説明

測定装置

【課題】微粒子の接触体を用いて、矩形溝形状を有するマイクロマシン等の三次元形状を高精度で測定する。
【解決手段】接触体6は、可撓性の支持部材5と透明な固定部材4によってプローブ本体9に連結される。対物レンズ3にてレーザ光Gを集光させ、接触体6の底面に焦点を合わせて光放射圧によって接触体6を被測定物13の表面に接触させる。レーザ光Gを音響光学偏向器2によって偏向させることで、接触体6を任意の方向に振動させることができる。被測定物13が矩形溝形状を有する三次元構造体であっても、接触体6の振動方向を調整することで高精度な形状測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用プローブの先端部に配置された接触体を被測定物の表面に接触させることにより、三次元形状を測定する接触式の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元構造を有する被測定物の表面の座標や形状を測定する三次元形状計測方法として、プローブを被測定物の表面に所定の接触力で押圧しながら被測定物の表面に倣って移動させ、プローブの移動位置から表面形状を測定する倣い測定法が知られている。
【0003】
従来の三次元形状計測方法においては、特許文献1に開示されているように、エアー軸受けを用いて上下に移動可能にプローブシャフトを設けることで、ばねで自重を支えていた。これにより、測定に伴う加重で被測定物を傷つけたり、被測定物の取り付け位置がずれたりしないように、なるべく小さな接触力にて測定を行っていた。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、被測定物にプローブを押し付ける接触力を低減するには限界がある。そこで、特許文献2に開示されたように、剛体であるシャフトを介さずに、レーザ光の光放射圧によりトラップした微粒子を接触体とするプローブを用いて微細加工された被測定物の形状測定を行う方法がある。
【0005】
集光レンズで集光して微粒子に照射されるレーザ光は、微粒子と外気の境界面で反射・屈折するため光放射圧が発生する。このような光放射圧の鉛直上向き方向の合力(トラップ力)が微粒子に対して自重以上の力を作用させることで、微粒子を保持する。このように光放射圧によって保持した微粒子を接触体として用いることで、10−5Nオーダの接触力を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−265340号公報
【特許文献2】特開2004−12244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された方法は、接触力の低減には有力な手段であるが、測定を開始する前に、予め配置しておいた微粒子を、接触体として最初に捕捉しなくてはならない。
【0008】
また、光放射圧により微粒子の自重を越える鉛直上向きの合力を発生させるためには、検出光学系の光軸に対して大きな角度で微粒子に光を集光しなくてはならない。このため、矩形溝形状を測定する場合には、微粒子に照射されるべき光が被測定物により遮蔽され、光放射圧による微粒子の保持が不可能になってしまうことがある。
【0009】
さらに、微粒子は球形の透明体であることを前提としており、照射光が微粒子から透過し洩れ出ている。このため、被測定物に微粒子が接近した際に被測定物へ透過光が到達して反射され、照射光と反射光が干渉し、光放射圧に変化を与えることによる測定誤差を生じてしまう。
【0010】
本発明は、光放射圧を利用する接触体を測定の都度捕捉する必要が無く、しかも、被測定物の側面や溝形状部の測定においても高精度で安定した形状測定を行うことが可能である測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の測定装置は、接触体と、被測定物に沿って移動可能であるプローブ本体とを備え、前記接触体を被測定物に接触させて倣い走査させるとともに、前記プローブ本体の位置を計測することにより三次元形状を測定する測定装置において、前記接触体を支持し、前記プローブ本体に前記接触体を連結する可撓性の支持部材と、前記プローブ本体に支持された対物レンズと、前記対物レンズを介して前記接触体に光を集光する光学系と、前記接触体からの後方散乱光を受光し、被測定物に接触した前記接触体の前記プローブ本体に対する位置を検出するための光検出器と、前記接触体を被測定物に接触させた状態で、前記プローブ本体に対する前記接触体の位置を一定に保持しながら、前記プローブ本体を被測定物に沿って移動させる移動手段と、前記プローブ本体の位置を計測する位置計測器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
