説明

表示装置用Al合金膜、表示装置およびAl合金スパッタリングターゲット

【課題】直接接続された透明画素電極とのコンタクト抵抗が十分に低減され、かつ耐食性や耐熱性の改善された表示装置用Al合金膜を提供する。
【解決手段】表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、該Al合金膜は、Coを0.5原子%以下(0原子%を含まない)、Geを0.2〜2.0原子%、およびCuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)含み、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%であり、かつ、下記式(1)または式(2)を満たすところに特徴を有する。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金膜中の各元素の含有量(原子%)を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用Al合金膜、表示装置およびAl合金スパッタリングターゲットに関するものであり、特に、耐食性や耐熱性に優れたAl合金膜、該Al合金膜が薄膜トランジスタに用いられた表示装置、および該Al合金膜の形成に有用なAl合金スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD:Liquid Crystal Display)は、中小型のものが携帯電話やモバイル端末のディスプレイ、PCモニタなどに使用され、また近年では、大型化が進んで大型TVなどにも用いられている。液晶表示装置は、単純マトリクス型とアクティブマトリクス型とに分けられ、薄膜トランジスタ(TFT)基板や対向基板と、それらの間に注入された液晶層と、更にカラーフィルタや偏光板などの樹脂フィルム、バックライトなどから構成される。上記TFT基板には、半導体で培われた微細加工技術を駆使してスイッチング素子や画素、更には、この画素に電気信号を伝えるための走査線や信号線が形成されている。
【0003】
前記走査線や信号線に用いられる配線材料には、電気抵抗が小さく、微細加工が容易であるなどの理由により、純AlまたはAl−NdなどのAl合金が汎用されている。この純AlまたはAl合金からなる配線と透明画素電極の間には、Mo、Cr、Ti、W等の高融点金属からなるバリアメタル層が通常設けられている。この様に、バリアメタル層を形成する理由は、耐熱性の確保や、純AlまたはAl合金からなる配線を透明画素電極と直接接続させた場合の電気伝導性を確保するためである。
【0004】
しかし、バリアメタル層を形成するには、前記配線の形成に必要な成膜チャンバーを有する装置に、バリアメタル層形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならない。液晶表示装置の大量生産に伴った低コスト化が進むにつれて、バリアメタル層の形成に伴う製造コストの上昇や生産性の低下は軽視できなくなっている。
【0005】
そこで、バリアメタル層の形成を省略できるダイレクトコンタクト技術が提案されている。例えば、特許文献1および2には、バリアメタル層の形成を省略してAl合金配線を透明画素電極に直接接続したとしてもコンタクト抵抗が低く(以下、この様な特性を「低コンタクト抵抗」ということがある)、Al合金配線自体の電気抵抗も小さく、更には耐熱性にも優れたダイレクトコンタクト技術が提案されている。具体的には、Ni,Ag,Zn,Coなどの元素を所定量添加することにより、透明画素電極とのコンタクト抵抗が低く、且つ、配線自体の電気抵抗も低く抑えられることが記載されている。また、La,Nd,Gd,Dyなどの希土類元素の添加によって、耐熱性を改善できる旨が記載されている。更に特許文献3には、透明画素電極層或いは半導体層と直接接続された構造を有する表示装置の配線材料として、Al−Ni合金に、所定量のBを含有させたものを用いれば、直接接続した際のコンタクト抵抗の増加や接続不良が生じない旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−214606号公報
【特許文献2】特開2006−261636号公報
【特許文献3】特開2007−186779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで上記引用文献1〜3に示される通りバリアメタル層を省略する場合、Al合金膜には透明画素電極との優れたコンタクト性や低配線抵抗と共に、より優れた耐食性の兼備が求められている。特に、TFT基板の製造工程では複数のウェットプロセスを通るが、Alよりも貴な金属が合金元素として含まれていると、ガルバニック腐食の問題が現れ、耐食性が劣化してしまう。
【0008】
