内燃機関の制御装置
【課題】運転者の運転特性に応じて内燃機関の制御パラメータを最適化することが可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】規定された走行モードでの筒内状態量変化に基づいて定められた状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する実際の走行状態での筒内状態量変化により求められた状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを算出する。運転者過渡度Rtが1以上である場合には、筒内酸素濃度を高くするようにEGRバルブの開度を比較的小さく設定しておく。一方、運転者過渡度Rtが1未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど、筒内酸素濃度を低くするようにEGRバルブの開度を比較的大きく設定しておく。これにより、過渡運転時に失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善が図れる。
【解決手段】規定された走行モードでの筒内状態量変化に基づいて定められた状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する実際の走行状態での筒内状態量変化により求められた状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを算出する。運転者過渡度Rtが1以上である場合には、筒内酸素濃度を高くするようにEGRバルブの開度を比較的小さく設定しておく。一方、運転者過渡度Rtが1未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど、筒内酸素濃度を低くするようにEGRバルブの開度を比較的大きく設定しておく。これにより、過渡運転時に失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善が図れる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに代表される内燃機関の制御装置に係る。特に、本発明は、運転者の運転特性(例えば、アクセルペダルの踏み込み速度の個人差等)に応じて内燃機関の制御パラメータを可変とする制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジンでは、排気エミッションの改善、高いエンジントルクの確保、燃料消費率の改善等を実現するために、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等に応じて、各種制御機器の制御パラメータが調整される。例えば、燃料噴射弁(以下、「インジェクタ」と呼ぶ場合もある)からの燃料噴射量や燃料噴射タイミングが調整される。また、NOx排出量を削減することを目的として排気ガスを吸気系に還流させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置に備えられたEGRバルブの開度を制御して排気還流率(EGR率)が調整される。
【0003】
また、エンジンの過渡運転に応じて制御パラメータを調整するものとして下記の特許文献1及び特許文献2がある。
【0004】
特許文献1では、アクセル開度の時間変化割合からエンジンの運転状態を判定し、エンジンが定常運転領域以外のとき(エンジンの過渡運転時)にはEGRガスの還流を停止(EGRカット)してドライバビリティの改善を図る一方、エンジンが定常運転領域のときには大量のEGRガスを吸気系に還流させて排気エミッションの改善を図るようにしている。
【0005】
また、特許文献2では、吸気系に備えられた過給機(スーパーチャージャ)を迂回するバイパス通路にバイパス弁を備えさせ、エンジンの過渡運転時であって急減速時には、バイパス弁の開作動を速めることによる吸気逆流により(過給機から吐出された空気の一部を、バイパス通路を逆流させて過給機上流に戻すことで)過給機の温度上昇を抑制するようにしている。
【0006】
ところで、一般に、車両を運転する運転者にあっては運転特性に個人差がある。例えば、車両の加速要求時等であって定常運転から過渡運転に移行する際におけるアクセルペダルの踏み込み速度(アクセルペダルの単位時間当たりの開方向への変化量)に個人差がある。つまり、同一加速要求時であっても、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い運転者や、踏み込み速度が比較的高い運転者が存在している。
【0007】
エンジンの制御システムとしては、どのような運転者が車両を運転する場合であっても気筒内での失火等の不具合を招くことがないように、所謂ロバスト性の高いシステムとして構築しておくことが必要である。つまり、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者の場合、アクセル開度が小さい状態でのエンジン動作点(要求出力が小さい動作点)からアクセル開度が大きい状態でのエンジン動作点(要求出力が大きい動作点)への遷移時に、制御遅れが生じたとしても駆動に支障を来さない(失火等を招かない)ように各種制御量を調整しておく必要がある。
【0008】
一例について説明すると、アクセル開度が比較的小さい状態での定常運転では、EGRガスの還流量が比較的多く(気筒内の酸素濃度が比較的少なく)、インジェクタからの燃料噴射量が比較的少なく、その噴射タイミングは比較的進角側(気筒内の酸素濃度が比較的少ないため、噴射タイミングを進角側に設定して燃焼の遅れを防止している)に設定されている。この状態から、高い踏み込み速度でアクセルペダルが踏み込まれて過渡運転に移行した際、本来であれば、上記EGRバルブの開度を急速に小さくしてEGRガスの還流量を少なくして気筒内の酸素濃度を高め、インジェクタからの燃料噴射量を急速に多く設定し、その噴射タイミングを急速に遅角側に移行させ、アクセル開度変化後の(アクセル開度が比較的大きい状態での)エンジン動作点に早期に移行させる制御を行うことが必要となる。ところが、EGRバルブの開度の変更に遅れが生じた場合には、気筒内の酸素濃度が低い状態のまま、インジェクタからの燃料噴射量が多くなり、且つその噴射タイミングが遅角側に変化することになる。その結果、気筒内の燃焼場にあっては、増量された燃料噴射量に対する適正な酸素量よりも実際の酸素量が不足し、また、酸素濃度(制御遅れによって低くなっている酸素濃度)に適した燃料噴射タイミングよりも実際の燃料噴射タイミングが遅角側に設定されており、これらに起因して、気筒内での燃焼が悪化して失火に至ってしまうことが懸念される状況となる。
【0009】
このような状況が生じる可能性があることを考慮し、実際のエンジンの制御システムとしては、例えば、定常運転時における排気還流量を予め少なめに設定しておき、上記過渡運転時における気筒内の酸素濃度不足を回避して、仮にEGRバルブの開度の変更に遅れが生じた場合であっても十分な酸素濃度を確保して失火を招かないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−158514号公報
【特許文献2】特開平6−193457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように制御遅れが生じたとしても失火を招かないように制御量(上記の場合には排気還流量)を調整した場合、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者が運転している場合には、失火の発生を防止することができて有効である。しかしながら、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い運転者が運転している場合には、必要以上に気筒内の酸素濃度が高く設定されていることになる。つまり、気筒内の酸素濃度をより低く設定しても、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがないにも拘わらず、また、この気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善が図れる状況にあるにも拘わらず、そのような効果を奏することができる酸素濃度には設定されていない(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者が運転する可能性があることを考慮して酸素濃度が予め高く設定されている)のが実状であった。
【0012】
本発明の発明者は、この点に鑑み、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータを変更すれば、様々な運転者の運転特性に対して制御パラメータを最適化できることを見出し本発明に至った。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運転者の運転特性に応じて内燃機関の制御パラメータを最適化することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
−発明の概要−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の概要は、運転者の運転過渡度を、内燃機関の定常運転時における筒内状態と、実際の筒内状態との比較によって求め、この求められた運転過渡度に応じて内燃機関の制御パラメータを補正するようにしている。つまり、運転者の運転過渡度が高い場合には、内燃機関のロバスト性を優先した制御パラメータの補正を行う一方、運転者の運転過渡度が低い場合には、内燃機関の排気エミッションや燃料消費率の改善を優先した制御パラメータの補正を行うようにしている。
【0015】
−解決手段−
具体的に、本発明は、内燃機関の過渡運転時、その運転過渡度に応じて制御パラメータを調整する内燃機関の制御装置を前提とする。この内燃機関の制御装置に対し、上記内燃機関の運転時における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を学習していき、この学習された運転者の運転過渡度に応じて上記制御パラメータを調整する構成としている。
【0016】
この特定事項により、内燃機関の運転状態が過渡である場合であって、その運転過渡度が比較的低い場合には、制御遅れは僅かであるため、状態量変化基準値と状態量偏差実値との差は小さく、これにより、運転者の運転過渡度は低いと認識される。例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が低い場合が挙げられる。この場合、筒内状態量の目標値に対して実際の筒内状態量を早期に近付けることが可能な状況であり、内燃機関は失火などの燃焼状態の悪化は生じにくいため、内燃機関のロバスト性を確保しながらも、制御パラメータとしては、排気エミッションや燃料消費率の改善を優先する側の補正が可能となる。
【0017】
一方、内燃機関の運転状態が過渡である場合であって、その運転過渡度が比較的高い場合には、制御遅れが大きいため、状態量変化基準値と状態量偏差実値との差は大きく、これにより、運転者の運転過渡度は高いと認識される。例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が高い場合が挙げられる。この場合、筒内状態量の目標値に対して実際の筒内状態量は大きく乖離している状況であるので、失火などの燃焼状態の悪化が生じないように、内燃機関の制御パラメータとしては、ロバスト性を優先した補正が行われる。
【0018】
このようにして、運転者の運転過渡度に応じた制御パラメータの調整が行われることで、制御パラメータを最適化でき、運転者の運転過渡度が高い場合であっても失火を招くことがなく、また、運転者の運転過渡度が低い場合には排気エミッションの改善や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0019】
上記制御パラメータを筒内酸素濃度とした場合の具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記運転者の運転過渡度を、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出し、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての筒内酸素濃度を補正する。
【0020】
この場合、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を低くするよう補正する。
【0021】
これによれば、運転者の運転過渡度が低いほど、筒内酸素濃度は低く設定され、排気エミッションの改善(特に、NOx排出量の削減)が図れる方向への補正量が大きくなっていくことになる。これにより、運転者の運転過渡度に応じた最適な筒内酸素濃度の調整を実現することができる。
【0022】
一方、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値に維持する。
【0023】
これは、運転者の運転過渡度が高い場合に、その運転過渡度が高いほど筒内酸素濃度を高くしてしまうと、燃料消費率は改善されるものの、NOx排出量が規制値を超えてしまう可能性があるので、これを回避するためである。つまり、運転者の運転過渡度が高い場合には、NOx排出量を規制値未満に抑えながらも、可能な限り燃料消費率の改善が図れるようにしている。
【0024】
上記制御パラメータを燃料着火時期とした場合の具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記運転者の運転過渡度を、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出し、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての燃料着火時期を補正する。
【0025】
この場合、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての燃料着火時期を進角側に補正する。
【0026】
これによれば、運転者の運転過渡度が低いほど、燃料着火時期は進角側に設定され、燃料消費率の改善が図れる方向への補正量が大きくなっていくことになる。これにより、運転者の運転過渡度に応じた最適な燃料着火時期の調整を実現することができる。
【0027】
一方、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての燃料着火時期を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値、または、要求出力を満たす一定の値に維持する。
【0028】
これは、運転者の運転過渡度が高い場合に、その運転過渡度が高いほど燃料着火時期を遅角側に移行させてしまうと、着火遅れに伴う燃焼の悪化を招き、排気エミッションの悪化を招いたり、要求出力が得られなかったりしてしまう可能性があるので、これを回避するためである。
【0029】
上記状態量偏差実値としては、上記内燃機関の定常運転時において、排気エミッションや燃料消費率が要求値を満たすように各種制御パラメータを適合させた状態での筒内状態量と、実際の内燃機関の運転時における筒内状態量との偏差の累積値の平均値として算出している。
【0030】
また、上記筒内状態量としては、筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つである。
【0031】
内燃機関の運転状態が過渡であった場合には、制御遅れ分だけ、定常運転時における筒内状態量(筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つ)に対して実際の筒内状態量が乖離することになり(例えば、EGRバルブの開度制御に遅れが生じた場合には筒内酸素濃度に乖離が生じることになり)、この乖離量を検知することで、現在の内燃機関の運転状態が定常運転であるのか過渡運転であるのか、また、過渡運転である場合にはその過渡運転の程度(運転過渡度)を判別することができる。つまり、筒内状態量の比較によって状態量偏差実値を算出でき、単にアクセル開度の検出値等といった絶対量のみで運転過渡度を認識する場合に比べて、より高い精度で運転過渡度を認識することが可能となる。
【0032】
上記状態量変化基準値は、予め規定された車両走行テストモードで車両を走行させた場合における筒内状態量の変化に基づいて規定されたものである。
【0033】
一般に、規定された車両走行テストモード(例えば欧州におけるECモードや、日本におけるJC08モード等)は、平均的ユーザ(一般的な運転者)が車両を運転した場合の走行パターンでテストを行うものとなっている。つまり、平均的な過渡運転を模したものとなっている。このため、この車両走行テストモードで車両を走行させた場合の筒内状態量の変化に対して、実際の車両走行時の筒内状態量の変化を比較することで、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の差を求めることができ、これによって、一般的な走行状態(平均的な運転過渡度)に対して実際の走行状態(実際の運転過渡度)を求めることとなり、運転過渡度の判定基準を確立することができる。
【0034】
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つと、実際の内燃機関の運転状態において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つとの偏差の累積値の平均値として算出されたものである。
【0035】
筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成は、筒内で燃焼が開始されると、その燃焼の影響を受けて大きく変化してしまう。このため、燃焼の影響を受けていないガス状態での値として状態量偏差実値を求める。これによって、各種運転運転に対して共通した指標として状態量偏差実値を扱うことが可能となって、運転過渡度の学習精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明では、内燃機関の運転状態における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を認識し、この認識された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータを調整している。このため、制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ排気エミッションの改善や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成を示す図である。
【図2】ディーゼルエンジンの燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】燃焼室内での燃焼形態の概略を説明するための吸排気系及び燃焼室の模式図である。
【図5】燃料噴射時における燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。
【図6】燃料噴射時における燃焼室の平面図である。
【図7】運転過渡度判定動作の手順を示すフローチャート図である。
【図8】過渡運転時におけるアクセル開度の変化、目標酸素濃度の変化及び実酸素濃度の変化を示すタイミングチャート図であって、図8(a)はアクセル開度の変化速度が比較的低い場合を、図8(b)はアクセル開度の変化速度が比較的高い場合をそれぞれ示す図である。
【図9】第1実施形態における筒内酸素濃度補正動作の手順を示すフローチャート図である。
【図10】第1実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される酸素濃度目標補正値マップを示す図である。
【図11】第1実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される酸素濃度目標補正値マップを示す図である。
【図12】第2実施形態における制御パラメータ補正動作の手順を示すフローチャート図である。
【図13】第2実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される着火時期目標補正値マップを示す図である。
【図14】第2実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される着火時期目標補正値マップを示す図である。
