説明

磁気抵抗素子及びその製造方法

【課題】磁性層及び非磁性層の特性が劣化するのを抑制する。
【解決手段】磁気抵抗素子は、磁化方向が固定された固定層14と、磁化方向が可変である記録層12と、固定層14及び記録層12に挟まれた非磁性層13とを有する積層構造と、この積層構造の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第1の保護膜16と、第1の保護膜16の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第2の保護膜17とを含む。第1の保護膜16は、水素の含有量が4at%以下であり、第2の保護膜17は、水素の含有量が6at%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子及びその製造方法に係り、例えば双方向に電流を供給することで情報を記録することが可能な磁気抵抗素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体メモリの一種として、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:magnetic random access memory)が知られている。MRAMは、磁気抵抗(magnetoresistive)効果を利用してメモリセルに“1”または“0”情報を蓄積させることでメモリ動作を行うデバイスであり、不揮発性、高速動作、高集積性、高信頼性を兼ね備えるという特長を持つため、SRAM、PSRAM(Pseudo SRAM)、DRAMなどを置き換え可能なメモリデバイスの候補の一つとして位置付けられている。
【0003】
磁気抵抗効果のうち、トンネル磁気抵抗(TMR: tunneling magnetoresistive)効果を示す素子を用いたMRAMが数多く報告されている。TMR効果素子としては、2枚の強磁性層とこれらに挟まれたトンネルバリア層とからなる積層構造を有し、スピン偏極トンネル効果による磁気抵抗の変化を利用したMTJ(magnetic tunnel junction)素子を使用するのが一般的である。MTJ素子は、2枚の強磁性層の磁化配列によって、低抵抗状態と高抵抗状態とを取り得る。低抵抗状態を“0”と定義し、高抵抗状態を“1”と定義することで、MTJ素子に1ビットデータを記録することができる。
【0004】
ところで、MTJ素子の周囲には、通常、層間絶縁膜が形成される。この層間絶縁膜に含まれる酸素や、層間絶縁膜の形成時に発生するガスによって、MTJ素子を構成する磁性層及びトンネルバリア層の特性が劣化する。このため、MTJ素子の磁気特性が劣化してしまい、結果として保持データが破壊されてしまう。
【0005】
また、この種の関連技術として、MTJ素子の側面をバリア層で被覆することで、トンネル絶縁層が酸化若しくは還元されるのを抑制する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−243630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、磁性層及び非磁性層の特性が劣化するのを抑制することが可能な磁気抵抗素子及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る磁気抵抗素子は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第1の保護膜と、前記第1の保護膜の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第2の保護膜と、を具備し、前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上である。
【0008】
本発明の一態様に係る磁気抵抗素子は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆い、かつ酸化アルミニウムからなる第1の保護膜と、前記第1の保護膜の側面を覆い、かつ酸化アルミニウムからなる第2の保護膜と、を具備し、前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上である。
【0009】
本発明の一態様に係る磁気抵抗素子は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆う第1の保護膜と、前記第1の保護膜の側面を覆う第2の保護膜と、を具備し、前記第1の保護膜及び前記第2の保護膜のうち一方は窒化シリコンからなり、他方は酸化アルミニウムからなり、前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上である。
【0010】
