説明

半導体装置の製造方法、半導体装置

【課題】シリコン単結晶基板上に、欠陥密度が低く高品質なエピタキシャル層を形成することが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】バッファ層12は、シリコン基板11の格子定数と、エピタキシャル層13の格子定数との間の格子定数をもつ、第3族元素と第5族元素との化合物が選択されればよい。例えば、エピタキシャル層13が上述した3C−SiCから形成される場合、シリコン基板11の格子定数0.543nmと、エピタキシャル層13の格子定数0.435nmとの間の、0.469nmの格子定数をもつ砒化ホウ素が好ましく選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体として、例えば、立方晶の炭化ケイ素(3C−SiC)が知られている。こうした炭化ケイ素膜を用いた半導体装置を低コストで製造するために、安価なシリコン単結晶基板の上に炭化ケイ素膜をエピタキシャル成長させることが行われている。
【0002】
しかしながら、シリコン単結晶基板の上に直接炭化ケイ素膜を形成すると、界面で転移欠陥が生じやすい。これは、シリコン単結晶の格子定数が0.543nmであるのに対して、立方晶炭化ケイ素の格子定数が0.435nmと、その値が約20%も異なっているためである。転移欠陥が生じた半導体装置は、空乏層でリークが発生しやすい。
【0003】
シリコン単結晶基板の上に、転移欠陥の少ない炭化ケイ素膜を形成させる方法として、例えば特許文献1には、シリコン単結晶基板と炭化ケイ素膜との間に、リン化ホウ素(BP)膜をバッファ層として形成し、シリコン単結晶基板と炭化ケイ素膜との格子定数の違いを緩和することが開示されている。
【特許文献1】特開2003−81695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような方法でシリコン単結晶基板と炭化ケイ素膜との間に、リン化ホウ素(BP)膜をバッファ層として形成しようとしても、均一で欠陥の少ないリン化ホウ素膜を成膜することが困難であった。これは、CVD装置に使用する原料ガスの中で、リン化合物とホウ素化合物との蒸気圧が一般に大きく異なる(例えば、PCl3=0.013MPa(21℃)、BCl3=0.101MPa(12.5℃))ためである。このため、上述したような従来の方法では、シリコン単結晶基板の上に化学量論比が揃った転移欠陥の少ない炭化ケイ素膜を形成することが難しいという課題があった。
【0005】
本発明にかかるいくつかの態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シリコン層又はシリコン基板上に、欠陥密度が低く高品質なエピタキシャル層を形成することが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
また、シリコン単結晶基板上に、転移欠陥の少ないエピタキシャル層を形成した半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は次のような半導体装置の製造方法、および半導体装置を提供した。
すなわち、本発明の半導体装置の製造方法は、第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを備えたシリコン基板に前記第1の面から第3族元素をイオン注入する第1の工程と、
前記シリコン基板の前記第1の面から第5族元素をイオン注入する第2の工程と、
前記シリコン基板をアニールして、シリコン層の上に前記第3族元素と前記第5族元素との化合物からなる前記バッファ層を得る第3の工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
例えば、シリコン基板と、エピタキシャル層との間にバッファ層を形成しておくことにより、エピタキシャル層に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することができる。即ち、第3族元素と第5族元素との化合物からなるバッファ層よって、格子定数が大きく異なるシリコン基板とエピタキシャル層とが直接接することを防止する。これにより、結晶界面での格子定数の急激な変化を緩和され、結晶軸の長さや軸間角度の相違により、エピタキシャル層に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することが可能になる。よって、転移欠陥の少ない、高品質なエピタキシャル層を備えた半導体装置を製造することができる。
【0008】
前記バッファ層の上にエピタキシャル層を形成する第4の工程を含み、
前記バッファ層は、前記シリコン層の格子定数と、前記エピタキシャル層の格子定数との間の格子定数をもつ材料によって形成されることが好ましい。
これにより、例えば、シリコン基板とエピタキシャル層との間で、段階的に格子定数を変化させることができ、シリコン基板とエピタキシャル層との界面で大きな格子定数の差が生じて、転移欠陥が発生する事を防止できる。
【0009】
前記第3族元素はホウ素、前記第5族元素は砒素であることが好ましい。
