説明

旋回挙動表示装置

【課題】 旋回力の制御状況を瞬時に認識できるようにする。
【解決手段】 ヨーモーメント表示部31の基準部32から旋回方向に向かうセグメント33の表示数を旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて円弧状態に増減させ、車両のヨーモーメント制御量、即ち、旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を直感的に視認して旋回力の制御状況を瞬時に認識することができるようにし、車両の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回挙動制御手段を有する車両の旋回挙動制御の制御状況を表示する旋回挙動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回している車両の安定化を図り、車両の安全性を向上させるための技術が従来から種々提案されている。例えば、車両のヨーレイトに基づいて車両の左輪と右輪との間の駆動力差及び各輪に対する制動力をフィードバック制御したり、前輪と後輪との差動制限の度合いを可変とするセンターディファレンシャルギヤ(以下、センターデフと称する)の電子制御LSD(Limited Slip Differential)を車両のヨーレイトに基づいてフィードバック制御する技術が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、ヨーレイトフィードバック制御を適用して、前後輪間の差動制限の度合いの制御や、左右輪トルク発生装置による車両の左輪と右輪との間のトルク制御及び制動制御を統合して制御している。そして、オーバーステア抑制に限り、車両の左輪と右輪との間のトルクの制御と並行してセンターデフによる前後輪間の差動制御を行い、拘束力を強めるように制御する技術が開示されている。
【0004】
このような旋回挙動制御手段を実施する場合、左輪と右輪との間のトルクの制御量や差動制御による拘束力の度合い(差動制限の度合い)を表示することで運転者が車両の旋回挙動制御の状況を把握することができ、車両の持つ走行性能と安全性能を有効に活用することができる。
【0005】
左輪と右輪とのトルクの制御量や前後輪の駆動力分配比(差動制限の度合い)を表示する従来技術として、例えば、駆動力分配比や、左右輪それぞれのトルクの大きさを表示する技術が提案されている(例えば、下記特許文献2、3参照)。
【0006】
従来から提案されている表示装置は、駆動力分配比による拘束力の強さが表示状態の多少で表示されると共に、左輪のトルクの大きさ及び右輪のトルクの大きさがそれぞれ表示状態の多少で表示されるようになっている。そして、運転者は表示状態により車両の拘束力や左右輪それぞれのトルクの状態を視認し、車両の拘束力や左右輪それぞれのトルクの状態に応じて車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を認識している。
【0007】
しかし、従来の表示装置では、駆動力分配比による拘束力の強さや、左輪のトルクの大きさ及び右輪のトルクの大きさがそれぞれ表示されるため、それぞれの状況が同時に表示されると、内容が複雑になり運転者の視認性が低下することになる。このため、右輪のトルクの大きさの差に応じて旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を推定することになる。従って、瞬時に車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を認識することが困難で、車両状況を正確に把握しつつ運転することが難しくなる虞があり、車両の持つ走行性能と安全性能を有効に活かしきれていないのが現状であった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−131229号公報
【特許文献2】特開平11−98603号公報
【特許文献3】実公平5−15046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を瞬時に認識することができる旋回挙動表示装置を提供し、車両の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の旋回挙動表示装置は、車両の左右輪のトルクに差を生じさせることで車両の旋回挙動を制御する旋回挙動制御手段の制御状況を表示する旋回挙動表示装置であって、前記左右輪のトルクが同じである時の基準部が設定され、前記旋回挙動制御手段で設定される旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて、前記基準部から旋回方向に向かう表示状態が増減する表示手段を前記左右輪のそれぞれに対して備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項1に係る本発明では、左右輪のそれぞれに対して基準部から旋回方向に向かう表示状態が旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて増減するので、車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を直感的に視認することができる。この結果、旋回力の制御状況を瞬時に認識することができ、車両の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用することができる。