例えば、フォトリソグラフィの工程で形成したフォトレジスト(樹脂)を剥離する洗浄工程では、アミン類を含む有機剥離液を用いて連続的に水洗が行なわれている。ところがアミン類と水が混合するとアルカリ性溶液になるため、短時間でAlを腐食させてしまうという問題が生じる。ところでAl合金膜は、剥離洗浄工程よりも以前に熱履歴を受けており、この熱履歴の過程で合金元素を含む析出物がAlマトリクス中に形成される。この析出物とAlマトリクスの電位差が大きいため、剥離洗浄工程にて、有機剥離液の成分であるアミン類が水と接触した瞬間に前記ガルバニック腐食が生じて、電気化学的に卑であるAlがイオン化して溶出し、孔食(黒点、腐食痕)が形成されてしまう、といった問題がある。該孔食が発生すると透明画素電極(ITO膜)が不連続になり、長期使用の信頼性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
また、フォトリソグラフィ工程では、例えばTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を含むアルカリ性の現像液を使用するが、ダイレクトコンタクト構造の場合、バリアメタル層を省略しているためAl合金膜がむき出しとなり、現像液によるダメージ(Al合金膜の減肉)を受けやすい。特に、現像液によるAl合金膜のエッチングレートの抑制を重視してCo量を低減(例えば0.1原子%以下)させた場合、耐熱性が低下して熱処理工程でヒロック(コブ状の突起物、光学顕微鏡で観察した場合に黒点として認識されうる)が生じやすいといった問題がある。このヒロックも、上述したITO膜が不連続になる要因である。
【0010】
上記特許文献1〜3のうち、特許文献1、3はAl合金膜の耐食性に着目して十分に検討されたものではない。また特許文献2については、アルカリ性現像液に対する耐食性を改良できる旨記載されているが、有機剥離液に対する耐性も含め、耐食性を十分に高めることまでは検討されていない。特に後述する通り、低コンタクト抵抗の確保に有効な元素としてCoを含有させた場合に、耐食性の確保が困難であったり耐熱性の確保が難しく、前記ITO膜の不連続が生じやすいといった問題があるが、この様な問題点に着目したものでもない。
【0011】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、バリアメタル層を省略して透明画素電極と直接接続させた場合の低コンタクト抵抗を確保すべく、特にCoを含むAl合金膜について、耐食性(本発明では「表示装置の製造過程で用いられる現像液や剥離液に対する耐性」をいう)を十分向上させると共に前記ヒロックの発生を抑制して、前記ITO膜の不連続を抑制し、信頼性の高い表示装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る表示装置用Al合金膜とは、表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、Coを0.5原子%以下(0原子%を含まない)、Geを0.2〜2.0原子%、およびCuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)含み、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%であり、かつ、下記式(1)または式(2)を満たすところに特徴を有する。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金膜中の各元素の含有量(原子%)を示す)
【0013】
前記Al合金膜は、最大析出物の粒径が60nm以下であることが好ましく、また該Al合金膜の平均結晶粒径が100nm以下を満たすものが好ましい。
【0014】
前記Al合金膜のCo含有量が0.1原子%超0.5原子%以下である場合には、前記式(1)を満たし、かつCo、GeおよびCuの合計量が0.3〜2.0原子%であることが好ましい。また、前記Al合金膜のCo含有量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)である場合には、前記式(2)を満たすことが好ましい。
【0015】
上記Al合金膜は、更に、La、Y、Nd、およびGdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1〜0.5原子%(複数元素を含有させる場合は合計量をいう)含んでいてもよい。
【0016】
本発明は、上記Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置も含むものである。
【0017】
また本発明には、表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、Coを0.5原子%以下(0原子%を含まない)、Geを0.2〜2.0原子%、およびCuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)含み、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%であり、かつ、下記式(1)または式(2)を満たし、残部がAlおよび不可避不純物であるところに特徴を有するAl合金スパッタリングターゲットも含まれる。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金スパッタリングターゲット中の各元素の含有量(原子%)を示す)
【0018】