例えば、バッファ層を砒化ホウ素で形成することによって、シリコン基板の格子定数とエピタキシャル層の格子定数との間の格子定数をもつバッファ層を容易に形成することができる。
【0010】
前記エピタキシャル層は、立方晶の炭化ケイ素、または立方晶の窒化ガリウムを含むことが好ましい。
例えば、エピタキシャル層を立方晶の炭化ケイ素、または立方晶の窒化ガリウムにすることで、ワイドバンドギャップ半導体として好適に用いることができる。
【0011】
前記第3族元素をイオン注入する工程および/または、前記第5族元素をイオン注入する工程における注入エネルギーは2.0KeV以下であることが好ましい。
イオン注入エネルギーを2.0KeV以下にすることによって、例えば、打ち込んだイオンをシリコン基板の中まで深く入らせず、表層近傍にバッファ層を形成することができる。
【0012】
前記バッファ層は、前記シリコン基板に接する第1のバッファ層と、前記エピタキシャル層に接する第2のバッファ層とを少なくとも備え、前記第1のバッファ層と前記第2のバッファ層とは互いに異なるに格子定数で、かつ、前記第1のバッファ層は前記第2のバッファ層よりも前記シリコン基板の格子定数に近い格子定数をもつ材料から形成されることが好ましい。
これによって、例えば、シリコン基板とエピタキシャル層との間で、2段階以上で格子定数を変化させ、エピタキシャル層に転移欠陥が生じるのをより一層低減する事ができる。
【0013】
前記第3族元素をイオン注入する工程および/または、前記第5族元素をイオン注入する工程では、前記バッファ層が1原子層以上の厚みとなるように、単位面接あたりのイオン注入量を設定することが好ましい。
前記バッファ層を1原子層以上の厚みにすれば、例えば、エピタキシャル層に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制する事ができる。
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法は、シリコン層に前記第1の面から第3族元素をイオン注入する第1の工程と、前記シリコン層の前記第1の面から第5族元素をイオン注入する第2の工程と、前記シリコン層をアニールして、前記シリコン層の一部に前記第3族元素と前記第5族元素との化合物からなるバッファ層を得る第3の工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の半導体装置は、前記半導体装置の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
シリコン基板の格子定数とエピタキシャル層の格子定数との間の格子定数をもつバッファ層を、シリコン基板とエピタキシャル層との間に形成することにより、例えば、結晶界面での格子定数の急激な変化を緩和させることができる。そして、結晶軸の長さや軸間角度の相違により、エピタキシャル層に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することが可能になる。これにより、例えば、転移欠陥の少ない、高品質なエピタキシャル層を備えた半導体装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の半導体装置の製造方法、および半導体装置の最良の形態について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
図1は、本発明の半導体装置の実施形態の一例を示す断面図である。
本発明の半導体装置10は、シリコン基板(シリコン単結晶基板)11と、このシリコン基板11の一面11aに形成されたバッファ層12と、このバッファ層12の一面12aに形成されたエピタキシャル層13とを備えている。
【0018】
シリコン基板11は、例えば、CZ法(チョクラルスキー法)により引上げられたシリコン単結晶インゴットをスライス、研磨して形成する。このシリコン基板11の一面11aはミラー指数(100)で表される結晶面(以下、単に(100)面と略記する。)を成す。なお、シリコン基板11の一面11aは(100)面以外にも、(100)面に対して54.73°傾斜した(111)面であってもよい。このようなシリコン基板11は、格子定数が0.543nmである。
【0019】
エピタキシャル層13は、後述するバッファ層12の一面12aに、エピタキシャル結晶成長によって形成された単結晶層である。このエピタキシャル層13は、立方晶の炭化ケイ素(3C−SiC)から形成されている。立方晶の炭化ケイ素は、バンドギャップ値が2.2eV以上と高く、光透過性や、絶縁破壊電界が高いため、パワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体として好適である。このような3C−SiCからなるエピタキシャル層13は、格子定数が0.435nmである。
【0020】
バッファ層12は、シリコン基板11とエピタキシャル層13との間に形成される。このバッファ層12は、短周期律における第3族元素(長周期律での第13族元素)と、短周期律における第5族元素(長周期律での第15族元素)との化合物から構成される。例えば、バッファ層12は立方晶の砒化ホウ素(BAs)から形成されればよい。
