ヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法
【課題】登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することが可能なヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】ヒルスタートアシスト制御装置1は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するものである。このヒルスタートアシスト制御装置1は、モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープカット制御部25を備え、このクリープカット制御部25は、登坂路停車時にブレーキが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。
【解決手段】ヒルスタートアシスト制御装置1は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するものである。このヒルスタートアシスト制御装置1は、モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープカット制御部25を備え、このクリープカット制御部25は、登坂路停車時にブレーキが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、登坂路停車時においてブレーキから足を離しても、一定時間ブレーキが掛かったままの状態に保つブレーキ保持制御機能を備えたヒルスタートアシスト制御装置が知られている。このヒルスタートアシスト制御装置では、ブレーキ保持制御の作動中において、モータクリープトルクをゼロにして不要なトルクをモータから発生させないようにしている。これにより、モータクリープトルクの発生による不要な電力消費を抑えることとしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−214580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のヒルスタートアシスト制御装置では、登坂路停車時においてクリープトルクをゼロにするため、ブレーキの踏みこみ量によっては車両が後退するおそれがあった。そこで、モータクリープトルクをゼロにしないとなると、消費電力が大きくなってしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することが可能なヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒルスタートアシスト制御装置は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するものである。このヒルスタートアシスト制御装置は、モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープトルク調整手段を備えている。クリープトルク調整手段は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。このため、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて車両が後退しない程度のクリープトルクを算出できることとなる。これにより、車両が後退しない程度のクリープトルクの低減量を算出して、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することで、車両の後退を防止しつつクリープトルクの低減により消費電力を抑えることができる。従って、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置を示す構成図である。
【図2】図1に示したブレーキECUの詳細を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すタイミングチャートである。
【図4】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すフローチャートであり、ヒルスタートアシスト制御の開始時における処理を示している。
【図5】クリープカットの様子を示す第1の図である。
【図6】クリープカットの様子を示す第2の図である。
【図7】クリープカットの様子を示す第3の図である。
【図8】クリープカットの様子を示す第4の図である。
【図9】クリープカットの様子を示す第5の図である。
【図10】クリープカットの様子を示す第6の図である。
【図11】クリープカットの様子を示す第7の図である。
【図12】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すフローチャートであり、クリープトルク復帰時における処理を示している。
【図13】クリープトルクの復帰の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1を示す構成図である。図1に示すヒルスタートアシスト制御装置1は、車両の登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持し、車両発進時にはスムーズな発進を実現するヒルスタートアシスト制御を行うものである。このヒルスタートアシスト制御装置1は、ハイブリッド自動車や電気自動車など、モータを駆動動力源とする車両に搭載され、モータECU(Electronic Control Unit)10と、ブレーキECU20とを備えている。
【0010】
モータECU10は、モータを駆動制御するための信号生成を行うものであって、アクセル回度センサ31からの信号、車速信号、シフト信号、及びSOC(State of Charge
)信号を入力して、モータトルク指令値を算出する構成となっている。モータインバータ41は、走行バッテリー電源44からの直流電力を交流電力に変換するものであり、モータECU10からのモータトルク指令値に応じてモータACTR(Actuator)42を駆動するものである。
【0011】
ブレーキECU20は、ペダルストロークセンサ32、Gセンサ33、車輪速センサ34、及びMC(Master Cylinder)圧センサ35からの信号を入力すると共に、アクセル
開度信号及びシフト信号を入力して、ブレーキで発生させるべき制動力指令値を算出するものである。ブレーキACTR43は、ブレーキECU20からの制動力指令値に応じて、ブレーキに対し必要な油圧をかけるものである。
【0012】
また、モータECU10は、ブレーキECU20に対して現在のクリープトルク値、回生ブレーキ値、及び駆動力値の情報を送信すると共に、ブレーキECU20は、モータECU10に対してクリープトルク指令値、及び回生ブレーキ指令値を送信するようになっている。
【0013】
図2は、図1に示したブレーキECU20の詳細を示す構成図である。ブレーキECU20は、サービスブレーキ制御部21と、回生ブレーキ制御部22と、最終制動量決定部23と、HSA(Hill Start Assist)制御部24と、クリープカット制御部(クリープ
トルク調整手段、補償手段)25とを備えている。
【0014】
サービスブレーキ制御部21は、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からサービスブレーキの値を算出するものである。また、サービスブレーキ制御部21は、算出したサービスブレーキの値を回生ブレーキ制御部22に送信する。
【0015】
回生ブレーキ制御部22は、ペダルストロークセンサ32によりブレーキペダルが踏まれている場合、摩擦パッドによるブレーキ力と回生ブレーキによるブレーキ力とを調整するものである。この回生ブレーキ制御部22は、サービスブレーキ制御部21からのサービスブレーキ値と現在の回生ブレーキ値から、必要となる摩擦パッドによる摩擦ブレーキ値を算出し、この情報を最終制動量決定部23に送信する。なお、回生ブレーキ制御部22は、電気自動車やハイブリッド自動車のバッテリーが満充電に近づくと回生ブレーキ指令値をモータECU10に送信して、回生による発電量を抑える機能も有している。
【0016】
最終制動量決定部23は、回生ブレーキ制御部22から送信される摩擦ブレーキ値の情報に基づいて、制動量指令値を算出してブレーキACTR43に出力するものである。
【0017】
HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を実行するか否かを判断するものである。具体的にHSA制御部24は、以下の5つの条件を満たす場合に、ヒルスタートアシスト制御を開始する。ここで、5つの条件のうち2つは、1)ペダルストロークセンサ32により出力された信号からブレーキがオン(ブレーキペダルが踏み込まれた状態)であると判断できること、2)アクセル開度信号からアクセルペダルがオフ(アクセルペダルが踏み込まれていない状態)であると判断できること、である。また、残り3つの条件は、3)シフト信号からシフトポジションがパーキングポジション以外であると判断できること、4)車輪速センサ34により出力された車速信号から車両が停止していると判断できること、5)Gセンサ33により出力されたGセンサ値から車両が登坂路に位置していると判断できること、である。
