説明

窒化ガリウム基板、発光素子、電界効果トランジスタ及びエピタキシャル膜の製造方法

【課題】特定の一部の領域にのみ加工歪みが存在する場合であっても、短時間で容易に歪みを評価することのできる方法による評価の結果合格した窒化ガリウム基板、その窒化ガリウム基板を含む発光素子もしくは電界効果トランジスタ、及びそのガリウム基板上に結晶を成長させるエピタキシャル膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、窒化ガリウム基板1のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、窒化ガリウム基板1の表面の測定範囲3内において1mm×1mmの正方形の測定領域2ごとに測定したときの、全測定領域2におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上であり、測定領域2は測定範囲3内に隙間無く連続する、窒化ガリウム基板1が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム基板、発光素子、電界効果トランジスタ及びエピタキシャル膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトルミネッセンス測定を用いて化合物半導体基板の表面に発生した歪み等のダメージを評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、カソードルミネッセンス法を用いて単結晶体の結晶品質を評価する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−339605号公報
【特許文献2】特開2010−222232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法によれば、加工歪によるダメージが基板の特定の一部の領域にスクラッチ状に残っている場合、ダメージを検出するためには、加工歪の入っている箇所を特定して測定を行わなければならない。
【0006】
また、基板表面の全領域のダメージを評価する場合には、必要最低限の領域でフォトルミネッセンスの発光スペクトルの測定を行うことにより、測定時間を短縮することができるが、特許文献1には、ダメージを評価するために必要な領域が示されていない。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法は、基板表面の数点の領域のみを測定するものであり、基板表面の全面を測定しているものではない。そのため、加工歪によるダメージが基板の特定の一部の領域にスクラッチ状に残っている場合、加工歪の入っている箇所を測定しないと発光強度が低下している事を検出できないので、数点の測定ではダメージを検出できない場合がある。
【0008】
また、カソードルミネッセンス測定においては、基板を発光させるための電子ビームをnmオーダーに絞る事ができるため、50μm×50μm程度以下の微細な領域の発光強度の分布を測定することができる。しかし、基板表面の全領域のダメージを評価する場合は、測定領域が微細であるため、フォトルミネッセンス測定を用いる場合の100倍以上の非常に長い測定時間が必要とされる。
【0009】
また、窒化ガリウム基板の表面にダメージがあると、その表面上に形成するエピタキシャル膜に異常成長が発生することが分かっていたが、どれくらいでどのようなダメージまで抑えれば、前記異常成長の発生を実用的な範囲まで低く抑えられるか不明であった。
【0010】
したがって、本発明の目的の一つは、特定の一部の領域にのみ加工歪みが存在する場合であっても、短時間で容易に歪みを評価することのできる方法による評価の結果合格した窒化ガリウム基板、その窒化ガリウム基板を含む発光素子、もしくは電界効果トランジスタ及びそのガリウム基板上に結晶を成長させるエピタキシャル膜の製造方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的の一つは、基板表面上に形成されるエピタキシャル膜の異常成長の発生を抑制した窒化ガリウム基板及びその窒化ガリウム基板を含む発光素子もしくは電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定したときの、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上であり、前記測定領域は前記測定範囲内に隙間無く連続する窒化ガリウム基板が提供される。
【0013】
(2)上記窒化ガリウム基板において、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の50%以上であってもよい。
【0014】
(3)上記窒化ガリウム基板において、前記測定範囲は、前記窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域であることが好ましい。
【0015】
(4)また、本発明の他の態様によれば、上記の窒化ガリウム基板と、前記窒化ガリウム基板上に形成された多層構造のエピタキシャル膜と、を含む発光素子が提供される。
【0016】