接触体が、接触体を支持する可撓性の支持部材によってプローブ本体に連結され、支持部材により鉛直上向きの力を受けるため、光放射圧によって接触体の自重を支える必要が無い。したがって、光放射圧を発生させるための光は光学系の光軸付近の角度で接触体に集光させればよい。例えば、矩形溝形状の側壁に接触体を接触させる場合においても光が遮られることなく、より複雑な三次元形状を測定できる。
【0013】
接触体が被測定物へ接触すると、可撓性の支持部材が座屈(弛む)することにより、プローブ本体の運動によって被測定物に伝わる力が低減される。このため、接触体が可撓性のないシャフトでプローブ本体と連結されている場合に比べて、接触力を非常に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態による測定装置を示す模式図である。
【図2】第2の実施形態による測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態を示す。この測定装置は、光源(ファイバーレーザ)1と、光源1から出射したレーザ光Gの光の強度及び照射方向を変える照射方向変更器である音響光学偏向器2とを有する。また、測定装置は、プローブ本体9に支持された、レーザ光Gを集光させる対物レンズ3等を含む光学系を有する。
【0016】
レーザ光Gを透過させる固定部材4及び可撓性を有する支持部材5からなる連結部に連結された接触体6は、可撓性の支持部材5を構成する石英の細線の先端部を溶融させ、溶融部の表面張力を利用して球形に成形された球状体である。これにより接触体6は可撓性の支持部材5の先端に支持される。また、可撓性の支持部材5の基端は、固定部材4のレーザ光Gが透過する部分に固定されている。したがって、接触体6は、可撓性の支持部材5により固定部材4を介してプローブ本体9に連結されている。なお、接触体のプローブ本体への連結構造は、これに限定するものではなく、接触体が可撓性の支持部材により直接プローブ本体に連結(即ち、支持部材が直接プローブ本体に支持)されてもよい。支持部材5は光学系の光を透過させ、被測定物に接触する球状体の下半球はクロム膜にて反射処理が施してある。ハーフミラー7は、光源1からきたレーザ光Gを対物レンズ3へ反射して折り曲げつつ、接触体6からの後方散乱光を光検出器8へ透過させる。
【0017】
プローブ本体9は、対物レンズ3、レーザ光Gを透過させる固定部材4等を支持する。プローブ本体9のZ方向の変位は、プローブ本体9の位置を計測する位置計測器である干渉計10により、フレーム12上に固定された位置基準である参照ミラー11との距離を測定することによって計測される。被測定物13の表面に沿って倣い走査するプローブ本体9は、移動手段であるXYテーブル16上にガイド15によって支持され、ボールネジ14を駆動要素として組み込んだ直動ユニットにてZ方向へ移動可能になっている。また、XYテーブル16がXY方向へ移動することで、プローブ本体9のXY方向への走査が行われる。なお、移動手段の構成は、上記の例に限らず、装置の使用者が適宜決めてよい。
【0018】
レーザ光Gは光源1を出射した後、音響光学偏向器2を通過しハーフミラー7にて折り曲げられ、対物レンズ3により接触体6の底面に集光される。このとき接触体6は、レーザ光Gによる重力方向の光放射圧の影響により、レーザ光Gの焦点を追従するように移動する。そのため、音響光学偏向器2によってレーザ光Gを偏向することにより照射点(焦点)を振動させることで、任意の方向の振動を接触体6に励振することができる。例えば、レーザ光Gの強度及び照射方向を変化させることにより、鉛直方向や水平方向の振動を接触体6に与えて、被測定物13の表面や溝形状部、被測定物13の側面などをそれぞれ高精度で計測することができる。このように既知の振動を接触体6に与えながら測定すると、空気揺らぎなどの外乱の影響を区別してさらに高精度に計測することができる。なお音響光学偏向器に替えて電気光学素子を用いてもよい。可撓性を有する支持部材5及び照射されたレーザ光による光放射圧によって接触体6を特定の位置に保持するためには、音響光学偏向器2は本願の測定装置には必ずしも必須ではないが、外乱によるノイズの低減に有効であるため適宜利用してよい。