【0018】
これら5つの条件を満たす場合、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を開始する。これにより、HSA制御部24は、摩擦ブレーキ値の情報を最終制動量決定部23に送信し、最終制動量決定部23は、ブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するように制動量指令値をブレーキACTR43に出力する。また、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御が開始されると、現在のブレーキ力の情報をクリープカット制御部25に送信する。
【0019】
また、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御中にドライバの発進意思を検出した場合、すなわちアクセル開度信号からアクセル開度が閾値を超えたと判断できる場合、摩擦ブレーキ値を変化させ、車両制動力を変化(主に減少)させていくものである。このとき、HSA制御部24は、車両の発進状態にあわせて、車両制動力を変化させていく。また、HSA制御部24は、ブレーキ操作がないまま所定時間経過した場合にも、車両制動力を変化(主に減少)させていく。
【0020】
クリープカット制御部25は、ヒルスタートアシスト制御中においてブレーキが戻された場合に、車両が後退しない範囲でモータから発生するクリープトルクを低減させて(クリープカットして)、モータ消費電力を抑制するものである。このクリープカット制御部25は、車両が後退しない制動力を求めると共に、HSA制御装置21から送信される現在の摩擦ブレーキ値(現在のブレーキ力)の情報から、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。そして、クリープカット制御部25は、設定されたクリープトルクの指令値をモータECU10に送信する。なお、車両が後退しない制動力は、Gセンサ33からの信号により求められる登坂路の路面勾配、及び車両の重量から算出することができる。
【0021】
さらに、クリープカット制御部25は、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合、さらにクリープトルクを低減して消費電力を抑制する。この場合、単にクリープトルクを低減すると車両が後退してしまうため、クリープカット制御部22は、ブレ
ーキ力を増大させる。すなわち、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合、クリープカット制御部25は、当該値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大(ブレーキを増圧)させることで補償することとなる。
【0022】
具体的にクリープカット制御部25は、摩擦ブレーキ増圧指令値を算出してHSA制御部24に送信する。これにより、HSA制御部24は、摩擦ブレーキの増圧分を含んだ摩擦ブレーキ値を算出し最終制動量決定部23に送信する。そして、最終制動量決定部23は、HSA制御部24から送信される摩擦ブレーキ値の情報に基づいて、制動量指令値を算出してブレーキACTR43に出力する。以上により、ブレーキ力を増大が行われる。
【0023】
また、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時など、ブレーキ力を増大させることができない場合、ブレーキ力を増大させずゼロよりも大きい値のクリープトルクに低減させることとする。
【0024】
次に、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要について説明する。図3は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すタイミングチャートである。
【0025】
まず、時刻t1においてHSA制御部24は、ブレーキペダルのストロークがAmm以上であり、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からブレーキがオンであると判断したとする。さらに、時刻t1において、HSA制御部24は、アクセル開度信号からアクセルペダルがオフであると判断し、且つ、シフト信号からシフトポジションがドライブポジションであると判断したとする(アクセル開度がE%未満であると判断したとする)。さらには、時刻t1においてHSA制御部24は、車輪速センサ34から出力される車速信号から車両が停止していると判断でき(車速がCkm/h以下であると判断でき、且つ、Gセンサ33から出力されるGセンサ値から車両が登坂路に位置している(前後GがFm/s2以上)と判断したとする。
【0026】
この場合、HSA制御部24はHSAフラグをオンにする。これにより、クリープトルク制御部25は、不要なクリープトルクの発生による消費電力を抑えるために、クリープトルクを低減させていく。
【0027】
そして、時刻t2においてHSA制御部24は、ブレーキペダルのストロークがBmm以下となり、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からブレーキがオフであると判断したとする。
【0028】
この場合、HSA制御部24は、MC圧をブレーキがオフとなる前のGMPaに保ち、ブレーキペダルが戻された後についてもブレーキ力が掛かったままとして、車両の後退を防止する。
【0029】
なお、時刻t2からアクセルペダルの操作なしに所定時間経過すると、HSA制御部24はHSAフラグをオフにする。これにより、HSA制御部24は、MC圧を維持することを中止し、MC圧を低減させると共に、クリープトルクを復帰させることとなる。
【0030】
また、時刻t2から所定時間経過することなく、アクセル開度がE%以上であるとHSA制御部24により判断されたとする。この場合、HSA制御部24はHSAフラグをオフにする。そして、HSA制御部24は、MC圧を維持することを中止し、MC圧を低減させると共に、クリープトルクを復帰させることとなる。
【0031】
次に、フローチャートを参照して、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1
の動作の概要について説明する。図4は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すフローチャートであり、ヒルスタートアシスト制御の開始時における処理を示している。
【0032】
図4に示すように、まず、HSA制御部24は、各種センサ値及び演算値を読み込む(S1)。その後、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を実行するか否か、又は実行中であるか否かを判断する(S2)。
【0033】
ヒルスタートアシスト制御を実行しない、及び、実行中でないと判断した場合(S2:NO)、図4に示す処理は終了する。一方、ヒルスタートアシスト制御を実行する、又は実行中であると判断した場合(S2:YES)、HSA制御部24はクリープカット実行中であるか否かを判断する(S3)。クリープカット実行中であると判断した場合(S3:YES)、図4に示す処理は終了する。
【0034】
クリープカット実行中でないと判断した場合(S3:NO)、HSA制御部24は、車両が後退しない必要な保持力を演算する(S4)。このとき、HSA制御部24は、登坂路の傾斜角をθとし、車両の重量をMとすると、必要な保持力をM・g・sinθなる式から算出する。なお、保持力は、モータトルクによる駆動力FDと、ブレーキによる制動力FBとの合算により、達成できればよく、HSA制御部24は、FD+FB≧M・g・sinθとなるように両者制御すれば、車両の後退を防げることとなる。
【0035】
次に、クリープカット制御部25は、クリープトルクの低減量を算出する(S5)。ここで、初期のクリープトルクによる駆動力FDNと、ブレーキが戻される前のブレーキによる制動力FBNとすると、車両の後退なしに低減できるクリープトルクの値FDC1は、FDC1=FDN+FBN−M・g・sinθなる式から算出できる。
【0036】
次に、クリープカット制御部25は、ブレーキ力を増大させるか否かを判断する(S6)。ここで、クリープカット制御部25は、FDC1−FDN≧であれば、ブレーキ力を増大させないと判断する(S6:NO)。さらに、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時などにおいても、ブレーキ力を増大させないと判断する(S6:NO)。そして、処理はステップS10に移行する。
【0037】
一方、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時などでなく、且つ、FDC1−FDN<0であれば、ブレーキ力を増大させると判断する(S6:YES)。ここで、FDC1−FDN<0である場合、クリープトルクの低減値FDC1よりも初期のクリープトルクによる駆動力FDNの方が大きい値となり、初期のクリープトルクによる駆動力FDNからクリープトルクの低減値FDC1を差し引いたとしても、クリープトルクはゼロよりも大きい値となる。この場合、クリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大させることにより、さらにクリープトルクを低減する。そして、処理はステップS7に移行する。
