説明

車両の走行制御装置

【課題】 ハイブリッド自動車の制御回路は原則的に現在の状況にしたがって、ハイブリッド用電池の充放電制御を実行しているから、あとわずかで坂の頂上に達する位置を走行するような場合にも、電池の充電量が規定値に達すると、動力補助を中止して電池を充電するように制御されることがある。
【解決手段】 定期路線その他一定の地点間を繰り返し運行する車両については、走行開始点からの距離に対応して、上り坂および下り坂のパターンを自動的に学習する。その学習結果にしたがって、各時点以降の運行条件を予測して電池の充放電や燃料消費を少なくする走行制御を行うようにして、全体として燃料消費の少ない運行を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車その他液体燃料により走行する車両に搭載する装置であって、その車両の過去の走行形態を自動的に学習し、これから走行する路面での距離当たりの燃料消費量(例、リットル/km)が経済的になるように、自動的に予測制御する装置に関する。本発明はハイブリッド自動車に利用するに適する装置として発明されたものであるが、一般の内燃機関を装備した車両に広く利用することができる。本発明は、とくにトラック、バス、その他業務用車両であって、定められた区間(二地点間とは限らない)を繰り返して走行する車両について、効果的に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から車両は原則的に、その時点の運転者の意思に基づいて走行するように設計されていて、定期バスや配送トラックなどのように、決められた区間を往復するように一つの車両が利用される形態であっても、その路面を学習し、経済的に走行するための機能は備えていない。
【0003】
商業用でも自家用でも、車両はいずれその基地に帰ってくるのであるから、基地を出発してからその基地に帰着するまでに、過去に経験した路面状況を車載のプログラム制御装置に記録しておくことにより、その記録を参照して、相応に消費燃料を経済化するように予測制御を実行することができるはずである。過去の記録から予測制御ができるなら、長い距離を経済速度に近い速度で走行するように制御することができるであろう。また走行中の各時点において、これから進行する路面の状況に対して最適の変速ギヤの組み合わせを選択し、アクセル・ペダルの踏込み量を小さく制御して燃料を経済化することができるであろう。
【0004】
【特許文献1】特開2000−333305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の装置では、運転者は運転席の変速ギヤ位置をドライブ(D)に設定したままで、平坦路を走行し、あるいは下り坂路を走行し、あるいは上り坂路を走行するようにして利用されている。このとき、変速機制御装置は、その時点の車速とアクセル踏込み量、その他機械的な条件および要素により、自動的に最適なギヤを選択設定するように構成されている。しかし運転者がこれから走行する路面状況をよく知っていて、変速ギヤの設定およびアクセル・ペダルの踏込み量を機械まかせにすることなく、適正に予測し割り込み制御すると、走行距離あたりの燃料消費量が小さくなるように運転することができる。
【0006】
さらに詳しくは、従来例装置はあくまでも、変速ギヤの設定、アクセル・ペダルの操作量に対する燃料流量の設定その他は、その時点限りの微視的な要素に基づき制御されるようになっている。負荷が大きい(例、上り坂中)あるいは負荷が小さい(例、平坦路走行中)、もしくは出力を与えなくとも加速する(例、下り坂中)など、現時点の状態に基づいて制御するものであって、これから長く平坦路面がつづく、まもなく上り坂路面にさしかかる、あるいはまもなく下り坂路面にさしかかる、などの路面状況の予測に基づき制御を行う要素は含まれていない。
【0007】
かりにこれから長く平坦路面がつづくことがわかっているのであれば、アクセル・ペダルの踏込み量の相応の広い範囲で、平坦路面に対する経済速度に近づくように車速を制御することができる。まもなく上り坂路にさしかかることが予想できるなら、その上り坂路に入る前に平坦路面に対する経済速度を越えても、その上り坂路面での燃料消費が小さくなるように、あらかじめ車両を加速するように予測制御することも可能になる。まもなく下り坂路面になることがわかっているなら、かりに車両速度が許容できる範囲で車両が減速されても、あらかじめ燃料供給量を絞る予測制御が可能になる。これはアクセル・ペダルの踏込み量に限らず、変速ギヤの選択についても同様である。とくに変速ギヤにオーバ・ドライブ(OD)が設けられている装置では、オーバ・ドライブを巧みに使い予測制御を実行して、燃料消費を少なくすることができるものと考えられる。
【0008】