前記Al合金スパッタリングターゲットのCo含有量が0.1原子%超0.5原子%以下である場合には、前記式(1)を満たし、かつCo、GeおよびCuの合計量が0.3〜2.0原子%であるものが好ましい。また前記Al合金スパッタリングターゲットのCo含有量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)である場合には、前記式(2)を満たすものが好ましい。
【0019】
前記Al合金スパッタリングターゲットは、更に、La、Y、Nd、およびGdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1〜0.5原子%(複数元素を含有させる場合は合計量をいう)含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バリアメタル層を介在させずに、Al合金膜を透明画素電極(透明導電膜、酸化物導電膜)と直接接続することができ、且つ、耐食性(剥離液耐性、現像液耐性、特には剥離液耐性)や耐熱性に優れたAl合金膜を提供できる。本発明のAl合金膜を表示装置に適用すれば、前記ITO膜の不連続が抑制されて信頼性の高い表示装置を得ることができる。また、前記バリアメタル層を省略することができるため、生産性に優れ、安価な表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】Al−Ni−Ge系合金膜とAl−Co−Ge系合金膜のそれぞれについて、析出物径と腐食径の関係を示したグラフである。
【図2】Al合金膜のCu/Coと最大析出物の粒径との関係を示したグラフである。
【図3】Al合金膜のCu/Co(Co=0.1原子%)と黒点密度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記ダイレクトコンタクト技術を実用化するにあたり、Al合金膜には、上述した通り、低コンタクト抵抗、低配線抵抗を示すと共に優れた耐食性や耐熱性を発揮することが求められている。
【0023】
特に耐食性を高めるには、Al合金膜に存在する析出物の粒径(析出物径)と、該析出物に起因して生じる腐食痕の粒径(腐食径)がほぼ比例していることから、前記析出物径を小さくして腐食径を実用上問題ないレベルにまで微細化すればよいことが知見として得られている。例えば、前記ダイレクトコンタクト技術で提案されているAl−Ni系合金膜について、実用上問題ないレベルにまで腐食の抑制されたものを調べると、析出物径がおおよそ250nm以下となっている。特に、Al−Ni−Ge系合金膜では、析出物径を100nm以下とより小さくすることができ、析出物を起点とする腐食を更に軽減できることが提案されている。
【0024】
これに対し、低コンタクト抵抗の確保に有用な元素として、Co、更にはGeを含有させたAl−Co−Ge系合金膜では、析出物径を前記Al−Ni−Ge系合金膜と同様に小さくしても、耐食性をAl−Ni−Ge系合金膜ほど十分には高められないことがわかった。
【0025】
図1は、Al−0.2(原子%)Ni−0.5(原子%)Ge−0.2(原子%)La合金膜とAl−0.2(原子%)Co−0.5(原子%)Ge−0.2(原子%)La合金膜に存在する析出物の粒径(析出物径)と、これらのAl合金膜を、後述する実施例に示す通り剥離液に浸漬した後に生じる腐食痕(前記析出物に起因するものと考えられる)の径(腐食径)の関係を示したものである。この図1から、Al−Ni−Ge系合金膜の場合には、析出物径を100nm以下に制御することで腐食径をほぼゼロと、耐食性を著しく向上させることができるが(図1(a))、Al−Co−Ge系合金膜の場合には、析出物径を100nm以下に制御したとしても、腐食径の減少はほとんどみられず耐食性が十分に改善されていないことがわかる(図1(b))。
【0026】
そこで本発明者らは、低コンタクト抵抗実現のため特にCoを含有させたAl合金膜を対象に、該Al合金膜の耐食性を十分に向上すると共に、耐熱性も向上させてヒロックの発生を抑制すべく鋭意研究を行ったところ、特に適量のCuを、規定量のCoおよびGeと共に含有させ、かつCo量とCu量のバランスを図ればよいことを見出した。以下、本発明のAl合金膜について詳述する。
【0027】
まず、本発明のAl合金膜は、低コンタクト抵抗を確保するためCoを0.5原子%以下(0原子%を含まない)の範囲内で含む。コンタクト抵抗を確実に低く抑えるには、Coを好ましくは0.02原子%以上、より好ましくは0.05原子%以上含有させるのがよい。しかし、Co量が過剰になると耐食性が低下するため、Co量は0.5原子%以下とする。好ましくは0.3原子%以下である。
【0028】
また、本発明のAl合金膜は、Geを0.2〜2.0原子%含むものである。Geも、低コンタクト抵抗確保に必要な元素である。Geが結晶粒界に偏析することで、Al合金膜と透明画素電極(例えばITO膜)との間で、上記Geの偏析部分を通して大部分のコンタクト電流が流れ、コンタクト抵抗が低く抑えられるものと思われる。また、Geが結晶粒界に偏析することで、Al結晶粒の微細化にも有効に作用し、結果として、後述する通り析出物の微細化にも寄与するものと思われる。該効果を十分発揮させるには、Geを0.2原子%以上(好ましくは0.3原子%以上)含有させる。一方、Ge量が多すぎると、Al合金膜自体の電気抵抗が高くなる。よって、Ge量は2.0原子%以下とする。好ましくは1.0原子%以下である。