【0038】
ステップS7においてクリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大量を演算する(S7)。ここで、増大量FBPは、FBP=M・g・sinθ−FBNなる式から算出される。なお、ブレーキ力の増大、すなわち増圧は、特開2009−154814号公報に記載のブレーキ機構の場合、入力ピストンに対してブースタピンをフロント側へ相対変位させることで実行される。なお、ブースタピンの変位量は有限であるため、その範囲以下で増圧されることとなる。
【0039】
次に、クリープカット制御部25は、HSA制御部24を介して摩擦ブレーキ増圧指令値を最終制動量決定部23に出力する(S8)。これにより、ブレーキ力の増大が行われ
る。そして、HSA制御部24は、増圧分に相当するクリープトルクの低減量を演算する(S9)。その後、クリープカット制御部25は、クリープトルク指令値をモータECU10に出力する(S10)。これにより、モータECU10は、設定されたクリープトルクでモータを駆動することとなる。その後、図4に示す処理は終了する。なお、図4に示す処理は車両電源がオフとされるまで、繰り返し実行される。
【0040】
図5は、クリープカットの様子を示す第1の図である。図5に示すように、時刻t51以前のクリープカット開始前では、ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保することができる。よって、時刻t51においてクリープトルクをゼロとし(クリープトルクによる駆動力をゼロとし)、合計(クリープトルクによる駆動力+ブレーキ力)を車両後退なしの保持力程度とする。よって、モータによる消費電力を抑えつつ車両後退を防止できる。なお、図5では、図4に示すステップS6において「NO」と判断した例を示している。
【0041】
図6は、クリープカットの様子を示す第2の図である。図6に示す例では、ブレーキACTR43の高温時など、ブレーキ力の増大を行うことができない場合を示している。この場合、ブレーキ力の増大を行うことなく、時刻t61においてクリープカットを開始する。そして、時刻t62においてクリープトルクがゼロとなることなく、車両後退なしの保持力を確保するように、クリープカットを終了する。これによっても、モータによる消費電力を抑えることができる。
【0042】
図7及び図8は、クリープカットの様子を示す第3及び第4の図である。図7及び図8に示す例では、ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保することができない。このため、図4に示すステップS6において「YES」と判断され、ブレーキ力が増大される。ここで、ブレーキ力には増大勾配というものがある。このため、この増大勾配を無視してクリープトルクを急激に低下させると、過渡的に合計が車両後退なしの保持力を下回ることがある。よって、図7及び図8に示す例ではクリープトルクの低減勾配を決定する。
【0043】
この際、クリープカット制御部25は、登坂路の路面勾配と、戻される前のブレーキ力と、ブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する。すなわち、クリープカット制御部25は、戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、車両が後退しない程度の保持力を発生させるまでの時間を求めることができる。そして、この時間を掛けて、現在のクリープトルクから、目標となるクリープトルクまで低減させることで、クリープトルクの低減勾配を決定することができる。これにより、過渡的に合計が車両後退なしの制動力を下回ることなく最速でクリープトルクを低減させることができる。
【0044】
具体的に図7に示す例においては、クリープカット開始の時刻t71からクリープカット終了の時刻t72までの時間を掛けて、クリープトルクがゼロとされている。同様に、図8に示す例においては、クリープカット開始の時刻t81からクリープカット終了の時刻t82までの時間が図7に示す例よりも長く、この時間を掛けてクリープトルクがゼロとされている。これは、初期のブレーキ力の相違によるものである。
【0045】
さらに、クリープトルクの低減勾配について説明する。ブレーキ力の増大に要する時間tは、増大勾配をFBPdtとすると、t=FBP/FBPdtとされる。さらに、ブレーキ力の増大を含めた車両後退なしにクリープトルクを低減できる値FDC2は、FDC2=FDC1+FBPとされる。よって、クリープトルクの低減勾配FDC2dtは、FDC2dt=FDC2/tとされる。
【0046】
そして、ブレーキ力の増大勾配FBPdtでブレーキ力の増大量FBPに達するまで増
大が行われ、クリープトルクの低減勾配FDC2dtでクリープトルクの低減値FDC2に達するまでクリープカットが行われる。
【0047】
なお、ブレーキ力の増大勾配FBPdtに応じた増圧勾配をFBPdt’とし、ブレーキ力の増大量FBPに応じた増圧量をFBP’とした場合、図4に示したステップS8において摩擦ブレーキ増圧指令値はMAX(増圧指令値の前回値+FBPdt’,FBP’)とされる。また、図4に示したステップS10においてクリープトルク指令値はMAX(クリープトルクの低減指令値の前回値+FDC2dt,FDC2)とされる。
【0048】
図9は、クリープカットの様子を示す第5の図である。ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保できる場合においては、図7に示すように早期にクリープトルクを低減させることが望ましい(実線参照)。しかし、図9に示すように、ある固定のクリープトルクの低減勾配で、クループトルクを低減させるようにしてもよい(二点鎖線参照)。なお、低減勾配を固定とする場合、勾配を充分に緩やかとしておくことが望ましい。これにより、過渡的に合計が車両後退なしの制動力を下回ることを防止できるからである。
【0049】
図10及び図11は、クリープカットの様子を示す第6及び第7の図である。まず、図10にクリープカットを先に行い、その後ブレーキ力を増大させる場合を二点鎖線で示す。二点鎖線で示すように、時刻t101でクリープカットが開始し、時刻t102においてクリープカットが終了する。その後、時刻t102から時刻t104までの時間を掛けてブレーキ力を増大させていく。
【0050】
これに対し、クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合を実線で示す。クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合、時刻t101からクリープカットが開始すると共に、時刻t101からブレーキ力が増大していく。このため、クリープカットとブレーキ力の増大とは、時刻t104よりも早い時刻t103に終了する。このため、同時期に実行させた方が、時刻t103から時刻t104までの効果時間を得ることができる。なお、ここでいう同時期とは、クリープカットの開始及び終了とブレーキ力の増大の開始及び終了が同じであることを意味するものではなく、クリープカットの実行時期とブレーキ力増大の実行時期との一部でも重なっていればよい概念である。
【0051】
同様に、図11にブレーキ力の増大を先に行い、その後クリープカットを行う場合を二点鎖線で示す。二点鎖線で示すように、時刻t111でブレーキ力の増大が開始し、時刻t112においてブレーキ力の増大が終了する。その後、時刻t112から時刻t113までの時間を掛けてクリープカットしていく。
【0052】
これに対し、クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合を実線で示す。クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合、時刻t111からクリープカットが開始すると共に、時刻t111からブレーキ力が増大していく。このため、クリープカットとブレーキ力の増大とは、時刻t113よりも早い時刻t112に終了する。このため、同時期に実行させた方が、時刻t112から時刻t113までの効果時間を得ることができる。
【0053】
次に、クリープトルク復帰時における処理を説明する。図12は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すフローチャートであり、クリープトルク復帰時における処理を示している。
【0054】
図12に示すように、まず、HSA制御部24は、各種センサ値及び演算値を読み込む(S11)。その後、HSA制御部24は、クリープカット実行中であるか否かを判断する(S12)。クリープカット実行中でないと判断した場合(S12:NO)、図12に
示す処理は終了する。
【0055】
一方、クリープカット実行中であると判断した場合(S12:YES)、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御により掛かったままの状態となっているブレーキ力について減少中(ブレーキ減圧中)であるか否かを判断する(S13)。ブレーキを減圧中であると判断した場合(S13:YES)、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値を演算する(S14)。
