説明

ソース−ドレイン電極、薄膜トランジスタ基板およびその製造方法、並びに表示デバイス

【課題】下部バリアメタル層を省略しても優れたTFT特性を発揮し得、ソース−ドレイン配線をTFTの半導体層に直接かつ確実に接続することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明のソース−ドレイン電極34は、窒素含有層と純AlまたはAl合金の薄膜とからなる。窒素含有層の窒素は、薄膜トランジスタの半導体層33のSiと結合しており、純AlまたはAl合金の薄膜は、窒素含有層を介して薄膜トランジスタの半導体層33と接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、半導体、光学部品などに使用される薄膜トランジスタ用ソース−ドレイン電極、薄膜トランジスタ基板およびその製法、並びに表示デバイスに関し、特に、純AlまたはAl合金の薄膜を構成要素として含む新規なソース−ドレイン電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野に用いられる液晶表示装置は、画素の駆動方法によって、単純マトリクス型液晶表示装置とアクティブマトリクス型液晶表示装置とに分けられる。このうちスイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transitor、以下、TFTと呼ぶ。)を有するアクティブマトリクス型液晶表示装置は、高精度の画質を実現でき、高速の画像などにも対応できるため、汎用されている。
【0003】
図1を参照しながら、アクティブマトリクス型液晶表示装置に適用される代表的な液晶パネルの構成および動作原理を説明する。ここでは、活性半導体層として水素アモルファスシリコンを用いたTFT基板(以下、アモルファスシリコンTFT基板と呼ぶ場合がある。)の例を説明する。
【0004】
図1に示すように、液晶パネル100は、TFT基板1と、TFT基板1に対向して配置された対向基板2と、TFT基板1と対向基板2との間に配置され、光変調層として機能する液晶層3とを備えている。TFT基板1は、絶縁性のガラス基板1a上に配置されたTFT4、透明画素電極5、走査線や信号線を含む配線部6を有している。透明画素電極5は、酸化インジウム(In)中に酸化錫(SnO)を10質量%程度含む酸化インジウム錫(ITO)膜などから形成されている。TFT基板1は、TABテープ12を介して連結されたドライバ回路13および制御回路14によって駆動される。
【0005】
対向基板2は、TFT基板1側に、絶縁性のガラス基板1bの全面に形成された共通電極7と、透明画素電極5に対向する位置に配置されたカラーフィルタ8と、TFT基板1上のTFT4および配線部6に対向する位置に配置された遮光膜9とを有している。対向基板2は、液晶層3に含まれる液晶分子(不図示)を所定の向きに配向させるための配向膜11を更に有している。
【0006】
TFT基板1および対向基板2の外側(液晶層3側とは反対側)には、それぞれ、偏光板10a,10bが配置されている。
【0007】
液晶パネル100では、対向電極2と透明画素電極5との間に形成される電界によって液晶層3における液晶分子の配向方向が制御され、液晶層3を通過する光が変調される。これにより、対向基板2を透過する光の透過量が制御されて画像が表示される。
【0008】
次に、図2を参照しながら、液晶パネルに好適に用いられる従来のアモルファスシリコンTFT基板の構成および動作原理を詳しく説明する。図2は、図1中、Aの要部拡大図である。
【0009】
図2に示すように、ガラス基板(不図示)上には、走査線(ゲート薄膜配線)25が形成され、走査線25の一部は、TFTのオン・オフを制御するゲート電極26として機能
する。ゲート電極26を覆うようにしてゲート絶縁膜(Si窒化膜)27が形成されている。ゲート絶縁膜27を介して走査線25と交差するように信号線(ソース−ドレイン配線)34が形成され、信号線34の一部は、TFTのソース電極28として機能する。ゲート絶縁膜27上に、アモルファスシリコンチャネル膜(活性半導体膜)33、信号線(ソース−ドレイン配線)34、層間絶縁Si窒化膜(保護膜)30が順次形成されている。このタイプは一般にボトムゲート型とも呼ばれる。
【0010】
アモルファスシリコンチャネル膜33は、P(リン)がドープされたドープト層(n層)と、Pがドープされていないイントリンシック層(i層、ノンドーピング層とも呼ばれる。)とからなる。ゲート絶縁膜27上の画素領域には、例えばIn中にSnOを含むITO膜によって形成された透明画素電極5が配置されている。TFTのドレイン電極29は、透明画素電極5に直接コンタクトして電気的に接続される。
【0011】
走査線25を介してゲート電極26にゲート電圧が供給されると、TFT4はオン状態となり、予め信号線34に供給された駆動電圧は、ソース電極28から、ドレイン電極29を介して透明画素電極5へ供給される。そして、透明画素電極5に所定レベルの駆動電圧が供給されると、図1で説明したように、透明画素電極5と対向電極2との間に電位差が生じる結果、液晶層3に含まれる液晶分子が配向して光変調が行われる。
【0012】
TFT基板1において、ソース−ドレイン電極に電気的に接続されるソース−ドレイン配線34、透明画素電極5に電気的に接続される信号線(画素電極用信号線)、ゲート電極26に電気的に接続される走査線25は、比抵抗が低く、加工が容易であるなどの理由により、いずれも、純AlまたはAl−NdなどのAl合金(以下、これらをまとめてAl系合金と呼ぶ。)の薄膜から形成されており、その上または下には、図2に示すように、Mo、Cr,Ti,W等の高融点金属からなるバリアメタル層51、52、53、54が形成されている。代表的には、例えば、厚さ約50nmのMo層(下部バリアメタル層)、厚さ約150nmの純AlやAl−Nd合金薄膜、および厚さ約50nmのMo層(上部バリアメタル層)が順次形成された三層構造の積層配線が挙げられる。
【0013】
以下、アモルファスシリコンチャネル薄膜33に接続されるソース−ドレイン配線34として、上記三層の積層配線を用いる理由を説明する。
【0014】
まず、図2に示すように、アモルファスシリコンチャネル薄膜33とAl系合金との間に下部バリアメタル層53を介在させる主な理由は、Al系合金薄膜とアモルファスシリコンチャネル薄膜との界面(以下、単に界面と呼ぶ場合がある。)において、Siとアルミニウムとの相互拡散を防止するためである。
【0015】
Al系合金をアモルファスシリコンチャネル薄膜と直接接合した状態で、TFTの後工程において、シンタリングやアニールなどの熱処理を行うと、Al系合金のAlがアモルファスシリコン中に拡散したり、アモルファスシリコンのSiがAl系合金中に拡散したりする。その結果、アモルファスシリコンの半導体性能が著しく劣化し、オン電流が低下したり、TFTのスイッチングのオフ時に流れるリーク電流(オフ電流)が上昇したり、TFTのスイッチング速度の低下を招く。そのため、所望のTFT特性を得ることができず、表示装置としての性能や品質が低下する。下部バリアメタル層53は、このようなAlとSiとの相互拡散を抑制するのに有効である。
【0016】
一方、Al系合金の上に上部バリアメタル層54を形成する主な理由は、Al系合金薄膜の表面にヒロック(コブ状の突起物)が形成されるのを防止すること、及び上部に形成されるITO層とのコンタクトをとるためである。ヒロックは、TFT基板の製造工程において、Al系合金薄膜を形成した後、Si窒化膜(保護膜)を形成するときに施される
加熱処理(一般に、約300℃から400℃)によって形成されると考えられている。すなわち、Al系合金薄膜が形成された基板は、その後、CVD法などによってSi窒化膜(保護膜)が形成されるが、このとき、Al系合金薄膜に施される高温の熱によってAl系合金薄膜とガラス基板との間に熱膨張の差が生じ、ヒロックが形成されると推察されている。上部バリアメタル層54は、このようなヒロックの形成を防止するのに有効である。
【0017】
しかし、上部および下部のバリアメタル層を形成するためには、Al系合金配線形成用の成膜装置に加え、バリアメタル形成用の成膜装置が別途必要になる。具体的には、バリアメタル形成用の成膜チャンバーをそれぞれ余分に装備した成膜装置(代表的には、複数の成膜チャンバーがトランスファーチャンバーに接続されたクラスタツール)を用いなければならない。液晶パネルの大量生産に伴って低コスト化が進むにつれて、バリアメタル層の形成に伴う製造コストの上昇や生産性の低下は軽視できなくなっている。
【0018】
次に、図2に示すように、透明画素電極5に対し、バリアメタル層51を介してAl系合金薄膜を接続する理由は、Al系合金薄膜を透明画素電極と直接接続すると接触抵抗が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。透明画素電極用配線材料として用いられるAlは非常に酸化され易い。そのため、液晶パネルの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などにより、Al系合金薄膜と透明画素電極との界面にAl酸化物の絶縁層が生成してしまう。また、透明画素電極材料のITOは導電性の金属酸化物であるが、上記のようにAl酸化物層が生成すると、電気的なオーミック接続を行うことができない。
【0019】
ところが、バリアメタル層を形成するためには、ゲート電極やソース電極、更にはドレイン電極の形成に必要な成膜用スパッタ装置に加えて、バリアメタル形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならず、製造コストの上昇や生産性の低下を招く。
【0020】
また、バリアメタル層として用いられる金属と、純AlまたはAl合金とは、薬液を用いたウェットエッチングなどの加工工程での加工速度が異なるため、加工工程における横方向の加工寸法を制御することが極めて困難となる。したがって、バリア層の形成は、成膜の観点だけでなく加工の観点でも工程の複雑化を招き、製造コストの上昇や生産性の低下をもたらす。
【0021】
そこで、バリアメタル層の形成を省略でき、ソース−ドレイン電極を透明画素電極と直接接合し得る電極材料、更には、ソース−ドレイン電極をアモルファスシリコンチャネル薄膜などの半導体層と直接接合し得る電極材料が提案されている。
【0022】
特許文献1には、透明画素電極の材料として、酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含む酸化インジウム亜鉛(IZO)膜を用いた技術が開示されている。しかし、この技術によれば、現在、最も普及しているITO膜をIZO膜に変更しなければならないため、材料コストが上昇する。
【0023】
特許文献2には、ドレイン電極にプラズマ処理やイオン注入を行い、ドレイン電極の表面を改質する方法が開示されている。しかし、この方法によれば、表面処理のための工程が付加されるため、生産性が低下する。
【0024】
また、特許文献3には、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極として、純AlまたはAlの第1層と、純AlまたはAlにN,O,Si,C等の不純物を含む第2層とを用いる方法が開示されている。この方法によれば、ゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極を構成する薄膜を同じ成膜チャンバーを用いて連続して形成できるという利点はあるが、上述した不純物を含む第2層を形成する工程が余分に増える。しかも、ソース−
ドレイン配線に不純物を導入する過程で、不純物が混入した膜と混入していない膜との熱膨張係数の差に起因して、チャンバーの壁面からソース−ドレイン配線が剥がれ落ちる現象が頻発する。この現象を防ぐため、成膜工程を頻繁に停止してメンテナンスを行う必要があり、生産性が著しく低下する。
【0025】
このような事情に鑑み、本願出願人は、バリアメタル層の省略を可能にすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金膜を透明画素電極に対して直接かつ確実に接触させ得る方法を開示している(特許文献4)。特許文献4では、合金成分として、Au、Ag、Zn、Cu、Ni、Sr、Ge、Sm、およびBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を0.1〜6原子%含むAl系合金を使用しており、これら合金成分の少なくとも一部を当該Al系合金膜と透明画素電極との界面で析出物または濃化層として存在させることによって上記課題を解決している。
【0026】
一方、特許文献5には、Al系合金薄膜の上層及び下層に、それぞれ、導電性の上層窒化Al層(AlN層)および下層窒化Al層が設けられた三層のAl配線用薄膜が開示されている。上層窒化Al層は、ITO膜と直接接続することができるため、良好なコンタクト抵抗が得られる。また、下層窒化Al層は、アモルファスシリコンなどの半導体層と直接接続することができるため、優れたオーミックコンタクトが得られる。しかしながら、このような窒化Al層を形成するためには、反応ガスの組成や割合などを適切に制御してスパッタリングを行わなければならず、高度な制御技術が必要である。更に、上記方法によるコンタクト抵抗およびオーミックコンタクトの改善効果は不十分であり、更なる改善が望まれている。
【0027】
上記では、液晶表示装置を代表的に取上げて説明したが、前述した課題は液晶表示装置に限定されず、アモルファスシリコンTFT基板に共通して見られる。また、上記課題は、TFTの半導体層として、アモルファスシリコンのほか、多結晶シリコンを用いたTFT基板においても見られる。
【特許文献1】特開平11−337976号公報
【特許文献2】特開平11−283934号公報
【特許文献3】特開平11−284195号公報
【特許文献4】特開2004−214606号公報
【特許文献5】特開2003−273109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、下部バリアメタル層を省略しても優れたTFT特性を発揮し得、ソース−ドレイン配線をTFTの半導体層に直接かつ確実に接続することができる技術を提供することにある。
【0029】
本発明の他の目的は、下部バリアメタル層および上部バリアメタル層を省略しても、TFT特性、耐熱性、コンタクト抵抗率に優れており、ソース−ドレイン配線を、TFTの半導体層に対してだけでなく透明画素電極に対しても直接かつ確実に接続し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決することのできた本発明のソース−ドレイン電極は、窒素含有層の窒素は、該薄膜トランジスタの半導体層のSiと結合しており、該純AlまたはAl合金の薄膜は、該窒素含有層を介して該薄膜トランジスタの半導体層と接続していることに特徴がある。
【0031】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層は、Si窒化物を主に含有する。
【0032】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層は、Siの酸窒化物を含有する。
【0033】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層の窒素は、1014cm−2以上2×1016cm−2以下の面密度(N1)を有している。
【0034】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層の窒素の面密度(N1)と酸素の面密度(O1)との比(N1/O1)は1.0以上である。
【0035】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層の窒素は、前記半導体層を構成するSiの有効ボンドの面密度と同じか、該有効ボンドの面密度よりも高い面密度を有している。
【0036】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層の厚さは、0.18nm以上20nm以下の範囲内である。
【0037】
好ましい実施形態において、前記窒素含有層中の窒素原子数とSi原子数との比(N/Si)の最大値は、0.5以上1.5以下の範囲内である。
【0038】
好ましい実施形態において、前記薄膜トランジスタの半導体層は、アモルファスシリコンまたは多結晶シリコンからなる。
【0039】
好ましい実施形態において、前記Al合金は、合金成分として、Niを6原子%以下の範囲内で含有する。
【0040】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜は、更に、前記透明画素電極と直接接続しており、該Al合金は、合金成分として、Niを0.3原子%以上6原子%以下の範囲内で含有する。
【0041】
好ましい実施形態において、前記Al合金は、合金成分として、更に、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上1.0原子%以下の範囲内で含有する。
【0042】
好ましい実施形態において、前記Al合金は、合金成分として、更に、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,およびFeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含有する。
【0043】