【0012】
旋回挙動制御手段は、左右後輪のトルク差をコントロールするアクティブヨーコントロール(AYC)のシステムや、左右前輪のブレーキ制御トルク差をコントロールするシステムが適用される。また、左右後輪のトルク差をコントロールすると共に左右前輪のブレーキ制御によるトルク差をコントロールし、統合的にヨーモーメントをコントロールするシステムが適用される。
【0013】
そして、請求項2に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項1に記載の旋回挙動表示装置において、前記表示手段は、トルクが相対的に大きくされる側を前記基準部から上側に前記表示状態を増加させると共に、トルクが相対的に小さくされる側を前記基準部から下側に前記表示状態を増加させ、前記トルクが大きくされる側と小さくされる側の表示量が同じ量に設定されることを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る本発明では、トルクが大きくされる側と小さくされる側が基準部から上下に同じ表示量で設定されるので、車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御による左右輪のトルクの大きさと方向をそれぞれ正確に視認することができる。
【0015】
また、請求項3に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項1もしくは請求項2のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、前記表示手段は、表示状態の増減を表わす複数のセグメントを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る本発明では、複数のセグメントの表示数により車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を直感的に視認することができる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、前記表示手段は、基準部を真ん中にした円弧形状に表示状態が増減するように形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る本発明では、表示状態が円弧形状に増減するので、車両の旋回力の状態の制御状況をより直感的に視認することができる。
【0019】
また、請求項5に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、前記表示手段は、前記左右輪のトルクの差が大きくなるに従って前記表示状態の増減の変化が遅くなるように設定されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る本発明では、旋回力の状態の制御量が小さい場合でも表示状態を確実に増減させることができると共に、制御量が大きい場合には表示状態の不必要な増減を抑制することができ、制御量に拘わらず的確な表示を実施することができる。
【0021】
また、請求項6に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、前記旋回挙動制御手段は、前輪と後輪の間の差動制限度合いを調整することで車両の駆動性能を制御する機能を有し、前記差動制限度合いを表示する差動制限表示部を備えたことを特徴とする。
【0022】
請求項6に係る本発明では、差動制限表示部を備えたことにより車両の駆動性能を加味した旋回力の状態の制御状況を視認することができる。
【0023】
また、請求項7に係る本発明の旋回挙動表示装置は、請求項6に記載の旋回挙動表示装置において、前記左右輪のそれぞれに対して備えられた前記表示部の間に前記差動制限表示部が配され、前記表示部の前記基準部に対応する位置を基準にして、前記差動制限表示部の表示状態が前記差動制限度合いに応じて両側に増減することを特徴とする。
【0024】
請求項7に係る本発明では、差動制限度合いの制御状況が左右輪の旋回力の状態の制御状況の間に表示され、基準部を中心に制御の度合いが表示されるので、車両の駆動性能を加味した旋回力の状態の制御状況をより直感的に視認することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の旋回挙動表示装置は、車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を瞬時に認識することができ、車両の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の旋回挙動表示装置が適用される車両は、4輪駆動方式の車両であり、アンチロックブレーキシステム(ABS)、前後輪の差動制限力を制御するアクティブセンターデファレンシャル(ACD)、後輪の左右の駆動力を制御するアクティブヨーコントロール(AYC)、4輪のブレーキ力を制御するアクティブスタビリティコントロール(ASC)のシステムを備え、これらのシステムを統合制御して車両の旋回性や加速性を両立させる旋回挙動制御装置が搭載されている。旋回挙動表示装置が適用される車両は、例えば、コーナリングや減速時には後輪の左右の駆動力を制御すると共に前後輪の差動制限力を強めて安定性を向上させ、旋回中は回頭性を上げるため後輪の左右の駆動力を制御すると共に前後輪の差動制限力を弱めるようにしている。
