説明

車両およびその制御方法

【課題】何れか一対の車輪に駆動力を出力可能な動力ユニットと、他の一対の車輪のそれぞれに設けられた電動機とを備えた車両において旋回中にすべての電動機が一旦駆動不能になった後の車両の挙動を安定に保つ。
【解決手段】ハイブリッド自動車20では、旋回中にモータMG3およびMG4の双方が駆動不能であると判断されたときには、一対の後輪39c,39dにのみ駆動トルクが出力されるように前後トルク分配比Dが設定され(S340)、駆動不能になったモータMG3,MG4の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、一対の後輪39c,39dと駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4に対応する前輪39a,39bとに駆動トルクが出力されるようにトルク分配比D,dl,drが設定される(S400,S430,S450)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後何れか一対の車輪に駆動力を出力可能な動力ユニットと、他の一対の車輪のそれぞれに設けられて対応する車輪に駆動力を出力可能な電動機とを備えた車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輪ごとにモータを有して各車輪を個別独立に駆動可能な車両が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この車両では、何れかのモータが駆動不能状態になったときに、操舵角と車速とに基づいて走行状態を分類し、分類された走行状態に応じて駆動可能な各モータの目標駆動力を補正して駆動可能なモータに駆動力指令を出力している。この際、駆動可能なモータに対する駆動力指令は、左側の車輪に出力される駆動力の合計と、右側の車輪に出力される駆動力の合計との比が正常時と駆動不能時とで同一となるように設定される。
【特許文献1】特開2005−119647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のようなモータを駆動力源として備えた車両においては、振動やノイズ等の影響によりモータへの電力供給が瞬断してしまい、一時的にモータを駆動し得なくなることもある。このような瞬断により何れかのモータが駆動不能になった場合、モータはその後短時間のうちに駆動可能な状態に復帰することになる。ただし、上記特許文献1に記載の車両において、何れかのモータが一旦駆動不能になった後、駆動可能状態に復帰した場合の対応については何ら考慮されていない。また、車両の旋回中に前後何れか一対のモータが一旦駆動不能になると、車両の挙動が不安定になり、そのまま他の一対のモータのみによる走行を続けたのでは車両の挙動安定性や旋回性能を良好に確保し得なくなるおそれもある。
【0004】
そこで、本発明の車両およびその制御方法は、前後何れか一対の車輪に駆動力を出力可能な動力ユニットと、他の一対の車輪のそれぞれに設けられて対応する車輪に駆動力を出力可能な電動機とを備えた車両において旋回中にすべての電動機が一旦駆動不能になった後の車両の挙動を安定に保つことを目的の一つとする。また、本発明の車両およびその制御方法は、一旦駆動不能になった電動機が駆動可能状態に復帰したときに、車両の挙動を安定に保つことができるように各車輪に対して駆動力をより適切に分配することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明による車両は、前輪および後輪のそれぞれに駆動力を出力して走行可能な車両であって、
前記前輪および前記後輪のうちの一方である一対の第1車輪に対して駆動力を出力可能な動力ユニットと、
前記前輪および前記後輪のうちの他方である一対の第2車輪のそれぞれに設けられて対応する前記第2車輪に駆動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
前記各電動機を駆動可能であるか否かを判定する電動機駆動可否判定手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記車両の旋回中に前記電動機駆動可否判定手段により前記電動機のすべてが駆動不能であると判断されたときには、前記一対の第1車輪にのみ駆動力が出力されるように前記第1車輪と前記第2車輪とにおける駆動力分配比を設定すると共に、前記電動機駆動可否判定手段により駆動不能になった前記電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記一対の第1車輪と駆動可能状態に復帰した電動機に対応する前記第2車輪とに駆動力が出力されるように前記駆動力分配比を設定する駆動力分配比設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づく駆動力が前記設定された駆動力分配比で分配されて前記第1車輪および前記第2車輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットと前記各電動機とを制御する制御手段と、
を備えるものである。
【0007】
この車両は、前輪および後輪のうちの一方である一対の第1車輪に対して駆動力を出力可能な動力ユニットと、前輪および後輪のうちの他方である一対の第2車輪のそれぞれに設けられて対応する第2車輪に駆動力を出力可能な電動機とを備えるものである。そして、この車両では、旋回中に電動機のすべてが駆動不能であると判断されたときには、一対の第1車輪にのみ駆動力が出力されるように第1車輪と第2車輪とにおける駆動力分配比が設定されると共に、駆動不能になった電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、一対の第1車輪と駆動可能状態に復帰した電動機に対応する第2車輪とに駆動力が出力されるように駆動力分配比が設定される。そして、走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力が設定された駆動力分配比で分配されて第1車輪および第2車輪のそれぞれに出力されるように動力ユニットと各電動機とが制御される。これにより、旋回中に電動機のすべてが一旦駆動不能になっても、その後、旋回中に駆動不能になった電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したときには、駆動可能状態に復帰した電動機に対応する第2車輪にも駆動力を出力することが可能となるので、旋回中にすべての電動機が一旦駆動不能になった後の車両の挙動を安定に保つことができる。
【0008】
また、本発明による車両は、前記車両の走行状態を取得する走行状態取得手段と、前記取得された車両走行状態に基づいて目標ヨーレートを設定する目標ヨーレート設定手段と、前記車両の実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段とを更に備えてもよく、前記駆動力分配比設定手段は、前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能であると判断された後に駆動不能になった少なくとも何れかの電動機が駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記設定された目標ヨーレートと前記検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて前記駆動力分配比を設定するものであってもよい。このように、一旦駆動不能になった電動機が駆動可能状態に復帰したときには、車両のヨーレートに基づいて駆動力分配比を設定することにより、各車輪に対して駆動力をより適切に分配して車両の挙動を安定に保つことが可能となる。
【0009】
更に、前記制御手段は、前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能であると判断された後に駆動不能になった少なくとも何れかの電動機が駆動可能状態に復帰したと判断されたときに、前記設定された目標ヨーレートと前記検出された実ヨーレートとの偏差が所定値以上である場合、定格出力を発生するように駆動可能状態に復帰した電動機の少なくとも何れかを制御するものであってもよい。このように、目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が所定値以上である場合には、駆動可能状態に復帰した電動機の少なくとも何れかの定格運転を行うことにより、実ヨーレートを目標ヨーレートに速やかに近づけることが可能となり、車両の挙動安定性や旋回性能を良好に保つことができる。
【0010】
また、前記動力ユニットは、内燃機関と、前記一対の第1車輪が接続された駆動軸と前記内燃機関の出力軸とに接続されて電力と動力の入出力を伴って前記駆動軸および前記出力軸に動力を入出力可能な電力動力入出力手段と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機とを含むものであってもよい。更に、前記動力ユニットは、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸と前記一対の第1車輪が接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する変速手段とを含むものであってよい。
【0011】
更に、前記一対の第2車輪は、前記複数の車輪に含まれる操舵輪としての前輪であってもよく、前記複数の車輪に含まれる後輪であってもよい。
【0012】
