説明

薄膜トランジスタの製造方法および成膜装置

【課題】ポリシリコン層を備えた薄膜トランジスタの製造工程を短縮し、薄膜トランジスタをローコストに製造することが可能な薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板10を載置した電極板9をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板10にアモルファスシリコン層を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタの製造方法および成膜装置に関するものであって、詳しくは、薄膜トランジスタを構成するポリシリコン層の形成に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶ディスプレイでは薄膜トランジスタが主要な構成要素のひとつであり、ガラス基板上にポリシリコン層や電極などを積層することで製造される。このうち、ガラス基板上にトランジスタのソース・ドレイン層などを成すポリシリコン層を形成する場合、従来、ガラス基板にアモルファス(非晶質)シリコン層(プリカーサ層)を形成し、このアモルファスシリコン層に対してレーザを照射し、多結晶化させたポリシリコン層に変える方法によって行われている。
【0003】
ポリシリコン層に転換させるためのプリカーサ層となるアモルファスシリコン層を成膜するには、例えば、LPCVD(Low Pressure CVD)を用いる方法が挙げられる。しかしながら、LPCVDは成膜温度を500〜600℃程度まで上げる必要があり、基板をガラス基板である場合には、ガラスが軟化、溶融する懸念があるために適用することが困難である。
【0004】
一方、軟化点の低いガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜するために、例えば、PECVD(Plasma Enhanced CVD)を用いる方法が挙げられる。このPECVDでは、成膜温度を比較的低くすることが可能なため、ガラス基板であってもアモルファスシリコン層を成膜することが可能である。
【0005】
しかしながら、PECVDでアモルファスシリコン層を形成した場合、反応ガスとしてモノシラン(SiH)ガスを用いた時に、成膜されたアモルファスシリコン層に水素が多く含有されやすいという課題がある。アモルファスシリコン層に含有される水素濃度が高いと、このアモルファスシリコン層にレーザを照射し、ポリシリコン層を結晶化させる工程において、含有している水素が突沸し、形成されたポリシリコン層に結晶欠陥が生じてしまうという課題があった。
【0006】
こうした含有水素による結晶欠陥の発生を防止するために、レーザ照射によって結晶化させる工程に先立って、PECVDでアモルファスシリコン層を形成した後、アモルファスシリコン層のアニールを行い、アモルファスシリコン層に含有されている水素の濃度を低減させる工程が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−235039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したようなアモルファスシリコン層の水素濃度を低減させるためのアニール工程は、450℃程度の温度で1時間以上もアモルファスシリコン層を加熱する必要があった。このため、低温ポリシリコンを用いた薄膜トランジスタの製造にあたって、製造工程の長期化、複雑化により製造コストが増加するという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ポリシリコン層を備えた薄膜トランジスタの製造工程を短縮し、薄膜トランジスタをローコストに製造することが可能な薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、結晶欠陥の少ないポリシリコン層を得ることが可能なアモルファスシリコン層を成膜できる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次のような薄膜トランジスタの製造方法を提供した。すなわち、本発明の薄膜トランジスタの製造方法では、ガラス基板と、このガラス基板に重ねて配されるポリシリコン層とを少なくとも有する薄膜トランジスタの製造方法であって、
真空槽内の電極板に前記ガラス基板を載置し、前記電極板と対向配置されたシャワープレートから、前記真空槽内にアモルファスシリコンの原料ガスを導入するとともに、前記真空槽内の圧力を10Pa以上500Pa以下にして、前記シャワープレートと前記真空槽とを接地させた状態で、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の交流電圧を印加し、前記原料ガスのプラズマを発生させ、前記ガラス基板に重ねてアモルファスシリコン層を形成する工程と、
前記アモルファスシリコン層に向けてレーザを照射して、アモルファスシリコンを多結晶化させたポリシリコンにすることで、前記アモルファスシリコン層を前記ポリシリコン層に変える工程とを少なくとも備えたことを特徴とする。
【0010】