【図15】第2実施形態におけるNOx排出量及び燃料消費率の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
【0039】
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
【0041】
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
【0042】
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
【0043】
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
【0044】
また、上記燃料添加弁26は、ECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
【0045】
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
【0046】
また、この吸気系6には、燃焼室3内でのスワール流(水平方向の旋回流)を可変とするためのスワールコントロールバルブ(スワール速度可変機構)66が備えられている(図2参照)。具体的に、上記吸気ポート15aとしては、ノーマルポート及びスワールポートの2系統が各気筒毎に備えられており、そのうち図2に示されているノーマルポート15aに、開度調整可能なバタフライバルブで成るスワールコントロールバルブ66が配置されている。このスワールコントロールバルブ66には図示しないアクチュエータが連繋されており、このアクチュエータの駆動によって調整されるスワールコントロールバルブ66の開度に応じてノーマルポート15aを通過する空気の流量が変更できるようになっている。そして、スワールコントロールバルブ66の開度が大きいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が増加する。このため、スワールポート(図2では図示省略)により発生したスワールは相対的に弱まり、気筒内は低スワール(スワール速度が低い状態)となる。逆に、スワールコントロールバルブ66の開度が小さいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が減少する。このため、スワールポートにより発生したスワールは相対的に強められ、気筒内は高スワール(スワール速度が高い状態)となる。
【0047】
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された上記排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
【0048】
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
【0049】
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
【0050】
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
【0051】
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
【0052】
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
【0053】
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
【0054】
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
【0055】
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する上記吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
【0056】
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
【0057】
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
【0058】
このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
【0059】
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
【0060】
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
【0061】
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
【0062】
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0063】
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
【0064】
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40、及び、筒内圧力を検出する筒内圧センサ4Aなどが接続されている。
【0065】
一方、出力インターフェース106には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、スワールコントロールバルブ66、EGRバルブ81、及び、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構(可変ノズルベーンの開度を調整するアクチュエータ)54も接続されている。
【0066】
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROM102に記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
【0067】
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
【0068】
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度(例えば1000K)に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
【0069】
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。また、上記パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われている場合には、メイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
【0070】
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的には、供給された燃料の燃焼エネルギがエンジン1のトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射は実行される。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
【0071】
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
【0072】
更に、ECU100は、上記スワールコントロールバルブ66の開度制御を実行する。このスワールコントロールバルブ66の開度制御としては、燃焼室3内に噴射された燃料の噴霧の単位時間当たり(または単位クランク回転角度当たり)における気筒内の周方向の移動量を変更するように行われる。
【0073】
−燃料噴射圧−
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、及び、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される。尚、この目標レール圧は例えば上記ROM102に記憶された燃圧設定マップに従って設定される。つまり、この燃圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)が制御され、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になる。
【0074】
尚、本実施形態では、エンジン負荷等に応じて燃料圧力が30MPa〜200MPaの間で調整されるようになっている。
【0075】
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
【0076】
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度及びアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
【0077】
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1における燃焼室3内での燃焼形態の概略について説明する。
【0078】
図4は、エンジン1の一つの気筒に対して吸気マニホールド63及び吸気ポート15aを経てガス(空気)が吸入され、燃焼室3内へインジェクタ23からの燃料噴射によって燃焼が行われると共に、その燃焼後のガスが排気ポート71を経て排気マニホールド72へ排出される様子を模式的に示した図である。
【0079】
この図4に示すように、気筒内に吸入されるガスには、吸気管64からスロットルバルブ62を介して吸入された新気と、上記EGRバルブ81が開弁された場合にEGR通路8から吸入されるEGRガスとが含まれる。吸入される新気量(質量)と吸入されるEGRガス量(質量)との和に対するEGRガス量の割合(即ち、EGR率)は、運転状態に応じて上記ECU100により適宜制御されるEGRバルブ81の開度に応じて変化する。
【0080】
このようにして気筒内に吸入された新気及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気バルブ16を介し、ピストン13(図4では図示省略)の下降に伴って気筒内に吸入されて筒内ガスとなる。この筒内ガスは、エンジン1の運転状態に応じて決定されるバルブ閉弁時にて吸気バルブ16が閉弁することにより筒内に密閉され(筒内ガスの閉じ込め状態)、その後の圧縮行程においてピストン13の上昇に伴って圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、上述したECU100による噴射量制御によって所定時間だけインジェクタ23が開弁されることで燃料を燃焼室3内に直接噴射する。具体的には、ピストン13が上死点に達する前に上記パイロット噴射が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て、ピストン13が上死点近傍に達した時点で上記メイン噴射が実行されることになる。
【0081】
図5は、この燃料噴射時における燃焼室3及びその周辺部を示す断面図であり、図6は、この燃料噴射時における燃焼室3の平面図(ピストン13の上面を示す図)である。図6に示すように、本実施形態に係るエンジン1のインジェクタ23には、周方向に亘って等間隔に8個の噴孔が設けられており、これら噴孔からそれぞれ均等に燃料が噴射されるようになっている。尚、この噴孔数としては8個に限るものではない。
【0082】
そして、この各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は略円錐状に拡散していく。また、各噴孔からの燃料噴射(上記パイロット噴射やメイン噴射)は、ピストン13が圧縮上死点近傍に達した時点で行われるため、図5に示すように、各燃料の噴霧A,A,…は上記キャビティ13b内で拡散していくことになる。
【0083】
このように、インジェクタ23に形成されている各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は、時間の経過に伴って筒内ガスと混ざり合いながら混合気となって筒内においてそれぞれ円錐状に拡散していき、自己着火によって燃焼する。つまり、この各燃料の噴霧A,A,…は、それぞれ筒内ガスと共に略円錐状の燃焼場を形成し、その燃焼場(本実施形態では8箇所の燃焼場)でそれぞれ燃焼が開始されることになる。
【0084】
そして、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
【0085】
そして、燃焼後の筒内ガスは、排気行程において開弁する排気バルブ17を介し、ピストン13の上昇に伴って排気ポート71及び排気マニホールド72へ排出されて排ガスとなる。
【0086】
−運転過渡度学習制御−
次に、本実施形態の特徴とする制御である運転過渡度学習制御について説明する。この運転過渡度学習制御は、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習し、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度や燃料着火時期など)を制御するものである。
【0087】
この運転過渡度学習制御では、車両を運転している運転者の運転特性(運転過渡度)を判定するための「運転過渡度判定動作」と、その判定された運転過渡度に応じてエンジン1の制御パラメータの制御値を補正する「制御パラメータ補正動作」とが行われる。以下、それぞれの動作について説明する。
【0088】
(運転過渡度判定動作)
先ず、運転過渡度判定動作について説明する。この運転過渡度判定動作の手順としては、図7に示すように、「筒内状態量基準値Xb」の読み込み動作(ステップST1)、「実筒内状態量Xr」の検知動作(ステップST2)、「状態量偏差ΔX」の算出動作(ステップST3)、「状態量偏差平均値ΔXave(本発明でいう状態量偏差実値)」の算出動作(ステップST4)、「状態量変化最大基準値ΔXb-ave(本発明でいう状態量変化基準値)」の読み込み動作(ステップST5)、「運転者過渡度Rt(本発明でいう運転者の運転過渡度)」の算出動作(ステップST6)が順に行われる。この運転過渡度判定動作はエンジン1の始動後、所定時間間隔毎または所定クランク回転角度毎に実行される。以下、各動作について順に説明する。
【0089】
<筒内状態量基準値Xbの読み込み動作>
上記筒内状態量基準値Xbは、エンジン1の定常運転時における筒内状態量としての筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)の適合値情報である。これら情報は、シャシダイナモメータやエンジンベンチ試験器等の車両試験器による実際のエンジン運転状態において、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた各種の定常運転(エンジン回転数及びエンジン負荷を略一定に維持した状態での運転)を実施し、これら定常運転でのエンジン1の各種制御パラメータ(燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧力、EGR率など)を適合させた際に取得される筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報である。また、コンピュータシミュレーションによって各定常運転での適合状態における筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報であってもよい。
【0090】
より具体的には、排気エミッションや燃料消費率が共に要求値を満たすようにエンジン1の各種制御パラメータを適合させた状態で定常運転を実施し、その運転状態において、ピストン13が圧縮上死点(TDC;Top Dead Center)に達した時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)を計測または推定することによって、これら値に基づいた筒内状態量基準値Xbが取得されることになる。この筒内状態量基準値Xbとしては、上記筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別の筒内状態量基準値Xbを求めるようにしてもよいし、これら筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報のうちの2つ又は全てから所定の演算式や予め作成されたマップ等を用いて定常運転毎に一つの筒内状態量基準値Xbを求めるようにしてもよい。尚、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別の筒内状態量基準値Xbを求める場合には、後述する各値の算出動作及び読み込み動作においても筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別に行われることになる。
【0091】
また、これら情報(筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成)を計測または推定するタイミングとしては、上記ピストン13が圧縮上死点に達した時点に限らず、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点や吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点(筒内ガスが閉じ込め状態となった時点)であってもよい。これら筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を計測または推定する手法としては従来から周知の手法が採用可能である。例えば、各種センサからの検知信号に基づいて計測したり、または、検出された吸入空気量、制御指示値に応じた燃料噴射量、エンジン1の諸元である圧縮比等から推定される。
【0092】
これら計測または推定される筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成は、筒内で燃焼が開始されると、その燃焼の影響を受けて大きく変化してしまうため、各種の定常運転に対して共通した指標として筒内状態量基準値Xbを扱うためには、燃焼の影響を受けていないガス状態での値としてこの筒内状態量基準値Xbを求めることが好ましい。このため、この筒内状態量基準値Xbは、未だ燃料の燃焼が開始されていない時点、または、燃料の燃焼がなされないと仮定して取得するものとする。例えばピストン13が圧縮上死点に達した時点を情報の取得タイミングとする場合には、このピストン13が圧縮上死点に達した時点で燃料の燃焼が開始されていない状態で各情報を取得するか、または、ピストン13が圧縮上死点に達した時点で燃料の燃焼(例えばパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼)が開始されていないと仮定した状態(吸入空気量、燃料噴射量、圧縮比等から、ピストン13が圧縮上死点に達した時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を推定すること)で各情報を取得することになる。また、インジェクタ23からの燃料噴射開始時期を情報の取得タイミングとする場合には、同一燃焼行程において先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。例えばメイン噴射に先立ってパイロット噴射が実行される場合には、このパイロット噴射の開始時点がこの情報の取得タイミングとして設定され、パイロット噴射が実行されない場合には、メイン噴射の開始時点がこの情報の取得タイミングとして設定されることになる。また、パイロット噴射が実行される場合であっても、このパイロット噴射による燃焼がされないと仮定してメイン噴射の開始時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を推定するようにしてもよい。
【0093】
そして、これら情報(筒内状態量基準値Xbである筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報)は予め上記ROM102に記憶されている。従って、この筒内状態量基準値Xbの読み込み動作では、エンジン1の運転時において、現在の運転状態(要求回転数及びエンジン負荷により決定される運転状態)に合致した定常運転時の情報を上記ROM102から読み出すことになる。つまり、現在の運転状態(要求回転数及びエンジン負荷により決定される運転状態)が定常運転状態であると仮定した場合の情報が上記ROM102から読み出されることになる。具体的には、現在のエンジン回転数を上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出すると共に、現在のアクセル開度(エンジン負荷に相当)を上記アクセル開度センサ47から検出し、これらエンジン回転数及びアクセル開度での定常運転時における筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成が上記筒内状態量基準値XbとしてROM102から読み出されることになる。