本発明による車両の制御方法は、前輪および後輪のうちの一方である一対の第1車輪に対して駆動力を出力可能な動力ユニットと、前記前輪および前記後輪のうちの他方である一対の第2車輪のそれぞれに設けられて対応する前記第2車輪に駆動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段とを備えた車両の制御方法であって、
(a)前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能になったときに、前記一対の第1車輪にのみ駆動力が出力されるように前記第1車輪と前記第2車輪とにおける駆動力分配比を設定すると共に、駆動不能になった前記電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記一対の第1車輪と駆動可能状態に復帰した電動機に対応する前記第2車輪とに駆動力が出力されるように前記駆動力分配比を設定するステップと、
(b)走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力がステップ(a)で設定された前記駆動力分配比で分配されて前記第1車輪および前記第2車輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットと前記各電動機とを制御するステップと、
を含むものである。
【0013】
この方法によれば、旋回中に電動機のすべてが一旦駆動不能になっても、その後、旋回中に駆動不能になった電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したときには、駆動可能状態に復帰した電動機に対応する第2車輪にも駆動力を出力することが可能となるので、旋回中にすべての電動機が一旦駆動不能になった後の車両の挙動を安定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車の概略構成図である。本実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、動力分配統合機構30に接続されると共にギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して左右一対の後輪39c,39dに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに減速ギヤ35を介して接続されたモータMG2と、左右一対の前輪39aおよび39bそれぞれのホイール内に配置されて対応する前輪39aまたは39bに駆動力を出力するモータMG3およびMG4と、左右一対の前輪39aおよび39bを操舵するための操舵装置55と、前輪39a,39bや後輪39c,39dに制動トルクを付与するためのマスタシリンダ61や、ブレーキアクチュエータ62、ホイールシリンダ66a〜66d等を含む電子制御式油圧ブレーキユニット(ECB)60と、ハイブリッド自動車20の全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、動力分配統合機構30は、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の後輪39c,39dに出力される。
【0018】
モータMG1およびモータMG2は、何れも発電機として作動することができると共に電動機として作動可能な周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。また、前輪側のモータMG3およびMG4は、同期発電電動機や減速機、ハブベアリング等を一体化したいわゆるインホイールモータとして構成された互いに同一のものであり、インバータ43,44を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。すなわち、前輪側のモータMG3およびMG4は、一対の前輪39a,39bに対して駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットとして機能する。インバータ41〜44とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41〜44が共用する正極母線および負極母線として構成されており、これにより、モータMG1〜MG4の何れかで発電される電力を他のモータで消費することができる。従って、バッテリ50は、モータMG1〜MG4の何れかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになり、モータMG1〜MG4との間で電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されないことになる。モータMG1〜MG4は、何れもモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40により駆動制御される。モータECU40には、モータMG1〜MG4を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1〜MG4の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ45,46,47および48からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1〜MG4に印加される相電流等が入力されており、モータECU40からは、インバータ41〜44へのスイッチング制御信号が出力される。モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号によってモータMG1〜MG4を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1〜MG4の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tb等が入力されており、バッテリECU52は、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU70やエンジンECU24に出力する。なお、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCをも算出する。
【0020】
また、操舵装置55は、運転者によって操作される操舵ハンドル56や、運転者による操舵ハンドルの操作量としての操舵角θを検出する操舵角センサ56a、ステアリングシャフトを介して操舵ハンドル56に連結された例えばラックアンドピニオン式の操舵ギヤボックス57、伝達比可変機能やパワーアシスト機能をもった操舵アクチュエータ58等を含む。このような操舵装置55は、操舵用電子制御ユニット(以下「操舵ECU」という)59によって制御され、かかる操舵ECU59も、ハイブリッドECU70と通信している。操舵ECU59は、操舵角センサ56aにより検出される操舵角θやハイブリッドECU70からの制御信号に基づいて操舵アクチュエータ58を制御すると共に、必要に応じて操舵装置55の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0021】
更に、電子制御式油圧ブレーキユニット60のブレーキアクチュエータ62は、マスタシリンダ圧センサ61aにより検出されるマスタシリンダ61の圧力(マスタシリンダ圧)と車速Vとに基づいて、ハイブリッド自動車20に作用させるべき制動力のうちの当該ブレーキユニット60の分担割合に応じた制動トルクが前輪39a,39bや後輪39c,39dに作用するようにホイールシリンダ66a〜66dへの油圧を調整するものである。本実施例のブレーキアクチュエータ62は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)64により制御され、ブレーキECU64の制御のもと、運転者によるブレーキペダル85の踏み込み操作とは無関係に、前輪39a,39bや後輪39c,39dに制動トルクが作用するようホイールシリンダ66a〜66dの油圧を調整可能なものである。ブレーキECU64は、図示しない信号ラインを介して、各車輪39a〜39dに設けられた図示しない車輪速センサからの車輪速や、操舵角センサ56aからの操舵角を示す信号等を入力し、これらの信号に基づいて、運転者がブレーキペダル85を踏み込んだときに前輪39a,39bや後輪39c,39dの何れかがロックしてスリップするのを防止するアンチスキッド制御(ABS)や、運転者がアクセルペダル83を踏み込んだときに前輪39a,39bや後輪39c,39dの何れかが空転してスリップするのを防止するトラクションコントロール(TRC)、主としてハイブリッド自動車20の旋回走行時に車両全体の旋回方向の安定性を確保する車両安定化制御(VSC)等を実行する。ブレーキECU64も、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に基づいてブレーキアクチュエータ62を制御すると共に、必要に応じてブレーキアクチュエータ62等の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0022】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、計時指令に応じて計時処理を実行するタイマ78と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置であるシフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速V、車両重心周りの回転角速度であるヨーレートを検出するヨーレートセンサ90からの実ヨーレートYr等が入力ポートを介して入力される。ハイブリッドECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52、操舵ECU59、ブレーキECU64と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
