車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立する。
【解決手段】所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留され、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。
【解決手段】所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留され、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、第1駆動力源と第2駆動力源とで走行に用いられる駆動力源が切り換えられる際の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置がそれである。この車両用駆動装置においては、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し第1電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2電動機とを備え、エンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低トルク域ではエンジンを用いて走行するエンジン走行からエンジンを用いず第2電動機を用いて走行するモータ走行へ切り換えられるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、動力源としてのエンジン及び電動モータと、動力源と駆動輪との間に変速比を変更可能な自動変速機とを備え、動力源の作動状態が異なる複数の運転モードで走行するハイブリッド車両において、運転モードの切換制御と変速制御とが重複して要求されたときは一方の制御の終了後に他方の制御を開始することで各制御が同時に行われることに起因するショックの発生を防止する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、エンジンと電動機とを備えた車両の自動変速機の変速制御装置において、自動変速機がクラッチツウクラッチ変速の場合、動力伝達状態がパワーオン状態(駆動状態)かパワーオフ状態(被駆動状態)かによって油圧制御の態様が異なっており、駆動状態か被駆動状態かがはっきりしない曖昧な車両状態では変速制御が難しくなることから、曖昧な状態であるときは電動機により入力軸に正又は負のトルクを負荷することにより一時的に明確な駆動状態か被駆動状態かの何れかに固定する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、駆動源としてエンジンと電動機とを備えると共に、係合装置の係合により所定の変速段を達成する自動変速機を備え、エンジンと電動機の合計トルクが自動変速機に入力されるハイブリッド車において、パワーオン状態となる領域とパワーオフ状態となる領域とを挟んだ領域では、パワーオン側に電動機の回生を禁止する領域を設け、パワーオフ側に電動機のアシストを禁止する領域を設けることで、電動機のトルク変化によるパワーオン・オフの逆転現象を回避し、変速ショックを防止する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−94617号公報
【特許文献2】特開平10−2241号公報
【特許文献3】特開2000−127801号公報
【特許文献4】特開2004−153939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生する場合、例えば駆動力源を効率の良い領域で作動させる為に各駆動力源に応じて予め設定された変速部の変速比が駆動力源の切換えに伴って変更される場合、駆動力源の切換えと変速部の変速とを同時に実施することは制御が複雑で難しい為前述した特許文献2に開示されたように駆動力源の切換え後に変速部の変速を実行する所謂シーケンス制御を実行することが考えられる。しかしながら、変速部の変速自体の制御が難しい為に変速ショックが発生する可能性があった。また、このような課題とは別に、ここでの変速部の変速は、例えば駆動力源が切り換えられた際にその切換え後に用いられる駆動力源が効率の良い動作点で作動させられる為の変速比の変更であることから、この変速部の変速を実行しない場合には、その変速前の変速比が駆動力源にとって最適でない影響で燃費が悪化する可能性があった。尚、これらの課題は未公知である。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、(c) 前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留する一方で、他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行することにある。
【0010】
また、好適には、前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行する。
【0011】
また、前記目的を達成するための他の発明の要旨とするところは、(a) 第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、(c) 前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留し、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行することにある。
【0012】
また、好適には、他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行する。
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に前記変速部の変速比の変更が発生するような所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速が保留される一方で、他の所定の条件では駆動力源の切換えと変速部の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときにはシーケンス制御により駆動力源の切換えと変速部の変速とが順に実行され、また例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行される。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0014】
また、前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば上記変速ショックが隠せるようなときや変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときには保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が抑制される。
【0015】
また、他の発明では、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するような所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速が保留され、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときには保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。
【0016】
また、他の所定の条件では前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときには変速部の変速が保留されることなくシーケンス制御により駆動力源の切換えと変速部の変速とが順に実行されて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が一層抑制される。
【0017】
ここで、好適には、前記所定の解除条件は、車輪に制動力を付与する制動装置が作動させられたか否かであり、前記制動装置が作動させられたときに前記変速の保留を解除する。このようにすれば、上記制動装置の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留されていた変速の実行に伴う上記変速ショックが隠されるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0018】
また、好適には、前記所定の解除条件は、アクセルペダルが全閉と判断されるアクセルオフとされたか否かであり、前記アクセルオフとされたときに前記変速の保留を解除する。このようにすれば、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい変速部の変速が明確なパワーオフ状態での変速とされ、変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0019】
また、好適には、前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とが同時に発生した場合である。このようにすれば、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態における変速のように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0020】
また、好適には、前記所定の条件は、コースト走行時に前記駆動力源の切換えと前記変速部のダウンシフトとが同時に発生した場合である。このようにすれば、コースト走行時におけるダウンシフトのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0021】
また、好適には、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでは前記所定の車両状態において異なる前記変速部の変速比が予め設定されている。このようにすれば、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでそれぞれ効率の良い動作点で駆動力源が作動させられるので、燃費が向上する。
【0022】
また、好適には、前記変速の保留中は、前記駆動力源の動作点が変更される。このようにすれば、例えば変速保留中の変速部の変速比に合わせて駆動力源の等パワーが維持される動作点で作動させられるので、走行性能が維持される。
【0023】
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機である。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行とを切り換える駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制するか、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる。
【0024】
また、好適には、前記エンジンを用いず前記電動機を用いて走行する電動機走行は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において前記電動機の効率に基づいて低速側の変速比が設定されている。このようにすれば、エンジン走行におけるエンジンと電動機走行における電動機とがそれぞれ効率の良い動作点で作動させられるので、燃費が向上する。
【0025】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置は、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを備える。このようにすれば、エンジン、電気式差動部、自動変速部、走行用電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。
【0026】
また、好適には、前記電気式差動部は、前記差動用電動機の運転状態が制御されることにより無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する電気式差動部を備えた実用的な駆動装置において、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。また、電気式差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、電気式差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0027】
また、好適には、前記自動変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
【0028】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0029】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0030】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0031】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の第1駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0034】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0035】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。
【0036】
本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れも電力授受可能に構成されたものである。すなわち、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは何れも主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0037】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0038】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0039】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。このように構成された動力分配機構16は、それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放されると、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0040】
この状態で、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態(差動制限状態)とされる。具体的には、切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。尚、動力分配機構16は切換クラッチC0または切換ブレーキB0が滑らされるスリップ係合状態とされることもあり、切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられた動力分配機構16の非差動状態も上記スリップ係合状態も、差動部11(動力分配機構16)の予め定められた差動状態つまり差動部遊星歯車装置24の3要素S0,CA0,R0が自由に相対回転可能な差動状態が得られない差動制限状態であると言える。また本実施例では、動力分配機構16の差動可能状態は切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放され差動部遊星歯車装置24の3要素が自由に相対回転可能な差動状態であるとして説明しているので、上記差動可能状態には差動制限状態は含まれない。
【0041】
このように、本実施例では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。言い換えれば、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は差動部11(動力分配機構16)を非差動状態やスリップ係合状態を含む差動制限状態にすることができる差動制限装置として機能している。
【0042】
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0043】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0044】
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、動力分配機構16(差動部11)と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部に設けられた動力伝達を選択的に遮断可能な係合装置であり、すなわち、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0045】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている係合装置すなわち油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0046】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置10では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0047】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0048】
一方、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γT(=エンジン回転速度NE/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られるようになる。
