説明

化合物半導体量子ドットの製造方法

【課題】化合物半導体量子ドットの製造方法に関し、Si基板上で3次元電子閉じ込めを実現できるドット状の良好な形状特性をもち、且つ、結晶性良好な化合物半導体量子ドットを実現させようとする。
【解決手段】Si1-x-y Gex y (x≧0、y≧0)バッファ層2上にInAs量子ドット5を形成するのに必要な化合物半導体原料の一方の族の原料、例えばAsH3 のみを先行して供給した後、全ての原料、例えばAsH3 及びTMInを供給してInAs量子ドット5を形成する工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si基板上に形成されたSi1-x-y Ge1-x y (x≧0、y≧0)バッファ層上に形状及び結晶性ともに良好な化合物半導体量子ドットを形成する化合物半導体量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、チップ間、或いは、ボード間の光配線応用に向けてSi基板上にモノリシックに集積可能な発光デバイスが求められている。この要求を満たす光デバイスの構造として、Si基板上にIII-V 族化合物半導体量子ドットを含んだSiGeC層が形成された発光デバイスが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
この光デバイスを実現するには、IV族半導体上にIII-V 族化合物半導体量子ドットを形成する技術が不可欠であるが、本発明者は、Si基板上に於いて、III-V 族化合物半導体量子ドットの生成過程が通常のIII-V 族化合物半導体基板上にIII-V 族化合物半導体量子ドットを生成する過程とは異なることを発見した。
【0004】
即ち、650℃に加熱したSi(001)基板にジシラン(Si2 6 )を供給することによってSiバッファ層を成長した後、水素雰囲気において、基板を量子ドット成長温度(430℃)まで降温し、温度安定化後、III 族原料のトリメチルインジウムとV 族原料のアルシンとを同時に供給することに依ってInAsを成長したところ、量子ドットは形成されず、図6に見られるように三角形状の凹凸をもつ2次元層が形成された。
【0005】
図6はSi(001)基板に形成したInAs層を表す原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)写真であり、図6では、高さ方向の凹凸が0.5 〜1nm程度である三角形状の凹凸を有する2次元層を看取することができる。
【0006】
ところで、前記InAs層は、量子井戸的な性質しか持たない旨の問題があり、また、このInAs層は、基板に格子整合するように歪みながら成長した臨界膜厚以上の膜厚の層であることから、転位を生じて歪み緩和することに依り、2次元成長を維持していると考えられ、InAs層の結晶性にも問題がある。
【特許文献1】国際公開番号 WO 06/085361 A1 パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、Si基板上で3次元電子閉じ込めを実現できるドット状の良好な形状特性をもち、且つ、結晶性良好な化合物半導体量子ドットを実現させようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に依る化合物半導体量子ドットの製造方法は、Si1-x-y Gex y (x≧0、y≧0)バッファ層上に量子ドットを形成するのに必要な化合物半導体原料の一方の族の原料のみを先行して供給した後、全ての原料を供給して量子ドットを形成する工程が含まれてなることが基本になっている。
【発明の効果】
【0009】
前記手段を採ることに依り、Si基板上に在って3次元電子閉じ込めを行うことが可能なドット状の良好な形状特性をもち且つ結晶性が良好な化合物半導体量子ドットを容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の化合物半導体量子ドットの製造方法に依れば、Siバッファ層上に良好な形状特性をもつと共に結晶性が良好な化合物半導体量子ドットを容易に形成することができるのであるが、本発明を成すにあたって行った実験、即ち、Si(001)基板を650℃に加熱し、ジシラン(Si2 6 )を供給することによってSiバッファ層を成長し、水素雰囲気において、前記Si(001)基板を量子ドット成長温度である430℃まで降温し、III 族原料のトリメチルインジウムとV族原料のアルシン(AsH3 )を同時に2次元膜厚換算で2原子層(2ML)相当供給することによってInAsを成長したのであるが、量子ドットを形成することができず、3 角形状の凹凸を有する2 次元層が成長しただけであった。
【0011】
これは、一般的なGaAs基板上のInAs量子ドットなど、化合物半導体基板上の化合物半導体量子ドットの成長過程とは全く異なっていて、IV族半導体層上の化合物半導体成長特有の現象であることが発見された。
