発光サイリスタ、発光素子アレイ、発光装置および画像形成装置
【課題】 ベース層のキャリア濃度および厚み寸法を大きく設定することなく、発光強度に対する電流増幅率βの影響を抑制することのできる発光サイリスタ、発光素子アレイ、発光装置および画像形成装置を提供することである。
【解決手段】 発光サイリスタは、基板上に第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されており、第3半導体層のバンドギャップは、第2半導体層のバンドギャップと略同一、かつ、第1および第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、第3半導体層は、基板側の第1領域と基板と反対側の第2領域とからなり、かつ、第1領域の不純物濃度は1×1016(cm−3)未満である。
【解決手段】 発光サイリスタは、基板上に第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されており、第3半導体層のバンドギャップは、第2半導体層のバンドギャップと略同一、かつ、第1および第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、第3半導体層は、基板側の第1領域と基板と反対側の第2領域とからなり、かつ、第1領域の不純物濃度は1×1016(cm−3)未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N型半導体層とP型半導体層とを順次積層してなるサイリスタのうち、半導体層の内部での発光が外部に取り出されるとともに、その発光状態を外部から電気的にあるいは光を照射することによって制御可能であって、発光強度及び受光感度を向上させた発光サイリスタに関する。また本発明は、この発光サイリスタを用いた発光素子アレイに関する。また本発明は、この発光サイリスタを光励起による転送スイッチ素子として集積した自己走査型の発光装置に関するものであり、さらにこの発光装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚み方向に積層してエピタキシャル成長によって形成される複数の半導体層からなる発光サイリスタにおいて、NPNまたはPNPとして形成される半導体層は、ホトトランジスタを形成する。したがって、電流増幅率βを求めることができる。
【0003】
電流増幅率βは、ベースおよびエミッタについて、多数キャリア濃度、少数キャリアの拡散係数、および少数キャリアの拡散長と、ベースの厚み寸法とから、計算によって求めることができる。電流増幅率βの値が小さければ小さいほど、発光強度がキャリア濃度よりも電流増幅率βに依存しやすくなるという問題点がある。したがって、電流増幅率βの値は、ある程度以上高いことが望まれる。
【0004】
第1の従来技術として、PNPNの4層によって発光サイリスタを形成する技術が知られている(たとえば特許文献1参照)。第1の従来技術における電流増幅率βを計算によって求めると、およそ145程度の値であり、コレクタを成す層のN型キャリア濃度の増大に対して発光強度が飽和してしまい、充分な発光強度が得られないという問題点がある。
【0005】
また電流増幅率βは、発光サイリスタを発光させるために印加が最低限必要となるしきい電圧VBOにも関係を有している。このしきい電圧VBOは、ある程度以上大きく設定する必要がある。
【0006】
第2の従来技術として、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層と、第1半導体層とは反対の導電型の第2半導体層と、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層と、第1半導体と反対の導電型の第4半導体層がこの従に積層されている発光サイリスタが知られている(たとえば特許文献2参照)。
【0007】
第2の従来技術における電流増幅率βを計算によって求めると、2000を超え、充分に大きな電流増幅率βである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−308385号公報
【特許文献2】特開2007−180460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発光させるために印加が必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくするためには、トランジスタ型の各層を形成するための各層のうち、中央の層のキャリア濃度を大きくするか、または中央の層の厚み寸法を大きく設定する必要がある。電流増幅率βが大きい場合には、中央の層のキャリア濃度または厚み寸法として必要となる値がさらに大きくなるという問題点がある。また、仮に中央の層のキャリア濃度を大きくしたり、厚み寸法を大きく設定すれば、電流増幅率βの値が小さくなってしまうという問題点がある。
【0010】
本発明の目的は、トランジスタ型の層を形成するための各層のうち、中央の層のキャリア濃度および厚み寸法を大きく設定することなく、発光強度に対する電流増幅率βの影響を抑制することのできる発光サイリスタ、これによって構成される発光素子を含む発光素子アレイ、この発光素子アレイを備える発光装置およびこの発光装置を備える画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発光サイリスタは、基板上に、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されている発光サイリスタにおいて、
前記第3半導体層のバンドギャップは、前記第2半導体層のバンドギャップと略同一であり、かつ、前記第1および前記第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、
前記第3半導体層は、前記基板側の第1領域と前記基板と反対側の第2領域とを含んでなり、かつ、前記第1領域の不純物濃度は前記第2領域の不純物濃度よりも低く、かつ1×1016(cm−3)未満であり、
前記第2半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第1領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であり、かつ、前記第1半導体の不純物濃度より低濃度であり、
前記第4半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第2領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする。
【0012】
また本発明の発光サイリスタによれば、前記第1領域の不純物濃度は、5×1015(cm−3)以上であることを特徴とする。
【0013】
また本発明の発光サイリスタによれば、前記第1の発光サイリスタにおいて前記第4半導体層の前記基板と反対側に、前記第4半導体層と同じ導電型の第5半導体層が積層され、前記第5半導体層のバンドギャップは、前記第4半導体層のバンドギャップと略同一またはそれより広幅であり、前記第5半導体層の不純物濃度は、前記第4半導体層の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする。
【0014】
また本発明の発光素子アレイによれば、
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする前記発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに、第1および第2の抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して正の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して負の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であることを特徴とする。
【0015】
また本発明の発光装置によれば、
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする前記発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極である発光素子アレイを複数備える発光素子アレイ部と、
前記第1電極と電気的に接続され、前記第1信号を供給する第1の駆動回路と、
前記第2電極と電気的に接続され、前記第2信号を供給する第2の駆動回路と、
前記第3信号と電気的に接続され、前記第3信号を供給する第3の駆動回路とを含み、
前記第1の駆動回路は、ハイレベルおよびローレベルを有する前記第1信号の前記ハイレベルまたは前記ローレベルの電位を設定する第1信号レベル設定手段を有することを特徴とする。
【0016】
また本発明の発光装置によれば、前記スイッチ素子を構成する前記発光サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含むことを特徴とする。
【0017】
また本発明の画像形成装置によれば、前記発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
感光体ドラムに前記発光装置の発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発光サイリスタによれば、第4半導体層(P型)のバンドギャップが第3半導体層(N型)のバンドギャップよりも大きいことから、両半導体層の界面でポテンシャル障壁が形成され、第1半導体層から注入された電子を閉じ込め、第3半導体層(N型)での電子密度を増大させることができる。また、第3半導体層(N型)を第1領域と第2領域の2層に分けて、第4半導体層(P型)側の第2領域の不純物濃度を高めたことから、第2領域での熱平衡状態の電子密度が増大する。さらに、第4半導体層(P型)の不純物濃度を第2領域の不純物濃度と略同一かそれより高濃度にしたことによって、第4半導体層から第2領域に注入される正孔密度を高めることができる。以上の設定によって、第2領域で正孔と電子とを効率よく再結合させて発光させることができ、内部量子効率を高めることができる。
【0019】
また、光の取り出し方向である第4半導体層(P型)のバンドギャップは、主たる発光層である第2領域のバンドギャップよりも広幅であるので、発光した光の吸収層とはならない。主たる発光層が光の取り出し方向に近い第2領域であることから、主たる発光層自身での吸収も問題とならず、本発明によれば、光の取り出し効率にも優れた発光サイリスタを提供することができる。
【0020】
また第1領域の不純物濃度を前記の値としたことによって、電流増幅率の値を、充分に大きくすることができ、かつトランジスタ型の各層を形成する層のうち、中央の層の厚み寸法およびキャリア濃度を低く抑えることと、発光のために必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくすることとを両立することができる。したがって、発光強度に対する電流増幅率の影響を抑制することができる。
【0021】
また本発明の発光サイリスタによれば、高不純物濃度の第5半導体層(P型)を極薄膜のオーミックコンタクト層と第4半導体層(P型)との間に介することによって、アノード電極との間で良好なオーミック接触をとることができる。第5半導体層(P型)のバンドギャップは第4半導体層(P型)のバンドギャップと略同一またはそれより広幅なので、内部で発光した光の吸収層とならず、光の取り出し効率を低下させることはない。
【0022】
本発明の発光素子アレイによれば、発光素子アレイは、第1信号および第2信号が共に入力されているときに制御信号を出力するn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、前記制御信号が伝送されるn本の信号伝送路と、前記信号伝送路からの制御信号と共に、第3信号が入力されているときに発光する複数(n個以上)の発光素子とを含んで構成される。各スイッチ素子の第1電極は、スイッチ素子間でそれぞれ相互に電気的に接続されているので、発光素子アレイに含まれる全てのスイッチ素子に共通の第1信号を与えることができる。
【0023】
発光素子アレイを構成する各スイッチ素子に共通の第1信号が入力されている場合には、第2信号が入力されるスイッチ素子に接続された信号伝送路に制御信号が出力される。さらに制御信号が出力される信号伝送路に接続された発光素子に第3信号が入力されると、この発光素子が発光する。逆に、発光素子アレイに共通の第1信号が入力されていない場合には、各スイッチ素子は、第2信号が入力されていても、制御信号を出力しないので、発光素子に第3信号が入力されたとしても、第3信号が入力された発光素子は発光しない。
【0024】
したがって、複数の発光素子アレイを用いて発光装置を構成する場合には、第1信号によって、どの発光素子アレイに属する発光素子を発光させるかを選択することができる(以下、第1信号が入力されている発光素子アレイは選択状態にあるという)。そこで、発光装置を構成する各発光素子アレイに順番に第1信号を与えて選択状態にすることで、各発光素子アレイに第2信号および第3信号を与えるための駆動用IC、ならびに各発光素子と駆動用ICとの間の配線を、複数の発光素子アレイ間で共用する時分割駆動を行うことができる。このように、本発明の発光素子アレイを用いて発光装置を構成すると、各発光素子アレイ間で駆動用ICおよび配線を共用することができるので、少ない駆動用IC数および配線数で構成された発光装置が実現できる。
【0025】
前記スイッチ素子は、発光サイリスタと、第1および第2の抵抗体とを含んで構成され、また前記発光素子は、発光サイリスタを含んで構成される。ここで、スイッチ素子および発光素子を構成する発光サイリスタは、カソードまたはアノードを共通の電極(電位をVg=0ボルトとする)にして用いられる。
【0026】
カソードを共通電極とする場合には、スイッチ素子は、発光サイリスタのNゲート電極と、第1の抵抗体の一端と、第2の抵抗体の一端とが接続されて構成される。第1の抵抗体の他端は、共通の電極であるカソードを基準電位として正の電圧が印加される。この場合、第2の抵抗体の他端が第1信号を入力するための第1電極に相当し、発光サイリスタのアノードが第2信号を入力するための第2電極に相当し、発光サイリスタのNゲート電極が制御信号を出力するための第1制御電極に相当する。また、発光素子は、発光サイリスタで構成され、第3信号を入力するための第3電極が、発光サイリスタのアノードに相当し、制御信号を入力するための第2制御電極が、発光サイリスタのNゲート電極に相当する。
【0027】
前記の回路構成による回路動作の一例を示す。
第1信号として、ローレベル(電位を0ボルトとする)の信号を第2の抵抗体の他端に印加するとともに、第1の抵抗体の他端に印加される正の電圧をVccボルトとする。また第1信号が入力されていない状態では、第2の抵抗体の他端にVccボルトと同じ電位のハイレベルの電圧(Vccボルト)が印加されているとする。スイッチ素子を構成する発光サイリスタ(以下、スイッチ用サイリスタという)のNゲート電極には、第1および第2の抵抗体の各抵抗値に応じた分圧が印加されるので、第1信号が入力されていない状態では、Vccボルトが印加され、第1信号が入力されている状態では、Vccボルトの分圧(Vdボルト)が印加される。
【0028】
また第2信号としてハイレベルの信号をスイッチ用サイリスタのアノードに印加し、第2信号が入力されていない状態では、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第2信号のハイレベルは、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号が入力されると、スイッチ用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって第1信号が入力されて、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号のハイレベルが入力されると、スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移する。スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移すると、第1制御電極に相当するスイッチ用サイリスタのNゲート電極が、Vdからほぼ0ボルトに遷移して、制御信号としてほぼ0ボルトが出力される。また第2信号が入力されておらず、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベルの電圧が印加されていると、第1信号が入力されているか否かにかかわらず、スイッチ用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわちスイッチ用サイリスタは、第1および第2信号が入力された場合にのみオン状態に遷移して、制御信号を出力するAND回路として機能する。
【0029】
また発光素子を構成する発光サイリスタ(以下、発光用サイリスタという)は、しきい電圧等の電流電圧特性がスイッチ用サイリスタと等しいとする。また第3信号としてハイレベルの信号を発光用サイリスタのアノードに印加し、第3信号が入力されていない状態では、発光用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第3信号のハイレベルは、発光用サイリスタのNゲート電極にVdまたはVccが印加されている状態で、第3信号が入力されたとしても発光用サイリスタがオフ状態を維持し、かつ発光用サイリスタのNゲート電極にほぼ0ボルトの制御信号が印加されている状態で、第3信号が入力されると発光用サイリスタがオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって、第1および第2信号が入力されて、制御信号が発光用サイリスタのNゲート電極に入力されている状態で、第3信号が入力されると、発光用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移して発光する。また第1および第2信号のうちの少なくともいずれか一方が入力されておらず、制御信号が入力されていない状態では、第3信号が入力されているか否かにかかわらず、発光用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわち発光用サイリスタは、第1、第2および第3信号の全ての信号が入力された場合のみ発光する。
【0030】
したがって、本発明によれば、たとえばNANDゲートやインバータなどの複雑な半導体装置を用いることなく、発光サイリスタを用いた簡単な回路構成で、第1〜第3信号を与えることによって選択的に発光素子を発光させる論理回路を構成することができるので、設計が容易で製造工程が簡単な発光素子アレイが実現できる。
【0031】
なお、発光サイリスタのアノードを共通の電極とする場合には、発光サイリスタの極性を反対にし、第1の抵抗体の他端に印加される電圧の正負を反対にし、発光サイリスタのゲート電極の導電型を反対にすれば、同様にして前述の論理回路が実現できる。
【0032】
本発明の発光装置によれば、発光素子アレイは、第1信号および第2信号が共に入力されているときに制御信号を出力するn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、前記制御信号が伝送されるn本の信号伝送路と、前記信号伝送路からの制御信号と共に、第3信号が入力されているときに発光する複数(n個以上)の発光素子とを含んで構成される。各スイッチ素子の第1電極は、スイッチ素子間でそれぞれ相互に電気的に接続されているので、発光素子アレイに含まれる全てのスイッチ素子に共通の第1信号を与えることができる。
【0033】
発光素子アレイを構成する各スイッチ素子に共通の第1信号が入力されている場合には、第2信号が入力されるスイッチ素子に接続された信号伝送路に制御信号が出力される。さらに制御信号が出力される信号伝送路に接続された発光素子に第3信号が入力されると、この発光素子が発光する。逆に、発光素子アレイに共通の第1信号が入力されていない場合には、各スイッチ素子は、第2信号が入力されていても、制御信号を出力しないので、発光素子に第3信号が入力されたとしても、第3信号が入力された発光素子は発光しない。
【0034】
発光装置は、複数の前記発光素子アレイと、各発光素子アレイに第1信号を供給する第1の駆動回路と、第2信号を供給する第2の駆動回路と、第3信号を供給する第3の駆動回路とを含んでいる。したがって、前記発光素子アレイを複数用いて構成される本発明の発光装置では、第1信号によって、どの発光素子アレイに属する発光素子を発光させるかを選択することができ(以下、第1信号が入力されている発光素子アレイは選択状態にあるという)、複数の発光素子アレイのうちのいくつかを選択状態にし、選択状態にない発光素子アレイは第2信号および第3信号が入力されても発光しないようにすることができる。発光装置を構成する各発光素子アレイに順番に第1信号を与えて選択状態にすることで、各発光素子アレイと第2信号および第3信号を与えるための第2および第3の駆動回路との間の配線を、複数の発光素子アレイ間で共用する時分割駆動を行って発光装置を安定に動作させることができる。したがって、駆動用回路の数、および駆動用回路を実装する基板の層数を少なくすることができ、発光素子アレイおよび駆動用回路実装基板の面積を小さくすることができ、小形でかつ安定に動作する発光装置が実現できる。
【0035】
前記第1信号の信号レベルは、発光素子アレイの外部に設けられる第1信号レベル設定手段によって設定されるから、発光素子アレイの回路を簡略化することができ、発光素子アレイのチップサイズを小さくすることができる。また、第1信号レベル設定手段は、複数の発光素子アレイで共有される第1の駆動回路に1つ設ければ済むため、個々の発光素子アレイに同様の機能を設けるのに比べて全体として発光装置の機能を低下されることなく構成を簡略化することができる。
【0036】
前記スイッチ素子は、発光サイリスタと、抵抗体とを含んで構成され、また前記発光素子は、発光サイリスタを含んで構成される。ここで、スイッチ素子および発光素子を構成する発光サイリスタは、カソードまたはアノードを共通の電極(電位をVg=0ボルトとする)にして用いられる。
【0037】
カソードを共通電極とする場合には、スイッチ素子は、発光サイリスタのNゲート電極と、第1の抵抗体の一端とが接続されて構成される。この場合、抵抗体の他端が第1信号を入力するための第1電極に相当し、発光サイリスタのアノードが第2信号を入力するための第2電極に相当し、発光サイリスタのNゲート電極が制御信号を出力するための第1制御電極に相当する。また、発光素子は、発光サイリスタで構成され、第3信号を入力するための第3電極が、発光サイリスタのアノードに相当し、制御信号を入力するための第2制御電極が、発光サイリスタのNゲート電極に相当する。
【0038】
前記の回路構成による回路動作の一例を示す。
第1信号として、ローレベル(電位を2.5ボルトとする)かまたはハイレベル(電位を5ボルトとする)の信号を抵抗体の他端に印加する。スイッチ素子を構成する発光サイリスタ(以下、スイッチ用サイリスタという)のNゲート電極には、第1の駆動回路の第1信号レベル設定手段により、スイッチ用サイリスタをスイッチングするのに適したローレベルおよびハイレベルの各電位が予め設定された第1信号が入力される。第1信号レベル設定手段は、たとえば、直列接続された複数の抵抗器から構成され、直列接続されたそれら複数の抵抗器の中途の接続部から出力される電圧に応じて、第1信号のハイレベルまたはローレベルの電位が設定される。その電位は、複数の抵抗器の分圧比で制御される。
【0039】
また第2信号としてハイレベルの信号をスイッチ用サイリスタのアノードに印加し、第2信号が入力されていない状態では、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第2信号のハイレベルは、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号が入力されると、スイッチ用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって第1信号が入力されて、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号のハイレベルが入力されると、スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移する。スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移すると、第1制御電極に相当するスイッチ用サイリスタのNゲート電極が、Vdからほぼ0ボルトに遷移して、制御信号としてほぼ0ボルトが出力される。また第2信号が入力されておらず、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベルの電圧が印加されていると、第1信号が入力されているか否かにかかわらず、スイッチ用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわちスイッチ用サイリスタは、第1および第2信号が入力された場合にのみオン状態に遷移して、制御信号を出力するAND回路として機能する。
【0040】
また発光素子を構成する発光サイリスタ(以下、発光用サイリスタという)は、しきい電圧等の電流電圧特性がスイッチ用サイリスタと等しいとする。また第3信号としてハイレベルの信号を発光用サイリスタのアノードに印加し、第3信号が入力されていない状態では、発光用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第3信号のハイレベルは、発光用サイリスタのNゲート電極にVdまたはVccが印加されている状態で、第3信号が入力されたとしても発光用サイリスタがオフ状態を維持し、かつ発光用サイリスタのNゲート電極にほぼ0ボルトの制御信号が印加されている状態で、第3信号が入力されると発光用サイリスタがオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって、第1および第2信号が入力されて、制御信号が発光用サイリスタのNゲート電極に入力されている状態で、第3信号が入力されると、発光用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移して発光する。また第1および第2信号のうちの少なくともいずれか一方が入力されておらず、制御信号が入力されていない状態では、第3信号が入力されているか否かにかかわらず、発光用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわち発光用サイリスタは、第1、第2および第3信号の全ての信号が入力された場合のみ発光する。
【0041】
したがって、本発明によれば、たとえばNANDゲートやインバータなどの複雑な半導体装置を用いることなく、発光サイリスタを用いた簡単な回路構成で、第1〜第3信号を与えることによって選択的に発光素子を発光させる論理回路を構成することができるので、設計が容易で製造工程が簡単な発光装置が実現できる。
【0042】
なお、発光サイリスタのアノードを共通の電極とする場合には、発光サイリスタの極性を反対にし、発光サイリスタのゲート電極の導電型を反対にすれば、同様にして前述の論理回路が実現できる。
【0043】