本発明の薄膜トランジスタ基板は、上記のいずれかに記載のソース−ドレイン電極を備えている。
【0044】
本発明の表示デバイスは、上記の薄膜トランジスタ基板を備えている。
【0045】
上記の薄膜トランジスタ基板を製造する方法は、半導体層が形成された薄膜トランジスタ基板を用意する工程(a)と、該半導体層上に窒素含有層を形成する工程(b)と、該窒素含有層上に純AlまたはAl合金層を形成する工程(c)とを含んでいる。
好ましい実施形態において、前記工程(b)は、前記工程(a)で用いられる半導体層形成装置と同一の装置で行われる。
【0046】
好ましい実施形態において、前記工程(b)は、前記工程(a)で用いられる半導体層
形成用チャンバーと同一のチャンバーで行われる。
【0047】
好ましい実施形態において、前記工程(b)は、前記工程(a)における半導体層の成膜温度と実質的に同じ温度で行われる。
【0048】
好ましい実施形態において、前記工程(b)は、窒素含有ガスを前記工程(a)で用いられるガスと混合した条件下で行われる。
【0049】
好ましい実施形態において、前記工程(b)は、窒素含有ガスを還元性元素含有ガスと混合した条件下で行なわれる。
【0050】
好ましい実施形態において、前記工程(b)はプラズマ窒化法である。
【0051】
前記工程(b)がプラズマ窒化法の場合、前記工程(b)は、55Pa以上の圧力下で行なわれることが好ましい。
【0052】
前記工程(b)がプラズマ窒化法の場合、前記工程(b)は、300℃以上の温度で行なわれることが好ましい。
【0053】
前記工程(b)がプラズマ窒化法の場合、窒素含有ガスを還元性元素含有ガスと混合した条件下で行われることが好ましい。
【0054】
前記工程(b)がプラズマ窒化法の場合、窒素含有ガスを前記工程(a)で用いられるガスと混合した条件下で行われることが好ましい。
【0055】
好ましい実施形態において、前記工程(b)は熱窒化法である。
【0056】
好ましい実施形態において、前記熱窒化法は、400℃以下の温度で行われる。
【0057】
好ましい実施形態において、前記工程(b)はアミノ化法である。
【0058】
好ましい実施形態において、前記アミノ化法は、紫外線を用いる。
【0059】
好ましい実施形態において、前記アミノ化法は、窒素原子を含有する液体を用いる。
【0060】
好ましい実施形態において、前記工程(c)はスパッタリング法を含む。
【発明の効果】
【0061】
本発明のソース−ドレイン電極は、上記のような構成を有しているため、従来のようにバリアメタル層を形成しなくても、これまでに汎用されている純AlまたはAl系合金を用い、窒素含有層を介してTFTの半導体層と接続することができる。このようなソース−ドレイン電極は、良好なTFT特性を有している。
【0062】
更に、本発明によれば、Al系合金として、所定量のNiを含有するAl−Ni合金を用いることにより、TFTの半導体層のみならず、透明画素電極と直接接続することができるソース−ドレイン電極を提供できる。このようなソース−ドレイン電極は、TFT特性、コンタクト抵抗率、および耐熱性のすべてに優れている。
【0063】
従って、本発明のソース−ドレイン電極を用いれば、生産性に優れ、安価で且つ高性能の表示デバイスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明者は、TFTの半導体層に接続される新規なソース−ドレイン電極を提供するため、検討してきた。詳細には、従来のように、半導体層との間にバリアメタル層を介在させなくても優れたTFT特性を発揮し得、しかも、ソース−ドレイン電極用の配線材料として汎用されている純AlまたはAl系合金(以下、これら従来のAl材料をまとめて、「Al系合金」と呼ぶ。)をそのまま用いることができる新規なソース−ドレイン電極を提供するため、検討した。その結果、窒素含有層とAl系合金の薄膜とからなる材料であって、窒素含有層のN(窒素)が半導体層のSiと結合している材料をソース−ドレイン電極として用いれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。これにより、Al系合金の薄膜は、窒素含有層を介してTFTの半導体層と接続されるようになる。
【0065】
更に、Al系合金として、Niを6原子%以下の範囲で含有するAl系合金(以下、従来のAl系合金と区別するため、Al−Ni合金と呼ぶ場合がある。)を用いれば、従来のようにバリアメタル層を形成しなくても、良好な電気特性を備えたソース−ドレイン電極を提供することができる。
【0066】
なお、Ni量の下限は、後記する実施例に示すように、TFT特性に関する限り、特に限定されないが、耐熱性の改善を目指す場合には、Al−Ni合金の組成によって若干相違する。例えば、AlとNiのみからなり、第三成分を含有しない二元合金では、Ni量の下限は0.3原子%であり、これにより、Al−Ni合金薄膜を透明画素電極と直接接続することができる。一方、Al−Ni合金に、更に第三成分(後述するグループX1またはグループX2に属する耐熱性向上元素)を含有する場合は、Ni量の下限を0.05原子%とすることができ、これによっても、優れたTFT特性および耐熱性が得られるため、Al−Ni−X1合金薄膜やAl−Ni−X2合金薄膜を透明画素電極と直接接続することができる。
【0067】
本明細書において、「ソース−ドレイン電極」は、ソース−ドレイン電極自体と、ソース−ドレイン配線の両方を含んでいる。すなわち、本発明のソース−ドレイン電極は、ソース−ドレイン電極とソース−ドレイン配線とが一体に形成されたものであり、ソース−ドレイン配線はソース−ドレイン領域に接している。
【0068】
以下、本発明のソース−ドレイン電極を詳しく説明する。以下では、説明の便宜上、バリアメタル層を形成させなくてもTFTの半導体層と接合し得るソース−ドレイン電極を「本発明による第1のソース−ドレイン電極」と呼び、一方、バリアメタル層を形成させなくてもTFTの半導体層と接合し得、且つ透明画素電極とも直接接続し得るソース−ドレイン電極を「本発明による第2のソース−ドレイン電極」と呼び、両者を区別する。本発明による第2のソース−ドレイン電極は、Al材料の組成が異なること以外、本発明による第1のソース−ドレイン電極と同じ構成からなる。
【0069】
(本発明による第1のソース−ドレイン電極)
本発明による第1のソース−ドレイン電極は、窒素含有層とAl系合金薄膜とからなる。窒素含有層は、TFTの半導体層を覆うように形成されており、窒素含有層の窒素(N)は、半導体層のSiと結合している。この窒素含有層は、Al系合金とTFTの半導体層との界面におけるAlとSiとの相互拡散を防止するためのバリアとして作用する。従って、本発明によれば、後記する実施例で実証するように、従来のようにMoなどのバリアメタル層を形成しなくても、優れたTFT特性が得られる。後で詳しく説明するように、窒素含有層は、半導体層を形成した後であって、Al系合金層を形成する前に、プラズマ窒化法などによって簡便に作製できるため、従来のように、バリアメタル形成用の特別
な成膜装置は不要である。
【0070】
本発明を特徴付ける窒素含有層の詳細は、以下のとおりである。
【0071】
前述したとおり、窒素含有層の窒素(N)は、半導体層のSiと結合し、Si窒化物を主に含有しているが、Siの酸窒化物も含み得る。Siの酸窒化物は、例えば、窒素含有層の形成過程などで不可避的に導入される酸素(O)と結合して得られる。
【0072】
窒素含有層は、後記する実施例で実証したように、以下の要件を更に満足していることが好ましい。
【0073】
まず、窒素含有層の窒素は、TFTの半導体層材料(代表的にはSi)の有効ボンドの面密度と同じか、該有効ボンドの面密度よりも高い面密度を有していることが好ましい。前述したように、金属配線材料と半導体材料との相互拡散を防止するためには、半導体層の表面を窒素含有層で覆う必要がある。この場合、半導体層表面に存在する未結合手(ダングリングボンド)は、窒素と結合していることが好ましい。「有効ボンド」とは、窒素原子の立体障害も考慮したうえで、半導体層表面に配置し得る結合手を意味し、「有効ボンドの面密度」とは、半導体層の表面全体を窒素含有層で覆ったときの面密度を意味する。有効ボンドの面密度は、半導体材料の種類によって異なるが、例えば、シリコンの場合、結晶の面方位によっても若干相違するが、おおむね、1014cm−2〜1015cm−2の範囲内にある。
【0074】
具体的には、例えば、窒素含有層がSi窒化物を主に含有している場合、およびSi窒化物を主に含有し、Siの酸窒化物を更に含有している場合のいずれにおいても、窒素含有層の窒素は、Al系合金層と接触する界面において、1014cm−2以上2×1016cm−2以下の面密度(N1)を有していることが好ましい。所望のTFT特性などを確保するためには、窒素含有層の窒素の面密度の下限は、2×1014cm−2がより好ましく、4×1014cm−2がさらにより好ましい。窒素含有層は、Si−N結合を含む層を少なくとも一層以上有していればよい。ここで、Si−N結合のSiとNとの距離(原子間隔)は約0.18nmであり、実質的には0.2nm以上が好ましく、0.3nm以上がより好ましい。ただし、窒素含有層の窒素の面密度(N1)が高くなり過ぎると、窒素含有層に含まれる絶縁性のSi窒化物も多くなり、電気抵抗が上昇し、TFT性能が劣化する。窒素含有層の窒素の面密度の上限は、1×1016cm−2であることがより好ましい。
【0075】
なお、窒素含有層が、Siの酸窒化物を含有している場合(すなわち、Si窒化物のほかにSiの酸化物を更に含有している場合)、窒素の面密度(N1)は上記要件を満足していると共に、窒素の面密度(N1)と酸素の面密度(O1)との比(N1/O1)は1.0以上であることが好ましく、これにより、TFT特性が一層高められる。Siの窒化物やSiの酸窒化物は、本来、絶縁物であるが、窒素含有層の厚さは、後述するように、0.18nm以上20nm以下と極めて薄いため、電気抵抗を低く抑えられる。
【0076】
本発明者の実験結果によれば、TFT特性はN1/O1の比によって影響を受け、より優れたTFT特性を得るためには、N1/O1の比を1.0以上と大きくすれば良いことが判明した(後記する実施例を参照)。N1/O1の比が大きくなると、窒素含有層中の抵抗成分が少なくなるため、良好なトランジスタ特性が得られると考えられる。N1/O1の比は大きい程よく、例えば、1.05以上であることがより好ましく、1.1以上であることが更に好ましい。
【0077】
N1/O1の比は、例えば、プラズマ窒化法を用いて窒素含有層を形成するに当たり、
プラズマのガス圧力やガス組成、処理温度などのプラズマ発生条件を適切に制御することによって調節することができる(詳細は後述する。)。
【0078】
前述した窒素含有層の窒素の面密度(N1)および窒素の面密度(O1)は、例えば、RBS(Rutherford Backscattering Spectrometry、ラザフォード後方散乱分光)法を用いて算出することができる。
【0079】
窒素含有層の厚さは、0.18nm以上20nm以下の範囲内であることが好ましい。前述したように、窒素含有層は、Al系合金層とTFTの半導体層との界面におけるAlとSiとの相互拡散を防止するためのバリア層として有用であるが、窒素含有層が厚くなり過ぎるとTFT性能が劣化する。窒素含有層の厚さを上記範囲内に制御することにより、窒素含有層の形成による電気抵抗の上昇を、TFT性能に悪影響を及ぼさない範囲内に抑えられる。窒素含有層の厚さは、15nm以下であることがより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。窒素含有層の厚さは、種々の物理分析手法によって求めることができ、例えば、前述のRBS法のほか、XPS(X線光電子分光分析)法、SIMS(二次イオン質量分析)法、GD−OES(高周波グロー放電発光分光分析)法などを利用することができる。後記する実施例では、RBS法およびXPS法を用いて窒素含有層の厚さを測定している。
【0080】
窒素含有層中のN原子数とSi原子数との比(N/Si)の最大値は、0.5以上1.5以下の範囲内であることが好ましい。これにより、TFT特性を劣化させることなく、窒素含有層によるバリア作用を有効に発揮させることができる。(N/Si)は、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。
【0081】
(N/Si)は、例えば、プラズマ照射時間をおおむね1分間から10分間の範囲内に制御することによって調節することができる(詳細は後述する。)。
【0082】
(N/Si)は、窒素含有層の深さ方向の元素(NおよびSi)をRBS法によって分析することによって算出される。
【0083】
このような窒素含有層は、半導体層の上部を窒化処理することなどによって形成される。窒化処理の方法は特に限定されず、以下に詳述するように、(i)プラズマ窒化法、(ii)熱窒化法、(iii)アミノ化法などの方法を採用することができる。
【0084】
(i)プラズマ窒化法
プラズマ窒化法は、プラズマを利用するものであり、後記する実施形態および実施例1に示すように、窒素含有ガスを用いることが好ましい。窒素含有ガスとしては、N、NH、NFなどの非酸化性ガスが挙げられ、これらは、単独で、若しくは二種以上の混合ガスとして使用される。半導体層がシリコンの場合、その表面は極めて容易に酸化されるため、NOなどの酸化性ガスを用いると、NとSiとの反応よりも酸化性ガス中のO(酸素)とSiとの反応が優先され、所望のSi窒化物層を形成できないからである。具体的には、窒素を含有するプラズマ源の近傍にTFTの半導体層を設置することが好ましい。ここで、プラズマ源と半導体層との距離は、プラズマの種類や、プラズマ発生条件(パワー、圧力、温度、ガス組成など)などに応じて適宜適切な範囲に設定すればよいが、おおむね、数十cmの範囲であることが好ましい。このようなプラズマ近傍には、高エネルギーの窒素原子が存在しており、これにより、半導体層表面に所望の窒素含有層を容易に形成することができる。
【0085】
窒素含有プラズマ源などから窒素を供給する場合、イオン注入法を利用することもできる。イオン注入法によれば、電界によって加速されたイオンは、長距離を移動できるため
、プラズマ源と半導体層との距離を任意に設定することが可能である。イオン注入法は、プラズマ近傍に設置された半導体層に負の高電圧パルスを印加することにより、半導体層の表面全体にイオンを注入することが好ましい。あるいは、専用のイオン注入装置を用いてイオン注入を行ってもよい。
【0086】
なお、TFT特性の更なる向上を目的として、窒素含有層の窒素の面密度(N1)と酸素の面密度(O1)との比(N1/O1)を1.0以上にするためには、例えば、プラズマのガス圧力やガス組成、処理温度などのプラズマ発生条件を以下のように制御して行なうことが好ましい(後記する実施例を参照)。これにより、半導体層の酸化が効果的に抑えられるほか、窒化反応が促進され、生成効率が高められる。
【0087】
まず、圧力に関しては、55Pa以上の圧力下で行うことが好ましい。圧力が55Pa未満の場合、窒化反応の進行が遅く、拡散バリアとして有効に作用し得る窒素含有層の形成に長時間を要するほか、窒化反応よりも酸化反応が顕著に進行し、TFT特性が低下する。上記の観点からすれば、圧力は高いほど良く、例えば、60Pa以上であることがより好ましく、66Pa以上であることが更に好ましい。なお、圧力の上限は、使用する装置の性能などに依存するために一義的に決定し難いが、プラズマを安定して供給するという観点からすれば、おおむね、400Pa以下であることが好ましく、266Pa以下であることがより好ましい。例えば、後記する実施例11に用いられる装置では、プラズマを安定して供給し得る圧力の上限は133Paであった。
【0088】
また、処理温度は、300℃以上であることが好ましい。処理温度が300℃未満の場合、窒化反応の進行が遅く、拡散バリアとして有効に作用し得る窒素含有層の形成に長時間を要するほか、窒化反応よりも酸化反応が顕著に進行し、TFT特性が低下する。ただし、温度が高くなり過ぎると、処理対象である半導体層の変質や半導体層への損傷を招くため、おおむね、360℃以下であることが好ましい。
【0089】
ガス組成は、前述した窒素含有ガス(N、NH、NFなど)のみであっても良いが、窒素含有ガスと、還元性元素含有ガスとの混合ガスであることが好ましく、これにより、半導体層の酸化が一層有効に抑えられる。還元性元素としては、例えば、NHやHなどが挙げられる。このうち、NHは、還元作用を有するだけでなく窒素含有ガスとしても作用するため、単独で用いることもできるが、Hと混合して用いることもできる。
【0090】
あるいは、ガス組成は、前述した窒素含有ガスと、半導体層形成に用いられる原料ガス(SiH)との混合ガスであることが好ましい。窒素含有ガスのみを用いて窒素含有層を形成する場合、半導体層の形成後、チャンバー内をパージするために、使用した半導体層形成用ガスを全て一旦排除する必要があるが、上記のように混合ガスの条件下で行なえば、ガスを排除する必要はなくなるため、処理時間を短縮できる。
【0091】
(ii)熱窒化法
熱窒化法は、皮膜のつきまわりが良いなどの理由によって汎用されている。具体的には、後記する実施例2に記載のように、例えば、窒素ガス雰囲気下で、400℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度が高いと、半導体層への損傷が大きくなり、一方、加熱温度が低い場合、所望の窒素含有層を充分形成できない恐れがある。加熱温度は、200℃以上380℃以下に制御することがより好ましく、250℃以上350℃以下に制御することがさらに好ましい。上記の加熱処理は、後記する実施例3に示すように、前述したプラズマ窒化法と併用しても良く、これにより、窒素含有層の形成をさらに促進することができる。
