなものとなるため、ターンオフ時に開放状態となったトランジスタのドレイン・ソース間にサージ電圧が印加されることによるブレークダウンが引き起こされる場合があり、サージ電圧からトランジスタを保護するための手段が必要とされている。
【0003】
特許文献1には、誘導性負荷を高速遮断することを目的とするハイサイドスイッチ用の半導体装置が記載されており、このハイサイドスイッチのドレイン・ソース間電圧を抑制する方法について触れられている。特に、特許文献1の従来技術の説明において、ハイサイドスイッチのドレイン・ゲート端子間に定電圧素子とダイオードとを直列接続した能動クランプ回路(アクティブクランプ回路)がドレイン・ソース間電圧を抑制してハイサイドスイッチを保護する方法として開示されている。
【0004】
特許文献2には、IGBTやMOSFETの高速スイッチング時に発生する過大サージ電圧を低い値に抑制することを目的とした電力変換装置が記載されている。この電力変換装置は、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチのいずれにも適用できる能動クランプ回路を採用している。特許文献2における能動クランプ回路は、その構成中におけるダイオードにコンデンサを並列接続させることにより、負帰還パスを迅速に形成して過電圧をクランプすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−288817号公報
【特許文献2】特開2001−245466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に示すような能動クランプ回路は、ゲート駆動信号がオフ状態において、能動クランプ回路動作によるクランプ電流をゲート抵抗へ出力し、ゲート抵抗の電圧降下をスイッチング素子のゲートしきい電圧まで上昇させる。ゲートしきい電圧に達するとスイッチング素子にドレイン電流が流れ始め、ドレイン・ソース電圧が低下する。すなわち、この能動クランプ回路は、スイッチング素子のドレイン・ソース電圧を能動クランプ回路動作電圧で所定の電圧(例:素子の定格電圧)以上に上昇しないように平衡させるものである。
【0007】
ここで、ゲート抵抗値を10Ωと仮定し、スイッチング素子のゲートしきい電圧を5Vとすれば、能動クランプ回路に流れる電流は0.5A流出することとなる。特許文献1に示されるように、スイッチング素子に加わる電源電圧が20V程度であれば、能動クランプ素子のサージ電力は少なくて済むが、スイッチング電源又はモーター駆動装置等に使用されるスイッチング素子の電源電圧は200〜400Vと高電圧である。ここで、能動クランプ回路に加わるサージ電力は、サージ電圧と前記電流の積となるので、少なくとも、100〜200Wのサージ耐量のある素子が必要となる。したがって、特許文献1,2に記載されるような装置は、能動クランプ回路におけるクランプ素子の放熱手段・信頼性・価格の面で不利であった。
【0008】
また、GaN HEMT等のアバランシェ耐量を持たないスイッチング素子において定格電圧を超えるサージ電圧を印加することは破損につながるため、このようなスイッチング素子のゲートを駆動するゲート駆動回路は、能動クランプ回路を備えていることが必須要件である。しかしながら、従来のシリコンMOSFETで使用されるゲート抵抗の抵抗値10〜数10Ωと異なり、GaN HEMT等のゲート駆動におけるゲート抵抗は0Ωに近い低抵抗が好ましく、従来の能動クランプ回路を採用すると駆動電流はさらに増加することになるので、対応が困難である。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、応答性を損なうことなく能動クランプ素子の損失電力を低減できる能動クランプ回路を用いたゲート駆動回路及び半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るゲート駆動回路は、上記課題を解決するために、スイッチング素子のゲートを駆動するゲート駆動回路であって、制御信号に基づいて前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、前記駆動部による前記スイッチング素子に対する駆動動作を強制的に遮断して、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間の電圧がクランプされるように前記スイッチング素子を駆動するアクティブクランプ回路とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る半導