説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から踏み込みを解除するまでの全領域において回生制動力を適切に利用することにより、高回生効率、かつ高燃費を達成する。
【解決手段】車両用ブレーキ装置は、ブレーキペダル21の踏み込み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する基礎液圧制動力発生制限手段である、ブレーキペダルとマスタシリンダのピストンとの間に両部材を連結するために設けられた連結部材は、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態までの間はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達しないようにし、所定状態以降はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達するように構成された操作力伝達機構70を備えている。
【選択図】 図11

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作状態に応じて車両に付与する目標制動力を液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力とによって達成する車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用ブレーキ装置としては、ブレーキ操作状態に応じて車両に付与する目標制動力を液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力とによって達成するものは知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両制動装置及び車両制動方法は、あるペダル踏力に対応する目標車両制動力を達成する際、この目標車両制動力から、このペダル踏力に対応する液圧ブレーキの最小制動力を差し引いた差分を割振制動力とし、この割振制動力から、実際の回生制動力を差し引いた差分を液圧ブレーキの配分制動力とし、最小制動力と配分制動力との和を目標液圧制動力として液圧ブレーキの倍力比を制御するようになっている。つまり、目標車両制動力を達成する際には液圧ブレーキの制動力が必ず働くようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−63540号公報(第4−7頁、図1−8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された車両制動装置及び車両制動方法においては、ブレーキペダルを踏み込んだ場合、目標車両制動力を達成するために、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から踏み込みを解除するまでの間は液圧ブレーキの制動力が必ず作用するようになっており、このために目標車両制動力に対して回生制動力が作用する余地がなくなり回生制動力を積極的に利用できなくなるので、回生効率(目標車両制動力に対する回生制動力の比率)がその分悪化し、ひいては車両の燃費が悪化するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、すなわち高燃費を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当このマスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、ブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキ操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する基礎液圧制動力発生制限手段をさらに備え、基礎液圧制動力発生制限手段は、ブレーキペダルとマスタシリンダのピストンとの間に両部材を連結するために設けられた連結部材から構成され、連結部材は、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態までの間はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達しないようにし、所定状態以降はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達するように構成された操作力伝達機構を備えたことである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合に、基礎液圧制動力発生制限手段は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置は最大回生制動力を発生することである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、操作力伝達機構は、連結部材を構成する第1ロッドと第2ロッドの接合部に設けられており、第1ロッドの一端にブレーキペダルが接続されるとともに第1ロッドの他端に筒部が形成され、第2ロッドの一端に筒部と摺動可能に往復動する筒状係合部が形成されるとともに第2ロッドの他端にピストンが接続され、筒部と筒状係合部との間に両部材を付勢するスプリングが収納されていることである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダまたはホイールシリンダからのブレーキ液を貯液する調圧リザーバと、ホイールシリンダからのブレーキ液または調圧リザーバに貯液されているブレーキ液を吸い込んでマスタシリンダへ吐出するポンプとをさらに備えており、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプの駆動と液圧制御弁の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダに付与することにより同各ホイールシリンダに対応する各車輪に制御液圧制動力を発生可能に構成され、基礎液圧制動力発生制限手段にて基礎液圧制動力の発生が制限されている場合に、実際の回生制動力の変動が検出されると、ポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段を備えたことである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、ブレーキ操作状態は、ブレーキペダルのストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサまたはマスタシリンダのストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサによって検出することである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項5の何れか一項において、ブレーキ操作状態が所定状態となるまでのブレーキペダルのペダル反力を形成するペダル反力形成手段を備えたことである。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の構成上の特徴を有する車両用ブレーキ装置においては、基礎液圧制動力発生制限手段が、ブレーキペダルの踏み込み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、踏み込み開始状態から所定状態までの間は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。一方、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置との協調動作によって、回生ブレーキ装置が前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
また、基礎液圧制動力発生制限手段は、ブレーキペダルとマスタシリンダのピストンとの間に両部材を連結するために設けられた連結部材から構成され、連結部材は、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態までの間はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達しないようにし、所定状態以降はブレーキペダルに付与された操作力をピストンに伝達するように構成された操作力伝達機構を備えたので、簡単な構成にて基礎液圧制動力の発生を制限することができる。
【0013】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合に、基礎液圧制動力発生制限手段は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置は最大回生制動力を発生するので、基礎液圧制動力の発生を制限する領域をできるだけ長く確保することができる。したがって、基礎液圧制動力の発生をできるだけ遅延させて、ブレーキペダルの踏み込み中の全領域に渡って回生制動力を最大限、無駄なく利用することができる。
