説明

車両の制御装置

【課題】噛み合いクラッチの係合時に被同期側の回転要素の回転数が変化する場合でも係合に伴うショックの発生を防ぐことが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】制御手段は、第1及び第2の回転要素をフィードバック制御により同期させてから、第1の回転要素と第2の回転要素のいずれかを回転軸方向に移動させることにより係合を開始する。そして係合開始から係合完了までは、フィードバック制御を禁止することにより第1の回転要素の歯と第2の回転要素の歯との接触によるモータジェネレータのトルク制御の乱れを防止する。さらに、係合開始から係合完了までの間に第2の回転要素の回転数変化を検出した場合には、検出した加減速分を第1の回転要素に発生するようにモータジェネレータのトルクを調整する。このようにすることで、係合にともなうショックの発生を防ぐことができ、係合を確実に実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達装置などに用いられる車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に加えて、電動機やモータジェネレータなどの動力源を備えるハイブリッド車両が既知である。ハイブリッド車両では、内燃機関を可及的に高効率状態で運転する一方、駆動力やエンジンブレーキ力の過不足を電動機又はモータジェネレータで補う。
【0003】
このようなハイブリッド車両において、クラッチ機構にドグ歯を有する噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)を利用するものが知られている。なお、特許文献1には、クラッチ同期装置において、チャンファ角がある歯を有する一対の回転要素の少なくとも一方をモータで回転駆動して一対の回転要素を同期させる方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−269603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ユーザ操作等の影響により、係合の際に同期させる側(被同期側)の回転要素の回転数が変化する場合も考えられる。この場合、被同期側の回転要素の歯と同期する側(同期側)の回転要素の歯とが衝突し、ショックが発生する可能性がある。したがって、同期側の回転要素の回転数を被同期側の回転数の変化に合わせて追従させる必要がある。しかしながら、特許文献1には、係合の際に被同期側の回転数が変化する場合について何ら検討がされていない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、噛み合いクラッチの係合時に被同期側の回転要素の回転数が変化する場合でも係合に伴うショックの発生を防ぎ確実に係合を行うことが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点では、モータジェネレータと、前記モータジェネレータに連結される第1の回転要素と、前記第1の回転要素と係合される第2の回転要素と、フィードバック制御により前記第1及び第2の回転要素を同期させてから第1及び第2の回転要素が有する歯同士を係合及び解除することにより変速を行う制御手段と、を備える車両の制御装置であって、前記制御手段は、係合開始から係合完了までの間、前記第1の回転要素のフィードバック制御を禁止し、かつ、前記第2の回転要素が加減速した場合には、前記モータジェネレータにより前記加減速分に相当するトルクを前記第1の回転要素に付与する。
【0008】
上記の車両の制御装置は、モータジェネレータと、第1の回転要素と、第2の回転要素と、制御手段と、を有する。モータジェネレータは、トルクにより第1の回転要素を回転駆動させる。第1の回転要素及び第2の回転要素は、例えばドグクラッチを構成するクラッチ板であり、互いが有する歯により係合及び解除が可能である。制御手段は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)によって実現される。制御手段は、第1の回転要素と第2の回転要素の回転数とをフィードバック制御により同期させてから、第1の回転要素と第2の回転要素のいずれかを回転軸方向に移動させることにより係合を開始する。回転軸方向への移動は、たとえばアクチュエータにより実行する。そして係合開始から係合完了までは、フィードバック制御を禁止することにより第1の回転要素の歯と第2の回転要素の歯との接触によるモータジェネレータのトルク制御の乱れを防止する。さらに、係合開始から係合完了までの間に第2の回転要素の回転数変化がないか監視を行い、回転数変化を検出した場合には、検出した加減速分を第1の回転要素に発生するようにモータジェネレータのトルクを調整する。即ち検出した回転数変化の度合に基づきモータジェネレータのトルクをフィードフォワード制御する。このようにすることで、係合中に第2の回転要素に回転数の変化が生じた場合でも、第1の回転要素の回転数は第2の回転要素の回転数に追従することができるため、係合にともなうショックの発生を防ぐことができるとともに係合を確実に実行することができる。