【0049】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0050】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0051】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されると共に切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されると共に切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0052】
例えば、差動部11において上記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動可能状態)に切換えられたときは、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされるので、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0053】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0054】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速(5th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0055】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0056】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキスイッチ44により検出された車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)に制動力を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)40の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダル42(図6参照)の操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ48により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル46(図6参照)の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0057】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0058】
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0059】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0060】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0061】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0062】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0063】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0064】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0065】
ハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段86は、動力伝達装置10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0067】
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0068】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた例えば図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0069】
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0070】
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
【0071】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0072】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0074】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
【0076】
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図7の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0077】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0078】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0079】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0080】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0081】
増速側ギヤ段判定手段88は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段84に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0082】
切換制御手段90は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段90は、記憶手段84に予め記憶された前記図7の破線及び二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速V及び要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
【0083】
具体的には、切換制御手段90は、有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力すると共に、有段変速制御手段82に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段82は、記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば記憶手段84に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11及び自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0084】
例えば、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路70へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。このように、切換制御手段90によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられると共に、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0085】
一方、切換制御手段90は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力すると共に、有段変速制御手段82には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段82により、図2の係合表内において切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段90により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0086】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段84に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、一点鎖線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図7の変速線図における変速線は、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。
【0087】
また、図7の破線は切換制御手段90による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1及び判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。
【0088】
つまり、この図7は切換制御手段90により有段制御領域と無段制御領域との何れであるかを領域判定する基となる記憶手段84に予め記憶された高車速判定線及び高出力走行判定線を有する関係(切換線図、切換マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された切換線図の一例である。見方を換えれば、高車速判定線及び高出力走行判定線は、差動部11を差動状態と差動制限状態との間で切り換える為の切換線であり、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち切換線上の切換を実行すべき値(切換点、判定車速V1或いは判定出力トルクT1)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この切換点の連なりとして予め記憶されている。尚、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段84に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1及び判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速V及び出力トルクTOUTの何れかを変数とする予め記憶された切換線であってもよい。
【0089】
また、判定車速V1は、例えば高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0090】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく例えば実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段90は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段90は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
【0091】
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0092】
これによって、例えば、車両の低中速走行及び低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行及び低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の動力伝達装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
【0093】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪34での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪34の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0094】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、切換制御手段90により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段86により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行される。
【0095】
尚、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ54、蓄電装置56、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段90は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0096】
ここで、エンジン8と第2電動機M2とでは効率の良い動作点(例えば、回転速度と出力トルクとで表される運転点)が異なっている。例えば、エンジン8は、図8に示した最適燃費率曲線からも明らかなように高出力トルク、低回転速度域にて効率が良くなる。また、第2電動機M2は、第2電動機回転速度NM2と第2電動機トルクTM2とを変数とする二次元座標内において予め実験的に定められた例えば図9に示す第2電動機M2の等効率線(マップ、関係)において第2電動機M2の動作点が斜線(破線)部分に近くなる程効率が良くなることを示していることからも明らかなように、力行時、回生時共に低出力トルク、高回転速度域にて効率が良くなる。従って、燃費を重視すれば、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行時はエンジン走行時と比較して、高回転速度で作動されるように自動変速部20の変速比γATが低速側(ロー側)に設定されることが望ましい。
【0097】
図10は、モータ走行時にエンジン走行時と異なる変速点を設定するときの一例を示す図である。図10において、モータ走行領域においてモータ走行する際にはエンジン走行するときと比較して同じ車両状態にて自動変速部20の変速比(変速段)γATが低速側とされるように破線に示すモータ走行用の1→2アップシフト線及び二点鎖線に示すモータ走行用の2→1ダウンシフト線が設定されている。尚、実線に示すエンジン走行用のアップシフト線及び一点鎖線に示すエンジン走行用のダウンシフト線は、エンジン走行領域においてエンジン走行する際に用いられることはもちろんであるが、モータ走行領域であっても蓄電装置56の充電容量SOC低下などによりモータ走行できない場合にエンジン走行する際に用いられる。
【0098】
ところで、例えば図10に示すようにエンジン走行用の変速線とモータ走行用の変速線とを設定すると、所定の車両状態において、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに起因した自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。つまり、駆動力源の各効率に基づいてすなわち各駆動力源の効率が良くなる為に予め設定された変速比に基づいて、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。例えば、図10の実線Aに示す所定の車両状態Aにおいては、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ2の第2速ギヤ段とされ、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ1の第1速ギヤ段とされることから、エンジン8と第2電動機M2とで駆動力源が切り換わるだけで変速比γ2と変速比γ1とで自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。また、図10の実線B,Cに示す所定の車両状態B,Cにおいては、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ3とされ、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ2とされることから、エンジン8と第2電動機M2とで駆動力源が切り換わるだけで変速比γ3と変速比γ2とで自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。このように、エンジン走行とモータ走行とでは所定の車両状態において異なる自動変速部20の変速比γATが予め設定されている。つまり、所定の車両状態とは、上記所定の車両状態A,B,Cに示すように、駆動力源が切り換わっただけで変速線を横切ることなく自動変速部20の変速比γATの変更が発生する車両状態である。
【0099】
上述したように、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速比γATの変更すなわち自動変速部20の変速が発生する場合、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とを同時に実施することはそれぞれを単独で実行することに比較して制御が複雑で難しくなり、駆動力源の切換えショックや変速ショックが発生する可能性があるので、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とを何れかを先にして順に実行する所謂シーケンス制御を行うことが考えられる。しかしながら、自動変速部20の変速自体の制御が難しい為にシーケンス制御を行っても変速ショックが発生する可能性がある。
【0100】
例えば、変速ショックが比較的に発生し難い例としては、モータ走行中からアクセルペダル46が踏込操作され、モータ走行からエンジン走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。また、モータ走行中に車速Vが上昇し、モータ走行からエンジン走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。つまり、エンジン8から駆動輪34への動力伝達状態がパワーオン状態(駆動状態)かパワーオフ状態(被駆動状態)かの何れであるかがはっきりしており、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れである判断できない曖昧な車両状態に比べて、自動変速部20の変速時の油圧制御が容易となる場合である。
【0101】