ハイブリッド自動車については、供給する燃料と蓄積されている電力との組み合わせにより制御されるものであるから、予測制御することができる範囲は格段に広くなる。すなわち予測制御により、燃料消費量を経済化することができる実効的な効果が大きくなるものと考えられる。
【0009】
このような観点から、上述の特許文献1は、所定の経路を走行するハイブリッド自動車について、経路の道路状況に応じて、走行経路を複数の区間に区分けして、各区間ごとに燃料消費が低減するように走行パターンに基づいてエンジンとモータの運転スケジュールを設定することが提案されている。しかし、この特許文献1では、予測制御自体については提案されているが、走行パターンの情報の取得については、単に運転履歴が記録されているとの記載しかなく、どのように同一区間の走行パターンのデータを取得して学習していくかの提案はない。
【0010】
一般論としては、予測制御を広く車両運行に利用することは、原理的にさまざまな困難な問題がある。しかし、路線バス用車両、通勤用車両、特定区間の配送用車両(例、二つの町の郵便局相互間)、駅と事業所との間の送迎用車両、工場と倉庫との間で資材もしくは製品を運搬する車両など、定められた区間で同一の走行パターンが繰り返される車両については、それが可能ではないか、と発明者は考えるに至った。本願発明者は、このような車両については、車載のプログラム制御装置に学習機能を設けて定められた区間での複数回の走行記録によって、走行パターンを学習させ、その学習内容にしたがって、消費燃料を経済化するように予測制御を行うことができると考えた。
【0011】
このように考えると、一般にきわめて多くの車両は多くの時間について、定型的な区間を走行しているのではないかと考えることができる。上記のように業務用車両については、一定区間の資材または製品の運搬、あるいは決められた区間の送迎などに利用され、大部分は定型的な区間を運行している車両が多いものと考えられる。また自家用車両についても、月曜日から金曜日までは通勤用に利用し、土曜日または日曜日には買い物や行楽に利用するような使い方をしている車両については、月曜日から金曜日までは定型的な区間を走行していることになる。
【0012】
すなわち本発明は、過去の走行記録からその後の走行形態を予測して、燃料消費量がさらに経済的になるように制御することができる車両を提供することを目的とする。本発明は、同一の走行パターンが繰り返し利用される車両について、その走行パターンを学習する機能を設け、そして、その車両が走行途上にある一つの時点では、その過去に学習した走行条件にしたがって、その車両がすでに学習した内容に倣って走行するものとして、燃料供給量を合理的に予測制御することができる装置を提供することを目的とする。
【0013】
さらに具体的には、車載の制御装置に蓄積された一定の区間(二点の間の区間に限らず、三点を結ぶ区間、あるいは四点の間を相互に結ぶ六つの区間でもよい)を走行中である車両について、その走行において、駆動トルク、アクセル・ペダル操作量、車速などの情報を記録し、それ以前に同一区間の走行パターンがあるときには以前の走行パターンを修正しつつ記録する装置を提供する。さらに、その記録した走行パターンに基づいて同一の区間のそれ以前のその走行途上ではその区間の走行がすでに一回以上にわたり経験された走行条件が繰り返されるものとして、以降の走行状態を予測して、その予測にもとづき燃料供給量の制御をより経済的に行うことができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、車両走行に先だってその走行の始点および終点(その走行の目的地、これは記号または地名など、地図上の地点でもよい、複数の経路があるときにはその経路を区別する記号等(例、北まわり)でもよい)を含む情報を入力する手段と、その入力された始点から前記終点までの実走行時にその走行距離に対応して、アクセル・ペダルの操作量、エンジン回転速度、車速、ギヤ比、および駆動トルクに相当する値を継続的に記録する手段と、前記記録する手段に記録された同一の経路についての複数n回にわたる走行の記録について統計処理を行った値をその経路の走行パターンとして保持する走行パターン保持手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
前記走行の始点および終点は、その走行の目的地、これは記号または地名など、地図上の地点でもよいし、複数の経路があるときにはその経路を区別する記号等(例、北まわり)でもよい。前記「エンジン回転速度」および「車速」については、その一方(エンジン回転速度または車速のいずれか)とその各時点で利用されたギヤ比であってもよい。前記「駆動トルクに相当する値」は単位時間当たりの燃料流量、もしくはエンジン回転速度およびアクセル開度を利用するように設計することができる。
【0016】
