説明

直噴内燃エンジンの制御方法および該方法を使用するエンジン

【課題】 運転手の要求に応答するトルクを保証するように努めながら、最適な燃焼を達成する。
【解決手段】 内燃エンジンを制御する方法は、a)運転手の要求に特に対応している所望のトルク(Torque_des)を求めるステップと、b)所望のトルク(Torque_des)から、少なくとも1種類の流体の燃焼室内への導入を制御するためにパラメータ(Mair_sp,BGR_sp)を定めるのに用いられる所望のIMEP(IMEP_des)を求めるステップと、c)燃焼室内の燃料噴射パラメータ(Mfuel_i,SOI_i,Pfuel)を定めるために、所望のIMEP(IMEP_des)と燃焼室内へ導入される流体に関連している少なくとも1つの大きさとから、IMEPの特定の値(IMEP_sp)を求めるステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジン、特に直噴エンジンの燃焼を制御する方法と、そのような方法を使用するエンジンとに関する。
【0002】
本発明は、特に燃焼ガス再循環機能を有するディーゼルエンジン、特に2つの燃焼モードで動作可能なこのような種類のエンジンに関する。
【背景技術】
【0003】
従来の燃焼モードは、高負荷時に使用することが好ましい、拡散燃焼を伴う、燃焼上死点の付近での燃料の噴射からなり、その一方で、均一燃焼として知られている他の燃焼モードは、低負荷および中負荷時に使用される。
【0004】
後者の燃焼モードでは、燃焼の開始前に均一な空燃混合気を得るために、インジェクタからの燃料を、空気や、空気と再循環排気ガスとの混合気等、このエンジンの燃焼室内へ導入可能なガス状の1つまたは複数の種類の流体と混合可能なことが知られている。
【0005】
これは、特にディーゼルエンジンについて予混合圧縮着火(略してHCCI)という一般用語によって公知であり、本出願人は、噴射燃料によってシリンダ壁が濡れることを避けるためにクランク角度が小さいときに燃料インジェクタを使用するそのような燃焼モードを開発してきた。この燃焼モードは、シリンダ壁上に存在する潤滑油の劣化を防止するだけでなく、汚染物質の排出の増加と、特に燃料消費の点でエンジン性能の低下も防止する。この燃焼モードの開発は、NADI(商標)という名称で使用されているそのような方法を提供している本出願人による特許文献1および特許文献2に、より詳細に記載されている。
【0006】
さらに、低負荷および中負荷では、この均一燃焼モードによって、燃焼室内の空燃混合気の燃焼時には温度の低い火炎が発生するだけであり、これによって、エンジン性能を保ちながら窒素酸化物(NOx)と粒子状物質の排出が大幅に低減される。
【0007】
このような燃焼モードを有利に働かせるためには、吸入空気だけでなく、排気から大量の燃焼ガスを導入し、この燃焼ガス再循環を特定の燃料噴射方法に関連付けることが望ましい。そのような再循環を実現するために最も一般的に使用されている手段は、排気ガスの一部をEGR(排気ガス再循環)として知られている外部の迂回路を通してエンジンの吸気口に送ることである。
【0008】
他方、前述のように、そのようなエンジンはまた、より適度な燃焼ガスレベルと、均一燃焼で使用されるものとは異なる噴射方法とを必要とする、従来の燃焼によっても動作するように構成されている。
【特許文献1】仏国特許第2,818,324号明細書
【特許文献2】仏国特許第2,818,325号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2つの燃焼モードで動作するこの種類のエンジンで発生する問題は、運転手の要求の関数として、シリンダ内へ導入可能な空気および/または燃焼ガスの量の高速で正確な制御を確実にすることが困難なことにある。これは、空気のループ(燃焼空気および/またはガス)のダイナミクスが約数秒であり、特にエンジンの燃焼サイクル程度の早さで反応する燃料ループのダイナミクスと比べて、比較的遅いことが原因である。したがって、過渡動作段階では空気および/または燃焼ガスの設定は燃料の設定に対して適切ではないことがあり、そのため、汚染物質の排出、燃焼騒音、または燃料消費の点で最適な燃焼の助けとならない。
【0010】
本発明の目的は、運転手の要求に応答するトルクを保証するように努めながら、最適な燃焼を達成する方法によって前述の欠点を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、燃焼室内に燃料を直接噴射する手段と、シリンダと、少なくとも1種類の流体を燃焼室内に導入する手段と、燃焼ガス排気手段と、少なくとも運転手のトルク要求とエンジン回転数とについての情報を受信する処理・制御ユニットと、を有する内燃エンジンを制御する方法において、