【0009】
上記の車両の制御装置の一態様は、エンジンと、第1及び第2のモータジェネレータと、前記エンジン及び前記第1並びに第2のモータジェネレータと接続された動力分配機構と、前記動力分配機構と接続された固定比変速装置と、前記固定比変速装置と連結される出力軸と、を備えるハイブリッド車両に搭載され、前記モータジェネレータは前記第1または第2のモータジェネレータであり、前記第2の回転要素は前記出力軸と連結される。この態様では、車両の制御装置はいわゆるマルチモードのハイブリッド車両に適用される。そして、マルチモードのハイブリッド車両の第1または第2のモータジェネレータが車両の制御装置のモータジェネレータに対応し、車両の制御装置の第2の回転要素はマルチモードのハイブリッド車両の出力軸(車軸)に接続される。これにより、車両の制御装置は、マルチモードのハイブリッド車両に好適に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
[装置構成]
図1に本発明を適用したハイブリッド装置の駆動装置の概略構成を示す。図1の例は、固定比変速装置を備えた、いわゆるマルチモードタイプのハイブリッド車両の駆動装置であり、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2、ECU(Electronic Control Unit)10、動力分配機構20、コントローラ41、蓄電装置42、を備える。図1において、動力源に相当するエンジン1と、第1のモータジェネレータMG1と、第2のモータジェネレータMG2と、が動力分配機構20に連結されている。また、第1のモータジェネレータMG1と、動力分配機構20と、が変速装置6に連結されている。変速装置6には、出力軸3が連結されている。モータジェネレータMG1、MG2はインバータなどのコントローラ41を介してバッテリーなどの蓄電装置42に接続されており、そのコントローラ41によって制御されて電動機あるいは発電機として動作するように構成されている。
【0012】
エンジン1は燃料を燃焼して動力を発生する熱機関であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。第1のモータジェネレータMG1はエンジン1からトルクを受けて回転することにより主として発電を行うものであり、発電に伴う反力トルクが作用する。第1のモータジェネレータMG1の回転数を制御することにより、エンジン1の回転数が連続的に変化する。このような変速モードを無段変速モードという。無段変速モードは、後述する動力分配機構20の差動作用により実現される。
【0013】
第2のモータジェネレータMG2は、駆動トルク又はブレーキ力を補助(アシスト)する装置である。駆動トルクをアシストする場合、第2のモータジェネレータMG2は電力の供給を受けて電動機として機能する。一方、ブレーキ力をアシストする場合には、第2のモータジェネレータMG2は、駆動輪から伝達されるトルクにより回転させられて電力を発生する発電機として機能する。
【0014】
ECU(Electronic Control Unit)10は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インターフェイスなどを有している。ECU10は、車速、要求駆動力、蓄電装置42の充電量(SOC)などの入力データ及び予め記憶しているデータを利用して演算を行い、その演算の結果を各モータジェネレータMG1、MG2を制御するための指令信号としてコントローラ41に出力し、またいずれかのクラッチC1〜C3を動作させて所定の運転モードあるいは変速段を設定する指令信号を出力するように構成されている。また、ECU10は、各種センサからの検出信号に基づいて、コントローラ41に指令信号を出力することにより、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2、の制御を行う。各種センサの例としては、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ、第1のモータジェネレータMG1及び第2のモータジェネレータMG2の夫々の回転数(正確には「角速度」であるが、以下では単に「回転数」と称す)を検出する回転数センサなどがある。ECU10は、クランク角センサからの検出信号に基づいて、エンジン1の回転数を求め、回転数センサからの検出信号に基づいて、第1のモータジェネレータMG1の回転数、及び、第2のモータジェネレータMG2の回転数を求める。従って、ECU10は、本発明における制御手段として機能する。
