説明

窒化物系半導体素子

【課題】活性層にMg等の不純物が拡散することなく、結晶性を向上させる窒化物系半導体素子を提供する。
【解決手段】窒化物系半導体素子は、n−GaN層103と、n−GaN層103上に形成された活性層104と、活性層104上に、ドーピング濃度5×1019〜2×1020個/cm3でMgをドーピングし、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された第1のAlGaN層105と、第1のAlGaN層105上に、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された第2のAlGaN層106と、第2のAlGaN層106上に形成された、p−GaN層107とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外〜緑色、又は、白色の光を発する発光ダイオード、半導体レーザ素子等の半導体発光素子として、窒化ガリウム半導体発光素子がある。GaN系半導体素子の製造の際には、GaNからなる基板の製造が困難であるため、サファイア、SiC、Si等からなる基板上にGaN系半導体層をエピタキシャル成長させている。
【0003】
例えば、図3に示すように、サファイア基板201の(0001)面上にMOCVD(有機金属気相成長法)を用いて、GaN低温バッファ層202、n−GaN層203、InGaN多重量子井戸(MQW)活性層204等が順に形成され、活性層204上には、p−GaN層207等が順に形成される。
【0004】
しかしながら、図3に示す構造によると、p−GaN層207にドーパントとして含まれるMgなどの不純物が、活性層204に拡散し、活性層204を劣化させることがあった。
【0005】
このような不純物の拡散を防止するため、活性層とp-GaN層の間に、活性層と同等の成長温度で形成させた、p-AlGaN層を有する構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。即ち、図4に示すように、サファイア基板301の(0001)面上にMOCVD法を用いて、GaN低温バッファ層302、n−GaN層303、InGaN多重量子井戸(MQW)活性層304等が順に形成され、活性層204上には、低温でp-AlGaN層308が形成され、その上に、p−GaN層307等が順に形成される。
【特許文献1】特開2000−208814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4に示す構造によると、低温でp-AlGaN層308を形成するため、結晶性が悪くなり、p型化しにくくなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、活性層にMg等の不純物が拡散することなく、結晶性を向上させる窒化物系半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、(a)基板上に形成された、少なくとも1層以上の窒化物系半導体層と、(b)窒化物系半導体層上に形成された活性層と、(c)活性層上に、ドーピング濃度5×1019〜2×1020個/cm3のMgをドーピングし、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された第1のAlGaN層と、(d)第1のAlGaN層上に、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された、第2のAlGaN層とを備える窒化物系半導体素子であることを要旨とする。
【0009】
本発明の特徴に係る窒化物系半導体素子によると、第1のAlGaN層が活性層の保護膜の役割を果たし、最適の濃度である第2のAlGaN層を成長させることができるため、活性層にMg等の不純物が拡散することなく、窒化物系半導体層の結晶性を向上させることができる。
【0010】
又、本発明の特徴に係る窒化物系半導体素子において、第1のAlGaN層の厚みは、5〜10nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、活性層にMg等の不純物が拡散することなく、結晶性を向上させる窒化物系半導体素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
(窒化物系発光ダイオード素子)
図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物系発光ダイオード素子の断面図である。窒化物系発光ダイオード素子は、図1に示すように、サファイア基板101上に、GaN低温バッファ層102が形成され、GaN低温バッファ層102上に、n型GaN層103が形成され、n型GaN層103上に、多重量子井戸(MQW)構造を有する活性層104が形成され、活性層104上に、第1のAlGaN層105が形成され、第1のAlGaN層105上に、第2のAlGaN層106が形成され、第2のAlGaN層106上に、p型GaN層107が形成される。
【0014】
このように、本発明の実施の形態に係る窒化物系発光ダイオード素子では、活性層104の直上にあるAlGaN層は、2層構造である。活性層104に近い、第1のAlGaN層105は、Mgのドーピング濃度が高く、高温で成長させる。又、p型半導体層107に近い、第2のAlGaN層106は、高温で成長させ、AlGaNそのものの結晶性を向上させる。