【0012】
この現象を検討した結果、この特異な成長がIV族半導体の表面状態と関係しているのであろうことが判ってきた。即ち、IV族半導体表面は、水素原子で終端された状態で安定しているので、この状態で化合物半導体の原料を供給して成長を行うと、表面の水素原子を化合物半導体の元素に徐々に置換しながら成長が進んでいくのであるが、量子ドットに必要な大きさの成長核が形成されないため、化合物半導体は2次元層状に成長するだけで量子ドットは形成されないのである。
【0013】
然しながら、量子ドット原料のうちの一つ、好ましくは、アニオン元素原料を先行して供給すると、IV族半導体層表面を終端していた水素原子が原料元素に置換されるので、その結果、次に、全ての量子ドット原料を供給したときに量子ドット形成に有効なサイズの核が形成され、それがやがて安定なサイズの量子ドットへと成長するのである。
【0014】
実際、Si(001)基板上に基板温度を650℃としてSi2 6 を供給することに依ってSiバッファ層を成長し、次に、水素雰囲気中に於いて1分間の成長中断を行い、次に、430℃に降温しながらAsH3 を12分間に亙って供給し、その後、TMInとAsH3 とを供給してInAsを成長したところ、Si(001)基板の表面には化合物半導体量子ドットが生成された。
【0015】
図1はSi(001)基板にSiバッファ層を成長してから化合物半導体量子ドットを生成した表面を表すAFM像写真であり、横方向サイズが50nm、高さが10nm程度の量子ドットが生成されている。
【0016】
図2は化合物半導体の一方の族の材料のみの供給が量子ドット形成に重要であることを説明する実験結果を表す線図である。
【0017】
図2の線図に●で示された点は、供給した原料がAsH3 の場合である。AsH3 のみの供給が全くないか、或いは、10秒である場合には、量子ドットは形成されない。これについて更に詳細に説明すると、図2に於ける縦軸及び横軸が0の近傍には、一部が重なった二つの●が示され、そのうち、完全に0の位置に在る●はAsH3 の供給が全くない場合を示し、そして、僅かに横軸の+方向に振れた位置に在る●はAsH3 の供給が10秒の場合を示すものである。
【0018】
然しながら、AsH3 を2分以上供給することで量子ドットが形成され、AsH3 の供給を長くすると量子ドット密度が高くなる傾向が得られた。これは、AsH3 が供給されている間に徐々にVI族半導体の表面状態が変化していることを示している。
【0019】
図2のデータに依れば、AsH3 の供給時間がある程度長い方が量子ドット形成に有効であることが看取できよう。
【0020】
さて、■で示された点は、原料としてPH3 を1 分間供給し、その後、水素雰囲気中断を挟んでAsH3 を10秒供給した場合であって、この場合も量子ドットを形成することができた。
【0021】
さきに説明したように、AsH3 のみを10秒間供給した場合、量子ドットを形成することはできなかったのであるから、PH3 を供給した場合には、IV族半導体の表面状態を変化させる作用があることは明らかであり、従って、本発明で用いる材料は、AsH3 に限定されないことが理解できよう。尚、PH3 及びAsH3 は何れもV族の原料であることは云うまでもない。
【0022】
図3は380℃以上の成長温度において、本発明の化合物半導体量子ドットの製造方法が有効であることを説明する線図である。
【0023】
図3に見られるいずれの点もSiバッファ層を650℃で成長した後、AsH3 を12分間供給し、その後、TMInとAsH3 を供給することによってInAsを成長した場合のデータである。
【0024】
図3に於いて、●で示された点は、AsH3 の流量が 0 .2ccmの場合であって、430℃、460℃、490℃の各成長温度に対して、本発明の化合物半導体量子ドットの製造方法に依って量子ドットを形成できることが実験的に確認された。
【0025】
この実験結果から、本発明の方法が特に有効である温度の下限は、実験結果を低温側に外挿した破線から約380℃が求められ、これは、AsH3 の分解温度を考慮した場合、化学反応の観点からも妥当な見積りであるといえる。
【0026】
これに対し、高温側の上限は、前記実験結果からは決まらない。例えば、AsH3 流量が 0 .2ccmの場合、490℃の方が460℃に比較して量子ドット密度は低下するのであるが、AsH3 流量を4倍の 0 .8ccmとすることにより、量子ドット密度を高めることができる。
【0027】
上記実験においては、量子ドット材料にIII-V 族化合物半導体を用いたが、例えば、II-VI 族化合物半導体などの極性を有する化合物半導体であれば、同様の現象、効果が期待できるため、量子ドット材料はIII-V 族化合物半導体に限定されない。
【実施例1】
【0028】
図4は本発明の実施例1を説明する為の工程要所に於ける量子ドット装置を表す要部切断側面図であり、以下、図を参照しつつ説明する。尚、実施例1では、SiGeC層上にInAs量子ドットを形成する。