前記アモルファスシリコン層の成膜温度は350℃以上430℃以下であるのが好ましい。また、前記アモルファスシリコン層の水素濃度は5atomic%以下であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明は次のような成膜装置を提供した。すなわち、本発明の成膜装置では、真空槽と、前記真空槽内に配置され、複数の孔を有するシャワープレートと、前記シャワープレートが一面に配置され、前記孔によって前記真空槽の内部と連通する空洞を有するシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドに接続され、前記空洞に原料ガスを供給する原料ガス供給系と、前記真空槽内の前記シャワープレートと対向する位置に平行に設けられ、ガラス基板を載置するための電極板と、前記電極板に接続され、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の交流電圧を印加する交流電源とを有し、
前記真空槽と前記シャワープレートは接地電位に接続され、350℃以上430℃以下の成膜温度で前記ガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法によれば、ガラス基板を載置した電極板をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板に成膜することによって、従来のような13.56MHzの周波数の交流電圧をシャワープレートをカソード電極として印加して形成したアモルファスシリコン層と比べて、水素の含有濃度が大幅に低いアモルファスシリコン層を得ることができる。
【0013】
これによって、アモルファスシリコン層にレーザを照射する工程よりも前に、アモルファスシリコン層をアニールする脱水素工程を予め行わなくても、結晶欠陥のないポリシリコン層を形成することができる。従来は必須であったアモルファスシリコン層をアニールする脱水素工程が不要となり、薄膜トランジスタの製造工程を簡略化して、ローコストに薄膜トランジスタを製造することが可能になる。
【0014】
また、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度で成膜したアモルファスシリコン層は表面平滑度が高いので、このアモルファスシリコン層にレーザを照射して形成したポリシリコン層は、粒径の大きな結晶となり、表面平滑度の高い緻密なポリシリコン層を得ることが可能になる。そして、粒径の大きな結晶を形成することにより、電子の移動度を高めることができる。
【0015】
本発明の成膜装置によれば、ガラス基板を載置した電極板をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜することによって、従来のような13.56MHzの周波数の交流電圧をシャワープレートをカソード電極として印加して形成したアモルファスシリコン層と比べて、水素の含有濃が大幅に低く、かつ表面平滑度の高いアモルファスシリコン層を成膜することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法および成膜装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
まず、本発明の薄膜トランジスタの製造方法に用いられる成膜装置について説明する。図1は、本発明の成膜装置の一例を示す断面図である。成膜装置1は真空槽2を有している。真空槽2には真空排気系20が接続されている。この真空排気系20は、真空槽2の内部空間Sを10Pa以上500Pa以下の圧力範囲の減圧雰囲気に保つ。
【0018】
真空槽2の内部空間Sには、加熱装置7が設けられている。加熱装置7の上には、例えば板状の絶縁物8が配置されている。この絶縁物8の上には電極板9が重ねて配置されている。絶縁物8は、加熱装置7や真空槽2に対して電極板9を電気的に絶縁させる。
【0019】
真空槽2の内部空間Sの上部には、シャワーヘッド3が配置されている。このシャワーヘッド3が電極板9の上面に対向する側にはシャワープレート4が取り付けられている。シャワーヘッド3の内部は、空洞3aとなっており、シャワープレート4には、この空洞3aと連通する多数の孔4aが形成されている。電極板9とシャワープレート4は、例えば30mm以上の離間距離を保って互いに平行に配置されている。
【0020】
シャワーヘッド3の空洞3aには、原料ガス供給系11が接続されており、シャワーヘッド3に向けて原料ガスが供給すると、シャワープレート4の孔4aから、供給された原料ガスが真空槽2の内部空間Sに導入される。
【0021】
電極板9は交流電源30に電気的に接続される。交流電源30は、電極板9に対して100kHz以上2MHz以下の範囲の周波数の交流電圧を印加する。一方、シャワープレート4と真空槽2とは電気的に接地され、接地電位に保たれている。
【0022】
このような構成の成膜装置の作用を説明する。図1に示した成膜装置1を用いて、ガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜する場合を例示する。まず、成膜装置1の真空排気系20によって真空槽2内を排気する。そして、この減圧雰囲気を維持したまま真空槽2内にガラス基板10を搬入し、電極板9に載置する。
【0023】
加熱装置7を動作させ発熱させ、熱伝導によって絶縁物8および電極板9を介して、ガラス基板10を昇温させる。ガラス基板10は、ガラスが軟化することのない350℃以上430℃以下の範囲に加熱する。そして、原料ガス供給系11からアモルファスシリコン層を形成するための原料ガスG、例えば、モノシラン(SiH)ガスをシャワープレート4に向けて供給し、内部空間Sの圧力を10〜500Paにする。原料ガスGはシャワープレート4の孔4aから真空槽2内に向けて噴射される。