【0056】
そして、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値をモータECU10に出力する(S15)。これにより、クリープトルクの復帰が行われる。そして、図12に示す処理は終了する。ところで、ブレーキを減圧中でないと判断した場合(S13:NO)、クリープトルクの復帰は行われず、図12に示す処理は終了する。
【0057】
図13は、クリープトルクの復帰の様子を示す図である。まず、時刻T1においてクリープカットが開始すると共に、ブレーキ力の増大が行われる。そして、時刻T2においてブレーキペダルが戻されたとする。そして、ブレーキ操作がないまま所定時間経過し、時刻T3に達したとする。この場合、ヒルスタートアシストフラグをオフとし、ブレーキの減圧が行われる。
【0058】
このとき、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上とする(図13に示す例では両者が同じ)。そして、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値をMAX(復帰指令値の前回値+FDPdt,FDC2)とする。これにより、図13に示すように、クリープトルクの復帰終了時の時刻T4まで、車両後退なしの保持力を確保することができる。すなわち、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上としない場合、時刻T4に達する前に車両後退なしの保持力を確保できず、時刻T4以前に車両の後退が発生してしまう可能性がある。ところが、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上とすることで、時刻T4まで車両後退なしの保持力を確保することができる。その後、さらにブレーキの減圧が行われ、車両後退なしの保持力を確保できなくなった時刻T5から、車両の後退が発生する。なお、上記のブレーキの減圧勾配FBDは、予め定められた定数であってもよいし、変数であってもよい。
【0059】
このようにして、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1及びその制御方法によれば、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。このため、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて車両が後退しない程度のクリープトルクを算出できることとなる。これにより、車両が後退しない程度のクリープトルクの低減量を算出して、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することで、車両の後退を防止しつつクリープトルクの低減により消費電力を抑えることができる。従って、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【0060】
また、設定されたクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、当該ゼロよりも大きい値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大させることで補償し、ブレーキ力の増大が行われた場合、クリープトルクを設定したクリープトルクよりもさらに低減する。このため、一層クリープトルクを低減できることとなり、車両の後退を防止しつつ一層消費電力を抑えることができる。
【0061】
また、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、ブレーキ力を増大させることができないと判断したとき、ブレーキ力の増大を行わず、設定したクリープト
ルクに低減させる。このため、ブレーキアクチュエータの高温時においても、消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【0062】
また、クリープトルクの低減とブレーキ力の増大とは、同時期に実行されるため、どちらか一方のみが先に行われて、他方が遅れてしまう事態を防止することができる。
【0063】
また、ブレーキ力の増大が行われた場合、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する。このため、登坂路の路面勾配から車両が後退しない程度の制動力を求めると共に、戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、車両が後退しない程度の制動力を発生させるまでの時間を求めることができる。そして、この時間を掛けて、現在のクリープトルクから、目標となるクリープトルクまで低減させるように、クリープトルクの低減勾配を決定できる。これにより、最速でクリープトルクを低減させることを可能とすることができる。
【0064】
また、ブレーキ操作が無く所定時間経過して、ブレーキが掛かったままで保持する状態から保持しない状態に移行した場合、低減したクリープトルクの復帰勾配を、解除されるブレーキの減圧勾配以上とする。これにより、所定時間経過してヒルスタートアシスト制御が解除されたとしても、クリープトルクの増大の方がブレーキ力の低下分よりも大きくなり、所定時間経過後においても最大限に車両の後退を防止することができる。
【0065】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0066】
例えば、上記実施形態において、クリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大量に上限を設定するようにしてもよい。これにより、例えば以下の現象を防止することができる。例えば、特開2009−154814号公報に記載のブレーキ機構であれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間に設けられる一対のバネが伸びた状態で、ブースタピストンをフロント側に動作させると、入力ピストンは引き込まれることとなり、入力ピストンについてもフロント側に移動する。これにより、ドライバはあたかもブレーキペダルが自動で動作したと違和感を受けてしまう。このため、ブレーキ力の増大量に上限を設けて、一対のバネが伸びきらないようにすることで、ドライバの違和感を解消することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ヒルスタートアシスト制御装置
10…モータECU
20…ブレーキECU
21…サービスブレーキ制御部
22…回生ブレーキ制御部
23…最終制動量決定部
24…HSA制御部
25…クリープカット制御部(クリープトルク調整手段、補償手段)
31…アクセル回度センサ
32…ペダルストロークセンサ
33…Gセンサ
34…車輪速センサ
35…MC圧センサ
41…モータインバータ
42…モータACTR
43…ブレーキACTR
44…走行バッテリー電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、登坂路停車時においてブレーキから足を離しても、一定時間ブレーキが掛かったままの状態に保つブレーキ保持制御機能を備えたヒルスタートアシスト制御装置が知られている。このヒルスタートアシスト制御装置では、ブレーキ保持制御の作動中において、モータクリープトルクをゼロにして不要なトルクをモータから発生させないようにしている。これにより、モータクリープトルクの発生による不要な電力消費を抑えることとしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−214580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のヒルスタートアシスト制御装置では、登坂路停車時においてクリープトルクをゼロにするため、ブレーキの踏みこみ量によっては車両が後退するおそれがあった。そこで、モータクリープトルクをゼロにしないとなると、消費電力が大きくなってしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することが可能なヒルスタートアシスト制御装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒルスタートアシスト制御装置は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するものである。このヒルスタートアシスト制御装置は、モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープトルク調整手段を備えている。クリープトルク調整手段は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。このため、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて車両が後退しない程度のクリープトルクを算出できることとなる。これにより、車両が後退しない程度のクリープトルクの低減量を算出して、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することで、車両の後退を防止しつつクリープトルクの低減により消費電力を抑えることができる。従って、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置を示す構成図である。