【0027】
本発明の旋回挙動表示装置は、旋回挙動制御装置における車両の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況、即ち、後輪の左右の駆動力の制御状況や前後輪の差動制限力の強さの制御状況を表示する表示装置で、旋回力の状況を曲がる方向及び曲がる力として表示し、旋回力の状態を直感的に視認して旋回挙動の制御状況を瞬時に認識することができるようにしたものである。
【0028】
以下図面に基づいて本発明の一実施形態例を説明する。
【0029】
図1には本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置が適用される車両の旋回挙動の制御状況を表す概念、図2には旋回挙動表示装置が搭載された車両の概略構成を示してある。また、図3には本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置が備えられる計器盤の全体、図4には本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置の詳細状況、図5にはヨーモーメント制御量とセグメント値との関係、図6にはACD制御量とセグメント値との関係、図7にはセグメントの遷移状況を示してある。更に、図8には本発明の旋回挙動表示装置の他の例を示してある。
【0030】
図1、図2に基づいて本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置が適用される車両の旋回挙動表示装置を説明する。
【0031】
図1に示すように、車両1は、エンジン2の駆動力がセンタディファレンシャル(センターデフ)3で前輪4及び後輪5に分配され、前後輪の差動制限力の強さ(ACD制御量)が制御される。また、前輪4の左右のブレーキ制御によるトルク差と、後輪5の左右トルク移動によるトルク差がヨーモーメントに変換され、車両1のヨーモーメント制御量とされる。本発明の旋回挙動表示装置は、前後輪の差動制限力の強さ(ACD制御量)とヨーモーメント制御量をインジケータに表示させるものである。
【0032】
図2に基づいて旋回挙動表示装置が搭載された車両の概略を説明する。
【0033】
車両1にはエンジン2が搭載され、エンジン2からの出力はトランスミッション6及び中間ギア機構17を介してセンターデフ3に伝達される。センターデフ3に伝達された出力は、車軸8Lを介して左前輪4Lに伝達されると共に車軸8Rを介して右前輪4Rに伝達される。
【0034】
センターデフ3には、ディファレンシャルピニオン3a、3bが備えられ、ディファレンシャルピニオン3a、3bに噛み合うサイドギヤ3c、3dが備えられている。ディファレンシャルピニオン3a、3bから入力されたトルクはサイドギヤ3cを介して前輪4に伝達され、ディファレンシャルピニオン3a、3bから入力されたトルクはサイドギヤ3d及びプロペラシャフト11を介して後輪5に伝達される。センターデフ3により前輪4と後輪5との間の差動が許容される。
【0035】
また、センターデフ3には、前輪4と後輪5の差動制限度合いを調整することで車両の駆動性能を制御する機能(旋回挙動手段の機能)である前後輪間差動制限機構9が備えられる。
【0036】
前後輪間差動制限機構9は、前輪4と後輪5との間で許容された差動を可変に制限しながらエンジン2から出力されたトルクを前輪4及び後輪5に対して可変に配分するものである。即ち、前後輪間差動制限機構9は湿式油圧多板クラッチ機構により構成され、図示しない油圧ユニットからの油圧に応じて前輪4と後輪5の間での差動制限の度合いが調整されるようになっている(ACD制御)。
【0037】
前後輪間差動制限機構9に作用する油圧はECU(電子コントロールユニット)20のセンターデフコントローラ21からの指令により制御される。
【0038】
一方、リアデフ7に伝達された出力は、車軸13Lを介して左後輪5Lに伝達されると共に車軸13Rを介して右後輪5Rに伝達される。リアデフ7には、左後輪5Lと右後輪5Rに伝達される駆動トルクにトルク差を生じさせることで車両1の旋回挙動(ヨーモーメント)を制御する旋回挙動手段としての左右輪間駆動力移動機構14が備えられている。
【0039】