本発明の一態様に係る磁気抵抗素子の製造方法は、磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造を形成する工程と、PVD法を用いて、前記積層構造の側面を覆うように、窒化シリコンからなる第1の保護膜を形成する工程と、CVD法を用いて、前記第1の保護膜の側面を覆うように、窒化シリコンからなる第2の保護膜を形成する工程とを具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁性層及び非磁性層の特性が劣化するのを抑制することが可能な磁気抵抗素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗素子(MTJ素子)10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は、それに含まれる2枚の磁性層の相対的な磁化方向によって情報を記憶する記憶素子である。図中の矢印は、磁化方向を示している。
【0014】
MTJ素子10は、下部電極11、記録層(自由層ともいう)12、非磁性層(トンネルバリア層)13、固定層(参照層ともいう)14、上部電極15が順に積層された積層構造を有する。以下の説明において、記録層12、トンネルバリア層13、及び固定層14からなる部分を、単にMTJと称する。上部電極15は、ハードマスク層としての機能を兼ねている。なお、記録層12と固定層14とは、積層順序が逆であってもよい。
【0015】
記録層12は、磁化(或いはスピン)の方向が可変である(反転する)。固定層14は、磁化の方向が不変である(固着している)。「固定層14の磁化方向が不変である」とは、記録層12の磁化方向を反転するために使用される磁化反転電流を固定層14に流した場合に、固定層14の磁化方向が変化しないことを意味する。従って、MTJ素子10において、固定層14として反転電流の大きな磁性層を用い、記録層12として固定層14よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の記録層12と磁化方向が不変の固定層14とを備えたMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電子により磁化反転を引き起こす場合、その反転電流は減衰定数、異方性磁界、及び、体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層12と固定層14との反転電流に差を設けることができる。また、固定層14の磁化を固定する方法としては、固定層14の上に反強磁性層(図示せず)を設けることで、固定層14の磁化方向を固定することができる。
【0016】
記録層12及び固定層14の容易磁化方向は、膜面(或いは積層面)に対して垂直であってもよいし(以下、垂直磁化という)、膜面に対して平行であってもよい(以下、面内磁化という)。垂直磁化の磁性層は、膜面に垂直方向の磁気異方性を有しており、面内磁化の磁性層は、面内方向の磁気異方性を有している。
【0017】
MTJ素子10の平面形状については特に制限がなく、円、楕円、正方形、長方形等のいずれを用いてもよい。また、正方形或いは長方形の角が丸くなった形状、或いは角が欠けた形状であってもよい。
【0018】
次に、MTJ素子10の材料について説明する。記録層12及び固定層14は、高い保磁力を持つ磁性材料から構成され、具体的には、1×10erg/cc以上の高い磁気異方性エネルギー密度を有することが好ましい。以下、その材料例(1−1)〜(1−3)について説明する。
【0019】
(1−1) 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素と、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの少なくとも1つの元素とを含む合金。
【0020】
規則合金としては、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50などが挙げられる。組成式の数値は原子%を示している。不規則合金としては、CoCr合金、CoPt合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoCrNb合金などが挙げられる。
【0021】
(1−2) 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金とが、交互に積層されたもの。
【0022】
例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子などが挙げられる。Co/Pt人工格子及びCo/Pd人工格子を使用した場合においては、抵抗変化率(MR比)は、約40%という大きな値を実現できる。
【0023】
(1−3) 希土類金属のうちの少なくとも1つの元素、例えば、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、又は、ガドリニウム(Gd)と、遷移金属のうちの少なくとも1つの元素とからなるアモルファス合金。
【0024】
例えば、TbFe合金、TbCo合金、TbFeCo合金、DyTbFeCo合金、GdTbCo合金などが挙げられる。
【0025】
さらに、記録層12は、上述のような高い保磁力を持つ磁性材料から構成することもできるし、組成比の調整、不純物の添加、厚さの調整などを行って、上述のような高い保磁力を持つ磁性材料よりも磁気異方性エネルギー密度が小さい磁性材料から構成してもよい。以下、その材料例(2−1)〜(2−3)について説明する。