a)運転手の要求に特に対応している所望のトルクを求めるステップと、
b)所望のトルクから、少なくとも1種類の流体の燃焼室内への導入を制御するためにパラメータを定めるのに用いられる所望のIMEPを求めるステップと、
c)燃焼室内の燃料噴射パラメータを定めるために、所望のIMEPと燃焼室内へ導入される流体に関連している少なくとも1つの大きさとから、IMEPの特定の値を求めるステップと、
を有することを特徴とする、内燃エンジンを制御する方法に関連している。
【0012】
前記の大きさは、燃焼室内に導入される空気に関連していることが好ましい。
【0013】
この大きさは、燃焼室内に導入される空気の量に対応していてもよい。
【0014】
有利なことに、この方法はオブザーバによって求められる前記の大きさを有していてもよい。
【0015】
この方法は、特定のIMEP値をエンジン回転数も考慮して求めることを有していてもよい。
【0016】
有利なことに、この制御方法は、燃焼室内に導入される再循環燃焼ガスおよび/または空気の量に関連している前記の大きさと、特定のIMEPから設定される前記の量の基準値とを比較することによって噴射を修正することを有していてもよい。
【0017】
この大きさは、再循環燃焼ガスに関連し、かつオブザーバによって推定されてもよい。
【0018】
火花点火エンジンの場合には、この方法は、特定のIMEP値から複数の点火パラメータを制御することを有していてもよい。
【0019】
この方法は、燃焼室内に導入される再循環燃焼ガスおよび/または空気の量に関連している前記の大きさと、特定のIMEPから設定される前記の大きさの基準値との間の差に従って複数の点火パラメータを修正することを有していてもよい。
【0020】
本発明は、燃料を燃焼室内に噴射する手段を有している燃焼室を備えた少なくとも1つのシリンダと、少なくとも1種類の流体を燃焼室内に導入する手段と、燃焼ガス排気手段とを有しており、燃焼室内の燃焼が処理・制御ユニットによって制御される直噴内燃エンジンにおいて、ユニットは、少なくとも1種類の流体の燃焼室内への導入パラメータを制御するモジュールと、燃料噴射パラメータを制御するモジュールと、2つの制御モジュール用の収集/特定モジュールと、を有していることを特徴とする直噴内燃エンジンにも適用することが可能である。
【0021】
本発明は、ディーゼル燃焼エンジンに特に適用することも可能である。
【0022】
本発明は、少なくとも1つのシリンダと、シリンダ内を摺動し、かつシリンダヘッドに向いており凹形のくぼみの中央に配置されたニップルを有しているピストンと、給気および燃焼ガス排気の手段と、CDをシリンダの直径とし、Fをインジェクタからの燃料ジェットの始点と上死点に対して50°のクランク角度にある対応するピストンの位置との間の距離としたときに、2Arctg(CD/2F)以下のクランク角度で燃料を噴射する少なくとも1つのインジェクタと、を有するエンジンに適用することも可能である。
【0023】
本発明のその他の特徴と利点は、例示と非制限的な原理のみとして示される以下の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、高負荷で使用される、燃焼TDC(上死点)の付近での燃料噴射と拡散燃焼とを伴う従来の燃焼モードと、低負荷および中負荷で使用される、小クランク角インジェクタによる均一燃焼モードとの、2つのモードで動作可能なディーゼル式の直噴内燃エンジンを模式的に示している。
【0025】
このエンジン10は、空燃混合気の燃焼が内部で起こる燃焼室14を備えた少なくとも1つのシリンダ12を有している。シリンダ12は、レール20(「コモンレール」として公知の装置)によって供給を受ける燃料インジェクタ18を有する、少なくとも1つの燃料噴射手段16を有している。このシリンダ12は、吸気弁24と吸気管26とを備えた少なくとも1つの吸気手段22と、排気弁30と排気管32とを備えた少なくとも1つの燃焼ガス排気手段28も有している。吸気弁24と排気弁30は、従来のカムシャフトや、VVA(Variable Valve Actuation)やVVT(Variable Valve Timing)として知られているような、これらの弁のリフト位相を一緒にまたは互いに独立して変化させるカムシャフト等の任意の公知の手段によって開閉動作させられる。