(5)また、本発明の他の態様によれば、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定領域内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定する工程と、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上である場合に、前記窒化ガリウム基板上に結晶膜をエピタキシャル成長させる工程と、を含み、前記測定領域は前記測定範囲内に隙間無く連続する、エピタキシャル膜の製造方法が提供される。
【0017】
(6)上記エピタキシャル膜の製造方法において、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の50%以上である場合に、前記窒化ガリウム基板上に前記結晶膜をエピタキシャル成長させてもよい。
【0018】
(7)上記エピタキシャル膜の製造方法において、前記測定範囲は、前記窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域であることが好ましい。
(8)また、本発明の他の態様によれば、上記の窒化ガリウム基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層と窒化物半導体からなる電子供給層が順次形成され、前記電子供給層上にゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を形成した電界効果トランジスタが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、特定の一部の領域にのみ加工歪みが存在する場合であっても、短時間で容易に歪みを評価することのできる方法による評価の結果合格した窒化ガリウム基板、その窒化ガリウム基板を含む発光素子、もしくは電界効果トランジスタ及びそのガリウム基板上に結晶を成長させるエピタキシャル膜の製造方法を提供することができる。
【0020】
また、基板表面上に形成されるエピタキシャル膜の異常成長の発生を低く抑えることができる。発光素子の発光強度の低下を抑えることができる。
また、リーク電流が低く且つそのばらつきが小さい高性能な電界効果トランジスタの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る窒化ガリウム基板の一例を表す上面図。
【図2】実施例に係るHVPE成長装置の断面図。
【図3】実施例に係る窒化ガリウム基板のフォトルミネッセンス測定の結果を視覚化した図。
【図4】実施例に係る窒化ガリウム基板及びエピタキシャル膜の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態の要約)
本発明の実施の形態の一態様によれば、フォトルミネッセンス測定による評価の結果合格した窒化ガリウム基板であって、前記窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定領域内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定したときの、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上であり、前記測定領域は前記測定範囲内に隙間無く連続する、窒化ガリウム基板が提供される。
【0023】
[実施の形態]
本実施の形態においては、窒化ガリウム基板の表面を縦1mm×横1mmの面積が1mm2の領域(以下測定領域と記す)ごとにフォトルミネッセンス測定を行い、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度に基づいて窒化ガリウム基板の歪みの評価を行う。
【0024】
窒化ガリウム基板の室温20℃でのバンドギャップに対応する波長は、約365nmであり、この波長におけるフォトルミネッセンスピーク強度を測定するために、例えば、332.6〜397.3nmの波長範囲で測定を行う。
【0025】
ここで、窒化ガリウム基板の歪みは、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の研磨処理によって発生する加工歪みである。窒化ガリウム基板に歪みが存在する場合、窒化ガリウム基板上にエピタキシャル膜を形成する際に、歪みのある領域上においてエピタキシャル膜の異常成長が発生するおそれがある。
【0026】
窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度が低い領域には、エピタキシャル膜の異常成長の原因となる歪みが存在する可能性が高い。
【0027】
本発明者が鋭意研究した結果、後で詳しく述べる通り、全測定領域における上記のフォトルミネッセンスピーク強度の平均値の45%未満のピーク強度を有する測定領域が存在しない窒化ガリウム基板は、エピタキシャル膜の異常成長の発生する確率が低く抑えられることが分かった。さらに、上記の平均値の50%未満のピーク強度を有する測定領域が存在しない窒化ガリウム基板は、エピタキシャル膜の異常成長の発生する確率がより低く抑えられることが分かった。
【0028】
