説明

コンデンサの製造方法

【課題】誘電率が高く、リーク電流が大きく劣化しない誘電体層を有するコンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】チタン、バリウム、ストロンチウム、及びIA族元素を含む誘電体前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を700〜900℃で熱処理し、高誘電体膜を得る熱処理工程とを有し、前記高誘電体膜は誘電体100重量部に対し1.5〜5重量部のIA族元素を含むコンデンサの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサの製造方法に関するものであり、特に半導体の電源供給のために用いられるデカップリングコンデンサの製造方法に好適に用いることができるコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の演算速度高速化のため、半導体素子はインピーダンスが急激に変動したときなどに動作電源電圧が不安定になりやすい。この電源電圧を安定させ、かつ高周波ノイズを低減させるため、電圧電源ラインとグランドラインとの間にデカップリングコンデンサを配置している。従来のデカップリングコンデンサはマザーボードである回路基板上にチップコンデンサを半導体チップ近傍に設けて実装している。この場合、チップコンデンサと半導体チップとの間で配線の引き回しが必要であり、これらのリード間では比較的大きなインダクタンスが存在する。従って、チップコンデンサを設けても高速動作の半導体に対しての電源電圧変動の抑制及び高周波ノイズの低減の効果は少なくなってしまっていた。デカップリングコンデンサに要求されることは基板回路の等価直列抵抗及び等価直列インダクタンスを低減することである。特に、デカップリングコンデンサと半導体との間の配線の引き回しによるインダクタンスの増加はデカップリングコンデンサの高周波特性を妨げている。そこで、半導体の直下にコンデンサを配置することにより、半導体とデカップリングコンデンサとの配線距離を最短にしてインダクタンスを低減させることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
このような半導体直下にもうけるデカップリングコンデンサは、大容量で薄いものが求められていることから積層セラミックコンデンサよりも、高誘電率の誘電体薄膜を電極ではさみこんだタイプの対向電極型薄膜コンデンサが好ましい。
【0004】
薄膜誘電体層として、ペロブスカイト構造を持つチタン酸バリウムストロンチウム(以下、「BST」という。)を用いることが、誘電率の高さおよびPbを含まないため環境適応型コンデンサとして好ましいことが知られている(特許文献2)。
【0005】
一方、同じ誘電体層を用いた構造であるが、半導体メモリ用の誘電体としてBSTにIa族元素として、Li、Na,Kを添加することにより250〜500℃の低温で誘電体膜を結晶化できることが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平04−225594号公報
【特許文献2】特開平09−078249号公報
【特許文献3】特開2000−77616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薄膜デカップリングコンデンサに適したBSTは、(Ba1−xSrTiO組成(xは0〜1,yは1.0〜1.10)であるが、組成が同一であっても、製造方法が異なると、その構造が異なるため誘電率、リーク特性等は大きく変化する。そして、従来の製造方法では、十分に高い誘電率と低いリーク特性を両立することは困難であった。
【0007】
なお、上記特許文献3に記載の誘電体素子は同じBSTを用いた素子であるが、半導体メモリ用であるため、250〜500℃の低温熱処理であっても、より高温(500℃)の熱処理を用いた場合と同等の「高い残留分極Pr値を維持」することを目的としている。また、スパッタ法によるBST膜であるため、成膜コストが高価なものとなり、汎用電子部品であるデカップリングコンデンサには適用が困難であった。なお、デカップリングコンデンサにおいては、残留分極特性が良いことは全く要求されず、悪くとも特に問題とはならない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、誘電率が高く、リーク電流が大きく劣化しない大容量コンデンサを安価に製造できるコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、チタン、バリウム、ストロンチウム、及びIA族元素を含む誘電体前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を700〜900℃で熱処理し、高誘電体膜を得る熱処理工程とを有し、前記高誘電体膜は誘電体100重量部に対し1.5〜5重量部のIA族元素を含むコンデンサの製造方法である。
【0010】
これらの誘電体膜の製造方法によれば、誘電率が向上してもリーク電流増加を抑制することが可能となる。誘電体膜がIA族元素が含まれていない場合は、焼成温度を高くすると、誘電率は少しは上昇はするが、格子中の欠陥によるキャリアが発生しやすく、これがリーク電流の大幅な劣化原因となる。これに対し、本発明は、上記IA族元素を特定量含み、且つ焼成温度を特定範囲に設定することで、上記のようなキャリアの発生が十分に抑制されて、大幅な誘電率の上昇にも係わらずリーク電流が抑制されている。また、誘電体前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する方法のため、安価な装置で大面積の塗膜を形成することができる。