【0026】
図からわかるように、このエンジンの排気管32は排気マニフォールド34に接続されている一方で、吸気管26は吸気マニフォールド36に接続されている。排気マニフォールド34は、加圧された吸気を管42(図には簡単のためにこのパイプの始端部と終端部だけを示している)を通して吸気マニフォールド36内に導入するターボ圧縮機40を含む排気管路38に接続されている。排気管路38は、EGR弁と呼ばれる弁46によって制御されている、排気ガスの一部を吸気に再循環させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)管路として公知のバイパス管路44も有している。EGRサーキットと呼ばれる、このようにして構成された迂回路は、燃焼ガスがターボ圧縮機40のタービン40aおよび場合によってはカウンタバランス弁102の上流の排気管路38内に取り込まれ、吸気圧が弁46によって調節され、場合によっては冷却装置47と、吸気マニフォールド36との上流であってターボ圧縮機の圧縮機40と場合によっては吸気圧を調節するためのロータリバタフライ弁100等の断面リストリクタの下流の、吸気管路内へのこれらのガスの出口と、を有している図1に示すような高圧タイプとすることができる。このEGRサーキットは、燃焼ガスが粒子フィルタ(不図示)の下流であって、場合によっては断面リストリクタ(ロータリバタフライ弁102等)の上流の排気管路38内に取り込まれ、低圧EGRサーキット用の弁(弁46と同様)と場合によっては冷却装置47と同様の冷却装置と、圧縮機40の上流であって存在するならば弁(不図示)の下流のこれらのガスの出口と、を有している低圧タイプとすることもできる。エンジンは両方のタイプのEGRサーキットを備えることができ、これらは動作点に従って同時にまたは交互に使用することができることに留意されたい。
【0027】
エンジンは、入力される情報に従ってエンジン動作に関連した様々なパラメータを制御する役割を持つ「エンジンコンピュータ」として知られている処理・制御ユニット48も有している。
【0028】
このエンジンコンピュータ48は、特に、運転手がアクセルペダル50を踏むことによって生成されるトルク要求に関する情報を線52を通して受信し、また、このエンジンの回転数に関する情報を線54を通して受信する、「燃焼コントローラ」として知られているコントローラを有している。これら全ての情報の関数として、コンピュータ48は、本明細書の以下の部分でより詳細に説明する処理の後、制御命令を制御線58a,58b,58c,および58dを通して、このエンジンの空気ループで作動する、EGR弁46、ターボ圧縮機40のアクチュエータ、および/または、特に前述のエンジンの吸気部に設けられている弁100や弁102のようなバタフライ弁やその他の弁に補助される空気ループまたは排気ループの任意のその他のアクチュエータ等のさまざまなアクチュエータに送信する。「空気ループ」は、空気、過給された空気、および/または燃焼ガス等の流体を吸気マニフォールド36やシリンダ12内に導入し、制御する管、弁、ターボ圧縮機、またはその他の任意のエンジン構成部材であると理解される。制御命令は、制御線60を通して燃料ループ、特に燃料噴射手段16にも送信され、噴射圧、噴射時間、噴射位相等の様々な燃料噴射パラメータを制御することができる。同様に、燃料ループは、燃料をエンジンの燃焼室14内に導入する任意の構成部材(弁、ポンプ、ポペット弁、噴射トレイン、ポンプインジェクタ等)を含んでいる。
【0029】
図2は、エンジンコンピュータ48内に組み込まれており、2つの別個の制御モジュールである、空気ループを制御するモジュール62と燃料ループを制御するモジュール64とに加えて、基本制御データ(運転手の要求、エンジン回転数、場合によってはエンジン温度等の他のパラメータ(P))を収集し、両制御モジュール62,64を管理する収集/特定モジュール66を有している燃焼コントローラを表している論理回路を示している。
【0030】
収集/特定モジュール66は、所望のトルク(Torque_des)を定めるトルク決定ユニット68と、トルク決定ユニット68によって決定されたトルクから所望のIMEP(Indicated Mean Effective Pressure:図示平均有効圧力)(IMEP_des)を決定するユニット70とを有している。アクセルペダル50の位置(Pedal_pos)、エンジン回転数(Ne)、およびブレーキペダル位置に関連している情報等の任意の他のパラメータ(P)に関連している情報がトルク決定ユニット68に送信される一方で、所望のトルク(Torque_des)、エンジン回転数(Ne)、およびエンジン温度、噛み合っている伝達比等の任意の他のパラメータ(P)に関する情報がユニット70に送信される。