また本発明の発光装置によれば、前記のスイッチ用サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含む。前記遮光手段または減光手段は、スイッチ用サイリスタがスイッチングするときに発する光が発光用サイリスタに入射しないように働くため、その光による発光用サイリスタのしきい電圧の変動を防ぐことができる。よって、発光素子およびスイッチ素子を発光サイリスタで構成した場合において、発光素子アレイを安定に動作させることが可能となる。
【0044】
本発明の画像形成装置によれば、画像情報に基づいて前記発光装置を駆動手段によって駆動して、発光装置からの光を集光手段によって、帯電した感光体ドラムに集光することによって、感光体ドラムは露光され、その表面に静電潜像が形成される。静電潜像が形成された感光体ドラムに、現像剤供給手段によって現像剤を供給すると、感光体ドラムに現像剤が付着して画像が形成される。転写手段によって、感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写して、定着手段によって記録シートに転写された現像剤を定着させることによって、記録シートに画像が形成される。
【0045】
またスイッチ素子は走査方向に沿って順番に発光するが、スイッチ素子と発光素子とが離間しており、発光素子の発光によって感光体ドラムが露光され、スイッチ素子の発光によって感光体ドラムを露光させることがないので、優れた品質の記録画像を得ることができる。
【0046】
また感光体ドラムへの露光を行うための発光素子と、信号転送のためのスイッチ素子とを一体的に集積化したものとすることができるので、発光装置を実装するための回路基板を小型化することができ、この回路基板とのワイヤボンディングの数および回路基板に搭載すべき駆動ICの数を低減することができる。したがって、回路基板の小型化および低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115の基本的構成を示す断面図と各層の不純物濃度とバンドギャップを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115において、第2領域106の不純物濃度を変化させたときの、発光サイリスタ115の発光強度を示す図である。
【図3】NPNの層構造を有する発光サイリスタにおいて、コレクタを成す半導体層のN型キャリアの濃度と発光強度との関係を複数の電流増幅率βの値に対してプロットした図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の発光サイリスタ116の基本的構成を示す断面図と各層の不純物濃度とバンドギャップを示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態の発光素子アレイチップ1の基本構成を示す一部の平面図である。
【図6】図5の切断面線VI−VIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図7】図5の切断面線VII−VIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図8】図5の切断面線VIII−VIIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図9】本発明の実施の一形態の発光装置10を模式的に示すブロック回路図である。
【図10】発光装置10の動作を示すタイミングチャートである。
【図11】発光用サイリスタTのアノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。
【図12】発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の発光サイリスタおよびそれを用いた本発明の発光装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。
【0049】
図1は、本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115の断面図と、発光サイリスタ115を構成する各層の不純物濃度およびバンドギャップを示したものである。なお、図1の不純物濃度とバンドギャップの値は望ましい一例を示したものであり、本発明の効果はこの値に限って生じるわけではない。
【0050】
最初に、図1に示した発光サイリスタ115の構造について説明する。
図1に示す発光サイリスタ115は、N型半導体基板101上に、N型の第1半導体層102、P型の第2半導体層103、N型の第3半導体層104およびP型の第4半導体層107がこの順に積層されることによって、NPNPのサイリスタの構造が形成されている。ここで、第3半導体層104は、基板側の第1領域105と基板反対側の第2領域106との2層で構成され、これら各層はいずれもN型半導体によって形成される。さらに、P型の第4半導体層107の基板反対側の表面(基板から離反する側)には、表面電極110と良好なオーミック接触をとるためのP型半導体のオーミックコンタクト層109が形成される。表面電極110はオーミックコンタクト層109の基板反対側の表面に形成される。裏面電極111は、基板101の裏面に形成される。この場合、表面電極110はアノード電極として用いられ、裏面電極111はカソード電極として用いられる。また、第3半導体層104のうちの第2領域106の基板反対側の表面にはゲート電極112が設けられている。
【0051】
本実施の形態では、基板101をN型半導体によって形成した場合について例示する。これとは逆に、基板101にP型半導体基板を用い、半導体層を第1半導体層102をP型、第2半導体層103をN型、第3半導体層を104をP型、第4半導体層をN型としてPNPNのサイリスタ構造を形成することも可能である。この場合は、オーミックコンタクト層にはN型の半導体を用い、裏面電極111がアノード電極になり、表面電極110がカソード電極になるが、基板をN型半導体によって形成する方が好ましい。これは、発光サイリスタを集積化したときに、基板裏面の裏面電極(カソード電極)111を共通の接地とし、表面電極(アノード電極)110に正電源を接続できるからである。なお、いずれの導電型の順を用いても本実施の形態の効果に変わりはない。基板をP型半導体基板とした場合は、以下の説明は、正孔と電子を入れ替えればそのまま成り立つ。
【0052】
また、基板101に絶縁性基板および半絶縁性基板などを用いることもできる。この場合は、第2半導体層103、第3半導体層104、第4半導体層107およびオーミックコンタクト層109の一部をエッチングして、第1半導体層102の表面(基板から離反する側)を露出させ、第1半導体層102の露出させた表面に裏面電極111に相当するカソード電極を形成する。
【0053】
各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109は、有機金属気層エピタキシャル成長法(MOVPE)および分子線エピタキシャル成長法(MBE)などのエピタキシャル成長法によって形成される。エピタキシャル成長が必要な理由は、格子欠陥などを多量に含んでいると発光素子および受光素子としてのホトトランジスタとして機能し得ないからである。したがって、格子整合の観点から、基板101、各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109の材料が選択される。
【0054】
基板101の材料としては、III/V族半導体およびII/VI族半導体の薄膜がエピタ
キシャル成長可能なものとして、たとえば、ガリウム砒素(GaAs)、インジウムリン(InP)、ガリウムリン(GaP)、シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)などを用いることができる。基板101に絶縁性基板または半絶縁性基板を使用する場合には、たとえば、GaAs、窒化ガリウム(GaN)およびサファイアなどが用いられる。なお、各半導体層102,103,104,107の結晶性を良好にするために、基板101と第1半導体層102との間に第1半導体層102と同じ導電型のバッファ層を設ける場合がある。
【0055】
各半導体層102,103,104,107の材料には、ガリウム砒素(GaAs)、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)、インジウムガリウムリン(InGaP)およびアルミニウムガリウムインジウムリン(AlGaInP)などが用いられる。なお、これらの材料で発光サイリスタを作製したときの発光波長は、600〜800nmになる。
【0056】
オーミックコンタクト層109の材料にはGaAs、InGaPなどアルミニウムを含んでいない材料が用いられる。アルミニウムを含んでいる場合は表面が大気中で酸化されやすく、表面電極110との間で良好なオーミック接触をとることが困難になるからである。また、オーミックコンタクト層109の不純物濃度を1×1019(cm−3)以上にすることも良好なオーミック接触をとるために必要である。なお、オーミックコンタクト層109の厚さは0.01〜0.02μmとなるべく薄くすることが好ましい。なぜなら、GaAs、InGaPのバンドギャップの値は、アルミニウムを含んでいる材料よりも小さいので、膜厚が大きいと内部で発生した光の再吸収層となるからである。
【0057】
各電極110,111,112の材料は、接触する半導体層または基板101との良好なオーミック接触を保つために適した材料が用いられる。表面電極110は、オーミックコンタクト層109と良好なオーミック接触をとるために、たとえば、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、および金と亜鉛との合金(AuZn)などが用いられる。ゲート電極112は、第3半導体層104の第2領域106と良好なオーミック接触をとるために、たとえば、Au、AuGeおよびニッケル(Ni)などが用いられる。裏面電極111は、半導体基板101と、または基板101に非導電性の材料を用いた場合には第1半導体層102と良好なオーミック接触がとれるという観点から、たとえば、Au、AuGeおよびNiなどが用いられる。
【0058】
次に、本実施の形態の特徴である、発光サイリスタ115の各半導体層102,103,104,107のバンドギャップおよび不純物濃度の最適化について説明する。受光感度を低下することなく外部への発光強度を向上させるという本発明の目的に照らして最適になるように、各半導体層での不純物濃度とバンドギャップを決める。
【0059】
なお、具体的なドーパントとして、本実施の形態においては、N型半導体にはシリコンおよびテルルなどを用いることができ、P型半導体のドーパントとしては、亜鉛、炭素およびマグネシウムなどを用いることができる。実際の素子の作製には、シリコンと亜鉛を用いている。
【0060】
バンドギャップの値を制御するには、各半導体層102,103,104,107を構成する半導体材料の種類および組成を制御することによって行う。アルミニウムガリウム砒素(AlxGa1−xAs)は、格子整合条件を保ったまま、バンドギャップをAlの組成比xによって変化させることができる。アルミニウムガリウムインジウムリン((AlyGa1−y)0.5In0.5P)を用いた場合も、Alの組成比yを変えることによって、GaAsに格子整合した状態でバンドギャップを変化させることができる。
【0061】
また半導体層の不純物濃度が略同一とは、上述した材料を用いた場合には、不純物濃度の差が20%以内であることを意味する。またバンドギャップが略同一とは、上述した材料を用いた場合には、バンドギャップの差が5%以内であることを意味する。これは、設計値では同一であっても、実際に発光サイリスタを作製した場合には、装置の制御性および作製条件によって異なる場合があることを考慮したものである。特に不純物のドーピングについては、膜中で拡散が生じたり、ドーパントの再蒸発が基板温度に依存したりする場合があり、再現性が得られにくい。そこで、上述した材料を用いた場合には、不純物濃度については20%以内、バンドギャップについては5%以内であれば、実質的な違いはないものとして、この範囲にあれば略同一とする。
【0062】
本実施の形態の特徴は、図1に示されるように、バンドギャップについては、第2半導体層(P型)103と第3半導体層(N型)104のバンドギャップが略同一であり、それらの半導体層よりも広いバンドギャップを持つ第1半導体層(N型)102と第4半導体層(P型)107とに挟まれた構造にすることである。熱平衡状態の不純物濃度については、第3半導体層(N型)104を、基板側(第2半導体層103に接する側)の第1領域105と基板反対側(第4半導体層107に接する側)の第2領域106の2層に分けて、第2領域106の不純物濃度を第1領域105の不純物濃度よりも高濃度にする。さらに、第2半導体層(P型)103の不純物濃度は第1の不純物濃度と略同一またはそれよりも高濃度にし、第1半導体層(N型)102は、第2半導体層(P型)103よりも高濃度にする。また、第4半導体層(P型)107の不純物濃度は、第3半導体層(N型)104の第2領域106の不純物濃度と略同一かそれよりも高濃度に設定したことに特徴がある。
【0063】
表1は、本実施の形態における各半導体層102,103,104(105,106),107およびオーミックコンタクト層109の不純物濃度、バンドギャップおよび膜厚の値を示す。なお、この値は好ましい値の例示であって、各半導体層のバンドギャップと不純物濃度について上述した関係を満たせば、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
【表1】
【0065】
各半導体層102,103,104,107のバンドギャップおよび不純物濃度をこのような設定にした第1の理由は、主たる発光層を第3半導体層(N型)104の中の第2領域106にすることによって、内部量子効率と光の取り出し効率をいずれも向上させることができるためである。
【0066】
内部量子効率を高めるには、注入されたキャリアを有効に再結合させる必要がある。基板101にはN型半導体基板が用いられるので、発光サイリスタ101では、正孔は第4半導体層(P型)107側から接合J3を通して注入されることになる。この場合、注入された正孔を電子と有効に再結合させるためには、接合J3の近傍の第2領域106における電子密度を高めることが効果的である。そこで、第2領域106において、熱平衡状態での電子密度および注入されて増加した電子密度のいずれも高めるような設定をした。
【0067】
接合からの注入による電子密度を高めるため、図1に示すように、第2半導体層(P型)103、第3半導体層(N型)104の内の第1領域105、および第3半導体層(N型)104の内の第2領域106の各層のバンドギャップを略同一して、それらのバンドギャップよりも第4半導体層107のバンドギャップを大きくする。第4半導体層(P型)107のバンドギャップが第2領域(N型)106のバンドギャップよりも大きいことから、両者のバンドギャップが等しい場合に比べて、バンドギャップの差の分だけ第4半導体層(P型)107における伝導帯の下端が上がり、電子に対するポテンシャル障壁を形成する。第1半導体層(N型)102から接合J1を通して注入された電子は、接合J3における、このポテンシャル障壁で跳ね返されることになるので、接合J3近傍の第2領域(N型)106での電子密度が高まる効果が得られる。
【0068】
熱平衡状態での電子密度を増やすためには、第3半導体層(N型)104を2層に分けて、基板側の第1領域105の不純物濃度を低く設定する一方で、接合J3に近い第2領域106の不純物濃度を増やした。第1領域105の不純物濃度を低く設定することは、ゲート電極112と裏面電極(カソード電極)111との間の耐圧を確保するために必要である。第1領域105の不純物濃度は全層で最も低い。
【0069】
第2領域106の熱平衡状態でのキャリア密度を増やすことが、発光強度の増加に効果的であることを実験で確認するために、第2領域106の不純物濃度を変えたサンプルを数個作製して、発光強度の比較を行った。
【0070】
図2は、第2領域106の不純物濃度を変えて作製した複数の発光サイリスタ115の発光強度を示すグラフである。発光強度の測定は、発光サイリスタ115のゲート電極112をローレベルにして発光サイリスタ115をオン状態に遷移させたあと、動作電圧を5Vにして行った。図2で、縦軸は測定した発光強度を任意単位で表示したもので、横軸は第2領域106の不純物濃度を示している。図2から明らかなように、第2領域106での不純物濃度(熱平衡状態でのキャリア密度)を1桁増やすことによって発光強度は約5倍の大きさになっており、発光強度に対する不純物濃度の効果が実証された。
【0071】
さらに内部発光効率を高める工夫として、第4半導体層(P型)107の不純物濃度を第2領域と略同一またはそれより高濃度にするとよい。主たる発光層である第2領域106に注入される正孔密度を増加させるためである。
【0072】
一方、光の取り出し効率という点では、発光した光が再吸収されないように、光の取り出し方向の各半導体層のバンドギャップを大きくするとよい。通常、発光サイリスタを発光素子として用いる場合の光の取り出し方向は、基板が光の吸収層になるので、図1ではオーミックコンタクト層109の側(基板から離反する側)になる。したがって、第2領域106で発光した光は、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109を通過して外部に取り出されることになるが、第4半導体層(P型)107のバンドギャップは、主たる発光層である第2領域106のバンドギャップよりも大きいので、第4半導体層(P型)107での光の吸収はない。また、オーミックコンタクト層109の厚みは、0.01μm〜0.02μmに選ばれ、このように非常に薄いのでこの層での発光の吸収は無視できる程度である。
【0073】
さらに、本実施の形態では、各半導体層102,103,104,107の不純物濃度およびバンドギャップを前述したように選ぶことによって、主たる発光層である第2領域の膜厚を0.5μm〜1.0μmと比較的厚く設定することができる。本実施の形態では、第4半導体層(P型)107側から接合J3を通って注入された正孔は、主として第2領域106で電子と再結合して発光する。第2領域106の中でも、注入された正孔密度が最も大きい接合J3の近傍で最も強い発光が生じると考えられるが、発光した光は接合J3の側から第4半導体層(P型)107側を通って取り出されるので、第2領域自身での吸収は問題とならない。したがって、主たる発光層の厚みを十分なものにして、発光場所の体積を増やしたほうが、全体としての発光強度を高めることができる。
【0074】
以上から明らかなように、第3半導体層104のうちで基板反対側の第2領域106が主たる発光層となるように、不純物濃度およびバンドギャップを設定することが内部量子効率の点からも光の取り出し効率の点からも最良である。なお、第2領域106の不純物濃度を高めることは、ゲート電極112との接触抵抗を低めるという副次的な効果もある。
【0075】
エミッタ注入効率を高めるため、第1に、エミッタに相当する第1半導体層(N型)102のバンドギャップを、ベースに相当する第2半導体層(P型)103のバンドギャップよりも大きいヘテロ接合にしている。第2に、エミッタに相当する第1半導体層(N型)102の不純物濃度を、ベースに相当する第2半導体層(P型)103の不純物濃度よりも大きくしている。第3に、ベースに相当する第2半導体層(P型)103の膜厚を薄くしている。第2半導体層(P型)103の厚みは0.01μm〜0.5μm程度が望ましい。このような受光感度を高めるために行った第1半導体層(N型)102および第2半導体層における不純物濃度およびバンドギャップの設定は、発光効率を向上させるために行った設定と矛盾無く両立している。
【0076】
このようにトランジスタ型の層構造が形成されているときには、電流増幅率βを求めることができる。図3は、NPNの層構造を有する発光サイリスタにおいて、コレクタを成す半導体層のN型キャリアの濃度と発光強度との関係を複数の電流増幅率βの値に対してプロットした図である。図3において、横軸はキャリア濃度の値を対数目盛りで表しており、単位は「cm−3」である。縦軸は、発光強度を対数目盛りで表しており、単位は「μW」である。図3において、右肩上がりに直線的に延びる実線は、計算によって電流増幅率βの影響を排除したときに予想される発光強度のキャリア濃度依存性を表している。第1分岐点117aから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=90のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。第2分岐点117bから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=601のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。第3分岐点117cから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=2028のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。
【0077】
図3において四角でプロットしたデータは、電流増幅率β=90のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表しており、丸でプロットしたデータは、電流増幅率β=601のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表しており、三角でプロットしたデータは、電流増幅率β=2028のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表している。
【0078】
電流増幅率βは、「エミッタ接地直流電流増幅率(hFE)」とも呼ばれ、エミッタ接地のトランジスタに直流電圧を印加したときのコレクタ電流とベース電流との比として表される。この電流増幅率βの値は、次の式(1)のように表される。ベースおよびエミッタの多数キャリア濃度をそれぞれ「NhB」および「NeE」とし、ベースおよびエミッタの少数キャリアの拡散係数をそれぞれ「DeB」および「DhE」とする。ベースおよびエミッタの少数キャリアの拡散長をそれぞれ「LeB」および「LhE」とし、ベースの厚み寸法を「WB」とする。
【0079】
【数1】
【0080】
図3に示すように、各電流増幅率βの値に対して式(1)の計算に基づいて予想した値と、実測値とは、よく一致している。各文字数の値としては、GaAsを例として、NhB=NeE=1018(cm−3)、WB=0.01(μm)、DeB=0.4136(cm2/s)、DhE=0.0491(cm2/s)、LhE=1.402(μm)、LeB=3.523(μm)の値を用いると、電流増幅率β=hFE=1174.7の値が得られる。
【0081】
また、NeE=1018(cm−3)、NhB=1017(cm−3)、WB=0.2(μm)、DeB=10.45(cm2/s)、DhE=1.946(cm2/s)、LhE=0.9865(μm)、LeB=13.164(μm)の値を用いると、電流増幅率β=hFE=2028.3の値が得られる。
【0082】
電流増幅率βの値が小さいと、コレクタを成す半導体層、具体的には第1領域105のキャリア濃度の増大に対して発光強度が飽和してしまい、充分な発光強度を得ることができない。したがって、電流増幅率βの値は、1000以上であることが好ましい。電流増幅率βを1000以上とすることによって、発光強度に対する電流増幅率の影響を抑制することができ、キャリア濃度を高く設定することによって充分な発光強度を得ることができる。
【0083】
以上のように、本発明の実施の形態の発光サイリスタによれば、発光効率が優れた発光サイリスタを提供することができる。
【0084】
図4は、本発明の第2の実施の形態の発光サイリスタ116の断面図と、各層の不純物濃度およびバンドギャップを示したものである。なお、図4の不純物濃度とバンドギャップの値は望ましい一例を示したものであり、本発明の効果はこの値に限って生じるわけでない。なお、以下の説明は基板を一般的なN型半導体基板にした場合について行う。第1の実施の形態で説明したとおり、基板101、各半導体層102,103,104,107,108,およびオーミックコンタクト層109の導電型を反対にしても効果は同じである。
【0085】
図4に示した本実施の形態の発光サイリスタ116と、図1に示した第1の実施の形態の発光サイリスタ115との違いは、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109の間に、第4半導体層(P型)107と同じ導電型の第5半導体層(P型)108を積層したことにある。図4において、サイリスタに特有のNPNP構造の部分は、第1半導体層(N型)102、第2半導体層(P型)103、第3半導体層(N型)104および第4半導体層(P型)107によって構成され、この部分は第1の実施の形態と共通している。第5半導体層(P型)108のバンドギャップは、第4半導体層(P型)107のバンドギャップと略同一またはそれよりも広幅に設定され、第5半導体層(P型)108の不純物濃度は、第4半導体層(P型)106の不純物濃度と略同一またはそれよりも高濃度に設定される。第5半導体層(P型)108以外の各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109については、それらの層のバンドギャップ、不純物濃度および膜厚の値は、図1に示す第1の実施の形態と同様に設定される。以下の説明では、図4に示される第5半導体層(P型)108以外の部分は、図1に示される実施の形態と同様であるので、対応する部分には同一の参照符号を付し重複を避けて説明は省略する。
【0086】
本実施の形態において、第5半導体層(P型)108のバンドギャップの具体的な値は、第4半導体層(P型)107と略同一にして、1.75eV〜1.88eV程度の値を用いた。第5半導体層(P型)108の不純物濃度の値は、第4半導体層(P型)より大きくして1×1019〜3×1019とした。第5半導体層108の厚さは、0.1〜0.5μmに設定される。第5半導体層(P型)108の材料、形成方法、ドーパント材料については、第1の実施の形態で説明した他の半導体層102,103,104,107と同様であるので説明は省略する。
【0087】
本実施の形態の特徴は、第5半導体層(P型)を設けることによって、表面電極(アノード電極)110との間でオーミック接触をとりやすくしたことにある。第1の実施の形態で述べたように、通常、オーミックコンタクト層は、アルミニウムを含まないGaAs、InGaPなど材料を用いて高濃度の不純物をドーピングして形成される。GaAs、InGaPはバンドギャップが小さいので、発光した光の吸収層とならないように、オーミックコンタクト層は0.01μm〜0.02μmと極めて薄く形成する必要がある。しかし、オーミックコンタクト層を薄くすると、表面電極(アノード電極)110との間で良好なオーミック接触が得られなくなる場合があるので、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109との間に比較的膜厚の大きい第5半導体層(P型)108を設けた。第5半導体層(P型)108の不純物濃度は、第4半導体層(P型)107の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度にして良好なオーミック接触が得られるようにする。それとともに、第5半導体層(P型)108のバンドギャップは第4半導体層(P型)107のバンドギャップと略同一またはそれより広幅に設定して、第3半導体層(N型)のバンドギャップよりも大きくすることによって内部で発光した光の再吸収層とならないようにする。こうすることによって確実なオーミック接触を得ることができる。