体装置は、上記課題を解決するために、直流電源の電源端子間に負荷を介して接続され、前記負荷に流れる電流を制御する半導体装置であって、前記直流電源及び前記負荷に直列に接続されたスイッチング素子と、制御信号に基づいて前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、前記駆動部による前記スイッチング素子に対する駆動動作を強制的に遮断して、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間の電圧がクランプされるように前記スイッチング素子を駆動するアクティブクランプ回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応答性を損なうことなく能動クランプ素子の損失電力を低減できる能動クランプ回路を用いたゲート駆動回路及び半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1の形態のゲート駆動回路の構成を示す回路図である。
【図2】本発明の実施例1の形態のゲート駆動回路を用いたスイッチング電源の構成を示す回路図である。
【図3】本発明の実施例1の形態のゲート駆動回路を用いたスイッチング電源の動作を示す波形図である。
【図4】本発明の実施例1の形態のゲート駆動回路の別の構成例を示す回路図である。
【図5】本発明の実施例1の形態のゲート駆動回路の別の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のゲート駆動回路及び半導体装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態の構成を説明する。図1は、本発明の実施例1のゲート駆動回路の構成を示す回路図である。このゲート駆動回路は、図1に示すようにスイッチ素子Tr7のゲートを駆動するゲート駆動回路であり、トランジスタTr1〜Tr6、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、及び抵抗R1により構成される。なお、スイッチ素子Tr7は、本発明のスイッチング素子に対応し、GaN HEMT等の半導体素子により構成される。また、本実施例の半導体装置は、ゲート駆動回路とスイッチ素子Tr7とを含めた全体の構成となる。
【0016】
トランジスタTr1〜Tr6は、本実施例を実現するに際し、N型MOSFETでもよいし、N型GaN HEMTを使用してもよい。あるいは、同じ機能を持たせるために組み合わされた他の半導体素子により構成されていてもよい。
【0017】
トランジスタTr1,Tr2,Tr4,Tr5は、全体として本発明の駆動部に対応し、入力端子Inに入力される制御信号に基づいてスイッチ素子Tr7を駆動する。
【0018】
トランジスタTr1は、ドレインが電源端子Vccに接続され、ソースが自己のゲート、トランジスタTr2,Tr3のドレイン、及びトランジスタTr5のゲートに接続されている。なお、トランジスタTr1は、本実施例においてノーマリーオン型のGaN HEMTにより構成されているものとするが、定電流素子、あるいは抵抗に置き換えてもよい。
【0019】
入力端子Inは、例えば図示されない外部の制御回路により出力されたスイッチ素子Tr7をオン/オフさせるための制御信号を受けるための入力端子であり、トランジスタTr2のゲート端子及びトランジスタTr4のゲート端子に接続されている。
【0020】
トランジスタTr2は、ドレインがトランジスタTr1のソースに接続され、ゲートが入力端子Inに接続され、ソースがスイッチ素子Tr7のソースに接続されている。トランジスタTr4は、ドレインが電源端子Vccに接続され、ゲートが入力端子Inに接続され、ソースがトランジスタTr5のドレイン、トランジスタTr6のソース、及びスイッチ素子Tr7のゲートに接続されている。トランジスタTr5は、ドレインがトランジスタTr4のソースに接続され、ゲートがトランジスタTr1のソースに接続され、ソースがスイッチ素子Tr7のソースに接続されている。
【0021】
サージ電圧が発生していないかあるいはサージ電圧が小さい(能動クランプ電圧に達していない)場合における駆動部の通常の動作について簡潔に述べる。駆動部は、入力端子Inに入力されるゲート駆動信号に基づいてスイッチ素子Tr7のオンオフを以下に述べるように制御する。
【0022】
入力端子InにHレベルの信号が入力されるとトランジスタTr2,Tr4がオンする。また、トランジスタTr2のオン動作に伴ってトランジスタTr5のゲート電圧が0Vになるため、トランジスタTr5はオフする。同時にトランジスタTr4のオンにより制御電源VccからトランジスタTr4を介してスイッチ素子Tr7のゲート端子にゲート電圧が印加され、スイッチ素子Tr7はオンする。