左右輪間駆動力移動機構14は、変速機構14aと伝達容量可変制御式のトルク伝達機構14bとから構成されている。変速機構14aは一方の後輪、即ち、左後輪5Lの回転速度を増速させたり減速させたりしてトルク伝達機構14bに出力するものである。トルク伝達機構14bは伝達トルク容量を調整できる湿式油圧多板クラッチ機構により構成され、変速機構14aにより増速または減速された左後輪5Lの回転速度と、一方の後輪、即ち、右後輪5Rの回転速度との回転速度差を利用し、左後輪5Lと右後輪5Rの間でトルクの授受(トルク移動)を行なうものである。左後輪5Lと右後輪5Rの間でトルクの授受を行なうことで、一方の車輪の駆動トルクを増大または減少させ、他方の車輪の駆動トルクを減少または増大させることができる。
【0040】
左右輪間駆動力移動機構14に作用する油圧はECU20のリアデフコントローラ22からの指令により制御される。
【0041】
例えば、車両1が右旋回しながら前進している場合に、左右輪間駆動力移動機構14に油圧力が働いて右後輪5Rに伝達するトルクが減少されると右後輪5Rが減速する。この時、左後輪5Lに伝達するトルクが増大され左後輪5Lが増速する。これにより、車両1に時計回り方向(右回り方向)のヨーモーメントを生じさせることができる(AYC制御)。
【0042】
車両1の左右の前輪4にはブレーキ装置31L、31Rが設けられ、左右の後輪5にはブレーキ装置32L、32Rが設けられている。ブレーキ装置31L、31R及びブレーキ装置32L、32Rには、それぞれ独立して油圧が供給され、左右の前輪4及び左右の後輪5のそれぞれに対してブレーキ状況が制御される。ブレーキ装置31L、31R、32L、32Rに作用する油圧はECU20のブレーキ装置コントローラ23からの指令により制御される。
【0043】
ブレーキ状況が制御される場合、例えば、左右の前輪4のブレーキ力の差(ブレーキトルク差)により、車両1に旋回力が発生する。左右の前輪4のブレーキトルク差と左右の後輪5のトルク差が統合されて車両1のヨーモーメントとされる。
【0044】
上述した車両1では、例えば、走行時のステアリング角やブレーキ圧、車両1の前後・横加速度とヨーレイトを検出し、これらの情報に応じて、前輪4と後輪5の差動制限度合いを調整すると共に、左後輪5Lと右後輪5Rの間のトルク差を調整し、更に、左右の前輪4及び後輪5のブレーキ力を独立して制御する。例えば、コーナリングや減速時には後輪の左右の駆動力を制御すると共に前後輪の差動制限力を強めて安定性を向上させ、旋回中は回頭性を上げるため後輪の左右の駆動力を制御すると共に前後輪の差動制限力を弱めるようにしている。
【0045】
これにより、限界走行領域での車両1の挙動をアシストすることができ、高い旋回性能と安定性を確保することができる。このため、例えば、低μ路の旋回では修正操舵が少なく済むことで安定性とコントロール性が向上し、緊急回避の場合でも急なステアリング操作による挙動の乱れが少なく、安定性と収束性が向上する。
【0046】
本発明の旋回挙動表示装置は、前後輪の作動制限力の強さ(ACD制御量)、及び、前輪4の左右のブレーキ制御によるトルク差と、後輪5の左右のトルク移動によるトルク差とが統合されたヨーモーメント制御量(セグメント値)を表示するものであり、車両1の旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を運転者が瞬時に認識することができるようにし、車両1の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用できるように企図したものである。
【0047】
図3〜図7に基づいて本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置を説明する。
【0048】
図3に示すように、運転席の前方にある計器盤のスピードメータ25とタコメータ26の間に車両状況表示装置30が配され、旋回挙動表示装置27が表示されるようになっている。例えば、運転者がパネルにタッチすることにより、必要な情報の表示装置が表示され、複数の表示装置のうちの一つが旋回挙動表示装置27とされる。図示例では、旋回挙動表示装置27の他に、外気温、路面状況、運転モード、燃料の残量が表示されている。
【0049】
図4に示すように、旋回挙動表示装置27には、ヨーモーメント制御量が表示されるヨーモーメント表示部31と、前後輪の差動制限力の強さ(ACD制御量)が表示される差動制限表示部35とが備えられている。ヨーモーメント表示部31は、左右に左表示部31aと右表示部31bとが備えられている。左表示部31aと右表示部31bは同心円状態の円弧状にされ、左右輪のトルクが同じである時の基準部32が左表示部31aと右表示部31bの上下方向の真ん中にそれぞれ設けられている。
【0050】
左表示部31a及び右表示部31bには矩形のセグメント33が複数(図示例では5セグメント)表示されるようになっており、左表示部31aの基準部32よりも上側にセグメント33が表示された時は右表示部31bの基準部32よりも下側にセグメント33が同じ数だけ表示される。セグメント33の表示数は、旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて、即ち、ヨーモーメント制御量に応じて設定され、基準部32から旋回方向に向かうセグメント33の表示数が円弧を描く状態で増減するようになっている(表示部)。
【0051】