【0011】
また、本発明はIA族元素がLiであることが好ましい。Liは他のIA族元素、例えば、NaやKに比べてBSTに固溶しやすいので、Liを用いると、誘電体膜の誘電率をより向上させやすいという利点がある。
【0012】
本発明のコンデンサは、特にデカップリングコンデンサとして好適に用いられる。高誘電率で低リーク特性の誘電体薄膜を安価に大面積に形成可能であり、かつコンデンサ全体を薄くすることが可能だからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘電率が高く、リーク電流が大きく劣化せずかつ安価に大面積に形成可能な誘電体層を有するコンデンサの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明のコンデンサの製造方法は、基体上に下部電極を形成する工程と、誘電体前駆体溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、塗膜を熱処理し高誘電体膜を得る焼成工程と、誘電体膜上に上部電極を形成する工程から製造される。このうち、基体上に下部電極を形成する工程と誘電体膜上に上部電極を形成する工程は従来公知の工程と同じ汎用工程である。
【0016】
基体上に下部電極を形成する工程としては、例えば、熱酸化膜付きSiウェハ上に密着層としてスパッタ法でTiO層を成膜した上に導電性材料、例えばPtをスパッタ法で成膜する。あるいは、基体と下部電極の両方の機能を有する金属箔、例えばニッケル金属箔を用いることも可能である。
【0017】
誘電体前駆体溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程において、誘電体前駆体溶液としては、有機化合物を溶解したゾルゲル原料溶液やMOD(有機金属分解法)原料溶液がある。例えば、金属アルコキシド、有機酸塩をトルエンやキシレン等の有機溶媒に溶解した溶液である。
【0018】
なお、ゾルゲル法とMOD法とは完全に別個に用いられる方法ではなく、相互に組み合わせて使用することが一般的である。例えば、Ba源(ソース)として酢酸Baを用い、Ti、Sr源としてその金属アルコキシドを用いて溶液を調製することができる。或いは、ゾルゲル法とMOD法の二つの方法を総称してゾルゲル法と呼ぶ場合もあり、いずれの場合も前駆体溶液を塗布し焼成することによって誘電体層を形成することができる。
【0019】
すなわち、誘電体前駆体溶液のBa,Sr,Ti、IA族元素のソースとしては、金属のアルコキシド,金属錯体または金属カルボン酸塩等の有機金属塩を用いることができる。金属アルコキシドとしては、例えばOCH、OC、OC、OC、OCOCHなどのアルコキシル基からなるアルコキシドを用いることができる。金属錯体化合物としては前記金属のアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルジフルオロアセトン、ベンゾイルフルオロアセトンの錯体等が挙げられる。また、金属カルボン酸塩としては、例えば、酢酸,シュウ酸等の金属カルボン酸塩を用いることができる。使用する溶媒は、前記金属ソースである誘電体前駆体を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばトルエン、キシレンや、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類などを用いることができる。
【0020】
本発明においては焼成後の誘電体100重量部に対し1.5〜5重量部のLi、Na、KなどのIA族元素を含むように、誘電体前駆体溶液にIA族元素の前駆体を加える。添加量が前記範囲未満では効果が顕著でなく、前記範囲を超えると誘電率が低下する。なお、焼成条件によっては、焼成段階で膜から揮発等により抜けやすい元素もあるため、その前駆体溶液への添加量はそれを考慮する場合もある。
【0021】
次に誘電体前駆体溶液を、下部電極上に塗布して塗膜を形成する(塗布工程)。塗布は、公知の方法、例えば、スピンコート法、スピンキャスト法、ブレード法、スプレーコート法、バーコート法、ディップ法などの塗布法によって行うことができる。その後、塗膜を乾燥させて、塗膜中の溶媒をほぼ除去する。
【0022】
そして、塗膜を熱処理し高誘電体膜を得る熱処理(焼成)工程を行う。通常、誘電体前駆体溶液法で塗膜の焼成を行う場合は、焼成を2段階で行う。即ち、まず塗膜について仮焼成を行った後、本焼成を行う。仮焼成は通常、焼成温度を300〜500℃、昇温速度を1〜1000℃/分、保持時間を1〜30分に設定して行う。これらはホットプレート上にて行うことができる。
【0023】
本焼成は、仮焼成した塗膜を700〜900℃で焼成する(焼成工程)。前記範囲未満ではリーク電流は低いが、誘電率も低い。前記範囲を超えるとリーク電流が急激に増加し誘電率の評価も困難となる。
【0024】
前記温度範囲で焼成する限り、昇温速度、保持時間は特に限定されず、適宜設定することが可能である。通常は、塗膜が目標の膜厚になるまで塗膜の形成−仮焼成−本焼成のサイクルを繰り返す。このとき塗膜の形成−仮焼成のサイクルを繰り返し最後に本焼成を行い目標の膜厚を有する誘電体膜を形成してもよい。こうして誘電体膜の製造が完了する。
【0025】
次に、誘電体膜上に上部電極を形成する工程としては、導電性材料、例えばCuをスパッタ法で成膜する。膜厚が5〜30μm必要な場合には、さらに銅めっき等により厚付けすることも可能である。以上のようにしてコンデンサの製造が完了する。
【0026】