【0023】
また、入力端子InにLレベルの信号が入力されると、トランジスタTr2,Tr4はオフする。また、トランジスタTr5のゲート端子にトランジスタTr1のバイアス電圧が入力されるため、トランジスタTr5はオンする。これにより、スイッチ素子Tr7のゲート電圧が0Vになるため、スイッチ素子Tr7はオフする。
【0024】
ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、抵抗R1、及びトランジスタTr3,Tr6は、全体として本発明のアクティブクランプ回路に対応し、スイッチ素子Tr7のドレイン(第1主端子)とソース(第2主端子)との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、駆動部によるスイッチ素子Tr7に対する駆動動作を強制的に遮断して、スイッチ素子Tr7のドレインとソースとの間の電圧がクランプされるようにスイッチ素子Tr7を駆動する。このアクティブクランプ回路の詳細な動作については後述する。
【0025】
ダイオードD1は、アノードがスイッチ素子Tr7のドレインに接続され、カソードがツェナーダイオードZD1のカソードに接続されている。また、ツェナーダイオードZD1は、アノードがトランジスタTr3,Tr6のゲート及び抵抗R1の一端に接続され、カソードがダイオードD1のカソードに接続されている。抵抗R1は、一端がトランジスタTr3,Tr6のゲート及びツェナーダイオードZD1のアノードに接続され、他端がスイッチ素子Tr7のソースに接続されている。
【0026】
トランジスタTr3は、ドレインがトランジスタTr1のソースに接続され、ゲートがツェナーダイオードZD1のアノードに接続され、ソースがスイッチ素子Tr7のソースに接続されている。トランジスタTr6は、ドレインが電源端子Vccに接続され、ゲートがツェナーダイオードZD1のアノードに接続され、ソースがスイッチ素子Tr7のゲートに接続されている。
【0027】
ここで、高圧電圧から負荷を介してスイッチ素子Tr7のドレイン端子に接続してオンオフした場合のアクティブクランプ回路の動作について簡潔に説明する。ここでは、スイッチング電源用のスイッチ素子を仮定して、接続する負荷を誘導性負荷とする。
【0028】
誘導性負荷を接続してオン/オフ・スイッチングすると、誘導性負荷の逆起電力によりスイッチ素子Tr7のスイッチングオフ時に、ドレイン・ソース間にサージ電圧を生じる。一般には、スイッチ素子Tr7のドレイン・ソース間に抵抗・コンデンサからなるスナバ回路を接続してサージ電圧を吸収させるが、スイッチング電源の電源投入時或いは出力短絡時には負荷に流れる電流が急峻してサージ電圧が上昇し、スナバ回路では抑制しきれない。
【0029】
ここで、スイッチング素子がシリコンMOSFETであれば、素子固有のアバランシェ電圧でサージ電圧をクランプする。クランプされたサージエネルギーは熱に変換され、サージエネルギーによる発熱が素子の接合温度以内に収まれば破損しない。
【0030】
しかし、スイッチング素子がGaN等のHEMT等の場合には、アバランシェ耐量を持たないため、定格電圧を超えたサージ電圧の印加は、即、素子の破損につながる。
【0031】
そこで、本実施例のゲート駆動回路は、アクティブクランプ回路(図1に示すダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、抵抗R1、及びトランジスタTr3,Tr6)によりサージ電圧を吸収させる。従来技術と異なるのは、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、抵抗R1によりサージ電圧を検出するが、抵抗R1の電圧降下となるサージ電圧検出信号を直接スイッチ素子Tr7のゲート信号へ入力せず、トランジスタTr6を介してサージ電圧検出信号を増幅し、制御電源Vccからゲート信号を得る点である。これと同時に、アクティブクランプ回路は、抵抗R1の電圧降下となるサージ電圧検出信号をトランジスタTr3のゲート駆動電圧にしてトランジスタTr3をオンさせて、上述した駆動部におけるトランジスタTr5をオフさせる。すなわち、入力端子Inのゲート信号はオフ状態であり、前述のゲート駆動回路はオフ駆動となっている。この時、スイッチ素子Tr7のゲート端子を駆動しているのはトランジスタTr1,Tr5のみであるため、少なくともトランジスタTr5をオフすることで、アクティブクランプ回路は、スイッチ素子Tr7のゲート端子から駆動部を切り離すことが可能になる。