【0029】
更に本発明のAl合金膜は、Cuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)の範囲内で含むものである。Cuは、Co等との複合析出物の形成の促進や、Coの拡散を抑制する効果があり、複合析出物形成やCo系析出物の成長を抑制することで、析出物を微細化するのに有効な元素である。またCo量が比較的少ない場合には、Cuが耐熱性向上元素として有効に作用する。この様な効果を十分発揮させるには、Cuを好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上含有させるのがよい。特にCo量が0.1原子%以下の場合には、Cuを0.2原子%以上とすることが好ましい。
【0030】
しかしCuを過剰に含有させると、Cuリッチな粗大析出物が形成され易くなり、却って耐食性が低下する。よって本発明では、Cu量を0.5原子%以下とする。好ましくは0.4原子%以下である。
【0031】
本発明のAl合金膜は下記式(1)または式(2)も満たすものである。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金膜中の各元素の含有量(原子%)を示す)
【0032】
上記式(1)または(2)を満たすようにすることで、優れた耐食性を発揮して析出物を起因とする腐食を抑制することができる。また、優れた耐熱性を発揮してヒロックの発生を抑制することができる。
【0033】
上記効果を確実に発揮させるには、Coの含有量が0.1原子%超0.5原子%以下の場合、前記式(1)を満たすようにすることが好ましい。Co量が比較的多い場合には、上述した通り、粒径の比較的大きな析出物が形成され易いが、Cuを添加することで微細な複合析出物が形成される。しかしCoに対して過剰量のCuが存在すると、上述した通りCuリッチな粗大析出物が形成され、これが腐食起点となりやすい。図2は、Al−Co−0.5原子%Ge−Cu−0.2原子%LaのCo量(0.1原子%超0.5原子%以下の範囲内)とCu量(原子%)を変化させた種々のAl合金膜の、Cu(原子%)/Co(原子%)と、各Al合金膜の最大析出物の粒径との関係を示したグラフである。この図2より、Co量が0.1原子%超0.5原子%以下の場合、Cuを含有させることにより、最大析出物の粒径は、Cuを含まない場合よりも小さくなることがわかる。しかし、Co量に対してCu量が過剰になると、最大析出物の粒径が急激に大きくなることもわかる。
【0034】
本発明のCo、GeおよびCuを含むAl合金膜の場合、析出物径を60nm以下とすれば腐食径が小さくなる、即ち、耐食性を十分に向上できることから、前記図2に示す通り、Co量が0.1原子%超0.5原子%以下の場合には、Cu/Coを1.5以下(0を含まない)とすることが好ましい。析出物径を50nm以下とより小さくして、耐食性をより向上させる観点からは、Cu/Coの下限を0.2とすることが好ましく、Cu/Coの上限を1.3とすることがより好ましい。
【0035】
一方、Co量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)の場合には、前記式(2)を満たすようにすることが好ましい。Co量がこの様に比較的少量の場合、Co量が少ない分耐熱性が低下してヒロックが発生しやすくなり、このヒロックに起因して、剥離液耐性が劣化(即ち、ヒロック起因の黒点が増加)したり、前記ITO膜の不連続が生じうる。よって、Co量が0.1原子%以下の場合には、Cuを相対的に高めとして耐熱性を確保することが望ましく、Cu/Coを2.5以上とする。上記ヒロックの発生を抑制する観点から、Co量が0.1原子%以下の場合、Cu/Coは3以上とすることがより好ましい。
【0036】
図3は、Al−0.1原子%Co−0.5原子%Ge−Cu−0.2原子%LaのCu量(原子%)を変化させた種々のAl合金膜を後述する実施例に示す通り剥離液に浸漬させ、光学顕微鏡(倍率:1000倍)で1視野(視野サイズ約12000μm)観察し、この観察で確認された黒点(ヒロックによるものが主であると思われる)の密度を100μm当りの密度に換算したもの(黒点密度)と、Cu(原子%)/Co(原子%)との関係を示したグラフである。この図3より、Co量が0.1原子%以下の場合には、Cu/Coを高めることにより黒点密度が減少し、Cu/Coを2.5以上とすることで黒点密度を十分に減少できることがわかる。尚、図3中の黒点には、上記ヒロックによるものの他、腐食痕によるものも多少含まれていると思われる。
【0037】
Co量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)の場合も、Co量に対してCu量が過剰であると、Cuリッチな粗大析出物が形成され、これが腐食起点となりやすいと考えられる。よってCu/Coを6.0以下に抑える。Co量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)の場合のCu/Coの好ましい上限は5.5である。