【0014】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、操作力伝達機構は、連結部材を構成する第1ロッドと第2ロッドの接合部に設けられており、第1ロッドの一端にブレーキペダルが接続されるとともに第1ロッドの他端に筒部が形成され、第2ロッドの一端に筒部と摺動可能に往復動する筒状係合部が形成されるとともに第2ロッドの他端にピストンが接続され、筒部と筒状係合部との間に両部材を付勢するスプリングが収納されているので、簡単な構成にて基礎液圧制動力の発生を制限することができる。
【0015】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダまたはホイールシリンダからのブレーキ液を貯液する調圧リザーバと、ホイールシリンダからのブレーキ液または調圧リザーバに貯液されているブレーキ液を吸い込んでマスタシリンダへ吐出するポンプとをさらに備えており、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプの駆動と液圧制御弁の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダに付与することにより同各ホイールシリンダに対応する各車輪に制御液圧制動力を発生可能に構成され、基礎液圧制動力発生制限手段にて基礎液圧制動力の発生が制限されている場合に、実際の回生制動力の変動が検出されると、ポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段を備えたので、回生制動力の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、ブレーキ操作状態は、ブレーキペダルのストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサまたはマスタシリンダのストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサによって検出するので、それらストロークセンサによってブレーキ操作状態を確実かつ直接的に検出することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1乃至請求項5の何れか一項において、ブレーキ操作状態が所定状態となるまでのブレーキペダルのペダル反力を形成するペダル反力形成手段を備えたので、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキ操作状態が所定状態となるまでの間、運転者は良好なペダルフィーリングを感じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の参考の形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み前の状態を示す図である。
【図3】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み中の状態を示す図である。
【図4】図1に示す液圧ブレーキ装置のブレーキアクチュエータの概要を示す概要図である。
【図5】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の参考の形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図6】図4に示す調圧リザーバのブレーキ踏み込み前の状態を示す断面図である。
【図7】図4に示す調圧リザーバのブレーキ踏み込み中の状態を示す断面図である。
【図8】図1に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図9】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の参考の形態における調圧リザーバのブレーキ踏み込み前の状態を示す断面図である。
【図10】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の参考の形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図11】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の実施の形態におけるオペレーティングロッドのブレーキ踏み込み前の状態を示す断面図である。
【図12】図2に示すペダル反力手段の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1)第1の参考の形態
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第1の参考の形態を図面を参照して説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は車両用ブレーキ装置の基礎液圧制動力発生装置の構成を示す概要図である。ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪FR,FLを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本第1の参考の形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11はモータ12への電力供給源として作用する。
【0020】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車は、エンジン11およびモータ12を備えている。エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本第1の参考の形態では左右前輪FR,FL)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0021】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0022】
本第1の参考の形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置Aは、ペダルストロークセンサ21a(または圧力センサP)によって検出されたブレーキ操作状態(後述する)に基づいた回生制動力を各車輪FR,FL,RR,RLの何れか(本第1の参考の形態では駆動源であるモータ12によって駆動される左右前輪FR,FL)に発生させるものである。
【0023】
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。ハイブリッドECU19は、インバータ16が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。また、ハイブリッドECU19はバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0024】
また、ハイブリッド車は、直接各車輪FR,FL,RR,RLに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、図4に示すように、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダ23にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダ23と液圧制御弁31,41をそれぞれ介在した油経路Lf,Lrによって連結された各車輪FR,FL,RR,RLのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させるとともに、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成される制御液圧を各車輪FR,FL,RR,RLのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FR,FL,RR,RLに制御液圧制動力を発生可能に構成されたものである。
【0025】
この液圧ブレーキ装置Bは、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成してホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC1〜WC4との間に設けられて制御液圧を形成するブレーキアクチュエータ(制御液圧制動力発生装置)25を備えている。なお、ブレーキペダル21、負圧式ブースタ22、マスタシリンダ23、リザーバタンク24によって基礎液圧制動力発生装置が構成されている。
【0026】
図2および図3に示すように、ブレーキペダル21はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に接続され、負圧式ブースタ22はプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に接続されており、ブレーキペダル21に作用されたブレーキ操作力はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に入力され、倍力されてプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に入力されるようになっている。
