説明

表面処理装置

【課題】表面処理用の処理槽に設けた、被処理物の出し入れ用の開口でのガスの流れを安定させる。
【解決手段】被処理物9を搬送方向に沿って搬入開口13から処理槽10の内部に搬入し、処理空間19に配置する。供給系30から処理ガスを処理空間19に供給し、被処理物9を表面処理する。その後、被処理物9を搬出開口14から搬出する。排気系40で処理槽10の内部からガスを排出する。開口13,14を、互いに上記搬送方向と直交する対向方向に対向距離Dを隔てて対向する一対の整流面17,18によって画成する。開口13,14の上記搬送方向に沿う奥行きLを、対向距離Dの2倍以上とし、好ましくは6倍以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面に処理ガスを接触させ、被処理物の表面を処理する装置に関し、特に有毒性又は腐食性を有する処理ガスを用いた処理に適した表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板や半導体ウェハ等の被処理物に処理ガスを吹き付け、エッチング、洗浄、表面改質、成膜等の表面処理を行なう装置は公知である。この種の表面処理に用いる処理ガスには、外部に漏れると安全上又は環境上好ましくない成分が含まれていることが少なくない。そこで、一般に、処理空間を処理槽(チャンバー)で囲み、処理ガスが外部に漏れるのを防止している。
【0003】
特許文献1、2の表面処理装置は、処理槽(チャンバー)に被処理物を導入する入口、及び被処理物を導出する出口が設けられている。入口及び出口はスリット状になっている。処理槽の両端には緩和室を設け、プラズマ生成ガスの流出及び外気の処理槽内への流入を緩和している。処理槽の内部のガスは、排気口から排出している。
特許文献3の表面処理装置は、放電プラズマ発生部を囲む内槽と、この内槽を囲む外槽とを備えている。外槽と内槽との間の空間の内圧は、内槽の内圧より低く、かつ外気圧より低くなっている。この結果、処理ガスが内槽から外槽と内槽との間の空間に流出し、かつ外気が外槽に流入するようになっている。
【特許文献1】特許第4058857号公報(図9)
【特許文献2】特許第3994596号公報(図7)
【特許文献3】特開2003−142298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理槽には、被処理物を出し入れする開口が必要である。この開口から処理槽内の処理ガスが漏れる可能性もある。このような漏れを防止するには、処理槽に排気系を接続し、処理槽から排気を行なうことが考えられる。これにより、上記開口でのガスの流れを処理槽の外部から処理槽の内部に向けることができる。しかし、上記開口からの流入ガスは、乱流になりやすい。そうすると、処理槽内のガス分布が不安定になる。また、処理槽の外部の外気が乱れた場合、その乱れが上記開口を介して処理槽の内部に伝播することもある。発明者は、上記開口の外側で渦流を形成すると、上記開口の内部のガスが渦になって上記開口から外部に出て来る現象を確認している。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面処理用の処理槽に設けた、被処理物の出し入れ用の開口でのガスの流れを安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、被処理物の表面に処理ガスを接触させ、前記表面を処理する装置において、
被処理物を搬送方向に沿って搬入し又は搬出する開口を有し、かつ内部に前記表面処理を行なう処理空間が設けられた処理槽と、
前記処理空間に処理ガスを供給する供給系と、
前記処理槽の内部からガスを排出する排気系と、
を備え、前記処理槽の前記開口が、互いに前記搬送方向と直交する対向方向に対向距離を隔てて対向する一対の整流面によって画成され、前記開口の前記搬送方向に沿う奥行きが、前記対向距離の2倍以上であることを特徴とする。
【0006】
排気系による排気により、前記開口では外部から処理槽の内部に向かうガス流れを形成できる。これにより、処理ガスが前記開口から外部に漏れ出るのを防止できる。加えて、一対の整流面によって、前記開口から処理槽内に流入するガスの流れを安定化でき、流入ガスが乱流になるのを防止でき、または流入ガスを層流に近づけることができる。したがって、処理槽内ひいては処理空間のガス分布を安定化できる。これにより、表面処理の安定性を確保できる。また、処理槽の内部が外部の影響を受けるのを防止できる。例えば処理槽の外部で渦流等のガスの乱れが生じた場合、その乱れが開口を介して処理槽の内部に伝播するのを防止でき、処理槽の内部のガスが渦流等になって前記開口を通って外部に漏れ出るのを防止できる。ひいては、処理ガスや処理済みガスの漏洩を一層確実に防止することができる。