【図2】図1に示したブレーキECUの詳細を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すタイミングチャートである。
【図4】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すフローチャートであり、ヒルスタートアシスト制御の開始時における処理を示している。
【図5】クリープカットの様子を示す第1の図である。
【図6】クリープカットの様子を示す第2の図である。
【図7】クリープカットの様子を示す第3の図である。
【図8】クリープカットの様子を示す第4の図である。
【図9】クリープカットの様子を示す第5の図である。
【図10】クリープカットの様子を示す第6の図である。
【図11】クリープカットの様子を示す第7の図である。
【図12】本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置の動作の概要を示すフローチャートであり、クリープトルク復帰時における処理を示している。
【図13】クリープトルクの復帰の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1を示す構成図である。図1に示すヒルスタートアシスト制御装置1は、車両の登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持し、車両発進時にはスムーズな発進を実現するヒルスタートアシスト制御を行うものである。このヒルスタートアシスト制御装置1は、ハイブリッド自動車や電気自動車など、モータを駆動動力源とする車両に搭載され、モータECU(Electronic Control Unit)10と、ブレーキECU20とを備えている。
【0010】
モータECU10は、モータを駆動制御するための信号生成を行うものであって、アクセル回度センサ31からの信号、車速信号、シフト信号、及びSOC(State of Charge
)信号を入力して、モータトルク指令値を算出する構成となっている。モータインバータ41は、走行バッテリー電源44からの直流電力を交流電力に変換するものであり、モータECU10からのモータトルク指令値に応じてモータACTR(Actuator)42を駆動するものである。
【0011】
ブレーキECU20は、ペダルストロークセンサ32、Gセンサ33、車輪速センサ34、及びMC(Master Cylinder)圧センサ35からの信号を入力すると共に、アクセル
開度信号及びシフト信号を入力して、ブレーキで発生させるべき制動力指令値を算出するものである。ブレーキACTR43は、ブレーキECU20からの制動力指令値に応じて、ブレーキに対し必要な油圧をかけるものである。
【0012】
また、モータECU10は、ブレーキECU20に対して現在のクリープトルク値、回生ブレーキ値、及び駆動力値の情報を送信すると共に、ブレーキECU20は、モータECU10に対してクリープトルク指令値、及び回生ブレーキ指令値を送信するようになっている。
【0013】
図2は、図1に示したブレーキECU20の詳細を示す構成図である。ブレーキECU20は、サービスブレーキ制御部21と、回生ブレーキ制御部22と、最終制動量決定部23と、HSA(Hill Start Assist)制御部24と、クリープカット制御部(クリープ
トルク調整手段、補償手段)25とを備えている。
【0014】
サービスブレーキ制御部21は、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からサービスブレーキの値を算出するものである。また、サービスブレーキ制御部21は、算出したサービスブレーキの値を回生ブレーキ制御部22に送信する。
【0015】
回生ブレーキ制御部22は、ペダルストロークセンサ32によりブレーキペダルが踏まれている場合、摩擦パッドによるブレーキ力と回生ブレーキによるブレーキ力とを調整するものである。この回生ブレーキ制御部22は、サービスブレーキ制御部21からのサービスブレーキ値と現在の回生ブレーキ値から、必要となる摩擦パッドによる摩擦ブレーキ値を算出し、この情報を最終制動量決定部23に送信する。なお、回生ブレーキ制御部22は、電気自動車やハイブリッド自動車のバッテリーが満充電に近づくと回生ブレーキ指令値をモータECU10に送信して、回生による発電量を抑える機能も有している。
【0016】
最終制動量決定部23は、回生ブレーキ制御部22から送信される摩擦ブレーキ値の情報に基づいて、制動量指令値を算出してブレーキACTR43に出力するものである。
【0017】
HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を実行するか否かを判断するものである。具体的にHSA制御部24は、以下の5つの条件を満たす場合に、ヒルスタートアシスト制御を開始する。ここで、5つの条件のうち2つは、1)ペダルストロークセンサ32により出力された信号からブレーキがオン(ブレーキペダルが踏み込まれた状態)であると判断できること、2)アクセル開度信号からアクセルペダルがオフ(アクセルペダルが踏み込まれていない状態)であると判断できること、である。また、残り3つの条件は、3)シフト信号からシフトポジションがパーキングポジション以外であると判断できること、4)車輪速センサ34により出力された車速信号から車両が停止していると判断できること、5)Gセンサ33により出力されたGセンサ値から車両が登坂路に位置していると判断できること、である。
【0018】
これら5つの条件を満たす場合、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を開始する。これにより、HSA制御部24は、摩擦ブレーキ値の情報を最終制動量決定部23に送信し、最終制動量決定部23は、ブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するように制動量指令値をブレーキACTR43に出力する。また、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御が開始されると、現在のブレーキ力の情報をクリープカット制御部25に送信する。
【0019】
また、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御中にドライバの発進意思を検出した場合、すなわちアクセル開度信号からアクセル開度が閾値を超えたと判断できる場合、摩擦ブレーキ値を変化させ、車両制動力を変化(主に減少)させていくものである。このとき、HSA制御部24は、車両の発進状態にあわせて、車両制動力を変化させていく。また、HSA制御部24は、ブレーキ操作がないまま所定時間経過した場合にも、車両制動力を変化(主に減少)させていく。
【0020】
クリープカット制御部25は、ヒルスタートアシスト制御中においてブレーキが戻された場合に、車両が後退しない範囲でモータから発生するクリープトルクを低減させて(クリープカットして)、モータ消費電力を抑制するものである。このクリープカット制御部25は、車両が後退しない制動力を求めると共に、HSA制御装置21から送信される現在の摩擦ブレーキ値(現在のブレーキ力)の情報から、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。そして、クリープカット制御部25は、設定されたクリープトルクの指令値をモータECU10に送信する。なお、車両が後退しない制動力は、Gセンサ33からの信号により求められる登坂路の路面勾配、及び車両の重量から算出することができる。
【0021】
さらに、クリープカット制御部25は、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合、さらにクリープトルクを低減して消費電力を抑制する。この場合、単にクリープトルクを低減すると車両が後退してしまうため、クリープカット制御部22は、ブレ
ーキ力を増大させる。すなわち、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合、クリープカット制御部25は、当該値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大(ブレーキを増圧)させることで補償することとなる。
【0022】
具体的にクリープカット制御部25は、摩擦ブレーキ増圧指令値を算出してHSA制御部24に送信する。これにより、HSA制御部24は、摩擦ブレーキの増圧分を含んだ摩擦ブレーキ値を算出し最終制動量決定部23に送信する。そして、最終制動量決定部23は、HSA制御部24から送信される摩擦ブレーキ値の情報に基づいて、制動量指令値を算出してブレーキACTR43に出力する。以上により、ブレーキ力を増大が行われる。
【0023】
また、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時など、ブレーキ力を増大させることができない場合、ブレーキ力を増大させずゼロよりも大きい値のクリープトルクに低減させることとする。
