説明

リンス液及び基体の処理方法

【課題】安全性が高く、金属配線の腐食を抑えることができ、かつ、循環再生使用にも適したリンス液、及びそのリンス液を用いた基体の処理方法を提供する。
【解決手段】レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体の洗浄に、防食剤及び水を含有するリンス液を用いる。防食剤の含有量は1〜30質量%が好ましく、水の含有量は20〜99質量%が好ましい。このリンス液は、さらに水溶性有機溶剤を含有してもよく、これにより、循環再生使用にさらに好適なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体の洗浄に用いられるリンス液、及びそのリンス液を用いた基体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIといった半導体素子は、基体上に形成された導電性金属膜や絶縁膜の上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成し、このレジスト膜を選択的に露光、現像してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして上記導電性金属膜や絶縁膜を選択的にエッチングし、金属配線等を形成した後、不要のレジスト膜を剥離液で除去することにより製造される。レジスト膜の除去後に基体に付着している剥離液は、通常、リンス液によって洗浄除去される。
【0003】
従来、剥離液を除去するためのリンス液としては、金属配線の腐食を抑えるため、イソプロピルアルコールが一般的に使用されている(特許文献1等を参照)。また、金属配線の腐食を抑えながらアルカリ性の剥離液を除去することを目的として、水に炭酸ガスを導入したリンス液や、水やアルコールに有機酸・無機酸を含有させたリンス液も提案されている(特許文献2等を参照)。
【特許文献1】特開2002−151394号公報
【特許文献2】特開平7−37846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、イソプロピルアルコールは揮発性で引火性が高く、安全性の面で問題があった。また、水に炭酸ガスを導入したリンス液は、その性質上、循環再生使用(リサイクル使用)に適さず、水やアルコールに有機酸・無機酸を含有させたリンス液も、剥離液によって酸が中和されると、金属配線の腐食を抑えることができない。
【0005】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、金属配線の腐食を抑えることができ、かつ、循環再生使用にも適したリンス液、及びそのリンス液を用いた基体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた。その結果、特定のリンス液を使用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
本発明の第一の態様は、レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体の洗浄に用いられるリンス液であって、防食剤及び水を含有することを特徴とするリンス液である。
【0008】
本発明の第二の態様は、金属配線を有する基体上に形成されたレジスト膜を剥離液により剥離し、レジスト膜剥離後の前記基体を本発明に係るリンス液により洗浄することを特徴とする基体の処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全性が高く、金属配線の腐食を抑えることができ、かつ、循環再生使用にも適したリンス液、及びそのリンス液を用いた基体の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[リンス液]
本発明に係るリンス液は、防食剤及び水を少なくとも含有し、レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体の洗浄に使用されるものである。以下、リンス液に含有される各成分について説明する。
【0011】
<防食剤>
本発明に係るリンス液は、防食剤を含有する。防食剤を含有することにより、レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体を洗浄する際に、金属配線の腐食を効果的に防止することができる。このような防食剤としては、糖アルコール化合物及び芳香族ヒドロキシ化合物の中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0012】
糖アルコール化合物としては、D−ソルビトール、キシリトール、アラビトール、マンニトール等が挙げられる。これらの中でも、D−ソルビトール及びキシリトールが好ましい。糖アルコール化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
芳香族ヒドロキシ化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、サリチルアルコール、p−ヒドロキシベンジルアルコール、o−ヒドロキシベンジルアルコール、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、ジアミノフェノール、アミノレゾルシノール、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これらの中でも、ピロカテコールが好ましい。芳香族ヒドロキシ化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
防食剤の含有量は、リンス液中、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。防食剤の含有量を上記範囲とすることにより、優れた防食性能を得ることができる。なお、他の防食剤を添加してもよく、特に水溶性の防食剤を好ましく用いることができる。
【0015】
<水>
本発明に係るリンス液は、水を含有する。水の含有量は、リンス液中、20〜99質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。水の含有量を上記範囲とすることにより、優れた洗浄性能を得ることができる。
【0016】
<水溶性有機溶剤>
本発明に係るリンス液は、水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤を含有することにより、剥離液中に含まれるレジスト膜成分がリンス液中で析出することを防止することができるため、循環再生使用にさらに好適なものとなる。
水溶性有機溶剤としては、水と混和性があるものであれば特に限定されず、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−プロピルピロリドン、N−ヒドロキシメチルピロリドン、N−ヒドロキシエチルピロリドン等のラクタム類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を用いることができる。これらの中でも、グリコールエーテル類が好ましい。水溶性有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
水溶性有機溶剤を含有させる場合、その含有量は、リンス液中、50質量%以下であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。水溶性有機溶剤の含有量を上記範囲とすることにより、洗浄性能を維持しながら、レジスト膜成分がリンス液中で析出することを効果的に防止することができる。
【0018】
<抗菌剤>
本発明に係るリンス液は、抗菌剤を含有してもよい。抗菌剤を含有することにより、バクテリア等の発生を抑えることができ、保存性を高めることができる。
抗菌剤としては、従来から抗菌剤として公知のものに限らず、抗菌作用を有するものであれば特に限定されずに用いることができる。例えば、ラウリルアミンオキサイド、オクチルアミンオキサイド、ミスチリルアミンオキサイド、トリデシルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイドや、過蟻酸、過酢酸、過プロピオン酸等の過酸等を用いることができる。特にアルキルアミンオキサイドは界面活性作用を有し、洗浄性能を向上させることもできるため好ましい。また、過酸としては過酢酸が好ましい。
【0019】
抗菌剤を含有させる場合、その含有量は、リンス液中、5質量%以下であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましい。抗菌剤の含有量を上記範囲とすることにより、洗浄性能を維持しながら、効果的に抗菌作用を得ることができる。
【0020】
[基体の処理方法]
本発明に係る基体の処理方法は、金属配線を有する基体上に形成されたレジスト膜を剥離液により剥離し、レジスト膜剥離後の基体を本発明に係るリンス液により洗浄するものである。
【0021】
基体に形成されている金属配線の材料としては、アルミニウム(Al);アルミニウム−ケイ素(Al−Si)、アルミニウム−ケイ素−銅(Al−Si−Cu)等のアルミニウム合金等が挙げられる。本発明に係るリンス液は、特に、基体にAl配線が形成されている場合にその効果が高い。
【0022】
基体上に形成されるレジスト膜としては、特に限定されず、ネガ型、ポジ型のいずれであってもよく、化学増幅型、非化学増幅型のいずれであってもよい。
また、このレジスト膜を剥離するための剥離液としては、特に限定されるものではないが、アルキルベンゼンスルホン酸を主要成分とした有機スルホン酸系剥離液、アルカノールアミン等の有機アミンを主要成分とした有機アミン系剥離液、フッ化水素酸を主要成分としたフッ化水素酸系剥離液、フッ化水素酸と金属イオンを含まない塩基との塩を主要成分としたフッ化水素酸塩系剥離液等が挙げられる。本発明に係るリンス液は、特に、アルカリ性物質を含む剥離液を洗浄除去する際にその効果が高い。アルカリ性物質としては特にアルカノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0023】
リンス液による基体の洗浄には、浸漬法、スプレー法、シャワー法、パドル法等のいずれもが利用可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
<実施例1〜4、比較例1〜3>
約300μmのアルミニウム膜を蒸着したガラス基板を70℃に加温した剥離液(商品名:ST−105、東京応化工業社製)に2分間浸漬し、次いで表1に示す各組成のリンス液に10分間浸漬し、さらに純水で流水洗浄を行った。そして、各組成のリンス液を使用したときの浸漬処理前後のシート抵抗値(表面抵抗値)を測定することによりアルミニウム膜の膜減り量(腐食量)を求めた。結果を表1に示す。なお、表1中、括弧内の数字は質量%を表す。
【0026】
また、リンス液の経時効果を確認するため、アルミニウム膜付きガラス基板(2×4cm)を70℃に加温した剥離液(商品名:ST−105、東京応化工業社製)に2分間浸漬し、次いで表1に示す各組成のリンス液100mlに10分間浸漬する工程を、毎日繰り返した。アルミニウム膜付きガラス基板は毎日新規に10枚用意し、剥離液及び各リンス液は同一のものを継続使用した。そして、各組成のリンス液を使用したときの浸漬処理前後のシート抵抗値(表面抵抗値)を測定することによりアルミニウム膜の膜減り量(腐食量)を求め、防食性の効能期間を求めた。
【0027】
【表1】