前記「複数n回にわたる走行の記録について統計処理を行った値」は繰り返し走行された区間について、その往路および復路のそれぞれについて、複数回の平均値演算、特異記録の除去、その他の統計処理を経たデータを意味する。これは、同一区間の走行を繰り返すごとに自動的に演算が実行され、区間毎にしかもその往路および復路ごとに、区別してプログラム処理装置に自動的に保存されるように設定することができる。これにより、一つの区間について繰り返し走行が行われる毎にその精度はより確かになり、この走行の記録(走行パターン)を利用して走行の予測制御を行うことで、燃料消費量を経済化するより合理的な走行制御が可能となる効果がある。
【0017】
前記車両がハイブリッド車両であるとき、前記駆動トルクに相当する値は電動発電機に供給する電流の値(例、アンペア)および内燃機関に供給する時間当たりの燃料供給量(例、リットル/秒)とすることができる。
【0018】
また、本発明の装置は、さらに具体的に、前記入力する手段に入力された始点および終点ならびに経路にかかる走行パターンがすでに前記走行パターン保持手段に保持されているときに、その走行パターンに基づいて車両の駆動トルクを予測制御する手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成により、走行距離当たりの燃料消費量をさらに経済化することができる。
【0020】
前記予測制御する手段は、内燃機関に対する燃料供給量、変速ギヤの選択、または燃料流量および電力の分担割合を制御する手段を含む構成とすることができる。
【0021】
前記予測制御する手段は、前記走行パターンに基づいて、DPF(ディーゼル排出微粒子用フィルタ)の燃焼再生時期を駆動トルクに相当する値が負の値(または負の方向)をもつときに実行する手段を含む構成とすることができる。
【0022】
前記車両がハイブリッド車両であるとき、前記予測制御する手段は、前記走行パターンに基づいて充放電の上下限を一時的に拡大し、あるいは内燃機関と電動発電機のトルク分担割合を変更する手段を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明による自動車は、過去に走行した走行パターンを学習により保持して、その走行パターンを参照しながら、いわゆる「先読み」をして走行状態を制御することができる。これにより、燃料消費量を経済化することができる。とくに本発明をハイブリッド自動車に実施する場合には、充放電制御を走行状態に整合させることができるから、電池によるアシスト走行の機会が拡大されることになり、燃料消費量を大幅に経済化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第一実施例)
(内燃機関車両についての実施例)
図1は本発明第一実施例装置のブロック構成図である。この第一実施例装置は、本発明を内燃機関としてディーゼル機関を装備した貨物用車両に実施したものである。この車両には電動走行装置は装備されていない、つまりこの装置はハイブリッド車両ではない。
【0025】
内燃機関1の出力軸にはクラッチ3の入力軸が連結され、そのクラッチ3の出力軸は変速機5を介して、図外の差動歯車を介して駆動輪の車軸に連結される。変速機3にはギヤ位置センサ6が設けられ、設定されているギヤの組み合わせが電気信号として出力される。内燃機関1の回転軸には回転センサ7が設けられ、内燃機関の回転が電気信号として検出出力される。変速機の出力軸には車速センサ8が設けられ、プロペラ軸の回転が電気信号として検出される。
【0026】
上記各センサの出力はインタフェース回路11を介して、プログラム制御手段10にその制御用入力信号として供給される。さらに運転者が操作するアクセル・ペダル12には、アクセル・センサ13が連結されていて、このセンサ出力は電気信号として電子ガバナ15に入力するとともに、上記インタフェース回路11を介してこれもプログラム制御手段10に取込まれる。電子ガバナ15は内燃機関1に燃料を供給する燃料噴射ポンプ14の燃料流量を制御する。プログラム制御手段10には、本発明の特徴ある制御を実行するための制御マップおよび制御ソフトウエアを備える。そして、このプログラム制御手段10には、ハードウエアとして表示操作パネル20を備える。この表示操作パネル20は運転席に配置され、運転者がその表示を読み取り、さらに入力操作を行うことができるように構成されている。
【0027】
そして、走行する区間の走行パターンを学習する手段としてのプログラム制御手段は、アクセル・ペダルの操作量、エンジン回転速度、車速、ギヤ比、駆動トルクのデータを継続的に記録し、複数回にわたる走行データを、例えば移動平均をとるなどの統計的処理を行って当該区間の走行パターンのデータとして記憶装置に記録しておく。また、走行のつど、新たな走行のデータを採り入れ、蓄積した走行パターンのデータを修正する処理を行う。
【0028】
図2にこの表示操作パネル20の表示操作面についての表示例を示す。この実施例装置は表示操作パネル20を小型パソコンにより準備したものであり、図2(1)に示すような画面が作成された。A、B、C、Dの4つの地点があり、いま
