説明

車両の前部車体構造

【課題】ダッシュパネルとフロントサイドフレームとの接合強度の向上を図り、衝突耐力の向上を図ることができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【解決手段】車室とエンジンルーム1とを車両前後方向に仕切るダッシュパネル3が設けられ、ダッシュパネル3が車両後方に向かって凹設され車輪38を駆動するパワートレインユニット34が配設されるダッシュ中央凹部3Aと、ダッシュ中央凹部3Aの車幅方向両側に延びるダッシュ側部3B,4と、から形成されると共に、ダッシュ側部3B,4より前方に延びるフロントサイドフレーム20が設けられ、ダッシュ側部3B,4がフロントサイドフレーム20の上部に沿って前方に延長された延長部4を備え、延長部4をフロントサイドフレーム20の上部に接合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室とエンジンルームとを車両前後方向に仕切るダッシュパネルが設けられ、該ダッシュパネルが車両後方に向かって、凹設され車輪を駆動するパワートレインユニットが配設されるダッシュ中央凹部と、該ダッシュ中央凹部の車幅方向両側に延びるダッシュ側部と、から形成されると共に、上記ダッシュ側部より前方に延びるフロントサイドフレームが設けられたような車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前部車体構造としては、特許文献1、2、3に記載の構造がある。
【0003】
すなわち、これらの各特許文献1〜3に記載の構造は、その何れもが、エンジンルームと車室とを車両の前後方向に仕切るダッシュパネルを設け、このダッシュパネルの車幅方向中央には車両の後方に向けて凹設されたダッシュ中央凹部を設け、このダッシュ中央凹部にパワートレインユニットを配設することで、重量物としてのパワートレイン、特に、エンジンを後退配置して、ヨー慣性モーメントの低減を図り、操縦安定性を向上させるように構成している。
【0004】
また、上述のダッシュ中央凹部の車幅方向両側に延びるダッシュ側部を設け、該ダッシュ側部と上述のダッシュ中央凹部とでダッシュパネルを形成すると共に、該ダッシュ側部よりエンジンルーム内を前方に延びるフロントサイドフレームが設けられている。
この場合、車両衝突時における上記フロントサイドフレームの変位を可及的抑制するために、上述のダッシュパネルと該フロントサイドフレームとの接合強度の向上が求められている。
【特許文献1】特開2003−326981号公報
【特許文献2】特開2005−28911号公報
【特許文献3】特開2005−29057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、ダッシュ側部がフロントサイドフレームの上部に沿って前方に延長された延長部を備え、該延長部を上記フロントサイドフレームの上部に接合することで、ダッシュパネルとフロントサイドフレームとの接合強度の向上を図り、衝突耐力の向上を図ることができる車両の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による車両の前部車体構造は、車室とエンジンルームとを車両前後方向に仕切るダッシュパネルが設けられ、該ダッシュパネルが車両後方に向かって凹設され車輪を駆動するパワートレインユニットが配設されるダッシュ中央凹部と、該ダッシュ中央凹部の車幅方向両側に延びるダッシュ側部と、から形成されると共に、上記ダッシュ側部より前方に延びるフロントサイドフレームが設けられた車両の前部車体構造であって、上記ダッシュ側部が上記フロントサイドフレームの上部に沿って前方に延長された延長部を備え、該延長部を上記フロントサイドフレームの上部に接合したものである。
【0007】
上記構成によれば、上記延長部をフロントサイドフレームの上部に接合したので、ダッシュパネルとフロントサイドフレームとの接合強度の向上を図ることができ、衝突耐力の向上を図ることができる。
特に、フロントサイドフレームの前側が上方へ変位しようとする動きに対する強度が向上するので、例えば、衝突時の車両のノーズダイブ(パワートレイン前部が下方に下がり、クラッシュスペースが充分にとれなくなる現象)の低減に効果的となる。
【0008】
この発明の一実施態様においては、上記延長部が上記エンジンルームとの間を仕切るように配設され、該延長部のエンジンルームと反対側の空間に車両補機を配設したものである。
上記構成によれば、補強に用いる上記延長部により、車両補機の配設スペースが確保でき、このスペースに車両補機を配設するので、車室への影響を抑えつつ、車両補機の配設と、パワートレインユニットの後方シフトレイアウトとの両立を図ることができる。