【0038】
また本発明のAl合金膜は、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%を満たすものである。
【0039】
ITO膜とのコンタクト性を確保する観点、および上記Cuを含有させることによる析出物微細化の効果を十分に発現させる観点から、Co、CuおよびGeの合計量を一定以上とする必要がある。本発明では、Co、CuおよびGeの合計量を0.2原子%以上とする。特にCo量が0.1原子%超0.5原子%以下の場合には、上記効果をより十分に発現させるため、Co、GeおよびCuの合計量の下限を0.3原子%とすることが好ましい。尚、Co量のいかんにかかわらず、Co、GeおよびCuの合計量のより好ましい下限は0.7原子%である。一方、これらの元素の合計量が過剰であると、Al合金膜自体の電気抵抗が高くなったり、耐食性が却って低下する。よって、Co、CuおよびGeの合計量は、2.0原子%以下、好ましくは1.2原子%以下とする。
【0040】
上記成分組成を満たすようにし、かつ表示装置の製造プロセスにおけるAl合金膜の熱履歴を、後述する通り推奨される条件に制御することで、Al合金膜中の最大析出物の粒径を60nm以下にでき、実用上問題ないレベルにまで腐食を軽減することができる。また、本発明のAl合金膜は、その平均結晶粒径(Al結晶粒の平均粒径)が100nm以下に抑えられていることが好ましい。析出物の基本的な析出サイトは粒界三重点であるため、Al結晶粒の平均粒径を小さくして粒界三重点を多く存在させることで、析出サイトが多くなり析出物径が小さくなると考えられる。尚、前記析出物とは、Co、Cu、Ge、Laの少なくとも1種を含むものである。また、前記最大析出物の粒径およびAl合金膜の平均結晶粒径は、後述する実施例に示す方法で測定するものである。
【0041】
本発明のAl合金膜は、上記元素を基本成分として含有し、残部はAlおよび不可避不純物である。
【0042】
更に、La、Y、Nd、およびGdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素(以下、La等ということがある)を0.1〜0.5原子%(複数元素を含有させる場合は合計量をいう。以下、La等について同じ)含むAl合金膜としてもよい。La等は、ヒロックの形成を抑制して耐熱性を高める作用を有している。また、現像液工程でのAl合金膜のエッチングレートを抑制、即ち、Al合金膜の現像液に対する耐性の向上にも有効な元素である。これらの効果を有効に発揮させるには、La等を0.1原子%以上含有させることが好ましく、0.2原子%以上とすることがより好ましい。しかしLa等の含有量が過剰になると、Al合金膜自体の電気抵抗が増大する。よって、La等の含有量の好ましい上限を0.5原子%(より好ましくは0.4原子%)とする。
【0043】
尚、上記La等の中でも、好ましくはLa、Nd、Gdであり、更に好ましくはNdである。
【0044】
上記Al合金膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0045】
また、スパッタリング法により本発明のAl合金膜を形成するには、所望のAl合金膜と同一の組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレすることなく、所望の成分・組成のAl合金膜を形成することができるのでよい。
【0046】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0047】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法でAl合金からなるインゴットを製造して得る方法や、スプレイフォーミング法でAl合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0048】
本発明のAl合金膜は、薄膜トランジスタのソース電極および/またはドレイン電極ならびに信号線に用いられ、ドレイン電極が透明導電膜に直接接続されていることが好ましい。本発明のAl合金膜は、ゲート電極および走査線に用いることもできる。この場合、ソース電極および/またはドレイン電極ならびに信号線と、ゲート電極および走査線とは同一組成のAl合金膜からなることが好ましい。
【0049】
本発明には、上記Al合金膜を薄膜トランジスタに用いたTFT基板や、当該TFT基板を備えた表示装置も包含される。本発明は、Al合金膜の成分組成を特定したところに特徴があり、Al合金膜以外の、TFT基板や表示装置を構成する要件は、通常用いられるものであれば特に限定されない。例えば、本発明に用いられる透明画素電極としては、酸化インジウム錫(ITO)膜や酸化インジウム亜鉛(IZO)膜などが挙げられる。
【0050】