【0007】
前記開口の奥行きが、前記対向距離の6〜10倍であることがより好ましい。これによって、開口でのガス流を一層確実に安定化できる。
前記開口の形状は、長方形が好ましい。
前記対向距離が、場所によって異なる場合、対向距離は平均した値と定義する。前記開口の奥行きが、前記対向距離の平均値の2倍以上であることが好ましく、前記開口の奥行きが、前記対向距離の平均値の6〜10倍であることが一層好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被処理物の搬入又は搬出用の開口でのガスの流れを安定させることができる。ひいては、処理槽内のガス分布が変動するのを防止でき、表面処理の安定性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示したものである。この実施形態の被処理物9は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板で構成されているが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば半導体ウェハ、連続シート状の樹脂フィルム等、種々の被処理物に適用できる。この実施形態の表面処理内容は、ガラス基板9の表面に被膜されたシリコン(図示省略)のエッチングであるが、本発明は、これに限定されるものではなく、酸化シリコンや窒化シリコンのエッチングにも適用でき、エッチングに限られず、成膜、洗浄、撥水化、親水化等、種々の表面処理に適用できる。
【0010】
なお、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板からなる被処理物9の長さ(図1の左右方向の寸法)は、例えば1500mmであり、幅(図1の紙面と直交する方向の寸法)は、例えば1100mm程度であり、厚さは、例えば0.7mm程度である。
【0011】
図1に示すように、表面処理装置1は、処理槽10と、搬送手段20と、供給系30と、排気系40を備えている。
【0012】
処理槽10は、内部に被処理物9を配置できる大きさの容器状になっている。処理槽10の内部の略中央部に処理空間19が形成されている。言い換えると、処理槽10は、処理空間19を囲んでいる。処理空間19は、後記供給ノズル33と、該供給ノズル33の下方に配置されるべき被処理物9との間に画成される。なお、図において、処理空間19の厚さ(上下方向の寸法)は、誇張されている。実際の処理空間19の厚さは0.5〜5mm程度である。
【0013】
処理槽10の一端側(図1において右側)の壁11には、搬入開口13が形成されている。処理槽10の他端側(図1において左側)の壁12には、搬出開口14が形成されている。搬入出開口13,14は、図1の紙面と直交する方向に延びている。被処理物9が搬入出開口13,14を通して処理槽10に出入りできるようになっている。搬入出開口13,14は、常時開いている。処理槽10には搬入出開口13,14を開閉する扉が設けられていない。搬入出開口13,14の構造については追って更に詳述する。
【0014】
搬送手段20は、ローラーコンベアで構成されている。ローラーコンベアの多数のローラ21が、軸線を図1の紙面と直交する方向に向け、左右に間隔を置いて並べられている。ローラーコンベア20の一部分が処理槽10の内部に配置されている。被処理物9が、ローラ21の上に載せられ、図1において右から左方向(搬送方向)へ搬送され、搬入開口13を通して処理槽10内に搬入されて処理空間19に配置され、その後、搬出開口14を通して処理槽10から搬出される。
搬送手段20は、ローラーコンベアに限られず、移動式ステージ、浮上ステージ、ロボットアーム等で構成されていてもよい。
【0015】
供給系30は、原料ガス供給部31と、供給ノズル33を有している。原料ガス供給部31から供給路32が延びている。供給路32が供給ノズル33に接続されている。供給ノズル33は、処理槽10の天井部に配置されている。詳細な図示は省略するが、供給ノズル33は、図1の紙面と直交する方向に被処理物9の同方向寸法より少し長く延びている。
【0016】
供給系30は、処理内容に応じた反応成分や該反応成分の原料成分等を含む処理ガスを処理空間19に供給する。処理ガス成分(上記反応成分、原料成分等)は、環境負荷性、有毒性、腐食性を有していることが少なくない。シリコンのエッチングに係る本実施形態では、反応成分として、フッ素系反応成分と酸化性反応成分が用いられている。フッ素系反応成分として、HF、COF、フッ素ラジカル等が挙げられる。フッ素系反応成分は、例えばフッ素系原料を水(HO)で加湿した後、プラズマ化(分解、励起、活性化、イオン化等を含む)することにより生成できる。この実施形態では、フッ素系原料として、CFが用いられている。フッ素系原料としてCFに代えて、C、C、C等の他のPFC(パーフルオロカーボン)を用いてもよく、CHF、CH、CHF等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)を用いてもよく、SF、NF、XeF等のPFC及びHFC以外のフッ素含有化合物を用いてもよい。