反対に、変速ショックが比較的に発生し易い例としては、エンジン走行中にアクセルペダル46がある程度戻し操作され、エンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。つまり、アクセルペダル46が踏込操作されているか戻し操作されているかに拘わらずエンジン8から駆動輪34への動力伝達状態がパワーオン状態かパワーオフ状態かの何れである判断できない曖昧な車両状態とされており、パワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態に比べて、自動変速部20の変速時の油圧制御が難しくなる場合である。また、パワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態であっても、例えばアクセルペダル46が全閉と判断されるアクセルオフ時に車速Vが低下し、エンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20のダウンシフトすなわち所謂コーストダウンシフトとが同時に発生する場合である。つまり、アクセルオフの完全被駆動状態であり上記曖昧な車両状態ではないが、コーストダウンシフトにより駆動力源ブレーキ(ここでは例えばエンジンブレーキや第2電動機M2による回生ブレーキ)が効き過ぎるような場合である。
【0102】
そこで、本実施例では、前記所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件では、変速ショックを回避する為に、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する。一方で、他の所定の条件では、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えと、自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する。上記所定の条件は、上述したように、例えばパワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合や、コースト走行時に駆動力源の切換えと自動変速部20のダウンシフトとが同時に発生した場合である。また、上記他の所定の条件は、上記所定の条件を除いた場合であり、上述したように、例えばパワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合である。
【0103】
尚、自動変速部20の変速の保留中は、例えば走行性能が維持される為に、変速が保留されないときの本来の自動変速部20の変速比γATに合わせた駆動力源の動作点に対して、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて例えば駆動力源の等パワーが維持されるようにその駆動力源の動作点を一時的に変更する。例えば、エンジン走行からモータ走行への切換え時に自動変速部20の変速が保留されたときは、車速Vと変速比γATによって第2電動機回転速度NM2は一意的に決められるので、等パワーが維持されるように第2電動機トルクTM2を一時的に変更して動作点を変更する。
【0104】
ここで、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されると、駆動力源の切換え後にその駆動力源が効率の良い動作点で作動させられる為の自動変速部20の変速比γATが用いられないことから燃費が悪化する可能性がある。そこで、この燃費の悪化を抑制する為に、本実施例では、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行する。
【0105】
上記所定の解除条件は、例えばホイールブレーキ装置40が作動させられたか否かであり、ホイールブレーキ装置40が作動させられたときに自動変速部20の変速の保留を解除する。つまり、ブレーキペダル42の踏み込みによりホイールブレーキ装置40が作動されると、その作動に伴ってショックが発生するので、そのショックに紛れる形で保留していた変速を実行して変速ショックを隠すのである。
【0106】
また、上記所定の解除条件は、例えばアクセルオフとされたか否かであり、アクセルオフとされたときに自動変速部20の変速の保留を解除する。つまり、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい自動変速部20の変速がアクセルオフにより明確なパワーオフ状態での変速とされると、自動変速部20の変速が容易となり変速ショックが発生し難くなるので、アクセルオフとされたときに保留していた変速を実行するのである。
【0107】
以下に、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速が発生するときの制御についてより具体的に説明する。
【0108】
図6に戻り、変速保留判定手段92は、上記所定の条件となる駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生したために、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速保留が発生したか否か、すなわち駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。例えば、変速保留判定手段92は、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速が発生した際に、パワーオン・オフ判定マップから実際の車両状態に基づいてパワーオン状態かパワーオフ状態かその何れでもない曖昧な車両状態かを判断し、曖昧な車両状態であると判断したか否かに基づいて、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。また、変速保留判定手段92は、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20のコーストダウンシフトが発生したか否かに基づいて、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。
【0109】
上記パワーオン・オフ判定マップは、変速保留判断の基となる例えば記憶手段84に予め記憶された関係であり、車速V(或いはエンジン回転速度NEなどの車速関連値)とアクセル開度Accやスロットル弁開度θTHなどの要求出力(駆動力関連値)とを変数とする二次元座標において、車速Vが同一である場合にスロットル弁開度θTHが大きいときはパワーオン状態を示すパワーオン領域、車速Vが同一である場合にスロットル弁開度θTHが小さいときはパワーオフ状態を示すパワーオフ領域、及びパワーオン領域とパワーオフ領域とを分けるその何れでもない曖昧な車両状態を示す曖昧領域を有している。
【0110】
シーケンス制御手段94は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じていないと判定された場合は、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する指令を、有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86へ出力する。
【0111】
変速保留手段96は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定された場合は、自動変速部20の変速を保留して実行しない指令を、有段変速制御手段82へ出力する。尚、ハイブリッド制御手段86は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定された場合は、駆動力源の切換えを実行すると共に、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点を一時的に変更する。
【0112】
解除条件判定手段98は、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。例えば、解除条件判定手段98は、アクセルオフを起因とした(すなわちコースト走行中の)駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、例えば走行中の回生切換えに関して発生する駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。また、解除条件判定手段98は、前記曖昧な車両状態における駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、或いはアクセル開度Accが零と判断される為の予め設定されたアクセルオフ判定値となったか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。
【0113】
変速保留手段96は、解除条件判定手段98により前記所定の解除条件が成立したと判定された場合は、自動変速部20の変速を保留して実行しない上記指令を解除する。尚、ハイブリッド制御手段86は、解除条件判定手段98により前記所定の解除条件が成立したと判定された場合は、変速後の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点を変更する。
【0114】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図12は、エンジン走行からモータ走行への切換えに際して駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速が保留されているときに、ブレーキペダル42の踏み込み操作により変速保留が解除される場合のタイムチャートである。
【0115】
図11において、先ず、変速保留判定手段92に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、前記所定の条件となる駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生したために、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かが判定される。例えば駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速が発生した際に曖昧な車両状態であると判断されたり、或いは駆動力源の切換えに伴って自動変速部20のコーストダウンシフトが発生したりして、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定され、上記S10の判断が肯定される場合は変速保留手段96、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS20において、駆動力源の切換えが実行されると共に、自動変速部20の変速を保留して実行しない指令が出力されて自動変速部20の変速比γATの変更が保留される。また、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点が一時的に変更される。図12において、t1時点でエンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20の3→2ダウンシフトとが判断されるが、変速ショックの発生を避ける為にエンジン走行からモータ走行への切換えは実行されるものの(t2時点乃至t3時点)、本来なら駆動力源の切換え後にシーケンス制御により実行される自動変速部20の3→2ダウンシフトが保留されて変速比γATの変更が保留される(t3時点乃至t4時点)。この変速比γATの変更(切換え)が保留されている間、第2電動機M2の動作点は本来の第2速ギヤ段(2nd)の動作点に対し保留された自動変速部20の第3速ギヤ段(3rd)に合わせた動作点に変更されている。ここでは、第2電動機トルクTM2が変更されることで第3速ギヤ段(3rd)に合わせた動作点に変更される。
【0116】
図11において、次いで、解除条件判定手段98に対応するS30において、前記S20における自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の前記所定の解除条件が成立したか否かが判定される。例えば、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、或いはアクセル開度Accが零と判断される為の予め設定されたアクセルオフ判定値となったか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かが判定される。例えばブレーキ操作信号BON或いはアクセルオフが検出されず上記S30の判断が否定される場合はS50において、上記S20がそのまま継続して実行される。反対に、例えばブレーキ操作信号BON或いはアクセルオフが検出されて上記S30の判断が肯定される場合は変速保留手段96、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS40において、上記S20において出力された自動変速部20の変速を保留して実行しない上記指令が解除されて自動変速部20の変速比γATが変更される。また、変速後の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点が変更される。図12において、t4時点でブレーキ操作信号BONが検出されると、自動変速部20の変速保留が解除され、自動変速部20の3→2ダウンシフトが実行されて変速比γATが変更される。また、第2電動機M2の動作点は本来の第2速ギヤ段(2nd)の動作点に合わせた動作点に変更される(t4時点乃至t5時点)。ここでも、第2電動機トルクTM2が変更されることで第2速ギヤ段(2nd)に合わせた動作点に変更される。これにより、ホイールブレーキ装置40の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留していた変速の実行に伴う変速ショックが隠されると共に、第2電動機M2が本来の効率の良い動作点で作動させられてその後の燃費が改善される。
【0117】
一方で、図11において、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じていないと判定され上記S10の判断が否定される場合はシーケンス制御手段94、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS60において、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する指令が出力され、駆動力源の切換えが実行されると共に、自動変速部20の変速比γATが変更される。
【0118】
上述のように、本実施例によれば、走行用駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と自動変速部20とを備える動力伝達装置10の電子制御装置80において、エンジン走行とモータ走行との切換えの際に自動変速部20の変速比γATの変更が発生するような所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留される一方で、他の所定の条件では駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときにはシーケンス制御により駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが順に実行され、また例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行される。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる。また、前記所定の車両状態ではエンジン8及び第2電動機M2の各効率に基づいて自動変速部20の変速比γATが変更されるものであり、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられ、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が抑制される。
【0119】
また、本実施例によれば、走行用駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と自動変速部20とを備える動力伝達装置10の電子制御装置80において、エンジン走行とモータ走行との切換えの際に、エンジン8及び第2電動機M2の各効率に基づいて自動変速部20の変速比γATの変更が発生するような所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留され、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき、変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる。また、他の所定の条件では駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときには自動変速部20の変速が保留されることなくシーケンス制御により駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが順に実行されて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が一層抑制される。
【0120】
また、本実施例によれば、前記所定の解除条件は、ホイールブレーキ装置40が作動させられたか否かであり、ホイールブレーキ装置40が作動させられたときに自動変速部20の変速の保留が解除されるので、ホイールブレーキ装置40の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留されていた自動変速部20の変速の実行に伴う上記変速ショックが隠されて、変速ショックが確実に抑制される。
【0121】
また、本実施例によれば、前記所定の解除条件は、アクセルペダル46がアクセルオフとされたか否かであり、アクセルオフとされたときに自動変速部20の変速の保留が解除されるので、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい自動変速部20の変速が明確なパワーオフ状態での変速とされ、自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0122】
