説明

フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物、樹脂付き金属箔、カバーレイフィルム、プリプレグ、プリント配線板用積層板、金属張フレキシブル積層板

【課題】ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足するフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)成分と、下記(B)(C)成分の一方又は両方とを含有するフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物に関する。(B)(C)成分全体の配合量がフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して30〜50質量%である。(A)ナフタレン骨格エポキシ樹脂、(B)柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型熱可塑性樹脂等、(C)(C1)Tgが25℃未満の柔軟な熱可塑性樹脂等と、(C2)Tgが25℃以上の剛直な熱可塑性樹脂等とからなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系難燃剤を含有しないフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物、これを用いて作製される樹脂付き金属箔、カバーレイフィルム、プリプレグ、プリント配線板用積層板、金属張フレキシブル積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難燃性エポキシ樹脂は、自己消火性、良好な機械的・電気的特性を有していることから、様々な電気絶縁材料に使用されている。このような難燃性エポキシ樹脂として従来は、テトラブロモビスフェノールAを中心とする誘導体、すなわち臭素化エポキシ樹脂が広く使用されてきたが、このような臭素化エポキシ樹脂を用いた成型体は加熱した際に臭素が分解しやすく、特に芳香族臭素化合物は熱分解によって腐食性の臭素および臭化水素を発生するだけでなく、燃焼条件によっては毒性の強いポリブロムジベンゾフランやポリブロムジベンゾジオキシンを形成する可能性があり、人体に悪影響を及ぼす可能性を含むという問題がある。また臭素含有化合物が添加されている場合、その成形物を加熱した際に臭素が分解しやすいため、耐熱性を長期に亘って維持することが困難であった。
【0003】
このような理由から、臭素含有化合物を使用しないで要求される難燃性を達成することができ、かつ機械的・電気的特性に優れたハロゲンフリーのエポキシ樹脂組成物が要望されている。
【0004】
そこで近年では、リン酸エステルに代表されるリン含有化合物、あるいはこれに金属水和物類を添加・併用したものを難燃剤として用いることによって、ハロゲンフリーで難燃性を得る手法が多く採用されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながらリン酸エステル化合物は一般的に高い吸湿性を有しており、加湿条件下においては加水分解反応が進行し、電気絶縁性の低下を引き起こすおそれがある他、リン酸エステル化合物はプラスチック材料の可塑剤としても用いられているように、添加量が増加するに従ってガラス転移点(Tg)や密着強度が低下してしまうので、その使用量が自ずと制限されるものである。リン酸エステルと併用される金属水和物についても、その難燃効果は添加量に依存するが、添加量が増加するに従い、樹脂マトリックスの弾性率が高くなってしまうので、十分な難燃性を確保できるレベルまでその添加量を増加させると、フレキシブルプリント配線板などの用途に要求される屈曲性を十分に満足できなくなるだけでなく、密着強度も低下してしまうものである。
【0005】
またこの屈曲性を発現させる目的で、高分子量のエラストマーを配合したエポキシ樹脂組成物が従前から提案されている。エラストマーの配合によって十分な屈曲性を得るためには、エラストマーはその分子量が大きいほど好ましいが、分子量の増大に伴って溶剤溶解性や樹脂マトリックスとの相溶性が低下する傾向にある。そのため、カルボキシル基を含有するエラストマーを用いて溶剤溶解性や樹脂マトリックスとの相溶性を向上する提案も広く行われているが、カルボキシル基はそれ自体が酸性を示すことから、系内に残留すると電気絶縁信頼性が低下する傾向にあり、溶剤溶解性や樹脂マトリックスとの相溶性と、電気絶縁信頼性の両物性はトレードオフの関係となってしまうものであった。
【特許文献1】国際公開第2007/063580A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足するフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物、樹脂付き金属箔、カバーレイフィルム、プリプレグ、プリント配線板用積層板、金属張フレキシブル積層板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物は、下記(A)成分と、下記(B)(C)成分の一方又は両方とを含有するフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物であって、(B)(C)成分全体の配合量がフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して30〜50質量%であることを特徴とするものである。
【0008】
(A)ナフタレン骨格エポキシ樹脂
(B)柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型熱可塑性樹脂と、柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型の重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるもの
(C)(C1)ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものと、(C2)ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものとからなるもの
請求項2に係る発明は、請求項1において、(A)成分として、下記構造式(1)〜(3)で表されるもののうちの少なくとも1種類を用いて成ることを特徴とするものである。
【0009】
【化1】