【0094】
尚、上記筒内状態量基準値Xbとしては、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の全ての情報に限らず、これら情報のうち一つまたは二つであってもよい。
【0095】
<実筒内状態量Xrの検知動作>
上記実筒内状態量Xrは、実際のエンジン1の運転状態における筒内状態量としての筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)の情報である。これら情報は、各種センサからの検知信号から検知されたり、または、吸入空気量、燃料噴射量、圧縮比等から推定される。例えば、筒内の圧力は、上記筒内圧センサ4Aの検知信号や、吸気圧センサ48の検知信号及び圧縮比等に基づいて算出される。また、筒内の温度は、上記吸気温センサ49の検知信号及び圧縮比等に基づいて算出される。更に、筒内のガス組成は、エアフローメータ43により検出される吸入空気量やEGRマップに従って設定される現在のEGRバルブ81の開度に基づいて算出される。また、特開2009−30453号公報に開示されているような酸素濃度推定手法を用いるようにしてもよい。また、その他の周知の手法によって筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を計測または推定するようにしてもよい。
【0096】
この情報の取得タイミングとしては、上述した筒内状態量基準値Xbの取得タイミングと一致している。つまり、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、ピストン13が圧縮上死点に達した時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、ピストン13が圧縮上死点に達した時点とする。また、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点とする。更に、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点とする。
【0097】
また、その他の情報の取得タイミングとしては、メイン噴射で噴射された燃料の着火時期であってもよい。この場合も、同一燃焼行程において、このメイン噴射で噴射された燃料の着火時期よりも先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。また、メイン噴射を多段噴射とする場合には、最も進角側の第1メイン噴射で噴射された燃料の着火時期となる。この場合も、同一燃焼行程において、この第1メイン噴射で噴射された燃料の着火時期よりも先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。このように、先行する燃料の燃焼等の影響を排除することで、筒内ガス状態として純粋に過渡を判断することが可能となる。
【0098】
尚、上記筒内圧センサ4Aの設置が困難な場合や十分な検出精度が得られない可能性がある場合には、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点での吸気温度や吸気圧力を用い、圧縮行程時のポリトロープ指数の変化など、冷却損失を考慮して各種情報を取得するようにしてもよい。
【0099】
また、上述した筒内状態量基準値Xbの場合と同様に、実筒内状態量Xrとしては、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の全ての情報に限らず、これら情報のうち一つまたは二つであってもよい。
【0100】
<状態量偏差ΔXの算出動作>
上記筒内状態量基準値Xbの読み込み動作により取得された筒内状態量基準値Xb、及び、上記実筒内状態量Xrの検知動作により取得された実筒内状態量Xrから状態量偏差ΔXを算出する。この状態量偏差ΔXの算出動作は、適合された定常運転での筒内状態量に対する現在のエンジン1の運転状態における筒内状態量の偏差(乖離量)を求めるものである。つまり、過渡運転である場合には、制御遅れ分だけ上記定常運転での筒内状態量に対して実際の筒内状態量が乖離しており、その乖離量は運転過渡度が高いほど大きくなるため、それを検知することで、現在のエンジン1の運転状態が定常運転であるのか過渡運転であるのか、また、過渡運転である場合にはその運転過渡度の大きさを判別し、その指数として状態量偏差ΔXを求めるようにしている。
【0101】
具体的には、以下の式(1)により状態量偏差ΔXが算出される。
【0102】
状態量偏差ΔX=筒内状態量基準値Xb−実筒内状態量Xr …(1)
つまり、現在のエンジン1の運転状態が定常運転であった場合には、制御パラメータの遅れ等は生じていないため、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた実筒内状態量Xrは、筒内状態量基準値Xbに略等しくなり、状態量偏差ΔXは「0」または比較的小さな値となる。
【0103】
これに対し、現在のエンジン1の運転状態が過渡運転であった場合には、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量基準値Xbに対して、実際の筒内状態を現す値である実筒内状態量Xrとしては小さな値となる(制御遅れ(例えばEGRバルブ81の開度変更の遅れ等)に相当する分だけ小さな値となる)。そして、運転者の運転過渡度が大きいほど要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量(目標となる筒内状態量)は、過渡運転開始前の筒内状態量に対して乖離が大きいため、制御遅れが生じている場合には、運転者の運転過渡度が大きいほど、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量(目標となる筒内状態量)に対する実筒内状態量Xrの偏差は大きくなる。その結果、運転者の運転過渡度が比較的小さい場合には、上記状態量偏差ΔXも比較的小さい値として算出される一方、運転者の運転過渡度が比較的大きい場合には、上記状態量偏差ΔXも比較的大きな値として算出されることになる。
【0104】
図8は、エンジン1の過渡運転時におけるアクセル開度の変化、筒内状態量基準値Xbに相当する目標酸素濃度の変化、及び、実筒内状態量Xrに相当する実酸素濃度の変化を示すタイミングチャート図であって、図8(a)はアクセル開度の変化速度が比較的低い場合を、図8(b)はアクセル開度の変化速度が比較的高い場合をそれぞれ示している。尚、図8(a)では、タイミングt1でアクセルペダルの踏み込みが開始され、このタイミングt1からの経過時間が比較的長いタイミングt3で所定のアクセル開度(過渡運転から定常運転に移行した後のアクセル開度)に達している。これに対し、図8(b)では、タイミングt1でアクセルペダルの踏み込みが開始され、このタイミングt1からの経過時間が比較的短いタイミングt2で所定のアクセル開度(過渡運転から定常運転に移行した後のアクセル開度)に達している。尚、酸素濃度の変化において、図中の実線が目標酸素濃度の変化を示し、一点鎖線が実酸素濃度の変化を示している。
【0105】
図8(a)に示すようにアクセル開度の変化速度が比較的低い場合には、目標酸素濃度の変化速度も低く、EGRバルブ81の開度変更に遅れが生じたとしても、このEGRバルブ81の開度に応じて変更される気筒内酸素濃度(実酸素濃度)と目標酸素濃度との乖離は比較的小さい。例えば図中のタイミングt2では、実酸素濃度と目標酸素濃度との偏差は図中のΔX1となっており、このΔX1が、このアクセル開度の変化速度が比較的低い場合における上記状態量偏差ΔXに相当する。
【0106】
これに対し、図8(b)に示すようにアクセル開度の変化速度が比較的高い場合には、目標酸素濃度の変化速度も高く、EGRバルブ81の開度変更に遅れが生じた場合には、このEGRバルブ81の開度に応じて変更される気筒内酸素濃度(実酸素濃度)と目標酸素濃度との乖離は比較的大きくなる。例えば図中のタイミングt2では、上述した如くアクセル開度の変化速度が比較的低い場合には図中のΔX1となっており比較的小さい値であったものの、アクセル開度の変化速度が高い場合には図中のΔX2となっており比較的大きな値となっている。この図中のΔX2が、このアクセル開度の変化速度が比較的高い場合における上記状態量偏差ΔXに相当する。このように、アクセル開度の変化速度が高いほど(運転過渡度が高いほど)上記状態量偏差ΔXとしては大きな値として算出されることになる。言い換えると、この状態量偏差ΔXが運転者のアクセル操作の過渡度を現す指標として算出されている。
【0107】
図8では、エンジン1の過渡運転時におけるアクセル開度の変化、目標酸素濃度の変化、及び、実酸素濃度の変化について説明したが、エンジン1の過渡運転時に筒内圧力の制御遅れが生じる場合や、筒内温度の制御遅れが生じる場合においても上述と同様に、上記状態量偏差ΔXに相当する値がアクセル開度の変化速度に応じて異なることになる。
【0108】
また、この状態量偏差ΔXとしては、時間的な平均を考慮して以下の式(2)により算出するようにしてもよい。
【0109】
状態量偏差ΔX=(筒内状態量基準値Xb−実筒内状態量Xr)/Δt …(2)
この場合、Δt=1/{(Ne/60)×2π} …(3)
Neはエンジン回転数(rpm)である。
【0110】
この場合にも、アクセル開度の変化速度が高いほど(運転過渡度が高いほど)上記状態量偏差ΔXとしては大きな値として算出されることになるため、この状態量偏差ΔXが運転者のアクセル操作の過渡度を現す指標として算出されることになる。
【0111】
<状態量偏差平均値ΔXaveの算出動作>
上述の如く状態量偏差ΔXが求められた後、過去に算出された状態量偏差ΔXの平均値(状態量偏差平均値ΔXaveの前回値)と、今回の状態量偏差ΔXとを用いて、今回の状態量偏差平均値ΔXaveが算出される。
【0112】
具体的には、以下の式(4)により状態量偏差平均値ΔXaveが算出される。
【0113】
状態量偏差平均値ΔXave=(状態量偏差平均値ΔXave(前回値)+状態量偏差ΔX(今回値))/2 …(4)
ここで、上記前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveは、図7のルーチンにおける前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveである。この値は、前回のルーチンまでの期間中における運転者の運転過渡度の指標を現すものとなっている。尚、この前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveは、車両の過去の走行の全期間における状態量偏差ΔXの平均値であってもよいし、現在から過去に遡った所定走行距離(例えば1万km)の走行期間における状態量偏差ΔXの平均値であってもよい。
【0114】
そして、上記式(4)では、前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveに対して今回の状態量偏差ΔXを反映させた(なまし演算により反映させた)状態量偏差平均値ΔXaveが求められる。つまり、前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveに対して、今回の状態量偏差ΔXが大きい場合、つまり、今回のアクセル開度の変化速度が過去の平均値よりも高い場合には、上記式(4)により算出される状態量偏差平均値ΔXaveは大きな値となる。一方、前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveに対して、今回の状態量偏差ΔXが小さい場合、つまり、今回のアクセル開度の変化速度が過去の平均値よりも低い場合には、上記式(4)により算出される状態量偏差平均値ΔXaveは小さな値となる。
【0115】
<状態量変化最大基準値ΔXb-aveの読み込み動作>
状態量変化最大基準値ΔXb-aveとは、エンジン1の過渡運転が実施された場合に基準となる過度運転の指標である。
【0116】
具体的には、例えば対象とする車両が欧州仕様であった場合には、この欧州のテストモード(ECモード)で車両を走行させた場合が基準過渡度となって状態量変化最大基準値ΔXb-aveが規定される。つまり、欧州で規定されているテストモードで車両を走行させた場合の実筒内状態量Xrを、上述した実筒内状態量Xrの検知動作と同様にして取得し、また、この欧州のテストモードでの状態量偏差ΔXを、上述した状態量偏差ΔXの算出動作と同様にして求め、これを状態量変化最大基準値ΔXb-aveとして設定する。これにより、欧州のテストモードで走行させた場合の運転者の運転過渡度(基準となる運転過渡度)が取得されることになる。
【0117】
また、この欧州のテストモードでの走行によって取得された状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対して、部品公差による過渡度の変化のし易さを考慮した安全率を乗算し、これにより求められた値を状態量変化最大基準値ΔXb-aveとして設定するようにしてもよい。つまり、各部品の慣性等に応じて過渡度の変化のしやすさは異なるため、これを考慮して状態量変化最大基準値ΔXb-aveを設定するものである。
【0118】
尚、テストモード(車両走行テストモード)としては、上述した欧州のテストモード(ECモード)に限らず、10・15モード、JC08モード、ディーゼル13モード、米国LA−4モード等の任意のもの(例えば車両が対象とする販売国で規定されているテストモード)が採用可能である。
【0119】
更に、上述したテストモード(規定されたテストモード)に限らず、標準的な運転者の運転特性を車両メーカー独自に規定しておき、その規定した運転特性に従って状態量変化最大基準値ΔXb-aveを取得するようにしてもよいし、多数の運転者の平均的な運転特性に従って状態量変化最大基準値ΔXb-aveを規定するようにしてもよい。
【0120】
<運転者過渡度Rtの算出動作>
上記状態量偏差平均値ΔXaveの算出動作で得られた状態量偏差平均値ΔXave、及び、上記状態量変化最大基準値ΔXb-aveの読み込み動作で得られた状態量変化最大基準値ΔXb-aveから運転者過渡度Rtを算出する。この運転者過渡度Rtは、基準となる運転過渡度(上記状態量変化最大基準値ΔXb-aveに相当)に対して実際の運転過渡度(状態量偏差平均値ΔXaveに相当)が高いか否かを求めるものである。言い換えると、規定されたテストモード(上述の場合には欧州のテストモード)での運転過渡度に対して、実際の運転過渡度が、それよりも高いか否かを判定し、この規定されたテストモードでの運転過渡度に対する実際の運転過渡度の乖離度合いを運転者過渡度Rtとして算出するものである。
【0121】
具体的には、以下の式(5)により運転者過渡度Rtが算出される。
【0122】
運転者過渡度Rt=
状態量偏差平均値ΔXave/状態量変化最大基準値ΔXb-ave …(5)
これにより、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtが算出されることになる。このため、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「1」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも大きな値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも小さな正の値」として算出されることになる。
【0123】
また、以下の式(6)により運転者過渡度Rtを算出するようにしてもよい。
【0124】
運転者過渡度Rt=
状態量偏差平均値ΔXave−状態量変化最大基準値ΔXb-ave …(6)
これにより、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差(偏差)として運転者過渡度Rtが算出されることになる。このため、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「0」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「正の値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「負の値」として算出されることになる。
【0125】
以上のようにして運転過渡度判定動作が行われることにより、運転者の運転特性(運転過渡度)に応じた値としての運転者過渡度Rtが算出される。
【0126】
(制御パラメータ補正動作)
次に、上述した運転過渡度判定動作によって算出された運転者過渡度Rtを利用した制御パラメータ補正動作について説明する。この制御パラメータ補正動作としては、筒内酸素濃度を補正する動作(以下、「筒内酸素濃度補正動作」と呼ぶ)と、筒内酸素濃度及び燃料着火時期の両方の制御パラメータを補正する動作(以下、「複数制御パラメータ補正動作」と呼ぶ)とが挙げられる。
【0127】
以下では、「筒内酸素濃度補正動作」を第1実施形態として、「複数制御パラメータ補正動作」を第2実施形態としてそれぞれ説明する。
【0128】
また、以下の各実施形態では、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合を主に説明する。つまり、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「1」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも大きな値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも小さな正の値」として算出される場合である。
【0129】
<第1実施形態>
先ず、運転者過渡度Rtを利用して筒内酸素濃度を補正する第1実施形態について説明する。この筒内酸素濃度補正動作の概略としては、上記運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的高い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的高いとして、筒内酸素濃度を高くするようにEGRバルブ81の開度を比較的小さく設定しておく。これにより、アクセル開度が小さい状態でのエンジン動作点からアクセル開度が大きい状態でのエンジン動作点への遷移時に、EGRバルブ81の開度制御(EGRバルブ81の開度を小さくする制御)に遅れが生じたとしても十分な筒内酸素濃度を確保可能とすることで失火等を招かないようにする。
【0130】
一方、上記運転者過渡度Rtが「1よりも小さな正の値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的低い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低いとして、この運転者過渡度Rtが小さいほど、筒内酸素濃度を低くするようにEGRバルブ81の開度を比較的大きく設定しておく。これにより、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)が図れるようにしている。
【0131】
図9は、本実施形態における筒内酸素濃度補正動作の手順を示すフローチャート図である。この筒内酸素濃度補正動作は、上述した運転過渡度判定動作によって運転者過渡度Rtが算出される度に実行される。
【0132】
先ず、ステップST11において、運転者過渡度Rtを読み込む。つまり、上記運転過渡度判定動作によって算出された運転者過渡度Rtを読み込む。
【0133】
その後、ステップST12に移り、車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達したか否かを判定する。これは、筒内酸素濃度の目標値が短期間のうちに変化してしまうことを防止するためである。この過渡度更新距離としては任意の値が設定可能であるが、上記テストモードで規定されている走行距離に比べて十分に長い距離(例えば1000km)として設定される。
【0134】