A 本社倉庫
B XX社YY工場
C JJ社KK工場
D (未設定)
とする。すなわちこの車両は本社倉庫Aで納品資材を搭載し、B地点にあるYY工場およびC地点にあるKK工場にその資材を配達して、出発地本社倉庫Aに帰着することになっている。いま操作(タッチ・パネルの操作)により図2(1)の画面を表示させる。地点名称をわかりやすく記録するために、画面モードを図2(2)のように転換することにより、これを利用することができる。
【0029】
すなわちこの車両がA、B、Cの三点をその順序に循環運行させようとしているとき、操作により図2(2)に示す画面を表示させて、各目的地名を入力する。さらに矢印を有効化してその循環方向を指定し表示させる。破線で示す画像は設定可能であるが、未設定であり画面に現れていないことを示す。例えば地点Dについては未設定であり、地点Bから地点Aの方向に走行する設定も未設定である。地点Bと地点Dの間を走行するように設定することもできるが、現在はこのルートは設定されていない。画面が複雑になることを許容するなら、原理的には4つの地点に限らず、さらに多い数の地点を設定できるように構成することもできる。
【0030】
そしてこの車両をA→B→C→Aのように運行させる。出発地Aでこの装置が有効化され、B地点に到着したときにエンジン・キーがオフに操作されるとともに、このソフトウエアの実行はいったん終了する。B地点を出発するときに再び有効化され、C地点に到着したときにエンジン・キーがオフに操作され、そのときにもいったん終了する。そしてC地点でさらに再度この装置が有効化され、A地点に戻ったときにまたエンジン・キーがオフされる。これにより、ルートA→B→C→Aの走行データを個別に採取することができる。そしてこの車両は上記エンジン・キーのオンおよびオフ操作を伴い、度重ねて上記A→B→C→Aのルートを走行する。この走行を繰り返すごとに統計処理が施されて、そのルートのデータは次第に精製される。
【0031】
例えば、A→B→C→Aを横軸とし、駆動トルクを縦軸としたグラフに表すと図3のようなグラフが得られる。駆動トルクが正の箇所(または正の方向)は上り坂であり、負の箇所(または負の方向)は、下り坂の箇所であると理解できる。この走行パターンは、また、路面の勾配を表すものとして捉えることができ、路面パターンを表しているとも観ることができる。このようなデータを保持していて、そのデータと現在走行箇所とを対比すれば、先行する路面の状況を把握することができるので、予測制御が可能である。
【0032】
例えば、ルートA→B→C→Aについて、走行距離に対して燃料使用量が大きい路面は、おそらく上り坂を多く含む路面であり、燃料使用量が小さい路面は下り坂を多く含む路面であろう。その勾配の正負と勾配の程度がこの装置に記録として蓄積されると、その蓄積された記録を利用して予測制御をすることが可能になる。これは運転者がこまかい操作を行うことにより実行されるのではなく、あくまでも装置が自律的にかつ自動的に実行するものである。例えばルートB→Cを走行中に、過去の記録を参照して上り坂が近づいていることが予測できるときには、その上り坂にさしかかる前に車両をあらかじめ加速させることができる。そして車両がその上り坂にさしかかったときには、その勾配およびその上り坂の長さに応じて、車両速度を燃料使用量ができるだけ小さくなるような経済的な速度に制御することができる。
【0033】
車両試験用の閉鎖的な道路ではなく、一般道路を運行している場合の車両速度は、かならずしもその車両の都合のみでは決まらない。他の車両との関係もあるし、信号機も設置されているならその指示に反する運転はできない。したがって、必要な場合には運転者がその制御に割り込むことができるように設定することが必要である。すなわちこの装置は、走行場面に応じて、運転者の操作にしたがって割り込み制御を実行することができる。これにより、車両を加速するあるいは減速する、さらには停車させるなどの操作を行うことができる。このような割り込み操作が行われた場合には、燃料消費量は必ずしも理想的にはならないが、全体として相応に経済化することができる。
【0034】
(第二実施例)
(ハイブリッド車両についての実施例)
図4は本発明をハイブリッド自動車に実施する例である。ハイブリッド自動車に実施する場合には、利用する動力を電気動力と内燃機関動力とに区別して利用できるとともに、下り坂などの減速時に電気エネルギを充電蓄積することができるから、本発明を実施することにより燃料を経済化させる効果は大きくなる。
【0035】