【0027】
ブレーキペダル21は、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態であるブレーキペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ21aが設けられている。このペダルストロークセンサ21aはブレーキECU60に接続されており、検出信号がブレーキECU60に送信されるようになっている。さらに、ブレーキペダル21は、ブレーキ操作状態が所定状態(後述する)となるまでのブレーキペダル21のペダル反力を形成するペダル反力形成手段である反力用スプリング21bが備えられている。反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向(ブレーキペダル21が踏み込み前の元の位置に戻る方向)に付勢するようになっている。この反力用スプリング21bの付勢力は、マスタシリンダ23のハウジング23aの内径、倍力比などを考慮して設定されるのが望ましい。
【0028】
負圧式ブースタ22は、一般によく知られているものであり、負圧取入れ口22aがエンジン11の吸気マニホールドに連通しており、この吸気マニホールドの負圧を倍力源としている。
【0029】
基礎液圧制動力発生手段であるマスタシリンダ23は、図2および図3に示すように、タンデム式のマスタシリンダであり、有底筒状に形成されたハウジング23aと、ハウジング23a内を液密かつ摺動可能に並べて収納された第1および第2ピストン23b,23cと、第1ピストン23bと第2ピストン23cとの間に形成される第1液圧室23d内に配設された第1スプリング23eと、第2ピストン23cとハウジング23aの閉塞端との間に形成される第2液圧室23f内に配設された第2スプリング23gとから構成されている。これにより、第2ピストン23cは第2スプリング23gによって開口端側(第1ピストン23b側)に付勢され、第1ピストン23bは第1スプリング23eによって開口端側に付勢されて、第1ピストン23bの一端(開口端側端)がプッシュロッド27の先端に押圧されて当接するようになっている。
【0030】
マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dとリザーバタンク24とを連通するための第1ポート23hと、第2液圧室23fとリザーバタンク24とを連通するための第2ポート23iとが設けられている。第1ポート23hは、ブレーキペダル21から運転者の足が離れている状態すなわちブレーキペダル21が踏み込まれていない状態である第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第1ピストン23bの同ポート23hを閉塞する閉塞端から第1ピストン23bの増圧方向(閉塞端側の方向:図2において左方向)に所定距離sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に配設されている。第2ポート23iは、第1ピストン23bと同様に第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第2ピストン23cの第2ポート23iを閉塞する閉塞端が第2ポート23iの開口端に一致する位置(すなわち第2ピストン23cの閉塞端が第2ポート23iの開口を塞ぎ始める直前位置)に配設されている。
【0031】
なお、所定状態は、基礎液圧制動力の発生制限が解除されて、基礎液圧制動力がブレーキ操作状態に対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。また、所定距離sは、ブレーキ操作状態が所定状態であるときに回生ブレーキ装置Aが最大回生制動力を発生するように設定されることが望ましい。これにより、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合に、マスタシリンダ23は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生する。
【0032】
さらに、マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dと後輪系統を構成する油経路Lrとを連通するための第3ポート23jと、第2液圧室23fと前輪系統を構成する油経路Lfとを連通するための第4ポート23kとが設けられている。図4に示すように、油経路Lrは、第1液圧室23dと左右後輪RR,RLのホイールシリンダWC3,WC4とをそれぞれ連通するものであり、油経路Lfは、第2液圧室23fと左右前輪FR,FLのホイールシリンダWC1,WC2とをそれぞれ連通するものである。
【0033】
各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4は、マスタシリンダ23から油経路Lf,Lrを介して液圧(基礎液圧、制御液圧)が供給されると、各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対応してそれぞれ設けられた各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4を作動させて各車輪FR,FL,RR,RLに液圧制動力(基礎液圧制動力、制動液圧制動力)を付与する。各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制するようになっている。
【0034】
上述したマスタシリンダ23の作動を図2および図3を参照して説明する。図2に示すように、ブレーキペダル21が踏まれていない状態では、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されないため移動されず、したがって第1ピストン23bおよび第2ピストン23cも押されていないため、第1および第2液圧室23d,23fに基礎液圧は発生していない。
【0035】
しかし、踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21(図2参照)が、運転者によって踏み込まれると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン23bが押される。このとき、第1ピストン23bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離s以上移動するまでは第1ポート23hは第1ピストン23bの閉塞端による閉塞が開始されないため、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するので、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。また、第1ピストン23bの移動によって第1スプリング23eが押されて圧縮されるが、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しないため、第2ピストン23cは図面左方向(増圧方向)に押されないで第1位置に停止したままであり、第2ポート23iは第2ピストン23cの閉塞端による閉塞が開始されないので、第2液圧室23f内にも基礎液圧は発生しない。
【0036】
第1ピストン23bが図面左方向に所定距離sに第1ポート23hの直径を加算した値だけ移動すると第1ポート23hが第1ピストン23bの閉塞端によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。また、第2ピストン23cは、第1液圧室23d内に発生した基礎液圧によって図面左方向に押されて瞬時に閉塞端によって第2ポート23iを閉塞するため、第2液圧室23f内のブレーキ液は第2ポート23iを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第2液圧室23f内は密閉状態となるので、第2液圧室23f内にも基礎液圧の形成が開始される。
【0037】
このように第1および第2液圧室23d,23fにて基礎液圧の形成が開始される状態からさらにブレーキペダル21が踏まれて図3に示す踏み込み状態となると、基礎液圧形成開始状態から図3に示す踏み込み状態までの間は(基礎液圧形成開始状態以降においては)、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧が第1および第2液圧室23d,23fに発生するようになっている。なお、第1および第2液圧室23d,23fにそれぞれ発生する各基礎液圧は同一圧となるようになっている。なお、図3に示す踏み込み状態にあるブレーキペダル21から足を離すと、第1および第2ピストン23b,23cはそれぞれ第1および第2スプリング23e,23gの付勢力および各油経路Lr,Lf内圧力によって元の位置(第1位置)に戻るようになっている。
【0038】
上述したマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図5の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図5の実線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。