【0092】
(iii)アミノ化法
アミノ化法は、光の作用によってガスの分解または反応を促進し、窒素含有層を生成する方法であり、通常、紫外線領域の波長(約200nm〜400nm)の光が用いられる。光源としては、水銀ランプ(低圧水銀灯:波長254nm、高圧水銀灯:365nm)やエキシマレーザ(ArF:194nm、KrF:248nm)などを利用すればよい。具体的には、後記する実施例4に示すように、窒素含有ガス雰囲気下でより短波長の紫外線を用いることが好ましく、これにより、高いエネルギーを付与することができる。
【0093】
アミノ化法は、例えば、アミノ基などを含有する液体のように、窒素原子を含有する液体(以下、窒素含有液と呼ぶ場合がある。)を用いて行うことが好ましい。このような窒素含有液を半導体層と接触した状態で紫外線を更に照射すると、半導体層に対し、窒素をより効率よく供給することができる。具体的には、後記する実施例4を参照することができる。
【0094】
このように、窒素含有層は、好ましくは、前述した(i)〜(iii)の方法によって形成されるが、更に、製造工程の簡略化や処理時間の短縮などの観点から、窒素含有層の形成に用いる装置やチャンバー、温度やガス組成を、以下のように制御して行なうことが好ましい。
【0095】
まず、装置は、製造工程の簡略化のため、半導体層形成装置と同一装置で行うことが好ましく、同一装置の同一チャンバーで行うことがより好ましい。これにより、装置間もしくは装置内で、処理対象のワークが余分に移動する必要がなくなる。
【0096】
また、温度に関しては、半導体層の成膜温度と実質的に同じ温度(約±10℃の範囲を含み得る。)で行うことが好ましく、これにより、温度変動に伴う調節時間を省略することができる。
【0097】
更に、ガス組成に関しては、窒素含有ガス(N、NH、NFなど)のみを用いて行っても良いが、窒素含有ガスと、半導体層形成に用いられる原料ガス(SiH)との混合ガスであることが好ましい。窒素含有ガスのみを用いて窒素含有層を形成すると、半導体層の形成後、チャンバー内をパージするために、使用した半導体層形成用ガスを全て一旦排除する必要があるが、上記のように混合ガスの条件下で行なえば、ガスを排除する必要はなくなるため、処理時間を短縮できる。
【0098】
あるいは、ガス組成は、前述した窒素含有ガスと、還元性元素含有ガスとの混合ガスであることが好ましく、これにより、半導体層の酸化が一層有効に抑えられる。還元性元素としては、例えば、NHやHなどが挙げられる。このうち、NHは、還元作用を有するだけでなく窒素含有ガスとしても作用するため、単独で用いることもできるが、Hと混合して用いることもできる。
【0099】
このようにしてTFTの半導体層上に窒素含有層を形成した後、例えば、スパッタリング法によってAl系合金を形成すると、所望のソース−ドレイン用配線が得られる。本発明のソース−ドレイン電極は、単一のスパッタリングターゲットおよび単一のスパッタリングガスを用いて形成できるため、前述した特許文献5のように、スパッタリングガスの組成を変化させる必要はない。そのため、本発明によれば、従来よりも、工程の簡略化を更に図ることができる。
【0100】
本発明のソース−ドレイン電極は、TFTの半導体層とAl系合金との間に、TFTの半導体層を覆うように上記の窒素含有層を設けたところに特徴がある。従って、Al系合金や半導体層の種類は特に限定されず、TFT特性に悪影響を及ぼさない限り、ソース−
ドレイン電極に通常使用されるものを用いることができる。例えば、半導体層は、代表的には、アモルファスシリコンまたは多結晶シリコンが挙げられる。Al系合金は、純Alや、合金成分として、例えば、Si、Cu,希土類元素(代表的には、NdやYなど)を含有するAl合金などのように、従来汎用されているAl材料を用いることができる。
【0101】
本発明による第1のソース−ドレイン電極において、Al配線材料は、前述したように従来のAl系合金をそのまま用いることもできるが、あるいは、Niを6原子%以下の範囲で含有するAl−Ni合金を用いてもよい。これによっても、バリアメタル層を形成させなくても、従来のAl系合金と同程度のTFT特性を実現することができる(後記する実施例を参照)。上記のAl−Ni合金において、Niの含有量が6原子%を超えると、Al−Ni合金薄膜の電気抵抗が高くなって画素の応答速度が遅くなり、消費電力が増大してディスプレイとしての品位が低下し、実用に供し得なくなる。Ni量の上限は、5原子%にすることが好ましい。なお、Niの下限は、TFT特性に関する限り、特に限定されないが、例えば、Al−Ni合金薄膜をITO薄膜と更に直接接続する場合には、Niを0.3原子%以上添加することが好ましく、これにより、TFT特性や耐熱性に優れたソース−ドレイン電極が得られる(後記する実施例を参照)。ただし、Al−Ni合金中に、以下に記載の第三成分(グループX1またはグループX2に属する元素)を更に含有する場合は、Niの下限を0.05原子%(好ましくは、0.1原子%)とすることができ、これによっても、TFT特性や耐熱性に優れたソース−ドレイン電極が得られる(後記する実施例を参照)。
【0102】
本発明に用いられるAl−Ni合金は、第三成分として、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群(以下、グループX1ということがある。)から選択される少なくとも一種の元素(以下、Al−Ni−X1合金と呼ぶ。)を0.1原子%以上1.0原子%以下の範囲内で含んでも良い。あるいは、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,およびFeよりなる群(以下、グループX2ということがある。)から選択される少なくとも一種の元素(以下、Al−Ni−X2合金と呼ぶ。)を0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含んでもよい。本発明では、グループX1とグループX2に属する元素の両方を含むAl−Ni−X1−X2合金を用いることもできる。
【0103】
Al−Ni合金中に、上記のグループX1またはグループX2に属する元素の少なくとも一種を更に添加することにより、例えば、Al−Ni合金薄膜をITO膜と直接接合したとき、Al−Ni合金薄膜の表面にヒロック(コブ状の突起物)が形成され、耐熱性が低下するのも有効に防止できる。詳細には、上記グループX1およびX2の作用は相違するが、この相違点(好ましい含有量を含む。)は、後記する第2のソース−ドレイン電極のなかで詳しく説明する。
【0104】
本発明による第1のソース−ドレイン電極を用いれば、従来のように、Al系合金の薄膜とTFTの半導体層との間に下部バリアメタル層を介在させることは不要になり、当該Al系合金を、窒素含有層を介して半導体層と接合することができる。後記する実施例に示すように、純AlまたはAl−Ni合金の薄膜を用いて試作されたTFTは、Crなどのバリアメタル層を介在させた従来のAl系合金薄膜を用いた場合と同等レベル以上のTFT特性を実現できることが確認された。従って、本発明によれば、バリアメタル層の省略によって製造工程を簡略化することができ、製造コストを低減できる。
【0105】
(本発明による第2のソース−ドレイン電極)
本発明による第2のソース−ドレイン電極は、窒素含有層とAl−Niの薄膜とからなる。第2のソース−ドレイン電極は、Al材料として、所定のAl−Ni合金(後記する。)を用いたことを除き、前述した第1のソース−ドレイン電極と同じである。以下では
、第1のソース−ドレイン電極と重複する構成(窒素含有層など)の説明は省略する。
【0106】
このようなAl−Ni合金を用いると、窒素含有層を介してTFTの半導体層とAl−Ni合金を接続できるだけでなく、当該Al−Ni合金を透明画素電極と直接接続することもできる。その理由は、以下に詳しく説明するように、Al−Ni合金と透明画素電極との界面に、導電性の酸化物(AlOx、0<x≦0.8)やNi濃化層が形成されるためと考えられる。
【0107】
まず、第2のソース−ドレイン電極に用いられるAl−Ni合金を説明する。
【0108】
ここでは、Niを0.3原子%以上6原子%以下含有するAl−Ni合金を用いている。Ni含有量の下限(0.3原子%)は、主に、Al−Ni合金薄膜と透明画素電極との界面におけるコンタクト抵抗率の低減および耐熱性の確保という観点から定めている。ただし、後記する実施例に示すように、Al−Ni合金中に、第三成分として、グループX1またはグループX2に属する元素を更に含有するAl−Ni−X1合金またはAl−Ni−X2合金(三元合金)、あるいは、グループX1およびグループX2に属する元素を両方含有するAl−Ni−X1−X2合金(四元合金)を用いる場合、Ni含有量の下限を0.05%(好ましくは、0.1%)とすることができ、これによっても、TFT特性や耐熱性に優れたソース−ドレイン電極が得られる。
【0109】
本発明による第2のソース−ドレイン電極において、Niが0.3原子%未満では、後記する実施例に示すように、上記界面のコンタクト抵抗率がやや高くなり、耐熱性も低下する。ただし、Niの含有量が6原子%を超えると、Al−Ni合金薄膜の電気抵抗が高くなって画素の応答速度が遅くなり、消費電力が増大してディスプレイとしての品位が低下し、実用に供し得なくなる。これらの利害得失を考慮すると、Niの含有量は0.5原子%以上5原子%以下であることが好ましい。
【0110】
上記Al−Ni合金は、第三成分として、前述したグループX1に属する元素の少なくとも一種を0.1原子%以上1.0原子%以下の範囲で含有することが好ましい。上記グループX1に属する元素の含有量が0.1原子%未満の場合、上記作用を有効に発揮することができない。一方、上記グループX1に属する元素の含有量が1.0原子%を超えると、上記作用は向上する反面、Al−Ni−X1合金薄膜の電気抵抗率が高くなる。これらの両面を考慮すると、グループX1に属する元素の含有量は、0.2原子%以上、0.8原子%以下であることが好ましい。これらの元素は、単独で添加しても良く、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0111】
あるいは、上記Al−Ni合金は、第三成分として、グループX2に属する元素の少なくとも一種を0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲で含有することもできる。これにより、前述したAl−Ni−X1合金と同様、Al−Ni合金薄膜の表面に形成されるヒロック(コブ状の突起物)による耐熱性の低下を有効に防止することができる。上記グループX2に属する元素の含有量が0.1原子%未満の場合、上記作用が有効に発揮されない。ただし、上記グループX1に属する元素の含有量が2.0原子%を超えると、上記作用は向上する反面、Al−Ni−X2合金薄膜の電気抵抗率が高くなる。これらの両面を考慮すると、グループX2に属する元素の含有量は、0.3原子%以上、1.8原子%以下であることが好ましい。これらの元素は、単独で添加しても良く、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0112】
本発明では、上記Al−Ni合金に、これらグループX1の元素およびグループX2の
元素を両方添加したAl−Ni−X1−X2合金を用いることもできる。
【0113】
このように、上記グループX1,X2に属する元素は、いずれも、耐熱性とAl−Ni−X1合金薄膜/Al−Ni−X2合金薄膜の電気抵抗率との観点から選択したものであるが、耐熱性に対するメカニズムは、上記グループX1とグループX2との間で、若干相違している。以下、図8を用いて詳しく説明する。
【0114】
図8は、Al薄膜の温度と応力(ストレス)との関係を模式的に説明する図である。図8において、「A」は純Alを、「B」はグループX2に属する元素が添加されたAl−X2合金を、「C」はグループX1に属する元素が添加されたAl−X1合金を、それぞれ、示している。
【0115】
図8に示すように、グループX2に属する元素が添加されたAl−X2合金膜「B」は、温度の上昇と共に圧縮応力が増大する。温度上昇の初期には粒成長抑制効果を示すものの、比較的低い温度で粒成長が開始し、狭い温度域で急激にストレスが緩和される。このときに、当該合金中に含まれる固溶元素が短時間のうちに金属間化合物として析出し、それに合わせてAlの粒成長が進行し電気抵抗率が低下すると考えられる。即ち、相対的に低い加熱温度で十分な電気抵抗率の低減化が達成される。一方、完全にストレスが緩和した状態で更に加熱すると、薄膜内部で発生した圧縮応力によりヒロック等が発生し易くなる。当該合金の耐熱温度は、このストレスが緩和される温度付近であると考えられる。
【0116】
一方、グループX1に属する元素が添加されたAl−X1合金膜も、Al−X2合金膜と同様に温度の上昇と共に圧縮応力が高まり、上記と同様の温度域でAlの粒成長が開始される。しかしながら、図8に示すように、グループX1に属する元素は、固溶状態から拡散し金属間化合物として析出する速度が相対的に遅く、広い温度域で徐々に金属間化合物が析出し、この析出に伴ってストレスが徐々に緩和される。そのため、ストレスが十分に緩和されて固溶元素の殆どが金属間化合物として析出し、同時にAlの粒成長が進行して膜母材が十分に電気伝導率が低減されるまでには、かなりの加熱と時間を必要とし、その分、耐熱性は高まる。即ち、グループX1に属する元素は、上記グループX2に属する元素に較べると、金属間化合物の析出が遅れる分だけ耐熱性を高める効果がより高いと考えられ、よって添加量を相対的に少なく抑えても十分な耐熱性改善効果が得られる。
【0117】
このようにグループX1とグループX2に属する元素は、耐熱性のメカニズムが相違するため、添加量(上限)も相違している。
【0118】
また、コンタクト抵抗率についても、後記実施例で実証したように、グループX1に属する元素は、グループX2に属する元素よりも添加量を少なくしてもコンタクト抵抗率を基準値レベルにまで下げることができる。このような作用は、相対的に低い加熱温度で処理した場合でも、同様に見られた。
【0119】
しかもグループX1に属する元素は、グループX2に属する元素に比べると、添加量をあまり多くすることはできないが、電極膜にボイド(空隙)が生成し難いという特徴を有している。即ち、グループX2に属する元素の如く、加熱時の狭い温度域で一気に金属間化合物が析出する元素を選択した場合、粒成長が進むほど、加熱後に室温まで降温したときに膜内部に強い引張応力が生じてボイド発生の原因になる恐れがある。しかし、グループX1に属する元素の如く、昇温と共に金属間化合物が時間をかけて徐々に析出する合金系では、グループX2と同じ温度域まで加熱すると析出と粒成長が中断されるので応力の緩和が十分に進まず、その後に室温まで降温したときの当該膜に残る引張応力は小さくなる。引張応力に起因するボイドの発生を防止するという観点に基づけば、グループX1に属する元素を選択することが好ましい。
【0120】
次に、Al−Ni合金薄膜と透明画素電極との界面に形成される酸化物(AlOx、xは0<x≦0.8)について説明する。
【0121】
上記の酸化物は、化学量論組成のAl23に比べて酸素の量が少なく、導電性である。その結果、本発明によれば、バリアメタル層を省略してもコンタクト抵抗率の上昇を防止することができる。すなわち、従来のAl配線材料を、バリアメタル層を介さずに透明画素電極と直接接合すると、その界面にAl23とほぼ同程度の酸素を含む高抵抗の膜が厚く形成されるため、コンタクト抵抗率が増加したが、本発明によれば、このような問題は生じない。
【0122】
上記AlOxの厚さは、1〜10nmの範囲内であることが好ましく、2〜8nmの範囲内であることがより好ましく、おおむね、5nm前後であることが最も好ましい。
【0123】
このような導電性の酸化皮膜(AlOx)は、2段階以上の成膜法を用いて形成することが好ましい。具体的には、例えば、基板温度を好ましくは100〜200℃の範囲に設定し、アルゴン等の非酸化性ガスを用い、例えば厚さ5〜20nm(好ましくは10nm程度)の成膜を行う。この間、すなわち、透明画素電極を構成するITO膜の成膜初期段階では、Al−Ni合金薄膜の表面を極力酸化しないよう、酸素無添加の雰囲気下で成膜する。なお、酸素無添加の雰囲気下で成膜を行うと、スパッタリング法によって形成されるITO膜内の酸素含量が少なくなり、当該ITO膜そのものの導電率は低下する。しかし、このときに、基板に対して適度の加熱を行なうとITOの結晶性が高まり、ITO膜としての導電率の低下を補うことができる。
【0124】
次に、上記基板の温度を維持しつつ、雰囲気ガスを、非酸化性ガスから、非酸化性ガスに酸素を混入した酸素含有ガスに変更し、例えば厚さ20〜200nm程度(好ましくは40nm前後)の成膜を行う。このとき雰囲気ガスへの酸素の添加量は特に制限されないが、代表的な条件としては、例えばアルゴン1〜5mTorr程度(好ましくは3mTorr前後)に対し、酸素10〜50μTorr(好ましくは20μTorr前後)に制御することが好ましい。この様な条件を採用すると、形成されるITO膜の電気抵抗率は最も低くなり、1×10-4Ω・cm程度以下になることを実験によって確認している。尚、酸素を添加する代わりに、水蒸気を添加することによっても同様の効果が得られる。このようにスパッタリング法によるITO膜の形成を、雰囲気ガスの酸素含量を変えて2段階(または多段回)で行うことにより、ITO成膜初期のAl合金膜の酸化を抑制しつつ、一方でITO膜自体は十分な高導電率を確保することが可能となる。