【0015】
動力分配機構20は、いわゆるダブルピニオン式の遊星歯車機構を含んで構成される。具体的には、動力分配機構20は、相互に同軸上に配置されたサンギヤ23と、リングギヤ21と、サンギヤ23に噛み合わされた第2ピニオンギヤ24bと、この第2ピニオンギヤ24b及びリングギヤ21に噛み合わされた第1ピニオンギヤ24aと、第1ピニオンギヤ24a及び第2ピニオンギヤ24bを自転可能かつ公転可能に支持しているキャリア25とを有している。
【0016】
エンジン1は、リングギヤ21と連結されており、エンジン1からの動力は、リングギヤ21に伝達される。また、第2のモータジェネレータMG2は、キャリア25を介して第1ピニオンギヤ24a及び第2ピニオンギヤ24bと連結されている。第1ピニオンギヤ24a及び第2ピニオンギヤ24bは、キャリア26を介して、入力軸32と連結されている。第1のモータジェネレータMG1は、入力軸31と連結されている。入力軸31は、クラッチC3を介してサンギヤ23と連結されている。クラッチC3は、入力軸31とサンギヤ23との間の接続を制御する。クラッチC3がオンにされることにより、第1のモータジェネレータMG1の出力がサンギヤ23に出力される。
【0017】
変速装置6は、固定比変速装置であり、クラッチC1、C2を備えている。クラッチC1は、出力軸3と入力軸31との間の接続を制御し、クラッチC2は、出力軸3と入力軸32との間の接続を制御する。また、クラッチC1及びクラッチC2はドグクラッチであり、クラッチ板はドグ歯を有する。
【0018】
クラッチC1がオンにされることにより、第1のモータジェネレータMG1の出力が入力軸31を介して出力軸3に出力される。クラッチC2がオンにされることにより、第2のモータジェネレータMG2の出力が入力軸32を介して出力軸3に出力される。変速装置6は、ECU10からの制御信号に基づいて、クラッチC1、C2を制御することにより、固定変速比モードによる変速を行う。具体的には、変速装置6は、クラッチC1がオフ、クラッチC2がオンにされている状態と、クラッチC1がオン、クラッチC2がオフにされている状態と、の間で切り替えることにより、変速を行う。以下では、クラッチC1がオフ、クラッチC2がオンにされ、第2のモータジェネレータMG2の出力が入力軸32を介して出力軸3に出力されている状態を「1速」の状態であるとし、また、クラッチC1がオン、クラッチC2がオフにされ、第1のモータジェネレータMG1の出力が入力軸31を介して出力軸3に出力されている状態を「2速」の状態であるとする。
【0019】
「1速」から「2速」へと切り替える場合について説明する。変速装置6は、まず、クラッチC1がオフ、クラッチC2がオンにされている状態(「1速」の状態)から、クラッチC1、C2の両方がオンにされている状態(「1速+2速」の状態)へと切り替える。その後、変速装置6は、クラッチC1、C2の両方がオンにされている状態(「1速+2速」の状態)から、クラッチC1がオン、クラッチC2がオフにされている状態(「2速」の状態)へと切り替える。このようにして、変速装置6は、「1速」から「2速」へと切り替える。
【0020】
ここで、「1速+2速」の状態では、クラッチC1、C2の両方がオンにされている状態となっているので、クラッチC1における入力軸31と接続されたクラッチ板の回転数と、クラッチC2における入力軸32と接続されたクラッチ板の回転数と、が一致する必要がある。即ち、サンギヤ23の回転数とキャリア26の回転数とが一致する必要がある。従って、クラッチC1における入力軸31と接続されたクラッチ板が第1のモータジェネレータMG1と接続されたクラッチ板に相当し、クラッチC2における入力軸32と接続されたクラッチ板がモータジェネレータMG2と接続されたクラッチ板に相当する。
【0021】
[ドグクラッチの係合制御方法1]