【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、下記構造式(4)で表されるアミノトリアジンノボラック樹脂を硬化剤又は硬化促進剤として配合して成ることを特徴とするものである。
【0011】
【化2】

【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、(B)成分として、ゴム変性ポリアミド、ポリエーテルイミド−シロキサンブロックコポリマー樹脂の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項において、(C1)成分として、スチレン・ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、1,2−ポリブタジエンエラストマー、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴムの中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、(C2)成分として、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、フェノキシ樹脂の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか1項において、リン変性エポキシ樹脂、リン系難燃剤のうちの少なくとも1種類を配合して成ることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至7のいずれか1項において、リン系難燃剤として、リン酸エステルアミド、下記構造式(5)で表されるものを繰り返し単位とする環状ホスファゼン化合物の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0017】
【化3】

【0018】
本発明の請求項9に係る樹脂付き金属箔は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を金属箔の片面に塗布して接着性樹脂層を形成して成ることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項10に係るカバーレイフィルムは、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物をフィルムの少なくとも片面に塗布して成ることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の請求項11に係るプリプレグは、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を織布又は不織布に含浸させて成ることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の請求項12に係るプリント配線板用積層板は、請求項11に記載のプリプレグの片面又は両面に金属箔を積層して成ることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の請求項13に係る金属張フレキシブル積層板は、請求項9に記載の樹脂付き金属箔を接着性樹脂層によってフレキシブル基板と積層一体化して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に係るフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物によれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【0024】
請求項2に係る発明によれば、耐熱性をさらに高めることができるものである。
【0025】
請求項3に係る発明によれば、窒素分を含んでいるので、難燃剤又は難燃助剤としても働くことができ、難燃性の向上に寄与することができるものである。
【0026】
請求項4に係る発明によれば、耐熱性をさらに高めることができるものである。
【0027】
請求項5に係る発明によれば、柔軟性をさらに高めることができるものである。
【0028】
請求項6に係る発明によれば、耐熱性や耐薬品性をさらに高めることができるものである。
【0029】
請求項7に係る発明によれば、難燃性をさらに高めることができるものである。
【0030】
請求項8に係る発明によれば、他のリン系難燃剤を用いるよりも、難燃性をさらに高めることができるものである。
【0031】
本発明の請求項9に係る樹脂付き金属箔によれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【0032】
本発明の請求項10に係るカバーレイフィルムによれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【0033】
本発明の請求項11に係るプリプレグによれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【0034】
本発明の請求項12に係るプリント配線板用積層板によれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【0035】
本発明の請求項13に係る金属張フレキシブル積層板によれば、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0037】
本発明においてフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物は、後述する(A)成分と、(B)(C)成分の一方又は両方とを含有して調製される。
【0038】
(A)成分は、ナフタレン骨格エポキシ樹脂であり、これを用いることにより、耐熱性を確保することができるが、特に上記構造式(1)〜(3)で表されるもののうちの少なくとも1種類を用いるのが好ましい。これにより、耐熱性をさらに高めることができるものである。
【0039】
また(B)成分は、柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型熱可塑性樹脂と、柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型の重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものである。後者の高分子成分の重量平均分子量の上限は100万である。特に(B)成分としては、ゴム変性ポリアミド、ポリエーテルイミド−シロキサンブロックコポリマー樹脂の中から選ばれるものを用いるのが好ましい。これにより、耐熱性をさらに高めることができるものである。