【0031】
空気ループ制御モジュール62は、空気サーキット処理ユニット72を有している。ユニット70から送信されるの所望IMEP(IMEP_des)とエンジン回転数(Ne)は、ユニット72への入力時に、マップ74および76によって、特定の空気量(Mair_sp)と特定の燃焼ガス率(BGR_sp)とに変換される。このユニット72は、エンジンシリンダ12に受け入れられる吸気量(Mair_aspirated)および燃焼ガス率に加えて、大気圧等の任意の他のパラメータ(P)についての情報も受信する。エンジン(BGR)に導入される吸気量(Mair_aspirated)および燃焼ガス率の大きさは、直接計測、または他の計測値からこれらのデータを再構成するオブザーバから得ることができる。これらの情報を全て処理した後、このユニット72は、制御命令を、エンジンアクチュエータを制御し、かつエンジンシリンダ12内に導入される空気および/または再循環燃焼ガスに関連しているパラメータが特定の値にできるだけ近くなるように、これらのパラメータに対して影響を与えることができる様々な構成部材78に送信する。
【0032】
燃料ループの制御モジュール64は、吸気量(Mair_aspirated)と、所望のIMEP(IMEP_des)と、場合によってはエンジン温度、エンジン回転数、および/または計測または推定された燃焼ガス率(BGR)等の燃焼ガス再循環に関連しているパラメータ等の他のパラメータ(P)とに関する入力から特定のIMEP(IMEP_sp)を得るIMEP処理ユニット80を有している。このモジュール64は、噴射手段16を制御している構成部材84に送信される噴射パラメータ(各噴射について燃焼室14内に導入される燃料の量(Mfuel_i)、各噴射の位相(SOI_i)、および噴射圧(Pfuel))を定める噴射修正ユニット82も有している。ユニット82への入力は、各噴射の燃料の量(Mfuel_i_sp)、各噴射の位相(SOI_i_sp)、噴射圧(Pfuel_sp)、燃焼ガス率差(BGR_gap)、吸気量差(Mair_gap)、および場合によってはエンジン回転数(Ne)、特定のIMEP(IMEP_sp)、またはエンジン温度等の他のパラメータ(P)である。特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)とを考慮したマップ86,88,および90から噴射パラメータ(Mfuel_i_sp,SOI_i_sp,およびPfuel_sp)が得られる。燃焼ガス率差(BGR_gap)は、マップ92(特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)を考慮している)から得られた特定のIMEP(IMEP_sp)に適合している燃焼ガス率と、計測または推定された燃焼ガス率(BGR)との間の差を表している。同様に、吸気量差(Mair_gap)は、特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)を考慮しているマップ94から得られた特定のIMEPに適合された空気量と、吸気量(Mair_aspirated)との間の差を表している。
【0033】
エンジンの作動時には、ユニット68は、エンジン回転数(Ne)、アクセルペダル位置(Pedal_pos)による運転手の要求、および場合によってはブレーキペダル位置に関連している情報等のその他のパラメータ(P)等の様々なパラメータから所望のトルク(Torque_des)を求める。それから、この所望のトルクは、全てが一緒になって所望のIMEP(IMEP_des)を定めるエンジン回転数(Ne)および場合によってはエンジン温度や噛み合っている伝達比等のその他のパラメータ(P)から全て算出される乗り心地、エンジン摩擦、および減速度の修正に関連する要件を特に統合する所望のIMEPを求めるユニット70に送信される。このIMEPに関する情報は、エンジン回転数(Ne)の関数としての空気量要求値(Mair_sp)と燃焼ガス要求値(BGR_sp)とを定めるために、空気ループ制御モジュール62のマップ74および76の入力部に送信される。