ここで、図2(a)に、ドグクラッチの構成例を模式的に示す。図2(a)は、アクチュエータ60を有し、軸方向に移動(ストローク)可能な同期部53bと、同期部53bと係合する被同期部53aを示している。同期部53bは、第1のモータジェネレータMG1と接続されたクラッチ板または第2のモータジェネレータMG2と接続されたクラッチ板のいずれかに該当し、被同期部53aは、出力軸3(車軸)側に接続したクラッチ板が該当する。したがって、「1速」から「2速」(厳密には「1速+2速」)の切り替えの場合、または「2速」から「1速」(厳密には「1速+2速」)の切り替えの場合も以下の説明は包含する。この場合、出力軸3側のクラッチ板と既に係合している図示しないクラッチ板(例えば「1速」から「1速+2速」への切り替えの場合、第1のモータジェネレータMG1と接続したクラッチ板)は、例えば、出力軸3(車軸)側に接続した被同期部53aとは別のクラッチ板(不図示)と係合している。以後、同期部53bと接続するモータジェネレータを「同期側MG」と呼ぶ。
【0022】
被同期部53a及び同期部53bは、それぞれドグ歯55a、55bを備えている。ドグ歯55a及び55bは、その先端部が三角状に尖った形状、即ち破線枠内に位置するチャンファ55xを有する。
【0023】
そして、「1速」と「2速」とを切り替える場合、ECU10は、被同期部53aと同期部53bとの回転が一致することを確認後、係合を行うためアクチュエータ60の作動を開始する。以後、係合を行うためアクチュエータ60の作動を開始することを「係合を開始する」と表現し、被同期部53aと同期部53bとが完全に噛み合い、アクチュエータ60の作動が終了することを「係合を完了する」と表現する。
【0024】
なお、係合の開始時において、被同期部53aのドグ歯55aと同期部53bのドグ歯55bの位相、即ち指定の噛み合わせ位置まで制御して係合を開始することが好ましい。しかし、通常は、外乱等の影響によりドグ歯55a及びドグ歯55bの位相まで揃えるのは困難である。したがって、ECU10は、チャンファ55xの形状を活かし、回転数が一致した時点で、アクチュエータ60を作動し、同期部53bのドグ歯55bを被同期部53aのドグ歯55aの溝に滑らすように押しこむ。図3(b)に、チャンファ55xを利用して係合を行った場合の模式図を示す。図3(b)に示すように、チャンファ55x同士を擦らせるようにハードウェア的にドグ歯55aとドグ歯55bとを噛み合わせることにより、ドグ歯55aとドグ歯55bとの係合が実現されている。以上のように、ECU10は、ドグクラッチの係合を、回転数のみを合わせることで実行することができる。
【0025】
しかし、上述の係合処理の際に、ドグ歯55a及びドグ歯55bのチャンファ55xが接触し、相互に滑るようにして係合するときに、ドグ歯55a及びドグ歯55bのチャンファ55xのそれぞれには相対的に逆方向の回転力(反力)が発生し、ドグ歯55bの相対位置が変移する。そして、回転数センサは、上述の同期部55bの相対位置の変移を同期部55bの回転数の変移として検出し、その検出結果をECU10へ送信する。そして、ECU10は、実際には被同期部53aと同期部53bとの回転数は一致しているにもかかわらず、上述の回転数の変移を修正するためのフィードバック制御を行うことになる。そして、フィードバック制御により同期側MGへ出力させるトルク(以後、「同期側MGトルク」と呼ぶ。)が調整された結果、同期部53bの回転数が変化してしまう。これにより、同期部53aと同期部53bとの間でショックが発生し、ドライバビリティの悪化が生じる可能性がある。
【0026】
これについて例を用いてさらに説明する。図3に、係合時の被同期部53aと同期部53bとの回転数差(以後、単に「回転数差」と呼ぶ。)及び同期側MGトルクの時間経過に伴う変化のグラフを示す。図3に示すように、期間Aにおいて、ECU10は、同期側MGトルクの出力を調整することにより、回転数差が0になるように制御を行う。そして、回転数差が0になり、ECU10が係合を開始した後、即ち図3の期間Bにおいて、ECU10は、ドグ歯55aとドグ歯55bとが相互に滑るようにして係合する際に検出された回転数差を補正しようとするフィードバック制御により、同期側MGトルクを調整することになる。これにより、ドグ歯55a及びドグ歯55bが噛み合った後で同期部55b側に不要なトルクが印加され、ショックが発生することになる。
【0027】
そこで、本実施形態においては、係合開始後から係合完了までフィードバック制御を停止させることにより上述の問題を解決する。即ち、ドグ歯55aとドグ歯55bとが相互に滑るようにして係合する際に回転数センサが検出した回転数差により、ECU10は同期側MGへの不要なトルクを印加してしまうことを防止する。具体的には、被同期部53aと同期部53bとの同期が完了し、係合を開始した後は、ECU10は、同期部53bでの回転数の変化を同期側MGのトルク制御に反映させないようにする。このようにすることで、係合処理中または係合処理後におけるショックの発生を防止し、ドライバビリティの悪化を防ぐことができる。以後、上述のECU10が行う係合制御を「係合制御方法1」と呼ぶ。