【0039】
次に、ブレーキアクチュエータ25について図4を参照して詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁31,41、ABS制御弁を構成する増圧制御弁32,33,42,43および減圧制御弁35,36,45,46、調圧リザーバ34,44、ポンプ37,47、モータMなどを一つのケースにパッケージすることにより構成されている。
【0040】
まず、ブレーキアクチュエータ25の前輪系統の構成について説明する。油経路Lfには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁31が備えられている。この液圧制御弁31は、ブレーキECU60により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁31は通常連通状態とされているが、差圧状態にすることによりホイールシリンダWC1,WC2側の油経路Lf2をマスタシリンダ23側の油経路Lf1よりも所定の差圧分高い圧力に保持することができる。この差圧はブレーキECU60により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0041】
油経路Lf2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC1へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁32が備えられ、他方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁33が備えられている。これら増圧制御弁32,33は、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、これら増圧制御弁32,33が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧または/およびポンプ37の駆動と液圧制御弁31の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWC1,WC2に加えることができる。また、増圧制御弁32,33は減圧制御弁35,36およびポンプ37とともにABS制御を実行することができる。
【0042】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧制御弁32,33は常時連通状態に制御されている。また、増圧制御弁32,33には、それぞれ安全弁32a,33aが並列に設けられており、ABS制御時においてブレーキペダル21を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWC1,WC2側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0043】
また、増圧制御弁32,33と各ホイールシリンダWC1,WC2との間における油経路Lf2は、油経路Lf3を介して調圧リザーバ34のリザーバ孔50cに連通されている。油経路Lf3には、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁35,36がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁35,36はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ34へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWC1,WC2におけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0044】
さらに、液圧制御弁31と増圧制御弁32,33との間における油経路Lf2と調圧リザーバ34のリザーバ孔50cとを結ぶ油経路Lf4にはポンプ37が安全弁37aと共に配設されている。そして、調圧リザーバ34のリザーバ孔50bを油経路Lf1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lf5が設けられている。ポンプ37は、ブレーキECU60の指令によりモータMによって駆動されるものである。ポンプ37は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ液または調圧リザーバ34に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁31を介してマスタシリンダ23に戻している。また、ポンプ37は、VSC制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの車両の姿勢を安定に制御するための制御液圧を形成する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁31に差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lf1,Lf5および調圧リザーバ34を介して吸い込んで油経路Lf4,Lf2および連通状態である増圧制御弁32,33を介して各ホイールシリンダWC1,WC2に吐出して制御液圧を付与している。なお、ポンプ37が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lf4のポンプ37の上流側にはアキュムレータ38が配設されている。
【0045】
また、油経路Lf1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lr1に設けるようにしてもよい。
【0046】
さらに、ブレーキアクチュエータ25の後輪系統も前述した前輪系統と同様な構成であり、後輪系統を構成する油経路Lrは油経路Lfと同様に油経路Lr1〜Lr5から構成されている。油経路Lrには液圧制御弁31と同様な液圧制御弁41、および調圧リザーバ34と同様な調圧リザーバ44が備えられている。ホイールシリンダWC3,WC4に連通する分岐した油経路Lr2,Lr2には増圧制御弁32,33と同様な増圧制御弁42,43が備えられ、油経路Lr3には減圧制御弁35,36と同様な減圧制御弁45,46が備えられている。油経路Lr4には、ポンプ37、安全弁37aおよびアキュムレータ38と同様なポンプ47、安全弁47aおよびアキュムレータ48が備えられている。なお、増圧制御弁42,43には、それぞれ安全弁32a,33aと同様な安全弁42a,43aが並列に設けられている。
【0047】
これにより、ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成された制御液圧を各車輪FR,FL,RR,RLのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FR,FL,RR,RLに制御液圧制動力を発生させることができる。
【0048】
さらに、調圧リザーバ34,44について図6および図7を参照して説明する。調圧リザーバ34,44を構成する調圧リザーバ50は、図6に示すように、ブレーキアクチュエータ25を構成するハウジング25aに内蔵されている。ハウジング25aには小径穴50a1および大径穴50a2から構成される段付穴50aが形成されている。小径穴50a1の一端(上端)には、マスタシリンダ23に連通する油経路Lf5(またはLr5)の一端が連通するリザーバ孔50bが形成されており、小径穴50a1の他端(下端)には、調圧弁51が配設されている。この調圧弁51は弁体であるボール弁51aおよび弁孔51b1を有する弁座51bから構成されている。ボール弁51aはスプリング52の付勢力によって弁座51bに押圧されて弁孔51b1を閉塞するようになっている(図7参照)。
【0049】
大径穴50a2の一端(上端)には、ポンプ37(またはポンプ47)の吸入ポートに連通する油経路Lf3(またはLr3)の一端が連通するリザーバ孔50cが形成されており、大径穴50a2の他端には、その開口部を閉塞するための閉塞部材53が固定されている。大径穴50a2内には、ピストン54が液密かつ摺動可能に収納されている。ピストン54の一端面(上端面)には弁座51bの弁孔51b1内を往復動するとともに突出した先端がボール弁51aに当接して上下に移動させるピン55が一体的に取り付けられている。ピストン54は閉塞部材53との間に配設されたスプリング56の付勢力(スプリング52の付勢力より大となるように設定されている。)によって一端側(上方向)に押され、大径穴50a2の上端面に当接するようになっている(図6参照)。このとき、ピン55の先端が弁座51bより所定量S0だけ突出するように設定されているので、ボール弁51aは弁座51bの座面に対して所定量S0だけストロークできるようになっている。なお、段付穴50a内には調圧弁51とピストン54との間にブレーキ液が貯液されるリザーバ室50dが形成されるようになっている。
【0050】