車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達しておらず、ステップST12でNO判定された場合には、一旦リターンされる。そして、車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達し、ステップST12でYES判定されると、ステップST13に移り、酸素濃度目標補正値の算出を行う。具体的には、図10に示す酸素濃度目標補正値マップに従って酸素濃度目標補正値ΔO2の算出を行う。この酸素濃度目標補正値マップは、運転者過渡度Rtと酸素濃度目標補正値ΔO2との関係を規定している。具体的に、運転者過渡度Rtが「1」以上である場合には、酸素濃度目標補正値ΔO2としては「0」に設定される。つまり、筒内酸素濃度を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「1」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど酸素濃度目標補正値ΔO2としては大きく設定される。この酸素濃度目標補正値ΔO2は、現在の筒内酸素濃度に対する酸素濃度の減算量を規定するものである。このため、酸素濃度目標補正値ΔO2が大きく設定されるに伴い、筒内酸素濃度の目標値としては小さく設定されることになる。言い換えると、EGRバルブ81の開度を大きくして排気ガスの還流量を増大させて、筒内酸素濃度を低く設定することになる。
【0135】
このようにして酸素濃度目標補正値マップより酸素濃度目標補正値ΔO2を求めた後、ステップST14に移り、筒内酸素濃度目標値を算出する。上述した如く、上記酸素濃度目標補正値ΔO2は、現在の筒内酸素濃度に対する酸素濃度の減算量を規定するものであるため、この筒内酸素濃度目標値の算出は以下の式(7)によって行われる。
【0136】
O2trg=O2trgb−ΔO2 …(7)
ここで、O2trgは更新された筒内酸素濃度目標値、O2trgbは更新前の筒内酸素濃度目標値、ΔO2は上記ステップST13で求められた酸素濃度目標補正値である。
【0137】
このようにして筒内酸素濃度目標値が算出された後、ステップST15に移り、この筒内酸素濃度目標値が得られるようにEGRバルブ81の開度を制御する。つまり、筒内酸素濃度目標値が大きいほどEGRバルブ81の開度を小さくするように制御する。
【0138】
以上のようにして、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習していき、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度)を制御するようになっている。
【0139】
従来では、運転者の運転特性に関わりなく、制御遅れが生じたとしても失火を招かないように制御量を調整していたため、運転特性が低い(例えばアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い)運転者が運転している場合には、必要以上に気筒内の酸素濃度が高く設定され、気筒内の酸素濃度をより低く設定しても、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがないにも拘わらず、また、この気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善が図れる状況にあるにも拘わらず、そのような効果を奏することができる酸素濃度には設定されていなかった。
【0140】
本実施形態では、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータ(筒内酸素濃度)を制御することにより、この制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定可能とすることで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0141】
また、NOx発生量の削減に伴い、上述した燃料添加弁26の使用頻度を削減して燃料消費量の削減を図ったり、この燃料添加弁26や添加燃料通路28等で成る燃料添加システムを廃止したりすることが可能である。また、周知の尿素添加システムを備えたものにあっては、その使用頻度を削減して尿素添加剤の消費量の削減を図ったり、そのシステムを廃止したりすることが可能である。
【0142】
尚、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合には、図11に示す酸素濃度目標補正値マップに従って酸素濃度目標補正値ΔO2の算出を行うことになる。この酸素濃度目標補正値マップも、運転者過渡度Rtと酸素濃度目標補正値ΔO2との関係を規定するものである。具体的に、運転者過渡度Rtが「0」以上である場合には、酸素濃度目標補正値ΔO2としては「0」に設定される。つまり、筒内酸素濃度を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「0」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど酸素濃度目標補正値ΔO2としては大きく設定される。この酸素濃度目標補正値ΔO2による筒内酸素濃度目標値の算出動作、及び、この筒内酸素濃度目標値によるEGRバルブ81の開度制御は上述したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0143】
このように、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合においても、上述した場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合)と同様の効果を奏することができる。
【0144】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、上述した第1実施形態の制御パラメータ補正動作(筒内酸素濃度の補正動作)に、他の制御パラメータ補正動作(燃料着火時期の補正動作)を加えたものである。
【0145】
本実施形態における制御パラメータ補正動作の概略としては、先ず、上述した第1実施形態の場合と同様にして、筒内酸素濃度目標値を求め、それに従って、EGRバルブ81の開度を制御する。それに加えて、上記運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合において、運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合)には、運転過渡度としては比較的高い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的高いとして、燃料着火時期を遅角側に移行させるようにインジェクタの燃料噴射を制御する。
【0146】
一方、上記運転者過渡度Rtが「1よりも小さな正の値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的低い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低いとして、燃料着火時期を進角側に移行させるようにインジェクタの燃料噴射を制御する。これにより、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがなく、且つ燃料着火時期を進角側に設定することで燃料消費率の改善が図れるようにしている。
【0147】
図12は、本実施形態における制御パラメータ補正動作の手順を示すフローチャート図である。この制御パラメータ補正動作は、上述した運転過渡度判定動作によって運転者過渡度Rtが算出される度に実行される。
【0148】
図12におけるステップST11〜ステップST15の動作は、上述した第1実施形態の図9におけるステップST11〜ステップST15の動作と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0149】
ステップST15においてEGRバルブ81の開度が制御された後、ステップST16に移り、着火時期目標補正値の算出を行う。具体的には、図13に示す着火時期目標補正値マップに従って着火時期目標補正値Δθの算出を行う。この着火時期目標補正値マップは、運転者過渡度Rtと着火時期目標補正値Δθとの関係を規定している。具体的に、運転者過渡度Rtが「1」以上である場合には、着火時期目標補正値Δθとしては「0」に設定される。つまり、着火時期を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「1」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど着火時期目標補正値Δθとしては大きく設定される。この着火時期目標補正値Δθは、現在の着火時期を進角側に補正する補正量を規定するものである。このため、着火時期目標補正値Δθが大きく設定されるに伴い、着火時期が進角側に設定されることになる。例えば、インジェクタ23の燃料噴射タイミングを進角側に補正することで着火時期を進角側に設定することになる。
【0150】
このようにして着火時期目標補正値マップより着火時期目標補正値Δθを求めた後、ステップST17に移り、着火時期目標値を算出する。上述した如く、上記着火時期目標補正値Δθは、現在の着火時期を進角側に補正する補正量を規定するものであるため、この着火時期目標値の算出は以下の式(8)によって行われる。
【0151】
θtrg=θtrgb−Δθ …(8)
ここで、θtrgは更新された着火時期目標値、θtrgbは更新前の着火時期目標値、Δθは上記ステップST17で求められた着火時期目標補正値である。
【0152】
このようにして着火時期目標値が算出された後、ステップST18に移り、この着火時期目標値が得られるようにインジェクタ23を制御する。
【0153】
この着火時期目標値を得るためのインジェクタ23の制御として、具体的には、燃料噴射タイミングや、燃料噴射量や、燃料噴射圧の制御が挙げられる。例えば、着火時期目標値を進角側に補正する場合には、燃料噴射タイミングを進角側に補正したり、燃料噴射量や燃料噴射圧を燃焼し易い燃焼場が形成されるように補正したりする。具体的には、パイロット噴射の噴射量を増量させて筒内予熱量を高めることでメイン噴射で噴射された燃料の着火時期を進角側に補正したり、燃焼場での空気過剰率が高い場合には燃料噴射圧を低く補正して空気過剰率を適正化(着火し易い燃焼場を形成)したりすることが挙げられる。
【0154】
以上のようにして、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習していき、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度及び着火時期)を制御するようになっている。
【0155】
このように本実施形態においても上記第1実施形態の場合と同様に、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータ(筒内酸素濃度及び着火時期)を制御することにより、この制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定可能とすることで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0156】
また、本実施形態おいても、燃料添加弁26の使用頻度を削減したり、この燃料添加弁26や添加燃料通路28等で成る燃料添加システムを廃止したりすることが可能である。また、周知の尿素添加システムを備えたものにあっても、その使用頻度を削減したり、そのシステムを廃止したりすることが可能である。
【0157】
尚、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合には、図14に示す着火時期目標補正値マップに従って着火時期目標補正値Δθの算出を行うことになる。この着火時期目標補正値マップも、運転者過渡度Rtと着火時期目標補正値Δθとの関係を規定するものである。具体的に、運転者過渡度Rtが「0」以上である場合には、着火時期目標補正値Δθとしては「0」に設定される。つまり、着火時期を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「0」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど着火時期目標補正値Δθとしては大きく設定される。この着火時期目標補正値Δθによる着火時期目標値の算出動作、及び、この着火時期目標値によるインジェクタ23の燃料噴射制御は上述したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0158】
このように、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合においても、上述した場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合)と同様の効果を奏することができる。
【0159】
図15は、第2実施形態におけるNOx排出量及び燃料消費率の変化を説明するための図である。この第2実施形態の制御の非実行時には、図中のIに示すようにNOx排出量としてはNOx排出量規制値の限界量となっている。
【0160】
この状態で、運転者の運転過渡度が低い場合(上記運転者過渡度Rtが小さい場合)には、先ず、筒内酸素濃度補正動作(図12におけるステップST13〜ステップST15の動作)を実行して筒内酸素濃度を補正(筒内酸素濃度を低くする側に補正)すると、NOx排出量は削減されることになる(図中の状態IIを参照)。この場合、筒内酸素濃度の不足による燃焼の若干の悪化によって燃料消費率は僅かに悪化する可能性がある。
【0161】
そして、着火時期補正動作(図12におけるステップST16〜ステップST18の動作)を実行して着火時期を補正(着火時期を進角側に補正)すると、燃焼の改善によって燃料消費率が改善されることになる(図中の状態IIIを参照)。この場合、燃焼の改善に伴って燃焼温度が上昇するためNOx排出量は僅かに悪化する可能性がある。尚、図15中における一点鎖線αは着火時期補正動作前における燃料消費率とNOx排出量との関係を示しており(上記筒内酸素濃度の補正では、燃料消費率及びNOx排出量はこのラインα上を移動する)、一点鎖線βは着火時期補正動作後における燃料消費率とNOx排出量との関係を示している。
【0162】
このように、本実施形態によれば、筒内酸素濃度の補正動作及び燃料着火時期の補正動作を行うことで、図15中の状態Iから状態IIIに移行させることができるため、NOx排出量の削減及び燃料消費率の改善を両立することができる。
【0163】
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
【0164】
また、上記第2実施形態では、制御パラメータ補正動作として、筒内酸素濃度の補正動作、及び、燃料着火時期の補正動作の両方を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、筒内酸素濃度の補正動作を行うことなく燃料着火時期の補正動作のみを行うようにしてもよい。但し、この場合、NOx排出量が僅かに増加する可能性があるため、この増加後のNOx排出量を排出量規制値以下に抑えるようにしておく必要がある。また、燃料着火時期の補正動作の実行後に筒内酸素濃度の補正動作を行うようにしてもよい。
【0165】
また、上記各実施形態における筒内酸素濃度の補正動作としてはEGRバルブ81の開度を制御するものであった。本発明はこれに限らず、過給機5の可変ノズルベーン機構54を制御することによって筒内酸素濃度の補正動作を行うようにしてもよい。具体的には、運転者過渡度Rtが比較的大きく、筒内酸素濃度を高める必要がある場合には、可変ノズルベーン機構54におけるノズルベーンの開度を小さくして過給効率を高めるようにする。逆に、運転者過渡度Rtが比較的小さく、筒内酸素濃度を低くすることが許容される場合には、可変ノズルベーン機構54におけるノズルベーンの開度を大きく過給効率を低くする。これにより、排気効率が上昇し燃料消費率の改善が図れることになる。
【0166】
更に、上記各実施形態では、制御遅れとしてEGRバルブ81の開度制御に遅れが生じる場合について説明した。本発明はこれに限らず、その他のアクチュエータの制御遅れに対しても対応が可能である。具体的に、上記EGRバルブ81の開度制御に遅れが生じている場合には、上記実筒内状態量Xrとしては主に筒内のガス組成の調整に遅れが生じることになり、このガス組成の調整の遅れが上記状態量偏差ΔXに反映されることになるのに対し、インジェクタ23の燃料噴射に遅れが生じている場合には、上記実筒内状態量Xrとしては主に筒内の温度の調整に遅れが生じることになり、この筒内の温度の調整の遅れが上記状態量偏差ΔXに反映されることになる。
【0167】
また、上記各実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジン1について説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
【0168】
加えて、上記各実施形態では、マニバータ77として、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75及びDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、自動車に搭載されるコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンにおいて、EGR率や燃料着火時期の制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0170】
1 エンジン(内燃機関)
23 インジェクタ
47 アクセル開度センサ
48 吸気圧センサ
49 吸気温センサ
4A 筒内圧センサ
81 EGRバルブ
100 ECU
Xb 筒内状態量基準値
Xr 実筒内状態量
ΔX 状態量偏差
ΔXave 状態量偏差平均値(状態量偏差実値)
ΔXb-ave 状態量変化最大基準値(状態量変化基準値)
Rt 運転者過渡度(運転者の運転過渡度)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに代表される内燃機関の制御装置に係る。特に、本発明は、運転者の運転特性(例えば、アクセルペダルの踏み込み速度の個人差等)に応じて内燃機関の制御パラメータを可変とする制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジンでは、排気エミッションの改善、高いエンジントルクの確保、燃料消費率の改善等を実現するために、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等に応じて、各種制御機器の制御パラメータが調整される。例えば、燃料噴射弁(以下、「インジェクタ」と呼ぶ場合もある)からの燃料噴射量や燃料噴射タイミングが調整される。また、NOx排出量を削減することを目的として排気ガスを吸気系に還流させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置に備えられたEGRバルブの開度を制御して排気還流率(EGR率)が調整される。
【0003】
また、エンジンの過渡運転に応じて制御パラメータを調整するものとして下記の特許文献1及び特許文献2がある。
【0004】
特許文献1では、アクセル開度の時間変化割合からエンジンの運転状態を判定し、エンジンが定常運転領域以外のとき(エンジンの過渡運転時)にはEGRガスの還流を停止(EGRカット)してドライバビリティの改善を図る一方、エンジンが定常運転領域のときには大量のEGRガスを吸気系に還流させて排気エミッションの改善を図るようにしている。
【0005】
また、特許文献2では、吸気系に備えられた過給機(スーパーチャージャ)を迂回するバイパス通路にバイパス弁を備えさせ、エンジンの過渡運転時であって急減速時には、バイパス弁の開作動を速めることによる吸気逆流により(過給機から吐出された空気の一部を、バイパス通路を逆流させて過給機上流に戻すことで)過給機の温度上昇を抑制するようにしている。
【0006】
ところで、一般に、車両を運転する運転者にあっては運転特性に個人差がある。例えば、車両の加速要求時等であって定常運転から過渡運転に移行する際におけるアクセルペダルの踏み込み速度(アクセルペダルの単位時間当たりの開方向への変化量)に個人差がある。つまり、同一加速要求時であっても、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い運転者や、踏み込み速度が比較的高い運転者が存在している。
【0007】