【0040】
また(C)成分は、後述する(C1)成分と(C2)成分とからなる。
【0041】
(C1)成分は、ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものである。両者のガラス転移点(Tg)の下限は−100℃であり、後者の高分子成分の重量平均分子量の上限は100万である。特に(C1)成分としては、スチレン・ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、1,2−ポリブタジエンエラストマー、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴムの中から選ばれるものを用いるのが好ましい。これらのものを用いることにより、柔軟性をさらに高めることができるものである。
【0042】
他方、(C2)成分は、ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものである。両者のガラス転移点(Tg)の上限は320℃であり、後者の高分子成分の重量平均分子量の上限は100万である。特に(C2)成分としては、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、フェノキシ樹脂の中から選ばれるものを用いるのが好ましい。これらのものを用いることにより、耐熱性や耐薬品性をさらに高めることができるものである。
【0043】
通常、エポキシ樹脂に対して、ガラス転移点(Tg)の低い熱可塑性樹脂やガラス転移点(Tg)が低く重量平均分子量が1万を超える高分子成分を配合することにより、室温で柔軟性のあるものを得ることができる。しかし、単にそのような樹脂を配合するだけでは、耐熱性や耐薬品性の劣化が起こる。そこで、ガラス転移点(Tg)が高く耐熱性や耐薬品性に優れる熱可塑性樹脂やガラス転移点(Tg)が高く耐熱性や耐薬品性に優れる重量平均分子量が1万を超える高分子成分を併用することにより、柔軟性と共に耐熱性や耐薬品性も兼ね備えたものを得ることができるものである。
【0044】
また、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物には硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を配合することができる。特に硬化剤又は硬化促進剤としては、特に上記構造式(4)で表されるアミノトリアジンノボラック樹脂を用いるのが好ましい。このアミノトリアジンノボラック樹脂は窒素分を含んでいるので、難燃剤又は難燃助剤としても働くことができ、難燃性の向上に寄与することができるものである。なお、硬化剤又は硬化促進剤は、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して5〜20質量%配合することができる。
【0045】
また、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物にはリン変性エポキシ樹脂、リン系難燃剤のうちの少なくとも1種類を配合するのが好ましく、これらのものは、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して10〜30質量%配合するのが好ましい。これにより、難燃性をさらに高めることができるものである。特にリン系難燃剤としては、リン酸エステルアミド、上記構造式(5)で表されるものを繰り返し単位とする環状ホスファゼン化合物の中から選ばれるものを用いるのが好ましい。これにより、他のリン系難燃剤を用いるよりも、難燃性をさらに高めることができるものである。
【0046】
そして、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(C)成分を配合し、必要に応じて各種添加剤を配合することによって調製することができる。ただし、(B)(C)成分全体の配合量がフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して30〜50質量%となるように配合するものである。ここで、(B)(C)成分全体の配合量を式で表すと、{(B)(C)成分全体の配合量}(質量%)={(B)(C)成分全体の質量×100}/{(A)〜(C)成分全体の質量}となるが、(A)〜(C)成分の他に硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を用いる場合には、上記の式の分母に各種添加剤の質量も加えて、(B)(C)成分全体の配合量を算出するものである。ただし、無機充填剤を用いる場合には、この質量は上記の式の分母には加えずに、(B)(C)成分全体の配合量を算出するものである。そして上記のように、(B)(C)成分全体の配合量を30〜50質量%となるように設定することによって、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。しかし、(B)(C)成分全体の配合量が30質量%未満であると、屈曲性が著しく低下するものであり、逆に、(B)(C)成分全体の配合量が50質量%を超えると、難燃性、電気絶縁信頼性、耐熱性が著しく低下するものである。
【0047】
次に、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を金属箔の片面に塗布し、これを加熱乾燥して半硬化状態(Bステージ状態)の接着性樹脂層を形成することによって、樹脂付き金属箔を作製することができる。金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、タングステン箔、鉄箔等を用いることができる。
【0048】
また、上記のようにして得られた樹脂付き金属箔を接着性樹脂層によってフレキシブル基板と積層一体化することによって、金属張フレキシブル積層板を作製することができる。フレキシブル基板としては、例えば、ポリエステルやポリイミドなどの可撓性、絶縁性のあるプラスチックフィルム上に導体パターンをプリント技術によって形成した配線板を用いることができる。
【0049】
また、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物をフィルムの少なくとも片面に塗布し、これを加熱乾燥して半硬化状態(Bステージ状態)とすることによって、カバーレイフィルムを作製することができる。フィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム等を用いることができる。