図3は本発明実施例装置について、その内燃機関を含むハイブリッド動力装置を説明するためのブロック構成図である。内燃機関1は車両の主動力機関であり、この例ではディーゼル機関である。この内燃機関1の出力軸には三相交流回転機2の回転軸の一端が固定的に連結されている。この三相交流回転機2の回転軸の他端には、クラッチ3を介して変速機5の入力軸が連結される。変速機5の出力軸は図外で差動歯車を介して駆動車軸に連結される。三相交流回転機2の固定子電気巻線にはインバータ4から三相交流が供給される。この三相交流により回転軸まわりに回転磁界が発生される。インバータ4には電池9から直流電流が供給される。
【0036】
インバータ4から三相交流回転機2に供給される三相交流の位相回転速度(すなわち周波数)は、プログラム制御手段10により制御される。この三相交流の位相回転速度が三相交流回転機2の機械的な回転速度より大きくなると、三相交流回転機2は電動機として作用し、内燃機関1の出力回転軸に補助的な回転加速度を与える。この三相交流の位相回転速度が三相交流回転機2の機械的な回転速度より小さくなると、三相交流回転機2は発電機として作用し、クラッチ3および変速機5を介してこの車両の駆動車軸(図外)に対して制動力を発生する。三相交流回転機2が発電機として作用しているときには、車両を運転する運転者は、いわゆるエンジン・ブレーキが作用しているときと同等の感覚を認識する。このとき三相交流回転機2から発生する交流電流は、インバータ4により直流電流に変換されて電池9を充電する。この電池9から供給される電流はインバータ4を介して三相交流回転機2を駆動することにより、前記制動力により発生したエネルギは、車両の駆動動力として回生されることになる。
【0037】
ここで本発明の特徴とするところは、この車両が定められた区間に運行される車両として利用されるときのハイブリッド制御にある。このためのソフトウエアは、プログラム制御手段10に実装される。プログラム制御手段10には運転者が操作するための表示操作パネル20が接続されている。この表示操作パネル20は運転者が車両を運転している姿勢で見やすい位置に配置される。この表示画面は上記第一実施例の説明で利用した表示画面と同等であり、これを図2に示す。
【0038】
図2は車両の走行経路をその走行前に設定するための画面であり、上記第一実施例装置と同様に理解することができるから、さらに詳しい説明を省略する。ハイブリッド車両の場合には、たんに燃料供給量の制御に限らず、電動発電機のモード転換(電動もしくは発電)、および機械的な回転速度に対する界磁巻線に印加する三相交流の位相角度を制御することができるから、走行に必要なエネルギをより合理的に制御し供給することができる。したがって本発明を実施する効果はハイブリッド車両の場合が優れている。
【0039】
また、ハイブリッド車両での走行制御において、保持している走行パターンに基づけば、走行経路の路面の状況が先読みできるので、燃料消費を少なくするように電動発電機のモードの制御をすることが可能である。すなわち、これらから走行する路面に上り坂が予測されるときには、ハイブリッド用電池の充電量を多めになるように制御する。そしてその上り坂にさしかかったときに、その路面のパターンに対応して電池に蓄積されたエネルギを供給することができる。これから走行する路面に下り坂が予測されるときには、ハイブリッド用電池の充電量を少なめになるように制御する。これによりその車両がその下り坂にさしかかったときには、ハイブリッド機関を制動充電に制御して、制動により発生するエネルギを電気エネルギとして電池に充電させることができる。
【0040】
また、電池の放電下限値が残存容量の20%、充電上限値が残存容量の80%に設定されているとした場合でも、上り坂を走行して電動補助加速走行をしているときに、記憶されている走行パターンでもう少しで上り坂が終わることが予測されるときには、電池の残存容量の下限であっても、一時的に、例えば5%だけその下限設定値を下げて放電することを許容し、続いてくる下り坂、あるいは平坦路で充電を行うように制御する。同様に、下り坂を回生を行いながら走行しているときに、記憶されている路面パターンで下り坂が終りになり、その先に上り坂があるときは、その上り坂で電動補助加速走行を行って電気を使用することが予測できるので、通常の回生による充電の上限容量を一時的に、例えば5%だけ上限値を上げて充電を行うように制御する。
【0041】
このように、一時的に電池の充放電の上限値、下限値を変更しても、記憶している走行パターンで続けてその放電あるいは充電を解消するように、充電あるいは放電が行われるので、電池に対して過剰放電あるいは過剰充電が行われることはなく、電池の有効寿命を早めることにはならない。それにより、走行パターンに対応して、有効に電気エネルギを回生あるいは使用できるため、燃料消費を低減できる効果は大きい。
【0042】
また、電池、インバータ、電動発電機の温度制御についても充放電制御と同様に走行パターンに基づいて予測制御し、一時的に上限値を越すことを許容するような制御も可能である。
【0043】