また、本実施例によれば、前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合であるので、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態における変速のように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0123】
また、本実施例によれば、前記所定の条件は、コースト走行時に駆動力源の切換えと自動変速部20のダウンシフトとが同時に発生した場合であるので、コースト走行時におけるダウンシフトのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0124】
また、本実施例によれば、エンジン走行とモータ走行とでは前記所定の車両状態において異なる自動変速部20の変速比γATが予め設定されているので、エンジン走行とモータ走行とでそれぞれ効率の良い動作点で駆動力源が作動させられて、燃費が向上する。
【0125】
また、本実施例によれば、自動変速部20の変速の保留中は、駆動力源の動作点が変更されるので、例えば変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の等パワーが維持される動作点で作動させられるので、走行性能が維持される。
【0126】
また、本実施例によれば、モータ走行は、エンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において第2電動機M2の効率に基づいて低速側の変速比γATが設定されているので、エンジン走行におけるエンジン8とモータ走行における第2電動機M2とがそれぞれ効率の良い動作点で作動させられて、燃費が向上する。
【0127】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0128】
図13は本発明の他の実施例における動力伝達装置110の構成を説明する骨子図、図14はその動力伝達装置110の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを示す係合表、図15はその動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
【0129】
動力伝達装置110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、及び第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部120とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを有している。自動変速部120は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置126と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置128とを備えている。第1遊星歯車装置126の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置128の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置126の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置128の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0130】
このように、自動変速部120内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部120の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部120との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0131】
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図14の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置110では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0132】
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図14に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0133】
一方、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図14に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部120が有段変速機として機能することにより、自動変速部120の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部120の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0134】
図15は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される場合、及び切換クラッチC0又は切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16(差動部11)の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0135】
図15における自動変速部120の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部120において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部120の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0136】
自動変速部120では、図15に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0137】
本実施例においても、動力伝達装置110は無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【0138】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
【0139】
例えば、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20、120とを備えていたが、少なくとも車両状態に応じて切り換えられる2つの駆動力源と変速部とを備えておれば、本発明は適用され得る。
【0140】
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、動力分配機構16が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切換可能に構成されたが、動力伝達装置10、110が有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち差動部11が切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機(電気的な差動装置)としての機能のみを有する電気式差動部(無段変速部)11であっても本実施例は適用され得る。この場合には例えば切換制御手段90や増速側ギヤ段判定手段88は備えられる必要はない。
【0141】
また、前述の実施例において、動力分配機構16が、差動制限装置として機能する切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。また、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れか一方がない構成も考え得る。また、切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0142】
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0143】
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0144】
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0145】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20、120が連結されているが、自動変速部20、120の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20、120は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0146】
また、前述の実施例の図1、13によれば、差動部11と自動変速部20、120は直列に連結されているが、動力伝達装置10、110全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20、120とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0147】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0148】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0149】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0150】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20、120が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機、手動操作により変速段が切り換えられる同期噛み合い式の手動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、120の変速が実行されてもよい。
【0151】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0152】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0153】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0154】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0155】
また、前述の実施例において、自動変速部20、120は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、120が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、120とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0156】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0157】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0158】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。
【0159】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や切換クラッチC0や切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0160】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0161】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線の一例を示す図である。
【図9】第2電動機の等効率線の一例を示す図である。
【図10】モータ走行時にエンジン走行時と異なる変速点を設定するときの一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部の変速比の変更が発生するとき変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】エンジン走行からモータ走行への切換えに際して駆動力源の切換えに伴う自動変速部の変速が保留されているときに、ブレーキペダルの踏み込み操作により変速保留が解除される場合のタイムチャートである。
【図13】本発明の他の実施例における動力伝達装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図14】図13の動力伝達装置の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図15】図13の動力伝達装置における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【符号の説明】
【0163】
8:エンジン(第1駆動力源)
10、110:車両用動力伝達装置
20、120:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪、或いは車輪の一部)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
46:アクセルペダル
80:電子制御装置(制御装置)
M2:第2電動機(第2駆動力源)
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、第1駆動力源と第2駆動力源とで走行に用いられる駆動力源が切り換えられる際の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置がそれである。この車両用駆動装置においては、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し第1電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2電動機とを備え、エンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低トルク域ではエンジンを用いて走行するエンジン走行からエンジンを用いず第2電動機を用いて走行するモータ走行へ切り換えられるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、動力源としてのエンジン及び電動モータと、動力源と駆動輪との間に変速比を変更可能な自動変速機とを備え、動力源の作動状態が異なる複数の運転モードで走行するハイブリッド車両において、運転モードの切換制御と変速制御とが重複して要求されたときは一方の制御の終了後に他方の制御を開始することで各制御が同時に行われることに起因するショックの発生を防止する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、エンジンと電動機とを備えた車両の自動変速機の変速制御装置において、自動変速機がクラッチツウクラッチ変速の場合、動力伝達状態がパワーオン状態(駆動状態)かパワーオフ状態(被駆動状態)かによって油圧制御の態様が異なっており、駆動状態か被駆動状態かがはっきりしない曖昧な車両状態では変速制御が難しくなることから、曖昧な状態であるときは電動機により入力軸に正又は負のトルクを負荷することにより一時的に明確な駆動状態か被駆動状態かの何れかに固定する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、駆動源としてエンジンと電動機とを備えると共に、係合装置の係合により所定の変速段を達成する自動変速機を備え、エンジンと電動機の合計トルクが自動変速機に入力されるハイブリッド車において、パワーオン状態となる領域とパワーオフ状態となる領域とを挟んだ領域では、パワーオン側に電動機の回生を禁止する領域を設け、パワーオフ側に電動機のアシストを禁止する領域を設けることで、電動機のトルク変化によるパワーオン・オフの逆転現象を回避し、変速ショックを防止する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−94617号公報
【特許文献2】特開平10−2241号公報
【特許文献3】特開2000−127801号公報
【特許文献4】特開2004−153939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生する場合、例えば駆動力源を効率の良い領域で作動させる為に各駆動力源に応じて予め設定された変速部の変速比が駆動力源の切換えに伴って変更される場合、駆動力源の切換えと変速部の変速とを同時に実施することは制御が複雑で難しい為前述した特許文献2に開示されたように駆動力源の切換え後に変速部の変速を実行する所謂シーケンス制御を実行することが考えられる。しかしながら、変速部の変速自体の制御が難しい為に変速ショックが発生する可能性があった。また、このような課題とは別に、ここでの変速部の変速は、例えば駆動力源が切り換えられた際にその切換え後に用いられる駆動力源が効率の良い動作点で作動させられる為の変速比の変更であることから、この変速部の変速を実行しない場合には、その変速前の変速比が駆動力源にとって最適でない影響で燃費が悪化する可能性があった。尚、これらの課題は未公知である。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、(c) 前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留する一方で、他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行することにある。
【0010】
また、好適には、前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行する。