【0032】
すなわち、アクティブクランプ回路は、駆動部を切り離すことで駆動部による動作を強制的に遮断し、さらにトランジスタTr6によりスイッチ素子Tr7をオン動作させることができる。
【0033】
また、アクティブクランプ回路は、トランジスタTr6を介してサージ電圧検出信号を増幅し、制御電源Vccからスイッチ素子Tr7のゲートを駆動することで、能動クランプ素子であるZD1の損失を従来技術よりも大幅に低減することができ、信頼性の向上を図ることができる。
【0034】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図2は、本実施例のゲート駆動回路10を用いたフライバック方式のスイッチング電源の構成を示す回路図であり、ゲート駆動回路10以外の構成については一般的なスイッチング電源の構成である。なお、ゲート駆動回路10は、図1で説明したゲート駆動回路と比べると、トランジスタTr1の代わりに定電流源CC1が設けられている点やダイオードD3が追加されている点等が異なるが、基本的な作用効果は図1のゲート駆動回路と同様である。ダイオードD3の効果については後述する。
【0035】
また、本実施例の半導体装置は、ゲート駆動回路10とスイッチ素子Tr7とにより構成され、直流電源Vdcの電源端子間に負荷を介して接続され、負荷に流れる電流を制御する。ここで、スイッチ素子Tr7は、直流電源Vdc及び負荷に直列に接続されている。また、スイッチ素子Tr7のソース側は、GND電位であるものとする。
【0036】
具体的には、図2に示すスイッチング電源は、直流電源VdcがトランスT1の1次巻線P1を介してスイッチ素子Tr7に接続された構成を有しており、スイッチ素子Tr7をオンオフ制御することで1次巻線P1に蓄積した電力を2次巻線S1側に供給する。
【0037】
ここで、トランスT1の2次巻線にはダイオードD5とコンデンサC3により構成される整流平滑回路が接続されている。また、当該整流平滑回路により整流平滑された出力電圧を安定化するために、コンデンサC3と並列接続された誤差増幅器IC2は、フォトカプラPC1を介して1次側にある制御回路IC1に誤差信号を送る。
【0038】
制御回路IC1は、誤差信号に基づいてスイッチ素子Tr7のオンオフ時間を制御する制御信号を入力端子Inを介してゲート駆動回路10に出力し、スイッチ素子Tr7のオンオフを制御する。
【0039】
なお、スイッチ素子Tr7のドレインソース間に接続されている抵抗R2とコンデンサC1の直列回路は、スナバ回路を構成し、トランスT1の1次巻線P1からのサージ電圧を吸収する。また、ダイオードD4、コンデンサC2、及びトランスT1の1次巻線P2は、制御回路IC1とゲート駆動回路10の制御電源Vccを構成する。
【0040】
図3は、本実施例のゲート駆動回路10を用いたスイッチング電源の動作を示す波形図である。図3に示すように、時刻t1において制御回路IC1が入力端子InにHレベルの制御信号を入力すると、ゲート駆動回路10におけるトランジスタTr2,Tr4は、ゲート端子にHレベル電圧が入力されてオンする。また、トランジスタTr2がオンすることにより、トランジスタTr5は、ゲート端子に0Vが入力されてオフする。すなわち、トランジスタTr5は、トランジスタTr2を介してInからの反転信号が入力されることになる。また、トランジスタTr4がオンすることにより制御電源VccからトランジスタTr4を介してスイッチ素子Tr7のゲート端子にHレベルのゲート電圧が印加されるため、スイッチ素子Tr7はオンする。
【0041】
時刻t2において制御回路IC1がLレベルの信号を入力端子Inに出力すると、ゲート駆動回路10は、時刻t1の場合と逆の動作を行う。すなわち、トランジスタTr4はオフし、トランジスタTr5はオンする。また、トランジスタTr5がオンすることによりスイッチ素子Tr7のゲート端子の電圧をLレベル(0V)にするため、スイッチ素子Tr7はオフする。
【0042】
この場合において、時刻t1〜t2のオン期間が短いため、スイッチ素子Tr7のドレイン電流Idは少なく、スイッチ素子Tr7のスイッチングオフ時のサージ電圧は、能動クランプ電圧まで至らない。すなわち、当該サージ電圧は、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧まで達しない。このため、抵抗R1における電圧降下は生じず、抵抗R1の電圧を示すA点電位は、ゼロボルトのままである。したがって、A点電位に変化がないため、トランジスタTr3,Tr6の状態に変化は生じない。