本実施の形態の一態様によれば、全測定領域における上記のフォトルミネッセンスピーク強度の最低値が平均値の45%以上である場合に合格と判定される。また、より基準の厳しい態様によれば、全測定領域における上記のフォトルミネッセンスピーク強度の最低値が平均値の50%以上である場合に合格と判定される。
【0029】
本実施の形態においては、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度のみを測定すればよいので、発光スペクトルを測定する場合よりも測定時間を短縮することができる。
【0030】
また、窒化ガリウム基板の全領域の歪みを評価するためには、窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域について測定を行えば十分である。この特定の領域について測定を行うことにより、測定時間を短縮することができる。
【0031】
また、窒化ガリウム基板は、例えば、DEEP(Dislocation Elimination by the Epi-growth with Inverted-Pyramidal Pits)法や、VAS(Void-Assisted Separetion)法等により形成される。この場合、窒化ガリウム基板は、例えば、HVPE(hydride vapor-phase epitaxy)法等により異種基板上にGaN単結晶膜を成長させ、GaN単結晶膜を異種基板から剥離することにより形成される。
【0032】
上記のような方法で窒化ガリウム基板を形成する場合は、異種基板上に厚くエピタキシャル成長したGaN単結晶膜には、裏面から表面に向かって厚さ方向で転位密度の差が発生するため、格子定数が厚さ方向で変化し、窒化ガリウム基板に反りが発生する。さらに、窒化ガリウム基板は結晶を厚く成長させることにより形成されるため、基板面内で数十μm以上の膜厚差を有する。
【0033】
そのため、窒化ガリウム基板の表側の面及び裏側の面を平坦化するために研磨処理を施す必要がある。この研磨処理では、はじめに粗研磨が行われる。
【0034】
窒化ガリウム基板の粗研磨が施された面には、加工歪が発生する。加工歪が存在する表面上にエピタキシャル膜を成長させてデバイスを製造する場合、窒化ガリウム基板とエピタキシャル膜との界面に存在する加工歪に起因してエピタキシャル膜の異常成長が発生するおそれがある。エピタキシャル膜の異常成長が発生すると、光デバイスにおいては発光強度低下による不良が発生し、歩留まりが低下する。
【0035】
そのため、粗研磨により生じた加工歪を除去するために、粗研磨後に化学機械研磨(Chemical Mechanical Polish:CMP)やエッチング処理等による精密研磨が行われる。しかし、粗研磨においてスクラッチ状の深い加工歪が基板表面に入っている場合は、精密研磨を実施しても除去できないことがある。
【0036】
その基板表面上にエピタキシャル膜を成長させると、スクラッチ状の加工歪を含む領域上で異常成長が発生する。精密研磨後にスクラッチ状の深い加工歪の領域の表面を微分干渉顕微鏡により観察しても、スクラッチ状の段差として観察できない場合があり、加工歪が入っている領域を特定する事は困難である。
【0037】
以下に、窒化ガリウム基板の詳細な製造工程の一例を示す。
【0038】
まず、下地基板としてのサファイア基板上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりGaN結晶を成長させ、GaN下地層を形成する。次に、GaN下地層上に金属Ti薄膜を蒸着させる。次に、アンモニアと水素ガスの混合気流中で熱処理を施すことにより、金属Ti薄膜を窒化して網目構造のTiN薄膜を形成する。また、熱処理と同時に、GaN下地層をエッチングして空隙を形成する。ここで、空隙を含むGaN下地層とその上の金属Ti薄膜を含む、以上の工程により得られた基板をボイド形成基板と呼ぶ。
【0039】
次に、GaCl及びNH3を原料として用いるハイドライド気相成長法(HVPE法)により、ボイド形成基板上にGaN結晶の初期核を形成した後、表面が平坦になるようにGaN結晶膜を成長させる。次に、成長したGaN結晶膜をボイド形成基板から剥離して窒化ガリウム基板を得る。
【0040】
次に、窒化ガリウム基板のN極性面の研削、研磨を実施する。次に、Ga極性面の研削、機械研磨、ドライエッチング、及び化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を順に実施する。その後、窒化ガリウム基板を所望の直径の円形に加工するための外周加工及び洗浄が施される。
【0041】
本実施の形態の窒化ガリウム基板は、下地に異種基板を付けた状態のヘテロエピタキシャルウェハであってもよいが、窒化ガリウム結晶のみからなる自立基板であることが好ましい。ここで、自立基板とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいう。このような強度を有するためには、自立基板の厚さを200μm以上とするのが好ましい。また素子形成後の劈開の容易性等を考慮して、自立基板の厚さを1mm以下とするのが好ましい。自立基板が厚すぎると劈開が困難となり、劈開面に凹凸が生じる。この結果、たとえば半導体レーザ等に適用した場合、反射のロスによるデバイス特性の劣化が問題となる。
【0042】