【0026】
(2−1) 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素と、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの少なくとも1つの元素とを含む合金に、不純物を添加したもの。
【0027】
規則合金としては、Fe50Pt50、Fe50Pd50、又は、Co50Pt50に、銅(Cu)、Cr(クロム)、銀(Ag)などの不純物を加えて磁気異方性エネルギー密度を低下させたものなどが挙げられる。不規則合金としては、CoCr合金、CoPt合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、又は、CoCrNb合金について、非磁性元素の割合を増加させて磁気異方性エネルギー密度を低下させたものなどが挙げられる。
【0028】
(2−2) 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金とが、交互に積層された構造を持つものであって、前者の元素若しくは合金からなる層の厚さ、又は、後者の元素若しくは合金からなる層の厚さを調整したもの。
【0029】
鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金についての厚さの最適値と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のうちの1つの元素又はこれらのうちの1つの元素を含む合金についての厚さの最適値とが存在し、厚さがこれら最適値から離れるに従い、磁気異方性エネルギー密度は、次第に低下する。
【0030】
(2−3) 希土類金属のうちの少なくとも1つの元素、例えば、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、又は、ガドリニウム(Gd)と、遷移金属のうちの少なくとも1つの元素とからなるアモルファス合金の組成比を調整したもの。
【0031】
例えば、TbFe合金、TbCo合金、TbFeCo合金、DyTbFeCo合金、GdTbCo合金などのアモルファス合金の組成比を調整し、磁気異方性エネルギー密度を小さくしたものが挙げられる。
【0032】
固定層14の磁化方向を固定するための反強磁性層としては、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、又は、イリジウム(Ir)との合金からなる。例えば、FeMn合金、NiMn合金、PtMn合金、PtPdMn合金、RuMn合金、OsMn合金、IrMn合金などが挙げられる。
【0033】
トンネルバリア層13としては、酸化マグネシウム(MgO)、又は、酸化アルミニウム(Al)等の絶縁材料が挙げられる。下部電極11及び上部電極15としては、タンタル(Ta)、又は、窒化チタン(TiN)等の金属が挙げられる。
【0034】
ところで、MTJ素子10は、下部電極11、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14、上部電極15が順に積層された積層構造を覆うように、2層の保護膜16及び17を備えている。換言すると、2層の保護膜16及び17は、少なくとも積層構造の側面を囲むように形成されている。具体的には、保護膜16は、積層構造を覆うように形成されており、保護膜17は、保護膜16を覆うように形成されている。保護膜16及び17としては、窒化シリコン(SiN)が用いられる。
【0035】
シリコン窒化膜の成膜方法には、化学的な成膜法であるCVD(chemical vapor deposition)法と、物理的な成膜法であるPVD(physical vapor deposition)法とがある。PVD法を用いたシリコン窒化膜の成膜は、SiNを気相成膜する。すなわち、材料を加熱蒸発させて基板に付着させる蒸着や、材料のスパッタリング粒子を基板に付着させるスパッタなどである。以下、PVD法により成膜されたシリコン窒化膜を、PVD−SiNと表記する。
【0036】
一方、CVD法を用いたシリコン窒化膜の成膜は、例えば、シリコン化合物ガスと、窒素ガス(N)との混合ガスを用いて行われる。シリコン化合物ガスとしては、SiH[モノシラン:monosilane]、SiH[ジシラン:disilane]、SiHCl[ジクロロシラン:dichlirosilane]、HSiNHSiH[ジシラザン:disilazane]、SiHNH[ポリシラザン:polysilazane]、(CHSiNHSi(CH[ヘキサメチルジシラザン:hexamethyldisilazane(HMDS)]等が挙げられる。以下、CVD法により成膜されたシリコン窒化膜を、CVD−SiNと表記する。
【0037】
CVD−SiNを保護膜に使用した場合、被覆性が良好であるため酸素及び水をブロックする機能は高いが、MTJに加工ダメージを与える可能性がある。具体的には、シリコン化合物ガスに含まれる水素が、下部電極11、MTJ、及び、上部電極15の各々に形成された自然酸化膜中の酸素と反応し、水が生じる。この水の影響によって、記録層12及び固定層14の磁気特性が劣化する。また、シリコン化合物ガスに含まれる水素が、トンネルバリア層13としてのMgO(或いはAl)を還元する。これにより、トンネルバリア層13の膜厚が変化してしまい、トンネルバリア層13の特性が劣化する。