さらに、ハイブリッド制御による走行パターンは、その都度、過去の記録を統計処理、例えば移動平均をとって修正していくようにして、精度の高い走行パターンのデータを蓄積するようにすることができる。
【0044】
(第三実施例)
走行パターンに基づいて予測制御を行う別の例について説明する。現在DPF(ディーゼル排出微粒子用フィルタ)は、微粒子が蓄積されるので、定期的に余剰な燃料を吹き込んで、内部に蓄積された可燃微粒子を燃焼させる再生処理を行うようにしている。このDPFの再生動作は燃料を消費するので、できるのであれば、内燃機関にかかる負荷が小さいとき、すなわち、内燃機関の燃料噴射量が少ない下り坂あるいは平坦路を走行しているときに行うことが好ましい。このため、上り坂を走行中にDPFの再生動作を開始する旨の信号が発出したとしても、上り坂が終り、その後下り坂が到来するような場合には、DPFの再生動作を待ち合わせるように予測制御することができる。上り坂を走行する、あるいは、平坦路から上り坂に至る場合には、加速のために燃料を多く消費するので、DPFの再生時期を下り坂あるいは平坦路を走行する場合に行うように予測制御することにより、燃料消費を削減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上記説明は、本発明を実施した車両が二地点または三地点など少数の地点間を繰り返し運行するものとして説明したが、これは一つの車両が、さらに多数の地点間を運行する形態に拡大して本発明を実施することができる。また、実施例として運転者が地点を操作入力するものとして説明したが、何らかの方法により、例えば各地点で電波信号または超音波信号などにより、地点識別信号を発生し、車両側でこれを識別受信する装置を設けるなど、運転者の操作によらない装置を実現するように拡大することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明第一実施例装置のブロック構成図。
【図2】本発明実施例の表示例を説明する図。
【図3】走行パターンの一例を示す図
【図4】本発明第二実施例装置のブロック構成図。
【符号の説明】
【0047】
1 内燃機関
2 三相交流回転機
3 クラッチ
4 インバータ
5 変速機
6 ギヤ位置センサ
7 回転センサ
8 車速センサ
9 電池
10 プログラム制御手段
11 インタフェース回路
12 アクセル・ペダル
13 アクセル・センサ
14 燃料噴射ポンプ
15 電子ガバナ
16 充電量検出手段
17 電流検出手段
18 DC−DCコンバータ
19 コンデンサ
20 表示操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行に先だってその走行の始点および終点を含む情報を入力する手段と、
その入力された始点から前記終点までの走行時にその走行距離に対応して、アクセル・ペダルの操作量、エンジン回転速度、車速、および駆動トルクに相当する値を継続的に記録する手段と、
前記記録する手段に記録された同一の経路についての複数n回にわたる走行の記録について統計処理を行った値をその経路の走行パターンとして保持する走行パターン保持手段と
を備えたことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記車両がハイブリッド車両であるとき、前記駆動トルクに相当する値は電動発電機に供給する電流の値(例、アンペア)および内燃機関に供給する時間当たりの燃料供給量(例、リットル/秒)である請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記入力する手段に入力された始点および終点ならびに経路にかかる走行パターンがすでに前記走行パターン保持手段に保持されているときに、その走行パターンに基づいて車両の駆動トルクを予測制御する手段を備えた請求項1または2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記予測制御する手段は、内燃機関に対する燃料供給量、変速ギヤの選択、または燃料流量(例、リットル/秒)および電力(例、kW)の分担割合を制御する手段を含む請求項3記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記予測制御する手段は、前記走行パターンに基づいて、DPF(ディーゼル排出微粒子用フィルタ)の燃焼再生時期を駆動トルクに相当する値が負の値(または負の方向)をもつときに実行する手段を含む請求項3記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−164341(P2008−164341A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351616(P2006−351616)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】