例えば、図4に示した状態の場合、右旋回方向にヨーモーメント制御量が最大限に発生している状態が表示されている。即ち、図4に示した状態は、左後輪5の駆動トルクが大きく、右後輪5の駆動トルクが小さい状態であり、左前輪4のブレーキ制御トルクが小さく、右前輪4のブレーキ制御トルクが大きい状態である。この場合、駆動トルクとブレーキ制御トルクから変換されるヨーモーメント量は、右旋回側に働く状態になり、左右輪の相対的なトルクの差がセグメント33の表示数として、左表示部31aは基準部32から上側に表示され(旋回方向に増加)、右表示部31bは基準部32から下側に同数で表示される(旋回方向に増加)。
【0052】
一方、ヨーモーメント表示部31の左表示部31aと右表示部31bの間に差動制限表示部35が配されている。差動制限表示部35は差動制限度合いが複数の矩形のセグメント36で表示されるもので、中心のセグメント36aから上下方向に同数が増減して表示される。中心のセグメント36の上下方向の表示位置は、ヨーモーメント表示部31の基準部32と同位置とされている。前後輪の差動制限力の強さ(ACD制御量)が強くなるに従って、セグメント36の表示数が上下に増加していく。図4の例は最大の強さ(最大のACD制御量)とされ、車両1(図1参照)の駆動性能が高い状態にされている場合である。
【0053】
図5に基づいてヨーモーメント制御量とセグメント33の表示数(演算されたセグメント値)との関係を説明し、図6に基づいてACD制御量とセグメント36の表示数(演算されたセグメント値)との関係を説明する。
【0054】
図5に示すように、ヨーモーメント制御量が相対的に大きくなるに従いセグメント値が1から5まで設定される。ヨーモーメント制御量は正が左旋回方向、負が右旋回方向を表す。また,セグメント値が正の場合、左表示部31aが下側、右表示部31bが上側に表示され、セグメント値が負の場合、左表示部31aが上側、右表示部31bが下側に表示される。
【0055】
そして、ヨーモーメント制御量が大きくなるに従って、表示状態の増減の変化が遅くなるように設定されている。つまり、セグメント値が1の場合のヨーモーメント制御量hに対してセグメント値が4の場合のヨーモーメント制御量Hが多く(長く)設定され、ヨーモーメント制御量が大きい程(小さい程)セグメント33の表示の切換えが遅く(早く)なるように設定されている。
【0056】
これにより、ヨーモーメント制御量が小さい場合でもセグメント33の表示を確実に増減させることができると共に、ヨーモーメント制御量が大きい場合にはセグメント33の表示の不必要な増減を抑制することができ、ヨーモーメント制御量に拘わらず的確な表示を実施することができる。
【0057】
また、図6に示すように、ACD制御量が大きくなる側にセグメント値が1から5まで設定され、セグメント36の表示数が多くなるようになっている。つまり、セグメント36の表示により車両1(図1参照)の駆動性能が高くなる状態が表示される。そして、ACD制御量が大きくなるに従って、表示状態の増減の変化が遅くなるように設定されている。つまり、セグメント値が1の場合のACD制御量hに対してセグメント値が4の場合のヨーモーメント制御量Hが多く(長く)設定され、ACD制御量が大きい程(小さい程)セグメント36の表示の切換えが遅く(早く)なるように設定されている。
【0058】
これにより、ACD制御量が小さい場合でもセグメント36の表示を確実に増減させることができると共に、ACD制御量が大きい場合にはセグメント36の表示の不必要な増減を抑制することができ、ACD制御量に拘わらず的確な表示を実施することができる。
【0059】
図7に基づいてセグメントの遷移状況を説明する。尚、以下の説明中の符号は、図4に示した符号であるので、図4と合わせて説明する。
【0060】
ACD制御量に対するセグメント36の状況は、セグメント値が1の場合、中心のセグメント36aが表示され、セグメント値が2の場合、中心のセグメント36aを含めて上下に1つのセグメント36が更に表示され、全部で3つのセグメント36が表示される。同様に、セグメント値が3の場合、全部で5つのセグメント36が表示され、セグメント値が4の場合、全部で7つのセグメント36が表示され、セグメント値が5の場合、9つ全てのセグメント36が表示される。
【0061】
ACD制御量が大きくなる場合、車両1(図1参照)の駆動性能が高くなる状態であるので、中心のセグメント36aから差動制限表示部35の上下方向にセグメント36が増加して駆動性能が高くなることが認識できる。
【0062】
右旋回の場合のヨーモーメント制御量に対するセグメント33の状況は、セグメント値が1の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の上側に1つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の下側に1つ表示され、セグメント値が2の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の上側に2つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の下側に2つ表示され、直感的に右旋回状態のアシストであることが認識できる。
【0063】