【0038】
これに対し、PVD−SiNを保護膜に使用した場合、水の影響、MgOの還元反応は生じないが、被覆性が悪く、薄い部分での酸素及び水のブロック性が低下するという難点がある。
【0039】
そこで、第1の実施形態に係るMTJ素子10では、MTJに接する側の保護膜16としてPVD−SiNを用い、外側の保護膜17としてCVD−SiNを用いている。これより、PVD−SiNによってMTJへのダメージを抑えつつ、CVD−SiNによって被覆性を向上し、酸素及び水のブロック性を向上できる。
【0040】
CVD−SiNについては、シリコン化合物ガスによる反応から、膜中への水素の含有量が多くなり、おおよそ6at%以上の水素含有量となる。“at%”は、原子%を意味する。CVD−SiNにおける水素含有量の上限は、シリコン窒化膜としての性質を維持しつつ、CVD−SiNが保護膜としての機能を果たすことが条件であり、おおよそ20at%以下である。これに対し、PVD−SiNについては、成膜時に水素を使用しないため、4at%以下(ゼロを含む)の水素含有量となる。
【0041】
(製造方法)
次に、第1の実施形態に係るMTJ素子10を備えたMRAMの製造方法の一例について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、1個のMTJ素子10と1個の選択トランジスタ22とが直列に接続されて構成された1Tr+1MTJ型のメモリセルを備えたMRAMを一例に説明する。
【0042】
P型導電性の基板20は、例えばP型半導体基板、P型ウェルを有する半導体基板、P型半導体層を有するSOI(Silicon On Insulator)型基板などである。半導体基板20としては、例えばシリコン(Si)が用いられる。
【0043】
半導体基板20は、表面領域に素子分離絶縁層21を具備し、素子分離絶縁層21が形成されていない半導体基板20の表面領域が素子を形成する素子領域(活性領域)となる。素子分離絶縁層21は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により構成される。STI21としては、例えば酸化シリコン(SiO)が用いられる。
【0044】
図2に示すように、半導体基板20に、NチャネルMOSトランジスタからなる選択トランジスタ22を形成する。選択トランジスタ22は、半導体基板20内に互いに離間して形成されたソース領域23A及びドレイン領域23Bと、ソース領域23A及びドレイン領域23B間の半導体基板20上にゲート絶縁膜24を介して形成されたゲート電極25とを備えている。ソース領域23A及びドレイン領域23Bはそれぞれ、半導体基板20内に高濃度のn型不純物(リン(P)、ヒ素(As)等)を導入して形成されたn型拡散領域により構成される。ゲート電極25は、ワード線として機能する。ソース領域23Aは、コンタクトを介してソース線(図示せず)に接続される。このソース線を介してMTJ素子10に電流が供給される。
【0045】
続いて、選択トランジスタ22を覆うように、半導体基板20上に、例えば酸化シリコン(SiO)からなる層間絶縁層26を堆積する。続いて、層間絶縁層26内に、ドレイン領域23Bを露出する開口部を形成し、この開口部内に、例えばタングステン(W)からなる導電体を埋め込む。そして、層間絶縁層26の上面、及び導電体の上面をCMP(chemical mechanical polishing)法を用いて平坦化する。これにより、層間絶縁層26内に、ドレイン領域23Bに電気的に接続されたコンタクト27が形成される。
【0046】
続いて、図3に示すように、例えばスパッタ法により、下部電極11、MTJ、上部電極15を順に成膜する。下部電極11、MTJ、及び、上部電極15は、前述した材料のいずれかを用いて形成される。続いて、図4に示すように、リソグラフィ及びRIE(reactive ion etching)法を用いて、上部電極(ハードマスク層)15をMTJ素子10の平面形状と同じ形状に加工する。
【0047】
続いて、図5に示すように、ハードマスク層15をマスクとして、例えばイオンミリング法を用いて、MTJ膜をエッチングする。これにより、所望の平面形状を有するMTJが形成される。
【0048】
続いて、図6に示すように、MTJ及び上部電極15を覆うように、上部電極15及び下部電極11上に、PVD法により、窒化シリコンからなる保護膜16を成膜する。PVD法による成膜工程では、水素を使用しないため、MTJの磁気特性が劣化するのを抑制することができる。
【0049】
続いて、図7に示すように、保護膜16上に、CVD法により、窒化シリコンからなる保護膜17を成膜する。CVD法によって形成された保護膜17は、被覆性が良好であるため、酸素及び水がMTJに侵入するのをブロックすることができる。これにより、MTJが酸化されるのを抑制することができ、また、MTJに水が浸入することによって磁気特性が劣化するのを抑制することができる。