上述のように構成された第1の実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両全体に要求される要求トルクT*が計算され、この要求トルクT*に対応する動力が後輪39cおよび39dに接続されたリングギヤ軸32aと、前輪39aおよび39bとに出力されるようにエンジン22とモータMG1〜MG4とが運転制御され、ハイブリッド自動車20は、基本的にいわゆるフルタイム4輪駆動車両として動作する。そして、エンジン22やモータMG1〜MG4の運転制御モードとしては、要求された動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2〜MG4とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aや前輪39aおよび39bに出力されるようにモータMG1〜MG4を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2〜MG4とによるトルク変換を伴って要求動力が出力されるようにモータMG1〜MG4を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2〜モータMG4から要求動力に見合う動力が出力されるように運転制御するモータ運転モード等がある。
【0024】
次に、本実施例のハイブリッド自動車20の旋回中の動作について説明する。図2は、本実施例のハイブリッド自動車20の旋回中にハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される旋回時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、ハイブリッド自動車20の旋回中に所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0025】
図2の旋回時駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V、モータMG1,MG2,MG3およびMG4の回転数Nm1,Nm2,Nm3,Nm4、バッテリ50が充放電すべき充放電要求パワーPb*、バッテリ50から放電が許容されている電力の値である出力制限Wout、操舵角θ、目標ヨーレートYr*、ヨーレートセンサ90からの実ヨーレートYr、モータ駆動状態フラグFmの値といった制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、回転数Nm1〜Nm4は、回転位置検出センサ45〜48からのモータMG1〜MG4の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。更に、充放電要求パワーPb*は、残容量SOCに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力し、バッテリ50の出力制限Woutは、図示しない温度センサにより検出されたバッテリ50の電池温度と残容量SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。操舵角θは、操舵ECU59から通信により入力するものとしたが、操舵角センサ56aから直接入力してもよい。また、目標ヨーレートYr*は、ハイブリッドECU70により別途実行される目標ヨーレート設定ルーチン(図示省略)により操舵角θと車速V等とに基づいて設定されるものを入力するものとした。
【0026】
そして、モータ駆動状態フラグFmは、モータECU40により実行されるモータ駆動状態判定ルーチン(図示省略)により前輪39a,39cに対して設けられたモータMG3,MG4の駆動状態に応じた値に設定されるものをモータECU40から通信により入力するものとした。このモータ駆動状態判定ルーチンは、モータMG3,MG4やこれらに対応するインバータ43,44に発生した何らかの異常や、振動やノイズの重畳等に起因して一時的にバッテリ50からモータMG3,MG4への給電が断たれてしまう瞬断等によりモータMG3,MG4がトルクを出力し得ない駆動不能状態になっているか否かを判定するためのものである。このルーチンにおいては、例えばモータMG3,MG4やインバータ43,44を流れる電流とトルク指令との対応状態や、モータMG3,MG4やインバータ43,44の実温度と許容限界温度との関係に基づいてモータMG3およびMG4の駆動状態が判断される。そして、モータ駆動状態判定ルーチンが実行され、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあれば、モータ駆動状態フラグFmが値0に設定され、モータMG3のみが駆動可能状態にあれば、モータ駆動状態フラグFmが値1に設定され、モータMG4のみが駆動可能状態にあれば、モータ駆動状態フラグFmが値2に設定され、モータMG3およびMG4の双方が駆動不能状態にあれば、モータ駆動状態フラグFmが値3に設定される。なお、モータECU40は、モータ駆動状態判定ルーチンによりモータMG3およびMG4の少なくとも何れかが駆動不能状態にあると判断すると、駆動不能状態にあるモータMG3,MG4に対応するインバータ43,44をシャットダウンし(すべてのスイッチング素子をオフ状態にし)、瞬断により駆動不能状態になったモータMG3,MG4が駆動可能状態に復帰した場合には、対応するインバータ43,44のシャットダウンを解除する。
【0027】
ステップS100のデータ入力処理の後、入力したアクセル開度Accおよび車速Vに基づいてハイブリッド自動車20に要求されている要求トルクT*および要求パワーP*を設定する(ステップS110)。本実施例では、アクセル開度Accおよび車速Vと要求トルクT*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accおよび車速Vが与えられると当該マップからこれらに対応する要求トルクT*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。また、本実施例では、設定した要求トルクT*に車速Vを乗じたものとバッテリ50が充放電すべき充放電要求パワーPb*とロスLossとの和として要求パワーP*を設定するものとした。なお、ここでは、充放電要求パワーPb*は、放電要求を負の値とし充電要求を正の値とする。そして、ステップS110で設定した要求パワーP*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS120)。本実施例では、エンジン22を効率よく動作させる動作ラインと要求パワーPe*とに基づいてエンジン22の目標運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定するものとした。図4に、エンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する。同図に示すように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定となること示す相関曲線との交点から求めることができる。
【0028】
続いて、要求トルクT*を前輪39a,39b側と後輪39c,39d側とに分配するためにトルク分配比設定ルーチン(ステップS130)を実行し、前後トルク分配比Dと左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drとを設定する。前後トルク分配比Dは、要求トルクT*に対する後輪39c,39d側に出力すべきトルクの割合としてハイブリッド自動車20の走行状態に基づいて値1〜値0の範囲で設定され得るものである。また、左前輪トルク分配比dlは、前輪39a,39bに出力するトルクの目標値Tf*(=(1−D)・Tr*)に対する左側の前輪39aに出力すべきトルクの割合を示すものであり、右前輪トルク分配比drは、前輪39a,39bに出力するトルクの目標値Tf*に対する右側の前輪39bに出力すべきトルクの割合を示すものであり、基本的には、dr=1−dlとなる。ここで、旋回時駆動制御ルーチンの説明を一旦中断し、図5および図6に示すトルク分配比設定ルーチンについて説明する。
【0029】
図5に示すように、トルク分配比設定ルーチンの開始に際して、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、ステップS100で入力したモータ駆動状態フラグFmの値に基づいてモータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあるか否かを判定し(ステップS300)、モータ駆動状態フラグFmが値0ではなく、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にはない場合には、モータMG3およびMG4の双方が駆動不能状態にあるか否かを判定する(ステップS310)。何らかの異常や瞬断等によりモータMG3およびMG4の双方が駆動不能状態にあり、モータ駆動状態フラグFmが値3に設定されている場合には、前輪39a,39bおよび後輪39c,39dのすべて駆動する4輪駆動を続行し得ないことから、この場合、モータMG3およびMG4の双方が駆動不能になっている場合以外に値0に設定されるフェイルフラグFfを値1に設定すると共に(ステップS320)、ハイブリッド自動車20のインストルメンツパネルに設けられている図示しない4WD警告表示灯を点灯させた上で(ステップS330)、前後トルク分配比Dを値1に設定する(ステップS340)。なお、前後トルク配分比Dが値1に設定されると、後輪39c,39dにのみトルクが出力され、前輪39a,39bにはトルクが出力されないことから、トルク分配比dl,drの値を設定する必要はないが、演算処理の関係上、ステップS340では、トルク分配比dl,drがそれぞれ所定の値に設定されるものとする。