【0125】
次に、Al−Ni合金薄膜と透明画素電極との界面に形成されるNi濃化層について説明する。Ni濃化層も、上記のAlOx皮膜と同様、導電性を有しているため、コンタクト抵抗率の低減化に寄与する。
【0126】
Ni濃化層中の平均Ni濃度は、Al−Ni合金中の平均Ni濃度の2倍以上(より好ましくは2.5倍以上)であることが好ましい。Ni濃化層の厚さは、0.5nm以上、10nm以下であることが好ましく、1.0nm以上、5nm以下であることがより好ましい。
【0127】
上述したAl−Ni合金薄膜を用いて試作したTFTは、後記する実施例に示すように、Crなどのバリアメタル層を介在させた従来のAl系合金薄膜を用いた場合と同等レベル以上のTFT特性、コンタクト抵抗率、および耐熱性を実現できることが確認された。従って、本発明によれば、バリアメタル層の省略によって製造工程を簡略化することができ、製造コストを低減できる。しかも、本発明によれば、約200℃といった比較的低い
熱プロセス温度で電気抵抗率を充分低減できるので、表示デバイス構成素材の種類や処理条件の選択の幅を一段と拡大することが可能となる。
【0128】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明に係るTFT基板の好ましい実施形態を説明する。以下では、アモルファスシリコンTFT基板を備えた液晶表示装置を代表的に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。本発明に用いられるソース−ドレイン電極は、例えば、反射型液晶表示デバイス等の反射電極、外部への信号入出力のために使用されるTAB(タブ)接続電極にも同様に適用できることを実験により確認している。
【0129】
図3を参照しながら、本発明に係るアモルファスシリコンTFT基板の実施形態を詳細に説明する。
【0130】
図3は、本発明に係るTFT基板の好ましい実施形態を説明する概略断面図である。図3では、従来のTFT基板を示す前述した図2と同じ参照番号を付している。
【0131】
図3において、ソース28およびドレイン電極29に電気的に接続されるソース−ドレイン配線34は、窒素含有層(不図示)とAl−2.0原子%Ni合金(不図示)とからなり、窒素含有層は、アモルファスシリコンチャネル薄膜33を覆うように形成されている。ソース−ドレイン配線34の構成は、後記する図4(e)および図4(f)に詳しく示している。
【0132】
図2と図3とを対比すると明らかなように、従来のTFT基板では、図2に示すように、ソース−ドレイン電極の下および上に、それぞれ、Moなどの下部バリアメタル層53および上部バリアメタル層54が形成されているのに対し、本発明のTFT基板では、下部バリアメタル層53および上部バリアメタル層54を省略することができる。
【0133】
本実施形態によれば、従来のように下部バリアメタル層を介在させることなく、窒素含有層を介してAl系合金をアモルファスシリコンチャネル薄膜と接続することができ、これによっても、従来のTFT基板と同程度以上の良好なTFT特性を実現できる(後記する実施例1から2を参照)。更に、本発明によれば、従来のように上部バリアメタル層を介在させることなく、Al系合金を透明画素電極と直接接続することができ、これによっても、従来のTFT基板と同程度以上の良好なコンタクト抵抗率および耐熱性を確保することができる(後記する実施例を参照)。
【0134】
従って、本発明によれば、配線材料に不可欠であったバリアメタル層をすべて省略することが可能である。
【0135】
次に、図4を参照しながら、図3に示す本発明に係るTFT基板の製造方法を説明する。図4には、図3と同じ参照符号を付している。
【0136】
まず、図4(a)に示すように、ガラス基板1a上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ200nm程度のAl系合金薄膜(Al−2.0原子%Nd)61および厚さ50nm程度のMo薄膜(不図示)を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。この積層薄膜上に、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィによってレジスト62をパターニングした後、レジスト62をマスクとしてAl系合金薄膜61およびMo薄膜52の積層膜をエッチングすることにより、ゲート電極26を形成する(図4(c))。このとき、後に成膜されるゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上
記積層薄膜の周縁を約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0137】
次いで、図4(d)に示すように、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、厚さ約300nm程度のSi窒化膜(ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。続いて、例えば、プラズマCVD法等の方法を用いて、Si窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ200nm程度のアンドープト水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55および厚さ約80nmのリンをドーピングしたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を順次積層する。n型水素化アモルファスシリコン膜は、SiH、PHを原料としたプラズマCVDを行うことによって形成される。
【0138】
次に、図4(e)に示すように、Si窒化膜の形成に用いたのと同じプラズマCVD装置の同一チャンバー内にて、上記のようにして得られたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56の上に窒素含有層60を形成する。具体的には、チャンバー内に基板を保持したまま、アモルファスシリコン膜の成膜に用いた原料ガスを排除した。次いで、チャンバー内に、キャリアガスとして窒素のみを供給してプラズマを発生させ、n型水素化アモルファスシリコン膜56の表面を3分間処理し、窒素含有層を形成した。高周波(RF)パワー密度は0.24W/cm、成膜温度は320℃、ガス圧力は67Paとした。表面をRBS法およびXPS法で分析した結果、厚さ約5.8nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0139】
本実施形態では、プラズマ窒化法によって窒素含有層60を形成したが、これに限定されず、前述した(ii)の熱窒化法や(iii)のアミノ化法を採用しても、所望の窒素含有層が得られることを実験によって確認している(後記する実施例1から4を参照)。
【0140】
次いで、図4(f)に示すように、窒素含有層60の上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ300nm程度のAl−2.0原子%Ni合金膜63を形成する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。次に、フォトリソグラフィによってレジストをパターニングした後、レジストをマスクとしてAl−2.0原子%Ni合金膜63をエッチングすることにより、ソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される(図4(f))。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、n型水素化アモルファスシリコン膜56をドライエッチングして除去する(図4(g))。
【0141】
次に、例えばプラズマ窒化装置などを用いて厚さ300nm程度のSi窒化膜(保護膜)を形成する(不図示)。このときの成膜は、約200℃で行なった。次に、Si窒化膜30上にレジストをパターニングし、ドライエッチング等を行うことによってコンタクトホール57を形成する。
【0142】
次に、例えば酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、例えばアミン系等の剥離液を用いてフォトレジスト層(不図示)を剥離する。最後に、厚さ50nm程度のITO膜(酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加)を成膜する。次いで、ウェットエッチングによるパターニングを行って透明画素電極5を形成すると、TFT基板が完成する。
【0143】
本実施形態によれば、アモルファスシリコンチャネル薄膜が窒素含有層を介してAl−Ni合金薄膜と接続されているだけでなく、当該Al−Ni合金薄膜は、更にITO膜とも直接接続されたTFT基板が得られる。
【0144】
上記では、透明画素電極5として、ITO膜を用いたが、IZO膜を用いてもよい。また、活性半導体層としてアモルファスシリコンの代わりにポリシリコンを用いてもよい。
【0145】
このようにして得られるTFT基板を使用し、例えば、以下に記載の方法によって、前述した図1に示す液晶表示装置を作製する。
【0146】
まず、上記のようにして作製したTFT基板1の表面に、例えばポリイミドを塗布し、乾燥してからラビング処理を行って配向膜を形成する。
【0147】
一方、対向基板2は、ガラス基板上に、例えばクロムをマトリスク状にパターニングすることによって遮光膜9を形成する。次に、遮光膜9の間隙に、樹脂製の赤、緑、青のカラーフィルタ8を形成する。遮光膜9とカラーフィルタ8上に、ITO膜のような透明導電性膜を共通電極7として配置することによって対向電極を形成する。そして、対向電極の最上層に例えばポリイミドを塗布し、乾燥した後、ラビング処理を行って配向膜11を形成する。
【0148】
次いで、TFT基板1と対向基板2の配向膜11が形成されている面とを夫々対向するように配置し、樹脂製などのシール材16により、液晶の封入口を除いてTFT基板1と対向基板22枚とを貼り合わせる。このとき、TFT基板1と対向基板2との間には、スペーサー15を介在させるなどして2枚の基板間のギャップを略一定に保つ。
【0149】
このようにして得られる空セルを真空中に置き、封入口を液晶に浸した状態で徐々に大気圧に戻していくことにより、空セルに液晶分子を含む液晶材料を注入して液晶層を形成し、封入口を封止する。最後に、空セルの外側の両面に偏光板10を貼り付けて液晶パネルを完成させる。
【0150】
次に、図1に示したように、液晶表示装置を駆動するドライバ回路13を液晶パネルに電気的に接続し、液晶パネルの側部あるいは裏面部に配置する。そして、液晶パネルの表示面となる開口を含む保持フレーム23と、面光源をなすバックライト22と導光板20と保持フレーム23によって液晶パネルを保持し、液晶表示装置を完成させる。
【実施例】
【0151】
(実施例1)
以下の実施例1〜実施例5では、本発明のように窒素含有層を含むソース−ドレイン電極を用いれば、バリアメタル層を省略しても優れたTFT特性が得られることを調べる目的で、種々の実験を行った。実験条件および評価方法は以下のとおりである。
【0152】
(ソース−ドレイン電極)
実施例1から4では、前述した実施形態1に記載のソース−ドレイン電極(Al−2.0原子%Niを使用)を用いた。実施例5では、前述した実施形態1において、Al−2.0原子%Niの代わりに純Alを用いた。実施例1と、実施例2から実施例4とは、以下に説明するように、ソース−ドレイン電極用の窒素含有層の形成方法のみが相違しており、実施例1は、実施形態1に詳述したプラズマ窒化法を、実施例2は熱窒化法を、実施例3および4はアミノ化法を、それぞれ、採用している。
【0153】
(実施例2)
前述した実施形態1において、窒素含有層を以下のようにして作製した。
【0154】
まず、実施形態1と同様にしてn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を形成する。次に、Si窒化膜の形成に用いたのと同じプラズマ窒化装置内にて、キャリアガスとして窒素を用い、350℃で30分間加熱した。加熱後、前述した実施形態1と同様にして表面を分析した結果、厚さ約6nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0155】
(実施例3)
前述した実施形態1において、窒素含有層を以下のようにして作製した。
【0156】
まず、実施形態1と同様にしてn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を形成する。次に、これを紫外線照射装置に設置し、窒素ガスを供給しながら、波長254nmの紫外線を60分間照射した。加熱後、前述した実施形態1と同様にして表面を分析した結果、厚さ約3nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0157】
(実施例4)
前述した実施形態1において、窒素含有層を以下のようにして作製した。
【0158】
まず、実施形態1と同様にしてn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を形成する。次に、これをアンモニア水溶液(濃度1vol%)中に浸漬し、波長254nmの紫外線を表面に60分間照射した。加熱後、前述した実施形態1と同様にして表面を分析した結果、厚さ約2nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0159】
(実施例5)
前述した実施形態1において、Al−2.0原子%Niの代わりに純Alを用いたこと以外は、実施形態1と同様にしてTFTを作製した(窒素含有層の厚さ約5.8nm)。
【0160】
(実験に供したTFT)
ここでは、TFT特性を簡易に調べるため、実施形態1の図4(g)に示すTFTに対し、300℃で30分間のアニールを行ったものを実験に供した。このアニール条件は、TFT基板の製造工程で、熱履歴が最大となるSi窒化膜(保護膜)の成膜工程の加熱処理を想定して設定されたものである。本実施例に供したTFTは、現実のTFT基板のように種々の成膜工程が施されて完成されたものではないが、上記のアニールを行ったTFTは、実際のTFT基板のTFT特性をほぼ反映していると考えられる。
【0161】
(SiとAlとの相互拡散の評価)
上記のTFTを用い、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金または純Alとの界面を観察してSiとAlとの相互拡散の有無を調べた。詳細には、上記界面を断面TEM(cross-sectional Transmission Electron Microscopy、倍率60万倍)を用いて観察するとともに、上記界面におけるSiとAlとの相互拡散をEDX(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectroscopy)法で定量分析した。
【0162】
(TFT特性の評価)
上記のTFTを用い、TFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。これによっても、SiとAlとの相互拡散を間接的に評価することができる。ここでは、TFTのスイッチングのオフ時に流れるリーク電流(ゲート電圧に負電圧を印加したときのドレイン電流値、オフ電流)と、TFTのスイッチングのオン時に流れるオン電流とを以下のようにして測定した。
【0163】
ゲート長(L)10μm、ゲート幅(W)100μm、W/Lの比が10のTFTを用い、ドレイン電流およびゲート電圧を測定した。測定時のドレイン電圧は10Vとした。オフ電流はゲート電圧(−3V)を印加したときの電流と定義し、オン電流はゲート電圧が20Vとなるときの電圧と定義した。
【0164】
このようにして測定される各TFT特性は、従来例のTFT特性を基準値として以下の
ように評価した。従来例として、純Alの薄膜とCrのバリアメタル層とからなるソース−ドレイン電極を用いて上記と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を測定した。従来例のオン電流は1.2×10−5Aであり、従来例のオフ電流は4.0×10−13Aであった。この値を基準値とし、オフ電流が、上記基準値の1桁の増加の範囲内(4.0×10−12A以下)に含まれるものを良好(○)、上記範囲を超えるものを不良(×)とした。また、オン電流は、上記基準値の20%以内の減少の範囲内(9.6×10−6A以下)に含まれるものを良好(○)、上記範囲を超えるものを不良(×)とした。
【0165】
(結果)
図5に、実施例1における断面TEM写真を示す。図5に示すように、アモルファスシリコンチャネル薄膜とソース−ドレイン電極用Al−Ni合金薄膜との界面付近に窒素含有層(窒化物層)が形成されている。図5において、白く光っている部分(矢印部分)はAlNiの析出物である。
【0166】
また、上記界面をEDX法によって分析した結果、SiとAlとの相互拡散は見られず、平坦な界面が形成されていることが確認された。
【0167】
上記と同様の結果は、他の実施例2から5においても、同様に認められた(写真の添付は省略する)。
【0168】
次に、実施例1から5のTFT特性の結果を表1にまとめて示す。
【0169】
【表1】