【0050】
続いて、図8に示すように、リソグラフィ及びRIE法を用いて、下部電極11を所望の形状に加工する。なお、下部電極11の加工工程によって、保護膜16及び17も下部電極11と同じ平面形状に加工されている。続いて、図9に示すように、保護膜17を覆うように、層間絶縁層26上に、例えば酸化シリコンからなる層間絶縁層28を堆積する。続いて、CMP法を用いて、層間絶縁層28の上面を平坦化するとともに、ハードマスク層15の上面に形成された保護膜16及び17を除去し、ハードマスク層15の上面を露出させる。
【0051】
続いて、図10に示すように、ハードマスク層15上及び層間絶縁層28上に、例えばアルミニウム(Al)からなる導電体を堆積し、この導電体をリソグラフィ及びRIE法を用いて加工する。これにより、ハードマスク層15に電気的に接続された配線層(ビット線)29が形成される。このようにして、第1の実施形態に係るMRAMが製造される。
【0052】
以上詳述したように第1の実施形態では、下部電極11、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14、上部電極15が順に積層された積層構造を覆うように、2層の保護膜16及び17を形成する。これら2層の保護膜16及び17は、窒化シリコンからなり、さらに、積層構造に接する保護膜16をPVD法を用いて成膜し、一方、外側の保護膜17をCVD法を用いて成膜するようにしている。
【0053】
従って第1の実施形態によれば、MTJを含む積層構造が2層の保護膜で覆われているため、MTJが酸化されるのを抑制することができる。これにより、MTJの磁気特性が劣化するのを抑制することができる。
【0054】
また、MTJに接している保護膜(PVD−SiN)16は水素の含有量が低いため、水が生成されるのを抑制することができ、さらに、トンネルバリア層13の還元反応を抑制することができる。これにより、記録層12及び固定層14の磁気特性が劣化するのを抑制することができ、さらに、トンネルバリア層13の特性が劣化するのも抑制することができる。この結果、MTJ素子10のリテンション特性を向上させることができるとともに、MTJ素子10に記憶されたデータが破壊されることによって発生する誤読み出しを防ぐことができる。
【0055】
また、保護膜16の外側に形成されたCVD−SiNからなる保護膜17は、被覆性が良好であるため酸素及び水をブロックすることができる。これにより、酸素及び水によって記録層12及び固定層14の磁気特性が劣化するのを抑制することができ、さらに、トンネルバリア層13の特性が劣化するのも抑制することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、MTJを覆うように、2層の保護膜16及び17を形成する。そして、これら2層の保護膜16及び17は、酸化アルミニウムからなり、さらに、MTJに接する保護膜16をPVD法を用いて成膜し、外側の保護膜17をCVD法を用いて成膜するようにしている。
【0057】
図11は、本発明の第2の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は、下部電極11、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14、上部電極15が順に積層された積層構造を覆うように、2層の保護膜16及び17を備えている。換言すると、2層の保護膜16及び17は、少なくとも積層構造の側面を囲むように形成されている。具体的には、保護膜16は、積層構造を覆うように形成されており、保護膜17は、保護膜16を覆うように形成されている。保護膜16及び17としては、酸化アルミニウム(Al)が用いられる。
【0058】
アルミニウム酸化膜の成膜方法には、CVD法とPVD法とがある。以下、CVD法により成膜されたアルミニウム酸化膜を、CVD−Alと表記し、PVD法により成膜されたアルミニウム酸化膜を、PVD−Alと表記する。
【0059】
CVD法を用いたアルミニウム酸化膜の成膜は、例えば、アルミニウム及び水素を含む有機ガスと、HOガス(或いは酸素ガス(O))との混合ガスを用いて行われる。アルミニウム及び水素を含む有機ガスとしては、TMA(トリメチルアルミニウム:trimethylalminium)などが挙げられる。
【0060】
CVD−Alを保護膜に使用した場合、被覆性が良好であるため酸素及び水をブロックする機能は高いが、MTJに加工ダメージを与える可能性がある。具体的には、有機ガスに含まれる水素が、下部電極11、MTJ、及び、上部電極15の各々に形成された自然酸化膜中の酸素と反応し、水が生じる。この水の影響によって、記録層12及び固定層14の磁気特性が劣化する。また、有機ガスに含まれる水素が、トンネルバリア層13としてのMgOを還元する。これにより、トンネルバリア層13の膜厚が変化してしまい、トンネルバリア層13の特性が劣化する。また、混合ガスに含まれる酸素によってMTJが酸化し、MTJの磁気特性が劣化する。
【0061】
これに対し、PVD−Alを保護膜に使用した場合、酸化、水の影響、MgOの還元反応はほとんど生じないが、被覆性が悪く、薄い部分での酸素及び水のブロック性が低下するという難点がある。