これらの要求値に加えて、エンジンシリンダ12に受け入れられる吸気量(Mair_aspirated)および/または燃焼ガス率と、場合によっては大気圧等のその他のパラメータ(P)に関する情報は、吸気バタフライ弁100、EGR弁46、およびターボ圧縮機40(たとえば、可変形態翼のターボ圧縮機)を制御する構成部材等の様々な空気ループアクチュエータの制御部78を調節することによってこれらの要求値を達成しようとする空気ループ処理ユニット72に出力される。エンジンシリンダ12内に実際に導入される空気量(Mair_aspirated)および燃焼ガス率(BGR)は、任意の手段によって計測したり、「オブザーバ」によって求めることができる。「オブザーバ」は、吸気マニフォールド36の入口またはターボ圧縮機40の上流での空気流量、吸気圧、吸気温度、排気濃度計測値、排気圧、アクチュエータの位置等の、エンジンから得られる計測値からこの空気量および/またはこの燃焼ガス率の算出値を得るための任意の手段である。ユニット72は、これらの算出値から、特定値であるMair_spおよびBGR_spからのそれらの逸脱値を常時算出することによって、ループ制御を行う。
【0034】
このようなループ制御にもかかわらず、シリンダ12に入る空気量および燃焼ガス率は、特に均一燃焼モードと従来の燃焼モードとの間、つまり負荷が過渡状態にある移行動作段階で、特定値から逸脱することがある。また、エンジンによって発生する最大トルクは、シリンダ12の吸気口で吸気できる空気の量によって制限されており、そのため、空燃混合気の濃度が煙等の汚染物質の排出を引き起こさずに特定の値を超えることはあり得ない。
【0035】
最適化された燃焼を保証するために、燃料ループの制御モジュール64は、空気ループの応答時間よりも応答時間が著しく短いという特徴を有している燃料噴射手段16の制御ユニット84に送信される命令を決定するときに、これらの原理を考慮する。
【0036】
このモジュール64の処理ユニット80は、ユニット70から得られる所望のIMEP(IMEP_des)、シリンダ12内の吸気(Mair_aspirated)、および場合によってはエンジンの熱、エンジン回転数(Ne)等の他のパラメータ(P)から、シリンダ12内に噴射される燃料の要求値を求めるために、エンジン回転数(Ne)と共に使用される特定のIMEP値(IMEP_sp)を定める決定アルゴリズムを有している。これらの2つのデータは、各噴射についてシリンダ12内に導入される燃料の量(Mfuel_i_sp)、各噴射のタイミング(SOI_i_sp)、および噴射圧(Pfuel_sp)等の噴射パラメータの様々な設定点を定めるためにマップ86,88,および90の入力として実際に使用される。噴射パラメータの中で使用されている添字「i」は、燃焼サイクル中に各シリンダ12内で起こる様々な噴射に対応している。
【0037】
また、空気ループ制御モジュール62の特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)とが入力されるマップ76と同一のマップ92によって求められる、特定のIMEPに適合した燃焼ガス率(BGR_IMEP_sp)が定められる。それから、特定のIMEPに適合した燃焼ガス率と、計測または推定された燃焼ガス率(BGR)との間の差(BGR_gap)を算出し、最終的な制御命令を噴射制御ユニット84に送信するために、入力部で受信した前述のように定められた噴射パラメータの一部を調節するユニット82に対してこの差(BGR_gap)を出力することができる。
【0038】
同様に、特定のIMEPに適合した空気量(Mair_IMEP_sp)が、特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)とが入力されるマップ94によって求められる。特定のIMEPに適合した空気量(Mair_IMEP_sp)と計測または推定された吸気量(Mair_aspirated)との間の差(Mair_gap)が算出され、それから、いくつかの噴射パラメータのあらゆる修正のためにユニット82に送信される。
【0039】
もちろん、決定ユニット82は、入力部で受信する噴射パラメータを修正するために、エンジン回転数(Ne)、特定のIMEP(IMEP_sp)、またはエンジン熱等、前述の差(BGR_gapおよびMair_gap)以外のパラメータ(P)を考慮することができる。
【0040】
空気ループ制御モジュール62内で所望のIMEP(IMEP_des)を使用することによって、燃料ループコントロールモジュール64が特定のIMEP値(IMEP_sp)を使用している間に、空気および/または燃焼ガスを可能な限り速く運転手に要求されたIMEP値に収束させることができるようになり、かつ、燃料設定をシリンダ12内に実際に導入される空気および/または燃焼ガスに調節できるようになることに留意されたい。したがって、本発明によれば、燃料ループは空気ループ応答のイナーシャを改善しようとするために使用される。