【0021】
また、バッファ層12の厚みΔtは、少なくとも1原子層分の厚み、例えば、20原子層分の厚みで形成されればよい。
【0022】
このような構成のバッファ層12は、シリコン基板11の格子定数と、エピタキシャル層13の格子定数との間の格子定数をもつ、第3族元素と第5族元素との化合物が選択されればよい。例えば、エピタキシャル層13が上述した3C−SiCから形成される場合、シリコン基板11の格子定数0.543nmと、エピタキシャル層13の格子定数0.435nmとの間の、0.469nmの格子定数をもつ砒化ホウ素が好ましく選択される。
【0023】
一般に、基板上に格子定数の大きく異なる材料を用いてエピタキシャル層を形成すると、成長界面で転移欠陥が発生しやすくなる。しかし、本発明の半導体装置10のように、シリコン基板11の格子定数とエピタキシャル層13の格子定数との間の格子定数をもつ3C−SiCからなるバッファ層12を、シリコン基板11とエピタキシャル層13との間に形成することにより、結晶界面での格子定数の急激な変化を緩和させる。そして、結晶軸の長さや軸間角度の相違により、エピタキシャル層13に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することが可能になる。これにより、転移欠陥の少ない、高品質な3C−SiCからなるエピタキシャル層13を備えた半導体装置10を実現できる。
【0024】
図2は、本発明の半導体装置の実施形態の別な一例を示す断面図である。
図2に示す半導体装置20では、シリコン基板21とエピタキシャル層23との間に、第一のバッファ層22aと、第二のバッファ層22bとからなる複層のバッファ層22が形成されている。この第一のバッファ層22aと第二のバッファ層22bとは、互いに異なる格子定数をもつ材料で形成される。さらに、第一のバッファ層22aはシリコン基板21の格子定数により近い材料、第二のバッファ層22bはエピタキシャル層23の格子定数により近い材料で、それぞれ形成される。
【0025】
例えば、エピタキシャル層23を立方晶の炭化ケイ素(3C−SiC)で形成した場合、第一のバッファ層22aはシリコン基板21の格子定数(0.543nm)により近い立方晶の窒化インジウム(格子定数0.498nm)で形成し、第二のバッファ層22bはエピタキシャル層23の格子定数(0.435nm)により近い立方晶の砒化ホウ素(格子定数0.469nm)で形成すれば良い。
【0026】
このように、シリコン基板21とエピタキシャル層23との間に、段階的に格子定数を変化させる複層のバッファ層22を形成することによって、シリコン基板21とエピタキシャル層23との間の格子定数の変化がより一層段階的に緩和される。よって、格子定数の急激な変化による転移欠陥の発生をより一層効果的に抑制することが可能になる。
【0027】
図3は、本発明の半導体装置の実施形態の別な一例を示す断面図である。
図3に示す半導体装置30では、エピタキシャル層33を立方晶窒化ガリウム(GaN)によって形成している。こうした実施形態においても、窒化ガリウムから形成されるエピタキシャル層33と、シリコン基板31との間に形成されるバッファ層32は、立方晶の砒化ホウ素(0.469nm)を用いるのが好ましい。
【0028】
次に、本発明に係る半導体装置の製造方法を図面に基づいて説明する。
図4は、本発明の半導体装置の製造方法を段階的に示す断面図である。
なお、この実施形態では、シリコン基板上に、砒化ホウ素からなるバッファ層を介して炭化ケイ素からなるエピタキシャル層を形成する手順を例示する。まず、例えば一面41aが(100)面であるシリコン基板41を用意する(図4(a)参照)。こうしたシリコン基板41は、予めフッ化水素酸などで表面を洗浄しておくことが好ましい。
【0029】
次に、図4(b)に示すように、このシリコン基板41の一面41aに向けて、砒素イオンを注入する(第5族元素をイオン注入する工程)。砒素イオンを注入する際には、例えば、イオン注入機を用いて、砒素イオンがシリコン基板41の表層付近に打ち込まれるように、小さな打ち込みエネルギーで行うのが好ましい。
【0030】
砒素イオンの打ち込み条件としては、例えば打ち込みエネルギーが2.0KeV以下、例えば1.4KeV、打ち込み角度がシリコン基板41の一面41aに対して7°になるように設定するのが好ましい。また、打ち込み時のドーズ(単位面接あたりのイオン注入量)は、形成されるバッファ層が少なくとも1原子層以上分の原子数となるように設定するのが好ましい。例えば、ドーズ量を1.7E16(cm−2)とすることによって、砒化ホウ素バッファ層20原子層分の原子数とすることができる。これによって、シリコン基板41の表層付近に砒素注入層46が形成される(図4(c)参照)。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、シリコン基板41の砒素注入層46に向けて、ホウ素イオンを注入する(第3族元素をイオン注入する工程)。ホウ素イオンを注入する際には、例えば、イオン注入機を用いて、ホウ素イオンがシリコン基板41の表層、即ち先の工程で形成した砒素注入層46付近にほぼ同じ飛程で打ち込まれるように、小さな打ち込みエネルギーで行うのが好ましい。