このように、調圧リザーバ50は、リザーバ室50d内に収容されているブレーキ液が所定量(所定量S0のストロークに相当する量である。)未満であるときには、ピン55の先端がボール弁51aを押して弁孔51b1を開き、リザーバ室50d内が所定量のブレーキ液で満たされるとボール弁51aにて弁孔51b1が閉じられるようになっている(図7参照)。この調圧リザーバ50の作動について詳述する。
【0051】
まず、ブレーキペダル21が踏込まれておらずマスタシリンダ圧(基礎液圧)が形成されておらず、かつブレーキアクチュエータ25が作動しておらず制動液圧が形成されていない場合、調圧リザーバ50のピストン54はスプリング56の付勢力によってその上端面が大径穴50a2の上端面に当接しており、ボール弁51aは弁座51bの座面に対して所定量S0だけ上方に位置している(図6参照)。
【0052】
ポンプ37,47の駆動を伴わないノーマルブレーキ時には、差圧制御弁31,41、および増圧制御弁32,33,42,43は連通状態とされ、減圧制御弁35,36,45,46は遮断状態とされている。このため、ブレーキペダル21の踏み込みによって発生したマスタシリンダ圧がそのままホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与される。このとき、マスタシリンダからのブレーキ液は、油経路Lf5,Lr5、および各リザーバ孔50bを通り、弁孔51b1を通ってリザーバ室50d内に流入する。しかし、流入量の増加に伴ってピストン54がスプリング56の付勢力に抗して所定量S0だけ押し下げられると、ピン55によって支持されているボール弁51aも移動され弁座51bに圧接されて弁孔51b1が閉塞される(図7参照)。これにより、マスタシリンダ圧がポンプ37,47の吸入ポートにかからないようになっている。なお、調圧弁51が閉塞して始めてブレーキ操作状態に対応したマスタシリンダ圧(基礎液圧)がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与されるようになるが、閉塞するまでの間は、マスタシリンダ23からのブレーキ液は調圧弁51を通ってリザーバ室50dに流入するため、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧が各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されない。しかし、この所定量S0は極微少であり、基礎液圧発生に大きな問題は与えない。
【0053】
例えばブレーキペダル21の踏み込みをアシストするようにブレーキ液圧(制御液圧)を発生させる場合には、差圧制御弁31,41は差圧状態にされる。これにより、油経路Lf5,Lr5および各リザーバ孔50bを介してリザーバ室50d内に油経路Lf1,Lr1からのブレーキ液が流入される。そして、ポンプ37,47にてリザーバ室50d内のブレーキ液を吸入吐出して、油経路Lf2,Lr2にブレーキ液を供給し、差圧状態とされる差圧制御弁31,41によってホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より高く維持する。なお、ポンプ吸引能力がリザーバ室50d内に流入するブレーキ液量に追いつかずにリザーバ室50d内に所定量のブレーキ液が貯留された場合(ABS制御によるホイールシリンダ圧の減圧も含む。)には、ボール弁51aが弁座51bに着座し、油経路Lf1,Lr1(マスタシリンダ23)とポンプ37,47の吸入側とを遮断する。そして、リザーバ室50d内のブレーキ液がポンプ37,47にて吸引されると、リザーバ室50d内のブレーキ液量が少なくなり、ピン55がボール弁51aを押し上げてマスタシリンダ側からリザーバ室50dにブレーキ液が供給される。
【0054】
そして、車両用ブレーキ装置は、ペダルストロークセンサ21a、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度をそれぞれ検出する各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srr、圧力センサP、各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46,モータMに接続されたブレーキECU(電子制御ユニット)60を備えている。ブレーキECU60は、これら各センサによる検出及びシフトスイッチの状態に基づき、液圧ブレーキ装置Bの各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46の状態を切り換え制御または通電電流制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する制御液圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制御液圧制動力を制御する。
【0055】
さらに、ブレーキECU60はハイブリッドECU19に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ12が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU60は運転者の制動要求すなわち制動操作状態に対して、ハイブリッドECU19に全制動力のうち回生ブレーキ装置の負担分である回生要求値を回生ブレーキ装置の目標値すなわち目標回生制動力として出力する。ハイブリッドECU19は、入力した回生要求値(目標回生制動力)に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる実回生実行値を導出しその実回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、導出した実回生実行値をブレーキECU60に出力している。
【0056】
さらに、ブレーキECU60は、基礎液圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されたとき、ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4が車輪FL,FR,RL,RRに付与する基礎液圧制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60は、ブレーキペダルのストローク(またはマスタシリンダ圧)であるブレーキ操作状態に応じて車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60には、図8に示す協調制御プログラム(車両用ブレーキ制御プログラム)が記憶されている。
【0057】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ装置の作動を図8のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU60は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。ブレーキECU60は、ブレーキペダル21の操作状態であるペダルストロークをペダルストロークセンサ21aから入力し(ステップ102)、入力したペダルストロークに応じた目標回生制動力を演算する(ステップ104)。このとき、ブレーキECU60は、予め記憶しておいたペダルストロークすなわちブレーキ操作状態と車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を使用する。
【0058】
目標回生制動力が0より大きい場合には、ステップ104にて演算した目標回生制動力をハイブリッドECU19に出力するとともに、ブレーキアクチュエータ25に対して制御を行わない(ステップ106,108)。したがって、ブレーキペダル21が踏まれている場合、前述した場合と同様に、液圧ブレーキ装置Bは車輪FL,FR,RL,RRf,23rに基礎液圧制動力(静圧ブレーキ)のみを付与する。また、ハイブリッドECU19は、目標回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、実回生実行値をブレーキECU60に出力している。したがって、ブレーキ操作がされて、かつ目標回生制動力が0より大きい場合には、車輪FL,FR,RL,RRには基礎液圧制動力に回生制動力が上乗せされて付与される。このように回生協調制御が実行されるが、このとき基礎液圧制動力と回生制動力はブレーキ操作力に応じているので、その一例が図5に示されている。図5には、回生協調制御時のブレーキ操作力と、基礎液圧制動力と回生制動力との総和を示す制動力との相関関係が示されている。
【0059】
すなわち、本第1の参考の形態によるマスタシリンダ23(基礎液圧制動力発生制限手段)によれば、ブレーキペダル21の踏み込み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、図5に示すように、踏み込み開始状態から所定状態までの間は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限されるので、この間回生制動力のみがブレーキ操作状態に応じて付与される。また、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生するので、最大回生制動力のみが付与される。さらに、ブレーキ操作状態が所定状態より踏み込み状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限の解除が維持されて、液圧ブレーキ装置Bと回生ブレーキ装置Aとを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力(基本的には最大回生制動力である。)に基づいてブレーキ操作状態に対応した車両制動力が付与される。