また、パワートレインの後方シフトレイアウトにより、ヨー慣性モーメントの低減を図って、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュ側部の一方が他方のダッシュ側部より前方にオフセットして配設されたものである。
上記構成によれば、一方のダッシュ側部の前方へのオフセット量、つまり前後方向の延長長さに対応して高い補強強度の確保と、車両補機の配設スペースの拡大との両立を図ることができる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュ側部の一方がダッシュ中央凹部と別体で分割して形成された分割ダッシュ側部として構成されたものである。
上記構成によれば、分割ダッシュ側部はダッシュ中央凹部と別体で分割して形成されるので、ダッシュパネルの良好な製作性および組付け性を確保することができ、また、分割ダッシュ側部にて車両補機に対するエンジンルームの熱害や塵害の影響を防止することができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記延長部は、上記パワートレインユニットの側方に沿って車両前後方向に延びる縦壁部と、該縦壁部前端より車幅方向に延びて車輪が格納されたホイールハウスの上部に延びる横壁部とにより形成されたものである。
上記構成によれば、上述の縦壁部にてフロントサイドフレームの補強強度が増加すると共に、上述の横壁部にてホイールハウスの強度も向上する。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記車両補機は、熱交換器ユニットと、エアミックスユニットと、ブロアユニットとを備えた空調ユニットであり、該空調ユニットが上記ダッシュ側部の車室内側に配設されたものである。
上記構成によれば、車両補機としての空調ユニットをダッシュ側部の車室内側に配設したので、レイアウト的に有利となる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュパネルの車室内側には車幅方向に運転席と助手席とが並設され、該助手席側に対応するダッシュ側部を、運転席側に対応するダッシュ側部に比較して前方にオフセットして配設したものである。
上記構成によれば、前方にオフセットした側、つまり助手席側に車両補機を配設することができるので、運転席側に影響を与えることなく、車室内のレイアウト(すなわち、居住空間の確保)と、車両補機のレイアウトと、エンジンルーム内のレイアウトとを達成することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ダッシュ側部がフロントサイドフレームの上部に沿って前方に延長された延長部を備え、該延長部を上記フロントサイドフレームの上部に接合したので、ダッシュパネルとフロントサイドフレームとの接合強度の向上を図り、衝突耐力の向上を図ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ダッシュパネルとフロントサイドフレームとの接合強度向上、衝突耐力向上を図るという目的を、車室とエンジンルームとを車両前後方向に仕切るダッシュパネルが設けられ、該ダッシュパネルが車両後方に向かって凹設され車輪を駆動するパワートレインユニットが配設されるダッシュ中央凹部と、該ダッシュ中央凹部の車幅方向両側に延びるダッシュ側部と、から形成されると共に、上記ダッシュ側部より前方に延びるフロントサイドフレームが設けられた車両の前部車体構造において、上記ダッシュ側部が上記フロントサイドフレームの上部に沿って前方に延長された延長部を備え、該延長部を上記フロントサイドフレームの上部に接合するという構成で実現した。
【実施例】
【0016】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は、車両の前部車体を示すが、まず、図1〜図4を参照して車両の全体構造について説明する。ここに、図1、図2は車両の側面図、図3は車両の平面図、図4は車両の正面図である。
【0017】
図1〜図3において、エンジンルーム1と車室2とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル(ダッシュパネル)3を設け、このダッシュロアパネル3の下部には、後方に向けて略水平に延びて車室2の底面を形成するフロアパネル5を、一体または一体的に連設し、このフロアパネル5の後部には、上方に立上がるキックアップ部6および略水平なリヤシートパン7を形成し、このリヤシートパン7にはバルクヘッド8を介してリヤフロア9(フロアパネル)を連設している。このリヤフロア9は後述する後部荷室48の底面を形成するものである。
【0018】