【0088】
次に本発明の発光サイリスタを用いて構成される本発明の実施の一形態の発光素子アレイチップ1について説明する。
【0089】
図5は、発光素子アレイチップ1の基本構成を示す平面図である。図6は、図5の切断面線VI−VIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。図7は、図5の切断面線VII−VIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。なお図5は、各発光用サイリスタTの光の出射方向を紙面に垂直手前側として配置された発光素子アレイチップ1の平面を示し、ゲート横配線GH1〜GH4、電源ライン11、セレクト信号伝送路14、電源用ボンディングパッドVs、セレクト信号入力端子CS、発光用サイリスタT、スイッチ用サイリスタS、プルアップ抵抗RP、およびCS抵抗RCSは、図解を容易にするため斜線を付して示されている。発光装置10のうち、発光用サイリスタT、スイッチ用サイリスタSに用いられる発光サイリスタには、第2の実施の形態で示した発光サイリスタ116を用いるが、第1の実施の形態で示した発光サイリスタ115を用いても同様の発光装置10を構成することができる。
【0090】
発光素子アレイチップ1に含まれる複数の発光用サイリスタTは、相互に間隔W1をあけて配列されている。発光用サイリスタTは、露光用の発光素子である。本実施の形態では、各発光用サイリスタTは、等間隔に配列され、かつ直線状に配列される。以後、各発光用サイリスタTの配列方向Xを、単に配列方向Xと記載する場合がある。各発光用サイリスタTの光の出射方向に沿う方向を厚み方向Zとし、前記配列方向Xおよび厚み方向Zに垂直な方向を幅方向Yとする。発光用サイリスタTは、600nm〜800nmの波長の光を発光可能に形成される。
【0091】
発光用サイリスタTは、PNPN構造を有する発光サイリスタによって形成されるので、P型半導体と、N型半導体とを交互に積層した単純な構成で実現することができ、装置の作成が容易となる。前述したように、発光用サイリスタTはゲート電極b1〜bkに、制御信号を与えることによって発光信号の電圧よりも、しきい電圧が低下した状態で、前記発光信号がアノードa1〜akに与えられたとき発光する。
【0092】
発光用サイリスタT1〜Tkは、発光素子ブロックB1〜Bmに分けられ、同一の発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTのアノードaは共通の発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッドに接続される。なお、発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッドを単に発光信号用ボンディングパッドAと記載する場合がある。本実施の形態における発光信号用ボンディングパッドAは、前記第3ボンディングパッドに対応する。また、本実施の形態では、ゲート横配線GHの本数に等しい4個の発光用サイリスタTが1つの発光素子ブロックBを構成する。たとえば、発光用サイリスタTの配列方向に沿う一方から他方へ向かって、発光用サイリスタTに番号を第1番から第k番まで付し、前記配列方向に沿う前記一方から前記他方へ向かって、発光素子ブロックBに番号を第1番から第m番まで付すと、第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する第4i6−3番目から第4i6番目の全ての発光用サイリスタT4i6−3〜T4i6のアノードaと、発光信号用ボンディングパッドAi6との間に接続部60が設けられて、電気的に接続される。発光用サイリスタTのアノードaと発光信号用ボンディングパッドAと接続部60とは同時に一体で形成される。また、本実施の形態では、好ましい構成として、発光信号用ボンディングパッドAは発光用サイリスタTの配列方向Xに沿って、ゲート横配線GHを挟んで発光用サイリスタTと反対側に設置される。
【0093】
配列方向Xの各発光用サイリスタTの間隔W1および発光用サイリスタTの配列方向Xの長さW2は、発光素子アレイチップ1が搭載される後述する画像形成装置87において形成すべき画像の解像度によって決定され、たとえば画像の解像度が600ドットパーインチ(dpi)の場合、前記間隔W1は、約24μm(マイクロメートル)に選ばれ、前記長さW2は、約18μmに選ばれる。
【0094】
各ゲート横配線GHは、発光素子アレイチップ1に沿って配列方向Xに、発光素子アレイチップ1の配列方向Xの一端部から他端部間にわたって延びる。各ゲート横配線GHは、幅方向Yに間隔をあけて配列される。本実施の形態では、発光用サイリスタTに近接する側から順番に、ゲート横配線GH4、ゲート横配線GH3、ゲート横配線GH2およびゲート横配線GH1の順番に配列される。さらに、本実施の形態では、セレクト信号をスイッチ用サイリスタSのゲート電極dに供給するためのセレクト信号伝送路14がゲート横配線GH1と平行に、発光用サイリスタTと離反する側に配置される。セレクト信号伝送路14は、接続部75を介してセレクト信号入力端子CSとしてのボンディングパッドに接続される。セレクト信号入力端子CSとしてのボンディングパッドを単にセレクト信号入力端子CSと記載する場合がある。本実施の形態におけるセレクト信号用ボンディングパッドCSは、前記第1ボンディングパッドに対応する。また、各ゲート横配線GH間およびゲート横配線GH1とセレクト信号伝送路14との間の間隔W3は、相互に隣接するゲート横配線GH間およびゲート横配線GH1とセレクト信号伝送路14との間で短絡が生じない距離に選ばれ、たとえば5μmに選ばれる。
【0095】
発光用サイリスタTのゲート電極b1〜bkは、本実施の形態では、後述する第3半導体層24によって構成され、ゲート横配線GH1〜GH4のいずれかとの間に接続部61,62,63,64が形成される。ここで、発光用サイリスタTの配列方向に沿う一方から他方へ向かって、発光用サイリスタTに番号を第1番から第k番まで付し、前記配列方向の前記一方から他方へ向かって発光素子ブロックBに第1番から第m番まで番号を付すことにすれば、前記配列方向に沿う第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する第4i6−3番目から第4i6番目の発光用サイリスタTについては、第4i6−3番目の発光用サイリスタT4i6−3のゲート電極と第1番目のゲート横配線GH1との間に接続部61が形成され、第4i6−2番目の発光用サイリスタT4i6−2のゲート電極と第2番目のゲート横配線GH2との間に接続部62が形成され、第4i6−1番目の発光用サイリスタT4i6−1のゲート電極と第3番目のゲート横配線GH3との間に接続部63が形成され、第4i6番目の発光用サイリスタT4i6のゲート電極と第4番目のゲート横配線GH4との間に接続部64が形成される。また、第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する全ての発光用サイリスタTのアノードaと前記配列方向に沿うi6番目の発光信号入力端子Ai6との間に接続部60が形成される。このように、同じ発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTが異なるゲート横配線GHに接続されることで、前述したように発光用サイリスタTのダイナミック駆動が可能となる。
【0096】
スイッチ用サイリスタSは、好ましい構成として、前記発光信号用ボンディングパッドA間に生じたスペースに配置される。複数の発光用サイリスタTからなる1つの発光素子ブロックBに対して、発光信号を供給するためのボンディングパッドを1つ備えることとなるので、発光信号用ボンディングパッドA間にスペースを生じ、そのスペースを有効に活用してスイッチ素子などを配置することができる。各スイッチ用サイリスタSのアノードcにゲート信号を供給するためのゲート信号入力端子Gとしてのボンディングパッドも、前記ボンディングパッド間に生じたスペースを活用して配置される。なお、ゲート信号入力端子Gとしてのボンディングパッドを単にゲート信号用ボンディングパッドGと記載する場合がある。本実施の形態では、ゲート信号用ボンディングパッドGは前記第2ボンディングパッドに対応する。アノードcとゲート信号用ボンディングパッドGとは一体に形成される。このように配置することで、スイッチ用サイリスタSなどを設けても、発光素子アレイチップ全体の大きさがそれによって増大することを避けることができ、小形な発光素子アレイチップを構成することができる。なお、スイッチ用サイリスタSの個数nはゲート横配線GHの本数に等しく、本実施の形態ではn=4である。また、CS抵抗RCSも、前記発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッド間に生じたスペースを利用して、スイッチ用サイリスタSに近接して配置される。
【0097】
本実施の形態におけるスイッチ用サイリスタSのゲート電極dは、後述する第3半導体層24の第2領域24bで構成される。スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとCS抵抗RCSとの間には接続部65が形成され、さらにゲート電極dと対応するゲート横配線GHとの間にも接続部66が形成されることで電気的に接続される。ゲート電極dとCS抵抗RCSとを接続する接続部65と、ゲート電極dとゲート横配線GHとを接続する接続部66とは一体に形成される。また、CS抵抗RCSは、半導体膜のシート抵抗を利用したもので構成され、CS抵抗RCSとセレクト信号伝送路14との間に接続部67が形成される。
【0098】
プルアップ抵抗RPは、本実施の形態では、スイッチ用サイリスタSを構成する半導体層の一部を用いて、スイッチ用サイリスタSと一体で形成される。プルアップ抵抗RPは半導体膜のシート抵抗を利用したものである。プルアップ抵抗RPの一部と電源ライン11との間に接続部68が形成され、プルアップ抵抗の接続部68の側に電源電圧Vccが与えられる。
【0099】
電源ライン11は、ゲート横配線GHと平行に配線され、本実施の形態では、発光信号用ボンディングパッドAを挟んでゲート横配線GHと離反する側に配置される。電源ライン11は、接続部69によって、電源電圧Vccが与えられるボンディングパッドに電気的に接続される。電源電圧Vccが与えられるボンディングパッドを単に電源用ボンディングパッドVsと記載する場合がある。
【0100】
発光用サイリスタTのアノードa、スイッチ用サイリスタSのアノードc、ゲート横配線GH、セレクト信号伝送路14、電源ライン11、接続部60〜69、発光信号用ボンディングパッドA、ゲート信号用ボンディングパッドG、セレクト信号用ボンディングパッドCS、および電源用ボンディングパッドVsは、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)などによって形成される。
【0101】
また、図5に示す発光素子アレイチップ1は、好ましい構成として、スイッチ用サイリスタSの表面(基板反対側)に遮光手段として遮光膜12を設けている。スイッチ用サイリスタSは、発光用サイリスタTと同様にスイッチングの際に発光するが、その発光は不要であり、発光による光が発光用サイリスタTに入射して発光用サイリスタTのしきい値を変動させてしまうことを避けるために、遮光膜12が用いられる。遮光膜12としては、その発光に対して不透明な材質から成る部材で表面を覆ったものとすればよい。適当な層間絶縁膜を施した場合には、ゲート横配線GHに用いる金(Au)薄膜などが好適に用いられる。また、スイッチ用サイリスタSと発光用サイリスタTとをできるだけ遠ざけて配置することも有効であり、図5の平面図で示すように、ゲート横配線GHを跨いで一方側に発光用サイリスタT、他方側にスイッチ用サイリスタSを配置するようにしてもよい。
【0102】
なお、前述した電流制限抵抗RIはより好ましい構成として付加する場合があるが、図5に示した発光素子アレイチップ1の平面図においては用いていない。
【0103】
以下、発光素子アレイチップ1の構成について、図6〜図8を参照してさらに詳細に説明する。本実施の形態では、基板21にはN型半導体基板を用いる。発光用サイリスタTは、発光サイリスタ116で構成され、基板31のZ方向の表面に第1半導体層(N型)22、第2半導体層(P型)23、第3半導体層(N型)24のうちの第1領域24a、第2領域24b、第4半導体層(P型)25および第5半導体層(P型)26、オーミックコンタクト層27がこの順に積層されて形成される。各半導体層22,23,24a、24b、25,26,27の材料、バンドギャップ、不純物濃度および膜厚は、第2の実施の形態で例示した発光サイリスタ116と同様である。なお、図4と図6とで参照符号は異なるが、対応する構成は同じ名称で記載する。たとえば、図6の基板21は前述した図4の基板101に対応し、図6の各第1〜第5半導体層22,23,24、25,26は、前述した図4の各第1〜第5半導体層102,103,104,107,108にそれぞれ対応する。
【0104】
スイッチ用サイリスタSは、本実施の形態では発光用サイリスタTと同時に形成されるので各層の構成は同一となる。具体的には、スイッチ用サイリスタSは、基板21の表面のうち、発光用サイリスタTが形成された面と同一表面上に、第1半導体層(N型)32、第2半導体層(P型)33、第3半導体層(N型)34のうちの第1領域34a、第2領域34b、第4半導体層(P型)35および第5半導体層(P型)36、オーミックコンタクト層37がこの順に積層されて形成される。以下の説明において、発光用サイリスタTに関する説明はスイッチ用サイリスタSについても同様である。
【0105】
基板21には、本実施の形態では、第1半導体層22と同じ導電型の半導体基板が用いられる。基板21の厚み方向Zで、各半導体層22〜26が積層されている表面とは反対側の表面上には、全面にわたって裏面電極20が形成される。裏面電極20は、金属材料および合材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には裏面電極20は、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)および金と亜鉛との合金(AuZn)などによって形成される。裏面電極20は、各発光用サイリスタTの共通の電極として用いられる。
【0106】
本実施の形態では、第1半導体層22と第3半導体層24の導電型はN型であり、第2半導体層23と第4半導体層25の導電型はP型である。したがって、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSのカソードが共通の電極としての裏面電極20に接続され、ゲート電極にはNゲート電極が用いられる。裏面電極20を接地して、カソード電位を零(0)ボルト(V)にすると、各発光用サイリスタTのアノードaに電圧または電流を印加する電源に、正電源を用いることができるので好ましい。
【0107】
絶縁層28は、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSの表面に沿って形成されており、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間にも形成され、各発光用サイリスタTおよび各スイッチ用サイリスタSが相互に絶縁層28によって電気的に絶縁される。絶縁層28は、電気絶縁性および透光性ならびに平坦性を有する樹脂材料によって形成される。たとえば、ポリイミドおよびベンゾシクロブテン(BCB)など、発光用サイリスタTが発する波長の光の95%以上を透過する樹脂材料が用いられる。
【0108】
絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層27の表面(基板と離反する側)を覆う部分の一部に貫通孔29が形成される。この貫通孔29にアノードaの一部が形成されて、オーミックコンタクト層27に接触している。前記貫通孔29は、発光用サイリスタTの配列方向Xの中央で、かつ発光用サイリスタTの幅方向Yの中央が絶縁層28から露出するように形成されており、アノードaからの電流を、発光用サイリスタTの中央部に効率的に供給して、発光用サイリスタTを発光させることができる。発光用サイリスタTでは、主に第3半導体層24において光が発生する。
【0109】
発光用サイリスタTのアノードaの配列方向Xの長さW3は、発光用サイリスタTの配列方向Xの長さW2の1/3以下に形成される。アノードaは、発光用サイリスタTの光の出射方向の一部を覆うが、長さW3を前述したように選ぶことによって、発光用サイリスタTから発せられ光を、なるべく遮らないようにする。
【0110】
第1半導体層22、第2半導体層23、第3半導体層24、第4半導体層25、第4半導体層26およびオーミックコンタクト層27は、基板21の一表面に分子線エピタキシャル成長および化学気相成長(CVD)法などのエピタキシャル成長法用いて順次積層して形成することができる。その後、フォトリソグラフィを用いたパターニングとエッチングとを用いて、各発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSが形成される。したがって、一連の製造プロセスにおいて、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを同時に形成することになるので、スイッチ用サイリスタSおよび発光用サイリスタTを構成する各半導体層の層構成が同一になる。結果として、スイッチ用サイリスタSおよび発光用サイリスタTはいずれも発光機能およびスイッチ機能の両方を兼ね備えたものになるが、スイッチ用サイリスタSはそのうちスイッチ機能のみを用いる。このようにすれば同じ構造で特性が安定したものを一度に簡単に作製することができ、製造コストを低減することができる。
【0111】
なお、絶縁層28は、各半導体層を形成した後、前述したポリイミドなどの樹脂材料をスピンコーティングしてから硬化させ、さらに電極と発光用サイリスタTとの接続に必要な各貫通孔29を形成するためにフォトリソグラフィによるパターニングおよびエッチングを施すことで作製される。
【0112】
図7に示すように、発光用サイリスタTの幅方向Yの形状については、発光用サイリスタTの第1半導体層22と、第2半導体層23と、第3半導体層24とのゲート横配線GH寄りの端部は、第4半導体層25と、第5半導体層26と、オーミックコンタクト層27とのゲート横配線GH寄りの端部よりも、ゲート横配線GHに向かって突出し、ゲート横配線GHとの被接続部201を構成する。被接続部201の配列方向Xの長さは、前述した長さW2と等しい。なお、第3半導体層24の第2領域24bうち、被接続部201を構成する部分は、第4半導体層25が積層される部分よりも厚みが小さい。この理由は、エッチング工程によって、第3半導体層24の第2領域24bの表面を露出させて被接続部201を形成するときに、第4半導体層25が残存しないようにオーバーエッチングするためである。
【0113】
スイッチ用サイリスタSの幅方向Yの形状についても同様に、スイッチ用サイリスタSの第1半導体層32と、第2半導体層33と、第3半導体層34とのゲート横配線GH寄りの端部は、第4半導体層35と、第5半導体層36と、オーミックコンタクト層37とのゲート横配線GH寄りの端部よりも、ゲート横配線GHに向かって突出し、ゲート横配線GHとの被接続部202を構成する。また、オーバーエッチングを施すために、第3半導体層34の第2領域34bのうち、被接続部202を構成する部分の厚みは、第4半導体層35が積層される部分の厚みよりも小さく形成される。
【0114】
絶縁層28は、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSの表面に沿って形成されるとともに、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間にも形成され、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとが絶縁層28によって電気的に絶縁される。発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間に形成された絶縁層28の表面には、ゲート横配線GHおよびセレクト信号伝送路14が形成され、さらにそれらの表面に沿って絶縁層203が形成される。また、スイッチ用サイリスタSを挟んでゲート横配線と離反する側の絶縁層28の表面には、電源ライン11が形成され、さらにその表面に沿って絶縁層203が形成される。
【0115】
形成された絶縁層28,203のうち、発光用サイリスタTの前記被接続部201およびゲート横配線GHの表面(基板反対側)に積層される部分には、貫通孔204,205が形成される。発光用サイリスタTの第3半導体層24の第2領域24b(ゲート電極bに対応する)とゲート横配線GHとを電気的に接続する接続部61は、これらの貫通孔204,205の部分および貫通孔204,205に挟まれた絶縁層28,203の部分に積層して設けられる。また、絶縁層28,203のうち、スイッチ用サイリスタSの前記被接続部202およびゲート横配線GHの表面(基板反対側)に積層される部分にも、貫通孔205,206が形成される。スイッチ用サイリスタSの第3半導体層34の第2領域34b(ゲート電極dに対応する)とゲート横配線GHを電気的に接続する接続部66は、これらの貫通孔205,206の部分および貫通孔205,206に挟まれた絶縁層28,203とに積層して設けられる。図7に示すように、ゲート横配線GHに積層する部分の絶縁層203に設けられた貫通孔205が共通する場合には、前記接続部61,66は一体で形成される。
【0116】
また、前述したように、発光用サイリスタTに積層される絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層27の表面(基板反対側)に積層される部分の一部には貫通孔29が形成される。この貫通孔29にアノードaの一部が形成されて、オーミックコンタクト層27に接触している。アノードaは、発光信号入力端子Aとの接続部60とともに一体形成される。接続部60は発光用サイリスタTの第4半導体層25、第5半導体層26およびオーミックコンタクト層27のゲート横配線GH寄りの端部の一部を覆い、第3半導体層24の第2領域24bに設けられた被接続部201に積層された絶縁層28の表面(基板反対側)の一部も積層して形成される。同様に、スイッチ用サイリスタSに積層される絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層37の表面(基板反対側)に積層される部分の一部には貫通孔207が形成される。この貫通孔207にアノードcの一部が形成されて、オーミックコンタクト層37に接触している。
【0117】
またスイッチ用サイリスタSは遮光膜12で覆われる。遮光膜12の幅方向Yの一方の端は、スイッチ用サイリスタSの第4半導体層35、第5半導体層36およびオーミックコンタクト層37の、発光用サイリスタTと反対側の端部を覆い、遮光膜12の幅方向Yの他方の端は、スイッチ用サイリスタSの第3半導体層34の第2領域34bの前記被接続部202を覆い、セレクト信号伝送路14とスイッチ用サイリスタSとの中央付近まで延びる。
【0118】
図8は、図5の切断面線VIII−VIIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【0119】
CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPは、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを構成する各半導体層22〜26,32〜36のいずれかからなる半導体層を薄膜抵抗として利用すればよい。本実施の形態では、プルアップ抵抗RPは、第1半導体層52、第2半導体層53、および第3半導体層54によって構成される半導体薄膜を利用しており、CS抵抗RCSは、第1半導体層42、第2半導体層43、および第3半導体層44を利用している。CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPは、本実施の形態では、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを構成する各半導体層22〜26,32〜36およびオーミックコンタクト層27,37を形成するときに同時に形成されるので、新たな製造工程を必要としない。
【0120】
CS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの一方の端部の表面は、スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとCS抵抗RCSとを接続する接続部65の一端が接続され、CS抵抗RCSの一端に相当する。またCS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの他方の端部は、セレクト信号伝送路14とCS抵抗RCSとを接続する接続部67の一端が接続され、CS抵抗RCSの他端に相当する。
【0121】
CS抵抗RCSを構成する第1半導体層42、第2半導体層43、および第3半導体層44と、プルアップ抵抗RPを構成する第1半導体層52、第2半導体層53、および第3半導体層54との全体の厚みを決定するためのエッチング工程も、前記被接続部201,202の形成と同時に行われる。したがって、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPの厚みと前記被接続部201,202の厚みは等しい。
【0122】
図8において、絶縁層28は、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPの表面に沿って形成されるとともに、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPとの間にも形成され、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPとが絶縁層28によって電気的に絶縁される。前述したように絶縁層28の表面には、ゲート横配線GH、セレクト信号伝送路14および電源ライン11が形成され、さらにそれらの表面に沿って絶縁層203が形成される。
【0123】
形成された絶縁層28,103のうち、セレクト信号伝送路14およびCS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの他端部の表面(基板反対側)に積層される部分には、貫通孔109,110が形成されて、それらを電気的に接続するための接続部67が設けられる。また、絶縁層28のうち、CS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの一端部の表面(基板反対側)に積層される部分にも貫通孔111が形成され、スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとの接続部65が設けられる。さらに、形成された絶縁層28,103のうち、プルアップ抵抗RPと電源ライン11に積層される部分にも貫通孔112,113が形成され、それらを電気的に接続する接続部68が形成される。