従来のダイレクトコンタクト技術におけるAl合金膜の熱処理はおおよそ、最高到達温度:300〜350℃の雰囲気で保持時間:10〜40分、上記最高到達温度までの昇温速度:5〜60℃/分の条件で行われる。しかし本発明では、従来のAl合金膜の熱処理条件よりも、最高到達温度までの昇温速度を小さくすることが好ましい。即ち、スパッタで形成されるAl合金膜は、as−depo状態(成膜直後)では過飽和固溶状態にあり、熱が加わることで添加元素の析出が開始される。析出物の基本的な析出サイトは粒界三重点であるため、Al結晶粒が微細なほど析出サイトが多くなり、析出物径が小さくなると考えられる。一方、Al結晶粒は熱処理温度の上昇に伴って成長し粗大化する。よって、微細な析出物を析出させるには、Alの粒成長が始まる前に(Al結晶粒が微細である温度域で)析出させることが好ましいため、最高到達温度に達するまでの昇温速度をできるだけ遅くすることが好ましい。本発明では、推奨される条件として例えば、最高到達温度:330℃±10℃、最高到達温度での保持時間:約30分、上記最高到達温度までの昇温速度:5℃/分程度で熱処理を行うことが挙げられる。
【0051】
本発明のAl合金膜を備えた表示装置を製造するにあたっては、Al合金膜形成後の熱処理(Al合金膜形成後の熱履歴も含む)の条件を上述した推奨される条件とすること以外は、表示装置の一般的な工程を採用すればよく、例えば、前述した特許文献1や2に記載の製造方法を参照すればよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
表1に示す種々の合金組成のAl合金膜(膜厚=300nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法(基板=ガラス基板(コーニング社製 Eagle2000)、スパッタガス=アルゴン、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温))によって成膜した。
【0054】
尚、上記種々の合金組成のAl合金膜の形成には、真空溶解法で作製した種々の組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0055】
また上記種々のAl合金膜における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0056】
得られたAl合金膜について、最大析出物の粒径、Al合金膜の平均結晶粒径、耐食性(剥離液に対する耐性、現像液に対する耐性)を以下の通り評価した。尚、最大析出物の粒径、Al合金膜の平均結晶粒径は、前記現像液に対する耐性に優れているもの、およびGeを含有させて低コンタクト抵抗とした例を対象に測定した。
【0057】
(a)最大析出物の粒径
上記Al合金膜に対し、TFT基板作製時に加わる熱履歴を模擬して、N雰囲気で、最高到達温度までの昇温速度:5℃/分、最高到達温度:330℃で30分間保持の条件で熱処理を施してサンプルを得た。上記熱処理を施して得られたサンプルを用い、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、高角散乱暗視野法(HAADF)にて倍率5万倍で2視野(1視野サイズ:3μm×3μm)を観察し、視野内全ての析出物を撮影した。そして、画像解析を行って析出物のサイズ分布を求め、最大径(最大析出物の粒径)を求めた。
【0058】
(b)Al合金膜の平均結晶粒径(Al結晶粒の平均粒径)
上記熱処理を施して得られたサンプルについて、上記TEM観察写真を用い切断法(JIS H 0501)で求めた。
【0059】
(c)剥離液に対する耐性
上記熱処理を施して得られたサンプルに対し、東京応化工業製のアミン系レジスト剥離液(TOK106)を用い、(pH=10.5に調整した剥離液水溶液に1分間浸漬)→(pH=9.5に調整した剥離液水溶液に5分間浸漬)→(純水で水洗)→(乾燥)の順に処理を行った。そして、該処理後のサンプルを光学顕微鏡で倍率1000倍で観察したときの黒点の発生状況が、参照材(ref.材)であるAl−0.2原子%Co−0.5原子%Ge−0.2原子%La合金膜よりも優れているものを○、同等のものを△、悪いものを×とした。
【0060】
(d)現像液に対する耐性
as−depo状態のAl合金膜の一部をマスキングし、30℃に保持した現像液(TMAH2.38質量%を含む溶液)に1分浸漬した後、純水で1分間洗浄しNガスを吹き付けて乾燥した。その後、マスキングを剥離し、試験部とマスキング部(非試験部)の段差を、触診式段差計を用いて3ヶ所測定し、その平均値をエッチング量としてエッチング速度を算出した。そして下記基準でAl合金膜の現像液に対する耐性を評価した。
○(現像液に対する耐性に優れている):エッチング速度が150nm/min以下
×(現像液に対する耐性に劣っている):エッチング速度が150nm/min超
これらの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1より次のように考察することができる。即ち、本発明例1〜7は、規定の条件を満たしているため、析出物径が微細であり、剥離液に対する耐性および現像液に対する耐性のどちらにも優れたものが得られた。尚、これらの本発明例についてはヒロックも確認されなかった。
【0063】
これに対し比較例1は、Cu量が過剰でありCu/Coが上限を超えているため、著しく粗大な析出物が形成され、剥離液に対する耐性が著しく劣る結果となった。
【0064】