自立基板の直径は、25mm以上とするのが好ましい。自立基板の直径は、製造時に用いる下地基板(種結晶基板)の直径に依存し、大口径の下地基板を用いることで、それに伴い大口径の自立基板を得ることができる。例えば、直径6インチ(152.4mm)のサファイア基板が市販されているので、このサファイア基板を用いて直径6インチのGaN種結晶基板を製造し、さらにこのGaN種結晶基板を用いて約直径6インチ以下のGaN自立基板を製造することができる。
【0043】
図1は、本実施の形態に係る窒化ガリウム基板の一例を表す上面図である。図1に示されるように、窒化ガリウム基板1は、測定範囲3内の複数の測定領域2においてフォトルミネッセンス測定を実施される。
【0044】
測定範囲3は、窒化ガリウム基板1の外周から1mm又は1mm以下の領域を除いた領域である。測定領域2は、1mm×1mmの正方形の領域であり、測定範囲3内に隙間無く連続して配置される。
【0045】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、特定の一部の領域にのみ加工歪みが存在する場合であっても、窒化ガリウム基板を短時間で容易に評価し、加工歪の少ない窒化ガリウム基板を得ることができる。また、得られた加工歪の少ない窒化ガリウム基板上に結晶膜をエピタキシャル成長させることにより、異常成長を抑え、高品質のエピタキシャル膜を形成することができる。さらに、多層構造の高品質のエピタキシャル膜を用いて、発光強度の低下を抑えた高性能の発光素子を形成することができる。
また、本実施形態の窒化ガリウム基板は、その上にMOVPE法でIII−V族窒化物系半導体結晶をエピタキシャル成長させ、高耐圧電界効果トランジスタを製造する用途に適している。本実施形態の窒化ガリウム基板では、基板表面上に形成されるエピタキシャル膜の異常成長の発生を低く抑えることができる。基板表面上に形成されるエピタキシャル膜に異常成長の発生があると、エピタキシャル膜中の不純物の取り込みに差が生じてしまうが、本実施形態の窒化ガリウム基板を用いることにより、エピタキシャル膜中の不純物の取り込みのばらつきを抑えることができ、電界効果トランジスタのリーク電流の安定化が可能となる。これにより、リーク電流が低く且つそのばらつきが小さい高性能な電界効果トランジスタの提供が可能になる。
【実施例】
【0046】
本実施例では、実施の形態の窒化ガリウム基板1としてVAS法により窒化ガリウム基板を形成し、フォトルミネッセンス測定による歪み評価を行った。その後、窒化ガリウム基板上にエピタキシャル膜を形成して異常成長の有無を調べ、窒化ガリウム基板の歪み評価の結果と比較した。以下に具体的な工程を述べる。
【0047】
(窒化ガリウム基板の製造)
まず、MOCVDにより直径3.5インチのサファイア基板上に厚さ500nmのGaN下地層を形成した。次に、GaN下地層の表面上に厚さ30nmのTiを蒸着し、H2とNH3の混合気流中で1000℃で30分間熱処理を加えて、網目状TiN膜を形成した。また、熱処理とともにGaN下地層にエッチングを施し、GaN下地層に空隙を形成した。その結果、ボイド形成基板を得た。
【0048】
次に、図2に示されるHVPE成長装置10を用いてボイド形成基板上にGaN結晶膜を形成した。HVPE成長装置10は、ヒータ11、反応管12、反応ガス導入管13、エッチングガス導入管14、反応ガス導入管15、基板ホルダ17、原料載置室20、排気口21を有する。反応ガス導入管15が通る原料載置室20は、金属Gaが格納される。
【0049】
まず、形成されたボイド形成基板18をHVPE成長装置10内の基板ホルダ17にセットした。ここで、反応管12内の圧力は常圧とし、ボイド形成基板18の基板温度を1050℃とした。
【0050】
次に、反応ガス導入管13から5×10-2atmのNH3ガスをキャリアガスである6×10-1atmのN2ガスとともに反応管12に導入し、反応ガス導入管15から5×10-3atmのGaClガスをキャリアガスである2.0×10-1atmのN2ガスと1.0×10-1atmのH2ガスとともに反応管12に導入して、ボイド形成基板18上にGaN結晶を20分間成長させ、初期核を形成した。
【0051】
続けて、GaClガスの分圧及びNH3ガスのキャリアガスであるN2ガスの分圧をそれぞれ1.5×10-2atm、5.85×10-1atmに変更し、他の条件はそのままでGaN結晶を成長させ、厚さ800μmのGaN結晶膜を形成した。その後、GaN結晶膜をボイド形成基板18から剥離し、窒化ガリウム基板を得た。
【0052】
次に、横型平面研削機により、窒化ガリウム基板のN極性面の研削を実施した。ここで、この研削の実施条件を、使用砥石:メタルボンド#800、砥石径:200mm、砥石回転数:2000rpm、砥石送り速度:0.2μm/秒、研削実施時間:15分間とした。
【0053】
次に、片面高速精密ラッピングマシン機により、窒化ガリウム基板のN極性面の機械研磨(CMP)を実施した。ここで、このCMPの実施条件を、定盤回転数:130rpm、圧力:0.3MPa、研磨液:ダイアモンドスラリー、研磨液供給量:0.25L/min、研磨実施時間:20分間とした。
【0054】
次に、横型平面研削機により、窒化ガリウム基板のGa極性面の研削を実施した。ここで、この研削の実施条件を、使用砥石:メタルボンド#800、砥石径:200mm、砥石回転数:2000rpm、砥石送り速度:0.2μm/秒、研削実施時間:20分間とした。