車室2とエンジンルーム1とを車両の前後方向に仕切るダッシュロアパネル3は、図3に示すように、その車幅方向の中央において車両後方に向けて凹設されたダッシュ中央凹部3Aと、このダッシュ中央凹部3Aの車幅方向両側に延びるダッシュ側部3B,4と、から形成され、これら左右のダッシュ側部3B,4の車幅方向の何れか一方(この実施例では後述する助手席シート57側に対応した右側)が、上記ダッシュ中央凹部3Aと別体で分割して形成された分割ダッシュ側部4として形成されると共に、この分割ダッシュ側部4は他方のダッシュ側部3Bよりも車両前方にオフセットして配設されている。ここで、上述の他方のダッシュ側部3Bは所謂ダッシュロアパネルの一般面に相当する。しかも、上述の分割ダッシュ側部4は後述する延長部を構成するものである。
【0019】
上述のフロアパネル5の車幅方向の中央部には、図3に平面図で示すように、車室2内に向かって上方へ突出して、車両の前後方向に延びるトンネル部10を設けている。このトンネル部10は、ダッシュロアパネル3とバルクヘッド8との間を車両の前後方向に延びており、該トンネル部10は車体剛性の中心となるものである。なお、このトンネル部10の上部には、該トンネル部10の上部に沿って車両の前後方向に延びるトンネルメンバ(いわゆるハイマウントバックボーンフレーム)を設けてもよい。
【0020】
また、上述のフロアパネル5の左右両サイドには、図3、図4に示すように、車両の前後方向に延びるサイドシル11を接合固定している。このサイドシル11は、サイドシルインナ12とサイドシルアウタ13とを接合して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面14(図4参照)を有する車体剛性部材である。なお、上記サイドシルインナ12とサイドシルアウタ13との間には必要に応じて、サイドシルレインフォースメントを介設してもよい。
【0021】
さらに、図1〜図3に示すように、ダッシュロアパネル3とキックアップ部6との前後方向の中間部において、上述のフロアパネル5上には、トンネル部10の縦壁とサイドシルインナ12との間を車幅方向に連結する左右のフロアクロスメンバ15,15を設け、断面ハット形状のこのフロアクロスメンバ15とフロアパネル5との間には、車幅方向に延びる閉断面16を形成している。
【0022】
図3、図4に示すように、上述のトンネル部10とサイドシル11との間の車幅方向の中間部において、フロアパネル5の下部には、車両の前後方向に延びる左右一対のフロアフレーム17,17を接合固定して、断面逆ハット形状のこのフロアフレーム17とフロアパネル5との間には、車両の前後方向に延びる閉断面18(図4参照)を形成している。
【0023】
また、リヤフロア9の下部両サイドには、図1〜図3に示すように、車両の前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム19,19を接合固定して、(断面逆ハット形状の)このリヤサイドフレーム19とリヤフロア9との間には、車両の前後方向に延びる閉断面を形成すると共に、これら一対のリヤサイドフレーム19,19の前部を、図3に示すように、サイドシル11の後部と車両前後方向にオーバラップする位置まで前方へ延設させている。
【0024】
一方、図3に示すように、エンジンルーム1の左右両サイドを車両の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム20,20を設けている。これらの各フロントサイドフレーム20,20は、ダッシュ側部3B,4より前方に延びる車体剛性部材であって、これらの各フロントサイドフレーム20,20は図1、図2に示すように、その後部がダッシュロアパネル3の前面に沿って下方に延び、該フロントサイドフレーム20の後端部は上述のフロアフレーム17の前端部に連結されていて、このフロントサイドフレーム20とフロアフレーム17とは、図3に示すように、平面視で車両の前後方向に略一直線状に連続するものである。
【0025】
また、左右一対のフロントサイドフレーム20,20間には、車幅方向に延びる閉断面構造のフロントクロスメンバ21(いわゆるNo.1.5クロスメンバ)を設ける一方、一対のフロントサイドフレーム20,20の前方には、クラッシュカン22,22(衝撃エネルギ吸収部材)を介して、車幅方向に延びるバンパレイン23(詳しくは、フロントバンパレインフォースメント)を設けている。
このバンパレイン23の車幅方向中間部には、後方に後退する中間後退部23Aを形成すると共に、バンパレイン23の左右の両端部にも、後方に後退するサイド後退部23B,23Cを形成し、該バンパレイン23の平面から見た全体形状をW字状と成している。そして、このバンパレイン23の中間後退部23Aと上述のフロントクロスメンバ21との間を、クラッシュカン24(衝撃エネルギ吸収部材)で連結している。