【0028】
次に、係合制御方法1の処理の流れについてフローチャートを用いて説明する。図4に、ECU10が行う係合制御方法1の処理手順を示すフローチャートを示す。なお、図4に示すフローチャートはECU10によって繰り返し実行される。
【0029】
まず、ECU10は、変速の要求、即ちドグクラッチの係合要求があるか監視を行う(ステップS1)。そして、変速要求がない場合(ステップS1;No)、ECU10は、特にドグクラッチの係合処理は行わず、通常走行時の制御を継続する(ステップS2)。
【0030】
一方、変速要求があった場合(ステップS1;Yes)、ECU10は、アクチュエータの作動が可能であるか判定する(ステップS3)。具体的には、ECU10は、回転数センサから出力された被同期部53a及び同期部53bの回転数が所定以内の回転数差であるか判定する。そして、回転数差が所定以上の場合(ステップS3;No)、ECU10は、被同期部53aの回転数に同期部53bの回転数を合わせるように同期側MGのトルクをフィードバック制御する(ステップS4)。以後、上述のフィードバック制御を「回転同期フィードバック制御」と呼ぶ。
【0031】
そして、回転数差が所定以下になった場合(ステップS3;Yes)、ECU10は係合を開始し、アクチュエータ60を作動させる。このとき、ECU10は、回転同期フィードバック制御を禁止する。そして、ECU10は、同期側MGトルクを、前回値、即ちステップS3で回転数が所定以下であると判定した時点でのトルク値を保持するように制御する(ステップS5)。そして、ECU10は、ステップS5に係る処理を係合が完了するまで継続して行う(ステップS6、ステップS5)。即ち、ECU10は、回転同期フィードバック制御を係合が完了するまで禁止する。これにより、ECU10は、ドグクラッチ同士が滑るように係合する際に、不要なトルク印加によるショックの発生を防ぐことができる。
【0032】
[ドグクラッチの係合制御方法2]
上述のドグクラッチの係合制御方法1では、ステップS3において回転数差が所定以下であると判定した後、即ち係合を開始後、アクチュエータ60を作動させている間は被同期部53aの回転数が一定であるとして、ECU10は回転同期フィードバック制御を停止させていた。
【0033】
しかしながら、ユーザがアクセルを踏んだ時などのユーザ要求があった場合、係合処理中であっても被同期部53aの回転数が変化する可能性がある。この場合、ECU10は回転同期フィードバック制御を停止しているため、ECU10は、ユーザ要求による被同期部53aの回転数変化に同期部53bの回転数を追従させることができない。その結果、ドグ歯55a、55bが噛み合う前、即ち図2(a)に示すように被同期部53aと同期部53bとが重なる部分を有しない状態の場合は、回転数が合わず係合を実行することができない。また、ドグ歯55a、55bが噛み合った後、即ち図2(b)に示すように被同期部53aと同期部53bとが重なる部分を有する状態の場合は、ドグ歯55a、55bとの間にショックが発生することになる。
【0034】
したがって、新たな係合制御方法(以後、「係合制御方法2」と呼ぶ。)では、アクチュエータ60を作動させている間に被同期部53aの回転数が変化する場合には、フィードバック制御の代わりにフィードフォワード制御を行うことによりこの問題を解決する。
【0035】
これについて以下具体的に説明する。前述の係合制御方法1に示されるように、本発明では、被同期部53aと同期部53bの回転数差が所定以下となった後、即ち係合開始後は、係合完了までフィードバック制御を停止する。そこで、一度、回転数差が所定以下と判定した後は、被同期部53aの回転数だけを監視し、その増減があった場合には、その増減分だけ同期部53bの回転数を増減するようにECU10は同期側MGのトルクを調整する。即ちECU10は係合処理中においてフィードフォワード制御を行う。具体的には、回転数差が所定以下と判定され、係合制御を行っている間にユーザ要求などに起因して被同期部53aにトルクが発生し回転数が変化したときには、それと同一のトルクを同期部53bに加える。これにより、被同期部53aと同期部53bに同一のトルクが付与されるので、両者の相対的な回転数に変化は生じず、ドグ歯55a、55bとの間にショックが発生することを防止できる。
【0036】
次に、係合制御方法2の処理の流れについてフローチャートを用いて説明する。図5に、ECU10が行う係合制御方法2の処理手順を示すフローチャートを示す。なお、図5に示すフローチャートはECU10によって繰り返し実行される。
【0037】