【0017】
フッ素系原料は、希釈ガスで希釈してもよい。希釈ガスとして、例えばAr、He等の希ガスや、Nが用いられる。フッ素系原料への添加剤として水(HO)に代えて、アルコール等のOH基含有化合物を用いてもよい。
【0018】
酸化性反応成分として、O、Oラジカル等が挙げられる。この実施形態では、酸化性反応成分としてOが用いられている。Oは、酸素(O)を原料としオゾナイザーで生成できる。O等の酸素系原料をプラズマ化することによって酸化性反応成分を生成することにしてもよい。
【0019】
上記フッ素系原料や酸素系原料のプラズマ化は、プラズマ生成装置の一対の電極どうし間のプラズマ空間に上記原料を含むガスを導入することで実行できる。上記プラズマ化は、大気圧近傍で実行するのが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【0020】
シリコンのエッチングに係る本実施形態では、原料ガス供給部31においてフッ素系原料のCFをArで希釈し、かつHOを添加し、フッ素系原料ガス(CF+Ar+HO)を得る。このフッ素系原料ガスを供給路32で供給ノズル33に導く。供給ノズル33には一対の電極が設けられている。この電極間でフッ素系原料ガスをプラズマ化する。供給ノズル33は、プラズマ生成装置を兼ねている。これにより、HF等のフッ素系反応成分が生成される。図示は省略するが、別途、酸化性反応成分としてオゾナイザーでOを生成して供給ノズル33に導入し、上記プラズマ化後のガスと混合する。これにより、フッ素系反応成分(HF等)と酸化性反応成分(O等)を含む処理ガスが生成される。勿論、処理ガスには、原料ガス成分(CF、HO、Ar、O等)も含まれている。この処理ガスが、供給ノズル33の底面(先端面)の吹き出し口から処理空間19へ吹き出される。処理ガスの供給流量は、例えば32slm程度である。
【0021】
なお、ガス供給部31においてフッ素系反応成分と酸化性反応成分を含む処理ガスを生成し、この処理ガスを供給路32によって供給ノズル33へ送り、吹き出すことにしてもよい。
【0022】
供給ノズル33から吹き出された処理ガスが処理空間19の被処理物9に吹き付けられ、被処理物9が表面処理される。シリコンのエッチングにおいては、処理ガス中の酸化性成分(O等)によりシリコンが酸化され、酸化シリコンと処理ガス中のフッ素系反応成分(HF等)とが反応し、揮発成分のSiFが生成される。これにより、被処理物9の表面のシリコン層を除去できる。
【0023】
次に、排気系40について説明する。処理槽10の底部の例えば略中央部に排気口43が設けられている。排気口43から排気路42が延びている。排気路42には、フィルタ部45と排気ポンプ41が順次設けられている。図示は省略するが、供給ノズル33の底面には処理ガスの吹き出し口に隣接して局所排気口が形成されている。この局所排気口に連なる吸引路が供給ノズル33の上部から引き出されている。この吸引路がフィルタ部45より上流側(排気口43側)の排気路42に合流している。上記局所排気口及び吸引路も排気系40の要素を構成する。
【0024】
フィルタ部45は、排出ガス中の塵埃等を除去するフィルタの他、排出ガス中のHF等を除去するスクラバー、排出ガス中のHOを除去するミストトラップ、排ガス中のOを除去するオゾンキラー等を含む。
【0025】
排気ポンプ41(排気手段)の駆動によって、処理槽10内のガスが排気口43から排気路42に吸い込まれる。また、処理空間19で被処理物9に吹き付けられた後の処理ガス(以下「処理済みガス」と称す)が、主に上記局所排気口に吸い込まれ、上記吸引路を経て、排気路42に合流する。処理済みガスは、処理ガスの成分(HF、O、CF、HO、Ar等)や表面処理反応による副生成物(SiF等)を含む。処理済みガスの一部が処理空間19から漏れることもあり、そのような処理済みガスは、排気口43から吸い込まれる。
【0026】
排気系40による排出ガス流量は、処理槽10内のガスが搬入出開口13,14から漏れ出ない程度に少量に設定する。搬入出開口13,14からガスが漏れ出ないようにするには、排出ガス流量を処理ガスの供給流量より大きくし、処理槽10の外部の雰囲気ガス(空気)が搬入出開口13,14から処理槽10の内部へ流入するようにする。本実施形態では、上述したように処理ガスの供給流量が32slm程度であるのに対し、第1排出系40の排出ガス流量は、例えば200〜400slm程度である。