【0062】
そこで、第2の実施形態に係るMTJ素子10では、MTJに接する側の保護膜16としてPVD−Alを用い、外側の保護膜17としてCVD−Alを用いている。これより、PVD−AlによってMTJへのダメージを抑えつつ、CVD−Alによって被覆性を向上し、酸素及び水のブロック性を向上できる。
【0063】
CVD−Alについては、有機ガスによる反応から、膜中への水素の含有量が多くなり、おおよそ6at%以上の水素含有量となる。CVD−Alにおける水素含有量の上限は、アルミニウム酸化膜としての性質を維持しつつ、CVD−Alが保護膜としての機能を果たすことが条件であり、おおよそ20at%以下である。これに対し、PVD−Alについては、成膜時に水素を使用しないため、4at%以下(ゼロを含む)の水素含有量となる。
【0064】
第2の実施形態に係るMTJ素子10を備えたMRAMの製造方法は、保護膜16及び17の材料がSiNからAlに変わる以外は、第1の実施形態で説明した製造方法と同じである。
【0065】
以上詳述したように第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、MTJの磁気特性が劣化するのを抑制することができる。この結果、MTJ素子10のリテンション特性を向上させることができるとともに、MTJ素子10に記憶されたデータが破壊されることによって発生する誤読み出しを防ぐことができる。
【0066】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、MTJを覆うように、2層の保護膜16及び17を形成する。そして、これら2層の保護膜16及び17のうち一方を窒化シリコンで構成し、他方を酸化アルミニウムで構成するようにしている。さらに、MTJに接する保護膜16をPVD法を用いて成膜し、外側の保護膜17をCVD法を用いて成膜するようにしている。
【0067】
図12は、本発明の第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は、下部電極11、記録層12、トンネルバリア層13、固定層14、上部電極15が順に積層された積層構造を覆うように、2層の保護膜16及び17を備えている。換言すると、2層の保護膜16及び17は、少なくとも積層構造の側面を囲むように形成されている。保護膜16は、窒化シリコンからなり、保護膜17は、酸化アルミニウムからなる。
【0068】
シリコン窒化膜は、酸素及び水のブロック性が高い。一方、アルミニウム酸化膜は、水素のブロック性が高い。従って、2層の保護膜の一方をシリコン窒化膜で構成し、他方をアルミニウム酸化膜で構成することで、水素、酸素及び水のブロック性を向上させることができる。
【0069】
さらに、MTJに接する側の保護膜16として、PVD法によって形成したシリコン窒化膜(PVD−SiN)を用いている。これにより、水の影響による記録層12及び固定層14の磁気特性の劣化を抑制することができる。さらに、トンネルバリア層13としてのMgOの還元反応を抑制することができる。
【0070】
また、外側の保護膜17として、CVD法によって形成したアルミニウム酸化膜(CVD−Al)を用いている。これにより、MTJの被覆性が向上するため、酸素及び水のブロック性を向上できる。
【0071】
CVD−Alについては、有機ガスによる反応から、膜中への水素の含有量が多くなり、おおよそ6at%以上20at%以下の水素含有量となる。これに対し、PVD−SiNについては、成膜時に水素を使用しないため、4at%以下(ゼロを含む)の水素含有量となる。
【0072】
図13は、第3の実施形態に係るMTJ素子10の他の構成例を示す断面図である。図13に示すように、MTJに接する側の保護膜16として、PVD法によって形成したアルミニウム酸化膜(PVD−Al)を用いる。一方、外側の保護膜17として、CVD法によって形成したシリコン窒化膜(CVD−SiN)を用いる。CVD−SiNについては、シリコン化合物ガスによる反応から、膜中への水素の含有量が多くなり、おおよそ6at%以上20at%以下の水素含有量となる。これに対し、PVD−Alについては、成膜時に水素を使用しないため、4at%以下(ゼロを含む)の水素含有量となる。このように構成した場合でも、図12と同様の効果を得ることができる。
【0073】
第3の実施形態に係るMTJ素子10を備えたMRAMの製造方法は、保護膜16及び17の材料が変わる以外は、第1の実施形態で説明した製造方法と同じである。
【0074】
以上詳述したように第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、MTJの磁気特性が劣化するのを抑制することができる。この結果、MTJ素子10のリテンション特性を向上させることができるとともに、MTJ素子10に記憶されたデータが破壊されることによって発生する誤読み出しを防ぐことができる。
【0075】
なお、第1乃至第3の実施形態では、1個の固定層と1個の記録層とがトンネルバリア層を挟むシングルジャンクション型のMTJ素子について例示している。しかし、この構成に限定されるものではなく、記録層の上下に2個の固定層が非磁性層を介して配置されたダブルジャンクション型のMTJ素子に本発明を適用してもよい。