【0043】
次に、負荷電流が増加すると出力側からの誤差信号に基づいて、制御回路IC1は、入力端子Inに出力する制御信号によりスイッチ素子Tr7のオン時間が長くなるように制御する。ここで、スイッチ素子Tr7を時刻t10でオンして時刻t11でオフした場合には、スイッチ素子Tr7のドレイン電流Idは、時刻t2の場合に比して数倍に増加しているので、時刻t11のスイッチングオフ時におけるドレインソース間にかかるサージ電圧は急増し、ゲート駆動回路10のツェナーダイオードZD1のツェナー電圧を超えようとする。
【0044】
このとき、ダイオードD1を介してツェナーダイオードZD1から抵抗R1に電流が流れ、A点電位は上昇する。A点電位の上昇に伴ってトランジスタTr3がオンするため、トランジスタTr5はオフする。これにより、スイッチ素子Tr7のゲート端子はGND電位からオープン状態となるが、A点電位が上昇する同時刻にトランジスタTr6もオンし、制御電源Vccからスイッチ素子Tr7のゲート端子に電圧が印加される。
【0045】
ここで、トランジスタTr6のゲート端子電圧は、スイッチ素子Tr7のドレイン電圧からダイオードD1及びツェナーダイオードZD1を介して供給されている。したがって、スイッチ素子Tr7のドレインソース間電圧は、ダイオードD1の順方向電圧+ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧+A点電位(スイッチ素子Tr7のしきい値Vth+トランジスタTr6のしきい値電圧Vth)で平衡することになる。
【0046】
すなわち、ほぼツェナーダイオードZD1のツェナー電圧でスイッチ素子Tr7のドレイン電圧はクランプされ、サージ電圧のエネルギーは時刻t11〜t12までスイッチ素子Tr7のドレイン電流として流れ、スイッチ素子Tr7内部で消費される。
【0047】
したがって、スイッチ素子Tr7にサージ電圧が印加されても、ゲート駆動回路10のツェナーダイオードZD1のツェナー電圧でほぼクランプされるので、耐圧による破損は生じない。
【0048】
また、スイッチ素子Tr7のオフ駆動時のゲート駆動回路10には、従来技術のように、サージ電圧をクランプする時にツェナーダイオードZD1からの電流が流れこまないので、抵抗R1のA点電位を上昇させるだけのツェナー電流でよく、ツェナーダイオードZD1のサージ耐量も小さくて済む。
【0049】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係るゲート駆動回路及び半導体装置によれば、応答性を損なうことなく能動クランプ素子の損失電力を低減できる能動クランプ回路を実現することができる。
【0050】
すなわち、本実施例のゲート駆動回路及び半導体装置は、制御信号に基づいてスイッチ素子Tr7がオン状態からオフへ駆動され、ドレイン‐ソース間電圧が定格電圧近傍まで上昇した場合に能動クランプ回路が動作し、ドレイン‐ソース間電圧をクランプするためのクランプ信号をA点において生成する。このクランプ信号に基づいて、トランジスタTr6を介してスイッチ素子Tr7のゲートにクランプするための駆動信号を出力するとともに、トランジスタTr3をオンすることによりトランジスタTr5のゲート端子をGNDに接地してオフ駆動している駆動部を切り離し、駆動部に能動クランプ回路からの電流を流れこませないようにしたものである。
【0051】
本実施例のゲート駆動回路及び半導体装置は、特にGaN HEMT等のアバランシェ耐量を持たないスイッチング素子に有効となるものである。GaN HEMT等のアバランシェ耐量を持たないスイッチング素子において定格電圧を超えるサージ電圧を印加することは破損につながるため、能動クランプ回路を備えたゲート駆動回路が必要とされている。また、GaN HEMT等のゲート駆動において、従来のシリコンMOSFETで使用されるゲート抵抗の抵抗値10〜数10Ωと異なり、ゲート抵抗は0Ωに近い低抵抗が好ましく、従来の能動クランプ回路を採用すると駆動電流はさらに増加することになるので対応が困難であるところ、本実施例のゲート駆動回路及び半導体装置は、スイッチ素子Tr7にGaN HEMT等のアバランシェ耐量を持たないスイッチング素子を問題なく採用することができ、ゲート抵抗が低抵抗であるため高速スイッチングが可能であり、さらにツェナーダイオードZD1等の能動クランプ素子における損失や破損を回避して、装置の低コスト化、小型化に資することができる。
【0052】
さらに、本実施例の半導体装置は、Tr1〜Tr7を同じ半導体素子(例えばGaN HEMT)を用いて構成することにより、容易に1チップで実現可能である。