比較例2は、Cuを含んでいないため、最大析出物の粒径が60nmを超えた。また比較例3は、CuおよびGeを含んでいないため、比較例2と対比すると、GeによるAl結晶粒の微細化効果が発揮されておらず、粒径の著しく大きな析出物が生じ、剥離液に対する耐性に劣る結果となった。
【0065】
比較例4は、Coが過剰に含まれ、かつCuおよびGeを含んでいないため、剥離液に対する耐性および現像液に対する耐性のどちらにも劣る結果となった。
【0066】
比較例5は、CuおよびGeを含んでいないため、剥離液に対する耐性に劣る結果となった。
【0067】
比較例6からは、Co量が比較的少量の場合、剥離液に対する耐性を高めるにはCu/Coを2.5以上とすることが好ましいことがわかる。
【0068】
尚、本発明で規定する通りCoおよびGeを含むAl合金膜は、低コンタクト抵抗を発揮するものであるが、このことを確認すべく、特許文献1や2の実施例に示される通り、透明画素電極を構成するITO膜とのコンタクト抵抗を測定したところ、Geを含まない上記比較例5では5000Ωと高かったのに対し、Geを規定量含む全てのAl合金膜については、1000Ω以下と低コンタクト抵抗を示すことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜であって、
該Al合金膜は、Coを0.5原子%以下(0原子%を含まない)、Geを0.2〜2.0原子%、およびCuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)含み、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%であり、かつ、下記式(1)または式(2)を満たすことを特徴とする表示装置用Al合金膜。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金膜中の各元素の含有量(原子%)を示す)
【請求項2】
最大析出物の粒径が60nm以下である請求項1に記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項3】
前記Al合金膜の平均結晶粒径が100nm以下である請求項1または2に記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項4】
前記Coの含有量が0.1原子%超0.5原子%以下であり、前記式(1)を満たし、かつCo、GeおよびCuの合計量が0.3〜2.0原子%である請求項1〜3のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項5】
前記Coの含有量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)であり、かつ前記式(2)を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項6】
更に、La、Y、Nd、およびGdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1〜0.5原子%含む請求項1〜5のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置。
【請求項8】
表示装置の基板上で、透明導電膜と直接接続されるAl合金膜の形成に用いられるAl合金スパッタリングターゲットであって、Coを0.5原子%以下(0原子%を含まない)、Geを0.2〜2.0原子%、およびCuを0.5原子%以下(0原子%を含まない)含み、Co、GeおよびCuの合計量が0.2〜2.0原子%であり、かつ、下記式(1)または式(2)を満たし、残部がAlおよび不可避不純物であることを特徴とするAl合金スパッタリングターゲット。
Cu/Co≦1.5 …(1)
2.5≦Cu/Co≦6.0 …(2)
(式(1)(2)中、Cu、Coは、Al合金スパッタリングターゲット中の各元素の含有量(原子%)を示す)
【請求項9】
前記Coの含有量が0.1原子%超0.5原子%以下であり、前記式(1)を満たし、かつCo、GeおよびCuの合計量が0.3〜2.0原子%である請求項8に記載のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記Coの含有量が0.1原子%以下(0原子%を含まない)であり、かつ前記式(2)を満たす請求項8に記載のAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
更に、La、Y、Nd、およびGdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を0.1〜0.5原子%含む請求項8〜10のいずれかに記載のAl合金スパッタリングターゲット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−165865(P2010−165865A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6959(P2009−6959)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】