Xyl:キシリトール
IPA:イソプロピルアルコール
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
【0028】
表1から分かるように、実施例1〜4のリンス液を使用して洗浄処理を行った場合には、イソプロピルアルコールを使用した比較例1と同等程度にアルミニウム膜の腐食を抑えることができた。また、防食性の効能期間も5日以上と長いことから、循環再生使用にも適していると考えられる。さらに、これらのリンス液は引火性が低いため安全性が高く、消防法上の問題もない。一方、比較例1のリンス液はアルミニウム膜の防食性やその効能期間に優れていたものの、引火性が高く、消防法上の問題がある。また、比較例2のリンス液は、アルミニウム膜の防食性が低いため、金属配線の腐食を抑えることができないと考えられ、比較例3のリンス液は、アルミニウム膜の防食性の効能期間が半日以下と短く、循環再生使用に適さないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト膜剥離後の金属配線を有する基体の洗浄に用いられるリンス液であって、
防食剤及び水を含有することを特徴とするリンス液。
【請求項2】
前記防食剤の含有量が1〜30質量%であり、前記水の含有量が20〜99質量%である請求項1記載のリンス液。
【請求項3】
前記防食剤が、糖アルコール化合物及び芳香族ヒドロキシ化合物の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載のリンス液。
【請求項4】
さらに、水溶性有機溶剤を含有する請求項1から3のいずれか1項記載のリンス液。
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤の含有量が50質量%以下である請求項4記載のリンス液。
【請求項6】
さらに、抗菌剤を含有する請求項1から5のいずれか1項記載のリンス液。
【請求項7】
前記抗菌剤の含有量が5質量%以下である請求項6記載のリンス液。
【請求項8】
金属配線を有する基体上に形成されたレジスト膜を剥離液により剥離し、レジスト膜剥離後の前記基体を請求項1から7のいずれか1項記載のリンス液により洗浄することを特徴とする基体の処理方法。
【請求項9】
前記金属配線がアルミニウム配線である請求項8記載の基体の処理方法。

【公開番号】特開2009−206301(P2009−206301A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47100(P2008−47100)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】