【0032】
ホウ素イオンの打ち込み条件としては、前記砒素注入層とほぼ同じ飛程になるよう、例えば打ち込みエネルギーが0.2KeV、打ち込み角度がシリコン基板41の一面41aに対して7°になるように設定するのが好ましい。また、打ち込み時のドーズ量(単位面接あたりのイオン注入量)は、形成されるバッファ層が少なくとも1原子層分以上、好ましくは20原子層分の原子数となるように設定するのが好ましい。例えば、ドーズ量を1.7E16(cm−2)とすることによって、砒化ホウ素バッファ層20原子層分の原子数とすることができる。
これによって、シリコン基板41の表層付近に砒素とホウ素とか注入された砒素ホウ素混合注入層47が形成される(図4(d)参照)。
【0033】
次に、図4(e)に示すように、この一面41aに砒素ホウ素混合注入層47が形成されたシリコン基板41を高真空チャンバー49に入れて、例えば1000℃程度になるようにアニール処理を行う(シリコン基板をアニールしてバッファ層を得る工程)。砒素ホウ素混合注入層47は、高真空下で1000℃程度まで加熱される事で、固相エピタキシーにより結晶化され、立方晶の砒化ホウ素(BAs)となる。これにより、シリコン基板41の一面41aに、砒化ホウ素からなるバッファ層42が形成される。このバッファ層42の厚みΔtは、砒化ホウ素として少なくとも1原子層の厚み、好ましくは、20原子層の厚みで形成されればよい。
このように、イオン打ち込みとアニールによってバッファ層42を形成すれば、第3族元素と第5族元素とを厳密に等量だけ打ち込むことが可能なため、化学量論比が揃ったバッファ層42を得ることができる。
【0034】
次に、図4(f)に示すように、バッファ層42の上に、例えば立方晶の炭化ケイ素(3C−SiC)からなるエピタキシャル層43を形成する。エピタキシャル層43の形成にあたっては、バッファ層42が形成されたシリコン基板41を高真空チャンバーに入れて、例えば、1200℃程度まで加熱する。そして、例えばCガスを2sccm、SiHガスを6sccmの流量で供給し、バッファ層42の一面42aに3C−SiCをエピタキシャル成長させる。これにより、シリコン基板41の一面41aに、バッファ層42を介してエピタキシャル層43が形成される。
【0035】
こうしたエピタキシャル層43の形成にあたって、予めバッファ層42を形成しておくことにより、エピタキシャル層43に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することができる。即ち、格子定数0.543nmであるシリコン基板41に、格子定数0.435nmである3C−SiCからなるエピタキシャル層43を直接成膜せずに、0.469nmの格子定数をもつ砒化ホウ素からなるバッファ層42を介して成膜することによって、シリコン基板41とエピタキシャル層43との界面で大きな格子定数の差が生じるのを防止する。これにより、結晶界面での格子定数の急激な変化を緩和され、結晶軸の長さや軸間角度の相違により、エピタキシャル層43に転移欠陥が生じるのを効果的に抑制することが可能になる。よって、転移欠陥の少ない、高品質な3C−SiCからなるエピタキシャル層43を備えた半導体装置40を製造することができる。
【0036】
なお、上述した実施形態では、バッファ層42の形成時に、先に砒素イオンを打ち込み、その後にホウ素イオンを打ち込んでいる。これは、砒素イオンの方が重く、注入層のアモルファス化が促進されるため、後から軽いホウ素イオンを打ち込んだ方が、ホウ素イオンのチャネリングを回避しやすいためである。しかし、打ち込み条件によっては、ホウ素イオンを先に打ち込み、その後に砒素イオンの打ち込むような工程であってもよい。
【0037】
また、シリコン基板41は、バッファ層42を形成する一面41aが(100)面である以外にも、(111)面であってもよい。この場合、砒素イオンやホウ素イオンの打ち込み角度は、シリコン基板の一面に対して3°であればよい。
【0038】
更に、エピタキシャル層は、上述した3C−SiC以外にも、例えば、立方晶窒化ガリウム(GaN)であってもよい。バッファ層は、上述した砒化ホウ素以外にも、シリコン基板の格子定数とエピタキシャル層の格子定数との間の格子定数をもち、かつ、第3族元素と第5族元素との化合物膜であれば好ましく用いる事ができる。
【0039】
図5は、半導体装置の製造方法の別な実施形態を段階的に示す断面図である。
上述した実施形態ではシリコン基板の一面にバッファ層を均一に形成していたが、バッファ層を局所的に設けることもできる。図5(a)に示すように、シリコン基板51の一面51aに酸化膜を堆積し、フォトリソグラフィー法などによって酸化膜層55を形成する。
【0040】
次に、この酸化膜層55をマスクとして、砒素イオンを注入する(第5族元素をイオン注入する工程)。これにより、シリコン基板51がレジスト層55の開口55aによって露呈された部分に、砒素注入層56が形成される(図5(b)参照)。
【0041】