【0030】
また、ステップS300にて、モータ駆動状態フラグFmの値が0であり、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあると判断された場合には、フェイルフラグFfが値1であるか否かを判定する(ステップS350)。すなわち、本ルーチンの前回実行時にモータMG3およびMG4の双方が駆動不能状態にあっても、それが瞬断に起因するものであれば、本ルーチンの今回実行時にモータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態に復帰していることもある。このため、ステップS350にてフェイルフラグFfが値1であると判断された場合には、フェイルフラグFfを値0に設定すると共に後述するモータMG3,MG4の定格運転の時間を設定すべくタイマ78をONし、更にステップS330で点灯された4WD警告表示灯を消灯する(ステップS360)。こうしてタイマ78がONされると、タイマ78は、実質的にモータMG3,MG4が駆動可能状態に復帰してからの経過時間を計時することになる。なお、フェイルフラグFfが値0であり、モータMG3,MG4が継続して駆動可能状態にある場合には、ステップS360の処理はスキップされる。
【0031】
ステップS350またはS360の処理の後、ステップS100で入力した目標ヨーレートYr*から実ヨーレートYrを減じることにより目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrを計算した上で(ステップS370)、偏差dYrの絶対値|dYr|が予め定められた第1の閾値dYref1(正の値)未満であるか否かを判定する(ステップS380)。第1の閾値dYref1は、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いを判定するためのものであり、本実施例では、例えば1deg/secとされる。偏差dYrの絶対値|dYr|が第1の閾値dYref1未満であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが十分に小さいと判断される場合には、後述のモータMG3,MG4の定格運転を実行する場合に値1とされる定格運転フラグFを値0とすると共に、タイマ78をOFFした上で(ステップS390)、前後トルク分配比Dを通常走行時の値D0(例えば、0.55)に設定すると共に、上記偏差dYrとステップS100で入力した操舵角θおよび車速Vとに基づいて左側の前輪39aについての左前輪トルク分配比dlを設定すると共に、設定した左前輪トルク分配比dlを値1から減じて右前輪トルク分配比drを設定する(ステップS400)。本実施例では、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが小さい場合すなわち通常旋回時における左前輪トルク分配比dlの設定に関し、偏差dYr、操舵角θおよび車速Vと左前輪トルク分配比dlとの関係を実験、解析により予め定めて通常旋回時用の左前輪トルク分配比設定用マップとしてROM74に記憶しておき、偏差dYr、操舵角θおよび車速Vが与えられると当該マップからこれらに対応する左前輪トルク分配比dlを導出して設定するものとした。かかる通常旋回時用の左前輪トルク分配比設定用マップは、ハイブリッド自動車20の旋回時の旋回方向における安定性のみならず、車両前後方向における安定性すなわち前後Gの変動抑制をも考慮して作成される。
【0032】
一方、ステップS380にて偏差dYrの絶対値|dYr|が予め定められた第1の閾値dYref1以上であると判断された場合には、更に偏差dYrの絶対値|dYr|が予め定められた第2の閾値dYref2(正の値であり、dYref2>dYref1)未満であるか否かを判定する(ステップS410)。第2の閾値dYref2も、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いを判定するためのものであり、本実施例では、例えば4deg/secとされる。偏差dYrの絶対値|dYr|が第2の閾値dYref2未満であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いがさほど大きくはないが十分に小さくはない中程度のものであると判断される場合には、上述の定格運転フラグFを値0とすると共にタイマ78をOFFした上で(ステップS420)、前後トルク分配比Dを通常走行時の値D0(例えば、0.55)に設定すると共に、上記偏差dYr、操舵角θおよび車速Vとに基づいて左側の前輪39aについての左前輪トルク分配比dlを設定すると共に、設定した左前輪トルク分配比dlを値1から減じて右前輪トルク分配比drを設定する(ステップS430)。本実施例では、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合の左前輪トルク分配比dlの設定に関し、上述の通常旋回時用の左前輪トルク分配比設定用マップに比べて車両前後方向における安定性(前後Gの変動抑制)よりも旋回時の旋回方向における安定性を重視した傾向の左前輪トルク分配比設定用マップが用意されている。すなわち、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合には、ステップS430にて旋回時の旋回方向における安定性を優先して左右の前輪39a,39bにおけるトルクの分配比が設定されるのである。
【0033】
そして、ステップS410にて偏差dYrの絶対値|dYr|が第2の閾値dYref2以上であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きいと判断された場合には、タイマ78による計時値tを読み込み、計時値tが所定時間tref以下であるか否かを判定する(ステップS440)。本実施例では、閾値としての時間trefは例えば1〜2秒程度に定められる。そして、計時値tが所定時間tref以下であれば、上述の定格運転フラグFを値1に設定すると共に、前後トルク分配比Dを予め定められたモータMG3およびMG4の定格運転を実行する際の値Dxに設定し、更に、左右の前輪39a,39bに出力すべきトルクの目標値を定める際に用いられる係数kl,krを設定する(ステップS450)。本実施例において、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きい場合には、実ヨーレートYrを速やかに目標ヨーレートYr*に近づけるべく、上記偏差dYrに基づいて定まる前輪39a,39bのうちの一方に設けられたモータMG3またはMG4に負の定格トルク(制動トルク)を出力する回生を行わせると共に他方に設けられたモータMG3またはMG4を定格出力で力行させる。このため、左側の前輪39aのモータMG3に関する係数klと右側の前輪39aのモータMG4に関する係数krとは、偏差dYrの符号に応じて一方が値1に他方が値−1に設定される。ただし、このような定格運転はごく短時間に限られるものであるから、ステップS440にてタイマ78の計時値が所定時間trefを超えたと判断されたときには、ステップS420にて定格運転フラグFを値0とすると共にタイマ78をOFFした上で、ステップS430における処理を実行する。
【0034】
ここまでモータMG3およびMG4の双方が駆動可能または駆動不能状態にある場合の前後トルク分配比Dと左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drと設定に関して説明したが、モータ駆動状態フラグFmが値1または値2であって、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能である場合には、ステップS300およびS310において否定判断がなされ、その後、図6に示すように、フェイルフラグFfが値1であるか否かが判断される(ステップS460)。この場合、本ルーチンの前回実行時にモータMG3およびMG4の双方が駆動不能状態にあっても、その何れかが瞬断に起因するものであれば、本ルーチンの今回実行時にモータMG3およびMG4の何れか一方が駆動可能状態に復帰していることもある。このため、ステップS460にてフェイルフラグFfが値1であると判断された場合には、フェイルフラグFfを値0に設定すると共にモータMG3およびMG4の何れか一方の定格運転の時間を設定すべくタイマ78をONする(ステップS470)。こうしてタイマ78がONされると、タイマ78は、実質的にモータMG3およびMG4の何れか一方が駆動可能状態に復帰してからの経過時間を計時することになる。なお、フェイルフラグFfが値0であり、モータMG3およびMG4の何れか一方が継続して駆動不能状態にある場合には、ステップS470の処理はスキップされる。
【0035】