【0024】
このように、真空槽2に原料ガスGが導入され、真空槽2内が10Pa以上500Pa以下の減圧環境に保たれ、ガラス基板10が350℃以上430℃以下の範囲に加熱された状態で、交流電源30を動作させ、電極板9に交流電圧を印加する。電極板9に印加する交流電圧は、100kHz以上2MHz以下の範囲の周波数、例えば800kHzとされる。
【0025】
シャワープレート4は接地電位であり、シャワープレート4をアノード電極(接地電位)、電極板9をカソード電極とする容量結合によってグロー放電が発生し、アノード電極とカソード電極の間に原料ガスであるモノシランのプラズマPが発生する。
【0026】
印加電圧の周波数は、従来は一般的に13.56MHzであるが、本発明においては、100kHz以上2MHz以下の範囲の低い周波数を用いることによって、ガラス基板10の近傍に偏在するようにプラズマPが発生する。活性化したモノシランのプラズマPがガラス基板10の表面に到達すると反応が進行し、ガラス基板10の表面で分解されたラジカルが反応生成物としてアモルファスシリコンが堆積する。プラズマPはシャワープレート4からから離れた位置に偏在して発生しているので、シャワープレート4にはアモルファスシリコンは堆積せず、ガラス基板10の表面に多く堆積し、成膜速度が速くなる。
【0027】
このように、ガラス基板10を載置した電極板9をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板10にアモルファスシリコン層を成膜することによって得られるアモルファスシリコン層は、従来のような13.56MHzの周波数の交流電圧をシャワープレートをカソード電極として印加して形成したアモルファスシリコン層と比べて、水素の含有濃度を大幅に低減することが可能になる。
【0028】
従来よりも水素濃度が大幅に低いアモルファスシリコン層を形成できることにより、このアモルファスシリコン層にレーザを照射して、多結晶化したポリシリコン層を得る工程において、水素が突沸してポリシリコン層に結晶欠陥が生じる懸念が少ない。このため、本発明の成膜装置によって成膜したアモルファスシリコン層は、成膜後にアニールなどの脱水素工程を経ることなく、そのままレーザを照射によるポリシリコン層への変換工程に適用することが可能になる。
【0029】
また、本発明の成膜装置によって成膜されたアモルファスシリコン層は、表面平滑度が高い緻密なアモルファスシリコン層となる。これによって、レーザを照射によるポリシリコン層への変換によって得られたポリシリコン層は、粒径の大きな結晶となり、表面平滑度の高いポリシリコン層を形成することが可能になる。このような粒径の大きな結晶は、電子の移動度を高めることができる。
【0030】
次に、上述した実施形態の成膜装置を用いた、本発明の薄膜トランジスタの製造方法について、図1〜図3を用いて説明する。図2、図3は、本発明の薄膜トランジスタの製造方法を模式的に示した断面図である。
【0031】
薄膜トランジスタの製造にあたっては、まず、ガラス基板10を用意する(図2(a)参照)。このガラス基板10を成膜装置1の電極板9に載置するとともに、真空槽2の内部空間Sを減圧雰囲気にして、ガラス基板10を350℃以上430℃以下の範囲に加熱する。
【0032】
シャワープレート4から原料ガスであるモノシラン(SiH)ガスを真空槽2内に導入する。そして、電極板9に100kHz以上2MHz以下の周波数の交流電圧を印加する。電極板9に印加する交流電圧は、例えば800kHzであればよい。
【0033】
電極板9に100kHz以上2MHz以下の周波数の交流電圧を印加すると、シャワープレート4をアノード電極(接地電位)、電極板9をカソード電極とする容量結合によってグロー放電が発生し、アノード電極とカソード電極の間にモノシランのプラズマPが発生する。そして、モノシランのプラズマPによって分解したラジカルがガラス基板10の表面に到達すると、モノシランの反応が進行し、ガラス基板10の表面に反応生成物であるアモルファスシリコンが堆積し、アモルファスシリコン層51が形成される(図2(b)参照、アモルファスシリコン層を形成する工程)。
【0034】
このように、ガラス基板10を載置した電極板9をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板10に成膜することによって得られるアモルファスシリコン層51は、従来のような13.56MHzの周波数の交流電圧をシャワープレートをカソード電極として印加して形成したアモルファスシリコン層と比べて、水素の含有濃度が大幅に低い。
【0035】
次に、アモルファスシリコン層51のソース・ドレイン形成領域51aを露呈させたフォトレジスト膜52を形成し、このフォトレジスト膜52をマスクとしてアモルファスシリコン層51のソース・ドレイン形成領域51aに、例えばボロンイオン等の不純物を注入して不純物注入領域53を形成する(図2(c)参照)。この後、フォトレジスト膜52を除去する。
【0036】
次に、図2(d)に示すように、例えば波長308nm、出力60〜100mW程度ののエキシマレーザLをアモルファスシリコン層51に向けて走査しながら照射する。アモルファスシリコン層51は、エキシマレーザの照射(レーザアニール)によって、多結晶化し、ポリシリコン層54に変化する(アモルファスシリコン層をポリシリコン層に変える工程)。