【0053】
なお、図4は、本実施例のゲート駆動回路の別の構成例を示す回路図である。図1に示すゲート駆動回路と異なる点は、抵抗R1が無く、アノード側がA点に接続されカソード側が制御電源Vccに接続されたダイオードD3が設けられている点である。図4に示すゲート駆動回路において、A点の電圧は、ダイオードD3によりVcc+Vfに制限される。なお、VfはダイオードD3の両端にかかる電圧である。したがって、図1のゲート駆動回路は、A点の電圧の不安定性によりトランジスタTr3,Tr6の耐圧を超える電圧がA点に生じてトランジスタTr3,Tr6を破損する可能性があるところ、図4に示すゲート駆動回路は、ダイオードD3によりA点の電圧を制限し、トランジスタTr3,Tr6の破損を回避することができる。
【0054】
また、図5は、本実施例のゲート駆動回路の別の構成例を示す回路図である。図4に示すゲート駆動回路と異なる点は、A点とスイッチ素子Tr7のソース(GND)との間にプルダウン用のトランジスタTr8が設けられている点である。図4の場合においては、トランジスタTr3,Tr6のゲートがオープン状態となり、ノイズによる誤動作が考えられるが、図5に示すゲート駆動回路は、プルダウン用のトランジスタTr8を設けることにより、外来ノイズに対して強い回路構成となっている。なお、トランジスタTr8の代わりに定電流素子や抵抗を接続しても同じ効果が期待できる。図2に示すゲート駆動回路10は、トランジスタTr8の代わりに抵抗R1を採用した場合の構成を示している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るゲート駆動回路及び半導体装置は、電気機器等に使用されるスイッチング電源等に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 ゲート駆動回路
C1〜C3 コンデンサ
CC1 定電流源
D1〜D5 ダイオード
IC1 制御回路
IC2 誤差増幅器
In 入力端子
P1,P2 1次巻線
PC1 フォトカプラ
R1,R2 抵抗
S1 2次巻線
T1 トランス
Tr1〜Tr6 トランジスタ
Tr7 スイッチ素子
Tr8 トランジスタ
Vcc 制御電源
Vdc 直流電源
ZD1 ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のゲートを駆動するゲート駆動回路であって、
制御信号に基づいて前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、
前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、前記駆動部による前記スイッチング素子に対する駆動動作を強制的に遮断して、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間の電圧がクランプされるように前記スイッチング素子を駆動するアクティブクランプ回路と、
を備えることを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項2】
前記スイッチング素子は、GaN HEMTであることを特徴とする請求項1記載のゲート駆動回路。
【請求項3】
直流電源の電源端子間に負荷を介して接続され、前記負荷に流れる電流を制御する半導体装置であって、
前記直流電源及び前記負荷に直列に接続されたスイッチング素子と、
制御信号に基づいて前記スイッチング素子を駆動する駆動部と、
前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間に印加される電圧が所定電圧以上の場合に、前記駆動部による前記スイッチング素子に対する駆動動作を強制的に遮断して、前記スイッチング素子の第1主端子と第2主端子との間の電圧がクランプされるように前記スイッチング素子を駆動するアクティブクランプ回路と、
を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、GaN HEMTであることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124565(P2012−124565A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271407(P2010−271407)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】