ステップS460またはS470の処理の後、ステップS100で入力した目標ヨーレートYr*から実ヨーレートYrを減じることにより目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrを計算した上で(ステップS480)、偏差dYrの絶対値|dYr|が上述の第1の閾値dYref1未満であるか否かを判定する(ステップS490)。そして、偏差dYrの絶対値|dYr|が第1の閾値dYref1未満であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが十分に小さいと判断される場合には、定格運転フラグFを値0とすると共にタイマ78をOFFした上で(ステップS500)、上記偏差dYrとステップS100で入力した操舵角θ、車速Vおよびモータ駆動状態フラグFmの値とに基づいて前後トルク分配比Dを設定すると共に、左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drとを駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応するものついて値1または値−1に、駆動不能状態にあるモータMG3またはMG4に対応するものについて値0に設定する(ステップS510)。本実施例では、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが小さい場合のために、上記偏差dYr、操舵角θ、車速Vおよびモータ駆動状態フラグFmと前後トルク分配比Dとの関係を実験、解析により予め定めて3輪駆動旋回時用の前後トルク分配比設定用マップとしてROM74に記憶しておき、偏差dYr、操舵角θ、車速Vおよびモータ駆動状態フラグFmの値が与えられると当該マップからこれらに対応する前後トルク分配比Dを導出して設定するものとした。かかる3輪駆動旋回時用の前後トルク分配比設定用マップは、ハイブリッド自動車20の旋回時の旋回方向における安定性のみならず、車両前後方向における安定性すなわち前後Gの変動抑制をも考慮して作成される。なお、S510における前後トルク分配比Dの設定に際してモータ駆動状態フラグFmは、駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4が内輪と外輪との何れであるかを判別するために参照される。そして、左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drとは、駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応しており、かつ外輪である場合に値1に設定され、駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応しており、かつ内輪である場合に回生を行うように値−1に設定される。
【0036】
一方、ステップS490にて偏差dYrの絶対値|dYr|が第1の閾値dYref1以上であると判断された場合には、更に偏差dYrの絶対値|dYr|が第2の閾値dYref2未満であるか否かを判定する(ステップS520)。偏差dYrの絶対値|dYr|が第2の閾値dYref2未満であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いがさほど大きくはないが十分に小さくはない中程度のものであると判断される場合には、定格運転フラグFを値0とすると共にタイマ78をOFFした上で(ステップS530)、上記偏差dYr、操舵角θ、車速Vおよびモータ駆動状態フラグFmの値とに基づいて前後トルク分配比Dを設定すると共に、左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drとを駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応するものついて値1または値−1に、駆動不能状態にあるモータMG3またはMG4に対応するものについて値0に設定する(ステップS540)。本実施例では、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合、ステップS510にて用いられる3輪駆動旋回時用の前後トルク分配比設定用マップに比べて車両前後方向における安定性(前後Gの変動抑制)よりも旋回時の旋回方向における安定性を重視した傾向の前後トルク分配比設定用マップが用意されている。すなわち、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合には、ステップS540にて旋回時の旋回方向における安定性を優先して一方の前輪39aまたは39bと左右の後輪39c,39dにおけるトルクの分配比が設定されるのである。なお、左前輪トルク分配比dlと右前輪トルク分配比drとの設定は、ステップS510と同様に行われる。
【0037】
そして、ステップS520にて偏差dYrの絶対値|dYr|が第2の閾値dYref2以上であり、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きいと判断された場合には、タイマ78による計時値tを読み込み、計時値tが所定時間tref以下であるか否かを判定する(ステップS550)。そして、計時値tが所定時間tref以下であれば、上述の定格運転フラグFを値1に設定すると共に、前後トルク分配比DをモータMG3およびMG4の何れか一方の定格運転を実行する際の予め定められた値Dx′に設定し、更に、左右の前輪39a,39bに出力すべきトルクの目標値を定める際に用いられる係数kl,krを設定する(ステップS560)。本実施例において、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きい場合には、実ヨーレートYrを速やかに目標ヨーレートYr*に近づけるべく、目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrの値に応じて、駆動可能状態にある一方のモータMG3またはMG4に負の定格トルク(制動トルク)を出力する回生を行わせるか、あるいは、それを定格で力行させる。このため、左側の前輪39aのモータMG3に関する係数klと右側の前輪39aのモータMG4に関する係数krとは、駆動不能状態にあるモータMG3またはMG4に対応していれば値0に設定され、駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応していれば偏差dYrの符号に応じて値1または値−1に設定される。ただし、このような定格運転もごく短時間に限られるものであるから、ステップS550にてタイマ78の計時値が所定時間trefを超えたと判断されたときには、ステップS530にて定格運転フラグFを値0とすると共にタイマ78をOFFした上で、ステップS530における処理を実行する。
【0038】
さて、再度図2に戻って、旋回時駆動制御ルーチンについて説明する。上述のトルク分配比設定ルーチン(ステップS130)が完了したならば、当該トルク分配比設定ルーチンにより設定された前後トルク分配比Dを要求トルクT*に乗じて後輪39c,39d側に出力すべき後輪側トルクTr*を設定すると共に、値1から前後トルク分配比Dを減じたものを要求トルクT*に乗じて前輪39a,39b側に出力すべき前輪側トルクTf*を設定する(ステップS140)。ここで、モータMG3およびMG4の双方が駆動不能になっており、トルク分配比設定ルーチンのステップS340にて前後トルク分配比Dが値1に設定されていれば、要求トルクT*のすべてが後輪39c,39dに出力されてハイブリッド自動車20が後輪駆動により走行するように後輪側トルクTr*が設定されることになる。
【0039】
続いて、トルク分配比設定ルーチンにより値0または1に設定される定格運転フラグFが値0であるか否かを判定し(ステップS150)、定格運転フラグFが値0であれば、前輪側トルクTf*とトルク分配比設定ルーチンにより設定された左前輪トルク分配比dlとの積値を換算係数Gfで除することにより左側の前輪39aに設けられたモータMG3に対するトルク指令Tm3*を設定すると共に、前輪側トルクTf*とトルク分配比設定ルーチンにより設定された右前輪トルク分配比drとの積値を換算係数Gfで除することにより右側の前輪39bに設けられたモータMG4に対するトルク指令Tm4*を設定する(ステップS160)。換算係数Gfは、前輪39a,39bに作用するトルクをモータMG3,MG4に作用するトルクに換算するための係数である。ここで、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり(駆動可能状態が継続している場合と駆動可能状態に復帰した場合との双方を含む)、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが小さい場合には、トルク分配比設定ルーチンにより旋回時の旋回方向における安定性と車両前後方向における安定性との双方を考慮して設定されたトルク分配比dl,dr(ステップS400)に基づいて左右のモータMG3,MG4に対するトルク指令Tm3*、Tm4*が設定されることになる。また、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合には、トルク分配比設定ルーチンにより旋回時の旋回方向における安定性を優先して設定されたトルク分配比dl,dr(ステップS430)に基づいて左右のモータMG3,MG4に対するトルク指令Tm3*、Tm4*が設定されることになる。更に、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが小さい場合には、トルク分配比設定ルーチンにより旋回時の旋回方向における安定性と車両前後方向における安定性との双方を考慮して設定された前後トルク分配比D(ステップS510)に基づく前輪側トルクTf*が駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応した前輪39aまたは39bに出力されるようにトルク指令Tm3*およびTm4*の何れか一方が設定され、他方が値0に設定されることになる。また、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが中程度である場合には、トルク分配比設定ルーチンにより旋回時の旋回方向における安定性を優先して設定された前後トルク分配比D(ステップS540)に基づく前輪側トルクTf*が駆動可能状態にあるモータMG3またはMG4に対応した前輪39aまたは39bに出力されるようにトルク指令Tm3*およびTm4*の何れか一方が設定され、他方が値0に設定されることになる。