同様に、セグメント値が1つ増加する毎に、左表示部31aのセグメント33が基準部32の上側に1つ増加されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の下側に1つ増加され、セグメント値が5の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の上側に5つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の下側に5つ表示され、直感的に右旋回状態のアシストが大きいことが認識できる。
【0064】
左旋回の場合のヨーモーメント制御量に対するセグメント33の状況は、セグメント値が1の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の下側に1つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の上側に1つ表示され、セグメント値が2の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の下側に2つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の上側に2つ表示され、直感的に左旋回状態のアシストであることが認識できる。
【0065】
同様に、セグメント値が1つ増加する毎に、左表示部31aのセグメント33が基準部32の下側に1つ増加されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の上側に1つ増加され、セグメント値が5の場合、左表示部31aのセグメント33が基準部32の下側に5つ表示されると共に右表示部31bのセグメント33が基準部32の上側に5つ表示され、直感的に左旋回状態のアシストが大きいことが認識できる。
【0066】
上述した旋回挙動表示装置27では、ヨーモーメント表示部31の基準部32から旋回方向に向かうセグメント33の表示数が旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて円弧状態で増減するので、車両1(図1参照)のヨーモーメント制御量、即ち、旋回挙動(旋回力の状態)の制御状況を直感的に視認することができる。この結果、旋回力の制御状況を瞬時に認識することができ、車両1(図1参照)の持つ走行性能と安全性能を確実に有効活用することができる。また、左表示部31aの表示量と右表示部31bの表示量が同じ量に設定されるので、ヨーモーメント制御量の大きさと方向をそれぞれ正確に視認することができる。
【0067】
また、ヨーモーメント表示部31の左表示部31aと右表示部31bの間に差動制限表示部35が配されているので、差動制限度合いの制御状況が左右輪の旋回力の状態の制御状況の間に表示され、基準部32を中心に制御の度合いが表示され、車両1の駆動性能を加味した旋回力の状態の制御状況をより直感的に視認することができる。
【0068】
尚、上述した実施形態例では、ヨーモーメント表示部31の左表示部31aと右表示部31bの間に差動制限表示部35が配されている例を挙げて説明したが、少なくともヨーモーメント表示部31を備えていればよい。即ち、本実施形態例では、4輪駆動方式の車両で前後輪の差動制限力を制御するACD制御の状況を表示するようにしたが、2輪駆動方式の車両ではヨーモーメント表示部31だけを備えるようにすることが可能である。
【0069】
また、左右後輪のトルク差をコントロールすると共に左右前輪のブレーキ制御トルク差をコントロールし、統合的にヨーモーメントをコントロールするシステムによるヨーモーメント制御量を表示する例を挙げて説明したが、左右後輪のトルク差をコントロールするアクティブヨーコントロール(AYC)によるヨーモーメント量を表示することも可能であり、また、左右前輪のブレーキ制御トルク差をコントロールするシステムによるヨーモーメント量を表示することも可能である。
【0070】
図8に基づいて本発明の旋回挙動表示装置の他の例を説明する。
【0071】
図8(a)に示した旋回挙動表示装置27Aは、差動制限表示部35Aのセグメントが同心円状態に増減して表示されるようになっている。このため、ACD制御量の増減が認識しやすくなる。
【0072】
図8(b)に示した旋回挙動表示装置27Bは、ヨーモーメント制御量が大きくなるに従ってヨーモーメント表示部31Bのセグメントが長く表示されるようになっている。このため、旋回制御のアシスト量が認識しやすくなる。
【0073】
図8(c)に示した旋回挙動表示装置27Cは、基準部32Cが一体に表示されるようになっている。このため、旋回制御のアシスト状況とACD制御との状況が一体的に認識しやすくなる。
【0074】
図8(d)に示した旋回挙動表示装置27Dは、基準部32Dが一体に表示されると共に、ヨーモーメント表示部31Dと差動制限表示部35Dが同一形状で表示されるようになっている。このため、シンプルな表示で制御状況が認識しやすくなる。
【0075】
図8(e)に示した旋回挙動表示装置27Eは、ヨーモーメント表示部31Eの表示が扇形状に増減するようになっている。このため、旋回制御のアシスト量が連続的に認識しやすくなる。