【0060】
ブレーキECU60は、回生ブレーキ装置Aによって実際に生成された回生制動力の変動を検出する(ステップ110〜114)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置Aが実際に車輪FL,FR,RL,RRに付与した実回生制動力を示す実回生実行値を入力し(ステップ110)、ステップ104にて演算された目標回生制動力とステップ110にて入力された実回生制動力の差を演算し(ステップ112)、この演算された差が所定値aより大きければ、回生制動力が変動したことを検出する(ステップ114)。
【0061】
そして、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出すると、ステップ114にてYESと判定し、液圧ブレーキ装置Bのポンプ37,47を駆動させるとともに液圧制御弁31,41を制御することによって制御液圧を形成して車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧に基づく制御液圧制動力を付与することにより、上述のように検出された回生制動力の変動による制動力の不足を補償する(ステップ116)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標際動力と、ステップ110にて入力された実回生制動力との差、すなわちステップ112にて演算された差に相当する液圧となるように制御液圧を制御する。ブレーキECU60は、モータMを起動してポンプ37,47を駆動し、ポンプ37,47からホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されるブレーキ液の液圧が制御液圧となるように差圧制御弁31,41のリニアソレノイドに電流を印加する。このとき、リニアソレノイド33は液圧センサ40により検出されたホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧が制御液圧となるようにフィードバック制御されるのがより好ましい。一方、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出しない場合には、ステップ114にてNOと判定し、ブレーキアクチュエータ25の制御を停止する(ステップ118)。
【0062】
上述した説明から明らかなように、本第1の参考の形態によれば、基礎液圧制動力発生制限手段であるマスタシリンダ23が、ブレーキペダル21の踏み込み時に、ブレーキ操作状態(ペダルストローク)が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態(第1位置)から所定状態(第2位置)となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値(0)以下となるようにその発生を制限する。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、踏み込み開始状態から所定状態までの間は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。一方、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0063】
また、ブレーキ操作状態(ブレーキペダル21のペダルストローク)が所定状態(マスタシリンダ23の第1ポート23hが閉塞された状態)となった場合に、マスタシリンダ23(基礎液圧制動力発生制限手段)は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生するので、基礎液圧制動力の発生を制限する領域をできるだけ長く確保することができる。したがって、基礎液圧制動力の発生をできるだけ遅延させて、ブレーキペダル21の踏み込み中の全領域に渡って回生制動力を最大限、無駄なく利用することができる。
【0064】
また、基礎液圧制動力発生制限手段は、マスタシリンダ23から構成され、マスタシリンダ23は、このマスタシリンダ23の第1液圧室23dに設けられてリザーバタンク24と連通する第1ポート23hを、同ポート23hを閉塞する第1ピストン23bの閉塞端の踏み込み開始状態に対応した第1位置から第1ピストン23bの増圧方向に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に設けたので、簡単な構成にて基礎液圧制動力の発生を制限することができる。
【0065】
また、液圧ブレーキ装置Bは、ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成される制御液圧を各車輪FR,FL,RR,RLのホイールシリンダWC1,WC,2,WC3,WC4に付与することにより同各車輪FR,FL,RR,RLに制御液圧制動力を発生可能に構成されており、基礎液圧制動力発生制限手段(マスタシリンダ23)にて基礎液圧制動力の発生が制限されている場合に、実際の回生制動力の変動が検出されると、ポンプ37,47を駆動させるとともに液圧制御弁31,41を制御することによって制御液圧を形成し、車輪FR,FL,RR,RLに同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段(図8のステップ112〜116)を備えたので、回生制動力の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0066】
また、ブレーキ操作状態は、ブレーキペダル21のストロークを検出するペダルストロークセンサ(ブレーキペダルストロークセンサ)21aによって検出するので、ペダルストロークセンサ21aによってブレーキ操作状態を確実かつ直接的に検出することができ、確実にブレーキ操作状態に応じて基礎液圧制御力を制限することができる。なお、上述した第1の参考の形態において、ブレーキ操作状態は、マスタシリンダ23のストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサ23zによって検出するようにしてもよい。マスタシリンダストロークセンサ23zはブレーキECU60に検出信号を送信するようになっている。この場合にも、マスタシリンダストロークセンサ232zによってブレーキ操作状態を確実かつ直接的に検出することができ、確実にブレーキ操作状態に応じて基礎液圧制御力を制限することができる。
【0067】
また、ブレーキ操作状態が所定状態となるまでのブレーキペダル21のペダル反力を形成するペダル反力形成手段である反力用スプリング21bを備えたので、ブレーキペダル21が踏み込まれてブレーキ操作状態が所定状態となるまでの間、運転者は良好なペダルフィーリングを感じることができる。
【0068】
2)第2の参考の形態
上述した第1の参考の形態においては、基礎液圧制動力発生制限手段はマスタシリンダ23から構成され、このマスタシリンダ23の第1液圧室23dに設けられてリザーバタンク24と連通する第1ポート23hを、同ポート23hを閉塞する第1ピストン23bの閉塞端の踏み込み開始状態に対応した第1位置から第1ピストン23bの増圧方向に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に設けるようにしたが、これに代えて、基礎液圧制動力発生制限手段は液圧ブレーキ装置Bを構成するポンプ37,47の各吸入ポートとマスタシリンダ23とを連通する油経路Lf4,Lf5および油経路Lr4,Lr5にそれぞれ設けられた調圧リザーバ34,44(調圧リザーバ50)から構成されるようにしてもよい。この調圧リザーバ50は液圧導入部であり、液圧導入部は、油経路Lf,Lr上に設けられて、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間においてはマスタシリンダ23からの基礎液圧を導入して基礎液圧制動力の発生を所定値以下に制限し、ブレーキ操作状態が所定状態以降となった場合においてはマスタシリンダ23からの基礎液圧の導入を規制して基礎液圧制動力の発生の制限を解除するものである。
【0069】
具体的には、調圧リザーバ50は、図9に示すように、調圧リザーバ50の調圧弁51を構成するボール弁51aが、踏み込み開始状態にはボール弁51aが弁孔51b1を有する弁座51bに当接して同弁孔51b1を閉塞する弁閉位置(図7参照)から弁開方向(上方向)に所定距離S1だけ離れた位置となるように、所定状態には弁閉位置となるように位置決めされるようになっている。すなわちピン55が上述した第1の参考の形態よりS1−S0だけ長くなるように設定されている。さらに、マスタシリンダ23の第1ポート23hは、上述した第2ポート23iと同様に、ブレーキペダル21から運転者の足が離れている状態すなわちブレーキペダル21が踏み込まれていない状態である第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第1ピストン23bの同ポート23hを閉塞する閉塞端が第1ポート23hの開口端に一致する位置(すなわち第1ピストン23bの閉塞端が第1ポート23hの開口を塞ぎ始める直前位置)に配設されている。