【0041】
本発明は、前述の実施形態に限定されず、あらゆる変形例を含んでいる。
【0042】
したがって、本発明は、シリンダ12内に導入される空気が大気圧に近くなる場合にはターボ圧縮機等の過給器を備えている必要はない。また、燃料直噴手段16は、ポンプインジェクタや同等の装置等、コモンレールと同じ機能を果たす任意の他の形態とすることができる。
【0043】
そのような制御装置は、燃焼室14内への燃料直噴装置と燃焼ガス再循環装置とを備えている火花点火エンジンに部分的にあるいは全体的に適用することもできることに留意されたい。その場合、燃焼は、シリンダ12内に存在する空気および燃焼ガス、燃料噴射、および点火によって、連帯して制御される。したがって、点火に関連するパラメータを求めるために、ディーゼルエンジンの場合に噴射用にのみ使用されるものと同じ決定ツリーを使用してもよく、たとえば、これらのパラメータの基本値を求めるために特定のIMEP(IMEP_sp)とエンジン回転数(Ne)との関数としてのマップを使用した場合、これらのパラメータの基本値は、それから、燃焼室14に導入される再循環燃焼ガスおよび/または空気量に関連した大きさと、特定のIMEP(IMEP_sp)から定められたこの大きさの基準値(BRM_IMEP_sp,Mair_IMEP_sp)と間の差に従って修正することができる。
【0044】
本発明は、もちろん、ディーゼルエンジン、とりわけ参照によって本明細書中に包含されている本出願人による仏国特許第2,818,324号明細書および第2,818,325号明細書に記載されたエンジンの場合に適用される。より具体的には、この種類のエンジンは、シリンダヘッドを備えている少なくとも1つのシリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンと、ガス吸気手段およびガス排気手段と、シリンダヘッドに向いており凹形のくぼみの中央に配置されたニップルを有しているピストンの上面によって一面が画定された燃焼室と、CDをシリンダの直径とし、Fをインジェクタからの燃料ジェットの始点と上死点に対して50°のクランク角度にある対応するピストンの位置との間の距離としたときに、2Arctg(CD/2F)以下のクランク角度で燃料を噴射する少なくとも1つのインジェクタと、を含んでいる。より具体的には、このクランク角度は0°〜120°の間で選択される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の燃焼制御方法を使用している内燃エンジンの図である。
【図2】本発明の方法で使用される論理回路の図である。
【符号の説明】
【0046】
10 エンジン
12 シリンダ
14 燃焼室
16 燃料直噴手段
18 燃料インジェクタ
20 レール
22 吸気手段
24 吸気弁
26 吸気管
28 排気手段
30 排気弁
32 排気管
34 排気マニフォールド
36 吸気マニフォールド
38 排気管路
40 ターボ圧縮機
40a,40b タービン
42 管
44 バイパス管路
46 EGR弁
47 冷却装置
48 制御ユニット
50 アクセルペダル
52 線
54 線
58a〜58d,60 制御線
62 空気ループ制御モジュール
64 燃料ループ制御モジュール
66 収集/特定モジュール
68 トルク決定ユニット
70 ユニット
72 空気サーキット処理ユニット
74〜76,86〜94 マップ
78 制御部
80 IMEP処理ユニット
82 噴射修正ユニット
84 噴射制御ユニット
100,102 ロータリバタフライ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室(14)内に燃料を直接噴射する手段(16)と、シリンダ(12)と、少なくとも1種類の流体を前記燃焼室内に導入する手段(22)と、燃焼ガス排気手段(28)と、少なくとも運転手のトルク要求とエンジン回転数(Ne)とについての情報を受信する処理・制御ユニット(48)と、を有する内燃エンジンを制御する方法において、
a)運転手の要求に特に対応している所望のトルク(Torque_des)を求めるステップと、
b)前記所望のトルク(Torque_des)から、前記少なくとも1種類の流体の前記燃焼室内への導入を制御するためにパラメータ(Mair_sp,BGR_sp)を定めるのに用いられる所望のIMEP(IMEP_des)を求めるステップと、