【0076】
図8(f)に示した旋回挙動表示装置27Fは、ヨーモーメント表示部31Fの内側の枠がない状態の表示となっている。このため、旋回制御のアシスト状況とACD制御との状況がより一体的に認識しやすくなる。
【0077】
また、図8に示したように、旋回挙動表示装置の表示の中に、ACD(アクティブセンターデファレンシャル)、AWC(オールホイールコントロール)、S−AWC(スーパー・オールホイールコントロール)等の実施中の制御状況を同時に表示することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、旋回挙動制御手段を有する車両の旋回挙動制御の制御状況を表示する旋回挙動表示装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置が適用される車両の旋回挙動の制御状況を表す概念図である。
【図2】旋回挙動表示装置が搭載された車両の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置が備えられる計器盤の全体図である。
【図4】本発明の一実施形態例に係る旋回挙動表示装置の詳細図である。
【図5】ヨーモーメント制御量とセグメント値との関係を表すグラフである。
【図6】ACD制御量とセグメント値との関係を表すグラフである。
【図7】セグメントの遷移状況を説明する表図である。
【図8】本発明の旋回挙動表示装置の他の例を表す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 車両
2 エンジン
3 センタディファレンシャル(センターデフ)
4 前輪
5 後輪
6 トランスミッション
7 リアディファレンシャル(リアデフ)
8、13 車軸
9 前後輪間差動制限機構
10 前輪側ハイポイドギア機構
11 プロペラシャフト
12 後輪ハイポイドギア機構
14 左右輪間駆動力移動機構
17 中間ギア機構
20 ECU(電子コントロールユニット)
21 センターデフコントローラ
22 リアデフコントローラ
23 ブレーキ装置コントローラ
25 スピードメータ
26 タコメータ
27 旋回挙動表示装置
30 車両状況表示装置
31 ヨーモーメント表示部
32 基準部
33、36 セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪のトルクに差を生じさせることで車両の旋回挙動を制御する旋回挙動制御手段の制御状況を表示する旋回挙動表示装置であって、
前記左右輪のトルクが同じである時の基準部が設定され、
前記旋回挙動制御手段で設定される旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて、前記基準部から旋回方向に向かう表示状態が増減する表示手段を前記左右輪のそれぞれに対して備えた
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の旋回挙動表示装置において、
前記表示手段は、トルクが相対的に大きくされる側を前記基準部から上側に前記表示状態を増加させると共に、トルクが相対的に小さくされる側を前記基準部から下側に前記表示状態を増加させ、前記トルクが大きくされる側と小さくされる側の表示量が同じ量に設定される
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、
前記表示手段は、表示状態の増減を表わす複数のセグメントを備えた
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、
前記表示手段は、基準部を真ん中にした円弧形状に表示状態が増減するように形成されている
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、
前記表示手段は、前記左右輪のトルクの差が大きくなるに従って前記表示状態の増減の変化が遅くなるように設定されている
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の旋回挙動表示装置において、
前記旋回挙動制御手段は、前輪と後輪の間の差動制限度合いを調整することで車両の駆動性能を制御する機能を有し、
前記差動制限度合いを表示する差動制限表示部を備えた
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載の旋回挙動表示装置において、
前記左右輪のそれぞれに対して備えられた前記表示部の間に前記差動制限表示部が配され、
前記表示部の前記基準部に対応する位置を基準にして、前記差動制限表示部の表示状態が前記差動制限度合いに応じて両側に増減する
ことを特徴とする旋回挙動表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−29181(P2009−29181A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192594(P2007−192594)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】