【0055】
次に、片面高速精密ラッピングマシン機により、窒化ガリウム基板のGa極性面のCMPを実施した。ここで、このCMPの実施条件を、定盤回転数:170rpm、圧力:0.35MPa、研磨液:ダイアモンドスラリー、研磨液供給量:0.25L/min、研磨実施時間:30分間とした。
【0056】
以上の工程を繰り返すことにより、25枚の窒化ガリウム基板を用意した。その後、この25枚の窒化ガリウム基板に対して、各々異なる条件のドライエッチング及びCMPを実施した。以下に、詳細を述べる。
【0057】
まず、ドライエッチング装置により、25枚の窒化ガリウム基板のGa極性面にドライエッチングを実施した。25枚の窒化ガリウム基板のドライエッチングの実施時間を表1に示す。ここで、表1において、25枚の窒化ガリウム基板に(1)〜(25)の番号をそれぞれ付す。他の実施条件は窒化ガリウム基板(1)〜(25)で共通させ、エッチングガス:Cl2、電力:200W、エッチングガス流量:80sccm、エッチング反応室内圧力:20Paとした。
【0058】
次に、片面高速精密ラッピングマシン機により、窒化ガリウム基板(1)〜(25)のGa極性面にCMPを実施した。窒化ガリウム基板(1)〜(25)のCMPの実施時間を表1に示す。他の実施条件は窒化ガリウム基板(1)〜(25)で共通させ、定盤回転数:200rpm、圧力:0.5MPa、研磨液供給量:0.3L/minとした。
【0059】
(窒化ガリウム基板の歪み評価)
フォトルミネッセンス測定装置(ACCENT社製RPM2000)により、窒化ガリウム基板(1)〜(25)のGa極性面の複数の測定領域ごとの窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を測定した。ここで、測定範囲を窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域とした。測定領域は、1mm×1mmの正方形の領域であり、測定範囲内に連続して配置した。
【0060】
フォトルミネッセンス測定の条件は、レーザー光源:波長266nmのYAGレーザー、受光スリット幅:0.1mm、測定波長範囲:332.6〜397.3nmとした。
【0061】
フォトルミネッセンス測定の結果として、全測定領域の窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度の最小値の平均値に対する割合を百分率で表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示されるように、ドライエッチング及びCMPの実施時間が長いほど、R1が大きい。例えば、ドライエッチング及びCMPの実施時間が比較的長い窒化ガリウム基板(17)〜(25)ではR1が45.0%以上であり、ドライエッチング及びCMPの実施時間が特に長い窒化ガリウム基板(20)〜(25)ではR1が50.0%以上である。
【0064】
図3は、窒化ガリウム基板(24)のフォトルミネッセンス測定の結果を視覚化した図である。窒化ガリウム基板(24)における全測定領域の平均ピーク強度IA及び最小のピーク強度IMは、それぞれ0.762V/mW、0.453V/mWであった。そのため、R1は59.4%となる。
【0065】
(エピタキシャル膜の形成)
MOVPE法により、1020℃に加熱した窒化ガリウム基板(1)〜(25)のGa極性面上にH2キャリアガスにアンモニア及びトリメチルガリウムとトリメチルインジウムを供給し、結晶膜をエピタキシャル成長させ、図4に示されるエピタキシャル膜20を形成した。
【0066】
エピタキシャル膜20は、窒化ガリウム基板1上のバッファ層21、バッファ層21上の発光層22、発光層22上のキャップ層23を含む。バッファ層21は、厚さ約1500nmのGaN結晶膜からなる。発光層22は、厚さ7nmのInGaN結晶膜からなる7層のInGaNバリア層と厚さ約3nmのInGaN結晶膜からなる6層のInGaN量子井戸層が1層ずつ交互に積層された構造を有する。キャップ層23は、厚さ約20nmのGaN結晶膜からなる。
【0067】
窒化ガリウム基板1及び窒化ガリウム基板1上の多層構造のエピタキシャル膜20は、発光ダイオード等の発光素子を構成する。例えば、窒化ガリウム基板1とキャップ層23の各々に電極が接続される。
【0068】
(エピタキシャル膜の評価)
フォトルミネッセンス測定装置(ACCENT社製RPM2000)により、エピタキシャル膜20を形成した窒化ガリウム基板(1)〜(25)のGa極性面の複数の測定領域ごとのInGaN量子井戸層のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を測定した。ここで、測定範囲を窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域とした。測定領域は、1mm×1mmの正方形の領域であり、測定範囲内に連続して配置した。
【0069】
フォトルミネッセンス測定の条件は、レーザー光源:波長325nmのHe−Cdレーザー、受光スリット幅:0.1mm、測定波長範囲:363.9〜428.4nmとした。
【0070】