【0024】
次に、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要について説明する。図3は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すタイミングチャートである。
【0025】
まず、時刻t1においてHSA制御部24は、ブレーキペダルのストロークがAmm以上であり、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からブレーキがオンであると判断したとする。さらに、時刻t1において、HSA制御部24は、アクセル開度信号からアクセルペダルがオフであると判断し、且つ、シフト信号からシフトポジションがドライブポジションであると判断したとする(アクセル開度がE%未満であると判断したとする)。さらには、時刻t1においてHSA制御部24は、車輪速センサ34から出力される車速信号から車両が停止していると判断でき(車速がCkm/h以下であると判断でき、且つ、Gセンサ33から出力されるGセンサ値から車両が登坂路に位置している(前後GがFm/s2以上)と判断したとする。
【0026】
この場合、HSA制御部24はHSAフラグをオンにする。これにより、クリープトルク制御部25は、不要なクリープトルクの発生による消費電力を抑えるために、クリープトルクを低減させていく。
【0027】
そして、時刻t2においてHSA制御部24は、ブレーキペダルのストロークがBmm以下となり、ペダルストロークセンサ32から出力された信号からブレーキがオフであると判断したとする。
【0028】
この場合、HSA制御部24は、MC圧をブレーキがオフとなる前のGMPaに保ち、ブレーキペダルが戻された後についてもブレーキ力が掛かったままとして、車両の後退を防止する。
【0029】
なお、時刻t2からアクセルペダルの操作なしに所定時間経過すると、HSA制御部24はHSAフラグをオフにする。これにより、HSA制御部24は、MC圧を維持することを中止し、MC圧を低減させると共に、クリープトルクを復帰させることとなる。
【0030】
また、時刻t2から所定時間経過することなく、アクセル開度がE%以上であるとHSA制御部24により判断されたとする。この場合、HSA制御部24はHSAフラグをオフにする。そして、HSA制御部24は、MC圧を維持することを中止し、MC圧を低減させると共に、クリープトルクを復帰させることとなる。
【0031】
次に、フローチャートを参照して、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1
の動作の概要について説明する。図4は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すフローチャートであり、ヒルスタートアシスト制御の開始時における処理を示している。
【0032】
図4に示すように、まず、HSA制御部24は、各種センサ値及び演算値を読み込む(S1)。その後、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御を実行するか否か、又は実行中であるか否かを判断する(S2)。
【0033】
ヒルスタートアシスト制御を実行しない、及び、実行中でないと判断した場合(S2:NO)、図4に示す処理は終了する。一方、ヒルスタートアシスト制御を実行する、又は実行中であると判断した場合(S2:YES)、HSA制御部24はクリープカット実行中であるか否かを判断する(S3)。クリープカット実行中であると判断した場合(S3:YES)、図4に示す処理は終了する。
【0034】
クリープカット実行中でないと判断した場合(S3:NO)、HSA制御部24は、車両が後退しない必要な保持力を演算する(S4)。このとき、HSA制御部24は、登坂路の傾斜角をθとし、車両の重量をMとすると、必要な保持力をM・g・sinθなる式から算出する。なお、保持力は、モータトルクによる駆動力FDと、ブレーキによる制動力FBとの合算により、達成できればよく、HSA制御部24は、FD+FB≧M・g・sinθとなるように両者制御すれば、車両の後退を防げることとなる。
【0035】
次に、クリープカット制御部25は、クリープトルクの低減量を算出する(S5)。ここで、初期のクリープトルクによる駆動力FDNと、ブレーキが戻される前のブレーキによる制動力FBNとすると、車両の後退なしに低減できるクリープトルクの値FDC1は、FDC1=FDN+FBN−M・g・sinθなる式から算出できる。
【0036】
次に、クリープカット制御部25は、ブレーキ力を増大させるか否かを判断する(S6)。ここで、クリープカット制御部25は、FDC1−FDN≧であれば、ブレーキ力を増大させないと判断する(S6:NO)。さらに、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時などにおいても、ブレーキ力を増大させないと判断する(S6:NO)。そして、処理はステップS10に移行する。
【0037】
一方、クリープカット制御部25は、ブレーキACTR43の高温時などでなく、且つ、FDC1−FDN<0であれば、ブレーキ力を増大させると判断する(S6:YES)。ここで、FDC1−FDN<0である場合、クリープトルクの低減値FDC1よりも初期のクリープトルクによる駆動力FDNの方が大きい値となり、初期のクリープトルクによる駆動力FDNからクリープトルクの低減値FDC1を差し引いたとしても、クリープトルクはゼロよりも大きい値となる。この場合、クリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大させることにより、さらにクリープトルクを低減する。そして、処理はステップS7に移行する。
【0038】
ステップS7においてクリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大量を演算する(S7)。ここで、増大量FBPは、FBP=M・g・sinθ−FBNなる式から算出される。なお、ブレーキ力の増大、すなわち増圧は、特開2009−154814号公報に記載のブレーキ機構の場合、入力ピストンに対してブースタピンをフロント側へ相対変位させることで実行される。なお、ブースタピンの変位量は有限であるため、その範囲以下で増圧されることとなる。
【0039】
次に、クリープカット制御部25は、HSA制御部24を介して摩擦ブレーキ増圧指令値を最終制動量決定部23に出力する(S8)。これにより、ブレーキ力の増大が行われ
る。そして、HSA制御部24は、増圧分に相当するクリープトルクの低減量を演算する(S9)。その後、クリープカット制御部25は、クリープトルク指令値をモータECU10に出力する(S10)。これにより、モータECU10は、設定されたクリープトルクでモータを駆動することとなる。その後、図4に示す処理は終了する。なお、図4に示す処理は車両電源がオフとされるまで、繰り返し実行される。
【0040】
図5は、クリープカットの様子を示す第1の図である。図5に示すように、時刻t51以前のクリープカット開始前では、ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保することができる。よって、時刻t51においてクリープトルクをゼロとし(クリープトルクによる駆動力をゼロとし)、合計(クリープトルクによる駆動力+ブレーキ力)を車両後退なしの保持力程度とする。よって、モータによる消費電力を抑えつつ車両後退を防止できる。なお、図5では、図4に示すステップS6において「NO」と判断した例を示している。
【0041】
図6は、クリープカットの様子を示す第2の図である。図6に示す例では、ブレーキACTR43の高温時など、ブレーキ力の増大を行うことができない場合を示している。この場合、ブレーキ力の増大を行うことなく、時刻t61においてクリープカットを開始する。そして、時刻t62においてクリープトルクがゼロとなることなく、車両後退なしの保持力を確保するように、クリープカットを終了する。これによっても、モータによる消費電力を抑えることができる。
【0042】
図7及び図8は、クリープカットの様子を示す第3及び第4の図である。図7及び図8に示す例では、ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保することができない。このため、図4に示すステップS6において「YES」と判断され、ブレーキ力が増大される。ここで、ブレーキ力には増大勾配というものがある。このため、この増大勾配を無視してクリープトルクを急激に低下させると、過渡的に合計が車両後退なしの保持力を下回ることがある。よって、図7及び図8に示す例ではクリープトルクの低減勾配を決定する。
【0043】
この際、クリープカット制御部25は、登坂路の路面勾配と、戻される前のブレーキ力と、ブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する。すなわち、クリープカット制御部25は、戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、車両が後退しない程度の保持力を発生させるまでの時間を求めることができる。そして、この時間を掛けて、現在のクリープトルクから、目標となるクリープトルクまで低減させることで、クリープトルクの低減勾配を決定することができる。これにより、過渡的に合計が車両後退なしの制動力を下回ることなく最速でクリープトルクを低減させることができる。