【0170】
表1に示すように、本実施例のTFTを用いれば、いずれの方法によって窒素含有層を形成したとしても、従来例とほぼ同程度の良好なTFT特性が得られた。
【0171】
これらの結果より、本実施形態のソース−ドレイン電極を用いれば、下部バリアメタル層を省略しても、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl系合金膜との界面におけるSiとAlとの相互拡散を有効に防止できる結果、良好なTFT特性を実現できることが確認された。
【0172】
なお、比較のため、前述した特許文献5に記載の方法に基づき、純Al薄膜の下層にAlN層を形成したところ、Al薄膜が剥離した。そのため、TFT特性の評価は行わなかった。Al薄膜が剥離した理由は、AlN層がAl薄膜の下層にのみ形成されているため、Al合金に大きな応力が生じたためと考えられる。
【0173】
(実施例6)
本実施例では、上記実施例1において、プラズマ窒化法の条件(プラズマ照射時間)を表2に示すように種々変化させたときのTFT特性を実施例1と同様にして評価した。表2において、窒素含有層の厚さ、(N原子数/Si原子数)の比、およびNの面密度は、前述した方法によって測定した。
【0174】
比較のため、前述した実施例1において、窒素含有層の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例のTFTを作製した。次に、このTFTを用い、実施例1と同様にして、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面を観察するとともに、TFT特性を評価した。
【0175】
図6に、比較例の断面写真を示す。図6に示すように、アモルファスシリコンチャネル薄膜内およびソース−ドレイン電極用Al−Ni合金薄膜内には、いずれも、多くのボイド(図6の矢印部分)が観察されており、このことは、上記界面でAlとSiとの相互拡散が頻繁に行われたことを示唆している。また、上記界面をEDX法によって分析した結果、SiとAlとの相互拡散が顕著に見られた。
【0176】
次に、実施例6および比較例(窒素含有層なし)のTFT特性の結果を表2にまとめて示す。表2には、参考のため、表1の従来例の結果を併記している(No.1)。
【0177】
【表2】