【0026】
上述の左右一対のフロントサイドフレーム20,20の車外側には、図3に示すように、ホイールハウス25,25が設けられており、これら各ホイールハウス25,25における車幅方向の内側で、かつホイールハウス25の前後方向略中央部にはサスタワー26,26が一体的に取付けられている。また、左右の各ホイールハウス25,25の上部には、車両の略前後方向に延びる車体剛性部材としてのエプロンレインフォースメント27,27が設けられており、このエプロンレインフォースメント27の前部には、図6に示すように、シュラウドアッパメンバ28が接続される一方、エプロンレインフォースメント27の後部には、カウルサイド部29が接続されている。
【0027】
ところで、図1、図2に示すように、上述のフロントクロスメンバ21の近傍において、左右一対のフロントサイドフレーム20,20間には、後部にクーリングファン30を備えたラジエータ31を、前低後高状に傾斜させて、配設している。ここで、上述のラジエータ31とクーリングファン30とは一体化されて、ラジエータユニットを構成している。また、このラジエータ31は、次に述べるエンジン32の前方に配設されたものである。
【0028】
また、図1〜図3に示すように、エンジンルーム1内の後部およびトンネル部10の車外側には、内燃機関としてのエンジン32(縦置きエンジン)とトランスミッション33とから成るパワートレインユニット34(以下単にパワートレインと略記する)を配設している。該パワートレイン34は上述のダッシュ中央凹部3Aに対応して配設されたものであって、重量物としてのエンジン32およびトランスミッション33を可及的車両中心部に後退配置して所謂フロント・ミッドシップ・エンジン車と成し、ヨー慣性モーメントの低減を図り、操縦安定性の向上を図るように構成している。上述のエンジン32としては、レシプロエンジンまたはロータリエンジンを用いることができる。
【0029】
また、上述のトンネル部10の車外側には、トランスミッション33の出力を、リヤディファレンシャル装置35に伝達するプロペラシャフト36を設け、上述のリヤディファレンシャル装置35の差動出力を、左右のドライブシャフト37,37(図3参照)を介して、左右の後輪38,38に伝達すべく構成して、FR(前部機関後輪駆動)タイプの車両と成している。
【0030】
一方、この車両は、図1、図2に示すように、車両前方から後方に前低後高状に傾斜して延びるフロントノーズ部39と、このフロントノーズ部39と連続して後方に延びて車体前方外面を形成する中間ノーズ部40と、この中間ノーズ部40の後方に設けられた車室2の前方を車外が視認可能となるように覆ったフロントウインドパネル(フロントウインドガラスと同意、以下単にフロントウインドと略記する)41と、を備えている。
上述のフロントウインド41は、図4に示す左右のフロントピラー42,42と、ルーフ部43の前端と、カウル部上端との間に形成されたフロントウインド開口を覆うもので、このフロントウインド41の下端部は、カウルパネル70で支持される。このカウルパネル70は、ダッシュロアパネル3の上部に、ダッシュアッパプレートパネル71を介して取付けたものである。
【0031】
さらに、上述のフロントノーズ部39より上方に所定間隔離間して車幅方向に延びるアッパノーズ部44を設けている。このアッパノーズ部44は、エネルギ吸収可能なEA部材(エネルギ・アブソーバ部材)としての発泡ウレタン部材45と、この発泡ウレタン部材45の外部を覆う樹脂製の外皮46と、から構成されていて、上下方向にエネルギ吸収可能に設けられている。
【0032】
また、図1、図2に示すように、上述のフロントノーズ部39上面とアッパノーズ部44下面との間には、走行風を通過させて整流可能な整流通路47を形成している。すなわち、この実施例のアッパノーズ部44は、バンパ機能と、スポイラ機能と、歩行者保護機能と、を兼ねるように構成している。
【0033】
一方、この車両は、図1、図2に示すように、リヤフロア9上方の後部荷室48の開口を、リヤゲートウインド49を備えたリヤゲート50(開閉部材)によって開閉自在に覆うように構成しており、上述の後部荷室48は車室2内と連通していて、上述のリヤゲート50を開放することで、荷物の出し入れを容易に行なうように構成している。
【0034】
図1〜図4において、51はステアリングホイール、52はインストルメントパネル、53はステアリングラック、54はサブフレーム、55はホイールハウス25に格納された前輪である。