【0124】
図9は、本発明の実施の一形態の発光装置10を模式的に示すブロック回路図である。発光装置10は、複数の発光素子アレイチップL1,L2,…,Lp−1,Lp(記号pは、2以上の正の整数)と、前記発光素子アレイチップL1〜Lpの駆動回路として、発光信号を供給する発光信号駆動IC(Integrated Circuit)130と、ゲート信号を供給するゲート信号駆動IC131と、セレクト信号を供給するセレクト信号駆動IC132とを含んで構成される。各駆動ICは後述する制御手段96に基づいて、画像情報を出力する。各発光素子アレイチップL1〜Lpについて、それぞれを総称して指す場合および不特定のものを指す場合に、単に発光素子アレイチップLと記載する。また、発光素子アレイチップLを単にアレイチップLと記載する場合がある。本実施の形態では各アレイチップLには、図5に示す発光素子アレイチップ1を用いる。なお、セレクト信号駆動IC132が前記第1の駆動回路に対応し、ゲート信号駆動IC131が前記第2の駆動回路に対応し、発光信号駆動IC130が前記第3の駆動回路に対応する。
【0125】
各アレイチップLは、配列方向Xに沿って発光素子Tが一列に配列されて、各発光素子Tからの光の出射方向を揃えて回路基板に実装される。ただし、図9には回路基板は図示していない。また、発光信号駆動IC130とゲート信号駆動IC131とセレクト信号駆動IC132とは、前記回路基板に実装される。回路基板にはさらに、各駆動IC130〜132の出力端子と各アレイチップLのボンディングパッドとを接続するためのパターン配線が形成され、パターン配線とボンディングパッドとがボンディングワイヤで接続される。
【0126】
前述したように、発光素子アレイチップ1には、m個の発光信号用ボンディングパッドA、1個のセレクト信号用ボンディングパッドCS、および4個のゲート信号用ボンディングパッドGが含まれる。さらに前記プルアップ抵抗RPの他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される正電源を接続するための電源用ボンディングパッドVsが必要であり、図9に図示されている。なお、図9に示されたp個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、各アレイチップに第1番から第p番まで番号を付すと、第i10(1≦i10≦p)番目のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSをセレクト信号用ボンディングパッドCSi10と記載する。不特定のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCS1〜CSpを指すときは、単にセレクト信号用ボンディングパッドCSと記載する場合がある。
【0127】
発光信号駆動IC130は、各アレイチップLの発光信号用ボンディングパッドA1〜Amと同数(m個)の発光信号出力端子λ1〜λmを有する。発光信号出力端子λ1〜λmについて、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単に発光信号出力端子λと記載する場合がある。各発光信号用ボンディングパッドAと発光信号出力端子λとの接続は、異なるアレイチップ間で配線を共用して接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、発光信号用ボンディングパッドA1〜Amに第1番から第m番まで番号を付し、また発光信号出力端子λ1〜λmにも第1番から第m番まで番号を付すと、p個のアレイチップのそれぞれの第i8(1≦i8≦m)番目の発光信号用ボンディングパッドAi8同士が電気的に接続され、さらに第i8番目の発光信号出力端子λi8に電気的に接続される。
【0128】
ゲート信号駆動IC131は各アレイチップLのゲート信号用ボンディングパッドG1〜G4と同数(4個)のゲート信号出力端子μ1〜μ4を有する。ゲート信号出力端子μ1〜μ4について、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単にゲート信号出力端子μと記載する場合がある。各ゲート信号用ボンディングパッドGとゲート信号出力端子μとの接続は、異なるアレイチップ間で配線を共用して接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、ゲート信号用ボンディングパッドG1〜G4に第1番から第4番まで番号を付し、またゲート信号出力端子μ1〜μ4にも第1番から第4番まで番号を付すと、p個のアレイチップそれぞれの第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号用ボンディングパッドGi9同士が電気的に接続され、さらに第i9番目のゲート信号出力端子μi9に電気的に接続される。
【0129】
セレクト信号駆動IC132はアレイチップLと同数(p個)のセレクト信号出力端子ν1〜νpを有する。セレクト信号出力端子ν1〜νpについて、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単にセレクト信号出力端子νと記載する場合がある。各セレクト信号用ボンディングパッドCSi10とセレクト信号出力端子νとの接続は、各アレイチップと個別に接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、各アレイチップに第1番から第p番まで番号を付し、またセレクト信号出力端子ν1〜νpにも第1番から第p番まで番号を付すと、第i10(1≦i10≦p)番目のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSi10と第i10番目のセレクト信号出力端子νi10とが電気的に接続される。
【0130】
前述したように、各アレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSとセレクト信号出力端子νとが個別に接続されるので、セレクト信号駆動IC132は、各アレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSに順番にセレクト信号を出力して、アレイチップLを順番にセレクト状態にすることできる。一方、各アレイチップLとゲート信号駆動IC131との配線は共用されているので、例えば、第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号出力端子μi9から出力されたゲート信号は、すべてのアレイチップLの第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号用ボンディングパッドGi9に入力され、すべてのアレイチップLの第i9番目のスイッチ用サイリスタSi9のアノードci9に入力される。しかし、各アレイチップLの第i9番目のスイッチ用サイリスタSi9の中でスイッチングするのは、セレクト信号が入力されることでセレクト状態にあるアレイチップLのみである。さらに、セレクト状態にあるアレイチップLの第i9番目のゲート横配線GHi9に接続された発光用サイリスタTの中で、発光信号駆動IC130から発光信号が入力された発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTが発光する。
【0131】
このように、セレクト状態にあるアレイチップLを順番に切り替えることで、複数の発光素子アレイ間でゲート信号駆動IC131および発光信号駆動IC130を共用にする時分割駆動を安定に動作させることができる。したがって、駆動用ICの数、および駆動用ICを実装する基板の層数を少なくすることができ、発光素子アレイおよび駆動用IC実装基板の面積を小さくすることができ、結果として小型でかつ安定に動作する発光装置が実現できる。
【0132】
図10は、発光装置10の動作を示すタイミングチャートであり、横軸は基準時刻からの経過時間を表し、縦軸は信号レベルを電圧または電流の大きさで表す。図10では、発光信号駆動IC130、ゲート信号駆動IC131、およびセレクト信号駆動IC132のそれぞれの信号出力端子(発光信号出力端子λ、ゲート信号出力端子μ、およびセレクト信号出力端子ν)から出力される信号(発光信号、ゲート信号およびセレクト信号)の波形が示されている。さらに、プルアップ抵抗RPの他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される電源電圧Vccの波形も示されている。なお、図10では、出力波形の参照符号には、各信号出力端子と接続されるボンディングパッド(信号入力端子)の参照符号を用いている。
【0133】
本実施の形態では、発光信号駆動IC130は、ハイ(H)レベルのとき5mA、ロー(L)レベルのとき0mAの定電流を出力する。ゲート信号駆動IC131は、ハイ(H)レベルのとき1mA、ロー(L)レベルのとき0mAの定電流を出力する。セレクト信号駆動IC132は、ハイ(H)レベルのとき5V、ロー(L)レベルのとき0Vの定電圧を出力する。また、プルアップ抵抗の他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される電源電圧Vccは5Vである。
【0134】
図10を用いて、発光装置10の動作を時間の経過の順に説明する。時刻t0では、セレクト信号はハイ(H)レベルであるので、どのアレイチップも選択状態にない。時刻t1で、第1番目のアレイチップL1に入力されるセレクト信号をロー(L)レベルにすることで、第1番目のアレイチップL1がセレクト状態になる。時刻t2で、各アレイチップLの第1番目のゲート信号入力端子G1にハイ(H)レベルの信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のみ、第1番目のスイッチ用サイリスタS1がスイッチングしてオン状態に遷移し、スイッチ用サイリスタS1のゲート電極d1に接続されたゲート横配線GH1の電位がほぼローレベル(0V)になる。次に、時刻t3で、各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第1番目のゲート横配線GH1に接続された発光用サイリスタTが発光する。時刻t4で発光信号がロー(L)レベルに戻るので消灯する。次に、時刻t5で、第1番目のゲート信号入力端子G1に入力されるゲート信号がロー(L)レベルに戻り、第2番目のゲート信号入力端子G2に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになる。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のみ、第2番目のスイッチ用サイリスタS2がスイッチングしてオン状態に遷移する。時刻t6〜t7では、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第2番目のゲート横配線GH2に接続された発光用サイリスタTが発光する。以下同様に、時刻t8〜t11では、第3番目のゲート信号入力端子G3に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうち、第3番目のスイッチ用サイリスタS3がスイッチングしてオン状態に遷移する。この状態で、時刻t9〜t10で、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力されるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第3番目のゲート横配線GH3に接続された発光用サイリスタTが発光する。また、時刻t11〜t14では、第4番目のゲート信号入力端子G4に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうち、第4番目のスイッチ用サイリスタS4がスイッチングしてオン状態に遷移する。この状態で、時刻t12〜t13で、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力されるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第4番目のゲート横配線GH4に接続された発光用サイリスタTが発光する。時刻t15で、第1番目のアレイチップL1のスイッチ用サイリスタSのゲートがハイ(H)レベルに遷移し、第1番目のアレイチップL1の選択状態は終了するとともに、時刻t15で第2番目のアレイチップL2のセレクト信号入力端子CS2に入力されるセレクト信号がロー(L)レベルに遷移し、第2番目のアレイチップL2の選択状態が開始する。
【0135】
このように、セレクト信号を第1番目のアレイチップから順番に与え、順番にアレイチップを選択状態にすることで、アレイチップLごとの時分割駆動が可能となる。さらに、ゲート信号が、第1番目のスイッチ用サイリスタから順番に与えられることで、アレイチップLの中での時分割駆動が可能になる。
【0136】
図11は、発光用サイリスタTのアノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。アノード電圧は、カソードの電位を0(零)ボルト(V)としたときのアノードの電位を表し、アノード電流は、アノードに流入する電流を表す。
【0137】
図11は、横軸をアノード電圧とし、縦軸をアノード電流としている。また、図11には負荷線70も示されている。発光用サイリスタTは、ゲート電極bに制御信号を与えることによってしきい電圧VBOが低下するので、動作点が、順方向電圧−電流特性を表す特性曲線71と、負荷線70とが交わるオフ状態のq2点から、特性曲線71と負荷線70とが交わるオン状態のq1点へと遷移することで発光する。オン状態のq1点では、アノードとカソードとの間に主電流が流れる。
【0138】
具体的に数値を使って、発光用サイリスタTの動作を説明する。ここでは、カソードの電位を0ボルト(V)として、発光信号がハイ(H)レベルのとき、アノードaに5Vの電位を与え、発光信号がロー(L)レベルのとき、アノードaに0Vの電位を与えるものとする。また制御信号がハイ(H)レベルのとき、ゲート電極bに5Vの電位を与え、制御信号がロー(L)レベルのとき、ゲート電極gに0Vの電位を与えるものとする。
【0139】
まず、ゲート信号がハイ(H)レベルのとき、ゲート電極bの電位は5Vとなるので、アノード電流を流すためには、ゲート電極bの電位5Vよりも、第3半導体層(N型)および第4半導体層(P型)によって形成されるダイオードの順方向降下電圧分だけ高い電位をアノードaに与える必要がある。順方向降下電圧は、発光サイリスタがGaAsまたはAlGaAsで作製される場合には約1.5Vである。したがって、発光信号をハイ(H)レベルにしても、発光用サイリスタTは、q2点のオフ状態となり発光しない。次に、ゲート信号がロー(L)レベルのとき、ゲート電極bの電位は0Vとなるので、アノード電流を流すためには、ゲート電極gの電位0Vよりも、第3半導体層(N型)および第4半導体層(P型)によって形成されるダイオードの順方向降下電圧分だけ高い電位をアノードaに与える必要がある。したがって、発光信号をハイ(H)レベルにすれば、発光用サイリスタTは、q1点のオン状態となりアノード電流が流れ発光する。
【0140】
なお、スイッチ用サイリスタSの構成およびその動作も、発光用サイリスタTの場合と同様に説明することができる。
【0141】
前記しきい電圧VBOは、前述の電流増幅率βにも関係を有しており、しきい電圧VBOは、ある程度以上大きく設定することが好ましい。本実施形態において、印加電圧がしきい電圧VBOを超えることによって起こる降伏は、パンチスルーによる降伏である。コレクタ接合にかかる電圧が高くなれば高くなるほど、ベース領域に広がり、ベース幅が減小する。これによって、電流増幅率βが増大し、ベース電流でコレクタ電流が制御されない状態となる。本実施形態においてしきい電圧VBOは、パンチスルーによる降伏を前提として設計される。
【0142】
したがって、しきい電圧VBOは、キャリアの電荷量を「q」(クーロン、「C」)、ベースのキャリア濃度を「NP」、ベースの厚み寸法を「WP」、第1領域64aのキャリア濃度を「NN1」、第1領域64aの厚み寸法を「WN1」、第2領域のキャリア濃度を「NN2」、誘電率を「εε0」、拡散電位を「VD」とおくと、
【0143】
【数2】
【0144】
と表すことができる。また拡散電位Vdは、ボルツマン定数を「k」、温度を「T」、真性キャリア濃度を「ni」として、
【0145】
【数3】
【0146】
と表すことができる。「ln」は、底をネピアの数「e」とする自然対数を表す。この計算式は、空乏層が、ベースの少なくとも一部、すなわち第2半導体層23と、第1領域24aと、第2領域24bとを含む範囲に形成されることを前提とし、さらに降伏がパンチスルーによって生じるものとするので、空乏層の厚み寸法がベースの第2半導体層23の膜厚に一致する条件を追加して算出したものである。
【0147】
式(2)から、しきい電圧VBOを充分に大きく設定しようとすれば、ベースとなる第2半導体層23のキャリア濃度「NP」および膜厚「WP」の少なくともいずれか一方を大きくすることが必要となることが分かる。ベースとなる層の膜厚「Wp」は、すなわち厚み寸法「WB」であるので、これを大きく設定すれば電流増幅率βの値が小さくなってしまう。
【0148】
本実施形態では、第1領域24aのキャリア濃度の値を5×1015(cm−3)以上1×1016(cm−3)としたことによって、電流増幅率βの値を、充分に大きくすることができ、かつトランジスタ型の各層を形成する層のうち、ベースの層の厚み寸法およびキャリア濃度を大きく設定しなくても、電圧VBOを充分に大きくすることができる。このように、第1領域24aのキャリア濃度の調整によって、電流増幅率βの値を充分に大きく設定し、かつベースの層の厚み寸法およびキャリア濃度を低く抑えることと、発光のために必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくすることとを両立することができる。したがって、発光強度に対する電流増幅率βの影響を抑制することができる。
【0149】
次に、本発明の発光装置を用いて構成される本発明の実施の一形態の画像形成装置87について説明する。
【0150】
図12は、図5に示した発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。画像形成装置87は、電子写真方式の画像形成装置であり、発光装置10を、感光体ドラム90への露光装置に使用している。本実施の形態では、複数の発光装置10および駆動手段73が、回路基板に実装される。回路基板に実装される複数の発光装置10を、単に発光装置10と記載する。
【0151】
画像形成装置87は、Y(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色のカラー画像を形成するタンデム方式を採用した装置であり、大略的に、4つの発光装置10Y,10M,10C,10K、集光手段であるレンズアレイ88Y,88M,88C,88k、前記発光装置10および駆動手段73が実装された回路基板31およびレンズアレイ88を保持する第1ホルダ89Y,89M,89C,89K、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90K、4つの現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写手段である転写ベルト92、4つのクリーナ93Y,93M,93C,93K、4つの帯電器94Y,94M,94C,94K、定着手段95および制御手段96を含んで構成される。
【0152】
各発光装置10は、駆動手段73によって各色のカラー画像情報に基づいて駆動される。4つ発光装置10のX方向の長さW11は、たとえば200mm〜400mmに選ばれる。
【0153】
各発光装置10の発光素子Lからの光は、レンズアレイ88を介して各感光体ドラム90C,90M,90Y,90Kに集光して照射される。レンズアレイ88は、たとえば発光素子Lの光軸上にそれぞれ配置される複数のレンズを含み、これらのレンズを一体的に形成して構成される。
【0154】
発光装置10が実装される回路基板およびレンズアレイ88は、第1ホルダ89によって保持される。ホルダ89によって、発光素子Lの光照射方向と、レンズアレイ88のレンズの光軸方向とがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0155】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、たとえば円筒状の基体表面に感光体層を被着して成り、その外周面には各発光装置10Y,10M,10C,10Kからの光を受けて静電潜像が形成される静電潜像形成位置が設定される。
【0156】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの周辺部には、各静電潜像形成位置を基準として回転方向下流側に向かって順番に、露光された感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに現像剤を供給する現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写ベルト92、クリーナ93C,93M,93Y,93K、および帯電器94Y,94M,94C,94Kがそれぞれ配置される。感光体ドラム90に現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写ベルト92は、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに対して共通に設けられる。
【0157】
前記感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、第2ホルダによって保持され、この第2ホルダと第1ホルダ89とは、相対的に固定される。各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの回転軸方向と、各発光体チップ組立体86の前記X方向とがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0158】
転写ベルト92によって、記録シートを搬送し、現像剤によって画像が形成された記録シートは、定着手段95に搬送される。定着手段95は、記録シートに転写された現像剤を定着させる。感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、回転駆動手段によって回転される。
【0159】
制御手段96は、前述した駆動手段73にクロック信号および画像情報を与えるとともに、感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kを回転駆動する回転駆動手段、現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写手段92、帯電手段94Y,94M,94C,94Kおよび定着手段95の各部を制御する。
【0160】
このような構成の画像形成装置87では、露光装置として使用される発光装置10からバイアス光および漏れ光が発生しないので、高画質の画像を形成することができる。また発光サイリスタによるスイッチ素子Tおよび発光素子Lを集積化した発光装置10を露光装置に用いているので、このような露光装置は、安価に製造することができ、これによって画像形成装置87の製造コストを低減することができる。また本実施の形態の画像形成装置87の発光装置10を発光装置120に代えても、同様の効果を達成することができる。
【0161】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良などが可能である。
【符号の説明】
【0162】
115,116 発光サイリスタ
10 発光装置
101 基板(N型)
102 第1半導体層(N型)
103 第2半導体層(P型)
104 第3半導体層(N型)
105 第1領域
106 第2領域
107 第4半導体層(P型)
108 第5半導体層(P型)
110 表面電極(アノード電極)
111 裏面電極(カソード電極)
112 ゲート電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、N型半導体層とP型半導体層とを順次積層してなるサイリスタのうち、半導体層の内部での発光が外部に取り出されるとともに、その発光状態を外部から電気的にあるいは光を照射することによって制御可能であって、発光強度及び受光感度を向上させた発光サイリスタに関する。また本発明は、この発光サイリスタを用いた発光素子アレイに関する。また本発明は、この発光サイリスタを光励起による転送スイッチ素子として集積した自己走査型の発光装置に関するものであり、さらにこの発光装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚み方向に積層してエピタキシャル成長によって形成される複数の半導体層からなる発光サイリスタにおいて、NPNまたはPNPとして形成される半導体層は、ホトトランジスタを形成する。したがって、電流増幅率βを求めることができる。
【0003】
電流増幅率βは、ベースおよびエミッタについて、多数キャリア濃度、少数キャリアの拡散係数、および少数キャリアの拡散長と、ベースの厚み寸法とから、計算によって求めることができる。電流増幅率βの値が小さければ小さいほど、発光強度がキャリア濃度よりも電流増幅率βに依存しやすくなるという問題点がある。したがって、電流増幅率βの値は、ある程度以上高いことが望まれる。
【0004】
第1の従来技術として、PNPNの4層によって発光サイリスタを形成する技術が知られている(たとえば特許文献1参照)。第1の従来技術における電流増幅率βを計算によって求めると、およそ145程度の値であり、コレクタを成す層のN型キャリア濃度の増大に対して発光強度が飽和してしまい、充分な発光強度が得られないという問題点がある。
【0005】
また電流増幅率βは、発光サイリスタを発光させるために印加が最低限必要となるしきい電圧VBOにも関係を有している。このしきい電圧VBOは、ある程度以上大きく設定する必要がある。
【0006】
第2の従来技術として、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層と、第1半導体層とは反対の導電型の第2半導体層と、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層と、第1半導体と反対の導電型の第4半導体層がこの従に積層されている発光サイリスタが知られている(たとえば特許文献2参照)。
【0007】
第2の従来技術における電流増幅率βを計算によって求めると、2000を超え、充分に大きな電流増幅率βである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−308385号公報
【特許文献2】特開2007−180460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発光させるために印加が必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくするためには、トランジスタ型の各層を形成するための各層のうち、中央の層のキャリア濃度を大きくするか、または中央の層の厚み寸法を大きく設定する必要がある。電流増幅率βが大きい場合には、中央の層のキャリア濃度または厚み寸法として必要となる値がさらに大きくなるという問題点がある。また、仮に中央の層のキャリア濃度を大きくしたり、厚み寸法を大きく設定すれば、電流増幅率βの値が小さくなってしまうという問題点がある。