【0029】
(A)参照
(1) Si(001)基板1を650℃に加熱し、ジシラン(Si2 6 )、ゲルマン (GeH4 )モノメチルシラン(SiH3 CH3 )を供給することによりSiGe C層2を成長する。尚、図には、SiGeC層2上に自然に被着されたH原子3が 表示されている。
【0030】
(2) 次いで、温度一定のままの状態で原料供給を停止し、その状態を保持し、VI族原 料ガスを十分排気する。
【0031】
(B)参照
(3) 次いで、AsH3 を供給しながら、基板温度を480℃まで降温する。これに依 り、SiGeC層2の表面にはAs原子4が被着する。
【0032】
(C)及び(D)参照
(4) 次いで、温度が安定した後、AsH3 及びTMInを供給する。これに依って、 InAs量子ドット5が形成される。
【実施例2】
【0033】
図5は本発明の実施例2を説明する為の工程要所に於ける量子ドット装置を表す要部切断側面図であり、以下、図を参照しつつ説明する。尚、実施例2では、SiGeC層上にZnSe量子ドットを形成する。
【0034】
(A)参照
(1) Si(001)基板1を650℃に加熱し、ジシラン(Si2 6 )、ゲルマン (GeH4 )モノメチルシラン(SiH3 CH3 )を供給することによりSiGe C層2を成長する。尚、図には、実施例1と同様、SiGeC層2上に自然に被着 されたH原子3が表示されている。
【0035】
(2) 次いで、温度一定のままの状態で原料供給を停止し、その状態を保持し、VI族原 料ガスを十分排気する。
【0036】
(B)参照
(3) 次いで、セレン化水素(H2 Se)を供給しながら、基板温度を480℃まで降 温する。これに依り、SiGeC層2の表面にはSe原子6が被着する。
【0037】
(C)及び(D)参照
(4) 次いで、温度が安定した後、H2 Se並びにジエチルZn(DEZn)を供給す る。これに依って、ZnSe量子ドット7が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】Si(001)基板にSiバッファ層を成長してから化合物半導体量子ドットを生成した表面を表すAFM像写真である。
【図2】化合物半導体の一方の族の材料のみの供給が量子ドット形成に重要であることを説明する実験結果を表す線図である。
【図3】380℃以上の成長温度において、本発明の化合物半導体量子ドットの製造方法が有効であることを説明する線図である。
【図4】本発明の実施例1を説明する為の工程要所に於ける量子ドット装置を表す要部切断側面図である。
【図5】本発明の実施例2を説明する為の工程要所に於ける量子ドット装置を表す要部切断側面図である。
【図6】Si(001)基板に形成したInAs層を表すAFM写真である。
【符号の説明】
【0039】
1 Si(001)基板
2 SiGeC層
3 H原子 4 As原子 5 InAs量子ドット
6 Se原子
7 ZnSe量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si1-x-y Gex y (x≧0、y≧0)バッファ層上に量子ドットを形成するのに必要な化合物半導体原料の一方の族の原料のみを先行して供給した後、全ての原料を供給して量子ドットを形成する工程
が含まれてなることを特徴とする化合物半導体量子ドットの製造方法。
【請求項2】
Si1-x-y Gex y (x≧0、y≧0)バッファ層をSi(001)基板上に水素化物原料を用いて成長させる工程
が含まれてなることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体量子ドットの製造方法。
【請求項3】
先行して供給する一方の族の原料がV族原料であり、生成される量子ドットがIII-V 族化合物半導体からなること
を特徴とする請求項1或いは請求項2記載の化合物半導体量子ドットの製造方法。
【請求項4】
先行して供給する一方の族の原料がVI族原料であり、生成される量子ドットがII−VI族化合物半導体からなること
を特徴とする請求項1或いは請求項2記載の化合物半導体量子ドットの製造方法。
【請求項5】
先行して供給する一方の族の原料が基板温度を380℃以上とした状態で且つ1分以上に亙って供給されること
を特徴とする請求項1乃至4の何れか1記載の化合物半導体量子ドットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−251903(P2008−251903A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92349(P2007−92349)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点形成「ナノ量子情報エレクトリニクス連携研究拠点の形成」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】