一方、図3に示すように、ダッシュロアパネル3およびインストルメントパネル52の後方の車室2内側には、車幅方向に運転席シート56と助手席シート57とが並設されている。運転席シート56はダッシュ側部3Bおよびステアリングホイール51に対応して車両左側に配設されており、この運転席シート56はシートクッション56Cとシートバック56Bとを備えている。
【0035】
助手席シート57は分割ダッシュ側部4および後述する車両補機としての空調ユニット60に対応して車両右側に配設されており、この助手席シート57はシートクッション57Cとシートバック57Bとを備えている。
【0036】
運転席シート56および助手席シート57から成る前列シートの後方には、シートクッション58Cとシートバック58Bとを備えた左右のリヤシート58,58(後列シート)を配設している。ここで、これらの各シート56,57,58,58は何れもセパレート・シート(バケットシート)にて構成している。
【0037】
図5は図3の要部拡大平面図、図6は車両の前部車体構造の要部を示す斜視図であって、上述のダッシュロアパネル3は、パワートレイン34を配設するダッシュ中央凹部3Aを有し、このダッシュ中央凹部3A前端から車幅方向左側(運転席側)に延びるダッシュ側部3Bを備えると共に、ダッシュ中央凹部3A前端からフロントサイドフレーム20の位置に相当する所定量のみ車幅方向右側(助手席側)に延びるダッシュ側片3bを備えている。
【0038】
また、図5、図6に示すように、上述のダッシュロアパネル3は、ダッシュ中央凹部3Aと別体で分割して形成された分割ダッシュ側部4を備えている。
この分割ダッシュ側部4は、フロントサイドフレーム20の上部に沿って前方に延長された延長部であって、該延長部すなわち分割ダッシュ側部4は上記フロントサイドフレーム20の上部に接合されている。
【0039】
図3に示すように、上記分割ダッシュ側部4(延長部)を他方の運転席側のダッシュ側部3Bより車両前方にオフセットして配設している。つまり、ダッシュロアパネル3は平面視において左右非対称に形成したものである。
さらに、上述の分割ダッシュ側部4(延長部)は、図7に斜視図で示すように、パワートレイン34、特にエンジン32の側方に沿って車両前後方向に延びる縦壁部4aと、この縦壁部4aの前端より車幅方向外側に延びて前輪55(図3参照)が格納されたホイールハウス25の上部に延びる横壁部4bと、この横壁部4bの車幅方向外端から後方に延びる接合片4cと、横壁部4bの下端からホイールハウス25の上部形状に沿うように後方に延びる接合片4dと、縦壁部4aの下端からフロントサイドフレーム20の上部形状に沿うように車幅方向内側に延びる接合片4eと、縦壁部4aの後端からダッシュ側片3bの前面形状に沿うように車幅方向内側に延びる接合片4fとを備え、これら各要素4a〜4fを一体形成したものである。
【0040】
そして、図5、図6に示すように、上述の接合片4fを溶接等によりダッシュ側片3bの前面に接合固定すると共に、接合片4eを溶接等によりフロントサイドフレーム20の上部に接合固定して、フロントサイドフレーム20のダッシュ接合部の剛性向上を図り、かつ、フロントサイドフレーム20の強度向上を図っている。
【0041】
また、接合片4dをホイールハウス25の上部およびフロントサイドフレーム20の上部に溶接等にて接合固定すると共に、横壁部4bを溶接等によりサスタワー26の後部に接合固定して、ホイールハウス25の強度向上を図り、またサスタワー26によるフロントサスペンションの支持剛性の向上を図り、かつサスタワー26の内倒れを防止すべく構成している。
【0042】
さらに、接合片4cを車体強度部材としてのエプロンレインフォースメント27の車幅方向内側部に溶接等にて接合固定することで、該エプロンレインフォースメント27の強度向上と、分割ダッシュ側部4それ自体の支持剛性の向上とを両立すべく構成している。
ここで、上述の分割ダッシュ側部4(延長部)はエンジンルーム1との間を、車幅方向に仕切るように配設されている。
図7で示した分割ダッシュ側部4に代えて、図8または図9に示す分割ダッシュ側部4を用いてもよい。
【0043】
図8に示す分割ダッシュ側部4は、図7で示した構成に加えて、サスタワー26に近接する縦壁部4aと接合片4eとの間に、少なくとも1つ、この実施例では複数のビード4g,4gを一体形成したものであって、この構造により、部品点数の増加を招くことなく、サスタワー26の内倒れをより一層良好に防止すべく構成したものである。なお、図8において図7と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0044】