【0178】
表2において、No.4から7および9は、窒素含有層が本発明の好ましい要件を満足する本発明例であり、No.2は窒素含有層を有しない比較例、No.3および8は、窒素含有層が本発明の好ましい要件を満足しない比較例である。本発明例のうち、No.4から7はAl−Ni合金層を含み、No.9は純Al層を含んでいる。
【0179】
表2より、本発明例のように、プラズマ照射時間をおおむね1分間から10分間の範囲内に設定し、窒素含有層の厚さ、(N原子数/Si原子数)の比、およびNの面密度が適切に制御されたものは、いずれも、従来例と同程度の良好なTFT特性が得られた。
【0180】
これに対し、比較例では、従来例に比べてTFT特性の劣化が著しく見られた。比較例のNo.8において、TFT特性が低下した原因は、詳細には不明であるが、プラズマ照射時間が長くなると窒素含有層も厚くなり、アモルファスシリコンチャネル薄膜に損傷が生じたこと、プラズマ中に微量の酸素が混入してアモルファスシリコンチャネル薄膜の表面でSiの酸化が生じたことなどが主に考えられる。
【0181】
(実施例7)
本実施例では、上記実施例1において、Al−Ni合金のNi含有量の範囲を表3に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0182】
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0183】
【表3】

【0184】
表3に示すように、Ni含有量を0.1原子%から6原子%の範囲内に変化させたAl−Ni合金を用いて作製したTFTは、いずれも、良好なTFT特性が見られた。
【0185】
(実施例8)
本実施例では、上記実施例1において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分としてLaまたはNdを添加し、LaおよびNdの含有量を表4に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。更に、Al−0.1原子%Ni合金に第三成分としてLaまたはNdを添加し、LaおよびNdの含有量を表4に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0186】
これらの結果を表4にまとめて示す。
【0187】
【表4】

【0188】
表4に示すように、Laを0.1原子%から2.0原子%の範囲で含むAl−0.1原子%Ni−La合金およびAl−2.0原子%Ni−La合金、並びにNdを0.1原子%から2.0原子%の範囲で含むAl−0.1原子%Ni−Nd合金およびAl−2.0原子%Ni−Nd合金を用いて作製したTFTは、いずれも、良好なTFT特性が見られた。
【0189】
(実施例9)
本実施例では、上記実施例1において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分として表5に示す種々の元素(前述したグループX1に属する元素)を0.3原子%添加したこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0190】
これらの結果を表5にまとめて示す。
【0191】
【表5】

【0192】
表5に示すように、グループX1の元素を含むAl−Ni−X1合金を用いて作製したTFTは、いずれも、良好なTFT特性が見られた。
【0193】
(実施例10)
本実施例では、上記実施例1において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分として表6に示す種々の元素(前述したグループX2に属する元素)を1.0原子%添加したこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0194】
これらの結果を表6にまとめて示す。
【0195】
【表6】

【0196】
表6に示すように、グループX2の元素を含むAl−Ni−X2合金を用いて作製したTFTは、いずれも、良好なTFT特性が見られた。
【0197】
(実施例11)
以下の実施例11〜実施例13では、窒素含有層の窒素の面密度(N1)と酸素の面密度(O1)との比(N1/O1)がTFT特性に及ぼす影響を調べるため、窒素含有層の作製条件(ガス圧力、成膜温度、ガスの組成)を以下のように変化させて実験を行なった。
【0198】
本実施例では、圧力を33〜399Paの範囲で変化させたときの、N1/O1の比に及ぼす影響を調べた。
【0199】
実験は、前述した実施形態に記載の方法を若干変更して行なった。以下では、前述した実施形態と同様、図4を参照しながら、ソース−ドレイン電極を作製する方法を詳しく説明する。
【0200】
まず、図4(a)に示すように、ガラス基板1a上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ200nm程度のAl系合金薄膜(Al−2.0原子%Nd)61および厚さ50nm程度のMo薄膜(不図示)を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。この積層薄膜上に、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィによってレジスト62をパターニングした後、レジスト62をマスクとしてAl系合金薄膜61およびMo薄膜52の積層膜をエッチングすることにより、ゲート電極26を形成する(図4(c
))。このとき、後に成膜されるゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上記積層薄膜の周縁を約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0201】
次いで、図4(d)に示すように、プラズマCVD法を用いて、厚さ約300nm程度のSi窒化膜(ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約320℃とした。続いて、例えば、プラズマCVD法等の方法を用いて、Si窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ約200nmのアンドープト水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55および厚さ約80nmのリンをドーピングしたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を順次積層する。n型水素化アモルファスシリコン膜は、SiH、PHを原料としたプラズマCVDを行うことによって形成される。このときの成膜温度は、320℃とした。
【0202】
次に、Si窒化膜の形成に用いたのと同じプラズマCVD装置の同一のチャンバー内に基板を保持したまま、アモルファスシリコン膜の成膜に用いた原料ガスを排除した。次いで、チャンバー内に、キャリアガスとして窒素のみを供給してプラズマを発生させ、低抵抗アモルファスシリコン膜(n型水素化アモルファスシリコン膜56)の表面を1分間処理し、図4(e)に示すように、窒素含有層60を形成した。プラズマに印加した高周波(RF)パワー密度は0.72W/cmとであり、基板の温度はアモルファスシリコンの成膜温度と同じ320℃とした。
【0203】
なお、本実施例では、ガス圧力を33〜399Paの範囲で変化させたが、プラズマを安定して供給できたのは、せいぜい、133Paまでであったため、133Paを超える圧力下で行なったものについては、以下のTFT作製工程を行なわなかった。
【0204】
次いで、図4(f)に示すように、窒素含有層60の上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ300nm程度のAl−2.0原子%Ni合金膜63を形成する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。次に、フォトリソグラフィによってレジストをパターニングした後、レジストをマスクとしてAl−2.0原子%Ni合金膜63をエッチングすることにより、ソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される(図4(f))。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、n型水素化アモルファスシリコン膜56をドライエッチングして除去する(図4(g))。
【0205】
このようにして作製したTFTに対し、300℃で30分間のアニールを行った。このアニール条件は、TFT基板の製造工程で、熱履歴が最大となるSi窒化膜(保護膜)の成膜工程の加熱処理を想定して設定されたものである。本実施例に供したTFTは、現実のTFT基板のように種々の成膜工程が施されて完成されたものではないが、上記のアニールを行ったTFTは、実際のTFT基板のTFT特性をほぼ反映していると考えられる。
【0206】
(TFT特性の評価)
上記のTFTを用い、TFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。詳細には、前述した実施例1と同様にして、オフ電流およびオン電流を測定し、スイッチング特性を評価した。
【0207】
実施例11のTFT特性の結果を表7にまとめて示す。参考のため、従来例として、純Alの薄膜とCrのバリアメタル層とからなるソース−ドレイン電極を用いて上記と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を測定した結果を表7に併記している。
【0208】
【表7】