【0040】
こうしてトルク指令Tm3*およびTm4*を設定したならば、ステップS120にて設定したエンジン22の目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(=Nm2/Ga、ただし、「Ga」は減速ギヤ35のギヤ比である)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいて次式(1)に従った計算によりモータMG1の目標回転数Nm1*を設定すると共に、設定した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて次式(2)に従った計算を行ってモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS170)。図7に動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクの力学的な関係を示す共線図を例示する。図中、左のS軸はサンギヤ31の回転数を示し、C軸はキャリア34の回転数を示し、R軸はリングギヤ32(リングギヤ軸32a)の回転数Nrを示す。サンギヤ31の回転数はモータMG1の回転数Nmでもあり、キャリア34の回転数はエンジン22の回転数Neでもあるから、モータMG1の目標回転数Nm1*はリングギヤ軸32aの回転数Nrとエンジン22の目標回転数Ne*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいて式(1)から計算することができる。従って、モータMG1が目標回転数Nm1*で回転するようトルク指令Tm1*を設定してモータMG1を駆動制御すれば、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させることができる。また、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「KP」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「KI」は積分項のゲインである。なお、図7におけるR軸上の2本の上向き太線矢印は、エンジン22を回転数NeおよびトルクTeの運転ポイントで定常運転したときにエンジン22から出力されるトルクTeがリングギヤ軸32aに伝達されるトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2がリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。
【0041】
Nm1*=(Ne*・(1+ρ)−Nm2/Ga)/ρ …(1)
Tm1*=前回Tm1*+KP・(Nm1*-Nm1)+KI∫(Nm1*−Nm1)dt …(2)
【0042】
モータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを設定したならば、バッテリ50の出力制限Woutから、モータMG1,MG3,MG4のトルク指令Tm1*,Tm3*,Tm4*と現在の回転数Nm1,Nm3,Nm4とに基づくモータMG1,MG3,MG4の消費電力(発電電力)を減じたものをモータMG2の回転数Nm2で除することによりモータMG2から出力してもよいトルクの上限としてのトルク制限Tmaxを次式(3)に従い計算する(ステップS180)。更に、次式(4)に従い、後輪側トルクTr*を換算係数Gr(リングギヤ軸32aの回転数/後輪39c,39dの軸の回転数)で除したものよりエンジン22からリングギヤ軸32aに直接伝達されるトルク(−Tm1*/ρ)を減じ、これを減速ギヤ35のギヤ比Gaで除することによりモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算する(ステップS190)。そして、モータMG2のトルク指令Tm2*を先に計算したトルク制限Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する(ステップS200)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、バイブリッド自動車20に要求される要求トルクT*をバッテリ50の出力制限Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。なお、式(4)も、図7の共線図から容易に導き出すことができる。
【0043】
Tmax=(Wout−Tm1*・Nm1−Tm3*・Nm3−Tm4*・Nm4)/Nm2 …(3)
Tm2tmp=(Tr*/Gf+Tm1*/ρ)/Ga …(4)
【0044】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2,MG3,MG4のトルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*,Tm4*を設定したならば、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とをエンジンECU24に、モータMG1,MG2,MG3、MG4のトルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*、Tm4*をモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS210)、本ルーチンを一旦終了させる。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とにより規定される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射量や点火時期等を制御する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*,Tm3*、Tm4*を受信したモータECU40は、モータMG1〜MG4がトルク指令Tm1*〜Tm4*で駆動されるようにインバータ41,42,43,44のスイッチング素子のスイッチング制御を実行する。なお、上述したように、モータMG3およびMG4の少なくとも何れかが駆動不能状態にある場合には、駆動不能状態にあるモータMG3,MG4に対応したインバータ43,44はシャットダウンされる。
【0045】
一方、ステップS150にて定格運転フラグFが値1であると判断された場合には、トルク分配比設定ルーチンにより設定された係数klと予め定められているモータMG3の定格トルクTlimとの積値をモータMG3に対するトルク指令Tm3*として設定すると共に、トルク分配比設定ルーチンにより設定された係数krと予め定められているモータMG4の定格トルクTlimとの積値をモータMG4に対するトルク指令Tm4*として設定した上で(ステップS220)、上述したステップS170〜S210の処理を実行する。すなわち、モータMG3およびMG4の双方が駆動可能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きい場合には、実ヨーレートYrを速やかに目標ヨーレートYr*に近づけるべく、目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrに基づいて定まる前輪39a,39bのうちの一方に設けられたモータMG3またはMG4に負の定格トルク(制動トルク)を出力する回生を行わせると共に他方に設けられたモータMG3またはMG4を定格出力で力行させるようにトルク指令Tm3*およびTm4*とが設定されることになる。また、モータMG3およびMG4の何れかが駆動不能状態にあり、かつ実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いが大きい場合には、実ヨーレートYrを速やかに目標ヨーレートYr*に近づけるべく、偏差dYrの値に応じて、駆動可能状態にある一方のモータMG3またはMG4に負の定格トルク(制動トルク)を出力する回生を行わせるか、あるいは、それを定格で力行させるようにトルク指令Tm3*およびTm4*とが設定されることになる。
【0046】
以上説明したように、本実施例のハイブリッド自動車20では、ステップS310にて旋回中にモータMG3およびMG4の双方が駆動不能であると判断されたときには、一対の後輪39c,39dにのみ駆動トルクが出力されるように前後トルク分配比Dが設定され(ステップS340)、ステップS300あるいはS310にて駆動不能になったモータMG3,MG4の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、一対の後輪39c,39dと駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4に対応する前輪39a,39bとに駆動トルク(制動トルクをも含む)が出力されるように前後トルク分配比Dや左前輪トルク分配比dl、右前輪トルク分配比drが設定される(ステップS400,S430,S450,S510,S540,S560)。そして、要求トルクT*に基づく駆動トルクが設定された前後トルク分配比Dや左前輪トルク分配比dl、右前輪トルク分配比drで分配されて前輪39a,39bおよび後輪39c,39dのそれぞれに出力されるようにエンジン22とモータMG1〜MG4とが制御されるのである。これにより、旋回中にモータMG3およびMG4が一旦駆動不能になっても、その後、旋回中に駆動不能になったモータMG3およびMG4の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したときには、駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4に対応する前輪39a,39bにも駆動トルクを出力することができるので、旋回中にモータMG3およびMG4が一旦駆動不能になった後のハイブリッド自動車20の挙動を安定に保つことが可能となる。