【0010】
本発明の目的は、トランジスタ型の層を形成するための各層のうち、中央の層のキャリア濃度および厚み寸法を大きく設定することなく、発光強度に対する電流増幅率βの影響を抑制することのできる発光サイリスタ、これによって構成される発光素子を含む発光素子アレイ、この発光素子アレイを備える発光装置およびこの発光装置を備える画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発光サイリスタは、基板上に、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されている発光サイリスタにおいて、
前記第3半導体層のバンドギャップは、前記第2半導体層のバンドギャップと略同一であり、かつ、前記第1および前記第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、
前記第3半導体層は、前記基板側の第1領域と前記基板と反対側の第2領域とを含んでなり、かつ、前記第1領域の不純物濃度は前記第2領域の不純物濃度よりも低く、かつ1×1016(cm−3)未満であり、
前記第2半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第1領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であり、かつ、前記第1半導体の不純物濃度より低濃度であり、
前記第4半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第2領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする。
【0012】
また本発明の発光サイリスタによれば、前記第1領域の不純物濃度は、5×1015(cm−3)以上であることを特徴とする。
【0013】
また本発明の発光サイリスタによれば、前記第1の発光サイリスタにおいて前記第4半導体層の前記基板と反対側に、前記第4半導体層と同じ導電型の第5半導体層が積層され、前記第5半導体層のバンドギャップは、前記第4半導体層のバンドギャップと略同一またはそれより広幅であり、前記第5半導体層の不純物濃度は、前記第4半導体層の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする。
【0014】
また本発明の発光素子アレイによれば、
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする前記発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに、第1および第2の抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して正の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して負の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であることを特徴とする。
【0015】
また本発明の発光装置によれば、
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする前記発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極である発光素子アレイを複数備える発光素子アレイ部と、
前記第1電極と電気的に接続され、前記第1信号を供給する第1の駆動回路と、
前記第2電極と電気的に接続され、前記第2信号を供給する第2の駆動回路と、
前記第3信号と電気的に接続され、前記第3信号を供給する第3の駆動回路とを含み、
前記第1の駆動回路は、ハイレベルおよびローレベルを有する前記第1信号の前記ハイレベルまたは前記ローレベルの電位を設定する第1信号レベル設定手段を有することを特徴とする。
【0016】
また本発明の発光装置によれば、前記スイッチ素子を構成する前記発光サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含むことを特徴とする。
【0017】
また本発明の画像形成装置によれば、前記発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
感光体ドラムに前記発光装置の発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発光サイリスタによれば、第4半導体層(P型)のバンドギャップが第3半導体層(N型)のバンドギャップよりも大きいことから、両半導体層の界面でポテンシャル障壁が形成され、第1半導体層から注入された電子を閉じ込め、第3半導体層(N型)での電子密度を増大させることができる。また、第3半導体層(N型)を第1領域と第2領域の2層に分けて、第4半導体層(P型)側の第2領域の不純物濃度を高めたことから、第2領域での熱平衡状態の電子密度が増大する。さらに、第4半導体層(P型)の不純物濃度を第2領域の不純物濃度と略同一かそれより高濃度にしたことによって、第4半導体層から第2領域に注入される正孔密度を高めることができる。以上の設定によって、第2領域で正孔と電子とを効率よく再結合させて発光させることができ、内部量子効率を高めることができる。
【0019】
また、光の取り出し方向である第4半導体層(P型)のバンドギャップは、主たる発光層である第2領域のバンドギャップよりも広幅であるので、発光した光の吸収層とはならない。主たる発光層が光の取り出し方向に近い第2領域であることから、主たる発光層自身での吸収も問題とならず、本発明によれば、光の取り出し効率にも優れた発光サイリスタを提供することができる。
【0020】
また第1領域の不純物濃度を前記の値としたことによって、電流増幅率の値を、充分に大きくすることができ、かつトランジスタ型の各層を形成する層のうち、中央の層の厚み寸法およびキャリア濃度を低く抑えることと、発光のために必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくすることとを両立することができる。したがって、発光強度に対する電流増幅率の影響を抑制することができる。
【0021】
また本発明の発光サイリスタによれば、高不純物濃度の第5半導体層(P型)を極薄膜のオーミックコンタクト層と第4半導体層(P型)との間に介することによって、アノード電極との間で良好なオーミック接触をとることができる。第5半導体層(P型)のバンドギャップは第4半導体層(P型)のバンドギャップと略同一またはそれより広幅なので、内部で発光した光の吸収層とならず、光の取り出し効率を低下させることはない。
【0022】
本発明の発光素子アレイによれば、発光素子アレイは、第1信号および第2信号が共に入力されているときに制御信号を出力するn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、前記制御信号が伝送されるn本の信号伝送路と、前記信号伝送路からの制御信号と共に、第3信号が入力されているときに発光する複数(n個以上)の発光素子とを含んで構成される。各スイッチ素子の第1電極は、スイッチ素子間でそれぞれ相互に電気的に接続されているので、発光素子アレイに含まれる全てのスイッチ素子に共通の第1信号を与えることができる。
【0023】
発光素子アレイを構成する各スイッチ素子に共通の第1信号が入力されている場合には、第2信号が入力されるスイッチ素子に接続された信号伝送路に制御信号が出力される。さらに制御信号が出力される信号伝送路に接続された発光素子に第3信号が入力されると、この発光素子が発光する。逆に、発光素子アレイに共通の第1信号が入力されていない場合には、各スイッチ素子は、第2信号が入力されていても、制御信号を出力しないので、発光素子に第3信号が入力されたとしても、第3信号が入力された発光素子は発光しない。
【0024】
したがって、複数の発光素子アレイを用いて発光装置を構成する場合には、第1信号によって、どの発光素子アレイに属する発光素子を発光させるかを選択することができる(以下、第1信号が入力されている発光素子アレイは選択状態にあるという)。そこで、発光装置を構成する各発光素子アレイに順番に第1信号を与えて選択状態にすることで、各発光素子アレイに第2信号および第3信号を与えるための駆動用IC、ならびに各発光素子と駆動用ICとの間の配線を、複数の発光素子アレイ間で共用する時分割駆動を行うことができる。このように、本発明の発光素子アレイを用いて発光装置を構成すると、各発光素子アレイ間で駆動用ICおよび配線を共用することができるので、少ない駆動用IC数および配線数で構成された発光装置が実現できる。
【0025】
前記スイッチ素子は、発光サイリスタと、第1および第2の抵抗体とを含んで構成され、また前記発光素子は、発光サイリスタを含んで構成される。ここで、スイッチ素子および発光素子を構成する発光サイリスタは、カソードまたはアノードを共通の電極(電位をVg=0ボルトとする)にして用いられる。
【0026】
カソードを共通電極とする場合には、スイッチ素子は、発光サイリスタのNゲート電極と、第1の抵抗体の一端と、第2の抵抗体の一端とが接続されて構成される。第1の抵抗体の他端は、共通の電極であるカソードを基準電位として正の電圧が印加される。この場合、第2の抵抗体の他端が第1信号を入力するための第1電極に相当し、発光サイリスタのアノードが第2信号を入力するための第2電極に相当し、発光サイリスタのNゲート電極が制御信号を出力するための第1制御電極に相当する。また、発光素子は、発光サイリスタで構成され、第3信号を入力するための第3電極が、発光サイリスタのアノードに相当し、制御信号を入力するための第2制御電極が、発光サイリスタのNゲート電極に相当する。
【0027】
前記の回路構成による回路動作の一例を示す。
第1信号として、ローレベル(電位を0ボルトとする)の信号を第2の抵抗体の他端に印加するとともに、第1の抵抗体の他端に印加される正の電圧をVccボルトとする。また第1信号が入力されていない状態では、第2の抵抗体の他端にVccボルトと同じ電位のハイレベルの電圧(Vccボルト)が印加されているとする。スイッチ素子を構成する発光サイリスタ(以下、スイッチ用サイリスタという)のNゲート電極には、第1および第2の抵抗体の各抵抗値に応じた分圧が印加されるので、第1信号が入力されていない状態では、Vccボルトが印加され、第1信号が入力されている状態では、Vccボルトの分圧(Vdボルト)が印加される。
【0028】
また第2信号としてハイレベルの信号をスイッチ用サイリスタのアノードに印加し、第2信号が入力されていない状態では、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第2信号のハイレベルは、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号が入力されると、スイッチ用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって第1信号が入力されて、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号のハイレベルが入力されると、スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移する。スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移すると、第1制御電極に相当するスイッチ用サイリスタのNゲート電極が、Vdからほぼ0ボルトに遷移して、制御信号としてほぼ0ボルトが出力される。また第2信号が入力されておらず、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベルの電圧が印加されていると、第1信号が入力されているか否かにかかわらず、スイッチ用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわちスイッチ用サイリスタは、第1および第2信号が入力された場合にのみオン状態に遷移して、制御信号を出力するAND回路として機能する。
【0029】
また発光素子を構成する発光サイリスタ(以下、発光用サイリスタという)は、しきい電圧等の電流電圧特性がスイッチ用サイリスタと等しいとする。また第3信号としてハイレベルの信号を発光用サイリスタのアノードに印加し、第3信号が入力されていない状態では、発光用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第3信号のハイレベルは、発光用サイリスタのNゲート電極にVdまたはVccが印加されている状態で、第3信号が入力されたとしても発光用サイリスタがオフ状態を維持し、かつ発光用サイリスタのNゲート電極にほぼ0ボルトの制御信号が印加されている状態で、第3信号が入力されると発光用サイリスタがオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって、第1および第2信号が入力されて、制御信号が発光用サイリスタのNゲート電極に入力されている状態で、第3信号が入力されると、発光用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移して発光する。また第1および第2信号のうちの少なくともいずれか一方が入力されておらず、制御信号が入力されていない状態では、第3信号が入力されているか否かにかかわらず、発光用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわち発光用サイリスタは、第1、第2および第3信号の全ての信号が入力された場合のみ発光する。
【0030】
したがって、本発明によれば、たとえばNANDゲートやインバータなどの複雑な半導体装置を用いることなく、発光サイリスタを用いた簡単な回路構成で、第1〜第3信号を与えることによって選択的に発光素子を発光させる論理回路を構成することができるので、設計が容易で製造工程が簡単な発光素子アレイが実現できる。
【0031】
なお、発光サイリスタのアノードを共通の電極とする場合には、発光サイリスタの極性を反対にし、第1の抵抗体の他端に印加される電圧の正負を反対にし、発光サイリスタのゲート電極の導電型を反対にすれば、同様にして前述の論理回路が実現できる。
【0032】
本発明の発光装置によれば、発光素子アレイは、第1信号および第2信号が共に入力されているときに制御信号を出力するn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、前記制御信号が伝送されるn本の信号伝送路と、前記信号伝送路からの制御信号と共に、第3信号が入力されているときに発光する複数(n個以上)の発光素子とを含んで構成される。各スイッチ素子の第1電極は、スイッチ素子間でそれぞれ相互に電気的に接続されているので、発光素子アレイに含まれる全てのスイッチ素子に共通の第1信号を与えることができる。
【0033】
発光素子アレイを構成する各スイッチ素子に共通の第1信号が入力されている場合には、第2信号が入力されるスイッチ素子に接続された信号伝送路に制御信号が出力される。さらに制御信号が出力される信号伝送路に接続された発光素子に第3信号が入力されると、この発光素子が発光する。逆に、発光素子アレイに共通の第1信号が入力されていない場合には、各スイッチ素子は、第2信号が入力されていても、制御信号を出力しないので、発光素子に第3信号が入力されたとしても、第3信号が入力された発光素子は発光しない。
【0034】
発光装置は、複数の前記発光素子アレイと、各発光素子アレイに第1信号を供給する第1の駆動回路と、第2信号を供給する第2の駆動回路と、第3信号を供給する第3の駆動回路とを含んでいる。したがって、前記発光素子アレイを複数用いて構成される本発明の発光装置では、第1信号によって、どの発光素子アレイに属する発光素子を発光させるかを選択することができ(以下、第1信号が入力されている発光素子アレイは選択状態にあるという)、複数の発光素子アレイのうちのいくつかを選択状態にし、選択状態にない発光素子アレイは第2信号および第3信号が入力されても発光しないようにすることができる。発光装置を構成する各発光素子アレイに順番に第1信号を与えて選択状態にすることで、各発光素子アレイと第2信号および第3信号を与えるための第2および第3の駆動回路との間の配線を、複数の発光素子アレイ間で共用する時分割駆動を行って発光装置を安定に動作させることができる。したがって、駆動用回路の数、および駆動用回路を実装する基板の層数を少なくすることができ、発光素子アレイおよび駆動用回路実装基板の面積を小さくすることができ、小形でかつ安定に動作する発光装置が実現できる。
【0035】
前記第1信号の信号レベルは、発光素子アレイの外部に設けられる第1信号レベル設定手段によって設定されるから、発光素子アレイの回路を簡略化することができ、発光素子アレイのチップサイズを小さくすることができる。また、第1信号レベル設定手段は、複数の発光素子アレイで共有される第1の駆動回路に1つ設ければ済むため、個々の発光素子アレイに同様の機能を設けるのに比べて全体として発光装置の機能を低下されることなく構成を簡略化することができる。
【0036】
前記スイッチ素子は、発光サイリスタと、抵抗体とを含んで構成され、また前記発光素子は、発光サイリスタを含んで構成される。ここで、スイッチ素子および発光素子を構成する発光サイリスタは、カソードまたはアノードを共通の電極(電位をVg=0ボルトとする)にして用いられる。
【0037】
カソードを共通電極とする場合には、スイッチ素子は、発光サイリスタのNゲート電極と、第1の抵抗体の一端とが接続されて構成される。この場合、抵抗体の他端が第1信号を入力するための第1電極に相当し、発光サイリスタのアノードが第2信号を入力するための第2電極に相当し、発光サイリスタのNゲート電極が制御信号を出力するための第1制御電極に相当する。また、発光素子は、発光サイリスタで構成され、第3信号を入力するための第3電極が、発光サイリスタのアノードに相当し、制御信号を入力するための第2制御電極が、発光サイリスタのNゲート電極に相当する。
【0038】
前記の回路構成による回路動作の一例を示す。
第1信号として、ローレベル(電位を2.5ボルトとする)かまたはハイレベル(電位を5ボルトとする)の信号を抵抗体の他端に印加する。スイッチ素子を構成する発光サイリスタ(以下、スイッチ用サイリスタという)のNゲート電極には、第1の駆動回路の第1信号レベル設定手段により、スイッチ用サイリスタをスイッチングするのに適したローレベルおよびハイレベルの各電位が予め設定された第1信号が入力される。第1信号レベル設定手段は、たとえば、直列接続された複数の抵抗器から構成され、直列接続されたそれら複数の抵抗器の中途の接続部から出力される電圧に応じて、第1信号のハイレベルまたはローレベルの電位が設定される。その電位は、複数の抵抗器の分圧比で制御される。
【0039】
また第2信号としてハイレベルの信号をスイッチ用サイリスタのアノードに印加し、第2信号が入力されていない状態では、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第2信号のハイレベルは、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号が入力されると、スイッチ用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって第1信号が入力されて、スイッチ用サイリスタのNゲートにVdボルトが印加されている状態で、第2信号のハイレベルが入力されると、スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移する。スイッチ用サイリスタがオン状態に遷移すると、第1制御電極に相当するスイッチ用サイリスタのNゲート電極が、Vdからほぼ0ボルトに遷移して、制御信号としてほぼ0ボルトが出力される。また第2信号が入力されておらず、スイッチ用サイリスタのアノードにローレベルの電圧が印加されていると、第1信号が入力されているか否かにかかわらず、スイッチ用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわちスイッチ用サイリスタは、第1および第2信号が入力された場合にのみオン状態に遷移して、制御信号を出力するAND回路として機能する。
【0040】
また発光素子を構成する発光サイリスタ(以下、発光用サイリスタという)は、しきい電圧等の電流電圧特性がスイッチ用サイリスタと等しいとする。また第3信号としてハイレベルの信号を発光用サイリスタのアノードに印加し、第3信号が入力されていない状態では、発光用サイリスタのアノードにローレベル(電位を0ボルトとする)の電圧が印加されているとする。第3信号のハイレベルは、発光用サイリスタのNゲート電極にVdまたはVccが印加されている状態で、第3信号が入力されたとしても発光用サイリスタがオフ状態を維持し、かつ発光用サイリスタのNゲート電極にほぼ0ボルトの制御信号が印加されている状態で、第3信号が入力されると発光用サイリスタがオン状態に遷移する値に選ばれる。したがって、第1および第2信号が入力されて、制御信号が発光用サイリスタのNゲート電極に入力されている状態で、第3信号が入力されると、発光用サイリスタがオフ状態からオン状態に遷移して発光する。また第1および第2信号のうちの少なくともいずれか一方が入力されておらず、制御信号が入力されていない状態では、第3信号が入力されているか否かにかかわらず、発光用サイリスタはオフ状態を維持する。すなわち発光用サイリスタは、第1、第2および第3信号の全ての信号が入力された場合のみ発光する。
【0041】
したがって、本発明によれば、たとえばNANDゲートやインバータなどの複雑な半導体装置を用いることなく、発光サイリスタを用いた簡単な回路構成で、第1〜第3信号を与えることによって選択的に発光素子を発光させる論理回路を構成することができるので、設計が容易で製造工程が簡単な発光装置が実現できる。
【0042】
なお、発光サイリスタのアノードを共通の電極とする場合には、発光サイリスタの極性を反対にし、発光サイリスタのゲート電極の導電型を反対にすれば、同様にして前述の論理回路が実現できる。
【0043】
また本発明の発光装置によれば、前記のスイッチ用サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含む。前記遮光手段または減光手段は、スイッチ用サイリスタがスイッチングするときに発する光が発光用サイリスタに入射しないように働くため、その光による発光用サイリスタのしきい電圧の変動を防ぐことができる。よって、発光素子およびスイッチ素子を発光サイリスタで構成した場合において、発光素子アレイを安定に動作させることが可能となる。
【0044】
本発明の画像形成装置によれば、画像情報に基づいて前記発光装置を駆動手段によって駆動して、発光装置からの光を集光手段によって、帯電した感光体ドラムに集光することによって、感光体ドラムは露光され、その表面に静電潜像が形成される。静電潜像が形成された感光体ドラムに、現像剤供給手段によって現像剤を供給すると、感光体ドラムに現像剤が付着して画像が形成される。転写手段によって、感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写して、定着手段によって記録シートに転写された現像剤を定着させることによって、記録シートに画像が形成される。
【0045】
またスイッチ素子は走査方向に沿って順番に発光するが、スイッチ素子と発光素子とが離間しており、発光素子の発光によって感光体ドラムが露光され、スイッチ素子の発光によって感光体ドラムを露光させることがないので、優れた品質の記録画像を得ることができる。
【0046】
また感光体ドラムへの露光を行うための発光素子と、信号転送のためのスイッチ素子とを一体的に集積化したものとすることができるので、発光装置を実装するための回路基板を小型化することができ、この回路基板とのワイヤボンディングの数および回路基板に搭載すべき駆動ICの数を低減することができる。したがって、回路基板の小型化および低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115の基本的構成を示す断面図と各層の不純物濃度とバンドギャップを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115において、第2領域106の不純物濃度を変化させたときの、発光サイリスタ115の発光強度を示す図である。
【図3】NPNの層構造を有する発光サイリスタにおいて、コレクタを成す半導体層のN型キャリアの濃度と発光強度との関係を複数の電流増幅率βの値に対してプロットした図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の発光サイリスタ116の基本的構成を示す断面図と各層の不純物濃度とバンドギャップを示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態の発光素子アレイチップ1の基本構成を示す一部の平面図である。
【図6】図5の切断面線VI−VIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図7】図5の切断面線VII−VIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図8】図5の切断面線VIII−VIIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図9】本発明の実施の一形態の発光装置10を模式的に示すブロック回路図である。
【図10】発光装置10の動作を示すタイミングチャートである。
【図11】発光用サイリスタTのアノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。
【図12】発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の発光サイリスタおよびそれを用いた本発明の発光装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。
【0049】
図1は、本発明の第1の実施の形態の発光サイリスタ115の断面図と、発光サイリスタ115を構成する各層の不純物濃度およびバンドギャップを示したものである。なお、図1の不純物濃度とバンドギャップの値は望ましい一例を示したものであり、本発明の効果はこの値に限って生じるわけではない。
【0050】
最初に、図1に示した発光サイリスタ115の構造について説明する。
図1に示す発光サイリスタ115は、N型半導体基板101上に、N型の第1半導体層102、P型の第2半導体層103、N型の第3半導体層104およびP型の第4半導体層107がこの順に積層されることによって、NPNPのサイリスタの構造が形成されている。ここで、第3半導体層104は、基板側の第1領域105と基板反対側の第2領域106との2層で構成され、これら各層はいずれもN型半導体によって形成される。さらに、P型の第4半導体層107の基板反対側の表面(基板から離反する側)には、表面電極110と良好なオーミック接触をとるためのP型半導体のオーミックコンタクト層109が形成される。表面電極110はオーミックコンタクト層109の基板反対側の表面に形成される。裏面電極111は、基板101の裏面に形成される。この場合、表面電極110はアノード電極として用いられ、裏面電極111はカソード電極として用いられる。また、第3半導体層104のうちの第2領域106の基板反対側の表面にはゲート電極112が設けられている。