c)前記燃焼室内の燃料噴射パラメータ(Mfuel_i,SOI_i,Pfuel)を定めるために、前記所望のIMEP(IMEP_des)と前記燃焼室内へ導入される前記流体に関連している少なくとも1つの大きさとから、IMEPの特定の値(IMEP_sp)を求めるステップと、
を有することを特徴とする、内燃エンジンを制御する方法。
【請求項2】
前記大きさは前記燃焼室内に導入される空気に関連している、請求項1に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項3】
前記大きさは前記燃焼室内に導入される空気の量(Mair_aspirated)に対応している、請求項2に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項4】
前記大きさはオブザーバによって求められる、請求項1、2、または3に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項5】
前記特定のIMEP値(IMEP_sp)は前記エンジン回転数(Ne)も考慮して求められる、請求項1に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項6】
前記燃焼室内に導入される再循環燃焼ガスおよび/または前記空気の量に関連している前記大きさと、前記特定のIMEP(IMEP_sp)から設定される前記大きさの基準値(BGR_IMEP_sp,Mair_IMEP_sp)とを比較することによって前記噴射を修正する、請求項1から5のいずれか1項に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項7】
前記再循環燃焼ガスに関連している前記大きさはオブザーバによって推定される、請求項6に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項8】
前記エンジンは火花点火エンジンであり、前記特定のIMEP値(IMEP_sp)から複数の点火パラメータを制御するステップを有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項9】
前記燃焼室内に導入される前記再循環燃焼ガスおよび/または前記空気の量に関連している前記大きさと、前記特定のIMEP(IMEP_sp)から設定される前記大きさの基準値(BGR_IMEP_sp,Mair_IMEP_sp)との間の差に従って前記複数の点火パラメータを修正するステップを有する、請求項8に記載の内燃エンジンを制御する方法。
【請求項10】
燃料を燃焼室内に噴射する手段(16)を有している燃焼室(14)を備えた少なくとも1つのシリンダ(12)と、少なくとも1種類の流体を前記燃焼室(14)内に導入する手段(26)と、燃焼ガス排気手段(28)とを有しており、前記燃焼室内の燃焼が処理・制御ユニット(48)によって制御される直噴内燃エンジンにおいて、
前記ユニット(48)は、前記少なくとも1種類の流体の前記燃焼室(14)内への導入パラメータを制御するモジュール(62)と、燃料噴射パラメータを制御するモジュール(64)と、2つの前記制御モジュール用の収集/特定モジュール(66)と、を有していることを特徴とする直噴内燃エンジン。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法をディーゼル燃焼エンジンに適用する方法。
【請求項12】
請求項1から7の1項に記載の方法を、少なくとも1つのシリンダ(12)と、前記シリンダ(12)内を摺動し、かつシリンダヘッドに向いており凹形のくぼみの中央に配置されたニップルを有しているピストンと、吸気(22)および燃焼ガス排気(28)の手段と、CDをシリンダの直径とし、Fをインジェクタからの燃料ジェットの始点と上死点に対して50°のクランク角度にある対応するピストンの位置との間の距離としたときに、2Arctg(CD/2F)以下のクランク角度で燃料を噴射する少なくとも1つのインジェクタ(19)と、を有するエンジンに適用する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−77772(P2006−77772A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259549(P2005−259549)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】