上記コンデンサの製造方法によれば、誘電率が高く、リーク電流が大きく劣化せずかつ安価に大面積に形成可能な誘電体層を有するコンデンサを得ることができる。なお、誘電率が高く、リーク電流が大きく劣化しない理由は定かではないが、特定量のIA族元素が添加されており、且つ本焼成が特定温度範囲で行われることで、格子欠陥によるキャリアの発生が十分に抑制されるためではないかと考えている。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の内容を、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
厚さ0.5mmの熱酸化膜付きSiウェハ上に、スパッタリング法により厚さ5nmのTiO層を形成した。続いて、TiO膜の上に、Ptをスパッタリングして、Ptからなる厚さ100nmの下部電極層を形成した。
【0029】
次に、誘電体前駆体溶液を次のようにして調製した。トルエンおよびブタノールからなる混合溶媒中に、組成式:(Ba0.7Sr0.31.03TiOで表されるBSTが焼成後得られるよう、チタン、バリウム、ストロンチウムが含有されたオクチル酸を原料とするBST用MOD前駆体溶液に、焼成後のBST100重量部に対しLiをオクチル酸リチウムとして添加した。
【0030】
次に、上記のようにして調製した誘電体前駆体溶液を、下部電極層の上に、スピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。その後、150℃で10分間、塗膜を乾燥させて、塗膜中の溶媒を除去した。
【0031】
次に、塗膜を焼成した。焼成は仮焼成(焼成温度:300℃、昇温速度:10℃/分、保持時間:10分)及び本焼成(焼成温度:300〜1000℃、昇温速度:100℃/分、保持時間:30分)の2段階で行った。
【0032】
そして、再び誘電体前駆体溶液を塗布し、上記2段階焼成を行った。こうして上記塗布及び2段階焼成を1サイクルとして繰返し5回行い、膜厚130nmの誘電体薄膜を形成した。
【0033】
最後に、誘電体膜上に、Ptのスパッタリングにより、Ptからなる厚さ200nmの上部電極層を得た。以上のようにしてコンデンサを得た。
【0034】
こうして得られたコンデンサについて、比誘電率、リーク電流密度、及び誘電損失を測定した。上部電極および下部電極にプローブ針を押し当て、インピーダンスアナライザにより100kHzにおける誘電率および誘電損失を測定した。同様にリーク電流密度は半導体パラメータアナライザにより、室温下で測定した。リーク電流密度は、室温下で、上部電極層と下部電極層との間に100kV/cmの電界を印加したときに生じる電流を測定した。結果を図1および図2に示す。なお、図1および図2において、「○」はLi含有量が0重量部、「●」は1.0重量部、「△」は、1.5重量部、「▲」は、3.0重量部、「▽」は5.0重量部、「▼」は、8.0重量部の場合をそれぞれ示している。
【0035】
すなわち、Li含有量が1重量部では未添加と比して大きな差はない。しかし、1.5、3、5重量部の場合には、700〜900℃において、未添加と比して明らかな誘電率の上昇が見られるが、未添加と比してリーク電流はむしろ低下している。8重量部の場合にはどの温度範囲においても誘電率が低下した。なお、1000℃熱処理においてはリーク電流が大きく流れるため、誘電率の測定は困難であった。
【0036】
また、誘電損失は900℃以下の熱処理温度においては、いずれも5%以下であったが、1000℃では20%を超えた。
【0037】
以上の結果から、Liを含有するBST膜を誘電体前駆体溶液を用い成膜し、700〜900℃で焼成した場合には、Li含有量が1.5〜5重量部の場合に誘電率を向上しつつ、リーク電流増加を抑制できていることが確認された。
【0038】
なお、誘電体膜組成はICPにて確認し、ほぼ誘電体前駆体溶液添加量比に応じた膜組成が確認された。
【0039】
また、本実施例のコンデンサは、対向電極面積2cm角であっても2μF以上の高容量を示し、CPU直下に設置するデカップリングコンデンサとして使用可能であった。さらに、スパッタ法によるBST薄膜を有するコンデンサよりも高容量であるばかりでなく、製造コストも概ね50%であった。以上の結果から本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、焼成温度による誘電率の変化を、Li含有量をパラメターに示した図である。
【図2】図2は、焼成温度によるリーク電流の変化、Li含有量をパラメターに示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、バリウム、ストロンチウム、及びIA族元素を含む誘電体前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を700〜900℃で熱処理し、高誘電体膜を得る熱処理工程とを有し、
前記高誘電体膜は誘電体100重量部に対し1.5〜5重量部のIA族元素を含むコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記IA族元素がLiである、請求項1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記コンデンサがデカップリングコンデンサである、請求項1乃至3に記載のコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−180398(P2007−180398A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379155(P2005−379155)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】