【0019】
反射処理を施された接触体6で反射されたレーザ光Gの後方散乱光は、対物レンズ3を介してハーフミラー7を通過し、光検出器8によって受光される。このとき、後方散乱光の光検出器8への入射強度分布は接触体6の移動に伴って移動するため、接触体6の振動と同じ周波数の光検出器8への入射強度分布の変動を得ることができる。音響光学偏向器2に入力した偏向周波数を基準周波数として、光検出器8での検出信号をロックイン検出してやれば、背景光などの、接触体6の変位に関する以外の情報を除いた光検出ができる。
【0020】
接触体6が被測定物13に接触した際、その位置の変化はレーザ光Gの後方散乱光の分布に反映されるので、光検出器8の検出情報(出力)の変化として、接触体6の被測定物13への接触を検知することができる。光検出器8の出力に応じて、接触体6を接触直後の状態を維持するようにプローブ本体9の位置を制御することで、プローブ本体9に対する接触体6の位置を一定に保つことができる。
【0021】
プローブ本体9に対する接触体6の位置を一定に保持して接触体6を被測定物13の表面に接触させながら、接触体6が被測定物13の表面を倣うようにXYテーブル16を走査する。そのときの干渉計10と参照ミラー11との距離変動を測定することで、被測定物13の表面形状(三次元形状)を計測することができる。ここで、「一定に保持」とは、プローブ本体9の位置を特定の制御目標値に近づける制御動作をいう。
【0022】
従来の光放射圧によって接触体である微粒子を支える構成と比べて、本実施形態では支持部材5によって支えられた接触体6の位置を定めるために光放射圧を用いる点が大きく異なる。本実施形態によれば、接触体6に対して対物レンズ3により光を集光し、光放射圧を接触体6に対して発生させ、プローブ本体9から離れる方向の力を与え接触体6をプローブ本体に対して所望の位置に配することができる。また接触体6とプローブ本体9とが可撓性の支持部材5によって連結されているため、接触体6を紛失するおそれがない。光放射圧により、接触体6がプローブ本体9から離れる方向に力を受けたときに、接触体6は支持部材5による張力との釣り合いにより一定位置に保持される。また接触体6が被測定物13に接触したときに、可撓性の支持部材5が座屈(弛む)することにより、プローブ本体9の運動によって被測定物13に伝わる力を低減できる。
【0023】
可撓性の支持部材5としては、接触体6とプローブ本体9との距離に上限をもたらすもので、かつ、接触体6が被測定物13に接触し、支持部材5が圧縮方向の力を受けた際に、直ちに座屈する可撓性部材であればよい。可撓性の支持部材5は、光を透過させる部材からなるとさらによい。
【0024】
また、プローブ本体9及び接触体6との間に、座屈係数の高い連結部を有していてもよい。例えば、連結部を構成する支持部材5の片方の端が事実上の回転端を構成し、支持部材5自体が所望の接触力において十分座屈を起こす形状を有するか、支持部材5の少なくとも片方の端が回転を許す機構を有する構成であることが好ましい。
【0025】
接触体6に光を反射する膜(クロム膜)を設けることにより、接触体6を透過する光を遮断することができる。これにより、接触体6の透過光が被測定物表面に照射されることによって生じる不要な迷光を減少させることができ、また照射される光と迷光との干渉による光放射圧の変化に伴う測定誤差の発生を防ぐことができる。
【0026】
対物レンズ3の上にダイクロイックミラーやハーフミラーを付加して、レーザ光Gとは別波長で検出上有利な落射照明を用いることもできる。この照明系を追加することで、接触体6に対して平行光線にて照明し、接触体6からの照明光の後方散乱光の結像をCCDや光位置検出素子などの光検出器によって二次元的に検出してもよい。
【0027】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態を示すもので、これは、第1の実施形態のレーザ光Gとは別波長の光である照明光Hを用いて、被測定物13への接触に伴う接触体6の変位を捉える。
【0028】