【0051】
本実施の形態では、基板101をN型半導体によって形成した場合について例示する。これとは逆に、基板101にP型半導体基板を用い、半導体層を第1半導体層102をP型、第2半導体層103をN型、第3半導体層を104をP型、第4半導体層をN型としてPNPNのサイリスタ構造を形成することも可能である。この場合は、オーミックコンタクト層にはN型の半導体を用い、裏面電極111がアノード電極になり、表面電極110がカソード電極になるが、基板をN型半導体によって形成する方が好ましい。これは、発光サイリスタを集積化したときに、基板裏面の裏面電極(カソード電極)111を共通の接地とし、表面電極(アノード電極)110に正電源を接続できるからである。なお、いずれの導電型の順を用いても本実施の形態の効果に変わりはない。基板をP型半導体基板とした場合は、以下の説明は、正孔と電子を入れ替えればそのまま成り立つ。
【0052】
また、基板101に絶縁性基板および半絶縁性基板などを用いることもできる。この場合は、第2半導体層103、第3半導体層104、第4半導体層107およびオーミックコンタクト層109の一部をエッチングして、第1半導体層102の表面(基板から離反する側)を露出させ、第1半導体層102の露出させた表面に裏面電極111に相当するカソード電極を形成する。
【0053】
各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109は、有機金属気層エピタキシャル成長法(MOVPE)および分子線エピタキシャル成長法(MBE)などのエピタキシャル成長法によって形成される。エピタキシャル成長が必要な理由は、格子欠陥などを多量に含んでいると発光素子および受光素子としてのホトトランジスタとして機能し得ないからである。したがって、格子整合の観点から、基板101、各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109の材料が選択される。
【0054】
基板101の材料としては、III/V族半導体およびII/VI族半導体の薄膜がエピタ
キシャル成長可能なものとして、たとえば、ガリウム砒素(GaAs)、インジウムリン(InP)、ガリウムリン(GaP)、シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)などを用いることができる。基板101に絶縁性基板または半絶縁性基板を使用する場合には、たとえば、GaAs、窒化ガリウム(GaN)およびサファイアなどが用いられる。なお、各半導体層102,103,104,107の結晶性を良好にするために、基板101と第1半導体層102との間に第1半導体層102と同じ導電型のバッファ層を設ける場合がある。
【0055】
各半導体層102,103,104,107の材料には、ガリウム砒素(GaAs)、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)、インジウムガリウムリン(InGaP)およびアルミニウムガリウムインジウムリン(AlGaInP)などが用いられる。なお、これらの材料で発光サイリスタを作製したときの発光波長は、600〜800nmになる。
【0056】
オーミックコンタクト層109の材料にはGaAs、InGaPなどアルミニウムを含んでいない材料が用いられる。アルミニウムを含んでいる場合は表面が大気中で酸化されやすく、表面電極110との間で良好なオーミック接触をとることが困難になるからである。また、オーミックコンタクト層109の不純物濃度を1×1019(cm−3)以上にすることも良好なオーミック接触をとるために必要である。なお、オーミックコンタクト層109の厚さは0.01〜0.02μmとなるべく薄くすることが好ましい。なぜなら、GaAs、InGaPのバンドギャップの値は、アルミニウムを含んでいる材料よりも小さいので、膜厚が大きいと内部で発生した光の再吸収層となるからである。
【0057】
各電極110,111,112の材料は、接触する半導体層または基板101との良好なオーミック接触を保つために適した材料が用いられる。表面電極110は、オーミックコンタクト層109と良好なオーミック接触をとるために、たとえば、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、および金と亜鉛との合金(AuZn)などが用いられる。ゲート電極112は、第3半導体層104の第2領域106と良好なオーミック接触をとるために、たとえば、Au、AuGeおよびニッケル(Ni)などが用いられる。裏面電極111は、半導体基板101と、または基板101に非導電性の材料を用いた場合には第1半導体層102と良好なオーミック接触がとれるという観点から、たとえば、Au、AuGeおよびNiなどが用いられる。
【0058】
次に、本実施の形態の特徴である、発光サイリスタ115の各半導体層102,103,104,107のバンドギャップおよび不純物濃度の最適化について説明する。受光感度を低下することなく外部への発光強度を向上させるという本発明の目的に照らして最適になるように、各半導体層での不純物濃度とバンドギャップを決める。
【0059】
なお、具体的なドーパントとして、本実施の形態においては、N型半導体にはシリコンおよびテルルなどを用いることができ、P型半導体のドーパントとしては、亜鉛、炭素およびマグネシウムなどを用いることができる。実際の素子の作製には、シリコンと亜鉛を用いている。
【0060】
バンドギャップの値を制御するには、各半導体層102,103,104,107を構成する半導体材料の種類および組成を制御することによって行う。アルミニウムガリウム砒素(AlxGa1−xAs)は、格子整合条件を保ったまま、バンドギャップをAlの組成比xによって変化させることができる。アルミニウムガリウムインジウムリン((AlyGa1−y)0.5In0.5P)を用いた場合も、Alの組成比yを変えることによって、GaAsに格子整合した状態でバンドギャップを変化させることができる。
【0061】
また半導体層の不純物濃度が略同一とは、上述した材料を用いた場合には、不純物濃度の差が20%以内であることを意味する。またバンドギャップが略同一とは、上述した材料を用いた場合には、バンドギャップの差が5%以内であることを意味する。これは、設計値では同一であっても、実際に発光サイリスタを作製した場合には、装置の制御性および作製条件によって異なる場合があることを考慮したものである。特に不純物のドーピングについては、膜中で拡散が生じたり、ドーパントの再蒸発が基板温度に依存したりする場合があり、再現性が得られにくい。そこで、上述した材料を用いた場合には、不純物濃度については20%以内、バンドギャップについては5%以内であれば、実質的な違いはないものとして、この範囲にあれば略同一とする。
【0062】
本実施の形態の特徴は、図1に示されるように、バンドギャップについては、第2半導体層(P型)103と第3半導体層(N型)104のバンドギャップが略同一であり、それらの半導体層よりも広いバンドギャップを持つ第1半導体層(N型)102と第4半導体層(P型)107とに挟まれた構造にすることである。熱平衡状態の不純物濃度については、第3半導体層(N型)104を、基板側(第2半導体層103に接する側)の第1領域105と基板反対側(第4半導体層107に接する側)の第2領域106の2層に分けて、第2領域106の不純物濃度を第1領域105の不純物濃度よりも高濃度にする。さらに、第2半導体層(P型)103の不純物濃度は第1の不純物濃度と略同一またはそれよりも高濃度にし、第1半導体層(N型)102は、第2半導体層(P型)103よりも高濃度にする。また、第4半導体層(P型)107の不純物濃度は、第3半導体層(N型)104の第2領域106の不純物濃度と略同一かそれよりも高濃度に設定したことに特徴がある。
【0063】
表1は、本実施の形態における各半導体層102,103,104(105,106),107およびオーミックコンタクト層109の不純物濃度、バンドギャップおよび膜厚の値を示す。なお、この値は好ましい値の例示であって、各半導体層のバンドギャップと不純物濃度について上述した関係を満たせば、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
【表1】
【0065】
各半導体層102,103,104,107のバンドギャップおよび不純物濃度をこのような設定にした第1の理由は、主たる発光層を第3半導体層(N型)104の中の第2領域106にすることによって、内部量子効率と光の取り出し効率をいずれも向上させることができるためである。
【0066】
内部量子効率を高めるには、注入されたキャリアを有効に再結合させる必要がある。基板101にはN型半導体基板が用いられるので、発光サイリスタ101では、正孔は第4半導体層(P型)107側から接合J3を通して注入されることになる。この場合、注入された正孔を電子と有効に再結合させるためには、接合J3の近傍の第2領域106における電子密度を高めることが効果的である。そこで、第2領域106において、熱平衡状態での電子密度および注入されて増加した電子密度のいずれも高めるような設定をした。
【0067】
接合からの注入による電子密度を高めるため、図1に示すように、第2半導体層(P型)103、第3半導体層(N型)104の内の第1領域105、および第3半導体層(N型)104の内の第2領域106の各層のバンドギャップを略同一して、それらのバンドギャップよりも第4半導体層107のバンドギャップを大きくする。第4半導体層(P型)107のバンドギャップが第2領域(N型)106のバンドギャップよりも大きいことから、両者のバンドギャップが等しい場合に比べて、バンドギャップの差の分だけ第4半導体層(P型)107における伝導帯の下端が上がり、電子に対するポテンシャル障壁を形成する。第1半導体層(N型)102から接合J1を通して注入された電子は、接合J3における、このポテンシャル障壁で跳ね返されることになるので、接合J3近傍の第2領域(N型)106での電子密度が高まる効果が得られる。
【0068】
熱平衡状態での電子密度を増やすためには、第3半導体層(N型)104を2層に分けて、基板側の第1領域105の不純物濃度を低く設定する一方で、接合J3に近い第2領域106の不純物濃度を増やした。第1領域105の不純物濃度を低く設定することは、ゲート電極112と裏面電極(カソード電極)111との間の耐圧を確保するために必要である。第1領域105の不純物濃度は全層で最も低い。
【0069】
第2領域106の熱平衡状態でのキャリア密度を増やすことが、発光強度の増加に効果的であることを実験で確認するために、第2領域106の不純物濃度を変えたサンプルを数個作製して、発光強度の比較を行った。
【0070】
図2は、第2領域106の不純物濃度を変えて作製した複数の発光サイリスタ115の発光強度を示すグラフである。発光強度の測定は、発光サイリスタ115のゲート電極112をローレベルにして発光サイリスタ115をオン状態に遷移させたあと、動作電圧を5Vにして行った。図2で、縦軸は測定した発光強度を任意単位で表示したもので、横軸は第2領域106の不純物濃度を示している。図2から明らかなように、第2領域106での不純物濃度(熱平衡状態でのキャリア密度)を1桁増やすことによって発光強度は約5倍の大きさになっており、発光強度に対する不純物濃度の効果が実証された。
【0071】
さらに内部発光効率を高める工夫として、第4半導体層(P型)107の不純物濃度を第2領域と略同一またはそれより高濃度にするとよい。主たる発光層である第2領域106に注入される正孔密度を増加させるためである。
【0072】
一方、光の取り出し効率という点では、発光した光が再吸収されないように、光の取り出し方向の各半導体層のバンドギャップを大きくするとよい。通常、発光サイリスタを発光素子として用いる場合の光の取り出し方向は、基板が光の吸収層になるので、図1ではオーミックコンタクト層109の側(基板から離反する側)になる。したがって、第2領域106で発光した光は、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109を通過して外部に取り出されることになるが、第4半導体層(P型)107のバンドギャップは、主たる発光層である第2領域106のバンドギャップよりも大きいので、第4半導体層(P型)107での光の吸収はない。また、オーミックコンタクト層109の厚みは、0.01μm〜0.02μmに選ばれ、このように非常に薄いのでこの層での発光の吸収は無視できる程度である。
【0073】
さらに、本実施の形態では、各半導体層102,103,104,107の不純物濃度およびバンドギャップを前述したように選ぶことによって、主たる発光層である第2領域の膜厚を0.5μm〜1.0μmと比較的厚く設定することができる。本実施の形態では、第4半導体層(P型)107側から接合J3を通って注入された正孔は、主として第2領域106で電子と再結合して発光する。第2領域106の中でも、注入された正孔密度が最も大きい接合J3の近傍で最も強い発光が生じると考えられるが、発光した光は接合J3の側から第4半導体層(P型)107側を通って取り出されるので、第2領域自身での吸収は問題とならない。したがって、主たる発光層の厚みを十分なものにして、発光場所の体積を増やしたほうが、全体としての発光強度を高めることができる。
【0074】
以上から明らかなように、第3半導体層104のうちで基板反対側の第2領域106が主たる発光層となるように、不純物濃度およびバンドギャップを設定することが内部量子効率の点からも光の取り出し効率の点からも最良である。なお、第2領域106の不純物濃度を高めることは、ゲート電極112との接触抵抗を低めるという副次的な効果もある。
【0075】
エミッタ注入効率を高めるため、第1に、エミッタに相当する第1半導体層(N型)102のバンドギャップを、ベースに相当する第2半導体層(P型)103のバンドギャップよりも大きいヘテロ接合にしている。第2に、エミッタに相当する第1半導体層(N型)102の不純物濃度を、ベースに相当する第2半導体層(P型)103の不純物濃度よりも大きくしている。第3に、ベースに相当する第2半導体層(P型)103の膜厚を薄くしている。第2半導体層(P型)103の厚みは0.01μm〜0.5μm程度が望ましい。このような受光感度を高めるために行った第1半導体層(N型)102および第2半導体層における不純物濃度およびバンドギャップの設定は、発光効率を向上させるために行った設定と矛盾無く両立している。
【0076】
このようにトランジスタ型の層構造が形成されているときには、電流増幅率βを求めることができる。図3は、NPNの層構造を有する発光サイリスタにおいて、コレクタを成す半導体層のN型キャリアの濃度と発光強度との関係を複数の電流増幅率βの値に対してプロットした図である。図3において、横軸はキャリア濃度の値を対数目盛りで表しており、単位は「cm−3」である。縦軸は、発光強度を対数目盛りで表しており、単位は「μW」である。図3において、右肩上がりに直線的に延びる実線は、計算によって電流増幅率βの影響を排除したときに予想される発光強度のキャリア濃度依存性を表している。第1分岐点117aから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=90のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。第2分岐点117bから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=601のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。第3分岐点117cから右に横軸に平行に延びる実線は、電流増幅率β=2028のときの、計算によって予想される、発光強度に対するキャリア濃度依存性を表している。
【0077】
図3において四角でプロットしたデータは、電流増幅率β=90のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表しており、丸でプロットしたデータは、電流増幅率β=601のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表しており、三角でプロットしたデータは、電流増幅率β=2028のときの、発光強度に対するキャリア濃度依存性の実測値を表している。
【0078】
電流増幅率βは、「エミッタ接地直流電流増幅率(hFE)」とも呼ばれ、エミッタ接地のトランジスタに直流電圧を印加したときのコレクタ電流とベース電流との比として表される。この電流増幅率βの値は、次の式(1)のように表される。ベースおよびエミッタの多数キャリア濃度をそれぞれ「NhB」および「NeE」とし、ベースおよびエミッタの少数キャリアの拡散係数をそれぞれ「DeB」および「DhE」とする。ベースおよびエミッタの少数キャリアの拡散長をそれぞれ「LeB」および「LhE」とし、ベースの厚み寸法を「WB」とする。
【0079】
【数1】
【0080】
図3に示すように、各電流増幅率βの値に対して式(1)の計算に基づいて予想した値と、実測値とは、よく一致している。各文字数の値としては、GaAsを例として、NhB=NeE=1018(cm−3)、WB=0.01(μm)、DeB=0.4136(cm2/s)、DhE=0.0491(cm2/s)、LhE=1.402(μm)、LeB=3.523(μm)の値を用いると、電流増幅率β=hFE=1174.7の値が得られる。
【0081】
また、NeE=1018(cm−3)、NhB=1017(cm−3)、WB=0.2(μm)、DeB=10.45(cm2/s)、DhE=1.946(cm2/s)、LhE=0.9865(μm)、LeB=13.164(μm)の値を用いると、電流増幅率β=hFE=2028.3の値が得られる。
【0082】
電流増幅率βの値が小さいと、コレクタを成す半導体層、具体的には第1領域105のキャリア濃度の増大に対して発光強度が飽和してしまい、充分な発光強度を得ることができない。したがって、電流増幅率βの値は、1000以上であることが好ましい。電流増幅率βを1000以上とすることによって、発光強度に対する電流増幅率の影響を抑制することができ、キャリア濃度を高く設定することによって充分な発光強度を得ることができる。
【0083】
以上のように、本発明の実施の形態の発光サイリスタによれば、発光効率が優れた発光サイリスタを提供することができる。
【0084】
図4は、本発明の第2の実施の形態の発光サイリスタ116の断面図と、各層の不純物濃度およびバンドギャップを示したものである。なお、図4の不純物濃度とバンドギャップの値は望ましい一例を示したものであり、本発明の効果はこの値に限って生じるわけでない。なお、以下の説明は基板を一般的なN型半導体基板にした場合について行う。第1の実施の形態で説明したとおり、基板101、各半導体層102,103,104,107,108,およびオーミックコンタクト層109の導電型を反対にしても効果は同じである。
【0085】
図4に示した本実施の形態の発光サイリスタ116と、図1に示した第1の実施の形態の発光サイリスタ115との違いは、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109の間に、第4半導体層(P型)107と同じ導電型の第5半導体層(P型)108を積層したことにある。図4において、サイリスタに特有のNPNP構造の部分は、第1半導体層(N型)102、第2半導体層(P型)103、第3半導体層(N型)104および第4半導体層(P型)107によって構成され、この部分は第1の実施の形態と共通している。第5半導体層(P型)108のバンドギャップは、第4半導体層(P型)107のバンドギャップと略同一またはそれよりも広幅に設定され、第5半導体層(P型)108の不純物濃度は、第4半導体層(P型)106の不純物濃度と略同一またはそれよりも高濃度に設定される。第5半導体層(P型)108以外の各半導体層102,103,104,107およびオーミックコンタクト層109については、それらの層のバンドギャップ、不純物濃度および膜厚の値は、図1に示す第1の実施の形態と同様に設定される。以下の説明では、図4に示される第5半導体層(P型)108以外の部分は、図1に示される実施の形態と同様であるので、対応する部分には同一の参照符号を付し重複を避けて説明は省略する。
【0086】
本実施の形態において、第5半導体層(P型)108のバンドギャップの具体的な値は、第4半導体層(P型)107と略同一にして、1.75eV〜1.88eV程度の値を用いた。第5半導体層(P型)108の不純物濃度の値は、第4半導体層(P型)より大きくして1×1019〜3×1019とした。第5半導体層108の厚さは、0.1〜0.5μmに設定される。第5半導体層(P型)108の材料、形成方法、ドーパント材料については、第1の実施の形態で説明した他の半導体層102,103,104,107と同様であるので説明は省略する。
【0087】
本実施の形態の特徴は、第5半導体層(P型)を設けることによって、表面電極(アノード電極)110との間でオーミック接触をとりやすくしたことにある。第1の実施の形態で述べたように、通常、オーミックコンタクト層は、アルミニウムを含まないGaAs、InGaPなど材料を用いて高濃度の不純物をドーピングして形成される。GaAs、InGaPはバンドギャップが小さいので、発光した光の吸収層とならないように、オーミックコンタクト層は0.01μm〜0.02μmと極めて薄く形成する必要がある。しかし、オーミックコンタクト層を薄くすると、表面電極(アノード電極)110との間で良好なオーミック接触が得られなくなる場合があるので、第4半導体層(P型)107とオーミックコンタクト層109との間に比較的膜厚の大きい第5半導体層(P型)108を設けた。第5半導体層(P型)108の不純物濃度は、第4半導体層(P型)107の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度にして良好なオーミック接触が得られるようにする。それとともに、第5半導体層(P型)108のバンドギャップは第4半導体層(P型)107のバンドギャップと略同一またはそれより広幅に設定して、第3半導体層(N型)のバンドギャップよりも大きくすることによって内部で発光した光の再吸収層とならないようにする。こうすることによって確実なオーミック接触を得ることができる。
【0088】
次に本発明の発光サイリスタを用いて構成される本発明の実施の一形態の発光素子アレイチップ1について説明する。
【0089】
図5は、発光素子アレイチップ1の基本構成を示す平面図である。図6は、図5の切断面線VI−VIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。図7は、図5の切断面線VII−VIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。なお図5は、各発光用サイリスタTの光の出射方向を紙面に垂直手前側として配置された発光素子アレイチップ1の平面を示し、ゲート横配線GH1〜GH4、電源ライン11、セレクト信号伝送路14、電源用ボンディングパッドVs、セレクト信号入力端子CS、発光用サイリスタT、スイッチ用サイリスタS、プルアップ抵抗RP、およびCS抵抗RCSは、図解を容易にするため斜線を付して示されている。発光装置10のうち、発光用サイリスタT、スイッチ用サイリスタSに用いられる発光サイリスタには、第2の実施の形態で示した発光サイリスタ116を用いるが、第1の実施の形態で示した発光サイリスタ115を用いても同様の発光装置10を構成することができる。
【0090】
発光素子アレイチップ1に含まれる複数の発光用サイリスタTは、相互に間隔W1をあけて配列されている。発光用サイリスタTは、露光用の発光素子である。本実施の形態では、各発光用サイリスタTは、等間隔に配列され、かつ直線状に配列される。以後、各発光用サイリスタTの配列方向Xを、単に配列方向Xと記載する場合がある。各発光用サイリスタTの光の出射方向に沿う方向を厚み方向Zとし、前記配列方向Xおよび厚み方向Zに垂直な方向を幅方向Yとする。発光用サイリスタTは、600nm〜800nmの波長の光を発光可能に形成される。
【0091】
発光用サイリスタTは、PNPN構造を有する発光サイリスタによって形成されるので、P型半導体と、N型半導体とを交互に積層した単純な構成で実現することができ、装置の作成が容易となる。前述したように、発光用サイリスタTはゲート電極b1〜bkに、制御信号を与えることによって発光信号の電圧よりも、しきい電圧が低下した状態で、前記発光信号がアノードa1〜akに与えられたとき発光する。
【0092】
発光用サイリスタT1〜Tkは、発光素子ブロックB1〜Bmに分けられ、同一の発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTのアノードaは共通の発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッドに接続される。なお、発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッドを単に発光信号用ボンディングパッドAと記載する場合がある。本実施の形態における発光信号用ボンディングパッドAは、前記第3ボンディングパッドに対応する。また、本実施の形態では、ゲート横配線GHの本数に等しい4個の発光用サイリスタTが1つの発光素子ブロックBを構成する。たとえば、発光用サイリスタTの配列方向に沿う一方から他方へ向かって、発光用サイリスタTに番号を第1番から第k番まで付し、前記配列方向に沿う前記一方から前記他方へ向かって、発光素子ブロックBに番号を第1番から第m番まで付すと、第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する第4i6−3番目から第4i6番目の全ての発光用サイリスタT4i6−3〜T4i6のアノードaと、発光信号用ボンディングパッドAi6との間に接続部60が設けられて、電気的に接続される。発光用サイリスタTのアノードaと発光信号用ボンディングパッドAと接続部60とは同時に一体で形成される。また、本実施の形態では、好ましい構成として、発光信号用ボンディングパッドAは発光用サイリスタTの配列方向Xに沿って、ゲート横配線GHを挟んで発光用サイリスタTと反対側に設置される。
【0093】
配列方向Xの各発光用サイリスタTの間隔W1および発光用サイリスタTの配列方向Xの長さW2は、発光素子アレイチップ1が搭載される後述する画像形成装置87において形成すべき画像の解像度によって決定され、たとえば画像の解像度が600ドットパーインチ(dpi)の場合、前記間隔W1は、約24μm(マイクロメートル)に選ばれ、前記長さW2は、約18μmに選ばれる。
【0094】
各ゲート横配線GHは、発光素子アレイチップ1に沿って配列方向Xに、発光素子アレイチップ1の配列方向Xの一端部から他端部間にわたって延びる。各ゲート横配線GHは、幅方向Yに間隔をあけて配列される。本実施の形態では、発光用サイリスタTに近接する側から順番に、ゲート横配線GH4、ゲート横配線GH3、ゲート横配線GH2およびゲート横配線GH1の順番に配列される。さらに、本実施の形態では、セレクト信号をスイッチ用サイリスタSのゲート電極dに供給するためのセレクト信号伝送路14がゲート横配線GH1と平行に、発光用サイリスタTと離反する側に配置される。セレクト信号伝送路14は、接続部75を介してセレクト信号入力端子CSとしてのボンディングパッドに接続される。セレクト信号入力端子CSとしてのボンディングパッドを単にセレクト信号入力端子CSと記載する場合がある。本実施の形態におけるセレクト信号用ボンディングパッドCSは、前記第1ボンディングパッドに対応する。また、各ゲート横配線GH間およびゲート横配線GH1とセレクト信号伝送路14との間の間隔W3は、相互に隣接するゲート横配線GH間およびゲート横配線GH1とセレクト信号伝送路14との間で短絡が生じない距離に選ばれ、たとえば5μmに選ばれる。