【0011】
また、前記目的を達成するための他の発明の要旨とするところは、(a) 第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、(c) 前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留し、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行することにある。
【0012】
また、好適には、他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行する。
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に前記変速部の変速比の変更が発生するような所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速が保留される一方で、他の所定の条件では駆動力源の切換えと変速部の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときにはシーケンス制御により駆動力源の切換えと変速部の変速とが順に実行され、また例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行される。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0014】
また、前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば上記変速ショックが隠せるようなときや変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときには保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が抑制される。
【0015】
また、他の発明では、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するような所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、所定の条件では前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速が保留され、前記変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときには保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。
【0016】
また、他の所定の条件では前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときには変速部の変速が保留されることなくシーケンス制御により駆動力源の切換えと変速部の変速とが順に実行されて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が一層抑制される。
【0017】
ここで、好適には、前記所定の解除条件は、車輪に制動力を付与する制動装置が作動させられたか否かであり、前記制動装置が作動させられたときに前記変速の保留を解除する。このようにすれば、上記制動装置の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留されていた変速の実行に伴う上記変速ショックが隠されるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0018】
また、好適には、前記所定の解除条件は、アクセルペダルが全閉と判断されるアクセルオフとされたか否かであり、前記アクセルオフとされたときに前記変速の保留を解除する。このようにすれば、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい変速部の変速が明確なパワーオフ状態での変速とされ、変速部の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0019】
また、好適には、前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とが同時に発生した場合である。このようにすれば、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態における変速のように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0020】
また、好適には、前記所定の条件は、コースト走行時に前記駆動力源の切換えと前記変速部のダウンシフトとが同時に発生した場合である。このようにすれば、コースト走行時におけるダウンシフトのように変速部の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0021】
また、好適には、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでは前記所定の車両状態において異なる前記変速部の変速比が予め設定されている。このようにすれば、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでそれぞれ効率の良い動作点で駆動力源が作動させられるので、燃費が向上する。
【0022】
また、好適には、前記変速の保留中は、前記駆動力源の動作点が変更される。このようにすれば、例えば変速保留中の変速部の変速比に合わせて駆動力源の等パワーが維持される動作点で作動させられるので、走行性能が維持される。
【0023】
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機である。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行とを切り換える駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制するか、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる。
【0024】
また、好適には、前記エンジンを用いず前記電動機を用いて走行する電動機走行は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において前記電動機の効率に基づいて低速側の変速比が設定されている。このようにすれば、エンジン走行におけるエンジンと電動機走行における電動機とがそれぞれ効率の良い動作点で作動させられるので、燃費が向上する。
【0025】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置は、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを備える。このようにすれば、エンジン、電気式差動部、自動変速部、走行用電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。
【0026】
また、好適には、前記電気式差動部は、前記差動用電動機の運転状態が制御されることにより無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する電気式差動部を備えた実用的な駆動装置において、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う変速部の変速比の変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる制御装置、或いは変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる制御装置が提供される。また、電気式差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、電気式差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0027】
また、好適には、前記自動変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
【0028】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0029】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0030】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0031】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の第1駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0034】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0035】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。
【0036】
本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れも電力授受可能に構成されたものである。すなわち、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは何れも主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0037】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0038】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0039】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。このように構成された動力分配機構16は、それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放されると、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0040】
この状態で、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態(差動制限状態)とされる。具体的には、切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。尚、動力分配機構16は切換クラッチC0または切換ブレーキB0が滑らされるスリップ係合状態とされることもあり、切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられた動力分配機構16の非差動状態も上記スリップ係合状態も、差動部11(動力分配機構16)の予め定められた差動状態つまり差動部遊星歯車装置24の3要素S0,CA0,R0が自由に相対回転可能な差動状態が得られない差動制限状態であると言える。また本実施例では、動力分配機構16の差動可能状態は切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放され差動部遊星歯車装置24の3要素が自由に相対回転可能な差動状態であるとして説明しているので、上記差動可能状態には差動制限状態は含まれない。
【0041】
このように、本実施例では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。言い換えれば、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は差動部11(動力分配機構16)を非差動状態やスリップ係合状態を含む差動制限状態にすることができる差動制限装置として機能している。
【0042】
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0043】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0044】
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、動力分配機構16(差動部11)と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部に設けられた動力伝達を選択的に遮断可能な係合装置であり、すなわち、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0045】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている係合装置すなわち油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0046】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置10では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0047】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0048】
一方、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γT(=エンジン回転速度NE/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られるようになる。
【0049】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0050】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0051】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されると共に切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されると共に切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0052】
例えば、差動部11において上記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動可能状態)に切換えられたときは、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされるので、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0053】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0054】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速(5th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0055】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0056】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキスイッチ44により検出された車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)に制動力を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)40の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダル42(図6参照)の操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ48により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル46(図6参照)の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0057】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0058】
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0059】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0060】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0061】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0062】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0063】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0064】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0065】
ハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段86は、動力伝達装置10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0067】
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0068】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた例えば図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0069】
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0070】
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
【0071】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0072】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0074】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