図9に示す分割ダッシュ側部4は、図8で示した構成に加えて、接合片4eの後部を幅広に形成すると共に、接合片4fの車幅方向の幅、特に上下方向の下部の幅を幅広に形成し、さらに、ダッシュ側片3bに接合固定する接合片4fと、フロントサイドフレーム20の上部に接合固定する接合片4eとの間に、ビード4hを一体形成したものであって、この構造により、部品点数の増加を招くことなく、フロントサイドフレーム20の衝突時の変位低下を図り、衝突耐力の向上を図るように構成したものである。
なお、図9において図8と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0045】
図5、図6に示すように、延長部としての分割ダッシュ側部4のエンジンルーム1と反対の側の空間には、車両補機の一例として空調ユニット60の少なくとも一部を配設している。
この空調ユニット60は、図5、図6、図10に示すように、周囲から熱を奪って内外気を冷却するエバポレータ(evaporator.蒸発器)61と、エンジン32冷却後のエンジン冷却水により内外気を加熱するヒータコア62と、内部に複数のドア(図示せず)を有して、空調風の配風方向を切換えるエアミックスユニット63(いわゆる配風ボックス)と、導入した内外気を後方に向けて送風するブロアユニット64とを備えていて、上述のエバポレータ61とヒータコア62とで熱交換器ユニット65を構成している。
【0046】
上述の空調ユニット60は、他方のダッシュ側部3Bの前後位置に対応する車両の前後方向の位置(ダッシュ側片3bの位置参照)よりも後方の車室2の側と、分割ダッシュ側部4の側と、に渡って前後方向に延びて配設されており、上述のブロアユニット64を分割ダッシュ側部4の側に配設している。
すなわち、熱交換器ユニット65、エアミックスユニット63、ブロアユニット64から成る空調ユニット60において、ブロアユニット64を前部に配置して、このブロアユニット64を上述の分割ダッシュ側部4の側の配設している。
【0047】
また、図5に平面図で示すように、ブロアユニット64の後方において、上述の熱交換器ユニット65と、エアミックスユニット63とは略車幅方向に並設されており、分割ダッシュ側部4の側と、車室2の側との間の限られたスペース内に、熱交換器ユニット65、エアミックスユニット63、ブロアユニット64からなる空調ユニット60をコンパクトにレイアウトするように構成している。
換言すれば、空調ユニット60は、ブロアユニット64と、熱交換器ユニット65と、エアミックスユニット63とを備え、熱交換器ユニット65と、エアミックスユニット63とを、上記ブロアユニット64の後方で、かつ該ブロアユニット64に対して前後方向に配設したものである。
【0048】
また、上述の空調ユニット60とカウルサイド部29との間は、図5、図6に示すように、分割ダッシュ延長部3Cで仕切られる一方、この分割ダッシュ延長部3Cと上述のダッシュ側片3bとの間には、空調ユニット60を前後方向に連続して配設させる目的で、連通部3Dが形成されている。
要するに、上述の空調ユニット60は、延長部としての分割ダッシュ側部4のエンジンルーム1と反対側の車室内側に配設されたものである。
【0049】
ところで、上述の分割ダッシュ側部4は、図3、図5、図6に示すように、車両補機としての空調ユニット60と、エンジンルーム1とを仕切るように該空調ユニット60の周囲を囲むように配設されると共に、該分割ダッシュ側部4は、パワートレイン34の右側の側部に沿って前後方向に延びて空調ユニット60との間を隔絶する耐熱壁部(縦壁部4a参照)を備えており、空調ユニット60に対するエンジンルーム1側からの熱害や塵害の影響を防止するように構成している。
【0050】
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INは車両内方を示し、矢印OUTは車両外方を示す。
上記構成の前部車体構造を備えたこの実施例の車両と、延長部としての分割ダッシュ側部4を備えていない比較例の車両とが正面衝突した場合の状態を図11(実施例)、図12(比較例)に示す。
【0051】
図12に示す比較例の車両においては、フロントサイドフレーム20が延長部で補強されていないので、衝突時において該フロントサイドフレーム20のダッシュパネル側の基部とそのキックアップ部との側面視の開角が大きくなり、エンジン32前部が下方に下がるノーズダイブが発生し、このノーズダイブにより車両前方のクラッシュスペースが充分に確保されなくなり、加えて、エンジン32が路面に当たると、衝撃が強大となる。
【0052】
これに対して、図11に示す実施例の車両においては、フロントサイドフレーム20の上部が延長部(分割ダッシュ側部4参照)で補強されており、ダッシュロアパネル3とフロントサイドフレーム20との接合強度が向上していると共に、衝突耐力が高められているので、車両衝突時のノーズダイブが低減されて、車両前方のクラッシュスペースが充分に確保されるのである。
【0053】