【0015】
具体的には、第1のAlGaN層105は、ドーピング濃度5×1019〜2×1020個/cm3のMgをドーピングし、900〜1200℃の範囲(例えば、1010℃)の成長温度で形成される。
【0016】
又、第2のAlGaN層106は、ドーピング濃度2〜4×1019個/cm3のMgをドーピングし、900〜1200℃の範囲(例えば、1060℃)の成長温度で形成される。
【0017】
(窒化物系発光ダイオード素子の製造方法)
次に、本実施形態に係る窒化物系発光ダイオード素子の製造方法について、説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る窒化物系発光ダイオード素子の製造方法を説明するための断面図である。
【0018】
まず、図2(a)に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、サファイア基板101上に、低温GaNバッファ層102を形成する。
【0019】
例えば、サファイア基板101を約400〜700℃の温度に保持した状態で、NH3及びTMG(トリメチルガリウム)からなる原料ガスを用いて、サファイア基板101の(0001)面上に、アンドープの非単結晶のGaNからなるバッファ層を成長させる。
【0020】
次に、低温GaNバッファ層102上に、n型GaN層103を形成する。
【0021】
例えば、サファイア基板101を約900〜1200℃(例えば、1050℃)の成長温度に保持した状態で、NH3及びTMGからなる原料ガスを用いて、バッファ層上に、アンドープの単結晶のGaNからなる下地層を成長させる。
【0022】
次に、サファイア基板101を約900〜1200℃(例えば、1050℃)の成長温度に保持した状態で、NH3及びTMGからなる原料ガスと、SiH4からなるドーパントガスとを用いて、下地層上に、Siがドープされた単結晶のGaNからなるn型コンタクト層を成長させる。
【0023】
このように、n型GaN層103は、下地層、n型コンタクト層等から構成される。又、例えば、n型GaN層103の厚みは、約4〜6μmである。
【0024】
次に、サファイア基板101を約700〜800℃(例えば、760℃)の成長温度に保持した状態で、N2からなるキャリアガスを導入しつつ、NH3、TMGあるいはTMI(トリメチルインジウム)からなる原料ガスを用いて、n型GaN層103上に、アンドープの単結晶のInGaNからなる活性層104を成長させる。活性層104は、井戸層と障壁層を交互に成長させたMQW構造であり、例えば、井戸層を5層、障壁層を6層交互に有する。又、例えば、活性層104の厚みは、約0.1μmである。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、サファイア基板101を約900〜1200℃(例えば、1010℃)の成長温度に保持した状態で、H2及びN2からなるキャリアガスと、NH3、TMG及びTMAからなる原料ガスと、CP2Mgからなるドーパントガスとを用いて、活性層104上に、Mgがドープされた単結晶のAlGaNからなる第1のAlGaN層105を成長させる。このとき、Mgのドーピング濃度は、5×1019〜2×1020個/cm3と高濃度である。又、例えば、第1のAlGaN層105のAl組成は、5〜15%であり、第1のAlGaN層105の厚みは、約5nmである。
【0026】
次に、図2(c)に示すように、サファイア基板101を約900〜1200℃(例えば、1060℃)の成長温度に保持した状態で、H2及びN2からなるキャリアガスと、NH3、TMG及びTMAからなる原料ガスと、CP2Mgからなるドーパントガスとを用いて、第1のAlGaN層105上に、Mgがドープされた単結晶のAlGaNからなる第2のAlGaN層106を成長させる。このとき、Mgのドーピング濃度は、2〜4×1019個/cm3と、第1のAlGaN層105と比べ、低濃度である。又、第2のAlGaN層106の成長温度は、第1のAlGaN層105の成長温度よりも高い。又、例えば、第2のAlGaN層106のAl組成は、5〜15%であり、第2のAlGaN層106の厚みは、約15nmである。
【0027】
次に、図2(d)に示すように、サファイア基板101を約900〜1200℃(例えば、1010℃)の成長温度に保持した状態で、H2及びN2からなるキャリアガスと、NH3及びTMGからなる原料ガスと、CP2Mgからなるドーパントガスとを用いて、第2のAlGaN層106上に、p型GaN層107を成長させる。又、例えば、p型GaN層107の厚みは、約0.05〜0.2μmである。
【0028】
この後、例えば、Ag、Pt、Au、Pd、Ni、ZnO等からなるp型電極を、真空蒸着法、スパッタ法等により順次形成する。
【0029】
(作用及び効果)
本実施形態に係る窒化物系半導体素子は、活性層104の直上のAlGaN層が2層構造であり、活性層104に近い第1のAlGaN層105は、高ドーピング濃度で、活性層104の成長温度よりも高い高温で成長させる。本実施形態に係る窒化物系半導体素子によると、第1のAlGaN層105が活性層104の保護膜の役割を果たし、最適の濃度である第2のAlGaN層106を成長させることができるため、活性層104にMg等の不純物が拡散することなく、第2のAlGaN層106及びp型GaN層107の結晶性を向上させることができる。