【0027】
したがって、排気系40による排出ガスの大半は空気である。排出ガス中、最も割合が大きい成分は窒素である。排出ガスには、更に処理済みガスの成分(HF、O、CF、HO、Ar、SiF等)が含まれている。
【0028】
表面処理装置1には、再利用部50が更に備えられている。再利用部50は、排気系40で排気されるガスから処理ガスの反応成分を回収する。詳述すると、再利用部50は、分離回収器51を備えている。分離回収器51には分離膜52が設けられている。分離膜52によって分離回収器51の内部が濃縮室53と希釈室54に仕切られている。分離膜52としては、例えばガラス状ポリマー膜(特許第3151151号公報等参照)が用いられている。分離膜52がCF(反応成分)を透過させる速度は相対的に小さく、窒素(不純物)を透過させる速度は相対的に大きい。排気ポンプ41より下流側の排気路42が濃縮室53に連なっている。排気ポンプ41からの排出ガスが、濃縮室53に導入され、分離膜52によって濃縮室53に留まる回収ガスと分離膜52を透過して希釈室54に入る放出ガスとに分離される。回収ガスは、CF濃度が高く(CF=90vol%以上)、かつ流量が小さい。放出ガスは、CF濃度が低く(CF=1vol%以下)、かつ流量が大きい。
【0029】
なお、図では分離回収器51が1つしか図示されていないが、再利用部50が分離回収器51を複数有していてもよい。複数の分離回収器51が、直列に連なっていてもよく、並列に連なっていてもよく、直列と並列が組み合わさるように連なっていてもよい。
【0030】
濃縮室53の下流端から回収路55が延びている。回収路55は、原料ガス供給部31に接続されている。
【0031】
希釈室54から放出路46が延びている。放出路46は、除害設備47に接続されている。
【0032】
処理槽10の搬入出開口13,14の構造について詳述する。
図2及び図3に示すように、搬入側壁11には開口部16が形成されている。開口部16は、搬入側壁11の幅方向(図2の左右方向、図3の紙面直交方向)に延びるスリット状になっている。
【0033】
搬入側壁11には、上下に一対をなす整流板15,15が取り付けられている。以下、上下の整流板15を互いに区別するときは、上側の整流板15の符号に「A」を付し、下側の整流板15の符号に「B」を付す。
【0034】
図3に示すように、上側の整流板15Aは、2つの上側整流板部15a,15aに分かれている。図2に示すように、各整流板部15a,15aは、搬入側壁11の幅方向に延びる細い平板状になっている。図3に示すように、2つの上側整流板部15a,15aが、搬入側壁11の開口部16より上側の部分を、外側(図3において右)と内側(図3において左)から挟んでいる。上側整流板部15a,15aの下面は、開口部16の上端縁と面一になっている。互いに面一をなす上側整流板部15a,15aの下面及び開口部16の上端縁によって、上側の整流面17が構成されている。上側整流面17は、搬入側壁11の幅方向に水平に延びている。
【0035】
下側の整流板15Bは、2つの下側整流板部15b,15bに分かれている。図2に示すように、各整流板部15b,15bは、搬入側壁11の幅方向に延びる細い平板状になっている。図3に示すように、2つの下側整流板部15b,15bが、搬入側壁11の開口部16より下側の部分を、外側(図3において右)と内側(図3において左)から挟んでいる。下側整流板部15b,15bの上面は、開口部16の下端縁と面一になっている。互いに面一をなす下側整流板部15b,15bの上面及び開口部16の下端縁によって、下側整流面18が構成されている。下側整流面18は、搬入側壁11の幅方向に水平に延びている。
【0036】
上側整流面17と下側整流面18は、互いに平行をなし、上下(被処理物9の搬送方向(図3の左右方向)と直交する対向方向)に対向している。一対の整流面17,18の間に搬入開口13が形成されている。上側整流面17は、開口13の上縁を画成している。下側整流面18は、開口13の下縁を画成している。
【0037】
整流面17,18の被処理物9の搬送方向(図3の左右方向)に沿う長さLひいては開口13の搬送方向に沿う奥行きLは、整流面17,18の対向距離Dひいては開口13の上下の厚さDの2倍以上であり(L≧2×D)、好ましくは6倍以上(L≧6×D)である。開口13の奥行きLの上限は、整流板15の取り付け性やローラ21との干渉等を考慮して適宜設定する。開口13の奥行きLの上限は、対向距離Dの15倍程度が好ましく、10倍程度がより好ましい。
【0038】