【0050】
また、フレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を織布又は不織布に含浸させ、これを加熱乾燥して半硬化状態(Bステージ状態)とすることによって、プリプレグを作製することができる。織布又は不織布としては、例えば、ガラス布、ガラス不織布等を用いることができる。
【0051】
また、上記のようにして得られたプリプレグの片面又は両面に金属箔を積層し、これを加熱加圧成形することによって、プリント配線板用積層板(金属張積層板)を作製することができる。金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、タングステン箔、鉄箔等を用いることができる。
【0052】
このように、樹脂付き金属箔、金属張フレキシブル積層板、カバーレイフィルム、プリプレグ、プリント配線板用積層板はいずれもフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を用いて作製されるので、ハロゲンを用いることなく要求される難燃性を確保し、かつ密着性、電気絶縁信頼性、耐熱性、フレキシブルプリント配線板などの用途で要求される屈曲性を満足することができるものである。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
表1に記載の配合組成に従い、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤をメチルエチルケトン、トルエン、エタノールからなる有機溶剤に溶解することによってワニスを調製した。具体的には、実施例1〜3及び比較例2、3については、「HR15ET」としてエタノール/トルエン=50/50質量比の25質量%のものを用い、固形分濃度が40質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈してワニスを調製した。また比較例1については、「HR15ET」としてエタノール/トルエン=50/50質量比の25質量%のものを用い、固形分濃度が32質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈してワニスを調製した。
【0055】
(実施例4)
表1に記載の配合組成に従い、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤をメチルエチルケトン、トルエンからなる有機溶剤(メチルエチルケトン/トルエン=50/50質量比)と共にセパラブルフラスコに入れ、攪拌しながらオイルバスで80℃まで昇温した。80℃で1時間攪拌した後、オイルバスを取り除き、20℃の水で冷して25℃のワニスを得た。固形分濃度は40質量%である。
【0056】
(実施例5)
表1に記載の配合組成に従い、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤をメチルエチルケトン、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルからなる有機溶剤(メチルエチルケトン/シクロペンタノン/プロピレングリコールモノメチルエーテル=14/47/4質量比)に溶解することによってワニスを調製した。固形分濃度は35質量%である。
【0057】
表1に示す各成分は以下の通りである。
・(C2)HR15ET:ポリアミドイミド樹脂(東洋紡績(株)製「HR15ET」、Tg=260℃)
・(C2)ノリル640−111:ポリフェニレンエーテル(GEポリマーランドジャパン(株)製「ノリル640−111」、Tg=210℃)
・(B)BPAM−01:ゴム変性ポリアミド共重合樹脂(日本化薬(株)製「BPAM−01」)
・(C1)タフプレンA:スチレン・ブタジエン系エラストマー(旭化成ケミカルズ(株)製「タフプレンA」、Tg=−60℃)
・(A)NC−7000L:ハロゲンを含有せず、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC−7000L」、上記構造式(1)で表されるもの)
・NC−3000:ハロゲンを含有せず、フェノール骨格とビフェニル骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC−3000」)
・LA−1356:フェノールノボラック型のアミノトリアジンノボラック樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「LA−1356」、上記構造式(4)で表され、RがHであるもの)
・LA−3018−50P:クレゾールノボラック型のアミノトリアジンノボラック樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「LA−3018−50P」、上記構造式(4)で表され、RがCHであるもの)
・2E4MZ:2−エチル−4−イミダゾール(四国化成工業(株)製「2E4MZ」)
・SPB−100:ホスファゼン(大塚化学(株)製「SPB−100」、上記構造式(5)で表されるもの)
次に、コンマコーター及びこれに接続された乾燥機を用いて、厚み12μmの銅箔の片面に上記のようにして得られたワニスを塗工・乾燥し、乾燥後の厚みが50μmの接着性樹脂層を形成することによって、樹脂付き銅箔を作製した。
【0058】
そしてこのようにして得られた樹脂付き銅箔について、銅箔引き剥がし強度、半田耐熱性、屈曲性、耐マイグレーション性、成形後の外観、難燃性を評価した。これらの各評価に用いたサンプルの作製条件及び評価条件を以下に示し、評価結果を表1に示す。
(1)銅箔引き剥がし強度は、厚み25μmのポリイミドフィルムの両面に樹脂付き銅箔の接着性樹脂層が形成された面を張り合わせ、180℃で1時間加熱加圧成形することによってサンプルを作製し、銅箔を90°方向に引き剥がしたときの引き剥がし強度により評価した。
(2)半田耐熱性は、厚み25μmのポリイミドフィルムの両面に樹脂付き銅箔の接着性樹脂層が形成された面を張り合わせ、180℃で1時間加熱加圧成形することによってサンプルを作製し、これを260℃と288℃に加熱した半田浴にそれぞれ60秒間浸漬した後、外観を観察することにより評価した。ふくれやはがれ等の外観異常の発生がないものを合格とし、これ以外のものを不合格とした。
(3)屈曲性は、MIT法によって試験を行い、測定条件をR=0.38mm、荷重500gに設定し、回路の導通が取れなくなるまでの折り曲げ回数により評価した。