【0070】
このように構成した液圧ブレーキ装置Bの作動を調圧リザーバ50の作動を主として図7および図9を参照して説明する。まず、ブレーキペダル21が踏込まれておらずマスタシリンダ圧(基礎液圧)が形成されておらず、かつブレーキアクチュエータ25が作動しておらず制動液圧が形成されていない場合、調圧リザーバ50のピストン54はスプリング56の付勢力によってその上端面が大径穴50a2の上端面に当接しており、ボール弁51aは弁座51bの座面に対して所定量S1だけ上方に位置している(図9参照)。
【0071】
ポンプ37,47の駆動を伴わないノーマルブレーキ時には、差圧制御弁31,41、および増圧制御弁32,33,42,43は連通状態とされ、減圧制御弁35,36,45,46は遮断状態とされている。このため、ブレーキペダル21の踏み込みによって発生したマスタシリンダ圧がそのままホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与される。このとき、マスタシリンダからのブレーキ液は、油経路Lf5,Lr5、および各リザーバ孔50bを通り、弁孔51b1を通ってリザーバ室50d内に流入する。しかし、流入量の増加に伴ってピストン54がスプリング56の付勢力に抗して所定量S1だけ押し下げられると、ピン55によって支持されているボール弁51aも移動され弁座51bに圧接されて弁孔51b1が閉塞される(図7参照)。これにより、マスタシリンダ圧がポンプ37,47の吸入ポートにかからないようになっている。
【0072】
なお、調圧弁51が閉塞して始めて(所定状態となって始めて)ブレーキ操作状態に対応したマスタシリンダ圧(基礎液圧)がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与されるようになるが、閉塞するまで(所定状態となるまで)の間は、マスタシリンダ23からのブレーキ液は調圧弁51を通ってリザーバ室50dに流入するため、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧が各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されない。このとき、ブレーキ液が調圧リザーバ50に入るため、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧ほど大きくないが液圧が発生するので、その液圧が各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与される。
【0073】
この液圧ブレーキ装置Aによって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図10の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から調圧弁51を閉塞する(閉状態とする)位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキ操作状態に対応しているが、調圧弁51が開いているため発生した基礎液圧は調圧弁51を通って調圧リザーバ50によって吸収されて各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されない。したがって、基礎液圧制動力の発生が制限される。そして、ブレーキペダルストロークが調圧弁51を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧制動力の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与さるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、調圧弁51の閉状態開始位置に位置する状態すなわち調圧弁51のボール弁51aが弁座51bに当接する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図10の実線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。本第2の参考の形態によっても、新たに装置を加えることなく、従来から存在するブレーキアクチュエータ(自動加圧装置)25を利用することにより、簡単な構成にて基礎液圧制動力の発生を制限することができる。
【0074】
なお、上述した第2の参考の形態においては、液圧導入部として調圧リザーバ50を採用したが、油経路Lf,Lr上に設けられて、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間においてはマスタシリンダ23からの基礎液圧を導入して基礎液圧制動力の発生を所定値以下に制限し、ブレーキ操作状態が所定状態以降となった場合においてはマスタシリンダ23からの基礎液圧の導入を規制して基礎液圧制動力の発生の制限を解除するものであれば、他の構成部材を採用するようにしてもよい。
【0075】
3)第1の実施の形態
上述した第1の参考の形態においては、基礎液圧制動力発生制限手段はマスタシリンダ23から構成され、このマスタシリンダ23の第1液圧室23dに設けられてリザーバタンク24と連通する第1ポート23hを、同ポート23hを閉塞する第1ピストン23bの閉塞端の踏み込み開始状態に対応した第1位置から第1ピストン23bの増圧方向に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に設けるようにしたが、これに代えて、基礎液圧制動力発生制限手段はブレーキペダル21とマスタシリンダ23の第1ピストン23bとの間に両部材21,23bを連結するために設けられた連結部材(例えば、オペレーティングロッド26、プッシュロッド27など)から構成されるようにしてもよい。連結部材としてオペレーティングロッド26を採用した場合について説明する。
【0076】
具体的には、オペレーティングロッド26は、図11に示すように、ブレーキ操作状態が踏み込み開始状態から所定状態までの間はブレーキペダル21に付与された操作力をマスタシリンダ23の第1ピストン23bに伝達しないようにし、所定状態以降はブレーキペダル21に付与された操作力をマスタシリンダ23の第1ピストン23bに伝達するように構成された操作力伝達機構70を備えるようになっている。操作力伝達機構70は、オペレーティングロッド26を構成する第1オペレーティングロッド26aと第2オペレーティングロッド26bの接合部に設けられている。一端にブレーキペダル21が取り付けられている第1オペレーティングロッド26aの他端部には筒部71が形成され、第2オペレーティングロッド26bの一端部には筒部71内に摺動可能に往復動するように収納される筒状係合部72が形成されている。筒状係合部72は筒部71から抜けないようになっている。さらに、筒部71と筒状係合部72との間には往復動方向に両部材を付勢するスプリング73が収納されている。なお、マスタシリンダ23は第2の参考の形態と同様に構成され、調圧リザーバ50は第1の参考の形態と同様に構成されている。
【0077】
このように構成した連結部材を有する液圧ブレーキ装置Bの作動を説明する。まず、ブレーキペダル21が踏込まれておらずマスタシリンダ圧(基礎液圧)が形成されておらず、かつブレーキアクチュエータ25が作動しておらず制動液圧が形成されていない場合、操作力伝達機構70は、図11の状態であり、オペレーティングロッド26はスプリング73の付勢力によって最大長となっている。
【0078】
ブレーキペダル21が踏まれると、操作力によって第1オペレーティングロッド26aはスプリング73の付勢力に抗して第2オペレーティングロッド26bの方に移動される。このとき、スプリング73の付勢力は第2オペレーティングロッド26bを元に戻す負圧式ブースタ22のリターンスプリングおよびマスタシリンダ23のスプリング23e,23gの各付勢力より小となるように設定されているので、スプリング73は圧縮されるが第2オペレーティングロッド26bは移動されない。すなわち、マスタシリンダ23にてマスタシリンダ圧が形成されるのが制限されるため、マスタシリンダ圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与されない。
【0079】
さらに、ブレーキペダル21が踏まれて筒状係合部72が筒部71の一端面に当接すると、それ以降操作力によって第1オペレーティングロッド26aとともに第2オペレーティングロッド26bが移動される。すなわち、マスタシリンダ23にてマスタシリンダ圧が形成され始め、ブレーキペダル21の踏み込みによって発生したマスタシリンダ圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与される。そして、ブレーキペダル21の踏み込みが解除されると、スプリング73の付勢力によって操作力伝達機構70は図11の状態に戻される。