続いて、酸化膜層55をマスクとして、ホウ素イオンを注入する(第3族元素をイオン注入する工程)。これにより、シリコン基板51が酸化膜層55の開口55aによって露呈された部分に、砒素とホウ素とか注入された砒素ホウ素混合注入層57が形成される(図5(c)参照)。
【0042】
この後、シリコン基板51を高真空チャンバーに入れて、例えば1000℃程度になるようにアニール処理を行えば、砒素ホウ素混合注入層57が結晶化される。これにより、シリコン基板51の一面上において、酸化膜層55と立方晶の砒化ホウ素からなるバッファ層52を局所的に(部分的に)形成する事ができる。この後、エピタキシャル層60を成膜する際、酸化膜55上には選択的にエピタキシャル膜は成長せず、バッファ層52からの横方向成長が行われる。更に成長が進んで、横成長膜が酸化膜55上を全て覆いつくした後は上方に成長することになり、成長方向が変化する。その結果、欠陥は連続して成長できなくなり、転移欠陥を効率的に消滅させることができる。
【0043】
このように、バッファ層52を選択的に形成することによって、シリコン基板の一面全体にバッファ層を形成するよりも、より効率的に転移欠陥の少ないエピタキシャル層を成膜させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の半導体装置の別な実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の半導体装置の別な実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の半導体装置の別な製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 半導体装置
11 シリコン基板
12 バッファ層
13 エピタキシャル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを備えたシリコン基板に前記第1の面から第3族元素をイオン注入する第1の工程と、
前記シリコン基板の前記第1の面から第5族元素をイオン注入する第2の工程と、
前記シリコン基板をアニールして、シリコン層の上に前記第3族元素と前記第5族元素との化合物からなる前記バッファ層を得る第3の工程と、を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記バッファ層の上にエピタキシャル層を形成する第4の工程を含み、
前記バッファ層は、前記シリコン層の格子定数と、前記エピタキシャル層の格子定数との間の格子定数をもつ材料によって形成されることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第3族元素はホウ素であり、前記第5族元素は砒素であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記エピタキシャル層は、立方晶の炭化ケイ素、または立方晶の窒化ガリウムを含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において前記第3族元素をイオン注入する際の注入エネルギーは2.0KeV以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程において、前記第5族元素をイオン注入する際の注入エネルギーは2.0KeV以下であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層は、前記シリコン層に接する第1のバッファ層と、前記エピタキシャル層に接する第2のバッファ層とを少なくとも備え、前記第1のバッファ層と前記第2のバッファ層とは互いに異なるに格子定数で、かつ、前記第1のバッファ層は前記第2のバッファ層よりも前記シリコン層の格子定数に近い格子定数をもつ材料から形成されることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程における前記第3族元素をイオン注入する工程又は前記第2の工程における前記第5族元素をイオン注入する工程では、前記バッファ層が1原子層以上の厚みとなるように、単位面積あたりのイオン注入量を設定することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
シリコン層に前記第1の面から第3族元素をイオン注入する第1の工程と、
前記シリコン層の前記第1の面から第5族元素をイオン注入する第2の工程と、
前記シリコン層をアニールして、前記シリコン層の一部に前記第3族元素と前記第5族元素との化合物からなるバッファ層を得る第3の工程と、を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項記載の半導体装置の製造方法によって製造されたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−92917(P2010−92917A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258586(P2008−258586)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】