【0209】
表7に示すように、55〜133Paの圧力下で窒素プラズマ処理を行い、N1/O1の比が1.0以上に制御されたNo.6〜11では、従来例のNo.1とほぼ同程度の良好なTFT特性が得られた。
【0210】
これに対し、50Pa以下の圧力下で窒素処理を行い、N1/O1の比が1.0未満の
No.3〜5、および窒素プラズマ処理を行わなかったNo.2では、TFT特性が低下した。
【0211】
このうち、40〜50Paの圧力下で窒素プラズマ処理を行ったNo.4、5ではオン電流が低下したが、これは、N1/O1の比が1.0未満に低下し、窒素含有層中の絶縁性が上昇したためと考えられる。
【0212】
また、33Paの圧力下で窒素プラズマ処理を行ったNo.3では、オン電流の低下とオフ電流の増加の両方が見られたが、これは、窒素プラズマ処理が不充分なため、拡散バリアとして有効に作用する層が得られず、SiとAlとの相互拡散が発生したことに起因すると考えられる。
【0213】
(実施例12)
本実施例では、プラズマ処理温度を280〜340℃の範囲で変化させたときの、N1/O1の比に及ぼす影響を調べた。
【0214】
実験は、前述した実施例11において、圧力を67Paとし、処理温度を上記のように変化させたこと以外は実施例11と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。
【0215】
実施例12のTFT特性の結果を表8にまとめて示す。参考のため、従来例(純Alの薄膜とCrのバリアメタル層とからなるソース−ドレイン電極を使用)の結果を表8に併記している。
【0216】
【表8】

【0217】
表8に示すように、300〜340℃の温度で窒素プラズマ処理を行い、N1/O1の比が1.0以上に制御されたNo.4〜8は、従来例のNo.1とほぼ同程度の良好なTFT特性が得られた。
【0218】
これに対し、300℃未満の温度で窒素プラズマ処理を行い、N1/O1の比が1.0
未満のNo.2〜3では、オン電流が低下し、TFT特性が低下した。これは、N1/O1の比が1.0未満に低下し、窒素含有層中の絶縁性が上昇したためと考えられる。
【0219】
(実施例13)
本実施例では、ガスの組成がN1/O1の比に及ぼす影響を調べた。
実験は、前述した実施例11において、圧力を67Pa、温度を320℃とし、ガスの組成を、100%N単独(表8のNo.1)、および100%N+25%のNHの混合ガス(表8のNo.2)の条件下で窒素プラズマ処理を行った。
【0220】
実施例13のTFT特性の結果を表9にまとめて示す。参考のため、従来例(純Alの薄膜とCrのバリアメタル層とからなるソース−ドレイン電極を使用)の結果を表8に併記している。
【0221】
【表9】

【0222】
表9に示すように、いずれのガスを用いた場合にも、良好なTFT特性が得られたが、特に、還元性元素含有ガス(NH)を含む混合ガス下で窒素プラズマ処理を行い、N1/O1の比が1.0以上に制御されたNo.3では、還元性元素含有ガスを含まないNo.2に比べ、オン電流が増加し、従来例のNo.1とほぼ同程度の優れたTFT特性が得られた。これは、NHを添加することによって半導体層の酸化が一層抑えられたためと
考えられる。
【0223】
(実施例14)
本実施例では、半導体形成装置と同一のチャンバー内で、半導体層の成膜温度と同じ温度で窒素含有層を作製したときのTFT特性を調べた。
【0224】
実験は、前述した実施例11に記載の方法を若干変更して行なった。以下では、前述した実施例11と同様、図4を参照しながら、ソース−ドレイン電極を作製する方法を詳しく説明する。
【0225】
まず、図4(a)に示すように、ガラス基板1a上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ200nm程度のAl系合金薄膜(Al−2.0原子%Nd)61および厚さ50nm程度のMo薄膜(不図示)を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。この積層薄膜上に、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィによってレジスト62をパターニングした後、レジスト62をマスクとしてAl系合金薄膜61およびMo薄膜52の積層膜をエッチングすることにより、ゲート電極26を形成する(図4(c))。このとき、後に成膜されるゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上記積層薄膜の周縁を約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0226】
次いで、図4(d)に示すように、プラズマCVD法を用いて、厚さ約300nm程度のSi窒化膜(SiOx、ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約320℃とした。続いて、例えば、プラズマCVD法等の方法を用いて、Si窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ約200nmのアンドープト水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55および厚さ約80nmのリンをドーピングしたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を順次積層する。n型水素化アモルファスシリコン膜は、SiH、PHを原料としたプラズマCVDを行うことによって形成される。このときの成膜温度は、320℃とした。
【0227】
次に、酸化シリコン膜の形成に用いたのと同じプラズマCVD装置の同一のチャンバー内に基板を保持したまま、アモルファスシリコン膜の成膜に用いた原料ガスを排除した。次いで、チャンバー内に、キャリアガスとして窒素のみを供給してプラズマを発生させ、低抵抗アモルファスシリコン膜(n型水素化アモルファスシリコン膜56)の表面を1分間処理し、図4(e)に示すように、窒素含有層60を形成した。プラズマに印加した高周波(RF)パワー密度は0.72W/cmとであり、基板の温度はアモルファスシリコンの成膜温度と同じ320℃、ガス圧力は67Paとした。
【0228】
表面をRBS法およびXPS法で分析した結果、表面から約4.0nmの深さにわたって窒素含有層が存在することが確認された。すなわち、本実施例により、低抵抗アモルファスシリコン膜の表面に厚さ約4.0nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0229】
次いで、図4(f)に示すように、窒素含有層60の上に、スパッタリング等の方法を用いて、厚さ300nm程度のAl−2.0原子%Ni合金膜63を形成する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。次に、フォトリソグラフィによってレジストをパターニングした後、レジストをマスクとしてAl−2.0原子%Ni合金膜63をエッチングすることにより、ソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される(図4(f))。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、n型水素化アモルファスシリコン膜56をドライエッチングして除去する(図4(g))。
【0230】
このようにして作製したTFTに対し、300℃で30分間のアニールを行った。この
アニール条件は、TFT基板の製造工程で、熱履歴が最大となるSi窒化膜(保護膜)の成膜工程の加熱処理を想定して設定されたものである。本実施例に供したTFTは、現実のTFT基板のように種々の成膜工程が施されて完成されたものではないが、上記のアニールを行ったTFTは、実際のTFT基板のTFT特性をほぼ反映していると考えられる。
【0231】
(SiとAlとの相互拡散の評価)
上記のTFTを用い、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金または純Alとの界面を観察してSiとAlとの相互拡散の有無を調べた。詳細には、前述した実施例1と同様にして、上記界面を断面TEM(倍率60万倍)を用いて観察するとともに、上記界面におけるSiとAlとの相互拡散をEDX法で定量分析した。
【0232】
(TFT特性の評価)
上記のTFTを用い、TFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。詳細には、前述した実施例11と同様にして作製したTFTを用い、実施例11と同様にしてオフ電流およびオン電流を測定し、評価した。
【0233】
(結果)
図9に、実施例14における断面TEM写真を示す。図9に示すように、アモルファスシリコンチャネル薄膜とソース−ドレイン電極用Al−Ni合金薄膜との界面付近に窒素含有層(窒化物層)が形成されている。図9において、黒く見える部分(矢印部分)はAlNiの析出物である。
【0234】
また、上記界面をEDX法によって分析した結果、SiとAlとの相互拡散は見られず、平坦な界面が形成されていることが確認された。
【0235】
TFT特性の結果は以下のとおりであり、従来例とほぼ同程度の良好なTFT特性が得られた。
オフ電流4.0×10−13A、オン電流1.2×10−5
【0236】
(実施例15)
本実施例では、半導体形成装置と同一のチャンバー及び半導体層のガスに窒素を添加した混合ガスの条件下で行なった場合(実施例15)について、これらがTFT特性に及ぼす影響を調べるために実験を行なった。
【0237】
本実施例では、前述した実施例14の条件下(半導体形成装置と同一のチャンバー内で、半導体層の成膜温度と同じ温度)で、且つ、ガス組成を、半導体層形成に用いられるガスと窒素含有ガスとの混合ガスとして、窒素含有層を作製したときのTFT特性を調べた。
【0238】
実験は、前述した実施例14と同様にして、アモルファスシリコン膜と、膜厚約80nmの低抵抗アモルファスシリコン膜を成膜した。
【0239】
次に、プラズマの発生を一旦停止した後、チャンバー内にアモルファスシリコン膜を成膜するための原料ガス(SiH)をそのまま流した状態で、キャリアガスとして窒素のみを供給してプラズマを発生させ、低抵抗アモルファスシリコン膜の表面を10秒間処理した。プラズマに印加したRFパワー密度は0.07W/cm、基板の温度は、アモルファスシリコンの成膜温度と同じ320℃、ガス圧は67Paとした。
【0240】
表面をRBS法およびXPS法で分析した結果、表面から約6nmの深さにわたって窒
素含有層が存在することが確認された。すなわち、本実施例により、低抵抗アモルファスシリコン膜の表面に厚さ約7nmの窒素含有層が形成されていることが確認された。
【0241】
次いで、前述した実施例14と同様にしてTFTを作製した後、アニール処理を行った。
【0242】
(評価)
前述した実施例14と同様にして、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金または純Alとの界面を、断面TEM(倍率60万倍)を用いて観察するとともに、上記界面におけるSiとAlとの相互拡散をEDX法で定量分析した。
【0243】
また、前述した実施例14と同様にしてオフ電流およびオン電流を測定し、TFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。
【0244】
(結果)
図10に、実施例15における断面TEM写真を示す。図10に示すように、アモルファスシリコンチャネル薄膜とソース−ドレイン電極用Al−Ni合金薄膜との界面付近に窒素含有層(窒化物層)が形成されている。図10において、黒く見える部分(矢印部分)はAlNiの析出物である。
【0245】
また、上記界面をEDX法によって分析した結果、SiとAlとの相互拡散は見られず、平坦な界面が形成されていることが確認された。
【0246】
TFT特性の結果は以下のとおりであり、従来例とほぼ同程度の良好なTFT特性が得られた。
オフ電流4.0×10−13A、オン電流1.0×10−5
【0247】
(実施例16)
以下の実施例では、本発明のようにAl−Ni合金と窒素含有層とからなるソース−ドレイン電極を用いれば、バリアメタル層を省略してAl−Ni合金薄膜を透明画素電極と直接接続しても、良好なダイレクト接触抵抗(コンタクト抵抗)および耐熱性が得られることを調べた。
【0248】
具体的には、表10に示す種々のソース−ドレイン電極の上(Al系合金の上)にITO膜が形成された試料を以下のスパッタリング条件で形成した。アルゴンガス雰囲気下、3mTorrの圧力、200℃で20分間の加熱。ソース−ドレイン電極は、表7に示すように、プラズマ窒化法の条件を種々変化させて窒素含有層の厚さなどを変えている。ITO膜は、酸化インジウムに10質量%の酸化スズを加えたものを使用した。
【0249】
上記試料を用い、ダイレクト接触抵抗(コンタクト抵抗)およびヒロックの発生率(耐熱性)を以下のようにして測定し、評価した。
【0250】
コンタクト抵抗率の測定法
図7に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:10μm角)を作製し、4端子測定[ITO−Al合金に電流を流し、別の端子でITO(またはIZO)−Al合金間の電圧降下を測定する方法]を行った。すなわち、図7のI―I間に電流Iを流し、V1−V2間の電圧Vをモニターすることにより、接触部Cのダイレクト接触抵抗率Rを[R=(V2−V1)/I2]として求めた。コンタクト抵抗率は、Cr薄膜とITOとの
コンタクト抵抗率(2×10−4Ω・cm以下)を基準値とし、上記基準値の範囲内にあるものを良好(○)、上記基準値を超えるものを不良(×)とした。
【0251】
ヒロックの発生率(耐熱性)
上記試料に対し、10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成し、250℃×30分の真空熱処理を行った後、SEMで配線表面を観察し、直径0.1μm以上のヒロックの個数をカウントする。ヒロック密度が1×109個/m2以下のものを良好(○)、1×109個/m2超のものを不良(×)とした。
【0252】
これらの結果を表10にまとめて示す。表10には、表2に示すTFT特性の結果も併記している。「総合評価」の欄には、コンタクト抵抗率およびTFT特性を総合的に評価した結果を示す。「総合評価」中、「○」は、コンタクト抵抗率およびTFT特性がいずれも良好(○)のものを意味し、「×」は、コンタクト抵抗率およびTFT特性の少なくとも一方が不良(×)のものを意味する。
【0253】
【表10】