【0076】
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図7の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0077】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0078】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0079】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0080】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0081】
増速側ギヤ段判定手段88は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段84に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0082】
切換制御手段90は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段90は、記憶手段84に予め記憶された前記図7の破線及び二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速V及び要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
【0083】
具体的には、切換制御手段90は、有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力すると共に、有段変速制御手段82に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段82は、記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば記憶手段84に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11及び自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0084】
例えば、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路70へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。このように、切換制御手段90によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられると共に、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0085】
一方、切換制御手段90は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力すると共に、有段変速制御手段82には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段82により、図2の係合表内において切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段90により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0086】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段84に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、一点鎖線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図7の変速線図における変速線は、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。
【0087】
また、図7の破線は切換制御手段90による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1及び判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。
【0088】
つまり、この図7は切換制御手段90により有段制御領域と無段制御領域との何れであるかを領域判定する基となる記憶手段84に予め記憶された高車速判定線及び高出力走行判定線を有する関係(切換線図、切換マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された切換線図の一例である。見方を換えれば、高車速判定線及び高出力走行判定線は、差動部11を差動状態と差動制限状態との間で切り換える為の切換線であり、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち切換線上の切換を実行すべき値(切換点、判定車速V1或いは判定出力トルクT1)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この切換点の連なりとして予め記憶されている。尚、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段84に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1及び判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速V及び出力トルクTOUTの何れかを変数とする予め記憶された切換線であってもよい。
【0089】
また、判定車速V1は、例えば高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0090】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく例えば実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段90は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段90は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
【0091】
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0092】
これによって、例えば、車両の低中速走行及び低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行及び低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の動力伝達装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
【0093】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪34での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪34の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0094】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、切換制御手段90により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段86により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行される。
【0095】
尚、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ54、蓄電装置56、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段90は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0096】
ここで、エンジン8と第2電動機M2とでは効率の良い動作点(例えば、回転速度と出力トルクとで表される運転点)が異なっている。例えば、エンジン8は、図8に示した最適燃費率曲線からも明らかなように高出力トルク、低回転速度域にて効率が良くなる。また、第2電動機M2は、第2電動機回転速度NM2と第2電動機トルクTM2とを変数とする二次元座標内において予め実験的に定められた例えば図9に示す第2電動機M2の等効率線(マップ、関係)において第2電動機M2の動作点が斜線(破線)部分に近くなる程効率が良くなることを示していることからも明らかなように、力行時、回生時共に低出力トルク、高回転速度域にて効率が良くなる。従って、燃費を重視すれば、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行時はエンジン走行時と比較して、高回転速度で作動されるように自動変速部20の変速比γATが低速側(ロー側)に設定されることが望ましい。
【0097】
図10は、モータ走行時にエンジン走行時と異なる変速点を設定するときの一例を示す図である。図10において、モータ走行領域においてモータ走行する際にはエンジン走行するときと比較して同じ車両状態にて自動変速部20の変速比(変速段)γATが低速側とされるように破線に示すモータ走行用の1→2アップシフト線及び二点鎖線に示すモータ走行用の2→1ダウンシフト線が設定されている。尚、実線に示すエンジン走行用のアップシフト線及び一点鎖線に示すエンジン走行用のダウンシフト線は、エンジン走行領域においてエンジン走行する際に用いられることはもちろんであるが、モータ走行領域であっても蓄電装置56の充電容量SOC低下などによりモータ走行できない場合にエンジン走行する際に用いられる。
【0098】
ところで、例えば図10に示すようにエンジン走行用の変速線とモータ走行用の変速線とを設定すると、所定の車両状態において、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して、その駆動力源の切換えに起因した自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。つまり、駆動力源の各効率に基づいてすなわち各駆動力源の効率が良くなる為に予め設定された変速比に基づいて、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。例えば、図10の実線Aに示す所定の車両状態Aにおいては、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ2の第2速ギヤ段とされ、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ1の第1速ギヤ段とされることから、エンジン8と第2電動機M2とで駆動力源が切り換わるだけで変速比γ2と変速比γ1とで自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。また、図10の実線B,Cに示す所定の車両状態B,Cにおいては、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ3とされ、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ2とされることから、エンジン8と第2電動機M2とで駆動力源が切り換わるだけで変速比γ3と変速比γ2とで自動変速部20の変速比γATの変更が発生する。このように、エンジン走行とモータ走行とでは所定の車両状態において異なる自動変速部20の変速比γATが予め設定されている。つまり、所定の車両状態とは、上記所定の車両状態A,B,Cに示すように、駆動力源が切り換わっただけで変速線を横切ることなく自動変速部20の変速比γATの変更が発生する車両状態である。
【0099】
上述したように、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速比γATの変更すなわち自動変速部20の変速が発生する場合、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とを同時に実施することはそれぞれを単独で実行することに比較して制御が複雑で難しくなり、駆動力源の切換えショックや変速ショックが発生する可能性があるので、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とを何れかを先にして順に実行する所謂シーケンス制御を行うことが考えられる。しかしながら、自動変速部20の変速自体の制御が難しい為にシーケンス制御を行っても変速ショックが発生する可能性がある。
【0100】
例えば、変速ショックが比較的に発生し難い例としては、モータ走行中からアクセルペダル46が踏込操作され、モータ走行からエンジン走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。また、モータ走行中に車速Vが上昇し、モータ走行からエンジン走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。つまり、エンジン8から駆動輪34への動力伝達状態がパワーオン状態(駆動状態)かパワーオフ状態(被駆動状態)かの何れであるかがはっきりしており、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れである判断できない曖昧な車両状態に比べて、自動変速部20の変速時の油圧制御が容易となる場合である。
【0101】
反対に、変速ショックが比較的に発生し易い例としては、エンジン走行中にアクセルペダル46がある程度戻し操作され、エンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生する場合である。つまり、アクセルペダル46が踏込操作されているか戻し操作されているかに拘わらずエンジン8から駆動輪34への動力伝達状態がパワーオン状態かパワーオフ状態かの何れである判断できない曖昧な車両状態とされており、パワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態に比べて、自動変速部20の変速時の油圧制御が難しくなる場合である。また、パワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態であっても、例えばアクセルペダル46が全閉と判断されるアクセルオフ時に車速Vが低下し、エンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20のダウンシフトすなわち所謂コーストダウンシフトとが同時に発生する場合である。つまり、アクセルオフの完全被駆動状態であり上記曖昧な車両状態ではないが、コーストダウンシフトにより駆動力源ブレーキ(ここでは例えばエンジンブレーキや第2電動機M2による回生ブレーキ)が効き過ぎるような場合である。
【0102】
そこで、本実施例では、前記所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件では、変速ショックを回避する為に、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する。一方で、他の所定の条件では、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えと、自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する。上記所定の条件は、上述したように、例えばパワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合や、コースト走行時に駆動力源の切換えと自動変速部20のダウンシフトとが同時に発生した場合である。また、上記他の所定の条件は、上記所定の条件を除いた場合であり、上述したように、例えばパワーオン状態かパワーオフ状態かがはっきりしている車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合である。
【0103】
尚、自動変速部20の変速の保留中は、例えば走行性能が維持される為に、変速が保留されないときの本来の自動変速部20の変速比γATに合わせた駆動力源の動作点に対して、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて例えば駆動力源の等パワーが維持されるようにその駆動力源の動作点を一時的に変更する。例えば、エンジン走行からモータ走行への切換え時に自動変速部20の変速が保留されたときは、車速Vと変速比γATによって第2電動機回転速度NM2は一意的に決められるので、等パワーが維持されるように第2電動機トルクTM2を一時的に変更して動作点を変更する。
【0104】
ここで、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されると、駆動力源の切換え後にその駆動力源が効率の良い動作点で作動させられる為の自動変速部20の変速比γATが用いられないことから燃費が悪化する可能性がある。そこで、この燃費の悪化を抑制する為に、本実施例では、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、その保留中の変速を実行する。
【0105】
上記所定の解除条件は、例えばホイールブレーキ装置40が作動させられたか否かであり、ホイールブレーキ装置40が作動させられたときに自動変速部20の変速の保留を解除する。つまり、ブレーキペダル42の踏み込みによりホイールブレーキ装置40が作動されると、その作動に伴ってショックが発生するので、そのショックに紛れる形で保留していた変速を実行して変速ショックを隠すのである。
【0106】
また、上記所定の解除条件は、例えばアクセルオフとされたか否かであり、アクセルオフとされたときに自動変速部20の変速の保留を解除する。つまり、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい自動変速部20の変速がアクセルオフにより明確なパワーオフ状態での変速とされると、自動変速部20の変速が容易となり変速ショックが発生し難くなるので、アクセルオフとされたときに保留していた変速を実行するのである。