【0080】
この液圧ブレーキ装置Aによって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図5の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1オペレーティングロッド26aが第2オペレーティングロッド26bに当接する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが、第1オペレーティングロッド26aが第2オペレーティングロッド26bに当接する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、第1オペレーティングロッド26aが第2オペレーティングロッド26bに当接する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図5の実線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。本第1の実施の形態によっても、簡単な構成にて基礎液圧制動力の発生を制限することができる。
【0081】
なお、上述した各参考の形態および実施の形態においては、ペダル反力手段として、図12に示すように、反力アクチュエータ80を採用してもよい。反力アクチュエータ80は、ブレーキペダル21に対して踏み込み方向と逆方向に力(つまりペダル反力)を加えるスプリング80aと、ブレーキECU43によって駆動されるモータ80bとを有して構成されている。これらの構成により、スプリング80aによるペダル反力をモータ80bによって調整し、ペダル反力を可変できるようになっている。反力アクチュエータ80は、ブレーキECU60の演算結果に応じてブレーキペダル21に対してペダル反力を付加するものである。
【0082】
また、上述した各参考の形態および実施の形態においては、ブレーキ配管系は前後分割方式にて構成されているが、X配管方式にて構成されるようにしてもよい。
【0083】
また、上述した各参考の形態および実施の形態においては、ブレーキ操作状態が所定状態以降において、ブレーキ操作状態としてペダルストロークおよびマスタシリンダ圧の大きいほうを選択して制御に使用するようにしてもよい。
【0084】
また、上述した各参考の形態および実施の形態では、倍力装置として負圧式ブースタを用いているが、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧をピストンに作用させてブレーキペダル21に作用するペダル踏力を倍力してもよい。
【0085】
また、本発明は、ハイブリッド車だけでなく、駆動源としてモータのみを搭載するとともに負圧式ブースタ付きのマスタシリンダを有する車両用ブレーキ装置を搭載した車両にも適用可能である。この場合、負圧源が必要となる。
【符号の説明】
【0086】
11…エンジン、12…モータ、13…動力分割機構、14…動力伝達機構、15…発電機、16…インバータ、17…バッテリ、18…エンジンECU、19…ハイブリッドECU、21…ブレーキペダル、21a…ペダルストロークセンサ、21b…反力用スプリング、22…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、23a…ハウジング、23b,23c…第1および第2ピストン、23d…第1液圧室、23e…第1スプリング、23f…第2液圧室、23g…第2スプリング、23h…第1ポート、23i…第2ポート、23j…第3ポート、23k…第4ポート、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、26…オペレーティングロッド、27…プッシュロッド、31,41…液圧制御弁、32,33,42,43…増圧制御弁、35,36,45,46…減圧制御弁、34,44,50…調圧リザーバ、37,47…ポンプ、50a…段付穴、50a1…小径穴、50a2…大径穴、50b,50c…リザーバ孔、50d…リザーバ室、51…調圧弁、51a…ボール弁、51b…弁座、51b1…弁孔、52…スプリング、53…閉塞部材、54…ピストン、55…ピン、56…スプリング、60…ブレーキECU、70…操作力伝達機構、26a…第1オペレーティングロッド、26b…第2オペレーティングロッド、71…筒部、72…筒状係合部、73…スプリング、80…反力アクチュエータ、80a…スプリング、80b…モータ、A…回生ブレーキ装置、B…液圧ブレーキ装置、BK1,BK2,BK3,BK4…ブレーキ手段、FR,FL,RR,RL…車輪、Lf,Lr…油経路、M…モータ、P…圧力センサ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WC1,WC2,WC3,WC4…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキ操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの踏み込み時に、前記ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は前記基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する基礎液圧制動力発生制限手段をさらに備え
前記基礎液圧制動力発生制限手段は、前記ブレーキペダルと前記マスタシリンダのピストンとの間に両部材を連結するために設けられた連結部材から構成され、
前記連結部材は、前記ブレーキ操作状態が前記踏み込み開始状態から前記所定状態までの間は前記ブレーキペダルに付与された操作力を前記ピストンに伝達しないようにし、前記所定状態以降は前記ブレーキペダルに付与された操作力を前記ピストンに伝達するように構成された操作力伝達機構を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ブレーキ操作状態が前記所定状態となった場合に、前記基礎液圧制動力発生制限手段は前記基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、前記回生ブレーキ装置は最大回生制動力を発生することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記操作力伝達機構は、前記連結部材を構成する第1ロッドと第2ロッドの接合部に設けられており、
前記第1ロッドの一端に前記ブレーキペダルが接続されるとともに前記第1ロッドの他端に筒部が形成され、
前記第2ロッドの一端に前記筒部と摺動可能に往復動する筒状係合部が形成されるとともに前記第2ロッドの他端に前記ピストンが接続され、
前記筒部と前記筒状係合部との間に両部材を付勢するスプリングが収納されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記液圧ブレーキ装置は、前記マスタシリンダまたは前記ホイールシリンダからのブレーキ液を貯液する調圧リザーバと、前記ホイールシリンダからのブレーキ液または前記調圧リザーバに貯液されているブレーキ液を吸い込んで前記マスタシリンダへ吐出するポンプとをさらに備えており、前記ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立して前記ポンプの駆動と前記液圧制御弁の制御によって形成される制御液圧を前記各ホイールシリンダに付与することにより同各ホイールシリンダに対応する各車輪に制御液圧制動力を発生可能に構成され、
前記基礎液圧制動力発生制限手段にて基礎液圧制動力の発生が制限されている場合に、実際の回生制動力の変動が検出されると、前記ポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、検出された前記変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記ブレーキ操作状態は、前記ブレーキペダルのストロークを検出するブレーキペダルストロークセンサまたは前記マスタシリンダのストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサによって検出することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項において、前記ブレーキ操作状態が前記所定状態となるまでの前記ブレーキペダルのペダル反力を形成するペダル反力形成手段を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−202188(P2010−202188A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76834(P2010−76834)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【分割の表示】特願2009−106578(P2009−106578)の分割
【原出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】