エンジンの制御システムとしては、どのような運転者が車両を運転する場合であっても気筒内での失火等の不具合を招くことがないように、所謂ロバスト性の高いシステムとして構築しておくことが必要である。つまり、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者の場合、アクセル開度が小さい状態でのエンジン動作点(要求出力が小さい動作点)からアクセル開度が大きい状態でのエンジン動作点(要求出力が大きい動作点)への遷移時に、制御遅れが生じたとしても駆動に支障を来さない(失火等を招かない)ように各種制御量を調整しておく必要がある。
【0008】
一例について説明すると、アクセル開度が比較的小さい状態での定常運転では、EGRガスの還流量が比較的多く(気筒内の酸素濃度が比較的少なく)、インジェクタからの燃料噴射量が比較的少なく、その噴射タイミングは比較的進角側(気筒内の酸素濃度が比較的少ないため、噴射タイミングを進角側に設定して燃焼の遅れを防止している)に設定されている。この状態から、高い踏み込み速度でアクセルペダルが踏み込まれて過渡運転に移行した際、本来であれば、上記EGRバルブの開度を急速に小さくしてEGRガスの還流量を少なくして気筒内の酸素濃度を高め、インジェクタからの燃料噴射量を急速に多く設定し、その噴射タイミングを急速に遅角側に移行させ、アクセル開度変化後の(アクセル開度が比較的大きい状態での)エンジン動作点に早期に移行させる制御を行うことが必要となる。ところが、EGRバルブの開度の変更に遅れが生じた場合には、気筒内の酸素濃度が低い状態のまま、インジェクタからの燃料噴射量が多くなり、且つその噴射タイミングが遅角側に変化することになる。その結果、気筒内の燃焼場にあっては、増量された燃料噴射量に対する適正な酸素量よりも実際の酸素量が不足し、また、酸素濃度(制御遅れによって低くなっている酸素濃度)に適した燃料噴射タイミングよりも実際の燃料噴射タイミングが遅角側に設定されており、これらに起因して、気筒内での燃焼が悪化して失火に至ってしまうことが懸念される状況となる。
【0009】
このような状況が生じる可能性があることを考慮し、実際のエンジンの制御システムとしては、例えば、定常運転時における排気還流量を予め少なめに設定しておき、上記過渡運転時における気筒内の酸素濃度不足を回避して、仮にEGRバルブの開度の変更に遅れが生じた場合であっても十分な酸素濃度を確保して失火を招かないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−158514号公報
【特許文献2】特開平6−193457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように制御遅れが生じたとしても失火を招かないように制御量(上記の場合には排気還流量)を調整した場合、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者が運転している場合には、失火の発生を防止することができて有効である。しかしながら、アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い運転者が運転している場合には、必要以上に気筒内の酸素濃度が高く設定されていることになる。つまり、気筒内の酸素濃度をより低く設定しても、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがないにも拘わらず、また、この気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善が図れる状況にあるにも拘わらず、そのような効果を奏することができる酸素濃度には設定されていない(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的高い運転者が運転する可能性があることを考慮して酸素濃度が予め高く設定されている)のが実状であった。
【0012】
本発明の発明者は、この点に鑑み、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータを変更すれば、様々な運転者の運転特性に対して制御パラメータを最適化できることを見出し本発明に至った。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運転者の運転特性に応じて内燃機関の制御パラメータを最適化することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
−発明の概要−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の概要は、運転者の運転過渡度を、内燃機関の定常運転時における筒内状態と、実際の筒内状態との比較によって求め、この求められた運転過渡度に応じて内燃機関の制御パラメータを補正するようにしている。つまり、運転者の運転過渡度が高い場合には、内燃機関のロバスト性を優先した制御パラメータの補正を行う一方、運転者の運転過渡度が低い場合には、内燃機関の排気エミッションや燃料消費率の改善を優先した制御パラメータの補正を行うようにしている。
【0015】
−解決手段−
具体的に、本発明は、内燃機関の過渡運転時、その運転過渡度に応じて制御パラメータを調整する内燃機関の制御装置を前提とする。この内燃機関の制御装置に対し、上記内燃機関の運転時における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を学習していき、この学習された運転者の運転過渡度に応じて上記制御パラメータを調整する構成としている。
【0016】
この特定事項により、内燃機関の運転状態が過渡である場合であって、その運転過渡度が比較的低い場合には、制御遅れは僅かであるため、状態量変化基準値と状態量偏差実値との差は小さく、これにより、運転者の運転過渡度は低いと認識される。例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が低い場合が挙げられる。この場合、筒内状態量の目標値に対して実際の筒内状態量を早期に近付けることが可能な状況であり、内燃機関は失火などの燃焼状態の悪化は生じにくいため、内燃機関のロバスト性を確保しながらも、制御パラメータとしては、排気エミッションや燃料消費率の改善を優先する側の補正が可能となる。
【0017】
一方、内燃機関の運転状態が過渡である場合であって、その運転過渡度が比較的高い場合には、制御遅れが大きいため、状態量変化基準値と状態量偏差実値との差は大きく、これにより、運転者の運転過渡度は高いと認識される。例えば、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が高い場合が挙げられる。この場合、筒内状態量の目標値に対して実際の筒内状態量は大きく乖離している状況であるので、失火などの燃焼状態の悪化が生じないように、内燃機関の制御パラメータとしては、ロバスト性を優先した補正が行われる。
【0018】
このようにして、運転者の運転過渡度に応じた制御パラメータの調整が行われることで、制御パラメータを最適化でき、運転者の運転過渡度が高い場合であっても失火を招くことがなく、また、運転者の運転過渡度が低い場合には排気エミッションの改善や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0019】
上記制御パラメータを筒内酸素濃度とした場合の具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記運転者の運転過渡度を、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出し、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての筒内酸素濃度を補正する。
【0020】
この場合、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を低くするよう補正する。
【0021】
これによれば、運転者の運転過渡度が低いほど、筒内酸素濃度は低く設定され、排気エミッションの改善(特に、NOx排出量の削減)が図れる方向への補正量が大きくなっていくことになる。これにより、運転者の運転過渡度に応じた最適な筒内酸素濃度の調整を実現することができる。
【0022】
一方、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値に維持する。
【0023】
これは、運転者の運転過渡度が高い場合に、その運転過渡度が高いほど筒内酸素濃度を高くしてしまうと、燃料消費率は改善されるものの、NOx排出量が規制値を超えてしまう可能性があるので、これを回避するためである。つまり、運転者の運転過渡度が高い場合には、NOx排出量を規制値未満に抑えながらも、可能な限り燃料消費率の改善が図れるようにしている。
【0024】
上記制御パラメータを燃料着火時期とした場合の具体的な構成としては以下のものが挙げられる。つまり、上記運転者の運転過渡度を、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出し、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての燃料着火時期を補正する。
【0025】
この場合、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての燃料着火時期を進角側に補正する。
【0026】
これによれば、運転者の運転過渡度が低いほど、燃料着火時期は進角側に設定され、燃料消費率の改善が図れる方向への補正量が大きくなっていくことになる。これにより、運転者の運転過渡度に応じた最適な燃料着火時期の調整を実現することができる。
【0027】
一方、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての燃料着火時期を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値、または、要求出力を満たす一定の値に維持する。
【0028】
これは、運転者の運転過渡度が高い場合に、その運転過渡度が高いほど燃料着火時期を遅角側に移行させてしまうと、着火遅れに伴う燃焼の悪化を招き、排気エミッションの悪化を招いたり、要求出力が得られなかったりしてしまう可能性があるので、これを回避するためである。
【0029】
上記状態量偏差実値としては、上記内燃機関の定常運転時において、排気エミッションや燃料消費率が要求値を満たすように各種制御パラメータを適合させた状態での筒内状態量と、実際の内燃機関の運転時における筒内状態量との偏差の累積値の平均値として算出している。
【0030】
また、上記筒内状態量としては、筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つである。
【0031】
内燃機関の運転状態が過渡であった場合には、制御遅れ分だけ、定常運転時における筒内状態量(筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つ)に対して実際の筒内状態量が乖離することになり(例えば、EGRバルブの開度制御に遅れが生じた場合には筒内酸素濃度に乖離が生じることになり)、この乖離量を検知することで、現在の内燃機関の運転状態が定常運転であるのか過渡運転であるのか、また、過渡運転である場合にはその過渡運転の程度(運転過渡度)を判別することができる。つまり、筒内状態量の比較によって状態量偏差実値を算出でき、単にアクセル開度の検出値等といった絶対量のみで運転過渡度を認識する場合に比べて、より高い精度で運転過渡度を認識することが可能となる。
【0032】
上記状態量変化基準値は、予め規定された車両走行テストモードで車両を走行させた場合における筒内状態量の変化に基づいて規定されたものである。
【0033】
一般に、規定された車両走行テストモード(例えば欧州におけるECモードや、日本におけるJC08モード等)は、平均的ユーザ(一般的な運転者)が車両を運転した場合の走行パターンでテストを行うものとなっている。つまり、平均的な過渡運転を模したものとなっている。このため、この車両走行テストモードで車両を走行させた場合の筒内状態量の変化に対して、実際の車両走行時の筒内状態量の変化を比較することで、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の差を求めることができ、これによって、一般的な走行状態(平均的な運転過渡度)に対して実際の走行状態(実際の運転過渡度)を求めることとなり、運転過渡度の判定基準を確立することができる。
【0034】
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つと、実際の内燃機関の運転状態において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つとの偏差の累積値の平均値として算出されたものである。
【0035】
筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成は、筒内で燃焼が開始されると、その燃焼の影響を受けて大きく変化してしまう。このため、燃焼の影響を受けていないガス状態での値として状態量偏差実値を求める。これによって、各種運転運転に対して共通した指標として状態量偏差実値を扱うことが可能となって、運転過渡度の学習精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明では、内燃機関の運転状態における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を認識し、この認識された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータを調整している。このため、制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ排気エミッションの改善や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成を示す図である。
【図2】ディーゼルエンジンの燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】燃焼室内での燃焼形態の概略を説明するための吸排気系及び燃焼室の模式図である。
【図5】燃料噴射時における燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。
【図6】燃料噴射時における燃焼室の平面図である。
【図7】運転過渡度判定動作の手順を示すフローチャート図である。
【図8】過渡運転時におけるアクセル開度の変化、目標酸素濃度の変化及び実酸素濃度の変化を示すタイミングチャート図であって、図8(a)はアクセル開度の変化速度が比較的低い場合を、図8(b)はアクセル開度の変化速度が比較的高い場合をそれぞれ示す図である。
【図9】第1実施形態における筒内酸素濃度補正動作の手順を示すフローチャート図である。
【図10】第1実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される酸素濃度目標補正値マップを示す図である。
【図11】第1実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される酸素濃度目標補正値マップを示す図である。
【図12】第2実施形態における制御パラメータ補正動作の手順を示すフローチャート図である。
【図13】第2実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される着火時期目標補正値マップを示す図である。
【図14】第2実施形態において、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として運転者過渡度Rtを求めた場合に採用される着火時期目標補正値マップを示す図である。
【図15】第2実施形態におけるNOx排出量及び燃料消費率の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
【0039】
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
【0041】
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
【0042】
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
【0043】
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
【0044】
また、上記燃料添加弁26は、ECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
【0045】
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
【0046】
また、この吸気系6には、燃焼室3内でのスワール流(水平方向の旋回流)を可変とするためのスワールコントロールバルブ(スワール速度可変機構)66が備えられている(図2参照)。具体的に、上記吸気ポート15aとしては、ノーマルポート及びスワールポートの2系統が各気筒毎に備えられており、そのうち図2に示されているノーマルポート15aに、開度調整可能なバタフライバルブで成るスワールコントロールバルブ66が配置されている。このスワールコントロールバルブ66には図示しないアクチュエータが連繋されており、このアクチュエータの駆動によって調整されるスワールコントロールバルブ66の開度に応じてノーマルポート15aを通過する空気の流量が変更できるようになっている。そして、スワールコントロールバルブ66の開度が大きいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が増加する。このため、スワールポート(図2では図示省略)により発生したスワールは相対的に弱まり、気筒内は低スワール(スワール速度が低い状態)となる。逆に、スワールコントロールバルブ66の開度が小さいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が減少する。このため、スワールポートにより発生したスワールは相対的に強められ、気筒内は高スワール(スワール速度が高い状態)となる。
【0047】
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された上記排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
【0048】
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
【0049】
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
【0050】
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
【0051】
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
【0052】
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
【0053】
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
【0054】
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
【0055】
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する上記吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
【0056】
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
【0057】
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
【0058】
このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
【0059】
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
【0060】
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
【0061】
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