【0095】
発光用サイリスタTのゲート電極b1〜bkは、本実施の形態では、後述する第3半導体層24によって構成され、ゲート横配線GH1〜GH4のいずれかとの間に接続部61,62,63,64が形成される。ここで、発光用サイリスタTの配列方向に沿う一方から他方へ向かって、発光用サイリスタTに番号を第1番から第k番まで付し、前記配列方向の前記一方から他方へ向かって発光素子ブロックBに第1番から第m番まで番号を付すことにすれば、前記配列方向に沿う第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する第4i6−3番目から第4i6番目の発光用サイリスタTについては、第4i6−3番目の発光用サイリスタT4i6−3のゲート電極と第1番目のゲート横配線GH1との間に接続部61が形成され、第4i6−2番目の発光用サイリスタT4i6−2のゲート電極と第2番目のゲート横配線GH2との間に接続部62が形成され、第4i6−1番目の発光用サイリスタT4i6−1のゲート電極と第3番目のゲート横配線GH3との間に接続部63が形成され、第4i6番目の発光用サイリスタT4i6のゲート電極と第4番目のゲート横配線GH4との間に接続部64が形成される。また、第i6(1≦i6≦m)番目の発光素子ブロックBi6に属する全ての発光用サイリスタTのアノードaと前記配列方向に沿うi6番目の発光信号入力端子Ai6との間に接続部60が形成される。このように、同じ発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTが異なるゲート横配線GHに接続されることで、前述したように発光用サイリスタTのダイナミック駆動が可能となる。
【0096】
スイッチ用サイリスタSは、好ましい構成として、前記発光信号用ボンディングパッドA間に生じたスペースに配置される。複数の発光用サイリスタTからなる1つの発光素子ブロックBに対して、発光信号を供給するためのボンディングパッドを1つ備えることとなるので、発光信号用ボンディングパッドA間にスペースを生じ、そのスペースを有効に活用してスイッチ素子などを配置することができる。各スイッチ用サイリスタSのアノードcにゲート信号を供給するためのゲート信号入力端子Gとしてのボンディングパッドも、前記ボンディングパッド間に生じたスペースを活用して配置される。なお、ゲート信号入力端子Gとしてのボンディングパッドを単にゲート信号用ボンディングパッドGと記載する場合がある。本実施の形態では、ゲート信号用ボンディングパッドGは前記第2ボンディングパッドに対応する。アノードcとゲート信号用ボンディングパッドGとは一体に形成される。このように配置することで、スイッチ用サイリスタSなどを設けても、発光素子アレイチップ全体の大きさがそれによって増大することを避けることができ、小形な発光素子アレイチップを構成することができる。なお、スイッチ用サイリスタSの個数nはゲート横配線GHの本数に等しく、本実施の形態ではn=4である。また、CS抵抗RCSも、前記発光信号入力端子Aとしてのボンディングパッド間に生じたスペースを利用して、スイッチ用サイリスタSに近接して配置される。
【0097】
本実施の形態におけるスイッチ用サイリスタSのゲート電極dは、後述する第3半導体層24の第2領域24bで構成される。スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとCS抵抗RCSとの間には接続部65が形成され、さらにゲート電極dと対応するゲート横配線GHとの間にも接続部66が形成されることで電気的に接続される。ゲート電極dとCS抵抗RCSとを接続する接続部65と、ゲート電極dとゲート横配線GHとを接続する接続部66とは一体に形成される。また、CS抵抗RCSは、半導体膜のシート抵抗を利用したもので構成され、CS抵抗RCSとセレクト信号伝送路14との間に接続部67が形成される。
【0098】
プルアップ抵抗RPは、本実施の形態では、スイッチ用サイリスタSを構成する半導体層の一部を用いて、スイッチ用サイリスタSと一体で形成される。プルアップ抵抗RPは半導体膜のシート抵抗を利用したものである。プルアップ抵抗RPの一部と電源ライン11との間に接続部68が形成され、プルアップ抵抗の接続部68の側に電源電圧Vccが与えられる。
【0099】
電源ライン11は、ゲート横配線GHと平行に配線され、本実施の形態では、発光信号用ボンディングパッドAを挟んでゲート横配線GHと離反する側に配置される。電源ライン11は、接続部69によって、電源電圧Vccが与えられるボンディングパッドに電気的に接続される。電源電圧Vccが与えられるボンディングパッドを単に電源用ボンディングパッドVsと記載する場合がある。
【0100】
発光用サイリスタTのアノードa、スイッチ用サイリスタSのアノードc、ゲート横配線GH、セレクト信号伝送路14、電源ライン11、接続部60〜69、発光信号用ボンディングパッドA、ゲート信号用ボンディングパッドG、セレクト信号用ボンディングパッドCS、および電源用ボンディングパッドVsは、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)などによって形成される。
【0101】
また、図5に示す発光素子アレイチップ1は、好ましい構成として、スイッチ用サイリスタSの表面(基板反対側)に遮光手段として遮光膜12を設けている。スイッチ用サイリスタSは、発光用サイリスタTと同様にスイッチングの際に発光するが、その発光は不要であり、発光による光が発光用サイリスタTに入射して発光用サイリスタTのしきい値を変動させてしまうことを避けるために、遮光膜12が用いられる。遮光膜12としては、その発光に対して不透明な材質から成る部材で表面を覆ったものとすればよい。適当な層間絶縁膜を施した場合には、ゲート横配線GHに用いる金(Au)薄膜などが好適に用いられる。また、スイッチ用サイリスタSと発光用サイリスタTとをできるだけ遠ざけて配置することも有効であり、図5の平面図で示すように、ゲート横配線GHを跨いで一方側に発光用サイリスタT、他方側にスイッチ用サイリスタSを配置するようにしてもよい。
【0102】
なお、前述した電流制限抵抗RIはより好ましい構成として付加する場合があるが、図5に示した発光素子アレイチップ1の平面図においては用いていない。
【0103】
以下、発光素子アレイチップ1の構成について、図6〜図8を参照してさらに詳細に説明する。本実施の形態では、基板21にはN型半導体基板を用いる。発光用サイリスタTは、発光サイリスタ116で構成され、基板31のZ方向の表面に第1半導体層(N型)22、第2半導体層(P型)23、第3半導体層(N型)24のうちの第1領域24a、第2領域24b、第4半導体層(P型)25および第5半導体層(P型)26、オーミックコンタクト層27がこの順に積層されて形成される。各半導体層22,23,24a、24b、25,26,27の材料、バンドギャップ、不純物濃度および膜厚は、第2の実施の形態で例示した発光サイリスタ116と同様である。なお、図4と図6とで参照符号は異なるが、対応する構成は同じ名称で記載する。たとえば、図6の基板21は前述した図4の基板101に対応し、図6の各第1〜第5半導体層22,23,24、25,26は、前述した図4の各第1〜第5半導体層102,103,104,107,108にそれぞれ対応する。
【0104】
スイッチ用サイリスタSは、本実施の形態では発光用サイリスタTと同時に形成されるので各層の構成は同一となる。具体的には、スイッチ用サイリスタSは、基板21の表面のうち、発光用サイリスタTが形成された面と同一表面上に、第1半導体層(N型)32、第2半導体層(P型)33、第3半導体層(N型)34のうちの第1領域34a、第2領域34b、第4半導体層(P型)35および第5半導体層(P型)36、オーミックコンタクト層37がこの順に積層されて形成される。以下の説明において、発光用サイリスタTに関する説明はスイッチ用サイリスタSについても同様である。
【0105】
基板21には、本実施の形態では、第1半導体層22と同じ導電型の半導体基板が用いられる。基板21の厚み方向Zで、各半導体層22〜26が積層されている表面とは反対側の表面上には、全面にわたって裏面電極20が形成される。裏面電極20は、金属材料および合材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には裏面電極20は、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)および金と亜鉛との合金(AuZn)などによって形成される。裏面電極20は、各発光用サイリスタTの共通の電極として用いられる。
【0106】
本実施の形態では、第1半導体層22と第3半導体層24の導電型はN型であり、第2半導体層23と第4半導体層25の導電型はP型である。したがって、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSのカソードが共通の電極としての裏面電極20に接続され、ゲート電極にはNゲート電極が用いられる。裏面電極20を接地して、カソード電位を零(0)ボルト(V)にすると、各発光用サイリスタTのアノードaに電圧または電流を印加する電源に、正電源を用いることができるので好ましい。
【0107】
絶縁層28は、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSの表面に沿って形成されており、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間にも形成され、各発光用サイリスタTおよび各スイッチ用サイリスタSが相互に絶縁層28によって電気的に絶縁される。絶縁層28は、電気絶縁性および透光性ならびに平坦性を有する樹脂材料によって形成される。たとえば、ポリイミドおよびベンゾシクロブテン(BCB)など、発光用サイリスタTが発する波長の光の95%以上を透過する樹脂材料が用いられる。
【0108】
絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層27の表面(基板と離反する側)を覆う部分の一部に貫通孔29が形成される。この貫通孔29にアノードaの一部が形成されて、オーミックコンタクト層27に接触している。前記貫通孔29は、発光用サイリスタTの配列方向Xの中央で、かつ発光用サイリスタTの幅方向Yの中央が絶縁層28から露出するように形成されており、アノードaからの電流を、発光用サイリスタTの中央部に効率的に供給して、発光用サイリスタTを発光させることができる。発光用サイリスタTでは、主に第3半導体層24において光が発生する。
【0109】
発光用サイリスタTのアノードaの配列方向Xの長さW3は、発光用サイリスタTの配列方向Xの長さW2の1/3以下に形成される。アノードaは、発光用サイリスタTの光の出射方向の一部を覆うが、長さW3を前述したように選ぶことによって、発光用サイリスタTから発せられ光を、なるべく遮らないようにする。
【0110】
第1半導体層22、第2半導体層23、第3半導体層24、第4半導体層25、第4半導体層26およびオーミックコンタクト層27は、基板21の一表面に分子線エピタキシャル成長および化学気相成長(CVD)法などのエピタキシャル成長法用いて順次積層して形成することができる。その後、フォトリソグラフィを用いたパターニングとエッチングとを用いて、各発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSが形成される。したがって、一連の製造プロセスにおいて、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを同時に形成することになるので、スイッチ用サイリスタSおよび発光用サイリスタTを構成する各半導体層の層構成が同一になる。結果として、スイッチ用サイリスタSおよび発光用サイリスタTはいずれも発光機能およびスイッチ機能の両方を兼ね備えたものになるが、スイッチ用サイリスタSはそのうちスイッチ機能のみを用いる。このようにすれば同じ構造で特性が安定したものを一度に簡単に作製することができ、製造コストを低減することができる。
【0111】
なお、絶縁層28は、各半導体層を形成した後、前述したポリイミドなどの樹脂材料をスピンコーティングしてから硬化させ、さらに電極と発光用サイリスタTとの接続に必要な各貫通孔29を形成するためにフォトリソグラフィによるパターニングおよびエッチングを施すことで作製される。
【0112】
図7に示すように、発光用サイリスタTの幅方向Yの形状については、発光用サイリスタTの第1半導体層22と、第2半導体層23と、第3半導体層24とのゲート横配線GH寄りの端部は、第4半導体層25と、第5半導体層26と、オーミックコンタクト層27とのゲート横配線GH寄りの端部よりも、ゲート横配線GHに向かって突出し、ゲート横配線GHとの被接続部201を構成する。被接続部201の配列方向Xの長さは、前述した長さW2と等しい。なお、第3半導体層24の第2領域24bうち、被接続部201を構成する部分は、第4半導体層25が積層される部分よりも厚みが小さい。この理由は、エッチング工程によって、第3半導体層24の第2領域24bの表面を露出させて被接続部201を形成するときに、第4半導体層25が残存しないようにオーバーエッチングするためである。
【0113】
スイッチ用サイリスタSの幅方向Yの形状についても同様に、スイッチ用サイリスタSの第1半導体層32と、第2半導体層33と、第3半導体層34とのゲート横配線GH寄りの端部は、第4半導体層35と、第5半導体層36と、オーミックコンタクト層37とのゲート横配線GH寄りの端部よりも、ゲート横配線GHに向かって突出し、ゲート横配線GHとの被接続部202を構成する。また、オーバーエッチングを施すために、第3半導体層34の第2領域34bのうち、被接続部202を構成する部分の厚みは、第4半導体層35が積層される部分の厚みよりも小さく形成される。
【0114】
絶縁層28は、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSの表面に沿って形成されるとともに、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間にも形成され、発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとが絶縁層28によって電気的に絶縁される。発光用サイリスタTとスイッチ用サイリスタSとの間に形成された絶縁層28の表面には、ゲート横配線GHおよびセレクト信号伝送路14が形成され、さらにそれらの表面に沿って絶縁層203が形成される。また、スイッチ用サイリスタSを挟んでゲート横配線と離反する側の絶縁層28の表面には、電源ライン11が形成され、さらにその表面に沿って絶縁層203が形成される。
【0115】
形成された絶縁層28,203のうち、発光用サイリスタTの前記被接続部201およびゲート横配線GHの表面(基板反対側)に積層される部分には、貫通孔204,205が形成される。発光用サイリスタTの第3半導体層24の第2領域24b(ゲート電極bに対応する)とゲート横配線GHとを電気的に接続する接続部61は、これらの貫通孔204,205の部分および貫通孔204,205に挟まれた絶縁層28,203の部分に積層して設けられる。また、絶縁層28,203のうち、スイッチ用サイリスタSの前記被接続部202およびゲート横配線GHの表面(基板反対側)に積層される部分にも、貫通孔205,206が形成される。スイッチ用サイリスタSの第3半導体層34の第2領域34b(ゲート電極dに対応する)とゲート横配線GHを電気的に接続する接続部66は、これらの貫通孔205,206の部分および貫通孔205,206に挟まれた絶縁層28,203とに積層して設けられる。図7に示すように、ゲート横配線GHに積層する部分の絶縁層203に設けられた貫通孔205が共通する場合には、前記接続部61,66は一体で形成される。
【0116】
また、前述したように、発光用サイリスタTに積層される絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層27の表面(基板反対側)に積層される部分の一部には貫通孔29が形成される。この貫通孔29にアノードaの一部が形成されて、オーミックコンタクト層27に接触している。アノードaは、発光信号入力端子Aとの接続部60とともに一体形成される。接続部60は発光用サイリスタTの第4半導体層25、第5半導体層26およびオーミックコンタクト層27のゲート横配線GH寄りの端部の一部を覆い、第3半導体層24の第2領域24bに設けられた被接続部201に積層された絶縁層28の表面(基板反対側)の一部も積層して形成される。同様に、スイッチ用サイリスタSに積層される絶縁層28のうち、オーミックコンタクト層37の表面(基板反対側)に積層される部分の一部には貫通孔207が形成される。この貫通孔207にアノードcの一部が形成されて、オーミックコンタクト層37に接触している。
【0117】
またスイッチ用サイリスタSは遮光膜12で覆われる。遮光膜12の幅方向Yの一方の端は、スイッチ用サイリスタSの第4半導体層35、第5半導体層36およびオーミックコンタクト層37の、発光用サイリスタTと反対側の端部を覆い、遮光膜12の幅方向Yの他方の端は、スイッチ用サイリスタSの第3半導体層34の第2領域34bの前記被接続部202を覆い、セレクト信号伝送路14とスイッチ用サイリスタSとの中央付近まで延びる。
【0118】
図8は、図5の切断面線VIII−VIIIから見た発光素子アレイチップ1の基本的構成を示す一部の断面図である。
【0119】
CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPは、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを構成する各半導体層22〜26,32〜36のいずれかからなる半導体層を薄膜抵抗として利用すればよい。本実施の形態では、プルアップ抵抗RPは、第1半導体層52、第2半導体層53、および第3半導体層54によって構成される半導体薄膜を利用しており、CS抵抗RCSは、第1半導体層42、第2半導体層43、および第3半導体層44を利用している。CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPは、本実施の形態では、発光用サイリスタTおよびスイッチ用サイリスタSを構成する各半導体層22〜26,32〜36およびオーミックコンタクト層27,37を形成するときに同時に形成されるので、新たな製造工程を必要としない。
【0120】
CS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの一方の端部の表面は、スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとCS抵抗RCSとを接続する接続部65の一端が接続され、CS抵抗RCSの一端に相当する。またCS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの他方の端部は、セレクト信号伝送路14とCS抵抗RCSとを接続する接続部67の一端が接続され、CS抵抗RCSの他端に相当する。
【0121】
CS抵抗RCSを構成する第1半導体層42、第2半導体層43、および第3半導体層44と、プルアップ抵抗RPを構成する第1半導体層52、第2半導体層53、および第3半導体層54との全体の厚みを決定するためのエッチング工程も、前記被接続部201,202の形成と同時に行われる。したがって、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPの厚みと前記被接続部201,202の厚みは等しい。
【0122】
図8において、絶縁層28は、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPの表面に沿って形成されるとともに、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPとの間にも形成され、CS抵抗RCSおよびプルアップ抵抗RPとが絶縁層28によって電気的に絶縁される。前述したように絶縁層28の表面には、ゲート横配線GH、セレクト信号伝送路14および電源ライン11が形成され、さらにそれらの表面に沿って絶縁層203が形成される。
【0123】
形成された絶縁層28,103のうち、セレクト信号伝送路14およびCS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの他端部の表面(基板反対側)に積層される部分には、貫通孔109,110が形成されて、それらを電気的に接続するための接続部67が設けられる。また、絶縁層28のうち、CS抵抗RCSを構成する第3半導体層44の幅方向Yの一端部の表面(基板反対側)に積層される部分にも貫通孔111が形成され、スイッチ用サイリスタSのゲート電極dとの接続部65が設けられる。さらに、形成された絶縁層28,103のうち、プルアップ抵抗RPと電源ライン11に積層される部分にも貫通孔112,113が形成され、それらを電気的に接続する接続部68が形成される。
【0124】
図9は、本発明の実施の一形態の発光装置10を模式的に示すブロック回路図である。発光装置10は、複数の発光素子アレイチップL1,L2,…,Lp−1,Lp(記号pは、2以上の正の整数)と、前記発光素子アレイチップL1〜Lpの駆動回路として、発光信号を供給する発光信号駆動IC(Integrated Circuit)130と、ゲート信号を供給するゲート信号駆動IC131と、セレクト信号を供給するセレクト信号駆動IC132とを含んで構成される。各駆動ICは後述する制御手段96に基づいて、画像情報を出力する。各発光素子アレイチップL1〜Lpについて、それぞれを総称して指す場合および不特定のものを指す場合に、単に発光素子アレイチップLと記載する。また、発光素子アレイチップLを単にアレイチップLと記載する場合がある。本実施の形態では各アレイチップLには、図5に示す発光素子アレイチップ1を用いる。なお、セレクト信号駆動IC132が前記第1の駆動回路に対応し、ゲート信号駆動IC131が前記第2の駆動回路に対応し、発光信号駆動IC130が前記第3の駆動回路に対応する。
【0125】
各アレイチップLは、配列方向Xに沿って発光素子Tが一列に配列されて、各発光素子Tからの光の出射方向を揃えて回路基板に実装される。ただし、図9には回路基板は図示していない。また、発光信号駆動IC130とゲート信号駆動IC131とセレクト信号駆動IC132とは、前記回路基板に実装される。回路基板にはさらに、各駆動IC130〜132の出力端子と各アレイチップLのボンディングパッドとを接続するためのパターン配線が形成され、パターン配線とボンディングパッドとがボンディングワイヤで接続される。
【0126】
前述したように、発光素子アレイチップ1には、m個の発光信号用ボンディングパッドA、1個のセレクト信号用ボンディングパッドCS、および4個のゲート信号用ボンディングパッドGが含まれる。さらに前記プルアップ抵抗RPの他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される正電源を接続するための電源用ボンディングパッドVsが必要であり、図9に図示されている。なお、図9に示されたp個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、各アレイチップに第1番から第p番まで番号を付すと、第i10(1≦i10≦p)番目のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSをセレクト信号用ボンディングパッドCSi10と記載する。不特定のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCS1〜CSpを指すときは、単にセレクト信号用ボンディングパッドCSと記載する場合がある。
【0127】
発光信号駆動IC130は、各アレイチップLの発光信号用ボンディングパッドA1〜Amと同数(m個)の発光信号出力端子λ1〜λmを有する。発光信号出力端子λ1〜λmについて、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単に発光信号出力端子λと記載する場合がある。各発光信号用ボンディングパッドAと発光信号出力端子λとの接続は、異なるアレイチップ間で配線を共用して接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、発光信号用ボンディングパッドA1〜Amに第1番から第m番まで番号を付し、また発光信号出力端子λ1〜λmにも第1番から第m番まで番号を付すと、p個のアレイチップのそれぞれの第i8(1≦i8≦m)番目の発光信号用ボンディングパッドAi8同士が電気的に接続され、さらに第i8番目の発光信号出力端子λi8に電気的に接続される。
【0128】
ゲート信号駆動IC131は各アレイチップLのゲート信号用ボンディングパッドG1〜G4と同数(4個)のゲート信号出力端子μ1〜μ4を有する。ゲート信号出力端子μ1〜μ4について、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単にゲート信号出力端子μと記載する場合がある。各ゲート信号用ボンディングパッドGとゲート信号出力端子μとの接続は、異なるアレイチップ間で配線を共用して接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、ゲート信号用ボンディングパッドG1〜G4に第1番から第4番まで番号を付し、またゲート信号出力端子μ1〜μ4にも第1番から第4番まで番号を付すと、p個のアレイチップそれぞれの第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号用ボンディングパッドGi9同士が電気的に接続され、さらに第i9番目のゲート信号出力端子μi9に電気的に接続される。
【0129】
セレクト信号駆動IC132はアレイチップLと同数(p個)のセレクト信号出力端子ν1〜νpを有する。セレクト信号出力端子ν1〜νpについて、複数のものを総称する場合または不特定のものを指す場合に、単にセレクト信号出力端子νと記載する場合がある。各セレクト信号用ボンディングパッドCSi10とセレクト信号出力端子νとの接続は、各アレイチップと個別に接続される。p個のアレイチップが実装されている本実施の形態の場合には、各アレイチップLを構成する発光素子Tの配列方向Xに沿う一方から他方に向かって、各アレイチップに第1番から第p番まで番号を付し、またセレクト信号出力端子ν1〜νpにも第1番から第p番まで番号を付すと、第i10(1≦i10≦p)番目のアレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSi10と第i10番目のセレクト信号出力端子νi10とが電気的に接続される。
【0130】