【0107】
以下に、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速が発生するときの制御についてより具体的に説明する。
【0108】
図6に戻り、変速保留判定手段92は、上記所定の条件となる駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生したために、駆動力源の切換えの際に自動変速部20の変速保留が発生したか否か、すなわち駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。例えば、変速保留判定手段92は、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速が発生した際に、パワーオン・オフ判定マップから実際の車両状態に基づいてパワーオン状態かパワーオフ状態かその何れでもない曖昧な車両状態かを判断し、曖昧な車両状態であると判断したか否かに基づいて、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。また、変速保留判定手段92は、駆動力源の切換えに伴って自動変速部20のコーストダウンシフトが発生したか否かに基づいて、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かを判定する。
【0109】
上記パワーオン・オフ判定マップは、変速保留判断の基となる例えば記憶手段84に予め記憶された関係であり、車速V(或いはエンジン回転速度NEなどの車速関連値)とアクセル開度Accやスロットル弁開度θTHなどの要求出力(駆動力関連値)とを変数とする二次元座標において、車速Vが同一である場合にスロットル弁開度θTHが大きいときはパワーオン状態を示すパワーオン領域、車速Vが同一である場合にスロットル弁開度θTHが小さいときはパワーオフ状態を示すパワーオフ領域、及びパワーオン領域とパワーオフ領域とを分けるその何れでもない曖昧な車両状態を示す曖昧領域を有している。
【0110】
シーケンス制御手段94は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じていないと判定された場合は、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する指令を、有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86へ出力する。
【0111】
変速保留手段96は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定された場合は、自動変速部20の変速を保留して実行しない指令を、有段変速制御手段82へ出力する。尚、ハイブリッド制御手段86は、変速保留判定手段92により駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定された場合は、駆動力源の切換えを実行すると共に、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点を一時的に変更する。
【0112】
解除条件判定手段98は、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。例えば、解除条件判定手段98は、アクセルオフを起因とした(すなわちコースト走行中の)駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、例えば走行中の回生切換えに関して発生する駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。また、解除条件判定手段98は、前記曖昧な車両状態における駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留されているときには、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、或いはアクセル開度Accが零と判断される為の予め設定されたアクセルオフ判定値となったか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かを判定する。
【0113】
変速保留手段96は、解除条件判定手段98により前記所定の解除条件が成立したと判定された場合は、自動変速部20の変速を保留して実行しない上記指令を解除する。尚、ハイブリッド制御手段86は、解除条件判定手段98により前記所定の解除条件が成立したと判定された場合は、変速後の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点を変更する。
【0114】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図12は、エンジン走行からモータ走行への切換えに際して駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速が保留されているときに、ブレーキペダル42の踏み込み操作により変速保留が解除される場合のタイムチャートである。
【0115】
図11において、先ず、変速保留判定手段92に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、前記所定の条件となる駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生したために、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたか否かが判定される。例えば駆動力源の切換えに伴って自動変速部20の変速が発生した際に曖昧な車両状態であると判断されたり、或いは駆動力源の切換えに伴って自動変速部20のコーストダウンシフトが発生したりして、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じたと判定され、上記S10の判断が肯定される場合は変速保留手段96、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS20において、駆動力源の切換えが実行されると共に、自動変速部20の変速を保留して実行しない指令が出力されて自動変速部20の変速比γATの変更が保留される。また、変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点が一時的に変更される。図12において、t1時点でエンジン走行からモータ走行への切換えと自動変速部20の3→2ダウンシフトとが判断されるが、変速ショックの発生を避ける為にエンジン走行からモータ走行への切換えは実行されるものの(t2時点乃至t3時点)、本来なら駆動力源の切換え後にシーケンス制御により実行される自動変速部20の3→2ダウンシフトが保留されて変速比γATの変更が保留される(t3時点乃至t4時点)。この変速比γATの変更(切換え)が保留されている間、第2電動機M2の動作点は本来の第2速ギヤ段(2nd)の動作点に対し保留された自動変速部20の第3速ギヤ段(3rd)に合わせた動作点に変更されている。ここでは、第2電動機トルクTM2が変更されることで第3速ギヤ段(3rd)に合わせた動作点に変更される。
【0116】
図11において、次いで、解除条件判定手段98に対応するS30において、前記S20における自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の前記所定の解除条件が成立したか否かが判定される。例えば、ブレーキ操作信号BONが出力されたか否かに基づいて、或いはアクセル開度Accが零と判断される為の予め設定されたアクセルオフ判定値となったか否かに基づいて、前記所定の解除条件が成立したか否かが判定される。例えばブレーキ操作信号BON或いはアクセルオフが検出されず上記S30の判断が否定される場合はS50において、上記S20がそのまま継続して実行される。反対に、例えばブレーキ操作信号BON或いはアクセルオフが検出されて上記S30の判断が肯定される場合は変速保留手段96、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS40において、上記S20において出力された自動変速部20の変速を保留して実行しない上記指令が解除されて自動変速部20の変速比γATが変更される。また、変速後の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の動作点が変更される。図12において、t4時点でブレーキ操作信号BONが検出されると、自動変速部20の変速保留が解除され、自動変速部20の3→2ダウンシフトが実行されて変速比γATが変更される。また、第2電動機M2の動作点は本来の第2速ギヤ段(2nd)の動作点に合わせた動作点に変更される(t4時点乃至t5時点)。ここでも、第2電動機トルクTM2が変更されることで第2速ギヤ段(2nd)に合わせた動作点に変更される。これにより、ホイールブレーキ装置40の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留していた変速の実行に伴う変速ショックが隠されると共に、第2電動機M2が本来の効率の良い動作点で作動させられてその後の燃費が改善される。
【0117】
一方で、図11において、駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速を保留する必要が生じていないと判定され上記S10の判断が否定される場合はシーケンス制御手段94、有段変速制御手段82、及びハイブリッド制御手段86に対応するS60において、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とをシーケンス制御により順次実行する指令が出力され、駆動力源の切換えが実行されると共に、自動変速部20の変速比γATが変更される。
【0118】
上述のように、本実施例によれば、走行用駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と自動変速部20とを備える動力伝達装置10の電子制御装置80において、エンジン走行とモータ走行との切換えの際に自動変速部20の変速比γATの変更が発生するような所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留される一方で、他の所定の条件では駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときにはシーケンス制御により駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが順に実行され、また例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行される。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき、変速ショックを抑制することができる。また、前記所定の車両状態ではエンジン8及び第2電動機M2の各効率に基づいて自動変速部20の変速比γATが変更されるものであり、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられ、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が抑制される。
【0119】
また、本実施例によれば、走行用駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と自動変速部20とを備える動力伝達装置10の電子制御装置80において、エンジン走行とモータ走行との切換えの際に、エンジン8及び第2電動機M2の各効率に基づいて自動変速部20の変速比γATの変更が発生するような所定の車両状態におけるエンジン走行とモータ走行との切換え時、所定の条件ではエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えに際して自動変速部20の変速が保留され、自動変速部20の変速の保留中にその保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合はその保留中の変速が実行されるので、例えばアクセル戻し操作時のパワーオン・オフの曖昧状態における変速やコーストダウンシフトなどのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような自動変速部20の変速が実行されず駆動力源の切換えのみが実行され、また例えば上記変速ショックが隠せるようなときや自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなったときにはその保留していた変速が実行されて駆動力源が効率の良い運転点(動作点)で作動させられる。よって、駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部20の変速比γATの変更が発生するとき、変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立することができる。また、他の所定の条件では駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とがシーケンス制御により順次実行されるので、例えばパワーオン時のダウンシフトや車速上昇に伴うアップシフトなどのように自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難いときには自動変速部20の変速が保留されることなくシーケンス制御により駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが順に実行されて、変速ショックが抑制されると共に燃費悪化が一層抑制される。
【0120】
また、本実施例によれば、前記所定の解除条件は、ホイールブレーキ装置40が作動させられたか否かであり、ホイールブレーキ装置40が作動させられたときに自動変速部20の変速の保留が解除されるので、ホイールブレーキ装置40の作動に伴って発生するショックに紛れる形で保留されていた自動変速部20の変速の実行に伴う上記変速ショックが隠されて、変速ショックが確実に抑制される。
【0121】
また、本実施例によれば、前記所定の解除条件は、アクセルペダル46がアクセルオフとされたか否かであり、アクセルオフとされたときに自動変速部20の変速の保留が解除されるので、パワーオン・オフの曖昧状態におけるアップシフトなどのように変速ショックが発生し易いような難しい自動変速部20の変速が明確なパワーオフ状態での変速とされ、自動変速部20の変速が難しくなく変速ショックが発生し難くなるので、変速ショックが確実に抑制される。
【0122】
また、本実施例によれば、前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生した場合であるので、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態における変速のように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0123】
また、本実施例によれば、前記所定の条件は、コースト走行時に駆動力源の切換えと自動変速部20のダウンシフトとが同時に発生した場合であるので、コースト走行時におけるダウンシフトのように自動変速部20の変速が難しく変速ショックが発生し易いときには敢えてこのような変速が実行されないので、変速ショックが回避される。
【0124】
また、本実施例によれば、エンジン走行とモータ走行とでは前記所定の車両状態において異なる自動変速部20の変速比γATが予め設定されているので、エンジン走行とモータ走行とでそれぞれ効率の良い動作点で駆動力源が作動させられて、燃費が向上する。
【0125】
また、本実施例によれば、自動変速部20の変速の保留中は、駆動力源の動作点が変更されるので、例えば変速保留中の自動変速部20の変速比γATに合わせて駆動力源の等パワーが維持される動作点で作動させられるので、走行性能が維持される。
【0126】
また、本実施例によれば、モータ走行は、エンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において第2電動機M2の効率に基づいて低速側の変速比γATが設定されているので、エンジン走行におけるエンジン8とモータ走行における第2電動機M2とがそれぞれ効率の良い動作点で作動させられて、燃費が向上する。
【0127】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0128】
図13は本発明の他の実施例における動力伝達装置110の構成を説明する骨子図、図14はその動力伝達装置110の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを示す係合表、図15はその動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
【0129】
動力伝達装置110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、及び第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部120とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを有している。自動変速部120は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置126と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置128とを備えている。第1遊星歯車装置126の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置128の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置126の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置128の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0130】