【0047】
また、一旦駆動不能になったモータMG3,MG4が駆動可能状態に復帰したときには、ハイブリッド自動車20のヨーレートすなわち目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrに基づいて前後トルク分配比Dや左前輪トルク分配比dl、右前輪トルク分配比drを設定することにより(ステップS400,S430,S510,S540)、前輪39a,39bや後輪39c,39dに対して駆動トルクをより適切に分配してハイブリッド自動車20の挙動を極めて安定に保つことが可能となる。そして、実ヨーレートYrの目標ヨーレートYr*からの乖離度合いがさほど大きくはないが十分に小さくはない中程度のものであると判断される場合には、本実施例のように旋回時の旋回方向における安定性を優先すれば(ステップS430,S540)、実ヨーレートYrを目標ヨーレートYr*に速やかに近づけることが可能となる。更に、目標ヨーレートYr*と実ヨーレートYrとの偏差dYrが第2の閾値dYref2以上である場合には、駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4の少なくとも何れかの定格運転を行うことにより、実ヨーレートYrを目標ヨーレートYr*に速やかに近づけることが可能となり、ハイブリッド自動車20の挙動安定性や旋回性能を良好に保つことができる。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bについて説明する。なお、第2の実施例のハイブリッド自動車20Bを構成する要素のうち、第1の実施例のハイブリッド自動車20と共通する要素については、重複した説明を回避するために第1実施例と同一の符号を用いるものとし、詳細な説明を省略する。図8は、第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。本実施例のハイブリッド自動車20Bは、後輪39c,39dを駆動するための動力ユニットとして、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26と一対の後輪39c,39dが接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する無段変速機としてのCVT140とを含むものである。この場合、エンジン22からの動力は、トルクコンバータ130や前後進切換機構135、CVT140、ギヤ機構37、デファレンシャルギヤ38を介して後輪39c,39dに出力される。
【0049】
CVT140は、インプットシャフト141に接続された溝幅を変更可能なプライマリプーリ143と、同様に溝幅を変更可能であって駆動軸としてのアウトプットシャフト142に接続されたセカンダリプーリ144と、プライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝に巻き掛けられたベルト145とを有する。そして、CVT用電子制御ユニット(以下「CVTECU」という)146により駆動制御される油圧回路147からの作動油によりプライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝幅を変更することにより、インプットシャフト141に入力した動力を無段階に変速してアウトプットシャフト142に出力することが可能となる。CVTECU146には、インプットシャフト141の回転数Ninやアウトプットシャフト142の回転数Nout等が入力され、CVTECU146は、これらの情報に基づいて油圧回路147への駆動信号を生成、出力する。また、CVTECU146は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号に従ってCVT140の変速比を制御すると共に必要に応じてCVT140に関連するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0050】
トルクコンバータ130は、周知の流体式トルクコンバータとして構成されており、油圧回路147からの作動油を動力源として作動するロックアップクラッチを有している。また、前後進切換機構135は、ダブルピニオンの遊星歯車機構と図示しないブレーキB1とクラッチC1とを含む。前後進切換機構135のブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオンすることにより、トルクコンバータ130の出力軸の回転をそのままCVT140のインプットシャフト141に伝達してハイブリッド自動車20Bを前進させることができる。また、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1をオフすることにより、トルクコンバータ130の出力軸の回転を逆方向に変換してCVT140のインプットシャフト141に伝達し、ハイブリッド自動車20Bを後進させることができる。更に、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ130の出力軸とCVT140のインプットシャフト141とを切り離すこともできる。
【0051】
また、インホイールモータとして構成されたモータMG3およびMG4は、インバータ43または44を介してエンジン22により駆動されるオルタネータ128や当該オルタネータ128への電力ラインに出力端子が接続されている高圧バッテリ(例えば定格42Vの二次電池)50aに接続され、オルタネータ128や高圧バッテリ50aからの電力により駆動される。また、モータMG3およびMG4の回生制御により発電した電力は、高圧バッテリ50aに蓄えられる。そして、本実施例のハイブリッド自動車20Bは、油圧回路147に含まれるモータや各種補機の電源として、低圧バッテリ50bを有している。低圧バッテリ50bは、電圧を変換するDC/DCコンバータ51を介して高圧バッテリ50aと接続されており、高圧バッテリ50aからの電力が電圧変換されて低圧バッテリ50bへ供給される。
【0052】
このように構成された本実施例のハイブリッド自動車20Bは、運転者のアクセルペダル83の操作に応じて主としてエンジン22からの動力を後輪39c,39dに出力して走行し、必要に応じて後輪39c,39dへの動力の出力に加えてモータMG3,MG4からの動力を前輪39a,39bに出力して4輪駆動により走行する。4輪駆動により走行する場合の例としては、例えば旋回時やアクセルペダル83が大きく踏み込まれた急加速時や車輪スリップ時等が挙げられる。また、走行中にブレーキペダル85が踏み込まれたとき等の減速時には、前後進切換機構135のブレーキB1とクラッチC1との双方をオフしてエンジン22をCVT140から切り離した上でエンジン22を停止させると共にモータMG3およびMG4を回生制御し、モータMG3およびMG4による回生を利用して前輪39a,39bに制動力を付与すると共にモータMG3およびMG4によって回生される電力を用いて高圧バッテリ50aを充電することにより、システム全体のエネルギ効率を向上させることができる。そして、かかるハイブリッド自動車20Bにおいても、第1の実施例に係るハイブリッド自動車20と同様に、旋回中にモータMG3およびMG4の双方が駆動不能であると判断されるときには、一対の後輪39c,39dにのみ駆動トルクが出力されるように前後トルク分配比Dを設定し、駆動不能になったモータMG3,MG4の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されるときには、一対の後輪39c,39dと駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4に対応する前輪39a,39bとに駆動トルク(制動トルクをも含む)が出力されるように前後トルク分配比Dや左前輪トルク分配比dl、右前輪トルク分配比drを設定することにより、駆動可能状態に復帰したモータMG3,MG4に対応する前輪39a,39bにも駆動トルクを出力することができるので、旋回中にモータMG3およびMG4が一旦駆動不能になった後のハイブリッド自動車20の挙動を安定に保つことが可能となる。すなわち、本発明は、いわゆるフルタイム4輪駆動車両のみならず、基本的に前輪または後輪を駆動して走行し、旋回時に操縦安定性等を確保すべく輪を駆動する車両に適用しても極めて有効である。
【0053】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記各実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【0054】