(4)耐マイグレーション性は、片面フレキシブルプリント配線板に櫛形電極を設けた試験片に、樹脂付き銅箔の接着性樹脂層が形成された面を張り合わせ、180℃で1時間加熱加圧成形することによってサンプルを作製し、このサンプルを用いて85℃/85%RHの環境下で10Vの電圧を250時間印加するテストを行った。このテスト後のマイグレーション度合いを目視にて評価した。マイグレーションが発生していないものを合格とし、これ以外のものを不合格とした。
(5)成形後の外観は、片面35μm厚みの圧延銅箔のフレキシブルプリント配線板に櫛形パターンを設けて形成した試験片に、樹脂付き銅箔の接着性樹脂層が形成された面を張り合わせ、180℃で1時間加熱加圧成形することによってサンプルを作製し、このサンプルの外観を目視にて評価した。パターン間が全て樹脂で充填されているものを合格とし、これ以外のものを不合格とした。
(6)難燃性は、UL94に準じて94VTMの難燃性の判定基準で評価した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1にみられるように、各実施例のものは、銅箔引き剥がし強度と共に耐熱性が良好であり、屈曲性が高くフレキシブルプリント配線板などに要求される屈曲性を満足するものであり、さらに耐マイグレーション性や成形性に優れ、ハロゲンを使用することなく難燃性を有するものであることが確認される。またハロゲン系難燃剤を用いていないので、有毒ガスや発煙の少ない材料となるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分と、下記(B)(C)成分の一方又は両方とを含有するフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物であって、(B)(C)成分全体の配合量がフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物の全量に対して30〜50質量%であることを特徴とするフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
(A)ナフタレン骨格エポキシ樹脂
(B)柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型熱可塑性樹脂と、柔軟性成分と剛直性成分からなるブロック共重合体型の重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるもの
(C)(C1)ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃未満の柔軟な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものと、(C2)ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な熱可塑性樹脂と、ガラス転移点(Tg)が25℃以上の剛直な重量平均分子量が1万を超える高分子成分とから選ばれるものとからなるもの
【請求項2】
(A)成分として、下記構造式(1)〜(3)で表されるもののうちの少なくとも1種類を用いて成ることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項3】
下記構造式(4)で表されるアミノトリアジンノボラック樹脂を硬化剤又は硬化促進剤として配合して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
(B)成分として、ゴム変性ポリアミド、ポリエーテルイミド−シロキサンブロックコポリマー樹脂の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(C1)成分として、スチレン・ブタジエン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、1,2−ポリブタジエンエラストマー、イソプロピレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴムの中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(C2)成分として、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、フェノキシ樹脂の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
リン変性エポキシ樹脂、リン系難燃剤のうちの少なくとも1種類を配合して成ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
リン系難燃剤として、リン酸エステルアミド、下記構造式(5)で表されるものを繰り返し単位とする環状ホスファゼン化合物の中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とする請求項7に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物。
【化3】

【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を金属箔の片面に塗布して接着性樹脂層を形成して成ることを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物をフィルムの少なくとも片面に塗布して成ることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフレキシブルハロゲンフリーエポキシ樹脂組成物を織布又は不織布に含浸させて成ることを特徴とするプリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグの片面又は両面に金属箔を積層して成ることを特徴とするプリント配線板用積層板。
【請求項13】
請求項9に記載の樹脂付き金属箔を接着性樹脂層によってフレキシブル基板と積層一体化して成ることを特徴とする金属張フレキシブル積層板。

【公開番号】特開2009−108144(P2009−108144A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279680(P2007−279680)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】