本実施形態では、図1の構成に対して、集光レンズ17、ハーフミラー18、光源19、光検出器20等を含む照明系を付加する。光源19から発生させた照明光Hは、プローブ本体9においてハーフミラー18を透過し、集光レンズ17により集光され、一旦焦点を結んだ後にダイクロイックミラー21にて反射され、対物レンズ3にて平行光線となって出射する。ダイクロイックミラー21はレーザ光Gを透過し、照明光Hは反射する特性を持つ。照明光Hにより接触体6を照明し、その後方散乱光を再び対物レンズ3にて集光し、ダイクロイックミラー21により反射させる。その後、照明光Hの後方散乱光は集光レンズ17を経てハーフミラー18で反射され、光検出器(光位置検出素子)20にて検出される。
【0029】
照明光Hによる後方散乱光の場合でも、光検出器20への入射強度分布は接触体6の移動に伴って移動するため、前述のように、接触体6の振動と同じ周波数の光検出器20への入射強度分布の変動を得ることができる。このとき、音響光学偏向器2に入力した偏向周波数を基準周波数として、光検出器20での検出信号をロックイン検出してやれば、背景光などの、接触体6の変位に関する以外の情報を除いた光検出ができる。
【0030】
本実施形態は、接触体6を光放射圧によって振動させるためのレーザ光G(例えば、1000nm以上の赤外線領域の長波長)とは別波長の照明光Hによって接触体6を照明し、その後方散乱光を検出する。このような構成では振動させるためのレーザ光Gとは異なる波長(例えば700nm以下の短波長)を選んで用いることができるため音響光学素子などの照射方向変更器を通過する際に生じるノイズの影響を抑制することができる。したがって接触体6を励振させるための光と検出光とが共通する第1の実施形態で示したような構成の測定装置よりも高い感度で接触体6の変位、振動を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明は、例えばマイクロマシン等の矩形溝形状部を有する三次元形状を高精度に測定することなどに好適に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1、19 光源
3 対物レンズ
5 支持部材
6 接触体
7、18 ハーフミラー
8、20 光検出器
9 プローブ本体
13 被測定物
16 XYテーブル
G レーザ光
H 照明光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触体と、被測定物に沿って移動可能であるプローブ本体とを備え、前記接触体を被測定物に接触させて倣い走査させるとともに、前記プローブ本体の位置を計測することにより三次元形状を測定する測定装置において、
前記接触体を支持し、前記プローブ本体に前記接触体を連結する可撓性の支持部材と、
前記プローブ本体に支持された対物レンズと、
前記対物レンズを介して前記接触体に光を集光する光学系と、
前記接触体からの後方散乱光を受光し、被測定物に接触した前記接触体の前記プローブ本体に対する位置を検出するための光検出器と、
前記接触体を被測定物に接触させた状態で、前記プローブ本体に対する前記接触体の位置を一定に保持しながら、前記プローブ本体を被測定物に沿って移動させる移動手段と、
前記プローブ本体の位置を計測する位置計測器と、を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記接触体には、前記接触体に集光された光を反射する膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記支持部材は、光を透過させる部材からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記光学系には、前記光学系の光の強度及び照射方向を変えるための照射方向変更器が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記光検出器は、前記光学系の光による後方散乱光を受光し、前記接触体の変位を検出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記光学系の光とは別波長の照明光を前記接触体に照射し、前記照明光による後方散乱光を集光する照明系を有し、
前記光検出器は、前記照明光による後方散乱光を検出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−80978(P2011−80978A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176252(P2010−176252)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】