【0044】
具体的に図7に示す例においては、クリープカット開始の時刻t71からクリープカット終了の時刻t72までの時間を掛けて、クリープトルクがゼロとされている。同様に、図8に示す例においては、クリープカット開始の時刻t81からクリープカット終了の時刻t82までの時間が図7に示す例よりも長く、この時間を掛けてクリープトルクがゼロとされている。これは、初期のブレーキ力の相違によるものである。
【0045】
さらに、クリープトルクの低減勾配について説明する。ブレーキ力の増大に要する時間tは、増大勾配をFBPdtとすると、t=FBP/FBPdtとされる。さらに、ブレーキ力の増大を含めた車両後退なしにクリープトルクを低減できる値FDC2は、FDC2=FDC1+FBPとされる。よって、クリープトルクの低減勾配FDC2dtは、FDC2dt=FDC2/tとされる。
【0046】
そして、ブレーキ力の増大勾配FBPdtでブレーキ力の増大量FBPに達するまで増
大が行われ、クリープトルクの低減勾配FDC2dtでクリープトルクの低減値FDC2に達するまでクリープカットが行われる。
【0047】
なお、ブレーキ力の増大勾配FBPdtに応じた増圧勾配をFBPdt’とし、ブレーキ力の増大量FBPに応じた増圧量をFBP’とした場合、図4に示したステップS8において摩擦ブレーキ増圧指令値はMAX(増圧指令値の前回値+FBPdt’,FBP’)とされる。また、図4に示したステップS10においてクリープトルク指令値はMAX(クリープトルクの低減指令値の前回値+FDC2dt,FDC2)とされる。
【0048】
図9は、クリープカットの様子を示す第5の図である。ブレーキ力だけで車両後退なしの保持力を確保できる場合においては、図7に示すように早期にクリープトルクを低減させることが望ましい(実線参照)。しかし、図9に示すように、ある固定のクリープトルクの低減勾配で、クループトルクを低減させるようにしてもよい(二点鎖線参照)。なお、低減勾配を固定とする場合、勾配を充分に緩やかとしておくことが望ましい。これにより、過渡的に合計が車両後退なしの制動力を下回ることを防止できるからである。
【0049】
図10及び図11は、クリープカットの様子を示す第6及び第7の図である。まず、図10にクリープカットを先に行い、その後ブレーキ力を増大させる場合を二点鎖線で示す。二点鎖線で示すように、時刻t101でクリープカットが開始し、時刻t102においてクリープカットが終了する。その後、時刻t102から時刻t104までの時間を掛けてブレーキ力を増大させていく。
【0050】
これに対し、クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合を実線で示す。クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合、時刻t101からクリープカットが開始すると共に、時刻t101からブレーキ力が増大していく。このため、クリープカットとブレーキ力の増大とは、時刻t104よりも早い時刻t103に終了する。このため、同時期に実行させた方が、時刻t103から時刻t104までの効果時間を得ることができる。なお、ここでいう同時期とは、クリープカットの開始及び終了とブレーキ力の増大の開始及び終了が同じであることを意味するものではなく、クリープカットの実行時期とブレーキ力増大の実行時期との一部でも重なっていればよい概念である。
【0051】
同様に、図11にブレーキ力の増大を先に行い、その後クリープカットを行う場合を二点鎖線で示す。二点鎖線で示すように、時刻t111でブレーキ力の増大が開始し、時刻t112においてブレーキ力の増大が終了する。その後、時刻t112から時刻t113までの時間を掛けてクリープカットしていく。
【0052】
これに対し、クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合を実線で示す。クリープカットとブレーキ力の増大とを同時期に行う場合、時刻t111からクリープカットが開始すると共に、時刻t111からブレーキ力が増大していく。このため、クリープカットとブレーキ力の増大とは、時刻t113よりも早い時刻t112に終了する。このため、同時期に実行させた方が、時刻t112から時刻t113までの効果時間を得ることができる。
【0053】
次に、クリープトルク復帰時における処理を説明する。図12は、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1の動作の概要を示すフローチャートであり、クリープトルク復帰時における処理を示している。
【0054】
図12に示すように、まず、HSA制御部24は、各種センサ値及び演算値を読み込む(S11)。その後、HSA制御部24は、クリープカット実行中であるか否かを判断する(S12)。クリープカット実行中でないと判断した場合(S12:NO)、図12に
示す処理は終了する。
【0055】
一方、クリープカット実行中であると判断した場合(S12:YES)、HSA制御部24は、ヒルスタートアシスト制御により掛かったままの状態となっているブレーキ力について減少中(ブレーキ減圧中)であるか否かを判断する(S13)。ブレーキを減圧中であると判断した場合(S13:YES)、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値を演算する(S14)。
【0056】
そして、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値をモータECU10に出力する(S15)。これにより、クリープトルクの復帰が行われる。そして、図12に示す処理は終了する。ところで、ブレーキを減圧中でないと判断した場合(S13:NO)、クリープトルクの復帰は行われず、図12に示す処理は終了する。
【0057】
図13は、クリープトルクの復帰の様子を示す図である。まず、時刻T1においてクリープカットが開始すると共に、ブレーキ力の増大が行われる。そして、時刻T2においてブレーキペダルが戻されたとする。そして、ブレーキ操作がないまま所定時間経過し、時刻T3に達したとする。この場合、ヒルスタートアシストフラグをオフとし、ブレーキの減圧が行われる。
【0058】
このとき、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上とする(図13に示す例では両者が同じ)。そして、クリープカット制御部25は、クリープトルクの復帰指令値をMAX(復帰指令値の前回値+FDPdt,FDC2)とする。これにより、図13に示すように、クリープトルクの復帰終了時の時刻T4まで、車両後退なしの保持力を確保することができる。すなわち、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上としない場合、時刻T4に達する前に車両後退なしの保持力を確保できず、時刻T4以前に車両の後退が発生してしまう可能性がある。ところが、クリープトルクの復帰勾配FDPdtを、解除されるブレーキの減圧勾配FBDdt以上とすることで、時刻T4まで車両後退なしの保持力を確保することができる。その後、さらにブレーキの減圧が行われ、車両後退なしの保持力を確保できなくなった時刻T5から、車両の後退が発生する。なお、上記のブレーキの減圧勾配FBDは、予め定められた定数であってもよいし、変数であってもよい。
【0059】
このようにして、本実施形態に係るヒルスタートアシスト制御装置1及びその制御方法によれば、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定する。このため、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて車両が後退しない程度のクリープトルクを算出できることとなる。これにより、車両が後退しない程度のクリープトルクの低減量を算出して、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することで、車両の後退を防止しつつクリープトルクの低減により消費電力を抑えることができる。従って、登坂路停車時において消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【0060】
また、設定されたクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、当該ゼロよりも大きい値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大させることで補償し、ブレーキ力の増大が行われた場合、クリープトルクを設定したクリープトルクよりもさらに低減する。このため、一層クリープトルクを低減できることとなり、車両の後退を防止しつつ一層消費電力を抑えることができる。
【0061】
また、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、ブレーキ力を増大させることができないと判断したとき、ブレーキ力の増大を行わず、設定したクリープト