この実施形態では、整流面17,18の対向距離Dすなわち開口13の厚さDは、例えばD=5mm程度である。したがって、開口13の奥行きLは、L=10mm以上であり、好ましくは30mm以上である。
【0039】
詳細な図示は省略するが、搬出開口14についても、搬入開口13と同様の構造になっている。すなわち、搬出側壁12に開口部16が形成され、この開口部16に整流板15が取り付けられて、上下に対向する一対の整流面17,18が形成され、これら整流面17,18の間に搬出開口14が画成されている。搬出開口14の奥行きLは、厚さDの2倍以上、好ましくは6倍以上になっている。
【0040】
上記構成の表面処理装置1によれば、搬送手段20によって被処理物9を搬入開口13から処理槽10の内部に搬入し、処理空間19に導入する。また、供給系30によって処理ガスを処理空間19に供給する。この処理ガスが、被処理物9に接触し、エッチング等の表面処理が実行される。処理後の被処理物9を搬出開口14に通して処理槽10から搬出する。複数の被処理物9をローラーコンベア20上に間隔を置いて一列に並べ、順次、処理槽10内に搬入して表面処理した後、処理槽10から搬出する。
【0041】
処理ガスの供給と併行して、排気系40によって処理槽10内のガス(処理空間19の処理済みガスを含む)を排出する。この排気によって、処理槽10の外部のガスが、搬入出開口13,14を通って処理槽10の内部に流入する。したがって、搬入出開口13,14内でのガスの流れを、外側から内側(処理槽10内)への方向に向けることができる。これにより、処理槽10内の処理ガス又は処理済みガスが搬入出開口13,14から外部に漏れ出るのを防止できる。
【0042】
しかも、搬入出開口13,14の奥行きLが厚さDの2倍以上であり(L≧2×D)、好ましくは6倍以上(L≧6×D)であるため、搬入出開口13,14から流入するガスの流れを安定化でき、流入ガスが乱流になるのを防止できる。または流入ガスの状態を層流に近付けることができる。したがって、処理槽10のガス分布を安定化できる。ひいては、処理空間19の処理ガスの流れを安定化できる。よって、表面処理の安定性を確保できる。また、処理槽10の内部が外部の影響を受けるのを防止できる。例えば、処理槽10の外部で渦流等のガスの乱れが生じた場合、その乱れが開口13,14を介して処理槽10の内部に伝播するのを防止でき、処理槽10の内部のガスが渦流等になって開口13,14から外に漏れ出るのを防止できる。ひいては、処理ガスや処理済みガスの漏洩を一層確実に防止することができる。
【0043】
排気系30によって処理槽10内から排出したガスは、フィルタ部45でフィルタリングした後、排気ポンプ41で圧縮し、分離回収器51に導入する。分離回収器51において、排出ガスを高CF濃度の回収ガスと低CF濃度の放出ガスとに分離する。回収ガスは、回収路55を経て原料ガス供給部31に送る。これにより、分離回収器51で回収された反応成分(CF)を回収路55に戻し、再利用できる。したがって、表面処理装置1のトータルのCFの使用量を低減でき、ランニングコストを抑えることができる。放出ガスは、放出路46で除害設備47へ送って除害処理した後、大気に放出する。
【0044】
排気系40の排気流量は、処理済みガスが搬入出開口13,14から漏れない程度に少量である。したがって、分離回収器51の負荷を軽減できる。また、除害設備47の負荷をも軽減できる。これにより、分離回収器51及び除害設備47を小型化できる。
【0045】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図4は、搬入出開口の変形例を示したものである。この変形例では、上下の各整流板15が、整流板部15a,15bに分割されておらず、一体の平板状になっている。上側の整流板15Aが、搬入側壁11の開口部16より上側部分の外側面に取り付けられている。上側整流板15Aの下面と開口部16の上端縁とが面一になっている。互いに面一をなす上側整流板15Aの下面及び開口部16の上端縁によって、上側整流面17が構成されている。
【0046】
下側の整流板15Bが、搬入側壁11の開口部16より下側部分の外側面に取り付けられている。下側整流板15Bの上面と開口部16の下端縁とが面一になっている。互いに面一をなす下側整流板15Bの上面及び開口部16の下端縁によって、下側整流面18が構成されている。
【0047】
図示は省略するが、搬出側壁12の整流板15についても、図4に示す搬入側壁11の整流板15と同様になっている。
搬入出開口13,14の奥行きLが、厚さDの2倍以上であり(L≧2×D)、好ましくは6倍以上(L≧6×D)である点は、第1実施形態と同じである。なお、整流板15を、壁11,12の外側面にではなく、壁11,12の内側面から処理槽10の内部に突出するように取り付けてもよい。