【0037】
このレーザ照射によるアモルファスシリコン層の多結晶化において、アモルファスシリコン層に含まれている水素濃度が高いと、水素の突沸が発生し、形成されたポリシリコン層に結晶欠陥ができてしまう。しかし、本発明の製造方法では、ガラス基板10を載置した電極板9をカソード電極とし、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度でガラス基板10にアモルファスシリコン層51を形成しているので、アモルファスシリコン層51に含まれている水素の濃度は極めて低く抑えられている。
【0038】
従って、このアモルファスシリコン層にレーザを照射する工程よりも前に、アモルファスシリコン層51をアニールする脱水素工程を予め行わなくても、結晶欠陥のないポリシリコン層54を形成することができる。これによって、従来は必須であったアモルファスシリコン層をアニールする脱水素工程が不要となり、薄膜トランジスタの製造工程を簡略化して、ローコストに薄膜トランジスタを製造することが可能になる。
【0039】
また、100kHz以上2MHz以下の低周波数の交流電圧を印加して、350℃以上430℃以下の成膜温度で成膜したアモルファスシリコン層51は表面平滑度が高いので、このアモルファスシリコン層51にレーザを照射して形成したポリシリコン層は、粒径の大きな結晶となり、表面平滑度の高い緻密なポリシリコン層54を得ることが可能になる。このような粒径の大きな結晶を形成することによって、電子の移動度の高いポリシリコン層54を得ることが可能になる。
【0040】
アモルファスシリコン層51を多結晶化して電子移動度を高めたポリシリコン層54の上には、図2(e)に示すように、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とからなるゲート絶縁膜55が形成される。更に、ゲート絶縁膜55の上にゲート電極56を形成する(図3(a)参照)。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、ゲート電極56を覆う層間絶縁膜57を形成し、不純物注入領域53に対応する部分の層間絶縁膜57およびゲート絶縁膜55にコンタクトホール58を形成する。そして、図3(c)に示すように、コンタクトホール58を埋めるソース・ドレイン電極59を形成すれば、ポリシリコン層を備えた薄膜トランジスタ50を形成することができる。
【0042】
なお、当然のことながら、上述した構造の薄膜トランジスタは、本発明の薄膜トランジスタの製造方法によって製造される薄膜トランジスタの一例に過ぎない。本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、上述した構造の薄膜トランジスタの製造に限定されるものではない。アモルファスシリコン層をレーザ照射によって多結晶化したポリシリコン層を備えた薄膜トランジスタであれば、どのような構造のものであっても、同様に適用することができる。
【実施例】
【0043】
(実験例1)
本発明の効果を検証した。まず、図1に示す本発明の成膜装置を用いて、電極板に800kHzの周波数の交流電圧を印加し(カソードCVD)、ガラス基板温度(成膜温度)を350℃,370℃,390℃,410℃,430℃とした時に、それぞれ成膜したアモルファスシリコン層の水素濃度(atomic%)を測定した。
また、従来の比較例として、電極板を接地側として13.56MHzの周波数の交流電圧を印加し(アノードCVD)、ガラス基板温度(成膜温度)を350℃,370℃,390℃,410℃,430℃とした時に、それぞれ成膜したアモルファスシリコン層の水素濃度(atomic%)を測定した。この測定結果を図4に示す。
【0044】
図4に示すグラフによれば、本発明の製造方法によって成膜したアモルファスシリコン層は、基板温度430℃では水素濃度が1atomic%、基板温度350℃でも水素濃度が5atomic%であり、水素濃度が極めて低いことが確認された。一方、従来の比較例によって成膜したアモルファスシリコン層は、基板温度430℃では水素濃度が12atomic%、基板温度350℃では水素濃度が18atomic%に達し、本発明の製造方法よりも10%以上も水素濃度が高くなることが判明した。
【0045】
従来の比較例のような高濃度の水素が含有されたアモルファスシリコン層では、レーザ照射によって多結晶化する前に、脱水素工程を経なければ得られたポリシリコン層に結晶欠陥が発生する懸念がある。一方、本発明のような水素濃度が低いアモルファスシリコン層では、脱水素工程を行わずにレーザ照射によって多結晶化しても、ポリシリコン層に結晶欠陥が発生する懸念がない。
【0046】
(実験例2)
次に、図1に示す本発明の成膜装置を用いて、電極板に800kHzの周波数の交流電圧を印加し(カソードCVD)、ガラス基板温度(成膜温度)を390℃とし、膜厚50nmで成膜したアモルファスシリコン層のラフネスを測定した。
また、従来の比較例として、電極板を接地側として13.56MHzの周波数の交流電圧を印加し(アノードCVD)、ガラス基板温度(成膜温度)を390℃とし、膜厚50nmで成膜したアモルファスシリコン層のラフネスを測定した。この測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す測定結果によれば、本発明の製造方法によって成膜したアモルファスシリコン層は、従来の比較例によって得たアモルファスシリコン層よりも、ラフネスが5倍も良好であることが判明した。