このように、上記実施例の車両の前部車体構造は、車室2とエンジンルーム1とを車両前後方向に仕切るダッシュロアパネル3が設けられ、該ダッシュロアパネル3が車両後方に向かって凹設され車輪(後輪38参照)を駆動するパワートレインユニット34が配設されるダッシュ中央凹部3Aと、該ダッシュ中央凹部3Aの車幅方向両側に延びるダッシュ側部3B,4と、から形成されると共に、上記ダッシュ側部3B,4より前方に延びるフロントサイドフレーム20が設けられた車両の前部車体構造であって、上記ダッシュ側部3B,4が上記フロントサイドフレーム20の上部に沿って前方に延長された延長部(分割ダッシュ側部4参照)を備え、該延長部(分割ダッシュ側部4参照)を上記フロントサイドフレーム20の上部に接合したものである(図1、図3参照)。
【0054】
この構成によれば、上記延長部(分割ダッシュ側部4参照)をフロントサイドフレーム20の上部に接合したので、ダッシュロアパネル3とフロントサイドフレーム20との接合強度の向上を図ることができ、衝突耐力の向上を図ることができる。
特に、フロントサイドフレーム20の前側が上方へ変位しようとする動きに対する強度が向上するので、例えば、衝突時の車両のノーズダイブ(パワートレイン前部が下方に下がり、クラッシュスペースが充分にとれなくなる現象)の低減に効果的となる。
【0055】
また、上記延長部(分割ダッシュ側部4参照)が上記エンジンルーム1との間を仕切るように配設され、該延長部(分割ダッシュ側部4参照)のエンジンルーム1と反対側の空間に車両補機(空調ユニット60参照)を配設したものである(図5、図6参照)。
【0056】
この構成によれば、補強に用いる上記延長部(分割ダッシュ側部4参照)により、車両補機(空調ユニット60参照)の配設スペースが確保でき、このスペースに車両補機(空調ユニット60参照)を配設するので、車室2への影響を抑えつつ、車両補機(空調ユニット60参照)の配設と、パワートレイン34の後方シフトレイアウトとの両立を図ることができる。
また、パワートレイン34の後方シフトレイアウトにより、ヨー慣性モーメントの低減を図って、操縦安定性の向上を図ることができる。
【0057】
さらに、上記ダッシュ側部の一方4が他方のダッシュ側部3Bより前方にオフセットして配設されたものである(図3参照)。
この構成によれば、一方のダッシュ側部4の前方へのオフセット量、つまり前後方向の延長長さに対応して高い補強強度の確保と、車両補機(空調ユニット60参照)の配設スペースの拡大との両立を図ることができる。
【0058】
加えて、上記ダッシュ側部の一方がダッシュ中央凹部3Aと別体で分割して形成された分割ダッシュ側部4として構成されたものである(図5参照)。
この構成によれば、分割ダッシュ側部4はダッシュ中央凹部3Aと別体で分割して形成されるので、ダッシュロアパネル3の良好な製作性および組付け性を確保することができ、また、分割ダッシュ側部4にて車両補機(空調ユニット60参照)に対するエンジンルーム1の熱害や塵害の影響を防止することができる。
【0059】
しかも、上記延長部(分割ダッシュ側部4参照)は、上記パワートレイン34の側方に沿って車両前後方向に延びる縦壁部4aと、該縦壁部4a前端より車幅方向に延びて車輪(前輪55参照)が格納されたホイールハウス25の上部に延びる横壁部4bとにより形成されたものである(図5、図6参照)。
この構成によれば、上述の縦壁部4aにてフロントサイドフレーム20の補強強度が増加すると共に、上述の横壁部4bにてホイールハウス25の強度も向上する。
【0060】
また、上記車両補機は、熱交換器ユニット65と、エアミックスユニット63と、ブロアユニット64とを備えた空調ユニット60であり、該空調ユニット60が上記ダッシュ側部(分割ダッシュ側部4参照)の車室2内側に配設されたものである(図5、図6参照)。
この構成によれば、車両補機としての空調ユニット60をダッシュ側部(分割ダッシュ側部4参照)の車室内側に配設したので、レイアウト的に有利となる。
【0061】
さらに、上記ダッシュロアパネル3の車室2内側には車幅方向に運転席シート56と助手席シート57とが並設され、該助手席シート57側に対応するダッシュ側部(分割ダッシュ側部4参照)を、運転席シート56側に対応するダッシュ側部3Bに比較して前方にオフセットして配設したものである(図3参照)。
この構成によれば、前方にオフセットした側、つまり助手席シート57側に車両補機(空調ユニット60参照)を配設することができるので、運転席側に影響を与えることなく、車室内のレイアウト(すなわち、居住空間の確保)と、車両補機(空調ユニット60参照)のレイアウトと、エンジンルーム1内のレイアウトとを達成することができる。