【0048】
図5は、搬入出開口の他の変形例を示したものである。この変形例では、搬入側壁11の開口部16が、既述の実施形態(図3、図4)より上下に大きく開けられている。上下の各整流板15は、一体の平板状になっている。上側の整流板15Aの中央部が、開口部16の上端縁に取り付けられている。上側整流板15Aの下面のみによって上側整流面17が構成されている。下側の整流板15Bの中央部が、開口部16の下端縁に取り付けられている。下側整流板15Bの上面のみによって下側整流面18が構成されている。上下の整流板15,15間に搬入開口13が画成されている。
【0049】
図示は省略するが、搬出開口14についても、図5に示す搬入開口13と同様にして画成されている。
この形態では、整流板15の被処理物9の搬送方向に沿う長さが、搬入出開口13,14の奥行きLと一致している。搬入出開口13,14の奥行きLが、厚さDの2倍以上であり(L≧2×D)、好ましくは6倍以上(L≧6×D)である点は、既述の実施形態と同じである。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、搬入開口13と搬出開口14が、1つの共通の開口で構成されていてもよい。搬送手段20が、被処理物9を上記共通の開口から処理槽10の内部に搬入して処理空間19に配置し、表面処理後、被処理物9を上記共通の開口から外部へ搬出することにしてもよい。被処理物9の処理槽10への搬入及び処理槽10からの搬出は、搬送手段20を用いる他、作業者が行なってもよい。
【0051】
上下の整流板15A,15Bの外端部どうしの位置、又は内端部どうしの位置が、被処理物9の搬送方向に揃っていなくてもよい。上下の整流板15A,15Bの何れか一方が他方より処理槽10の外側又は処理槽10の内側に突出していてもよい。その場合、両整流板15,15が対向方向に互いに重なっている部分どうしの間の空間(開口13又は14)の上記搬送方向に沿う奥行き(L)が、整流板15,15どうしの対向距離(D)の2倍以上、好ましくは6倍以上であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)や半導体ウェハの製造に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態の表面処理装置の概略構成を示す解説図である。
【図2】上記表面処理装置の処理槽を、図1のII-II線に沿う方向から矢視した側面図である。
【図3】上記処理槽の搬入開口を示し、図2のIII-III線に沿う拡大断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示し、処理槽の搬入開口の拡大断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示し、処理槽の搬入開口の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 表面処理装置
9 被処理物
10 処理槽
11 搬入側壁
12 搬出側壁
13 搬入開口
14 搬出開口
15 整流板
15a 上側整流板部
15b 下側整流板部
16 開口部
17 上側整流面
18 下側整流面
19 処理空間
20 搬送手段
30 供給系
33 供給ノズル
40 排気系
50 再利用部
51 分離回収器
D 整流面の対向距離
L 開口の奥行き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面に処理ガスを接触させ、前記表面を処理する装置において、
被処理物を搬送方向に沿って搬入し又は搬出する開口を有し、かつ内部に前記表面処理を行なう処理空間が設けられた処理槽と、
前記処理空間に処理ガスを供給する供給系と、
前記処理槽の内部からガスを排出する排気系と、
を備え、前記処理槽の前記開口が、互いに前記搬送方向と直交する対向方向に対向距離を隔てて対向する一対の整流面によって画成され、前記開口の前記搬送方向に沿う奥行きが、前記対向距離の2倍以上であることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記開口の奥行きが、前記対向距離の6倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−87079(P2010−87079A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252334(P2008−252334)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】