【0049】
(実験例3)
更に、図1に示す本発明の成膜装置を用いて、電極板に800kHzの周波数の交流電圧を印加し(カソードCVD)成膜したアモルファスシリコン層に、出力が60mW/cm,80mW/cm,100mW/cmでそれぞれレーザを照射し、多結晶化させてポリシリコン層を形成した。そして、このポリシリコン層の結晶の平均粒径を測定した。
また、従来の比較例として、電極板を接地側として13.56MHzの周波数の交流電圧を印加し(アノードCVD)成膜したアモルファスシリコン層を450℃で脱水素アニールを行った後、出力が60mW/cm,80mW/cm,100mW/cmでそれぞれレーザを照射し、多結晶化させてポリシリコン層を形成した。そして、このポリシリコン層の結晶の平均粒径を測定した。これらの測定結果を図5に示す。
【0050】
図5に示すグラフによれば、本発明の製造方法によって成膜したアモルファスシリコン層にレーザを照射して得たポリシリコン層は、従来の比較例によって得たポリシリコン層よりも、平均結晶粒径が4nm〜5nm大きくなることが判明した。平均結晶粒径が大きくなると、表面の平滑度が高められることが知られている(Journal of Non-Crystalline Solids 349 2004 285-290,Materials Letters 60 2006 15-18)。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態の成膜装置を示す断面図である。
【図2】本発明の薄膜トランジスタの製造方法の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の薄膜トランジスタの製造方法の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の検証結果を示すグラフである。
【図5】本発明の検証結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
2 真空槽
4 シャワープレート
9 電極板
10 ガラス基板
51 アモルファスシリコン層
54 ポリシリコン層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、このガラス基板に重ねて配されるポリシリコン層とを少なくとも有する薄膜トランジスタの製造方法であって、
真空槽内の電極板に前記ガラス基板を載置し、前記電極板と対向配置されたシャワープレートから、前記真空槽内にアモルファスシリコンの原料ガスを導入するとともに、前記真空槽内の圧力を10Pa以上500Pa以下にして、前記シャワープレートと前記真空槽とを接地させた状態で、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の交流電圧を印加し、前記原料ガスのプラズマを発生させ、前記ガラス基板に重ねてアモルファスシリコン層を形成する工程と、
前記アモルファスシリコン層に向けてレーザを照射して、アモルファスシリコンを多結晶化させたポリシリコンにすることで、前記アモルファスシリコン層を前記ポリシリコン層に変える工程と
を少なくとも備えたことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記アモルファスシリコン層の成膜温度は350℃以上430℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記アモルファスシリコン層の水素濃度は5atomic%以下であることを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記アモルファスシリコン層を形成する工程と、前記アモルファスシリコン層を前記ポリシリコン層に変える工程との間には、加熱によって前記アモルファスシリコン層に含まれる水素の濃度を低減する工程を介在させないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
真空槽と、前記真空槽内に配置され、複数の孔を有するシャワープレートと、前記シャワープレートが一面に配置され、前記孔によって前記真空槽の内部と連通する空洞を有するシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドに接続され、前記空洞に原料ガスを供給する原料ガス供給系と、前記真空槽内の前記シャワープレートと対向する位置に平行に設けられ、ガラス基板を載置するための電極板と、前記電極板に接続され、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の交流電圧を印加する交流電源とを有し、
前記真空槽と前記シャワープレートは接地電位に接続され、350℃以上430℃以下の成膜温度で前記ガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜することを特徴とする成膜装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−263124(P2008−263124A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105964(P2007−105964)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】