【0062】
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0063】
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
【0064】
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40、及び、筒内圧力を検出する筒内圧センサ4Aなどが接続されている。
【0065】
一方、出力インターフェース106には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、スワールコントロールバルブ66、EGRバルブ81、及び、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構(可変ノズルベーンの開度を調整するアクチュエータ)54も接続されている。
【0066】
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROM102に記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
【0067】
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
【0068】
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度(例えば1000K)に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
【0069】
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。また、上記パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われている場合には、メイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
【0070】
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的には、供給された燃料の燃焼エネルギがエンジン1のトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射は実行される。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
【0071】
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
【0072】
更に、ECU100は、上記スワールコントロールバルブ66の開度制御を実行する。このスワールコントロールバルブ66の開度制御としては、燃焼室3内に噴射された燃料の噴霧の単位時間当たり(または単位クランク回転角度当たり)における気筒内の周方向の移動量を変更するように行われる。
【0073】
−燃料噴射圧−
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、及び、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される。尚、この目標レール圧は例えば上記ROM102に記憶された燃圧設定マップに従って設定される。つまり、この燃圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)が制御され、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になる。
【0074】
尚、本実施形態では、エンジン負荷等に応じて燃料圧力が30MPa〜200MPaの間で調整されるようになっている。
【0075】
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
【0076】
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度及びアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
【0077】
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1における燃焼室3内での燃焼形態の概略について説明する。
【0078】
図4は、エンジン1の一つの気筒に対して吸気マニホールド63及び吸気ポート15aを経てガス(空気)が吸入され、燃焼室3内へインジェクタ23からの燃料噴射によって燃焼が行われると共に、その燃焼後のガスが排気ポート71を経て排気マニホールド72へ排出される様子を模式的に示した図である。
【0079】
この図4に示すように、気筒内に吸入されるガスには、吸気管64からスロットルバルブ62を介して吸入された新気と、上記EGRバルブ81が開弁された場合にEGR通路8から吸入されるEGRガスとが含まれる。吸入される新気量(質量)と吸入されるEGRガス量(質量)との和に対するEGRガス量の割合(即ち、EGR率)は、運転状態に応じて上記ECU100により適宜制御されるEGRバルブ81の開度に応じて変化する。
【0080】
このようにして気筒内に吸入された新気及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気バルブ16を介し、ピストン13(図4では図示省略)の下降に伴って気筒内に吸入されて筒内ガスとなる。この筒内ガスは、エンジン1の運転状態に応じて決定されるバルブ閉弁時にて吸気バルブ16が閉弁することにより筒内に密閉され(筒内ガスの閉じ込め状態)、その後の圧縮行程においてピストン13の上昇に伴って圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、上述したECU100による噴射量制御によって所定時間だけインジェクタ23が開弁されることで燃料を燃焼室3内に直接噴射する。具体的には、ピストン13が上死点に達する前に上記パイロット噴射が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て、ピストン13が上死点近傍に達した時点で上記メイン噴射が実行されることになる。
【0081】
図5は、この燃料噴射時における燃焼室3及びその周辺部を示す断面図であり、図6は、この燃料噴射時における燃焼室3の平面図(ピストン13の上面を示す図)である。図6に示すように、本実施形態に係るエンジン1のインジェクタ23には、周方向に亘って等間隔に8個の噴孔が設けられており、これら噴孔からそれぞれ均等に燃料が噴射されるようになっている。尚、この噴孔数としては8個に限るものではない。
【0082】
そして、この各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は略円錐状に拡散していく。また、各噴孔からの燃料噴射(上記パイロット噴射やメイン噴射)は、ピストン13が圧縮上死点近傍に達した時点で行われるため、図5に示すように、各燃料の噴霧A,A,…は上記キャビティ13b内で拡散していくことになる。
【0083】
このように、インジェクタ23に形成されている各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は、時間の経過に伴って筒内ガスと混ざり合いながら混合気となって筒内においてそれぞれ円錐状に拡散していき、自己着火によって燃焼する。つまり、この各燃料の噴霧A,A,…は、それぞれ筒内ガスと共に略円錐状の燃焼場を形成し、その燃焼場(本実施形態では8箇所の燃焼場)でそれぞれ燃焼が開始されることになる。
【0084】
そして、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
【0085】
そして、燃焼後の筒内ガスは、排気行程において開弁する排気バルブ17を介し、ピストン13の上昇に伴って排気ポート71及び排気マニホールド72へ排出されて排ガスとなる。
【0086】
−運転過渡度学習制御−
次に、本実施形態の特徴とする制御である運転過渡度学習制御について説明する。この運転過渡度学習制御は、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習し、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度や燃料着火時期など)を制御するものである。
【0087】
この運転過渡度学習制御では、車両を運転している運転者の運転特性(運転過渡度)を判定するための「運転過渡度判定動作」と、その判定された運転過渡度に応じてエンジン1の制御パラメータの制御値を補正する「制御パラメータ補正動作」とが行われる。以下、それぞれの動作について説明する。
【0088】
(運転過渡度判定動作)
先ず、運転過渡度判定動作について説明する。この運転過渡度判定動作の手順としては、図7に示すように、「筒内状態量基準値Xb」の読み込み動作(ステップST1)、「実筒内状態量Xr」の検知動作(ステップST2)、「状態量偏差ΔX」の算出動作(ステップST3)、「状態量偏差平均値ΔXave(本発明でいう状態量偏差実値)」の算出動作(ステップST4)、「状態量変化最大基準値ΔXb-ave(本発明でいう状態量変化基準値)」の読み込み動作(ステップST5)、「運転者過渡度Rt(本発明でいう運転者の運転過渡度)」の算出動作(ステップST6)が順に行われる。この運転過渡度判定動作はエンジン1の始動後、所定時間間隔毎または所定クランク回転角度毎に実行される。以下、各動作について順に説明する。
【0089】
<筒内状態量基準値Xbの読み込み動作>
上記筒内状態量基準値Xbは、エンジン1の定常運転時における筒内状態量としての筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)の適合値情報である。これら情報は、シャシダイナモメータやエンジンベンチ試験器等の車両試験器による実際のエンジン運転状態において、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた各種の定常運転(エンジン回転数及びエンジン負荷を略一定に維持した状態での運転)を実施し、これら定常運転でのエンジン1の各種制御パラメータ(燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧力、EGR率など)を適合させた際に取得される筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報である。また、コンピュータシミュレーションによって各定常運転での適合状態における筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報であってもよい。
【0090】
より具体的には、排気エミッションや燃料消費率が共に要求値を満たすようにエンジン1の各種制御パラメータを適合させた状態で定常運転を実施し、その運転状態において、ピストン13が圧縮上死点(TDC;Top Dead Center)に達した時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)を計測または推定することによって、これら値に基づいた筒内状態量基準値Xbが取得されることになる。この筒内状態量基準値Xbとしては、上記筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別の筒内状態量基準値Xbを求めるようにしてもよいし、これら筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報のうちの2つ又は全てから所定の演算式や予め作成されたマップ等を用いて定常運転毎に一つの筒内状態量基準値Xbを求めるようにしてもよい。尚、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別の筒内状態量基準値Xbを求める場合には、後述する各値の算出動作及び読み込み動作においても筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成のそれぞれについて個別に行われることになる。
【0091】
また、これら情報(筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成)を計測または推定するタイミングとしては、上記ピストン13が圧縮上死点に達した時点に限らず、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点や吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点(筒内ガスが閉じ込め状態となった時点)であってもよい。これら筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を計測または推定する手法としては従来から周知の手法が採用可能である。例えば、各種センサからの検知信号に基づいて計測したり、または、検出された吸入空気量、制御指示値に応じた燃料噴射量、エンジン1の諸元である圧縮比等から推定される。
【0092】
これら計測または推定される筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成は、筒内で燃焼が開始されると、その燃焼の影響を受けて大きく変化してしまうため、各種の定常運転に対して共通した指標として筒内状態量基準値Xbを扱うためには、燃焼の影響を受けていないガス状態での値としてこの筒内状態量基準値Xbを求めることが好ましい。このため、この筒内状態量基準値Xbは、未だ燃料の燃焼が開始されていない時点、または、燃料の燃焼がなされないと仮定して取得するものとする。例えばピストン13が圧縮上死点に達した時点を情報の取得タイミングとする場合には、このピストン13が圧縮上死点に達した時点で燃料の燃焼が開始されていない状態で各情報を取得するか、または、ピストン13が圧縮上死点に達した時点で燃料の燃焼(例えばパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼)が開始されていないと仮定した状態(吸入空気量、燃料噴射量、圧縮比等から、ピストン13が圧縮上死点に達した時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を推定すること)で各情報を取得することになる。また、インジェクタ23からの燃料噴射開始時期を情報の取得タイミングとする場合には、同一燃焼行程において先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。例えばメイン噴射に先立ってパイロット噴射が実行される場合には、このパイロット噴射の開始時点がこの情報の取得タイミングとして設定され、パイロット噴射が実行されない場合には、メイン噴射の開始時点がこの情報の取得タイミングとして設定されることになる。また、パイロット噴射が実行される場合であっても、このパイロット噴射による燃焼がされないと仮定してメイン噴射の開始時点での筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を推定するようにしてもよい。
【0093】
そして、これら情報(筒内状態量基準値Xbである筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の情報)は予め上記ROM102に記憶されている。従って、この筒内状態量基準値Xbの読み込み動作では、エンジン1の運転時において、現在の運転状態(要求回転数及びエンジン負荷により決定される運転状態)に合致した定常運転時の情報を上記ROM102から読み出すことになる。つまり、現在の運転状態(要求回転数及びエンジン負荷により決定される運転状態)が定常運転状態であると仮定した場合の情報が上記ROM102から読み出されることになる。具体的には、現在のエンジン回転数を上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出すると共に、現在のアクセル開度(エンジン負荷に相当)を上記アクセル開度センサ47から検出し、これらエンジン回転数及びアクセル開度での定常運転時における筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成が上記筒内状態量基準値XbとしてROM102から読み出されることになる。
【0094】
尚、上記筒内状態量基準値Xbとしては、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の全ての情報に限らず、これら情報のうち一つまたは二つであってもよい。
【0095】
<実筒内状態量Xrの検知動作>
上記実筒内状態量Xrは、実際のエンジン1の運転状態における筒内状態量としての筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成(酸素濃度)の情報である。これら情報は、各種センサからの検知信号から検知されたり、または、吸入空気量、燃料噴射量、圧縮比等から推定される。例えば、筒内の圧力は、上記筒内圧センサ4Aの検知信号や、吸気圧センサ48の検知信号及び圧縮比等に基づいて算出される。また、筒内の温度は、上記吸気温センサ49の検知信号及び圧縮比等に基づいて算出される。更に、筒内のガス組成は、エアフローメータ43により検出される吸入空気量やEGRマップに従って設定される現在のEGRバルブ81の開度に基づいて算出される。また、特開2009−30453号公報に開示されているような酸素濃度推定手法を用いるようにしてもよい。また、その他の周知の手法によって筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成を計測または推定するようにしてもよい。
【0096】
この情報の取得タイミングとしては、上述した筒内状態量基準値Xbの取得タイミングと一致している。つまり、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、ピストン13が圧縮上死点に達した時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、ピストン13が圧縮上死点に達した時点とする。また、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、インジェクタ23から燃料噴射が開始された時点とする。更に、筒内状態量基準値Xbの取得タイミングが、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点であった場合には、実筒内状態量Xrの取得タイミングも、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点とする。
【0097】
また、その他の情報の取得タイミングとしては、メイン噴射で噴射された燃料の着火時期であってもよい。この場合も、同一燃焼行程において、このメイン噴射で噴射された燃料の着火時期よりも先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。また、メイン噴射を多段噴射とする場合には、最も進角側の第1メイン噴射で噴射された燃料の着火時期となる。この場合も、同一燃焼行程において、この第1メイン噴射で噴射された燃料の着火時期よりも先行する燃料噴射または燃料の燃焼がなされていないことが条件となる。このように、先行する燃料の燃焼等の影響を排除することで、筒内ガス状態として純粋に過渡を判断することが可能となる。
【0098】
尚、上記筒内圧センサ4Aの設置が困難な場合や十分な検出精度が得られない可能性がある場合には、吸気バルブ16が開弁状態から閉弁状態となった時点での吸気温度や吸気圧力を用い、圧縮行程時のポリトロープ指数の変化など、冷却損失を考慮して各種情報を取得するようにしてもよい。
【0099】
また、上述した筒内状態量基準値Xbの場合と同様に、実筒内状態量Xrとしては、筒内の圧力、筒内の温度、筒内のガス組成の全ての情報に限らず、これら情報のうち一つまたは二つであってもよい。
【0100】
<状態量偏差ΔXの算出動作>
上記筒内状態量基準値Xbの読み込み動作により取得された筒内状態量基準値Xb、及び、上記実筒内状態量Xrの検知動作により取得された実筒内状態量Xrから状態量偏差ΔXを算出する。この状態量偏差ΔXの算出動作は、適合された定常運転での筒内状態量に対する現在のエンジン1の運転状態における筒内状態量の偏差(乖離量)を求めるものである。つまり、過渡運転である場合には、制御遅れ分だけ上記定常運転での筒内状態量に対して実際の筒内状態量が乖離しており、その乖離量は運転過渡度が高いほど大きくなるため、それを検知することで、現在のエンジン1の運転状態が定常運転であるのか過渡運転であるのか、また、過渡運転である場合にはその運転過渡度の大きさを判別し、その指数として状態量偏差ΔXを求めるようにしている。