ルクに低減させる。このため、ブレーキアクチュエータの高温時においても、消費電力を抑えつつも車両の後退を防止することができる。
【0062】
また、クリープトルクの低減とブレーキ力の増大とは、同時期に実行されるため、どちらか一方のみが先に行われて、他方が遅れてしまう事態を防止することができる。
【0063】
また、ブレーキ力の増大が行われた場合、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する。このため、登坂路の路面勾配から車両が後退しない程度の制動力を求めると共に、戻される前のブレーキ力とブレーキ力の増大勾配とから、車両が後退しない程度の制動力を発生させるまでの時間を求めることができる。そして、この時間を掛けて、現在のクリープトルクから、目標となるクリープトルクまで低減させるように、クリープトルクの低減勾配を決定できる。これにより、最速でクリープトルクを低減させることを可能とすることができる。
【0064】
また、ブレーキ操作が無く所定時間経過して、ブレーキが掛かったままで保持する状態から保持しない状態に移行した場合、低減したクリープトルクの復帰勾配を、解除されるブレーキの減圧勾配以上とする。これにより、所定時間経過してヒルスタートアシスト制御が解除されたとしても、クリープトルクの増大の方がブレーキ力の低下分よりも大きくなり、所定時間経過後においても最大限に車両の後退を防止することができる。
【0065】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0066】
例えば、上記実施形態において、クリープカット制御部25は、ブレーキ力の増大量に上限を設定するようにしてもよい。これにより、例えば以下の現象を防止することができる。例えば、特開2009−154814号公報に記載のブレーキ機構であれば、ブースタピストンと入力ピストンとの間に設けられる一対のバネが伸びた状態で、ブースタピストンをフロント側に動作させると、入力ピストンは引き込まれることとなり、入力ピストンについてもフロント側に移動する。これにより、ドライバはあたかもブレーキペダルが自動で動作したと違和感を受けてしまう。このため、ブレーキ力の増大量に上限を設けて、一対のバネが伸びきらないようにすることで、ドライバの違和感を解消することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ヒルスタートアシスト制御装置
10…モータECU
20…ブレーキECU
21…サービスブレーキ制御部
22…回生ブレーキ制御部
23…最終制動量決定部
24…HSA制御部
25…クリープカット制御部(クリープトルク調整手段、補償手段)
31…アクセル回度センサ
32…ペダルストロークセンサ
33…Gセンサ
34…車輪速センサ
35…MC圧センサ
41…モータインバータ
42…モータACTR
43…ブレーキACTR
44…走行バッテリー電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するヒルスタートアシスト制御装置であって、
モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープトルク調整手段を備え、前記クリープトルク調整手段は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することを特徴とするヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項2】
前記クリープトルク調整手段により設定されたクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、当該ゼロよりも大きい値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大させることで補償する補償手段をさらに備え、
前記クリープトルク調整手段は、前記補償手段によりブレーキ力の増大が行われた場合、クリープトルクを設定したクリープトルクよりもさらに低減する
ことを特徴とする請求項1に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項3】
前記クリープトルク調整手段は、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、ブレーキ力を増大させることができないと判断したとき、前記補償手段によるブレーキ力の増大を行わず、設定したクリープトルクに低減させる
ことを特徴とする請求項2に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項4】
前記クリープトルク調整手段によるクリープトルクの低減と、前記補償手段によるブレーキ力の増大とは、同時期に実行される
ことを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項5】
前記クリープトルク調整手段は、前記補償手段によりブレーキ力の増大が行われた場合、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力と前記ブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項6】
前記補償手段は、ブレーキ力の増大量に上限を設定している
ことを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項7】
前記クリープトルク調整手段は、ブレーキ操作が無く所定時間経過して、ブレーキが掛かったままで保持する状態から保持しない状態に移行した場合、低減したクリープトルクの復帰勾配を、解除されるブレーキの減圧勾配以上とする
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項1】
登坂路停車時にブレーキペダルが戻されてもブレーキが掛かったままの状態で保持するヒルスタートアシスト制御装置であって、
モータから発生するクリープトルクを低減させるクリープトルク調整手段を備え、前記クリープトルク調整手段は、登坂路停車時にブレーキペダルが戻された場合に、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力とに基づいて、クリープトルクの低減量を算出し、算出された低減量に基づいてクリープトルクを設定することを特徴とするヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項2】
前記クリープトルク調整手段により設定されたクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、当該ゼロよりも大きい値に相当するトルクを、ブレーキ力を増大させることで補償する補償手段をさらに備え、
前記クリープトルク調整手段は、前記補償手段によりブレーキ力の増大が行われた場合、クリープトルクを設定したクリープトルクよりもさらに低減する
ことを特徴とする請求項1に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項3】
前記クリープトルク調整手段は、設定したクリープトルクがゼロよりも大きい値である場合に、ブレーキ力を増大させることができないと判断したとき、前記補償手段によるブレーキ力の増大を行わず、設定したクリープトルクに低減させる
ことを特徴とする請求項2に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項4】
前記クリープトルク調整手段によるクリープトルクの低減と、前記補償手段によるブレーキ力の増大とは、同時期に実行される
ことを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項5】
前記クリープトルク調整手段は、前記補償手段によりブレーキ力の増大が行われた場合、登坂路の路面勾配と戻される前のブレーキ力と前記ブレーキ力の増大勾配とから、クリープトルクの低減勾配を決定する
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項6】
前記補償手段は、ブレーキ力の増大量に上限を設定している
ことを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【請求項7】
前記クリープトルク調整手段は、ブレーキ操作が無く所定時間経過して、ブレーキが掛かったままで保持する状態から保持しない状態に移行した場合、低減したクリープトルクの復帰勾配を、解除されるブレーキの減圧勾配以上とする
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のヒルスタートアシスト制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−229348(P2011−229348A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99336(P2010−99336)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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