まずステップS101乃至S104は、図4のフローチャートのステップS1乃至S4と同一の処理を行う。即ち、ECU10は、変速要求があるまで通常走行制御を行い(ステップS101、ステップS102)、変速要求があった場合には回転数差が所定以下になるまで回転同期フィードバック制御を行う(ステップS103、ステップS104)。
【0038】
そして、回転数差が所定以下になった場合(ステップS103;Yes)、ECU10は、回転同期フィードバック制御を禁止し、アクチュエータ60を作動させる。そして、ECU10は、アクチュエータ60の作動中も被同期部53aの回転数に変化がないか監視する。そして、回転数の変化を検出した場合、ECU10は、被同期部53bの加速分(減速分も含む)だけ同期側MGトルクを上乗せし、回転数を同期させる(ステップS105)。
【0039】
具体的に、被同期部53aの角速度をΔωout、同期側MGにかかる慣性モーメントをImNout、同期側MGトルクの前回値をTmgbeforeとすると、回転側MGトルクの更新値Tmgafterは、
Δωout×ImNout+Tmgbefore→Tmgafter 式(1)
と計算することができる。ここで、ECU10は、被同期部53aの角速度Δωoutを、例えば被同期部53aの回転数を継続して監視することにより算出する。また、慣性モーメントImNoutは、予め算出または計測した値をECU10が保持しておく。
【0040】
次に、ECU10は、算出した回転側MGトルクの更新値Tmgafterの値を前回値Tmgbeforeに保存する(ステップS106)。これにより、ユーザ要求などによる被同期部53aの回転数変動が継続している間は、前回の回転側MGトルク更新値との変化分のみを次回の処理で調整すればよいことになる。
【0041】
そして、ECU10は、ステップS105及びステップS106の処理を、係合が完了するまで実行する(ステップS107、ステップS105、ステップS106)。即ち、ステップS105及びステップS106は、被同期部53aの回転数の変化を検出する度にECU10が実行する。以上の処理を実行することで、ユーザがアクセルを踏んだ時などのユーザ要求により、係合処理中に被同期部53aの回転数が変化した場合でも、係合時のショックの発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
【図2】ドグクラッチを模式的に示した図である。
【図3】係合時の回転数差及び同期側MGトルクの変化のグラフを示す図である。
【図4】係合制御方法1に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】係合制御方法2に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
MG1、MG2 モータジェネレータ
1 エンジン
3 出力軸
6 変速装置
20 動力分配機構
53a 被同期部
53b 同期部
55a、55b ドグ歯
55x チャンファ
60 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータと、
前記モータジェネレータに連結される第1の回転要素と、
前記第1の回転要素と係合される第2の回転要素と、フィードバック制御により前記第1及び第2の回転要素を同期させてから第1及び第2の回転要素が有する歯同士を係合及び解除することにより変速を行う制御手段と、を備える車両の制御装置であって、
前記制御手段は、係合開始から係合完了までの間、前記第1の回転要素のフィードバック制御を禁止し、かつ、前記第2の回転要素が加減速した場合には、前記モータジェネレータにより前記加減速分に相当するトルクを前記第1の回転要素に付与することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
エンジンと、第1及び第2のモータジェネレータと、前記エンジン及び前記第1並びに第2のモータジェネレータと接続された動力分配機構と、前記動力分配機構と接続された固定比変速装置と、前記固定比変速装置と連結される出力軸と、を備えるハイブリッド車両に搭載され、
前記モータジェネレータは前記第1または第2のモータジェネレータであり、
前記第2の回転要素は前記出力軸と連結される請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−220661(P2009−220661A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65743(P2008−65743)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】