【0101】
具体的には、以下の式(1)により状態量偏差ΔXが算出される。
【0102】
状態量偏差ΔX=筒内状態量基準値Xb−実筒内状態量Xr …(1)
つまり、現在のエンジン1の運転状態が定常運転であった場合には、制御パラメータの遅れ等は生じていないため、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた実筒内状態量Xrは、筒内状態量基準値Xbに略等しくなり、状態量偏差ΔXは「0」または比較的小さな値となる。
【0103】
これに対し、現在のエンジン1の運転状態が過渡運転であった場合には、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量基準値Xbに対して、実際の筒内状態を現す値である実筒内状態量Xrとしては小さな値となる(制御遅れ(例えばEGRバルブ81の開度変更の遅れ等)に相当する分だけ小さな値となる)。そして、運転者の運転過渡度が大きいほど要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量(目標となる筒内状態量)は、過渡運転開始前の筒内状態量に対して乖離が大きいため、制御遅れが生じている場合には、運転者の運転過渡度が大きいほど、要求エンジン回転数及びエンジン負荷に応じた筒内状態量(目標となる筒内状態量)に対する実筒内状態量Xrの偏差は大きくなる。その結果、運転者の運転過渡度が比較的小さい場合には、上記状態量偏差ΔXも比較的小さい値として算出される一方、運転者の運転過渡度が比較的大きい場合には、上記状態量偏差ΔXも比較的大きな値として算出されることになる。
【0104】
図8は、エンジン1の過渡運転時におけるアクセル開度の変化、筒内状態量基準値Xbに相当する目標酸素濃度の変化、及び、実筒内状態量Xrに相当する実酸素濃度の変化を示すタイミングチャート図であって、図8(a)はアクセル開度の変化速度が比較的低い場合を、図8(b)はアクセル開度の変化速度が比較的高い場合をそれぞれ示している。尚、図8(a)では、タイミングt1でアクセルペダルの踏み込みが開始され、このタイミングt1からの経過時間が比較的長いタイミングt3で所定のアクセル開度(過渡運転から定常運転に移行した後のアクセル開度)に達している。これに対し、図8(b)では、タイミングt1でアクセルペダルの踏み込みが開始され、このタイミングt1からの経過時間が比較的短いタイミングt2で所定のアクセル開度(過渡運転から定常運転に移行した後のアクセル開度)に達している。尚、酸素濃度の変化において、図中の実線が目標酸素濃度の変化を示し、一点鎖線が実酸素濃度の変化を示している。
【0105】
図8(a)に示すようにアクセル開度の変化速度が比較的低い場合には、目標酸素濃度の変化速度も低く、EGRバルブ81の開度変更に遅れが生じたとしても、このEGRバルブ81の開度に応じて変更される気筒内酸素濃度(実酸素濃度)と目標酸素濃度との乖離は比較的小さい。例えば図中のタイミングt2では、実酸素濃度と目標酸素濃度との偏差は図中のΔX1となっており、このΔX1が、このアクセル開度の変化速度が比較的低い場合における上記状態量偏差ΔXに相当する。
【0106】
これに対し、図8(b)に示すようにアクセル開度の変化速度が比較的高い場合には、目標酸素濃度の変化速度も高く、EGRバルブ81の開度変更に遅れが生じた場合には、このEGRバルブ81の開度に応じて変更される気筒内酸素濃度(実酸素濃度)と目標酸素濃度との乖離は比較的大きくなる。例えば図中のタイミングt2では、上述した如くアクセル開度の変化速度が比較的低い場合には図中のΔX1となっており比較的小さい値であったものの、アクセル開度の変化速度が高い場合には図中のΔX2となっており比較的大きな値となっている。この図中のΔX2が、このアクセル開度の変化速度が比較的高い場合における上記状態量偏差ΔXに相当する。このように、アクセル開度の変化速度が高いほど(運転過渡度が高いほど)上記状態量偏差ΔXとしては大きな値として算出されることになる。言い換えると、この状態量偏差ΔXが運転者のアクセル操作の過渡度を現す指標として算出されている。
【0107】
図8では、エンジン1の過渡運転時におけるアクセル開度の変化、目標酸素濃度の変化、及び、実酸素濃度の変化について説明したが、エンジン1の過渡運転時に筒内圧力の制御遅れが生じる場合や、筒内温度の制御遅れが生じる場合においても上述と同様に、上記状態量偏差ΔXに相当する値がアクセル開度の変化速度に応じて異なることになる。
【0108】
また、この状態量偏差ΔXとしては、時間的な平均を考慮して以下の式(2)により算出するようにしてもよい。
【0109】
状態量偏差ΔX=(筒内状態量基準値Xb−実筒内状態量Xr)/Δt …(2)
この場合、Δt=1/{(Ne/60)×2π} …(3)
Neはエンジン回転数(rpm)である。
【0110】
この場合にも、アクセル開度の変化速度が高いほど(運転過渡度が高いほど)上記状態量偏差ΔXとしては大きな値として算出されることになるため、この状態量偏差ΔXが運転者のアクセル操作の過渡度を現す指標として算出されることになる。
【0111】
<状態量偏差平均値ΔXaveの算出動作>
上述の如く状態量偏差ΔXが求められた後、過去に算出された状態量偏差ΔXの平均値(状態量偏差平均値ΔXaveの前回値)と、今回の状態量偏差ΔXとを用いて、今回の状態量偏差平均値ΔXaveが算出される。
【0112】
具体的には、以下の式(4)により状態量偏差平均値ΔXaveが算出される。
【0113】
状態量偏差平均値ΔXave=(状態量偏差平均値ΔXave(前回値)+状態量偏差ΔX(今回値))/2 …(4)
ここで、上記前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveは、図7のルーチンにおける前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveである。この値は、前回のルーチンまでの期間中における運転者の運転過渡度の指標を現すものとなっている。尚、この前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveは、車両の過去の走行の全期間における状態量偏差ΔXの平均値であってもよいし、現在から過去に遡った所定走行距離(例えば1万km)の走行期間における状態量偏差ΔXの平均値であってもよい。
【0114】
そして、上記式(4)では、前回値としての状態量偏差平均値ΔXaveに対して今回の状態量偏差ΔXを反映させた(なまし演算により反映させた)状態量偏差平均値ΔXaveが求められる。つまり、前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveに対して、今回の状態量偏差ΔXが大きい場合、つまり、今回のアクセル開度の変化速度が過去の平均値よりも高い場合には、上記式(4)により算出される状態量偏差平均値ΔXaveは大きな値となる。一方、前回までのルーチンにおいて算出された状態量偏差平均値ΔXaveに対して、今回の状態量偏差ΔXが小さい場合、つまり、今回のアクセル開度の変化速度が過去の平均値よりも低い場合には、上記式(4)により算出される状態量偏差平均値ΔXaveは小さな値となる。
【0115】
<状態量変化最大基準値ΔXb-aveの読み込み動作>
状態量変化最大基準値ΔXb-aveとは、エンジン1の過渡運転が実施された場合に基準となる過度運転の指標である。
【0116】
具体的には、例えば対象とする車両が欧州仕様であった場合には、この欧州のテストモード(ECモード)で車両を走行させた場合が基準過渡度となって状態量変化最大基準値ΔXb-aveが規定される。つまり、欧州で規定されているテストモードで車両を走行させた場合の実筒内状態量Xrを、上述した実筒内状態量Xrの検知動作と同様にして取得し、また、この欧州のテストモードでの状態量偏差ΔXを、上述した状態量偏差ΔXの算出動作と同様にして求め、これを状態量変化最大基準値ΔXb-aveとして設定する。これにより、欧州のテストモードで走行させた場合の運転者の運転過渡度(基準となる運転過渡度)が取得されることになる。
【0117】
また、この欧州のテストモードでの走行によって取得された状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対して、部品公差による過渡度の変化のし易さを考慮した安全率を乗算し、これにより求められた値を状態量変化最大基準値ΔXb-aveとして設定するようにしてもよい。つまり、各部品の慣性等に応じて過渡度の変化のしやすさは異なるため、これを考慮して状態量変化最大基準値ΔXb-aveを設定するものである。
【0118】
尚、テストモード(車両走行テストモード)としては、上述した欧州のテストモード(ECモード)に限らず、10・15モード、JC08モード、ディーゼル13モード、米国LA−4モード等の任意のもの(例えば車両が対象とする販売国で規定されているテストモード)が採用可能である。
【0119】
更に、上述したテストモード(規定されたテストモード)に限らず、標準的な運転者の運転特性を車両メーカー独自に規定しておき、その規定した運転特性に従って状態量変化最大基準値ΔXb-aveを取得するようにしてもよいし、多数の運転者の平均的な運転特性に従って状態量変化最大基準値ΔXb-aveを規定するようにしてもよい。
【0120】
<運転者過渡度Rtの算出動作>
上記状態量偏差平均値ΔXaveの算出動作で得られた状態量偏差平均値ΔXave、及び、上記状態量変化最大基準値ΔXb-aveの読み込み動作で得られた状態量変化最大基準値ΔXb-aveから運転者過渡度Rtを算出する。この運転者過渡度Rtは、基準となる運転過渡度(上記状態量変化最大基準値ΔXb-aveに相当)に対して実際の運転過渡度(状態量偏差平均値ΔXaveに相当)が高いか否かを求めるものである。言い換えると、規定されたテストモード(上述の場合には欧州のテストモード)での運転過渡度に対して、実際の運転過渡度が、それよりも高いか否かを判定し、この規定されたテストモードでの運転過渡度に対する実際の運転過渡度の乖離度合いを運転者過渡度Rtとして算出するものである。
【0121】
具体的には、以下の式(5)により運転者過渡度Rtが算出される。
【0122】
運転者過渡度Rt=
状態量偏差平均値ΔXave/状態量変化最大基準値ΔXb-ave …(5)
これにより、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として運転者過渡度Rtが算出されることになる。このため、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「1」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも大きな値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも小さな正の値」として算出されることになる。
【0123】
また、以下の式(6)により運転者過渡度Rtを算出するようにしてもよい。
【0124】
運転者過渡度Rt=
状態量偏差平均値ΔXave−状態量変化最大基準値ΔXb-ave …(6)
これにより、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差(偏差)として運転者過渡度Rtが算出されることになる。このため、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「0」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「正の値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「負の値」として算出されることになる。
【0125】
以上のようにして運転過渡度判定動作が行われることにより、運転者の運転特性(運転過渡度)に応じた値としての運転者過渡度Rtが算出される。
【0126】
(制御パラメータ補正動作)
次に、上述した運転過渡度判定動作によって算出された運転者過渡度Rtを利用した制御パラメータ補正動作について説明する。この制御パラメータ補正動作としては、筒内酸素濃度を補正する動作(以下、「筒内酸素濃度補正動作」と呼ぶ)と、筒内酸素濃度及び燃料着火時期の両方の制御パラメータを補正する動作(以下、「複数制御パラメータ補正動作」と呼ぶ)とが挙げられる。
【0127】
以下では、「筒内酸素濃度補正動作」を第1実施形態として、「複数制御パラメータ補正動作」を第2実施形態としてそれぞれ説明する。
【0128】
また、以下の各実施形態では、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合を主に説明する。つまり、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveに一致している場合には、運転者過渡度Rtは「1」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも大きい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも大きな値」として算出され、状態量偏差平均値ΔXaveが状態量変化最大基準値ΔXb-aveよりも小さい場合には、運転者過渡度Rtは「1よりも小さな正の値」として算出される場合である。
【0129】
<第1実施形態>
先ず、運転者過渡度Rtを利用して筒内酸素濃度を補正する第1実施形態について説明する。この筒内酸素濃度補正動作の概略としては、上記運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的高い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的高いとして、筒内酸素濃度を高くするようにEGRバルブ81の開度を比較的小さく設定しておく。これにより、アクセル開度が小さい状態でのエンジン動作点からアクセル開度が大きい状態でのエンジン動作点への遷移時に、EGRバルブ81の開度制御(EGRバルブ81の開度を小さくする制御)に遅れが生じたとしても十分な筒内酸素濃度を確保可能とすることで失火等を招かないようにする。
【0130】
一方、上記運転者過渡度Rtが「1よりも小さな正の値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的低い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低いとして、この運転者過渡度Rtが小さいほど、筒内酸素濃度を低くするようにEGRバルブ81の開度を比較的大きく設定しておく。これにより、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)が図れるようにしている。
【0131】
図9は、本実施形態における筒内酸素濃度補正動作の手順を示すフローチャート図である。この筒内酸素濃度補正動作は、上述した運転過渡度判定動作によって運転者過渡度Rtが算出される度に実行される。
【0132】
先ず、ステップST11において、運転者過渡度Rtを読み込む。つまり、上記運転過渡度判定動作によって算出された運転者過渡度Rtを読み込む。
【0133】
その後、ステップST12に移り、車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達したか否かを判定する。これは、筒内酸素濃度の目標値が短期間のうちに変化してしまうことを防止するためである。この過渡度更新距離としては任意の値が設定可能であるが、上記テストモードで規定されている走行距離に比べて十分に長い距離(例えば1000km)として設定される。
【0134】
車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達しておらず、ステップST12でNO判定された場合には、一旦リターンされる。そして、車両の走行距離が「過渡度更新距離」に到達し、ステップST12でYES判定されると、ステップST13に移り、酸素濃度目標補正値の算出を行う。具体的には、図10に示す酸素濃度目標補正値マップに従って酸素濃度目標補正値ΔO2の算出を行う。この酸素濃度目標補正値マップは、運転者過渡度Rtと酸素濃度目標補正値ΔO2との関係を規定している。具体的に、運転者過渡度Rtが「1」以上である場合には、酸素濃度目標補正値ΔO2としては「0」に設定される。つまり、筒内酸素濃度を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「1」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど酸素濃度目標補正値ΔO2としては大きく設定される。この酸素濃度目標補正値ΔO2は、現在の筒内酸素濃度に対する酸素濃度の減算量を規定するものである。このため、酸素濃度目標補正値ΔO2が大きく設定されるに伴い、筒内酸素濃度の目標値としては小さく設定されることになる。言い換えると、EGRバルブ81の開度を大きくして排気ガスの還流量を増大させて、筒内酸素濃度を低く設定することになる。
【0135】
このようにして酸素濃度目標補正値マップより酸素濃度目標補正値ΔO2を求めた後、ステップST14に移り、筒内酸素濃度目標値を算出する。上述した如く、上記酸素濃度目標補正値ΔO2は、現在の筒内酸素濃度に対する酸素濃度の減算量を規定するものであるため、この筒内酸素濃度目標値の算出は以下の式(7)によって行われる。
【0136】
O2trg=O2trgb−ΔO2 …(7)
ここで、O2trgは更新された筒内酸素濃度目標値、O2trgbは更新前の筒内酸素濃度目標値、ΔO2は上記ステップST13で求められた酸素濃度目標補正値である。
【0137】
このようにして筒内酸素濃度目標値が算出された後、ステップST15に移り、この筒内酸素濃度目標値が得られるようにEGRバルブ81の開度を制御する。つまり、筒内酸素濃度目標値が大きいほどEGRバルブ81の開度を小さくするように制御する。
【0138】
以上のようにして、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習していき、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度)を制御するようになっている。
【0139】
従来では、運転者の運転特性に関わりなく、制御遅れが生じたとしても失火を招かないように制御量を調整していたため、運転特性が低い(例えばアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い)運転者が運転している場合には、必要以上に気筒内の酸素濃度が高く設定され、気筒内の酸素濃度をより低く設定しても、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがないにも拘わらず、また、この気筒内の酸素濃度をより低く設定することで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善が図れる状況にあるにも拘わらず、そのような効果を奏することができる酸素濃度には設定されていなかった。
【0140】
本実施形態では、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータ(筒内酸素濃度)を制御することにより、この制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定可能とすることで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0141】
また、NOx発生量の削減に伴い、上述した燃料添加弁26の使用頻度を削減して燃料消費量の削減を図ったり、この燃料添加弁26や添加燃料通路28等で成る燃料添加システムを廃止したりすることが可能である。また、周知の尿素添加システムを備えたものにあっては、その使用頻度を削減して尿素添加剤の消費量の削減を図ったり、そのシステムを廃止したりすることが可能である。
【0142】