測定の結果、InGaN量子井戸層のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度が0.2V/mW以下である測定領域をエピタキシャル膜20に異常成長が発生している領域と判定した。表2は、フォトルミネッセンスピーク強度が0.2V/mW以下である測定領域の、全測定領域中の割合R2を百分率で表す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示されるように、R1が42.0%以下である窒化ガリウム基板(1)〜(16)においてR2が49%以上と大きく、R1が45.0%以上である窒化ガリウム基板(17)〜(25)においてR2が10%以下と小さい。特に、R1が50.0%以上である窒化ガリウム基板(20)〜(25)においてR2が3%以下とより小さい。
【0073】
この結果は、全測定領域における窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上である場合に合格と判定する本実施の形態の一態様、及び全測定領域における上記のフォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の50%以上である場合に合格と判定する他の態様の実用性を裏付けるものである。
(電界効果トランジスタの実施例)
上記窒化ガリウム基板1の上に、GaN又はAlGaNからなる高抵抗層、GaN又はInGaNからなる電子走行層、n型AlGaN又はn型GaNからなる電子供給層を順に成長させる。さらにその層の上に、n++型GaN、又はn++型InGaNからなるオーミックコンタクト層を成長させてもよい。なお、電子供給層をアンドープとしても良い。最上層となる上記電子供給層または上記オーミックコンタクト層の上に、ソース電極、ドレイン電極、及びゲート電極を形成することにより、電界効果トランジスタが完成される。
【0074】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0075】
1 窒化ガリウム基板
2 測定領域
3 測定範囲
20 エピタキシャル膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定したときの、全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上であり、
前記測定領域は前記測定範囲内に隙間無く連続する、窒化ガリウム基板。
【請求項2】
全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の50%以上である、
請求項1に記載の窒化ガリウム基板。
【請求項3】
前記測定範囲は、前記窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域である、
請求項1又は2に記載の窒化ガリウム基板。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の窒化ガリウム基板と、
前記窒化ガリウム基板上に形成された多層構造のエピタキシャル膜と、
を含む発光素子。
【請求項5】
窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定領域内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定する工程と、
全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の45%以上である場合に、前記窒化ガリウム基板上に結晶膜をエピタキシャル成長させる工程と、
を含み、
前記測定領域は前記測定範囲内に隙間無く連続する、エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項6】
全測定領域における前記フォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の50%以上である場合に、前記窒化ガリウム基板上に前記結晶膜をエピタキシャル成長させる、
請求項5に記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項7】
前記測定範囲は、前記窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域である、
請求項5又は6に記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のうちのいずれかに1項に記載の窒化ガリウム基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層と窒化物半導体からなる電子供給層が順次形成され、前記電子供給層上にゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を形成した電界効果トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−10681(P2013−10681A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−44288(P2012−44288)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】