すなわち、第1の実施例における動力分配統合機構30とモータMG2との代わりに、図9に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Cのように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と、後輪39c,39dに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を用いてもよい。
【0055】
また、上記各実施例や変形例において、前輪と後輪との関係を逆にして一対の後輪39c,39dに対して駆動力を左右独立に分配するようにしてもよい。更に、4輪のすべてに電動機を独立に備えた電気自動車や、一対の前輪あるいは一対の後輪にのみ電動機を左右独立に備えた電気自動車、更には、単一のエンジンあるいはモータの駆動力を機械的に左右独立に分配可能な動力ユニットを一対の前輪および/または一対の後輪に備えた車両に本発明を適用し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】第1の実施例のハイブリッドECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施例における要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】第1の実施例におけるエンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する説明図である。
【図5】第1の実施例のハイブリッドECU70により実行されるトルク分配比設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施例のハイブリッドECU70により実行されるトルク分配比設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】動力分配統合機構30における各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を例示する共線図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車20Cの概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
20,20B,20C ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 前輪、39c,39d 後輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,43,44 インバータ、45,46,47,48 回転位置検出センサ、50 バッテリ、50a 高圧バッテリ、50b 低圧バッテリ、51 DC/DCコンバータ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、55 操舵装置、56 操舵ハンドル、56a 操舵角センサ、57 操舵ギヤボックス、58 操舵アクチュエータ、59 操舵用電子制御ユニット(操舵ECU)、60 電子制御式油圧ブレーキユニット、61 マスタシリンダ、61a マスタシリンダ圧センサ、62 ブレーキアクチュエータ、64 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、66a,66b,66c,66d ホイールシリンダ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 ヨーレートセンサ、128 オルタネータ、130 トルクコンバータ、135 前後進切換機構、140 CVT、141 インプットシャフト、142 アウトプットシャフト、143 プライマリプーリ、144 セカンダリプーリ、145 ベルト、146 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、147 油圧回路、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、MG1,MG2、MG3,MG4 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪のそれぞれに駆動力を出力して走行可能な車両であって、
前記前輪および前記後輪のうちの一方である一対の第1車輪に対して駆動力を出力可能な動力ユニットと、
前記前輪および前記後輪のうちの他方である一対の第2車輪のそれぞれに設けられて対応する前記第2車輪に駆動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
前記各電動機を駆動可能であるか否かを判定する電動機駆動可否判定手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記車両の旋回中に前記電動機駆動可否判定手段により前記電動機のすべてが駆動不能であると判断されたときには、前記一対の第1車輪にのみ駆動力が出力されるように前記第1車輪と前記第2車輪とにおける駆動力分配比を設定すると共に、前記電動機駆動可否判定手段により駆動不能になった前記電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記一対の第1車輪と駆動可能状態に復帰した電動機に対応する前記第2車輪とに駆動力が出力されるように前記駆動力分配比を設定する駆動力分配比設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づく駆動力が前記設定された駆動力分配比で分配されて前記第1車輪および前記第2車輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットと前記各電動機とを制御する制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記車両の走行状態を取得する走行状態取得手段と、
前記取得された車両走行状態に基づいて目標ヨーレートを設定する目標ヨーレート設定手段と、
前記車両の実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段とを更に備え、
前記駆動力分配比設定手段は、前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能であると判断された後に駆動不能になった少なくとも何れかの電動機が駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記設定された目標ヨーレートと前記検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて前記駆動力分配比を設定する車両。
【請求項3】
前記制御手段は、前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能であると判断された後に駆動不能になった少なくとも何れかの電動機が駆動可能状態に復帰したと判断されたときに、前記設定された目標ヨーレートと前記検出された実ヨーレートとの偏差が所定値以上である場合、定格出力を発生するように駆動可能状態に復帰した電動機の少なくとも何れかを制御する請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の車両において、
前記動力ユニットは、
内燃機関と、
前記一対の第1車輪が接続された駆動軸と前記内燃機関の出力軸とに接続されて電力と動力の入出力を伴って前記駆動軸および前記出力軸に動力を入出力可能な電力動力入出力手段と、
前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機とを含む車両。
【請求項5】
請求項1から3の何れかに記載の車両において、
前記動力ユニットは、
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸と前記一対の第1車輪が接続された駆動軸との間で変速比の変更を伴って動力を伝達する変速手段とを含む車両。
【請求項6】
前記一対の第2車輪は、前記複数の車輪に含まれる操舵輪としての前輪である請求項1から5の何れかに記載の車両。
【請求項7】
前記一対の第2車輪は、前記複数の車輪に含まれる後輪である請求項1から5の何れかに記載の車両。
【請求項8】
前輪および後輪のうちの一方である一対の第1車輪に対して駆動力を出力可能な動力ユニットと、前記前輪および前記後輪のうちの他方である一対の第2車輪のそれぞれに設けられて対応する前記第2車輪に駆動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段とを備えた車両の制御方法であって、
(a)前記車両の旋回中に前記電動機のすべてが駆動不能になったときに、前記一対の第1車輪にのみ駆動力が出力されるように前記第1車輪と前記第2車輪とにおける駆動力分配比を設定すると共に、駆動不能になった前記電動機の少なくとも何れかが駆動可能状態に復帰したと判断されたときには、前記一対の第1車輪と駆動可能状態に復帰した電動機に対応する前記第2車輪とに駆動力が出力されるように前記駆動力分配比を設定するステップと、
(b)走行に要求される要求駆動力に基づく駆動力がステップ(a)で設定された前記駆動力分配比で分配されて前記第1車輪および前記第2車輪のそれぞれに出力されるように前記動力ユニットと前記各電動機とを制御するステップと、
を含む車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−203998(P2007−203998A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28334(P2006−28334)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】