【0030】
又、第1のAlGaN層105における、Mgのドーピング濃度が高いため、ホールが多くなり、発光効率が向上する。このとき、低温で第1のAlGaN層105を形成すると、欠陥が多くなるため、高温で第1のAlGaN層105を形成させている。
【0031】
又、第1のAlGaN層105を高温で成長させることにより、活性層104中のInなどが飛ぶことを防止するため、第1のAlGaN層105は、短時間で薄く形成する必要がある。このため、第1のAlGaN層105の厚みは、5〜10nmであることが好ましい。
【0032】
更に、第1のAlGaN層105はMgを多く含むが、高温で成長させているため結晶性が良く、Mgの活性層104への拡散は発生しにくい。
【0033】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0034】
例えば、本発明の実施の形態では、主として、窒化物半導体素子層の活性層から放出される光を利用する発光ダイオードの製造方法について例示したが、本発明はこれに限らず、半導体レーザやこれら発光素子からの放出光を励起光とする蛍光体とを組み合わせた発光素子の製造にも利用可能である。又、窒化物系半導体素子層を有するHEMT(High Electron Mobility Transistor)などの電子デバイス、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、受光素子への応用が可能である。
【0035】
又、本発明の実施の形態では、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させる説明したが、本発明はこれに限らず、HVPE法やガスソースMBE法などを用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させてもよい。又、窒化物系化合物半導体の結晶構造として、ウルツ鉱型であっても閃亜鉛鉱型構造であってもよい。又、成長の面方位は、(0001)に限るものではなく、(11−20)や(1−100)でもよい。
【0036】
又、本発明の実施の形態では、GaN、AlGaN、InGaN及びAlNなどからなる層を含む窒化物系半導体素子層を用いたが、本発明はこれに限らず、GaN、AlGaN、InGaN及びAlNからなる層以外の層を含む窒化物系半導体素子層を用いてもよい。又、半導体素子層の形状は、メサ構造、リッジ構造などの電流狭窄造を有するものでもよい。
【0037】
又、本発明の実施の形態では、窒化物系半導体素子層の成長用基板として、サファイア基板を用いたが、本発明はこれに限らず、窒化物系半導体の成長の可能な基板、例えば、Si、SiC、GaAs、MgO、ZnO、スピネル、そしてGaN等が使用可能である。
【0038】
又、本発明の実施の形態では、n型半導体層上に活性層、p型半導体層を積層したが、p型半導体層上に活性層、n型半導体層を積層しても構わない。
【0039】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る窒化物系半導体素子の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る窒化物系半導体素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】従来の窒化物系半導体素子の断面図である(その1)。
【図4】従来の窒化物系半導体素子の断面図である(その2)。
【符号の説明】
【0041】
101、201、301…基板
102、202、302…低温バッファ層
103、203、303…n−GaN層
104、204、304…活性層
105…第1のAlGaN層
106…第2のAlGaN層
107、207、307…p−GaN層
308…p-AlGaN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、少なくとも1層以上の窒化物系半導体層と、
前記窒化物系半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に、ドーピング濃度5×1019〜2×1020個/cm3でMgをドーピングし、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された第1のAlGaN層と、
前記第1のAlGaN層上に、900〜1200℃の範囲の成長温度で形成された第2のAlGaN層と
を備えることを特徴とする窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1のAlGaN層の厚みは、5〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−214378(P2007−214378A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32917(P2006−32917)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】