尚、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合には、図11に示す酸素濃度目標補正値マップに従って酸素濃度目標補正値ΔO2の算出を行うことになる。この酸素濃度目標補正値マップも、運転者過渡度Rtと酸素濃度目標補正値ΔO2との関係を規定するものである。具体的に、運転者過渡度Rtが「0」以上である場合には、酸素濃度目標補正値ΔO2としては「0」に設定される。つまり、筒内酸素濃度を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「0」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど酸素濃度目標補正値ΔO2としては大きく設定される。この酸素濃度目標補正値ΔO2による筒内酸素濃度目標値の算出動作、及び、この筒内酸素濃度目標値によるEGRバルブ81の開度制御は上述したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0143】
このように、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合においても、上述した場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合)と同様の効果を奏することができる。
【0144】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、上述した第1実施形態の制御パラメータ補正動作(筒内酸素濃度の補正動作)に、他の制御パラメータ補正動作(燃料着火時期の補正動作)を加えたものである。
【0145】
本実施形態における制御パラメータ補正動作の概略としては、先ず、上述した第1実施形態の場合と同様にして、筒内酸素濃度目標値を求め、それに従って、EGRバルブ81の開度を制御する。それに加えて、上記運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合において、運転者過渡度Rtが「1」または「1よりも大きな値」として算出されている場合)には、運転過渡度としては比較的高い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的高いとして、燃料着火時期を遅角側に移行させるようにインジェクタの燃料噴射を制御する。
【0146】
一方、上記運転者過渡度Rtが「1よりも小さな正の値」として算出されている場合には、運転過渡度としては比較的低い、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み速度が比較的低いとして、燃料着火時期を進角側に移行させるようにインジェクタの燃料噴射を制御する。これにより、過渡運転時(アクセルペダルの踏み込み速度が比較的低い過渡運転時)に失火を招くことがなく、且つ燃料着火時期を進角側に設定することで燃料消費率の改善が図れるようにしている。
【0147】
図12は、本実施形態における制御パラメータ補正動作の手順を示すフローチャート図である。この制御パラメータ補正動作は、上述した運転過渡度判定動作によって運転者過渡度Rtが算出される度に実行される。
【0148】
図12におけるステップST11〜ステップST15の動作は、上述した第1実施形態の図9におけるステップST11〜ステップST15の動作と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0149】
ステップST15においてEGRバルブ81の開度が制御された後、ステップST16に移り、着火時期目標補正値の算出を行う。具体的には、図13に示す着火時期目標補正値マップに従って着火時期目標補正値Δθの算出を行う。この着火時期目標補正値マップは、運転者過渡度Rtと着火時期目標補正値Δθとの関係を規定している。具体的に、運転者過渡度Rtが「1」以上である場合には、着火時期目標補正値Δθとしては「0」に設定される。つまり、着火時期を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「1」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど着火時期目標補正値Δθとしては大きく設定される。この着火時期目標補正値Δθは、現在の着火時期を進角側に補正する補正量を規定するものである。このため、着火時期目標補正値Δθが大きく設定されるに伴い、着火時期が進角側に設定されることになる。例えば、インジェクタ23の燃料噴射タイミングを進角側に補正することで着火時期を進角側に設定することになる。
【0150】
このようにして着火時期目標補正値マップより着火時期目標補正値Δθを求めた後、ステップST17に移り、着火時期目標値を算出する。上述した如く、上記着火時期目標補正値Δθは、現在の着火時期を進角側に補正する補正量を規定するものであるため、この着火時期目標値の算出は以下の式(8)によって行われる。
【0151】
θtrg=θtrgb−Δθ …(8)
ここで、θtrgは更新された着火時期目標値、θtrgbは更新前の着火時期目標値、Δθは上記ステップST17で求められた着火時期目標補正値である。
【0152】
このようにして着火時期目標値が算出された後、ステップST18に移り、この着火時期目標値が得られるようにインジェクタ23を制御する。
【0153】
この着火時期目標値を得るためのインジェクタ23の制御として、具体的には、燃料噴射タイミングや、燃料噴射量や、燃料噴射圧の制御が挙げられる。例えば、着火時期目標値を進角側に補正する場合には、燃料噴射タイミングを進角側に補正したり、燃料噴射量や燃料噴射圧を燃焼し易い燃焼場が形成されるように補正したりする。具体的には、パイロット噴射の噴射量を増量させて筒内予熱量を高めることでメイン噴射で噴射された燃料の着火時期を進角側に補正したり、燃焼場での空気過剰率が高い場合には燃料噴射圧を低く補正して空気過剰率を適正化(着火し易い燃焼場を形成)したりすることが挙げられる。
【0154】
以上のようにして、車両を運転している運転者の運転特性(過渡運転時におけるアクセルペダルの踏み込み速度;運転過渡度)を学習していき、その学習結果に応じてエンジン1の制御パラメータ(筒内酸素濃度及び着火時期)を制御するようになっている。
【0155】
このように本実施形態においても上記第1実施形態の場合と同様に、運転者の運転特性を学習していき、その学習された運転特性に従ってエンジンの制御パラメータ(筒内酸素濃度及び着火時期)を制御することにより、この制御パラメータを最適化でき、失火を招くことがなく、且つ気筒内の酸素濃度をより低く設定可能とすることで排気エミッションの改善(NOx発生量の削減)や燃料消費率の改善を図ることが可能になる。
【0156】
また、本実施形態おいても、燃料添加弁26の使用頻度を削減したり、この燃料添加弁26や添加燃料通路28等で成る燃料添加システムを廃止したりすることが可能である。また、周知の尿素添加システムを備えたものにあっても、その使用頻度を削減したり、そのシステムを廃止したりすることが可能である。
【0157】
尚、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合には、図14に示す着火時期目標補正値マップに従って着火時期目標補正値Δθの算出を行うことになる。この着火時期目標補正値マップも、運転者過渡度Rtと着火時期目標補正値Δθとの関係を規定するものである。具体的に、運転者過渡度Rtが「0」以上である場合には、着火時期目標補正値Δθとしては「0」に設定される。つまり、着火時期を補正しないことになる。一方、運転者過渡度Rtが「0」未満である場合には、この運転者過渡度Rtが小さいほど着火時期目標補正値Δθとしては大きく設定される。この着火時期目標補正値Δθによる着火時期目標値の算出動作、及び、この着火時期目標値によるインジェクタ23の燃料噴射制御は上述したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0158】
このように、運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveと状態量偏差平均値ΔXaveとの差として算出した場合においても、上述した場合(運転者過渡度Rtを、状態量変化最大基準値ΔXb-aveに対する状態量偏差平均値ΔXaveの比として算出した場合)と同様の効果を奏することができる。
【0159】
図15は、第2実施形態におけるNOx排出量及び燃料消費率の変化を説明するための図である。この第2実施形態の制御の非実行時には、図中のIに示すようにNOx排出量としてはNOx排出量規制値の限界量となっている。
【0160】
この状態で、運転者の運転過渡度が低い場合(上記運転者過渡度Rtが小さい場合)には、先ず、筒内酸素濃度補正動作(図12におけるステップST13〜ステップST15の動作)を実行して筒内酸素濃度を補正(筒内酸素濃度を低くする側に補正)すると、NOx排出量は削減されることになる(図中の状態IIを参照)。この場合、筒内酸素濃度の不足による燃焼の若干の悪化によって燃料消費率は僅かに悪化する可能性がある。
【0161】
そして、着火時期補正動作(図12におけるステップST16〜ステップST18の動作)を実行して着火時期を補正(着火時期を進角側に補正)すると、燃焼の改善によって燃料消費率が改善されることになる(図中の状態IIIを参照)。この場合、燃焼の改善に伴って燃焼温度が上昇するためNOx排出量は僅かに悪化する可能性がある。尚、図15中における一点鎖線αは着火時期補正動作前における燃料消費率とNOx排出量との関係を示しており(上記筒内酸素濃度の補正では、燃料消費率及びNOx排出量はこのラインα上を移動する)、一点鎖線βは着火時期補正動作後における燃料消費率とNOx排出量との関係を示している。
【0162】
このように、本実施形態によれば、筒内酸素濃度の補正動作及び燃料着火時期の補正動作を行うことで、図15中の状態Iから状態IIIに移行させることができるため、NOx排出量の削減及び燃料消費率の改善を両立することができる。
【0163】
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
【0164】
また、上記第2実施形態では、制御パラメータ補正動作として、筒内酸素濃度の補正動作、及び、燃料着火時期の補正動作の両方を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、筒内酸素濃度の補正動作を行うことなく燃料着火時期の補正動作のみを行うようにしてもよい。但し、この場合、NOx排出量が僅かに増加する可能性があるため、この増加後のNOx排出量を排出量規制値以下に抑えるようにしておく必要がある。また、燃料着火時期の補正動作の実行後に筒内酸素濃度の補正動作を行うようにしてもよい。
【0165】
また、上記各実施形態における筒内酸素濃度の補正動作としてはEGRバルブ81の開度を制御するものであった。本発明はこれに限らず、過給機5の可変ノズルベーン機構54を制御することによって筒内酸素濃度の補正動作を行うようにしてもよい。具体的には、運転者過渡度Rtが比較的大きく、筒内酸素濃度を高める必要がある場合には、可変ノズルベーン機構54におけるノズルベーンの開度を小さくして過給効率を高めるようにする。逆に、運転者過渡度Rtが比較的小さく、筒内酸素濃度を低くすることが許容される場合には、可変ノズルベーン機構54におけるノズルベーンの開度を大きく過給効率を低くする。これにより、排気効率が上昇し燃料消費率の改善が図れることになる。
【0166】
更に、上記各実施形態では、制御遅れとしてEGRバルブ81の開度制御に遅れが生じる場合について説明した。本発明はこれに限らず、その他のアクチュエータの制御遅れに対しても対応が可能である。具体的に、上記EGRバルブ81の開度制御に遅れが生じている場合には、上記実筒内状態量Xrとしては主に筒内のガス組成の調整に遅れが生じることになり、このガス組成の調整の遅れが上記状態量偏差ΔXに反映されることになるのに対し、インジェクタ23の燃料噴射に遅れが生じている場合には、上記実筒内状態量Xrとしては主に筒内の温度の調整に遅れが生じることになり、この筒内の温度の調整の遅れが上記状態量偏差ΔXに反映されることになる。
【0167】
また、上記各実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジン1について説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
【0168】
加えて、上記各実施形態では、マニバータ77として、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75及びDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、自動車に搭載されるコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンにおいて、EGR率や燃料着火時期の制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0170】
1 エンジン(内燃機関)
23 インジェクタ
47 アクセル開度センサ
48 吸気圧センサ
49 吸気温センサ
4A 筒内圧センサ
81 EGRバルブ
100 ECU
Xb 筒内状態量基準値
Xr 実筒内状態量
ΔX 状態量偏差
ΔXave 状態量偏差平均値(状態量偏差実値)
ΔXb-ave 状態量変化最大基準値(状態量変化基準値)
Rt 運転者過渡度(運転者の運転過渡度)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の過渡運転時、その運転過渡度に応じて制御パラメータを調整する内燃機関の制御装置において、
上記内燃機関の運転時における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を学習していき、この学習された運転者の運転過渡度に応じて上記制御パラメータを調整するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
上記運転者の運転過渡度は、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出され、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての筒内酸素濃度を補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を低くするよう補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値に維持する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
上記運転者の運転過渡度は、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出され、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての燃料着火時期を補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての燃料着火時期を進角側に補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての燃料着火時期を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値、または、要求出力を満たす一定の値に維持する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において、排気エミッションや燃料消費率が要求値を満たすように各種制御パラメータを適合させた状態での筒内状態量と、実際の内燃機関の運転時における筒内状態量との偏差の累積値の平均値として算出されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記筒内状態量は、筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値は、予め規定された車両走行テストモードで車両を走行させた場合における筒内状態量の変化に基づいて規定されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つと、実際の内燃機関の運転状態において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つとの偏差の累積値の平均値として算出されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の過渡運転時、その運転過渡度に応じて制御パラメータを調整する内燃機関の制御装置において、
上記内燃機関の運転時における筒内状態量に基づいて求められた状態量偏差実値と、筒内状態量の基準値として規定された状態量変化基準値との比較によって運転者の運転過渡度を学習していき、この学習された運転者の運転過渡度に応じて上記制御パラメータを調整するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
上記運転者の運転過渡度は、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出され、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての筒内酸素濃度を補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を低くするよう補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての筒内酸素濃度を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値に維持する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
上記運転者の運転過渡度は、上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比、または、状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の偏差として算出され、その算出された運転者の運転過渡度に応じて制御パラメータとしての燃料着火時期を補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」未満である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」未満である場合には、その値が小さいほど、制御パラメータとしての燃料着火時期を進角側に補正する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値に対する状態量偏差実値の比が「1」以上である場合、または、状態量偏差実値から状態量変化基準値を減算した値が「0」以上である場合には、その値が大きくなっても、制御パラメータとしての燃料着火時期を、排気エミッションが規制値を満たす一定の値、または、要求出力を満たす一定の値に維持する構成とされていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において、排気エミッションや燃料消費率が要求値を満たすように各種制御パラメータを適合させた状態での筒内状態量と、実際の内燃機関の運転時における筒内状態量との偏差の累積値の平均値として算出されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記筒内状態量は、筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量変化基準値は、予め規定された車両走行テストモードで車両を走行させた場合における筒内状態量の変化に基づいて規定されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記状態量偏差実値は、上記内燃機関の定常運転時において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つと、実際の内燃機関の運転状態において筒内での燃焼が行われていない場合の筒内圧力、筒内温度、筒内酸素濃度のうちの少なくとも一つとの偏差の累積値の平均値として算出されたものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−36385(P2013−36385A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173083(P2011−173083)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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