このように、自動変速部120内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部120の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部120との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0131】
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図14の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置110では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0132】
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図14に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0133】
一方、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図14に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部120が有段変速機として機能することにより、自動変速部120の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部120の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0134】
図15は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される場合、及び切換クラッチC0又は切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16(差動部11)の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0135】
図15における自動変速部120の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部120において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部120の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0136】
自動変速部120では、図15に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0137】
本実施例においても、動力伝達装置110は無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【0138】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
【0139】
例えば、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20、120とを備えていたが、少なくとも車両状態に応じて切り換えられる2つの駆動力源と変速部とを備えておれば、本発明は適用され得る。
【0140】
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、動力分配機構16が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切換可能に構成されたが、動力伝達装置10、110が有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち差動部11が切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機(電気的な差動装置)としての機能のみを有する電気式差動部(無段変速部)11であっても本実施例は適用され得る。この場合には例えば切換制御手段90や増速側ギヤ段判定手段88は備えられる必要はない。
【0141】
また、前述の実施例において、動力分配機構16が、差動制限装置として機能する切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。また、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れか一方がない構成も考え得る。また、切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0142】
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0143】
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0144】
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0145】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20、120が連結されているが、自動変速部20、120の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20、120は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0146】
また、前述の実施例の図1、13によれば、差動部11と自動変速部20、120は直列に連結されているが、動力伝達装置10、110全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20、120とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0147】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0148】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0149】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0150】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20、120が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機、手動操作により変速段が切り換えられる同期噛み合い式の手動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、120の変速が実行されてもよい。
【0151】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0152】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0153】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0154】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0155】
また、前述の実施例において、自動変速部20、120は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、120が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、120とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0156】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0157】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0158】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。
【0159】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や切換クラッチC0や切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0160】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0161】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線の一例を示す図である。
【図9】第2電動機の等効率線の一例を示す図である。
【図10】モータ走行時にエンジン走行時と異なる変速点を設定するときの一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えに際してその駆動力源の切換えに伴う自動変速部の変速比の変更が発生するとき変速ショックの抑制と燃費悪化の抑制とを両立する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】エンジン走行からモータ走行への切換えに際して駆動力源の切換えに伴う自動変速部の変速が保留されているときに、ブレーキペダルの踏み込み操作により変速保留が解除される場合のタイムチャートである。
【図13】本発明の他の実施例における動力伝達装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図14】図13の動力伝達装置の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図15】図13の動力伝達装置における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【符号の説明】
【0163】
8:エンジン(第1駆動力源)
10、110:車両用動力伝達装置
20、120:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪、或いは車輪の一部)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
46:アクセルペダル
80:電子制御装置(制御装置)
M2:第2電動機(第2駆動力源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、
前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、
所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留する一方で、
他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行する
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、
前記変速の保留中に該保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、該保留中の変速を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、
前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、
所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留し、
前記変速の保留中に該保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、該保留中の変速を実行する
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行することを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記所定の解除条件は、車輪に制動力を付与する制動装置が作動させられたか否かであり、
前記制動装置が作動させられたときに前記変速の保留を解除することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記所定の解除条件は、アクセルペダルが全閉と判断されるアクセルオフとされたか否かであり、
前記アクセルオフとされたときに前記変速の保留を解除することを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とが同時に発生した場合であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記所定の条件は、コースト走行時に前記駆動力源の切換えと前記変速部のダウンシフトとが同時に発生した場合であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでは前記所定の車両状態において異なる前記変速部の変速比が予め設定されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記変速の保留中は、前記駆動力源の動作点が変更されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記エンジンを用いず前記電動機を用いて走行する電動機走行は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において前記電動機の効率に基づいて低速側の変速比が設定されていることを特徴とする請求項11に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、
前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、
所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留する一方で、
他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行する
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定の車両状態では前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比が変更されるものであり、
前記変速の保留中に該保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、該保留中の変速を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
所定の車両状態において、前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第1駆動力源を用いず前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行との切換えの際に、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源の各効率に基づいて前記変速部の変速比の変更が発生するものであり、
前記所定の車両状態における前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との切換え時、
所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えに際して前記変速部の変速を保留し、
前記変速の保留中に該保留を解除する為の所定の解除条件が成立した場合は、該保留中の変速を実行する
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
他の所定の条件では、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との切換えと、前記変速部の変速とをシーケンス制御により順次実行することを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記所定の解除条件は、車輪に制動力を付与する制動装置が作動させられたか否かであり、
前記制動装置が作動させられたときに前記変速の保留を解除することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記所定の解除条件は、アクセルペダルが全閉と判断されるアクセルオフとされたか否かであり、
前記アクセルオフとされたときに前記変速の保留を解除することを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記所定の条件は、パワーオン状態かパワーオフ状態かの何れであるか判断できない曖昧な車両状態において前記駆動力源の切換えと前記変速部の変速とが同時に発生した場合であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記所定の条件は、コースト走行時に前記駆動力源の切換えと前記変速部のダウンシフトとが同時に発生した場合であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とでは前記所定の車両状態において異なる前記変速部の変速比が予め設定されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記変速の保留中は、前記駆動力源の動作点が変更されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記エンジンを用いず前記電動機を用いて走行する電動機走行は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行に比べて、前記所定の車両状態において前記電動機の効率に基づいて低速側の変速比が設定されていることを特徴とする請求項11に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−83362(P2010−83362A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255280(P2008−255280)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]