前述したように、各アレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSとセレクト信号出力端子νとが個別に接続されるので、セレクト信号駆動IC132は、各アレイチップLのセレクト信号用ボンディングパッドCSに順番にセレクト信号を出力して、アレイチップLを順番にセレクト状態にすることできる。一方、各アレイチップLとゲート信号駆動IC131との配線は共用されているので、例えば、第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号出力端子μi9から出力されたゲート信号は、すべてのアレイチップLの第i9(1≦i9≦4)番目のゲート信号用ボンディングパッドGi9に入力され、すべてのアレイチップLの第i9番目のスイッチ用サイリスタSi9のアノードci9に入力される。しかし、各アレイチップLの第i9番目のスイッチ用サイリスタSi9の中でスイッチングするのは、セレクト信号が入力されることでセレクト状態にあるアレイチップLのみである。さらに、セレクト状態にあるアレイチップLの第i9番目のゲート横配線GHi9に接続された発光用サイリスタTの中で、発光信号駆動IC130から発光信号が入力された発光素子ブロックBに属する発光用サイリスタTが発光する。
【0131】
このように、セレクト状態にあるアレイチップLを順番に切り替えることで、複数の発光素子アレイ間でゲート信号駆動IC131および発光信号駆動IC130を共用にする時分割駆動を安定に動作させることができる。したがって、駆動用ICの数、および駆動用ICを実装する基板の層数を少なくすることができ、発光素子アレイおよび駆動用IC実装基板の面積を小さくすることができ、結果として小型でかつ安定に動作する発光装置が実現できる。
【0132】
図10は、発光装置10の動作を示すタイミングチャートであり、横軸は基準時刻からの経過時間を表し、縦軸は信号レベルを電圧または電流の大きさで表す。図10では、発光信号駆動IC130、ゲート信号駆動IC131、およびセレクト信号駆動IC132のそれぞれの信号出力端子(発光信号出力端子λ、ゲート信号出力端子μ、およびセレクト信号出力端子ν)から出力される信号(発光信号、ゲート信号およびセレクト信号)の波形が示されている。さらに、プルアップ抵抗RPの他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される電源電圧Vccの波形も示されている。なお、図10では、出力波形の参照符号には、各信号出力端子と接続されるボンディングパッド(信号入力端子)の参照符号を用いている。
【0133】
本実施の形態では、発光信号駆動IC130は、ハイ(H)レベルのとき5mA、ロー(L)レベルのとき0mAの定電流を出力する。ゲート信号駆動IC131は、ハイ(H)レベルのとき1mA、ロー(L)レベルのとき0mAの定電流を出力する。セレクト信号駆動IC132は、ハイ(H)レベルのとき5V、ロー(L)レベルのとき0Vの定電圧を出力する。また、プルアップ抵抗の他端(スイッチ用サイリスタSのゲート電極dが接続されるのと反対側)に印加される電源電圧Vccは5Vである。
【0134】
図10を用いて、発光装置10の動作を時間の経過の順に説明する。時刻t0では、セレクト信号はハイ(H)レベルであるので、どのアレイチップも選択状態にない。時刻t1で、第1番目のアレイチップL1に入力されるセレクト信号をロー(L)レベルにすることで、第1番目のアレイチップL1がセレクト状態になる。時刻t2で、各アレイチップLの第1番目のゲート信号入力端子G1にハイ(H)レベルの信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のみ、第1番目のスイッチ用サイリスタS1がスイッチングしてオン状態に遷移し、スイッチ用サイリスタS1のゲート電極d1に接続されたゲート横配線GH1の電位がほぼローレベル(0V)になる。次に、時刻t3で、各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第1番目のゲート横配線GH1に接続された発光用サイリスタTが発光する。時刻t4で発光信号がロー(L)レベルに戻るので消灯する。次に、時刻t5で、第1番目のゲート信号入力端子G1に入力されるゲート信号がロー(L)レベルに戻り、第2番目のゲート信号入力端子G2に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになる。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のみ、第2番目のスイッチ用サイリスタS2がスイッチングしてオン状態に遷移する。時刻t6〜t7では、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力される。すると、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第2番目のゲート横配線GH2に接続された発光用サイリスタTが発光する。以下同様に、時刻t8〜t11では、第3番目のゲート信号入力端子G3に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうち、第3番目のスイッチ用サイリスタS3がスイッチングしてオン状態に遷移する。この状態で、時刻t9〜t10で、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力されるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第3番目のゲート横配線GH3に接続された発光用サイリスタTが発光する。また、時刻t11〜t14では、第4番目のゲート信号入力端子G4に入力されるゲート信号がハイ(H)レベルになるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうち、第4番目のスイッチ用サイリスタS4がスイッチングしてオン状態に遷移する。この状態で、時刻t12〜t13で、再び各アレイチップの発光信号入力端子A1〜Amに発光信号が入力されるので、選択状態にある第1番目のアレイチップL1のうちで、第4番目のゲート横配線GH4に接続された発光用サイリスタTが発光する。時刻t15で、第1番目のアレイチップL1のスイッチ用サイリスタSのゲートがハイ(H)レベルに遷移し、第1番目のアレイチップL1の選択状態は終了するとともに、時刻t15で第2番目のアレイチップL2のセレクト信号入力端子CS2に入力されるセレクト信号がロー(L)レベルに遷移し、第2番目のアレイチップL2の選択状態が開始する。
【0135】
このように、セレクト信号を第1番目のアレイチップから順番に与え、順番にアレイチップを選択状態にすることで、アレイチップLごとの時分割駆動が可能となる。さらに、ゲート信号が、第1番目のスイッチ用サイリスタから順番に与えられることで、アレイチップLの中での時分割駆動が可能になる。
【0136】
図11は、発光用サイリスタTのアノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。アノード電圧は、カソードの電位を0(零)ボルト(V)としたときのアノードの電位を表し、アノード電流は、アノードに流入する電流を表す。
【0137】
図11は、横軸をアノード電圧とし、縦軸をアノード電流としている。また、図11には負荷線70も示されている。発光用サイリスタTは、ゲート電極bに制御信号を与えることによってしきい電圧VBOが低下するので、動作点が、順方向電圧−電流特性を表す特性曲線71と、負荷線70とが交わるオフ状態のq2点から、特性曲線71と負荷線70とが交わるオン状態のq1点へと遷移することで発光する。オン状態のq1点では、アノードとカソードとの間に主電流が流れる。
【0138】
具体的に数値を使って、発光用サイリスタTの動作を説明する。ここでは、カソードの電位を0ボルト(V)として、発光信号がハイ(H)レベルのとき、アノードaに5Vの電位を与え、発光信号がロー(L)レベルのとき、アノードaに0Vの電位を与えるものとする。また制御信号がハイ(H)レベルのとき、ゲート電極bに5Vの電位を与え、制御信号がロー(L)レベルのとき、ゲート電極gに0Vの電位を与えるものとする。
【0139】
まず、ゲート信号がハイ(H)レベルのとき、ゲート電極bの電位は5Vとなるので、アノード電流を流すためには、ゲート電極bの電位5Vよりも、第3半導体層(N型)および第4半導体層(P型)によって形成されるダイオードの順方向降下電圧分だけ高い電位をアノードaに与える必要がある。順方向降下電圧は、発光サイリスタがGaAsまたはAlGaAsで作製される場合には約1.5Vである。したがって、発光信号をハイ(H)レベルにしても、発光用サイリスタTは、q2点のオフ状態となり発光しない。次に、ゲート信号がロー(L)レベルのとき、ゲート電極bの電位は0Vとなるので、アノード電流を流すためには、ゲート電極gの電位0Vよりも、第3半導体層(N型)および第4半導体層(P型)によって形成されるダイオードの順方向降下電圧分だけ高い電位をアノードaに与える必要がある。したがって、発光信号をハイ(H)レベルにすれば、発光用サイリスタTは、q1点のオン状態となりアノード電流が流れ発光する。
【0140】
なお、スイッチ用サイリスタSの構成およびその動作も、発光用サイリスタTの場合と同様に説明することができる。
【0141】
前記しきい電圧VBOは、前述の電流増幅率βにも関係を有しており、しきい電圧VBOは、ある程度以上大きく設定することが好ましい。本実施形態において、印加電圧がしきい電圧VBOを超えることによって起こる降伏は、パンチスルーによる降伏である。コレクタ接合にかかる電圧が高くなれば高くなるほど、ベース領域に広がり、ベース幅が減小する。これによって、電流増幅率βが増大し、ベース電流でコレクタ電流が制御されない状態となる。本実施形態においてしきい電圧VBOは、パンチスルーによる降伏を前提として設計される。
【0142】
したがって、しきい電圧VBOは、キャリアの電荷量を「q」(クーロン、「C」)、ベースのキャリア濃度を「NP」、ベースの厚み寸法を「WP」、第1領域64aのキャリア濃度を「NN1」、第1領域64aの厚み寸法を「WN1」、第2領域のキャリア濃度を「NN2」、誘電率を「εε0」、拡散電位を「VD」とおくと、
【0143】
【数2】
【0144】
と表すことができる。また拡散電位Vdは、ボルツマン定数を「k」、温度を「T」、真性キャリア濃度を「ni」として、
【0145】
【数3】
【0146】
と表すことができる。「ln」は、底をネピアの数「e」とする自然対数を表す。この計算式は、空乏層が、ベースの少なくとも一部、すなわち第2半導体層23と、第1領域24aと、第2領域24bとを含む範囲に形成されることを前提とし、さらに降伏がパンチスルーによって生じるものとするので、空乏層の厚み寸法がベースの第2半導体層23の膜厚に一致する条件を追加して算出したものである。
【0147】
式(2)から、しきい電圧VBOを充分に大きく設定しようとすれば、ベースとなる第2半導体層23のキャリア濃度「NP」および膜厚「WP」の少なくともいずれか一方を大きくすることが必要となることが分かる。ベースとなる層の膜厚「Wp」は、すなわち厚み寸法「WB」であるので、これを大きく設定すれば電流増幅率βの値が小さくなってしまう。
【0148】
本実施形態では、第1領域24aのキャリア濃度の値を5×1015(cm−3)以上1×1016(cm−3)としたことによって、電流増幅率βの値を、充分に大きくすることができ、かつトランジスタ型の各層を形成する層のうち、ベースの層の厚み寸法およびキャリア濃度を大きく設定しなくても、電圧VBOを充分に大きくすることができる。このように、第1領域24aのキャリア濃度の調整によって、電流増幅率βの値を充分に大きく設定し、かつベースの層の厚み寸法およびキャリア濃度を低く抑えることと、発光のために必要となるしきい電圧VBOを充分に大きくすることとを両立することができる。したがって、発光強度に対する電流増幅率βの影響を抑制することができる。
【0149】
次に、本発明の発光装置を用いて構成される本発明の実施の一形態の画像形成装置87について説明する。
【0150】
図12は、図5に示した発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。画像形成装置87は、電子写真方式の画像形成装置であり、発光装置10を、感光体ドラム90への露光装置に使用している。本実施の形態では、複数の発光装置10および駆動手段73が、回路基板に実装される。回路基板に実装される複数の発光装置10を、単に発光装置10と記載する。
【0151】
画像形成装置87は、Y(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色のカラー画像を形成するタンデム方式を採用した装置であり、大略的に、4つの発光装置10Y,10M,10C,10K、集光手段であるレンズアレイ88Y,88M,88C,88k、前記発光装置10および駆動手段73が実装された回路基板31およびレンズアレイ88を保持する第1ホルダ89Y,89M,89C,89K、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90K、4つの現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写手段である転写ベルト92、4つのクリーナ93Y,93M,93C,93K、4つの帯電器94Y,94M,94C,94K、定着手段95および制御手段96を含んで構成される。
【0152】
各発光装置10は、駆動手段73によって各色のカラー画像情報に基づいて駆動される。4つ発光装置10のX方向の長さW11は、たとえば200mm〜400mmに選ばれる。
【0153】
各発光装置10の発光素子Lからの光は、レンズアレイ88を介して各感光体ドラム90C,90M,90Y,90Kに集光して照射される。レンズアレイ88は、たとえば発光素子Lの光軸上にそれぞれ配置される複数のレンズを含み、これらのレンズを一体的に形成して構成される。
【0154】
発光装置10が実装される回路基板およびレンズアレイ88は、第1ホルダ89によって保持される。ホルダ89によって、発光素子Lの光照射方向と、レンズアレイ88のレンズの光軸方向とがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0155】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、たとえば円筒状の基体表面に感光体層を被着して成り、その外周面には各発光装置10Y,10M,10C,10Kからの光を受けて静電潜像が形成される静電潜像形成位置が設定される。
【0156】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの周辺部には、各静電潜像形成位置を基準として回転方向下流側に向かって順番に、露光された感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに現像剤を供給する現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写ベルト92、クリーナ93C,93M,93Y,93K、および帯電器94Y,94M,94C,94Kがそれぞれ配置される。感光体ドラム90に現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写ベルト92は、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに対して共通に設けられる。
【0157】
前記感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、第2ホルダによって保持され、この第2ホルダと第1ホルダ89とは、相対的に固定される。各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの回転軸方向と、各発光体チップ組立体86の前記X方向とがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0158】
転写ベルト92によって、記録シートを搬送し、現像剤によって画像が形成された記録シートは、定着手段95に搬送される。定着手段95は、記録シートに転写された現像剤を定着させる。感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、回転駆動手段によって回転される。
【0159】
制御手段96は、前述した駆動手段73にクロック信号および画像情報を与えるとともに、感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kを回転駆動する回転駆動手段、現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写手段92、帯電手段94Y,94M,94C,94Kおよび定着手段95の各部を制御する。
【0160】
このような構成の画像形成装置87では、露光装置として使用される発光装置10からバイアス光および漏れ光が発生しないので、高画質の画像を形成することができる。また発光サイリスタによるスイッチ素子Tおよび発光素子Lを集積化した発光装置10を露光装置に用いているので、このような露光装置は、安価に製造することができ、これによって画像形成装置87の製造コストを低減することができる。また本実施の形態の画像形成装置87の発光装置10を発光装置120に代えても、同様の効果を達成することができる。
【0161】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良などが可能である。
【符号の説明】
【0162】
115,116 発光サイリスタ
10 発光装置
101 基板(N型)
102 第1半導体層(N型)
103 第2半導体層(P型)
104 第3半導体層(N型)
105 第1領域
106 第2領域
107 第4半導体層(P型)
108 第5半導体層(P型)
110 表面電極(アノード電極)
111 裏面電極(カソード電極)
112 ゲート電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されている発光サイリスタにおいて、
前記第3半導体層のバンドギャップは、前記第2半導体層のバンドギャップと略同一であり、かつ、前記第1および前記第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、
前記第3半導体層は、前記基板側の第1領域と前記基板と反対側の第2領域とを含んでなり、かつ、前記第1領域の不純物濃度は前記第2領域の不純物濃度よりも低く、かつ1×1016(cm−3)未満であり、
前記第2半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第1領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であり、かつ、前記第1半導体層の不純物濃度より低濃度であり、
前記第4半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第2領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする発光サイリスタ。
【請求項2】
前記第1領域の不純物濃度は、5×1015(cm−3)以上であることを特徴とする請求項1記載の発光サイリスタ。
【請求項3】
前記第4半導体層の前記基板と反対側に、前記第4半導体層と同じ導電型の第5半導体層が積層され、前記第5半導体層のバンドギャップは、前記第4半導体層のバンドギャップと略同一またはそれより広幅であり、前記第5半導体層の不純物濃度は、前記第4半導体層の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする請求項1または2記載の発光サイリスタ。
【請求項4】
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに、第1および第2の抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して正の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して負の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であることを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項5】
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極である発光素子アレイを複数備える発光素子アレイ部と、
前記第1電極と電気的に接続され、前記第1信号を供給する第1の駆動回路と、
前記第2電極と電気的に接続され、前記第2信号を供給する第2の駆動回路と、
前記第3信号と電気的に接続され、前記第3信号を供給する第3の駆動回路とを含み、
前記第1の駆動回路は、ハイレベルおよびローレベルを有する前記第1信号の前記ハイレベルまたは前記ローレベルの電位を設定する第1信号レベル設定手段を有することを特徴とする発光装置。
【請求項6】
前記スイッチ素子を構成する前記発光サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含むことを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
感光体ドラムに前記発光装置の発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
基板上に、N型およびP型のいずれか一方の導電型の第1半導体層、第1半導体層と反対導電型の第2半導体層、第1半導体層と同じ導電型の第3半導体層、および第1半導体層と反対導電型の第4半導体層がこの順に積層されている発光サイリスタにおいて、
前記第3半導体層のバンドギャップは、前記第2半導体層のバンドギャップと略同一であり、かつ、前記第1および前記第4半導体層のバンドギャップより狭幅であり、
前記第3半導体層は、前記基板側の第1領域と前記基板と反対側の第2領域とを含んでなり、かつ、前記第1領域の不純物濃度は前記第2領域の不純物濃度よりも低く、かつ1×1016(cm−3)未満であり、
前記第2半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第1領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であり、かつ、前記第1半導体層の不純物濃度より低濃度であり、
前記第4半導体層の不純物濃度は、前記第3半導体層の第2領域の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする発光サイリスタ。
【請求項2】
前記第1領域の不純物濃度は、5×1015(cm−3)以上であることを特徴とする請求項1記載の発光サイリスタ。
【請求項3】
前記第4半導体層の前記基板と反対側に、前記第4半導体層と同じ導電型の第5半導体層が積層され、前記第5半導体層のバンドギャップは、前記第4半導体層のバンドギャップと略同一またはそれより広幅であり、前記第5半導体層の不純物濃度は、前記第4半導体層の不純物濃度と略同一またはそれより高濃度であることを特徴とする請求項1または2記載の発光サイリスタ。
【請求項4】
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに、第1および第2の抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して正の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記第1および第2の抵抗体のそれぞれの一端と接続され、
前記第1の抵抗体の他端には、共通の電極に対して負の電圧が印加され、
前記第1電極は、第2の抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であることを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項5】
(a)第1電極と、第2電極と、前記第1電極に第1信号が入力されていて、かつ前記第2電極に第2信号が入力されているときに制御信号が出力される第1制御電極とを備えるn(nは2以上の整数)個のスイッチ素子と、
(b)前記各第1制御電極に個別に接続されるn本の信号伝送路と、
(c)第3電極と、前記n本の信号伝送路のうちのいずれか1つに接続される第2制御電極とを備え、前記第3電極に第3信号が入力されていて、かつ前記第2制御電極に制御信号が入力されているときに発光する複数の発光素子とを含む発光素子アレイであって、
前記各信号伝送路には、少なくとも1つの前記発光素子の第2制御電極が接続され、
前記n個のスイッチ素子の第1電極が相互に電気的に接続されており、
前記スイッチ素子および前記発光素子が、カソードまたはアノードを共通の電極とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光サイリスタを含んで構成され、前記スイッチ素子がさらに抵抗体を含んで構成され、
(a)カソードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのアノードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのNゲート電極であり、
(b)アノードを共通の電極とする場合は、
前記スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極は、前記抵抗体の一端と接続され、
前記第1電極は、前記抵抗体の他端であり、
前記第2電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第3電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのカソードであり、
前記第1制御電極は、スイッチ素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極であり、
前記第2制御電極は、発光素子を構成する発光サイリスタのPゲート電極である発光素子アレイを複数備える発光素子アレイ部と、
前記第1電極と電気的に接続され、前記第1信号を供給する第1の駆動回路と、
前記第2電極と電気的に接続され、前記第2信号を供給する第2の駆動回路と、
前記第3信号と電気的に接続され、前記第3信号を供給する第3の駆動回路とを含み、
前記第1の駆動回路は、ハイレベルおよびローレベルを有する前記第1信号の前記ハイレベルまたは前記ローレベルの電位を設定する第1信号レベル設定手段を有することを特徴とする発光装置。
【請求項6】
前記スイッチ素子を構成する前記発光サイリスタが発する光を遮光または減光するための、遮光手段または減光手段を含むことを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
感光体ドラムに前記発光装置の発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−239084(P2010−239084A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88206(P2009−88206)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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