【0076】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図2】MTJ素子10を備えたMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図3】図2に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図4】図3に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図5】図4に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図6】図5に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図7】図6に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図8】図7に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図9】図8に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図10】図9に続くMRAMの製造方法の一工程を示す断面図。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図12】本発明の第3の実施形態に係るMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図13】第3の実施形態に係るMTJ素子10の他の構成例を示す断面図。
【符号の説明】
【0078】
10…MTJ素子、11…下部電極、12…記録層、13…トンネルバリア層、14…固定層、15…上部電極、16,17…保護膜、…保護膜、20…半導体基板、21…素子分離絶縁層、22…選択トランジスタ、23A…ソース領域、23B…ドレイン領域、24…ゲート絶縁膜、25…ゲート電極、26,28…層間絶縁層、27…コンタクト、29…配線層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第1の保護膜と、
前記第1の保護膜の側面を覆い、かつ窒化シリコンからなる第2の保護膜と、
を具備し、
前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、
前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上であることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆い、かつ酸化アルミニウムからなる第1の保護膜と、
前記第1の保護膜の側面を覆い、かつ酸化アルミニウムからなる第2の保護膜と、
を具備し、
前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、
前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上であることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項3】
磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造と、
前記積層構造の側面を覆う第1の保護膜と、
前記第1の保護膜の側面を覆う第2の保護膜と、
を具備し、
前記第1の保護膜及び前記第2の保護膜のうち一方は窒化シリコンからなり、他方は酸化アルミニウムからなり、
前記第1の保護膜は、水素の含有量が4at%以下であり、
前記第2の保護膜は、水素の含有量が6at%以上であることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1の保護膜は、PVD(physical vapor deposition)法により形成され、
前記第2の保護膜は、CVD(chemical vapor deposition)法により形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
磁化方向が固定された固定層と、磁化方向が可変である記録層と、前記固定層及び前記記録層に挟まれた非磁性層とを有する積層構造を形成する工程と、
PVD法を用いて、前記積層構造の側面を覆うように、窒化シリコンからなる第1の保護膜を形成する工程と、
CVD法を用いて、前記第1の保護膜の側面を覆うように、窒化シリコンからなる第2の保護膜を形成する工程と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−103303(P2010−103303A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273276(P2008−273276)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】