【0254】
表10において、No.4から7は、Al−Ni合金を含み、且つ、窒素含有層が本発明の好ましい要件を満足する本発明例であり、No.2は窒素含有層を有しない比較例、No.3および8は、窒素含有層が本発明の好ましい要件を満足しない比較例である。N
o.9は純Al層を含む比較例である。
【0255】
表10より、本発明例のように、プラズマ照射時間をおおむね1分間から10分間の範囲内に設定し、窒素含有層の厚さ、(N原子数/Si原子数)の比、およびNの面密度が適切に制御されたものは、いずれも、従来例と同程度の良好なコンタクト抵抗率および耐熱性が得られた。
【0256】
これに対し、No.3、8、および9の比較例では、いずれも、従来例に比べて上記特性が著しく劣化した。このうち、所定の窒素含有層を含むが従来の純Al層を用いたNo.9では、TFT特性は良好であるたが、コンタクト抵抗率および耐熱性が低下するため、ITO膜と直接接続させることはできなかった。
【0257】
(実施例17)
本実施例では、Al−Ni合金中のNi含有量、およびAl−Ni合金に第三成分としてLaを含有するAl−Ni−La合金中のNi含有量を表11に示すように変化させたこと以外は実施例16と同様にして試料を作製し、コンタクト抵抗率および耐熱性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0258】
これらの結果を表11にまとめて示す。
【0259】
【表11】

【0260】
表11より以下のように考察することができる。
【0261】
まず、第三成分を含有しないAl−Ni合金を用いて作製した試料では、Ni含有量を0.1原子%から6原子%の範囲内に変化させても、コンタクト抵抗率に優れており、更に、Ni含有量を0.3原子%以上にすると、耐熱性も改善された。
【0262】
一方、第三成分を含有するAl−Ni−La合金を用いて作製した試料では、Ni含有量を0.1原子%から6原子%の範囲内に変化させても、コンタクト抵抗率および耐熱性の双方に優れていた。
【0263】
(実施例18)
本実施例では、上記実施例16において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分としてLaまたはNdを添加し、LaおよびNdの含有量を表9に示すように変化させたこと以外は実施例16と同様にして試料を作製し、コンタクト抵抗率および耐熱性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0264】
これらの結果を表12にまとめて示す。
【0265】
【表12】

【0266】
表12に示すように、Laを0.1原子%から2.0原子%の範囲で含むAl−Ni−La合金、およびNdを0.1原子%から2.0原子%の範囲で含むAl−Ni−Ndの合金を用いて作製した試料は、いずれも、良好な特性が見られた。
【0267】
(実施例19)
本実施例では、上記実施例16において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分として表13に示す種々の元素(前述したグループX1に属する元素)を0.3原子%添加したこと以外は実施例1と同様にしてTFTを作製し、TFT特性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例1と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0268】
これらの結果を表13にまとめて示す。
【0269】
【表13】

【0270】
表13に示すように、グループX1の元素を含むAl−Ni−X1合金を用いて作製した試料は、いずれも、良好な特性が見られた。
【0271】
(実施例20)
本実施例では、上記実施例1において、Al−2.0原子%Ni合金に第三成分として表14に示す種々の元素(前述したグループX2に属する元素)を1.0原子%添加したこと以外は実施例16と同様にして試料を作製し、コンタクト抵抗率および耐熱性を評価した。プラズマ窒化法の条件は実施例16と同じであり、プラズマ照射時間は3分間、窒素含有層の厚さは約5.8nm、(N原子数/Si原子数)の比は1.0、Nの面密度は6.8×1015cm−2である。
【0272】
これらの結果を表14にまとめて示す。
【0273】
【表14】

【0274】
表14に示すように、グループX2の元素を含むAl−Ni−X2合金を用いて作製した試料は、いずれも、良好な特性が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1】図1は、アモルファスシリコンTFT基板が適用される代表的な液晶パネルの構成を示す概略断面拡大説明図である。
【図2】図2は、従来の代表的なアモルファスシリコンTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係るTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図4】図4は、図3に示すTFT基板の製造工程の一部を示す工程図である。
【図5】図5は、実施例1において、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図6】図6は、窒素含有層を有しない比較例において、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図7】Al合金薄膜と透明画素電極との間のコンタクト抵抗率の測定に用いたケルビンパターンを示す図である。
【図8】Al合金膜の温度と応力との関係を示す図である。
【図9】図9は、実施例14において、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図10】図10は、実施例15において、アモルファスシリコンチャネル薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面の断面TEM写真である。
【符号の説明】
【0276】
1 TFT基板
2 対向電極
3 液晶層
4 薄膜トランジスタ(TFT)
5 透明画素電極
6 配線部
7 共通電極
8 カラーフィルタ
9 遮光膜
10a、10b 偏光板
11 配向膜
12 TABテープ
13 ドライバ回路
14 制御回路
15 スペーサー
16 シール材
17 保護膜
18 拡散板
19 プリズムシート
20 導光板
21 反射板
22 バックライト
23 保持フレーム
24 プリント基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜(Si窒化膜)
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 保護膜(Si窒化膜)
31 フォトレジスト
32 コンタクトホール
33 アモルファスシリコンチャネル膜(活性半導体膜)
34 信号線(ソース−ドレイン配線)
51、52、53、54 バリアメタル層
55 アンドープト水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)
56 n型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)
60 窒素含有層
61 Al−2.0原子%Nd合金膜
62 レジスト
63 Al−2.0原子%Ni合金膜
100 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有層と純AlまたはAl合金の薄膜とからなり、該窒素含有層の窒素は、該薄膜トランジスタの半導体層のSiと結合しており、
該純AlまたはAl合金の薄膜は、該窒素含有層を介して該薄膜トランジスタの半導体層と接続していることを特徴とするソース−ドレイン電極。
【請求項2】
前記窒素含有層は、Si窒化物を主に含有する請求項1に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項3】
前記窒素含有層は、Siの酸窒化物を含有する請求項1または2に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項4】
前記窒素含有層の窒素は、1014cm−2以上2×1016cm−2以下の面密度(N1)を有している請求項1〜3のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項5】
前記窒素含有層の窒素の面密度(N1)と酸素の面密度(O1)との比(N1/O1)は1.0以上である請求項3に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項6】
前記窒素含有層の窒素は、前記半導体層を構成するSiの有効ボンドの面密度と同じか、該有効ボンドの面密度よりも高い面密度を有している請求項1〜5のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項7】
前記窒素含有層の厚さは、0.18nm以上20nm以下の範囲内である請求項1〜6のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項8】
前記窒素含有層中の窒素原子数とSi原子数との比(N/Si)の最大値は、0.5以上1.5以下の範囲内である請求項1〜7のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項9】
前記薄膜トランジスタの半導体層は、アモルファスシリコンまたは多結晶シリコンからなる請求項1〜8のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項10】
前記Al合金は、合金成分として、Niを6原子%以下の範囲内で含有する請求項1〜9のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項11】
前記Al合金の薄膜は、更に、前記透明画素電極と直接接続しており、
該Al合金は、合金成分として、Niを0.3原子%以上6原子%以下の範囲内で含有する請求項1〜9のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項12】
前記Al合金は、合金成分として、更に、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上1.0原子%以下の範囲内で含有する請求項10または11に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項13】
前記Al合金は、合金成分として、更に、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,およびFeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含有する請求項9〜12のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のソース−ドレイン電極を備えた薄膜トランジスタ基板。
【請求項15】
請求項14に記載の薄膜トランジスタ基板を備えた表示デバイス。
【請求項16】
請求項14に記載の薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、
半導体層が形成された薄膜トランジスタ基板を用意する工程(a)と、
該半導体層上に窒素含有層を形成する工程(b)と、
該窒素含有層上に純AlまたはAl合金層を形成する工程(c)と、
を含む、薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項17】
前記工程(b)は、前記工程(a)で用いられる半導体層形成装置と同一の装置で行われる請求項16に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項18】
前記工程(b)は、前記工程(a)で用いられる半導体層形成用チャンバーと同一のチャンバーで行われる請求項16または17記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項19】
前記工程(b)は、前記工程(a)における半導体層の成膜温度と実質的に同じ温度で行われる請求項16〜18のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項20】
前記工程(b)は、窒素含有ガスを前記工程(a)で用いられるガスと混合した条件下で行われる請求項16〜19のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項21】
前記工程(b)は、窒素含有ガスを還元性元素含有ガスと混合した条件下で行われる請求項16〜20のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項22】
前記工程(b)は、プラズマ窒化法である請求項16に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項23】
前記工程(b)は、55Pa以上の圧力下で行なわれる請求項22に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項24】
前記工程(b)は、300℃以上の温度で行なわれる請求項22または23に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項25】
前記工程(b)は、窒素含有ガスを還元性元素含有ガスと混合した条件下で行われる請求項22〜24のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項26】
前記工程(b)は、窒素含有ガスを前記工程(a)で用いられるガスと混合した条件下で行われる請求項22〜25のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項27】
前記工程(b)は、熱窒化法である請求項16に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項28】
前記熱窒化法は、400℃以下の温度で行われる請求項27に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項29】
前記工程(b)は、アミノ化法である請求項16に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項30】
前記アミノ化法は、紫外線を用いる請求項29に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項31】
前記アミノ化法は、窒素原子を含有する液体を用いる請求項29または30に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項32】
前記工程(c)はスパッタリング法を含む請求項16〜31のいずれかに記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−16862(P2009−16862A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215568(P2008−215568)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【分割の表示】特願2006−222697(P2006−222697)の分割
【原出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】