【0062】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュパネルは、実施例のダッシュロアパネルに対応し、
以下同様に、
パワートレインで駆動される車輪は、後輪38に対応し、
延長部は、分割ダッシュ側部4に対応し、
車両補機は、空調ユニット60に対応し、
ホイールハウスに格納される車輪は、前輪55に対応し、
運転席は、運転席シート56に対応し、
助手席は、助手席シート57に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例においては左ハンドル車両を例示したが、上記構成の車両の前部車体構造は右ハンドル車両に適用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の車両の前部車体構造を示す側面図
【図2】パワートレインの一部を破断した状態で示す側面図
【図3】車両の前部車体構造を示す平面図
【図4】車両の前部車体構造を示す正面図
【図5】図3の要部拡大平面図
【図6】前部車体構造を示す要部の斜視図
【図7】延長部としての分割ダッシュ側部を示す斜視図
【図8】分割ダッシュ側部の他の実施例を示す斜視図
【図9】分割ダッシュ側部のさらに他の実施例を示す斜視図
【図10】図2の要部拡大側面図
【図11】車両衝突時の説明図
【図12】比較例の車両衝突時の説明図
【符号の説明】
【0064】
1…エンジンルーム
2…車室
3…ダッシュロアパネル(ダッシュパネル)
3A…ダッシュ中央凹部
3B…ダッシュ側部
4…分割ダッシュ側部(延長部)
4a…縦壁部
4b…横壁部
20…フロントサイドフレーム
25…ホイールハウス
34…パワートレイン(パワートレインユニット)
38…後輪(車輪)
55…前輪(車輪)
56…運転席シート(運転席)
57…助手席シート(助手席)
60…空調ユニット(車両補機)
63…エアミックスユニット
64…ブロアユニット
65…熱交換器ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室とエンジンルームとを車両前後方向に仕切るダッシュパネルが設けられ、該ダッシュパネルが車両後方に向かって凹設され車輪を駆動するパワートレインユニットが配設されるダッシュ中央凹部と、該ダッシュ中央凹部の車幅方向両側に延びるダッシュ側部と、から形成されると共に、
上記ダッシュ側部より前方に延びるフロントサイドフレームが設けられた車両の前部車体構造であって、
上記ダッシュ側部が上記フロントサイドフレームの上部に沿って前方に延長された延長部を備え、
該延長部を上記フロントサイドフレームの上部に接合した
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記延長部が上記エンジンルームとの間を仕切るように配設され、
該延長部のエンジンルームと反対側の空間に車両補機を配設した
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記ダッシュ側部の一方が他方のダッシュ側部より前方にオフセットして配設された
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記ダッシュ側部の一方がダッシュ中央凹部と別体で分割して形成された分割ダッシュ側部として構成された
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
上記延長部は、上記パワートレインユニットの側方に沿って車両前後方向に延びる縦壁部と、
該縦壁部前端より車幅方向に延びて車輪が格納されたホイールハウスの上部に延びる横壁部とにより形成された
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
上記車両補機は、熱交換器ユニットと、エアミックスユニットと、ブロアユニットとを備えた空調ユニットであり、該空調ユニットが上記ダッシュ側部の車室内側に配設された
請求項2〜5の何れか1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
上記ダッシュパネルの車室内側には車幅方向に運転席と助手席とが並設され、
該助手席側に対応するダッシュ側部を、運転席側に対応するダッシュ側部に比較して前方にオフセットして配設した
請求項3〜6の何れか1に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−863(P2010−863A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160546(P2008−160546)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】